JP4868394B2 - ガス拡散電極とその製造方法、及び当該ガス拡散電極を用いる燃料電池及び食塩電解セル - Google Patents
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Description
燃料電池は化学エネルギーを電気エネルギーに変換可能なクリーンかつ高効率な発電システムである。水素や有機炭素原料の酸化反応と、空気中の酸素還元反応を組み合わせることにより、その起電力から電気エネルギーを得るものであり、特に低温型1960年代の宇宙用電池としての実用化で注目された後、最近、燃料電池自動車、小型可搬電源、家庭用電源として再び注目されている。最近の技術進展に関しては、「燃料電池技術とその応用」(テクノシステム社(2001))、「電極触媒科学の新展開」(北海道大学図書刊行会(2001))などの書籍に詳しい。
アノード酸化反応:
水素原料:H2 → 2H+ + 2e (0.00V) (1)
メタノール原料:CH3OH + H2O → 6H+ + CO2 (0.04V) (2)
カソード還元反応:
酸素原料:4H+ + O2 + 4e → 2H2O (1.23V) (3)
原料は水素、メタノールが汎用されるが、エタノール、エチレングリコールなどの他の有機物質も利用可能である。
水素酸化、メタノール酸化のアノード触媒、及び、酸素還元のカソード触媒として、白金などの貴金属が一般的に使用される。水素アノード触媒では、原料水素に含まれるCOなどの吸着物質が触媒特性に影響を与えるため、各種除去装置により原料中の混入率は10ppm以下に制御されている。メタノール燃焼電池では、反応過程においてメタノール酸化で生じるCOなどの吸着による性能劣化が生じる。また、COが存在しない場合でも、長時間の使用により、触媒金属のシンタリングが進行し、性能が劣化することが報告されている。
白金などの単体触媒ではこのような欠点があるため、2元系、多元系の触媒が開発され、優れた特性を発揮することが古くから報告されている。
代表的な組成としてPt-Ru合金触媒がCO耐性に優れていることはよく知られており、2〜3nmの粒子サイズを有するPt-Ru触媒をカーボン上に分散させた場合に、合金化によるCO耐性向上が確認されている。その原因としては、2元化として添加された触媒に吸着した酸素種が、主触媒である白金表面の吸着種COと反応して、CO2となる反応を促進する機構(Bifunctional mechanism)の発現や、過電圧の小さいCO2が生成し得ない電位(或いはCOが除去されない電位)においても合金効果が生じることから、合金化により表面電子エネルギーレベルが変化し、COとの結合を弱めるように作用する機構(Intrinsic mechanism)などが提案されている(参考:J. Applied Electrochem. 31, 325-334 (2001))。
合金触媒及びその製法について、これまでに多くの特許技術が開示されている。
米国特許3428490号明細書には、金属合金を冶金的に製作し、これを酸洗浄して合金化しない金属を溶解することで3次元的に面積の大きい触媒を作製できることが開示されている。
特開平5-047389号公報にも合金化の技術が開示されている。特開平6-246161号公報には酸素を微量添加した不活性雰囲気での焼成方法が開示されている。特開平10-069914号公報には合金化としての熱処理技術が開示されている。
金属(合金含む)超微粉末を製造する方法として、気相化学反応法、液相還元析出法などが一般的である。前者では金属化合物を気化し、不活性雰囲気での熱分解法や、水素ガスによる気相還元法が主流となっている。
酸化物を用いるガス拡散電極についても、多くの公知文献がある。
特開2003-380985号公報及び特開2004-89734号公報、及び特開2003-384272号公報には、いずれも酸素還元反応用で、耐腐食性の高い導電性金属酸化物を用いた触媒金属担体に触媒金属が担持されてなる金属担持触媒を含有する触媒層を有することを特徴とする高分子型燃料電池用触媒担持電極が開示されている。しかしながら触媒が酸化物であることは開示されていない。
特開2004-151927号公報には、逆ミセル溶液に触媒成分を溶解して平均粒子径が1〜10nmの金属粒子を得て、これを導電性カーボン粒子に担持させることが開示されている。熱処理によって貴金属の結晶成長を促進し、または遷移金属を貴金属に固溶して合金化する工程を含むため、導電性カーボン粒子の表面に貴金属粒子や貴金属合金粒子が担持された電極触媒を簡便に得ることができる。該方法は、金属粒子を酸化処理する工程を更に含ませることも容易であり、貴金属粒子や貴金属合金粒子の表面に酸化物皮膜を形成した電極触媒とすることもできる。しかしながら、これもカーボン担体を使用することが前提である。
また特開2004-172694号公報には、固体高分子型燃料電池の空気極の電極反応において、反応生成物として発生する過酸化水素(H2O2)を接触分解することができる、例えばMn、Ru、Ni、Crなどの金属の酸化物を導電性担体であるカーボン材料上に担持させた触媒層を電極触媒に重ねて設置することが開示されているが、カーボンを担体とするため、過酸化水素の発生と、これによる電極の劣化が防止できない。
近年、ガス拡散電極を工業電解に利用することが検討され始めている。例えば、酸素還元反応を行なうための疎水性陰極が過酸化水素の電解製造装置に利用されている。又、アルカリ製造や酸、アルカリ回収プロセスでは、陽極での酸素発生の代替として水素酸化反応(水素陽極)、或いは陰極での水素発生の代替として酸素還元反応(酸素陰極)を、ガス拡散電極を用いて行い、消費電力の低減を図っている。亜鉛採取等の金属回収、亜鉛メッキの対極としても水素陽極による減極が可能であることが報告されている。
従来の電解方法における陽極、陰極反応はそれぞれ式(1)及び(2)の通りであり、理論分解電圧は2.19Vとなる。
2Cl− → Cl2 + 2e(1.36V) (4)
陰極反応
2H2O + 2e → 2OH− + H2 (-0.83V) (5)
O2 + 2H2O + 4e → 4OH− (0.40V) (6)
食塩電解での酸素ガス陰極の経緯については、「食塩電解酸素陰極に関する国内外の状況」、ソーダと塩素、第45巻、85(1994)に詳しい。
カチオン交換膜の陰極側に陰極室(苛性室)を介して酸素陰極が配置され、原料となる酸素を陰極背面のガス室から供給する。陽極室、溶液室、およびガス室の3室から構成されるため、3室法と称される。ガス室に供給された酸素は電極内を拡散し触媒層で水と反応して水酸化ナトリウムを生成する。従ってこの電解法に用いられる陰極は、酸素のみを充分に透過し、なおかつ水酸化ナトリウム溶液がガス室へ漏洩しない、いわゆる気液分離型のガス拡散電極でなければならない。このような要求を満たすものとして、カ−ボン粉末とPTFEを混合させシ−ト状に成形した電極基体に銀、白金等の触媒を担持させたガス拡散電極が提案されている。
これらの問題点を解決するために新規な電解法が提案されている(後述の図4に関する説明も参照)。
この電解法では酸素陰極をイオン交換膜と密着させて配置し(ゼロギャップ構造体)、原料である酸素及び水は電極背面より供給し、また生成物である水酸化ナトリウムは電極背面あるいは下部から回収することを特徴としている。この電解法を用いた場合、上記水酸化ナトリウムの漏洩問題が解決され、陰極溶液室(苛性室)とガス室の分離も不要となる。ガス室と陰極溶液室(苛性室)を兼ねる1室と陽極室の2室から構成されるため2室法と称される。
該ガス拡散電極を使用した場合であっても、生成した水酸化ナトリウムは裏側に移動するのみならず、高さ方向に重力により移動するため、生成する水酸化ナトリウムが過剰である場合には、電極内部に水酸化ナトリウム溶液が滞留し、ガスの供給が阻害されるという課題がある。充分なガス透過性と水酸化ナトリウム溶液による湿潤を避けるための充分な疎水性、及び水酸化ナトリウム溶液が電極内を容易に透過できるための親水性を同時に保有する必要があり、これを解決するために親水層を膜と電極の間に配置する方法が特許3553775号公報において提案されている。
しかしながらこれらの工業電解系は燃料電池の場合と比較して、操業条件が過酷であるために、ガス拡散電極の寿命や性能が十分に得られないという問題点がある。特に過酸化水素の生成に起因する劣化の問題が解決されていない。
特開平8-302493号公報では、白金-カーボン粒子に代わって銀触媒単体粒子が安定で、触媒価格の面で実用性が高いことを開示している。しかしながら、電解性能として、また、耐食性、安定性の観点から改良の余地があった。
以上述べた従来技術を踏まえると、食塩電解用ガス拡散電極触媒としても、高性能(安定)かつ安価な触媒成分とその製造技術の開発が重要であることが示唆される。
PEFC用の非白金系カソード触媒として、Ir、Ru、錯体、活性炭、各種金属酸化物などが検討されてきたが、触媒活性と耐食性の両面で、白金系触媒に替わり得るものは未開発であった。
従って本発明は前述の従来技術の問題点を解消し、比較的安価な触媒金属を使用して従来とほぼ同等の電極活性を有するガス拡散電極とその製造方法、及び当該ガス拡散電極を用いる燃料電池及び食塩電解セルを提供することを目的とする。
本発明のガス拡散電極は、その触媒金属として白金を使用せず、Ir−Ti、Ir−Mo、Ru−Mo、Ru−V、Ru−Ca及びRu−Mo−Irから選ばれる組み合わされた金属酸化物を使用する。白金を使用しないため安価にガス拡散電極を製造でき、更に前述の金属を2種以上組み合わせると、白金を使用する従来のガス拡散電極に匹敵する性能を有するガス拡散電極が得られる。
単成分系であると、触媒粒子が大きい、電気伝導率が小さい、比表面積が小さい、などの欠点が生じるため、本発明では採用しない。
このガス拡散電極は燃料電池や食塩電解セルの電極としても使用可能である。触媒中に燃料電池触媒で常用されているカーボン粉末を使用しないため、特に燃料電池における活性酸素の発生が抑制され、電解性能が長期に亘って安定に作動する。
従来技術では、酸性電解質中での酸素還元に用いる電極触媒は、主に白金あるいは白金基合金であるが、白金は高価であるばかりでなく、作動につれて消耗もする。
これに対し本発明のガス拡散電極は、高価かつ消耗の大きい白金を使用しない。本発明で使用する金属は白金に比して一桁以上安価であり、酸素過電圧は白金よりもやや劣るものの、安定性があり実用性が高い。従って安価に製造でき実用的の高いガス拡散電極が提供でき、ガス拡散電極の利用を促進し、エネルギー節減に寄与するものと期待される。
触媒金属は、Ir−Ti、Ir−Mo、Ru−Mo、Ru−V、Ru−Ca及びRu−Mo−Irから選ばれる組み合わされた金属酸化物である。
本発明の電極触媒に含まれる金属組成比は、2成分の場合、モル比で1:9〜9:1の範囲にあることが好ましい。この比率以外の範囲では成分の複合化による触媒の高活性及び機械的、化学的安定性が得られない。これらの金属イオンを含む化合物としては、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、有機錯体などが好ましく、特に、後述の熱分解後に原料塩の成分が残留しない点で、硝酸塩、有機錯体が好ましい。
上記化合物を溶解させた溶液を熱分解する場合、焼成温度として300〜600℃に制御された雰囲気炉またはスプレードライアー内にて前記溶液を噴霧し、焼成時間10-60分で、微小の触媒粒子を製造させ、これをサイクロン式の捕集装置等で回収することが好ましい。
また、各金属塩の溶液から金属種を同時に沈殿させる、共沈法による合成も可能である。
前記触媒の代表的寸法(全粒子の90%以上)は1〜100nmであり、製造雰囲気は、大気中とすることが好ましい。
触媒は製法に応じて金属(金属合金)、金属酸化物などの形態で多孔性基材上に形成又は担持される。
本発明のガス拡散電極は、多孔性基材と該多孔性基材に担持された触媒及び疎水性材料を含むが、その形態は2種類に大別される。2種類の形態を図1及び図2に示す。
図1に示す形態は、多孔性基材の表面に、多数の触媒粒子と多数の疎水性粒子を電解質を介して担持した例である(以下第1形態ともいう)。
図2に示す形態は、多孔性基材表面全体に層状に触媒を被覆し、この触媒層に多数の疎水性粒子を電解質を介して担持した例である(以下第2形態ともいう)。
第1形態のガス拡散電極の製造の場合、前記触媒粒子と水、有機溶剤等の溶媒とからなり、高分子電解質、フッ素樹脂微粒子を添加した塗料を調製することが好ましい。触媒粉末、フッ素樹脂微粒子、繊維焼結体などで出来た三次元的なガス流通通路を兼ねた疎水性かつ多孔性材料の内部及び外表面に塗料を塗布して120〜370℃で乾燥、焼成することによって触媒を形成した反応層を有するガス拡散電極が得られる。触媒粉末のバインダーとして高分子固体電解質成分を用いると接触面積が増大し性能向上が期待できる。本塗料を用いて、後述の多孔性材料や高分子電解質膜に上記塗料を塗付する方法などもある。
第1形態の場合、電極基材としてカーボンから成るクロス、繊維焼結体等の多孔性材料を用いることが好ましい。基材はガス、液の供給、除去のため、適度の多孔性を有しかつ十分な電導性を保つことが好ましい。厚さ0.01〜5mm、空隙率が30〜95%、代表的孔径としては0.001〜1mmが好ましい。カーボンクロスは数μmの細いカーボン繊維を数百本の束とし、これを織布としたものであるが、気液透過性に優れた材料であり好ましく使用できる。カーボンペーパーはカーボン原料繊維を製紙法にて薄膜の前駆体とし、これを焼結したものであるが、これも使用に適する材料である。上記基体材料の表面は一般的に疎水性であり、酸素ガスの供給の観点からは好ましい材料である。
また、基体および触媒層の圧縮、及び触媒と基体の接合度の向上によって、原料酸素ガスの供給能力も向上する。プレス加工装置としては、ホットプレス、ホットローラーなどの公知の装置を利用できる。プレスは、室温〜360℃にて、圧力1-50kgf/cm2で行うことが望ましい。
第2形態の場合は、触媒スラリーを作製せずに多孔性基材に直接触媒成分を形成する。この場合、多孔性基材として、チタンなどの弁金属繊維、粉末、それらの焼結体で形成され、または表面が弁金属で被覆された空孔を有する構造体を使用することが好ましい。弁金属繊維、粉末、それらの焼結体としては、市販されている材料がそのまま使用できる。構造体への弁金属皮膜の製法は電気めっき、無電解めっき、CVD、蒸着などの公知の手法が選択できる。
これらの方法で得られる電極は、熱分解による金属酸化物の形成により、触媒酸化物との結合力が格段に向上するため、より安定な電極性能を得ることができる。
塗布、乾燥、焼成は数回に分けて実施すると、均質な触媒層が得られるので特に好ましい。触媒を形成させた多孔性基材は通常親水性であり、ガス拡散性を向上させるために、疎水性材料を塗布し固着する。疎水性材料としては、フッ化ピッチ、フッ化黒鉛、フッ素樹脂が好ましく、特に耐久性のあるフッ素樹脂を200℃から400℃の温度において焼成して使用することは均一かつ良好な性能を得るために好ましい方法である。フッ素成分の粉末の粒径は0.005〜1μmが好ましい。
イオン交換膜燃料電池においては、イオン交換膜の特性が重要であるが、イオン交換膜として化学的安定性に優れたものには、ポリパーフルオロスルホン酸を成膜したものが知られており、例えば米国デュポン社製:商品名ナフィオン、旭硝子(株)製:商品名フレミオン、旭化成ケミカルズ(株)製:商品名アシプレックス等がある。最近では、酸化耐性の優れた膜、PBIなどの炭化水素系膜でも高耐食性、メタノールなどの有機原料の透過防止性に優れた市販品もあり、利用可能である。
酸素の供給量は理論量の1〜2倍程度が良い。原料である酸素ガスとしては空気を用いるか、市販のボンベを利用してもよいが、空気またはPSA装置により空気から濃縮された酸素を用いてもよい。一般に酸素濃度が大きいほど、大きい電流密度を流すことができる。
2枚の給電体により膜-電極接合体と集電体を重ねて挟み込むことで電池セルが構成される。給電体には、電流を供給し、ガスの供給、排出を行うための溝などの開口部がある。
図3は、本発明のガス拡散電極を使用した燃料電池を例示する概略断面図である。
高分子固体電解質として機能するイオン交換膜1の両面には、それぞれガス拡散電極である板状の酸素極(カソード)2及び水素極(アノード)3がそれぞれの反応層側を内側にしてイオン交換膜1に密着し、両極でイオン交換膜1を密着状態で挟む構造(膜−電極接合体、MEA)となっている。
前記酸素極2及び水素極3のそれぞれのイオン交換膜1とは反対面の周縁には、額縁状の酸素極用ガスケット4と水素極用ガスケット5が密着している。当該酸素極用ガスケット4と水素極用ガスケット5のそれぞれの内縁側には、多孔性の酸素極用集電体6と水素極用集電体7が、酸素極2及び水素極3に接触するように設置されている。
前記酸素極用ガスケット4には、イオン交換膜に向かう側に複数の凹面が形成された酸素極フレーム8の周縁が接触し、この酸素極フレーム8と酸素極2間に酸素極室9が形成されている。
12は酸素極フレーム8の上部に横向きに開口された酸素ガス供給口、13は酸素極フレーム8の下部に横向きに開口された未反応酸素ガス及び生成水取出口、14は水素極フレーム10の上部に横向きに開口された水素ガス供給口、15は水素極フレーム10の下部に横向きに開口された未反応水素ガス取出口である。
使用する酸素極2及び水素極3の触媒は、白金以外の2種以上の金属や金属酸化物であり、安価で、耐久性に優れ、触媒活性が長期間維持される。
ガス拡散電極は、前記燃料電池と場合と同様に製造できる。本発明のガス拡散電極は、安価で、耐久性に優れるため、過酷な条件で使用される食塩電解セルでも好適に使用できる。
食塩電解セルでは、このガス拡散電極以外にも次のような部材を使用できる。
高電流密度かつ大型の食塩電解セルに2室型ガス拡散電極を適用する場合、親水層を膜と電極の間に配置すると、電解液の維持及び反応場からの除去に効果がある。親水層としては、耐食性を有する金属や樹脂からなる多孔性構造体が好ましい。電極反応に寄与しない部品であるため、導電性は無くても良い。例としてカーボン、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、炭化珪素などのセラミックス、親水性化したPTFE、FEPなどの樹脂、金属例として銀が好ましい。形状は厚さが0.01〜5mmのシートが好ましい。活性な化学種がイオン交換膜を破損することを防止するために、マンガン酸化物などを塗布することも可能である。
以上により、充分なガス透過性と水酸化ナトリウム溶液による湿潤を避けるための充分な疎水性、及び水酸化ナトリウム溶液が電極内を容易に透過できるための親水性を同時に保有し、且つ、高導電性を有するガス拡散電極系が構築される。
電極を電解セルに配置するには、0.05〜30kgf/cm2の圧力で膜、気液透過層、ガス陰極、支持体とを一体化することが好ましい。陰極支持体と膜の間に挟んだ気液透過層及びガス陰極は、支持体の弾性及び陽極液の液高さによる水圧差により固定されることになる。これらの部材はセル組み立ての前に、先に一体化しておき、膜と同様にセルガスケットに挟み込むか、支持体に固定させておいてもよい。
酸素供給量は4電子還元において理論的に消費される量の1.05〜2倍が好適である。必要に応じて酸素ガスは加湿する。加湿方法としてはセル入口に70〜95℃に加温された加湿装置を設け、酸素ガスを通すことで自由に制御できる。現在市販されている膜の性能では、陽極水の濃度を150〜200g/Lに保つと加湿する必要がない。一方新規に開発された膜では加湿する必要がない。水酸化ナトリウム濃度は25〜40wt%が適当であるが、基本的には膜の特性によって決まる。
図4は、本発明のガス拡散電極を使用した3室法電解セルを例示する概略断面図である。
3室法電解セル21は、パーフルオロスルホン酸系の陽イオン交換膜22により、陽極室23と陰極室24と区画されている。陽イオン交換膜22の陽極室23側には、多孔性の寸法安定性陽極25が密着し、陽イオン交換膜22の陰極室側には間隔を空けて、ガス拡散陰極26が設置され、このガス拡散陰極26により前記陰極室24が陽イオン交換膜22側の陰極液室27と反対側の陰極ガス室28に区画されている。前記ガス拡散陰極26は、Ir−Ti、Ir−Mo、Ru−Mo、Ru−V、Ru−Ca及びRu−Mo−Irから選ばれる組み合わされた金属酸化物の触媒粒子を、疎水性樹脂などのバインダーとともにカーボンペーパーなどの電極基体に被覆し焼成して構成されている。
2室法電解セル31は、パーフルオロスルホン酸系の陽イオン交換膜32により、陽極室33と陰極ガス室34と区画されている。陽イオン交換膜32の陽極室33側には、多孔性の寸法安定性陽極35が密着し、陽イオン交換膜32の陰極ガス室34側には図4と同じ構成のガス拡散陰36が密着して設置されている。
なお図5の電解セル31で、陽イオン交換膜32とガス拡散陰極36間に親水層を配置しても良い。
次のA〜Hまでの2種類又は3種類の金属酸化物から成る混合物層を、下記のようにチタン棒表面に形成し、更に電極性能を評価した。
A−Ir:Ti = 1:1(モル比)
B−Ir:Mo = 1:1(モル比)
C−Ru:Ti = 1:1(モル比)
D−Ru:Mo = 1:1(モル比)
E−Ru:V = 1:1(モル比)
F−Ru:Ca = 1:1(モル比)
G−Ru:Mo:Ir = 1:1:1(モル比)
電解条件は、電解液が0.5 Mの H2SO4で液温は60℃とした。
電位走査範囲1.2 〜 0.2Vの範囲で、走査速度を5 mV / sとしてA〜Gの電極の電圧と電流の関係を測定し、その結果を図6に示した。いずれも酸素還元電流が観察され、酸素の還元能を有することが確認された。
実施例1のA〜Dの組成を有する溶液を、電気炉中450℃で空気を循環しながら噴霧し、15分間熱分解後、サイクロン装置に送入し、生成した酸化物触媒粉末を回収した。EPMA分析の結果、それぞれイリジウム、チタン、ルテニウム、モリブデンの酸化物が主成分であることを確認した。
該触媒と界面活性剤を微量添加した水溶媒に、イオン交換樹脂液及びフッ素樹脂微粒子を添加したスラリーを調製し、炭素繊維製の多孔性織布基材の上に塗布し触媒を形成した酸素ガス拡散電極(カソード)を作製した。触媒量は10g/m2となるようにした。対極の水素アノードとしては、市販のPt/C触媒付きガス拡散電極(商品名ELAT、E−TEK社製)を用いた。電極面積は20cm2であった。
水素及び酸素を各電極室に毎分10ml供給した。温度を90℃とし、電圧と電流の関係を測定したところ、20Aの電流でセル電圧はA、B、C、Dの順に、0.50V、0.55V、0.58V及び0.59Vであった。
酸素ガス拡散電極(カソード)の触媒として、酸化ルテニウム触媒を調製し、使用したこと以外、実施例2と同様にガス拡散電極の電池試験を実施したところ、20Aの電流でセル電圧0.4Vが得られた。
アノード、カソード共に白金触媒を有する市販のPt/C触媒付きガス拡散電極(商品名ELAT、E−TEK社製)を用いて、実施例2と同様にガス拡散電極製造及び電池試験を実施したところ、20Aの電流でセル電圧は0.58Vであった。
厚さ0.5mmのチタン繊維焼結体を多孔性基材として用いた。実施例1のA及びCの触媒溶液を調製し、静電スプレーにて、前記多孔性基材に塗布し、60℃で5分間乾燥後、450℃の電気炉中で15分間熱分解した。これを3回繰り返した。EPMA分析の結果、イリジウム、ルテニウムの酸化物が主成分であることを確認した。
界面活性剤を微量添加した水溶媒と、イオン交換樹脂液及びフッ素樹脂微粒子をスプレーにて基材に塗布し、乾燥させ酸素ガス拡散電極を作製した。触媒量は10g/m2となるようにした。実施例1と同様のセルにて評価したところ、20Aの電流での電圧は0.42V(電極A)及び0.55V(電極C)であった。
実施例1のDの触媒粉末と、PTFE水懸濁液(三井フロロケミカル株式会社製30J)を体積比1:1で混合し十分攪拌後、該混合懸濁液を、投影面積当り500g/m2となるように厚さ0.4mmのカーボンクロス基体に塗布し、電気炉中310℃で15分焼成後、プレス機にて、圧力2kgf/cm2でプレス加工を行い、酸素ガス拡散電極を作製した。
陽極として酸化ルテニウムを主成分とするDSE、イオン交換膜としてフレミオンF8020(旭硝子社製)を用い、厚さ0.4mmの親水化処理を行ったカーボンクロスを親水層とし、この親水層をガス拡散電極と前記イオン交換膜間に挟み、前記陽極及びガス拡散電極を内向きに押圧し、イオン交換膜が鉛直方向に位置するように、各部材を密着固定して電解セルを構成した。
2 酸素極
3 水素極
6 酸素極用集電体
7 水素極用集電体
9 酸素極室
11 水素極室
21 3室法電解セル
22 イオン交換膜
23 陽極室
24 陰極室
25 陽極
26 ガス拡散陰極
27 陰極液室
28 陰極ガス室
31 2室法電解セル
32 イオン交換膜
33 陽極室
34 陰極ガス室
35 陽極
36 ガス拡散陰極
Claims (8)
- 多孔性基材、該多孔性基材に担持された触媒及び疎水性材料を含んで成るガス拡散電極において、前記触媒がIr−Ti、Ir−Mo、Ru−Mo、Ru−V、Ru−Ca及びRu−Mo−Irから選ばれる組み合わされた金属酸化物から構成されることを特徴とするガス拡散電極。
- 多孔性基材が弁金属繊維または粉末、またはそれらの焼結体から成り、または、表面がそれらの金属で被覆されている請求項1記載のガス拡散電極。
- 触媒が粒子として多孔性基材上に担持されている請求項1記載のガス拡散電極。
- 触媒粒子の代表的寸法が1〜100nmである請求項3に記載のガス拡散電極。
- 触媒を層状にして多孔性基材上に形成した請求項1記載のガス拡散電極。
- 多孔性基材、該多孔性基材に担持された触媒及び疎水性材料を含んで成るガス拡散電極の製造方法において、Ir−Ti、Ir−Mo、Ru−Mo、Ru−V、Ru−Ca及びRu−Mo−Irから選ばれる金属イオンの組み合わせを含む溶液から、熱分解法、錯体重合法及び共沈法から選択される方法により、金属イオンを金属酸化物として前記多孔性基材上に析出させることを特徴とするガス拡散電極の製造方法。
- 請求項1〜5までのいずれか1項に記載の電極を用いることを特徴とする燃料電池。
- 請求項1〜5までのいずれか1項に記載の電極を用いることを特徴とする食塩電解セル。
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