発明の背景
発明の分野
本発明は、式X−YまたはY−X(式中、Xは第1の免疫調節ポリペプチドを表し、かつ、YはXとは異なる第2の免疫調節ポリペプチドを表す)を有する新規融合タンパク質に関する。本発明はまた、このような融合タンパク質をコードする核酸分子およびこのような核酸分子を含んでなるベクターにも関する。本発明はまた、このような核酸分子またはこのようなベクターを含んでなる感染性ウイルス粒子および宿主細胞、ならびにこのような感染性ウイルス粒子を生産するため生産するための方法にも関する。最後に、本発明はまた、このような融合タンパク質、核酸分子、ベクター、感染性ウイルス粒子および宿主細胞を含んでなる医薬組成物、ならびにその治療上の使用も提供する。
本発明は、遺伝子療法および免疫療法の分野において、特に、癌および感染症(細菌およびウイルス感染)を含む種々の疾患の治療または予防に特に有用である。
背景技術
大まかに言えば、宿主の免疫応答は2つのカテゴリー:非特異的(すなわち、先天性)免疫応答および特異的(すなわち、適応的または後天性)免疫応答に分類される。これらの違いは、特異的免疫応答が特定の抗原に対して高度に特異的である一方で、非特異的応答が特定の病原体/抗原に対する反復曝露に依存しないことにある。免疫系を制御するネットワークは、免疫細胞の機能をオンおよびオフにするとともに、それらの増殖を調節し、かつ、免疫応答の大きさを制御する分泌タンパク質(例えば、サイトカイン)に依存する。具体的に言えば、2種類のリンパ球−−B細胞およびT細胞−−が特異的免疫の中核を成している。抗原によって誘導され、B細胞は分裂し、娘細胞が抗体分子を合成し、それを分泌する(体液性免疫)。T細胞の活性化は、とりわけ、非自己抗原を有する標的細胞(例えば、感染細胞または腫瘍性細胞)を特異的に排除する細胞傷害性Tリンパ球(CTL)により媒介される細胞性免疫の発生を伴う。特異的(すなわち、適応的)免疫応答の活性化は、数多くのサイトカインによって調節されている。とりわけ注目すべきは、インターロイキン(IL)−1、IL−2、IL−6、IL−7、IL−15およびインターフェロンγ(IFNg)である。他方、非特異的(先天性)応答には、ナチュラルキラー(NK)細胞、ナチュラルキラーT細胞(NKT)、樹状細胞(DC)およびマクロファージをはじめとする様々な種類の免疫細胞が関係しており、とりわけ、IL−2、IL−12、IL−15、IL−18およびIL−21のようなサイトカインの分泌によって媒介される。しかしながら、実際には、in vivoでの病原体および腫瘍の排除が両方のタイプの免疫応答の協調に伴って生じる可能性が高いため、特異的免疫応答と非特異的免疫応答の厳密な区別はある部分任意なものである。また、特異的エフェクターは、サイトカインシグナル伝達経路を通じて、非特異的エフェクターの誘導および活性化において重要な役割を果たし得るし、またその逆もそうである。例えば、NKT細胞の1つの顕著な特性が、T細胞受容体連結を受けて大量のサイトカインを迅速に産生するそれらの能力であり、これにより、活性化NKT細胞が特異的免疫応答も調整し得ることが示唆される。免疫応答、免疫エフェクター細胞および免疫メディエーターの一般的な考察については、例えば、最新版“Encyclopedia of Immunology”(Ivan Roitt and Peter Delves編; Academic Press Limited)および“Fundamental Immunology(例えば、第2版, W. Paul編; Raven Press)を参照。
癌が細胞増殖の制御の喪失によって生じる多段階プロセスであることは、一般的に認められている。腫瘍関連抗原(TAA)の悪性表現型の発現への関与を裏付ける多数の詳細な研究が存在している。これらの抗原としては、癌遺伝子産物(例えば、p53、ras、neu、erb)、再活性化胚遺伝子産物(例えば、P815肥満細胞種に見られるP91A)、修飾自己抗原(例えば、高度にグリコシル化されたMUC−1)、発癌性ウイルス遺伝子(例えば、乳頭腫ウイルスの早期抗原)および他の種々のものが挙げられる。腫瘍細胞の認識および排除において作用する機構に関しては、Tリンパ球が腫瘍拒絶への特異性の付与において重要な役割を果たすことが分かっている。特に、CD8+細胞傷害性Tリンパ球(CTL)は、特異的腫瘍抗原を認識するための重要なエフェクター細胞であることが確認されている。CTLは、腫瘍抗原に前感作された後初めて、かつ、MHCクラスI遺伝子産物によってそれが細胞表面に提示される場合にだけ、腫瘍を死滅させ得る。多くの場合、抗腫瘍反応の誘導は、CD4+T細胞の存在にも依存している。このような特異的免疫エフェクター細胞である他、NK細胞、および抗原に依存せず、かつ、MHCに限定されない方法で腫瘍細胞を溶解し得る、NKTおよびマクロファージのような他の非特異的エフェクター細胞の腫瘍拒絶においてもその役割が確認された。
腫瘍関連抗原の大部分が患者の免疫系と豊富な殺腫瘍免疫機構により異物として認識され得るという事実に関わらず、ほとんどの癌は悪性細胞の増殖を制御するのに十分な免疫応答を引き起こさない。腫瘍細胞は、腫瘍細胞による抗原提示の減退によるか、または患者の免疫性の全身的な低下によりそれらが宿主免疫から免れるいくつかの機構を発達させている。CTLによる異種抗原の認識には細胞表面でのMHCクラスI決定基の発現が必須であるため、MHCクラスI抗原の発現抑制または不全が、腫瘍細胞が免疫系を回避するために利用する、報告されている機構の1つである(Tanaka et al., 1988, Ann. Rev. Immunol. 6, 359-380)。免疫アネルギーのもう1つの機構は、腫瘍抗原の脱落を伴い、その結果として、免疫細胞の腫瘍標的細胞自体との相互作用を妨げる。さらに、腫瘍は免疫抑制分子を活性化して、腫瘍抗原に対する免疫応答の強度を弱め得るか、または免疫エフェクター細胞のアポトーシスを促進し得る。例えば、ある状況では、IL−2が末梢寛容の維持において重要な役割を有している可能性がある。活性化誘発性細胞死(AICD)におけるその極めて重要な役割により、IL−2を含有する腫瘍ワクチンを受けて生じたT細胞は、腫瘍細胞を自己として解釈し、腫瘍反応性T細胞はAICD誘導性アポトーシスによって死滅に至ることがある(Lenardo, 1996, J. Exp. Med. 183, 721-724)。さらに、IL−2は、CD4+CD25+陰性制御性T細胞を維持し、CD8+記憶T細胞の存続を終わらせることが報告されている(Shevach, 2000, Ann. Rev. Immunol. 18, 423-449)。
数多くの研究により、免疫療法エフェクター機構の増強における腫瘍特異的CD4(+)細胞の重要な役割が報告されている。しかしながら、このようなCD4(+)T細胞の慢性刺激は、多くの場合、FasおよびFasリガンド両方のアップレギュレーションを引き起こし、これらの分子の同時発現によって活性化誘発性細胞死(AICD)が起こり、その後に抗腫瘍反応の消失をもたらす可能性がある。これに対し、AICD耐性は、T細胞エフェクター活性を大幅に高める(Saff et al. 2004, J. Immunol. 172, 6598-6606)。
数多くのこれまでのアプローチでは、サイトカインを使用して、宿主の免疫性を高め、その結果として、腫瘍による免疫アネルギー状態を克服した。例えば、ヒトIL−2(プロリュウキン)は、進行期転移性癌の認可済み治療薬である。しかしながら、サイトカインの全身投与は、患者には耐えにくいことが多く、しばしば、悪心、骨痛および発熱をはじめとする数多くの副作用を伴う(Mire-Sluis, 1993, TIBTech vol. 11; Moore, 1991, Ann Rev Immunol. 9, 159-191)。これらの問題は、有効な血漿濃度の維持に必要な用量レベルによって悪化する。ウイルスベクターおよび細胞ビヒクルを用いたサイトカインの送達により、全身毒性が低減することが提示されている。
種々のサイトカインを放出する、遺伝子操作腫瘍細胞が、腫瘍免疫原性を高め、既存腫瘍の退縮を引き起こすことが証明されている。IL−2(Karp et al., 1993, J. Immunol. 150, 896-908)、αインターフェロン(IFNa)(Porgador et al., 1993, J. Immunol. 150, 1458-1470)またはGM−CSF(Dranoff et al., 1993, PNAS 90, 3539-3543)を分泌するよう改変された腫瘍細胞による免疫が、腫瘍免疫原性を高め、既存腫瘍の退縮を引き起こすことが証明されている。場合によっては、免疫学的記憶が形成されており、操作していない親腫瘍細胞によるその後の攻撃に耐える。さらに、サイトカイン遺伝子導入腫瘍は、in vivoで、一般に、動物モデルにおいて腫瘍の崩壊をもたらす炎症性滲出液を取り込み得る。サイトカインを分泌する腫瘍細胞で処置した、確立された新生物を有する実験動物および少数の患者は、ほとんどの場合、最終的には腫瘍増殖が再び起こるが、長期間生き延びた。
T細胞エピトープの提示を増強する目的で、または腫瘍特異的Tリンパ球の活性化を強化する目的で、種々のサイトカインおよびケモカインをコードする遺伝子を有するベクターの固形腫瘍への直接注射も試みられた。γインターフェロン(IFN−g)、IL−2(Slos et al., 2001, Cancer Gene Ther. 8, 321-332)、IL−7(Miller et al., 2000, Human Gene Therapy 11(1), 53-65; Sharma et al., 1996, Cancer Gene Therapy 3, 302-313)、IL−12(Melero et al., 2001, Trends Immunol. 22, 113-115)、IL−15(Suzuki et al., 2001, J. Leukoc. Biol. 69, 531-537; Kimura et al., 1999, Eur. J. Immunol. 29, 1532-1542)、IL−18(Cao et al., 1999, FASEB J. 13, 2195-2202)およびIL−21(Ugai et al., 2003, Cancer Gene Therapy 10, 187-192)をはじめとする多くのサイトカインは、マウスにおいて著しい抗腫瘍活性を示した。例えば、IL−7を発現するアデノウイルスにより形質導入された樹状細胞の腫瘍内注射により、ネズミ肺癌モデルにおいて著しい全身免疫応答が誘導され、強力な抗腫瘍効果がもたらされた(Miller et al., 2000, Hum Gene Ther. 11, 53-65)。
最近になって、マウス腫瘍モデルおよびヒト腫瘍モデルに関する多くの研究で、最適免疫応答の発生におけるサイトカインの組合せの重要性が示された(例えば、Putzer et al., 1997, Proc Natl Acad Sci U S A. 94, 10889-10894; Melero et al., 2001, Trends Immunol. 22, 113-115; Zhu et al., 2001, Cancer Res. 61, 3725-3734参照)。例えば、IL−12とTh1誘導型IL−18との組合せが細胞性免疫応答の刺激に有用であることが分かった(Hashimoto et al., 1999, J. Immunol. 163, 583-589; Barbulescu et al., 1998, J. Immunol. 160, 3642-3647)。IL−2とIFNgは、腫瘍細胞増殖を阻害すべく協力することが証明されている(米国特許第5,082,658号)。最近になって、IL−21がヒトNK細胞およびT細胞におけるIFNgの増産においてIL−15またはIL−18の効果に相乗作用を与えることが記載された(Strengell et al., 2003, J. Immunol., 170, 5464-5469)。IL−4とGM−CSFの組合せは、DCの刺激において特に有用である(Palucka et al., 1998, J. Immunol. 160, 4587-4595)。他の研究では、IL−3とIL−11の組合せがIL−12と合わさり、初期造血前駆細胞の増殖への相乗作用を示すことが見出された(Trinchieri et al., 1994, Blood 84, 4008-4027)。Grahamらは、2つのアデノウイルスの組合せ、IL−2をコードするものと他のIL−12をコードするもう1つのものを開発した(Addison et al., 1998, Gene Ther. 5, 1400-1409)。彼らによって、確立された乳癌の60%を超えるもので全な退縮と強力な抗腫瘍CTL活性の誘導が観察された。最近のデータにより、ヒト肺癌細胞の二重トランスフェクション後、IL−15がIL−12に相乗作用を与え得ることも示されている(Di Carlo et al., 2000, J. Immunol. 165, 3111-3118)。また、IL−18はIFNgの強力なインデューサーであることも確認され、重要なことには、IL−18はIL−12受容体の発現をアップレギュレートする(Nakanishi et al., 2001, Ann. Rev. Immunol. 19, 423-474)。報告されている免疫抗原性が低い腫瘍(MCA205)では、主としてNK細胞によって媒介される抗腫瘍効果に関し、はっきりとした相乗効果がこれら2つのサイトカイン間に認められた。
しかしながら、これらの研究の多くでは、各サイトカインの相対レベルが極めて重要であることが判明した。例えば、マウスにおける抗腫瘍反応の発生に関するIL−12と他のサイトカイン間の相乗効果研究では、結論が一致しなかった。最適量より低いIL−2の存在下でIL−12を添加した場合には、誘導、増殖、細胞溶解活性およびIFNg誘導において相乗効果がもたらされたが、一方のサイトカインを高用量で用いたIL−2とIL−12の組合せでは、拮抗性を示すことが判明した(Perussia et al., 1992, J Immunol. 149, 3495-3502; Mehrotra et al., 1993, J Immunol. 151, 2444-2452)。一部のモデルでは、一方のサイトカインに対してもう一方のものが非最適用量である場合には、毒性が高まることとなり、他のモデルでは、IL−12とIL−2の組合せによって、ほとんどまたは全く相乗効果を示さなかった(例えば、Nastala et al., 1994, J. Immunol. 153, 1697-1706)。IL−12とIL−7の組合せでも同様の状況が起こる。これらの結果は、特に、異なる薬理学的特性、例えば、異なる循環半減期および生体内分布を有する2つの成分の活性比を一定に維持することが必要である場合には、相乗作用する可能性のある2つのサイトカインをin vivoで組み合わせることが難しいということを示している。
サイトカイン組合せに内在する困難を減らすための1つの戦略が、サイトカインの融合である。2つのサイトカインの融合については、すでに文献で提示されている。例えば、WO01/10912は、IL−12自身の薬物動態挙動と同様の長い薬物動態挙動を提供することを目的とした、IL−12と半減期の短い第2のサイトカインとの融合を記載している。特に、IL−12とIL−2、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)またはIL−4のいずれかとの融合が開示されている。米国特許第5,883,320号およびWO92/04455は、造血細胞のレベル低下を伴う疾患の治療において使用し得る、IL−3と第2のサイトカインとの融合を開示している。IL−3とIL−11との融合は、巨核球および血小板の産生を促すのに有用であることが分かった。Drexler et al. (1998, Leuk Lymphoma 29, 119-128)は、GM−CSFとIL−3の融合を記載している。最後に、米国特許第6,261,550号は、血液生成を増進する、例えば、癌患者における化学療法または放射線療法が原因で起こる造血欠損を補償することを目的とした、G−CSFのサイトカインとの融合を構想している。
ヒト腫瘍に対して有効な分子の開発は、念願の目標であり、まだ実現されていない。以上のことを踏まえて、免疫応答を引き起こし、腫瘍免疫抑制を回避し得るサイトカイン融合物の必要性が残る。
このような技術上の問題は、特許請求の範囲において定義される態様を提供することによって解決される。
本発明は、宿主生物体において免疫応答、特に、特異的免疫応答と非特異的免疫応答を増強するのに有用である新規融合タンパク質を提供する。結果として生じる応答は、病原体または癌細胞によって誘導される免疫抑制またはアネルギー機構を無効にするのに有用である。これらの融合タンパク質またはそれらを発現するベクターは、急性もしくは慢性感染または癌のような種々の臨床症状から動物またはヒトを防御するのに使用され得る。本発明は、それらをコードするアデノウイルスベクターの種々の動物モデルへの腫瘍内送達後に高い腫瘍拒絶率を提供する融合タンパク質を示し、重要な免疫刺激についての証拠を提供する。本発明によれば、これらの融合タンパク質またはそれらのコード配列は、ヒトおよび他の哺乳動物における癌または感染症の予防および治療において、免疫アジュバントとして(例えば、1以上の免疫原と組み合わせて)ワクチン技術にも使用し得るし、または自殺遺伝子アプローチと組み合わせても使用し得る。
よって、第1の態様において、本発明は、下記式を有する新規融合タンパク質を提供する:
(a)X−Y、または
(b)Y−X
[式中、
Xは第1の免疫調節ポリペプチドを表し、
Yは第2の免疫調節ポリペプチドを表し、かつ、
XはYと異なる]。
融合タンパク質をコードするアデノウイルスベクターを作製するための構築工程の概略図を例示する。
T細胞共刺激の測定によるIL−2含有融合タンパク質の機能性のin vitroでの評価を例示する。「Spleno」は脾細胞を表し、「ConA」はコンカナバリンAにより活性化した脾細胞を表し、「抗CD3」はネズミCD3特異的抗体により活性化した脾細胞を表し、そして、「1/2」および「1/10」はこのアッセイに使用したウイルス上清の希釈度を表す。「エンプティーAd」は融合物をコードする配列を含有していない陰性対照を表す。
プロB−2E8リンパ芽球細胞増殖の測定によるIL−7含有融合タンパク質の機能性のin vitroでの評価を例示する。「rMu IL−7」は組換えネズミIL−7(1〜500ng/ml)を表し、「p」は純粋なウイルス上清を表し、そして、「1/2」および「1/10」はこのアッセイに使用したウイルス上清の希釈度を表す。
ConAで予め活性化したネズミ脾細胞(コンカナバリンA 10μg/ml;24時間)によるIFN−g分泌誘導の測定によるIL−18含有融合タンパク質の機能性のin vitroでの評価を例示する。IFN−gの産生はELISA法により評価される。「1/20」および「1/50」はこのアッセイに使用したウイルス上清の希釈度を表す。ここでのIL−18はプロIL−18を表す。
脾細胞のin vitroでの活性化を例示する。ConA活性化(10μg/ml)または非活性化脾細胞における、20ng/mlのmプロIL−18(K89A)、mIL−2+mプロIL−18(K89A)の組合せ、mIL−2/成熟IL−18(Ad−mIL−2/IL−18)、mIL−2/成熟IL−18(K89A)(Ad−mIL−2/IL−18*)、mIL−2/プロIL−18およびmIL−2/プロIL−18(K89A)を含有するA549上清によるIFNg分泌誘導の解析。陰性対照として、対照ウイルスに感染したA549細胞の上清を使用した。これらの結果は、同様の結果を示した異なる3試験のものである。IL−18*はIL−18(K89A)を表す。
融合サイトカインの全身毒性および細胞傷害性のin vivoでの解析を例示する。マウスの、2.109iuのエンプティーAd(a)、Ad−mIL−2(b)、Ad−mプロIL−18(K89A)(c)、Ad−mIL−2+Ad−mプロIL−18(K89A)の組合せ(b+c)、Ad−mIL−2/成熟IL−18(K89A)(d)およびAd−mIL−2/プロIL−18(K89A)(e)でのi.v.処置により誘発されたVLS症候群の評価。
MVA−E7との併用でのAd−mIL−2/プロIL−18(K89A)の免疫アジュバント効果を例示する。前述のとおり、*は突然変異(K89A)を表す。
MVA−FCU1との併用でのAd−mIL−2/プロIL−18(K89A)の免疫アジュバント効果を例示する。前述のとおり、*は突然変異(K89A)を表す。
B16F10腫瘍を有するマウスにおけるIL−15含有融合物を発現するAdの3回の腫瘍内注射後の抗腫瘍活性を例示する。G1は導入遺伝子を発現しないAdベクターでの処置であり(Adエンプティー)、G2はそのN末端にIL−2シグナルペプチドを備えた成熟ネズミIL−15サイトカインを発現するAdベクターでの処置であり(Ad−mIL−15)、G6はそのN末端にIL−2シグナルペプチドを備えた成熟ネズミIL−15サイトカインとネズミIL−7の融合物を発現するAdベクターでの処置である(Ad−mIL−15/mIL−7)。G7はネズミIL−21サイトカインと成熟ネズミIL−15の融合物を発現するAdベクターでの処置である(Ad−mIL−21/mIL−15)。G10はそのN末端にIL−2シグナルペプチドを備えた成熟ネズミIL−15サイトカインとネズミプロIL−18変異体K89Aの融合物を発現するAdベクターでの処置である(Ad−mIL−15/プロIL−18*)。
B16F10腫瘍を有するマウスにおける新規改良型IL−15をコードするアデノウイルスの腫瘍内注射を示す。G1は導入遺伝子を発現しないAdベクターでの処置であり(Ad参照)、G2はそのN末端にIL−2シグナルペプチドを備えた成熟ネズミIL−15サイトカインを発現するAdベクターでの処置である(Ad−mIL−15またはAd−spil2−IL−15)。G3はそのN末端にIgGκ軽鎖シグナルペプチドを備えた成熟ネズミIL−15サイトカインを発現するAdベクターでの処置である(Ad−spvKL−IL−15)。G4は内因性長鎖型シグナルペプチドを備えた成熟ネズミIL−15サイトカインを発現するAdベクターでの処置である(Ad−spLSP−IL−15)。G5は内因性短鎖型シグナルペプチドとスプライスを備えた成熟ネズミIL−15サイトカインを発現するAdベクターでの処置である(Ad−spLSP−IL−15 スプライス)。
発明の具体的説明
出願全体を通じて本明細書において使用する「1つの」とは、特に断りのない限り、それが「少なくとも1つの」、「少なくとも最初の」、「1以上の」または「複数の」記載の化合物または工程を意味するという意味で用いる。例えば、「1つの細胞」とは、その混合物を含む複数の細胞を含む。
「および/または」とは、本明細書のどこで使用されようとも、「および」、「または」および「前記用語で結ばれた要素の総てまたは他のあらゆる組合せ」という意味を含む。
本明細書において「約」または「およそ」とは、指定した値または範囲の20%以内、好ましくは、10%以内、より好ましくは、5%以内を意味する。
本明細書において、産物、組成物および方法の定義に使用する際の、「含んでなる」とは、その産物、組成物および方法が記載の成分または工程を含み、他のものを除外することではないことを意味するものとする。「から本質的になる」とは、本質的に重要なもの以外の成分または工程を除外することを意味するものである。よって、列挙した成分から本質的になる組成物は、微量混入物質や医薬上許容される担体を除外するものではない。「からなる」とは、他の成分または工程の微量ではない要素を除外することを意味するものである。
「ポリペプチド」または「タンパク質」とは、本明細書において互換的に、あらゆる長さのアミノ酸、好ましくは、少なくとも50アミノ酸残基の重合体を指すために用いる。重合体は、直鎖または分枝重合体であってよく、改変アミノ酸を含んでなってよく、非アミノ酸が介在していてもよい。この用語は、部分的置換もしくは付加によるか、または当技術分野では周知の化学修飾技術により1以上のアミノ酸残基において改変されているアミノ酸重合体も包含する。例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、水酸化、ヨウ素化、メチル化、アセチル化、アシル化、γカルボキシル化、リン酸化、タンパク質分解プロセシングまたは検出可能な部分(すなわち、シンチグラフィー用標識、放射性標識、蛍光標識または色素標識など)とのコンジュゲーションもしくは結合のような他のいずれの操作も本発明の範囲内に含まれる。好適な放射性標識としては、限定されるものではないが、99mTc、123Iおよび111Inが挙げられる。本発明において、「アミノ酸」および「残基」とは、同義語である。それらは、DまたはL光学異性体、改変アミノ酸およびアミノ酸類似体を含む天然、非天然および/または合成アミノ酸を包含する。
本明細書において「融合」または「融合タンパク質」または「融合サイトカイン」とは、1ポリペプチド鎖における、好ましくは、対応するヌクレオチドコード配列のインフレーム融合による第1のポリペプチドのアミノ酸配列と第2のポリペプチドのアミノ酸配列の組合せを指す。本発明の融合タンパク質において結び付けられるX構成要素とY構成要素は、通常、自然界において、別々のタンパク質に存在するものである。本発明の融合タンパク質において、第1のポリペプチドのコード配列(X)は、第2のポリペプチドのコード配列(Y)とインフレームで、直接またはリンカーを介して融合される。「インフレームで融合される」とは、融合されたコード配列の発現によって、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドの両方を含んでなる融合タンパク質が生じることを意味する。これは、例えば、XポリペプチドとYポリペプチドのリーディングフレーム間に翻訳終止配列が存在しないことを意味する。たとえX構成要素とY構成要素との融合が内部のどの部位でも起こり得るとしても、Y構成要素は、好ましくは、X構成要素のCOOHまたはNH2末端のいずれかと融合される(その結果、それぞれ、式X−YおよびY−Xの融合物が生じる)。本明細書において、「直接に」とは、ペプチドリンカーを介してないポリペプチドXとYの融合物を指す(すなわち、X構成要素をコードするコドンがY構成要素をコードするコドンに隣接している)。さらに、融合タンパク質は、X、Yおよびリンカーとは別の、イニシエーターメチオニン、シグナルペプチドおよび/またはプロペプチドのようなさらなる要素も含み得る。XおよびY、所望により、リンカーから本質的になるまたはからなる融合タンパク質は、本発明において好ましい態様である。
本明細書において「免疫調節ポリペプチド」とは、動物またはヒト生物体において免疫応答を調節し得るポリペプチドを指す。「免疫応答の調節」とは、免疫応答に関与する免疫エフェクター細胞またはメディエーター分子の活性を調整することを指す。「調節する」とは、免疫応答の増強または減弱を指し得るが、特に増強を指す。本明細書において「増強」とは、1以上の免疫エフェクター細胞の活性化、分化、成熟および/もしくは増殖を誘導し、かつ/または好適な免疫メディエーターの産生を誘導し、かつ/または抗原提示の増加をもたらし、かつ/または臨床的利益の発現(例えば、腫瘍増殖の阻害、腫瘍退縮)をもたらす免疫応答の発生を誘導し、かつ/またはその大きさおよびその期間を調整することを指す。免疫応答の調節は、当技術分野で公知の方法、ならびに本明細書において開示されている方法を用いて判定することができる。
本発明の融合タンパク質は、その融合タンパク質の添加によって認められる免疫応答(特異的免疫応答、非特異的免疫応答を問わず)が、その添加を行わないで測定した同じ免疫応答と比べて大きいか、または多少なりとも強化されているときに免疫応答を「増強する」。好ましくは、本発明の融合タンパク質によって提供される免疫応答の増強により病状の改善がもたらされる。本発明の融合ポリペプチドの免疫応答増強能力は、当技術分野で標準的な種々のアッセイを使用してin vitroまたはin vivo のいずれかで評価することができる。免疫応答(特異的免疫応答、非特異的免疫応答を問わず)の発生および活性化を評価するのに利用可能な技術の概要については、例えば、Coligan et al.(引用することにより本明細書の一部とされる、1992および1994, Current Protocols in Immunology; ed J Wiley & Sons Inc, National Institute of Health)参照。本発明の融合タンパク質の試験および検証については、添付の実施例節でも示している。好適なアッセイとしては、限定されるものではないが、特定のタイプの免疫エフェクター細胞の活性化状態の判定、このような細胞の増殖速度、細胞表面マーカーの定量、好適な腫瘍または標的細胞への免疫エフェクター細胞の溶解活性、活性化されたエフェクター細胞により分泌されたサイトカイン発現プロフィールの測定が挙げられる。免疫応答の評価を行うのに好適な方法は一般的であり、これらの方法としては、とりわけ、ELISA法、免疫蛍光測定法、ウエスタンブロッティング法、免疫組織化学、組織学、フローサイトメトリー(FACS)法が挙げられる。例えば、T細胞増殖は、例えば、古典的な[3H]チミジン取り込みアッセイによって測定することができる。もう1つの例として、融合タンパク質を使用した場合と使用しない場合の細胞傷害性T細胞の溶解活性を、例えば、51Cr放出アッセイを使用して測定してもよい。ナイーブ免疫エフェクター細胞と活性化された免疫エフェクター細胞とは、特異的細胞表面マーカーの同定によっても識別することができる。例えば、未熟またはナイーブT細胞は、それらのT細胞の、CD45RAとして知られる高分子量イソ型CD45分子の発現によって同定され得る。成熟T細胞は、CD45ROとして知られる低分子量イソ型CD45を発現する。CD80、CD86およびMHCII−Iabのアップレギュレーションは、樹状細胞の成熟を反映している。CD8の存在が、活性化されたCTLのマーカーとなる。他の有益なマーカー種またはこれらの免疫細胞の成熟/活性化状態は、当技術分野で公知である。適切には、好適な動物モデルで候補融合タンパク質を試験し、免疫応答の増強を反映するその抗腫瘍活性を評価してもよい。例えば、融合タンパク質を腫瘍動物モデルに投与し、その腫瘍増殖および/または生存率を定期的に対照との比較により評価する。腫瘍阻害を判定するためのin vivo方法の他、種々のin vitro方法を利用してin vivoでの腫瘍阻害を予測してもよい。代表的な例としては、例えば、51Cr放出アッセイにより測定されるリンパ球媒介性抗腫瘍細胞溶解活性、腫瘍依存性リンパ球増殖(Ioannides et al., 1991, J. Immunol. 146, 1700-1707)、in vitroでの腫瘍特異的抗体の作製(Herlyn et al., 1984, J. Immunol. Meth. 73, 157-167)、in vitroでの細胞増殖の細胞(例えば、CTL、ヘルパーT細胞)または体液(例えば、抗体)媒介性阻害(Gazit et al., 1992, Cancer Immunol. Immunother. 35; 135-144)および細胞前駆体頻度の測定(Vose, 1982, Int. J. Cancer 30, 135-142)が挙げられる。
好ましい態様では、本発明の融合タンパク質が、前記融合タンパク質を添加しない場合のその対応する免疫応答と比べて、少なくとも2倍、より好ましくは、少なくとも3倍の免疫応答の増強を提供する。
本発明に包含される融合タンパク質は、XおよびYの特性によっても融合タンパク質に使用されるX構成要素数および/またはY構成要素数によっても制限されない。XポリペプチドとYポリペプチドは異なっている、すなわち、互いに異種である。その違いは、構造面(例えば、それぞれのアミノ酸配列間の同一性は40%未満)および/またはそれぞれの生物活性面(例えば、XおよびYは免疫系の異なる経路に関与する)にあり得る。本発明の融合タンパク質に関与するX構成要素とY構成要素は、個々に、ヒトまたは動物起源(例えば、イヌ、鳥類、ウシ、ネズミ、ヒツジ、ブタ、ネコ、サルなど)に由来し(から得られ、から単離され)得る。融合タンパク質は、異なる起源のX構成要素とY構成要素(例えば、ヒト起源のXと動物起源のY)を含んでなってもよい。
好ましい態様では、Xは、特異的免疫応答を増強し得る免疫調節ポリペプチドを表し、一方、Yは、非特異的免疫応答を増強し得る免疫調節ポリペプチドを表す。
好ましい態様によれば、上記式のX免疫調節ポリペプチドおよびY免疫調節ポリペプチドは、各々、サイトカインを表す。本明細書において、「サイトカイン」とは、一般に、特異的および/または非特異的である免疫のメディエーターとしての役割を果たすポリペプチドを指す。当然のことではあるが、本発明は、宿主細胞または生物体において免疫応答を誘導し得るか、または増強し得、その結果として、腫瘍または感染細胞によって発達した免疫アネルギーの少なくとも1つの機構を低下させるか、または抑制して、宿主免疫から免れさせる「多機能性」融合サイトカインを提供することを目的とする。
本発明の一般目標に従って、Xは、好ましくは、非特異的(先天性)免疫応答、特に、マクロファージ、樹状細胞、NK細胞およびNKT細胞からなる群から選択される1以上のエフェクター細胞によって媒介される免疫応答を増強し得るサイトカインを表す。Yは、好ましくは、特異的(適応的)免疫、特に、Bリンパ球および/またはTリンパ球のようなエフェクター細胞(CD4+および/またはCD8+T細胞)によって媒介される免疫応答を増強し得るサイトカインを表す。
Xおよび/またはYの定義によって含まれるサイトカインの非排他的リストとしては、インターロイキン(IL)、インターフェロン(IFN)、ケモカイン、腫瘍壊死因子受容体リガンド(例えば、4−1BBL、OX40L、GITRL)、KIR(死滅抑制性受容体)リガンド、KAR(死滅活性化受容体)リガンド(例えば、Genbank受託番号AF346595にて開示されているRAE−1およびH60;例えば、Diefenbach et al., 2001, Nature 413、165-171; Diefenbach et al., 2003, Eur. J. Immunol. 33、381-391参照)、IRF(IFN制御因子)(例えば、Genbank受託番号NM001571にて開示されているIRF−3、Genbank受託番号U53830にて開示されているIRF−7またはそのキメラ;例えば、Au et al., 1995, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92, 11657-11661; Zhang and Pagano, 1997, Mol. Cell Biol. 17, 5748-5757; Nguyen, et al., 1997, Cytokine Growth Factor Rev. 8, 293-312; Duguay et al., 2002、Cancer Res. 62, 5148-5152; Sharma et al., 2003, Science 300, 1148-1151; Bramson et al., 2003, Vaccine 21, 1363-1370参照)およびB細胞刺激因子が挙げられる。XおよびYとしては、独立に、限定されるものではないが、サイトカインの前駆体、成熟形態、変異体が挙げられ得る。好適なサイトカインとしては、限定されるものではないが、IL−1〜IL−31、ならびにIFNα〜γが挙げられる。当然のことではあるが、これらのサイトカインおよび特定の培地におけるそれらのレベルを定量するのに利用可能方法は、Oppenheim et al.(2001, Cytokine Reference; A compendium of cytokines and other mediators of host defense; Eds Durum et al. Academic Press)のような基本テキストに記載されている。好ましい融合タンパク質は、XおよびYが、独立に、IL−2、IL−7、IL−15、IL−18、IL−21、IL−27、IL−31またはIFNgである融合タンパク質である。好ましくは、XがIL−2である場合にはYがGM−CSFではなく、かつ、XがIL−12である場合にはYがIL−2、GM−CSFまたはIL−4ではない。
IL−2は、特異的免疫においても非特異的免疫においても作用する多面的サイトカインである。20年以上にわたる研究によって、IL−2がT細胞の強力な増殖および分化因子であることが確立された。IL−2は、NK細胞(Caligiuri et al., 1990, J. Exp. Med. 171, 1509-1526)およびいわゆるリンパ球活性化キラー(LAK)細胞(Pawelec et al., 1999, Crit Rev Oncog. 10, 83-127)の細胞溶解活性も促す。IL−2は、IFN−gをはじめとする他のサイトカインの分泌を促進する(Trinchieri et al., 1984, J. Exp. Med. 160, 1147-1169)。IL−2は、強力なB細胞増殖因子活性も示し、単球系細胞も刺激し得る。IL−2は、CD4+T細胞とCD8+T細胞の両方を含む抗原により活性化されたTリンパ球によってのみ産生されると思われる。IL−2は、IL−2受容体(IL−2R)と結合することによりその生物活性を媒介する。そのIL−2受容体は、抗原により活性化されたT細胞で一時的に発現され、続けてNK細胞によって発現される。成熟ヒトIL−2タンパク質は、133個のアミノ酸で構成されている(Taniguchi et al., 1983, Nature 302、305-310)。この成熟タンパク質は、20残基の疎水性リーダー配列(シグナルペプチド)を有する153個のアミノ酸を含有する前駆体として合成され、その20残基の疎水性リーダー配列が分泌前または分泌中に切断されて成熟タンパク質が産生する。IL−2のアミノ酸およびヌクレオチド配列については、現在、31種由来のものがすでに分かっている。例えば、NCBI Genbankにおいて受託番号P01585を受けたヒトIL−2タンパク質の配列。Genbank受託番号NM008366およびNM000586は、それぞれ、マウスおよびヒトIL−2遺伝子配列を記載している(総ての受託番号が引用することにより本明細書の一部とされる)。
IL−7は、T細胞およびB細胞の発生において欠くことのできない役割を果たす。IL−7は、これらの細胞の分化においてもある役割を果たす。IL−7は、未熟T細胞および成熟T細胞の増殖を促し、成熟T細胞の生存および増殖に影響を及ぼし、細胞溶解性T細胞およびそれらの前駆体の増殖およびエフェクター機能を促進する。さらに、IL−7は、末梢血のLAK細胞活性を増強し、単球およびマクロファージの抗腫瘍活性を促し得る。IL−7は、マクロファージおよび腫瘍のTGFβ産生もダウンレギュレートし、その結果として、腫瘍による免疫アネルギーを制限する働きもし得る(Dubinett et al., 1993, J. Immunol. 151, 6670-6680; Miller et al., 1993, Blood 82, 3686-3694)。IL−7は、一本鎖グリコシル化タンパク質であり、その大部分が上皮細胞、特に、ケラチノサイトおよび胸腺上皮細胞によって産生される。ヒトIL−7cDNAは、分泌プロセス中に成熟タンパク質から切断される25個のアミノ酸からなるシグナルペプチドを含む177個のアミノ酸からなるタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含有する。IL−7のDNAおよびアミノ酸配列については、現在、数多くの種由来のものがすでに分かっている(例えば、Namen et al., 1988, J. Exp. Med. 167, 988-1002; Namen et al., 1988, Nature, 333, 571-573; Conlon et al., 1989, Blood 74, 1368-1373参照)。例えば、ヒト、ウシおよびネズミIL−7タンパク質の配列は、それぞれ、GenEMBLにおいて受託番号NP000871、CAA45838およびCAA30779として開示されている。マウスIL−7遺伝子のヌクレオチド配列は、Genbankにおいて受託番号NM008371として入手可能である。ヒトIL−7遺伝子のヌクレオチド配列は、受託番号NM000880として入手可能である。ウシIL−7遺伝子は、受託番号X64540として開示されている(総ての受託番号が引用することにより本明細書の一部とされる)。ヒト(152個のアミノ酸)およびネズミ(127個のアミノ酸)IL−7は、タンパク質レベルにおいて60%配列相同性を示すと考えられる。
IL−2と同様に、IL−15は、特異的免疫においても非特異的免疫においても作用する多面的サイトカインである。ヒトIL−15cDNAは、48個のアミノ酸のリーダーペプチドと114個のアミノ酸の成熟タンパク質からなる162個のアミノ酸の前駆体をコードする(Grabstein et al., 1994, Science 264, 965-968)。IL−15は、IL−2Rβおよびγ鎖と結合することを通じてその生物活性を発揮し、特異的なIL−15Rα鎖によって補強される(Giri et al., 1995, EMBO J. 14, 3654-3663)。受容体サブユニットのこのような共用が、T細胞、B細胞およびNK細胞で認められるIL−2とIL−15の類似した機能活性の説明となるだろう。IL−15は、IL−2と同様に、T細胞増殖因子として定義されている(Grabstein et al., 1994, Science 264, 965-968; Nishimura et al., 1996, J. Immunol. 156, 663-669)。IL−15の最も重要な機能の1つは、NK細胞の発生、生存および活性化におけるその極めて重要な役割である。IL−15によるNK細胞の処置によって増殖および細胞傷害性の増強が起こり、IFN−g、TNFaおよびGM−CSFの産生が生じる(Carson et al., 1994, J. Exp. Med. 180, 1395-1403)。IL−15は、T細胞およびNK細胞における活性だけではなく、IL−2と同様に、活性化B細胞の増殖を共刺激する(Armitage et al., 1995, J. Immunol. 154, 483-490)。IL−15は、CD4+記憶細胞の発生と存続を促す(WO98/36768)。しかしながら、IL−15とIL−2の最も著しい違いは、それらの発現パターンにある。IL−2に対し、IL−15mRNAは、繊維芽細胞および上皮細胞のような種々の非リンパ系組織に広く分布する。他方では、IL−15mRNAは、主要なIL−2供給源である静止または活性化T細胞には存在しない。Grabstein et al.(1994, Science 264, 965-968)は、ヒトIL−15についての配列の獲得に関する開示内容を提供して
いる。Genbank受託番号NM008357およびNM000585は、それぞれマウスIL−15ヌクレオチド配列およびヒトIL−15ヌクレオチド配列を提供する。IL−15アミノ酸配列に関するGenEMBLにおける受託番号は:ヒトタンパク質(P40933)、ネズミタンパク質(P48346)、ラットタンパク質(P97604)およびウシタンパク質(Q28028)である(総ての受託番号が引用することにより本明細書の一部とされる)。
IL−18は、最近発見された、T細胞とNK細胞の両方において重大な免疫調節機能を有しているといわれているTh1サイトカインである(Okamura et al., 1995, Nature 378, 88-91)。特に、IL−18は、T細胞の増殖を増大させ、NK細胞の細胞傷害性を増強し、NK細胞とT細胞の両方からのGM−CSFの分泌を促し、IFN−g産生に関してIL−12に相乗作用を与える(Okamura et al., 1998, Curr Opin Immunol. 10, 259-264)。IL−18は、生物学的に不活性な前駆体分子(プロIL−18)として合成される。活性型IL−18を生じるには、プロ配列が細胞内システインプロテアーゼ、IL−1β変換酵素ICEによってAsp−Xプロセシング部位にて切断されなければならない。IL−18は、一部のネズミ腫瘍系において腫瘍増殖を抑制し得るが、IL−18遺伝子療法単独での定着腫瘍の退縮は立証されていない(Micallef et al., 1997, Cancer Immunol Immunother. 43, 361-367; Osaki et al., 1998, J Immunol. 160, 1742-1749; Osaki et al., 1999, Gene Ther. 6, 808-815; Hashimoto et al., 1999, J Immunol. 163, 583-589)。IL−18分子のDNAおよびタンパク質配列は公開されている(例えば、Okamura et al., 1995, Nature 378, 88-91; Ushio et al., 1996, J. Immunol., 156, 4274-4279参照;マウスIL−18ヌクレオチド配列およびヒトIL−18ヌクレオチド配列それぞれを記載しているGenbank受託番号NM008360およびNM001562、ならびにヒトIL−18タンパク質に関するNP_001553;総ての受託番号が引用することにより本明細書の一部とされる)。
IL−21は、最近同定された、4本ヘリックスバンドル構造を有するサイトカインである(Parrish-Novak et al., 2000, Nature 408, 57-63)。このサイトカインおよびその受容体の発現および機能により、IL−21がリンパ球分化において新たな役割を果たすことが示唆される。IL−21が、あらゆる種類のリンパ球:B細胞、T細胞およびNK細胞に強い影響を及ぼすことが分かった。IL−21の最も興味深い生物活性の1つが、増殖とは関係なく、成熟NK細胞の細胞傷害性を実質的に増強することである。IL−21分子のDNAおよびタンパク質配列は、文献にて開示されている(例えば、Parrish-Novak et al., 2000, Nature 408, 57-63参照;マウスIL−21ヌクレオチド配列およびヒトIL−21ヌクレオチド配列それぞれを記載しているGenbank受託番号NM021782およびNM021803、ならびにヒトIL−21タンパク質に関するNP_065386;総ての受託番号が引用することにより本明細書の一部とされる)。
腫瘍免疫応答の調整において中心的な役割を果たすことが十分に認識されている1つのサイトカインがIFNgである。IFNgは、主として活性化リンパ球により産生され、特異的免疫応答においてその活性を発揮する。これに関し、IFN−gは、プロフェッショナル抗原提示細胞だけでなくノンプロフェッショナル抗原提示細胞においてもMHCクラスI分子の発現を増大させる。IFN−gは、Tリンパ球およびBリンパ球の増殖および分化に関与する。Tヘルパー細胞によるIFNgの産生は、Th1型表現型の特徴である。よって、IFN−gの高レベル産生は、一般に、細胞内病原体からの宿主の効果的な防御と関係している。IFNgは、その抗脈管形成作用と腫瘍から分泌された免疫抑制分子の発現をダウンレギュレートするその能力に基づき、抗腫瘍療法において重要である。IFNgは、腫瘍免疫原性を高めることにより、最終的に、腫瘍特異的細胞傷害性Tリンパ球による腫瘍認識を高め、腫瘍拒絶に有利に働く(Beatty et al., 2001, Immunol Res. 24, 201-10)。IFNg分子のDNAおよびタンパク質配列は、文献にて開示されている(例えば、Gray et al., 1982, Nature 295, 503-508; Gray et al., 1983, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80, 5842-5846参照;マウスIFNg遺伝子配列を記載しているGenbank受託番号K00083およびヒトIFNg遺伝子配列を記載しているGenbank受託番号NM000619、ならびにヒトIFNgタンパク質に関するII01579;総ての受託番号が引用することにより本明細書の一部とされる)。
本発明の好ましい態様において、本発明の融合タンパク質は、
(a)XがIL−2であり、かつ、YがIL−7、IL−15、IL−18、IL−21、IL−27、IL−31およびIFN−gからなる群から選択される融合タンパク質;
(b)XがIL−12であり、かつ、YがIL−15、IL−18およびIL−21からなる群から選択される融合タンパク質;
(c)XがIL−15であり、かつ、YがIL−7、IL−18もしくはIL−21からなる群から選択される融合タンパク質;ならびに
(d)XがIL−18であり、かつ、YがIL−21である融合タンパク質
である。
本発明において、本発明の融合タンパク質に使用されるX構成要素およびY構成要素は、あらゆる種から得られ(から単離され、またはに由来し)得る。天然型ヒトサイトカインまたは生物活性のある改変型ヒトサイトカインのいずれかを使用して得られる融合物が特に好ましい。IL−12に関する場合、IL−12は、35kDaサブユニットと40kDaサブユニットで構成されるヘテロ二量体タンパク質形態で存在する(この場合、Y構成要素が35kDaサブユニットまたは40kDaサブユニットのいずれかと融合される)か、または35kDaサブユニットと40kDaサブユニットがともに一本鎖タンパク質として融合した単量体タンパク質形態(この場合、Y構成要素が35kDa−40kDa融合物と融合される)で存在するとされているが、本発明においてはこの後者のものが好ましい。好ましくは、IL−12構成要素(p35もしくはp40またはp35−p40一本鎖)は、本発明の融合タンパク質のN末端に配置される(例えば、IL−12/IL−15、IL−12/IL−18、IL−12/IL−21)。
本発明の融合タンパク質の最適活性を得るためには融合物の構造が重要であり得る。よって、本発明は、
(a)式Y−X(式中、XはIL−2であり、かつ、YはIL−7である)を有する融合タンパク質(すなわち、ここで、IL−7がIL−2のNH2末端と融合しており、この融合タンパク質はIL−7/IL−2で示される);
(b)式X−Y(式中、XはIL−2であり、かつ、YはIL−15である)を有する融合タンパク質(すなわち、ここで、IL−15がIL−2のCOOH末端と融合しており、この融合タンパク質はIL−2/IL−15で示される)もしくは式Y−X(式中、XはIL−2であり、かつ、YはIL−15である)を有する融合タンパク質(すなわち、ここで、IL−15がIL−2のNH2末端と融合しており、この融合タンパク質はIL−15/IL−2で示される);
(c)式X−Y(式中、XはIL−2であり、かつ、YはIL−18である)を有する融合タンパク質(すなわち、ここで、IL−18がIL−2のCOOH末端と融合しており、この融合タンパク質はIL−2/IL−18で示される);
(d)式Y−X(式中、XはIL−2であり、かつ、YはIL−21である)を有する融合タンパク質(すなわち、ここで、IL−21がIL−2のNH2末端と融合しており、この融合タンパク質はIL−21/IL−2で示される);
(e)式Y−X(式中、XはIL−2であり、かつ、YはIFN−gである)を有する融合タンパク質(すなわち、ここで、IFNgがIL−2のNH2末端と融合しており、この融合タンパク質はIFNg/IL−2で示される);
(f)式X−Y(式中、XはIL−15であり、かつ、YはIL−7である)を有する融合タンパク質(すなわち、ここで、IL−15がIL−7のNH2末端と融合しており、この融合タンパク質はIL−15/IL−7で示される);
(g) 式X−Y(式中、XはIL−15であり、かつ、YはIL−18である)を有する融合タンパク質(すなわち、ここで、IL−18がIL−15のCOOH末端と融合しており、この融合タンパク質はIL−15/IL−18で示される)もしくは式Y−X(式中、XはIL−15であり、かつ、YはIL−18である)を有する融合タンパク質(すなわち、ここで、IL−18がIL−15のNH2末端と融合しており、この融合タンパク質はIL−18/IL−15で示される);
(h)式X−Y(式中、XはIL−15であり、かつ、YはIL−21である)を有する融合タンパク質(すなわち、ここで、IL−21がIL−15のCOOH末端と融合しており、この融合タンパク質はIL−15/IL−21で示される)もしくは式Y−X(式中、XはIL−15であり、かつ、YはIL−21である)を有する融合タンパク質(すなわち、ここで、IL−21がIL−15のNH2末端と融合しており、この融合タンパク質はIL−21/IL−15で示される);または
(i)式X−Y(式中、XはIL−18であり、かつ、YはIL−21である)を有する融合タンパク質(すなわち、ここで、IL−21がIL−18のCOOH末端と融合しており、この融合タンパク質はIL−18/IL−21と示される)もしくは式Y−X(式中、XはIL−18であり、かつ、YはIL−21である)を有する融合タンパク質(すなわち、ここで、IL−21がIL−18のNH2末端と融合しており、この融合タンパク質はIL−21/IL−18で示される)
を含んでなる、あるいはから本質的になる、あるいはからなる融合タンパク質を提供する。
以上に記載するように、本発明は、全長プレプロセシング形態だけでなく成熟プロセシング形態、その断片、ならびに、対立遺伝子変異体および非天然変異体を含む、X構成要素およびY構成要素のそれぞれ、またはそれらの両方の変異体を使用して得られる融合タンパク質を包含する。集団内に存在する可能性があるX構成要素および/またはY構成要素の天然対立遺伝子変異体の他、当業者ならばさらに、ランダム突然変異誘発または標的突然変異誘発を引き起こす古典的な技術または組換え技術を利用した突然変異により変化(すなわち、1以上の欠失、付加および/または1個以上のアミノ酸置換)を導入し得ることが分かるであろう。本発明での使用に好適な変異体は、その対応する天然型サイトカインのアミノ酸配列と高い相同性を有するアミノ酸配列を有していることが好ましい。1つの態様において、本発明の融合タンパク質に使用される変異型サイトカインのアミノ酸配列は、その対応する天然型配列と少なくとも70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、好ましくは、少なくとも約95%、より好ましくは、少なくとも約97%、さらに好ましくは、少なくとも約99%同一である。
アミノ酸配列または核酸配列間の同一性%は、当業者に公知の標準的な方法を用いて決定することができる。例えば、2つのアミノ酸配列間の相同性%を決定するために、最適な比較が行えるようにそれらの配列をアラインする。次いで、対応するアミノ酸の位置に存在するアミノ酸残基を比較する。最適なアラインメントを行うために、一方または両方のアミノ酸配列にギャップを導入してもよく、比較では、非相同配列を無視してもよい。第1の配列のある位置に、第2の配列のその対応する位置と同じアミノ酸残基が存在している場合には、それらの配列はその位置において同一である。2つの配列間の同一性%は、最適なアラインメントを行うために導入する必要があるギャップ数と各ギャップの長さを考慮した、それらの配列に共通する同一の位置の数の関数である。配列の比較ならびに2つの配列間の同一性%および類似性%の決定は、数学アルゴリズムを用いて行うことができる(例えば、Computional Molecular Biology, 1988, Ed Lesk AM, Oxford University Press, New York; Biocomputing: Informatics and Genome Projects, 1993, Ed Smith D. W., Academic Press, New York; Computer Analysis of Sequence Data, 1994, Eds Griffin A. M. and Griffin H. G., Human Press, New Jersey; Sequence Analysis Primer, 1991, Eds Griskov M. and Devereux J., Stockton Press, New York)。さらに、アミノ酸配列間および核酸配列間の同一性%を決定するためには、GCG.TM.プログラム(Genetics Computer Group, Madison, Wis.から入手可能)、DNAsis.TM.プログラム(Hitachi Software, San Bruno, Calif.から入手可能)またはMacVector.TM.プログラム(Eastman Kodak Company, New Haven, Conn.から入手可能)のような種々のコンピュータープログラムが利用可能である。
本発明での使用に好適なX構成要素および/またはY構成要素の変異体は、生物活性があり、かつ、その対応する天然型サイトカインに関して本明細書において記載する活性の少なくとも1つを有しているものである。その天然型サイトカインの特定の機能は、ある程度良い影響または悪い影響を受け得るが、治療効果(例えば、抗腫瘍活性、腫瘍による免疫アネルギーの回避)が維持されることが好ましく、例えば、細胞傷害性の減弱または生物活性の増強を示す変異体である。特定の機能に必須のアミノ酸は、部位特異的突然変異誘発法のような当技術分野で公知の方法により同定することができる。パートナー/基質(例えば、受容体)結合に重要なアミノ酸もまた、結晶化、核磁気共鳴および/または光学的親和性標識のような構造解析により決定することができる。得られた変異体は、以上で記載したもののようなアッセイにより生物活性について試験することができる。
例えば、ある種の機能的変異体では、1以上のアミノ酸残基が保存的に置換されている。「保存的アミノ酸置換」とは、その天然型ポリペプチドのアミノ酸残基が類似側鎖を有するアミノ酸残基で置換されることである。類似側鎖を有するアミノ酸残基ファミリーは、当技術分野において定義されている(例えば、the Atlas of Protein Sequence and Structure, 1978, Vol. 5, ed. M. O. Dayhoff, National Biomedical Research Foundation, Washington, D. C.の図84および85のマトリックス参照)。一般に、置換が脂肪族アミノ酸Ala、Val、LeuおよびIle間;ヒドロキシル残基SerおよびThr間;酸性残基AspおよびGlu間;アミド残基AsnおよびGln間;塩基性残基LysおよびArg間;または芳香族残基PheおよびTyr間で互いに行われるときに、その置換が保存的であると見なされる。また、もう1つの態様では、例えば、飽和突然変異誘発により、サイトカインコード配列の総てまたは一部に沿ってランダムに突然変異を導入し得る。その結果として生じた変異株を本明細書において記載するその生物活性についてスクリーニングして、少なくとも治療活性を有する変異株を同定してもよい。
本発明によれば、その対応する天然型IL−2と比べて細胞傷害性の減弱を示す変異型IL−2が特に重要である。好適な変異型IL−2としては、限定されるものではないが、欧州特許EP673 257および米国特許第5,229,109号(引用することにより本明細書の一部とされる)に記載されている、ヒトIL−2の残基33〜46により形成されるBαヘリックス内にアミノ酸置換を有するものが挙げられる。低毒性変異型IL−2の具体的な例としては、その天然型IL−2の42位のフェニルアラニン残基がリジン残基で置換されている変異体F42Kまたはその天然型IL−2の38位のアルギニン残基がアラニン残基で置換されている変異体R38Aが挙げられる。本発明での使用に好適なさらなる変異型IL−2としては、WO99/60128に記載されているものやShanafelt et al.(2000, Nat Biotech 18, 1197-1202)により記載されているもの(引用することにより本明細書の一部とされる)も挙げられる。具体的な例としては、その天然型IL−2の20位のアスパラギン酸残基がイソロイシン残基で置換されている変異体D20I、その天然型IL−2の88位のアスパラギン残基がグリシン残基で置換されている変異体N88G、その天然型IL−2の88位のアスパラギン残基がアルギニン残基で置換されている変異体N88Rおよびその天然型IL−2の126位のグルタミン残基がメチオニン残基で置換されている変異体Q126Mまたはそれらのあらゆる組合せが挙げられる。本明細書において「〜位に」とは、各々の変異型サイトカインが、個々に引用されたその天然型サイトカインのその位置にあるものに対応する部位において突然変異しているという意味を包含する用語である。
本発明での使用に好適な変異型IL−15としては、限定されるものではないが、ヒトIL−15遺伝子の遺伝的変異体、ならびにIL−15受容体のα鎖との結合を妨害する、1以上のアミノ酸残基において突然変異しているあらゆる変異型IL−15に関するWO02/63044に記載されているもの(例えば、Bernard et al.(2004, J. Biol. Chem. 279, 24313-22)によって記載されたもの、突然変異の位置がBernard et al.を基準として示され、+1が成熟IL−15の1番目の残基に相当する、変異体L45E、S51D、L52D、E64K、N65KおよびI68Dが特に好ましい)が挙げられる。
本発明において、その対応する天然型IL−18と比べて生物活性の増強を示す変異型IL−18が特に重要である。好適な変異型IL−18としては、限定されるものではないが、Kim et al.(2002, J. Biol. Chem. 277, 10998-11003)およびKim et al.(2001, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 3304-3309)により記載されているもの(引用することにより本明細書の一部とされる)、より詳細には、その天然型IL−18の42位のグルタミン酸残基がアラニン残基で置換されている変異体E42Aまたはその天然型IL−18の89位のリジン残基がアラニン残基で置換されている変異体K89A、あるいは両置換を組み合わせた変異体が挙げられる。好ましくは、本発明の融合タンパク質を含んでなるIL−18が、その天然型IL−18の89位のリジン残基がアラニン残基で置換されている突然変異型IL−18(K89A)を含む。
さらに、以上に記載するように、本明細書においてIL−18とは、プロIL−18と成熟IL−18の両方を包含する用語である。1つの態様および好ましい態様によれば、本発明に使用されるIL−18ポリペプチドは、特に、それが他のサイトカインパートナーのNH2末端と融合している場合にはプロIL−18(すなわち、その内在性プロ配列を含んでなる)である。しかし、異種(IL−18に対して)プロ配列を含んでなるIL−18構成要素(例えば、成熟IL−18)の使用も想定され得る。もう1つの態様によれば、本発明に使用されるIL−18ポリペプチドは、特に、それが他のサイトカインパートナーのCOOH末端と融合している場合にはそのプロ配列を有していない。
X構成要素とY構成要素は、本発明の融合タンパク質において直接融合され得るが、XとYを結び付けるためにリンカーペプチドを使用することが好ましい。リンカーの目的は、X構成要素およびY構成要素各々を正確に構成し、折りたたみ、かつ/または機能させることである。リンカーは、目的を達成するのに十分にフレキシブルで、かつ、十分に長いものである必要がある。好ましくは、リンカーのコード配列は、それが翻訳停止を促し、その結果として、X構成要素とY構成要素の独立した折りたたみを促すように選択することができる。当業者であれば、本発明に従って好適なリンカーを設計することができる。しかしながら、本発明は、使用されるリンカー配列の形態、大きさまたは数によって限定されない。選択したリンカー配列の多数のコピーをXおよびYの間に挿入してもよい。リンカー配列に関する唯一の必要条件は、それが融合タンパク質の各構成要素の折りたたみおよび/または機能を機能的に不利に妨害しないことである。例えば、好適なリンカーは、5〜50個アミノ酸長であり、グリシン、セリン、トレオニン、アスパラギン、アラニンおよびプロリンのようなアミノ酸を含んでなってよい(例えば、Wiederrecht et al., 1988, Cell 54, 841; Dekker et al., 1993, Nature 362, 852; Sturm et al., 1988, Genes and Dev. 2, 1582; Aumailly et al., 1990 FEBS Lett. 262, 82参照)。セリンおよびグリシン残基を含んでなる繰り返し配列が、本発明において好ましい。好適なリンカーの具体な例は、配列Gly−Gly−Gly−Gly−Ser(GGGGS)の2または3以上(例えば、最大8)コピーで構成されているものである。本発明が、この特定のリンカーの使用に限定されないことは明らかである。
本発明はさらに、配列番号1〜19で示したいずれかのアミノ酸配列の総てまたは一部と少なくとも70%、75%、80%、90%、95%、97%、99%相同であるか、場合によっては、さらに高く、100%相同である(同一である)アミノ酸配列を含んでなる、あるいはから本質的になる、あるいはからなる融合タンパク質を含む。
配列番号1で示した配列は、ヒトIL7とヒトIL−2の融合物に相当し、ヒトIL−7がアミノ酸残基1からアミノ酸残基177までに及び、リンカーペプチドがアミノ酸残基178からアミノ酸残基192までに及び、そして、ヒトIL−2がアミノ酸残基193からアミノ酸残基345までに及んでいる。配列番号2で示した配列は、ネズミIL7とネズミIL−2の融合物に相当し、ネズミIL−7がアミノ酸残基1からアミノ酸残基154までに及び、リンカーペプチドがアミノ酸残基155からアミノ酸残基164までに及び、そして、ネズミIL−2がアミノ酸残基165からアミノ酸残基333までに及んでいる。
配列番号3で示した配列は、ヒトIL−2とヒトIL−15の融合物に相当し、ヒトIL−2がアミノ酸残基1からアミノ酸残基153までに及び、リンカーペプチドがアミノ酸残基154からアミノ酸残基168までに及び、そして、ヒトIL−15がアミノ酸残基169からアミノ酸残基330までに及んでいる。配列番号4で示した配列は、ヒトIL−15とヒトIL−2の融合物に相当し、ヒトIL−15がアミノ酸残基1からアミノ酸残基162までに及び、リンカーペプチドがアミノ酸残基163からアミノ酸残基177までに及び、そして、ヒトIL−2がアミノ酸残基178からアミノ酸残基330までに及んでいる。配列番号5で示した配列は、ヒトIL−2のシグナルペプチド、ヒトIL−15およびヒトIL−2の融合物に相当し、ヒトIL−2のシグナルペプチドがアミノ酸残基1からアミノ酸残基20までに及び、ヒトIL−15がアミノ酸残基21からアミノ酸残基182までに及び、リンカーペプチドがアミノ酸残基183からアミノ酸残基197までに及び、そして、ヒトIL−2がアミノ酸残基198からアミノ酸残基350までに及んでいる。配列番号6で示した配列は、ネズミIL−2とネズミIL−15の融合物に相当し、ネズミIL−2がアミノ酸残基1からアミノ酸残基169までに及び、リンカーペプチドがアミノ酸残基170からアミノ酸残基179までに及び、そして、ネズミIL−15がアミノ酸残基180からアミノ酸残基324までに及んでいる。配列番号7で示した配列は、ネズミIL−15とネズミIL−2の融合物に相当し、ネズミIL−15がアミノ酸残基1からアミノ酸残基145までに及び、リンカーペプチドがアミノ酸残基146からアミノ酸残基155までに及び、そして、ネズミIL−2がアミノ酸残基156からアミノ酸残基324までに及んでいる。
配列番号8で示した配列は、ヒトIL−2とヒトIL−18(プロIL−18)の融合物に相当し、ヒトIL−2がアミノ酸残基1からアミノ酸残基153までに及び、リンカーペプチドがアミノ酸残基154からアミノ酸残基168までに及び、そして、ヒトプロIL−18がアミノ酸残基169からアミノ酸残基361までに及んでいる。配列番号9で示した配列は、ヒトIL−2とヒトプロIL−18の変異体K89Aの融合物に相当し、ヒトIL−2がアミノ酸残基1からアミノ酸残基153までに及び、リンカーペプチドがアミノ酸残基154からアミノ酸残基168までに及び、そして、ヒトプロIL−18の変異体がアミノ酸残基169からアミノ酸残基361までに及んでいる、そのアミノ酸残基257がその天然型IL−18でのリジンに代わってアラニンである。配列番号10で示した配列は、ヒトIL−2とヒト成熟IL−18の融合物に相当し、ヒトIL−2がアミノ酸残基1からアミノ酸残基153までに及び、リンカーペプチドがアミノ酸残基154からアミノ酸残基168までに及び、そして、ヒト成熟IL−18がアミノ酸残基169からアミノ酸残基325までに及んでいる。配列番号11で示した配列は、ヒトIL−2とヒト成熟IL−18の変異体K89Aの融合物に相当し、ヒトIL−2がアミノ酸残基1からアミノ酸残基153までに及び、リンカーペプチドがアミノ酸残基154からアミノ酸残基168までに及び、そして、ヒト成熟IL−18の変異体がアミノ酸残基169からアミノ酸残基325までに及んでおり、そのアミノ酸残基221がその天然型IL−18でのリジンに代わってアラニンである。配列番号12で示した配列は、ネズミIL−2とネズミプロIL−18の融合物に相当し、ネズミIL−2がアミノ酸残基1からアミノ酸残基169までに及び、リンカーペプチドがアミノ酸残基170からアミノ酸残基179までに及び、そして、ネズミプロIL−18がアミノ酸残基180からアミノ酸残基371までに及んでいる。配列番号13で示した配列は、ネズミIL−2とネズミIL−18の変異体K89Aの融合物に相当し、ネズミIL−2がアミノ酸残基1からアミノ酸残基169までに及び、リンカーペプチドがアミノ酸残基170からアミノ酸残基179までに及び、そして、ネズミIL−18の変異体がアミノ酸残基180からアミノ酸残基371までに及んでおり、そのアミノ酸残基266がその天然型IL−18でのリジンに代わってアラニンである。配列番号14で示した配列は、ネズミIL−2とネズミ成熟IL−18の融合物に相当し、ネズミIL−2がアミノ酸残基1からアミノ酸残基169までに及び、リンカーペプチドがアミノ酸残基170からアミノ酸残基179までに及び、そして、ネズミ成熟IL−18がアミノ酸残基180からアミノ酸残基336までに及んでいる。配列番号15で示した配列は、ネズミIL−2とネズミ成熟IL−18の変異体K89Aの融合物に相当し、ネズミIL−2がアミノ酸残基1からアミノ酸残基169までに及び、リンカーペプチドがアミノ酸残基170からアミノ酸残基179までに及び、そして、ネズミ成熟IL−18の変異体がアミノ酸残基180からアミノ酸残基336までに及んでおり、そのアミノ酸残基231がその天然型IL−18でのリジンに代わってアラニンである。
配列番号16で示した配列は、ヒトIL−21とヒトIL−2の融合物に相当し、ヒトIL−21がアミノ酸残基1からアミノ酸残基179までに及び、リンカーペプチドがアミノ酸残基180からアミノ酸残基194までに及び、そして、ヒトIL−2がアミノ酸残基195からアミノ酸残基347までに及んでいる。配列番号17で示した配列は、ネズミIL−21とネズミIL−2の融合物に相当し、ネズミIL−21がアミノ酸残基1からアミノ酸残基146までに及び、リンカーペプチドがアミノ酸残基147からアミノ酸残基156までに及び、そして、ネズミIL−2がアミノ酸残基157からアミノ酸残基325までに及んでいる。
配列番号18で示した配列は、ヒトIFNgとヒトIL−2の融合物に相当し、ヒトIFNgがアミノ酸残基1からアミノ酸残基166までに及び、リンカーペプチドがアミノ酸残基167からアミノ酸残基181までに及び、そして、ヒトIL−2がアミノ酸残基182からアミノ酸残基334までに及んでいる。配列番号19で示した配列は、ネズミIFNgとネズミIL−2の融合物に相当し、ネズミIFNgがアミノ酸残基1からアミノ酸残基155までに及び、リンカーペプチドがアミノ酸残基156からアミノ酸残基165までに及び、そして、ネズミIL−2がアミノ酸残基166からアミノ酸残基334までに及んでいる。
本発明において、タンパク質が列挙したアミノ酸配列以外のアミノ酸を含まない場合、そのタンパク質は、そのアミノ酸配列「からなる」という。このようなアミノ酸配列が数少ないさらなるアミノ酸残基、一般に、約1〜約50個ほどのさらなる残基とともに存在する場合、タンパク質は、そのアミノ酸配列「から本質的になる」という。アミノ酸配列がタンパク質の最終的な(すなわち、成熟)アミノ酸配列の少なくとも一部である場合、そのタンパク質は、そのアミノ酸配列を「含んでなる」という。このようなタンパク質は、数個〜数百個までのさらなるアミノ酸残基を有し得る。このようなさらなるアミノ酸残基は、融合物に含まれる各構成要素もしくは両方の構成要素または異種アミノ酸/ペプチド配列(それぞれの構成要素に対して異種である)と自然に結び付き得る。このようなさらなるアミノ酸残基は、融合タンパク質の前駆体から成熟型へのプロセシングに関与し、タンパク質トラフィッキングを促進し、タンパク質半減期を延長もしくは短縮し、または、とりわけ、アッセイまたは製造での融合タンパク質の操作を容易にすることができる。好ましくは、本発明の融合タンパク質は、宿主細胞または生物体における分泌を促すためにNH2末端にシグナルペプチドを含んでなる。例えば、内因性シグナルペプチド(すなわち、前記融合物のNH2末端に存在するサイトカインに自然に存在する)を使用してもよいし、あるいは、好適な異種(問題のサイトカインに対して)シグナルペプチド配列を融合物のNH2末端に存在するサイトカイン構成要素に付加してもよいし、または内因性のものの代わりに挿入してもよい。適切には、IL−15が本発明の融合タンパク質のNH2末端に存在する場合には、特定の宿主における分泌を促し、または増大させるために、異種ペプチドシグナル(IL−15に対して異種である)をIL−15の天然型シグナルに付加してもよいし、またはIL−15の天然型シグナルと置き換えてもよい。好適な異種シグナルペプチドとしては、限定されるものではないが、IL−2のシグナルペプチドおよびマウスIgGのκ軽鎖のシグナルペプチドのような免疫グロブリン(Ig)のシグナルペプチドが挙げられる(Meazza et al., 2000, Int. J. Cancer 87, 574; Susukiet al., 2001, J. Leukoc. Biol. 69, 531)。この態様の説明に役立つ実例は、配列番号5で示した融合タンパク質により提供される。あるいは、短鎖型または長鎖型いずれかの内因性IL−15ペプチドシグナルを使用することも可能である(Kuryus et al., 2000, J. Biol. Chem. 275, 30653)。さらに、融合タンパク質をタグ付ペプチド、例えば、同定および/または精製を容易にするペプチドと融合してもよい。
本発明において、本発明の融合タンパク質は、あらゆる起源、すなわち、あらゆるヒトまたは動物起源(イヌ、鳥類、ウシ、ネズミ、ヒツジ、ネコ、ブタなどを含む)のサイトカイン構成要素を含んでなり得る。「キメラ」融合タンパク質も本発明に包含される(例えば、一方のサイトカイン構成要素がヒト起源のものでもう一方が動物起源のもの)が、各構成要素が同じ起源のものである(例えば、両方ともヒト由来である)ことが好ましい。
本発明の融合タンパク質は、標準的な技術により作製することができる。本発明の融合タンパク質に関与するサイトカインそれぞれのポリペプチドおよびDNA配列は、組換えまたは化学合成技術を通じてその発現を獲得するための方法がそうであるように、当技術分野では公開されている。もう1つの態様では、融合物をコードするDNA配列を、自動DNA合成装置をはじめとする従来の技術によって合成することができる。よって、融合タンパク質をコードするDNA配列はベクターにおいて構築することができ、宿主細胞または生物体における融合タンパク質の発現を制御し得る調節領域に作動可能なように連結することができる。例えば、ウイルスベクターまたはプラスミドでDNA配列をクローニングするための技術は、当業者には公知である(Sambrook et al, 2001, "Molecular Cloning. A Laboratory Manual", Laboratory Press, Cold Spring Harbor NY)。本発明の融合タンパク質は、以下に記載するように、それを発現するように形質転換された細胞から精製することができる。
本発明の融合タンパク質は、融合物を形成するX構成要素およびY構成要素の少なくとも一方の通常の活性を有することを特徴としたものであってもよいし、または本発明の融合タンパク質が、さらに、XとYの単純な相加機能を上回る生物活性を有することを特徴としたものであってもよい。活性をこのように高めることによって、治療効果が高まり、その結果として、投与計画を低減し、コンプライアンスおよび維持療法を改善することが可能になり、緊急状態を緩和することが可能になり、さらに生活の質を向上させることが可能になる。ある場合において、本発明の融合分子は、意外にも、XまたはYの存在から予測されるものとは異なる活性も提供し得る。例えば、本発明に関連して強調される、1つの特定の予期できない活性が、IL−2/IL−18(IL−2/プロIL−18またはIL−2/成熟IL−18)融合物およびIL−7/IL−2融合物の、例えば、腫瘍またはウイルス抗原に対する非特異的免疫応答を増強する目的で樹状細胞の成熟を促進する能力である。IL−2/IL−18(IL−2/プロIL−18またはIL−2/成熟IL−18)融合物で発見されたもう1つの活性が、例えば、腫瘍またはウイルス抗原に対する非特異的免疫応答を増強する目的でNKT細胞を活性化することである。本発明に関連して発見されたもう1つの予期できない効果が、特定の生物体においてサイトカインを個々に投与したときと比べて、IL−2/IL−18(IL−2/プロIL−18またはIL−2/成熟IL−18)融合物およびIL−7/IL−2融合物によって細胞傷害性(AICD活性)が制限されることであり、例えば、この効果を細胞傷害性副作用を低減するために使用することができる
さらに、本発明の範囲に、本発明の融合タンパク質、特に、配列番号1〜19のいずれかで示したものの新規ペプチド断片が含まれる。本明細書において、断片とは、本明細書において開示される融合タンパク質の少なくとも8個、15個、20個、50個以上の連続したアミノ酸残基を含んでなるものである。このような断片は、融合タンパク質の1以上の治療活性および/または生物活性を保持するそれらの能力に基づいて選択することができるし、または例えば、基質と結合するか、または免疫原としての役割を果たすように機能するそれらの能力について選択してもよい。好適なペプチド断片は、一般に、新規免疫原性構造を含有する融合タンパク質のドメインまたはモチーフを含んでなるものである。推定免疫原性部位は、当業者には周知で、容易に利用可能なコンピュータープログラムにより容易に同定可能である。特に重要なものは、X構成要素とY構成要素との融合部位をオーバーラッピングするペプチド断片である。本発明の融合タンパク質のペプチド断片は、公知のタンパク質合成方法を用いても合成することができる。
本発明はまた、本発明の融合タンパク質をコードする核酸分子も提供する。
本発明において、「核酸」および「ポリヌクレオチド」とは、互換的に使用される用語であり、あらゆる長さを有するヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド(DNA)分子(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)およびリボヌクレオチド(RNA)分子(例えば、mRNA)ならびにヌクレオチド類似体を用いて作製したDNAまたはRNA類似体(ヌクレオチド類似体の例として米国特許第5,525,711号、同第4,711,955号またはEPA 302 175参照)のいずれの重合体も定義する。ヌクレオチド構造に対して修飾を行うとすれば、重合体の構成前または後に行うことができる。ヌクレオチドの配列には、非ヌクレオチドエレメントが介在してもよい。重合後、標識成分とのコンジュゲーションによるなど、核酸分子をさらに修飾してもよい。核酸、特に、DNAは、二本鎖であってもよいし、または一本鎖であってもよいが、二本鎖DNAであることが好ましい。一本鎖核酸は、コード鎖(センス鎖)であってもよいし、または非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。
本発明の核酸分子としては、限定されるものではないが、融合タンパク質をコードする配列だけであるが、さらなる非コード配列、例えば、転写、mRNAプロセシング(スプライシングおよびポリアデニル化シグナルを含む)、リボソーム結合およびmRNA安定性に関与するイントロンならびに非コード5’および3’配列を含んでいてよい。例えば、本発明の核酸分子は、自然にフランキングする(すなわち、5’および3’末端に存在する配列)か、あるいはX構成要素および/またはY構成要素をコードするゲノムDNA内に存在する約5kb未満、4kb、3kb、2kb、1kb、0.5kbまたは0.1kbのヌクレオチド配列を含み得る。
好ましい態様によれば、本発明は、配列番号1〜19に示したいずれかのアミノ酸配列と少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、好ましくは、少なくとも約97%、より好ましくは、少なくとも約99%相同であり、さらに好ましくは、100%相同である融合タンパク質をコードするアミノ酸配列の総てまたは一部をコードするヌクレオチド配列を含んでなる、あるいはから本質的になる、あるいはからなる核酸分子を提供する。
もう1つの態様では、本発明の核酸分子は、配列番号1〜19のいずれかに示した融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列の総てまたは一部の相補体である核酸分子を含んでなる。本発明のヌクレオチド配列と相補的である核酸分子は、それがストリンジェントな条件下で融合物をコードするヌクレオチド配列とハイブリダイズすることができ、その結果として安定した二本鎖を形成するように、十分な相補性を有するものである。このようなストリンジェントな条件は、当業者には公知である。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の好ましい限定されない例が、約45℃にて6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)でのハイブリダイゼーション、続いて、50〜65℃にて0.2×SSC、0.1%SDSでの1回以上の洗浄である。1つの態様において、本発明は、本発明の核酸分子のアンチセンス核酸に関する。アンチセンス核酸は、コード鎖全体と相補的であり得るし、またはその一部とのみ相補的であり得る。
さらにもう1つの態様では、本発明は、例えば、以上で記載している融合タンパク質の変異体をコードする上記の本発明の核酸分子の変異体を包含する。本発明に包含される変化は、部位特異的突然変異誘発やPCR媒介突然変異誘発のような標準的な技術によってヌクレオチド配列に1以上のヌクレオチド置換、付加および/または欠失を導入することにより作製することができる。突然変異誘発の後、本明細書において記載するように、変異型核酸分子を組換え発現させ、得られたタンパク質の活性を、例えば、本明細書において記載するアッセイを利用して決定することができる。あるいは、本発明の核酸分子を改変して、特定の宿主細胞(例えば、大腸菌(E. coli); Wada et al., 1992, Nucleic Acids Res. 20, 2111-2118)に優先的なコドン使用を提供してもよい。本発明はさらに、遺伝子コードの縮重によって異なるが、例えば、配列番号1〜19に示したもののいずれかと同じ融合タンパク質をコードする核酸分子を包含する。
本発明のもう1つの態様は、本発明の核酸分子の断片、例えば、制限エンドヌクレアーゼおよびPCRによって生じた断片に関する。このような断片は、融合タンパク質の免疫原性部分をコードするプローブ、プライマーまたは断片として使用することができる。
本発明の核酸分子は、本明細書において提供する配列情報を用いて作製することができる。X構成要素およびY構成要素それぞれをコードする核酸を、当技術分野で入手可能な配列データ(例えば、本発明の融合タンパク質に関して以上で提供されるもの、または実施例部分で提供されるもの)に基づく標準的な分子生物学技術(例えば、Sambrook, et al. “Molecular Cloning: A Laboratory Manual”, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y., 2001に記載されるように)または標準的なPCR増幅技術に従って、cDNA、あるいはゲノムDNAを、鋳型および好適なプローブまたはオリゴヌクレオチドプライマーとして用いてクローニングしてもよいし、または増幅してもよい。X配列とY配列の融合は、以下の実施例に記載のとおり行ってよいし、または従来の技術により行ってもよい。例えば、Xをコードする配列とYをコードする配列は、インフレームで、直接またはペプチドリンカーをコードする配列を介して連結し得る。また、Xをコードする配列を、Yをコードする配列を含有するベクターに直接挿入してもよいし、逆の場合も同様である。あるいは、Xをコードする配列とYをコードする配列のPCR増幅を、相補的オーバーハングを生み出すプライマーを用いて実施し、その後、その相補的オーバーハングをアニーリングし、再び増幅して、融合遺伝子配列を作製してもよい。
また、本発明により、本発明の核酸分子を含有するベクターも提供される。
本明細書において「ベクター」とは、発現ベクターと非発現ベクターの両方を指す。これらのベクターとしては、自律的自己複製環状プラスミドを含むウイルスベクター、ならびに非ウイルスベクターが挙げられる。組換え微生物または細胞培養物が「発現ベクター」の宿主とされる場合、このベクターに、染色体外環状DNAと宿主染色体に組み込まれたDNAの両方が含まれる。好ましい本発明のベクターは、発現ベクターである。発現ベクターは、本発明の融合タンパク質をコードするベクター内の核酸分子が転写され、必要に応じて、宿主細胞内で翻訳され得るように、位置的にかつ連続的に配向された、すなわち、他の必須エレメントと作動可能なように連結された多数の遺伝因子を含有している。
本発明においては、プラスミド由来のものであれ、ウイルス由来のものであれ、組み込みベクターであれ、非組み込みベクターであれ、あらゆるタイプのベクターを使用することができる。このようなベクターは、市販されているか、または文献にて記載されている。本発明において特に重要なものは、遺伝子療法に用いるベクター(すなわち、核酸分子を標的細胞へと送達し得るもの)、ならびに組換え技術に用いる発現ベクター(すなわち、例えば、宿主培養細胞において本発明の核酸分子を発現し得るもの)である。
本発明のベクターは、原核細胞または真核細胞において、あるいは両方の細胞において機能し得る(シャトルベクター)。好適なベクターとしては、限定されるものではないが、細菌プラスミド由来、バクテリオファージ由来、酵母エピソーム由来、BAC、PAC、YACまたはMACのような人工染色体由来のベクター、ならびに、バキュロウイルス、パポバウイルス(例えば、SV40)、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ポックスウイルス、泡沫状ウイルスおよびレトロウイルスのようなウイルス由来のベクターが挙げられる。また、これらの起源を組み合わせて、プラスミドおよびバクテリオファージ遺伝因子から得られるものなどのベクター(例えば、コスミドおよびファージミド)を得てもよい。ウイルスベクターは、複製能力を有している場合、条件付きで複製する場合、または複製欠損型である場合がある。ウイルス複製が欠損している場合では、欠損を補う機能を提供する宿主細胞において複製が起こる。
好適なプラスミドの例としては、限定されるものではないが、pBR322(Gibco BRL)、pUC(Gibco BRL)、pBluescript(Stratagene)、p Poly(Lathe et al., 1987, Gene 57, 193-201)、pTrc(Amann et al., 1988, Gene 69, 301-315)およびpET 11d(Studier et al., 1990, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, 60-89)から得られたものが挙げられる。プラスミドの形態が発現効率に影響を及ぼし得ることは周知であり、大部分のベクターがスーパーコイル型であることが好ましい。酵母(例えば、S.セレビシエ(S. cerevisiae))での発現用のベクターの例としては、pYepSec1(Baldari et al., 1987, EMBO J. 6, 229-234)、pMFa(Kujan et al., 1982, Cell 30, 933-943)、pJRY88(Schultz et al., 1987, Gene 54, 113-123)およびpYES2(Invitrogen Corporation, San Diego, Calif.)が挙げられる。また、昆虫培養細胞(例えば、Sf9細胞)で発現させるために、本発明のベクターをバキュロウイルスから得てもよい。
本発明の好ましい態様によれば、本明細書において記載する核酸分子を、哺乳類発現ベクターを用いて発現させる。哺乳類発現ベクターの例としては、pREP4、pCEP4(Invitrogene)、pCI(Promega)、pCDM8(Seed, 1987, Nature 329, 840)およびpMT2PC(Kaufman et al., 1987, EMBO J. 6, 187-195)が挙げられる。本明細書において記載する発現ベクターは、当業者が利用可能ないくつかの周知ベクターのほんの一例として示している。当業者ならば、本明細書において記載する核酸分子の維持、拡大または発現に好適な他のベクターを認識しているであろう。
さらに、本発明のベクターは、トランスフェクト細胞を選択するか、または同定するためのマーカー遺伝子(例えば、細胞の栄養要求性の相補性によるか、または抗生物質耐性による)、安定化エレメント(例えば、cer配列;Summers and Sherrat, 1984, Cell 36, 1097-1103)、組み込みエレメント(例えば、LTRウイルス配列およびトランスポゾン)、ならびに自己複製機能を提供し、細胞内でのベクターのコピー数に関係なく、ベクターを細胞内で安定に維持させ得るエレメントも含んでなってもよい。マーカーとしては、原核宿主細胞にはテトラサイクリンまたはアンピシリン耐性遺伝子、真核宿主細胞には、ジヒドロ葉酸レダクターゼまたはネオマイシン耐性が挙げられる。しかしながら、表現型形質についての選抜を行うあらゆるマーカーが有効である。ウイルス複製起点を使用し、その特定のウイルス起点が媒介する複製に必要である1以上のウイルス複製因子を提供することによって、自己複製機能を与え得る(WO95/32299)。複製起点およびあらゆる複製因子は、エプスタイン−バーウイルス(EBV)、ヒトおよびウシ乳頭腫ウイルスならびにパポバウイルスBKをはじめとする種々のウイルスから得られる。
特に好ましい本発明のベクターは、ウイルスベクター、特に、遺伝子療法用のベクターとして十分に立証された利点が数多くあるアデノウイルスベクターである。アデノウイルスゲノムは、ウイルスサイクルを完了するのに必要な約30個を越える遺伝子を有するおよそ36kbの線状二本鎖DNA分子からなる。初期遺伝子は、4領域(E1〜E4)に分かれており、E3領域を除いてウイルス複製に必要な領域である(Pettersson and Roberts, 1986, In Cancer Cells (Vol 4): DNA Tumor Viruses, Botchan and Glodzicker Sharp Eds pp 37-47, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N. Y.; Halbert et al., 1985, J. Virol. 56, 250-257)。E3領域は、E3領域内に欠失がある天然変異株またはハイブリッドウイルスが、培養細胞において依然として野生型ウイルス様に複製するという観察結果(Kelly and Lewis, 1973, J. Virol. 12, 643-652)に基づき、ウイルス複製には不必要であると思われる。E1遺伝子産物は、ウイルスゲノムの転写調節に関与するタンパク質をコードする。E2遺伝子産物は、ウイルスDNA合成の開始および鎖伸長に必要なものである。E3がコードするタンパク質は、細胞傷害性T細胞および腫瘍壊死因子による細胞融解を抑制する(Wold and Gooding、1991, Virology 184, 1-8)。E4領域がコードするタンパク質は、DNA複製、後期遺伝子発現およびスプライシングおよび宿主細胞シャットオフに関与する(Halbert et al., 1985, J. Virol. 56, 250-257)。後期遺伝子(L1〜L5)は、それらの大多数がウイルスキャプシドを構成する構造タンパク質をコードする。それらは、少なくとも部分的に初期転写ユニットでオーバーラップしており、特異的なプロモーター(主要後期プロモーター、MLP)から転写される。さらに、アデノウイルスゲノムは、両端にシス作用5’および3’ITR(逆方向末端繰り返し配列)とキャプシド形成領域を有しており、
いずれもDNA複製に必須のものである。ITRが、DNA複製起点を有する一方で、キャプシド形成領域が、アデノウイルスDNAの感染粒子へのパッケージングに必要とされる。
本明細書において、「アデノウイルスベクター」とは、ベクターDNAならびに従来の技術よって作製されるそのウイルス粒子を包含する。
本発明に従って使用されるアデノウイルスベクターは、ヒト細胞に感染することが好ましい。あらゆるヒトまたは動物起源、特にイヌ(例えば、CAV−1またはCAV−2;それぞれ、Genbank参照CAV1GENOMおよびCAV77082)、鳥類(Genbank参照AAVEDSDNA)、ウシ(BAV3など;Seshidhar Reddy et al., 1998, J. Virol. 72, 1394-1402)、ネズミ(Genbank参照ADRMUSMAV1)、ヒツジ、ネコ、ブタまたはサルアデノウイルスから、あるいはそれらのハイブリッドからそれを得ることができる。アデノウイルス血清型1〜51のいずれの血清型を使用してもよい。例えば、アデノウイルスは、亜群A(例えば、血清型12、18および31)、亜群B(例えば、血清型3、7、11、14、16、21、34および35)、亜群C(例えば、血清型1、2、5および6)、亜群D(例えば、血清型8、9、10、13、15、17、19、20、22〜30、32、33、36〜39および42〜47)、亜群E(血清型4)、亜群F(血清型40および41)のものまたは他のあらゆるアデノウイルス血清型のものであってよい。しかしながら、BまたはC亜群のヒトアデノウイルス、特に、アデノウイルス2(Ad2)、5(Ad5)および35(Ad35)が好ましい。一般的に言えば、前述のアデノウイルスの起源として使用し得るアデノウイルスストックは、現在、American Type Culture Collection (ATCC, Rockville, Md.)からまたは他のあらゆる供給元から入手可能である。さらに、このようなアデノウイルスは、それらの配列、構成および生物学について記載されており、技術者によるそれらの使用を可能にする数多くの刊行物の主題となっている。アデノウイルスベクター、アデノウイルスベクターの作製方法およびアデノウイルスベクターの使用法は、C群アデノウイルスベクターについては、例えば、米国特許第6,133,028号および同第6,040,174号、同第6,110,735号、同第6,399,587号、WO00/50573およびEP1016711に開示されており、非C群アデノウイルスベクターについては、例えば、米国特許第6,492,169号およびWO02/40665に開示されている。
1つの態様において、本発明のアデノウイルスベクターは、複製能力を有している。本明細書において「複製能力を有する」とは、相補作用の不在下で宿主細胞において複製し得るアデノウイルスベクターを指す。本発明において、この用語は、癌または過剰増殖性宿主細胞においてより良くまたは選択的に複製するように操作された、複製選択的アデノウイルスベクターまたは条件付きで複製するアデノウイルスベクターも包含する。このような複製能力を有するアデノウイルスベクターの例は、当技術分野では周知であり、当業者ならば容易に利用可能である(例えば、Hernandez-Alcoceba et al., 2000, Human Gene Ther. 11, 2009-2024; Nemunaitis et al., 2001, Gene Ther. 8, 746-759; Alemany et al., 2000, Nature Biotechnology 18, 723-727参照)。
本発明の複製能力を有するアデノウイルスベクターは、野生型アデノウイルスゲノムであってよいし、または、例えば、条件付きで複製するアデノウイルスベクターを作製するために、そのウイルスゲノムに修飾を導入することによってそれらから得たものであってもよい。このような修飾としては、コード配列および/または調節配列における1以上のヌクレオチドの欠失、挿入および/または突然変異が挙げられる。好ましい修飾は、前記複製能力を有するアデノウイルスベクターを、腫瘍または癌性細胞に特異的に存在する細胞活性に依存的にするものである。これに関して、腫瘍細胞において不必要となるウイルス遺伝子、例えば、p53またはRb結合を通じた細胞周期の活性化に関与する遺伝子を、完全にまたは部分的に欠失させてもよいしまたは突然変異させてもよい。例として、このような条件付きで複製するアデノウイルスベクターは、55kDaタンパク質をコードするアデノウイルスE1B遺伝子の完全欠失またはp53結合を無効にするためのE1B領域の完全欠失によって操作することができる(例えば、米国特許第5,801,029号および同第5,846,945号参照)。これにより、正常細胞でのウイルスによる腫瘍抑制の不活性化が回避される。このことはウイルスが複製し得ないことを意味している。しかしながら、ウイルスは複製し、発癌性形質転換を通じてp53またはRb発現をシャットオフした細胞を溶解する。もう1つの例として、E1A領域の完全欠失により、固有活性またはIL−6誘導E1A様活性に依存的なアデノウイルスベクターを作製する。状況に応じて、E1A領域に不活性化突然変異を導入して、Rbとの結合を無効にしてもよい。好ましくは、E1A CR1および/またはCR2ドメイン内にRb欠損突然変異/欠失を導入する(例えば、WO00/24408参照)。第2の戦略では、状況に応じて、または第1のアプローチと組み合わせて、ウイルス遺伝子の転写を制御する天然型ウイルスプロモーターを組織または腫瘍特異的プロモーターで置き換えてもよい。例として、E1Aおよび/またはE1B遺伝子の調節を、PSA、カリクレイン、プロバシン、AFP、a−フェトプロテインもしくはテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)プロモーターのような腫瘍特異的プロモーター(例えば、米国特許第5,998,205号、WO99/25860、米国特許第5,698,443号およびWO00/46355参照)またはE2F−1プロモーターのような細胞周期特異的プロモーター(WO00/15820およびWO01/36650)の制御下に置いてもよい。これに関連して、特に好ましくは、E1A CR2ドメイン内でのRb欠損8アミノ酸残基欠失とE1AおよびE4ウイルス遺伝子両方の発現を制御するE2F−1プロモーターの使用を組み合わせた、ONYX−411と呼ばれる典型的なベクターである。
もう1つの態様および好ましい態様によれば、本発明のアデノウイルスベクターは複製欠損型ベクターである。複製欠損アデノウイルスベクターは、当技術分野で公知であり、ウイルス複製に必要なアデノウイルスゲノムの1以上の領域(例えば、E1、E2もしくはE4またはそれらの組合せ)内に欠失があるため、相補作用(例えば、相補的に作用する細胞またはヘルパーウイルスのいずれかによって提供される)の不在下では増殖し得ないものと定義され得る。複製欠損表現型は、ウイルスゲノムに修飾を導入して、ウイルス複製に必要な1以上のウイルス遺伝子の機能を無効にすることによって得られる。好ましい複製欠損ベクターは、E1が欠失しているため、E1機能が欠損している。このようなE1欠失アデノウイルスベクターとしては、米国特許第6,063,622号;同第6,093,567号;WO94/28152;WO98/55639およびEP974 668(これら公報の総ての開示内容は引用することにより本明細書の一部とされる)に記載されているものが挙げられる。好ましいE1欠失は、ヒトアデノウイルス5型の配列(GeneBankにおいて受託番号M 73260として開示されており、Chroboczek et al., 1992, Virol. 186, 280-285にて開示されている)を参照することにより、およそヌクレオチド(nt)459〜3328または459〜3510に及ぶ。
さらに、ベクターのアデノウイルス骨格の追加ウイルス領域に修飾(例えば、欠失、挿入または突然変異)を含めて、ウイルス抗原の残留合成物を完全に破壊し、および/または形質導入細胞における核酸分子の長期発現を向上させてもよい(例えば、WO94/28152; Lusky et al., 1998, J. Virol 72, 2022-2032; Yeh et al., 1997, FASEB J. 11, 615-623参照)。これに関連して、本発明は、E1機能欠損アデノウイルスベクター、またはE1およびE2機能欠損アデノウイルスベクター、またはE1およびE3機能欠損アデノウイルスベクター、またはE1およびE4機能欠損アデノウイルスベクター、またはE1およびE2およびE3機能欠損アデノウイルスベクター、またはE1およびE2およびE4機能欠損アデノウイルスベクター、またはE1およびE3およびE4機能欠損アデノウイルスベクター、またはE1およびE2およびE3およびE4機能欠損アデノウイルスベクターの使用を意図している。E2機能欠損アデノウイルスベクターは、E2領域(好ましくは、E2A領域内あるいはE2B領域内またはE2A領域内とE2B領域内の両方)の総てまたは一部に欠失があるか、またはDBP(DNA結合タンパク質)をコードする遺伝子の温度感受性突然変異のような1以上の突然変異を含んでなる(Ensinger et al., J. Virol. 10 (1972), 328-339)。このアデノウイルスベクターは、E4領域の総てまたは一部も欠失していることもある(例えば、EP974 668およびWO00/12741参照)。典型的なE4欠失は、ヒトアデノウイルス5型の配列を参照することにより、およそヌクレオチド32994位〜34998位に及ぶ。さらに、非必須E3領域内(例えば、Ad5の28597位〜30469位)の欠失によりクローニング能力が増強され得るが、宿主免疫系(Gooding et al., 1990, Critical Review of Immunology 10, 53-71)および炎症反応(EP00 440 267.3)を回避するためには、gp19k、14.7Kおよび/またはRIDをコードするE3配列を保有していることが有利である。シス作用配列を除き、初期(E1、E2、E3およびE4)および後期遺伝子(L1、L2、L3、L4およびL5)を含む総ての機能的遺伝子を欠失している最少(または弱い)アデノウイルスベクターを使用することも考えられる(例えば、Kovesdi et al., 1997, Current Opinion in Biotechnology 8, 583-589; Yeh and Perricaudet, 1997, FASEB 11, 615-623; WO94/12649;およびWO94/28152を参照)。当業者ならば、最低限必要な配列を考慮して、複製欠損アデノウイルスベクターを容易に操作することができるため、複製欠損アデノウイルスベクターはこれらの典型的な態様に限定されない。
本発明の核酸分子は、シス作用配列を除き、アデノウイルスゲノムのあらゆる位置に挿入することができる。欠失領域(E1、E3および/またはE4)の代わりに挿入されることが好ましく、欠失したE1領域の代わりに挿入されることが特に好ましい。さらに、発現カセットが、問題の領域の自然転写方向に対してセンスまたはアンチセンス方向に配置され得る。
レトロウイルスベクターも本発明において好適である。レトロウイルスは、ウイルスがコードする逆転写酵素を使用して複製する組み込みウイルスの種類であり、ウイルスRNAゲノムを、感染細胞の染色体DNAに組み込まれる二本鎖DNAに複製する。文献にて記載されている数多くのベクターを、本発明の範囲内で使用し得るが、特に、これらはネズミ白血病ウイルス、とりわけ、モロニー(Gilboa et al., 1988, Adv. Exp. Med. Biol. 241, 29)またはFriendのFB29株(WO95/01447)由来のものであった。一般に、レトロウイルスベクターは、ウイルス遺伝子gag、polおよびenvの総てまたは一部が欠失し、5’および3’LTRとキャプシド形成配列を保有している。これらのエレメントは、レトロウイルスベクターの発現レベルまたは安定性を高めるように改変してもよい。このような改変としては、レトロウイルスキャプシド形成配列の、VL30のようなレトロトランスポゾンの1つとの置換が挙げられる(米国特許第5,747,323号)。本発明の核酸分子をキャプシド形成配列の下流に、好ましくは、レトロウイルスゲノムに対して反対方向に挿入してもよい。
ポックスウイルスベクターも本発明において好適である。ポックスウイルスは、それらの大DNAゲノムとそれらの細胞質複製部位によって上記のウイルスと区別される複雑なエンベロープを有するウイルス群である。ポックスウイルス科に属する一部のメンバーのゲノムはマッピングされ、配列決定されている。そのゲノムは、約200個のタンパク質(そのうちのおよそ100個がウイルスに関与する)をコードするおよそ200kbの二本鎖DNAである。本発明において、ポックスウイルスベクターは、ポックスウイルス科(poxviridae)のあらゆるメンバー、特に、カナリア痘ウイルス、鶏痘ウイルスおよびワクシニアウイルスから得られるが、後者のものが好ましい。好適なワクシニアウイルスとしては、限定されるものではないが、Copenhagen株(Goebel et al., 1990, Virol. 179, 247-266 and 517-563; Johnson et al., 1993, Virol. 196, 381-401)、Wyeth株および改変Ankara(MVA)株(Antoine et al., 1998, Virol. 244, 365-396)が挙げられる。核酸分子を含むポックスウイルスを構築するための一般条件は、当技術分野では周知である(例えば、CopenhagenワクシニアウイルスについてはEP83 286;EP206 920およびMVAウイルスについてはMayr et al., 1975、Infection 3, 6-14; Sutter and Moss、1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89, 10847-10851, 米国特許第6,440,422号参照)。本発明の核酸分子を、好ましくは、非コード遺伝子間領域または遺伝子の不活性化もしくは欠失によってウイルス増殖および複製に大幅な低下はないいずれかの遺伝子のような非必須遺伝子座のポックスウイルスゲノム内に挿入してもよい。チミジンキナーゼ遺伝子は、Copenhagenワクシニアウイルスにおける挿入に特に好適である(Hruby et al., 1983, Proc. Natl. Acad. Sci USA 80, 3411-3415; Weir et al., 1983, J. Virol. 46, 53
0-537)。MVAに関する限り、核酸分子の挿入は、切除I〜VIIのいずれか、好ましくは、切除IIもしくはIII(Meyer et al., 1991, J. Gen. Virol. 72, 1031-1038; Sutter et al., 1994, Vaccine 12, 1032-1040)またはD4R遺伝子座において行うことができる。鶏痘ウイルスの場合、チミジンキナーゼ遺伝子内への挿入も考えられるが、核酸分子を、非コード遺伝子間領域内に導入することが好ましい(例えば、EP314 569および米国特許第5,180,675号参照)。欠損機能が途中で、ヘルパーウイルスを介してか、または生成細胞系統における発現により補われる場合には、必須ウイルス遺伝子座への挿入も想定し得る。好適なポックスウイルスベクターは、ATCC(鶏痘 ATCC VR−251、サル痘 ATCC VR−267、豚痘 ATCC VR−363、カナリア痘 ATCC VR−111、牛痘 ATCC VR−302)またはICTV(Canberra, Australia)(Copenhagenウイルスコード58.1.1.0.001;Genbank受託番号M35027)のような認可された保存機関で入手可能な野生型ポックスウイルスから容易に作製することができる。
好ましい態様によれば、本発明のベクターは、本発明の核酸分子を、宿主細胞または生物体におけるその発現に好適な形態で含んでなる。このことは、その核酸分子が1以上の調節配列の制御下に置かれ、発現させるべき核酸分子に作動可能なように連結されたベクターのタイプおよび/または宿主細胞に基づいて選択されることを意味している。本明細書において、「調節配列」とは、核酸またはその誘導体の1つ(すなわち、mRNA)の複製、重複、転写、スプライシング、翻訳、安定性および/または宿主細胞もしくは生物体への輸送を含む核酸分子の機能的調節を可能にするか、提供するか、または調整するあらゆる配列を指す。本発明において、この用語は、プロモーター、エンハンサーおよび他の発現制御エレメント(例えば、ポリアデニル化シグナルおよびmRNA安定性に影響を及ぼすエレメント)を包含する。「作動可能なように連結された」とは、目的の核酸分子が、その核酸分子の発現が(例えば、宿主細胞または生物体において)可能となるように、調節配列に連結されていることを意味するものとする。当業者ならば、発現ベクターの設計が、形質転換しようとする宿主細胞の選択、所望のタンパク質の発現レベルなどのような因子に応じて行われることが分かるであろう。
調節配列としては、多くの種類の宿主細胞において核酸分子の構成的発現を命令するプロモーターおよび特定の宿主細胞でのみまたは特異的事象もしくは外生要因(例えば、温度、栄養素添加物、ホルモンまたは他のリガンドによる)を受けてヌクレオチド配列の発現を命令するもの(例えば、組織特異的調節配列)が挙げられる。
本発明において有用な好適な調節配列としては、限定されるものではないが、バクテリオファージλのレフトプロモーター、大腸菌のlac、TRPおよびTACプロモーター、SV40の初期および後期プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーターまたはエンハンサー(Boshart et al., 1985, Cell 41, 521-530)、アデノウイルス初期および後期プロモーター、ホスホグリセロキナーゼ(PGK)プロモーター(Hitzeman et al., 1983, Science 219, 620-625; Adra et al., 1987, Gene 60, 65-74)、単純疱疹ウイルス(HSV)−1のチミジンキナーゼ(TK)プロモーターおよびレトロウイルス長い末端繰り返し配列(例えば、MoMuLVおよびラウス肉腫ウイルス(RSV)LTR)が挙げられる。ポックスウイルスベクターにおいて本発明の核酸分子の発現を推進するのに有用な好適なプロモーターとしては、ワクシニアウイルスの7.5K、H5R、TK、p28、p11またはK1Lプロモーターが挙げられる。あるいは、Chakrabarti et al. (1997, Biotechniques 23, 1094-1097)、Hammond et al. (1997, J. Virological Methods 66, 135-138)およびKumar and Boyle (1990, Virology 179, 151-158)に記載されているもののような合成プロモーター、ならびに初期ポックスウイルスプロモーターと後期ポックスウイルスプロモーターのキメラプロモーターを使用してもよい。
誘導プロモーターは、外から供給された化合物により調節されるプロモーターであり、これらのプロモーターとしては、限定されるものではないが、亜鉛誘導性メタロチオネイン(MT)プロモーター(Mc Ivor et al., 1987, Mol. Cell Biol. 7, 838-848)、デキサメタゾン(Dex)誘導性マウス乳癌ウイルス(MMTV)プロモーター、T7ポリメラーゼプロモーター系(WO98/10088)、エクジソン昆虫プロモーター(No et al., 1996, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 3346-3351)、テトラサイクリン抑制性プロモーター(Gossen et al., 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89, 5547-5551)、テトラサイクリン誘導性プロモーター(Kim et al., 1995, J. Virol. 69, 2565-2573)、RU486誘導性プロモーター(Wang et al., 1997, Nat. Biotech. 15, 239-243およびWang et al., 1997, Gene Ther. 4, 432-441)およびラパマイシン誘導性プロモーター(Magari et al., 1997, J. Clin. Invest. 100, 2865-2872)が挙げられる。
本発明において使用する調節配列は、治療的効用が望まれる組織においてその核酸分子の発現を推進するために組織特異的でもあり得る。典型的な肝臓特異的調節配列としては、限定されるものではないが、HMG−CoAレダクターゼ(Luskey, 1987, Mol. Cell. Biol. 7, 1881-1893);ステロール調節エレメント1(SRE-1; Smith et al., 1990, J. Biol. Chem. 265, 2306-2310);アルブミン(Pinkert et al., 1987, Genes Dev. 1, 268-277);ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)(Eisenberger et al., 1992, Mol. Cell Biol. 12, 1396-1403);ヒトC反応性タンパク質(CRP)(Li et al., 1990, J. Biol. Chem. 265, 4136-4142);ヒトグルコキナーゼ(Tanizawa et al., 1992, Mol. Endocrinology 6, 1070-1081);コレステロール7−αヒドロキシラーゼ(CYP−7)(Lee et al., 1994, J. Biol. Chem. 269, 14681-14689);α−1抗トリプシン(Ciliberto et al., 1985, Cell 41, 531-540);インスリン様増殖因子結合タンパク質(IGFBP−1)(Babajko et al., 1993, Biochem Biophys. Res. Comm. 196, 480-486);ヒトトランスフェリン(Mendelzon et al., 1990, Nucl. Acids Res. 18, 5717-5721);I型コラーゲン(Houglum et al., 1994, J. Clin. Invest. 94, 808-814)およびFIX(米国特許第5,814,716号)遺伝子のものが挙げられる。典型的な前立腺特異的調節配列としては、限定されるものではないが、前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)(Banas et al., 1994, Biochim. Biophys. Acta. 1217, 188-194);前立腺分泌タンパク質94(PSP94)(Nolet et al., 1991, Biochim. Biophys. Acta 1089, 247-249);前立腺特異的抗原複合体(Kasper et al., 1993, J. Steroid Biochem. Mol. Biol. 47, 127-135);ヒト腺性カリクレイン(hgt−1)(Lilja et al.,1993, World J. Urology 11, 188-191)遺伝子のものが挙げられる。典型的な膵臓特異的調節配列としては、限定されるものではないが、膵炎関連タンパク質(PAP)プロモーター(Dusetti et al., 1993, J. Biol. Chem. 268, 14470-14475);エラスターゼ1転写エンハンサー(Kruse et al., 1993, Genes and Development 7, 774-786);膵臓特異的アミラーゼおよびエラスターゼエンハンサー/プロモーター(Wu et al., 1991, Mol. Cell. Biol. 11, 4423-4430; Keller et al., 1990, Genes & Dev. 4, 1316-1321);膵臓コレステロールエステラーゼ遺伝子プロモーター(Fontaine et al., 1991, Biochemistry 30, 7008-7014)ならびにインスリン遺伝子プロモーター(Edlund et al., 1985, Science 230, 912-916)のものが挙げられる。典型的なニューロン特異的調節配列としては、限定されるものではないが、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)(Forss-Petter et al., 1990, Neuron 5, 187-197)および神経フィラメント(Byrne and Ruddle, 1989, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86, 5473-5477)遺伝子プロモーターが挙げられる。脳での発現用の典型的な調節配列としては、限定されるものではないが、神経フィラメント重鎖(NF−H)プロモーター(Schwartz et al., 1994, J. Biol. Chem. 269, 13444-13450)が挙げられる。典型的なリンパ系特異的調節配列としては、限定されるものではないが、ヒトCGL1/グランザイムBプロモーター(Hanson et al., 1991, J. Biol. Chem. 266, 24433-24438);ターミナルデオキシトランスフェラーゼ(TdT)、リンパ球特異的チロシンタンパク質キナーゼ(p56lck)プロモーター(Lo et al., 1991, Mol. Cell. Biol. 11, 5229-5243);ヒトCD2プロモーター/エンハンサー(Lake et al., 1990, EMBO J. 9, 3129-3136)、ヒトNK細胞およびT細胞特異的活性化(NKG5)(Houchins et al., 1993, Immunogenetics 37, 102-107)、T細胞受容体(Winoto and Baltimore, 1989, EMBO J. 8, 729-733)および免疫グロブリン(Banerji et al., 1983, Cell 33, 729-740; Queen and Baltimore, 1983, Cell 33, 741-748)プロモーターが挙げられる。典型的な結腸特異的調節配列としては、限定されるものではないが、pp60c−srcチロシンキナーゼ(Talamonti et al., 1993, J. Clin. Invest 91, 53-60);器官特異的新抗原(OSN)、mw 40kDa(p40)(Ilantzis et al., 1993, Microbiol. Immunol. 37, 119-128);および結腸特異的抗原−Pプロモーター(Sharkey et al., 1994, Cancer 73, 864-877)プロモーターが挙げられる。乳腺および乳房細胞での発現用の典型的な調節配列としては、限定されるものではないが、ヒトα−ラクトアルブミン(Thean et al., 1990, British J. Cancer. 61, 773-775)および乳漿(米国特許第4,873,316号)プロモーターが挙げられる。典型的な筋肉特異的調節配列としては、限定されるものではないが、SM22(WO98/15575;WO97/35974)、デスミン(WO96/26284)、ミトコンドリアクレアチンキナーゼ(MCK)プロモーターおよびEP1310561に開示されているキメラプロモーターが挙げられる。典型的な肺特異的調節配列としては、限定されるものではないが、CFTRおよび界面活性剤プロモーターが挙げられる。
本発明での使用に好適なさらなるプロモーターは、増殖性腫瘍細胞で選択的に発現される遺伝子からのものであってもよい。このような遺伝子は、例えば、ディスプレイゲノムハイブリダイゼーションおよび比較ゲノムハイブリダイゼーションによって同定することができる(例えば、米国特許第5,759,776号および同第5,776,683号参照)。典型的な腫瘍特異的プロモーターとしては、限定されるものではないが、乳癌および前立腺癌で過剰発現されるMUC−1遺伝子のプロモーター(Chen et al., 1995, J. Clin. Invest. 96, 2775-2782)、結腸癌で過剰発現される癌胎児性抗原(CEA)をコードする遺伝子のプロモーター(Schrewe et al., 1990, Mol. Cell. Biol. 10, 2738-2748)、乳癌および膵臓癌で過剰発現されるERB−2をコードする遺伝子のプロモーター(Harris et al., 1994, Gene Therapy 1, 170-175)、肝臓癌で過剰発現されるα-フェトプロテイン遺伝子のプロモーター(Kanai et al., 1997, Cancer Res. 57, 461-465)、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)のプロモーター(WO99/27113、WO02/053760およびHorikawa et al., 1999, Cancer Res. 59, 826)、低酸素応答性エレメント(HRE)、自己分泌型運動因子受容体、LプラスミンおよびヘキソキナーゼIIが挙げられる。
当業者ならば、本発明の核酸分子の発現を制御する調節エレメントが、宿主細胞または生物体における転写および翻訳の適切な開始、調節ならびに/または終結のためのさらなるエレメントをさらに含んでなってもよいことが分かるであろう。このようなさらなるエレメントとしては、限定されるものではないが、非コードエクソン/イントロン配列、輸送配列、分泌シグナル配列、核局在シグナル配列、IRES、ポリA転写終結配列、3部分からなるリーダー配列、複製または組み込みに関与する配列が挙げられる。本発明において好適なイントロンの、説明に役立つ実例としては、αまたはβグロビン(すなわち、ウサギβグロビン遺伝子の第2イントロン; Green et al., 1988, Nucleic Acids Res. 16, 369; Karasuyama et al., 1988, Eur. J. Immunol. 18, 97-104)、オボアルブミン、アポリポタンパク質、免疫グロブリン、第IX因子および第VIII因子をコードする遺伝子から単離されたもの、SV40 16S/19Sイントロン(Okayma and Berg, 1983, Mol. Cell. Biol. 3, 280-289)ならびにマウス免疫グロビン受容体と融合するヒトβグロビン供与体で作製されたpCIベクター(Promega Corp, pCI哺乳類発現ベクターE1731)に存在するイントロンのような合成イントロンが挙げられる。融合タンパク質の分泌が望ましい場合には、好適な分泌シグナルがベクターに組み込まれる。シグナル配列は、融合タンパク質に内在しているもの(例えば、X構成要素またはY構成要素に内在しているもの)であってよいし、または融合タンパク質に関与するX構成要素およびY構成要素以外からのものであってよい。当業者ならば、発現ベクターに有用な数多くの調節配列を認識している。
本発明の好ましい態様は、E1領域の代わりに挿入され、CMVプロモーターの制御下に置かれた本発明の核酸分子を含んでなるE1−およびE3−欠失複製欠損アデノウイルスベクターに向けられる。
さらに、本発明のベクターは、1以上の導入遺伝子(すなわち、宿主細胞または生物体において本発明の核酸分子とともに発現させようとする目的の遺伝子)をさらに含んでなり得る。その導入遺伝子の発現が、本発明のベクターを与える目的である疾患または病状に対して治療または防御活性を有することが望ましい。好適な導入遺伝子としては、限定されるものではないが、(i)腫瘍増殖阻害剤および/または(ii)それに対する免疫応答が望まれる少なくとも1つの特異的抗原、をコードする遺伝子が挙げられる。本発明の好ましい形態では、導入遺伝子産物と融合タンパク質が免疫応答の誘導または治療的(例えば、抗腫瘍)効用の提供において相乗的に作用する。よって、このような組合せは、疾患の免疫学的予防に好適なだけでなく、驚くべきことに、ウイルス、細菌または寄生虫感染のような疾患、さらには、癌のような慢性疾患の免疫療法にも好適である。
腫瘍増殖阻害剤は、直接、細胞増殖を抑制するか、または腫瘍細胞を死滅させることにより作用する。腫瘍増殖阻害剤の代表的な例としては、毒素および自殺遺伝子が挙げられる。毒素の代表的な例としては、限定されるものではないが、リシン(Lamb et al., 1985, Eur. J. Biochem. 148, 265-270)、ジフテリア毒素(Tweten et al., 1985, J. Biol. Chem. 260, 10392-10394)、コレラ毒素(Mekalanos et al., 1983, Nature 306, 551-557; Sanchez and Holmgren, 1989, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86, 481-485)、ゲロニン(Stirpe et al., 1980, J. Biol. Chem. 255, 6947-6953)、抗ウイルスタンパク質(Barbieri et al., 1982, Biochem. J. 203, 55-59; Irvin et al., 1980, Arch. Biochem. Biophys. 200, 418-425)、トリチン、赤痢菌(Shigella)毒素(Calderwood et al., 1987, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84, 4364-4368; Jackson et al., 1987, Microb. Path. 2, 147-153)および緑膿菌(Pseudomonas)外毒素A(Carroll and Collier, 1987, J. Biol. Chem. 262, 8707-8711)が挙げられる。
<<自殺遺伝子>>は、本発明において、不活性物質(プロドラッグ)を細胞傷害性物質へと形質転換し、その結果として、細胞死を引き起こすことのできる発現産物をコードする遺伝子と定義することができる。TK HSV−1をコードする遺伝子は、自殺遺伝子ファミリーの典型的メンバーを構成している(Caruso et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 7024-7028; Culver et al., 1992, Science 256, 1550-1552)。TKポリペプチドは、それ自体は無毒であり、アシクロビルまたはガンシクロビルのようなヌクレオシド類似体(プロドラッグ)の形質転換を触媒する。形質転換されたヌクレオシドが、伸長プロセスにあるDNA鎖に組み込まれ、前記伸長の障害が起き、そのために細胞分裂の阻害が起こる。多数の自殺遺伝子/プロドラッグ組合せが、現在、利用可能である。より詳しく記載されているものが、ラットシトクロムp450およびシクロホスファミド(Wei et al., 1994, Human Gene Ther. 5, 969-978)、大腸菌プリンヌクレオシドホスホリラーゼおよび6−メチルプリンデオキシリボヌクレオシド(Sorscher et al., 1994, Gene Therapy 1, 223-238)、大腸菌グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼおよび6−チオキサンチン(Mzoz et al., 1993, Human Gene Ther. 4, 589-595)である。しかしながら、好ましい態様では、本発明のベクターは、プロドラッグ5−フルオロシトシン(5−FC)とともに使用できる、シトシンデアミナーゼ(CDアーゼ)活性もしくはウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ(UPRTアーゼ)活性を有するポリペプチドまたはCDアーゼ活性とUPRTアーゼ活性の両方を有するポリペプチドをコードする自殺遺伝子を含んでなる。好適なCDアーゼコード遺伝子としては、限定されるものではないが、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)FCY1遺伝子(Erbs et al., 1997, Curr. Genet. 31, 1-6; WO93/01281)および大腸菌codA遺伝子(EP4
02 108)が挙げられる。好適なUPRTアーゼコード遺伝子としては、限定されるものではないが、大腸菌(upp遺伝子; Anderson et al., 1992, Eur. J. Biochem. 204, 51-56)およびサッカロミセス・セレビシエ(FUR−1遺伝子; Kern et al., 1990, Gene 88, 149-157)由来のものが挙げられる。好ましくは、CDアーゼコード遺伝子がFCY1遺伝子由来のものであり、UPRTアーゼコード遺伝子がFUR−1遺伝子由来のものである。特に重要なことは、WO99/54481(引用することにより本明細書の一部とされる)に記載されている、CDアーゼ活性とUPRTアーゼ活性(FCU−1)の両方を有する2ドメイン酵素をコードする融合タンパク質の使用である。
特異的抗原は、好ましくは、特定の病原体(ウイルス、細菌、真菌または寄生虫)に対するまたは非自己抗原(例えば、腫瘍関連抗原)に対する、特異的および/または非特異的な、抗体および/または細胞媒介性免疫応答を与えやすいものである。好ましくは、選択された抗原がエピトープを含んでなり、そのエピトープがMHCクラスIタンパク質によって細胞表面と結合し、そこに存在する。特異的抗原の代表的な例としては、限定されるものではないが、以下のものが挙げられる:
・B型肝炎表面抗原の抗原は当技術分野では周知であり、それらとしては、とりわけ、欧州特許出願EP414 374;EP304 578およびEP198 474に記載されているPreS1、Pars2 S抗原が挙げられる。
・コア(C)、エンベロープ糖タンパク質E1、E2、非構造ポリペプチドNS2、NS3、NS4(NS4aおよび/もしくはNS4b)、NS5(NS5aおよび/もしくはNS5b)またはそれらのあらゆる組合せ(例えば、NS3とNS4、NS3とNS4とNS5b)からなる群から選択される免疫原性抗原またはその断片を含むC型肝炎ウイルスの抗原
・HIV−1ウイルスの抗原、特に、gp120およびgp160(WO87/06260に記載されている)。
・陰部疣贅(HPV6またはHPV11など)および子宮頸癌(HPV16、HPV18、HPV31、HPV−33など)と関連があると考えられているヒト乳頭腫ウイルス(HPV)由来の抗原。特に重要なHPV抗原は、E5、E6、E7、L1およびL2からなる群から個別にまたは組み合わせて選択される(例えば、WO94/00152、WO94/20137、WO93/02184、WO90/10459およびWO92/16636参照)。本発明において特に重要なものは、HPV関連癌に対する抗腫瘍効果を実現するのに特に好適な、早期HPV−16 E6および/またはE7抗原の膜結合型非発癌性変異体(WO99/03885に記載)である。
・マラリアの原因である寄生虫由来の抗原。例えば、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodia falciparum)由来の好ましい抗原としては、RTS(WO93/10152)およびTRAP(WO90/01496)が挙げられる。候補と考えられる他のマラリア原虫抗原は、熱帯熱マラリア原虫MSP1、AMA1、MSP3、EBA、GLURP、RAP1、RAP2、セキストリン、PfEMP1、Pf332、LSA1、LSA3、STARP、SALSA、PfEXP1、Pfs25、Pfs28、PFS27125、Pfs16、Pfs48/45、Pfs230および他のマラリア原虫(Plasmodium)種のそれらの類似体である。
・他の好適な抗原としては、前立腺癌、乳癌、結腸直腸癌、肺癌、膵臓癌、腎臓癌、肝臓癌、膀胱癌、肉腫癌または黒色腫癌に関連したもののような腫瘍関連抗原が挙げられる。典型的な抗原としては、MAGE1、3およびMAGE4または他のMAGE抗原(WO99/40188)、PRAME、BAGE、Lage(NY Eos1の別名でも知られる)SAGEならびにHAGE(WO99/53061)またはGAGE(Robbins and Kawakami, 1996. Current Opinions in Immunol. 8, pps 628-636)が挙げられる。他の好適な腫瘍関連抗原としては、前立腺特異的抗原(PSA)、PAP、PSCA、PSMAをはじめとするプロスターゼとして知られるものが挙げられる。プロスターゼヌクレオチド配列および推定ポリペプチド配列ならびにホモログは、Ferguson, et al. (1999, Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 96, 3114-3119)ならびにWO98/12302、WO98/20117およびWO00/04149に開示されている。他の好適な腫瘍関連抗原としては、BRCA−1、BRCA−2およびMUC−1のような乳癌に関連したもの(例えば、WO92/07000参照)が挙げられる。
本発明において使用される導入遺伝子は、選択された宿主細胞または生物体においてその構成的または誘導的な発現を可能にするために好適な調節エレメントの制御下に置かれる。このような調節エレメントの選択は、当業者が理解できる範囲にある。本発明の融合タンパク質の発現に関して以上で記載したように、構成的プロモーター、誘導プロモーター、腫瘍特異的プロモーターおよび組織特異的プロモーターからなる群から調節エレメントを選択することが好ましい。1つの例では、高度発現を確実にするために導入遺伝子がCMVプロモーターの制御下に置かれる。
本発明において使用される導入遺伝子は、ベクターのあらゆる位置に挿入することができる。1つの選択肢によれば、導入遺伝子を、好ましくは、本発明の核酸分子に接近して置かない。もう1つの選択肢によれば、導入遺伝子を、核酸分子に対してアンチセンス方向に置いて、2つの発現カセット間の転写干渉を避けてもよい。例えば、アデノウイルスゲノムにおいては、導入遺伝子を、本発明の核酸分子の異なる欠失領域(E1、E3および/またはE4)に挿入するか、または前記核酸分子と同じ欠失領域に、互いにアンチセンス方向に挿入することができる。
本発明の核酸分子のベクター骨格への導入は、あらゆる種類のベクターに関する技術分野において好適な遺伝子工学的戦略により、例えば、Sambrook et al. (2001, Molecular Cloning-A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory)に記載されている方法により進めることができる。一般に、核酸分子のアデノウイルスベクターへの導入では、融合物をコードする核酸分子を含んでなる細菌プラスミドを操作して、複製または構成に必要なアデノウイルス遺伝子(例えば、E1)を置換核酸分子と置き換える。次いで、そのプラスミドをシャトルベクターとして使用し、アデノウイルスゲノムの相補的部分を含有する第2のプラスミドと合わせて、2つのプラスミドにおけるアデノウイルス配列のオーバーラッピングによって起こる相同組換えを可能にする。組換えは、好適な哺乳類宿主(Graham and Prevect, 1991, Methods in Molecular Biology, Vol 7 “Gene Transfer and Expression Protocols”; Ed E. J. Murray, The Human Press Inc, Clinton, NJに記載されている293など)あるいは酵母YACクローンまたは大腸菌(WO96/17070に記載されている)において直接行われ得る。完成したアデノウイルスゲノムを、続いて、複製およびウイルスキャプシド形成のために哺乳類宿主細胞にトランスフェクトする。
本発明はまた、特定の標的細胞の選択的ターゲッティングを可能にするよう改変した本発明のベクターまたはその粒子も包含する。本発明の標的化ベクター/粒子(ウイルス起源および非ウイルス起源のいずれものもの、例えば、ポリマーベクター複合体および脂質ベクター複合体)の独特の特徴は、細胞成分および表面露出成分を認識し、その成分と結合し得る標的化部分がそれらの表面に存在することである。このような標的化部分としては、限定されるものではないが、化学的コンジュゲート、脂質、糖脂質、ホルモン、糖、ポリマー(例えば、PEG、ポリリジン、PEIなど)、ペプチド、ポリペプチド(例えば、WO94/40958に記載されているJTS1)、オリゴヌクレオチド、ビタミン、抗原、レクチン、抗体およびそのフラグメントが挙げられる。それらは、好ましくは、細胞特異的マーカー、組織特異的マーカー、細胞受容体、ウイルス抗原、抗原エピトープまたは腫瘍関連マーカーを認識し、それと結合し得る。これに関連して、アデノウイルスの細胞ターゲッティングは、ウイルスの表面に存在するキャプシドポリペプチド(例えば、ファイバー、ペントンおよび/またはpIX)をコードするウイルス遺伝子の遺伝子改変によって行うことができる。このような改変の例は、文献に記載されている(例えば、Wickam et al., 1997, J. Virol. 71, 8221-8229; Arnberg et al., 1997, Virol. 227, 239-244; Michael et al., 1995, Gene Therapy 2, 660-668; WO94/10323、EP02 360204およびWO02/96939に記載されている)。例としては、EGFをコードする配列を、アデノウイルスファイバーをコードする配列内に挿入して、EGF受容体を発現する細胞に標的化させる。ポックスウイルス親和性の改変もEP1 146 125に記載されているように行うことができる。細胞特異的ターゲッティングについての他の方法は、ウイルス粒子の表面にある標的化部分の化学的コンジュゲーションにより行うことができる。
もう1つの態様では、本発明は、以上で記載した本発明の核酸分子またはベクターを含んでなる感染性ウイルス粒子に関する。
本発明はまた、感染性ウイルス粒子を作製するための手順であって、
(a)本発明のウイルスベクターを好適な細胞系統に導入する工程、
(b)前記感染性ウイルス粒子を作製させるために、前記細胞系統を好適な条件下で培養する工程、および
(c)前記細胞系統の培養物から作製された感染性ウイルス粒子を回収する工程、さらに
(d)所望により、前記回収された感染性ウイルス粒子を精製する工程
を含んでなる手順にも関する。
本発明の核酸分子を含有するベクターは、当業者には容易に利用可能な周知の技術を用いて増殖または発現に好適な細胞系統に導入することができる。これらの技術としては、限定されるものではないが、微量DNAの細胞の核へのマイクロインジェクション(Capechi et al., 1980, Cell 22, 479-488)、CaPO4によるトランスフェクション(Chen and Okayama, 1987, Mol. Cell Biol. 7, 2745-2752)、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション(Chu et al., 1987, Nucleic Acid Res. 15, 1311-1326)、リポフェクション/リポソーム融合(Felgner et al., 1987, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84, 7413-7417)、粒子衝撃(Yang et al., 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87, 9568-9572)、遺伝子銃、形質導入、感染(例えば、感染性ウイルス粒子による)およびSambrook, et al. (Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor、N. Y., 2001)に見られるような他の技術が挙げられる。
本発明のベクターが欠損している場合には、感染粒子を、通常、相補的に作用する細胞系統において作製するかまたはヘルパーウイルスの使用を介して作製し、途中で非機能的ウイルス遺伝子を補う。例えば、アデノウイルスベクターを補うのに好適な細胞系統としては、293細胞(Graham et al., 1997, J. Gen. Virol. 36, 59-72)ならびにE1機能を補うのに一般的に使用されるPER−C6細胞(Fallaux et al., 1998, Human Gene Ther. 9, 1909-1917)が挙げられる。二重欠損アデノウイルスベクターを補うように操作された他の細胞系統もある(Yeh et al., 1996, J. Virol. 70, 559-565; Krougliak and Graham, 1995, Human Gene Ther. 6, 1575-1586; Wang et al., 1995, Gene Ther. 2, 775-783; Lusky et al., 1998, J. Virol. 72, 2022-2033; WO94/28152およびWO97/04119)。感染性ウイルス粒子は、培養上清から回収することができ、溶解後、細胞からも回収でき、所望により、標準的な技術(例えばWO96/27677、WO98/00524、WO98/22588、WO98/26048、WO00/40702、EP1016700およびWO00/50573に記載されているクロマトグラフィー、塩化セシウム勾配超遠心分離法)によってさらに精製される。
本発明はまた、本明細書において記載する本発明の核酸分子、ベクターまたは感染性ウイルス粒子を含んでなる宿主細胞にも関する。本発明の目的では、「宿主細胞」とは、組織、器官または単離細胞の特定の組織体に関する、限定されることなく広く理解すべき用語である。このような細胞は、特異な種類の細胞に属するものであってよいし、または様々な種類の細胞群であってもよく、培養細胞系、一次細胞および増殖性細胞を包含する。
よって、宿主細胞としては、原核細胞、酵母のような下等真核細胞ならびに昆虫細胞、植物および高等真核細胞(例えば、脊椎動物細胞)のような他の真核細胞が挙げられるが、哺乳類(例えば、ヒトまたは非ヒト)細胞が特に好ましい。好適な哺乳類細胞としては、限定されるものではないが、造血細胞(全能性幹細胞、白血球、リンパ球、単球、マクロファージ、APC、樹状細胞、非ヒト細胞など)、肺細胞、気管細胞、肝細胞、上皮細胞、内皮細胞、筋細胞(例えば、骨格筋、心筋または平滑筋)または繊維芽細胞が挙げられる。好ましい宿主細胞としては、大腸菌、バチルス属(Bacillus)、リステリア属(Listeria)、サッカロミセス属(Saccharomyces)、BHK(ベビーハムスター腎臓)細胞、MDCK細胞(Madin−Darbyイヌ腎臓細胞系統)、CRFK細胞(Crandellネコ腎臓細胞系統)、CV−1細胞(アフリカザル腎臓細胞系統)、COS(例えば、COS−7)細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、マウスNIH/3T3細胞、HeLa細胞およびVero細胞が挙げられる。宿主細胞は、上記のもののような本発明の複製欠損ベクター(例えば、アデノウイルスベクター)の少なくとも1つの欠損機能を補い得る相補的に作用する細胞も包含する。
本発明の宿主細胞は、2以上の本発明の核酸分子、ベクターまたは感染性ウイルス粒子を含んでもよい。さらに、本発明の宿主細胞は、導入遺伝子、例えば、上記のような導入遺伝子をコードするベクターをさらに含んでなってもよい。2以上の核酸分子、ベクターまたは感染性ウイルス粒子を細胞に導入する場合、核酸分子、ベクターまたは感染性ウイルス粒子を個別に導入してもよいし、または同時に導入してもよい。
さらに、特定の態様によれば、本発明の宿主細胞をさらにカプセル封入することができる。細胞カプセル封入技術は、これまでに記載されているものである(Tresco et al., 1992, ASAIO J. 38, 17-23; Aebischer et al., 1996, Human Gene Ther. 7, 851-860)。前記特定の態様によれば、トランスフェクト真核宿主細胞または感染真核宿主細胞を、微多孔膜を形成する化合物を用いてカプセル封入し、前記カプセル封入された細胞をさらにin vivo移植することができる。目的の細胞を含有するカプセルを、一方で、移植された細胞の宿主細胞との接触を妨げながら、タンパク質と栄養素とがカプセル内外を自由に通過するのに適した分子量カットオフを有する中空微多孔膜を使用して調製してもよい(例えば、Akzo Nobel Faser AG, Wuppertal, Germany; Deglon et al. 1996, Human Gene Ther. 7, 2135-2146)。
本発明のさらなる態様は、本発明のベクター、感染性ウイルス粒子および/または宿主細胞を使用して融合タンパク質を組換えにより作製するための方法である。融合タンパク質を作製するための方法は、本発明のベクターまたは感染性ウイルス粒子を好適な宿主細胞に導入すること、トランスフェクト宿主細胞または感染宿主細胞を産生すること、前記トランスフェクト宿主細胞または感染宿主細胞を宿主細胞の増殖に好適な条件下でin-vitro培養すること、および、その後、前記培養物から前記融合タンパク質を回収すること、さらに、所望により、前記回収された融合タンパク質を精製することを含む。当業者ならば、好適な宿主細胞における本発明の融合タンパク質の発現に利用可能な数多くの発現系を熟知しているであろう。
本発明の宿主細胞は、好ましくは、宿主細胞を、1以上の本発明の核酸分子を含んでなる1以上の組換え分子(例えば、本発明のベクター)でトランスフェクトする/に感染させることにより作製される。組換えDNA技術を利用して、例えば、宿主細胞内の核酸分子のコピー数、核酸分子が転写される効率、得られた転写物が翻訳される効率、翻訳後修飾の効率および好適な選択の使用を操作することにより、宿主細胞における核酸分子の発現を高めてもよい。本発明の核酸分子の発現を増強するのに有用な組換え技術としては、限定されるものではないが、高コピー数ベクターの使用、ベクター安定配列の付加、1以上の転写調節配列(例えば、プロモーター、オペレーター、エンハンサー)の置換または修飾、翻訳調節配列(例えば、リボソーム結合部位、シャイン・ダルガルノ配列)の置換または修飾、宿主細胞のコドン使用頻度に対応するための本発明の核酸分子の修飾および転写物を不安定にする配列の欠失が挙げられる。
本発明の宿主細胞は、従来の発酵バイオリアクター、フラスコおよびペトリ板で培養させることができる。培養は、特定の宿主細胞に好適な温度、pHおよび酸素含有量で実施することができる。原核細胞および真核細胞におけるタンパク質の発現について知られる種々の方法をここで詳細に記載しようとしているのではない。1つの態様において、ベクターは、好適な調節エレメントと関連して作用する、融合物をコードする核酸分子を含有するプラスミドである。本発明の方法において使用される好ましい宿主細胞は、哺乳類細胞系統、酵母細胞および細菌細胞である。
融合タンパク質が生成細胞外に分泌されない場合、または融合タンパク質が完全には分泌されない場合には、凍結融解、超音波処理、機械的破砕、溶解剤の使用などをはじめとする標準的な破砕手法により細胞から回収することができる。分泌される場合には、培養培地から直接回収することができる。こうして、融合タンパク質を回収し、硫酸アンモニウム沈降、酸抽出、ゲル電気泳動、逆相クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、レクチンクロマトグラフィーまたは高速液体クロマトグラフィーをはじめとする周知の精製方法により精製することができる。本発明の特定の融合タンパク質を精製するのに使用される条件および技術は、合成方法および正味電荷、分子量、疎水性、親水性のような因子によって異なるが、当業者には明らかであろう。さらに当然のことながら、本明細書において記載する融合タンパク質の組換え生産に使用される宿主細胞に応じて、融合タンパク質が多様なグリコシル化パターンを有し得るか、またはグリコシル化されていないことがある(例えば、細菌で生産させる場合)。さらに、宿主媒介手順を受けて、融合タンパク質が開始メチオニンを含んでいる場合がある。
本発明の融合タンパク質は、細胞物質を実質的に含まない程度まで精製することができる。精製レベルは、使用目的に応じたものとする。調製物は、他の成分がかなりの量で存在していても融合タンパク質の所望の機能を可能にするものという重大な特徴がある。一部の用途では、「細胞物質を実質的に含まない」とは、約30%未満(乾燥重量で)の他のタンパク質(すなわち、夾雑タンパク質)を含有する融合タンパク質、好ましくは、約20%未満の他のタンパク質、より好ましくは、約10%未満の他のタンパク質、あるいはさらに好ましくは、約5%未満の他のタンパク質を含有する融合タンパク質の調製物を含む。融合タンパク質を組換えにより生産すると、その融合タンパク質は培養培地も実質的に含みまない、すなわち、培養培地は、タンパク質調製物量の約20%未満である。
もう1つの態様では、本発明は、有効量の、本発明の融合タンパク質、発現ベクター、感染性ウイルス粒子、宿主細胞またはそれらのあらゆる組合せ(本明細書では「活性剤」とも呼ぶ)、および、所望により、医薬上許容されるビヒクルを含んでなる医薬組成物を提供する。特別な場合では、組成物が、(i)コードされる融合タンパク質の性質が異なりかつ/または(ii)融合タンパク質の発現に使用される調節配列の性質が異なりかつ/または(iii)導入遺伝子が追加的に存在することが異なり、かつ/または(iv)ベクター骨格が異なる2以上の活性剤を含んでなってよい。
本発明の組成物は、前記組成物を全身投与、局所投与および局在化投与をはじめとする種々の投与様式により投与することによって、疾患にかかりやすいか、または疾患を患っている哺乳動物を防御または治療するために使用し得る。全身投与では、注射、例えば、皮下注射、皮内注射、筋肉注射、静脈注射、腹腔内注射、髄腔内注射、心腔内注射(例えば、経心内膜および心膜)、腫瘍内注射、腟内注射、肺内注射、鼻腔内注射、気管内注射、血管内注射、動脈内注射、冠動脈内注射、脳室内注射、経皮的(局所的)注射またはリンパ節内への直接注射が好ましい。筋肉内投与、皮内投与、静脈内投与または腫瘍内投与が全身投与に好ましい経路となる。また、本発明の組成物を、経口/食事性経路、経鼻経路、気管内経路、腟内経路または直腸内経路のような粘膜経路を介して投与してもよい。好ましい粘膜投与経路は、経鼻経路または気管内経路を介するものである。
本明細書において、「医薬上許容されるビヒクル」とは、医薬投与に適合するあらゆる担体、溶媒、希釈剤、賦形剤、アジュバント、分散媒、コーティング剤、抗菌薬および抗真菌薬ならびに吸収遅延剤などを含むものとする。
適切には、本発明の医薬組成物は、ヒトまたは動物生物体への注射によるその送達に好適な担体および/または希釈剤を含んでなる。このような担体および/または希釈剤は、使用する用量および濃度において無毒である。このような担体および/または希釈剤は、組成物を非経口投与用に単回投与型または複数回投与型のいずれかに、または持続注入もしくは定期的注入による直接注入用に製剤するのに通常使用されるものから選択される。このような担体および/または希釈剤は、好ましくは、等張性、低張性または弱高張性であり、糖、ポリアルコールおよび等張性食塩水によって提供されるような比較的低いイオン強度を有している。代表的な例としては、滅菌水、生理食塩水(例えば、塩化ナトリウム)、静菌水、リンガー溶液、グルコースまたはサッカロース溶液、ハンクス溶液および他の水性生理的平衡塩類溶液(例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, A. Gennaro, Lippincott, Williams & Wilkinsの最新版参照)が挙げられる。本発明の組成物のpHは、ヒトまたは動物での使用に好適であるように適切に、好ましくは、生理的または弱塩基性pH(約pH8〜約pH9の間、特に好ましくはpH8.5)に調整され、中和される。好適なバッファーとしては、リン酸バッファー(例えば、PBS)、重炭酸バッファーおよび/またはTrisバッファーが挙げられる。特に好ましい組成物は、1Mサッカロース、150mM NaCl、1mM MgCl2、54mg/l Tween80、10mM Tris pH8.5で製剤される。もう1つの好ましい組成物は、10mg/mlマンニトール、1mg/ml HSA、20mM Tris,pH7.2,および150mM NaClで製剤される。これらの組成物は、−70℃にて少なくとも6ヶ月間安定している。
本発明の組成物は、種々の形態、例えば、固体(例えば、粉末、凍結乾燥形態)または液体(例えば、水性)であり得る。固体組成物の場合、好ましい調製方法は、真空乾燥および凍結乾燥であり、この方法により、予め滅菌濾過した活性剤と所望のあらゆる追加成分との溶液から、その粉末が得られる。このような溶液は、必要に応じて、注射用滅菌水の添加による再構成が可能な滅菌アンプルで保存することができる。
ネブライザーまたはエアゾール製剤もまた、本発明の一部である。鼻腔内投与の方法は当技術分野では周知であり、好適な噴射剤、例えば、二酸化炭素のようなガスの入った加圧容器またはディスペンサー、あるいはネブライザーから、液滴、スプレーまたは乾燥粉末形態の組成物を治療すべき個体の鼻咽頭に投与することなどがある(例えば、WO95/11664参照)。経口投与用の胃耐性カプセル剤および顆粒剤のような腸溶性製剤、直腸投与または膣投与用の坐剤もまた、本発明の一部である。非経口投与では、組成物が粘膜の孔の大きさを増大させる吸収促進剤も含み得る。このような吸収促進剤としては、デオキシコール酸ナトリウム、グリココール酸ナトリウム、ジメチル−β−シクロデキストリン、ラウロイル−1−リソホスファチジルコリンおよび粘膜のリン脂質ドメインと構造類似性を有する他の物質が挙げられる。
組成物は、例えば、製剤のpH、浸透圧、粘度、清澄度、色、無菌性、安定性、溶解速度を改変または維持する、ヒトまたは動物生物体への放出または吸収を改変または維持するといった所望の薬剤学的特性または薬物動態学的特性を提供するために、他の医薬上許容される賦形剤も含み得る。例えば、ポリエチレングリコールのようなポリマーを使用して、溶解度、安定性、半減期の所望の特性および他の医薬上有利な特性を得てもよい(Davis et al., 1978, Enzyme Eng. 4, 169-173; Burnham et al., 1994, Am. J. Hosp. Pharm. 51, 210-218)。安定化成分の代表的な例としては、ポリソルベート80、L−アルギニン、ポリビニルピロリドン、トレハロースおよびそれらの組合せが挙げられる。プラスミドに基づく組成物に特に好適な他の安定化成分としては、ヒアルロニダーゼ(WO98/53853に記載されているように、宿主細胞の細胞外基質を不安定にすると考えられている)、クロロキン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロール、エタノール、1−メチルL−2−ピロリドンまたはその誘導体のようなプロトン性化合物、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジエチルスルホキシド、ジ−n−プロピルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホラン、ジメチル−ホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、アセトニトリル(EP890 362参照)のような非プロトン性化合物、アクチンG(WO99/56784)のようなヌクレアーゼ阻害剤ならびにマグネシウム(Mg2+)(EP998 945)およびリチウム(Li+)(WO01/47563)のようなカチオン塩とそのあらゆる誘導体が挙げられる。本発明の組成物におけるカチオン塩の量は、好ましくは、約0.1mM〜約100mMの間であり、なおさらに好ましくは、約0.1mM〜約10mMの間である。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトールおよびデキストランが挙げられる。組成物は、血液関門または特定の器官の膜を通じた浸透または輸送を促進する当技術分野で公知の物質も含み得る(例えば、トランスフェリン受容体に対する抗体; Friden et al., 1993, Science 259, 373-377)。ポリリジンとラクトースのゲル複合体(Midoux et al., 1993, Nucleic Acid Res. 21, 871-878)またはポロキサマー407(Pastore, 1994, Circulation 90, I-517)を使用して、動脈細胞内での投与を容易にすることができる。
本発明の組成物は、ヒトにおける全身適用または粘膜適用に好適な1以上のアジュバントを含んでなってもよい。有用なアジュバントの代表的な例としては、限定されるものではないが、ミョウバン、フロイントの完全アジュバントおよび不完全アジュバントのような鉱油エマルション、リポ多糖類またはその誘導体(Ribi et al., 1986, Immunology and Immunopharmacology of Bacterial Endotoxins, Plenum Publ. Corp., NY, p407-419)、QS21(Sumino et al., 1998, J. Virol. 72, 4931-4939; WO98/56415)、エスシン、ジギトニン、ジプソフィラ属(Gypsophila)またはキノア(Chenopodium quinoa)サポニンのようなサポニンが挙げられる。また、本発明の組成物を、キトサンまたは他のポリカチオン性ポリマー、ポリラクチドおよびポリラクチド−コ−グリコリド粒子、ポリ−N−アセチルグルコサミン系ポリマーマトリックス、ポリ糖類または化学改変型ポリ糖類からなる粒子、ならびに脂質系粒子他からなる従来のワクチンビヒクルとともに製剤してもよい。また、組成物を、リポソームのような粒子構造を形成させるために、コレステロールの存在下で製剤してもよい。
組成物は、特に、動物またはヒト生物体における免疫応答を増強するのに有効な量で患者に投与され得る。本明細書において、<<有効な量>>とは、所望の生物学的作用を実現するのに十分な量を指す。例えば、免疫応答を増強するのに有効な量は、免疫系の活性化をもたらし、例えば、その結果として、癌患者における抗腫瘍反応(例えば、組成物が注入された腫瘍および/または遠位の腫瘍のサイズ縮小または退縮)を起こすのに必要な量でもあり得る。適切な用量は、特定の活性剤の薬力学的特性、宿主生物体の年齢、健康状態および重量;治療すべき状態、症状の性質および程度、併用治療の種類、治療頻度、予防もしくは治療の必要性ならびに/または所望の効果のような既知因子に応じて変動し得る。用量は、選択された特定の投与経路に応じても算出される。通常、医師により、関連した状況に照らして、治療に適切な用量を決定するのに必要な計算にさらなる改善が行われる。一般的指針では、ウイルス(例えば、アデノウイルス)粒子に基づく組成物は、104〜1014iuの間(感染単位)、有利には105〜1013iuの間、好ましくは、106〜1012iuの間の用量で製剤することができる。力価は、従来の技術によって決定され得る。ベクタープラスミドに基づく組成物は、1μg〜100mgの間、有利には10μg〜10mgの間、好ましくは、100μg〜1mgの間の用量で製剤することができる。タンパク質に基づく組成物は、10ng〜100mgの間の用量で製剤することができる。好ましい用量は、体重kg当たり治療用タンパク質約1μg〜約10mgである。投与は、単回用量か、または一定の時間間隔をおいて1回または数回繰り返す用量で行ってよい。1つの好ましい態様では、本発明の組成物が、従来のシリンジおよび注射針、または固体組成物の衝撃送達用に設計された装置(WO99/27961)、あるいは注射針不要の加圧液体ジェット装置(米国特許第4,596,556号;同第5,993,412号)を用いて注射により投与される。
本発明の組成物は、ガラスもしくはプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジまたは複数回用量型バイアルに封入することができる。いずれの場合でも、組成物は、滅菌済のものでなければならず、容易に注射可能な程度に流体であるべきである。組成物は、製造および保存条件下で安定でなければならず、細菌および真菌のような微生物の汚染作用から保護しなければならない。滅菌注射剤は、必要量の活性剤(例えば、融合タンパク質または感染粒子)を以上に列挙した1成分または成分の組合せとともに導入し、続いて、滅菌濾過することにより調製することができる。
本発明の医薬組成物は、遺伝的疾患、先天性疾患、ならびに感染症(例えば、ウイルス感染および/または細菌感染)、癌、免疫不全症および自己免疫疾患のような後天性疾患をはじめとする種々の疾患および病態を治療または予防するための方法に使用し得る。よって、本発明はまた、このような疾患、特に癌または感染症を治療または予防することを目的とする薬剤の調製のための、本発明の融合タンパク質、ベクター、感染性ウイルス粒子、宿主細胞または組成物の使用も包含する。
本発明の組成物は、特に、癌に関連する障害、症状または疾患の予防的または治癒的治療を目的としている。「癌」とは、広汎性または限局性腫瘍、転移、癌性ポリープおよび前新生物(例えば、形成異常)ならびに望まれていない細胞増殖が原因で起こる疾患を含むあらゆる担癌状態を包含する。本明細書において記載する方法に従う治療には種々の腫瘍が選択され得る。一般に、固形腫瘍が好ましい。本発明において意図される癌としては、限定されるものではないが、膠芽腫、肉腫、黒色腫、肥満細胞腫、癌腫ならびに乳癌、前立腺癌、精巣癌、卵巣癌、子宮内膜癌、子宮頸癌(特に、乳頭腫ウイルスに起因するもの)、肺癌(例えば、大細胞癌、小細胞癌、扁平上皮癌および腺癌を含む肺癌)、腎臓癌、膀胱癌、肝臓癌、結腸癌、肛門癌、膵臓癌、胃癌、消化管癌、口腔癌、喉頭癌、脳癌およびCNS癌、皮膚癌(例えば、黒色腫および非黒色腫)、血液癌(リンパ腫、白血病、特にそれらが固体塊として発現した場合)、骨癌、網膜芽細胞腫ならびに甲状腺癌が挙げられる。本発明の使用の1つの好ましい態様では、組成物が固形腫瘍内にまたは固形腫瘍に接近して投与される。
他の病的疾患および症状、特に、真菌、細菌、原虫およびウイルスのような病原体による感染と関わりのある感染症も、本発明において意図されている。ウイルス病原体の代表的な例としては、限定されるものではないが、ヒト免疫不全ウイルス(例えば、HIV−1またはHIV−2)、ヒトヘルペスウイルス(例えば、HSV1またはHSV2)、サイトメガロウイルス、ロタウイルス、エプスタインバーウイルス(EBV)、肝炎ウイルス(例えば、B型肝炎ウイルス、A型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスおよびE型肝炎ウイルス)、水痘−帯状疱疹ウイルス(VZV)、パラミクソウイルス、コロナウイルス;呼吸器合胞体ウイルス、パラインフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、フラビウイルス属(Flavivirus)(例えば、黄熱病ウイルス、デング熱ウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、日本脳炎ウイルス)、インフルエンザウイルス、好ましくは、ヒト乳頭腫ウイルス(例えば、HPV−6、11、16、18、31、33)が挙げられる。病原菌の代表的な例としては、ナイセリア属(Neisseria)(例えば、淋菌(N. gonorrhea)および髄膜炎菌(N. meningitides));ボルデテラ属(Bordetella)(例えば、百日咳菌(B. pertussis)、パラ百日咳菌(B. parapertussis)および気管支敗血症菌(B. bronchiseptica))、マイコバクテリア属(Mycobacteria)(例えば、結核菌(M. tuberculosis)、ウシ結核菌(M. bovis)、らい菌(M. leprae)、鳥結核菌(M. avium)、パラ結核菌(M. paratuberculosis)、スメグマ菌(M. smegmatis));レジオネラ属(Legionella)(例えば、レジュネラ・ニューモフィラ菌(L. pneumophila));エシェリキア属(Escherichia)(例えば、毒素原性大腸菌(enterotoxic E. coli)、腸管出血性大腸菌(Enterohemorragic E. coli)、腸管病原性大腸菌(enteropathogenic E. coli));ビブリオ属(Vibrio)(例えば、コレラ菌(V. cholera));赤痢菌属(Shigella)(例えば
、ソンネ赤痢菌(S. sonnei)、志賀赤痢菌(S. dysenteriae)、フレクスナー赤痢菌(S. flexnerii));サルモネラ属(Salmonella)(例えば、チフス菌(S. typhi)、パラチフス菌(S. paratyphi)、豚コレラ菌(S. choleraesuis)、腸炎菌(S. enteritidis));リステリア属(Listeria)(例えば、リステリア菌(L. monocytogenes));ヘリコバクター属(Helicobacter)(例えば、ピロリ菌(H. pylori));シュードモナス属(Pseudomonas)(例えば、緑膿菌(P. aeruginosa));ブドウ球菌属(Staphylococcus)(例えば、黄色ブドウ球菌(S. aureus)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis));腸球菌属(Enterococcus)(例えば、大便連鎖球菌(E. faecalis)、E.フェシウム(E. faecium))、クロストリジウム属(Clostridium)(例えば、破傷風菌(C. tetani)、ボツリヌス菌(C. botulinum)、C.ディフィシレ(C. difficile));バチルス属(Bacillus)(例えば、炭疽菌(B. anthracis));コリネバクテリウム属(Corynebacterium)(例えば、ジフテリア菌(C. diphtheriae))およびクラミジア属(Chlamydia)(例えば、トラコーマクラミジア(C. trachomatis)、C.ニューモニエ(C. pneumoniae)、オウム病クラミジア(C. psittaci))が挙げられる。寄生虫病原体の代表的な例としては、マラリア原虫属(Plasmodium)(例えば、熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum))、トキソプラズマ属(Toxoplasma)(例えば、トキソプラスマ原虫(T. gondii))リーシュマニア属(Leishmania)(例えば、大形リーシュマニア(L. major))、ニューモシスチス属(Pneumocystis)(例えば、P.カリニ(P. carinii))、トリコモナス属(Trichomonas)(例えば、腟トリコモナス(T. vaginalis))、住血吸虫属(Schisostoma)(例えば、マンソン住血吸虫(S. mansoni))が挙げられる。真菌の代表的な例としては、カンジダ属(Candida)(例えば、C.アルビカンス(C. albicans))およびアスペルギルス属(Aspergillus)が挙げられる。
自己免疫疾患の例としては、限定されるものではないが、多発性硬化症(MS)、硬皮症、慢性関節リウマチ、自己免疫性肝炎、真性糖尿病、潰瘍性大腸炎、重症筋無力症、全身性紅斑性狼瘡、グレーブズ病、特発性血小板減少性紫斑病、溶血性貧血、多発性筋炎/皮膚筋炎、橋本病、自己免疫性血球減少症、シェーグレン症候、血管炎症候群および薬剤誘発性自己免疫疾患(例えば、薬剤誘発性エリテマトーデス)が挙げられる。
さらに、上記のように、本発明の融合タンパク質、核酸分子、ベクター、感染粒子、宿主細胞および/または組成物をアジュバントとして使用して、特定の抗原に対する動物またはヒト生物体の免疫応答を増強することができる。本発明のこの特定の使用を、例えば、免疫療法を目的として、以上で定義した1以上の導入遺伝子または導入遺伝子産物と組み合わせて行ってもよい。好ましくは、活性剤(例えば、本発明の融合タンパク質、感染粒子または医薬組成物)を、1以上の導入遺伝子または導入遺伝子産物と組み合わせて投与する。従って、導入遺伝子産物(例えば、ウイルス抗原または自殺遺伝子産物)と融合タンパク質を組み合わせて含んでなる組成物、ならびに導入遺伝子産物をコードするベクターまたはウイルス粒子と融合タンパク質を含んでなる組成物もまた提供されることが好ましい。導入遺伝子と融合物をコードする核酸配列は、同じベクターから発現され得るし、または同じ起源を有していても(例えば、アデノウイルスベクター)、異なる起源を有していてもよい別のベクター(例えば、特定の抗原をコードするMVAベクターと融合タンパク質をコードするアデノウイルスベクター)からも発現され得る。融合タンパク質と導入遺伝子産物(またはそれら各々のコーディングベクター)は、宿主細胞または生物体に粘膜経路および/または全身経路を介して、同時にまたは逐次に導入することができる。
本発明において好ましい組合せは、(i)配列番号1〜19のいずれかで示されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質、および(ii)HPV抗原(これに関連して特に好ましくは、HPV−16の非発癌性膜結合型早期抗原である)を含んでなるか、またはそれらをコードする組成物の使用である。例えば、宿主生物体を、本発明の融合タンパク質を発現するベクターで処置し、さらに、非発癌性膜結合型HPV−16 E7変異体またはそれを発現するベクターのいずれかで処置することができる。あるいは、宿主生物体を、本発明の融合タンパク質で処置し、さらに、非発癌性膜結合型HPV−16
E7変異体またはそれを発現するベクターのいずれかで処置してもよい。好ましくは、本発明の融合タンパク質がアデノウイルスベクターによってコードされ、HPV抗原がMVAベクターによってコードされる。これに関して、宿主生物体には、本発明の融合タンパク質をコードするアデノウイルスベクターを最初に投与し、1日〜2ヶ月の期間経過後に、続いて、同じ宿主生物体に免疫原性HPV抗原をコードするMVAベクターを投与する。融合タンパク質をコードするアデノウイルスベクターを粘膜経路により投与し、一方、MVAベクターを皮下経路により注入することが好ましい。これに関連して、融合タンパク質をコードする配列と非発癌性膜結合型HPV−16 E7変異体をコードする配列の両方を含有する独特のベクターを含んでなる組成物も想定し得る。特定の抗原またはそれを発現するベクターの追加接種を、最初の投与から約2週間〜数年後に実施することもできる。
本発明においてもう1つの好ましい組合せは、(i)配列番号1〜19のいずれかで示されるアミノ酸配列を有する融合タンパク質またはそれをコードするベクター、および(ii)FCU−1遺伝子産物をコードするベクター(WO99/54481に記載されているCdアーゼ−UPRTアーゼ融合物)の使用である。好ましくは、本発明の融合タンパク質がアデノウイルスベクターによってコードされ、FCU−1遺伝子産物がMVAベクターによってコードされる。これに関して、宿主生物体には、両方のベクターを、例えば、腫瘍内注射により同時投与することができるし、または短時間のうちに逐次投与することもできる。その後、両ベクターの投与の翌日または翌週、宿主生物体にプロドラッグ5−FCを施与する。
本発明はまた、ヒトまたは動物生物体の治療のための方法であって、前記生物体に治療上有効な量の本発明の融合タンパク質、ベクター、感染性ウイルス粒子、宿主細胞または組成物を投与することを含む方法も提供する。本明細書において「治療上有効な量」とは、治療することが望まれる疾患または症状に伴って通常起こる1以上の症状の緩和に十分な用量である。予防的使用に関しては、この用語は疾患または症状の確立を妨げるか、あるいは遅延するのに十分な用量を意味する。
本発明の方法は、以上に挙げた疾患または症状に関する予防目的で使用することができ、治療用途でも使用することができる。当然のことながら、本方法は、種々のアプローチのいずれによっても行える。このため、本発明の融合タンパク質、ベクター、感染性ウイルス粒子、宿主細胞または組成物を、以上に列挙したもののような任意の従来の生理学上許容される投与経路により、この投与経路に適した特異的送達手段を用いてin vivoで直接投与することができる。血管の透過性を高めた後に活性剤の投与を行うことが有利である。この透過性の上昇は、静水圧(すなわち、流出および/または流入を妨げることにより)、浸透圧(すなわち、高張液を用いて)を上昇させることによりおよび/または好適な薬剤(例えば、ヒスタミン;WO98/58542)を使用することにより得られ得る。
また、ex vivoで本発明の活性剤を含有するように操作した真核宿主細胞を使用してもよい。トランスフェクト/感染細胞をin vitroで増殖させた後、それを患者に再導入する。本発明においては、カプセル封入した宿主細胞の移植も可能である(Lynch et al, 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89, 1138-1142)。ex-vivo感染細胞は、自己細胞または異種細胞、例えば、1被験体または治療しようとする被験体と同様の状態にある複数の被験体から得られた異種細胞、のいずれかであり得る。それらの細胞は、単一細胞型のものまたは混合細胞型のものであり得る、例えば、それらが臨床腫瘍サンプルから確立された1細胞系統の細胞を含んでいる場合、または複数の細胞系統の細胞を含んでいる場合がある。投与用の細胞を、好ましくは、投与の前に、例えば、照射により不活性化することができる。それらの細胞のうち、このように有効に処置し得るものは、例えば、ヒトまたは非ヒト生物体の悪性細胞である(R Jurecic et al, ch 2, pp 7-30 in `Somatic Gene Therapy` CRC Press 1995, ed. P. L. Chang参照)。
動物またはヒト生物体において免疫応答を増強する本発明の活性剤または組成物の有効性は、限定されるものではないが、処置した生物体内の細胞性免疫の検出、リンパ球または樹状細胞活性の測定、免疫グロブリンレベルの検出、抗原提示細胞の活性の測定、処置した生物体が耐病性を有するかどうかの判定に好適な感染性因子または腫瘍誘発因子による処置した生物体の樹状細胞の発生または攻撃誘発の測定をはじめとする種々の方法により試験することができる。1つの態様において、治療用組成物はマウスのような動物モデルで試験することができる。このような技術は当業者には公知である。
上記のように、本発明の方法は、特に、癌の治療のために腫瘍増殖の阻害または腫瘍退縮を提供することを目的とする。例えば、腫瘍阻害は、実際の腫瘍サイズをある期間にわたって測定することにより判定してもよい。さらに詳しく言えば、種々の放射線画像検査法(例えば、単光子およびポジトロン放出断層撮影法;一般に、"Nuclear Medicine in Clinical Oncology," Winkler, C. (ed.) Springer-Verlag, New York, 1986参照)を利用して、腫瘍サイズを測定してもよい。このような方法では、例えば、従来の造影剤(例えば、クエン酸ガリウム−67)だけでなく、代謝産物または受容体画像もしくは免疫学的画像に特化した試薬(例えば、特異的腫瘍マーカーに向けられた放射性標識モノクローナル抗体)も含む種々の造影剤も利用してよい。さらに、超音波("Ultrasonic Differential Diagnosis of Tumors", Kossoff and Fukuda, (eds.), Igaku-Shoin, New York, 1984参照)のような非放射性方法を使用して、腫瘍のサイズを測定してもよい。また、腫瘍増殖の阻害は、腫瘍マーカーの存在下での変化に基づいて判定することができる。例としては、前立腺癌検出用のPSAおよび結腸直腸および特定の乳癌検出用のCEAが挙げられる。白血病のようなさらに他の種類の癌では、腫瘍増殖の阻害を典型的な血球数における白血病細胞数の減少に基づいて判定してもよい。
癌治療における本発明の活性剤の治療効力についてのさらなる検証は、好適な動物モデルにおいて、例えば、典型的なヒト癌細胞系統を注射したマウスを用いて行うことができる。固形腫瘍が相当の大きさの径まで増殖した後、マウスに活性剤を静脈内または腫瘍内注射し、その後、腫瘍増殖速度の低減および生存の増加についてモニターリングする(実施例4参照)。
疾患または症状の予防または治療は、本方法だけを使用して行うことができるし、または、必要に応じて、現在または従来の治療モダリティ(例えば、照射、化学療法および/または手術)と併用して行うこともできる。複数の治療的アプローチを使用することにより、患者に幅広い介入を提供する。1つの態様において、本発明の活性剤による治療を外科的介入によって進めることができる。もう1つの態様では、本発明の活性剤と組み合わせて放射線療法(例えば、γ線照射)が提供される。当業者ならば、本発明の方法に使用できる好適な放射線療法プロトコールおよびパラメーターを容易に作成することができる(例えば、Perez and Brady, 1992, Principles and Practice of Radiation Oncology, 2nd Ed. JB Lippincott Coを参照し、当業者には容易に理解できるような好適な改変および修飾による)。好ましくは、個体を治療上有効な量の抗癌照射に曝露する前に、本発明の活性剤を投与する。さらにもう1つの態様では、本発明の方法が化学療法と併用される。化学療法としては、単回用量で、あるいは、数時間、数日および/または数週間かけて投与される複数回用量で提供し得る細胞傷害性薬および/または細胞増殖抑制剤の投与が挙げられる。化学療法薬は、標準的な薬剤、用量および計画を用いる標準的なプロトコールに従って送達される、それらの投与は、本発明の活性剤の投与と同時に行ってもよいし、または本発明の活性剤の投与に続いて行ってもよい。好適な化学療法薬としては、限定されるものではないが、シスプラチン、カルボプラチン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ダウノルビシン、タモキシフェン、タキソール、5−FUおよびメトトレキサートが挙げられる。いくつかの態様においては、本発明の活性剤の投与前または後に、化学療法と放射線治療の両方を使用する。
本発明の方法で、自殺遺伝子産物をコードする導入遺伝子を発現するように操作したベクター、感染粒子、宿主細胞または組成物を使用する場合には、医薬上許容される量の、自殺遺伝子発現産物に特異的なプロドラッグをさらに投与することが有利であり得る。2種類の投与は同時に行っても、または連続して行ってもよいが、本発明の活性剤の後にプロドラッグを投与することが好ましい。例として、プロドラッグの用量は50〜500mg/kg/日を使用することができるが、用量200mg/kg/日が好ましい。プロドラッグは、標準的な実施に従って投与される。経口経路が好ましい。単回用量のプロドラッグまたは宿主生物体または細胞内で毒性代謝産物を産生させるのに十分に長い期間繰り返す用量での投与が可能である。上記のように、プロドラッグガンシクロビルまたはアシクロビルは、TK HSV−1遺伝子産物と組み合わせて、5−FCはシトシンデアミナーゼおよび/またはウラシルホスホトランスフェラーゼ遺伝子産物と組み合わせて使用することができる。
本発明はまた、動物またはヒト生物体において免疫応答を増強するための方法であって、前記免疫応答を増強するように、前記生物体に本発明の融合タンパク質、ベクター、感染粒子、宿主細胞または組成物を導入することを含む方法にも関する。その免疫応答は、特異的および/または非特異的な、体液性および/または細胞性応答であり得る。詳しくは、、その免疫応答がT細胞応答であり、さらに詳しは、細胞傷害性T細胞応答である。好ましくは、本発明の方法によって、選択された抗原に特異的なCTLの数を増加させ、および/または細胞溶解活性を増強させる。導入は、好ましくは、皮下に、皮内に、筋肉内に、鼻腔内に、腫瘍内にまたは腫瘍に接近して行われる。1つの好ましい態様では、本発明の方法は、それに対する特異的免疫応答が望ましい1以上の特異的抗原(例えば、HPV−16 E6またはE7変異体)からなる導入遺伝子産物を含んでなる活性剤または導入遺伝子産物を発現する活性剤を使用することによる、宿主細胞または生物体における抗原特異的免疫応答の増強に向けられる。もう1つの態様では、本発明の方法は、腫瘍に存在する1以上の腫瘍関連抗原または腫瘍特異的抗原からなる導入遺伝子を含んでなる活性剤または導入遺伝子を発現する活性剤を使用することによる、前記抗原を有するあらゆる腫瘍の増殖を抑制するまたは再生を妨げるための、宿主細胞または生物体における抗原特異的免疫応答の増強に向けられる。
本発明はまた、動物またはヒト生物体において樹状細胞の成熟を促進することによって、腫瘍またはウイルス抗原に対する非特異的免疫応答を増強するという目的のために意図された薬剤の調製のための、本発明の融合タンパク質、ベクター、感染粒子、宿主細胞または組成物の使用も提供する。好ましい態様では、この使用は、樹状細胞の成熟を促進することにより好転し得る疾患の予防または治療を意図している。樹状細胞の成熟の増進は、実施例2で示すように評価することができる。1つの好ましい態様では、この使用に用いる融合タンパク質がIL−2/IL−18(特に好ましくは、示されているIL−2/プロIL−18融合物とIL−2/プロIL−18(K89A)融合物である)またはIL−7/IL−2である。
本発明はまた、動物またはヒト生物体においてNKT細胞を活性化することによって、腫瘍またはウイルス抗原に対する非特異的免疫応答を増強するという目的のために意図された薬剤の調製のための、本発明の融合タンパク質、ベクター、感染粒子、宿主細胞または組成物の使用も提供する。好ましい態様では、この使用は、癌および感染症のような、NKT細胞を活性化することにより好転し得る疾患の予防または治療を意図している。NKT細胞の活性化の増強は、実施例2にて示すように評価することができる。1つの好ましい態様では、この使用に用いる融合タンパク質がIL−2/IL−18(特に好ましくは、示されているIL−2/プロIL−18融合物とIL−2/プロIL−18(K89A)融合物である)である。
本発明はまた、動物またはヒト生物体において投与した際に、個々のX構成要素および/またはY構成要素を投与した際に見られる細胞傷害性と比べて細胞傷害性の減弱をもたらす薬剤を調製するための、本発明の融合タンパク質、ベクター、感染粒子、宿主細胞または組成物の使用も提供する。上記のもののような癌および感染症を治療するためには、細胞傷害性の制限が特に有利である。それは実施例3にて示すように、AICD活性またはVLS(血液漏出症候群)を測定することにより評価することができる。1つの好ましい態様では、この使用に用いる融合タンパク質がIL−2/IL−18(特に好ましくは、示されているIL−2/プロIL−18融合物とIL−2/プロIL−18(K89A)融合物である)またはIL−7/IL−2である。
本発明はまた、本発明の融合タンパク質またはそのペプチド断片と選択的に結合する抗体も提供する。本明細書において、抗体が標的ペプチドと結合するが、無関係のタンパク質とは有意に結合するとはいえない場合に、その抗体は標的ペプチドと選択的に結合するという。場合によっては、ペプチドと結合する抗体が、ある程度交差反応性を示したとしてもなお選択的であるということが理解できよう。
本明細書において、抗体は、当技術分野で認識されているものと一致した条件により定義される。本発明の抗体としては、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、ならびに、限定されるものではないが、FabまたはF(ab’)2およびFvフラグメントを含むこのような抗体のフラグメントが挙げられる。
特定の標的ポリペプチド/ペプチドに対する抗体を作製し、および/または同定するための数多くの方法が知られている。いくつかのこのような方法は、Harlow (1989, Antibodies, Cold Spring Harbor Press)により記載されている。本発明の抗体を作製するための好ましい方法は、(a)動物に有効量の本発明の融合タンパク質および/またはそのペプチド断片を投与して、抗体を産生させること、および(b)それらの抗体を回収することを含む。もう1つの方法では、当技術分野における従来の技術を用いて本発明の抗体を組換えにより作製する。全長融合タンパク質または抗原ペプチド断片を使用することができる。抗体は、好ましくは、分泌タンパク質の領域または不連続断片から調製される。特に重要な領域および断片は、X構成要素とY構成要素との融合部位をオーバーラッピングするもののような本発明の融合タンパク質の独特の配列を含んでなるものである。抗原断片は、一般に、少なくとも8個の連続したアミノ酸残基を含んでなるが、しかしながら、抗原断片は、少なくとも10個、12個、14個、16個以上のアミノ酸残基を含んでなり得る。
本発明の抗体は、本発明の範囲内である種々の利用可能性がある。例えば、このような抗体を(a)本発明の融合タンパク質を検出するためのアッセイにおける試薬として、(b)本発明の融合タンパク質を通じて細胞活性を調整するためのアッセイにおける試薬として、および/または(c)タンパク質と他の混入物質の混合物から本発明の融合タンパク質を回収するためのツールとして使用することができる。本発明の抗体を検出可能な物質とカップリングさせること(すなわち、物理的連結)により、本発明の抗体の試薬としての使用が容易になり得る。検出可能な物質の例としては、種々の酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質、生物発光物質および放射性物質が挙げられる。好適な酵素の例としては、セイヨウワサアビペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼまたはアセチルコリンエステラーゼが挙げられる。好適な補欠分子族複合体の例としては、ストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジン/ビオチンが挙げられる。好適な蛍光物質の例としては、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシルまたはフィコエリトリンが挙げられる。生物発光物質の例としては、ルシフェラーゼ、ルシフェリンおよびエクオリンが挙げられる。好適な放射性物質の例としては、125I、131I、35Sまたは3Hが挙げられる。
アフィニティークロマトグラフィーまたは免疫沈降のような標準的な技術により本発明の融合タンパク質の1つを単離するために、本発明の抗体を使用することができる。この抗体は、組換えにより作製された融合タンパク質の培養細胞からの精製を容易にし得る。また、発現の存在量およびパターンを評価するために、in situで、in vitroでまたは細胞溶解物もしくは上清中のタンパク質の検出にこのような抗体を使用することもできる。さらに、このような抗体は、治療の間に個体の細胞、生体サンプルまたは組織中の本発明の融合タンパク質の1つの存在を検出するか、またはその発現を評価するために有用である。さらに、このような抗体を、改良治療モダリティを必要とする個体を特定するためにも使用することができる。これらの使用は、治療が本発明の融合タンパク質の機能障害を伴うというような治療状況においても適用され得る。
本発明を例示的に記載してきたが、当然のことながら、使用してきた技術用語は、限定するためのものではなく、説明するための用語であることを意図している。以上の教示に照らして、本発明の数多くの修飾および変形が可能であることは明らかである。よって、当然のことながら、添付の請求項の範囲内であるならば、本明細書において詳しく記載されていることとは異なる方法で本発明を実施してもよい。
特許、刊行物およびデータベースエントリーの上記の開示内容の総ては、そのそれぞれの特許、刊行物またはエントリーが明示的にかつ個々に引用することにより本明細書の一部とされることが示された場合と同一程度に、明示的にそれらの総てが引用することにより本明細書の一部とされる。
以下、実施例により本発明を説明する。
以下に記載する構築物を、Sambrook et al. (2001, Molecular Cloning; A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor NY)で詳述しているような遺伝子工学および分子クローニングの一般的な技術に従って、または市販のキットを使用する場合には製造業者の推奨事項に従って調製する。細菌プラスミドを使用するクローニング工程は、好ましくは、大腸菌株5K(Hubacek and Glover, 1970, J. Mol. Biol. 50, 111-127)または大腸菌株BJ5183(Hanahan, 1983, J. Mol. Biol. 166, 557-580)で実施される。後者の株は、好ましくは、相同組換え工程に使用される。NM522株(Stratagene)は、M13ファージベクターの増殖に好適である。PCR増幅技術は、当業者には公知である(例えば、PCR Protocols - A guide to methods and applications, 1990; Ed Innis, Gelfand, Sninsky and White, Academic Press Inc参照)。制限部位の修復に関して、使用される技術は、大腸菌DNAポリメラーゼI(クレノウ)の大断片を使用してオーバーハング5’末端を埋める技術である。Ad5ヌクレオチド配列は、Genebankデータベースにおいて参照M73260またはAY339865として開示されているものである。
材料および方法 多機能性サイトカインcDNAのクローニングと構築
C57Bl6マウスの脾細胞を採取し、コンカナバリンA(10μg/ml、SIGMA)とネズミIL−2(10IU/ml、R&D Systems)の混合物またはLPS(10μg/ml、SIGMA)とネズミGM−CSF(50IU/ml、R&D Systems)の混合物で3日間刺激した。次いで、活性化した脾細胞のmRNAをRNA Now(Ozyme)を用いて抽出した。ネズミIFN−g、IL−2、IL−7、IL−15、IL−18およびIL−21cDNAを、専門のデータバンクで入手可能な配列データに基づいた特異的オリゴヌクレオチドを使用し、RT−PCR(プラチナ定量RT−PCR、サーモスクリプト(商標)ワンステップシステム、Invitrogen)により増幅した。QuikChange(商標)部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene, La Jolla, CA, USA)を使用して、突然変異型ネズミIL−2(D20I、N88R、N88GおよびQ126M)および突然変異型ネズミIL−18(K89A)を作製した。融合分子には、前駆体プロIL−18をコードするものと成熟ネズミIL−18(プロ配列を含有していない)をコードするものとの2種類のネズミIL−18cDNAを使用した。ネズミ分泌性IL−15は、Fehniger et al. (2001, J. Exp. Med. 193, 219-231)およびSuzuki et al. (2001, J. Leuk. Biol. 69, 531-537)に記載されている。以下のオリゴヌクレオチドを使用して、サイトカイン配列をクローニングし、突然変異させた:
図1に記載のとおり、RT−PCRにより増幅した後、2つのサイトカイン部分(XおよびY)をコードする配列を、それらの間にフレキシブルリンカー(G
4S)
2または(G
4S)
3を置くPCR技術(Gillies et al., 2002, Cancer Immunol. Immunother. 51, 449-460)により、以下のオリゴヌクレオチドを使用して、インフレームでクローニングした:
いずれの場合にも、両方の種類の融合タンパク質(X−YおよびY−X)を構築し、それらを生物活性および治療活性についてアッセイした。また、各サイトカインも個別に同じアデノウイルス骨格にクローニングし、それらを対照とした。
アデノウイルスの作製および力価測定
各融合タンパク質をコードする配列を、アデノウイルス配列(それぞれ、アデノウイルスヌクレオチド1〜458とヌクレオチド3328〜5788)に囲まれたCMV系発現カセットを含有するアデノウイルスシャトルプラスミドに挿入して、相同組換えによりベクターゲノムを作製した(Chartier et al., 1996, J. Virol. 70, 4805-4810)。得られたアデノウイルスベクターは、E3(ヌクレオチド28592〜30470)とE1(ヌクレオチド459〜3327)が欠失しており、E1領域が、5’から3’に向かって、CMV前初期エンハンサー/プロモーター、キメラヒトβ−グロビン/IgGイントロン、融合タンパク質をコードする配列およびSV40後期ポリアデニル化シグナルを含有する発現カセットに置き換わっている。PacI線状化ウイルスゲノムをPER C6相補作用性細胞系統にトランスフェクトすることにより組換えアデノウイルスを作製した(Fallaux et al., 1998, Human Gene Therapy 9, 1909-1917)。ウイルスの増殖、精製および力価測定はこれまでに記載されているように行った(Erbs et al., 2000, Cancer Res 60, 3813-3822)。
細胞培養
次の実施例では、ヒト肺癌細胞系統A549(ATCC;CCL−185)、2E8ネズミリンパ芽球(ATCC;TIB−239)およびネズミ2B4.11T細胞ハイブリドーマを使用する(Delgado et al., 2001, J. Immunol. 166, 1028-1040)。培養条件は、当技術分野では一般的な条件にする。例示を目的として、10%ウシ胎児血清および抗生物質を補給したDMEM(Gibco)において37℃にて細胞を増殖させる。当業者に公知である標準的な技術に従って細胞をトランスフェクトする。
P815ネズミ肥満細胞種(DBA/2;FcR+、H2Dd、MHCI+、ICAM1+、CD48+)およびB16F10(C57Bl/6;H2Db、MHCI−、MHCII−、ICAM1−、CD48−)は、American Type Culture Collectionから入手したネズミ黒色腫癌細胞系統(それぞれ、ATCC、TIB−64およびATCC、CRL−6475)である。RenCaネズミ腎臓癌(BALB−C;H2Dd、MHCI+、MHCII+、Fas+)およびTC1ネズミ腫瘍細胞系統は、それぞれ、Dybal et al. (1992, J. Urol. 148, 1331-1337)およびLin et al. (1996, Cancer Res. 56, 21-26)に記載されている。総ての細胞系統は、ヘキスト色素、細胞培養およびPCRを利用したマイコプラズマの検査で陰性との結果が出た。
抗体およびサイトカイン
ビオチン標識抗ネズミIL−2および抗ネズミIFN−gは、R&D Systems(UK)から購入した。ビオチン標識抗ネズミIL−18および抗ネズミIL−7は、Peprotech Inc.(USA)から購入した。精製ウサギポリクローナル抗マウスIL−15は、Bioscience(USA)から購入した。精製ヤギ抗ネズミIL−21は、R&D Systems(UK)から購入した。ビオチン標識抗ヤギIgGまたは抗ウサギIgGは、Amersham Life Sciences(USA)から購入した。
PerCP−CY5.5、FITCもしくはフィコエリトリン標識ラット抗マウスCD4、CD8、CD3、CD25、CD31、CD69、MAC1、CD11c、H−2Kb/Db、Iab、NK−1.1、NK−T/NK細胞抗原または非結合ラット抗マウスCD4およびCD8は、製造業者(Pharmingen; San Diego, CA, USA)により規定されているように使用した。非結合ウサギ抗ヒトCD3(マウスCD3と交差反応する)またはウサギ抗ラットIgGおよびペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ウサギをDAKO(Germany)により推奨された濃度で使用した。
T細胞アポトーシス(AICD)の測定は、アネキシンV−FITCアポトーシス検出キット(Pharmingen, San Diego, CA, USA)を使用して行った。
組換えネズミIFN−g、IL−2、IL−7、IL−21をR&D Systems(UK)から購入した。組換えネズミIL−15およびIL−18をPeprotech Inc.(USA)から購入した。コンカナバリンAは、1μg/mlにて使用し、SIGMAから購入した。
多機能性サイトカイン発現の解析
RenCaまたはA549細胞を、懸濁状態で、MOI(多重感染度)50のこれまでに記載したアデノウイルスベクターで感染させた(細胞を2%FCS、1%カチオンを補給した100μlのPBS中、ウイルス希釈液とともに30分間インキュベーション)(Erbs et al., 2000, Cancer Res. 60, 3813-3822)。次いで、細胞を5%FCS含有完全培地において48時間培養した。感染したA549細胞のRNAを、32P標識マウスサイトカインDNA特異的プローブを用いて、ノーザンブロットにより解析した。
それぞれの融合タンパク質を構成している個々のサイトカインの発現を、ウエスタンブロットにより、Amersham Life Sciences(UK)によって提供されているECL(商標)ウエスタンブロッティングプロトコールに従って解析した。A549細胞をMOI50で感染させた。感染の72時間後、上清を回収し、それらの細胞をPBSで1回洗浄し、サンプルバッファー(Novex, Invitrogen, France)中で超音波処理により破壊した。上清および細胞抽出物を回収し、その後、特異的抗マウスサイトカインおよびECL検出システム(Amersham Life Sciences)を用いて、4〜12%Nupageゲル(Novex, Invitrogen, France)でのウエスタンブロットにより解析した。
多機能性サイトカインのin vitro生物活性
T細胞またはB細胞増殖アッセイ マウス脾細胞または2E8リンパ芽球細胞増殖を、これまでに記載されているように(Gillis et al., 1978, J. Immunol. 120, 2027-2032; Ishihara et al., 1991, 1, 149-161)、[3H]チミジンの取り込みにより評価した。T細胞増殖に関しては、脾細胞を、これまでに記載されているように(Ting et al., 1988, J. Immunol. 141, 741-748)、低用量(20ng/ml)のネズミCD3特異的抗体(145−2C11、Pharmingen, San Diego, USA)により予め活性化した。CD3により活性化した脾細胞を、感染A549上清に含まれる、試験しようとする融合サイトカインと混合した。陽性対照として、脾臓または2E8細胞(5×104細胞/ウェル)を、完全培地中、ConA(10μg/ml)、100ng/ml組換えネズミIL−2または種々の濃度のネズミIL−7(R&D Systems, UK)のいずれかで刺激した。96時間後、これらの細胞に1μCi/ウェル[3H]チミジンを適用した。増殖中のT細胞のDNAへの[3H]チミジンの組み込みを、4時間後ガラスフィルターペーパー(PHD harvester, Cambridge Technology, USA)上の細胞DNAを採取することにより、さらに、液体シンチレーションカウンター(Beckman, Germany)で放射能を計数することにより測定した。総ての測定を3回ずつ行った。
IFN−g分泌アッセイ ネズミIL−18の相対的生物活性を、IFN−g産生を増大させるAd−融合物上清(感染細胞から得られた)のin vitroでの能力により判定した(Okamura et al., 1995, Nature, 378, 88-91; Oshikawa et al., 1999, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 13351-13356)。要するに、マウス脾細胞をConA(1,25μg/ml)と、24穴プレートで48時間共培養した。96穴プレートにおいてConA活性化脾細胞の細胞懸濁液にAd−融合物上清を24時間添加した。上清を回収し、ELISAによりアッセイして、IFN−g産生を検出した(Quantikine-R&D Systems, Minneapolis, Minn.)。
CTLおよびNK/NKT細胞の細胞傷害性アッセイ 融合サイトカインの活性も、これまでに記載されているように(Paul et al., 2000, Cancer Gene Ther. 7, 615-623)、CTLおよびNK細胞傷害性についてアッセイした。マウス脾細胞をA549感染細胞から得られたAd−融合物上清と7日間共培養した。活性化脾細胞の細胞傷害性を、これまでに記載されているように(Shortman et al., 1986, J. Immunol., 137, 798-804)、EuDTPA細胞傷害性アッセイ(Wallac Lab., Turku, Finland)(Blomberg et al., 1993, J. Immunol. Methods, 160, 27-34)を使用して、P815−CTL標的またはYAC−NK標的において測定した。
in vitroでの免疫刺激 多機能性融合サイトカインのin vitroでの効果を解析するため、骨髄由来樹状細胞または脾細胞をAd−融合物上清と3〜7日間インキュベートした。樹状細胞の成熟および/または活性化の表現型マーカー、その他APCS、B細胞、T細胞(CD4およびCD8)、NK細胞およびNKT細胞を、フローサイトメトリー解析(FACScan, Becton Dickinson, USA)により、マウス特異的抗体を用いて解析した。
ELISAアッセイ
ELISA法により融合サイトカイン濃度を測定した。要するに、マキシソープ96穴プレート(NUNC)を、融合物を含む上清の希釈液で4℃にて一晩コーティングした。次いで、精製ポリクローナルウサギ抗マウスIL−2またはIL−18(Biovision CA)を用いて融合サイトカインを明らかにした。さらに、HRPO結合特異的モノクローナル抗ウサギIgG(Jackson Laboratories)を用いてウサギIgGを明らかにした。組換えネズミIL−2またはネズミIL−18の組織培養培地での連続希釈物でコーティングした穴を陽性対照として使用して(R&D Systems, Minneapolis, Minn.)、フソカイン(fusokine)濃度測定用の標準曲線を作成した。
AICD(活性化誘発性細胞死)アッセイ
通常はリンパ球刺激に関連するシグナルが、その代わりに、細胞の死を引き起こすというAICDは、抗原特異的リンパ球除去の機構として提示されている。T細胞は、AICDに対して感受性を示したり、または耐性を示したりし、IL−2がT細胞のAICDに対する感受性を調節している(Brunner et al., 1996, Int. Immunol., 8, 1017-1026; Nguyen et al., 2001, Immunology, 103, 426-434)。ネズミT細胞ハイブリドーマは、十分記載があるAICDの研究用のモデル系である。大部分のT細胞ハイブリドーマは、抗TCRまたは抗CD3抗体の提示により活性化し、続いて、IL−2処置を行った後数時間以内に死に至る。AICDは、Fas(CD95)およびそのリガンド(FasL)のデノボ合成により特徴付けられると考えられる(Brunner et al., 1996, Int. Immunol., 8, 1017-1026)。ネズミT細胞ハイブリドーマのAICDに対する感受性を比較するため、2B4.11 Tハイブリドーマ細胞(Delgado et al., 2001, J. Immunol. 166, 1028-1040)を、抗CD3コーティング96穴プレート(145−2C11抗体;4μg/ml)で完全培地において18時間培養した。次いで、多機能性サイトカインをコードするAdに感染させたA549細胞の上清または対照上清(mIL−2、mIL−7、mIL−18、mIL−21それぞれをコードするAdまたはエンプティーアデノウイルス)のいずれかをさらに18時間添加した。組換えネズミIL−2(R&D Systems, UK)も陽性対照(10〜20ng/ml)として使用した。AICDをフローサイトメトリー解析により、フィコエリトリン標識マウス抗マウスFasL特異的抗体(Kay−10、Pharmingen, San Diego, USA)およびFITC標識アネキシンVアポトーシス検出キット(Pharmingen, San Diego, USA)を用いて測定した。
AICDを多機能性融合サイトカインをコードするアデノウイルスの皮下注射後にin vivoでも測定した。要するに、C57BL/6マウスに、2.108iuのAd−融合物(または対照として、mIL−2、mIL−7、mIL−18、mIL−21それぞれをコードするAdまたはエンプティーアデノウイルス)を1回皮下注射した。次いで、注射後の異なる時点に(5、8および18時間)流入領域リンパ節を採取した。以下に記載するように、リンパ節に含まれるリンパ球においてAICDを測定した。
VLSの定量(血液漏出症候群アッセイ)
記載されているように(Rafi-Janajreh et al., 1999, J. Immunol. 163, 1619-1627)、i.v.投与すると、血漿タンパク質、特に、アルブミンと結合し、漏出後、種々の器官で検出され得るエバンスブルーの漏出を測定することにより血液漏出を研究した。2.109iuのネズミIL−2をコードするアデノウイルスベクターを3日間、1日1回、i.v.注射することにより、血液漏出を起こした。5匹からなるC57Bl/6マウス群に、PBS、エンプティーアデノウイルス、Ad−mIL−2、Ad−mIL−2+Ad−mプロIL−18またはAd−融合物をi.v.注射した。4日目に、マウスにPBS中1%エバンスブルー0,1mlをi.v.注射した。2時間後、マウスを麻酔下、出血多量で死亡させ、心臓にPBS中ヘパリンを潅流させた。最大漏出が起こることが分かっている肺および肝臓を採取し、37℃にて一晩ホルムアミド中に入れた。上清の650nmでの吸光度を測定することにより、器官中のエバンスブルーを定量した。Ad−サイトカインで処置したマウスで見られたVLSを、PBSで処置した対照でのVLSに対する漏出の増加率として表した。組織病理学的研究では、5匹からなる別個のマウス群に、先に記載したエンプティーAdまたはPBS、Ad−mIL−2、Ad−mIL−2/mIL−7、Ad−mIL−2/プロIL−18(K89A)およびAd−mIL−2/成熟IL−18(K89A)を注射し、4日目に、肺および肝臓を10%ホルマリン溶液で固定した。それらの器官をパラフィン包埋し、薄片を作製し、ヘマトキシリンおよびエオジンで染色した。血管に浸潤しているリンパ球数を計数し、各群の最小および最大範囲の平均をとることにより、血管周囲の浸潤を測定した。注射したマウスの血清もASATおよびALAT測定用に採取した。
in vivo試験
ネズミP815、B16F10、RenCaおよびTC1腫瘍細胞をトリプシン処理し、洗浄し、PBSへ3×106細胞/mlに再懸濁した。次いで、6〜7週齢の免疫能の正常なB6D2マウスの右側腹部に、100マイクロリットルの細胞懸濁液を皮下注射した。腫瘍が触知可能となった注射後7日目、8日目および9日目に、マウスに、5×108iuの、10mM Tris−HCl pH7.5、1mM MgCl2で希釈したAd−融合物またはAd対照の3回の腫瘍内注射を施した。腫瘍サイズおよび生存率を120日間にわたって評価した。
MVA−E7ベクターとの併用でのAd−融合物の免疫アジュバント効果の評価では、100マイクロリットルのTC1細胞懸濁液(3×106細胞/ml)を、6〜7週齢の免疫能の正常なB6D2マウスの尾静脈に静脈注射した。注射後、マウスに、39日目、46日目および53日目に、5×108iuの、10mM Tris−HCl pH7.5、1mM MgCl2で希釈したAd融合物(Ad−mIL−2/プロIL−18(K89A))の3回の鼻腔内注射を施し、42日目、49日目および56日目に、5×106pfuのMVA−E7の3回の皮下注射を施した。腫瘍サイズおよび生存率を120日間にわたって評価した。
MVA−FCU−1との併用でのAd−融合物の免疫アジュバント効果の評価では、100マイクロリットルのB16F10細胞懸濁液(3×106細胞/ml)を、6〜7週齢の免疫能の正常なB6D2マウスの右側腹部に皮下注射した。腫瘍が触知可能となった注射後7日目、8日目および9日目に、マウスに、5×108iuの、10mM Tris−HCl pH7.5、1mM MgCl2で希釈したAd−融合物(Ad−mIL−2/プロIL−18(K89A))と107pfuのMVA−FCU1の3回の腫瘍内注射を施した。プロドラッグ5−FCを、供給する水に終濃度0.5%に加えて与えた。腫瘍サイズおよび生存率を80日間にわたって評価した。
カプラン・マイヤー生存曲線のフィッシャー正確検定アプリケーション(スタティスティカ5.1ソフトウェア、Statsoft Inc.)を使用して、in vivo生存試験における異なる群間の統計的な差を評価した。P≦0.05を統計的に有意と見なした。
in vivo応答の組織学、免疫組織化学またはフローサイトメトリー解析
腫瘍を作製し、その腫瘍に上記のようなin vivo試験用の種々のウイルスを注射した。13日目に、腫瘍を測定し、切除した。腫瘍流入領域リンパ節も同時に採取した。フローサイトメトリー解析では、腫瘍をコラゲナーゼ(SIGMA)消化により破壊し、細胞を指定の抗体で染色し、集団を細胞蛍光測定法により解析した(Paul et al., 2002, Cancer Immunol. Immunother. 51, 645-654)。
腫瘍P815組織を摘出し、ドライアイス冷却したイソペンタン上でOCT化合物により直接包埋した。ヘマトキシリン−エオジン染色(光学顕微鏡による構造観察)または免疫組織化学では、5μm切片を使用した。メタノール−アセトン(50:50)で固定した凍結切片で、以下の抗体を用いて浸潤細胞および血管検出を行った:1/500希釈のラット抗マウスCD4(n°553727−Pharmingen)、1/500希釈のラット抗マウスCD8(n°553027−Pharmingen)、非希釈のウサギ抗ヒトCD3(N1580−1/50希釈−Dako)、1/100希釈のハムスター抗マウスCD11c(n°553799−Pharmingen)、1/500希釈のラット抗マウスIa−Ie(n°556999−Pharmingen)、1/50希釈のラット抗マウスCD25−FITC(Pharmingen)、1/50希釈のヤギ抗マウスIL18−R(AF856−R&D Systems)、1/50希釈の抗マウスCD31(n°01951D−Pharmingen)および1/100希釈のウサギ抗ヒトフォン・ウィルブランド因子(A0082−Dako)。まず、抗体を室温にて1時間半インキュベートし、TBS−0,1%Tween20で洗い流した。特異的二次抗体1/500希釈のウサギ抗ラットIg(Z0494−Dako)、1/500希釈のウサギ抗ハムスターIg(n°6074102−Rockland)、1/100希釈の、ウマ抗ヤギビオチン化0,5%(Vectastain Elite PK6200−Vector)またはウサギ抗FITC HRP(P0404−Dako)結合抗体により一次抗体を明らかにし、30分間インキュベートした後、バッファーで洗い流した。二次ウサギ抗体(EnVision+System n°K4003−Dako)またはストレプトアビジン−HRP(Vector)と結合したセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ポリマーを30分間使用した後、洗い流し、ジアミノベンジジン(DAB)を基質として使用した。総てのスライドをヘマトキシリンで対比染色した。
実施例1:多機能性融合サイトカインを発現するアデノウイルスの構築
図1ならびに材料および方法に概要が記載されているように、多機能性融合サイトカインをコードする配列を構築した。作製した融合物を以下に記載する:
mIL−2/mIFN−g、mIFN−g/mIL−2、mIL−2/mIL−7、mIL−7/mIL−2、mIL−2/mIL−21、mIL−21/mIL−2、mIL−2/mIL−15、mIL−15/mIL−2、mIL−7/mIL−15、mIL−15/mIL−7、mIL−15/mIL−21、mIL−21/mIL−15、mIL−2/mプロIL−18、mプロIL−18/mIL−2、mIL−2/m 成熟IL−18、m 成熟IL−18/mIL−2、mIL−2/mプロIL−18(K89A)、mプロIL−18(K89A)/mIL−2、mIL−2/成熟IL−18(K89A)、成熟IL−18(K89A)/mIL−2。ネズミIL−2変異体(D20I、N88R、N88GおよびQ126M)を含有する融合サイトカインも作製した。
これらの多機能性サイトカインそれぞれをコードする配列をアデノウイルスシャトルプラスミドでクローニングし、それらを使用してE1およびE3欠失アデノウイルスベクターを作製した。単一種の対照サイトカインもアデノウイルスシャトルプラスミドでクローニングした(Ad−mIL−2、Ad−mIL−2(D20I)、Ad−mIL−2(N88G)、Ad−mIL−2(N88R)、Ad−mIL−2(Q126M)、Ad−mIFN−g、Ad−mIL−7、Ad−mIL−15、Ad−mIL−18、Ad−mIL−18(K89A)およびAd−mIL−21)。
異なるアデノウイルスベクターに感染したA549細胞での多機能性融合サイトカインの発現をノーザンブロットおよびウエスタンブロットにより解析した。ノーザンブロット解析により、各融合サイトカインと各対照サイトカインの特異的なmRNAの正確なサイズを明らかにした。サイトカイン特異的抗体を使用したウエスタンブロット解析により、それぞれの融合物の推定分子量を有する主要なバンドを明らかにした。場合によっては、選択的スプライシング事象または異なるグリコシル化パターンを示すさらなるバンドを観察した。一部のIL−15含有融合物およびAd−mIL−15を除く、大半の融合物で高発現および分泌レベルを検出した(Ad−mIL−2/mプロIL−18およびAd−mIL−2/mプロIL−18(K89A)に感染した細胞の上清でより高いレベルが検出される)(実施例6参照)。
分泌された組換え融合サイトカインの量を、IL−2/IL−18融合サイトカインをコードするアデノウイルスベクターに感染後のA549細胞培養上清の特異的ELISAアッセイにより測定し、それらを個々のサイトカインをコードするAdに感染した細胞により分泌された量と比較した。
ウエスタンブロット解析により観察されたように、Ad−感染細胞において、mIL−2/mプロIL−18およびmIL−2/mプロIL−18(K89A)は、mIL−2単独とおよそ同じ程度であるが、Ad−プロIL−18単独よりも100倍高い最高レベルで発現された。mIL−2/成熟IL−18およびmIL−2/成熟IL−18(K89A)の発現は、Ad−mIL−2で得られるもののおよそ10分の1であり、プロ配列の欠失が、少なくともアデノウイルス系での発現に悪影響を及ぼすことが分かる。
組換え融合サイトカインの安定性もウエスタンブロット解析によりin vitroで評価した。A549細胞を、Ad−mIL−2もしくはAd−mプロIL−18(K89A)単独、またはAd−mIL−2+Ad−mプロIL−18(K89A)の組合せ、あるいはIL−2/IL−18融合物(Ad−mIL−2/mプロIL−18(K89A))を発現するアデノウイルスに感染させた。感染の24時間、48時間および72時間後に上清を解析した。ブロットを、(a)ウサギ抗マウスIL−2抗体または(b)ウサギ抗マウスIL−18抗体を用いて調べた。意外にも、mIL−2/mプロIL−18(K89A)融合タンパク質では、サイトカイン単独の場合または2つのサイトカインを組み合わせた場合に比べて、IL−2発現のより高い安定性が観察された。さらに、プロIL−18(K89A)構成要素が、個別に発現される(Ad−mプロIL−18(K89A)構築物)場合よりもmIL−2との融合物として発現される(Ad−mIL−2/プロIL−18(K89A)構築物)場合に、より高いIL−18発現が観察された。この結果に基づいて、IL−2はIL−18と融合することにより、Ad−mIL−2+Ad−mプロIL−18(K89A)の組合せとは対照的に、一定比率のmIL−2とmプロIL−18(K89A)を維持することが可能となると思われる。
融合サイトカインmIL−2/mプロIL−18(K89A)の発現もRT−PCRにより評価した。触知可能なP815腫瘍を有する免疫能の正常なB6D2マウスに、5×108iuのエンプティーAd、Ad−mIL−2、Ad−mIL−2+Ad−mプロIL−18(K89A)またはAd−mIL−2/mプロIL−18(K89A)を注射した。注射の72時間後に腫瘍を切除し、mRNAを抽出した。mIL−2、mプロIL−18またはmIL−2/mプロIL−18(K89A)融合物特有の配列に特異的なオリゴヌクレオチドプローブを用いて、RT−PCRを実施した。前述のように、Ad−mIL−2/mプロIL−18(K89A)の注射では、Ad−mIL−2+Ad−mプロIL−18(K89A)の組合せとは対照的に、一定比率のmIL−2とmプロIL−18(K89A)が維持された。
実施例2:融合サイトカインのin vitroでの機能性
IL−2含有融合物のin vitroでの機能性
材料および方法に記載されているように、抗CD3に加え、Ad−融合サイトカイン上清とインキュベートしたときのネズミ脾細胞の増殖を評価することにより、融合タンパク質のT細胞刺激に対する効果を解析した。IL−2は、CD3により予め活性化された脾細胞の増殖の強力なインデューサーであることが分かっている。要するに、Ad−融合物上清とインキュベートしたネズミ脾細胞の増殖を、T細胞増殖アッセイにより測定した。上清濃度は、総てのサイトカインまたは融合サイトカイン含量が等しくなるように調整した(20μg/ml)。図2に示すように、Ad−mIL−7/IL−2およびAd−mIL−2/mプロIL−18上清では高い刺激指数が得られ(それぞれ、2および1.8)、Ad−mIL−2で得られた指数よりも高かった。変異型IL−18(K89A)を発現するAd−融合物のT細胞増殖活性も、個々のサイトカインを発現するAd(Ad−mIL−2、Ad−mプロIL−18(K89A))およびそれら2つの組合せ(Ad−m−IL−2+Ad−mプロIL−18(K89A))との比較により解析した。これらの結果から、Ad−mIL−2/mプロIL−18(K89A)では、Ad−mIL−2、Ad−mプロIL−18(K89A)またはそれら2つの組合せで得られた刺激指数よりも高い指数が得られることが確認される。他方、融合物IL−21/IL−2、IL−15/IL−7、IL−2/IL−15およびIL−15/IL−21を含む上清は、IL−2上清で得られた刺激指数と同等の指数を示し、エンプティーウイルス上清では増殖は認められなかった。
IL−7含有融合物のin vitroでの機能性
培地中、IL−7の存在下でしか増殖できないIL−7依存性細胞系統−ネズミプロB 2E8細胞系統を使用して、IL−7含有融合物のin vitroでの機能性を評価した。Ad−mIL−2/IL−7およびAd−mIL−7/IL−2に感染したA549細胞の上清の2E8増殖を促進する能力を試験し、Ad−mIL−7上清、ならびに陽性対照としての組換えIL−7および陰性対照としてのエンプティーAdと比較した。
予想されたように、組換えネズミIL−7は、Ad−mIL−7上清のように2E8の増殖を誘導した。図3に示すように、Ad−IL−2/IL−7上清で処置した2E8の増殖速度は、同じ希釈度のAd−mIL−7上清で得られた速度よりも速い。結果として、1/10希釈したAd−IL−2/IL−7、Ad−IL−7/IL−2およびAd−IL−7上清で得られた増殖速度は、20ng/ml、10ng/mlおよび15ng/mlの組換えネズミIL−7それぞれで得られた速度と同程度であり、エンプティーウイルス上清では増殖は認められなかった。
IL−18含有融合物のin vitroでの機能性
IL−18は、in vitroおよびin vivo両方でのIFN−g分泌の強力なインデューサーであるとされている。IL−18含有融合物の生物活性を評価するため、材料および方法に記載されているように、conA活性化ネズミ脾細胞によるネズミIFN−gの分泌を定量した。結果として、図4に示すように、1/20希釈したAd−mプロIL−18/IL−2を含む上清により、in vitroで、Ad−mIL−2(4μg/ml/24時間/106細胞)、Ad−mプロIL−18(2μg/ml/24時間/106細胞)およびIL−2/mプロIL−18(5,5μg/ml/24時間/106細胞)により誘導されたものより高い濃度のネズミIFN−gが誘導された(7〜8μg/ml/24時間/106細胞)。これらの差は統計的に有意である。IL−18(K89A)含有融合サイトカインの生物活性も、conA活性化脾細胞によるネズミIFNγの分泌を測定することにより評価した。図5に示すように、IL−2/IL−18融合物(mIL−2/mプロIL−18、mIL2/成熟IL−18、mIL−2/mプロIL−18(K89A)およびmIL−2/成熟IL−18(K89A)それぞれ)を含む上清は、mプロIL−18(K89A)単独またはAdmIL−2+Ad−mプロIL−18(K89A)の組合せを含む上清(それぞれ、およそ80および60ng/ml/106細胞)より少し高いレベルのIFNg(およそ100ng/ml/106細胞)を誘導する。
次の一連の試験では、非活性化ネズミ脾細胞を使用したときのIFNgの分泌も定量した。意外にも、図5に示すように、非活性化脾細胞は、mIL−2/mプロIL−18、mIL−2/mプロIL−18(K89A)、mIL−2/成熟IL−18およびmIL−2/成熟IL−18(K89A)融合サイトカインを含むAd上清での活性化後にだけ刺激を受けて高レベルのIFNγを分泌した。このことは、個々のサイトカインまたはそれら2つのものの混合物では見られず、IL−2/IL−18融合サイトカインに関する新規な活性であることを示唆している。
IFN−g含有融合物のin vitroでの機能性
本発明の融合物に含まれるIFN−g遺伝子産物の機能性を、APCおよび腫瘍細胞において活性化マーカーをアップレギュレートするこのサイトカインの能力を利用して測定した。簡易試験では、Ad−融合物上清をin vitroでネズミ脾細胞に72時間添加した後、フローサイトメトリー解析により、ネズミ脾細胞、APCおよびCD8+リンパ球に特異的な活性化マーカーのアップレギュレーションを、材料および方法に記載されているように、特異的抗体を使用して、Tリンパ球(CD8+)および樹状細胞(CD11b)、ならびにMHCクラスI、MHCクラスIIマーカーの変化について評価した。
表2:ネズミ脾細胞における活性化マーカーのアップレギュレーション
- = 陽性細胞なし
+ = 陽性細胞が1〜5%の間
++ = 陽性細胞が10〜20%の間
+++ = 陽性細胞が20〜40%の間
++++ = 陽性細胞が40%を上回る
表2に示すように、AdIL−2/IFN−g融合物に感染した細胞の上清が最も強く、in vitroでMHCクラスIおよびクラスII分子のアップレギュレーションを誘導するだけでなく、意外にも、APC(CD11b+)およびCD8+Tリンパ球の数も飛躍的に増加する。これらのマーカーに関しては、Ad−IFN−g/IL−2上清はAd−IFN−gと同レベルの応答を誘導しているが、IL−2によって誘導されるこれらの細胞集団の活性化レベルは低い。
エフェクター細胞の細胞傷害性を高める融合タンパク質のin vitroでの能力
多機能性サイトカインの活性を、材料および方法に記載されているように、CTLおよびNK細胞傷害性についてアッセイした。Ad−融合物に感染したA549細胞の上清をネズミ脾細胞と7日間インキュベートした。それらの結果を表3に要約している。
表3:エフェクター細胞の細胞傷害性の増強
- = 明瞭な溶解はない
+ = E/T比=50/1において溶解が20〜40%の間
++ = E/T比=50/1において溶解が40〜60%の間
+++ = E/T比=50/1において溶解が60〜80%の間
++++ = E/T比=50/1において溶解が80〜100%の間
表3で示されるように、Ad−mIL−7/IL−2およびAd−mプロIL−18/IL−2に感染したA549細胞の上清は、in vitroでCTL活性に対してもNK活性に対しても高い細胞傷害性を誘導した。これらの活性は、Ad−mIL−2、Ad−mIL−7およびAd−mプロIL−18上清で得られたものよりも大いに優れている。さらに、Ad−mIFN−g/IL−2上清は、CTL応答ではなく、NK細胞傷害性において高い応答を誘導した。
さらに、mIL−2/mプロIL−18(K89A)融合物の効果をCTLおよびNK細胞傷害性について評価し、それを各サイトカイン単独(それぞれ、mIL−2またはmプロIL−18(K89A))またはmIL−2+mプロIL−18(K89A)の組合せのものと比較した。ネズミ脾細胞を、対応するAd(Ad−mIL−2、Ad−mプロIL−18(K89A)、Ad−mIL−2+Ad−mプロIL−18(K89A)およびAd−mIL−2/mプロIL−18(K89A))に感染したA549細胞の上清と7日間培養した。上清濃度は、総てのサイトカインまたはフソカイン含量が等しくなるように調整した(20μg/ml)。その結果からは、Ad−mIL−2/プロIL−18(K89A)融合物に感染したA549細胞の上清が、P815およびYAC標的細胞の両方において細胞傷害性を誘導したことが分かる。意外にも、mIL2/プロIL18(K89A)融合物と培養した脾細胞による溶解作用は、個々のサイトカインまたは混合物mIL−2+mプロIL−18(K89A)を含む上清と培養した脾細胞により観察されたものより大きかった。
CD8、NKおよびNKT細胞の誘導
先天性免疫エフェクター細胞および適応的免疫エフェクター細胞両方の増殖を誘導する融合サイトカインの能力を評価した。このために、CD8Tリンパ球、NKおよびNK/NKTエフェクター細胞の割合を、Ad−融合物上清と1週間培養したネズミ脾細胞を使用して、フローサイトメトリーにより定量した。このアッセイの結果を表4に示す。
表4:CD8、NKおよびNKT増殖の誘導
mIL-21 rec = 組換えネズミIL−21(20ng/ml)
表4に示すように、試験した総てのAd−融合物上清は、Ad−mIL−2上清と同じ割合(およそ50%)のCD8+Tリンパ球(特異的エフェクター細胞)を誘導する。さらに、Ad−mIL−2またはAd−mIL−21とは対照的に、Ad−融合物(Ad−mIL−2/mプロIL−18、Ad−mIL−2/IL−21およびAd−mIL−21/IL−2)上清は、非常に大きな大きな割合(>50%)のNK/NKT+細胞を誘導する。NK1.1+細胞もまた、これらの融合タンパク質をコードするAd上清の存在下でかなり誘導された。
さらに、ネズミ脾細胞のmIL−2/プロIL−18(K89A)とのインキュベーションにより、エンプティーAd、Ad−mIL−2およびAd−mプロIL−18(K89A)と培養した脾細胞の上清と比べて、CD8+(50%)、NK+(18%)およびNK/NKT+(51%)細胞総ての割合の飛躍的な上昇が起こることが報告されている。
ネズミ樹状細胞の成熟に対する融合サイトカインの効果
これまでに記載されているように(Fields et al., 1998, J. Immunother. 21, 323-339)、骨髄由来樹状細胞をC57Bl6マウスから得た。未熟樹状細胞をAd−融合物上清と48時間インキュベートした後、フローサイトメトリー解析による表現型解析を行った。特異的モノクローナル抗体(Pharmingen)を使用してCD80、CD86およびMHCII−Iabマーカーの割合を測定することにより、ネズミ樹状細胞の成熟因子のアップレギュレーションを判定した。Ad−mIL−7/IL−2およびAd−mIL−2/mプロIL−18(K89A)に感染した細胞から得られた上清は、CD80、CD86およびMHCIIマーカーをアップレギュレートすることが分かり、それによって、ネズミDCの成熟が示されたが、陽性対照(LPS、1μg/ml、DIFCO)またはAd−mIL−7の上清より少し低いレベルであった。
要するに、多機能性サイトカインを発現するアデノウイルスベクターは、十分に機能するものであり、場合によっては、融合物を構成する各サイトカインの単純な相加活性より高い生物活性を示す。これらの融合物の一部では、IL2/IL−18融合物(特に、mIL−2/mプロIL−18(K89A))のネズミNKT細胞を活性化する能力およびIL−7/IL−2およびIL2/IL−18(特に、mIL−2/mプロIL18およびmIL−2/mプロIL−18(K89A))融合物のネズミDC成熟を誘導する能力のような予期しなかった活性も検出された。
実施例3:融合サイトカインの毒性
IL−2は、T細胞およびNK細胞の初期活性化におけるその役割に加え、末梢寛容の維持において重要な役割を有している(Lenardo, 1996, J. Exp. Med. 183, 721-724)。この点に関して、IL−2は、自己反応性T細胞の排除を促すプロセスであるFas媒介活性化誘発性細胞死(AICD)において極めて重要である(Lenardo, 1996, J. Exp. Med. 183, 721-724; Van Parijs et al., 1999, Immunity 11, 281-288)。AICDにおけるこの極めて重要な役割から、IL−2を含有する腫瘍ワクチンを受けて生じたT細胞は、腫瘍細胞を自己と解釈し、腫瘍反応性T細胞をAICD誘導性アポトーシスにより死滅させ得る。
AICDは、CD4腫瘍特異的T細胞のエフェクター機能を抑制し、T細胞エフェクター活性を低減することが最近報告されている(Saff et al., 2004, J. Immunol. 172, 6598-6606)。IL−2は、CD4+CD25+T細胞サプレッサー機能の活性化に極めて必要であることも分かっている(Thorton et al., 2004, J. Immunol. 172, 6519-6523; Shimizu et al., 1999, J. Immunol. 163, 5211-5218)。IL−2療法は、特定の種類の癌の治療において有望な結果が得られたが、体重増加、呼吸困難、腹水および肺水腫を特徴とする用量依存的な毒性からその使用は制限される。これらの毒性の徴候は、血液漏出症候群(VLS)の別名でも知られる毛細血管漏出の増加によって起こる(Rosenstein et al., 1986, J. Immunol. 137, 1735-1742; Baluna and Vitetta, 1997, Immunopharmacology 37, 117-132; Baluna et al., 1999, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96, 3957-3962)。このため、本発明の融合サイトカインの毒性を、AICDアッセイおよびVLSアッセイにより、IL−2によってもたらされるものと比較した。
AICDアッセイ
材料および方法に記載されているように、AICDアッセイにより、in vitroおよびin vivoの両方で2つのアポトーシスマーカー(アネキシンとFasリガンド(FasL))の割合を評価した。それらの結果を表5に示す。
表5:融合サイトカインのin vitroでの毒性.AICDの測定(結果は、ゲート細胞全体に対する割合として表している)
in vitroでは、Ad−mIL−7/IL−2およびAd−mIL−2/IL−18上清は、2つのアポトーシスマーカーであるアネキシンVとFasLが低レベルである(それぞれ、36%と48%のアネキシンV+細胞および9%と18%のFasL+細胞)ことによって示されるように、AICDから2B4.11細胞を防御する。これとは好対照に、組換えネズミIL−2およびAd−mIL−2での処置により高アポトーシスが誘導された(それぞれ、65%と67%のアネキシンV+細胞および24%と25%のFasL+細胞)。
Ad−融合物またはAd−IL−2の皮下注射の8時間後に、流入領域リンパ節においてAICDをin vivo評価した。得られた結果を表6に要約している。それらの結果は、各試験に3匹のマウスを用いた2試験のものである。
表6:融合サイトカインのin vivoでの毒性.AICDの測定(結果は、ゲート細胞全体に対する割合として表している)
表6に示すように、リンパ節に含まれる細胞のフローサイトメトリー解析により、Ad−mIL−2の注射によってin vivoで強いAICD(48%アネキシンV+および29%FasL+細胞)が誘導されることが分かった。これとは好対照に、IL−2/mプロIL−18(19%アネキシンV+および18%FasL+細胞)、mIL−2/mプロIL−18(K89A)(9%アネキシンV+および15%FasL+細胞)は、IL−2誘発性AICDからT細胞を防御し、IL−7/IL−2(6%アネキシンV+および12%FasL+細胞)はさらに優れている。
要するに、in vitroでもin vivoでも、AICDアッセイによって、本発明の融合タンパク質により与えられる低アポトーシス状態が示される。
VLSアッセイ
候補融合サイトカインの毒性を評価するため、健常C57Bl/6マウス群に、高用量のエンプティーAdまたはmIL−2、mプロIL−18(K89A)、mIL−2+mプロIL−18(K89A)の組合せ、ならびに融合サイトカインmIL−2/mIL7、mIL−2/mプロIL−18(K89A)およびmIL−2/成熟IL−18(K89A)をコードするアデノウイルスベクターを静脈内投与した。図6に示すように、2つの融合型mIL−2/mプロIL−18(K89A)およびmIL−2/成熟IL−18(K89A)では、mIL−2およびmIL−2+mプロIL−18(K89A)の組合せによって起こる血液漏出よりも誘導される血液漏出ははるかに少ない。Ad−mIL−2/mIL−7を注射したマウスでも、血液漏出の減少が認められた。これらのデータから、IL−2とプロIL−18(K89A)、ならびにIL−2とIL−7を遺伝子融合することにより、血管透過性に関連するサイトカインの毒性が劇的に低下することが示される。
さらに、融合サイトカインによってもたらされる毒性の減弱を、注射を受けたマウスの血清中の肝酵素ASATおよびALATを定量することにより確認した。これらの結果から、Ad−mIL−2またはAd−融合サイトカインでの処置後には肝毒性が存在しないことが示される。
実施例4:融合サイトカインのin vivoでの機能性
本発明の融合サイトカインの抗腫瘍活性を4種類の腫瘍モデル(P815、RenCa、B16F10およびTC1)において調べた。B6D2マウスにおいて腫瘍を作製し、Ad−融合物(5×108iu)の3回の腫瘍内注射を120日間にわたって行った後、腫瘍増殖およびマウスの生存を評価した。4腫瘍モデルで得られた結果を表7に要約している。
表7:ネズミ腫瘍モデルにおける抗腫瘍活性(結果は、120日間での腫瘍のないマウスの割合で示す)
Nt = 試験せず
表7に示すように、Ad−mIL−2/mプロIL−18が、種々の起源の腫瘍(特に、ネズミ肥満細胞種(P815)、腎臓癌(RenCa)およびHPV形質転換腫瘍(TC1))の治療に最も効果的な融合物である。さらに重要なことには、この融合サイトカインで認められる抗腫瘍防御は、個々のサイトカインをコードするベクター(Ad−mIL−2またはAd−mプロIL−18を参照)の投与、ならびにこれらのサイトカインを別個にコードするベクターの同時投与(Ad−mIL−2+Ad−mプロIL−18)によりもたらされるものよりも、少なくともRenCa、P815およびTC1腫瘍モデルにおいてははるかに高い。さらに、突然変異型IL−18(K89A)の使用により、総ての腫瘍モデルで抗腫瘍効果が飛躍的に高まる(Ad−mIL−2/mプロIL−18(K89A)を参照、P815モデルでは腫瘍のないマウスが70%、B16F10モデルでは50%、RenCaモデルでは90%およびTC1モデルでは60%を示す)。Ad−mIL−7/IL−2で処置したいくつかの動物モデルでも、著しい抗腫瘍活性が認められた。Ad−mIL−21/IL−2およびAd−mIFN−g/IL−2も、Ad−mIL−2と同程度に抗腫瘍防御をもたらす。
Slos et al., 2001, Cancer Gene Ther. 8, 321-332)により記載されているように、in vivoでCD8細胞、NK細胞およびCD4細胞の枯渇を行った。生存データは、Ad−mIL−2/mプロIL−18(K89A)の抗腫瘍活性がCD8細胞およびNK細胞活性に厳密に依存していたことを示している。興味深いことに、CD4枯渇により、融合サイトカインの腫瘍内投与のin vivoでの効果が高まった。
重要なことには、in vivoで、処置したマウスの血清において融合サイトカインに対する免疫応答が認められない(データは示していない)ということに注目すべきである。
融合サイトカインのin vivoでの抗腫瘍効果は、材料および方法に記載されているような、P815モデルにおける組織学、免疫組織化学またはフローサイトメトリーによる腫瘍内浸潤物の解析とも、先天性免疫エフェクター細胞および適応的免疫エフェクター細胞(流入領域リンパ節における)両方の近位部活性化の解析とも相関していた。それらの結果を表8に示す。
表8:Ad−融合物の腫瘍内注射後の腫瘍浸潤物の解析
表8に示すように、Ad−融合物注射後に、免疫組織化学解析を行えば、Ad−mIL−2/mプロIL−18およびAd−mIL−2/mプロIL−18(K89A)を注射した腫瘍が高度に壊死性であることが分かる。さらに、免疫組織学により、初発腫瘍組織学とは異なる浸潤物パターンの顕著な変化とCD8+/CD25+活性化T細胞、CD4+T細胞およびAPCの数の増加が示される。さらに、注射した腫瘍では、IL−18受容体のアップレギュレーションが明白に示される。このような変化は、Ad−mIL−2およびAd−mIL−7/IL−2を注射したP815腫瘍でも認められるが、Ad−mIL−2/mプロIL−18またはAd−mIL−2/mプロIL−18(K89A)を注射した場合より少し低いレベルである。驚くべきことに、Ad−mIL−2/mプロIL−18(K89A)を注射した腫瘍は、フォン・ウィルブランド因子に関して高度に陽性を示し、このことから、新たな血管の形成が示唆される。
P815腫瘍流入領域リンパ節でも同様の結果が得られた。さらに、Ad−mIL−2/mプロIL−18およびAd−mIL−2/mプロIL−18(K89A)の腫瘍内注射では、腫瘍流入領域リンパ節でのAICDは全く起こらない。このことは、Ad−mIL−2で処置したP815腫瘍とは対照的である。さらに、Ad−mIL−2/mプロIL−18(K89A)およびAd−mIL−7/IL−2で処置したマウスでは、リンパ節において免疫細胞の増加(×30〜×40)が認められたが、一方、Ad−mIL−2で処置したマウスのリンパ節では、検出された免疫細胞の数は減少した。この増加は、腫瘍細胞数の劇的な減少と関係している。このことから、腫瘍の全細胞数と流入領域リンパ節の全細胞数との間に逆相関が明らかに示される。Ad−mIL−2/mプロIL−18(K89A)およびAd−mIL−7/IL−2の腫瘍内注射後にリンパ節に存在する免疫エフェクター細胞は、主に、活性化CD8+Tリンパ球(CD3+/CD69+;CD8+/CD25+)と成熟樹状細胞のような活性化APC(CD11c+/MHCII+)である。これらのエフェクター細胞の割合および数は、Ad−mIL−2/mプロIL−18(K89A)およびAd−mIL−7/IL−2の注射後に、Ad−mIL−2、Ad−mプロIL−18(K89A)、Ad−mIL−7単独またはAdmIL−2+Ad−mプロIL−18(K89A)の組合せを注射した場合よりも増加する。
実施例5:特異的免疫療法でのAd−融合物の免疫アジュバント効果の評価
Ad−融合物の免疫アジュバント効果を、TC1転移モデルにおいて評価した。C57B16マウスの肺において転移を確立するために、TC1細胞を静脈内経路により注射した。10日後、いくつかのAd−融合物を鼻腔内経路または気管内経路により投与して、融合タンパク質を肺転移環境で発現させ、さらに、粘膜免疫を誘導した。Ad−mIL−2/IL−18の鼻腔内経路または気管内経路による投与によって、アデノウイルス投与から15日後に処置マウスの膣洗浄液中の総IgA量が促された。鼻腔内投与または気管内投与による総IgAのレベルは、同様であった。さらに、Ad−mIL−2/IL−18投与後の抗アデノウイルス中和抗体の割合は、エンプティーアデノウイルスまたはAd−mIL−2の投与後よりもずっと低い。これらの結果は、これらのベクターに対する体液性免疫応答が低いことから融合物をコードするアデノウイルスベクターの再投与が容易になる可能性があるということを示しているという点において重要である。
さらに、RT−PCR解析により、これらの2つの「粘膜」経路により、肺、より正確には、肺に存在するTC1転移における融合サイトカインIL−2/IL−18の非常に優れた発現が可能になることが示された。TC1転移の増殖が処置したマウスで停止したことから、融合物の発現が強いin vivo効果と関係しているということが重要である。
同時に、これらの結果は、融合サイトカインの癌またはウイルスワクチンのアジュバントとしての潜在的有用性も示している。
融合サイトカインmIL−2/プロIL−18(K89A)の癌特異的ワクチンの遺伝子アジュバントとしての使用も評価した。まず、7.5Kプロモーターにより推進されるHPV−16株の膜結合型非発癌性E7抗原(WO99/03885参照)を発現するMVAベクターとの併用でのAd−融合物の免疫アジュバント効果の評価を、TC1転移モデルで実施した。マウスに、39日目、46日目および53日目に、5×108iuのAd−mIL−2/プロIL−18(K89A)の3回の鼻腔内注射を施し、42日目、49日目および56日目に、MVA−E7の3回の皮下注射を施した。腫瘍サイズおよび生存率を120日間にわたって評価した。図7に示すように、腫瘍特異的抗原を発現するベクターMVA−E7とIL−2/IL−18融合物を発現するアデノウイルスとを組み合わせることにより、極めて転移の遅いTC1モデルにおいて腫瘍特異的免疫応答が強く増強された。この組合せによって、処置した動物の生存率が高まり、残留転移数を減らすことができた。
キメラ11k/7.5Kプロモーターの制御下に置かれたFCU−1自殺遺伝子(WO99/54481)を発現するMVAベクターとの併用でのAd−mIL−2/プロIL−18(K89A)の免疫アジュバント効果も、B16F10モデルで評価した。6〜7週齢の免疫能の正常なB6D2マウスの右側腹部に、100マイクロリットルのB16F10細胞懸濁液(3×106細胞/ml)を皮下注射した。腫瘍が触知可能となった注射後7日目、8日目および9日目に、マウスに、5×108iuの、10mM Tris−HCl pH7.5、1mM MgCl2で希釈したAd−mIL−2/プロIL−18(K89A)と107pfuのMVA−FCU1の3回の腫瘍内注射を施した。プロドラッグ5−FCを、供給する水に終濃度0.5%となるように加えて与えた。腫瘍サイズおよび生存率を80日間にわたって評価した。図8に示すように、Ad−mIL−2/プロIL−18(K89A)とMVA−FCU1との組合せによって、自殺遺伝子療法アプローチの抗腫瘍効果が明らかに向上した。このことは、化学療法に基づく戦略での融合サイトカインmIL−2/プロIL−18(K89A)の強力なアジュバント効果を示している。
これらの結果から、本発明のAd−融合物mIL−2/プロIL−18(K89A)の、免疫原(例えば、HPV−16 E7のような腫瘍特異的抗原)との併用でのワクチン接種ならびに自殺遺伝子療法および好適な化学療法との併用での癌特異的ワクチン接種での遺伝子アジュバントとしての可能性が明らかに示される。
実施例6:IL−15含有融合サイトカイン
IL−15含有Ad構築物は、実施例1に記載している(mIL−2/mIL−15、mIL−15/mIL−2、mIL−7/mIL−15、mIL−15/mIL−7、mIL−15/mIL−21、mIL−21/mIL−15)。さらに、mIL−15とmプロIL−18(K89A)との融合も、材料および方法および実施例1に記載されている同じ構築スキームを使用して行った。注目すべきは、IL−15が融合物のNH2末端に存在する構築物(mIL−15/mIL−2、mIL−15/mIL−7、mIL−15/mプロIL−18(K89A)およびmIL−15/mIL−21)において、IL−15構成要素が、成熟ネズミIL−15とインフレームで融合されるIL−2ペプチドシグナルを含んでなるように設計される(配列番号5で示されるように)ことである。対照Ad−mIL−15もIL−2のペプチドシグナルの前に成熟IL−15を含んでなる。IL−15含有融合物の発現は、材料および方法に記載されているように、ウエスタンブロットにより、異なるAd−ベクターに感染したA549細胞において測定した。感染A549細胞の培養培地に高レベルで分泌されたmIL−15/mIL−7、mIL−21/mIL−15およびmIL−15/mプロIL−18(K89A)融合物を除く、大半のIL−15含有融合物ならびにAd−mIL−15で、低発現および分泌レベルを検出した。
IL−15に基づく融合サイトカインをコードするアデノウイルスの抗腫瘍活性を、3回の腫瘍内注射により処置したB16F10腫瘍を有するマウスで調べた。移植後43日間、腫瘍増殖を評価した。図9に示すように、Ad−mIL−15/mIL−7、Ad−mIL−21/mIL−15およびAd−mIL−15/mプロIL−18(K89A)の腫瘍内注射により、導入遺伝子を含有していないAd(Ad−エンプティー)またはmIL−15単独を発現する対照Ad−mIL−15の腫瘍内注射と比べて、処置した動物における腫瘍増殖の統計的な制御が可能となる。
融合物のIL−15の分泌を高めるために、さらなる構築物を設計して、他のシグナルペプチドを評価した。Ad−mIL−15構築物のIL−2シグナルペプチドを、長鎖型(spLSP)もしくは短鎖天然型(spLSPスプライス)の内因性IL−15ペプチドシグナル(Kurys et al., 2000, J. Biol. Chem. 275, 30653)またはマウス免疫グロビンGのκ軽鎖(spVKL)から得られた異種シグナルペプチド(Meazza et al., 2000, Int. J. Cancer 87, 574)のいずれかで置き換えた。それぞれのシグナルペプチドで推進されるIL−15の発現および分泌をウエスタンブロットにより評価し、IL−2シグナルペプチドを含有する最初の構築物と比較した。これらの結果により、IL−15内因性のペプチドシグナル(短鎖型)、特に、IgGシグナルペプチドを使用することにより、IL−15の分泌レベルが大きく3〜10倍向上し得ることが分かる。さらに、種々のシグナルペプチドによって制御されるIL−15サイトカインをコードするアデノウイルスの抗腫瘍活性を、B16F10腫瘍を有するマウスで調べた。図10に示すように、IgGシグナルペプチドvKLを使用した高分泌性Ad−IL−15構築物の腫瘍内注射により、他のIL−15形態よりもずっと高い生存率が提供される。シグナルペプチドvKL−IL−15型を組み込んだ融合サイトカインの構築は、IL−15/IL−7、IL−21/IL−15およびIL−15/プロIL−18(K89A)融合物の活性および免疫アジュバント効果を高めるために行われる。
総合考察
組換えサイトカインの有用性から、サイトカイン生物学ならびにそれらの臨床応用が研究されるようになった。明らかになっている1つの態様は、多量のサイトカインの全身注射が、通常、血液漏出症候群に起因するかまたはそれを伴うかなりの毒性を伴うことである。その全身毒性に加え、IL−2の半減期が短いことによりその治療価値も制限される。文献で報告されている毒性と半減期が短いという問題を克服するための1つのアプローチが、IL−2と抗体(IL−2免疫サイトカイン)または半減期の長いタンパク質とを融合し、その融合物により体内の独特の抗原/受容体を標的化することである。本発明は、異なるアプローチにおいて、先天性免疫系を刺激するサイトカインを、適応的免疫応答を促進するサイトカインと組み合わせることを目指して、一連のサイトカイン融合タンパク質を提供する。IFNg、IL−7、IL−12、IL−15、IL−18およびIL−21をはじめとする種々のサイトカインをIL−2と遺伝子融合し、E1およびE3欠失アデノウイルス発現系を用いて作製して、それらのin vitroおよびin vivo生物学的特性および腫瘍内注射後の抗腫瘍活性を検討した。これらのうち、いくつかの融合サイトカインが、融合物に関与する2つのサイトカインの生物活性の維持、重要な毒性の低減を含む興味深い特性を示した(例えば、mIL2/プロIL18およびmIL7/IL2)。さらに、本発明は、記載した多くのAd−融合サイトカイン(例えば、Ad−mIL−7/IL−2、Ad−mIL−21/mIL−2、Ad−mIFNg/mIL−2およびAd−mIL−2/mプロIL−18)が種々の起源の腫瘍の治療に効果的であることを示している。
より詳細には、本実施例で示した結果から、それぞれのサイトカインの互いの位置が少なくともアデノウイルス系における発現および生物活性に影響を及ぼし得ることが分かる。これに関して、IL−2とIL−18との構成物の分泌および活性では、IL−2が融合物(IL−2/IL−18融合物)のN末端に存在する場合の方が、IL−2がIL−18のC末端に存在する場合よりもはるかに効果的であることが分かった。これに対して、IL−2とIL−7の融合サイトカインではIL−2がIL−7構成要素のC末端に存在する場合にIL−2とIL−7のより効果的な融合サイトカインが得られた(実施例1および2参照)。
さらに、IL−18は、最初、前駆体形態(プロIL−18)で作製されることが知られている。IL−18前駆体は、分泌される酵素カスパーゼ−3/ICEによって切断されなければならない(Dinarello et al., 1999, Interleukin-18 Methods 19, 121-132)。実施例1および2は、プロIL−18を組み込んだ融合サイトカインが成熟IL−18を含有するものよりもより効果的に発現されることを示している。これに基づき、IL−2/プロIL−18融合サイトカインの発現の際には、おそらく、IL−2関連シグナル配列の結果として、プロIL18が正確に折りたたまれ、分泌されると考えられる。
IL−18(K89A)の突然変異が、IL−18の生物活性を増大させることが最近報告された。IL18(K89A)含有融合サイトカインも、試験した総ての生物学的アッセイにおいて機能性の向上を示す。さらに重要なことには、IL18(K89A)含有融合サイトカインが、アネキシンV、Fas誘導(AICD)または血液漏出(VLS)により評価されるサイトカイン関連毒性についての著しい減少をさらに示すことが実施例3により分かる。興味深いことに、mIL2/mプロIL18(K89A)融合サイトカインの生物活性は、個々のサイトカインの生物活性に必要なタンパク質濃度よりもずっと低く、それゆえ、毒性が少ないかまたは全く毒性がないタンパク質濃度で維持されると思われる。mIL−2/プロIL−18(K89A)融合物で得られる弱毒パターンは、融合タンパク質に関与するサイトカインの構造修飾の影響と考えられる。ネズミ融合サイトカインは、エフェクター細胞を発現するIL−2受容体の特定集団を活性化するため、組換えIL−2の見かけの毒性を低減することも可能である(Bensinger et al., 2004, J. Immunol. 172, 5287-5296)。
IFNgを産生させるIL−2またはIL−18サイトカインそれぞれのT細胞刺激には、脾臓T細胞がCon−Aにより予め活性化されていることが必要であるということは周知である(Osaki et al., 1998, J. Immunol. 160, 1742-1749; Osaki et al., 1999, Gene Ther. 6, 808-815; Hwang et al., 2004, Cancer Gene Ther. 11, 397-407)。興味深いことに、実施例2で示されるように、mIL−2/mプロIL−18融合サイトカインは、この活性に対し、T細胞の予備刺激を必要としない。そのため、IL−2およびIL−18生物活性が維持され、サイトカイン関連毒性が低減するだけでなく、mIL−2/プロIL−18融合タンパク質は個々のサイトカインがいずれも持ち得ない新規活性を有すると思われる。
実施例4に示すように、極めて侵襲性の強いB16F10モデルを含む試験した総ての腫瘍モデルにおいて、Ad−mIL−2/mプロIL−18(K89A)の腫瘍内注射を行うことにより非常に効果的な抗腫瘍防御が得られた。Ad−mIL−2/mプロIL−18(K89A)によりもたらされる抗腫瘍活性は、Ad−IL−2もしくはAd−プロIL−18単独または2つの構築物の組合せのいずれかの腫瘍内注射を行って得られるものよりもはるかに高かった。枯渇試験では、先天性(NK細胞)免疫系だけでなく適応的(CD8)免疫応答もこの治療効果に関与することが明らかに示される。注射した腫瘍の免疫組織学的解析により、Ad−mIL2/プロIL18(K89A)によりもたらされる抗腫瘍活性が活性化T細胞および抗原提示細胞の浸潤と関係していることが示される。驚くべきことに、Ad(mIL−2/プロIL−18(K89A))を注射した腫瘍は、フォン・ウィルブランド因子に関して高度に陽性を示し、このことから、血管形成の増加が示唆される。通常、腫瘍の血管形成は、予後不良と関係しているが、この場合は、免疫エフェクター細胞による浸潤の増加と関係していると思われる。さらに、mIL−2/プロIL−18(K89A)融合サイトカインは、腫瘍特異的T細胞の誘導に重要であると思われるAICD活性の低下を示す(Saff et al., 2004, J. Immunol. 172, 6598-6606)。
最後に、上記の結果に基づいて、本発明の融合サイトカインは、サイトカインの治療活性の増強だけでなく、毒性副作用の低減にも大いに将来性がある。