以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態の光デバイスにおける光電変化層に適用する半導体のバンド構造の変調について説明する。本実施形態では、光デバイスのうち、2つのバンドエンジニアリング法である、「<111>軸引張り構造」と「FT(filled tetrahedral)構造」の光電変化層を用いて作製した受光素子を一例として説明する。尚、以下の説明において、ミラー指数において、( )は(面)を示し、[ ]は[結晶の方向:面と垂直になる法線方向]を示す。また、{ }は互いに等価な(面)を包括する{面}を示し、< >は互いに等価な[方向]を包括する<方向>を意味する。例えば、<111>は結晶の方向:[111]、[−1−11]、[−11−1]、[1−1−1]等の軸方向の総括を意味する。また、{111}は面方位:(111)面、(1−11)面、(−111)面、(−1−11)面等の面方位の総括を意味する。
(1)ゲルマニウムのバンド構造と光学特性
ゲルマニウム等の間接半導体が持つ間接的なバンド構造及び吸収係数が小さい理由について説明する。図2には、ゲルマニウムのバンド構造を示している。ゲルマニウムが間接半導体となる主たる理由は、構成原子間の結合長dが僅かに短いためと考えられている。Γ点における伝導帯と価電子帯のエネルギー差ΔEは結合長dに強く依存し、結合長dが短くなるほどΔEは増加する。従って、結合長dが長くなるとエネルギー差ΔEが急速に小さくなり、直接バンド構造をとるように変化すると推測される。
ゲルマニウムの光学特性は、間接半導体であるために電気双極子遷移が光学禁制となり、バンド端付近の低エネルギー領域では弱い吸収しか示さない。即ち、吸収係数が小さい。対照的に、GaAsなどの直接半導体は電気双極子遷移に由来する直接遷移が起こり、強いバンド間吸収が生じる。即ち、吸収係数が大きい。両者の相違は、以下に述べる2つの選択則を満たすか否かの主な原因がある。
その1つは波数の選択則であり、特定波数でエネルギーギャップが最小となることである。もう1つは波動関数の対称性に関する選択則であり、ギャップ最小となる波数において、伝導帯と価電子帯のうち一方が偶関数、他方が奇関数となることである。
対称性の選択則について補足すると、2準位間の発光や光吸収の強さは<上準位|遷移双極子モーメントμ|下準位>で与えられ、この2準位が原子軌道近似でs軌道(偶関数)及びp軌道(奇関数)で表される半導体では、μは奇関数であることから、<s|μ|p>=∫偶・奇・奇dr≠0であり、光学許容となる。これに対し、2準位がともにp軌道で表される半導体では、<p|μ|p>=∫奇・奇・奇dr=0であり、光学禁制となる。
光半導体は、Γ点でギャップ最小となり波数の選択則を満足する。光半導体は、伝導帯と価電子帯の波動関数がそれぞれs軌道とp軌道で表されるため、対称性の選択則も満たす。一方、間接半導体は、ギャップ最小となる波数が伝導帯と価電子帯で異なることから波数の選択則を満足せず、しかも伝導帯と価電子帯の波動関数がともにp軌道であることから対称性の選択則も満足しない。このために光学禁制となる。
(2)<111>軸引張り構造によるバンド構造変調と吸収変調の原理
<111>軸引張り構造の特徴を述べ、長波長帯の吸収が強まる原理について説明する。上述したように、原子間結合長が短いとΓ点における伝導帯と価電子帯のエネルギー差ΔEは広がり、間接半導体になり易い。結合長の短い半導体としては、ダイヤモンド(d=1.54Å、間接)、シリコン(d=2.35Å、間接)、SiC(d=1.88Å、間接)、BN(d=1.57Å、間接)、BP(d=1.97Å、間接)、GaN(d=1.94Å、直接)、GaP(d=2.36Å、間接)、AlN(d=1.89Å、直接)、AlP(d=2.36Å、間接)、ZnO(d=1.98Å、直接)などが知られており、傾向としては間接半導体が多い。
図3はゲルマニウムにおける、格子定数変化に対する3つのエネルギー差、伝導帯Γ点と価電子帯Γ点とのエネルギー差[Γc−Γv]11、伝導帯L点と価電子帯Γ点とのエネルギー差[Lc−Γv]12、伝導帯X点と価電子帯Γ点とのエネルギー差[Xc−Γv]の変化を計算した結果を示す。
図中に示すように、格子定数変化0%ではLc−Γvがゲルマニウムのバンドギャップ(0.8eV)を決める。格子定数が増える方向に変化するとLc−Γvは徐々に減り、+0.8%以上では伝導帯最下端はLcからΓcに乗り移り、Γc−Γvが最小ギャップ(0.5eV以下)となる。すなわち、+0.8%以上の格子定数変化領域のゲルマニウムは直接的なバンド構造を持つ半導体に変化し、且つバンドギャップは0.5eV以下にまで低減する。
以上の結果は、ゲルマニウムの格子定数が3次元的に膨らむ場合に関するものである。3次元的な引張りでは、全てのGe−Ge結合長が増加する。このため、先の(1)で説明した結合長増加の効果により、ゲルマニウムは直接半導体に変化すると考えられる。
これに対して、我々の研究によれば、1つのGe原子から4方向に伸びたGe−Ge結合のうち、ある一方向([111]軸、[−1−11]軸、[−11−1]軸、[1−1−1]軸のいずれか)だけを伸長させた場合でも、比較的小さな格子定数増加で、ゲルマニウムを直接半導体に変化させられることが明らかになった。図3には、<111>軸引張り構造[Γc−Γv]13、[Lc−Γv]14を示している。
定性的には、他の結晶軸、例えば[100]軸を引っ張る構造では、Ge−Ge結合の結合長は引張り応力と圧縮応力が相殺して格子定数変化自体が小さくなり、バンド構造の変調も小さいが、結合に平行な結晶軸、例えば<111>軸を引っ張る構造では、4つのGe−Ge結合のうち、<111>軸に平行な結合のみ選択的に結合長が長くなり、効果的に直接遷移化が起きると考えられる。
この<111>軸引張り構造による長波長帯での吸収増加の原理であるが、これは、図4(b)に示すように、バンドギャップが狭まることによって吸収スペクトルが低エネルギーシフトするためである。なお、吸収が低エネルギー化するほど、光学許容遷移であるΓc−Γv遷移も低エネルギーシフトする。バンド端近傍の波長領域、すなわち、長波長帯では、引張り構造の導入によって吸収に占めるΓc−Γv遷移の割合が増すことから、吸収係数も劇的に増加する。
(3)FT(filled tetrahedral)構造によるバンド構造変調と吸収変調の原理
FT構造の特徴と吸収が強まる原理を説明する。以下の説明において、FT構造を持つ半導体をFT半導体と称する。FT半導体は、図5(a)に示すように、格子間サイトの空間に閉殻構造の希ガス原子22が導入された半導体、あるいは図5(b)に示すように、格子点サイトを置換するn型ドーパントD(またはp型ドーパントA)23と格子間サイトに挿入された異種原子Z24との組合せであるD−Zペア(またはA−Zペア)が導入された半導体を指す。なお、D−Zペア(またはA−Zペア)間の電荷補償効果により、ドーパントD(またはA)の最外殻電子配置はゲルマニウム原子21のそれと同等であり、また異種原子Z24の電子配置は閉殻構造となるため、希ガス原子22のそれと同じになる。
これら2種類のFT半導体のうち、希ガス原子を導入した図5(a)のFT半導体は熱的に不安定である。その理由は、加熱により、希ガス原子22が容易に母体半導体中を拡散してしまうためである。図5(b)のD−Zペア(またはA−Zペア)を持つFT半導体は、熱的安定性を向上させるために考案した新半導体である。これは、ドーパントD(またはA)と異種原子Z24を引き離そうとすると、両者の間に静電相互作用が働き、両者の結合を保持しようとする力が生じる。
図6(a)乃至(c)は、ゲルマニウムのダイヤモンド構造における、伝導帯Γ点(Γc)[図6(a)]、伝導帯L点(Lc)[図6(b)]、価電子帯Γ点(Γv)[図6(c)]の各々について実空間上での電子状態を示す図である。
図6(a)に示すように、<111>軸方向で見ると、原子座標(0,0,0)、(1/4,1/4,1/4)にゲルマニウム原子が位置し、Ge−Ge結合で結ばれている。原子座標(2/4,2/4,2/4)、(3/4,3/4,3/4)には格子間サイトが並ぶ。四面体結合構造では、<111>軸に沿って原子が2個並び、格子間サイトが2個並び、再び原子が2個並ぶという、隙間の多い結晶構造をとる。
格子間サイトには、原子は存在しないが、ゲルマニウム原子の反結合性p軌道と結合性p軌道が格子間サイト方向に向かって広がるため、格子間サイトには電子状態が存在する。要するに、格子間サイトにはp軌道状態が存在する。吸収を高める原理は、格子点サイトにドーパントD(A)を導入し、格子間サイトに異種原子Zを導入することでFT構造を作り、p軌道を選択的に変調することにある。
FT構造が作られると、格子間サイトの電子が排除され、p軌道に由来するLcとΓvのエネルギーは上昇する。しかし、反結合性s軌道に由来するΓcエネルギーは殆ど影響を受けない。従って、Γc−Γvのエネルギー差が減少し、Γvに対するΓcの位置が相対的に下がって直接遷移化するため、光の吸収が増大する。
図7(a),(b)に示すエネルギーバンド図を参照して、FT構造がバンド構造変調と吸収変調の原理を整理して説明する。
図7(a)に示すように、ゲルマニウム[結晶Ge]ではp軌道が伝導帯の下端と価電子帯の上端を構成し、s軌道は伝導帯のさらに上方にある。FT構造[FT−Ge]は、格子間サイトに閉殻構造を持つ異種原子を導入することによって、この2つのp軌道を上昇させてs軌道に近づける。さらには、レベル交差させてs軌道の伝導帯の上方にp軌道の価電子帯の上端が位置する。つまり、光学許容遷移であり、強い吸収を示すΓc−Γv遷移が低エネルギーにシフトすることで長波長帯における吸収係数が増大する。
一般に格子間に原子が存在すると、バンドギャップ内に深い準位や欠陥準位が形成される場合があり、光電変化層内での光から電気への変換効率に悪影響を与える場合がある。しかし、本実施形態のFT構造では、ワイドギャップを有する閉殻構造の異種原子が挿入されるため、原理的にそのような準位は形成されない。
本実施形態において、<111>軸引張り構造を有する半導体としては、単体元素半導体であるゲルマニウムGeや、化合物半導体であるGe1-yCy(1<y<1)、SixGe1-x(0<x<1)、及びSixGe1-x-yCy(0<x<1,1<y<1)からなる群より選択される。
光電変換層に用いる半導体層の<111>軸を引っ張る方法としては、以下の例が挙げられる。
(i)1つの結合方向を<111>方向として、光電変換層に用いる半導体と比較して格子定数が小さい物質の{111}基板を用いることで、光電変換層に面内圧縮応力を加え、基板法線方向、要するに<111>軸方向に伸長させる。
(ii)前記(i)の場合において、光電変換層に用いる半導体と比較して格子定数が小さい物質の{111}以外の面方位を持つ基板、例えば(100)基板を用い、異方性エッチングにより(111)面、(1−11)面、(−111)面、(−1−11)面を面出した凹凸状表面とし、その上に光電変換層に形成することで、各面にて光電変換層に面内圧縮応力を加え、各々[111]軸、[1−11]軸、[−111]軸、[−1−11]軸方向に伸長させる。
(iii)前記(i)(ii)の場合において、基板上に光電変換材料からなる突起構造を複数個形成し、突起部間にアモルファスシリコンなどの異種材料を充填し、例えばこのアモルファスシリコン層を選択酸化させることにより、突起構造に面内圧縮を加え、[111]]軸(又は、[1−11]軸、[−111]軸、[−1−11]軸)方向に伸長させる。尚、突起構造とは、光デバイス(ここでは、受光素子)を上面から見ると、ゲルマニウムからなる複数の突起部がドットマトリックス状に配置され、側面(断面)から見ると、基板面上に複数の突起部とが配列された構造を示している。また、ここでは、突起部即ち、複数のゲルマニウムナノドット部が{111}面上に、ドットマトリクス状に並置(juxtapose)され、それらの周囲を絶縁体で充填されたゲルマニウムナノナノドット構造と称してもよい。尚、ナノドットとは、典型的には1ナノメートルから1000ナノメートルまでの大きさの微細構造を示唆する。
(iv)前記(i)(ii)の場合において、基板上に光電変換層を形成し、この層の上部に面内圧縮応力を生じさせる積層膜を形成することで、光電変換層を[111]軸(又は、[1−11]軸、[−111]軸、[−1−11]軸)方向に伸長させる。
(v)前記(i)(ii)の場合と異なり、光電変換層に用いる半導体と比較して格子定数が大きい物質を基板に用い、基板面方位を(LMN)面として、L+M+N=0を満足する基板を用いることで、光電変換層に面内引張り応力を加え、基板面と平行な[111]軸方向に伸長させる。補足すると、仮に、基板面と[−111]軸とが平行で、この[−111]軸を伸長させるには、基板法線ベクトル(L,M,N)とベクトル(−1,1,1)との内積がゼロになるLMNの組み合わせを選べばよい。すなわち、基板面方位として{110}面を選べばよいという具合である。
光電変換層に用いる半導体と比較して小さい格子定数を持つ基板としては、単体元素半導体であるシリコンが挙げられる。さらに、光電変換層と類似の化合物半導体であるGe1-yCy(1<y<1)、SixGe1-x(0<x<1)、又はSixGe1-x-yCy(0<x<1,1<y<1)からなる群より選択することも可能である。この場合、基板に用いる化合物半導体のSiとCの組成比x、yは、光電変換層の組成比よりも大きい値の化合物半導体を用いる。従って、基板の格子定数は、光電変換層よりも小さくすることになる。
また、反対に、光電変換層よりも大きい格子定数を持つ基板としては、シリコン基板上にMSb(M=Al、Ga、In、またはその合金)で表されるアンチモン系III−V化合物半導体層を被覆した、擬似III−V化合物半導体基板を用いることができる。
公知な技術として、Si{100}基板上にゲルマニウムを成長させ、格子ミスマッチによる歪み効果を利用してゲルマニウムに引っ張り応力を与えて吸収を長波長化させる方法が知られている(特許文献1)。この方法では、引っ張り応力を[111]軸方向ではなく、[100]軸方向に働かせることが技術的に大きな相違点である。先の「<111>軸引張り構造によるバンド構造変調と吸収変調の原理」の節でも述べたように、[100]軸引張り構造では、Ge−Ge結合の結合長は引張り応力と圧縮応力が相殺して格子定数変化自体が小さくなり、バンド構造の変調も小さいという欠点がある。
特許文献1によれば、格子定数変化が+2%まではバンド構造は間接的であり、+0.8%のときのバンドギャップ減少量は0.1eVである。<111>軸引張り構造と比べると、バンド変調を引き起こすにはより大きな格子定数変化が必要である。要するに、(100)基板を用いるこの方法は、本実施形態のおける{111}基板を用いて、<111>軸を選択的に引っ張る方法と比較して、ゲルマニウムのバンド変調効果は小さい。
また、本実施形態において、FT半導体に含まれる母体半導体、ドーパントDまたはA、及び異種原子Zの組み合わせとしては、以下の例が挙げられる。
(vi)母体半導体をIVb単体半導体及びIVb-IVb化合物半導体からなる群より選択し、ドーパントDをVa元素またはVb元素からなる群より選択し、異種原子ZをVIIb元素からなる群より選択する。
(vii)母体半導体をIVb単体半導体及びIVb-IVb化合物半導体からなる群より選択し、ドーパントAをIIIa元素及びIIIb元素からなる群より選択し、異種原子ZをIa元素及びIb元素からなる群より選択する。
IVb系以外の母体半導体、ドーパントDまたはA、及び異種原子Zの組み合わせとしては、以下の例が挙げられる。
母体半導体の例としては以下のようなものが挙げられる。IVb単体半導体はゲルマニウムを指す。IVb-IVb化合物半導体はGe1-yCy(1<y<1)、SixGe1-x(0<x<1)、又はSixGe1-x-yCy(0<x<1,1<y<1)からなる群より選択される。
また、ドーパントD、A及び異種原子Zの例としては以下のようなものが挙げられる。Ia元素はLi、Na、K、Rb、及びCsからなる群より選択される。Ib元素はCu、Ag、及びAuからなる群より選択される。IIIa元素は、元素はSc、Y及びLaからなる群より選択される。IIIb元素はB、Al、Ga、In、及びTlからなる群より選択される。Vb元素はV、Nb、及びTaからなる群より選択される。Vb元素はN、P、As、Sb、及びBiからなる群より選択される。VIIb元素はF、Cl、Br、及びIからなる群より選択される。IIIa、およびLuからなる群より選択される。
本実施形態に係る光デバイスは、<111>軸引っ張り構造、FT構造を有するゲルマニウム系光電変換層を有する。光電変換層に対する電極配置は特には限定されない。
図8(a),(b)は、それぞれ本発明の実施形態に係るゲルマニウム系光デバイスの断面図を示す。こごて、図8(a)は縦型通電の受光素子、図8(b)は横型通電の受光素子である。
図8(a)の縦型通電の受光素子では、基板のシリコンn+領域32の上に、基板主面と垂直方向に半導体格子が伸張したゲルマニウムからなる光電変換層33が形成され、さらに光電変換層33上にシリコンp+領域34が形成されている。この構成において、光電変換層33を挟んでそれぞれn+領域32及びp+領域34が接している。n+領域32にはn電極31が形成され、p+領域34にはp電極36が接続されている。光電変換層33とp電極36は絶縁層35によって絶縁されている。
この縦型通電の受光素子では、光電変換層33で発生した光キャリア(電子及び正孔)を縦方向にドリフトさせ、n+領域32を経てn電極31から電子を取り出し、またp+領域34を経てp電極36から正孔を取り出すことで光電流を得ている。
図8(b)の横型通電の受光素子では、シリコン基板37に埋め込み酸化膜38が形成され、その上に基板主面と垂直方向に半導体光子が伸張したゲルマニウムからなる光電変換層39が形成され、絶縁膜40によって素子分離されている。光電変換層39の表面には、同一面内において光電変換層39を挟むようにn+領域42及びp+領域41が形成されている。n+領域42にはn電極44が接続され、p+領域41にはp電極43が接続されている。
この横型通電の受光素子では、光電変換層39で発生した光キャリア(電子及び正孔)を横方向にドリフトさせ、n+領域42を経てn電極44から電子を取り出し、またp+領域41を経てp電極43から正孔を取り出すことで光電流を得ている。
なお、縦型通電及び横型通電のいずれの受光素子でも、埋め込み酸化膜を設けて電流リークを防いでいるが、素子構成、基板抵抗、回路など、いずれかの手段で絶縁性を確保できる場合には、埋め込み酸化膜は必ずしも必要ではない。
図8(a),(b)は、受光素子の基本構造を示したものであり、具体的な受光素子については種々の構造が考えられる。本実施形態に係る受光素子は、単体素子として用いることができる。
また、同一基板上に複数の受光素子を集積化してアレイ状に配置して、CCDイメージセンサやCMOSイメージセンサを作製してもよい。同一基板上に複数の受光素子を集積化して太陽電池パネルを作製してもよい。同一基板上に受光素子と発光素子とこれらを結ぶ導波路を集積化して光デバイスアレイを作製してもよい。これらの変形例については後により詳細に説明する。
次に、図9(a)、(b)、(c)及び(d)に示す断面構成を参照して、<111>軸引っ張り構造を有する光電変換層の形成工程について説明する。ここでは、ゲルマニウム突起構造からなる光電変換層を形成する工程について説明する。
図9(a)に示す製造工程では、Si{111}基板45を用意し、n型シリコン層46上に超高真空レベルの雰囲気下で成膜可能なCVD装置を用いてゲルマニウム突起部(ゲルマニウム突起構造)47を成長させる。ここでは、ゲルマニウム源として、水素ガスで希釈したゲルマンガスを用いる。Si基板45は、不純物拡散やイオン注入によりSi基板45の表面にn型シリコン層46を形成している。次にSi基板45は、希フッ酸処理で表面酸化膜が除去された後、スピン乾燥され、上記CVD装置のプレチャンバーを経て、リアクターチャンバーに導入される。Si基板45を一定温度に加熱してゲルマンを供給することで、n型シリコン層46上に凸となる形状のゲルマニウム突起構造が形成される。膜形状ではなく突起形状に成長するのは、SK(Stranski-Krastanov)成長モードが支配的なためと考えられている。
ゲルマニウム突起構造の各突起部47のサイズは、基板温度及び、ゲルマン供給量に強く依存することから、これらを制御することでサイズ制御が可能である。本実施形態の受光素子に用いるゲルマニウム突起部47の平均サイズとしては、高さが10nmから100nm、基板と接する面の直径が80nmから800nmの範囲にあることが望ましい。
なお、ゲルマニウム突起部47を形成する直前に、シランガスを用いて、基板表面にシリコンバッファー層を設けることは有効である(図示せず)。このようなシリコンバッファー層を設けることにより、Si基板46が平坦化し、さらに表面が正常化するため、サイズの揃ったゲルマニウム突起構造が得られる効果がある。
図9(b)に示す製造工程では、引き続きCVD装置によりアモルファスシリコン層48を形成し、RIE装置により、このアモルファスシリコン層48にエッチバック処理を施し、ゲルマニウム突起部47の各突起頂上部分の頭出しする。
図9(c)に示す製造工程では、酸化炉にてアモルファスシリコン層48を選択酸化させて、酸化シリコン化を図る。この時、アモルファスシリコンが酸化シリコンに酸化される際に、上下方向だけでなく横方向にも広がろうとするため、各ゲルマニウム突起部47に径が狭められるような圧縮応力が掛かる。この圧縮応力を緩和させるために、<111>軸方向に半導体格子が伸長する。このような伸長作用により、引っ張り構造を有し、形状がゲルマニウム突起構造化された光電変換層48aを形成する。この酸化工程では、酸化処理温度、プロセス時間等を調整することで、<111>軸方向の半導体格子の変形の度合いを制御することができる。
図9(d)に示す製造工程では、CVD装置を用いてシリコン酸化膜48a上にシリコン層49を形成し、イオン注入工程により、p+化させる。また、同様にSi{111}基板45側をCMP装置を用いて薄化させて、イオン注入工程により、n+化させる。
さらに、通常の製造工程を用いて、電極形成や層間絶縁膜形成を実施することにより、図8(a)に示したような縦型通電の受光素子の光デバイスを作製することができる。または、その他の通常の製造工程を用いて、図8(b)に示したような横型通電の受光素子の光デバイスを作製することができる。
以上のような製造工程により、<111>軸引っ張り構造を有する光電変換層を形成することができる。なお、以上説明した製造工程は一例であり、その他の製造手法や製造工程により同様に引っ張り構造を有する光電変換層を形成することもできる。
ゲルマニウムの格子変形を検知する間接的かつ簡便な方法としては、ラマン散乱などの光学的測定を用いることができる。この測定は、格子変形がない場合、ゲルマニウムはGe−Ge結合に由来する固有振動モードが波数300cm−1付近に生じる。格子が変形すると、固有振動モードの波数もそれに応じて変化する。振動モードの評価は、格子変形の有無を調べる有力な手段の1つである。ここで、格子が伸びると固有振動モードの波数が小さくなり、格子が縮むと固有振動モードの波数が大きくなる。
次に、図10(a)、(b)、(c)及び(d)に示す断面構成を参照して、FT構造を有する光電変換層の形成工程について説明する。ここでは、P−Fペアドープしたゲルマニウムからなる光電変換層を形成する工程について説明する。
図10(a)に示す製造工程では、Siウエハ51上にゲルマニウム層52を形成する。次に図10(b)に示す製造工程では、ゲルマニウム層52にn型ドーパントDとしてリン(P)をドープする。
図10(c)に示す製造工程では、Pドープされたn型ゲルマニウム層53に異種原子Zとしてフッ素イオン(F+)をイオン注入したゲルマニウム層54を形成する。このイオン注入工程では、エネルギー、ドーズ量、基板面方位、チルト角、基板温度などを最適化する。F+イオンは、P原子がもつ余分な電子や基板を介してグランドから供給された電子を受け取ってF−イオンになると考えられる。
図10(d)に示す製造工程では、歪ゲルマニウム層54に対してアニール処理を施し、イオン注入で乱された格子を再結晶化してP−Fペアが導入されたFT−ゲルマニウムからなる光電変換層55を形成する。このアニール処理工程では、アニール温度、処理時間、ガス雰囲気などを調整することで、格子点のゲルマニウム原子がP原子で置換され、格子間にF原子が挿入されるよう制御できる。P原子は格子点に位置するが、F原子に電子を奪われるため、電気的には不活性となり高抵抗化する。P原子とF原子はイオン結合で結びつけられ、アニール処理による温度上昇によっても解離せず、ペアリング状態を保っている。
さらに、その他の通常の製造工程を用いて、電極形成や層間絶縁膜形成を実施することにより、図8(a),(b)に示したような縦型通電の受光素子又は横型通電の受光素子の光デバイスを作製することができる。
以上のように、イオン注入とアニール処理を組み合わせた製造工程により、母体半導体中にFT構造を有する光電変換層を形成することができる。なお、熱拡散とアニール処理を組み合わせて、FT構造を有する光電変換層を形成してもよい。これら以外の製造工程を用いてFT構造を有する光電変換層を形成してもよい。また、引っ張り構造とFT構造を組み合わせた光電変換層を形成してもよい。
P−Fペアのように、格子点のドーパントDと格子間の異種原子Zが結びつくと、母体半導体の格子振動とは別の固有振動モードが生じる。このため、赤外分光またはラマン分光から、FT構造を直接的に解析することが可能になる。P−Fペアを例に挙げると、基準振動計算から、波数150〜200cm−1付近に振動モードが現れる。このように、振動モードの評価は、FT構造の有無を調べる有力な手段の1つである。
D―Z(またはA―Z)ペアの存在を検知する間接的かつ簡便な方法として、電気抵抗やホール測定などの電気測定を用いることもできる。n型(またはp型)ドーパントを用いた場合、格子間の異種原子Zをドーピングする前の基板はn型(またはp型)となり低抵抗である。ここで、ドーパントD(またはA)と異種原子Zをペアリングさせると、電荷補償によりフリーキャリアが減って基板は高抵抗化する。このため、異種原子Zのドーピング前後における電気抵抗やキャリア濃度の変化を調べることでDZ(またはAZ)ペアが形成できたか否かを知ることができる。
次に、第1の実施形態として、前述した光電変換層を備える受光素子について説明する。
図1(a),(b)には、第1の実施形態に係る<引っ張り構造、{111}基板、ゲルマニウム突起構造>の光電変換層を備える縦型通電の受光素子の断面構成を示している。
この受光素子は、シリコン基板1上に埋め込み酸化膜2が形成され、さらにイオン注入により、n+化されたn型シリコン層3が形成される。埋め込み酸化膜2は、1つの手法として貼り合わせ基板により形成することができる。例えば、第1のシリコン基板{111}の一主面に熱酸化等の手法により酸化膜(埋め込み酸化膜2)を形成する。この酸化膜に第2のシリコン基板{111}の主面を貼り合わせて一体化させる。このn型シリコン層3上には、前述した<111>軸方向に半導体格子が伸長された複数のゲルマニウム突起部4とその周囲に充填された絶縁層5(これらの積層を光電変換層とする)が形成される。さらにゲルマニウム突起部4及び絶縁層5の上層に、p+化されたp型シリコン層6及びp電極7が形成される。また、n型シリコン層3は、一部の領域が溝状に切り欠かれて露呈しており、その上にn電極8が形成される。
n型シリコン層3は、基板格子定数がゲルマニウムよりも小さく、{111}面の基板面方位を有しており、光電変換層に対する基板として機能している。光電変換層は、図9で説明した製造工程に従って形成されている。基板法線方向のゲルマニウム<111>軸が伸長していることはラマン分光から確認している。
引っ張り構造を持つゲルマニウムのバンドギャップは、結晶ゲルマニウムのバンドギャップよりも小さく略0.5eVである。バンド端が低エネルギーシフトしたために、近赤外領域における光の吸収係数は105cm−1以上と大幅に増強されている。この光デバイスの光電変換層を光励起すると、光電流が生じる。
光電変換層で発生した光電流を電極から外部に有効に取り出すには、図1には図示していないが、n電極8とp電極7の間に駆動電圧Vを印加する。この駆動電圧Vの大きさは、この受光素子の開放端電圧をVocとすると、V<Vocとすればよい。V>Vocでは、逆に電極から光電変換層に外部キャリアが注入されて光電流と相殺し合うため、見掛け上、光電流は減る。このため、動作電圧Vの設定は素子特性を決める重要な因子である。なお、開放端電圧Vocは、駆動電圧を振って光電流ゼロとなる電圧(V=Voc)から求めることが出来る。
図11に、本実施形態の受光素子に10GHzで変調された波長1550nmの光信号を入力したときの、出力光電流の応答特性を示す。図11からわかるように、入力光信号に対し、略同一な波形の出力光電流が得られている。このように、本実施形態の受光素子によれば、結晶ゲルマニウムでは分光感度が低い波長1550nmの近赤外光に対して、高速・高感度な光検出が可能になる。
以上のことから、ゲルマニウム受光素子の光電変換層の長波長帯化を図る方法として、エネルギーバンドを変調して吸収を強める引っ張り構造は大変有効であることがわかる。
次に、第2の実施形態として、前述した光電変換層を備える受光素子について説明する。図12には、第2の実施形態に係る<引っ張り構造、{111}基板、ゲルマニウム>の光電変換層を備える縦型通電の受光素子の断面構成を示している。本実施形態では、前述した第1の実施形態とは、光電変換層等が異なっており、これ以外の構成部位は同じであり、同じ参照符号を付してその説明は省略する。
光電変換層61,62は、まず{111}シリコン基板1上に埋め込み酸化膜2とn型シリコン層3が積層形成される。このn型シリコン層3上に、シリコン・ゲルマニウム・バッファ層61を形成した後に、歪ゲルマニウム層62を形成する。シリコンとゲルマニウムでは格子定数差が約4%と大きいために、シリコン上に直接ゲルマニウムをエピタキシャル成長させると、膜に転位などの欠陥が入りやすく、暗電流の大きい光電変換層が作られる場合がある。そこで、格子定数が両者の間の値を持つシリコン・ゲルマニウム・バッファ層61を挿入することで、基板面内方向に圧縮応力を受け、基板法線方向に引っ張り応力を受けた、歪ゲルマニウム層62のエピタキシャル成長が可能になる。基板法線方向のゲルマニウム<111>軸が伸長していることはラマン分光から確認している。
引っ張り構造を持つゲルマニウムのバンドギャップは結晶ゲルマニウムのそれよりも小さく略0.5eVである。バンド端が低エネルギーシフトしたために、近赤外領域における光の吸収係数は105cm−1以上と大幅に増強される。この光デバイスの光電変換層を光励起すると、光電流が発生する。
本実施形態の受光素子に10GHzで変調された波長1550nmの光信号を入力すると、前述した図11と同様に、入力光信号に対して略同一な波形の出力光電流が得られる。このことから、本実施形態の光デバイスによれば、結晶ゲルマニウムでは分光感度が低い波長1550nmの近赤外光に対して、高速・高感度な光検出が可能になる。
次に、第3の実施形態として、前述した光電変換層を備える受光素子について説明する。図13には、第3の実施形態に係る<引っ張り構造、(100)基板、ゲルマニウム>の光電変換層を備える縦型通電の受光素子の断面構成を示している。本実施形態では、前述した第2の実施形態とは、シリコン基板と光電変換層等が異なっており、これ以外の構成部位は同じであり、同じ参照符号を付してその説明は省略する。
本実施形態は、{100}シリコン基板を用いて、基板表面をKOH溶液による異方性エッチングにより(111)面、(−111)面、(1−11)面、(−1−11)面を出し、逆ピラミッド形状の凹凸面を設けている。ゲルマニウム[111]軸、[−111]軸、[1−11]軸、[−1−11]軸が伸長していることはラマン分光から確認している。
本実施形態の受光素子に10GHzで変調された波長1550nmの光信号を入力したときの出力光電流の応答特性を調べると、入力光信号に対して略同一波形の出力光電流が得られることがわかった。
本実施形態によれば、加工が容易な{100}基板を用いて、エッチングにより{111}面を出し、その上に引っ張り構造を持つゲルマニウム光電変換層を形成することで、長波長帯における光デバイスの高速化及び高感度化を図ることができる。
次に、第4の実施形態として、前述した光電変換層を備える受光素子について説明する。図14には、第4の実施形態に係る<引っ張り構造、{111}基板、ゲルマニウム積層膜>の光電変換層を備える縦型通電の受光素子の断面構成を示している。本実施形態では、前述した第2の実施形態とは、光電変換層上にパターニングされたシリコンナイトライド膜による積層構造が異なっており、これ以外の構成部位は同じであり、同じ参照符号を付してその説明は省略する。
このシリコンナイトライド膜64は歪ゲルマニウム層62に面内圧縮応力を与える。
シリコンナイトライド膜64は、小片例えば、小型の矩形形状を成している。歪ゲルマニウム層62上にパターニングにより例えば、マトリックス配列、又は市松模様の配置に形成される。又は、シリコンナイトライド膜64は、小片が小型の円形に形成され、ドットマトリックス状に配置してもよい。このように配置は、歪ゲルマニウム層62上でシリコンナイトライド膜64が所在する領域と、所在しない領域とが均一となるように配置すればよく、特に配置構成に制限があるものではない。また、面内圧縮応力の所望する分布がある場合には、その分布に従い適宜、シリコンナイトライド膜64を配置すればよい。
従って、歪ゲルマニウム層62は下層のシリコン・ゲルマニウム層61と上層のシリコンナイトライド膜64の両方から圧縮応力を受けて、より<111>軸方向に格子が伸長しやすくなる。ゲルマニウム<111>軸が伸長していることはラマン分光から確認している。
本実施形態の光デバイスに10GHzで変調された波長1700nmの光信号を入力したときの出力光電流の応答特性を調べると、入力光信号に対して略同一波形の出力光電流が得られることが確認された。
本実施形態によれば、ゲルマニウム層(歪ゲルマニウム層)に対して、上層及び下層から面内圧縮応力を加えた引っ張り構造を持つゲルマニウム光電変換層を形成することで、より長波長帯において、受光素子の動作の高速化及び高感度化を図ることができる。
次に、第5の実施形態として、前述した光電変換層を備える受光素子について説明する。
図15には、第5実施形態に係る<引っ張り構造>の光電変換層を備える縦型通電の受光素子の断面構成を示している。本実施形態では、前述した第2の実施形態とはシリコン基板及び光電変換層等が異なっており、これ以外の構成部位は同じであり、同じ参照符号を付してその説明は省略する。
この受光素子は、シリコン{110}面基板1上に埋め込み酸化膜2が形成され、さらにイオン注入により、n+化されたn型シリコン層3が形成される。n型シリコン層3は、一部の領域が溝状に切り欠かれて露呈しており、その上にn電極8が形成される。
このn型シリコン層3上には、並置された突起形状の複数のアルミニウムアンチモン突起部71と、アルミニウムアンチモン突起部71の周囲及び頂部を埋め込むガリウムアンチモン層72とを備えるIII−V化合物半導体バッファ層と、光電変換層である歪ゲルマニウム層62が形成される。さらに光電変換層62の上層に、p+化されたp型シリコン層6及びp電極7が形成される。
III−V化合物半導体バッファ層と、歪ゲルマニウム層の製造工程について説明する。まず、MBE装置を用いて、前処理を行った{110}シリコン基板1のn型シリコン層3上にアルミニウムアンチモン突起構造を成長させる。シリコン基板1は、前処理として、希フッ酸処理で表面酸化膜を除去した後、スピン乾燥し、超高真空下のMBE装置のプレチャンバーを経て、リアクターチャンバーに導入する。
シリコン基板1を一定温度に加熱し、K−セルとシャッターを制御してアルミニウムとアンチモンの各々を基板1のn型シリコン層3上に供給して、アルミニウムアンチモン突起構造71を形成させる。引き続き、MBE装置により、アルミニウムアンチモン突起構造71を覆うようにガリウムアンチモン層72を堆積させる。この成膜により、表面が平坦化され、擬似的な{110}ガリウムアンチモンエピタキシャル基板が形成される(非特許文献2を参照)。
さらにガリウムアンチモン層72上に、MBE装置若しくは、CVD装置を用いて、歪ゲルマニウム層62を堆積させる。シリコン基板上のガリウムアンチモン層72は、ほぼ格子緩和しており、バルクの格子定数0.6096nmに近い値を示し、ゲルマニウムの格子定数0.5646nmよりも大きい。このため、歪ゲルマニウム層62は基板面内で引っ張り応力を受け、基板面と平行な[−111]軸方向に伸長される。
引っ張り構造を持つゲルマニウムのバンドギャップは、結晶ゲルマニウムのそれよりも小さく略0.5eVである。バンド端が低エネルギーシフトしたために、近赤外領域における光の吸収係数は105cm−1台に増強される。この光デバイスの光電変換層を光励起すると、光電流が生じる。
本実施形態の受光素子に10GHzで変調された波長1550nmの光信号を入力すると、入力光信号に対して略同一波形の出力光電流が得られる。このことから、本実施形態の受光素子によれば、結晶ゲルマニウムでは分光感度が低い波長1550nmの近赤外光に対して、高速・高感度な光検出が可能になる。
次に、第6の実施形態として、前述した光電変換層を備える受光素子について説明する。
第6実施形態として、前述した図8(b)に示したFT構造を有する、横型通電のFT−ゲルマニウムを光電変換層に用いた受光素子について説明する。
図8(b)に示した母体半導体としてゲルマニウム、格子点サイトに置換されるn型ドーパントDとしてP原子、格子間サイトに挿入される異種原子Zとしてフッ素原子Fを用い、PFドープのFT−ゲルマニウム光電変換層39を形成した。P−Fペア濃度は5×1021/cm3である。P原子とF原子の濃度はSIMSにより確認している。
光電変換層39中にFT構造のP−Fペアが形成できているか否かは、P−Fペア固有の振動モードを調べることが有効であり、光電変換層の顕微分光により検出できる。P−Fペア形成を簡便にチェックする方法として、本実施形態に係る受光素子とは別に、高抵抗基板表面に光電変換層と同一組成のP−Fドープ領域及びP単独ドープ領域を作り、両者のシート抵抗またはキャリア濃度を比較する方法もある。P−Fペアが形成されると電荷補償が生じるため、PFドープ領域はP単独ドープ領域と比べて高抵抗化し、キャリア濃度は減少する。
PFドープゲルマニウムのバンドギャップは、結晶ゲルマニウムのそれとほぼ等しい。この受光素子にバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射して光電変換層のPFドープゲルマニウムを光励起すると、光電流が発生する。
図16には、本実施形態の受光素子に10GHzで変調された波長1550nmの光信号を入力したときの、出力光電流の応答特性を示す。図16からわかるように、入力光信号に対し、略同一波形の出力光電流が得られている。このように、本実施形態の受光素子によれば、結晶ゲルマニウムでは分光感度が低い波長1550nmの近赤外光に対して、高速の光検出が可能になる。
以上のように本実施形態によれば、ゲルマニウム光デバイスの光電変換層の長波長帯化を図る方法として、エネルギーバンドを変調するFT半導体は大変有効である。
次に、第7の実施形態の光デバイスについて説明する。
第7の実施形態の光デバイスとして、同一基板上に発光素子と、光デバイスと、これらを結ぶ導波路とが集積化された光素子アレイを例とする。この光素子アレイは、光信号を発信し、伝送し、受信することができる。
図17に示すように、シリコン基板81上に、発信用の端面発光型半導体レーザー素子(以下、LD素子)85及び受信用のゲルマニウム受光素子83が形成されている。これらの中間の領域に酸化膜82が形成され、その上に伝送用のSi導波路84が形成されている。
LD素子85と受光素子83は、ともに図18に示す構造のものを用いる。この受光素子は、シリコン{111}面基板1上に埋め込み酸化膜2が形成され、さらにイオン注入により、n+化されたn型シリコン層3が形成される。n型シリコン層3は、一部の領域が溝状に切り欠かれて露呈しており、その上にn電極8が形成される。
このn型シリコン層3上には、アルミニウムアンチモン突起構造71と(n層)ガリウムアンチモン(GaSb)層72からなるIII−V化合物半導体バッファ層と、(n層)インジウムガリウムアンチモン(InGaSb)層73と、光電変換層である歪ゲルマニウム層62が形成される。さらに光電変換層62の上層に、p+化されたp型シリコン層6及びp電極7が形成される。
LD素子85の活性層と受光素子83の光電変換層は両者とも歪ゲルマニウム層62である。LD素子85の歪ゲルマニウム層のバンド構造を変調して利得媒体に変換するため、基板面と平行な歪ゲルマニウム層の<111>軸方向の格子をより伸長させるよう、歪ゲルマニウム層と接するバッファ層にはGaSbよりも格子定数が大きいInGaSbが用いられている。この構成により、歪ゲルマニウム層62は波長2500nm付近で発光し、電流注入によるレーザー発振が可能になる。
LD素子85の発振波長と一致するように受光素子83の分光感度を長波長化するため、受光素子83にも同等なInGaSbバッファ層が用いられている。なお本実施形態において、受光素子83は、歪ゲルマニウム層のバンドギャップを狭めて、発振波長での光デバイスの分光感度を高めるために、LD素子に比べてバッファ層のIn組成を高めている。
図17に示す光素子アレイでは、n電極83a及びp電極83bを示している。このLD素子85に近接するように基板面内にトレンチを掘り、LD素子85の端面88を露呈している。受光素子83についてもn電極85a及びp電極85bを示している。
本実施形態において、LD素子85から受光素子83に向けて10GHzで変調された波長2500nmの光信号を入力すると、受光素子83において入力光信号に対して略同一波形の出力光電流が得られる。このことから、本実施形態の受光素子83によれば、結晶ゲルマニウムでは分光感度を示さない波長2500nmの近赤外光に対しても、高速・高感度な光検出が可能になる。
以上説明した実施形態においては、以下の特徴を有している。
(1)ゲルマニウム原子を主成分とする四面体結合される半導体を光電変換層に用いる光デバイスであり、基板格子定数がゲルマニウムよりも小さく、基板面方位が{111}面であり、基板面と垂直な<111>軸方向に光電変換層の半導体格子を伸長させる特徴を有する。
(2)上記光デバイスにおいて、基板面方位が{111}面と異なり、異方性エッチングにより{111}面を出し、この面上に光電変換層を形成することにより、<111>軸方向に光電変換層の半導体格子を伸長させる特徴を有する。
(3)上記光デバイスは、光電変換層がゲルマニウム突起構造からなり、同層にアモルファスシリコン膜を形成し、選択酸化することにより、ゲルマニウム突起構造を面内圧縮し、基板面と垂直方向にゲルマニウム突起構造の半導体格子を伸長させる特徴を有する。
(4)上記光デバイスにおいて、光電変換層の上方に、一部分、面内圧縮応力を生じる積層膜を形成することで、基板面と垂直方向に光電変換層の半導体格子を伸長させる特徴を有する。
(5)上記光デバイスにおいて、基板格子定数がゲルマニウムよりも大きく、基板面方位を(LMN)面とするとL+M+N=0であり、基板面と平行方向に<111>軸を含み、この<111>軸方向に光電変換層の半導体格子を伸長させる特徴を有する。
(6)実施形態に係る光デバイスは、ゲルマニウム原子を主成分とする四面体結合される半導体を光電変換層に用いる光デバイスであり、光電変換層を構成する四面体結合される半導体の格子点サイトのゲルマニウム原子を置換するn型ドーパントDまたはp型ドーパントAと、前記ドーパントに最近接の格子間サイトに挿入される異種原子Zを含み、異種原子Zはドーパントとの電荷補償により電子配置が閉殻構造となる特徴を有する。
また、本実施形態には、基板として、SOI(silicon on insulator)基板を用いたが、バルク基板を用いてもよい。