JP4866791B2 - 超音波探傷装置及び方法 - Google Patents

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Description

本発明は、液体を介して固体を検査対象とする水浸法または部分水浸法による超音波探傷装置及び方法に係り、特に、被検体表面に表面波(レイリー波)を発生させて超音波探傷を行なうに好適な超音波探傷装置及び方法に関する。
鋼材など縦波、横波、レイリー波のすべての伝播を許す固体の非破壊検査方法として、超音波による超音波探傷法が従来から一般に用いられている。この超音波探傷法の一種に、いわゆる水浸法及び部分水浸法がある。水浸法とは、「探触子と探傷面との間に、水などの液体を長い距離介在させて探傷する方法」、また、部分水浸法とは、「探触子と探傷面との間だけ局部的に水を介在させて探傷する方法」である。また、レイリー波(レーリー波)とは、「表面近傍にだけエネルギーが集中して伝わる波」とあり、その伝搬速度は固体中の横波音速の約90%程度で、表面が曲面の場合でも表面近傍に沿って伝搬する。
レイリー波を用いた超音波探傷装置では、被検体の表面に探触子から超音波を斜めに入射させることで、被検体表面に表面波(レイリー波)を発生させ、被検体の欠陥や損傷を検査する(例えば、特許文献1参照)。
特開平10A−123106号公報
しかしながら、特許文献1記載のように、レイリー波を用いる超音波探傷装置にあっては、探触子位置によって、欠陥からのレイリー波の受信時間が探触子位置によって変化するという問題があった。探傷時に最も重要となる欠陥からの信号に関して、探触子位置によって、受信時間が異なるために、特に、探触子位置が欠陥から遠い場合について、伝搬中の減衰(エネルギー損失)の多い被検体表面の伝搬距離が、送信から受信までの往復分必要なために、探触子位置が欠陥から離れると急激に欠陥からの反射波の受信強度が弱まるために、欠陥位置から遠い位置において欠陥からの反射波を識別することが困難になるという問題があった。
本発明の目的は、欠陥からの反射波の識別を容易にできる超音波探傷装置及び装置を提供することにある。
(1)上記目的を達成するために、本発明は、圧電素子からなる超音波探触子と、前記超音波探触子から超音波を送信しまた前記超音波探触子により超音波を受信する送受信部と、前記送受信部にて受信された超音波信号を表示する表示部とを有し、前記超音波探触子の少なくとも一部を液体中に浸漬させ超音波を発信させ、金属などの固体の被検体を検査する超音波探傷装置であって、前記被検体の表面に対して、横波臨界角を超える入射角度で超音波を入射させることにより被検体の表面に表面波を発生させる角度で、前記超音波探触子を配置するとともに、前記被検体の表面に対して、前記角度に傾斜した直線上で、前記超音波探触子を走査する走査手段を備えるようにしたものである。
かかる構成により、欠陥からの反射波の識別を容易にできるものとなる。
(2)上記(1)において、好ましくは、前記超音波探触子は、集束ビームを発生するものであるとともに、複数の圧電素子の配列からなるアレイ探触子であり、前記走査手段は、前記複数の圧電素子の内、所定の数の圧電素子からなる圧電素子群を順次電気的に切替ることにより、受信位置を移動するようにしたものである。
(3)上記(2)において、好ましくは、前記超音波探触子を構成する圧電素子は、その表面において、圧電素子の配列方向と直交する方向に曲率を有するものである。
(4)上記(1)において、好ましくは、前記超音波探触子は、集束ビームを発生する焦点型探触子であり、前記走査手段は、前記焦点型探触子を、機械的に走査して、受信位置を移動するようにしたものである。
(5)また、上記目的を達成するために、本発明は、圧電素子からなる超音波探触子の全部または一部を液体中に浸漬させ超音波を発信させ、金属などの固体の被検体を検査する水浸法または部分水浸法の超音波探傷方法において、前記被検体の表面に対して、横波臨界角を超える入射角度で超音波を入射させることにより被検体の表面に表面波を発生させる角度で、前記超音波探触子を配置するとともに、前記被検体の表面に対して、前記角度に傾斜した直線上で、前記超音波探触子を走査するようにしたものである。
かかる方法により、欠陥からの反射波の識別を容易にできるものとなる。
(6)上記(5)において、好ましくは、前記超音波探触子として、複数個の圧電素子の配列からなるアレイ探触子を用い、フェーズドアレイ方式により、同一の素子群により送信と受信を行うようにしたものである。
(7)上記(5)において、好ましくは、前記超音波探触子として、複数個の圧電素子の配列からなるアレイ探触子を用い、フェーズドアレイ方式により、送信する素子群を固定し、受信する素子群を変えるようにしたものである。
(8)上記(6)または(7)において、好ましくは、前記アレイ探触子を構成する圧電素子に対して、隣接する2つ以上の圧電素子の送信または受信のタイミングを同一としたものである。
(9)上記(5)において、好ましくは、前記超音波探触子の走査時に、それぞれの走査位置における受信波形を、逐次加算または平均するようにしたものである。
(10)上記(5)において、好ましくは、前記超音波探触子の走査時の、それぞれの走査位置における受信波形を、横軸が受信時間で縦軸が受信強度の関係で表示するとともに、各走査位置における受信波形を、横軸の各受信時間を揃えて表示するようにしたものである。
本発明によれば、欠陥からの反射波の識別を容易にできるものとなる。
以下、図1〜図9を用いて、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置の構成及び動作について説明する。
最初に、図1を用いて、本実施形態による超音波探傷装置の適用対象について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置の適用対象の説明図である。
原子炉炉底部1には、制御棒駆動機構(CRD)スタブチューブや炉内計装管(ICM)ハウジングなどの貫通部(管状)2が設けられいる。原子炉炉底部1に対して、貫通部(管状)2は、溶接部3により溶接固定されている。超音波探触子101は、溶接部3の欠陥を検知するために用いられる。
次に、図2を用いて、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置の全体構成について説明する。
図2は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置の全体構成を示すブロック図である。
本実施形態の超音波探傷装置は、超音波探触子101と、超音波の送受信部6と、探触子101を移動させるための走査機構7と、送受信部6と走査機構7を制御する制御機構8と、受信信号を表示する表示部9とから構成されている。
検査対象である被検体102と、探触子101との間には、液体108が介在している。
なお、図においては、説明を簡単にするため被検査体102を平板形状の断面図として表している。本実施形態による超音波探傷装置において用いるレイリー波の特性として、曲面でも平面でも表面に沿って伝搬する特性を持っているために、曲面及び平板のいずれの場合にも適用することが可能である。なお、曲面及び平面のいずれの場合においても、被検体表面110に対する超音波の入射角度は、被検体表面の接平面(または接線)と超音波の伝搬方向のなす角度θ1として定義される。
超音波探触子101は、被検体102との間に介在する液体108に、一部または全部を浸漬して設置される。超音波探触子101は、図8を用いて後述するように、集束ビームを用いた焦点型の探触子である。焦点型の探触子は、ステンレス鋼溶接部など、減衰や組織からのノイズ信号が多い材料を検査する場合に、SN比を向上させることができ、また、集束ビームにより分解能を向上させることができる。
探触子101は、被検体表面110に対して、傾斜角度θ2だけ傾いた方向Cに、探触子101−探触子101’−探触子101”で示す位置のように、走査機構7によって機械的に走査するように設定される。超音波探触子101は、送受信部6から供給される駆動信号により超音波を発生し、これを液体108内に、被検体表面110に対して、入射角度θ1方向に縦波超音波105として伝搬させ、被検体表面110において、屈折現象によりレイリー波106を発生させ、欠陥104により現れる反射波107を検出し、受信信号を送受信部6に入力する。ここで、傾斜角度θ2と入射角度θ1は等しく、例えば、30度である。なお、傾斜角度θ2と入射角度θ1については、図7を用いて後述する。
超音波探触子101は、例えば、超音波発生素子の一例として、圧電セラミックスや、その圧電セラミックスの細棒を高分子材の中に埋めこんだ複合圧電体(コンポジットともいう)を用いる。送信と受信に対して、同一の素子を用いる。なお、送受信を分割する場合は、2つの素子から構成される。
次に、図3を用いて、本実施形態による超音波探傷装置に用いる走査機構7の構成について説明する。
図3は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置に用いる走査機構の構成を示すブロック図である。
図2に示した走査機構7は、駆動制御部71と、移動量検知部72と、駆動部73と、スキャナ74とから構成される。自動スキャナ74は、探触子101を2軸の回転自由度をもって把持しするためのジンバル機構77及び1方向の走査が可能なボールねじのようなスライド機構76から構成される。具体的な構成例としては、駆動部73としてモータ、移動量検知部72としてエンコーダ、駆動制御部71としてモータドライバなどがある。スライド機構76による探触子101の機械的な走査距離(探触子101の移動距離)は、例えば、約10cmである。
次に、図4を用いて、本実施形態による超音波探傷装置に用いる送受信部6及び表示部9の構成について説明する。
図4は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置に用いる送受信部及び表示部の構成を示すブロック図である。
送受信部6は、計算機6Fと、パルサー6Cと、レシーバ6Dと、データ収録部6Eを備える。パルサー6Cが駆動信号を探触子101に供給し、これにより探触子101から入力される受信信号をレシーバ6Dが処理する。ここで、計算機102Fは、パルサー6C、レシーバ6D、それにデータ収録部6Eを制御して、必要な動作が得られるようにする。データ収録部6Eは、レシーバ6Dから供給される受信信号を処理し、表示部9に供給する。
表示部9は、超音波の受信位置に対応した受信波形を表示する手段である。図4では、例として、探触子101,101’,101”のそれぞれの位置で受信された波形を表示したものを示している。なお、図において、横軸は受信時間を示し、縦軸は受信強度を示している。符号P101は探触子101の位置での受信波形を示し、符号P101’は探触子101’の位置での受信波形を示し、符号P101”は探触子101”の位置での受信波形を示している。なお、図示の例では、超音波探触子の走査時の、それぞれの走査位置における受信波形を、横軸が受信時間で縦軸が受信強度の関係で表示するとともに、各走査位置における受信波形を、横軸の各受信時間を揃えて表示している。
ここで、探触子101,101’,101”のいずれの受信位置においても、欠陥からの反射波601A,601B,601Cが同じ受信時間に表示され、また、被検体表面からの形状エコーが受信位置によって異なる位置602A,602B,602Cに表示される。すなわち、超音波探触子の複数の受信位置における受信波形において、欠陥からの受信波形を、受信時間に対して揃えて表示できる。
なお、欠陥からの信号の受信時間が一定となる原理は、図5及び図6を用いて後述する。
このように、欠陥からの波形の受信時間がほぼ一定に表示されることで、ある時間ゲート603の信号にのみ注目していれば、欠陥の有無など、被検体の評価が可能となり、検査を容易に行うことができる。
次に、図5〜図8を用いて、本実施形態による超音波探傷装置において、欠陥からの信号が同じ位置に現れる原理について説明する。
図5及び図6は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置において、欠陥からの信号が同じ位置に現れる原理説明図である。図7は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置における横波臨界角の説明図である。図8は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置における音速比と横波臨界角の関係の説明図である。
図5において、異なる受信位置による伝搬経路上に構成される3点ABCから構成される三角形701に注目する。水108から超音波を入射し、炭素鋼やステンレス鋼などからなる被検体102の表面近傍にレイリー波を発生させる場合、レイリー波が発生する条件である、横波臨界角θCは、約30度になることが知られている。
レイリー波(表面波)は、被検体に対して、横波臨界角を超える入射角度で超音波を入射させることで、被検体表面に容易に発生させることができる。ここで、横波臨界角θCは、以下の(式1)で定義される角度である。

θC = sin−1 (V1/V2) …(1)

なお、ここで、V1は液体(水など)の縦波伝搬速度であり、V2は被検体(固体)の横波伝搬速度である。
(式1)で表される横波臨界角θCは、水中の縦波音速(約1500m/秒)と、固体(金属)中のレイリー波音速(約3000m/秒)の比が1:2になるため、、θC=sin−1(0.5)=30度となる。なお、実際には、温度や金属の種類によって、超音波の音速はばらついているため、必ずしも、厳密に30度になることはない。
ここで、図8を用いて、音速比と横波臨界角の関係について説明する。例えば、液体の縦波音速と、固体のレイリー波の音速が、0.43〜0.58の間に入っていれば、横波臨界角は25〜35度の範囲に収まる。
ここで、図5に示した三角形701を詳細にみてみると、AB間を伝わる音速とBC間を伝わる音速の比が、およそ2:1である。一方、図6に示すように、三角形701は、30度、60度、90度の直角三角形であるので、辺の長さについては、AB:BC=1:2となる。ゆえに、辺BCは、距離が2倍でも伝搬速度が2分の1となるため、AB間の受信時間とBC間の受信時間はほぼ同じとなる。
図5において、伝搬経路Q→C→B→Dと、P→A→B→Dを比較してみる。Q→CとP→Aはともに等しい距離を等しい速度で伝搬するので、両者の受信時間は等しいといえる。また、B→Dの伝搬経路は共通している。前述したように、C→BとA→Bの受信時間は等しいので、送信の経路(往路)の受信時間が等しくなる。また、受信の経路(復路)に対しても同様の関係が成立するために、探触子位置101がいずれの場所にあっても、欠陥からの反射波の受信時間は一定となる。
このように、超音波探触子110を被検体に対して25〜35度の間の傾斜角度方向に機械的に走査させることで、レイリー波による欠陥からの反射波の受信時間が一定となるため、表示部9に受信波形を表示させた場合に、欠陥からの反射波の識別が容易になる。
次に、図8を用いて、本実施形態による超音波探傷装置に用いる探触子の構成について説明する。
図8は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置に用いる探触子の構成を示す側面図である。
図8に示す探触子101は、焦点型の探触子である。焦点型の探触子は、ステンレス鋼溶接部など、減衰や組織からのノイズ信号が多い材料を検査する場合に、SN比を向上させることができ、また、集束ビームにより分解能を向上させることができる。一般に、焦点型探触子901は、曲面を設けた圧電素子902から構成されている。焦点型探触子901の焦点位置903は、単一媒質中を伝搬する場合には、幾何学的な距離が等しい場所に集束するが、複数媒質中を伝搬する場合には、むしろ、受信時間が等しい場所に集束する。
例えば、ステンレス鋼溶接部など超音波の減衰が大きい材料の検査を想定した場合、エネルギー密度を空間的に高めて分解能やSN比向上する目的のため集束ビームを利用することが望ましいが、従来のレイリー波法では、探触子位置ごとに、欠陥までの距離(または受信時間)が異なるために、探触子位置に応じて焦点深さを変化させる必要があり、また、欠陥位置は探傷時には不明であることも想定されることから、集束ビームを用いた探傷の実現上、問題があった。
それに対して、前述したように、探触子を被検体の面に斜めに角度θ2(25〜35度)の方向に機械的に走査することによって、欠陥からの受信時間を一定にすることができる。すなわち、欠陥からの受信時間として想定される受信時間に相当する焦点を形成する1種類の焦点型探触子901を用いることで、探触子位置が変化しても、焦点が形成される場所が一定となり、集束ビームを用いることができ、SN比の改善や分解能の向上を図ることができる。
以上説明したように、本実施形態によれば、欠陥からの受信時間を一定にすることができるため、探触子位置が欠陥から遠く、欠陥からの反射波が弱い場合でも、欠陥からの反射波の識別が容易になる。
また、欠陥からの受信時間を一定にすることができるため、集束ビームを用いることができ、SN比の改善や分解能の向上を図ることができる。
次に、図9〜図17を用いて、本発明の第2の実施形態による超音波探傷装置の構成及び動作について説明する。なお、本実施形態による超音波探傷装置の適用対象は、図1に示したものと同様である。
最初に、図9を用いて、本実施形態による超音波探傷装置の構成について説明する。
図9は、本発明の第2の実施形態による超音波探傷装置の構成を示すブロック図である。なお、図2と同一符号は同一部分を示している。
本実施形態の特徴とする点は、集束ビームを用いる探触子として、アレイ型探触子101Aを用いた点にある。
本実施形態の超音波探傷装置は、アレイ探触子101Aと、送受信部6Aと、走査機構7と、送受信部6Aと走査機構7を制御する制御機構8と、受信信号を表示する表示部9とを備えている。アレイ探触子101Aは、複数の圧電素子1001を備えており、集束ビームを用いるものである。送受信部6Aは、複数の圧電素子1001のうち、複数個の圧電素子から構成される素子群1002に対して、超音波の送受信を制御する。そして、複数の圧電素子1001の内、素子群1002として選択する圧電素子を順次変えることで、探触子101Aから送信される超音波の位置を、矢印C’方向に、電気的に走査することができる。走査機構7は、アレイ探触子101Aの全体を矢印C’と平行な矢印C方向に機械的に移動させる。アレイ探触子101Aの大きさは、例えば、約10cmであり、約10cmの範囲を電気的に走査できる。また、走査機構7によって、例えば、約30cmの範囲を機械的に走査できる。
ここで、図10〜図12を用いて、本実施形態による超音波探傷装置に用いるアレイ型探触子の構成について説明する。
図10〜図12は、本発明の第2の実施形態による超音波探傷装置に用いるアレイ型探触子の構成を示す斜視図である。
図10〜図12に示すように、アレイ探触子101A−1,101A−2,101A−3は、数ミリ程度の大きさの圧電素子が1方向または2方向に規則的な間隔W1,W2,W3,W4をもって配列され、個々の圧電素子から送信または受信される超音波を電気的に制御することで、複数個の圧電素子をひとつの超音波探触子として動作させるものである。
図10に示すアレイ探触子101A−1は、曲率を持たない圧電素子1101Aが、1次元的に配列されたものである。複数の圧電素子の送信タイミングを制御することで、図示するように、焦点位置F1に線状に集束する集束ビームを形成することができる。
図11に示すアレイ探触子101A−2は、曲率を有する圧電素子1101Bが、1次元的に配列されたものである。複数の圧電素子の送信タイミングを制御することで、図示するように、焦点位置F2に点状に集束する集束ビームを形成することができる。
図12に示すアレイ探触子101A−3は、圧電素子1101Cが、2次元的に配列されたものである。複数の圧電素子の送信タイミングを制御することで、図示するように、焦点位置F3に点状に集束する集束ビームを形成することができる。
アレイ探触子101A−1,101A−2,101A−3を構成する圧電素子の一例として、圧電セラミックスの細棒を高分子材の中に埋めこんだ複合圧電体(コンポジットともいう)を用いることができる。
次に、図13〜図15を用いて、本実施形態による超音波探傷装置に用いるアレイ型探触子の電気的制御原理について説明する。
図13〜図15は、本発明の第2の実施形態による超音波探傷装置に用いるアレイ型探触子の電気的制御原理の説明図である。
図13は、アレイ探触子を構成する圧電素子のうち、N個の圧電素子群1002を用いて、焦点位置Fに超音波を送信または受信する場合に関する説明図である。
焦点位置F1に超音波を送信または受信する場合、N個の圧電素子群1002のそれぞれに対して、送信の場合は圧電素子を励振するタイミングに対して、また、受信の場合は、受信信号を合成するタイミングに対して、ある特定の遅延時間を与えることで、焦点位置Fへの送信または焦点位置Fからの受信を実現している。
ここで、図14及び図15を用いて、遅延時間の与え方について説明する。i番目の圧電素子に与える遅延時間を求めるには、まず、焦点位置F1から圧電素子までの伝搬経路TLを伝搬する時間(受信時間)Tを求める。圧電素子と焦点の間が単一の媒質で満たされている場合、または、そのようにみなせる場合には、伝搬経路TLは直線となる。また、複数の媒質で構成されている場合には、「2点を通る音波は可能な経路のうち最短時間(または極小値となる時間)の経路で伝播する」というフェルマーの原理に従う経路で伝搬するため、例えば、音波の伝搬を光線(レイ)としてモデル化するレイトレーシング(光線追跡法)などの解析的な手法により受信時間を求めることができる。N個の圧電素子に対する受信時間TLを求めたのち、その最大値Tmax(図14の場合はN番目の素子が最大値に該当)を求め、伝播時間の最大値Tmaxから、各圧電素子に対する受信時間を減算し、遅延時間Tdelayとする。i番目の圧電素子の場合は、最大値Tmaxと受信時間Tiの差Tdefが、i番目の圧電素子に対する遅延時間Tdelayとなる。
この遅延時間をグラフで示すと、図15のように、圧電素子群に対する遅延時間Tdelayが求められる。この遅延時間に相当するタイミングの遅延を電気的に制御することにより、送信の場合は、それぞれの素子から発生する超音波が焦点位置Fで同時刻に到達し、また受信の場合は、焦点位置Fから伝搬する超音波が同時刻となるように合成されることで、1つの超音波探触子のように振舞うこととなる。
再び、図9において、アレイ探触子101Aは、被検体102との間に介在する液体108に、一部または全部を浸漬して設置される。アレイ探触子101Aは、アレイ探触子101Aを構成する圧電素子1001の配列方向D(または配列が直線的でない場合は配列される圧電素子を結ぶ曲線の接線方向)が、被検体表面110に対して、傾斜角度θ2だけ傾いた方向に設置され、送受信部6から供給される駆動信号により超音波を発生し、これを液体108内に、被検体表面110に対して、入射角度θ1(ここで、傾斜角度θ2と入射角度θ1は等しい)方向に縦波超音波105として伝搬させ、被検体表面110において、屈折現象によりレイリー波106を発生させ、これにより現れる反射波107を検出し、受信信号を送受信部6に入力する。
なお、アレイ探触子101A全体を走査機構7によって移動(機械的な走査)する場合にも、傾斜角度θ2は維持されるように制御機構8により制御される。また、走査機構7は、アレイセンサ全体を移動させる場合に使用するものであり、図3に示したものと同様の構成でよい。
本実施形態では、アレイ探触子101Aとして1次元的に圧電素子が配置された例を示したが、図11に示すような曲率付きの圧電素子や、図12に示すような2次元的な配置の圧電素子を用いてもよい。
次に、図16を用いて、本実施形態による超音波探傷装置に用いる送受信部6A及び表示部9の構成について説明する。
図16は、本発明の第2の実施形態による超音波探傷装置に用いる送受信部及び表示部の構成を示すブロック図である。
送受信部6Aは、データ収録部6Bと、パルサー6Cと、レシーバ6Dと、遅延時間制御部6Eと、計算機6Fと、スイッチ6Gと、コネクタ6Hを備える。パルサー6Cが駆動信号をアレイ探触子101Aに供給し、これによりアレイ探触子101Aから入力される受信信号をレシーバ6Dが処理する。ここで、計算機102Fは、パルサー6C、レシーバ6D、遅延時間制御部6B、データ収録部6Eを制御して、必要な動作が得られるようにする。また、アレイ探触子101Aは、コネクタ6Hを介して送受信部6Aと接続される。
遅延時間制御部6Bは、図13〜図15を用いて説明した遅延時間の求め方に基づいて、パルサー102Cから出力される駆動信号のタイミングを、制御すると共に、レシーバ6Dによる受信信号の入力タイミングを制御し、これによりフェーズドアレイ方式によるアレイ探触子111の動作が得られるようにする。データ収録部6Eは、レシーバ6Dから供給される受信信号を処理し、表示部9に供給する働きをする。ここで、パルサー6Cやレシーバ6Dで取り扱うことが可能な素子数は例えば、32個、64個などと電気回路上の制限がある。アレイ探触子101Aを構成する素子数が、この制限数よりも多い場合には、マルチプレクサ等のスイッチ6Hにより切り替え(スイッチング)を行うことで多数の圧電素子に対応する。
次に、表示部9の働きについて説明する。図16に示した例は、図4と同様に、受信位置に対応した受信波形が表示されるものである。ただし、第1の実施形態では、超音波探触子の位置が物理的に変化することで超音波の受信位置が変化していたが、本実施形態では、超音波の受信を行う素子群1002の位置が変化することで、アレイ探触子の圧電素子群1002,1002’,1002”の受信位置が変化している点が異なっており、それぞれの受信位置P1002,P1002’,P1002”毎に受信波形が表示される。
次に、図17を用いて、本実施形態による超音波探傷装置における第2の表示例について説明する。
図17は、本発明の第2の実施形態による超音波探傷装置における第2の表示例の説明図である。
本例では、アレイ探触子の受信位置P1002,P1002’,P1002”の受信信号(例えば、601A,601B,601C,602A,602B,602C)の信号の受信強度に応じた濃淡により、受信時間または伝搬距離に対して受信信号を色による画像で、表示画面1401に表示する。受信強度と色の対応は、信号の受信強度に比例した濃淡を変化させたグレー表示や、弱い信号から強い信号へと青から赤への色が連続的に変化する表示などを用いてもよい。
なお、この表示方法は、図4に示した実施形態に対しても適用できるものである。
本実施形態では、電気的に受信に使用する素子群を切り替えることによって、受信位置を移動させることが特徴である。なお、機械的に探触子の位置を移動させる方法を併用できるものである。本実施形態では、送信と受信に用いる複数個の圧電素子(圧電素子群)を同一のものとし、第1の実施形態において超音波を送受信するための超音波探触子を、アレイ探触子を構成する圧電素子群におきかえた構成となっている。
アレイ探触子の圧電素子群の電気的な移動により受信位置を移動させる場合においても、第1の実施例に図5にて説明した原理は同様に成立するために、欠陥からの波形の受信時間がほぼ一定に表示されることとなる。そのため、第1の実施形態と同様に、図16に示すある時間ゲート603の信号にのみ注目していれば、欠陥の有無など、被検体の評価が可能となり、検査を容易に行うことができる。
また、本実施形態においても、受信時間がほぼ一定となることから、第1の実施形態と同じように、集束ビームを利用できる。超音波探触子101Aとして、図13〜図15に示すような、アレイ探触子を用いる場合を考える。アレイ探触子の場合は、圧電素子に曲率がない場合には、圧電素子与える遅延時間により集束ビームによる音場を形成することができる。なお、図14のように、圧電素子に曲率を設けることで点状の焦点音場を形成することも可能であり、また、図15のように、2次元的に圧電素子を配置した場合には、行列状に配置された圧電素子のそれぞれに対して遅延時間を与えることで、点状の集束音場を形成することが可能である。したがって、本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、集束ビームによる焦点位置は、受信時間が等しい場所に形成される。そのため、アレイ探触子を傾斜させて配置することで欠陥からの受信時間をほぼ一定とすることが可能となる。本実施形態においても、欠陥からの受信時間に相当する時間に基づいて遅延時間(または素子の曲率)を設定することで、集束ビームを用いた探傷を行うことが可能となる。
以上説明したように、本実施形態によれば、アレイ探触子を用いても、欠陥からの受信時間を一定にすることができるため、探触子位置が欠陥から遠く、欠陥からの反射波が弱い場合でも、欠陥からの反射波の識別が容易になる。
また、欠陥からの受信時間を一定にすることができるため、集束ビームを用いることができ、SN比の改善や分解能の向上を図ることができる。
次に、図18を用いて、本発明の第3の実施形態による超音波探傷装置の構成及び動作について説明する。なお、本実施形態による超音波探傷装置の適用対象は、図1に示したものと同様である。また、本実施形態による超音波探傷装置の全体構成は、図2に示したものと同様である。さらに、本実施形態による超音波探傷装置に用いる走査機構7の構成は、図3に示したものと同様である。また、本実施形態による超音波探傷装置に用いる送受信部6及び表示部9の構成は、図4に示したものと同様である。
図18は、本発明の第3の実施形態による超音波探傷装置において、欠陥からの信号が同じ位置に現れる原理説明図である。
本実施形態は、第2の実施形態の構成と構成が同じであり、超音波探触子としてアレイ探触子を用いる。異なっている点は、アレイ探触子の送信と受信の役割を担う複数個の圧電素子群のうち、送信に用いる圧電素子群を固定する点である。
ここで、送信用の圧電素子群を固定するとは、図16に示すアレイ探触子101Aにおいて、例えば、送信に用いる圧電素子群を素子群1002”に固定し、受信に用いる素子群のみ電気的に走査させることである。
ここで、図18により、本実施形態この実施例においても、第1、第2の実施形態と同様に、欠陥からの反射波の受信時間がほぼ一定になることを説明する。
図18において、アレイ探触子101を構成する圧電素子のうち、送信用に用いる圧電素子群を、圧電素子群1002”とする。一方、受信に用いる圧電素子群はアレイ探触子内を電気的な切り替えにより移動できる。ここでは、説明のため受信用の圧電素子群が1002’の場合を考える。
圧電素子群1002”で超音波を送信し、同じ素子群1002”で超音波を受信する場合、超音波の伝搬経路は、Q→C→B→D(欠陥により反射)→B→C→Qとなる。これと比較される伝搬経路は、圧電素子群1002”で超音波を送信し、これと異なる素子群1002’で超音波を受信する場合である。この場合の超音波の伝搬経路は、Q→C→B→D(欠陥により反射)→B→A→Pとなる。ここで、経路Q→Cと経路P→Aについては、伝搬距離および伝播音速が等しいために受信時間は一致する。ゆえに、この両者の伝搬経路の差は、前者の復路におけるB→C、後者の復路におけるB→Aとなる。
したがって、図6で説明したように、直角三角形ABCを考えると、BCとBAでは辺の長さ、すなわち、伝搬距離の比が2:1となっているものの、伝搬音速が鋼材に対するレイリー波音速と水中の縦波音速で1:2となっているため、B→CとB→Aの受信時間はほぼ等しくなる。
以上説明したように、本実施形態によれば、アレイ探触子を用いて、送信に用いるアレイ素子群を固定する場合においても、欠陥からの受信時間を一定にすることができるため、探触子位置が欠陥から遠く、欠陥からの反射波が弱い場合でも、欠陥からの反射波の識別が容易になる。
また、欠陥からの受信時間を一定にすることができるため、集束ビームを用いることができ、SN比の改善や分解能の向上を図ることができる。
次に、図19〜図22を用いて、本発明の第4の実施形態による超音波探傷装置の構成及び動作について説明する。なお、本実施形態による超音波探傷装置の適用対象は、図1に示したものと同様である。また、本実施形態による超音波探傷装置の全体構成は、図2に示したものと同様である。さらに、本実施形態による超音波探傷装置に用いる走査機構7の構成は、図3に示したものと同様である。また、本実施形態による超音波探傷装置に用いる送受信部6の構成は、図4に示したものと同様である。また、本実施形態による超音波探傷装置に用いる表示部9の構成は、図17に示したものと同様である。
最初に、図19〜図22を用いて、本発明の第4の実施形態による超音波探傷装置における表示処理の内容について説明する。
図19は、本発明の第4の実施形態による超音波探傷装置に用いる計算機による表示処理の内容を示すフローチャートである。図20及び図21は、本発明の第4の実施形態による超音波探傷装置における受信信号の説明図である。
本実施形態は、前述の第1、第2、第3の実施形態において、超音波探触子(焦点型探触子またはアレイ探触子)における受信位置に対応する受信波形を加算(または平均)して表示した波形を表示するものである。
図19のステップS10において、探傷の範囲および条件を設定し、ステップS20において、送信および受信の位置、たとえば、送信と受信を同一の位置とするのか、受信位置のみ移動させるのか、また受信間隔(たとえば、1mmピッチなど)を決定し、ステップS30において、探傷を開始する。
次に、ステップS40において、超音波を送信した後、ステップS50において、所定の位置で超音波を受信し、ステップS60において、受信波形を記録する。
次に、ステップS70において、受信位置を移動させ、ステップS80の判定処理で、探傷前に設定した所定の範囲を終了するまで、ステップS40〜ステップS70を繰り返して探傷を実行する。なお、以上の処理は、第1〜第3の実施形態と同様である。
本実施形態では、さらに、ステップS90において、記録された受信波形を、受信の時間軸をそろえて加算(または平均)し、最後に、ステップS100において、処理波形を表示する。
ここで、図20及び図21により、探触子で受信される代表的な信号について説明する。
超音波探触子またはアレイ探触子の送信位置1701から発射される超音波は、現実的には有限の広がり1702をもっている。図21には、超音波の伝わる方向とその方向に対する受信強度を模式的に曲線1702で示している。例えば、図21に示すように、探触子から入射方向1703に超音波を送信する場合では、入射方向1703により強い超音波が送信されるだけであり、別の方向1704にも、入射方向1703と比較してほぼ半分程度の受信強度で超音波が送信されることとなる。
このようにある一定の広がりのある超音波により探傷を行うと、図21に示すように、被検査体表面110に直交する方向に発射される超音波1801により、境界部1804からも反射波が得られることとなる。なお、欠陥104に起因する反射源としては、例えば、欠陥の開口部1802や、欠陥開口部からさらに欠陥の深い部分にレイリー波が伝搬するために、欠陥の先端部1803からも反射波が発生する。
次に、図22を用いて、本発明の第4の実施形態による超音波探傷装置における表示例について説明する。
図22は、本発明の第4の実施形態による超音波探傷装置における表示例の説明図である。
このような反射波(反射源)が想定されるために、受信信号の表示例として、図22に示すように、横軸に受信時間(または伝搬距離)、縦軸に受信位置をとると、被検査体の表面からの信号1603、欠陥の開口部からの反射波1604、欠陥先端からの反射波1605の3種類の信号が受信されることとなる。これらの信号のうち、欠陥の存在を示す信号、すなわち、欠陥の検出を意味する信号である、欠陥開口部からの信号1604は、第1から第3の実施形態で説明したように、欠陥からの反射波はほぼ同時刻に受信されるという特徴をもつので、欠陥からの反射波の受信が想定される範囲(時間ゲート1601)に表示される信号1604は、加算処理により強め合う。一方、被検査体表面からの信号1603は超音波受信位置によって受信時間がことなるために、加算による強め合いがおきずに、弱いままとなる。また、欠陥先端からの信号1605も欠陥開口部からの信号と同様の理由により受信時間がほぼ同一となるので、加算処理により強め合うことが期待できる。
そのため、処理結果はグラフ1601のようになり、被検査体表面からの信号1603、欠陥開口部からの信号1604、欠陥先端からの信号1605は、それぞれ、1603S、1604S、1605Sのように加算(または平均)処理により受信強度が変化する。特に、本実施例の処理により、欠陥開口部からの信号強度が増幅することにより、欠陥開口部の信号の識別性を向上させることができる。
以上説明したように、本実施形態によれば、アレイ探触子を用いて、送信に用いるアレイ素子群を固定する場合においても、欠陥からの受信時間を一定にすることができるため、探触子位置が欠陥から遠く、欠陥からの反射波が弱い場合でも、欠陥からの反射波の識別が容易になる。また、欠陥からの反射波の識別性をさらに向上できる。
また、欠陥からの受信時間を一定にすることができるため、集束ビームを用いることができ、SN比の改善や分解能の向上を図ることができる。
次に、図23及び図24を用いて、本発明の第5の実施形態による超音波探傷装置の構成及び動作について説明する。
図23は、本発明の第5の実施形態による超音波探傷装置における遅延時間の設定方法の説明図である。図24は、本発明の第5の実施形態による超音波探傷装置による超音波の発生状態の説明図である。
本実施形態は、第2または第3の実施形態と同様に、超音波探触子として、アレイ探触子を用いた場合と基本的な構成は同じである。相違点はアレイ探触子を構成する圧電素子の間隔と、圧電素子に与える遅延時間の方法が異なる点である。
一般に、アレイ探触子を構成する圧電素子は、図10〜図12に示すように、1次元または2次元方向に一定の間隔で配列されている。この一定の間隔のことを素子ピッチ(P)という。アレイ探触子を構成する圧電素子に所定の遅延時間を与えてある方向に超音波を送信(または受信)する場合に、本来所望する方向と異なる方向にも超音波が送信(または受信)される物理現象が知られている。この現象は、素子ピッチ(P)に依存することが知られている。
アレイ探触子から本来所望する方向へと送信(または受信)される超音波はメインローブと呼ばれ、それ以外の異なる方向への送信(または受信)される超音波はグレーティングローブと呼ばれる。
ある素子ピッチ(P)から構成されるアレイ探触子において、アレイ探触子から垂直方向に超音波を入射させる場合、グレーティングローブが発生する角度(θP)と素子ピッチ(P)の間には、以下の(式2)のような関係式が成立する。
P = λ/(1+sin|θP|) …(2)

ここで、Pは素子ピッチであり、λは超音波の波長であり、θPはグレーティングローブの発生角度である。
そこで、仮に全方位(±90度)の範囲でグレーティングローブの発生を抑えるためには、(式2)から、素子ピッチ(P)を超音波の波長の2分の1未満にすればよいものである。
本実施形態では、図20及び図21で説明したように、発射される超音波の空間的な広がりにより、欠陥からの反射波だけでなく被検査体境界からの反射波も受信される可能性がある。その場合、被検査体境界からの反射波の受信強度が強い場合にはノイズ源となる可能性がある。
そこで、被検査体境界からの反射波と欠陥からの反射波を識別するために、アレイ探触子を構成する隣接する2個以上の素子をグループ化して使用する。具体的には、図23に示すように、隣接する複数個の圧電素子に与える遅延時間を同じにすることで、グループとして振舞うように設定する。すなわち、図23は、一例として、隣接する2個の圧電素子がグループ化される場合の遅延時間の例を示している。図23の場合、i番目と(i+1)番目の素子の中間の値(または平均値)を、隣接する2素子の遅延時間として採用している。
このようにすることで、被検査体境界からの反射波の識別性を向上する原理について説明する。
例として、素子ピッチ(P)を、液体(水など)中の超音波の波長の3分の1に設定する。このように設定すると、(式2)より、グレーティングローブの発生がなく、所望する方向、すなわち、欠陥の探傷に適した方向への超音波(メインローブ;図24の符号1902A)のみの探傷を行うことができる。ただし、この場合においても、超音波には有限の広がりがあるために、被検査体境界からの反射波はある程度受信されてしまう。
次に、このアレイ探触子で隣接する2個の圧電素子をグループ化して使用する。すると、仮想的に、素子ピッチが2倍となり、この仮想素子ピッチは液体中の超音波波長の3分の2倍となる。(式2)より、この場合にはグレーティングローブ1902B,1902Cが発生し、その発生角度は30度となる。
本実施形態では、アレイ探触子は、レイリー波を発生させるため、被検査体境界に対して約30度傾斜して設置されているため、圧電素子をグループ化した場合のグレーティングローブはちょうど被検査体境界に直交する方向1903Cに伝搬することとなる。このため、グループ化していないときと比較して、被検査体境界からの反射波を強い受信強度で受信できることとなり、被検査体境界からの反射波の識別が容易となる。これにより、グルーピングしていないときの波形から被検査体境界からの反射波を特定することが容易となり、欠陥からの反射波の識別性の向上を図ることができる。
また、本実施形態によると、被検査体境界に対して、アレイ探触子を約30度に設定することとなっているが、被検査体に対して探触子の位置を遠隔で設定する場合には、アレイ探触子と被検査体の位置関係を知る必要がある。この場合に、アレイ探触子を構成する圧電素子をグループ化して、メインローブに対して30度方向にグレーティングローブを発生させるようにすることで、グレーティングローブを使って被検査体境界に向かって超音波を入射し、被検査体境界からの反射波がピークとなるようにアレイ探触子の位置を調整する。グレーティングローブはメインローブに対して30度方向に発生するように設定されているので、被検査体境界からの反射波が最大となるセンサ位置に設定したのち、圧電素子をグループ化しないように使用することで、被検査体表面に対してアレイ探触子を約30度に設定しタ状態で、本来の所望の方向に伝搬する超音波(メインローブ)を伝搬することができる。
以上のように、本実施形態によれば、アレイ探触子を構成する圧電素子のうち、隣接する2個以上の圧電素子をグループ化して使用することで、被検査体境界からの信号の識別性を向上させることができ、また、アレイ探触子を被検査体境界に対して約30度の位置関係に容易に設定することが可能となる。
なお、以上の各実施形態においては、超音波探触子として、焦点型やアレイ型のように、集束ビームを用いる探触子について説明してきたが、本発明は、非集束ビームの探触子についても適用できるものである。すなわち、非集束ビームの探触子においては、ビーム強度は、探触子からの距離に応じて、増減しながら変化するが、ある距離において極大値を有する。本発明では、欠陥からの受信時間を一定にすることができるため、欠陥からの受信時間として想定される受信時間に相当する位置に、ビーム強度の極大値を合わせるようにすることで、探触子位置が変化しても、焦点が形成される場所が一定となり、集束ビームを用いることができ、SN比の改善や分解能の向上を図ることができる。
図1は、本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置の適用対象の説明図である。 本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置の全体構成を示すブロック図である。 本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置に用いる走査機構の構成を示すブロック図である。 本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置に用いる送受信部及び表示部の構成を示すブロック図である。 本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置において、欠陥からの信号が同じ位置に現れる原理説明図である。 本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置において、欠陥からの信号が同じ位置に現れる原理説明図である。 本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置における横波臨界角の説明図である。 本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置における音速比と横波臨界角の関係の説明図である。 本発明の第1の実施形態による超音波探傷装置における音速比と横波臨界角の関係の説明図である。 本発明の第2の実施形態による超音波探傷装置に用いるアレイ型探触子の構成を示す斜視図である。 本発明の第2の実施形態による超音波探傷装置に用いるアレイ型探触子の構成を示す斜視図である。 本発明の第2の実施形態による超音波探傷装置に用いるアレイ型探触子の構成を示す斜視図である。 本発明の第2の実施形態による超音波探傷装置に用いるアレイ型探触子の電気的制御原理の説明図である。 本発明の第2の実施形態による超音波探傷装置に用いるアレイ型探触子の電気的制御原理の説明図である。 本発明の第2の実施形態による超音波探傷装置に用いるアレイ型探触子の電気的制御原理の説明図である。 本発明の第2の実施形態による超音波探傷装置に用いる送受信部及び表示部の構成を示すブロック図である。 本発明の第2の実施形態による超音波探傷装置における第2の表示例の説明図である。 本発明の第3の実施形態による超音波探傷装置において、欠陥からの信号が同じ位置に現れる原理説明図である。 本発明の第4の実施形態による超音波探傷装置に用いる計算機による表示処理の内容を示すフローチャートである。 本発明の第4の実施形態による超音波探傷装置における受信信号の説明図である。 本発明の第4の実施形態による超音波探傷装置における受信信号の説明図である。 本発明の第4の実施形態による超音波探傷装置における表示例の説明図である。 本発明の第5の実施形態による超音波探傷装置における遅延時間の設定方法の説明図である。 本発明の第5の実施形態による超音波探傷装置による超音波の発生状態の説明図である。
符号の説明
6,6A…送受信部
7…走査機構
9…表示部
101…超音波探触子
101A…アレイ探触子
102…検査対象
104…欠陥
1001…圧電素子
1002…圧電素子群

Claims (10)

  1. 圧電素子からなる超音波探触子と、前記超音波探触子から超音波を送信しまた前記超音波探触子により超音波を受信する送受信部と、前記送受信部にて受信された超音波信号を表示する表示部とを有し、
    前記超音波探触子の少なくとも一部を液体中に浸漬させ超音波を発信させ、金属などの固体の被検体を検査する超音波探傷装置であって、
    前記被検体の表面に対して、横波臨界角を超える入射角度で超音波を入射させることにより被検体の表面に表面波を発生させる角度で、前記超音波探触子を配置するとともに、前記被検体の表面に対して、前記角度に傾斜した直線上で、前記超音波探触子を走査する走査手段を備えることを特徴とする超音波探傷装置。
  2. 請求項1記載の超音波探傷装置において、
    前記超音波探触子は、集束ビームを発生するものであるとともに、複数の圧電素子の配列からなるアレイ探触子であり、
    前記走査手段は、前記複数の圧電素子の内、所定の数の圧電素子からなる圧電素子群を順次電気的に切替ることにより、受信位置を移動することを特徴とする超音波探傷装置。
  3. 請求項2記載の超音波探傷装置において、
    前記超音波探触子を構成する圧電素子は、その表面において、圧電素子の配列方向と直交する方向に曲率を有することを特徴とする超音波探傷装置。
  4. 請求項1記載の超音波探傷装置において、
    前記超音波探触子は、集束ビームを発生する焦点型探触子であり、
    前記走査手段は、前記焦点型探触子を、機械的に走査して、受信位置を移動することを特徴とする超音波探傷装置。
  5. 圧電素子からなる超音波探触子の全部または一部を液体中に浸漬させ超音波を発信させ、金属などの固体の被検体を検査する水浸法または部分水浸法の超音波探傷方法において、
    前記被検体の表面に対して、横波臨界角を超える入射角度で超音波を入射させることにより被検体の表面に表面波を発生させる角度で、前記超音波探触子を配置するとともに、前記被検体の表面に対して、前記角度に傾斜した直線上で、前記超音波探触子を走査する走査することを特徴とする超音波探傷方法。
  6. 請求項5記載の超音波探傷方法において、
    前記超音波探触子として、複数個の圧電素子の配列からなるアレイ探触子を用い、
    フェーズドアレイ方式により、同一の素子群により送信と受信を行うことを特徴とする超音波探傷方法。
  7. 請求項5に記載の超音波探傷方法において、
    前記超音波探触子として、複数個の圧電素子の配列からなるアレイ探触子を用い、
    フェーズドアレイ方式により、送信する素子群を固定し、受信する素子群を変えることを特徴とする超音波探傷方法。
  8. 請求項6若しくは請求項7のいずれかに記載の超音波探傷方法において、
    前記アレイ探触子を構成する圧電素子に対して、隣接する2つ以上の圧電素子の送信または受信のタイミングを同一とすることを特徴とする超音波探傷方法。
  9. 請求項5に記載の超音波探傷方法において、
    前記超音波探触子の走査時に、それぞれの走査位置における受信波形を、逐次加算または平均することを特徴とする超音波探傷方法。
  10. 請求項5に記載の超音波探傷方法において、
    前記超音波探触子の走査時の、それぞれの走査位置における受信波形を、横軸が受信時間で縦軸が受信強度の関係で表示するとともに、各走査位置における受信波形を、横軸の各受信時間を揃えて表示することを特徴とする超音波探傷方法。
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