以下、本発明の実施形態に係る光フリップフロップ回路について詳細に説明する。
先ず、本発明の実施形態に用いる光スイッチについて述べる。
図1はこの光スイッチの概略構成例である。図1に概要を例示するように、光スイッチSWには、連続(CW)光である光源光1を取り込むための入力ポート2と、光源光1の波長とは異なる波長を有するパルス状の信号光[ゲート光]3を取り込むための入力ポート4が設けられている。入力ポート2の下流側には入射した光源光1を平行光とするための第1のコリメートレンズ5が配置され、入力ポート4の下流側には入射した信号光3を平行光とするための第2のコリメートレンズ6が配置されている。なお、便宜上、図1には、平行光を幅を持たない直線で表してある。第1のコリメートレンズ5と第2のコリメートレンズ6の下流側には混合器7が配置され、混合器7は、第1のコリメートレンズ5からの平行光である光源光1は透過させ、第2のコリメートレンズ6からの平行光である信号光を反射し3の光路を変える。混合器7の下流側には第1の集光レンズ8、熱レンズ形成光素子9、第3のコリメートレンズ10、波長選択透過フィルター11、分岐ミラー12、第2の集光レンズ13がそれぞれ配置されている。第1の集光レンズ8は混合器7からの光源光1および信号光3を熱レンズ形成光素子9の光吸収層に集光(収束)させる。ここで、第1の集光レンズ8には光源光1と信号光3は光軸に直角な方向にずれた位置にて入射し、熱レンズ形成光素子9の光吸収層にも光軸に直角な方向にずれた位置にて入射し、集光点が分離するようになっている。
熱レンズ形成光素子9は、光源光1のみが入射した場合には進行方向を変えない非偏向光として出射し、光源光1と信号光3が同時に入射した場合には熱レンズを形成し、光源光1の進行方向を変えた偏向光として出射する。また、熱レンズ形成光素子9は、さらに強度の強い信号光3が入射した場合には、偏向角を変化させる(より大きな偏向角となる)。第3のコリメートレンズ10は光源光1(非偏向光および偏向光)と信号光3を平行光とする。波長選択透過フィルター11は、光源光1は透過させ、信号光3はカットする。光波長選択フィルター11の下流に設けられた分岐ミラー12は非偏向光と偏向光とを分岐し、偏向光は反射しその光路を変える。非偏向光はそのまま直進することになる。また、分岐ミラー12の図中上方には、光路を変えた偏向光の光路を更に変えるミラー14と、ミラー14からの光を集光する第3の集光レンズ15が配置されている。また、スイッチSWは2つの出力ポート16、17を有している。出力ポート16は信号光3のOFF時に第2の集光レンズ13で集光された非偏向光の光出力を行う。出力ポート17は信号光3のON時に分岐ミラー12およびミラー14で光路を変えられ、第3の集光レンズ15で集光された偏向光の光出力を行う。
上記スイッチSWにおいて、入力ポート2には、例えば光ファイバーを用いて光源光1を入射させてもよいし、光源光1を出射するレーザを直接設置してもよい。光源光1の波長は、熱レンズ形成光素子9の光吸収層に対して透過性を示す波長の光を用いる。また、入力ポート4には、例えば光ファイバーを用いて信号光3を入射させてもよいし、信号光3を出射するレーザを直接設置してもよい。信号光3の波長は、熱レンズ形成光素子9の光吸収層に対して吸収性を示す波長の光を用いる。
本実施形態で使用される熱レンズ形成光素子9中の光吸収層の材料、光源光1の波長帯域、および信号光3の波長帯域は、これらの組み合わせとして、光スイッチSWの動作が効率的に行えるように適切な組み合わせを選定し用いることができる。具体的な設定手順としては、例えば、先ず、光源光1の波長ないし波長帯域を決定し、次に、これを制御するのに最適な光吸収層の材料と信号光3の波長の組み合わせを選定することができる。また、光源光1と信号光3の波長の組み合わせを決定してから、この組み合わせに適した光吸収層の材料を選定してもよい。あるいは、光吸収層の材料を決定した後、光源光1と信号光3の波長の組み合わせを選定してもよい。
第1のコリメートレンズ5、第2のコリメートレンズ6、第3のコリメートレンズ10としては、例えば焦点距離8mmの非球面レンズを用いることができるが、焦点距離は8mmである必要はなく、より小型の光スイッチSWにするためにさらに短い焦点距離を用いてもよいことは言うまでもない。また、非球面レンズである必要はないが、小型軽量にするためには非球面レンズが好ましい。
光混合器7としては、例えば光源光1は透過し、信号光3は反射するダイクロイックミラーなどの公知の光学部材を用いることができる。もちろん、入力ポート2と入力ポート4の位置を入れ替えて、光源光1が反射し、信号光3が透過するようにして構成してもよいことは言うまでもない。
第1の集光レンズ8、第2の集光レンズ13、第3の集光レンズ15には、例えば焦点距離8mmの非球面レンズを用いることができるが、焦点距離は8mmである必要はなく、より小型の光スイッチSWにするためにさらに短い焦点距離を用いてもよいことは言うまでもない。また、非球面レンズである必要はないが、小型軽量にするためには非球面レンズが好ましい。
本実施形態で用いる光スイッチSWでは、光源光1と信号光3は、第1の集光レンズ8により、光の進行方向で熱レンズ形成光素子9の光吸収層の入射面またはその近辺において集光させる。光源光1と信号光3とを熱レンズ形成光素子9の光吸収層の入射面近辺の同一の所に集光させると光源光1はドーナツ状に拡がる。この状況を図2に示す。信号光3がない場合には図2(a)の写真1aのように光源光1は丸ビームであるが、信号光1が同時に同一の所に照射されると、図2(b)の写真1bのようにドーナツ形状となる。このドーナツ形状が鮮明で大きく形成されるのが、光吸収層の入射面であると思われる。本実施形態に用いる光スイッチSWにおいて光吸収層の入射面という場合は、光源光1と信号光3を同一の所に集光させたときにこのドーナツ形状が鮮明で大きく形成される位置に相当する面とする。もちろん、本実施形態で実際に用いる光源光1と信号光3とは集光点の位置では光軸に直角な方向に25〜50μmほど離間させるので、ドーナツ形状は形成されないが、調整時には光源光1と信号光3とを同一点に入射させ、ドーナツ形状を形成させ、その後、光源光1と信号光3との集光点を分離させ、位置調整を行う。なお、光源光1と信号光3との集光点間の距離が25μm未満の場合には、図2(a)に示すような丸ビームにならず、三日月型ビームになってしまう。光源光1が三日月型ビームになると、のちに集光させ光ファイバーに入射させた場合には入射効率が減少してしまい、実用性にかけるおそれがある。また、上記距離が50μmを超えると、偏向角が低下傾向となる。
熱レンズ形成光素子9は、図3に示したような概略構成であるが、図1では説明を容易にするため、光吸収層のみを図示してある。図3において、熱レンズ形成光素子21(9)の光吸収層22は、色素を溶剤に溶解したものをガラス容器23に封じて用いる。溶剤に可溶性の色素としては、使用する信号光の波長領域に吸収性を示し、使用する光源光の波長領域に吸収性がなく透過性を示す色素を使用することができる。例えばレーザ光24が透過するガラス容器23のガラスの厚みは約500μm程度、光吸収層22の厚みは200〜1000μm程度とすることができる。
色素の具体例としては、例えば、ローダミンB、ローダミン6G、エオシン、フロキシンBなどのキサンテン系色素、アクリジンオレンジ、アクリジンレッドなどのアクリジン系色素、エチルレッド、メチルレッドなどのアゾ色素、ポルフィリン系色素、フタロシアニン系色素、3,3’−ジエチルチアカルボシアニンヨージド、3,3’−ジエチルオキサジカルボシアニンヨージドなどのシアニン色素、エチル・バイオレット、ビクトリア・ブルーRなどのトリアリールメタン系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド系色素、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド系色素などを好適に使用することができる。また、これらの色素を単独で、または、2種以上を混合して使用することができる。
溶剤としては、少なくとも使用する色素を溶解するものを用いることができるが、熱レンズ形成時の温度上昇に際し、熱分解することなく、かつ、沸騰する温度(沸点)が100℃以上、好ましくは200℃以上、さらに好ましくは300℃以上のものを好適に用いることができる。具体的には、硫酸などの無機系溶剤、o−ジクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素系、1−フェニル−1−キシリルエタンまたは1−フェニル−1−エチルフェニルエタンなどの芳香族置換脂肪族炭化水素系、ニトロベンゼンなどのニトロベンゼン誘導体系、などの有機溶剤を好適に用いることができる。
波長選択透過フィルター11としては、熱レンズ形成光素子9をわずかに透過する信号光3を遮光し、光源光1は透過する誘電体フィルターなどを用いることができる。熱レンズ形成光素子9で実用上問題ない程度に信号光3が吸収されれば、必ずしも波長選択透過フィルター11を用いる必要はない。
ここで、熱レンズ形成光素子9における熱レンズ形成による光源光1の偏向について説明する。
熱レンズ形成光素子9の光吸収層で信号光3が吸収されると、光吸収層の温度が上昇し、屈折率が変わる。温度が上昇するので、一般に屈折率は下がる方向に変化する。通常のレーザ光源から出射するレーザ光や、通常のレーザ光源から出射し光ファイバーを透過してきたレーザ光の強度分布はガウス分布である。また、前記レーザ光をレンズ等で集光した光もガウス分布をしている。よって、信号光3が照射された光吸収層での屈折率分布は、信号光3の光軸で屈折率が一番低下し、信号光3の周辺では屈折率の低下が少なくなる。また、熱伝導があるので、光の照射されていない部分でも屈折率が変化する。
図4は、光源光1が偏向する状況を説明した図である。なお、説明を簡単にするため、図4では光吸収層と光吸収層の周りの媒質との屈折率の違いによる光の屈折は無視している。図4には、熱レンズ形成光素子21(9)の光吸収層22に、光源光25(1)のみが照射された場合と、光源光25(1)と信号光26(3)が同時に照射された場合が示されている。図中、27は、信号光26(3)が照射されなかった場合の熱レンズ形成光素子21(9)の光吸収層22を透過した光源光である。28は、信号光26(3)が照射された場合の熱レンズ形成光素子21(9)の光吸収層22を透過した光源光である。また、熱レンズ形成光素子21(9)の光吸収層22の入射面近辺での信号光の光強度分布29、および、熱レンズ形成光素子21(9)の光吸収層22の出射面近辺での光強度分布30が併せて示されている。
図4aはレーザ光を集光しない場合、図4bは本実施形態で用いる光スイッチSWのようにレーザ光を集光した場合のレーザ光の光路を模式的に示したものである。レーザ光を集光しない場合のレーザ光の強度分布領域29、30は、光吸収層22の入射面近辺と出射面近辺では変わらない。このことは、光源光25(1)が光吸収層22を進むに従って、屈折率の変化の少ない領域を通過することを意味する。一方、レーザ光を集光した場合はレーザ光の強度分布領域29,30は、光吸収層22の入射面近辺と出射面近辺では大きく変わり、出射面近辺では領域が拡がっている。このことは、屈折率も徐々に拡がっていることになり、光源光25(1)が光吸収層22を進むに従ってより大きな偏向を受ける作用が及んでくることになる。なお、屈折率変化は信号光パワーにほぼ比例して変化するので、光吸収層22を進むに従って屈折率変化は小さくなる。
図4bでは、光源光25(1)も熱レンズ形成光素子21(9)の光吸収層22の入射面に集光するようにしているが、入射面近辺であってもよい。特に光源光25(1)は、光吸収層22のもう少し出射面側に集光するようにしてもよい。また、光源光25(1)と信号光26(3)とは光の進行方向で同一面に入射するようにしているが、全く同一面である必要はなく、多少ずれていても構わない。
偏向角は、次の条件が変わると変化する。
1.熱レンズ形成光素子21(9)の光吸収層22の、光源光25(1)と信号光26(3)の第1の集光レンズ8の集光(集束)点に対する位置
2.信号光パワー
3.信号光位置(第1の集光レンズ8の集光点での光源光25(1)と信号光26(3)の光軸に直角方向の距離)
4.熱レンズ形成光素子21(9)の光吸収層22の厚み
5.信号光波長および光源光波長
6.光吸収層22の色素濃度
これ以外にも、光吸収層22の材質、光吸収層22への信号光26(3)および光源光25(1)の集光角等によっても変化する。
本実施形態で用いる光スイッチSWの一例では、波長1550nmの光源光1をコア径9.5μmのシングルモード石英光ファイバーで入力ポート2に入射させ、波長980nmの信号光3をコア径9.5μmのシングルモード石英光ファイバーで入力ポート4に入射させ、焦点距離8mmの第1のコリメートレンズ5および第2のコリメートレンズ6で光源光1および信号光3をほぼ平行光にし、光吸収層の厚み500μmであって光吸収層の波長1550nmにおける透過率95%および波長980nmにおける透過率0.2%の熱レンズ形成光素子9に、焦点距離8mmの第1の集光レンズ8で集光して入射させた。
図5に、図1の分岐ミラー12の直前で、光軸に直角に紙面内方向に、スリット開口を持った光検出器を設けて、この光検出器を動かして測定した光源光1の光強度分布を示す。図5において、線31(丸点を結ぶ実線)は信号光が照射されなかった場合の非偏向光、線32(四角点を結ぶ実線)は信号光パワー7.8mWが照射された場合の偏向光、線33(×点を結ぶ実線)は信号光パワー12.9mWが照射された場合の偏向光の光強度分布を示す。信号光パワー7.8mWが照射された場合の偏向光の場合31は、非偏向光の場合32と強度分布の裾のところで重なり合っておりお互いの分離が不充分であるが、信号光パワー12.9mWが照射された場合の偏向光の場合33は、非偏向光の場合32と充分に分離している。よって、分岐ミラー12で非偏向光と信号光パワー12.9mWが照射された場合の偏向光とは分離できることがわかる。なお、図5において、信号光位置(第1の集光レンズ8の集光点での光源光1と信号光3の光軸に直角方向の距離)は35μmであり、信号光3と光源光1は光吸収層の光入射面から約30μm進んだところに集光し、光吸収層の厚みは500μmであった。
また、信号光パワーと偏向角との関係を図6に示す。信号光パワーが大きくなると偏向角が大きくなることがわかる。なお、図6において、信号光位置(第1の集光レンズ8の集光点での光源光1と信号光3の光軸に直角方向の距離)は35μm、信号光3と光源光1は光吸収層の光入射面から約60μm進んだところに集光させた。
本実施形態に用いる光スイッチSWでは、図1に示す第3のコリメートレンズ10と第2の集光レンズ13および第3の集光レンズ15の焦点距離は同じ8mmのものを用いたので、偏向角は、分岐ミラー12で分岐しなかった場合の偏向光の光軸と非偏向光の光軸とのなす角度となる。本例の場合、信号光パワー7.8mWの場合は約6.7度、信号光パワー12.9mWの場合は約10.1度、信号光パワー18mWの場合は約13.2度となった。
図7に、図3に示した熱レンズ形成光素子21(9)の光吸収層22への光源光1と信号光3の集光点の入射位置(「光吸収層位置」と記す)と偏向角との関係を示す。図7において、横軸の光吸収層位置は熱レンズ形成光素子21(9)の光吸収層22への光の入射面の位置(信号光3と光源光1の集光点に対する位置)である。0点は信号光3と光源光1の集光点の位置であり、図4bの状態である。マイナス方向が光の進行方向であり、プラスの位置では光源光1と信号光3が熱レンズ形成光素子21(9)の光吸収層22内で集光する。縦軸は偏向角である。なお、図7において、信号光パワーは約12.9mWであり、信号光位置(図1の第1の集光レンズ8の集光点での光源光1と信号光3の光軸に対して直角方向の距離)は35μm、光吸収層22の厚みは500μmである。
さらに、図8に、図3に示す熱レンズ形成光素子21(9)の光吸収層22への光源光1と信号光3の収束(集光)点の入射位置(すなわち、光吸収層位置)と非偏向光と偏向光との分離距離の測定データの例を示す。光吸収層22への入射位置が約60μmの場合は分離距離が0に近いが、これからずれると分離距離が大きくなる。図8で分離距離の正負の符号は、光源光1の入射点を原点(すなわち0点)とし、偏向する方向を正とした。図8において、信号光パワーは15.4mW、光吸収層22の厚みは1000μmであり、信号光位置(第1の集光レンズ8の集光点での光源光1と信号光3の光軸に直角方向の距離)は25μmである。
なお、偏向角は、信号光波長および光源光波長によっても異なる。波長が短いほど偏向角が大きくなる。
次に、本発明の実施形態に係る光フリップフロップ回路について図9を参照して説明する。図9は、本実施形態に係る光フリップフロップ回路の構成を模式的に示した図である。
この光フリップフロップ回路では、前記で示した光スイッチSWと同様な構成を有する第1の光スイッチSW1と第2の光スイッチSW2が直列に接続配置されている。
第1の光スイッチSW1には、波長650nmの連続(CW)光である光源光51を取り込むための入力ポート52と、波長1550nmのパルス状信号光[ゲート光]53を取り込むための入力ポート54が設けられている。入力ポート52の下流側には入射した光源光51を平行光とするための第1のコリメートレンズ55が配置され、入力ポート54の下流側には入射した信号光53を平行光とするための第2のコリメートレンズ56が配置されている。第1のコリメートレンズ55の下流側にはダイクロイックミラー57が配置され、第2のコリメートレンズ56の下流側には第1のコリメートレンズ56からの平行光を反射しその光路を変えるミラー58が配置されている。ダイクロイックミラー57は第1のコリメートレンズ55からの平行光は透過させ、ミラー58からの平行光は反射しその光路を変えて、それぞれ平行光とする。ここで光源光51と信号光53は光軸に対して直角な方向でずれた位置となるように光学配置がなされている。ダイクロイックミラー57の下流側には第1の集光レンズ59、熱レンズ形成光素子60、第3のコリメートレンズ61、波長選択透過フィルター62、分岐ミラー63、第2の集光レンズ64がそれぞれ配置されている。第1の集光レンズ59はダイクロイックミラー57からの光源光51および信号光53を熱レンズ形成光素子60の光吸収層に集光(収束)させる。ここで、第1の集光レンズ59には光源光51と信号光53は光軸に対して直角な方向にずれた位置にて入射し、熱レンズ形成光素子60の光吸収層にも光路に垂直な方向でずれた位置にて入射し、集光点が分離するようになっている。
熱レンズ形成光素子60は、光源光51のみが入射した場合には光源光51を進行方向を変えない非偏向光として出射し、光源光51と信号光53が同時に入射した場合には熱レンズを形成し、光源光を進行方向を変えた偏向光として出射する。また、熱レンズ形成光素子60は、熱レンズが形成されている状態で、さらなるリセットのための光パルスが第2の入力ポート54から入射すると、信号光全体のパルス強度が閾値を超えて、さらに大きな偏向角となる。第3のコリメートレンズ62は出射した光源光51(非偏向光および偏向光)と信号光53を平行光にする。波長選択透過フィルター62は光源光51は透過させ、信号光53はカットする。光波長選択フィルター62の下流に設けられた分岐ミラー63は非偏向光と偏向光とを分岐し、偏向光は反射しその光路を変える。非偏向光はそのまま直進することになる。また、分岐ミラー63の図中下方には、光路を変えた偏向光の光路を更に変えるミラー65と、ミラー65からの光を集光する第3の集光レンズ66が配置されている。また、第1の光スイッチSWは2つの出力ポート67、68を有している。出力ポート67は信号光53のOFF時に第2の集光レンズ64で集光された非偏向光の650nm光出力を行う。出力ポート68は信号光53のON時に分岐ミラー63およびミラー65で光路を変えられ、第3の集光レンズ66で集光された偏向光の650nm光出力を行う。
第2の光スイッチSW2には、波長1550nmの連続(CW)光である光源光71を取り込むための入力ポート72と、第1の光スイッチSW1の出力ポート58から出力される650nm光出力を信号光[ゲート光]73として取り込むための入力ポート74が設けられている入力ポート72の下流側には入射した光源光71を平行光とするための第1のコリメートレンズ75が配置され、入力ポート74の下流側には入射した信号光73を平行光とするための第2のコリメートレンズ76が配置されている。第1のコリメートレンズ75の下流側にはダイクロイックミラー77が配置され、第2のコリメートレンズ76の下流側には第1のコリメートレンズ76からの平行光を反射しその光路を変えるミラー78が配置されている。ダイクロイックミラー77は第1のコリメートレンズ75からの平行光は透過させ、ミラー78からの平行光は反射しその光路を変えて、それぞれ平行光とする。ここで光源光71と信号光73は光軸に対して直角な方向でずれた位置となるように光学配置がなされている。ダイクロイックミラー77の下流側には第1の集光レンズ79、熱レンズ形成光素子80、第3のコリメートレンズ81、波長選択透過フィルター82、分岐ミラー83、第2の集光レンズ84がそれぞれ配置されている。第1の集光レンズ79はダイクロイックミラー77からの光源光71および信号光73を熱レンズ形成光素子80の光吸収層に集光(収束)させる。ここで、第1の集光レンズ79には光源光71と信号光73は光路に対して垂直な方向にずれた位置にて入射し、熱レンズ形成光素子80の光吸収層にも光軸に直角な方向でずれた位置にて入射し、集光点が分離するようになっている。
熱レンズ形成光素子80は、光源光71のみが入射した場合には光源光71を進行方向を変えない非偏向光として出射し、光源光71と信号光73が同時に入射した場合には熱レンズを形成し、光源光を進行方向を変えた偏向光として出射する。また、熱レンズ形成光素子80は、熱レンズが形成されている状態で、さらなるリセットのための強度の強い光パルスが第2の入力ポート74から入射すると、信号光全体のパルス強度が閾値を越えて、さらに大きな偏向角となる。第3のコリメートレンズ82は出射した光源光71(非偏向光および偏向光)と信号光73を平行光にする。波長選択透過フィルター82は光源光71は透過させ、信号光73はカットする。光波長選択フィルター82の下流に設けられた分岐ミラー83は非偏向光と偏向光とを分岐し、偏向光は反射しその光路を変える。非偏向光はそのまま直進することになる。また、分岐ミラー83の図中下方には、光路を変えた偏向光の光路を更に変えるミラー85と、ミラー85からの光を集光する第3の集光レンズ86が配置されている。また、第2の光スイッチSWは2つの出力ポート87、88を有している。出力ポート87は信号光73のOFF時に第2の集光レンズ84で集光された非偏向光の1550nm光出力を行う。出力ポート88は信号光73のON時に分岐ミラー83およびミラー85で光路を変えられ、第3の集光レンズ86で集光された偏向光の1550nm光出力を行う。
本実施形態の光フリップフロップ回路では、第2の光スイッチSW2の出力ポート88と第1の光スイッチSW1の入力ポート54を連結するフィードバック部91が設けられている。このフィードバック部91は、図9の左下に記載されているように、第1の光スイッチSW1の入力ポート54に入力した波長1550nmのパルスP1に続けて、第2の光スイッチSW2から出力される波長1550nmのフィードバック光92をパルスP2として第1の光スイッチSW1の入力ポート54に入射させ、光フリップフロップのON状態を維持させる。パルスP1のパルス幅、パルス高さ(強度)は、例えばパルス幅0.5ms〜1ms程度、パルス高さ数mW〜10mWのように設定することができるが、特にこれに限定されない。パルス幅は第1の光スイッチSW1、第2の光スイッチSW2を構成する系の応答時間に対応させて決めることができる。パルスP2のパルス幅はON状態の維持時間に対応し、パルス高さはパルスP2と同じにしてもよいし、異ならせてもよい。
ここで本実施形態で用いた第1の光スイッチSW1の熱レンズ形成光素子60と第2の光スイッチSW2の熱レンズ形成光素子80について説明する。なお、本発明で用いる熱レンズはこれらに限定されず前述したようなものが利用できることは言うまでもない。
熱レンズ形成光素子60は、図10の実線で示すように、波長650nmの光源光51に対しては透過性を示し、波長1550nmの信号光53に対しては吸収性を示す波長帯域を持つ色素よりなる光吸収層を有している。ここでは、日本カーリット株式会社製、CIR−960を使用している。
一方、熱レンズ形成光素子80は、図10の鎖線で示すように、波長1550nmの光源光71に対しては透過性を示し、波長650nmの信号光53に対しては吸収性を示す波長帯域を持つ色素よりなる光吸収層を有している。ここでは、銅(II)2,9,16,23−テトラ−tert−ブチル−29H,31H−フタロシアニン(Copper(II)2,9,16,23-tetra-tert-butyl-29H,31H-phthalocyanine)を使用している。
熱レンズ形成光素子60、80は、基本的に上記のような吸収、透過の波長特性を持ち、熱レンズの形成可能な光吸収層を有しておればよく、光吸収を促進させる層や、伝熱層、保温層等、本発明者らの出願に係る特開2005−265986号公報に記載されているような各種の構造のものとすることができる。
次に、本実施形態に係る光フリップフロップ回路の動作について説明する。
先ず、本実施形態の光フリップフロップ回路をOFFからONにする場合について述べる。光フリップフロップ回路がOFFのときには、第1の光スイッチSW1においては信号光53は入射しておらず、連続光である光源光51のみが入力ポート52より入射し、第1のコリメートレンズ55で平行光とされ、ダイクロイックミラー57を通過し、第1の集光レンズ59で集光され、熱レンズ形成光素子60内で焦点を結ぶ。このとき、熱レンズ形成光素子60では熱レンズが形成されていないため、光源光51は進行方向を変えない非偏向光として熱レンズ形成光素子60より出射し、第3のコリメートレンズ61により平行光とされ、波長選択フィルター62を通過し、第2の集光レンズ64により集光され、出力ポート67より650nm光出力として出力される。
このとき、第2の光スイッチSW2においては入力ポート74から信号光73は入射しておらず、連続光である光源光71のみが入力ポート72より入射し、第1の集光レンズ75で平行光とされ、ダイクロイックミラー77を通過し、第1の集光レンズ79で集光され、熱レンズ形成光素子80の光吸収層で焦点を結ぶ。このとき、熱レンズ形成光素子80では熱レンズが形成されていないため、光源光71は進行方向を変えない非偏向光として熱レンズ形成光素子80より出射し、第3のコリメートレンズ81により平行光とされ、波長選択フィルター82を通過し、第2の集光レンズ84により収束され、出力ポート87より1550nm光出力として出力される。
光フリップフロップ回路が上記のようなOFF状態のときにセットのための波長1550nmのパルス状信号光[図9の左下のパルスP1]が第1の光スイッチSW1に入力すると、そのパルスの先端エッジ(図9に矢印で示す)でスイッチONとなる。
すなわち、セットのための信号光パルスが入力ポート54より入射すると、第2の集光レンズ56により平行光とされ、ミラー58で光路が変えられ、ダイクロイックミラー57に達する。一方、入力ポート52からは波長650nmの連続光である光源光51が入射し、第1の集光レンズ55で平行光とされ、ダイクロイックミラー57に達する。このダイクロイックミラー57により、光源光51と信号光53は光軸に対して直角な方向でずれた位置となる平行光とされ、第1の集光レンズ59により集光され、熱レンズ形成光素子60の光吸収層で焦点を結ぶ。このとき、熱レンズ形成光素子60の光吸収層は波長1550nmの信号光53に対して吸収性を示すため、熱レンズが形成される。これにより、光源光51は進行方向を変えた偏向光として出射し、第3のコリメートレンズで平行光とされ、信号光53は波長選択フィルター62でカットされ、光源光51は分岐ミラー63で反射しその光路が変わり、ミラー65によりさらに反射され、光路が再び変わり、第3の集光レンズ66で集光され、出力ポート68から650nm光出力として出力される。
この650nm光出力は、第2の光スイッチSW2の入力ポート74より信号光73として取り込まれ、第2のコリメートレンズ76により平行光とされ、ミラー78で反射しその光路が変えられ、ダイクロイックミラー77に達する。一方、入力ポート72からは波長1550nmの連続光である光源光31が入射し、第1のコリメートレンズ75で平行光とされ、ダイクロイックミラー77に達する。このダイクロイックミラー77により、光源光71と信号光73は光軸が光路に対して垂直な方向でずれた位置となる平行光とされ、第1の集光レンズ79により集光され、熱レンズ形成光素子80の光吸収層内で焦点を結ぶ。このとき、熱レンズ形成光素子80の光吸収層は波長650nmの信号光73に対して吸収性を示すため、熱レンズが形成される。これにより、光源光71は進行方向を変えた偏向光として出射し、第3のコリメートレンズ81で平行光とされ、信号光73は波長選択フィルター82でカットされ、光源光71は分岐ミラー83で反射しその光路が変わり、ミラー85によりさらに反射され、光路が再び変わり、第3の集光レンズ86で集光され、出力ポート88から1550nm光出力として出力される。この1550nm光出力はフィードバック光92となり、フィードバック部91により第1の光スイッチSW1の入力ポート54に送られ、図9の左下のパルスP2として、パルスP1の後に続き、パルスP1で設定したON状態を持続させる。
次に、光フリップフロップ回路をONからOFFにする場合について述べる。光フリップフロップ回路がONのときには、上記のフィードバック光92のパルスP2がON状態のままであるが、このとき、リセットのためのさらなる信号光53のパルスが入力ポート54より入射すると、信号光53の強度はフィードバック分とリセット分を合わせたものとなり閾値を超える。すると、熱レンズ形成光素子60に形成されていた熱レンズによる信号光53の偏向角がより大きな角度となり、出力ポート68からの光出力はストップする。これにより、第2の光スイッチSW2への信号光73の入射がストップするため、熱レンズ形成光素子80で熱レンズが形成されなくなる。そして、第1の光スイッチSW1では出力ポート67から650nm光出力が出力され、第2の光スイッチ(SW2)では出力ポート68からの1550nm光出力がストップし、出力ポート87から1550nm光出力が出力され、その状態が維持され、光フリップフロップ回路がOFFとなる。
光フリップフロップ回路のON、OFFの状態は第1の光スイッチSW1の出力ポート67の出力および第2の光スイッチSW2の出力ポート87の出力の少なくとも一方の検出により知ることができる。
以上、本発明に係る光フリップフロップ回路を一実施形態により説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形、変更が可能である。
例えば、上記実施形態の光フリップフロップ回路では、図1に示すタイプの光スイッチSWを基本として用いたが、本願発明によれば、図11に示すようなタイプの光スイッチSW’を用い、その他の構成は図9と同様にして光フリップフロップ回路を構成することもできる。
図11において図1と同様な光学部品には同じ符号を付してある。図11において95は光源光、96は信号光、96は入力ポート、97は入力ポートである。図11のスイッチSW’では光入力に図12に示す2芯光ファイバーフェルール98を用いた。2芯光ファイバーフェルール98は光源光光出射ファイバー99と信号光光出射ファイバー100を備えている。これらの光ファイバー99、100としては、コア9.5μmのシングルモード石英光ファイバーのクラッド層をフッ酸で所望の太さにエッチングして用いた。エッチングする部分は、光ファイバーの先端数mmだけとした。エッチングした後の光ファイバーの太さ「ω」は、光吸収層に集光した光源光と信号光の集光点の光軸に直角方向の距離「χ」と次の関係で決めることができる。
(式1)
ω=χ/m
ここでmは、第1の集光レンズ8の結像倍率である。
このような構成としても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる上、光入射部の構成をより簡素化できる利点がある。
また、上記実施形態では、第1の光スイッチSW1において波長650nmの光源光51と波長1550nmの信号光53を用い、第2の光スイッチSW2において波長1550nmの光源光71と波長650nmの信号光73を用いたが、第1の光スイッチSW1と第2の光スイッチSW2で波長の関係を逆にしてもよい。
また、上記実施形態では650nmと1550nmの波長を利用したが、これに限定されず、図1の光スイッチSWの説明でも言及したように熱レンズが形成可能であれば任意の大きさの波長をペアとして利用することができる。
さらに、上記実施形態では、第2の出力ポート78の光出力をそのままフィードバック光92としたが、一部のみを利用してもよい。