JP4877695B2 - 植物色素化合物及びその利用 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、植物、特にバラの色素、例えば青色色素、及びその製造方法、並びにこれらの色素が増強された新規なバラ植物に関する。
【0002】
【従来の技術】
バラは切り花として重要な植物であり、その色素は詳細に調べられている。例えばアントシアニン系色素としては、シアニジン 3,5−ジグルコシド、ペラルゴニジン 3,5−ジグルコシド、シアニジン 3−グルコシド、ペラルゴニジン 3−グルコシド、ペオニジン 3,5−ジグルコシド、ペオニジン 3−グルコシドが知られている。また、黄色を呈する多くのカロテノイド化合物も知られている。これらの色素が一緒になって赤色〜橙色を呈し、このため青や紫の花を咲かせるバラは知られていない。また、バラ科植物の交配を繰り返すことによる育種が試みられているが、青や紫色を呈する花を咲かせるバラの育種には成功していない。
【0003】
青色の花を咲かせるバラを育種するためにはバラの花に青色色素を増加させる必要があり、そのための手段の1つとして、青色色素を生合成する酵素系をコードする遺伝子系をバラ植物に導入してトランスジェニック植物を作出することが考えられるが、このためには、バラにおいて効果的な青色色素の構造を解明してその生合成系に関与する酵素を特定する必要がある。しかしながら、バラに青色色素が存在することは知られていたものの、その色素が単離されたことはなく、その構造が調べられたこともない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従って本発明は、バラに由来する新規な色素化合物及びそれらから誘導される色素化合物を提供しようとするものである。本発明はさらに、変異処理により作出した、青色色素が増加したバラ植物を提供する。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、本発明は、次の一般式(I):
【化13】
〔式中、R1及びR2は一緒になって−O−を形成するか;あるいは
R1は、下記の基(a):
【化14】
【0006】
または、下記の基(b):
【化15】
【0007】
または、下記の基(c):
【化16】
【0008】
または、下記の基(d):
【化17】
【0009】
または、下記の基(e):
【化18】
であり、そして
R2は−OHである〕
により表わされる化合物を提供する。
【0010】
本発明はまた、上記の化合物の製造方法を提供する。
本発明はさらに、青色色素が増強されたバラ植物の製造方法において、バラ植物の組織もしくは器官を変異原により処理し、又はバラ植物から誘導されたカルスを変異原により処理し、変異原処理されたカルスの場合はバラ植物を再生し、そして青色色素が増強されたバラ植物を選択する、ことを特徴とする方法を提供する。
本発明はまた、上記の方法により製造されたバラ植物を提供する。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の色素化合物の内、一般式(I)においてR1とR2が一緒になって−O−を構成する化合物(化合物VIと称する)、一般式(I)においてR1が上記式(a)により表わされ、そしてR2が−OHである化合物(化合物IIと称する)、及び一般式(I)においてR1が上記式(e)により表わされ、そしてR2が−OHである化合物(化合物VIIと称する)は、バラの花弁の抽出により得られる。具体的な抽出方法は実施例1,2及び4に示す。
【0012】
また、式(I)において、R1が基(b)であり、そしてR2が−OHである化合物(化合物IIIと称する);R1が基(c)であり、そしてR2が−OHである化合物(化合物IVと称する);及びR1が(d)であり、そしてR2が−OHである化合物(化合物Vと称する)は、化合物IIを部分加水分解(穏和な条件下での加水分解)することにより得られる。具体的な方法を実施例3に記載する。
【0013】
本発明の化合物(III),(IV)及び(V)はまた、化合物(VI)に、最終化合物に対応する置換基(b),(c)又は(d)を縮合させることによっても製造することができる。また、本発明の化合物(III)及び(IV)は、化合物(V)に1個又は2個の没食子酸を結合させることによっても製造することができる。
本発明によればさらに、化合物(V)又は(V)に種々の没食子酸誘導体を縮合せしめることにより、対応する種々の色素化合物を得ることができる。
【0014】
本発明はさらに、変異処理により青色色素が増強されたバラ植物を提供する。この方法は、バラ植物の組織、例えば葉、茎頂、根等から常法に従ってカルスを形成し、このカルスを、あるいはバラ植物の組織又は器官自体を、常用の変異原、例えば、窒素イオンビーム、ネオンイオンビーム等の重イオンビーム、γ−線、X−線、放射線などの物理的変異原、あるいはEMS(エチルメタンスルホン酸)やEI(エチレンイミン)、NMU(ニトロソメチルウレア)、MNNG(メチルニトロソグアニジン)アジ化ナトリウムなどの化学的変異原等により処理する。
【0015】
次に、変異処理した組織、器官又はカルスを常法に従って培養して、再生を行い、再生した植物あるいは変異処理した植物自体から色素を抽出し、変異処理前の親植物からの抽出物に比べて色素、例えば青色色素が増加している植物を選択すればよい。この具体例を実施例5に記載する。
【0016】
一般に、色調呈色の程度は、可視紫外吸収スペクトルの極大吸収値λmaxの数値で表現することができる。凡その目安として、480nmであれば橙色、520nmであれば赤、540nmであれば紫、560nmであれば青いとされるが、天然に青色の花が極めてまれであることから花卉業界においては花色の場合紫ががった色は青色と称する慣習があり、このため青色の範囲はλmaxが540nm以上、さらに好ましくは550nmから620nmの範囲であり、本発明により得られた色素はこの範囲であることを、実施例に記載する。
また、色調呈色の程度は、測色計を用いて色相角度を測定することにより簡便に知ることもできる。色調をL*a*b*表色系で表した場合の色相角度で表現すると40〜65°が橙色、0〜40°が赤色、320〜360(0)°が紫、300〜330°がすみれ色、280〜300°が青紫、240〜280°が青色に分類されるが、花卉業界においては紫やすみれ色の花は慣例的に青花と呼ばれる。本発明により得られたバラ植物の花弁はいわゆる青花、すなわち紫の範囲の色相角度を呈することを、実施例に記載する。
種々の既知のバラについて、花弁中の青色色素(II)の含量を測定したところ、実施例6の表4に示すごとく、最も含量の高いパープルレインにおいて0.036mg/g花弁であり、他のバラの花弁におけるこの色素の含量はいずれもこの量より少なかった。これに対して、実施例5の表3の下表に示すごとく、本発明により、花弁中の青色色素(II)がおよそ0.05〜0.08mg/g花弁にまで増加しており、花弁の青色色素が増大しているバラが初めて得られた。
【0017】
従って、本発明はまた、式(II)、(VI)または(VII)により示される色素の含量が、花弁中で、従来種よりも増大しているすなわち0.036mg/g以上である新規なバラを提供する。本発明は特に、花弁中で、式(II)で示される色素が0.036mg/g以上である新規なバラを提供する。好ましくは、式(II)、(VI)または(VII)で示される色素、特に式(II)で示される色素の含量は、0.04mg/g花弁以上、例えば0.047mg/g花弁以上、より好ましくは0.05mg/g花弁以上、更に好ましくは0.055mg/g花弁以上、さらに好ましくは0.06mg/g花弁以上、さらに好ましくは0.07mg/g花弁以上、更に好ましくは、表3のN10-28により示されるごとく、0.08mg/g花弁以上である。
【0018】
【実施例】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に記載する。
実施例1.色素化合物(II)の単離
バラ品種「マダムビオレ」の花弁7.9kgをホモジナイザーを用いて液体窒素中で凍結粉砕し、得られたパウダーに0.1%TFAを含む80%アセトニトリル15Lを加え一晩浸漬した。珪藻土ろ過し、残査は0.1%TFAを含む50%アセトニトリル14Lに再び一晩浸漬し、珪藻土ろ過した。2回のろ液を合せてロータリーエバポレーターで約2/5の体積まで濃縮した。
【0019】
この濃縮した抽出液を0.1%TFAを含む30%アセトニトリルで平衡化したSephadexLH-20カラム(ファルマシア)(9L)に負荷した。0.1%TFAを含む30%アセトニトリル45Lでアントシアニンを含む画分を溶出した後、60%アセトニトリルで青色色素(化合物II及びVII)を含む画分(35L)を溶出した。さらに80%アセトンで化合物VIを含む画分(8L)を溶出した。
60%アセトニトリル溶出画分はロータリーエバポレーターで約1/3に濃縮した後、吸着樹脂HP-20(三菱化成)1.5Lに負荷した。2Lの水洗後3Lの0.1%TFAを含む10%アセトニトリル、0.1%TFAを含む50%アセトニトリルでステップワイズに溶出した。50%画分に青色色素(化合物II)が溶出した。
【0020】
この画分を凍結乾燥後、分取HPLCで精製した。カラムはC8のDYNAMAX-60A(レイニン社製)4cmφ×30cm、移動相はA:水、B:50%アセトニトリル0.5%TFA、20ml/min.、以下のグラジエントで行った。B40%(30min保持)B40→B100%のリニアグラジエント(50min)検出はA260nm−AUFS:2.56。50-60minに溶出した化合物IIを集め凍結乾燥した。クロマトは17回にわけて繰り返し行った(化合物(II)の純度約1%)。
【0021】
C8で得られた青色色素画分をODSカラムで再度クロマトを行った。カラムはDeverosil-ODS(野村化学社製)5cmφ*30cm、移動相はA:水、B:50%アセトニトリル0.5%TFA、32ml/min.、以下のグラジエントで行った。B45%(20min保持)B45→B70%のリニアグラジエント(50min)検出はA260nm−AUFS:1.0。55-62minに溶出した化合物IIを集め凍結乾燥した。クロマトは6回にわけて繰り返し行った(化合物(II)の純度約15%)。
【0022】
ODSで得られた青色色素をさらに精製した。カラムはAsahipak-ODP50(昭和電工社製)2.15cmφ*30cm、移動相はA:水、B:50%アセトニトリル0.5%TFA、6ml/min.、以下のグラジエントで行った。B65%(35min保持)B65→B75%のリニアグラジエント(15min)検出はA260nm−AUFS:0.64。47-68minに溶出した化合物IIを集め凍結乾燥した。クロマトは16回にわけて繰り返し行った(化合物IIの純度約70-95%)。
【0023】
この化合物の構造をNMR、FAB-MSなどにより決定したところ、下記の式(II)(C56H37O31):
【化19】
により表わされることが明らかになった。
【0024】
この化合物(II)の理化学的性質は、次の通りであった。
1.可視紫外吸収スペクトル
82μg の化合物(II)を5mlのメタノールに溶解し、700-200nmの吸収スペクトルを測定した(島津分光光度計UV-265)。この結果を図1及び下記表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
2.FAB-MSーネガティブ、ポジティブ及び高分解能質量分析の測定を行った。
1203(M-2H)- 、1205 (M)+
分子式は高分解能質量分析により求めた。
C56H37O31、MW=1205.1319、Err +0.2ppm/+0.2mmu U.S.:38.5
3.NMRスペクトル
20mgの化合物(II)を用いて0.5%TFA-d/DMSO-d6、0.6ml中でBruker DMX-750で測定した。測定項目は1H、13C、DQF-COSY、HSQC、HMBC(65ms、300ms)、NOESY(100ms、200ms、500ms、1sec) であった。1H NMR及び13C NMRの結果を図5に示す。
【0027】
また、単離した化合物(II)のHPLCのクロマトグラムを図2に示す。分析条件は、次の通りであった。
分析条件はカラム:昭和電工Asahipack ODP-50 4.6mm*250mm、移動相:35%CH3CN,0.5%TFA、検出:A560nm及び250-650nm(Photodiode array検出器島津SPD-M10A)
溶出時間17分及び20分のピークの合計面積を化合物(II)として計算。
この化合物はメタノール、エタノール、アセトニトリル、DMSO又はアセトン溶液においてλmax 580nm付近の青色を呈し、水溶液においてλmax 560nmの青紫色を呈する。
【0028】
実施例2 色素化合物(VI)の単離
実施例1において、Sephadex LH-20から80%アセトンにより溶出した画分を吸着樹脂HP-20(三菱化成)1.5Lに負荷した。2Lの水洗後2Lの0.1%TFAを含む15%アセトニトリル、0.1%TFAを含む20%アセトニトリル、0.1%TFAを含30%アセトニトリルでステップワイズに溶出した。30%画分に化合物VIが溶出した。
【0029】
30%アセトニトリル画分を凍結乾燥しその粉末を7回に分けて分取HPLCにかけた。カラムはDeverosil-ODS(野村化学社製)5cmφ*50cm、移動相はA:水、B:50%アセトニトリル0.5%TFA、32ml/min.、以下のグラジエントで行った。B30%(30min保持)B30→B100%のリニアグラジエント(30min)の後B100%で50min保持した。検出はA260nm−AUFS:1.28。90-92minに溶出した化合物VI画分を集め凍結乾燥した(化合物(VI)の純度約5%)。
【0030】
5cmの分取HPLCで得られた色素画分をセミ分取HPLCで再度精製した。カラムはD-ODS-5(野村化学)2 cmφ*30cm、移動相はA:水、B:50%アセトニトリル0.1%HCl、6ml/min.、以下のグラジエントで行った。B70%(30min保持)B70→B100%のリニアグラジエント(20min)B100%を30min保持。検出はA260nm−AUFS:0.32。50-53minに溶出した化合物VI画分を集め凍結乾燥した(化合物VIの純度約30-60%)。
得られた色素を少量のエタノールに溶かし徐々に水を加えて静置した。沈殿した赤色色素を遠心分離により補集した(化合物(VI)の純度約90%)。
【0031】
この化合物の構造は、NMR、FAB-MSなどにより、次の式(VI)(C22H11O9):
【化20】
であることが決定された。
【0032】
化合物(VI)の理化学的性質は次の通りであった。
1.可視紫外吸収スペクトル
λmax=529nm(0.5%TFA、35%アセトニトリル中)であった。この結果を図3に示す。
2.マススペクトル及び高分解能質量分析
FAB-MSはJEOL-DX-300/DA-5000でポジティブの測定を行った。
M+=419
高分解能質量分析により求めた分子式:C22H11O9、MW=419.0409
【0033】
3.NMRスペクトル
2mgの化合物(VI)を用いて0.5%DCl/DMSO-d6、0.6ml中でBruker DMX-750で測定した。測定項目は1H、13C、DQF-COSY、HSQC、HMBC、NOESYであった。1H NMRの結果を図6に示す。
この化合物はメタノール又はエタノール溶液において赤色を呈する。
【0034】
実施例3. 化合物(II)の加水分解による化合物(III),(IV)及び(V)の製造
化合物(II) 20mgを5%EtOHを含む0.1Mリン酸緩衝液(pH5.5)に溶解しTannase(フナコシ株式会社)10mgを加え室温で16時間攪拌した。セップパックC18(ウォーターズ株式会社)に反応液を負荷し水洗後、0.1%TFAを含む50%CH3CN/H2Oで反応物を溶出した。この反応物を分取HPLCでクロマトし化合物(II)から没食子酸が1個または2個外れた色素を得た。
【0035】
分取HPLCの条件
カラム:YMC-polymerC18、 2cmx30cm
移動相:0.5%TFAを含むCH3CN25%から50%のグラジエント溶出を50分の後50%CH3CNを30分保持した。このクロマトで53〜55分に溶出した物が化合物(V)である。また65〜67分溶出した物が化合物(III)及び化合物(IV)であった。
これらの化合物は35%CH3CN、0.5%TFA中で化合物IIと同様に580nmに極大吸収をもつ青色色素であった。
【0036】
上記の方法により得た分解生成物を、NMR、FAB-MSなどにより構造決定したところ、各化合物の構造は次の通り、決定された。
化合物(III)の構造:
【化21】
【0037】
化合物(IV)の構造:
【化22】
【0038】
化合物(V)の構造:
【化23】
【0039】
化合物(III),(IV)及び(V)の理化学的性質は次の通りであった。
化合物(III)(C49H33O27)
λmax(35% CH3CN/H2O、0.5% TFA)580nm
FAB-MS [M]+=1053
化合物(IV)(C49H33O27)
λmax(35% CH3CN/H2O、0.5% TFA)580nm
FAB-MS [M]+=1053
【0040】
化合物(V)(C42H 29 O23)
λmax(35% CH3CN/H2O、0.5% TFA)578nm
FAB-MS [M]+=901
化合物(III),(IV)及び(V)は、メタノール、エタノール、アセトニトリル又はアセトン溶液においてλmax 580nm付近の青色を呈し、水溶液においてλmax 560nmの青紫色を呈する。
【0041】
実施例4. 色素化合物(VII )の単離
バラ品種「マダムビオレ」(月本バラ園(京都)より購入)の花弁7.9kgをホモジナイザーを用いて液体窒素中で凍結粉砕し得られたパウダーに0.1%TFAを含む80%アセトニトリル15Lを加え一晩浸漬した。珪藻土ろ過し、残査は0.1%TFAを含む50%アセトニトリル14Lに再び一晩浸漬し、珪藻土ろ過した。2回のろ液を合せてロータリーエバポレーターで約2/5の体積まで濃縮した。
【0042】
この濃縮した抽出液を0.1%TFAを含む30%アセトニトリルで平衡化したsephadexLH-20カラム(ファルマシア)(9L)に負荷した。0.1%TFAを含む30%アセトニトリル45Lでアントシアニンを含む画分を溶出した後、60%アセトニトリルで青色色素(化合物II及びVII)を含む画分(35L)を溶出した。さらに80%アセトンで化合物(VI)を含む画分(8L)を溶出した。
【0043】
60%アセトニトリル溶出画分はロータリーエバポレーターで約1/3に濃縮した後、吸着樹脂HP-20(三菱化成)1.5Lに負荷した。2Lの水洗後3Lの0.1%TFAを含む10%アセトニトリル、0.1%TFAを含む50%アセトニトリルでステップワイズに溶出した。50%画分に青色色素(化合物II及びVII)が溶出した。この画分を凍結乾燥後、分取HPLCで精製した。
【0044】
カラムはDeverosil-ODS(野村化学社製)5cmφ*50cm、移動相はA:水、B:50%アセトニトリル0.5%TFA、32ml/min.、以下のグラジエントで行った。B45%(20min保持)B45→B70%のリニアグラジエント(50min)検出はA260nm−AUFS:1.0。51-54minに溶出した青色色素を集め凍結乾燥した。
ODSで得られた青色色素をさらに精製した。
カラムはYMC-polymerC18(YMC社製)2cmφ*30cm、移動相はA:水、B:50%アセトニトリル0.5%TFA、6ml/min.、以下のグラジエントで行った。B75%(30min保持)B75→B100%のリニアグラジエント(20min)の後B100%30分保持。検出はA560nm−AUFS:0.06、52-62minに溶出した青色色素を集め凍結乾燥した。(化合物VIIの純度約20%)。
【0045】
polymerC18で得られた青色色素をさらに精製した。カラムはDeverosil C30-UG(野村化学社製)2cmφ*30cm、移動相はA:水、B:50%アセトニトリル0.5%TFA、6ml/min.、以下のグラジエントで行った。B52%(30min保持)B52→B100%のリニアグラジエント(20min)の後B100%、20分保持。検出はA560nm−AUFS:0.06、44-55minに溶出した青色色素を集め凍結乾燥した。(化合物VIIの純度約90%)
【0046】
化合物VIIの理化学的性質
(1)可視紫外吸収スペクトル
Shimadzu Photodiodearray検出器で650-250nmの吸収スペクトルを測定した。結果を図7に示す。
(2)FAB-MSで高分解能MSの測定を行った。その結果分子量は1357.1510で、分子式はC63H 41 O35であった。
(3)NMRスペクトル
4mgの化合物VIIを用いて1%DCl/DMSO-d6、0.5ml中でBruker DMX-750で測定した。測定項目は1H、DQF-COSY、TOCSY、HSQC、HMBC、NOESY 結果を図8に示す。
(4)色素化合物(VII)の構造は次の通りである。
【0047】
【化24】
【0048】
(5)分子量など
1357.98(C63H41O35 +);C55.72;H3.04;O41.24
実施例5. 青色色素が増強されたバラの作出
カルスの形成
マダムビオレの茎頂を、MS培地にベンジルアデニン(BA)2.25mg/L、ジベレリン(GA)3.46mg/L、ショ糖30g/L及びジェランガム2g/L加えた固体培地で培養し、カルスを誘導した。
【0049】
変異処理
リングサイクロトロン施設において、窒素イオンビーム(135MeV/u)及びネオンイオンビーム(135MeV/u)をそれぞれ0〜50Gyの線量で照射した。
植物の再成
各照射につき50個づつ(計900個)のカルスを用い、次のようにして植物の再生を行った。ベンジルアデニン(BA)1mg/L及びナフタレン酢酸(NAA)0.005mg/Lを添加したMS改変培地にカルスを移植し、再生シュートを得た。再生シュートを発根処理した後、馴化し、鉢上げし、温室で栽培して開花させた。
上記の方法において、900個のカルスから378の再生個体を得て、色調又は形状の変化した個体47株を得た。
結果を次の表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
色素の分析
上記の方法により再生した植物を温室で栽培し、開化させた後、花弁に含まれる化合物II及びシアニジンを次のようにして測定した。花弁を約0.5g秤量し、凍結乾燥した後、50% CH3CN/0.1% TFA溶液4mlで抽出を行った。化合物(II)は実施例1に記載した方法によりHPLCを行った。
【0052】
一方、シアニジンは、抽出液を0.2ml乾固し、0.2mlの6N-HCl中で100℃で20分加水分解した後、HPLCで分析した。分折条件はカラム:YMC ODS-A312 6mm*150mm、移動相:CH3COOH:CH3OH:H2O=15:20:65、検出:A520nm及び400-600nm(Photodiode array検出器島津SPD-M10A)とした。
結果を次の表3に示す。
【0053】
【表3】
【0054】
上記の通り、花弁の色が、親植物のそれに比べて赤方向に変化したバラ植物が10個体、青方向に変化したバラ植物が6個体得られた。
なお、色素をHPLCにより分析した結果の1例を図4に示す。
【0055】
実施例6. 各バラ品種の花弁中の化合物(II)の含量
実施例1及び5に記載した方法により、各バラ品種の花弁中の化合物IIの含量を測定し、次の表4に示す。
【0056】
【表4】
藤色系のバラにはどれも化合物(II)が含まれていることが確認された。
【0057】
【発明の効果】
本発明により、バラの花弁中の青色系色素の幾つかが抽出、単離され、またその誘導体が得られ、それらの構造が解明された。これにより、バラの色を遺伝子工学的に改変した新規なバラ植物の作出の基礎が与えられたのみならず、本発明の色素は、例えばバラなどの切花に吸収させることにより切花の色を改良するのに使用できる可能性があり、さらにはより一般に植物性天然色素として、例えば飲食物の加色などへの利用も期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、本発明の化合物(II)のメタノール中での可視〜紫外線吸収スペクトルを示す図である。
【図2】 図2は本発明の化合物(II)をHPLCにより分析した際のクロマトグラムで、化合物(II)は糖の1位がαとβの互変異性を示すため2本のピークが認められる。
【図3】 図3は、本発明の化合物(VI)の溶剤35%CH3CN/0.5% TFA中での可視〜紫外線吸収スペクトルを示す図である。
【図4】 図4は実施例4においてバラ品種マダムビオレを重イオン照射した物と同様にカルスから再生した非照射の株の花弁から抽出した色素をHPLCにより分析した結果を示すクロマトグラムであり、クロマトグラム中の18.85分及び22.52分のピークが、互変異性体からなる混合物である化合物(II)を構成する図2における17.06分と19.87分のピークに相当する。
【図5】 図5は、化合物(II)の 1 H NMRスペクトル及び13C NMRスペクトルを示す。
【図6】 図6は、化合物(VI)の 1 H NMRスペクトルを示す。
【図7】 図7は、色素化合物(VII )の650-250nm吸収スペクトルを示す。
【図8】 図8は、色素化合物(VII )の 1 H NMRスペクトルを示す。
Claims (10)
- 請求項1,2,4又は7に記載の化合物の製造方法において、バラ植物から、上記化合物を採取することを特徴とする方法。
- 前記バラ植物が、マダムビオレ、パープルレイン、ラバンデ、マンハッタンブルー、シャンテリーレース、ブルームーン、タソガレ、シャルルドゴール、バイオレットドリー、ブルーリボン、アオゾラ、レディエックス、ブルーバユー、またはスターリングシルバーである、請求項8に記載の方法。
- 請求項3〜5のいずれか1項に記載の化合物の製造方法において、請求項2に記載の化合物を部分加水分解することを特徴とする方法。
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