一般に、樹脂材料やゴム材料等の不導体(絶縁体)材料からなる、所謂不導体製品(以下からは、これら不導体材料からなる製品を不導体製品という)を、射出成形や、押出成形、シート成形、プレス成形、圧縮成形、真空成形、加圧成形等により成形したり、或いは二次加工したりする場合には、それら各種の成形加工方法に応じた様々な成形金型が、用いられる。そして、よく知られているように、そのような成形金型を用いて、目的とする不導体製品の成形加工(金型成形加工)を行う際には、不導体製品と、それが接触する成形金型の接触部分との間で、接触帯電や摩擦帯電、剥離帯電、転がり帯電、衝突帯電等の各種の帯電現象が惹起されて、不導体製品に静電気が不可避的に発生する。
例えば、不導体製品のうち、樹脂製品を射出成形する際には、通常、二つの分割型からなる射出成形金型を備えた射出成形機が用いられ、この射出成形機の射出装置から射出された溶融樹脂材料が、射出成形金型内部に設けられる成形キャビティ内に充填され、そこで冷却固化されることで、目的とする樹脂製品が成形されるようになるが、この射出成形による樹脂製品の成形時には、冷却固化された樹脂製品と成形金型のキャビティ面との間で接触帯電が生じ、また、かかる樹脂製品を離型するときには、キャビティ面との間で剥離帯電が惹起される。その結果、例えば、射出成形金型や溶融樹脂材料が、何れも汎用的な材料からなる場合には、成形された樹脂製品において、製品の表面積、加工時間等により様々な電位が生じ、製品によっては−20kV以上もの高電圧の静電気が発生せしめられるようになるのである。
そして、このような射出成形、或いは射出成形以外の各種の金型成形加工時に、成形金型と樹脂製品との間で生ずる帯電現象により樹脂製品において発生する静電気は、樹脂製品の表面に埃等の異物を引き寄せるため、例えば塗装等の表面処理の実施時における不具合の発生原因となっており、また、それ以外にも、樹脂製品の金型からの離型ミスやパーツフィーダの詰まり、或いは検査機や測定器の誤作動を惹起させる等、様々な不良品や工程トラブルの発生の要因ともなっている。
そこで、従来では、そのような樹脂製品を含む不導体製品の金型成形加工後に、かかる不導体製品の静電気を除去乃至は低減させて、不導体製品の表面電位が可及的にゼロとなるように、換言すれば、不導体製品の表面の帯電が防止されるように、不導体製品の表面電位を制御するための余分な工程を行わなければならず、それが、目的とする不導体製品の製作性の低下を招いていた。しかも、そのような除電による不導体製品の表面電位の制御作業は、一般に、イオナイザー(静電気除去装置)を用いて、イオンエアーを不導体製品の表面に照射することによって実施される(例えば、下記特許文献1参照)ところから、不導体製品の表面に存在する電荷だけでなく、内部から表面に浮上する電荷を除去するために、長時間の作業が必要となり、また、不導体製品の形状や作業環境によっては、不導体製品に対するイオンエアーの照射ムラが生じ、それによって、均一な除電が困難となる場合さえもあった。そして、何よりも、このイオナイザーを用いた除電は、金型成形加工により静電気が発生した不導体製品に対する後処理によって実施されるものであるため、そのような静電気による様々な不具合の発生を未然に防止することが不可能であったのである。
なお、公知の加湿処理や帯電防止剤処理等を実施することにより、金型成形加工時における不導体製品での静電気の発生を防止して、かかる不導体製品の表面電位を制御する(表面の帯電を防止する)ことも考えられる。しかしながら、前者の処理では、不導体製品の金型成形加工が射出成形等の高温下で行われるものである場合、十分な効果を得ることが期待出来ず、また、後者の処理は、通常、界面活性剤を使用するために、金型成形加工された不導体製品の後工程で、かかる界面活性剤によって不具合が生ずる懸念があった。
他方、例えば、押出成形により樹脂シートを成形した後、真空成形により、かかる樹脂シートを所定の形状に加工するように、目的とする不導体製品を複数段階に分けて成形加工する際には、途中で得られる中間成形加工品と最終的に得られる不導体製品の何れにおいても、それぞれ静電気が発生せしめられるようになるところから、最終的に得られる不導体製品表面の静電気による帯電を防止する上で、中間成形加工品の表面を正又は負に帯電させることが有効な場合もある。即ち、例えば、目的とする不導体製品を二段階に分けて成形加工するに際して、一次成形加工された中間成形加工品の表面を、二次成形加工の際に生ずる静電気とは逆極性に帯電させておくことで、場合によっては、最終的に得られる不導体製品の表面電位をゼロ乃至はそれに近似した値に容易に且つ効率的に制御することが出来るのである。
ところが、上記せる如きイオナイザーを用いた除電処理や加湿処理、帯電防止剤処理等によって不導体製品の表面電位を制御する場合、不導体製品の表面電位をゼロ又はそれに近似の値以外の所望の値に制御することは極めて困難であり、ましてや、かかる表面電位を、不導体製品の成形加工時に生ずる静電気とは逆極性の値と為すことは、到底、不可能であったのである。
かかる状況下、本願出願人は、先に、特願2006−155641において、成形金型を含む各種の成形加工装置を用いて成形加工される不導体製品の表面電位を、その成形加工時において所望の値に制御し得る制御装置と、そのような表面電位の制御機能を備えた不導体製品の成形加工装置とを提案した。これらの装置は、所望の不導体製品を成形する成形加工具における該不導体製品との接触部分の電気的な接地を阻止する絶縁手段と、かかる成形加工具における少なくとも該接触部分に対して、不導体製品の表面電位を制御するための電荷を、該接触部分との間に発生する帯電現象により不導体製品において生ぜしめられる静電気の極性と電圧とに基づいて設定される極性と電圧とにおいて印加する電荷印加手段とを含んで構成されている。
このような装置を用いれば、不導体製品に静電気が発生する前に、成形加工具における少なくとも不導体製品との接触部分に対して、静電気の極性と電圧とに基づいて設定される極性と電圧とを有する電荷を印加し、かかる接触部分を蓄電させることが出来、それによって、そのような成形加工具を用いて成形加工される不導体製品の表面を、成形加工具の接触部分とは逆の極性において、それと同一の電圧で蓄電させることが出来るようになる。そして、その結果、不導体製品に静電気が発生する前に、成形加工具の接触部分に対して、静電気と同一の極性やそれとは逆の極性の電荷を、静電気の電圧に基づく適切な電圧において印加するだけで、静電気発生後の不導体製品の表面電位を、不導体製品の品質、性能等の低下等を何等招くことなく、所望の値となるように確実に制御することが可能となるのである。
ところが、本発明者等が、かくの如き優れた特徴を発揮する、不導体製品における表面電位の制御装置や表面電位の制御機能を備えた不導体製品の成形加工装置について、更に鋭意研究を重ねたところ、それらの装置が、不導体製品の成形加工に、上記せる射出成形金型のような成形金型を利用するものである場合、成形金型を型締装置等における取付板に取り付ける構造が、単に、成形金型を取付板にボルト固定するだけの従来と同様な構造とされていると、以下の如き問題が生ずることが明らかとなった。
すなわち、先に提案された装置においては、成形金型を、型締装置の導電性を備えた取付板に取り付ける際に、それら成形金型と取付板とが、前記絶縁手段たるセラミックス板等の絶縁板を介して、非接触状態で重ね合わされて、成形金型と取付板とが電気的に絶縁されるようになるが、かかる状態下において、従来と同様に、成形金型に設けられたボルト挿通孔に挿通された固定ボルトを、取付板に設けられた雌ねじ穴に螺合して、成形金型を取付板に取り付ける場合、成形金型への電荷の印加時に、固定ボルトの雄ねじ部と雌ねじ穴の雌ねじ部との相互の接触による短絡が生ずることを阻止するために、固定ボルトとして、例えばセラミックスボルト等の絶縁材料からなる極めて高価なボルトが不可避的に必要となる。つまり、成形金型と取付板との間の電気的な絶縁状態を安定的に確保するのに、余分な費用が掛かってしまうのである。
なお、そのような固定ボルトと取付板との接触による成形金型と取付板との短絡を低コストに阻止するには、絶縁材料からなるワッシャ等を用いて、成形金型に挿通される固定ボルトの頭部と成形金型とを非接触状態とすることが、考えられる。しかしながら、そうした場合にあっても、成形金型への電荷の印加時に、成形金型の挿通孔の内周面と金属製固定ボルトの脚部の外周面との間で発生する放電現象によって、成形金型と取付板との間が、固定ボルトを通じて短絡する恐れがあった。
また、従来においては、下記特許文献2及び3に記載される如く、成形金型を取付板に対して直接にボルト固定する代わりに、例えば、成形金型に接触、係合せしめられた状態で、取付板にボルト固定されるクランプ治具を用い、このクランプ治具にて、成形金型を取付板にクランプして、取り付けるようにした成形金型の取付構造も、一般に採用されているが、このような取付構造を、そのまま採用しても、クランプ治具と固定ボルトのうちの少なくとも何れか一方が、高価な絶縁製品でない限り、成形金型と取付板との間の電気的な絶縁状態を安定的に確保することが出来なかった。しかも、絶縁材料からなるクランプ治具として、高強度を有するセラミックス製のものを用いる場合、固定ボルトの挿通孔を穿設するのが、金属製のものに比して困難で、コスト高となるといった欠点もあったのである。
特開2002−46147号公報
特開平5−104533号公報
特開平6−328517号公報
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の構成について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
先ず、図1には、本発明に従って、成形金型が型締装置の取付板に取り付けられてなる、表面電位の制御機能を有する不導体製品の成形加工装置の一実施形態たる樹脂製品の射出成形機が、その要部において、概略的に示されている。かかる図1から明らかなように、本実施形態の射出成形機は、射出装置10と型締装置12と成形金型としての射出成形型14とを有して、構成されている。
より詳細には、射出装置10は、加熱筒16内において、所定の樹脂材料を、図示しないスクリュにて混練しつつ、加熱溶融せしめる従来と同様な構造を有し、この加熱筒16内で溶融された樹脂材料が、加熱筒16に先端に取り付けられたノズル18から射出されるようになっている。
また、型締装置12も、従来装置と同様に、所定長さを有する複数のタイバー20の先端部に固定された、取付板としての固定板22と、この固定板22に対して、所定距離を隔てて対向し、且つその対向方向に移動可能な状態で、複数のタイバー20に支持された、取付板としての可動板24とを有している。更に、可動板24の背面側(固定板22との対向側とは反対側)には、図示しない油圧シリンダが設置され、この油圧シリンダの作動によって突出/引込移動せしめられるラム26の先端が、可動板24の背面に取り付けられている。これにより、油圧シリンダの作動に基づくラム26の突出/引込移動に伴って、可動板24が、固定板22に対して接近/離隔移動せしめられるようになっている。
また、射出成形型14は、可動型28と固定型30の2個の分割金型からなり、上記せる構造を有する型締装置12の可動板24と固定板22との間に位置せしめられている。そして、可動型28と固定型30とが、可動板24と固定板22とに対して、それぞれ、位置固定に取り付けられている。
つまり、可動型28は、可動板24側に配置された矩形平板状の可動側基板32と、この可動側基板32から固定板22側に離間せしめられた位置で、固定型30と対向配置された、矩形平板状乃至は矩形ブロック状の可動側型板34と、厚肉の角筒形状をもって、可動側基板32と可動側型板34との間に介在せしめられて、それらを一体的に連結するスペーサブロック36とを、更に有して、構成されている。
また、可動側基板32の外周面における可動板24側の端縁部には、所定高さ突出し且つ全周に亘って周方向に連続して延びる、比較的に厚肉の矩形板枠状の外フランジ部37が、厚さ方向一方側の面において、可動側基板32の可動板24側の端面と面一とされた状態で、一体形成されている。更に、可動側型板34の固定型30との対向面には、目的とする樹脂製品の外形形状に対応した内面形状をもって、固定型30側に向かって開口するキャビティ形成凹所38が、形成されている。そして、このような可動型28が、可動側基板32の外フランジ部37において、複数のクランプ治具40によりクランプされた状態で、可動板24に対して位置固定に取り付けられている。
一方、固定型30は、全体として、矩形ブロック形状を呈し、その外周面における固定板22側に、所定高さ突出し且つ全周に亘って周方向に連続して延びる、比較的に厚肉の矩形板枠状の外フランジ部41が、厚さ方向一方側の面において、固定型30の固定板22側の端面と面一とされた状態で、一体形成されている。また、かかる固定型30の中心部には、その固定板22側に、スプルブッシュ42が、埋め込まれるように取り付けられており、更に、このスプルブッシュ42の内孔に連通するスプル44が、可動型28との対向面において開口するように、中心部を貫通して、形成されている。そして、このような固定型30が、外フランジ部41において、複数のクランプ治具40によりクランプされた状態で、固定板22に対して位置固定に取り付けられている。また、かかる固定型30においては、固定板22に取り付けられた状態下で、スプルブッシュ42の内孔におけるスプル44との連通側とは反対側の開口部に対して、固定板22の挿通孔46に挿通位置せしめられた前記射出装置10のノズル18の先端開口部が連通せしめられている。
かくして、射出成形型14にあっては、型締装置12における可動板24の固定板22に対する接近/離隔移動に伴って、可動型28が固定型30に対して接近/離隔移動せしめられて、それら可動型28と固定型30との型閉め/型開きや圧締めが行われるようになっている。そして、可動型28と固定型30とが型閉めされて、可動型28におけるキャビティ形成凹所38の開口部が、固定型30における可動型28との対向面にて覆蓋されることによって、それら可動型28と固定型30との型合せ面間に、目的とする樹脂製品に対応した形状を有する成形キャビティ(48)が形成されるように構成されている(図4参照)。
また、そのような可動型28と固定型30との型合せ状態下において、固定型30のスプル44が、成形キャビティ48内に開口せしめられ、それによって、射出装置10のノズル18から射出される溶融樹脂材料が、スプルブッシュ42の内孔とスプル44とを通じて、成形キャビティ(48)内に導入されて、充填されるようになっている。そして、この成形キャビティ(48)内に充填された溶融樹脂材料が冷却固化されることで、目的とする樹脂製品が成形されるようになっているのである(図5及び図6参照)。
さらに、本実施形態の射出成形機には、上記のようにして成形キャビティ(48)内で成形された樹脂製品を成形キャビティ(48)内から突き出すための突出し装置が、従来と同様な構造を有して、設けられている。
すなわち、この突出し装置は、可動型28における角筒状のスペーサブロック36の内孔内に、その軸方向、つまり可動側型板34側方向と可動側基板32側方向の両方向に移動可能に配置された、矩形平板状のエジェクタプレート50を、有している。また、このエジェクタプレート50における可動側型板34側の面上には、複数のエジェクタピン52が一体的に立設されている。そして、それら各エジェクタピン52は、可動側型板34における可動板24(可動側基板32)との対向面とキャビティ形成凹所38の底面とにおいてそれぞれ開口して、可動型28と固定型30との対向方向に真っ直ぐに延びるように形成された複数のピン挿通孔54内に挿通されている。
一方、エジェクタプレート50における可動側基板32側の面には、エジェクタロッド56が、その先端部において固定されている。このエジェクタロッド56は、可動板24と可動側基板32のそれぞれの中心部に設けられた中心孔57,58を通じて、可動板24の背面側に延出せしめられ、また、かかる可動板24の背面に取り付けられたラム26の内部に突入せしめられている。そして、かかるエジェクロッド56にあっては、ラム26を突出/引込移動せしめる、図示しない油圧シリンダの作動に基づいて、ラム26と一体に突出/引込移動せしめられ、また、ラム26に内臓された、図示しない油圧シリンダの作動に基づいて、ラム26に対して相対的に突出/引込移動せしめられるようになっている。そして、このようなエジェクタロッド56の突出/引込移動に伴って、エジェクタプレート50と各エジェクタピン52とが一体移動せしめられるようになっているのである。
ところで、本実施形態の射出成形機にあっては、特に、可動型28と固定型30とが、電気的に接地せしめられることのない特別な構造をもって、型締装置12の可動板24と固定板22とに対してそれぞれ取り付けられており、また、上述のようにして成形される樹脂製品における負の静電気の発生後の表面電位を制御するための機能が、具備せしめられている。
より詳細には、固定型30と固定板22との間には、第一の絶縁板60が、配設されている。この第一の絶縁板60は、公知の絶縁材料のうち、比較的に安価で且つ高い強度を有する、例えばアルミナ等のセラミックス材料を用いて形成された、所定の厚さを有する矩形の平板からなり、厚さ方向の端面が、固定型30における前記外フランジ部41の形成側の端面よりも大きく、且つ固定板22における可動板24との対向面よりも小さな大きさとされている。
そして、かかる第一の絶縁板60が、固定型30における外フランジ部41形成側の端面と、固定板22における可動板24との対向面とに対して、厚さ方向の両端面においてそれぞれ接触し、且つそれら固定型30と固定板22とに対して同軸的に位置せしめられて、外周部分の全部を、固定型30の外フランジ部41から側方にはみ出すように突出させた状態で、配置されている。
つまり、固定型30と固定板22とが、第一の絶縁板60を介して、非接触状態で重ね合わされており、それによって、それら固定型30と固定板22との間が、電気的に絶縁状態とされている。また、そのような固定型30と第一の絶縁板60と固定板22との重合せ状態下で、第一の絶縁板60の外周部分が、固定型30における外フランジ部41の外周縁部から側方に突出する突出部61とされていると共に、第一の絶縁板60の突出部61と重ね合わされる部分を含む固定板22の外周部も、固定型30における外フランジ部41の外周縁部から側方に突出する突出部62とされている。
なお、固定型30と固定板22との間を絶縁する第一の絶縁板60の厚さは、特に限定されるものではないものの、後述する如く、可動型28と固定型30との型合せ状態下で、可動型28に対して所定の電荷が印加されることにより、固定型30が蓄電せしめられた際に、第一の絶縁板60自身において絶縁破壊が生ずることのない厚さとされる。また、かかる第一の絶縁板60の中心部には、固定型30に取り付けられたスプルブッシュ42の内孔に連通する連通孔65が設けられ、この連通孔65を通じて、射出装置10から射出された溶融樹脂材料のスプルブッシュ42の内孔内からスプル44内への流動が許容され得るようになっている。
そして、本実施形態においては、図1に示されるように、また上記せる如く、固定型30と第一の絶縁板60と固定板22とが互いに重ね合された状態下で、前記クランプ治具40の複数が、固定型30の外フランジ部41における周上の複数個所において、外フランジ部41の一部をそれぞれクランプした状態で、固定板22の突出部62に固定されているのであるが、このクランプ治具40は、図1乃至図3に示されるように、全体として、断面L字状を呈する金属製の板材乃至はブロック体からなっており、固定型30と第一の絶縁板60と固定板22の互いの重合せ方向に真っ直ぐに延びる固定部63と、かかる固定部63の長さ方向一端部から、その長さ方向に対して直角な方向に向かって延びる係合部64とを、一体的に有している。また、かかるクランプ治具40の固定部63の中心部には、その長さ方向に真っ直ぐに延びるボルト挿通孔66が、固定部63の中心部を貫通するように穿設されている一方、係合部64の厚さ方向(固定部63の長さ方向)の両端面のうち、固定部63の長さ方向における係合部64側とは反対側に位置する端面が、平坦な係合面68とされている。
そして、このようなクランプ治具40が、係合部64の係合面68において、固定型30の外フランジ部41に係合せしめられた状態で、固定部63の先端面において、固定型30と固定板22との間に介装された第一の絶縁板60の突出部61に当接位置せしめられている。また、そのような配置状態下で、クランプ治具40における固定部63のボルト挿通孔66内に挿通された金属製の固定ボルト70が、第一の絶縁板60の突出部61に設けられた挿通孔72に更に挿通せしめられて、固定板22の突出部62に設けられた雌ねじ穴74に螺合されており、それによって、クランプ治具40が、固定板22に固定されている。
さらに、そのような複数のクランプ治具40と固定型30との間には、スペーサ部材76が、それぞれ、1個つずつ介装されて、それらクランプ治具40と固定型30とに接触位置せしめられている。このスペーサ部材76は、第一の絶縁板60の形成材料と同様な絶縁材料、つまり、公知の絶縁材料のうち、比較的に安価で且つ高い強度を有する、例えばアルミナ等のセラミックス材料からなり、全体として、階段状に屈曲形成された、一定の厚さを有する板状形態を呈している。即ち、スペーサ部材76は、厚さ方向の一方側の面が、クランプ治具40における係合部64の係合面68と、この係合面68を間に挟んで、それと連続する係合部64の先端面及び固定部63の側面とからなる階段状の屈曲面の全面に接触する接触面を含む第一屈曲面77とされている一方、他方側の面が、固定型30における外フランジ部41形成側端部の側面と、かかる外フランジ部62の外周面と、それらの側面と外周面との間に挟まれて、それら両面に連続する外フランジ部62の側面とからなる階段状の屈曲面の全面に接触する接触面を含む第二屈曲面79とされた、セラミックス板にて、構成されている。
かくして、固定板22に対して絶縁状態で重ね合わされた固定型30と、固定板22に固定されたクランプ治具40とが、スペーサ部材76を介して非接触状態で重ね合わされている。そして、それによって、それら固定型30とクランプ治具40との間が、電気的に絶縁状態とされていると共に、そのような絶縁状態で、固定型30の外フランジ部41が、かかる外フランジ部41を間に挟んで両側に位置するスペーサ部材76の中間部と第一の絶縁板60の外周部と共に、クランプ治具40の係合部64と固定板22との間で挟持されており、以て、固定型30が、電気的に接地せしめられることのない構造において、複数のクランプ治具40にてクランプされて、固定板22に取り付けられているのである。また、ここでは、スペーサ部材76が、セラミックス板にて構成されていることで、かかるスペーサ部材76に対して、クランプ治具40のクランプ力にて容易には変形しない強度が具備せしめられている。
一方、可動型28の可動型側基板32と可動板24との間には、第二の絶縁板78が、配設されている。この第二の絶縁板78も、固定型30と固定板22との間に配設される第一の絶縁板60と同じ材料、例えばアルミナ等のセラミックス材料を用いて形成された、所定の厚さを有する矩形の平板からなり、厚さ方向の端面が、可動型側基板32における前記外フランジ部37の形成側の端面よりも大きく、且つ可動板24における固定板22との対向面よりも小さな大きさとされている。また、かかる第二の絶縁板78の可動型28と可動板24との間への配設形態も、第一の絶縁板60の固定型30と固定板22との間への配設形態と同様な形態とされている。
これによって、可動型28と可動板24とが、第二の絶縁板78を介して非接触状態で重ね合わされて、それらの間が電気的に絶縁状態とされている。また、そのような可動型28と第二の絶縁板78と可動板24との重合せ状態下で、第二の絶縁板78の外周部分が、可動型28(可動型側基板32)における外フランジ部37の外周縁部から側方に突出する突出部80とされていると共に、第二の絶縁板78の突出部80と重ね合わされる部分を含む可動板24の外周部も、可動型28における外フランジ部37の外周縁部から側方に突出する突出部82とされている。なお、かかる第二の絶縁板78も、第一の絶縁板60と同様に、その厚さが特に限定されるものではないものの、後述する如く、可動型28と固定型30との型合せ状態下で、可動型28に対して所定の電荷が印加されることにより、可動型28が蓄電せしめられた際に、絶縁破壊が生じない厚さとされている。
そして、第二の絶縁板78を介して可動板24に重ね合わされた可動型28にあっても、固定型30の固定板22への取付構造と同様な構造において、可動板24に取り付けられている。即ち、可動板24の突出部82に対して、複数のクランプ治具40が、その固定部63と第二の絶縁板78の突出部80とを挿通して配置された固定ボルト70にて、それぞれ固定されていると共に、それら各クランプ治具40と、可動板24に対して絶縁状態で重ね合わされた可動型28(可動側基板32)とが、スペーサ部材76をそれぞれ介して非接触状態で重ね合わされている。これにより、可動型28とクランプ治具40との間が電気的に絶縁されていると共に、そのような絶縁状態で、可動型28の外フランジ部37が、かかる外フランジ部37を間に挟んで両側に位置するスペーサ部材76の中間部と第二の絶縁板78の外周部と共に、クランプ治具40の係合部64と可動板24との間で挟持されている。そうして、可動型28が、電気的に接地せしめられることのない構造において、複数のクランプ治具40にてクランプされて、可動板24に取り付けられているのである。
なお、かかる第二の絶縁板78の中心部には、可動板24や可動型28の可動側基板32にそれぞれ設けられた中心孔57,58に連通する中心孔84が設けられている。そして、それら可動板24と可動側基板32と第二の絶縁板62とに連通状態で設けられた各中心孔57,58,84に対して、エジェクタロッド56が、軸方向に移動可能に挿通されている。また、このエジェクタロッド56も、その先端部に、アルミナ等のセラミックス材料や、樹脂材料、ガラス材料等の絶縁材料からなる第三の絶縁板86が、エジェクタプレート50との間に介在せしめられた状態で、接着等により取り付けられている。これによって、エジェクタプレート50やそれに一体形成されたエジェクタピン52が、エジェクタロッド56に対して電気的に絶縁されており、以て、それらエジェクタプレート50やエジェクタピン52が可動型28のスペーサブロック36や可動側型板34に接触せしめられた状態下においても、可動型28の可動板24に対する絶縁状態(電気的な非接地状態)が確保されるようになっている。なお、そのような絶縁状態を、より有利に確保するには、エジェクタプレート50やエジェクタピン52の全表面に、例えばフッ素樹脂等の絶縁材料をコーティングすることが、有効である。
そして、そのようにして型締装置12の可動板24と電気的に絶縁された可動型28に対して、成形加工される樹脂製品において生ずる静電気と同一極性の負の電荷を印加する電荷印加手段としての高圧電源装置88が、電気的に接続されている。つまり、この高圧電源装置88は、例えば1〜30kV程度の高電圧の負の電荷を供給し得る公知の構造を有している。また、この高圧電源装置88から延びるリード線90の先端部には、例えば圧着端子等(図示せず)が取り付けられている。そして、このリード線90の先端に取り付けられた圧着端子が、可動型28の可動側型板34の側面等に螺入されたボルト等にて、可動側型板34に取り付けられることで、高圧電源装置88と可動型28とが、電気的に接続されている。なお、高圧電源装置88は、アース線92にて接地されている。
また、かかる高圧電源装置88は、その作動を制御する制御手段としてのコントローラ94に対しても、電気的に接続されている。更に、このコントローラ94は、可動型28と固定型30との型閉め状態と前記せる如き完全な型開き状態とを検出する、可動板24や24や固定板22等に取り付けられた、例えばリミットスイッチ等のセンサ素子(図示せず)に対して、電気的に接続されている。そして、かかるコントローラ94にあっては、リミットスイッチ等のセンサ素子にて、可動型28と固定型30とが型閉め状態となったことが検出されたときに、高圧電源装置88を作動させる一方、かかる型閉め状態から、可動型28と固定型30とが完全な型開き状態となったこと、つまり、可動型28と固定型30とが予め設定された型開き位置まで移動し、且つ成形された樹脂製品がエジェクタピン52にてキャビティ形成凹所38内から外部に突き出されたことが検出されたときに、高圧電源装置88を停止させるように、高圧電源装置88の作動/停止を制御し得るようになっている。また、コントローラ94には、変更手段としての操作摘み96が設けられており、この操作摘み96が摘まれて回転操作されることで、高圧電源装置88から供給される負電荷の電圧が、任意の値に予め設定され、或いはその設定値が変更乃至は調節され得るようになっている。
これによって、ここでは、可動型28と固定型30とが型閉め状態となったときに、高圧電源装置88から可動型28の可動側型板34に対して、負の電荷が、操作摘み96に対する回転操作により予め設定された電圧において、自動的に印加(供給)されるようになっている。また、可動型28と固定型30との型閉め状態から、それら可動型28と固定型30とが型開きされ、更には樹脂製品が離型せしめられたときには、高圧電源装置88から可動型28の可動側型板34への負電荷の印加が、自動的に停止されるようになっている。
そして、上記せるように、可動型28は、第二の絶縁板78やエジェクタロッド56の先端に設けられた第三の絶縁板86にて、型締装置12(可動板24)や突出し装置等に対して、常に絶縁状態とされており、更に、固定型30も、第一の絶縁板60にて、型締装置12に対して、常時、絶縁状態とされている。従って、可動型28と固定型30との型閉め状態下で、高圧電源装置88から可動型28に負電荷が、所望の電圧において自動的に印加されることで、可動型28と固定型30とが、可動型28への印加される負電荷の電圧と同一の電圧において、自動的に、負に蓄電せしめられるようになっている。
また、可動型28の可動側型板34と固定型30とには、それらを電気的に接地するための、アース手段としてのアース線98が、高圧電源装置88のリード線90と同様な状態で、それぞれ接続されている。更に、それら各アース線98の途中には、アース線98を導通状態と非導通状態とに切り換える、切換手段としてのスイッチ100が、各々設けられている。そして、それら各スイッチ100は、前記コントローラ94にも電気的に接続されて、このコントローラ94により、高圧電源装置88の作動/停止(高圧電源装置88から可動側型板34への負電荷の供給の開始/停止)に基づいて自動制御されるようになっている。
つまり、ここでは、可動型28と固定型30とが型閉め状態となって、コントローラ94により、高圧電源装置88から可動側型板34への負電荷の供給が開始されると同時に、各スイッチ100が開作動せしめられて、各アース線98が非導通状態とされ、以て、可動型28と固定型30とが、自動的に絶縁状態とされるようになっている。また、可動型28と固定型30とが型開きされると共に、樹脂製品が離型せしめられて、コントローラ94により、高圧電源装置88から可動側型板34への負電荷の供給が停止せしめられると同時に、各スイッチ100が閉作動せしめられて、各アース線98が導通状態とされ、以て、可動型28と固定型30とが、自動的にアースされるようになっている。そして、このような各スイッチ100の閉作動による可動型28と固定型30のアースにより、それら可動型28と固定型30に蓄電せしめられた電荷が放出せしめられるようになっているのである。
そして、このような可動型28や固定型30の蓄電構造を有する本実施形態の射出成形機においては、可動型28や固定型30とクランプ治具40との間に介在せしめられたスペーサ部材76の厚さの最小値:Tx(mm)が、上記のようにして、高圧電源装置88から可動型28に印加される負電荷の最大電圧の絶対値:V(kv)を、スペーサ部材76が有する絶縁破壊の強さ:Rb(kv/mm)で除した値よりも大きな値とされている。つまり、下式(1)を満足するように、スペーサ部材の厚さ:Tx(mm)が、設定されている。
Tx>V/Rb ・・・・(1)
これによって、可動型28と固定型30との型閉め状態下で、高圧電源装置88から可動型28に負電荷が、所望の電圧において自動的に印加されて、可動型28と固定型30とが、可動型28への印加される負電荷の電圧と同一の電圧において、自動的に、負に蓄電せしめられたときに、スペーサ部材76において絶縁破壊が惹起されることが阻止されるようになっている。
また、ここでは、スペーサ部材76の表面に沿って測定されるクランプ治具40と可動型28や固定型30との間の距離の最小値:S(mm)が、高圧電源装置88から可動型28に印加される負電荷の最大電圧の絶対値:V(kv)のkv単位を外してmm単位に置換した値、換言すれば、高圧電源装置88から可動型28に印加される負電荷の最大電圧の絶対値:V(kv)に対して1mm/kvを乗じた値:V(mm)よりも大きな値とされている。
かくして、クランプ治具40と可動型28や固定型30との間の距離が、十分に大きくされ、以て、可動型28と固定型30との型閉め状態下で、高圧電源装置88から可動型28に負電荷が、所望の電圧において自動的に印加されて、可動型28と固定型30とが、可動型28への印加される負電荷の電圧と同一の電圧において、自動的に、負に蓄電せしめられたときに、クランプ治具40と可動型28や固定型30との間で放電が生ずることが効果的に防止され得るようになっている。
なお、スペーサ部材76の表面に沿って測定されるクランプ治具40と可動型28や固定型30との間の距離の最小値:S(mm)とは、図2に示される、スペーサ部材76の厚さ:T(mm)と、クランプ治具40のスペーサ部材76との接触面の端縁から、スペーサ部材76のクランプ治具40との接触面を含む前記第一屈曲面77の端縁までの距離:D(mm)、換言すれば、第一屈曲面77のうち、クランプ治具40との接触部分から側方にはみ出した部分の幅との合計値:T+D(mm)の最小値を言う。本実施形態では、図2及び図3から明らかなように、スペーサ部材76が一定の厚さ:T(mm)を有し、また、第一屈曲面77のうち、クランプ治具40との接触部分から側方にはみ出した部分の幅:D(mm)が、固定型30や可動型28のそれぞれの高さ方向(互いの対向方向)に延びる部分において最も小さくされているため、図2にTとDで示される寸法の合計値が、スペーサ部材76の表面に沿って測定されるクランプ治具40と可動型28や固定型30との間の距離の最小値:S(mm)とされる。
而して、かくの如き構造とされた射出成形機を用いて、目的とする樹脂製品を成形する際には、例えば、以下のようにして、その作業が進められることとなる。
すなわち、先ず、図4に示されるように、型締装置12のラム26の突出作動により、可動板24を固定板22に接近移動せしめて、可動型28と固定型30の型合せ及び圧締めを行う。これによって、それら可動型28と固定型30との型合せ面間に、成形キャビティ48を形成する。
次に、図5に示されるように、目的とする樹脂製品の形成材料たる溶融樹脂材料102を、射出装置10のノズル18から射出する。そして、かかる溶融樹脂材料102を、第一の絶縁板60の連通孔65とスプルブッシュ42の内孔とスプル44とを流動せしめて、成形キャビティ48内に導入し、充填する。
その後、図6に示されるように、成形キャビティ48内に充填された溶融樹脂材料102を冷却固化して、目的とする樹脂製品104を成形する。そして、それに引き続き、型締装置12のラム26を引込移動せしめることにより、可動板24を固定板22から離隔させて、可動型28と固定型30の型開きを行う。また、この型開きを行う際には、型開きの途中まで、ラム26とエジェクタロッド56とを一体に引込移動させ、可動型28と固定型30の離間距離が所定の大きさに達した時点から、ラム26の引込移動が終了するまでの間、エジェクタロッド56を突出移動せしめる。これにより、樹脂製品104を、各エジェクタピン52にて、キャビティ形成凹所38内から外部に突き出し、ラム26が引込移動の限度位置に達して、可動型28と固定型30とが完全な型開き状態となったときには、樹脂製品104を、射出成形型14から完全に離型せしめる。
而して、ここでは、特に、上記の如き樹脂成形品104の一連の成形操作の中で、図4に示される可動型28と固定型30との型合せの完了時に、型締装置12に対して絶縁された可動型28の可動側型板34と固定型30のそれぞれに接続されるアース線98の途中のスイッチ100が、コントローラ94にて開作動されて、可動型28と固定型30とが、自動的に且つ確実に電気的に非接地状態とされる。また、それと同時に、高圧電源装置88が、コントローラ94にて作動せしめられて、高圧電源装置88から可動型28の可動側型板34に対して、負の電荷が、操作摘み96に対する操作により予め設定された電圧において、自動的に印加されるようになる。これにより、可動型28と固定型30とが、高圧電源装置88から印加される負の電荷と同電位で、負に蓄電せしめられる。
なお、このような高圧電源装置88から可動型28の可動側型板34への負電荷の印加時には、その電流値が、可及的にゼロとされていることが望ましい。何故なら、射出成形型14に負電荷を印加している最中に、作業者等が射出成形型14に誤って接触することがあっても、その作業者が感電するようなことが有利に解消されて、安全な作業が確保され得るようになるからである。また、前述せるように、本実施形態装置では、可動型28と固定型30とにそれぞれ接続されるアース線98,98の途中に設けられたスイッチ100,100の開閉作動が、コントローラ94にて自動制御されている。そのため、図6に示されるように、可動型28と固定型30とが完全な型開き状態となって、樹脂製品104が射出成形型14から離型せしめられた時点で、即座に、可動型28と固定型30とがアースされて、それら可動型28と固定型30に蓄電された負の電荷が、自動的に放出されるようになる。
そして、高圧電源装置88から可動型28への負電荷の印加状態で実施される、図5に示される如き樹脂製品104の成形時には、樹脂製品104が、成形キャビティ48内で、溶融樹脂材料102の冷却固化により成形されるまでの間、高圧電源装置88からの負電荷の印加により負に蓄電せしめられた、成形キャビティ48を形成する可動型28及び固定型30と接触せしめられている。そのため、成形キャビティ48内で冷却固化された樹脂製品104は、その内部で惹起される分極現象等により、表面が、負に蓄電せしめられた可動型28や固定型30とは逆の正に帯電せしめられるようになる。
そして、図6に示されるように、成形された樹脂製品104を射出成形型14から離型するときには、成形キャビティ48の内面(可動側型板34におけるキャビティ形成凹所38の内周面、及び固定型30の可動型28との型合せ面)と樹脂製品104との間で剥離帯電が生じて、樹脂製品104の表面において負の静電気が発生せしめられる。しかしながら、この静電気における負の電荷は、樹脂製品104の表面に帯電せしめられた正の電荷にて打ち消されるようになる。
従って、ここでは、操作摘み96に対する操作により予め設定された電圧において、高圧電源装置88から可動型28に印加される負電荷の電圧に応じて、離型後の樹脂製品104の表面電位が、所望の値に制御され得るようになる。
すなわち、具体的には、離型による剥離帯電によって樹脂製品104に生ずる静電気の電圧よりも所定量だけ大きな電圧を有する負電荷を、高圧電源装置88から可動型28(可動側型板34)に印加すれば、離型後の樹脂製品104の表面電位を可及的にゼロと為して、かかる樹脂製品104の表面の帯電状態を解消せしめることが出来る。また、そのような静電気の電圧よりも所定量だけ大きな電圧よりも更に十分に大きな電圧を有する負電荷を、高圧電源装置88から可動型28に印加すれば、離型後の樹脂製品104の表面電位を、正のままに維持せしめることが可能となるのである。なお、樹脂製品104の表面電位を所望の値と為すために、高圧電源装置88から可動型28に印加される負電荷の具体的な電圧は、例えば、かかる負電荷の印加電圧を種々変更させながら、目的とする樹脂製品104を成形する試験を繰り返し行って得られる結果等に基づいて、予め設定される。
かくして、目的とする樹脂製品104が、高圧電源装置88から可動型28の可動側型板34に印加される負電荷の電圧に応じて制御された表面電位を有して、成形されることとなるのである。
このように、本実施形態の射出成形機においては、例えば、加湿処理や帯電防止剤を用いた帯電防止処理等、射出成形操作とは無関係な特別な操作や処理を何等実施することなく、それ故、そのような特別な処理の実施に際して必要とされる余分な条件や後処理等が付加せしめられることもなく、単に、従来の射出成形操作と並行して、高圧電源装置88から可動型28に、負電荷を予め設定された電圧において印加する操作を行うだけで、成形された樹脂製品104の表面電位を、例えば、表面電位が可及的にゼロとなるように、容易に且つ確実に制御することが可能となる。
従って、かくの如き本実施形態によれば、表面電位が所望の値となるように制御された樹脂製品104が、品質、性能等の低下等を何等招くことなく、極めて有利に成形され得る。そして、その結果として、目的とする樹脂製品104の成形加工時や、その後工程等で、樹脂製品104において発生する静電気が原因で生じていた様々なトラブルや不具合が、効果的に解消され得ることとなるのである。
しかも、本実施形態においては、固定板22や可動板24に対して、第一の絶縁板60や第二の絶縁板78を介して絶縁状態で重ね合わされた固定型30や可動型28が、絶縁材料からなるスペーサ部材76にて固定型30や可動型28と絶縁された状態で、固定板22や可動板24に、金属製の安価な固定ボルト70にて固定された金属製の安価なクランプ治具40により、クランプされて、固定板22や可動板24に取り付けられている。
それ故、かかる本実施形態では、従来とは異なって、セラミックスボルト等の高価な固定ボルトや、穿設が困難で且つ高価なセラミックス製のクランプ治具を何等要することなく、固定型30や可動型28の固定板22や可動板24に対する絶縁状態、ひいてはそれら固定型30や可動型28の電気的な非接地状態を、確実に且つ安定的に、しかも低コストで確保しつつ、固定型30と可動型28とが、固定板22と可動板24に対して極めて有利に取り付けられ得るのである。
また、本実施形態にあっては、クランプ治具40と固定型30や可動型28との間に介在せしめられて、それらクランプ治具40と固定型30や可動型28との間を絶縁状態と為すスペーサ部材76が、セラミックス板にて構成されて、クランプ治具40のクランプ力にて容易には変形しない強度が発揮されるようになっているところから、クランプ治具40のクランプ力により、スペーサ部材76が損傷乃至は破壊されるようなことが未然に防止され、以て、固定型30と固定板22との間や、可動型28と可動板24との間の絶縁状態が、更に一層安定的に確保され得る。
さらに、本実施形態では、クランプ治具40の固定部63に挿通された固定ボルト70が、第一の絶縁板60や第二の絶縁板78の各突出部61,80に設けられた挿通孔72を挿通せしめられた上で、固定板22や可動板24の各突出部62,82に設けられた雌ねじ穴74に螺合されることで、クランプ治具40が、固定板22や可動板24に固定されている。それ故、例えば、固定ボルト70が、第一の絶縁板60や第二の絶縁板78に挿通されることなく、固定型30と固定板22だけが、或いは可動型28と可動板24だけが、ボルト固定されて、第一の絶縁板60や第二の絶縁板78が、ボルト固定された固定型30と固定板22との間や、可動型28と可動板24との間で、単に挟持される場合に比して、第一の絶縁板60や第二の絶縁板78が、固定型30と固定板22との間や、可動型28と可動板24との間に、一層確実に且つ安定的に保持され得、これによっても、固定型30と固定板22との間や、可動型28と可動板24との間の絶縁状態が、更に十分に確保され得る。
また、本実施形態においては、可動型28と固定型30との型閉め状態下で、高圧電源装置88から可動型28に負電荷が、所望の電圧において自動的に印加されて、可動型28と固定型30とが、可動型28への印加される負電荷の電圧と同一の電圧において、自動的に、負に蓄電せしめられたときに、スペーサ部材76において絶縁破壊が惹起されることのないように、スペーサ部材76の厚さの最小値:Tx(mm)が、十分な大きさに設定されているだけでなく、かかる可動型28と固定型30の蓄電時において、クランプ治具40と可動型28や固定型30との間で放電が生じないように、スペーサ部材76の表面に沿って測定されるクランプ治具40と可動型28や固定型30との間の距離の最小値:S(mm)も、十分な大きさにおいて設定されている。これによって、成形された樹脂製品104の表面電位の制御が、より確実に且つ安定的に行われ得る。
また、本実施形態にあっては、高圧電源装置88の作動/停止が、射出成形型14の型開閉に基づいて、コントローラ94により自動制御されることで、可動型28と固定型30への蓄電操作が自動的に行われるようになっているところから、所望の表面電位を有する樹脂製品104が、より効率的に且つ優れた製作性をもって、工業的に有利に成形され得る。
さらに、本実施形態においては、射出成形型14が型開きされて、成形された樹脂製品104が離型せしめられた時点で、可動型28と固定型30とに蓄電された電荷が自動的に放出され、しかも、可動型28と固定型30は、それらが再び型閉めされるまで、蓄電されないようになっている。このため、樹脂製品104の成形された後、別の樹脂製品104の成形が開始されるまでの間に、作業者等が射出成形型14に接触しても、その作業者が感電するようなことが有利に解消されて、安全性が有利に確保され得る。
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎないのであって、本発明は、上記の記載によって、何等の制約をも受けるものではない。
例えば、前記実施形態では、電荷印加手段たる高圧電源装置88から、成形金型である可動型28に対して負の電荷が印加されることで、樹脂製品104の表面電位が所望の値に制御されるようになっていたが、電荷印加手段から成形加工具に印加される電荷の極性は、何等これに限定されるものではない。例えば、目的とする樹脂製品の表面電位を可及的にゼロとする場合や、そのような表面電位を、樹脂製品において生ずる静電気の極性とは逆の極性とする場合には、かかる静電気と同一極性の電荷が、電荷印加手段から成形金型に印加されることとなるのであり、また、目的とする樹脂製品の表面電位を静電気と同一極性とする場合には、かかる静電気とは逆の極性の電荷が、電荷印加手段から成形金型に印加されることとなるのである。
また、電荷印加手段から成形金型に印加される電荷の電圧も、樹脂製品の表面電荷の所望の電圧に応じて、適宜に決定されるところである。
また、可動型28に加えて、又はそれに代えて、高圧電源装置88を固定型30に接続し、可動型28と固定型30との両方に対して直接に電荷を印加するように為したり、或いは固定型30だけに直接に負電荷を印加して、可動型28には、かかる固定型30を通じて、電荷を間接的に印加するように為すことも、勿論可能である。
さらに、成形金型たる射出成形型14の可動型28と固定型30は、少なくとも樹脂製品104との接触部分において、電気的な接地が阻止されるようになっていることが好ましい。
また、固定型30と固定板22との間や可動型28と可動板24との間に、それぞれ介在せしめられる第一及び第二の絶縁板60,78は、それら固定型30と固定板22との間や可動型28と可動板24との間を確実に絶縁し得るものであれば、その形状や大きさ、或いは材質等が、特に限定されるものでないことは、言うまでもないところである。即ち、それら第一及び第二の絶縁板60,78を、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ABS樹脂、フッ素樹脂等の樹脂材料製の板材や、ガラス板、無機・有機ガラスクロス積層板等にて、構成することも出来る。
さらに、電荷印加手段も、例示の高圧電源装置88に決して限定されるものではなく、可動側型板34等に対して、負の電荷のみを印加するものと、正の電荷のみを印加するものと、外部からの操作によって正と負の電荷を選択的に印加し得るものの中から、樹脂製品104において生ぜしめられる静電気の極性と、制御されるべき樹脂製品104の表面電位の値とに応じて、従来より公知の構造を有するのもが、適宜に選択されて、使用され得る。
更にまた、成形金型は、例示された射出成形型14に、何等限定されるものではなく、目的とする樹脂製品の成形や加工に際して使用される各種の成形金型が、何れも用いられ得る。
また、クランプ治具40の構造も、係合部64と固定部63とを有し、係合部64にて、成形金型たる可動型28や固定型30に係合して、固定部63において、取付板たる可動板24や固定板22に取り付けられるものであれば、公知の構造が、何れも採用され得る。即ち、例えば、固定部63と係合部64とが別個の部材からなり、それらが固定ボルト70等にて一体に組み付けられる構造を有していても、何等差し支えない。
さらに、クランプ治具40の使用個数も、クランプ治具40の構造や、取付板に取り付けられるべき成形金型の形状や大きさ、構造等に応じて、適宜に変更され得るものである。例えば、成形金型が矩形状を呈する場合において、クランプ治具40が、かかる成形金型の形状に対応した矩形の枠体形状を呈する、互いに別個の部材からなる係合部64と固定部63と、それらを一体に組み付ける複数の固定ボルト70を有して構成される場合には、単に1個のクランプ治具40を用いて、成形金型を取付板に取り付けることが出来る。
更にまた、スペーサ部材76は、クランプ治具40と成形金型たる可動型28や固定型30との間を確実に絶縁し得るものであれば、その形状や大きさ、或いは材質等が、特に限定されるものではない。即ち、スペーサ部材76が、例えば、薄肉のテープ形態、或いはブロック形態を有していても、何等差し支えないのである。また、かかるスペーサ部材76の形成材料としては、例示のセラミックス材料の他、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ABS樹脂、フッ素樹脂等の樹脂材料や、ガラス材料を用いることが出来、更に、ガラス材料を用いる場合には、スペーサ部材76を、無機・有機ガラスクロス積層板等にて構成することも出来る。
また、取付板に取り付けられる成形金型は、例示された可動型28と固定型30等の2個の分割型からなるもののに、特に限定されるものではなく、3個以上の分割型からなるものの他、例えば、真空成形や加圧成形等に用いられる如き、単に1個の金型からなるものであっても良い。
加えて、本発明は、型締装置の取付板に対して、射出成形金型を電気的に絶縁状態で取り付ける構造と、そのような取付構造を採用した、表面電位の制御機能を有する射出成形機の他、射出成形金型以外の各種の成形金型を、導電性を備えた取付板に対して電気的に絶縁状態で取り付ける構造や、そのような取付構造を採用した、表面電位の制御機能を有する、樹脂材料やゴム材料、或いはセラミックス材料等の不導体材料からなる不導体製品の成形加工装置の何れに対しても、有利に適用可能であることは、勿論である。
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。