JP4839434B2 - p28分子またはその遺伝子を含む医薬製剤 - Google Patents

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本発明は、p28 分子またはそれをコードする p28 遺伝子を有効成分として含有する、インターロイキン−27(IL-27)による免疫応答を阻害する医薬製剤に関する。更に詳細には、生体内において可溶性の p28 分子または発現し分泌可能な p28 遺伝子を有効成分とする、IL-27 による生体にとって不利益な免疫応答を減弱させることができ、例えば自己免疫性疾患の治療や、移植片拒絶反応の緩和、さらに IL-27 による免疫反応の収斂を阻止し、細胞性免疫応答の維持等に広く適用できる医薬製剤に関する。
生体にとって不利益な免疫応答、例えば自己臓器が標的となる自己免疫反応や臓器移植における移植片拒絶反応を抑制する手段として、従来から免疫抑制剤が使用されてきた。これらの免疫抑制剤は、抗 T リンパ球抗体やステロイドホルモンなどのように免疫応答全体を低下させるものや、サイクロスポリンなど活性化 T 細胞全体を抑制するものであり、いずれも非特異的な免疫抑制作用を有している。その結果生体防御力をも減弱させ、ウイルスや細菌に対して易感染性となり、日和見感染症を惹起する可能性が高まる。また免疫抑制剤の長期投与は、発がんの危険性を増大させることも明らかになっている。従って、免疫抑制剤は、現実の医療では不可欠ながら、その使用には副作用の危険性が常に伴う。そこで、生体の免疫応答に関わる分子を直接標的とし、特異的な免疫抑制剤の開発が必要であるが、これらの薬剤開発についてはいまだに十分でない。また、免疫応答の賦活化については、非特異的な活性化物質は生体にとって危険であることから、その手法に関しては、免疫抑制効果を有する物質を抗体等を使用して、その活性を阻害したり、あるいは当該受容体への結合を阻止することによって、成し遂げようとする研究が進められてきた。しかし、抗体をヒト化(humanize)する必要性などの問題点もあり、臨床応用の可能性が検討されるに至っていないのが現状である。
複雑な免疫反応を巧みに制御することを可能にしている分子として、各種免疫担当細胞より分泌されるサイトカイン蛋白の果たす役割は極めて大きい。これらのサイトカインの分泌異常は、多くの病態とも関連している。例えば、自己免疫性疾患においては、免疫応答が異常に亢進しており、当該患者における炎症性サイトカインの分泌異常が生じていることが判明している(非特許文献1)。しかも、これらのサイトカイン分泌の異常そのものが、自己免疫性疾患の発症機序の一つとして考えられている(非特許文献2)。また、サイトカイン産生バランスの不均衡によって、病態の進行が促進されることも十分に考えられる。例えば、癌患者において免疫抑制性サイトカインの分泌が亢進すると、癌の進展が促進されることも知られている(非特許文献3)。そこで、過剰産生によって生体にとって不利な免疫応答を惹起するサイトカイン作用を阻害することは、一定の治療効果を有すると考えられる。このため、当該サイトカイン受容体を介するシグナル伝達を特異的に阻害する物質は、新規の免疫抑制剤あるいは免疫賦活剤となることが期待される。
新規 p28 遺伝子が 2002 年に同定され、この遺伝子がコードする p28 分子はEpstein-Barr virus-induced gene 3 (EBI3) 分子と共に、新規サイトカイン IL-27 を構成することが判明した(非特許文献4)。ヘテロ二量体である IL-27 は、既知の IL-12 および IL-23 と同様の分子構造を持ち、活性化樹状細胞より分泌されることから、IL-12 や IL-23 と共に、IL-12 ファミリーを形成すると考えられている。In vitro における IL-27 の機能は、ナイーブ T 細胞の増殖亢進、IL-12 依存性の IFN-γ産生の増強である。また、最近、B 細胞による抗体産生のクラススイッチにも関与することが明らかになった(非特許文献5)。IL-27 の受容体は、2 型サイトカイン受容体ファミリー分子である WSX-1 分子と、IL-6 受容体のサブユニットである gp130 分子からなる二量体で、この受容体はナイーブ T 細胞とナチュラルキラー細胞に発現している(非特許文献6、7)。IL-12 の受容体は主にヘルパー T 細胞タイプ1(Th1) 細胞、IL-23 の受容体は、主にメモリー T 細胞等に発現することから、これらの IL-12 ファミリー分子は、T 細胞の成熟分化過程において、相互に協調して作用していると考えられる。とりわけ、IL-27 によって IL-12 受容体サブユニットである IL-12Rβ2 が誘導されることから、IL-27 の作用は、IL-12 に先行していると考えられる(非特許文献8)。すなわち、IL-27 は初期のナイーブ T 細胞の増殖・活性化に、IL-12 は T 細胞の分化過程に、IL-23 はメモリー T 細胞の維持というそれぞれ異なった機能を担当し、細胞性免疫応答に関わっていることが想定される。IL-27 受容体からのシグナル伝達は、他の IL-12 ファミリー分子と同様に、Jak キナーゼ/STAT 分子による経路を利用し、STAT1 が最も強く活性化されるが、STAT3、STAT5 分子も同時に活性化される(非特許文献8-10)。とりわけ STAT1からの経路は、IFN-γ遺伝子発現に関与する転写因子 T-bet の発現を亢進させるのに重要である(非特許文献8、10)。
IL-27 遺伝子を腫瘍に導入して作製した IL-27 発現腫瘍を同系マウスに接種すると、キラー T 細胞あるいはナチュラルキラー細胞が活性化されて、その腫瘍は拒絶される(非特許文献11)。さらに IL-27 受容体(WSX-1)欠損マウスは、Th1 機能が不全であり、リーシュマニア原虫などの、細胞内に寄生する病原体の感染を排除することができない(非特許文献12、13)。これらの実験事実は、IL-27 は細胞性免疫応答の活性化に重要な役割を果たしていることを意味している。ところが最近になって、同じ WSX-1 欠損マウスに寄生虫を感染させたとき、免疫応答の後期相においては、むしろ炎症反応が沈静化せず、過剰なヘルパー T 細胞タイプ2(Th2)反応が誘導されることが報告された(非特許文献13、14)。従って、IL-27 のin vivo における機能は二面性があり、免疫反応の初期相では、Th1 細胞の増殖、分化、活性化によって細胞性免疫応答を増強するが、後期相においては、むしろ炎症あるいは Th2 反応を抑制し、免疫応答の沈静化と収束に作用すると考えられる。
関節リウマチや I 型糖尿病、クローン病などの臓器特異的自己免疫疾患の多くは、Th1 とTh2 作用の均衡の破綻や、自己反応性 Th1 細胞の活性化によって惹起されると想定されている。IL-12 は Th1 反応を増強させる生理活性を持つことから、従来から自己免疫性疾患の発症において重要な役割を果たすことが示唆されていた。事実、IL-12 とその受容体との結合を阻害する抗 p40 モノクローナル抗体を自己免疫疾患モデルマウスに投与すると、当該疾患発症の抑制や、病態の軽減が観察されることが報告されている(非特許文献15)。また、特定系統のマウスに、ミエリン鞘塩基性蛋白質やミエリン・乏枝神経膠細胞由来の糖蛋白質のペプチド断片を免疫すると実験的自己免疫性脳脊髄炎が発症するが、この実験モデルでは、IL-12 とともに IL-23 の発症への関与が実証されている(非特許文献16)。したがって、Th1 細胞を活性化する IL-27 も同様に、自己免疫性疾患の発症に関与することが予想され、事実実験的自己免疫性脳脊髄炎およびアジュバント誘導関節炎の疾患モデルマウスに、IL-27 作用を中和する抗 p28 抗体を投与すると、当該疾患発症の抑制や病態の軽減することが報告されている(非特許文献17、18)。
Shimozato, O et al., Cytokine, 8, 99-105, 1996 Skurkovich, SV et al., Med. Hypotheses, 59, 770-780, 2002 Wittke, F et al., Br. J. Cancer, 79, 1182-1184, 1999 Pflanz, S et al., Immunity, 16, 779-790, 2002 Yoshimoto, T et al., J. Immunol., 173, 2479-2485, 2004 Pflanz, S et al., J. Immunol., 172, 2225-2231, 2004 Chen, Q et al., Nature, 407, 916-920, 2000 Takeda, A et al., J. Immunol., 170, 4886-4890, 2003 Lucas S et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 100, 15047-15 052, 2003 Kamiya, S et al., J. Immunol., 173, 3871-3877, 2004 Hisada, M et al., Cancer Res., 64, 1152-1156, 2004 Yoshida, H et al., Immunity, 15, 569-578, 2001 Hamano, S et al., Immunity, 19, 657-667, 2003 Villarino, A et al., Immunity, 19, 645-655, 2003 Leonard, JP et al., J. Exp. Med., 181, 381-386, 1995 Cua, DJ et al., Nature, 421, 744-748, 2003 Goldberg, R et al., J. Immunol., 173, 1171-1178, 2004 Goldberg, R et al., J. Immunol., 173, 6465-6471, 2004
IL-27 は上記のように細胞性免疫応答の活性化や、自己免疫疾患等における過剰な免疫応答に関与しており、IL-27 によって惹起される生体に不利な免疫応答を特異的に阻害することは、免疫疾患の治療法として役立つことが考えられる。さらに、免疫応答の後期相において、IL-27 は一度活性化された免疫応答の沈静化にも関与すると考えられ、IL-27 作用の阻害は細胞性免疫応答の維持効果を有するとも考えられる。いずれにしても、IL-27 の機能阻害剤は、免疫応答の人為的制御を可能にし、過剰な免疫応答に基づく疾患の治療へ応用可能と想定される。
本発明では、免疫応答の初期相において細胞性免疫応答の活性化に、また免疫応答の後期相においては免疫反応の収斂に深く関与する IL-27 の機能を、可溶性の IL-27 サブユニット分子を用いて、これを阻害しようとした。すなわち、可溶性のサブユニット分子が、IL-27 受容体と結合することによって、当該受容体と IL-27 との結合が阻害され、その結果 IL-27 による細胞内シグナル伝達が阻止されるはずである。この可溶性サブユニット分子は、分子生物学的手法により作成するが、本来生体に存在する分子に基づいて合成されており、IL-27 による免疫応答を特異に抑制する点で、従来の非特異的な免疫抑制剤や抗体医薬とは異なる。したがって、従来の免疫抑制剤に見られる、生体の免疫機能全体を阻害する薬剤と異なり、また抗イデオタイプ抗体産生等の事象が考えられる抗体医薬とは作用機序が異なり、臨床上有用であると考えられる。また、従来の医薬品ではなし得なかった、免疫応答の維持製剤として利用できうる。
IL-12 のサブユニットである p40 分子は、単独で IL-12 受容体を構成する IL-12Rβ1分子と結合するため、可溶性の p40 分子は IL-12 とその受容体との結合を阻害する。その結果、可溶性 p40 分子は、IL-12 機能の阻害活性を示す。また、単量体よりも二量体 p40 分子の方が、より効率的に IL-12 機能の阻害効果を示すことが報告されている(Gillessen, S et al., Eur. J. Immunol., 25, 200-206, 1995)。そこで、可溶性の IL-27 サブユニット分子も、IL-27 とその受容体との結合を阻害すると想定された。IL-27 サブユニットである、EBI3 と p28 分子を作成してみると、p28 分子のみが可溶性であり、この p28 分子が、IL-27 による免疫応答を阻害することを、IL-27 による IFN-γ産生の抑制、IL-27 遺伝子導入腫瘍による腫瘍拒絶反応の阻害、によって実証した。
従って、p28 分子または p28 分子をコードする遺伝子は、IL−27 による免疫応答を阻害するための医薬製剤の有効成分として用いることができることを見出し本発明を完成させた。
本発明は、可溶性 IL-27 サブユニット分子である p28 分子、または p28 分子をコードする遺伝子を有効成分として含有する、IL-27 による免疫応答を阻害するための医薬製剤である。
p28 分子あるいは p28 分子をコードする遺伝子を用いることにより、自己免疫疾患や臓器移植など、IL-27 が関与する免疫応答を抑制し、自己免疫やアレルギー疾患の予防と治療を可能にし、移植臓器の生着延長をもたらす。また、IL-27 による免疫応答の沈静化を阻害し、細胞性免疫応答を継続させ、細胞内寄生をおこす感染症などに有効な作用を発揮する。
p28 分子は、樹状細胞から分泌されるサイトカインである IL-27 を構成するサブユニットである。本発明で用いる p28 分子は、具体的には、例えば、配列表の配列番号1に示す 29 番目から 243 番目までのアミノ酸配列を有する p28 分子、あるいは配列番号1に示す 29 番目から 243 番目までのアミノ酸配列において1個から数個のアミノ酸残基が欠失、置換および/または付加したアミノ酸配列であって p28 分子と同様の機能を有する蛋白質である。ここで同様の機能を有するとは、p28 分子が有する IL-27 による免疫応答の阻害能と同様の阻害能を有することを意味する。配列番号1に示す 29 番目から 243 番目までのアミノ酸配列において1個から数個のアミノ酸残基が欠失、置換および/または付加したアミノ酸配列としては、配列番号1に示す 29 番目から 243 番目までのアミノ酸配列に対して、70 % 以上の相同性を有するアミノ酸配列が望ましい。なお、配列番号1に示す 1 番目から 28 番目までのアミノ酸配列はシグナルペプチドである。
本発明で用いる p28 分子をコードする遺伝子は、具体的には、例えば、配列番号1に示す 29 番目から 243 番目までのアミノ酸配列を有する蛋白質をコードする遺伝子、あるいは配列番号1に示す 29 番目から 243 番目までのアミノ酸配列において1個から数個のアミノ酸残基が欠失、置換および/または付加したアミノ酸配列を有する蛋白質であって p28 分子と同様の機能を有する蛋白質をコードする遺伝子である。より具体的には、配列番号1に示す 85 番目から 732 番目までの塩基配列を有する遺伝子、あるいは配列番号1に示す 85 番目から732 番目までの塩基配列を有する遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズし p28 分子と同様の機能を有する蛋白質をコードする遺伝子である。ここで同様の機能を有するとは、上記したものと同様の意味である。ストリンジェントな条件とは、例えば、6×SSPE、2×デハルト溶液、0.5 % SDS、0.1 mg/ml サケ精巣 DNA を含む溶液で 65℃、12 時間反応させる条件下でサザンハイブリダイゼーションを行なうことが挙げられる。なお、配列番号1に示す 1 番目から84 番目までの塩基配列はシグナルペプチドをコードする遺伝子に相当する。
後に説明するように、本発明においては、p28 分子をコードする遺伝子を有効成分として用いる場合には、通常、該遺伝子を発現し分泌できるウイルスベクターあるいは非ウイルスベクターの形態で用いる。従って、通常、上記した p28 分子をコードする遺伝子の上流側にシグナルペプチドをコードする遺伝子が付加される。シグナルペプチドをコードする遺伝子は、配列番号1に示した 1 番目から 84 番目までの塩基配列を有する遺伝子に限定されず、通常シグナルペプチドをコードする遺伝子として使用される遺伝子を使用することもできる。
上記した遺伝子は、配列番号1に示した p28 分子の遺伝子の塩基配列に基づき PCR 法を利用する周知の方法により得ることができる。これらの方法は、例えば Molecular Cloning 2nd Edt., Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)等の基本書に従い、当業者ならば容易に行うことができる。また、例えば部位特異的突然変異誘発法、PCR 法あるいは通常のハイブリダイゼーション法などにより容易に得ることができ、具体的には上記 Molecular Cloning 等の基本書を参考にして行うことができる。上記した p28 分子も同様に、上記した遺伝子を用いた当業者に周知の組換え DNA 法により容易に得ることができ、また通常の蛋白質合成法により得ることもできる。
本発明で用いる p28 分子は、通常、静脈内、皮下、筋肉内、局所、経直腸、経皮、経鼻などの非経口的に投与することができる。非経口投与のための剤型としては、例えば、注射用水性剤もしくは油性剤、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、エアロゾル剤、坐剤、貼付剤などが挙げられる。更に、徐放性のミニペレット製剤を調製し体内に埋め込むことにより、あるいはオスモチックポンプなどを用いて体内に連続的に徐々に投与することなども可能である。また、経口投与により投与することも可能であり、その場合に、通常、マイクロカプセルやリポソームの形態で消化管などにおいて分解を受けないような剤型で投与される。
これらの製剤は、従来公知の技術を用いて調製され、製剤分野において通常使用される無毒性かつ不活性な担体もしくは賦形剤を含有することができる。また通常の結合剤、安定剤、緩衝剤、溶解補助剤、等張剤などを必要に応じて用いることもできる。
P28 分子の投与量、投与回数は、投与対象の症状、症歴、年齢、体重、投与形態等によって異なるが、例えば成人(体重 60 kg)に、例えば、静脈内などの経口投与で投与する場合、通常、1日当たり 100 〜 5,000 mg、好ましくは 400 〜 2,000 mg 、特に好ましくは 800 〜 1,200 mg の範囲で適宜調製して、一回または数回に分けて投与することができる。
本発明において、p28 分子をコードする遺伝子を用いる場合には、通常、上記したように、p28 分子の遺伝子を発現し分泌できるようにされたウイルスベクターあるいは非ウイルスベクターの形態で用いられる。ウイルスベクターとしては、アデノウイルス、レトロウイルス等のウイルスベクターが代表的なものである。具体的には、例えば、無毒化したレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、センダイウイルス、SV40、免疫不全症ウイルス(HIV)等の DNA ウイルスまたは RNA ウイルスを挙げることができる。これらのうち、アデノウイルスの感染効率が他のウイルスを用いた場合よりもはるかに高いことから、アデノウイルスベクター系を用いることが好ましい。
非ウイルスベクターとしては、哺乳動物の生体内で目的遺伝子を発現させ分泌できることのできるベクターであれば如何なる発現ベクターであってもよく、例えば pcDNA3.1、pZeoSV、pBK-CMV(Invitrogene 社、Strategene 社)や pCAGGS(Niwa, H et al., Gene, 108, 193-199, 1991)などの発現ベクターが挙げられる。
これらのベクターに発現し分泌可能なように、シグナルペプチドをコードする遺伝子を上流側に付加した p28 分子をコードする遺伝子を、挿入することにより、本発明の医薬製剤を調製することができる。これらの非ウイルスベクターおよびウイルスベクターの調製法、投与法などは既に当業者に公知であり、例えば、別冊実験医学、遺伝子治療の基礎技術、羊土社、1996;別冊実験医学、遺伝子導入&発現解析実験法、羊土社、1997;日本遺伝子治療学会編遺伝子治療開発研究ハンドブック、エヌ・ティー・エス、1999などが参考とされる。
p28 分子をコードする遺伝子が発現し分泌可能なように挿入されたウイルスベクターあるいは非ウイルスベクターは、そのままの形態で、あるいは医薬的に許容できる通常使用されている賦形剤とともに、溶液、懸濁液、ゲル等の形態に製剤化したのちに投与することができる。投与形態としては、局所注射などにより投与することができる。また、通常の静脈内、動脈内等の全身投与により投与することもできる。
また、上記の p28 分子をコードする遺伝子が発現し分泌可能なように挿入されたウイルスベクターあるいは非ウイルスベクターを、予め細胞に導入し、その後に該細胞を投与することもできる。このような投与の際に担体として使用する細胞としては、例えば繊維芽細胞、筋芽細胞、末梢血細胞、各種幹細胞、放射線処理した腫瘍細胞などが挙げられる。細胞に、ウイルスベクターあるいは非ウイルスベクターを用いて遺伝子を導入するには、例えば、LXSN(Miller, AD, Rosman, GJ, BioTechniques, 7, 980-990, 1989)、MGF、α−SCG、PLJ、pEm(特表平6-503968号公報)などのレトロウイルスベクターのクローニング部位に、p28 分子をコードする遺伝子を発現し分泌可能なように挿入し、次いでこの DNA をパッケージング細胞に導入し、p28 分子をコードする遺伝子が導入された細胞の培養上清に含まれるレトロウイルスを用いて、細胞を感染させることにより、細胞に p28 分子をコードする遺伝子を導入することができる。導入された細胞は、通常、半透過性のポリマーなどに抱埋させて、アルギニン−ポリ−L-リジン−アルギネートカプセルやアガロースマイクロビーズなどの形態で投与することができる(Suzuki, R et al., Cell Transplant., 11, 787-797, 2002; Al-Hendy, A et al., Hum. Gene Ther., 7, 61-70, 1996)。
p28 分子をコードする遺伝子の投与量は、投与対象の症状、年齢、性別、投与経路、剤型などによって異なるが、一般に、成人では一日当たり p28 分子をコードする遺伝子の重量として、通常、約 10 μgから 500 mgである。
本発明の医薬製剤は、IL-27 による免疫応答の異常や亢進によって引き起こされると考えられる免疫性疾患、例えば膠原病、多発性硬化症、慢性関節リウマチ、潰瘍性大腸炎、I 型糖尿病、慢性甲状腺炎などに特に有効であり、また、IL-27 による免疫応答に基づく臓器移植の際の拒絶反応などに有効である。さらに、免疫応答を収斂させる反応を阻止し、免疫応答を維持し、感染症、がんなどの疾患に対して有効である。本発明の医薬製剤は、IL-27 による免疫応答を特異的に阻害できるという点にでも、他の医薬製剤と異なる利点を有している。
以下に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
組換え IL-27 および p28 分子の作成
BALB/cマウスの大腿骨から採取し、リポ多糖(10μg/ml)で6時間刺激した骨髄細胞の RNA から RT-PCR 法によって、p28 および EBI3 の完全長 cDNA を単離し、これを動物細胞発現ベクター pcDNA3.1/myc-His (Invitrogen社)のクローニング部位にそれぞれ挿入した。また、IL-27 の発現については pcDNA3.1ベクターに、p28 および EBI3 cDNA を internal ribosomal entry site (IRES)(Duke, GM et al., J. Virol., 66, 1602-1609, 1992)を介して挿入した。したがって、IL-27 発現ベクターはサイトメガロウイルスプロモーターの下流に p28/IRES/EBI3 の順で遺伝子が並び、p28 と EBI3 cDNA は同プロモーターによって転写が行われることになる。これらの DNA をチャイニーズハムスターの卵巣がん細胞であるCHO細胞、あるいはサルの上皮細胞であるCOS-7細胞(共にAmerican Type Culture Collection, ATCC)にリポフェクチン(Invitrogen社)を用いて導入し、48-96 時間後に培養上清を回収し、以下の実験ではこれらの培養液を、IL-27 および可溶性サブユニット分子として利用した。ここで使用したマウス p28 分子および EBI3 分子をコードする遺伝子は、配列表の配列番号2および3に示した塩基配列からなる。配列番号2に示した塩基配列はシグナルペプチドをコードする塩基配列を5' 末端側(1 番目から 84 番目まで)に含むものである。
p28 分子の分泌
CHO 細胞にベクター(pcDNA3.1/myc-His)のみ、あるいは同ベクターに p28、EBI3 cDNA を挿入した DNA を導入し、96 時間後の細胞培養液、細胞融解液と抗myc 抗体を用いてウエスタンブロット解析を行なった(図1)。その結果、EBI3遺伝子導入細胞では、細胞融解液にのみ当該遺伝子産物が検出され、細胞培養液には全く検出されなかった。p28 遺伝子導入細胞では、細胞融解液で検出される当該遺伝子産物は僅かであったが、細胞培養液では多くの同産物が、当該分子量に一致して検出された。すなわち、p28 分子は単独で分泌されるが、EBI3 分子は基本的に非分泌型であることが判明した。
p28 分子による IL-27 刺激依存性 IFN-γ産生の抑制
pcDNA3.1 ベクターに IL-12 (p35/IRES/p40)(Tasaki, K et al., Cancer Gene Ther., 7, 247-254, 2000)、IL-27 および p28 遺伝子を挿入した DNA を COS-7細胞に導入し、この培養上清、あるいは遺伝子導入を行わなかった同細胞の培養上清を用いて、C57BL/6 マウスの脾臓より精製した CD4+ 細胞を培養した。培養開始後 48 時間で、同細胞の培養上清を回収し、そこに含まれるIFN-γ量をELISA法(e-Bioscience社)により測定した(図2)。遺伝子導入しなかった COS-7 細胞の培養上清のみで CD4+ 細胞を培養した場合、その上清には IFN-γは全く検出されなかったが、IL-12 分子を含む培養上清添加で、IFN-γが産生された。そこで、IL-12 分子を含む培養上清と IL-27 分子を含む培養上清を添加すると、IFN-γ産生量がさらに増加した。この IL-27 による IFN-γ産生量の増加は、p28 分子を含む培養上清が共存すると完全に消失した。IL-12 分子を含む培養上清と p28 分子を含む培養上清添加の場合、IFN-γ産生量の有意な変化はなかった。したがって、p28 分子は、IL-27 依存性の IFN-γ産生を阻害したが、IL-12 依存性の IFN-γ産生量には影響を与えなかった。
IL-27 および p28 遺伝子導入細胞の確立
p28 および EBI3 cDNA、あるいは IRES を用いて p28/IRES/EBI3 とした遺伝子をレトロウイルスベクター LXSN(Miller, AD, Rosman, GJ, BioTechniques 7, 980-990, 1989)に挿入した。この DNA をパッケージング細胞 Psi-2 (ATCC)にリポフェクチンを用いて導入後、G418(400μg/ml、Invitrogen社)添加培地で選択し、その培養上清とポリブレン(8μg/ml、Aldrich社)を用いてさらに PA317 細胞(ATCC)に遺伝子導入をおこない、G418(400μg/ml)添加培地で選択し、PA317 細胞培養上清中のレトロウイルスを得た。このレトロウイルスをマウス大腸癌細胞(Colon26)に感染させ、p28、EBI3 および IL-27 遺伝子導入細胞を確立した(Colon26/p28、Colon26/EBI3、Colon26/IL-27)。これらの遺伝子導入細胞の各遺伝子発現をノザンブロット法を用いて確認した(図3)。また腫瘍抗原の提示に重要な主要組織適合抗原の H-2K/H-2D/H-2L 発現が、親株と各遺伝子導入細胞では大差ないこと、さらに各遺伝子導入細胞の in vitro における増殖も親株と同一であることを確認した。
可溶性 p28 分子による IL-27 遺伝子導入による抗腫瘍効果の抑制
Colon26/IL-27 細胞(1x106個)を同系マウス BALB/c の皮下に接種したところ、腫瘍は一旦生着するものの、時間経過とともに全例退縮し、最終的に腫瘍は完全に拒絶された。しかし、Colon26/p28 および Colon26/EBI3 細胞(1x106 個)を接種すると、マウスに生着し、その腫瘍増大は親株腫瘍の場合と大差がなかった。また、これらの細胞を同系マウスの腹腔内に投与して、その生存を検討したところ、Colon26/IL-27 細胞を投与したマウスは全例生存したが、Colon26/p28 あるいは Colon26/EBI3 細胞を投与したマウスは全例死亡し、しかもその生存は親株を投与した場合と変わらなかった。したがって、IL-27 遺伝子を腫瘍に発現させ、同系マウスに接種すると抗腫瘍効果が生じるが、p28 あるいは EBI3 遺伝子導入細胞では、そのような効果は全く見られないことが判明した。そこで、p28 分子が IL-27 の機能を in vivo で阻害するかどうかを検討した。Colon26/IL-27 細胞と親株を1:1の比率で混和して総細胞数 1x106 個とし、同系マウスの皮下に接種すると、腫瘍は時間経過とともに全例退縮し、最終的に腫瘍は完全に拒絶された(図4)。しかし、Colon26/IL-27 細胞と Colon26/p28細胞を1:1の比率で混和して(総細胞数 1x106 個)同系マウスの皮下に接種すると、その増殖は親株のみを接種した場合(総細胞数 1x106 個)や Colon/p28 細胞接種の場合(総細胞数 1x106 個)と同様に増殖し、腫瘍は生着し拒絶されなかった。すなわち、IL-27による抗腫瘍効果が、可溶性の p28 分子によって阻害されることが判明した。
マウス p28 分子のアミノ酸配列(配列番号2の 29 番目から 234 番目までのアミノ酸配列)とヒト p28 分子のアミノ酸配列(配列番号1の 29 番目から 243 番目までのアミノ酸配列)とは、74.9 % の相同性を有する。他方、マウスとヒトの IL-12 の機能が同じであることは、Schoehaut DS, et al., Cloning and expression of murine IL-12. J. Immunol., 1992, 148, 63433-3440 などに報告されている。マウスとヒトの p40 分子がそれぞれの IL-12 機能を阻害することは、Ling P, et al., Human IL-12 p40 homodimer binds to the IL-12 receptor but not mediate biologic activity. J. Immunol., 1997, 154, 116-127; Gillessen S, et al., Mouse interleukin-12 (IL-12) p40 homodimer: a potent IL-12 antagonist. Eur. J. Immunol, 1995, 25, 200-206; Matter F, et al., The interleukin-12 subunit p40 specifically inhibits effects of the interleukin-12 heterodimer. Eur. J. Immunol., 1993, 23, 2202-2208 などの報告から明らかである。また、マウスとヒトの IL-27 の機能が同じであることは、Pflanz S, et al. WSX-1 and glycoprotein 130 constitute a signal-transducing receptor for IL-27. J. Immunol., 1997, 154, 116-127; Pflanz S, et al., IL-27, a heterodimeric cytokine composed of EBI3 and p28 protein, induces proliferation of naive CD4(+) T cells. Immunity, 2002, 16, 755-758 などに報告されている。従って、これらの事実から、配列番号2の 29 番目から 234 番目までのアミノ酸配列からなるマウス p28 分子と同様に、配列番号1の 29 番目から 243 番目までのアミノ酸配列からなるヒト p28 分子も、上記した同様の実験結果が得られることは当業者に明らかである。
以上詳細に説明した通り、p28 分子をコードする遺伝子を導入した COS-7 細胞の培養上清が、IL-27 による CD4+ 脾細胞からの IFN-γ産生を抑制することが明らかとなった。また、p28 分子をコードする遺伝子を導入した Colon26 細胞によって、IL-27 をコードする遺伝子導入 Colon26 細胞接種による抗腫瘍効果が阻害されることが明らかになった。これらの事実から、p28 分子は IL-27による免疫応答を阻害すること、また、p28 分子をコードする遺伝子を発現し分泌可能なベクターに挿入して用いることにより、産生される可溶性の p28 分子が同様に、IL-27 による免疫応答を阻害することが明らかになった。従って、p28 分子あるいは p28 分子をコードする遺伝子を用いることにより、自己免疫疾患や臓器移植など、IL-27 が関与する免疫応答を抑制し、自己免疫やアレルギー疾患の予防と治療を可能にし、移植臓器の生着延長をもたらす。また、IL-27 による免疫応答の沈静化を阻害し、細胞性免疫応答を継続させ、細胞内寄生をおこす感染症などに有効な作用を発揮する。
IL-27 サブユニット分子である p28 分子のみが、細胞より分泌され、他のサブユニット分子である EBI3 分子は分泌されないことを示す図である。 p28 遺伝子導入 COS-7 細胞の培養上清が、IL-27 による CD4+ 脾細胞からの IFN-γ産生を抑制する図である。標準誤差も記している。 Colon26 細胞(Parent)に p28、EBI3、IL-27(p28/IRES/EBI3)遺伝子あるいは LXSN ベクター(Vector)を導入した細胞(IL-27 遺伝子導入細胞は#2、#4 および #12 の3クローン)における各遺伝子発現を示す図である。Elongation factor (EF)-1αは RNA が正しくブロットされていることを示す。 p28 遺伝子導入 Colon26 細胞によって、IL-27 遺伝子導入 Colon26腫瘍接種による抗腫瘍効果が阻害されることを示す図である。標準誤差も記している。

Claims (3)

  1. 配列番号1の85番目−732番目までの塩基配列にコードされる可溶性p28タンパク質もしくは配列番号2の85番目−732番目までの塩基配列にコードされる可溶性p28タンパク質を主成分として含むIL−27シグナル伝達阻害のための薬剤。
  2. 前記IL−27シグナル伝達阻害がIF−γの分泌を阻害することを特徴とする請求項1に記載の薬剤。
  3. 前記IL−27シグナル伝達阻害がin vivoでの移植細胞の増殖を促進させることを特徴とする請求項1に記載の薬剤。
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