イオンビーム減衰器の平均または全体的透過率がx%であり、xが、(i)<0.01;(ii)0.01〜0.05;(iii)0.05〜0.1;(v)0.1〜0.5;(vi)0.5〜1.0;(vii)1〜5;(viii)5〜10;(ix)10〜15;(x)15〜20;(xi)20〜25;(xii)25〜30;(xiii)30〜35;(xiv)35〜40;(xv)40〜45;(xvi)45〜50;(xvii)50〜55;(xviii)55〜60;(xix)60〜65;(xx)65〜70;(xxi)70〜75;(xxii)75〜80;(xxiii)80〜85;(xxiv)85〜90;(xxv)90〜95;および(xxvi)>95からなる群から選択されるのが好ましい。
イオンビーム減衰器が、第1の動作モードと第2の動作モードとで、(i)<1Hz;(ii)1〜10Hz;(iii)10〜50Hz;(iv)50〜100Hz;(v)100〜200Hz;(vi)200〜300Hz;(vii)300〜400Hz;(viii)400〜500Hz;(ix)500〜600Hz;(x)600〜700Hz;(xi)700〜800Hz;(xii)800〜900Hz;(xiii)900〜1000Hz;(xiv)1〜2kHz;(xv)2〜3kHz;(xvi)3〜4kHz;(xvii)4〜5kHz;(xviii)5〜6kHz;(xix)6〜7kHz;(xx)7〜8kHz;(xxi)8〜9kHz;(xxii)9〜10kHz;(xxiii)10〜15kHz;(xxiv)15〜20kHz;(xxv)20〜25kHz;(xxvi)25〜30kHz;(xxvii)30〜35kHz;(xxviii)35〜40kHz;(xxix)40〜45kHz;(xxx)45〜50kHz;および(xxxi)>50kHzの周波数で切り換えられるのが好ましい。
イオンビーム減衰器を、期間ΔT1にわたって第1の動作モードで動作させた後、期間ΔT2にわたって第2の動作モードで動作させるのが好ましい。好適な実施形態によると、ΔT1>ΔT2である。しかしながら、やや好適な実施形態によると、ΔT1≦ΔT2である。
期間ΔT1が、(i)<0.1μ秒;(ii)0.1〜0.5μ秒;(iii)0.5〜1μ秒;(iv)1〜50μ秒;(v)50〜100μ秒;(vi)100〜150μ秒;(vii)150〜200μ秒;(viii)200〜250μ秒;(ix)250〜300μ秒;(x)300〜350μ秒;(xi)350〜400μ秒;(xii)400〜450μ秒;(xiii)450〜500μ秒;(xiv)500〜550μ秒;(xv)550〜600;(xvi)600〜650μ秒;(xvii)650〜700μ秒;(xviii)700〜750μ秒;(xix)750〜800μ秒;(xx)800〜850μ秒;(xxi)850〜900μ秒;(xxii)900〜950μ秒;(xxiii)950〜1000μ秒;(xxiv)1〜10m秒;(xxv)10〜50m秒;(xxvi)50〜100m秒;(xxvii)>100m秒からなる群から選択されるのが好ましい。
同様に、期間ΔT2が、(i)<0.1μ秒;(ii)0.1〜0.5μ秒;(iii)0.5〜1μ秒;(iv)1〜50μ秒;(v)50〜100μ秒;(vi)100〜150μ秒;(vii)150〜200μ秒;(viii)200〜250μ秒;(ix)250〜300μ秒;(x)300〜350μ秒;(xi)350〜400μ秒;(xii)400〜450μ秒;(xiii)450〜500μ秒;(xiv)500〜550μ秒;(xv)550〜600;(xvi)600〜650μ秒;(xvii)650〜700μ秒;(xviii)700〜750μ秒;(xix)750〜800μ秒;(xx)800〜850μ秒;(xxi)850〜900μ秒;(xxii)900〜950μ秒;(xxiii)950〜1000μ秒;(xxiv)1〜10m秒;(xxv)10〜50m秒;(xxvi)50〜100m秒;(xxvii)>100m秒からなる群から選択されるのが好ましい。
質量分析計が制御装置をさらに含み、使用時に、制御装置が、イオンビーム減衰器の透過または減衰を調節するかまたは変化させるために期間ΔT1および/または期間ΔT2を調節するのが好ましい。
好適な実施形態によると、イオンビーム減衰器の透過または減衰を調節するかまたは変化させるためにマークスペース比ΔT2/ΔT1が調節される。
質量分析計がイオン検出器をさらに含み、第1の動作モードおよび/または第2の動作モードにおいて、イオンのビームの少なくとも一部分が実質的にイオン検出器に向けられ、イオン検出器がイオンのビームのイオン電流を測定するのが好ましい。
制御装置が、イオン検出器によって測定されたイオン電流に基づいて、期間ΔT1および/または期間ΔT2を調節するかまたは変化させるのが好ましい。
一実施形態によると、1つまたは複数のマススペクトルにおける1つまたは複数のマスピークが飽和効果を受けていると判断されるかあるいは飽和に近づいていると判断された場合は、期間ΔT1および/または期間ΔT2が調節されるかまたは変化させられる。
一実施形態によると、マスデータまたはマススペクトルデータが飽和効果を受けていると判断されるかあるいは飽和に近づいていると判断された場合は、期間ΔT1および/または期間ΔT2が調節されるかまたは変化させられる。
一実施形態によると、イオン電流がある一定のレベルまたは閾値を越えていると判断された場合は、期間ΔT1および/または期間ΔT2が調節されるかまたは変化させられる。
イオンビーム減衰器が1つまたは複数の静電レンズを含むのが好ましい。1つまたは複数の静電レンズが1つまたは複数の電極を含み、第1の動作モードにおいて、1つまたは複数の電極に1つまたは複数の第1の電圧が印加され、第2の動作モードにおいて、1つまたは複数の電極に1つまたは複数の第2の異なる電圧が印加されるのが好ましい。
1つまたは複数の第1の電圧が、(i)±0〜10V;(ii)±10〜20V;(iii)±20〜30V;(iv)±30〜40V;(v)±40〜50V;(vi)±50〜60V;(vii)±60〜70V;(viii)±70〜80V;(ix)±80〜90V;(x)±90〜100V;(xi)±100〜200V;(xii)±200〜300V;(xiii)±300〜400V;(xiv)±400〜500V;(xv)±500〜600V;(xvi)±600〜700V;(xvii)±700〜800V;(xviii)±800〜900V;(xix)±900〜1000V;(xx)>1000V;および(xxi)<−1000Vからなる群から選択される範囲にあるのが好ましい。
1つまたは複数の第2の電圧が、(i)±0〜10V;(ii)±10〜20V;(iii)±20〜30V;(iv)±30〜40V;(v)±40〜50V;(vi)±50〜60V;(vii)±60〜70V;(viii)±70〜80V;(ix)±80〜90V;(x)±90〜100V;(xi)±100〜200V;(xii)±200〜300V;(xiii)±300〜400V;(xiv)±400〜500V;(xv)±500〜600V;(xvi)±600〜700V;(xvii)±700〜800V;(xviii)±800〜900V;(xix)±900〜1000V;(xx)>1000V;および(xxi)<−1000Vからなる群から選択される範囲にあるのが好ましい。
第1の動作モードにおいて、イオンビーム減衰器の1つまたは複数の電極に電圧が印加され、電圧が、イオンのビームを減速し、および/または偏向し、および/または反射し、および/またはそらすように作用する電場を発生させるのが好ましい。
1つまたは複数の静電レンズが、少なくとも第1、好ましくは第2、さらに好ましくは第3の電極または少なくとも第1、好ましくは第2、さらに好ましくは第3の電極対を含むのが好ましい。第1の動作モードにおいて、イオンビーム減衰器の第1および/もしくは第2および/もしくは第3の電極または第1および/もしくは第2および/もしくは第3の電極対に電圧が印加され、電圧が、イオンのビームを減速し、および/または偏向し、および/または反射し、および/またはそらすように作用する電場を発生させるのが好ましい。他の実施形態によると、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器は、異なる数または組み合わせの電極を含んでいてもよい。
イオンビーム減衰器が差動排気出口電極またはプレートをさらに含むのが好ましい。差動排気出口電極またはプレートが、(i)<1mm2;(ii)1〜2mm2;(iii)2〜3mm2;(iv)3〜4mm2;(v)4〜5mm2;(vi)5〜6mm2;(vii)6〜7mm2;(viii)7〜8 mm2;(ix)8〜9 mm2;(x)9〜10mm2;および(xi)>10mm2からなる群から選択される面積を有する開口部を有するのが好ましい。他の実施形態によると、差動排気出口電極またはプレートは、円形または非円形の外形を有していてもよく、上記の好適な実施形態とは異なるサイズの開口部を有していてもよい。
第1の動作モードにおいて、イオンのビームが減速され、および/または反射され、および/または偏向され、および/またはそらされるのが好ましい。第2の動作モードにおいて、イオンのビームが実質的に減速されず、および/または反射されず、および/または偏向されず、および/またはそらされないのが好ましい。
やや好適な実施形態によると、イオンビーム減衰器は、機械式シャッターまたは機械式イオンビーム減衰器を含み得る。別のやや好適な実施形態によると、イオンビーム減衰器は、磁気式イオンゲートまたは磁気式イオンビーム減衰器を含み得る。
質量分析計は、イオンビーム減衰器の上流および/または下流に配置された1つまたは複数のマスフィルタをさらに含むのが好ましい。
質量分析計は、イオンビーム減衰器の上流および/または下流に配置された1つもしくは複数のイオンガイドまたは1つもしくは複数のガス衝突セルをさらに含むのが好ましい。1つまたは複数のイオンガイドまたはガス衝突セルが、使用時に、(i)<0.001ミリバール;(ii)0.001〜0.005ミリバール;(iii)0.005〜0.01ミリバール;(iv)0.01〜0.05ミリバール;(v)0.05〜0.1ミリバール;(vi)0.1〜0.5ミリバール;(vii)0.5〜1ミリバール;および(viii)>1ミリバールからなる群から選択される圧力に維持されるのが好ましい。他の実施形態によると、1つまたは複数のイオンガイドまたはガス衝突セルを、上記に詳細を示した好適な圧力範囲以外の圧力で設けてもよい。
1つまたは複数のイオンガイドまたはガス衝突セルが、パルス状または非連続のイオンビームを実質的に連続、擬似連続またはほぼ連続したイオンビームに変換するように作用するのが好ましい。
一実施形態によると、1つまたは複数のイオンガイドまたはガス衝突セルの少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%に沿って1つまたは複数の軸方向DC電位勾配が維持される。
一実施形態によると、少なくとも一部のイオンが1つまたは複数のイオンガイドまたはガス衝突セルに沿うように、1つまたは複数のイオンガイドまたはガス衝突セルの少なくとも一部分に1つまたは複数の経時変化するDC電位またはDC電位波形が印加される。
一実施形態によると、1つまたは複数の軸方向トラップ領域が1つまたは複数のイオンガイドまたはガス衝突セルの内部に設けられ、1つまたは複数の軸方向トラップ領域を、1つまたは複数のイオンガイドまたはガス衝突セルの少なくとも一部分に沿って平行移動させる。
1つまたは複数のイオンガイドまたはガス衝突セルが、(i)RFまたはAC多重極ロッドセットイオンガイドまたはガス衝突セル;(ii)分割RFまたはAC多重極ロッドセットイオンガイドまたはガス衝突セル;(iii)使用時にイオンが透過する開口部を有する複数の電極を含み、好ましくは電極の少なくとも50%が実質的に同様の大きさの開口部を有するRFまたはACイオントンネルイオンガイドまたはガス衝突セル;および(iv)使用時にイオンが透過する開口部を有する複数の電極を含み、好ましくは電極の少なくとも50%が次第に大きくなっていくかまたは小さくなっていく開口部を有するRFまたはACイオン漏斗イオンガイドまたはガス衝突セルからなる群から選択されるのが好ましい。イオントンネルイオンガイドまたはガス衝突セルが電極の50%未満が実質的に同様のサイズの開口部を有するようなものである他の実施形態が考えられる。同様に、イオン漏斗イオンガイドまたはガス衝突セルが電極の50%未満が次第に大きくなっていくかまたは小さくなっていく開口部を有するようなものである実施形態が考えられる。
質量分析計は、質量分析器をさらに含むのが好ましい。質量分析器が、(i)直交加速飛行時間質量分析器;(ii)軸方向加速飛行時間質量分析器;(iii)ポール3D四重極イオントラップ質量分析器;(iv)2Dまたはリニア四重極イオントラップ質量分析器;(v)フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析器;(vi)磁場型質量分析器;(vii)四重極質量分析器;および(viii)ぺニングトラップ質量分析器からなる群から選択されるのが好ましい。
質量分析器が、使用時に、周波数f1で質量分析またはマススペクトル、マスデータもしくはマススペクトルデータの取得、ヒストグラム化、蓄積、記録もしくは出力を行い、イオンビーム減衰器が、使用時に、周波数f2で第1の動作モードから第2の動作モードへ切り換わるのが好ましい。好適な実施形態によると、周波数f2は周波数f1とは非同期である。f2>f1であるのが好ましい。比f2/f1が、少なくとも(i)2;(ii)3;(iv)4;(v)5;(vi)6;(vii)7;(viii)8;(ix)9;(x)10;(xi)15;(xii)20;(xiii)25;(xiv)30;(xv)35;(xvi)40;(xvii)45;(xviii)50;(xix)55;(xx)60;(xxi)65;(xxii)70;(xxiii)75;(xxiv)80;(xxv)85;(xxvi)90;(xxvii)95;(xxviii)100;(xxix)110;(xxx)120;(xxxi)130;(xxxii)140;(xxxiv)150;(xxxv)160;(xxxvi)170;(xxxvii)180;(xxxviii)190;(xxxix)200;(xxxx)250;(xxxxi)300;(xxxxii)350;(xxxxiii)400;(xxxxiv)450;および(xxxxv)500であるのがさらに好ましい。やや好適な実施形態によると、f2≦f1である。
質量分析計は、(i)エレクトロスプレーイオン化(「ESI」)イオン源;(ii)大気圧光イオン化(「APPI」)イオン源;(iii)大気圧化学イオン化(「APCI」)イオン源;(iv)マトリックス支援レーザー脱離イオン化(「MALDI」)イオン源;(v)レーザー脱離イオン化(「LDI」)イオン源;(vi)大気圧イオン化(「API」)イオン源;(vii)シリコン上脱離イオン化(「DIOS」)イオン源;(viii)電子衝撃(「EI」)イオン源;(ix)化学イオン化(「CI」)イオン源;(x)電界イオン化(「FI」)イオン源;(xi)電界脱離(「FD」)イオン源;(xii)誘導結合プラズマ(「ICP」)イオン源;(xiii)高速原子衝撃(「FAB」)イオン源;(xiv)液体二次イオン質量分析(「LSIMS」)イオン源;(xv)脱離エレクトロスプレーイオン化(「DESI」)イオン源;および(xvi)ニッケル63放射性イオン源(Nickel-63 radioactive ion source)からなる群から選択されるイオン源をさらに含むのが好ましい。
本発明の一局面によると、イオンビーム減衰器を含む質量分析計であって、使用時に、イオンビーム減衰器が、イオンビーム減衰器を通過するイオンビームを減衰させ、1つのサイクルにおいて、イオンビーム減衰器が、(a)イオンビーム減衰器から出射するイオンの透過率が実質的に0%である期間ΔT1にわたってイオンビームを実質的に減衰させ、その後、(b)イオンがイオンビーム減衰器から出射するように期間ΔT2にわたってイオンビームを実質的に透過させる質量分析計が提供される。
質量分析計は、イオンビーム減衰器の減衰または透過の程度を調節するかまたは変化させるためにマークスペース比ΔT2/ΔT1を調節するための制御装置をさらに含むのが好ましい。
本発明の一局面によると、使用時に第1の動作モードと第2の動作モードとで繰り返し切り換えられる、イオンのビームを減衰させるためのイオンビーム減衰器と、使用時にイオンビーム減衰器のモード間切り換えとは非同期で質量分析またはマススペクトル、マスデータもしくはマススペクトルデータの取得、ヒストグラム化、蓄積、記録もしくは出力を行う、イオンビーム減衰器から減衰されたイオンのビームを受け取るようになっている質量分析器とを含む質量分析計が提供される。
本発明の一局面によると、使用時に第1の周波数で第1の動作モードと第2の動作モードとで繰り返し切り換えられる、イオンのビームを減衰させるためのイオンビーム減衰器と、使用時に第2の周波数で質量分析またはマススペクトル、マスデータもしくはマススペクトルデータの取得、ヒストグラム化、蓄積、記録もしくは出力を行う、イオンビーム減衰器から減衰されたイオンのビームを受け取るようになっている質量分析器とを含み、第1の周波数が第2の周波数よりも大きい質量分析計が提供される。
第1の周波数が、第2の周波数よりも少なくとも10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍または100倍大きいのが好ましい。
本発明の一局面によると、イオンビーム減衰器;イオンビーム減衰器の下流に配置され、非連続なイオンのビームを実質的に連続したイオンのビームに変換するようになっているイオンガイドまたはガス衝突セル;およびイオンガイドまたはガス衝突セルの下流に配置された質量分析器;とを含み、使用時に、イオンビーム減衰器が、質量分析器が質量分析またはマススペクトル、マスデータもしくはマススペクトルデータの取得、ヒストグラム化、蓄積、記録もしくは出力を行うよりも少なくとも10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍または100倍速く、第1の動作モードと第2の動作モードとで切り換えられる質量分析計が提供される。
本発明の一局面によると、使用時に、繰り返しオンおよびオフに切り換えられ、オンに切り換えられた場合にイオンが実質的に100%減衰する、イオンビームを減衰率で減衰させるためのイオンビーム減衰器;および、減衰率を変化させるためにイオンビーム減衰器がオンである時間とイオンビーム減衰器がオフである時間の比を変更するかまたは変化させるための制御装置;とを含む質量分析計が提供される。
本発明の一局面によると、イオンビームを減衰させるようになっている、(a)イオンビームのチョッピング、遮断もしくは100%偏向または減速とその後の(b)前記イオンビームの透過とを繰り返し行うための装置を含む質量分析計が提供される。
本発明の一局面によると、イオンビームを減衰させるための装置を含む質量分析計であって、イオンビームの減衰の程度が装置のマークスペース比を設定することによって決定される質量分析計が提供される。
本発明の一局面によると、使用時にイオンのパケットまたはパルスを放出するイオンビーム減衰器;および、イオンビーム減衰器の下流に配置され、イオンのパケットまたはパルスを連続または擬似連続したイオンビームに実質的に変換または平滑化するイオンガイドまたはガス衝突セル;とを含む質量分析計が提供される。
質量分析計は、イオンビーム減衰器を繰り返しオンおよびオフに切り換えるための手段;および、イオンビームが減衰する期間とイオンビームが透過する期間の比である、切り換えサイクルのマークスペース比を変化させるための手段;とをさらに含むのが好ましい。
本発明の一局面によると、イオンビーム減衰器を、イオン透過率が実質的に0%である第1の動作モードとイオン透過率が>0%である第2の動作モードとの間で繰り返し切り換えることを含む質量分析の方法が提供される。
本発明の一局面によると、イオンビーム減衰器を通過するイオンビームを減衰させることを含む質量分析の方法であって、1つのサイクルにおいて、イオンビーム減衰器が、(a)イオンビーム減衰器から出射するイオンの透過率が実質的に0%である期間ΔT1にわたってイオンビームを実質的に減衰させ、その後、(b)イオンビーム減衰器からイオンが出射するように期間ΔT2にわたってイオンビームを実質的に透過させる方法が提供される。
本発明の一局面によると、イオンビーム減衰器を第1の動作モードと第2の動作モードとで繰り返し切り換えることによってイオンのビームを減衰させることと、イオンビーム減衰器のモード間切り換えとは非同期で質量分析またはマススペクトル、マスデータもしくはマススペクトルデータの取得、ヒストグラム化、蓄積、記録もしくは出力を行うこととを含む質量分析の方法が提供される。
本発明の一局面によると、イオンビーム減衰器を第1の周波数で第1の動作モードと第2の動作モードとで繰り返し切り換えることによってイオンのビームを減衰させることと、第2の周波数で質量分析またはマススペクトル、マスデータもしくはマススペクトルデータの取得、ヒストグラム化、蓄積、記録もしくは出力を行うこととを含み、第1の周波数が第2の周波数よりも大きい質量分析の方法が提供される。
本発明の一局面によると、イオンビーム減衰器を設けることと、非連続なイオンのビームを実質的に連続したイオンのビームに変換するためにイオンビーム減衰器の下流にイオンガイドまたはガス衝突セルを設けることと、イオンガイドまたはガス衝突セルの下流に質量分析器を設けることと、イオンビーム減衰器を、質量分析器が質量分析またはマススペクトル、マスデータもしくはマススペクトルデータの取得、ヒストグラム化、蓄積、記録もしくは出力を行うよりも少なくとも10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍または100倍速く、第1の動作モードと第2の動作モードとで切り換えることとを含む質量分析の方法が提供される。
本発明の一局面によると、イオンビーム減衰器をオンに切り換えた場合にイオンが実質的に100%減衰し、イオンビーム減衰器を繰り返しオンおよびオフに切り換えることによって、イオンビームを減衰率で減衰させることと、減衰率を変化させるために、イオンビーム減衰器がオンである時間とイオンビーム減衰器がオフである時間の比を変更するかまたは変化させることとを含む質量分析の方法が提供される。
本発明の一局面によると、イオンビームを減衰させるために(a)イオンビームのチョッピング、遮断もしくは100%偏向または減速とその後の(b)イオンビームの透過とを繰り返し行うことを含む質量分析の方法が提供される。
本発明の一局面によると、イオンビームを減衰させることを含む質量分析の方法であって、イオンビームの減衰の程度が装置のマークスペース比を設定することによって決定される方法が提供される。
本発明の一局面によると、イオンのパケットまたはパルスを放出するイオンビーム減衰器を設けることと、イオンビーム減衰器の下流に、イオンのパケットまたはパルスを連続または擬似連続したイオンビームに実質的に変換または平滑化するイオンガイドまたはガス衝突セルを設けることとを含む質量分析の方法が提供される。
本発明のさらなる局面によると、イオンのビームを透過および減衰させるためのイオンビーム減衰器と、イオンビームが減衰する減衰動作モードとイオンビームが実質的に減衰しない非減衰動作モードとの間の切り換えを行うための切り換え手段とを含み、減衰動作モードにおいて、イオンビーム減衰器が、イオン透過率が実質的に0%である第1の動作モードとイオン透過率が>0%である第2の動作モードとの間で繰り返し切り換えられる質量分析計が提供される。
本発明のさらなる局面によると、イオンのビームを透過および減衰させるためのイオンビーム減衰器と、イオンビームが第1の率で減衰する第1の減衰動作モードとイオンビームが第2の異なる率で減衰する第2の減衰動作モードとの間の切り換えを行うための切り替え手段とを含み、第1の減衰動作モードにおいては、イオンビーム減衰器が、イオン透過率が実質的に0%である第1の動作モードとイオン透過率が>0%である第2の動作モードとの間で第1のマークスペース比で繰り返し切り換えられ、第2の減衰動作モードにおいては、イオンビーム減衰器が、イオン透過率が実質的に0%である第1の動作モードとイオン透過率が>0%である第2の動作モードとの間で第2の異なるマークスペース比で繰り返し切り換えられる質量分析計が提供される。
第1の減衰動作モードにおいて、イオンビーム減衰器の平均または全体的透過率がx1%であり、x1が、(i)<0.01;(ii)0.01〜0.05;(iii)0.05〜0.1;(v)0.1〜0.5;(vi)0.5〜1.0;(vii)1〜5;(viii)5〜10;(ix)10〜15;(x)15〜20;(xi)20〜25;(xii)25〜30;(xiii)30〜35;(xiv)35〜40;(xv)40〜45;(xvi)45〜50;(xvii)50〜55;(xviii)55〜60;(xix)60〜65;(xx)65〜70;(xxi)70〜75;(xxii)75〜80;(xxiii)80〜85;(xxiv)85〜90;(xxv)90〜95;および(xxvi)>95からなる群から選択されるのが好ましい。
第2の減衰動作モードにおいて、イオンビーム減衰器の平均または全体的透過率がx2%であり、x2が、(i)<0.01;(ii)0.01〜0.05;(iii)0.05〜0.1;(v)0.1〜0.5;(vi)0.5〜1.0;(vii)1〜5;(viii)5〜10;(ix)10〜15;(x)15〜20;(xi)20〜25;(xii)25〜30;(xiii)30〜35;(xiv)35〜40;(xv)40〜45;(xvi)45〜50;(xvii)50〜55;(xviii)55〜60;(xix)60〜65;(xx)65〜70;(xxi)70〜75;(xxii)75〜80;(xxiii)80〜85;(xxiv)85〜90;(xxv)90〜95;および(xxvi)>95からなる群から選択されるのが好ましい。
したがって、好適な一実施形態によると、質量分析計は、イオンビームが実質的に減衰しない動作モードで動作し得、その後、好適な実施形態による方法でイオンビーム減衰器を動作させることによって、すなわち、イオンビーム減衰器を繰り返しオンおよびオフに切り換え、マークスペース比を適宜設定してイオンビームの全体的な減衰を制御することによって、イオンビームが減衰する異なる動作モードへと切り換わり得る。
同様に、好適な一実施形態によると、質量分析計は、イオンビームが第1の率で実質的に減衰する動作モードで動作し得、その後、イオンビームが第2の異なる率で減衰する異なる動作モードに切り換わる。いずれの動作モードにおいても、イオンビーム減衰器は、好適な実施形態による方法で、すなわち、イオンビーム減衰器を繰り返しオンおよびオフに切り換え、オン・オフ間のマークスペース比を適宜設定してイオンビームの全体的な減衰を制御することによって、動作させられる。減衰率は、マークスペース比を2つの動作モード間で異なるように設定することによって、2つの動作モードで異なるように設定される。
本発明の一局面によると、イオンのビームを透過および減衰させるためのイオンビーム減衰器を設けることと、イオンビームが減衰する減衰動作モードとイオンビームが実質的に減衰しない非減衰動作モードとの間の切り換えを行うこととを含み、減衰動作モードにおいては、イオンビーム減衰器が、イオン透過率が実質的に0%である第1の動作モードとイオン透過率が>0%である第2の動作モードとの間で繰り返し切り換えられる質量分析の方法が提供される。
本発明の一局面によると、イオンのビームを透過および減衰させるためのイオンビーム減衰器を設けることと、イオンビームが第1の率で減衰する第1の減衰動作モードと前記イオンビームが第2の異なる率で減衰する第2の減衰動作モードとの間の切り換えを行うこととを含み、第1の減衰動作モードにおいては、イオンビーム減衰器が、イオン透過率が実質的に0%である第1の動作モードとイオン透過率が>0%である第2の動作モードとの間で第1のマークスペース比で繰り返し切り換えられ、第2の減衰動作モードにおいては、イオンビーム減衰器が、イオン透過率が実質的に0%である第1の動作モードとイオン透過率が>0%である第2の動作モードとの間で第2の異なるマークスペース比で繰り返し切り換えられる質量分析の方法が提供される。
第1の減衰動作モードにおいて、イオンビーム減衰器の平均または全体的透過率がx1%であり、x1が、(i)<0.01;(ii)0.01〜0.05;(iii)0.05〜0.1;(v)0.1〜0.5;(vi)0.5〜1.0;(vii)1〜5;(viii)5〜10;(ix)10〜15;(x)15〜20;(xi)20〜25;(xii)25〜30;(xiii)30〜35;(xiv)35〜40;(xv)40〜45;(xvi)45〜50;(xvii)50〜55;(xviii)55〜60;(xix)60〜65;(xx)65〜70;(xxi)70〜75;(xxii)75〜80;(xxiii)80〜85;(xxiv)85〜90;(xxv)90〜95;および(xxvi)>95からなる群から選択されるのが好ましい。
第2の減衰動作モードにおいて、イオンビーム減衰器の平均または全体的透過率がx2%であり、x2が、(i)<0.01;(ii)0.01〜0.05;(iii)0.05〜0.1;(v)0.1〜0.5;(vi)0.5〜1.0;(vii)1〜5;(viii)5〜10;(ix)10〜15;(x)15〜20;(xi)20〜25;(xii)25〜30;(xiii)30〜35;(xiv)35〜40;(xv)40〜45;(xvi)45〜50;(xvii)50〜55;(xviii)55〜60;(xix)60〜65;(xx)65〜70;(xxi)70〜75;(xxii)75〜80;(xxiii)80〜85;(xxiv)85〜90;(xxv)90〜95;および(xxvi)>95からなる群から選択されるのが好ましい。
本発明の一局面によると、イオンのビームを透過および減衰させるためのイオンビーム減衰器と、イオンビームが減衰しない非減衰動作モードと、イオンビーム減衰器がイオン透過率が実質的に0%である第1の動作モードとイオン透過率が>0%である第2の動作モードとの間で繰り返し切り換えられる、イオンビームが実質的に減衰する減衰動作モードとの間の切り換えを行うための切り換え手段と、イオンビーム減衰器の下流の質量分析器と、制御システムとを含み、質量分析器が、使用時に、非減衰動作モードの際の第1のマススペクトルデータと減衰動作モードの際の第2のマススペクトルデータとを得、制御システムが、さらに、(a)第1のマススペクトルデータについて調べ、(b)第1のマススペクトルデータの少なくとも一部が飽和、ひずみまたは数え落としの影響を受けたかどうかを判断し、(c)第1のマススペクトルデータの少なくとも一部が飽和、ひずみまたは数え落としの影響を受けたと判断すると、第1のマススペクトルデータの少なくとも一部の代わりに第2のマススペクトルデータの少なくとも一部を使用する質量分析計が提供される。
イオンビーム減衰器が、非減衰動作モードと減衰動作モードとで定期的におよび/または繰り返し切り換えられるのが好ましい。例えば、イオンビーム減衰器は、非減衰動作モードと減衰動作モードとで、<1Hz、1〜10Hz、10〜20Hz、20〜30Hz、30〜40Hz、40〜50Hz、50〜60Hz、60〜70Hz、70〜80Hz、80〜90Hz、90〜100Hz、100〜200Hz、200〜300Hz、300〜400Hz、400〜500Hz、500〜600Hz、600〜700Hz、700〜800Hz、800〜900Hz、900〜1000Hz、1〜10kHz、10〜20kHz、20〜30kHz、30〜40kHz、40〜50kHz、50〜60kHz、60〜70kHz、70〜80kHz、80〜90kHz、90〜100kHz、100〜200kHz、200〜300kHz、300〜400kHz、400〜500kHz、500〜600kHz、600〜700kHz、700〜800kHz、800〜900kHz、900〜1000kHzまたは>1MHzの周波数で切り換えられ得る。
本発明の一局面によると、イオンのビームを透過および減衰させるためのイオンビーム減衰器と、イオンビームが第1の率で減衰する第1の減衰動作モードとイオンビームが第2の異なる率で減衰する第2の減衰動作モードとの間で切り換えを行うための切り換え手段とを含み、第1の減衰動作モードにおいては、イオンビーム減衰器が、イオン透過率が実質的に0%である第1の動作モードとイオン透過率が>0%である第2の動作モードとの間で第1のマークスペース比で繰り返し切り換えられ、第2の減衰動作モードにおいては、イオンビーム減衰器が、イオン透過率が実質的に0%である第1の動作モードとイオン透過率が>0%である第2の動作モードとの間で第2の異なるマークスペース比で繰り返し切り換えられる質量分析計であって、イオンビーム減衰器の下流の質量分析器と、制御システムとをさらに含み、質量分析器が、使用時に、第1の減衰動作モードの際の第1のマススペクトルデータと第2の減衰動作モードの際の第2のマススペクトルデータとを得、制御システムが、さらに、(a)第1のマススペクトルデータについて調べ、(b)第1のマススペクトルデータの少なくとも一部が飽和、ひずみまたは数え落としの影響を受けたかどうかを判断し、(c)第1のマススペクトルデータの少なくとも一部が飽和、ひずみまたは数え落としの影響を受けたと判断すると、第1のマススペクトルデータの少なくとも一部の代わりに第2のマススペクトルデータの少なくとも一部を使用する質量分析計が提供される。
イオンビーム減衰器が、第1の減衰動作モードと第2の減衰動作モードとで定期的におよび/または繰り返し切り換えられるのが好ましい。例えば、イオンビーム減衰器は、第1の減衰動作モードと第2の減衰動作モードとで、<1Hz、1〜10Hz、10〜20Hz、20〜30Hz、30〜40Hz、40〜50Hz、50〜60Hz、60〜70Hz、70〜80Hz、80〜90Hz、90〜100Hz、100〜200Hz、200〜300Hz、300〜400Hz、400〜500Hz、500〜600Hz、600〜700Hz、700〜800Hz、800〜900Hz、900〜1000Hz、1〜10kHz、10〜20kHz、20〜30kHz、30〜40kHz、40〜50kHz、50〜60kHz、60〜70kHz、70〜80kHz、80〜90kHz、90〜100kHz、100〜200kHz、200〜300kHz、300〜400kHz、400〜500kHz、500〜600kHz、600〜700kHz、700〜800kHz、800〜900kHz、900〜1000kHzまたは>1MHzの周波数で切り換えられ得る。
第1の減衰動作モードにおいて、イオンビーム減衰器の平均または全体的透過率がx1%であり、x1が、(i)<0.01;(ii)0.01〜0.05;(iii)0.05〜0.1;(v)0.1〜0.5;(vi)0.5〜1.0;(vii)1〜5;(viii)5〜10;(ix)10〜15;(x)15〜20;(xi)20〜25;(xii)25〜30;(xiii)30〜35;(xiv)35〜40;(xv)40〜45;(xvi)45〜50;(xvii)50〜55;(xviii)55〜60;(xix)60〜65;(xx)65〜70;(xxi)70〜75;(xxii)75〜80;(xxiii)80〜85;(xxiv)85〜90;(xxv)90〜95;および(xxvi)>95からなる群から選択されるのが好ましい。
第2の減衰動作モードにおいて、イオンビーム減衰器の平均または全体的透過率がx2%であり、x2が、(i)<0.01;(ii)0.01〜0.05;(iii)0.05〜0.1;(v)0.1〜0.5;(vi)0.5〜1.0;(vii)1〜5;(viii)5〜10;(ix)10〜15;(x)15〜20;(xi)20〜25;(xii)25〜30;(xiii)30〜35;(xiv)35〜40;(xv)40〜45;(xvi)45〜50;(xvii)50〜55;(xviii)55〜60;(xix)60〜65;(xx)65〜70;(xxi)70〜75;(xxii)75〜80;(xxiii)80〜85;(xxiv)85〜90;(xxv)90〜95;および(xxvi)>95からなる群から選択されるのが好ましい。
一実施形態によると、軸方向イオンビームの透過率を走査毎に例えば100%と2%(すなわち、完全透過率の50分の1)とで切り換えることができ、いずれの動作モードにおいてもマススペクトルデータが得られる。イオンゲートまたはイオンビーム減衰器がイオンビームが実質的に減衰しないモードとイオンビームが一定の率で減衰する、すなわちイオン透過効率が<100%であるモードとの間で切り換えられる他の実施形態が考えられる。あるいは、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器を、イオンビームが第1の率で減衰するモードとイオンビームが第2の異なる率で減衰する別のモードとの間で切り換えてもよい。非減衰または第1の減衰スペクトルおよび減衰または第2の減衰スペクトルのいずれにも、独立した質量較正、単点内部ロック質量補正(single point internal lock mass correction)およびデッドタイム補正をリアルタイムで例えば1秒当たり10スペクトルの速度で適用し得る。
非減衰モードまたは第1の減衰モードにおいて得られたスペクトルの少なくとも一部についてその取得中に調べることができ、イオン検出器に飽和、ひずみまたは数え落としがあったことを示唆するマスピークがあればフラグをつけてもよい(flagged)。
一実施形態によると、ある一定の質量電荷比を有する飽和ピークを中心とするマスウィンドウを、減衰モードまたは第2の減衰モードにおいて得られたマススペクトル、例えばより高い透過率/感度のマススペクトルの前および/または後で得られたマススペクトルにおける同じマス領域にマッピングし得る(mapped)。その後、これらの2つのウィンドウにおける低透過率信号を平均し、そして、適宜感度倍率が乗算されたこの信号を高透過率スペクトルにおける飽和信号の代わりに用い得る。したがって、高透過率および低透過率データの両方を用いて最終的な複合マススペクトルを得ることができる。
したがって、好適な実施形態によると、高透過率データセットにおいてかなりのイオンの数え落としが発生したと判断すると、高透過率(感度)マススペクトルからの少なくとも一部のデータを拒否または廃棄し、より低い透過率(感度)のデータセットからのデータを代わりに用いることができる。さらなる実施形態においては、実質的に高透過率(感度)データの全体を拒否して低透過率(感度)データを採用してもよい。
高透過率マススペクトルデータに飽和、ひずみまたは数え落としがあるかどうかを判断するための手法は多数ある。第1に、好適な直交加速飛行時間質量分析器を用いる場合は、高透過率データにおける個々のマスピークが押し出し1回毎の質量電荷比値毎の(すなわち、押し電極(pusher electrode)の電圧印加毎の質量電荷比値毎の)所定の平均イオン数を越えていると、飽和が発生したと考えることができる。そして、その場合には、高透過率データを拒否し、適宜変倍された低透過率データをその代わりに用い得る。別の手法は、低透過率データにおける個々のマススペクトルピークが押し出し1回毎の所定の平均イオン数を越えているかどうかを決定することである。これは、高透過率モードにおいてイオン検出器が非常に飽和していると、記録されたイオン強度はそのような状況においては実際に低下してゼロに接近し始めることがあるからである。このような状況においては、適宜変倍された低透過率データを飽和高透過率マススペクトルデータの代わりに用いてもよい。
個々のマススペクトルピークに影響を及ぼす上記の機構に加えて、時間デジタル変換器(Time to Digital Converter)のメモリから内部伝送バスを横断して伝送することができる1秒当たりの記録事象数を越えてしまうことにより、全データセットに数え落としが発生し得る。一旦この限界点を越えると、時間デジタル変換器内の内部メモリがオーバーフローし、データが失われる。検出システムにおいて用いられる電子乗算装置において一旦ある一定の出力電流を越えると利得の損失が生じることによっても、全データセットに数え落としが発生し得る。一旦この出力を越えると、利得が低下する。生成されたデータセットは不完全となり、その完全性が損なわれる。
高透過率データにこれらの2つの状態のいずれかが発生した時点で、一実施形態においては、全高透過率スペクトルを拒否し、その全体の代わりに適切に変倍された低透過率データを用いてもよい。
高透過率データを全体として拒否する必要があるかどうかを判断するために用いられ得る基準には、高透過率モードにおいて記録された全イオン電流(Total Ion Current)(「TIC」)が所定の1秒当たり伝送バス事象数限界点を越えているかどうかを判断することがある。また、高透過率データは、高透過率モードにおける電子乗算装置の出力電流が所定の値を越えていると判断された場合にも拒否され得る。出力電流は、高透過率モードにおいて記録された全イオン電流および取得前の検出システムの測定利得から決定してもよい。
イオン源において一定レベルで存在する単一のマススペクトルピークまたは各マススペクトルピークの和の強度も監視することができ、高透過率データを拒否する必要があるかどうかを判断するために用いることができる。監視されたマススペクトルピークは、残留バックグラウンドイオンかまたは別の導入口を介して一定速度で導入された参照化合物であり得る。参照マススペクトルピークの強度が高透過率スペクトルにおいてその初期値のある一定のパーセンテージより低ければ、全高透過率スペクトルが拒否され、その代わりに適切に変倍された低透過率スペクトルが用いられ得る。高透過率データセット内での許容強度値は、固定された所定の値である場合もあり、取得中に監視された強度の移動平均である場合もある。後者の場合、強度の短期的な変化は高透過率データの拒否につながることになるが、内部チェックピーク(internal check peaks)の強度の長期的なドリフトによって高透過率データが拒否されることはない。
高透過率データを拒否する基準としてマススペクトルにおける単一イオン強度または全イオン電流について調べることに代わる方法として、別個の検出装置を、質量分析計の検出システムとは独立して、イオン電流またはイオン電流のある既知の部分を監視するために設置してもよい。この記録値が所定の限界点を越えている場合、全高透過率スペクトルが拒否され、その全体の代わりに適切に変倍された低透過率データが採用され得る。一実施形態において、この検出装置は、源と分析器の間に設けられて部分的に一次イオンビームに曝される電極の形態をとり得、該電極上で、この領域におけるイオン電流に比例する誘起電流が監視され得る。別の、具体的には直交加速飛行時間質量分析計に関連する実施形態においては、飛行時間ドリフト領域内へサンプリングされなかった軸方向イオンビームの部分を回収するために、押し出し領域の後方に検出器を配置してもよい。いずれの場合にも、測定されたイオン電流は、各マススペクトルが記録された時の検出器における全イオン電流を決定するために用いてもよく、高透過率データにイオンの数え落としが発生することになる状態を判断する基準として用いてもよい。
高透過率マススペクトルの直前および直後に得られた低透過率マススペクトルからのデータを用いることにより、できるだけ多くのデータが用いられることで強度および重心の測定の統計が改善され、飽和、ひずみまたは数え落としが発生していなければその時の高透過率データに現れたであろう強度がより良好に推定される。GC質量分析では、試料の溶出とともに信号強度が急速に変化し、クロマトグラフピークを生じさせる。高透過率マススペクトルを間に挟む2つの低透過率マススペクトルの強度は大きく異なり得る。これらの平均は、高透過率データが記録された時の1つまたは複数のマススペクトルピークの推定強度をより正確に表すものとなる。
しかしながら、2つの低透過率マススペクトルを平均することは必須ではない。低透過率データセットからのマススペクトルのうちの1つだけを代用に用いてもダイナミックレンジはやはり大きくなる。上記のデータを縫う(stitching)基準の全てがやはり有効である。代用に用いられる低透過率マススペクトルが飽和を示す高透過率マススペクトルから時間的に離れるほど、代用されたイオンの強度の推定精度は低くなる。
一実施形態によると、低および高透過率マススペクトルの取得は、例えば95m秒周期で、好適なイオンビーム減衰器がモードを切り換えられるようするためにマススペクトル間の遅延を5m秒として行うことができる。実際に呈示されるマススペクトルは1つおきであるので、1秒当たり5つのマススペクトルを表示することができる。
質量分析計が、イオンをドリフト領域内へと直交加速するための繰り返し電圧印加される電極を含む直交加速飛行時間質量分析器をさらに含み、制御システムが、第1のマススペクトルデータにおける個々のマスピークが電極の電圧印加毎の質量電荷比値毎の第1の所定の平均イオン数を越えているかどうかを判断するのが好ましい。
電極の電圧印加毎の質量電荷比値毎の第1の所定の平均イオン数が、(i)1;(ii)0.01〜0.1;(iii)0.1〜0.5;(iv)0.5〜1;(v)1〜1.5;(vi)1.5〜2;(vii)2〜5;および(viii)5〜10からなる群から選択されるのが好ましい。
質量分析計が、イオンをドリフト領域内へと直交加速するための繰り返し電圧印加される電極を含む直交加速飛行時間質量分析器をさらに含み、制御システムが、第2のマススペクトルデータにおける個々のマスピークが電極の電圧印加毎の質量電荷比値毎の第2の所定の平均イオン数を越えているかどうかを判断するのが好ましい。
電極の電圧印加毎の質量電荷比値毎の第2の所定の平均イオン数が、(i)1/x;(ii)0.01/x〜0.1/x;(iii)0.1/x〜0.5/x;(iv)0.5/x〜1/x;(v)1/x〜1.5/x;(vi)1.5/x〜2/x;(vii)2/x〜5/x;および(viii)5/x〜10/x(ここで、xは非減衰および減衰モード間または第1および第2の減衰モード間の感度差の比である)からなる群から選択されるのが好ましい。
制御システムが、第1のマススペクトルデータにおいて観測されたマススペクトルピークの強度比を第2のマススペクトルデータにおいて観測された対応するマススペクトルピークの強度と比較し、比が所定の範囲から外れているかどうかを判断するのが好ましい。
制御システムが、第1のマススペクトルデータの少なくとも一部が飽和、ひずみまたは数え落としの影響を受けたかどうかを判断し、全イオン電流を監視し、全イオン電流が所定のレベルを越えているかどうかを判断するのが好ましい。
制御システムが第1のマススペクトルデータの実質的に全てが飽和、ひずみまたは数え落としの影響を受けたと判断すると、制御システムは、第1のマススペクトルデータの代わりに第2のマススペクトルデータを使用するのが好ましい。
制御システムが、非減衰または第1の減衰モードにおいて記録された全イオン電流が所定の限界点を越えているかどうかを判断するのが好ましい。
制御システムが、電子乗算装置の出力電流が所定の限界点を越えているかどうかを判断するのが好ましい。
制御システムが、単一のマススペクトルピークまたはマススペクトルピークの和を監視し、単一のマススペクトルピークまたはマススペクトルピークの和の強度を測定するのが好ましい。
制御システムが、イオン検出器の上流に設けられたさらなる検出装置を用いてイオン電流を監視するのが好ましい。
本発明の別の局面によると、イオンのビームを透過および減衰させるためのイオンビーム減衰器を設けることと、イオンビームが減衰しない非減衰動作モードと、イオンビーム減衰器がイオン透過率が実質的に0%である第1の動作モードとイオン透過率が>0%である第2の動作モードとの間で繰り返し切り換えられる、イオンビームが実質的に減衰する減衰動作モードとの間で切り換えを行うことと、イオンビーム減衰器の下流に質量分析器を設けることとを含み、質量分析器が、使用時に、非減衰動作モードの際の第1のマススペクトルデータと減衰動作モードの際の第2のマススペクトルデータとを得る質量分析の方法であって、第1のマススペクトルデータについて調べることと、第1のマススペクトルデータの少なくとも一部が飽和、ひずみまたは数え落としの影響を受けたかどうかを判断することと、第1のマススペクトルデータの少なくとも一部が飽和、ひずみまたは数え落としの影響を受けたと判断すると、第1のマススペクトルデータの少なくとも一部の代わりに第2のマススペクトルデータの少なくとも一部を使用することとをさらに含む方法が提供される。
本発明の別の局面によると、イオンのビームを透過および減衰させるためのイオンビーム減衰器を設けることと、イオンビームが第1の率で減衰する第1の減衰動作モードとイオンビームが第2の異なる率で減衰する第2の減衰動作モードとの間で切り換えを行い、第1の減衰動作モードにおいては、イオンビーム減衰器が、イオン透過率が実質的に0%である第1の動作モードとイオン透過率が>0%である第2の動作モードとの間で第1のマークスペース比で繰り返し切り換えられ、第2の減衰動作モードにおいては、イオンビーム減衰器が、イオン透過率が実質的に0%である第1の動作モードとイオン透過率が>0%である第2の動作モードとの間で第2の異なるマークスペース比で繰り返し切り換えられることと、イオンビーム減衰器の下流に、第1の減衰動作モードの際の第1のマススペクトルデータと第2の減衰動作モードの際の第2のマススペクトルデータとを得る質量分析器を設けることとを含む質量分析計の方法であって、第1のマススペクトルデータについて調べることと、第1のマススペクトルデータの少なくとも一部が飽和、ひずみまたは数え落としの影響を受けたかどうかを判断することと、第1のマススペクトルデータの少なくとも一部が飽和、ひずみまたは数え落としの影響を受けたと判断すると、第1のマススペクトルデータの少なくとも一部の代わりに第2のマススペクトルデータの少なくとも一部を使用することとをさらに含む方法が提供される。
第1の減衰動作モードにおいて、イオンビーム減衰器の平均または全体的透過率がx1%であり、x1が、(i)<0.01;(ii)0.01〜0.05;(iii)0.05〜0.1;(v)0.1〜0.5;(vi)0.5〜1.0;(vii)1〜5;(viii)5〜10;(ix)10〜15;(x)15〜20;(xi)20〜25;(xii)25〜30;(xiii)30〜35;(xiv)35〜40;(xv)40〜45;(xvi)45〜50;(xvii)50〜55;(xviii)55〜60;(xix)60〜65;(xx)65〜70;(xxi)70〜75;(xxii)75〜80;(xxiii)80〜85;(xxiv)85〜90;(xxv)90〜95;および(xxvi)>95からなる群から選択されるのが好ましい。
第2の減衰動作モードにおいて、イオンビーム減衰器の平均または全体的透過率がx2%であり、x2が、(i)<0.01;(ii)0.01〜0.05;(iii)0.05〜0.1;(v)0.1〜0.5;(vi)0.5〜1.0;(vii)1〜5;(viii)5〜10;(ix)10〜15;(x)15〜20;(xi)20〜25;(xii)25〜30;(xiii)30〜35;(xiv)35〜40;(xv)40〜45;(xvi)45〜50;(xvii)50〜55;(xviii)55〜60;(xix)60〜65;(xx)65〜70;(xxi)70〜75;(xxii)75〜80;(xxiii)80〜85;(xxiv)85〜90;(xxv)90〜95;および(xxvi)>95からなる群から選択されるのが好ましい。
第1のマススペクトルデータの少なくとも一部が飽和、ひずみまたは数え落としの影響を受けたかどうかを判断するステップが、イオンをドリフト領域内へと直交加速するための繰り返し電圧印加される電極を含む直交加速飛行時間質量分析器を設けることと、第1のマススペクトルデータにおける個々のマスピークが電極の電圧印加毎の質量電荷比値毎の第1の所定の平均イオン数を越えているかどうかを判断することとを含むのが好ましい。
電極の電圧印加毎の質量電荷比値毎の第1の所定の平均イオン数が、(i)1;(ii)0.01〜0.1;(iii)0.1〜0.5;(iv)0.5〜1;(v)1〜1.5;(vi)1.5〜2;(vii)2〜5;および(viii)5〜10からなる群から選択されるのが好ましい。
第1のマススペクトルデータの少なくとも一部が飽和、ひずみまたは数え落としの影響を受けたかどうかを判断するステップが、イオンをドリフト領域内へと直交加速するための繰り返し電圧印加される電極を含む直交加速飛行時間質量分析器を設けることと、第2のマススペクトルデータにおける個々のマスピークが電極の電圧印加毎の質量電荷比値毎の第2の所定の平均イオン数を越えているかどうかを判断することとを含むのが好ましい。
電極の電圧印加毎の質量電荷比値毎の第2の所定の平均イオン数が、(i)1/x;(ii)0.01/x〜0.1/x;(iii)0.1/x〜0.5/x;(iv)0.5/x〜1/x;(v)1/x〜1.5/x;(vi)1.5/x〜2/x;(vii)2/x〜5/x;および(viii)5/x〜10/x(ここで、xは、非減衰および減衰モード間または第1および第2の減衰モード間の感度差の比である)からなる群から選択されるのが好ましい。
第1のマススペクトルデータの少なくとも一部が飽和、ひずみまたは数え落としの影響を受けたかどうかを判断するステップが、第1のマススペクトルデータにおいて観測されたマススペクトルピークの強度比を第2のマススペクトルデータにおいて観測された対応するマススペクトルピークの強度と比較することと、比が所定の範囲から外れているかどうかを判断することとを含むのが好ましい。
第1のマススペクトルデータの少なくとも一部が飽和、ひずみまたは数え落としの影響を受けたかどうかを判断するステップが、全イオン電流を監視することと、全イオン電流が所定のレベルを越えているかどうかを判断することとを含むのが好ましい。
この方法は、第1のマススペクトルデータの実質的に全てが飽和、ひずみまたは数え落としの影響を受けたと判断することと、第1のマススペクトルデータの代わりに第2のマススペクトルデータを使用することとをさらに含むのが好ましい。
第1のマススペクトルデータの実質的に全てが飽和、ひずみまたは数え落としの影響を受けたと判断するステップが、非減衰または第1の減衰モードにおいて記録された全イオン電流が所定の限界点を越えているかどうかを判断することを含むのが好ましい。
第1のマススペクトルデータの実質的に全てが飽和、ひずみまたは数え落としの影響を受けたと判断するステップが、電子乗算装置の出力電流が所定の限界点を越えているかどうかを判断することを含むのが好ましい。
第1のマススペクトルデータの実質的に全てが飽和、ひずみまたは数え落としの影響を受けたと判断するステップが、単一のマススペクトルピークまたはマススペクトルピークの和を監視することと、単一のマススペクトルピークまたはマススペクトルピークの和の強度を測定することとを含むのが好ましい。
第1のマススペクトルデータの実質的に全てが飽和、ひずみまたは数え落としの影響を受けたと判断するステップが、イオン検出器の上流に設けられたさらなる検出装置を用いてイオン電流を監視することを含むのが好ましい。
本発明は多数の異なる局面を含んでいる。一局面によると、繰り返しオンとオフとを切り換えることによって動作するイオンゲートまたはイオンビーム減衰器が設けられ、マークスペース比によって、イオンビーム減衰器を通過するイオンビームの減衰の程度が決定される。本発明の別の局面によると、好適なイオンビーム減衰器から出力されたイオンの非連続ビームを実質的に連続またはほぼ連続したイオンビームに平滑化または変換するために、比較的高圧のイオンガイド、ガス衝突セルまたはその他の装置を好適なイオンビーム減衰器の下流に設けるのが好ましい。本発明の別の局面によると、イオンビーム減衰器は、比較的高い透過率のモードと比較的低いまたはより低い透過率のモードとで、好ましくは定期的にまたは繰り返し、切り換えられる。比較的高い透過率のモードは、イオンビーム減衰器がイオンビームを実際に減衰させない(すなわち、透過率100%)モードかイオンビーム減衰器がイオンビームを第1の率で減衰させる(すなわち、透過率<100%)モードのいずれかであり得る。比較的低い透過率のモードにおいては、イオンビーム減衰器は、イオンビームを高透過率モードにおけるよりも大きく減衰させる。本発明のさらなる局面によると、比較的高い透過率のモードからのデータと比較的低い透過率のモードからのデータを縫合または結合して、少なくとも2つの異なるマススペクトル、マススペクトルデータセットまたはマスデータセットから生成された複合マススペクトル、マススペクトルデータセットまたはマスデータセットを提供することができる。あるいは、イオンビーム減衰器、イオンゲートまたは質量分析計が比較的高い透過率のモードで動作していた時に得られたデータが基本的に損傷しているかまたは飽和効果を受けているという判断が下されることがあり、その場合には、イオンビーム減衰器、イオンゲートまたは質量分析計が比較的低い透過率のモードで動作していた時に得られたデータを代わりに用い、信頼してもよい。
例えば、好適なイオンビーム減衰器の動作、好適なイオンビーム減衰器の性質または形態、好適なイオンビーム減衰器から出力される非連続イオンビームを実質的に連続したイオンビームに変換する原理、本発明で使用し得る異なるタイプの質量分析器およびイオン源などに関する多くの好ましい特徴を、本発明の一局面と関連させて説明してきた。しかしながら、開示された好ましい特徴の全ては、特許請求の範囲ならびに上記および本明細書に記載されるような本発明の種々の異なる局面の全てに等しく適用可能である。
好適な実施形態は、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器の低(好ましくはゼロまたは0%)透過率モードと高(好ましくは完全または100%)透過率モードとの間でイオンの透過率を高速でゲート制御することによって連続したイオンビームを減衰させる方法を提供する。好適な実施形態の特に有利な特徴は、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器が2つの透過率モードのいずれかにある時間を変化させることによって減衰の程度を精密に制御および予測することができるのが好ましいことである。
好適な一実施形態において、イオン透過率の調節は、パルスイオンゲートまたはイオンビーム減衰器を用いて行われ得る。低透過率モードにおいては、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器は閉じられているのが好ましく、それゆえ、イオンが実質的にイオンゲートまたはイオンビーム減衰器を通過しないかあるいはイオンゲートまたはイオンビーム減衰器から出射しない、すなわち、このモードにおいては減衰率が実質的に100%であるのが好ましい。イオンゲートまたはイオンビーム減衰器が開かれているのが好ましい次の期間においては、大きな割合(好ましくは全て)のイオンビームがイオンゲートまたはイオンビーム減衰器を通過するかあるいはイオンゲートまたはイオンビーム減衰器から出射するのが好ましく、それゆえ、このモードにおいてはイオンゲートまたはイオンビーム減衰器の透過率が高いかまたは完全であるのが好ましい、すなわち、減衰率が非常に低いのが好ましく、0%であるのがさらに好ましい。2つの異なる透過率モード間でイオンゲートまたはイオンビーム減衰器のマークスペース比を変えることにより、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器を通る平均イオン束を精密に調節することができる。
イオンビームの透過または減衰を制御する好適な方法は、従来の方法に伴う様々な問題を克服しているので好ましい。特に、イオンのビームの透過率を低減させる減衰率を精密に制御および予測することができる。相対透過率はイオンゲートまたはイオンビーム減衰器に印加されるゲートパルスのデューティサイクルと正比例もし、これにより、好適な実施形態によるイオンゲートまたはイオンビーム減衰器の減衰特性の較正の必要がなくなる。
好適なイオンゲートまたはイオンビーム減衰器は、ゼロ(または低)透過率動作モードにおいて、イオンが、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器が次に高または完全透過率動作モードにある時にイオンビームに近接する表面から離れるように方向づけられ、好ましくは該表面に当たらないようになっているのが好ましい。したがって、イオンビームは、次に高透過率動作モードにおいてイオンが透過する電極またはプレートの開口部の周りに衝突しないかまたは当たらないようになっているのが好ましい。これにより、高(または完全)透過率動作モードにおけるイオンゲートまたはイオンビーム減衰器のその後のイオンビームの透過を妨害する表面帯電効果の可能性が非常に低減する。
好適な実施形態によると、イオンビームは、高または完全透過率条件下でのみイオンゲートまたはイオンビーム減衰器を透過するのが好ましい。これらの条件下では、ゲート装置、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器は、有効に非活動状態にある。このため、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器を2つのモード間で切り換える結果として得られるイオンビームの全体的な透過率を、好ましくは、いかなる重大な空間的収差をもイオンビームへ導入することなく、かつ、好ましくは、いくつかの従来構成で発生し得るようないかなるエネルギー拡散をもイオンビームへ導入することなく、低減させることができるので好ましい。
イオンビームは、ゲート装置、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器が非活動状態にあるのが好ましい高または完全透過率条件下でのみ透過するのが好ましいので、好適な実施形態は、イオンビームが質量電荷比に対して不均質であったとしても質量電荷比に対して一定の減衰率を有するイオンゲートまたはイオンビーム減衰器をもたらす。このことは、好適な実施形態の特に有利な局面である。
ここで、単なる例としての本発明の様々な実施形態を、例示のみを目的として示す他の構成と共に、以下の添付の図面を参照しながら説明する。添付の図面において、
図1は、従来の高透過率動作モードで動作する静電レンズ構成を示し、
図2は、比較的小さな割合のイオンビームだけがプレートまたは出口電極の開口部をその後透過していくようにイオンビームがデフォーカスされる従来の低透過率動作モードで動作する静電レンズ構成を示し、
図3は、比較的小さな割合のイオンビームだけがプレートまたは出口電極を通り越して先へ透過するようにイオンビームが偏向される別の従来の低透過率動作モードで動作する静電レンズ構成を示し、
図4は、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器の電極に減速電圧が印加される、本発明の一実施形態によるゼロ透過率動作モードを示し、
図5は、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器の電極に減速電圧が印加されない、本発明の一実施形態による高透過率動作モードを示し、
図6は、好適な一実施形態によるイオンゲートまたはイオンビーム減衰器の電極に減速電圧が印加される期間ΔT1を説明する電圧タイミング図を示し、
図7は、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器の電極に偏向電圧が印加される、本発明の一実施形態による別のゼロ透過率動作モードを示し、
図8は、高透過率動作モードにおける好適なイオンゲートまたはイオンビーム減衰器のSIMION(RTM、登録商標)モデルを示し、
図9は、図8に示すような高透過率動作モードにおける好適なイオンゲートまたはイオンビーム減衰器内部の電位の3D電位エネルギー図を示し、
図10は、ゼロ透過率動作モードにおける好適なイオンゲートまたはイオンビーム減衰器のSIMION(登録商標)モデルを示し、
図11は、図10に示すようなゼロ透過率動作モードにおける好適なイオンゲートまたはイオンビーム減衰器内部の電位の3D電位エネルギー図を示し、
図12は、好適な一実施形態によるイオンゲートまたはイオンビーム減衰器の相対透過率と該イオンゲートまたはイオンビーム減衰器のデューティサイクルとの間の実験的に求められた関係を示し、
図13は、図12に示すのと同じデータを明瞭化のために両対数目盛りでプロットしたものを示し、
図14Aは、エレクトロスプレーイオン源を含む質量分析計で得られたマススペクトルを示し、図14Bは、エレクトロスプレーイオン源と好適なイオンゲートまたはイオンビーム減衰器とを含み、該イオンビーム減衰器がイオンビームを90%減衰させるために用いられた質量分析計で得られた対応するマススペクトルを示し、
図15Aは、図14Aに示すマススペクトルの一部分をより詳細に示し、図15Bは、図14Bに示すマススペクトルの一部分をより詳細に示す。
イオンビームを減衰させるために従来から用いられているような静電レンズ構成を図1に示す。静電レンズ構成は、図1において高透過率動作モードで示されている。図示する正イオンのビーム1aは、この動作モードにおいて、静電レンズ構成によって、実質的に減衰することなく透過させられている。すなわち、イオンビーム透過率が実質的に100%であり、減衰率が0%である。静電レンズ構成は、第1の電極対2a、2bと第2の電極対3a、3bと第3の電極対4a、4bとを含む静電レンズアセンブリを含んでいる。第3の電極対4a、4bの下流にプレートまたは出口電極5が設けられている。プレートまたは出口電極5には、出口スリットまたは開口部が設けられている。
高透過率動作モードにおいては、第1、第2および第3の電極対2a、2b、3a、3b、4a、4bはいずれも、本質的にフィールドフリーな領域が静電レンズ構成内部に設けられるように、名目上同一の電圧に保たれる。イオンビーム1aは、実質的に減衰することなくプレートまたは出口電極5の出口スリットまたは開口部を透過し、それゆえ、静電レンズ構成から出て来るイオンビーム1bは、最初に静電レンズ構成に入射するイオンビーム1aと実質的に同じ強度を有する。
図2は、図1に示したのと同じであるが、従来の低透過率動作モードで動作する静電レンズ構成を示す。この動作モードによると、第2の電極対3a、3bが、第1および第3の電極対2a、2b、4a、4bならびにプレートまたは出口電極5が維持される電圧とは異なる(例えば、より高い)電圧に維持される。その結果、静電レンズ構成を通過するイオンビーム1aは、第2の電極対3a、3bが維持される高い電位により、実質的にデフォーカスされて発散する。大きな割合のイオンビームがプレートまたは出口電極5に当たり、比較的小さな割合のイオンビームだけがプレートまたは出口電極5の開口部を通過し、先へ透過することになる。そのため、この動作モードにおいては、イオン透過率は一定量または一定率だけ実質的に低減され、例えば、静電レンズ構成から出て来るイオンビーム1bは例えば90%(または他の量だけ)減衰し得る。
図2からわかるように、従来の低透過率動作モードにおいては、かなりの割合のイオンビームがプレートまたは出口電極5の前側表面に当たる。さらに、これらのイオンのうちのかなりの割合のイオンがプレートまたは出口電極5の孔または開口部に近接しているかあるいは該孔または開口部を直接取り囲んでいる領域でプレートまたは出口電極5に当たることになる。上記のように、プレートまたは出口電極5に当たるイオンは、特に次の高透過率動作モードにおいて、プレートまたは出口電極5のイオンのその後の透過に悪影響を及ぼすことがある表面帯電効果を生じさせる可能性がある。
図3は、第2の電極対3a、3bが互いに異なる電圧に維持される別の従来の低透過率動作モードで動作する静電レンズ構成を示す。図3に示す特定の構成においては、第2の電極の一方3aが、他方の第2の電極3bへの印加電圧よりも実質的に高い電圧に上げられる。第2の電極3aに印加される高い電圧は、第1および第3の電極対2a、2b、4a、4bならびにプレートまたは出口電極5への印加電圧よりも高い。したがって、イオンビームは、比較的高い電圧に維持される第2の電極3aから離れるように偏向される。その結果、イオンビームは、比較的小さな割合のイオンビームだけがプレートまたは出口電極5を通り越して先へ透過するような形で、プレートまたは出口電極5に当たるように偏向される。さらに、図3からわかるように、プレートまたは出口電極5を通り越して先へ透過するイオンビーム1bは、実質的に軸外であるか、あるいは最初に静電レンズ構成によって受け取られたイオンビーム1aの進行方向に傾いている。したがって、図3に示す従来の構成は以下に述べるような様々な問題を生じさせる可能性がある。
図3に示す低透過率動作モードにおいては、イオンビームは例えば90%減衰し得る。イオンビームの残りの部分は、特にイオンビームがデフォーカスされていない(先に図2を参照しながら説明した構成とは異なる)ために、プレートまたは出口電極5の孔または開口部の極めて近傍でプレートまたは出口電極5の前側表面に入射する。したがって、プレートまたは出口電極5の表面帯電による悪影響が、この特定の構成および動作モードにとって特に問題となり得る。
言うまでもなく、イオンビームを減衰させるために静電レンズ構成を動作させる従来の方法の問題の1つは、かなりの割合のイオンビームが、プレートまたは出口電極5の孔または開口部に隣接した領域で表面帯電効果が発生し得るような形で、プレートまたは出口電極5に当たってしまうことである。このことは、特に次にレンズを切り換えて高透過率動作モードで動作させる場合に、その後の静電レンズ構成の性能に悪影響を及ぼす可能性がある。
ここで、本発明の好適な一実施形態について、図4を参照しながら説明する。この好適な実施形態は、公知の構成および従来の動作モードの限界の少なくともいくつか、好ましくは全てに対処するものである。図4においては、正イオンのビーム1aが、好適な一実施形態によって配置されて動作する静電レンズアセンブリを横断しているのが示されている。この好適な静電レンズまたは静電レンズアセンブリ6は、第1の電極対2a、2bと第2の電極対3a、3bと第3の電極対4a、4bとプレートまたは出口電極5とを含んでいる。プレートまたは出口電極5は、直径2.0〜2.5mmの実質的に円形の開口部を有しているのが好ましい差動排気開口部または差動排気開口部電極を形成し得るのが好ましい。差動排気開口部電極5は、2つの真空室間の差動排気開口部を形成するのが好ましい。プレートまたは差動排気開口部もしくは電極5の下流には、1つもしくは複数のガス衝突セルおよび/または1つもしくは複数の比較的高圧のイオンガイドが設けられているのが好ましい。
静電レンズ6の第2の電極対3a、3bは、半径方向の間隔が、第1および第3の電極対2a、2b、4a、4b間の半径方向の間隔よりも実質的に大きいのが好ましく、かつ、プレートまたは出口電極5の開口部の直径と同等であってもよくそうでなくてもよい間隔となるように、配置されるのが好ましい。
やはり図4を参照して、第1の時点T1において減速電圧が第3の電極対4a、4bに印加されるのが好ましい。減速電圧は、イオンビーム全体を、好ましくはイオンが最初の進行方向とは反対方向に加速されるように、反射または減速させるのが好ましい。反射されたイオンは、中心軸から離間されているのが好ましい第2の電極対3a、3bの後側表面に入射するようになっているのが好ましい。この動作モードにおいては、プレートまたは出口電極5のイオンビーム透過率はゼロまたは実質的にゼロであるのが好ましい。
図5は、第2の後の時点T2において第3の電極対4a、4bに印加される減速電圧がオフに切り換えられるのが好ましい好適な一実施形態による高透過率動作モードを示す。したがって、この動作モードにおいては、第1の電極対2a、2bと第2の電極対3a、3bと第3の電極対4a、4bは、イオンビームが好ましくは完全にプレートまたは出口電極5を透過するように、いずれも実質的に同じ電位に保たれるのが好ましい。
この好適な実施形態によると、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6(例えば、静電レンズ構成あるいはやや好ましくは他の形態のイオンゲートまたはイオンビーム減衰器)を、少なくとも低(またはゼロ)透過率動作モードと比較的高い(または完全な)透過率の動作モードとで繰り返し交互に切り換えるのが好ましい。やや好適な実施形態によると、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6を1つまたは複数のさらなる動作モードもしくは中間の動作モードに切り換えてもよい。すなわち、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6を0%透過率動作モードと100%透過率動作モードとで直接交互に切り換える必要は必ずしもない。
好適な実施形態によるイオンビームの減衰の程度は、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6が高および低透過率動作モードで維持される時間の相対量に依存しているのが好ましい。
図6は、ゲートまたは減速電圧が第3の電極対4a、4bに印加されるのが好ましい好適な一実施形態による電圧タイミング図を示す。ゲートまたは減速電圧は、時点T1からオンになり、期間ΔT1にわたって継続する、言い換えれば第3の電極対に印加されると考え得る。この期間ΔT1においては、プレートまたは出口電極5の開口部のイオンビームの透過率は実質的にゼロであるのが好ましい。すなわち、実質的に全てのイオンがはね返され、第3の電極対4a、4bから遠ざかって第2の電極対3a、3bの後側表面へと向かい、そこに当たるのが好ましい。従って、この動作モードにおいてはイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6からイオンが出射しないのが好ましい。
期間ΔT1の終わりに、第3の電極対4a、4bに印加されたゲートまたは減速電圧がオフに切り換えられるのが好ましい。ゲートまたは減速電圧は、その後、期間ΔT1よりも実質的に短いのが好ましいさらなる期間ΔT2にわたってオフのままであるのが好ましい。イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6がオフに切り換えられている(あるいは減速電圧がオフに切り換えられたままである)期間ΔT2においては、プレートまたは出口電極5の開口部のイオンビームの透過率は、高いままであるのが好ましく、実質的に100%であるのが好ましい。
期間ΔT1にわたってゲートまたは減速電圧をオンに切り換え、その後、次の期間ΔT2にわたってゲートまたは減速電圧をオフに切り換えるというサイクルは、複数回繰り返されるのが好ましい。この好適な実施形態によると、これは、図6に示すように実質的に定期的に繰り返され得る。ただし、上記のように、やや好適な実施形態によると、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6を、3つ以上の異なる動作モード間で繰り返し切り換えてもよい。
イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6を切り換える速度は、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6の下流に配置されたイオンビームを質量分析するために用いられるのが好ましい質量分析器のスペクトル取得速度よりも少なくとも50〜100倍速いのが好ましい。このことを以下により詳細に述べる。やや好適な実施形態によると、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6のモード間切り換えを不定期的、可変的またはランダムに行ってもよい。
この好適な実施形態によって動作するイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6は、下記の式によって求められるマークスペース比(mark space ratio)を有するパルス透過イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6を含むと考え得る。
ΔT2/ΔT1
式中、ΔT2は、イオン透過率が実質的に100%である(すなわち、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6がオフに切り換えられている)期間であり、ΔT1は、イオン透過率が実質的に0%である(すなわち、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6がオンに切り換えられている)期間である。
イオンビームの平均相対透過率は、下記の式によって求められるのが好ましいイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6のデューティサイクルに比例するのが好ましい。
ΔT2/(ΔT1+ΔT2)
図6に示す特定の電圧タイミング図においては、マークスペース比ΔT2/ΔT1は1:9であり、それゆえ、デューティサイクルは0.1である。したがって、イオンビームは90%減衰することになる。すなわち、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6から出射するイオンビーム1bは、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6に受け取られた、または入射したイオンビーム1aの強度のわずか10%であるのが好ましい。
図7は、第2の電極対の一方3aへの高い正電圧の印加によりゼロ透過率動作モードにおいてイオンビームが(後方にはね返されるのではなく)偏向される別の低透過率動作モードを示す。したがって、本実施形態によるイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6は、偏向電極3aを有するパルス透過イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6を含むと考え得る。ゼロイオン透過率の期間ΔT1においては、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6を通過するイオンビーム1aが好ましくは偏向されて第3の電極対の一方4bの前側表面に入射するように、偏向電圧が偏向電極3aに印加されるのが好ましい。その結果、プレートまたは出口電極5のイオン透過率は実質的にゼロとなるのが好ましい。イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6は、その後、第2の電極対の一方3aに印加される偏向電圧が期間ΔT2にわたってオフになるのが好ましい(あるいは実質的に低減する)高透過率動作モードに切り換えられるのが好ましい。従って、プレートまたは出口電極5のイオンビームの透過率は、この動作モードにおいて相応して高くなる。期間ΔT2は、期間ΔT1よりも短いのが好ましい。
好適なイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6から出て来るのが好ましいイオンビーム1bは、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6によって受け取られたイオンビーム1aの強度よりも実質的に低いのが好ましい全体的または平均強度を有するのが好ましい。すなわち、単位時間にイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6から出て来る、つまり出射するイオンの数(すなわちイオン束)が低減されるのが好ましい。
好適な一実施形態においては、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6の合計サイクル時間(すなわち、低またはゼロ透過率動作モードになっている期間ΔT1と高透過率モードになっている期間ΔT2の和)は、100〜1000μ秒程度であるのが好ましい。ただし、やや好適な実施形態によると、合計サイクル時間はこれよりも短くても長くてもよい。
この好適な実施形態によると、好適なイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6によるイオンビームの減衰の程度は、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6のデューティサイクルを制御することによって制御されるのが好ましい。例えば、イオンビームの減衰の程度または量を高める(または低減させる)ために、マークスペース比またはデューティサイクルを、低またはゼロ透過率動作モードになっている期間ΔT1が高透過率動作モードになっている期間ΔT2と比較して好ましくは相対的に長くなる(または短くなる)ように変更するかまたは変化させ得る。
一実施形態によると、1つもしくは複数のイオンガイドおよび/または1つもしくは複数のガス衝突セルを、好適なイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6の上流および/または下流に配置し得る。少なくとも1つのイオンガイドまたはガス衝突セルは、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6の下流に配置されるのが好ましく、使用時には比較的高圧(例えば、>10-3ミリバール)に維持されるようになっているのが好ましい。比較的高圧のイオンガイドまたはガス衝突セルは、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6を質量分析計の他の部分から有効に切り離すように配置されるのが好ましい。比較的高圧のイオンガイドまたはガス衝突セルは、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6から放出されたイオンのパルスを実質的に連続したイオンのビームに平滑化または変換するのが好ましい。したがって、比較的高圧のイオンガイドまたはガス衝突セルは、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6を直交加速飛行時間(TOF)質量分析器のような不連続質量分析器と共に用いた場合に、質量分析計の動作を向上させるという効果がある。好適なイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6から放出されたイオンのパルスを実質的に連続または擬似連続したイオンビームに変換するためにその他の装置を設けてもよい他の実施形態が考えられる。
イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6の下流に配置されたイオンガイドまたはガス衝突セルは、ACもしくはRF多重極ロッドセット、分割(segmented)RFもしくはAC多重極ロッドセット、ACもしくはRF積み重ねリングイオントンネルイオンガイドまたはACもしくはRF積み重ねリングイオン漏斗イオンガイドを含み得る。イオンガイドまたはガス衝突セルは、必要に応じて直線加速場を利用してもよい、すなわち、イオンガイドまたはガス衝突セルの長さの少なくとも一部分に沿って一定のDC電圧勾配を維持してもよい。少なくとも一部のイオンをイオンガイドまたはガス衝突セルの少なくとも一部分を通ってかまたはそれに沿って進ませるために、進行(travelling)DC電圧もしくは電位(または電圧もしくは電位波形)を追加的に/代わりとしてイオンガイドまたはガス衝突セルの電極に印加してもよい。進行DC電圧または電位の印加は、イオンを1つまたは複数のイオンガイドまたはガス衝突セルの少なくとも一部分に沿わせるために、1つまたは複数のイオンガイドまたはガス衝突セルの少なくとも一部分に変動または過渡DC電位もしくはDC電位波形を1回または複数回印加することを含むのが好ましい。この手法は、パルスイオンゲートの特定の動作モードに適用することができる合計時間の間、イオンが確実に1つまたは複数のイオンガイドまたはガス衝突セル内にとどまるようにするためにも用い得る。
好適なイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6を用いると、例えば、好適なイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6および必要に応じて設けられるイオンガイドまたはガス衝突セルの下流に配置された直交加速飛行時間質量分析器またはその他の形態の質量分析器などの質量分解能、質量較正または質量精度に影響を及ぼすことなく、イオンビームを精密に制御された量だけ好ましく減衰させることができるという効果がある。
この好適な実施形態によると、好適なイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6によって透過させられ、必要に応じて比較的高圧のイオンガイドまたはガス衝突セルを通過してもよいイオンビームを質量分析するのが好ましい。マススペクトル、マススペクトルデータまたはマスデータの取得、ヒストグラム化、蓄積、記録または出力は、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6のモード間切り換えの速度よりも遅い、好ましくは実質的に遅い時間尺度で行われるのが好ましい。例えば、従来の構成では、静電レンズを低透過率動作モードに切り換えた後、イオンビームを質量分析し、マススペクトルを取得する。次いで、静電レンズを高透過率動作モードに切り換え、再度イオンビームを質量分析し、さらなるマススペクトルを取得する。このため、従来の構成では、質量分析器は、静電レンズの切り換えと同じ速度で実質的に同期してイオンビームを取得、サンプリングまたは質量分析する。これに対して、この好適な実施形態によると、イオンビームの全体的な強度を低減させるのは、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6のモード間切り換えの繰り返しである。モード間切り換えは、質量分析器のスペクトル取得速度と比較して実質的に速くかつ非同期で行われるのが好ましい。例えば、一実施形態によると、イオンビームの前にイオンビームの強度を低減させるためにイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6を異なるモード間で例えば少なくとも50〜100回切り換えることができ、その間に1つのマススペクトルが取得、ヒストグラム化または蓄積される。したがって、質量分析器のスペクトル取得速度は、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6のモード間切り換え速度よりもはるかに遅いのが好ましい。さらに、質量分析器のスペクトル取得速度は、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6の切り換えとは本質的に非同期であり、切り離されているのが好ましい。
エレクトロスプレーまたはMALDIイオン源のいずれかの下流にイオンガイドを設ける特に好適な一実施形態が考えられる。イオンガイドの後には、四重極ロッドセットマスフィルタを含むのが好ましい第1のマスフィルタがあるのが好ましい。好適な一実施形態によるイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6を第1のマスフィルタの下流に配置するのが好ましい。ガス衝突セルまたは比較的高圧のイオンガイドをイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6の下流に配置するのが好ましい。飛行時間質量分析器またはその他の形態の質量分析器を比較的高圧のイオンガイドまたはガス衝突セルの下流に配置するのが好ましい。この特に好適な実施形態により、MSおよびMS/MS実験を行うことが可能になる。
図8は、比較的高い透過率の動作モードにおける好適な一実施形態によるイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6のSIMION(登録商標)モデルを示す。この動作モードにおいて、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6は、好ましくは100%の効率でイオンを透過させるようになっている。図8は、3eVの軸方向エネルギーを有し、好適なイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6の上流に配置された比較的低圧に維持されたRF専用六重極イオンガイド10から出射する正イオンのビーム1aがとる軌道を示している。六重極イオンガイド10は、0Vの相対電位に維持されるのが好ましい。好適なイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6の第1の電極対2a、2bは、−57Vの相対電位に保たれるのが好ましい。第2の電極対3a、3bは、−2Vの相対電位に保たれるのが好ましい。第3の電極対4a、4bは、−1Vの相対電位に保たれるのが好ましい。比較的高圧のイオンガイドまたはガス衝突セル8は、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6の下流に設けられたものとしてモデル化されており、好適なイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6から放出されたイオンを受け取る。
比較的高圧のイオンガイドまたはガス衝突セル8は、−2Vに保たれるものとしてモデル化されている。図8からわかるように、イオンは、好適なイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6によって、第2の電極対3a、3bのすぐ先または下流の、第2の電極対3a、3bと第3の電極対4a、4bの間の位置にある点に収束されるのが好ましい。イオンは、その後、好ましくは高い(例えば100%)透過率でイオンガイドまたは衝突セル8へと透過していくのが示されている。
図9は、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6が図8に関連して先に説明したような比較的高い透過率の動作モードに維持されているのが好ましい好適なイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6の内部の電位エネルギープロファイルを示す3次元電位エネルギー図を示す。
図10は、比較的低いかまたはゼロの透過率の動作モードにおける好適な一実施形態によるイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6のSIMION(登録商標)モデルを示す。この動作モードにおいて、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6は、好ましくはこの動作モードにおいてはイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6からイオンが出射しないように、イオンを実質的に減衰させるようになっているのが好ましい。図10は、3eVの軸方向エネルギーを有し、比較的低圧に維持されたRF専用六重極イオンガイド10から出射する正イオンのビーム1aがとるイオン軌道を示している。RF専用六重極イオンガイド10は、0Vの相対電位に維持されるのが好ましい。第1の電極対の一方2aは−47Vの相対電位に保たれるのが好ましく、第1の電極対の他方2bは−67Vの相対電位に保たれるのが好ましい。第2の電極対3a、3bはいずれも+8Vの相対電位に保たれるのが好ましい。第3の電極対4a、4bはいずれも−1Vの相対電位に保たれるのが好ましい。図8および図9に示し、それらの図に関連して先に説明した実施形態と同様に、比較的高圧のイオンガイドまたはガス衝突セル8が、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6の下流に設けられたものとしてモデル化されており、−2Vの相対電位に維持されている。イオンは、第1の電極対2a、2bによって加速されるのが好ましいが、同時に、第1の電極対2a、2bが維持されるのが好ましい異なる電位によって軸外へ偏向されるのが好ましい。イオンはまた、第2の電極対3a、3bへの比較的高い電位の印加によって減速される。したがって、イオンは、第1の電極対2a、2bと第2の電極対3a、3bの間に維持されている電場によって減速され、その結果、第1の電極対の一方2aの後側表面へ向かって戻るように再加速される。第2の電極対3a、3bを越えて進むイオンは皆無であるのが好ましい。このため、この動作モードにおいてはイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6からイオンが出射しないのが好ましい。したがって、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6のイオン透過率は、この動作モードにおいては実質的にゼロであるのが好ましい。
図11は、図10に関連して先に説明したようにイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6が低(ゼロ)透過率モードに維持されている場合のイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6の内部の電位エネルギープロファイルを示す3次元電位エネルギー図を示す。
図12は、好適なイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6のイオンビームの実測相対透過率と好適な実施形態によるイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6のデューティサイクルとの間の実験的に求められた関係を示す。イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6の相対透過率とイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6のデューティサイクルとの間に直接かつ予測可能な直線関係が存在することがわかる。明瞭化のために、図12に示すのと同じデータを、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6のデューティサイクルの対数に対する相対透過率の対数として図13に再プロットした。図12および図13に結果を示す特定の実験のためのサイクル時間は300μ秒に固定した。
図14Aは、エレクトロスプレーイオン化イオン源とマスフィルタとイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6とを含む質量分析計を用いて得られたマススペクトルを示す。直交加速飛行時間質量分析計を用いてMS/MS分析を行った。図14Aに示すマススペクトルは、(Glu)−フィブリノペプチドB(質量電荷比785.8)をイオン源に注入することによって得られたものである。マススペクトルは、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6を常に完全な100%の透過率で動作させた場合に取得されたものである。それぞれ1.2秒間にわたって10のマススペクトルを得た。その後、この10のマススペクトルを平均し、図14Aに示すマススペクトルを作成した。
図14Bは、好適な実施形態によって動作するイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6を用いてイオンビームを90%減衰させたこと以外は同じ装置を用いた場合に得られたマススペクトルを示す。イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6にはデューティサイクル0.1、合計サイクル時間300μ秒でパルスを発生させた(pulsed)。それぞれ1.2秒間にわたって100のマススペクトルを得た。その後、この100のマススペクトルを平均し、図14Bに示すマススペクトルを作成した。
図14Aと図14Bを比較すると、図示された質量範囲全体にわたってピークに対して減衰量が一定であることがわかる。すなわち、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6は、イオンビーム中に存在するイオンの質量電荷比とは無関係にイオンビームを減衰させるという効果がある。質量電荷比が684.35である最も強度の高いピークの強度に基づく精密な測定減衰率は、89.9%であった。
図15Aは、図14Aに示すマススペクトルを、1171〜1175というより狭い質量電荷比範囲でより詳細に示す。同様に、図15Bは、図14Bに示すマススペクトルを、1171〜1175というより狭い質量電荷比範囲でより詳細に示す。好適なイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6の作用によるピーク分解能、ピーク形状または質量電荷比への影響は現れていない。
好適な実施形態によるイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6は、例えば、交加速飛行時間質量分析器あるいは別のタイプの質量分析器(例えば、軸方向加速飛行時間質量分析器、ポール(Paul)もしくは3D四重極イオントラップ質量分析器、2Dもしくはリニア四重極イオントラップ、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(「FTICR」)質量分析器、磁場型質量分析器または四重極質量分析器)によって後で質量分析される連続したイオンビームの制御された減衰を実現するために用いることができる。
好適な実施形態によるイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6を通過するイオンビームをMS、MS/MSまたはMSn分析に付す実施形態が考えられる。
好適なイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6は、例えば、イオン源(例えば、エレクトロスプレーイオン化イオン源、APPIイオン源、APCIイオン源、マトリックス支援レーザー脱離イオン化イオン源、LDIイオン源、APMALDIイオン源、DIOSイオン源、電子衝撃イオン源、CIイオン源、FIイオン源、FDイオン源、ICPイオン源、FABイオン源またはLSIMSイオン源)から放出されるイオンビームの制御された減衰を実現するためにも用いることができる。
本発明の一実施形態によると、好適なイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6の減衰率を、質量分析中に自動的かつ精密に制御し得る。例えば、イオン電流の測定を、ある分析工程中に定期的に行うことができる。そして、分析の進行に伴って、この測定値から必要減衰量を繰り返し計算することができる。イオン電流の測定は、例えば、分析の進行に伴って記録されたマススペクトルデータの検討によって行うことができる。記録された全イオン電流または1つもしくは複数の選択された質量電荷比におけるイオン電流は、その後、記録対象となる次のマススペクトル用にイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6の減衰率を決定するために用いることができる。
別の実施形態によると、好適なイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6がゼロ透過率動作モードで動作している期間において、イオンを、好適なイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6に近接して配置されるのが好ましい別個のイオン検出器に向け得る。このイオン検出器を用いて記録された信号は、その後、デューティサイクルに基づいて好適なイオンゲートまたはイオンビーム減衰器6における全イオン電流を計算するために用いることができる。そして、この測定値は、使用される質量分析器またはイオン検出器が適応することのできる許容可能レベルをイオン電流が越えていると、イオンゲートまたはイオンビーム減衰器6の新しいデューティサイクルを計算するために用いることができる。例えば、この方法は、許容され得る既知の最大イオン数に基づいてイオントラップ質量分析器に入る単位時間当たりのイオン数を自動的に減少させる方法を提供する。
他のやや好適な実施形態によると、他の静電式、磁気式または機械式構成を用いてイオンビームをゼロ(または低)透過率と比較的高い透過率との間で高速にパルス化させてもよい。例えば、やや好適な一実施形態によると、静電レンズまたは静電式構成の代わりに機械式シャッターをイオンゲートまたはイオンビーム減衰器として用いてもよい。
やや好適な一実施形態によると、低透過率モードにおいて透過率をゼロまで低減させる必要は必ずしもない。その代わりに、例えば、透過率を>0%の透過率に低減させ得ることが考えられる。しかしながら、低透過率動作モードにおけるイオン透過率を0%まで低減させると、イオンビームを減衰させる減衰率を不安定にすることがある表面帯電効果が発生するおそれがある。低透過率モードにおける0%の透過率が特に好ましいのはこのためである。
本発明について好適な実施形態を参照して説明したが、添付の特許請求の範囲に記載する本発明の範囲から逸脱することなく形態および詳細において種々の変更が可能であることが当業者に理解されるであろう。