トレリスシェイピングは、本来はQAMコンスタレーションにおいて、できるだけ内側のシンボル点を選ぶようにして平均電力を下げることを目的としている。また、上記した非特許文献では、QAMを対象にして信号のダイナミックレンジ低減を目的としてトレリスシェイピングが適用されている。
また、トレリスシェイピングでは、符号語検索メトリックの定義が重要であり、上記した非特許文献では、シングルキャリアに対して主にPSKを扱い、シンボル遷移の位相差が小さいほどピークの出る確率が小さいことに着目し、連続する2シンボル間の位相差をメトリックとしている。
しかし、QAMでは、PSKと相違し、シンボル遷移の位相差が小さいほどピークの出る確率が小さいという関係が成り立たないため、適切なメトリックは提案されておらず、主に経験則に基づいて設定されている。また、上記文献においても、ビタビアルゴリズムにおけるメトリックは経験則に基づいたものであるため、トレリスシェイピングの性能が十分に発揮されるものとなっていない。
したがって、従来、トレリスシェイピングによりシングルキャリアをQAM変調するシングルキャリア変調において、多値QAMにおけるピーク電力を低減する良好な技術は提案されていない。
また、シェイピングでは、シンボルの出現に拘束を設けるため通信路容量が低下する。トレリスシェイピングにおいて、符号化の際に1ビットの冗長度が加わり、シェイピングしない場合と同じ情報レートを維持しようとすると、1サイズ大きいコンスタレーションが必要となり、誤り率特性の劣化につながるという問題がある。
ピーク電力問題は通信において常に存在する課題ではあるが、第4世代移動通信システム(4G)等の高速通信においては、ますます重要な課題となる。
そこで、本発明は前記した従来の問題点を解決し、シングルキャリアをQAM変調するシングルキャリア変調において適切なメトリックを定めることを目的とし、特に、ピーク電力の削減に適したメトリックを定めることを目的とする。
また、シェイピングを行うことにより生じる誤り率特性の劣化を抑制することを目的とする。
本発明は、トレリスシェイピングというシェイピング符号を用い、系統的なメトリックと導入することで、動的にピーク電力を抑圧する。従来提案されるメトリックは、経験則に基づいたものであり、トレリスシェイピングの性能が完全に発揮されていない。本発明は系統的なメトリックを導入することにより、ピーク電力の低減に限らず、平均電力の低減も可能とする。
また、シェイピング符号によってビット誤り率が増大するが、本発明は、シェイピング符号と、誤り訂正符号であるTCM(トレリス符号化変調)を組み合わせることによって、同じ周波数利用効率において、誤り率をほぼ維持したままピーク電力を低減する。
また、本発明は、シェイピングによって情報源がマルコフ情報源になることを利用し、MAP(maximum a posteriori)復号を行うことでビット誤り率を改善する。
本発明は、トレリスシェイピングによりシングルキャリアをQAM変調する態様において、シングルキャリア変調方法の態様と、シングルキャリア変調装置の2つの態様を含む。
本発明のシングルキャリア変調方法および装置の各態様は、ピーク電力を抑圧するために、QAMコンスタレーションのシンボルに付与するメトリック値の形態(第1の形態)と、QAMマッピングで得られるシンボル間の遷移に対する遷移メトリックの形態(第2の形態)の、メトリックに関して2つの特徴的な形態を有している。
上記メトリックの第1の形態は、ピーク電力を大きくするシンボルの発生が抑制されるように、QAMコンスタレーションのシンボルに対するメトリック値を付与するものである。また、第2の形態は、ピーク電力と瞬時電力のばらつきとの関連性に基づいて、この瞬時電力のばらつきをメトリック(以下、各シンボルに付与するメトリック値と区別するために遷移メトリックで表す)として定め、この遷移メトリックが最小となるように符号化することで、ピーク電力を低減する。
本発明のシングルキャリア変調方法は、トレリスシェイピングによりシングルキャリアをQAM変調するシングルキャリア変調方法である。
第1の形態では、シンボルに対するメトリック値の付与において、QAMマッピングにおいて、QAMコンスタレーションの中心から設定半径の範囲外に存在するシンボルに対して無限大と見なすに十分に大きなメトリック値を設定し、このシンボルの出現確率を実質的に0とすることによりピーク電力を低減する。
また、第2の形態では、QAMマッピングで得られるシンボル間の遷移に対する遷移メトリックを瞬時電力のばらつきにより定める。
本発明のシングルキャリア変調方法は、前記した第1の形態と第2の形態を組み合わせた形態とすることができ、この形態によれば、QAMマッピングにおいて、QAMコンスタレーションの中心から設定半径の範囲外に存在するシンボルに対して無限大と見なすに十分に大きなメトリック値を設定して、このシンボルの出現確率を実質的に0とし、QAMマッピングで得られる前記設定半径の範囲内に存在するシンボルにおいて、シンボル間の遷移に対する遷移メトリックを瞬時電力のばらつきにより定める。
また、瞬時電力のばらつきにより定める遷移メトリックを求める方法において、より詳細には、離散的シンボルから連続信号を形成し、連続信号の信号波形から瞬時電力を算出し、算出した瞬時電力の参照電力に対する統計的モーメントを求め、求めた統計的モーメントを遷移メトリックとする。
また、離散的シンボルから連続信号を形成する手法として。連続信号の信号波形をオーバーサンプリングした複素シンボルのサンプリング値を2乗して複素シンボル点の瞬時電力を算出し、この算出した瞬時電力と予め設定した参照電力との差分をモーメント次数でべき乗し、求めたべき乗値をオーバーサンプリング数分累積し、この累積値を遷移メトリックとする。
遷移メトリックを求める際の参照電力は、遷移メトリックのパラメータとなり、この参照電力を、設定半径の範囲内に存在する複素シンボル点の瞬時電力の最大値以下に設定することにより、ピーク電力を低減することができ、また、この参照電力を0に設定することにより求めた遷移メトリックが最小となるようトレリスシェイピングを行うことにより平均電力を低減することができる。
さらに、参照電力を、設定半径の範囲内に存在する複素シンボル点の瞬時電力の最大値と0との間で増減させ、参照電力により求めた遷移メトリックが最小となるようトレリスシェイピングを行うことにより、ピーク電力と平均電力との間の増減を調整することができる。
また、本発明のシングルキャリア変調方法は、トレリスシェイピングと誤り訂正符号であるTCM(トレリス符号化変調)を組み合わせることによって、同じ周波数利用効率において、誤り率をほぼ維持したままピーク電力を低減することができる。このトレリスシェイピングとTCM(トレリス符号化変調)との組み合わせは、情報符号列の内でトレリスシェイピングを行わないビットの少なくとも一部をトレリス符号化変調し、情報符号列の内でトレリス符号化変調を行わないビットの少なくとも一部をトレリスシェイピングし、トレリス符号化変調した情報と、トレリスシェイピングした情報とをマッピング器によってTCM−QAMコンスタレーションでマッピングすることによって行うことができ、これによって、シェイピングによって生じた誤り率をTCM(トレリス符号化変調)の誤り訂正で改善することができる。
また、本発明のシングルキャリア変調方法は、シェイピングによって情報源がマルコフ情報源になることを利用し、MAP(maximum a posteriori)復号を行うことでビット誤り率を改善することができ、符号化された情報の復号において、情報のシンボル点において、一時点前の事後確率からシンボル点の生起確率を算出し、この算出した生起確率が最大となるシンボル点を選択することによって、トレリスシェイピングによりQAM変調されたシングルキャリアのシンボル点の生起確率を利用してMAP復号する。
本発明は、上記した方法の態様に他に装置の態様とすることができる。本発明のシングルキャリア変調装置は、トレリスシェイピングによりシングルキャリアをQAM変調するシングルキャリア変調装置である。
本発明のシングルキャリア変調装置の各態様においても、ピーク電力を抑圧するために、QAMコンスタレーションのシンボルに付与するメトリック値の形態(第1の形態)と、QAMマッピングで得られるシンボル間の遷移に対する遷移メトリックの形態(第2の形態)の、メトリックに関して2つの特徴的な形態を有している。
第1の形態では、情報系列のシェイピングを施すビットを符号化するインバースシンドロームと、符号化したビットと、情報系列のシェイピングを施さないビットとに基づいて、ビタビアルゴリズムでメトリックを最小にする符号語を求めるジェネレータと、符号化したビットに符号語を加算した情報を複素シンボル点にマッピングするマッピング器とを備え、ジェネレータは、QAMコンスタレーションの中心から設定半径の範囲外に存在するシンボルに対して無限大と見なすに十分に大きなメトリック値を設定し、このシンボルの出現確率を実質的に0とすることで、ピーク電力を増大する可能性のあるシンボルの使用を抑制する。
第2の形態では、情報系列のシェイピングを施すビットを符号化するインバースシンドロームと、符号化したビットと、情報系列のシェイピングを施さないビットとに基づいて、ビタビアルゴリズムでメトリックを最小にする符号語を求めるジェネレータと、符号化したビットに前記符号語を加算した情報を複素シンボル点にマッピングするマッピング器とを備え、ジェネレータは、QAMマッピングで得られるシンボル間の遷移に対する遷移メトリックを瞬時電力のばらつきにより定める。
また、遷移メトリックの演算において、予め遷移メトリックをテーブル化して備えておき、連続信号に基づいてこのテーブルから遷移メトリックを読み出してもよい。これによって、演算速度を向上させることができる。
さらに、本発明のシングルキャリア変調装置は、前記した第1の形態と第2の形態を組み合わせた形態とすることができ、この形態によれば、前記したインバースシンドロームと、ジェネレータと、マッピング器とを備える構成において、ジェネレータは、QAMコンスタレーションの中心から設定半径の範囲外に存在するシンボルに対して無限大と見なすに十分に大きなメトリック値を設定して、このシンボルの出現確率を実質的に0とし、QAMマッピングで得られるシンボル間の遷移に対する遷移メトリックを瞬時電力のばらつきにより定める。
ジェネレータは、より詳細な構成においては、情報系列のシェイピングを施す複数のビットを畳み込み演算によって連続信号を形成する部分波形演算部と、連続信号の信号波形から瞬時電力を算出し、算出した瞬時電力の参照電力に対する統計的モーメントを求め、求めた統計的モーメントを遷移メトリックとするメトリック演算部と、遷移メトリックを最小とするトレリスを求めるトレースバック部と、トレリスから符号語を求めるデコーダとを備える。
本発明のジェネレータが備えるメトリック演算部は、連続信号の信号波形をオーバーサンプリングした複素シンボルのサンプリング値を2乗して、その複素シンボル点の瞬時電力を算出し、算出した瞬時電力と予め設定した参照電力との差分をモーメント次数でべき乗し、求めたべき乗値をオーバーサンプリング数分累積し、この累積値を遷移メトリックとする。
また、本発明のジェネレータが備えるメトリック演算部は、参照電力を、設定半径の範囲内に存在する複素シンボル点の瞬時電力の最大値以下に設定することにより、ピーク電力を低減する。
また、本発明のジェネレータが備えるメトリック演算部は、参照電力を0に設定することにより、求めた遷移メトリックが最小となるようトレリスシェイピングを行うことにより平均電力を低減する。
また、メトリック演算部は、予め遷移メトリックをテーブル化して備えておき、連続信号に基づいてこのテーブルから遷移メトリックを読み出してもよい。これによって、メトリック演算部の演算速度を向上させることができる。
さらに、本発明のジェネレータが備えるメトリック演算部は、参照電力を、設定半径の範囲内に存在する複素シンボル点の瞬時電力の最大値と0との間で増減させ、参照電力により求めた遷移メトリックが最小となるようトレリスシェイピングを行うことにより、ピーク電力と平均電力との間の増減を調整する。
また、本発明のシングルキャリア変調装置は、情報符号列の内でトレリスシェイピングを行わないビットの少なくとも一部をトレリス符号化変調するTCMコーダーを備える他に、TCMコーダーによってトレリス符号化変調した情報と、インバースシンドロームでトレリスシェイピングした情報とをTCM−QAMもコンスタレーションでマッピングするTCM−QAMマッピング器とを備える。
この構成によって、トレリスシェイピングと誤り訂正符号であるTCM(トレリス符号化変調)を組み合わせることができ、同じ周波数利用効率において、誤り率をほぼ維持したままピーク電力を低減することができる。
また、本発明のシングルキャリア変調装置は、マッピング器から出力される情報からシンボル点を復号する逆マッピング器を備える。この逆マッピング器は、一時点前の事後確率からシンボル点の生起確率を算出し、算出した生起確率が最大となるシンボル点を選択することによって、トレリスシェイピングによりQAM変調されたシングルキャリアのシンボル点の生起確率を利用してMAP復号を行う。
これによって、シェイピングによって情報源がマルコフ情報源になることを利用し、MAP(maximum a posteriori)復号を行うことでビット誤り率を改善することができる。
また、本発明は、トレリスシェイピングによりシングルキャリアを多値PSK変調するシングルキャリア変調において、設定電力をメトリック値のリミッタとして設定し、設定電力を超える電力についてはその電力値をメトリック値とし、設定電力以下の電力については0をメトリック値とする。このメトリック値の設定によって、リミッタで失われる電力を最小とすることができる。
以上説明したように、本発明によれば、シングルキャリアをQAM変調するシングルキャリア変調において、経験則によらず系統的なメトリックを定めることができる。
また、本発明によれば、シンボルに対して設定するメトリック値において、QAMコンスタレーションの所定円の円外にあるシンボルについて無限大のメトリックを付与することでこのシンボルの発生を抑制し、ピーク電力を低減する。
さらに、QAMコンスタレーション内のシンボル間の遷移において、瞬時電力のばらつきを遷移メトリックとし、この遷移メトリックの算出において、基準となるパラメータとなる参照電力を調整することによって、ピーク電力の低減と平均電力の低減の関係を調整することができる。
また、シェイピング符号とTCM(トレリス符号化変調)を組み合わせることによって、シェイピングを行うことにより生じる誤り率特性の劣化を抑制することができる。
以下、本発明の実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明のシングルキャリア変調の概略構成を説明するためのブロック図である。なお、図1に示す構成例は、一般的なトレリスシェイピングの構成に本発明のシングルキャリア変調装置を適用させた例を示している。
図1において、シングルキャリア変調は、図1(a)に示す送信器側と図1(b)に示す受診器側を含む。
トレリスシェイピングは送信系列をコントロールする技術であり、情報系列を符号と直交するように変換し、それに符号語をmodulo-2で加算することによって行う。この情報系列と符号との直交性によって、受信側で情報系列を復号することができる。ここで用いる符号は畳み込み符号であり、符号語はある基準(メトリック)を最小にするようにビタビアルゴリズムによって探索される。
本発明のシングルキャリア変調の送信器は、一般的に知られるトレリスシェイピングの構成と同様に、符号語vを生成するジェネレータ1と、シェイピングビットsを符号化するインバースシンドローム2と、複素シンボル点にマッピングして送信信号を形成するマッピング器3を備える。
図1(a)中において、Gsは畳み込み符号で1×nsのジェネレータマトリクスであり、Hsはこのジェネレータマトリクスに対応するシンドロームである。
GsとHとの間には、
GsHsT=0 …(1)
の関係がある。
Hs-1はシンドロームの左側逆行列(インバースシンドロームと呼ぶ)であり、
Hs-1HsT=I …(2)
の関係がある。
まず、送信系列を、シェイピングを施すビットsと、そのままマッピングするビットuにわけ、sをインバースシンドローム2で符号化してs*を得る。
s*=s(Hs−1)T …(3)
インバースシンドローム2は(ns−1)×nsの行列のため、この処理によって1ビットの冗長度が付加される。つぎに、s*とuをもとにしてビタビアルゴリズムでメトリッを最小にする符号語vを探し出し、この符号語vをs*にmodulo-2で加算する。最後に、z=s*+vとuとを、マッピング器3によって複素シンボル点にマッピングして送信する。
図1(b)において、受信側では送信器のマッピング器3から送られた信号Aを逆マッピング器13で受けて、zとuに分ける。zは、シェイピングを施したビットsに関わる信号であり、uはシェイピングを施していないビットuである。信号zは、シンドローム11に通すことで、元の情報sを復号することができる。
この復号は、
zHsT=(s*+v)HsT
=(s(Hs-1)T+v)HsT
=s(Hs-1)THsT+vHsT
であり、符号語vが有効な符号語である限りvHsT=0が成立し、
=s+0=s …(4)
となるからである。
通常、トレリスシェイピングは平均電力の低減を目的としているため、1つのシンボルをトレリスの1本の枝に関連付けて、電力に相当するシンボルの2乗値をメトリックとしてシェイピングを行っている。これに対して、本発明ではピーク電力の低減を目的としているため、離散的なシンボル点ではなく、連続的な信号波形をトレリスの1本の枝に関連づけてメトリックを求める。
ジェネレータ1は、連続的な信号波形をトレリスの1本の枝に関連づけてメトリックを求める構成として、部分波形演算部1a、メトリック演算部1b、トレースバック部1c、およびデコーダ1dを備える。なお、求めたメトリックに基づいて、メトリックが最小となるトレリスを求めるトレースバック部1c、および求めたトレリスに対応する符号語vを求めるデコーダ1dは、離散値を用いる通常のトレリスシェイピングのジェネレータと同様である。
本発明のジェネレータ1は、連続的な信号波形をトレリスの1本の枝に関連づけてメトリックを求める構成として、部分波形演算部1aおよびメトリック演算部1bを備える。部分波形演算部1aは、連続する複数シンボルの信号を畳み込みフィルタを通すことによって、連続的な信号波形(以下部分波形という)を得る。
また、メトリック演算部1bは、この部分波形をサンプリングし、このサンプリング点の値を2乗して得られる瞬時電力に相当する値を求め、この2乗値と基準となる電力Pref(参照電力)との統計的なモーメントを求め、これをメトリックとする。
このメトリックの算出において、ピーク電力を低減させるために、QAMコンスタレーションにおいて、所定半径の円の外側に位置するシンボルのメトリック値を無限大に設定しておく。図2は、メトリック値の設定を説明するための図である。図2において、各点は、QAMコンスタレーションに配置されるシンボル点を示している。ここで、所定の半径rsの円(図中の破線で示す)の外側に存在するシンボルについて、メトリック値を無限大と見なせる程度に十分大きな値を設定する。図2中の黒丸は、円内のシンボルを示し、白丸は円外のシンボルを示している。この白丸で表されるシンボルのブランチメトリックに無限大を付与する。
ブランチメトリックに無限大を付与することによって、トレースバック部1cによってメトリック(遷移メトリック)が最小となるトレリスを求める際に、この無限大が付与されたシンボルを通るパスは除去されすることになる。
QAMコンスタレーションにおいて、所定半径の円外に存在するシンボルは、ピーク電力が大きいと想定される。したがって、このような円外に存在するシンボルを避けることによって、ピーク電力を抑制することができる。
このメトリック値の設定は、トレリスにおいて、所定の半径rsの円外のシンボルが選択されないようにするためであり、メトリック値の比較において、トレリスのパスがそのシンボル位置で途絶えるのであれば、必ずしも無限大である必要はない。
また、上記円外のシンボルを避け、円内のシンボルのみを用いたパスの中からメトリックが最小なパスを選出するために、上記した統計的なモーメントをメトリックとして用いる。この統計的なモーメントは、瞬時電力に相当する値と基準となる電力Pref(参照電力)との差分に基づいて求めるものであるため、この基準となる電力Pref(参照電力)を一種のパラメータとすることによって、ピーク電力の低減、平均電力の低減、あるいは、ピーク電力の低減と平均電力の低減との調整を行うことができる。
例えば、基準となる電力Pref(参照電力)を、設定半径の範囲内に存在する複素シンボル点の瞬時電力の最大値以下に設定することによりピーク電力を低減することができる。一方、参照電力を0に設定することにより、求めた遷移メトリックが最小となるようトレリスシェイピングを行うことにより平均電力を低減することができる。
また、参照電力を、設定半径の範囲内に存在する複素シンボル点の瞬時電力の最大値と0との間で増減させ、参照電力により求めた遷移メトリックが最小となるようトレリスシェイピングを行うことにより、ピーク電力と平均電力との間の増減を調整することができる。
以下、本発明のシングルキャリア変調において、トレリスシェイピングとTCM(トレリス符号化変調)とを組み合わせることによってPARを低減すると共に、シェイピングによる誤り率を抑制し、同じ周波数利用効率において、誤り率をほぼ維持したままピーク電力を低減する構成例を用いて説明する。この構成では、トレリスシェイピングをPARの低減に用い、トレリスシェイピングで生じたBERにおけるロスはTCMによって回復する。また、シェイピングにより情報源がマルコフ情報源になることを利用することによって、さらにBERの回復させる点についても説明する。
符号化していないM−QAMは、
R(M)=log2M …(5)
で表されるビットの情報レートを持つ。また、信号対雑音電力比の大きな領域で誤り率を決定するMSED(Minimum squared Euclidean Distance)は、
MSED(M)≒6.4/M …(6)
のようにMの逆数に比例することが知られている。シェイピングされたM−QAMは、マッピングされるビットのうち1ビットはインバースシンドロームで付加された冗長ビットであるため、情報レートは、
Rs(M)=R(M)−1=log2M−1
=log2(M/2)=R(M/2) …(7)
というようにM/2−QAMのものと等しいが、MSEDは変わらず
MSEDs(M)=MSED(M)
=1/2・MSED(M/2) …(8)
となるため、情報レート一定の条件で、誤り率が悪化する。
また、シェイピングにより、1ビットの冗長度が付加されるため、log2Mビットの情報を送るために、M−QAMでなく、シンボル数が2倍の2M−QAMを使用しなければならない。そのため、シンボル数が2倍に増加するに伴って、シンボル点間のユークリッド距離が縮まり、BER特性(ビット誤り率)においてロスが発生するとも言える。
そこで、本発明では、トレリスシェイピングでは、このロスを補償する意味で、誤り訂正符号を組み合わせる構成とする。
図3は、トレリスシェイピングとTCMとを組み合わせた構成例を説明するための図である。
図3に示す構成例は、トレリスシェイピングとTCMを並列に組み合わせ、シェイピングしないビットを符号化し、符号化しないビットをシェイピングする。ここでは、符号化率2/3のインバースシンドロームと、同じく符号化率2/3のTCMを用いる構成例を示す。
図3において、情報符号の内の下位2ビットをTCMコーダー4に通してトレリス符号化変調で符号化し、上位2ビットをシェイピングのためインバースシンドローム2に通す。ジェネレータ1は、TCMコーダー4を通して符号化されたビット出力、インバースシンドローム2を通ったビット出力、およびいずれの符号化もされていないビットを入力し、PARを下げるための符号語vをビタビアルゴリズムによって探索する。このジェネレータにおいて、PARを下げるためのメトリック計算が行われる。
ジェネレータ1で生成された符号語vを、インバースシンドローム2からの出力にmodulo-2で加算し、TCM−QAMマッピング器3AによってTCM−QAMのコンスタレーションにマッピングする。
なお、図3中の破線は128QAMと256QAMの場合に必要となるビットであり、直接マッピングされるビットを表している。また、32QAMにおいてはTCMコーダー4による符号化ビットを1ビットとして対応する。また、16QAMについてはビット数が足りないため、このトレリスシェイピングとTCM(トレリス符号化変調)との組み合わせは適用できない。
シェイピングによって1ビットの冗長度が付加され、また、TCMによって1ビットの冗長度が付加されるため、合計2ビットの冗長度が付加さることになる。
全体の情報レートは、
Rt(M)=Rs(M)−1=log2(M/2)−1
=log2(M/4)=R(M/4) …(9)
となり、M/4−QAMのものと等しいが、レート2/3のエンコーダで集合分割(セットパーテショニング)が3回行われることを考慮すると、MSEDは
MSEDt(M)≒4MSED(M/4)
=MSED(M) …(10)
となるため、誤り率特性においてロスなしでPARの低減が可能である。
まお、図3に示す構成では、シェイピングに際し1ビットの冗長度が付加される。これに対して、図4に示すmulti-dimensionalトレリスシェイピングの構成によれば、複数のシンボルを同時にシェイピングすることができ、冗長度を半分にすることができる。なお、図4は2シンボルの場合を示しているが、3ビット以上についても同様とすることができる。なお、インバースシェイピングにおける構成に代えて、TCMコーダーにおいてmulti-dimensionalな構成とすることも可能である。
次に、PARを低減するためのビタビアルゴリズムの構成およびメトリックについて説明する。
本発明ではピーク電力の低減を目的としているため、離散的なシンボル点ではなく、連続的な信号波形を用いることによって、トレリスの1本の枝に関連づけてメトリックを求める。
図5(a)、(b)は平均電力の削減を目的とする場合のトレリスと、シンボルとの関係を模式的に示している。ここで、トレリスの1本の枝は、QAMのコンスタレーションにおいて離散した各シンボル点と対応している。
これに対して、図5(c)、(d)はピーク電力の削減を目的とする場合のトレリスと、シンボルとの関係を模式的に示している。ここでは、フィルタを通過した後の信号が対象となるため、トレリスの1本の枝に対して、QAMのコンスタレーションにおいて連続的な波形を対応付ける必要がある。
離散のシンボル点ではなく、連続した信号波形によってメトリック計算を行うために、以下の方法によって連続した信号波形を取得する。
まず,トレリスにおいて一時点前の出力を保持する。この一時点前の出力と現時点のシンボルの2つのパルスの畳み込み演算を行うことによって、連続する信号波形が得られる。この信号波形は、部分的な波形(部分波形)となる。図6(a)は、このときの2つのシンボルに対応するパルスのインパルス応答と、これらのインパルス応答をフィルタに通して得られる部分波形例を示している。
図7(a)は、現時点のシンボルと一時点前のシンボルを取得する回路例を示している。図7(a)において、シェイピング符号として
Gs=[1+D2 1+D+D2] …(11)
を用いる場合には、現時点のシンボルを取得する回路は、2つの遅延器を構成するメモリ(レジスタ)11a,11bと加算器12a,12bによって構成することができる。一時点前のシンボルを取得する回路は、上記回路にメモリ(レジスタ)11cを付加し、加算器12c,12dから出力する。これにより、一時点前の出力は、
DGs=D[1+D2 1+D+D2]
=[D+D3 D+D2+D3] …(12)
で与えられる。
ただし、一時点前の出力はトレリス上でブランチメトリックを計算するためだけに必要であり、符号語を出力する際には必要としない。
なお、図6(a),(b)で示すインパルス応答および部分波形例は模式的に示すものである。
実際の信号波形は、すべてのシンボルのインパルス応答を畳み込んだものであり、2つのシンボルだけから求めた部分波形には不正確さが含まれる。そこで、畳み込み演算に用いる信号数を増やすことで部分波形の正確さを高めることができる。図7(b)は3つの連続するシンボルから部分波形を求める構成例を示している。また、図6(b)に示すように、4つの連続するシンボルから部分波形を求めることによって、より正確なものが得られる。ただし、この4つの連続するシンボルから部分波形を求めるためには、さらに2つのメモリを付加し、合計で3つメモリを追加する必要があり、ビタビアルゴリズムの計算量が増大する。
図8は、2出力を保持するようにメモリを追加してシェイピング用の畳み込み符号を得る構成と、部分波形を得る構成を示している。
次に、符号化探索メトリックについて説明する。
はじめに、ピーク電力を増大可能性のあるシンボルの選択を回避するために、ブランチメトリックの値の無限大を付与する点について説明する。
QAMは正方形または十字形のコンスタレーションをしており、円形のコンスタレーションに比べるてピーク電力が大きいと考えられる。そこで、部分波形を用いてメトリックを演算する前に、このピーク電力を大きくする可能性のあるシンボルについて選択されないように設定する。
図9において、QAMコンスタレーションにおいて、角に位置するシンボルの出現を抑制して、円形に近づける。このために、半径γsの円の外側に位置するシンボルのブランチメトリックを無限大とし、角部のシンボルの出現確率を0とする。トレリスにおけるパスがそこで必ず消去されるので,角の出現が完全に抑えられる。
次に、現在のシンボル及び一時点前のシンボルが共に円の内部に位置する場合には、以下のプロセスでメトリック(遷移メトリック)を与え、さらにPARを低減する。
ピーク電力は瞬時電力のばらつきと関連性があると考えられる。例えば、FSK、MSKなどの定包絡線信号は瞬時電力の分散が0であり、それゆえPARも0[dB]であり、優れたピーク電力特性を持つ。
そこで、本発明のメトリックは、瞬時電力の分散を最小にするメトリックを用いる。このメトリックは、事前に基準となる電力Pref(参照電力と呼ぶ)を定め、前記した部分波形の2乗値(つまり瞬時電力)とPrefとの統計的モーメントを求め,これをメトリックとする。
シェイピングされないビットui,ujが与えられているもとで、状態Siから状態Sjヘの遷移に対するメトリックを
と定義する。ここでβはモーメントの次数、Nsはオーバーサンプリング数である。係数の1/Nsは、正規化のための因子であり、実際の計算においては省略しても問題は無い。
複素信号Si,j(k)はui,ujのもとで、状態Si→状態Sjという遷移により生じる部分波形のk番目のサンプリング点である。フィルタのインパルス応答をh(n)とすると、
Si,j(k)=Ai・h(k)+Aj・h(Ns−k)
k=0,1,…,Ns …(15)
と表すこともできる。ここで、Aiは、Si,uiにに対応する複素シンボル点である。
なお、式(12)や式(14)のように畳み込み演算やモーメント演算は、あらかじめ計算しておきルックアップテーブルを用いることで、計算量を削減することができる。
また、Prefを調整することで,PARだけでなく平均電力を低減することができる。
図10(a)、(b)は、Prefを信号の最大値を超えない所定値に調整することで、ピーク電力を低減する。なお、図9(b)に示す状態は、図10(a)の状態からシェイピングによってピーク電力を低減した状態を示している。
また、平均電力を低減する場合には、例えば、式(14)においてβ=1,Pref=0とすると、
となる。これはオーバーサンプリングされた信号に対して、平均電力のシェイピングを行っていることに等しい。図10(c)、(d)は、Prefを0に調整することで、平均電力を低減する。なお、図10(d)に示す状態は、図10(c)の状態からシェイピングによって平均電力を低減した状態を示している。
また、Prefを信号の最大値を上回るように十分大きい値に設定した場合には、
となり、ピーク電力のみをシェイピングすることになる。
図10(e)、(f)は、Prefを信号の最大値を上回る値に調整することで、ピーク電力のみをシェイピングする。なお、図10(f)に示す状態は、図10(e)の状態からシェイピングした状態を示している。
このようにPrefを増減することで、ピーク電力と平均電力の間のトレードオフを行うことができ、両電力間に関係を調整することができる。
遷移メトリックが最も小さくなるシェイピング符号の選択は、計算機探索によって行うことができる。なお、受信側のシンドロームにおいてバースト誤りが生じるため、ピーク電力の抑制が同等であれば、対応するシンドロームができるだけ簡素であるものを選ぶ。
次に、マルコフ過程に基づくMAP復号について説明する。シェイピングを施すことにより、シンボル点の遷移確率が一様でなくなり、情報源がマルコフ情報源になるため現時点のシンボルの生起確率は、一時点前のシンボル点に依存する。
そこで、復号にシンボル点の生起確率を利用するMAP復号を用いることにより、誤り率を改善することができる。
MAP復号は、複素受信点rを受信したとき、事後確率P(sm|r)が最大になるシンボル点smを選ぶという復号法であり、mについてmaxP(sm|r)を計算する。
ベイズの定理を用いると、maxP(sm|r)は、
maxP(sm|r)=maxP(r|sm)P(sm) …(18)
となり、AWGN(白色ガウス雑音)では、N0を雑音電力として、最大化を求めると、
maxP(sm|r)=min[(r−sm)2−N0llnP(sm)] …(19)
が得られる。
なお、受信側ではN0の推定が必要になる。
シンボルsmの生起確率P(sm)は、マルコフ過程に基づき、一時点前の事後確率P(n-1)(sm|r)から次のように求められる。
ここで、P(sm|si)は、SiからSsmへの遷移確率であり、計算機シミュレーションで求めることができる。
上記説明では、QAMについて示しているが、PSKの場合についても適用することができる。図11は、PSKに適用したときのメトリックの例を説明するための図である。
この場合の第1のメトリックは、ピーク電力と電力分布のばらつきとの関連性に基づいて、電力分布のばらつきを表すモーメントをメトリックとする。図11(a)は、1で表される正規化値からの電力分布のばらつきを示している。このメトリックは
metric≡(p−1)β …(21)
で定義される。βはモーメントの次数。
また、第2のメトリックは、リミッタモデルに対するものであり、リミッタで失われる電力を低減するものである。
このメトリックは、
metric≡p(p>pmax)
0(その他) …(22)
で表される。図11(b)はこのときの入出力関係を示し、図11(c)はメトリック例を示している。
以下、計算機シミュレーションによる本発明のシミュレーション結果について説明する。
PARはピーク電力と平均電力の比で定義されており、送信系列の長さTに依存する。ここでは、Tに依存しない評価を行うため、正規化電力の累積分布補関数(CCDF:Complementary Cumulative Distribution Function)を評価に用いる。
正規化電力とは電力の瞬時値を平均電力で割った値として定義され、
η(t)≡|s(t)|2/Pav
また、累積分布補関数F(x)はη(t)がある値を超える確率で、
F(x)=Prob[η(t)>x]
と表される。
はじめに、正規化電力特性について説明する。
参照電力の変化による特性の変化を64QAMを代表として図12に示す。コサインロールオフフィルタはロールオフ係数α=0.4のものを用いる。以後,特に断らない限り0.4とする。また、符号およびrは表1に示すものを用いている。なお、これらの符号は拘束長K=3における最適なものである。
図12は、参照電力の上昇によって平均電力が上昇することを示している。また,モーメントの次数βを大きくするほどPrefが大きいところと小さいところで変化が緩やかになっているのが分かる。Prefが波形の最小値より低い場合、モーメントの次数が大きいほど変化の激しい波形を見ることになり、それによって生じた大きなピークをさけるために、平均電力が上がる作用がある考えられる。Prefが波形の最大値より高い場合はこの逆である。
図13にはβ=2の場合について、参照電力を変化させた場合の正規化電力特性を示している。Prefの上昇で正規化電力が全体的に小さくなってくることがわかる。このように、参照電力の増減により平均電力とPARのトレードオフが可能となる。比較的特性の良いパワーアンプを用いる場合は、Prefを低く設定するなど、このパラメータを増減させることで簡単に特性を設定することができる。
図14は平均電カー定の条件の下で,βによる正規化電力の特性の変化を示したものである。図14中のA,B,C,Dは、図12におけるA,B,C,Dを示している。A,B点などの平均電力が低いところでは、βが大きいほどやや特性が良いことを示している。この2つの点ではβ=6以上でもこれ以上は改善されない。C点ではβ=20とした場合にβ=6よりもさらに良好な特性を得ることができる。βが大きいほど変化の激しい波形を見ることになるため、振幅のばらつきを抑える作用が大きいためであると考えられる。しかしながら、D点のように平均電力が大きくなるとβによる影響は見られない。
次に、β=2と表2に示す値を用いて、最も良好なPARについて説明する。
なお、先述したように、16QAMではTCMとの組み合わせを用いることはできないが、比較参考とするためにすべてのビットをシェイピングした結果を示す。また,QAMコンスタレーションの平均電力が1になるように正規化されているとしてrsを表記する。
以下、図15から図19のQAMについてべ一スバンド波形の一例を示す。なお、図15は16QAMのベースバンド波形であり、図16は32QAMのベースバンド波形であり、図17は64QAMのベースバンド波形であり、図18は128QAMのベースバンド波形であり、図19は256QAMのベースバンド波形である。
各図において、左側の図は従来のQAMを示し、右側の図は本発明のによるQAMである。各図において、QAMコンスタレーションの角付近が消去され、原点付近を通る遷移が大幅に減少していることが観察される。
次に、正規化電力特性について示す。
図20にシェイピングを施していないものと、シェイピングを施したものの正規化電力累積分布補関数を示す。図からわかるように、シェイピングを施すことによって,16,64,256QAMの正方形コンスタレーションでは2.5[dB]前後のゲインが得られる。また、32,128QAMの十字形コンスタレーションでは正方形コンスタレーションほどのゲインは見られない。1シンボルあたりの情報ビットが同じもの同士で評価を行うと、16QAM−64QAMで1.6[dB]のゲイン,32QAM−128QAMで1.1[dB],64QAM−256QAMで2.0[dB]のゲインが得られる。
図21にシェイピング符号の拘束長による特性の変化を示す。図から拘束長を大きくしても特性はあまり良くならないことが確認される。
また、図22は64QAMにおいて、multi-dimensionalシェイピングをした際の特性を示す。multi-dimensionalでは複数のシンボルを一度にシェイピングしなければならないため、コントロール能力が低下し、そのままのrsを用いると、トレリス上のすべてのパスがカットされてしまう。よって、表3に示すようにrsを変化させて対応する。
冗長度を減らせる代わりに、特性が悪化していく様子が観察される。
次に、ピーク電力と平均電力とのトレードオフについて説明する。表1は、参照電力の調整による、ピーク電力と平均電力の削減量のシミュレーション結果を示している。なお、この例は64QAMの例である。
表1のシミュレーション結果は、参照電力Prefの調整によって平均電力の低減とピーク電力の低減の間でトレードオフが可能であることを示している。なお、表中のピーク電力は、上記した累積分布補関数F(x)において、F(x)=10−6を満たす正規化電力xを表している。
Prefが小さい領域では、平均電力が著しく低下するのに対して、ピーク電力はシェイピングなしの場合よりも大きくなる。一方、Prefが大きい領域では、平均電力は1を上回る程度であるにもかかわらず、ピーク電力の大きな削減が可能である。また、Pref=0.7付近では、平均電力とピーク電力を共に削減することができる。
また、図23に伝送レート(通信路容量)に対するピーク電力を示す。図23によれば、従来技術(図中の“×”印、“□”印、“△”印で示す)と比較して、伝送レート(通信路容量)に対するピーク電力の低下量が向上していることを示している。
次に、メモリの付加について説明する。2つのメモリ(合計で3つのメモリ)を付加することでより正確な部分波形が得られる。
図24は256QAMにおいて、メモリ数を増やしたときの特性の変化を示している。α=0.4の場合、メモリが多い方がやや曲線が急峻になり、3.6[dB]付近までは劣っているが、それ以降は逆転し良好となる。また、α=0、1の場合は,6.2[dB]付近で逆転することを示している。
また、256QAMに対して、前後2つのシンボルを考慮して求めた波形を用いた場合には、表5に示すように、ピーク電力を低減させることができる。
次に、AWGN通信路におけるBER特性について説明する。図25にAWGN通信路におけるBER特性を示す。
前記したように、3回集合分割が行われる場合には、漸近的に64QAMが16QAMの誤り率を下回る。これに対して、図26に示す1ビット目がそのまま出力される符号化器を用いた場合には、集合分割は実質2回しか行われない。したがって、この64QAMは従来の16QAMと同じMSEDを持つ。シミュレーション結果から、本発明の64QAMは従来の16QAMに漸近していくことが観察される。誤り率10−5においても,64QAMの方がやや悪い程度である。
本例は、最も単純なTCMを用いたシミュレーションの場合であるが、状態数の多いTCMを使うことによって16QAMを上回ることも想定される。また、PAR特性はやや悪くなるが,Prefを下げて平均電力も低減できるようにすれば、MSEDの上昇によるBERの改善が可能である。
次に、MAP復号を用いた場合について説明する。
図27に示す図は、計算機シミュレーションによる測定によって態遷移確率行列を求め、N0は受信側で正確に推定できるという仮定のもとで求めたBER特性である。大きな改善は見られないが、Eb/N0の増加でゲインが小さくなっていくことが観察される。これは式(19)において、N0が小さくなるとP(sm)に対する依存度が低くなると考えられる。しかし、64QAMの場合,7[dB]付近では1[dB]ほどのゲインが存在している。つまり、低いSN比において特性曲線が大きく変化するような強力な符号を用いれば、最終的に1[dB]ほどのゲインが生じると予想される。