JP4872145B2 - 改質パルプ繊維及び改質セルロース粉末を用いた耐水紙および紙容器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、省資源や環境保護の面を重視した紙を構成するパルプ繊維やセルロース粉末の改質による優れた耐水紙および紙容器に関するもので、耐水性と紙力が要求される各種包装用紙、建装用紙、また保型性が必要な冷凍食品用やテイクアウト食品用紙トレイ、紙カップ、段ボールライナー及び中芯原紙、インスタント食品用紙容器、化粧紙、紙製育苗ポット等の用途に使用できる。
【0002】
【従来の技術】
近年、これまでの環境負荷型技術から環境保全への技術転換が世界中で巻き起こっている。その一つとして、有限な資源である石油由来のプラスチック材料から、天然再生資源であり無尽蔵にある木材セルロースが注目され、例えば、従来、発泡ポリスチレン等の合成樹脂を使用した容器に代わり、環境ホルモンの問題解決も兼ねて、紙容器へ移行し需要が増加してきている。
【0003】
また、製紙業界では故紙の再利用が活発に行われること、プラスチックに比べて燃焼熱が低いことから燃焼炉を傷めずにサーマルリサイクルによってエネルギーに変換が可能である等の理由からその需要はますます増加している。
【0004】
また、このよう状況で増加する紙ゴミは、CO2量削減による地球温暖化防止や2000年の紙容器を対象とした容器包装リサイクル法の施行の伴い、紙ゴミを回収し、原料として再利用することが望まれている。
【0005】
しかし、紙は、プラスチック材料に比べ劣る物性があり、中でも紙はセルロース繊維が水素結合したものである為、繊維間に容易に水が入り込み耐水性が低い課題がある。
【0006】
従来、耐水性や耐油性等の機能を紙に付与する方法としては、(1)紙を抄紙・抄造する際に、機能性を付与する薬剤をパルプ原料へ添加(内添)、或いは機能材料(繊維)の混抄、(2)抄紙、抄造された紙へ機能性薬剤の塗工、或いは含浸(外添)、(3)紙表面へポリエチレンやポリエチレンテレフタレート等のプラスチックフィルムのラミネート等の方法がある。
【0007】
しかし、耐水性や耐油性等の機能を紙に付与する方法は、一部、天然系のロジン、澱粉やその誘導体、アルギン酸等を除い殆ど全て石油由来の合成高分子系の内添剤や外添剤を使用する場合が多く、またプラスチックフィルムを使用する場合が多い。省資源や環境保護の面から改善が要望されている。また、近年、社会問題となっている環境ホルモン等人体への影響も懸念されている。またパルプモールド等の3次元成形体には、外添やラミネートの工程が効率的でないという欠点を有している。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものである。即ち、紙へ耐水性を付与する一般的な方法である従来の内添や外添(含浸)、塗工、貼り合わせ(ラミネート)等とは異なり、省資源や環境保護の面を重視した紙を構成するパルプ繊維を主体とした優れた耐水紙および紙容器を提供することを目的とする。
【0009】
【議題を解決するための手段】
本発明者等は上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、紙を構成する原料パルプ繊維を改質し、さらに酸化セルロース粉末を含むパルプ繊維に紙力増強剤を添加してなるパルプ繊維を主体とした原料を製紙することによって、本発明に至ったものである。
【0010】
【0011】
【0012】
【0013】
【0014】
【0015】
【0016】
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
請求項1に記載の発明は、
過ヨウ素酸或いは過ヨウ素酸塩を使用して、パルプ繊維の構成単位であるセルロース骨格におけるピラノース環の第2位と第3位のカルビノール基の少なくとも片方をケトン基、アルデヒド基、カルボキシル基のうち少なくとも1種に変換された改質パルプ繊維と、
過ヨウ素酸或いは過ヨウ素酸塩を使用して、セルロース粉末の構成単位であるセルロース骨格におけるピラノース環の第2位と第3位のカルビノール基の少なくとも片方をケトン基、アルデヒド基、カルボキシル基のうち少なくとも1種に変換された改質セルロース粉末とを含む耐水紙であって、
1級アミノ基、2級アミノ基、ヒドラジノ基、ヒドラゾノ基、アミジノ基、アミド基、水酸基の少なくとも1つを有した、カチオン性界面活性剤又は乳化剤で分散されたラテックスから選択される、水分散性の求核性基を含有する高分子の紙力増強剤が添加されている事を特徴とする耐水紙である。
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の耐水紙において、さらに改質されていない非改質パルプ繊維を含む事を特徴とする耐水紙である。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2記載の何れかの耐水紙において、改質パルプ繊維の叩解度が、カナダ標準ろ水度試験器で測定した値で表したとき、100から600csfの範囲の値を満たす事を特徴とする耐水紙である。
請求項4に記載の発明は、過ヨウ素酸或いは過ヨウ素酸塩を使用して、パルプ繊維の構成単位であるセルロース骨格におけるピラノース環の第2位と第3位のカルビノール基の少なくとも片方をケトン基、アルデヒド基、カルボキシル基のうち少なくとも1種に変換された改質パルプ繊維と、
過ヨウ素酸或いは過ヨウ素酸塩を使用して、セルロース粉末の構成単位であるセルロース骨格におけるピラノース環の第2位と第3位のカルビノール基の少なくとも片方をケトン基、アルデヒド基、カルボキシル基のうち少なくとも1種に変換された改質セルロース粉末とを含む耐水紙であって、
1級アミノ基、2級アミノ基、ヒドラジノ基、ヒドラゾノ基、アミジノ基、アミド基、水酸基の少なくとも1つを有した、カチオン性界面活性剤又は乳化剤で分散されたラテックスから選択される、水分散性の求核性基を含有する高分子の紙力増強剤が添加されている事を特徴とする紙容器である。
請求項5に記載の発明は、請求項4記載の紙容器において、さらに改質されていない非改質パルプ繊維を含む事を特徴とする紙容器である。
請求項6に記載の発明は、請求項4又は5記載の何れかの紙容器において、改質パルプ繊維の叩解度が、カナダ標準ろ水度試験器で測定した値で表したとき、100から600csfの範囲の値を満たす事を特徴とする紙容器である。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0028】
本発明に関わるパルプ繊維は、木材等の通常のパルプ原料、さらに具体的には、針葉樹又は広葉樹から得られる漂白又は未漂白の亜硫酸パルプ、クラフトパルプ、砕木パルプ、熱機械パルプ(TMP)、化学熱機械パルプ(CTMP)等から選ばれる1種類又は2種類以上を混ぜたものでも良い。特に限定されるものではない。
【0029】
本発明の改質パルプ繊維を、セルロース骨格におけるピラノース環の第2位と第3位のカルビノール基が、カルボニル基に変換されていない非改質パルプ繊維と混抄する場合は、前述の木材パルプの他に紙の剛性を考慮に入れながら、非木材繊維である麻類、綿(リンター)、わら、竹、ケナフ、バカス、シオグサ、エスパルト、楮、三椏、雁皮、ラミー等を用いても良い。
【0030】
本発明に関わるセルロース粉末は、リグニンやヘミセルロース等の不純物を殆ど含まないセルロース純度の高いもので、対象となるものは、前記各種木材、非木材パルプや微生物産生セルロース、バロニアセルロース、ホヤセルロースなどを高圧ホモジナイザーや凍結粉砕機、ミル等で粉砕した粉末状のもので、市販されている各種セルロース粉末や、酸加水分解処理した微結晶セルロース粉末である。
【0031】
この場合、粉末の大きさは40から300mesh位が適当であり、これ以上に微細化すると単離が困難になり、一部水溶性化して収率が悪い。レーヨンやテンセルなどの市販再生セルロースも含まれる。
【0032】
本発明に関わるパルプ繊維及びセルロース粉末を改質する目的の酸化剤は、パルプ中のセルロース骨格のピラノース環で第2位と第3位のカルビノール基を酸化する目的で使用されるもので、パルプの脱リグニンを目的とした漂白(晒し)で使用される酸化剤とは異なる。本発明における酸化剤は、パルプ中のセルロース骨格中の水酸基を選択的に酸化するものである。
【0033】
セルロース骨格の2位と3位のカルビノール基の選択的な酸化方法としては、過ヨウ素酸や過ヨウ素酸塩(過ヨウ素酸ナトリウムや過ヨウ素酸カリウムなど)、硝酸セリウム(IV)、四酢酸鉛、酢酸コバルト(II)と酸素の組み合せ、ヨウ素と酸化水銀(II)の組み合せ、硝酸銀とペルオキソ二硫酸カリウムの組み合せなどの酸化剤が挙げられる。このような酸化反応は、セルロース繊維中の非晶領域で反応が進行し易い事が一般的に知られている。
【0034】
しかし、過ヨウ素酸と過ヨウ素酸塩以外の酸化剤は、有機溶媒中で反応を行う必要があるか、また毒性が強く、実用的ではない。
【0035】
従って、本発明に関わる酸化剤は、上記の理由から、水中での酸化反応が可能で毒性の低い酸化剤として限定したものである。過ヨウ素酸塩としては、メタ過ヨウ素酸ナトリウムやメタ過ヨウ素酸カリウムが挙げられるが、水への溶解度が高い過ヨウ素酸ナトリウムが好適である。
【0036】
過ヨウ素酸酸化によるパルプやセルロースの反応では、セルロースのβ−1,4−グリコシド結合の切断などの副反応が起こり、過ヨウ素酸ナトリウムなどは光に対して不安定で分解するので、暗所のもと、室温以下の温度で操作するのが望ましい。
【0037】
また、アルカリ雰囲気下では特に、カルボニル基含有セルロースのβ−脱離による主鎖の切断やover−oxidationが起こるので、出来れば中性、若しくは酸性側で反応を行うことが望ましい。好ましくは、p.H.=3.0から7.0付近である。
【0038】
反応時の添加する過ヨウ素酸或いは過ヨウ素酸ナトリウムの量は、添加量が多く、酸化反応時間が長ければ、生成するカルボニル基量も多くなるが、副反応によるパルプ繊維の劣化も起こるので、所望する耐水性などの物性を考慮に入れて調整する。反応機構的には、パルプやセルロースのグルコース単位当たり等モルの過ヨウ素酸が理論上反応するが、グルコース単位当たり1.0mol量以上添加すると、生成物の水分散性が悪くなり、パルプ繊維間やセルロース分子間での凝集が起こってくると考えられる。
【0039】
また、酸化反応時間は、過ヨウ素酸、或いは過ヨウ素酸ナトリウムの添加量が少なければ影響は少ないが、添加量が、グルコース単位当たり0.6mol量以上あれば、酸化反応時間72時間位から、反応生成物の水分散性が低くなってくる。望ましくは、過ヨウ素酸、或いは過ヨウ素酸ナトリウムの添加量がグルコース単位当たり0.05から0.6mol量の添加量で、反応時間は24から65時間位が適当である。
【0040】
本発明に関わる改質パルプ繊維の叩解度については、パルプ繊維を過ヨウ素酸酸化する場合、叩解度が低ければ、パルプ表面積が大きく反応も多少均一に進行するが、叩解によって生じるパルプ表面上の毛羽立ち繊維(ミクロフィブリル)は、副反応によって切断され易く、叩解度は高くなってくる。改質パルプ繊維の叩解度が、カナダ標準ろ水度試験器で測定した値で表したとき、酸化反応で叩解度が高くなることを考慮に入れて、100から600csfの範囲の値を満たす事が望ましい。
【0041】
過ヨウ素酸、或いは過ヨウ素酸ナトリウムの添加量が多ければ、その傾向も大きくなる。従って、過ヨウ素酸酸化するパルプの叩解度は、過ヨウ素酸、或いは過ヨウ素酸塩の添加量と所望する耐水性などの物性を考慮に入れて調整するのが望ましい。
【0042】
パルプやセルロース粉末の過ヨウ素酸酸化が進むと、セルロース構造中の結晶領域は非晶化されて結晶化度が低下してくることがX線解析によって確認されており、また、その単体紙や混抄紙、特に単体紙の耐水性(低吸水率、高wet/dry)は向上してくる反面、紙本来の靭性が低下し透明性が発現されてくる。
【0043】
本発明に関わる酸化改質パルプ、或いは酸化改質セルロースの官能基の定量分析としては、北海道大学の渡辺らが紙パルプ技術協会誌(1956年発刊、10、524)に報告している定量方法が適当であり、具体的にはカルボニル基をセミカルバジッド塩酸塩法、カルボキシル基を酢酸カルシウム法、アルデヒド基を亜塩素酸ソーダ法で定量分析している。簡易的には、セミカルバジッド塩酸塩法だけで良い。
【0044】
本発明の耐水紙および紙容器は、原料パルプや混抄用のセルロース粉末の基本骨格であるセルロース分子中の第2位と第3位のカルビノール基を選択的に酸化することで高い電荷極性と疎水性を有するカルボニル基に変換し、その酸化改質パルプをそのまま、或いは非改質のパルプと混抄することで、脱水・乾燥後、紙中に強固な水素結合や疎水結合を生成させ、優れた耐水性を有する紙および紙容器を得ることができる。
【0045】
特に、セルロース骨格中の第2位と第3位の炭素間が開裂し、第2位と第3位のカルビノール基の両方、或いは片方がカルボニル基に変換された本発明のカルボニル基含有パルプやセルロースは、基本骨格であるセルロース分子の剛直なピラノース環が開環していることから、カルボニル基の高い電荷極性や疎水性(或いは反応性)等の特性が発現し易いと考えられる。
【0046】
このカルボニル基の特性が及ぼす紙への作用の理論的な解釈としては、東京大学の磯貝らが、パルプとアルキルケテンダイマー(AKD)との定着挙動について詳細な研究をされている。これによればセルロース分子鎖は親水性と疎水性の両面を有し、AKDはパルプ表面に定着後加水分解し、疎水性の高いケトンがパルプ表面上で均一な分布を形成し、パルプ(セルロース分子)とケトンは水素結合および疎水結合によって強固な定着が起こることを示唆しており、本発明の耐水紙もカルボニル基含有セルロース繊維と未改質セルロース繊維との間で類似の作用が起こっていると考えられる。
【0047】
以上のような本発明の耐水紙の概念は、これまでの紙への機能化方法である内添、外添(含浸)、塗工、貼り合せ(ラミネート)などとは異なる全く別の紙自体の改質という発想によるものである。
【0048】
従って、近年の環境保護・省資源の立場から推進される紙ゴミの再生利用の面でも、酸化度の低い改質パルプを使った本発明の耐水紙および紙容器は、故紙再生が可能である。
【0049】
また、本発明の耐水紙は、改質パルプ繊維又は改質セルロース粉末に含有するカルボニル基が、ケトン基、アルデヒド基、カルボキシル基のうち少なくとも1種からなる事を特徴とするものであり、セルロース骨格中のカルビノール基を酸化してカルボニル基に変換した酸化改質パルプ、或いは酸化改質セルロース粉末を主としているが、カルボニル基の中で特に高い電荷極性と反応活性を有するアルデヒド基が特に望ましい。
【0050】
過ヨウ素酸や過ヨウ素酸塩による酸化は、セルロースの構成単位であるグルコース基の第2位、第3位の炭素間の結合が選択的に酸化開裂し、ジアルデヒド基を生成させる反応であり、均一反応系ではその傾向が強いが、パルプ、或いはセルロースへの酸化は不均一反応であり、且つ結晶構造も有している為、結晶領域では剛直なピラノース環は開裂し難く第2位、第3位の水酸基は一部ケトンになったり様々な副反応が起こるが、副反応を抑制する反応条件下、即ち暗所で室温以下の温度、望ましくは5℃近辺の反応温度で、且つパルプ、或いはセルロースの結晶化度を下げれば、アルデヒド基量も増大する。
【0051】
この主に過ヨウ素酸や過ヨウ素酸塩によって酸化された酸化改質パルプ或いは酸化改質セルロースは、酸化度にも影響するが、水への分散状態はパルプ原料やセルロースとほぼ同様である。
即ち、従来の紙への機能性付与、具体的には内添、外添、塗工、貼り合せ等の方法とは異なる、紙自体の改質による機能性付与と言える。電荷極性の高いカルボニルや疎水性の高いケトン基を有しているため、強固な水素結合と疎水結合を形成し、通常の紙よりも繊維間強度が高い。
【0052】
本発明の耐水紙の製造法としては、従来の製紙工程で製造できる。即ち、カルボニル基含有パルプ繊維単体、或いはそれと非改質のパルプとの混合物、又はカルボニル基含有セルロースと非改質のパルプとの混合物の水分散スラリー、或いはそれらにカルボニル基に対して求核性の官能基を有した水溶性高分子、或いは水溶性機能性化合物からなる紙力増強剤を内添し定着させ、抄紙・抄造、プレス工程、乾燥工程を経て作製できる。紙の坪量は、特に制限はないが、30から200g/m2位の紙から、600g/m2位の厚紙でも可能であると考えられる。
また、本発明の耐水紙で紙容器を作製する場合には、従来公知の方法が可能であり、例えば、プランジャー型製函機で打ち抜き4隅を貼り合せる組み立て成形法や、専用のトレー成形機で熱圧押付成形できるプレス式成形法などが可能である。また或いは、カルボニル基含有パルプ繊維単体、或いはそれと非改質のパルプとの混合物、又はカルボニル基含有セルロースと非改質のパルプとの混合物の水分散スラリー、或いはそれらにカルボニル基に対して求核性の官能基を有した水溶性高分子、或いは水溶性機能性化合物からなる紙力増強剤を内添し定着させ、従来法の湿式のパルプモールド成形手法によりパルプモールド成形することで、後工程なく紙容器を作製することが可能である。
【0053】
本発明の耐水紙および紙容器において、紙力増強剤が添加されていることが特徴であり、本発明で用いられるとして、後に詳細に列挙するが、水溶性あるいは水分散性の求核性基を含有する高分子または/および低分子化合物からなる紙力増強剤である。
【0054】
酸化改質パルプ、或いは酸化改質セルロースのカルボニル基がアルデヒドやケトンの場合、カルボニル炭素は求核攻撃を受けやすく、各種含窒素官能基、例えば1級、或いは2級アミノ基、ヒドラジノ基、ヒドラゾノ基、又はその無機/有機酸塩と付加縮合反応し、水酸基やメルカプト基とは付加反応することが知られている。また、カルボニル基がカルボン酸の場合は、前述の求核性の官能基と求核置換反応することが知られている。
【0055】
本発明の耐水紙および紙容器は、以上のような、カルボニル基含有の酸化改質パルプと酸化改質セルロースを含んだ紙を基本として、さらにそのパルプスラリー中に求核性基を有した水溶性高分子や機能性化合物からなる紙力増強剤を添加し抄紙、或いはパルプモールド成形することで、乾燥工程中に紙中で強固な結合を形成させ、紙力や耐水性、保形性の向上効果を奏する。
【0056】
また、本発明に関わる酸化改質パルプ、或いは酸化改質セルロースは、ピラノース環中で、ジアルデヒド澱粉と同様に、主に第2位、第3位の位置にカルボニル基が導入されることによりグルコシド結合が加水分解をし易くなり、特にアルカリ条件下ではβ−脱離により主鎖が切断し易く、アルカリ雰囲気下での離解にも問題がない。
【0057】
従って、通常のパルプにポリアクリルアミド−エピクロルヒドリン樹脂やポリアミン−エピクロルヒドリン樹脂を内添した湿潤紙力増強紙で問題となる古紙の再生処理時の離解性の低さも、本発明の改質パルプ繊維、或いは改質セルロース粉末と上記の紙力増強剤との組み合わせでは、離解性の低さは解決される。
【0058】
カルボニル基に対して、求核性の官能基を有した水溶性の高分子としては、(1)1級、或いは2級アミノ基を有するモノマーの単独または共重合体、(2)アミド基を有するモノマーの単独または共重合体とそれらの変性高分子、(3)ポリエチレンイミン類、及びその誘導体、(4)尿素−ホルムアルデヒド樹脂類、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂類、(5)アミン類と2官能基以上有する化合物との付加重合体、或いは縮重合体、(6)ヒドラジノ基、或いはヒドラゾノ基、アミジノ基を側鎖に有した高分子、(7)水酸基、或いはメルカプト基を側鎖に有した高分子、(8)キトサン、及びその誘導体である。さらに、具体的には、(1)は、アリルアミン、メタアリルアミンのような1級アミノ類やメチルアリルアミン、エチルアリルアミンのような2級アミン類の単独重合体で、遊離アミン型、或いは塩酸、硫酸、燐酸、ギ酸、酢酸のような無機または有機酸の塩型でも良い。また、共重合させるモノマーとしては、アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドのようなアクリルアミド類、及び(メタ)アクリルアミド類や、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミドのようなN−ビニルアミド類、(メタ)アクリル酸メチル等のような(メタ)アクリル酸エステル類、その他は、アクロレイン類、(メタ)アクリロニトリル類、スチレン類、酢酸ビニル類などが例示できる。また、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等のような不飽和カルボン酸類、スチレンスルホン酸等の不飽和スルホン酸でこれらのナトリウム塩やカリウム塩のようなアルカリ金属塩およびアンモニウム塩でも構わない。(2)は、前述の各種アミド基含有モノマーの重合体の他に、アミド基をホフマン分解しアミノ基に変換したり、マンニッヒ反応によってアミノアルキルアミド基に変換したり、加水分解によりアミノ基に変換した変性重合体でも良い。
(3)は公知の方法で重合した分岐状、或いは線状ポリエチレンイミン類であり、(4)も、公知の方法で重合したもの、(5)はアルキレンジハロライド類とアルキレンポリアミン類との重縮合体であるポリアルキルポリアミン類やアルキレンジアミン類とエピハロヒドリン類またはα、γ‐ジハロ‐β‐ヒドリン類との反応によって得られるポリアミンエピハロヒドリン樹脂類や、アルキレンジアミン類とジカルボン酸類との反応によって得られるポリアミド樹脂類とこれにエピハロヒドリン類またはα、γ‐ジハロ‐β‐ヒドリン類との反応によって得られるポリアミドエポキシ樹脂類であり、(6)はアクリル酸エステル類や(メタ)アクリル酸エステル類の単独、或いは共重合体又は(2)のポリアミド類にヒドラジンやヒドラジンヒドラートを反応させてカルボン酸ヒドラジノ基を導入したもの、及びそれらをヒドラゾノ基に変換した高分子が挙げられる。(7)は酢酸ビニルを代表的に出発原料とするポリビニルアルコールやアクリル酸等を共重合させたもの高分子が挙げられる。メルカプト基は悪臭があるので余り適当ではない。(8)は、エビや蟹などの外殻の基本成分であるキチンを濃アルカリで加水分解したキトサンやその誘導体の希酸水溶液が挙げられる。
【0059】
酸化改質パルプ、及び酸化改質セルロースのカルボニル基に対して求核性の官能基を有した水分散性の高分子としては、求核性基、具体的には1級、2級アミノ基、ヒドラジノ基、ヒドラゾノ基、アミジノ基、或いはこれらの塩、アミド基、水酸基、メルカプト基等を有したカチオン性、或いはノニオン性のラテックス類、或いは前述の求核性基を有したカチオン性、ノニオン性の界面活性剤や乳化剤で分散されたラテックス類が挙げられる。ラテックス樹脂としては、スチレン・ブジエン系、アクリロニトリル・ブタジエン系、ポリブタジエン系、アクリレート系、塩化ビニル系等が例示できる。
【0060】
酸化改質パルプ、及び酸化改質セルロースのカルボニル基に対して求核性の官能基を有した水溶性の機能性化合物としては、前述の1級、或いは2級アミノ基又はヒドラジノ基、メチロール基を少なくとも1つ持つ活性ビニル基や不飽和結合を有した化合物や、或いは1級、或いは2級アミノ基又はヒドラジノ基、メチロール基を少なくとも1つ持つシランカップリング剤などが考えられる。前者の場合には、内添抄紙後に触媒によるラジカル重合、UV重合、EB重合、プラズマ重合などで架橋させることが可能であり、後者は、抄紙時の乾燥工程で脱水縮合しシロキサン結合を形成させることが可能である。また、抄紙前に酸化改質パルプにハイブリッド化された1級、或いは2級アミノ基又はヒドラジノ基、メチロール基含有シランカップリング剤に対して、他のシランカップリングを加えて、ゾル・ゲル反応によりある程度縮合させたものを抄紙しても構わない。1級、或いは2級アミノ基含有シランカップリング剤としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシランなどが例示でき、抄紙前にゾル・ゲル反応により縮合させるシランカップリング剤は特に限定されず、アルコキシシリル基を有するものであれば良い。
【0061】
また、前記のカルボニル基に対して求核性の官能基を有した高分子や機能性化合物を内添する際に、それらがカチオン性のものであれば定着性が良いが、ノニオン性またはアニオン性の場合には、硫酸バンドなどの定着剤を併用しても構わない。
【0062】
このように、本発明の耐水紙および紙容器は、従来の機能化薬剤の内添、外添、塗工またはプラスチックフィルムのラミネート等の方法ではなく、ベース基材である紙自体を改質することにより耐水性を付与したものである。さらに、それらの酸化改質パルプ、或いは酸化改質セルロースを含む水分散パルプスラリーに、従来の湿潤強化剤などの求核性を有する水溶性高分子や水溶性機能性化合物を内添することで、その複合効果により、一層優れた耐水性を付与したものである。また、今後さらに活発化が予想される故紙再生利用においてもアルカリ再生処理が容易である特徴を有する。
【0063】
【実施例】
次に本発明の製造例を含む参考例に基づきさらに具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0064】
<適用例1>
原料パルプは、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)抄紙用原料を、JIS−P8209『パルプ試験用手漉き紙調整方法』に準拠して離解し、JIS−P8121『パルプのろ水度試験方法』に準拠したカナダ標準ろ水度試験方法で100csfの叩解度のものを水で希釈して、1.0wt%濃度のパルプスラリーを調整した。
【0065】
<適用例2>
適用例1で叩解度が350csfである以外、適用例1と同様のNBKPパルプスラリー。
これらを使用して、以下に示す製造例、参考例、比較例で各内添紙および紙容器を作製した。
【0066】
<製造例1>
前記適用例1で、調整したNBKP(N.V.=1.0wt%、叩解度=100csf)水分散スラリー6L(絶乾パルプ量=60g)に対して、過ヨウ素酸ナトリウムをパルプ中のグルコース単位(分子量=162)当たり0.2mol量に当たる約16gを添加し、冷暗所中、攪拌機にて攪拌し酸化反応を行い、24時間後、48時間後、72時間後の改質パルプを各々取り出し、エチレングリコールを数ml加えて未反応の過ヨウ素酸ナトリウムを分解後、メタノールを同容量加えて、微少な酸化改質パルプを再沈させて、約200meshの金網で濾過し、十分に水洗後、約1.0wt%の酸化改質パルプ水分散スラリーを得た。
【0067】
<製造例2>
同じくNBKP(N.V.=1.0wt%、叩解度=100csf)水分散スラリ−6L(絶乾パルプ量=60g)に対して、過ヨウ素酸ナトリウムをパルプ中のグルコース単位(分子量=162)当たり0.6mol量に当たる約48gを添加し、冷暗所中、攪拌機にて攪拌し酸化反応を行い、24時間後、48時間後、72時間後の酸化改質パルプを各々取り出し、エチレングリコールを数ml加えて未反応の過ヨウ素酸ナトリウムを分解後、メタノールを同容量加えて、微少な改質パルプを再沈させて、約200meshの金網で濾過し、十分に水洗後、約1.0wt%の酸化改質パルプ水分散スラリーを得た。
【0068】
<製造例3>
同じくNBKP(N.V.=1.0wt%、叩解度=100csf)水分散スラリ−6L(絶乾パルプ量=60g)に対して、過ヨウ素酸ナトリウムをパルプ中のグルコース単位(分子量=162)当たり1.3mol量に当たる約104gを添加し、冷暗所中、攪拌機にて攪拌し酸化反応を行い、24時間後、48時間後、72時間後の酸化改質パルプを各々取り出し、エチレングリコールを数ml加えて未反応の過ヨウ素酸ナトリウムを分解後、メタノールを同容量加えて、微少な酸化改質パルプを再沈させて、約200meshの金網で濾過し、十分に水洗後、約1.0wt%の改質パルプ水分散スラリーを得た。しかし、48時間後と72時間後の酸化改質パルプは、水分散性が悪く、顕微鏡観察した所、酸化改質パルプ繊維同志の凝集が起こっていた。
【0069】
<製造例4>
次に、パルプ原料ではなく、セルロース粉末の酸化改質を行った。セルロース粉末としては、市販の200から300meshのセルロース粉末(商品名;ToyoRoshi―B、アドバンテック東洋(株)製)の水分散液(N.V.=2.0wt%)500mlに対して、過ヨウ素酸ナトリウムをセルロース中のグルコース単位(分子量=162)当たり1.3mol量に当たる約17.15gを添加し、冷暗所中、攪拌機にて攪拌し酸化反応を行い、65時間後の酸化改質セルロースを取り出し、エチレングリコールを数ml加えて未反応の過ヨウ素酸ナトリウムを分解後、メタノールを同容量加えて、微少な酸化改質セルロースを再沈させて、ろ紙上で吸引濾過し、十分に水洗後、約1.0wt%の酸化改質セルロース水分散スラリーを得た。
【0070】
次に、前記製造した本発明に関わる酸化改質パルプ、及び酸化改質セルロースを利用した本発明の紙力増強耐水紙の参考例を示すが、これらは、本発明を限定するものではない。
【0071】
<参考例1>
製造例1で調整した本発明に関わる酸化改質パルプスラリーの24時間、48時間、72時間反応試料をそのまま、標準型手漉き角型抄紙機で、坪量約80g/m2の酸化改質パルプ紙を抄紙し、脱水プレス(3.43×105Pa)を5分間行い、ヤンキードライヤー(表面温度=約120℃)で乾燥させ酸化改質パルプ紙を作製した。
【0072】
<参考例2>
製造例2で調整した本発明に関わる酸化改質パルプスラリーの24時間、48時間、72時間反応試料をそのまま、参考例1と同様の手順により酸化改質パルプ紙を作製した。
【0073】
<参考例3>
製造例3で調整した本発明に関わる酸化改質パルプスラリーの24時間反応試料でそのまま、参考例1と同様の手順により酸化改質パルプ紙を作製した。
【0074】
<参考例4>
製造例1で調整した本発明に関わる酸化改質パルプスラリーの48時間反応試料と適用例1で調整した非改質のNBKP(N.V.=1.0wt%、叩解度=100csf)水分散スラリ−を固形分混合比率=1:1で混ぜ合わせ、参考例1と同様の手順により酸化改質パルプ混抄紙を作製した。
【0075】
<参考例5>
製造例2で調整した本発明に関わる酸化改質パルプスラリーの48時間反応試料と適用例の非改質1のNBKP(N.V.=1.0wt%、叩解度=100csf)水分散スラリ−を固形分混合比率=1:1で混ぜ合わせ、参考例1と同様の手順により酸化改質パルプ混抄紙を作製した。
【0076】
<参考例6>
製造例4で調整した本発明に関わる酸化改質セルローススラリーの65時間反応試料と適用例1の非改質のNBKP(N.V.=1.0wt%、叩解度=100csf)水分散スラリ−を固形分混合比率=1:2で混ぜ合わせ、参考例1と同様の手順により酸化改質セルロース混抄紙を作製した。
【0077】
<参考例7>
製造例1で調整した本発明に関わる酸化改質パルプスラリーの48時間反応試料に、市販のポリアクリルアミド(分子量=約500万)のN.V.=1.0wt%水溶液を対絶乾改質パルプ重量比で5wt%混合し5分間攪拌定着後、参考例1と同様の手順により酸化改質パルプ混抄紙を作製した。
【0078】
<参考例8>
製造例1で調整した本発明に関わる酸化改質パルプスラリーの48時間反応試料に、市販の湿潤紙力剤であるポリアミド−エピクロルヒドリン樹脂のN.V.=1.0wt%水溶液を対絶乾改質パルプ重量比で5wt%混合し5分間攪拌定着後、参考例1と同様の手順により酸化改質パルプ混抄紙を作製した。
【0079】
<参考例9>
製造例1で調整した本発明に関わる酸化改質パルプスラリーの48時間反応試料に、市販のポリエチレンイミン(分子量=約200万)の水溶液を対絶乾改質パルプ重量比で5wt%混合し5分間攪拌定着後、参考例1と同様の手順により酸化改質パルプ混抄紙を作製した。
【0080】
<参考例10>
製造例1で調整した本発明に関わる酸化改質パルプスラリーの48時間反応試料に、市販のポリアルキレンポリアミン(分子量=約2万)のN.V.=1.0wt%水溶液を対絶乾改質パルプ重量比で5wt%混合し5分間攪拌定着後、参考例1と同様の手順により酸化改質パルプ混抄紙を作製した。
【0081】
<参考例11>
製造例1で調整した本発明に関わる酸化改質パルプスラリーの48時間反応試料に、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(商品名;S330、チッソ(株)製)を酸化改質パルプのグルコース単位当たりで0.5当量を加え加熱反応させて、続いて2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(商品名;S530、チッソ(株)製)もS330と同当量と0.1N塩酸10molを混合し約15分間攪拌した。そのシランカップリング剤含有酸化改質パルプスラリーを、参考例1と同様の手順によりシランカップリング剤複合化酸化改質パルプ紙を作製した。
【0082】
<比較例1>
適用例2で調整した非改質のNBKP(N.V.=1.0wt%、叩解度=350csf)水分散スラリ−をそのまま、参考例1と同様の手順によりNBKP原紙を作製した。
【0083】
<比較例2>(市販による湿潤強化紙)
適用例2で調整した非改質のNBKP(N.V.=1.0wt%、叩解度=350csf)水分散スラリ−に、市販の湿潤紙力剤であるポリアミド−エピクロルヒドリン樹脂のN.V.=1.0wt%水溶液を対絶乾パルプ重量比でN.V.=1.0wt%混合し5分間攪拌定着後、参考例1と同様の手順により湿潤紙力増強紙を作製した。
【0084】
<分析例1>
製造例2でパルプの酸化反応を行った際の過ヨウ素酸ナトリウムの消費量を過ヨウ素酸ナトリウムの特性吸収域におけるUV吸光度の測定により求めた結果を示す(図1参照)。また、過ヨウ素酸ナトリウムの消費量を求める際には、あらかじめ検量線を作成した(図2参照)。酸化改質パルプスラリーのカルボニル基量をセミカルバジッド塩酸塩法により、定量分析を行った。その結果を図3に示す。
【0085】
これらの図から、図1の過ヨウ素酸イオン消費量に対して、図3のカルボニル基生成量が半分以下の原因としては、過ヨウ素酸ナトリウムの自然分解や酸化改質パルプ繊維の生成後、200meshの金網で濾過した際に微少な高酸化改質パルプが流出したことが考えられる他、パルプのミクロフィブリルでの副反応が起こっていると考えられる。
【0086】
各種改質パルプ紙は、各物性評価を行う前に、JIS―P8111に基づいて、20℃−65%RH環境下で24時間以上の調湿を行った。
【0087】
<試験例1>
各種改質パルプ紙の耐水性を評価する目的として、吸水率を測定した。測定方法は、各種改質パルプ紙を50×50mmの形状に裁断し、蒸留水へ1時間浸水させ、浸水前の重量と浸水後の重量差により、吸水率(含水重量率)を算出した。
その結果を表1に示す。
なお、吸水率(%)=[(浸水後の重量(g)―浸水前の重量(g))/浸水前の重量(g)]×100である。
【0088】
【表1】
【0089】
前記表1の結果より、本発明の参考例の紙力増強耐水紙は、比較例1の原紙や比較例2の市販湿潤紙力剤による内添紙に比べて非常に低い吸水率であることが判った。
【0090】
<試験例2>
次に、各種改質パルプを、JIS−8113に基づいて、オートグラフ(島津製作所(株)製、島津オートグラフAG−500A)を使用して、乾燥状態(20℃−65%RH)と湿潤状態(試験片を蒸留水中へ1時間浸水)における各々の破断強度を測定して、湿潤破断強度/乾燥破断強度(wet/dry)を算出し、耐水性を評価した。また、各測定サンプルの厚さを測定し、乾燥応力と湿潤応力を求めた。その結果を表2に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
上記、表2の結果から、本発明の参考例の耐水紙は、比較例1の原紙や比較例2の市販湿潤紙力剤による内添紙に比べて、非常高いwet/dryであることが判った。
また、紙断面積当たりの紙力である湿潤応力は、市販湿潤紙力剤による内添紙に優るものであり、且つ、市販湿潤紙力剤の課題である乾燥応力も、本発明の紙力増強耐水紙の各種カチオン性水溶性高分子を併用したものは、著しく向上していることが判った。
【0093】
さらに、前記製造した本発明に関わる酸化改質パルプ、及び酸化改質セルロースを利用した本発明の耐水性紙容器の参考例を示すが、これらは、本発明を限定するものではなく、前記本発明の紙力増強耐水紙より容器成形しても構わない。
【0094】
<参考例12>
製造例1で調整した本発明に関わる酸化改質パルプスラリーの48時間反応試料に、市販のポリアクリルアミド(分子量=約500万)のN.V.=1.0wt%水溶液を対絶乾改質パルプ重量比で5wt%混合し5分間攪拌定着後、湿式のパルプモールド成形機により、重量15gの紙容器を作製した。
【0095】
<参考例13>
製造例1で調整した本発明に関わる酸化改質パルプスラリーの48時間反応試料に、市販の湿潤紙力剤であるポリアミド−エピクロルヒドリン樹脂のN.V.=1.0wt%水溶液を対絶乾改質パルプ重量比で5wt%混合し5分間攪拌定着後、湿式のパルプモールド成形機により、重量15gの紙容器を作製した。
【0096】
<比較例3>
適用例2で調整した非改質のNBKP(N.V.=1.0wt%、叩解度=350csf)水分散スラリ−をそのまま、湿式のパルプモールド成形機により、重量15gの紙容器を作製した。
【0097】
<比較例4>
適用例2で調整した非改質のNBKP(N.V.=1.0wt% 、叩解度=350csf)水分散スラリ−に、市販の湿潤紙力剤であるポリアミド−エピクロルヒドリン樹脂のN.V.=1.0wt%水溶液を対絶乾パルプ重量比でN.V.=1.0wt%混合し5分間攪拌定着後、湿式のパルプモールド成形機により、重量15gの紙容器を作製した。
【0098】
上記パルプモールド成形した紙容器は、物性評価を行う前に、JIS−P8111に基づいて、20℃−65%RH環境下で24時間以上の調湿を行った。
【0099】
〈試験例3〉
参考例12、13および比較例3、4の紙容器の容器としての耐水強度を求めるため以下に記す試験を実施した。すなわち、先ず、オートグラフ(島津製作所社製 島津オートグラフAG−500A)を用いて、乾燥状態(20°C−65%RH)における定速圧縮試験による座屈時の荷重を測定した。さらに80℃熱水を紙容器に満たし、30分経過後、熱水を捨てて、直ちに同様の定速圧縮試験を行い、湿潤状態での座屈時の荷重を測定した。結果を表3に示す。
【0100】
【表3】
【0101】
上記、表3の結果から、本発明の参考例の紙容器は、比較例3の未添加パルプからなる紙容器や比較例4の紙力増強剤内添パルプよりなる紙容器に比べて、湿潤時の強度が極めて高く、特に容器の保形性に優れることが判った。
【0102】
<試験例4>
次に、参考例1から11の抄紙したシート、および参考例12,13のパルプモールド成形した紙容器1gを標準離解機に入れ、水酸化ナトリウムの0.5wt%水溶液1.5Lを加えて20分間離解した所、いずれもほぼ完全に離解されていた。
【0103】
以上のように、本発明の酸化改質パルプをベース材料にした新規の耐水紙および紙容器は、優れた耐水性(低吸水率、高wet/dry)を有し、且つ従来の湿潤紙力増強紙の課題であつた乾燥強度不足も、併用する紙力増強剤により著しく向上することが判った。また、湿潤紙力増強紙のもう一つの課題であった故紙再生処理時の離解性の低さも、これまでの解決策であったジアルデヒド澱粉の特性をベース材料の紙自体に付与する発想から解決することができる。
【0104】
【発明の効果】
本発明により、パルプ繊維又はセルロース粉末の構成単位であるセルロース骨格におけるカルビノール基を酸化してカルボニル基に変換した改質パルプ繊維或いは改質セルロース粉末が得られる。その改質酸化セルロース粉末と改質パルプ繊維に紙力増強剤を添加してなる原料に、さらに非改質のパルプ繊維を含むパルプ繊維を主体とした紙を構成する原料を製紙、或いはパルプモールド成形することによって、従来の紙および紙容器への内添、外添(含浸)、塗工、貼り合せ(ラミネート)等の方法による耐水性の改良とは全く異なる、優れた耐水紙および紙容器を提供できる。
【0105】
具体的には、パルプ繊維やセルロース粉末中のカルビノール基を酸化して、カルボニル基(ケトン基、アルデヒド基、カルボキシル基)に変換したことによる、高い電荷極性と疎水性から、強固な水素結合と疎水結合を形成し、通常の紙よりも高い繊維間結合が生じ、従来の湿潤強化紙以上の耐水性を付与し、容器としても高い耐水強度が得られる。
【0106】
また、従来の紙および紙容器への内添、外添(含浸)、塗工、貼り合せ(ラミネート)等の方法による耐水性の改良とは全く異なり、故紙再生処理も可能であり、自然界のサイクルに沿った省資源、環境保全に対応した耐水紙および紙容器を提供できる。
【0107】
従って、本発明の耐水紙および紙容器は、耐水性と紙力、保形性が要求される各種紙および紙容器用途に好適であり、用途としては、各種包装用紙、建装用紙、また冷凍食品用やテイクアウト食品用紙トレイ、紙カップ、段ボールライナー及び中芯原紙、インスタント食品用紙容器、化粧紙、紙製育苗ポット等に広く使用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 製造例2におけるパルプの酸化反応を行った際の過ヨウ素酸ナトリウムの消費量を示した図。
【図2】 過ヨウ素酸ナトリウムの消費量を求めるための検量線を示した図。
【図3】 製造例2におけるパルプの酸化反応を行った際のカルボニル基の生成量を示した図。
Claims (6)
- 過ヨウ素酸或いは過ヨウ素酸塩を使用して、パルプ繊維の構成単位であるセルロース骨格におけるピラノース環の第2位と第3位のカルビノール基の少なくとも片方のみをケトン基、アルデヒド基、カルボキシル基のうち少なくとも1種に変換された改質パルプ繊維と、
過ヨウ素酸或いは過ヨウ素酸塩を使用して、セルロース粉末の構成単位であるセルロース骨格におけるピラノース環の第2位と第3位のカルビノール基の少なくとも片方のみをケトン基、アルデヒド基、カルボキシル基のうち少なくとも1種に変換された改質セルロース粉末とを含む耐水紙であって、
1級アミノ基、2級アミノ基、ヒドラジノ基、ヒドラゾノ基、アミジノ基、アミド基、水酸基の少なくとも1つを有した、カチオン性界面活性剤又は乳化剤で分散されたラテックスから選択される、水分散性の求核性基を含有する高分子の紙力増強剤が添加されている事を特徴とする耐水紙。 - 請求項1記載の耐水紙において、さらに改質されていない非改質パルプ繊維を含む事を特徴とする耐水紙。
- 請求項1又は2記載の何れかの耐水紙において、改質パルプ繊維の叩解度が、カナダ標準ろ水度試験器で測定した値で表したとき、100から600csfの範囲の値を満たす事を特徴とする耐水紙。
- 過ヨウ素酸或いは過ヨウ素酸塩を使用して、パルプ繊維の構成単位であるセルロース骨格におけるピラノース環の第2位と第3位のカルビノール基の少なくとも片方のみをケトン基、アルデヒド基、カルボキシル基のうち少なくとも1種に変換された改質パルプ繊維と、
過ヨウ素酸或いは過ヨウ素酸塩を使用して、セルロース粉末の構成単位であるセルロース骨格におけるピラノース環の第2位と第3位のカルビノール基の少なくとも片方のみをケトン基、アルデヒド基、カルボキシル基のうち少なくとも1種に変換された改質セルロース粉末とを含む耐水紙であって、
1級アミノ基、2級アミノ基、ヒドラジノ基、ヒドラゾノ基、アミジノ基、アミド基、水酸基の少なくとも1つを有した、カチオン性界面活性剤又は乳化剤で分散されたラテックスから選択される、水分散性の求核性基を含有する高分子の紙力増強剤が添加されている事を特徴とする紙容器。 - 請求項4記載の紙容器において、さらに改質されていない非改質パルプ繊維を含む事を特徴とする紙容器。
- 請求項4又は5記載の何れかの紙容器において、改質パルプ繊維の叩解度が、カナダ標準ろ水度試験器で測定した値で表したとき、100から600csfの範囲の値を満たす事を特徴とする紙容器。
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