JP4878730B2 - Hgfヒドロゲル徐放性製剤 - Google Patents

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Description

技術分野
本発明は、肝実質細胞増殖因子(HGF)と特定の物性を有するゼラチンヒドロゲルとの組み合わせにより得られるHGF徐放性ゼラチンヒドロゲル製剤に関する。さらに詳しくは、本発明は、HGFとゼラチンヒドロゲルとの複合体、HGF含浸ゼラチンヒドロゲル製剤もしくはこれらを利用した血管新生促進剤、または動脈疾患治療剤などに関する。
背景技術
肝実質細胞増殖因子(HGF)は成熟肝細胞に対する強力な増殖促進因子として発見され、その遺伝子クローニングがなされたタンパク質である(Biochem Biophys Res Commun,122,1450(1984)、Proc.Natl.Acad.Sci,USA,83,6489,(1986)、FEBS Letter,22,311(1987)、Nature,342,440(1989)、Proc.Natl.Acad.Sci,USA,87,3200(1990))。その後の研究により、HGFはin vivoにおいて肝再生因子として障害肝の修復再生に働くだけでなく、血管新生作用を有し、虚血性疾患や動脈疾患の治療または予防に大きな役割を果たしていることが明らかとなってきた(Symp.Soc.Exp.Biol.,47cell behavior,227−234(1993),Proc.Natl.Acad.Sci.,90,1937−1941(1993),Circulation,97,381−390(1998))。
このようにHGFは血管新生因子の機能を始めとして種々の機能を持っており、医薬品として活用するため色々な試みがなされてきた。しかし、ここで問題となってきたのがHGFの血中での半減期である。HGFの半減期は数分から10分と短く、血中濃度を維持することが困難であり、また、患部へのHGFの有効量の移行が問題となった。このように、タンパク質を溶液の形で注射するだけでは注射部位から急速に拡散排泄されることから、必ずしもHGFの十分な生理活性を期待することは難しいと考えられた。
しかし、in vivoの有効性を高める唯一考えられる方法は、ポリマー担体にHGFを含浸させ、長時間にわたるHGFの徐放を可能にすることである。近年、塩基性線維芽細胞増殖因子、骨誘導タンパク質および形質転換成長因子などいくつかの増殖因子が、種々の担体マトリックスと併用した場合にin vivoで予測した生理活性を示すことがいくつかの試験で示された[Downs,E.C.ら1992年、Miyamoto,S.ら1992年、Gombotz,W.R.ら1993年]。しかし、in vivoでのHGFの放出に関する報告は全くない。生理的に過剰な用量でHGF溶液を注射すると、予測した生理作用を誘導するという研究結果がいくつかあるのみである[Matsuda,Y.ら1995年]。
すでに本発明者は、bFGF、TGF−β1およびHGFは、細胞外マトリックス(ECM)のヘパラン硫酸またはヘパリンなどの酸性多糖類と相互作用して体内に蓄えられる[Taipale,J.,Keski−Oja,J.1997年、Mizuno,K.ら1994年、Arakaki,N.ら1992年、Sakata,H.ら1997年]との知見に基づき、これら増殖因子の徐放のために種々の検討を試みてきた。これまで、「塩基性」bFGFおよびTGF−β1の場合には、イオン的に相互作用できる等電点5.0の「酸性」ゼラチンから生分解性ヒドロゲルを調製し、これにbFGFおよびTGF−β1を含浸させたヒドロゲルを作製した。これらの含浸ヒドロゲルは、生体内での分解によって生理活性の増殖因子を徐放することができ、放出された増殖因子はin vivoの生理作用を示し、活性を保つ時間が増殖因子放出時間によく対応した[Tabata,Y.,Ikada,Y.1999年]。
しかしながら、HGFに関しては、どのようなゼラチンヒドロゲルが好適な組み合わせであるのかが明確でなく、HGFについて具体的なゼラチンヒドロゲル製剤の作製が望まれている状況であった。
本発明は、HGFの徐放性ゼラチンヒドロゲル製剤を提供することを目的とする。さらに詳しくは、本発明は、HGFとゼラチンあるいはゼラチンヒドロゲルとの複合体もしくはこれらを利用した血管新生促進剤、または動脈疾患治療剤などに関する。
本発明者は、HGFの徐放性ゼラチンヒドロゲル製剤について、鋭意検討を行った。すなわちまず、HGFとゼラチンヒドロゲルとの徐放効果について検討を行い、ある特定の物性を持ったゼラチンヒドロゲルとHGFの組み合わせにおいてのみ、顕著な徐放性効果を示すことを明らかにした。
また、HGFとゼラチンヒドロゲルとの間である特定のモル比(HGF:ヒドロゲルを構成するゼラチンが約7:1のモル比)で複合体を形成することが明らかとなった。さらに、同様にHGFとゼラチンとの間でも複合体が形成され、複合体中のHGFはトリプシン等のタンパク質分解酵素にも安定であることが分かった。
このHGFゼラチン(ヒドロゲル)複合体は、溶液中のイオン強度の影響が少ないことから、静電相互作用だけでなく、疎水結合等の他の作用も大きく寄与している複合体であることが明らかとなった。例えば、HGF以外のタンパク質であるbFGFの場合、同様にbFGFゼラチンヒドロゲル複合体を形成するが、この複合体はイオン強度の影響を大きく受け、溶液中のイオン強度の増大と共にゼラチンに対するbFGFの収着が抑制される。しかし、HGFの場合にはbFGFに比べてイオン強度の影響が少ないものとなっている。
また、本発明に適切なゼラチンを用いてグルタルアルデヒドの量を変えた化学的架橋性ゼラチンを作製し、種々の分解性の異なるヒドロゲルを調製し、その効果を検討した。例えば、125I標識HGF含浸ゼラチンヒドロゲルを作製してマウスの体内に埋植すると、グルタルアルデヒド濃度が高くなるにしたがって、HGF放射能がマウス皮下組織に長く残存することが明らかとなった。このように各ゼラチンヒドロゲルに残存するHGFの時間プロファイルは、ヒドロゲル分解の時間プロファイルによく一致しており、これはヒドロゲル生分解によるHGF放出を示すものであることが明らかとなった。
さらに、本発明に好適なゼラチンゲルを用いて、HGF含浸ゼラチンヒドロゲルを作製し、マウスに埋植すると、埋植したヒドロゲル周辺に血管新生による組織学的変化が誘導された。即ち、HGFとして5および10μgを含浸したゼラチンヒドロゲル製剤を埋植することによって、埋植部位周囲に新たに形成される毛細管の数が有意に増大することを見出した。
本発明は、以上のような知見に基づき完成するに至ったものである。
発明の開示
即ち本発明の要旨は以下のとおりである。
1.以下の物性を有するゼラチンを架橋して得られるゼラチンヒドロゲルと肝実質細胞増殖因子(HGF)からなるHGF徐放性ゼラチンヒドロゲル製剤:
(1)コラーゲンからのアルカリ加水分解処理によって得られる、酸性ゼラチンである、
(2)分子量がSDS−PAGEの非還元条件下で約10万〜約20万ダルトンである、
(3)等電点が約5である、
(4)水溶液中のジータ電位が約−15〜約−20mVである。
2.ゼラチンヒドロゲルの含水率が約80〜99w/w%である上記1記載のHGF徐放性ゼラチンヒドロゲル製剤。
3.ゼラチンヒドロゲルを構成するゼラチン1モルに対してHGFが約7モル以下の比で含有される上記1または2記載のHGF徐放性ゼラチンヒドロゲル製剤。
4.HGFと以下の物性を有するゼラチンからなる、HGF安定化ゼラチン製剤:
(1)コラーゲンからのアルカリ加水分解処理によって得られる、酸性ゼラチンである、
(2)分子量がSDS−PAGEの非還元条件下で約10万〜約20万ダルトンである、
(3)等電点が約5である、
(4)水溶液中のジータ電位が約−15〜約−20mVである。
5.以下の物性を有するゼラチンに対してHGFが約5倍量以下の重量比で形成されるHGFゼラチン複合体:
(1)コラーゲンからのアルカリ加水分解処理によって得られる、酸性ゼラチンである、
(2)分子量がSDS−PAGEの非還元条件下で約10万〜約20万ダルトンである、
(3)等電点が約5である、
(4)水溶液中のジータ電位が約−15〜約−20mVである。
6.上記5記載のHGFゼラチン複合体を含有してなるHGF安定化ゼラチン水溶液製剤。
7.上記1〜3のいずれかに記載のHGF徐放性ゼラチンヒドロゲル製剤、上記4記載のHGF安定化ゼラチン製剤、上記5記載のHGFゼラチン複合体および上記6記載のHGFゼラチン安定化水溶液製剤からなる群より選択されるいずれかの製剤からなる血管新生促進剤。
8.上記1〜3のいずれかに記載のHGF徐放性ゼラチンヒドロゲル製剤、上記4記載のHGF安定化ゼラチン製剤、上記5記載のHGFゼラチン複合体および上記6記載のHGFゼラチン安定化水溶液製剤からなる群より選択されるいずれかの製剤からなる動脈疾患治療剤。
発明の詳細な説明
本発明で使用されるゼラチンとは、以下の物性を有するゼラチンであり、市販のゼラチンとは異なるものである。
(1)コラーゲンからのアルカリ加水分解処理によって得られる、酸性ゼラチンである、
(2)分子量がSDS−PAGEの非還元条件下で約10万〜約20万ダルトンである、
(3)等電点が約5である、
(4)水溶液中のジータ電位が約−15〜約−20mVである。
市販のゼラチンとして、例えば、シグマ社製タイプAゼラチン、和光社製ゼラチンがあるが、水溶液中のジータ電位が以下のように異なっている。
シグマ社製タイプAゼラチン: 約0〜約5mV
和光社製ゼラチン : 約−5〜約−2mV
ジータ電位は物質(ゼラチン)の静電的な荷電の程度を表す尺度であり、本発明におけるHGFと静電的複合体を形成するゼラチンの指標としては好適なものと考えられる。
本発明のゼラチンは牛を始めとする各種の動物種の皮膚・腱などの部分あるいはコラーゲンからアルカリ加水分解して得られるものである。好ましくは、ウシの骨由来のI型コラーゲンをアルカリ処理して調製した酸性ゼラチンであり、新田ゼラチン社の試料IEP5.0として入手することもできる。なお、酸処理して調製した塩基性ゼラチンは同じく新田ゼラチン社の試料IEP9.0として入手することができるが、ジータ電位は以下のように大きく相違する。
酸性ゼラチン(新田ゼラチン社試料IEP5.0) :約−15〜約−20mV塩基性ゼラチン(新田ゼラチン社試料IEP9.0):約+12〜約+15mV 本発明で使用されるゼラチンヒドロゲルとは、上記ゼラチンを用いて種々の化学的架橋剤と縮合させて得られるヒドロゲルのことである。化学的架橋剤としては、例えばグルタルアルデヒド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリノエチル)カルボジイミド−メト−p−トルエンスルホナート等の水溶性カルボジイミド、ビスエポキシ化合物、ホルマリン等が好ましく、グルタルアルデヒド、および1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩が特に好ましい。
また、ゼラチンは熱処理又は紫外線照射によっても架橋化できる。
ゼラチンヒドロゲルの形状は特に制限はないが、例えば、円柱状、角柱状、シート状、ディスク状、球状、粒子状などがある。円柱状、角柱状、シート状、ディスク状のものは、通常移植片として用いられることが多く、また、球状、粒子状のものは注射投与も可能である。
円柱状、角柱状、シート状、ディスク状のゼラチンヒドロゲルは、ゼラチン水溶液に架橋剤水溶液を添加するか、あるいは架橋剤水溶液にゼラチンを添加し、所望の形状の鋳型に流し込んで、架橋反応させることにより調製することができる。また、成形したゼラチンゲルにそのまま、あるいは乾燥後に架橋剤水溶液を添加してもよい。架橋反応を停止させるには、エタノールアミン、グリシン等のアミノ基を有する低分子物質に接触させるか、あるいはpH2.5以下の水溶液を添加する。得られたゼラチンヒドロゲルは、蒸留水、エタノール、2−プロパノール、アセトン等により洗浄し、製剤調製に供される。
球状、粒子状のゼラチンヒドロゲルは、例えば、三口丸底フラスコに固定した攪拌用モーター(例えば、新東科学社製、スリーワンモーター、EYELA miniD.C.Stirrer等)とテフロン(登録商標)製攪拌用プロペラを取り付け、フラスコと一緒に固定した装置にゼラチン溶液を入れ、ここにオリーブ油等の油を加えて200〜600rpm程度の速度で攪拌し、W/O型エマルジョンとし、これに架橋剤水溶液を添加するか、ゼラチン水溶液を予めオリーブ油中にて前乳化(例えば、ボルテックスミキサーAdvatec TME−21、ホモジナイザーpolytron PT10−35等を用いて)しておいたものをオリーブ油中に滴下し、微粒子化したW/O型エマルジョンを調製し、これに架橋剤水溶液を添加して架橋反応させ、遠心分離によりゼラチンヒドロゲルを回収した後、アセトン、酢酸エチル等で洗浄し、さらに2−プロパノール、エタノール等に浸漬して架橋反応を停止させることにより、調製することができる。得られたゼラチンヒドロゲル粒子は、2−プロパノール、Tween80を含む蒸留水、蒸留水等で順次洗浄し、製剤調製に供される。
ゼラチンヒドロゲル粒子が凝集する場合には、例えば超音波処理(冷却下、1分以内程度が好ましい)等を行ってもよい。
尚、前乳化することによって、粒子サイズが20μm以下の微粒子状のゼラチンヒドロゲルを得ることができる。
得られるゼラチンヒドロゲル粒子の平均粒径(通常の方法で、水で膨潤した粒子の顕微鏡写真から最低400個以上の粒子の粒子径を測定して平均を算出することにより得られる値)は1〜1000μmであり、目的に応じて適宜必要なサイズの粒子をふるい分けて使用すればよい。
球状、粒子状のゼラチンヒドロゲルを調製する別法として以下の方法も挙げられる。
上記の方法と同様の装置にオリーブ油を入れ、200〜600rpm程度の速度で攪拌し、ここにゼラチン水溶液を滴下してW/O型エマルジョンを調製し、これを冷却後、アセトン、酢酸エチル等を加えて攪拌し、遠心分離によりゼラチン粒子を回収する。回収したゼラチン粒子を、さらにアセトン、酢酸エチル等、次いで2−プロパノール、エタノール等で洗浄後、乾燥させる。この乾燥ゼラチン粒子を0.1% Tween80を含む架橋剤水溶液に懸濁させ、緩やかに攪拌しながら架橋反応させ、使用した架橋剤に応じて0.1% Tween80を含む100mMグリシン水溶液又は0.1% Tween80を含む0.004N HCl等にて洗浄し、架橋反応を停止することによりゼラチンヒドロゲル粒子を調製することができる。本法で得られるゼラチンヒドロゲル粒子の平均粒径は上記の方法の場合と同様である。
架橋反応条件は特に制限はないが、例えば、0〜40℃、1〜48時間で行うことができる。
本発明のゼラチンヒドロゲルは、その含水率がHGFの徐放性に大きく影響することが明らかとなっており、好ましい徐放性効果を示す含水率としては約80〜99w/w%が挙げられる。さらに好ましいものとしては、約95〜98w/w%のものが挙げられる。
本発明のゼラチンヒドロゲルは適宜、適当な大きさに切断後凍結乾燥し滅菌して使用することができる。凍結乾燥は、例えば、ゼラチンヒドロゲルを蒸留水に入れ、液体窒素中で30分以上、又は−80℃で1時間以上凍結させた後に、凍結乾燥機で1〜3日間乾燥させることにより行うことができる。
ゼラチンヒドロゲルを調製する際のゼラチンと架橋剤の濃度は、所望の含水率に応じて適宜選択すればよいが、ゼラチン濃度は1〜20w/w%、架橋剤濃度は0.001〜1w/w%が挙げられる。
なお、市販のゼラチンとして例えば、シグマ社製タイプAゼラチン、和光社製ゼラチンを用いてゼラチンヒドロゲルを作製した場合には、HGFを含浸させたヒドロゲルを用いても、HGFの徐放効果を得ることができなかった。このように、上記の本発明の酸性ゼラチンを使用し、上記のゼラチンヒドロゲルを調製した場合に、HGFの徐放効果を得ることができた。
本発明で使用されるHGFは公知物質であり、医薬として使用できる程度に精製されたものであれば、種々の方法で調製されたものを用いることができ、また既に市販されている製品(例えば、東洋紡Code No.HGF−101等)を使用してもよい。HGFの製造法としては、例えば、HGFを産生する初代培養細胞や株化細胞を培養し、培養上清等から分離、精製して該HGFを得ることができる。あるいは遺伝子工学的手法によりHGFをコードする遺伝子を適切なベクターに組み込み、これを適当な宿主に挿入して形質転換し、この形質転換体の培養上清から目的とする組換えHGFを得ることができる(例えばNature,342,440(1989)、特開平5−111383号公報、Biochem.Biophys.Res.Commun.163,967(1989)など参照)。上記の宿主細胞は特に限定されず、従来から遺伝子工学的手法で用いられている各種の宿主細胞、例えば大腸菌、酵母又は動物細胞などを用いることができる。このようにして得られたHGFは、天然型HGFと実質的に同じ作用を有する限り、そのアミノ酸配列中の1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されていてもよく、また同様に糖鎖が置換、欠失及び/又は付加されていてもよい。
本発明におけるHGF徐放性ゼラチンヒドロゲル製剤とは、上記の酸性ゼラチンヒドロゲルにHGFを含浸させて得られる製剤である。また、本発明のHGF安定化ゼラチン製剤は、HGFと上記の酸性ゼラチンからなる製剤である。HGFは塩基性タンパク質であるため、溶液中で酸性ゼラチン(ヒドロゲル)と複合体を形成するが、前述の溶液中のイオン強度変化に対するHGFの収着抑制効果を考慮すると、このHGFゼラチン(ヒドロゲル)複合体は静電的相互作用だけでなく、疎水結合等の他の相互作用が大きく寄与している。この複合体の解離定数(Kd)およびゼラチンに対するHGFの結合モル比はスキャッチャード結合モデル[Scatchard,G.1949年]にしたがって得られた。ゼラチンに対するHGFの結合モル比として、およそHGF分子7個が酸性ゼラチン分子1個に結合していることが示された。なお、同様の複合体を形成するbFGFの場合と比較すると、bFGFゼラチン複合体は1:1のモル比であり、HGFとは大きく相違している。
また、37℃の酸性ゼラチンのKd値は5.5×10−7Mで、これは20℃の硫酸ヘパリンのKd値1×10−9〜2.0×10−10Mよりも約2〜3次数大きい[Rahmoune Hら1998年]。これはHGFゼラチン複合体の結合性がHGFヘパリン硫酸ほど強固でなく、緩やかであることを示している。
ゼラチンに対してHGFのモル比を約1:7以上に上げた場合には、HGFの遊離が起きやすく活性的にはほとんど遊離のHGFと同様の挙動を示す。しかし、HGFのモル比を約1:7以下に下げた場合には、HGFが吸着され解離するものが少なくなるため、HGFの見かけの活性は低下するように見える。
従って、HGFとゼラチンあるいはゼラチンヒドロゲルとの複合体として、HGFとゼラチンのモル比が種々の変化したものが作り得るが、初期バーストを回避するためには、好適なものとして、ゼラチン(またはゼラチンヒドロゲルを構成するゼラチン)1モルに対してHGFが約7モル以下のモル比の複合体が挙げられる。
なお、ゼラチンに対しては、HGFの重量比が約5倍量以下のものが好適である。さらに好適なものとしては、ゼラチンに対してHGFが約5〜約1/10倍量の重量比のものが望ましい。
本発明のHGF徐放性ゼラチンヒドロゲル製剤は、HGFの徐放性効果とHGFの安定化効果を持つため、HGFの機能を少量で長時間にわたって発揮し得る。そのため、HGFの本来的機能である血管新生の作用を効果的に発揮するので、本発明のHGF徐放性ゼラチンヒドロゲル製剤は、哺乳動物(例えば、ネコ、ウシ、イヌ、ウマ、ヤギ、サル、ヒトなど)の血管新生促進剤、あるいは動脈疾患(例えば、動脈硬化症、虚血再潅流障害、心筋梗塞、狭心症、難治性動脈疾患、バージャー病、移植後動脈硬化症等)の治療剤として有効に使用できる。
本発明のHGF安定化ゼラチン製剤は、ゼラチンヒドロゲル製剤と同様にHGFゼラチンの静電的複合体に基づくゼラチンのHGF保護効果を有しており、トリプシン等のタンパク質分解酵素に対しても安定に存在する。この安定化効果に基づき、また水溶液として利用しやすい等の点から、注射用製剤として、非経口的に使用することができる。例えば、皮下、筋肉内、静脈内、体腔内あるいは障害臓器等に投与することができる。したがって、本発明のHGF安定化ゼラチン製剤は、哺乳動物(例えば、ネコ、ウシ、イヌ、ウマ、ヤギ、サル、ヒトなど)の血管新生促進剤、動脈疾患治療剤、臓器障害治療剤として有効に使用できる。
水溶液の形態であるHGF安定化ゼラチン製剤(HGF安定化ゼラチン水溶液製剤)は、注射用水、各種緩衝液(例えば、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、HEPES緩衝液、Tris緩衝液等)中に上記HGFゼラチン複合体(好ましくはゼラチンに対してHGFの重量比が約5倍量以下のもの)を含有するものである。当該製剤中のHGFゼラチン複合体の濃度は特に制限されず、治療目的の疾患、患者の年齢、体重、投与量等に応じて適宜調整することができる。例えば、成人患者に対して当該製剤を約1〜約10ml投与する場合、当該製剤中のHGFゼラチン複合体の濃度は、HGFの濃度として、通常約0.001〜約500μg/mlの範囲、好ましくは約0.1〜約200μg/mlの範囲とすることができる。
本発明のHGF徐放性ゼラチンヒドロゲル製剤あるいは複合体は、それぞれの用途に応じて適宜剤型を工夫することができる。例えば、シート状、スティック状、粒子状、ロッド状、ペースト状の剤型にして投与することができる。
投与方法としては、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、体腔内投与などが考えられる。
本発明の製剤は、必要に応じて製剤上許容し得る一般的な添加剤(安定化剤、保存剤、可溶化剤、pH調整剤、増粘剤等)を含めることができる。これらは公知のものが使用できる。さらに、徐放効果を調節する各種添加剤(アミノ酸、アミノ基あるいはリン酸基、硫酸基、SH基、カルボキシル基などを持つ糖、脂質などの低分子物質あるいは高分子物質など)やHGFの効果を高める作用やHGFの分解・失活を抑制する作用などを有する他の活性成分も含ませることができる。このような他の活性成分としては、当該作用を有する限り特に制限されず、多糖、脂質、糖脂質、タンパク質、糖タンパク質、ペプチド、薬物として利用できる各種低分子化合物または高分子化合物などのいかなる低分子物質あるいは高分子物質でもよい。
本発明の製剤の投与量は、治療目的の疾患、患者の年齢、体重等により適宜調整することができるが、HGFとして、通常成人患者当たり約0.01〜約500μgの範囲、好ましくは約1〜約200μgの範囲から投与量が選択され、これを患部またはその周辺部位に注入することができる。また1回の投与で効果が不十分であった場合は、該投与を複数回行うことも可能である。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
実施例1
HGF含浸ゼラチンヒドロゲル製剤の調製
(1)ゼラチンヒドロゲルの調製
ウシの骨由来のI型コラーゲンをアルカリ処理して調製して得られたゼラチン(新田ゼラチン社製試料IEP 5.0)を用いて、5wt%のゼラチン水溶液50mlを調製し、グルタルアルデヒド水溶液(25wt%)40,50および70μlと混合し、それぞれ最終濃度が5.00,6.25および8.75mMとした。混合溶液をプラスチック製の型(8×8cm、6mm厚)に注ぎ、ゼラチンを架橋させるために4℃で18時間放置した。その後、得られたゼラチンヒドロゲルシートを100mMグリシン水溶液に37℃で1時間浸し、グルタルアルデヒドのアルデヒド残基をブロックした。架橋性ヒドロゲルシートを約10mgのディスク(直径6mm)に切断した後、このヒドロゲルディスクを37℃の再蒸留水(DDW)で3回洗浄し、凍結乾燥した。表1にゼラチンヒドロゲルの調製条件およびその含水量をまとめた。DDW中で37℃、24時間膨潤させた前後のヒドロゲル重量を計測し、湿ったヒドロゲルに対するヒドロゲル中の水の重量比である含水量を計算した。グルタルアルデヒド濃度が高いほど、このヒドロゲル含水量は減少した。凍結乾燥したヒドロゲルをエチレンオキシドガスによって滅菌した。凍結乾燥および滅菌過程の前後でヒドロゲルの形状に変化はなかった。
Figure 0004878730
(2)HGF含浸ゼラチンヒドロゲルの調製
HGF(PeproTech EC.Ltd.製、London UK)の1、5および10μgを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)を用いて、凍結乾燥したディスク状のゼラチンヒドロゲルにHGFを含浸させた。HGFを含浸せず、他に何も含まないヒドロゲルの調製は、HGFを含まないPBSを用いたことを除けば、同じ方法であった。簡潔に記載すると、HGFを含むPBSまたはHGFを含まないPBS 20μlを凍結乾燥したゼラチンヒドロゲル上に滴下し、4℃で一晩放置すると、ヒドロゲルの種類には関係なく、HGF含浸ゼラチンヒドロゲルを得た。この溶液量が理論的に各ヒドロゲルに含浸される量よりもかなり少なかったために、膨潤工程で凍結乾燥したゼラチンヒドロゲルにHGF水溶液を完全に収着した。同じく、125I標識HGFの水溶液を凍結乾燥したゼラチンヒドロゲルディスクに収着し、125I標識HGF含浸ゼラチンヒドロゲルを調製した。125I標識HGFの調製はこれまでに報告されているクロラミンT法にしたがって行った[Lyon,M.ら1994年]。調製したそれぞれのヒドロゲルディスクは、ヒドロゲルの種類および放射性標識に関係なく、外観(形状および大きさ)は同じであった。
実施例2
HGF安定化ゼラチン製剤の調製
(1)HGFとゼラチンの複合体(約7:1のモル比)の調製
実施例1記載のゼラチンを使用し、74μg/ml溶液を調製した。HGF(Genzyme/Techne社製)の14.7μg/ml溶液を調製し、5μlを分取し、5μlのゼラチン水溶液に添加攪拌後、37℃、24時間静置し作製した。
(2)約7:1のモル比以外のHGFとゼラチンの静電複合体の調製
前項のゼラチン水溶液とHGF水溶液とを異なる比率で混合し所望のモル比となるように調製し、37℃、24時間静置し作製した。
参考例1
ゼラチンの物性測定
(1)等電点測定
酸性ゼラチン(新田ゼラチン社試料IEP5.0)の1w/w%水溶液を調製し、この水溶液を陽イオンカラム、陰イオンカラムで濾過処理し、濾取された水溶液のpHを測定する。測定値として、pH約4.9〜5.0の値が得られた。この値をゼラチンの等電点として表す。
(2)ジータ電位測定
ゼラチンをミリキュー処理の水に溶解し、0.1mg/ml水溶液を調製した。この水溶液をELS(ELS−7000AS、大塚電子社製)を用いて測定した。測定温度は25〜27℃であり、ELS標準セルを用いて行った。
その結果を以下に示す。
[ゼラチン試料] [ジータ電位]
酸性ゼラチン(新田ゼラチン社試料IEP5.0) :約−15〜約−20mV
塩基性ゼラチン(新田ゼラチン社試料IEP9.0):約+12〜約+15mV
シグマ社製タイプAゼラチン :約0〜約5mV
和光社製ゼラチン :約−5〜約−2mV
参考例2
ゼラチンヒドロゲルのin vivo分解プロフィール
(1)ゼラチンヒドロゲルの放射性標識
125I−Bolton−Hunter試薬を用いて、実施例1記載のゼラチンヒドロゲルを放射性ヨウ素標識した[Bolton,A.E.,Hunter,W.M.1963年]。ベンゼンが完全に蒸発するまで、乾燥窒素ガスを125I−Bolton−Hunter試薬の無水ベンゼン溶液100μlに吹き付け、ベンゼンを蒸発させた。次に、0.1Mホウ酸ナトリウム緩衝液125μl(pH8.5)をこの乾燥試薬に加え、125I−Bolton−Hunter試薬の水溶液を調製した。ディスクひとつにつき20μlの調製済み水溶液を凍結乾燥したディスク状のゼラチンヒドロゲルに含浸させた。この結果膨潤したヒドロゲルを4℃で3時間維持し、125I残基をゼラチンのアミノ基に導入した。4℃で4日間定期的にDDWを交換することによって、結合していない遊離した125I標識試薬を125I標識ゼラチンヒドロゲルから除いた。定期的に測定すると、DDWの放射能は3日間洗浄した後、バックグラウンド値に戻った。ヒドロゲル調製条件に関わらず、放射性標識およびその後の洗浄工程中に、膨潤ヒドロゲルディスクの形状変化は観察されなかった。最終的に得られた膨潤ヒドロゲルを凍結乾燥した。
(2)ゼラチンヒドロゲルのin vivo分解の評価
体内埋植した125I標識ゼラチンヒドロゲルの放射能の減衰からゼラチンヒドロゲルのin vivo分解を評価した。ddYマウスの背の皮下組織に種々の125I標識ゼラチンヒドロゲルを体内埋植した(3匹/群、6〜7週齢、Shizuoka Animal Center、静岡県)。ヒドロゲル埋植の1,3,5,7,10,14および21日目に、ガンマ計数器(ARC−301B、アロカ、東京都)を用いて、埋植ヒドロゲルの放射能を計測した。次に、マウスの背のヒドロゲル埋植部位周囲の皮膚を、3×5cmの小片に切除し、この筋膜部位を濾紙で徹底的に拭き取り、溶出した125I標識ゼラチンを吸収した。皮膚小片および濾紙の放射能を測定し、埋植ヒドロゲル周囲組織の残存放射線を評価した。最初に埋植したヒドロゲルの放射能に対する総放射線量の比は、ヒドロゲル分解のために残存する活性比率を示すものであった。それぞれの実験群には21匹のマウスを用い、特に記載がない限り、in vivo評価のための各評価時に3匹ずつ屠殺した。すべての動物実験は、動物実験に関する京都大学の学内ガイダンスにしたがって行った。
この結果を図1に示す。図1には、125I標識ゼラチンヒドロゲルをマウスの背に皮下埋植した後に残存するゼラチン放射能の時間経過を示す。ヒドロゲル調製に用いるグルタルアルデヒド濃度が高くなるにつれて、放射能が長期間残存するが、すべてのヒドロゲルで残存放射能は時間とともに減衰した。たとえば、最も、含水率の高いゼラチンヒドロゲルは体内埋植後7日以内に分解されたが、最も含水率が低いヒドロゲルは21日にわたり体内に維持された。
以上のように、グルタルアルデヒド濃度が高くなるにしたがって、ゼラチンヒドロゲルが遅く分解された。一般に、ヒドロゲル調製に用いられるグルタルアルデヒド濃度が高くなれば、それだけヒドロゲルの架橋程度が高くなる。このため、ヒドロゲルの架橋程度は立体化学的にゼラチン鎖に対するプロテアーゼの加水分解アプローチを小さくし、その結果、タンパク質加水分解に対する感受性が小さくなると思われる。
実施例3
HGF含浸ゼラチンヒドロゲルからのin vivo HGF放出の評価
125I標識HGFを含浸する種々のゼラチンヒドロゲルをマウスの背の皮下組織に埋植した。125I標識HGF(100μl/部位)の水溶液をマウスの背部皮下に注射した。異なる時間間隔で埋植ヒドロゲルまたは注射部位を含むマウスの皮膚を取り出し、上記と同じ方法で濾紙を用いてその筋膜部位を徹底的に拭き取った。残りのゼラチンヒドロゲル、皮膚小片および濾紙の放射能をガンマ計数器で測定し、使用前のHGFに対するこの放射線の比率をin vivo HGF放出のために残存する活性比率として示した。
この結果を図2に示す。図2には、125I標識HGF含浸ゼラチンヒドロゲルをマウスの背に皮下埋植した後のHGF放射能の減衰パターンを示す。HGFの残存放射能は経時的に漸減し、ヒドロゲルの種類には関係なかった。放射能の減衰パターンはヒドロゲルの種類に大きく依存した。架橋性ヒドロゲルのグルタルアルデヒド濃度が高くなるにしたがって、放射能が長く維持された。その一方、125I標識した遊離HGFの注射後の放射能は、注射部位から1日以内に消失した。
図3には、ヒドロゲルの残存放射能の相関的要素として、HGFの放射能残存量を示す。ヒドロゲルの種類に関わりなく、ふたつの残存放射能間に良好な相関が認められ、傾きは約1であった。
以上のように、図1と図2を比較すると、HGF放射能は分解が早いヒドロゲルで急速に減衰した。HGFヒドロゲル放射能間の減衰パターンに良好な相関が認められる(図3)ということは、ヒドロゲルの生分解にともない体内のゼラチンヒドロゲルからHGFが放出されたことを意味する。吸着実験ではHGFが酸性ゼラチンに相互作用することを示している。いったん酸性ゼラチンと相互作用すると、ヒドロゲル分解によって水溶性ゼラチン断片が生成されない限り、ヒドロゲルからHGF分子を放出できなくなると考えられる。
実施例4
ゼラチンヒドロゲルに収着したHGFの定量
ヒドロゲルに対するHGF吸着の等温式を作製するため、種々の量の125I標識HGFを含む水溶液(0.5ml)を、DDW 1mlにあらかじめ膨潤しておいたヒドロゲルに添加した。37℃で48時間かけてHGF吸着が進み、HGF濃度に関係なく、平衡化したHGF吸着にはこれで十分であることがわかった。放射線を測定することによって、溶液中の遊離HGFの平衡濃度(Cf)を算定した。HGFおよびゼラチンのモル重量を90,000および100,000として、ゼラチンに吸着したHGFのモル比(r)を計算した。スキャッチャード結合モデル[Scatchard,G.1949年]にしたがって、r/Cfをプロットした。r/Cf−r直線でr=0のときの傾きおよび切片から、解離定数(Kd)およびゼラチンに対するHGFの結合モル比を得た。
このゼラチンへのHGF吸着に対する結果を以下に示す。
ゼラチンヒドロゲルに対するHGFの吸着等温式は、ラングミュアの吸着等温式とした(データ示さず)ために、吸着パラメータはスキャッチャード解析法に基づいて計算した。37℃の酸性ゼラチンのKd値は5.5×10−7Mで、これは20℃の硫酸ヘパリンのKd値1×10−9〜2.0×10−10Mよりも約2〜3次数大きい[Rahmoune Hら1998年]。これはゼラチンに対するHGFの親和性がきわめて低いことを示している。およそHGF分子7個が酸性ゼラチン分子1個に結合した。
実施例5
HGFのin vitroバイオアッセイ
Mv1Lu細胞のin vitro増殖を促すHGFまたはゼラチンと複合体形成したHGFの作用に関して、その生理活性を評価した[Tajima,H.ら1992年]。培養培地にはイーグル培地(10%ウシ胎児血清(FCS)およびペニシリン−ストレプトマイシン(GIBCOカタログ番号15140−122)を含有するNissui)を用いた。まず、培養培地100μlを96ウェルマルチウェル培養プレート(Corning Corster)に入れ、5%CO−95%空気雰囲気下、37℃で1時間インキュベートした。次に、HGF水溶液50mlまたはHGF濃度1.25μg/mlで調製したHGF−ゼラチン複合体をウェルに加え、各HGF試料を含む培地50μl(150μl)を順次隣のウェルに移していき、3倍段階希釈によって、11のウェルを調製した。ゼラチンとHGFの混合物をDDW中で37℃にした。簡潔に記載すると、HGF/ゼラチン混合比率を14.2/1および7.1/1として、種々の濃度の水溶液を1および12時間放置し、種々のHGF−ゼラチン複合体を調製した。各HGF試料のために、HGF濃度ごとに3つのウェルを用いた。最後に、細胞懸濁液100μl(1×10細胞/ml)を各ウェルに播種した。72時間インキュベーションした後、細胞数計測キット−8(Dojindo Molecular Technologies,Inc.,Bethesda,MD,USA)を用いて、細胞増殖を検定した。各ウェルにキット−8溶液(10μl)を添加し、この細胞を37℃で4時間インキュベートした。UV max Kinetic Plate Reader(Molecular Devices Co.,Menlo Park,CA,USA)を用いて、450nmの波長で各ウェルの収着度を測定した。試料ウェルの収着度を後者に対するHGFを含まない対照の収着度と比較した(%細胞増殖)。各HGF試料に対して最大細胞増殖の50%を誘導できるHGF濃度をGC50と表現した。
この結果を表2に示す。表2には、HGFおよびHGF−ゼラチン複合体のGC50値をまとめた。GC50値の範囲はHGF/ゼラチン混合比および混合時間にほとんど依存しないものの、GC50値はゼラチン複合体形成によって増加する。37℃でゼラチンと複合体形成すると、HGFの用量−反応曲線が高用量の向きに、もとのHGFの用量−反応曲線に平行になるようにシフトする。ゼラチン自体は細胞増殖を促進するような作用を持たない(データ示さず)。
Figure 0004878730
以上のように、表2には酸性ゼラチンと複合体形成した場合でも、HGFが生理活性を示すことを示した。HGFの活性が小さくなることはゼラチンの複合体形成から説明することができる。HGFはゼラチンと複合体形成するため、細胞表面受容体へのHGFの作用は遊離のHGFよりも小さいと考えられる。
実施例6
HGF含浸ゼラチンヒドロゲルによって誘導される血管新生のin vivo評価
HGF 1、5および10μgを含浸するゼラチンヒドロゲル、HGFを含浸せず、何も含まないゼラチンヒドロゲルのいずれかをマウスの背の皮下組織に体内埋植した。対照として、HGF 10μgを含むPBSまたは含まないPBSをマウスの背に皮下注射した。各実験群は実験ポイントにつき6匹であった。体内埋植または注射から7日後にマウスを屠殺し、背の皮下組織にみられるHGF誘導性血管新生作用を評価した。HGFの血管新生は組織の性状、組織学的検査および生化学的検査をもとに評価した。まず、HGFの埋植部位または注射部位周囲の皮下組織の写真を撮影し、肉眼的所見で血管新生作用を評価した。次に、6匹のマウスから3匹を無作為選択し、埋植ヒドロゲルまたは注射部位を含む皮膚標本を10wt%中和ホルムアルデヒド溶液で固定し、パラフィンに包理して、切片(5μm厚)を作製した。作製した切片をヘマトキシリン−エオジン染色し、光学顕微鏡で組織学的に観察した。各実験群につき3匹のマウスから得た3つの組織学的切片を用いて、HGF含浸ゼラチンヒドロゲルまたはHGFを含まないゼラチンヒドロゲルの埋植部位のほか、HGFおよびPBSの注射部位の周囲に新たに形成された毛細管の数を評価した。簡潔に記載すると、埋植部位または注射部位(3ヵ所/切片)周囲の固定領域を無作為に観察し、毛細管の数を数えた。
残りの3匹はHGF誘導性血管新生の生化学的検査に用いた。ヒドロゲル埋植部位または注射部位周囲の皮膚小片(2×2cm)を鋏で小さく切断し、0.1Mトリス−HClおよび0.2mM EDTA溶液1mlで4℃、24時間処理するすることでタンパク質成分を抽出した。遠心分離(12000rpm、10分、4℃)した後、得られた上清の血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の濃度をELISA法で明らかにした。
HGFによって活性化された細胞がVEGFを分泌し、このVEGFがHGFの血管新生作用に介在することが報告されている[Wojta,J.ら、1999年]。
この結果を図4と表3に示す。図4は、異なる用量のHGF含浸ゼラチンヒドロゲルの埋植またはHGFを含むPBS溶液の注射後の背側の皮膚の組織性状を示したものである。血管新生による変化がHGF 5および10μgを含浸するゼラチンヒドロゲルの埋植部位周囲に認められ、高用量であっても遊離HGFの注射部位とはまったく対照的であるように思われた。溶液の形でのHGF注射は、皮下組織の血管分布にまったく影響せず、注射部位の組織所見はHGFを含まないPBS注射マウスの所見に類似していた。HGFを含まないゼラチンヒドロゲル単独では血管新生による変化は誘導されなかった。図5にはこの組織切片を示す。HGF含浸ゼラチンヒドロゲルを埋植した場合、新たな血管が埋植部位周囲に形成され、HGFの用量が増すにつれて、その範囲が大きくなった。HGFを含浸しないゼラチンヒドロゲルも最高用量の遊離HGFもいずれも無効であった。HGFを含浸する埋植ヒドロゲルまたはHGFを含浸しない埋植ヒドロゲルに対する有害反応および重篤な炎症反応は、観察されなかった。
Figure 0004878730
表3は、HGF含浸ゼラチンヒドロゲルの埋植部位周囲に新たに形成された毛細管の数を示す。この毛細管の数は、ほかの実験群に比して、HGF 5および10μgを含浸するゼラチンヒドロゲルによって有意に上昇した。遊離HGF 10μgでは血管新生を誘導せず、毛細管の数はHGFを含まないPBSおよび何も含まないゼラチンヒドロゲルと同じであった。
Figure 0004878730
表4には、HGF含浸ゼラチンヒドロゲルの埋植後および遊離HGFの注射後、マウスの皮下組織にみるVEGF濃度を示す。注射から7日目、PBS溶液中のHGF10μgが注射部位のVEGFを誘導せず、HGFを含まないPBS注射または未治療の正常マウスとほぼ同じであった。しかし、HGF 5および10μgを含浸するゼラチンヒドロゲルによって、埋植後7日でヒドロゲル周囲のVEGF濃度が上昇し、何も含まれていないゼラチンヒドロゲルとは対照的であった。
以上のように、表3から、HGF含浸ゼラチンヒドロゲルが同量の遊離HGFよりも著明な範囲で血管新生を誘導することが明らかである。HGFによって活性化された細胞がVEGFを分泌し、このVEGFがHGFの血管新生作用に介在すると報告されている[Wojta J.ら1999年]。HGF 5および10μgを含浸するゼラチンヒドロゲルの埋植から7日後でも、VEGF誘導が観察された(表4)。1μgの量は長時間にわたり、誘導性VEGF濃度を維持するほど十分な用量ではなかった。総合すると本データは、in vivo環境に曝露されていても、ゼラチンヒドロゲルに含浸されるHGFがその生理活性を維持することを示している。分解によってヒドロゲルから放出されたHGFがin vivo血管新生を誘導すると考えられる。
実施例7
HGFゼラチン製剤のトリプシンに対する安定性
実施例2記載のHGFゼラチン製剤にトリプシン水溶液(2.3μg/ml)を5μl加え、よく攪拌した後、37℃、3時間静置した。さらにトリプシンインヒビター水溶液(3.5μg/ml)を5μl加え(よく攪拌した後、37℃、1時間静置した。これを10%アクリルアミドゲルによるSDS−PAGEを行った(20mA、90分)。コントロールとして、ゼラチン水溶液のみ、HGF水溶液のみ、トリプシンおよびトリプシンインヒビターを加えなかったもの、HGF溶液にトリプシンおよびトリプシンインヒビターを加えたものを共に電気泳動した。その結果を図6に示す。本発明のHGFゼラチン製剤は、トリプシン処理によってもHGFはほとんど分解されなかった(レーン4および6)。
実施例8
HGFゼラチン製剤の生物活性
実施例2記載のHGFゼラチン製剤を用いて、ウシ胎児血清を含むDMEM培養液に加えた。その混合溶液中でMv1Lu細胞(ミンク肺上皮細胞株)を培養した。コントロールとして、HGF水溶液、ゼラチン水溶液を使用した。
HGF濃度の異なる培養液中で、3日間培養した後の増殖細胞数をセル・カウイテイング・キット(同仁化学研究所製)により計測し、HGFの無添加培養時の増殖細胞数に対する百分率として細胞増殖率を算出した。細胞増殖率をHGF濃度に対してプロットした場合の、最大細胞増殖率の1/2となるHGF濃度をIC50(ng/ml)とした。この値あるいは細胞増殖率からHGFの生物活性を評価した。ゼラチンと混合した、HGFあるいはHGFをトリプシンを用いて酵素消化した。その後、同様にしてHGFの細胞増殖率を評価することによって、ゼラチンとの混合によるHGFの酵素消化抵抗性を調べた。なお、データはすべてDunnettの多重比較法によって解析し、P<0.05で統計的有意性を認めた。実験結果は平均±平均の標準偏差(SD)で表した。結果を図7に示す。
図7Aは、遊離HGF、ゼラチン、酸性ゼラチンと混合したHGFの細胞増殖活性を示す。ゼラチンとの混合の有無に関係なく、HGF濃度の増加とともに細胞増殖効率は増加したが、その程度はゼラチンと混合することにより若干低下した。ゼラチン自身には細胞増殖の促進作用は見られなかった。図7Bは、ゼラチンと混合したHGFの細胞増殖促進活性に与えるHGF/ゼラチンの混合比の影響である。混合比が7/1以下では、HGFの細胞増殖促進活性が低下した。これは、ゼラチンとの相互作用により、HGFの細胞表面レセプターへの親和性が低下したことが原因であると考えられる。図7Cは、トリプシン処理がHGFの細胞増殖促進活性に与える影響を示す。ゼラチンと混合することによってHGFのトリプシン消化抵抗性の向上が認められた。HGFがゼラチンによりカバーされ、HGF分子がトリプシンにより攻撃されにくくなったためであると考えられる。
産業上の利用可能性
本発明により、HGFのゼラチン徐放性製剤が提供でき、さらには、この製剤を用いて血管新生促進剤または動脈疾患治療剤などが提供される。本発明の血管新生促進剤または動脈疾患治療剤は、多くの患者に適用可能であり、さらに、HGFの有効な治療製剤としての有用性が期待される。
本出願は、日本で出願された特願2001−218870号を基礎としており、その内容は本明細書中に全て包含されるものである。
【図面の簡単な説明】
図1は、125I標識ヒドロゲルのゲル1(○)、ゲル2(●)およびゲル3(△)をマウスの背に皮下埋植した後の残存放射能の時間経過を示す。この線は最小2乗法による。
図2は、125I標識HGFを含浸するゲル1(○)、ゲル2(●)およびゲル3(△)をマウスの背に皮下埋植した後、あるいはマウスの背に溶液の形で125I標識HGFを皮下注射(▲)した後の残存放射能の時間経過を示す。この線は最小2乗法による。
図3は、マウスの背に皮下埋植した後の125I標識HGF含浸ゼラチンヒドロゲルと125I標識ゼラチンヒドロゲルとの残存放射能の関係を示す。ヒドロゲルはゲル1(○)、ゲル2(●)およびゲル3(△)から調製した。
図4は、HGFを含まないPBS(A)および遊離HGF10μg(B)の注射後、またはHGFを含浸せず、他に何も含まないゲル2ヒドロゲル(C)およびHGF 1μg(D)、5μg(E)および10μg(F)含浸ゲル2ヒドロゲルを埋植後、7日目の各マウスの皮下組織性状を示す。
図5は、HGFを含まないPBS(A)および遊離HGF10μg(B)の注射後、またはHGFを含まず、他に何も含まないゲル2ヒドロゲル(C)およびHGF 1μg(D)、5μg(E)および10μg(F)含浸ゲル2ヒドロゲルを埋植後、7日目の各マウスの組織学的切片を示す。矢印は新たに形成された血管を示す。
図6は、ゼラチンとの複合体形成によるHGFのトリプシンに対する安定化効果を示すゲル電気泳動の結果である。レーン1、9、10は標準タンパク質、レーン2はゼラチン(新田ゼラチン;等電点9.0)、レーン3はHGF+ゼラチン(新田ゼラチン;等電点9.0)、レーン4は37℃、24時間インキュベーション後のHGF+ゼラチン(新田ゼラチン;等電点9.0)、レーン5はHGF単独、レーン6は37℃、24時間インキュベーション後のHGF+ゼラチン(新田ゼラチン;等電点5.0)、レーン7はHGF+ゼラチン(新田ゼラチン;等電点5.0)、レーン8はゼラチン(新田ゼラチン;等電点5.0)、レーン11はゼラチン(シグマ社,タイプA)、レーン12はゼラチン(和光純薬社製)、レーン13はゼラチン(新田ゼラチン;等電点9.0)、レーン14はゼラチン(新田ゼラチン;等電点5.0)である。
図7(A、BおよびC)は、HGFの細胞増殖促進活性に及ぼすゼラチンとの混合の影響を示す。図7Aは、遊離HGF(●),ゼラチン(○)、酸性ゼラチンと混合したHGF(△)の細胞増殖活性のHGF濃度との関係を示す。図7Bは、ゼラチンと混合したHGFの細胞増殖促進活性に与えるHGF/ゼラチンの混合比の影響を示す。図7Cは、トリプシンで処理した(●)もしくは処理していないHGF(○)およびトリプシンで処理した(▲)もしくは処理していないHGF+ゼラチン(△)における細胞増殖率とHGF濃度との関係を示す。

Claims (5)

  1. HGFと以下の物性を有するゼラチンからなり、ゼラチンに対してHGFが5倍量以下の重量比で含有される、HGF安定化ゼラチン製剤:
    (1)コラーゲンからのアルカリ処理によって得られる、酸性ゼラチンである、
    (2)非還元条件下でのSDS−PAGEによる分子量が10万〜20万ダルトンである、
    (3)等電点が5である、
    (4)水溶液中のジータ電位が−15〜−20mVである。
  2. 以下の物性を有するゼラチンに対してHGFが5倍量以下の重量比で形成されるHGFゼラチン複合体:
    (1)コラーゲンからのアルカリ処理によって得られる、酸性ゼラチンである、
    (2)非還元条件下でのSDS−PAGEによる分子量が10万〜20万ダルトンである、
    (3)等電点が5である、
    (4)水溶液中のジータ電位が−15〜−20mVである。
  3. 請求項記載のHGFゼラチン複合体を含有してなるHGF安定化ゼラチン水溶液製剤。
  4. 求項記載のHGF安定化ゼラチン製剤、請求項記載のHGFゼラチン複合体および請求項記載のHGFゼラチン安定化水溶液製剤からなる群より選択されるいずれかの製剤からなる血管新生促進剤。
  5. 求項記載のHGF安定化ゼラチン製剤、請求項記載のHGFゼラチン複合体および請求項記載のHGFゼラチン安定化水溶液製剤からなる群より選択されるいずれかの製剤からなる動脈疾患治療剤。
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