JP4834608B2 - 解離定数算出装置、結合様式判定装置、解離定数算出方法、解離定数算出プログラムおよびコンピュータ読み取り可能な記録媒体 - Google Patents

解離定数算出装置、結合様式判定装置、解離定数算出方法、解離定数算出プログラムおよびコンピュータ読み取り可能な記録媒体 Download PDF

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Description

本発明は、捕捉物質と分析対象物質との結合量に基づいて、捕捉物質と分析対象物質との結合様式を判定する結合様式判定装置、当該結合様式の判定に用いる、捕捉物質に対する分析対象物質の解離定数を算出する解離定数算出装置および解離定数算出方法に関するものである。
血漿中の薬物は、血漿タンパク質と結合している状態では薬理効果を現わさないため、薬効や副作用の強さは、薬物総濃度よりむしろ非結合型薬物濃度と良く相関する。よって、薬効や副作用の強さを調べるために、血漿中の非結合型薬物濃度を推定することが好ましい。血漿中の非結合型薬物濃度を推定するための方法として、薬物とタンパク質との結合能を測定する方法が挙げられる。
薬物を投与する場合、1種類の薬物のみが投与されることは少なく、複数の薬物が同時に投与されることが多い。上述のように薬効や副作用の発現に関連するのは非結合型薬物濃度であるため、2種類以上の薬物を共存させることにより非結合型薬物濃度が増加すれば、予期せぬ副作用が発現する可能性が高まる。
従って、併用が想定される薬物が血漿タンパク質結合に与える影響を予め調べておくことが好ましい。なお、その際、薬物が血漿タンパク質に結合する結合サイトが明らかであれば、同一結合サイトに結合する薬物は、競合的に結合する(他の薬物の結合を阻害する)可能性が高いことが予想できる。
タンパク質に対する2種類の薬物の結合様式は、独立的結合様式、競合的結合様式およびアロステリック的結合様式に分類できる。独立的結合様式の場合には、2種類の薬物を同時に投与しても、血漿中における各薬物の非結合型薬物濃度は、1種類のみを投与した場合と比較して増加しない。
一方、競合的結合様式およびアロステリック的結合様式の場合には、2種類の薬物を同時に投与すると、血漿中における少なくとも一方の薬物の非結合型薬物濃度は、当該薬物のみを投与した場合と比較して増加する。
競合的結合様式においては、結合サイトが特定されている場合があるが、アロステリック的結合様式の場合には、結合サイトは、ほとんど特定されておらず、薬物が酵素の活性中心以外のサイトに結合するという程度しか分かっていない場合が多い。当該活性中心以外のサイトに結合する2種類の薬物を共存させた場合、それらの薬物は互いに競合する可能性が高い。
ここで、タンパク質と薬物との相互作用を観察するための従来の手法について説明する。捕捉物質(リガンド)(例えば、タンパク質)と、当該捕捉物質に結合する分析対象物質(アナライト)(例えば、薬物)との結合状態を検出する手法として、表面プラズモン共鳴(SPR)を利用する方法(以下、SPR法と称する)が用いられている。
このSPR法では、金属薄膜からなるセンサー表面に捕捉物質を結合したセンサーチップを用いて、当該捕捉物質と分析対象物質との結合状態を表面プラズモン共鳴により生じる表面プラズモン共鳴シグナル(SPRシグナル)の変化として検出する。そして、検出されたSPRシグナルの変化に対応するデータを解析することにより、捕捉物質と分析対象物質との相互作用を予測する。
より具体的には、SPR法を用いたタンパク質と薬物との相互作用を観察するための方法では、タンパク質が、薬物と結合するための1種類の結合サイトを持つことを前提とした数学モデルを用いて、検出されたSPRシグナルの変化に基づき、当該数学モデルにおける各々の結合パラメータを算出し、算出した結合パラメータにより、タンパク質に対する薬物の結合重量を算出する。このようなSPR法は、例えば、特許文献1および非特許文献1に記載されている。
上述のSPR法を用いてタンパク質に対する2種類の薬物の結合様式を判定する方法として非特許文献2に記載の方法を挙げることができる。この非特許文献2に記載の方法では、1種類のタンパク質に対して、2種類の薬物を別々に相互作用させた時のSPRシグナルの変化量と、2種類の薬物を同時に上記タンパク質に相互作用させた時のSPRシグナルの変化量とを測定している。
この非特許文献2に記載の方法では、タンパク質と2種類の薬物との間において、結合阻害が起こっているのかどうかを判定することができる。すなわち、タンパク質と2種類の薬物との間の結合様式が、1)独立的結合様式なのか、2)競合的結合様式、または競合的結合様式以外の結合阻害が生じる結合様式(例えば、アロステリック的結合様式)なのかを判定することができる。
また、タンパク質と薬物との結合様式を判定するための別の手法として、平衡透析や限外ろ過法が知られている。この限外ろ過法とは、溶液中に溶解している薬物を分離膜を用いて分離することにより、タンパク質と結合していない薬物の濃度を算出する方法である。
なお、特許文献2には、タンパク質が薬物との2種類以上の結合サイトを持つことが表現された数学モデルを利用して、SPR法において、センサーチップの使用回数や使用日数等に応じた、当該センサーチップの劣化による解析結果への影響を回避する方法が記載されている。
国際公開第00/79268号パンフレット(2000年12月28日公開) 特開2004−257741号公報(2004年9月16日公開) Asa Frostell-Karlsson et. al.,Journal of Medical Chemistry, March 29, 2000, Vol.43, No.10, p.1986-1992. Yasmina S.N. Day et. Al., Journal of Pharmaceutical Science, February, 2003, Vol.92, No.2, p333-343
ところが、上記非特許文献2に記載の方法では、2種類の分析対象物質を同時に捕捉物質に相互作用させた時の結合様式を厳密に判定することは困難である。
例えば、非特許文献2に記載の方法では、捕捉物質と2種類の分析対象物質との間において、結合阻害が生じていることが判定できたとしても、その結合阻害が競合的結合によるものなのか、アロステリック的結合などの競合的結合以外の結合によるものなのかを判定することは困難である。
なぜなら、SPR法では、2種類の分析対象物質を同時に捕捉物質に相互作用させた時に生じるSPRシグナルは1つであるため、どちらの分析対象物質がどれだけ相互作用に関与しているのかを測定することが困難であるからである。
また、平衡透析や限外ろ過を用いる方法では、時間およびコストがかかるという問題がある。医薬品の開発初期段階では、非常に多種類の候補化合物が存在しているが、開発ステージが上がるにつれて、この集団から有望と思われる化合物が選抜されて化合物数が減少する。一般に医薬品開発では、開発ステージが上がるほど大きな開発コストがかかるため、望みのない候補化合物はできるだけ初期の段階で排除しておくことが求められている。
そのため、処理速度が遅い方法では、限られた化合物数しか処理できないため、処理速度が遅い方法は、必然的に開発ステージが高い段階での使用に限定される。
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、2種類の分析対象物質を同時に捕捉物質に相互作用させた時の結合様式が、競合的結合様式であるか独立的結合様式であるかどうかを判定するために用いる解離定数を算出することができる解離定数算出装置、および当該解離定数を用いて、上記結合様式が競合的結合様式であるか独立的結合様式であるかどうかをハイスループットで判定することができる結合様式判定装置を提供することにある。なお、上記結合様式が競合的結合様式であるか独立的結合様式であるかどうかを判定できる結果、結合阻害現象が競合的結合によるものなのか、それ以外の結合様式によるものなのかを判定できるようになる。
本発明に係る解離定数算出装置は、上記の課題を解決するために、第1および第2分析対象物質の総モル濃度が一定であり、当該第1および第2分析対象物質の組成比が互いに異なる複数の試料溶液に含まれる上記第1および第2分析対象物質が、1種類の捕捉物質に可逆的に結合した量を示す実測結合量を上記複数の試料溶液ごとに取得する取得手段と、上記第1および第2分析対象物質が上記捕捉物質に対して競合的結合様式を示す場合の数学モデル式である競合モデル式であって、上記第1分析対象物質と上記捕捉物質との解離定数である第1解離定数と、上記第1分析対象物質が上記捕捉物質へ結合し得る最大の結合量である第1最大結合量と、上記第2分析対象物質が上記捕捉物質へ結合し得る最大の結合量である第2最大結合量とを既知の値として含み、上記第2分析対象物質の上記捕捉物質に対する解離定数である第2解離定数を変数とする競合モデル式を用いて、上記総モル濃度に対する第2分析対象物質のモル濃度の割合と上記取得手段が取得した実測結合量との関係から、上記第2解離定数を算出する競合モデル定数算出手段とを備えることを特徴としている。
本発明に係る結合解離定数算出方法は、上記の課題を解決するために、解離定数算出装置における解離定数算出方法であって、第1および第2分析対象物質の総モル濃度が一定であり、当該第1および第2分析対象物質の組成比が互いに異なる複数の試料溶液に含まれる上記第1および第2分析対象物質が、1種類の捕捉物質に可逆的に結合した量を示す実測結合量を上記複数の試料溶液ごとに取得する取得工程と、上記第1および第2分析対象物質が上記捕捉物質に対して競合的結合様式を示す場合の数学モデル式である競合モデル式であって、上記第1分析対象物質と上記捕捉物質との解離定数である第1解離定数と、上記第1分析対象物質が上記捕捉物質へ結合し得る最大の結合量である第1最大結合量と、上記第2分析対象物質が上記捕捉物質へ結合し得る最大の結合量である第2最大結合量とを既知の値として含み、上記第2分析対象物質の上記捕捉物質に対する解離定数である第2解離定数を変数とする競合モデル式を用いて、上記総モル濃度に対する第2分析対象物質のモル濃度の割合と上記取得工程において取得された実測結合量との関係から、上記第2解離定数を算出する競合モデル定数算出工程とを含むことを特徴としている。
上記の構成によれば、取得手段は、第1および第2分析対象物質の総モル濃度が一定であり、当該第1および第2分析対象物質の組成比が互いに異なる複数の試料溶液に含まれる上記第1および第2分析対象物質が、1種類の捕捉物質に可逆的に結合した量を示す実測結合量を上記複数の試料溶液ごとに取得する。
競合モデル定数算出手段は、上記競合モデル式を用いて、取得手段が取得した実測結合量と、第1および第2分析対象物質の総モル濃度に対する第2分析対象物質のモル濃度の割合(第2分析対象物質のモル分率)との関係から、第2分析対象物質の捕捉物質に対する解離定数(第2解離定数)を算出する。
上記第2解離定数を用いることにより、第1および第2分析対象物質が、捕捉物質に対して競合的結合様式または独立的結合様式を示すかどうかを判定することができる。
2種類の分析対象物質を同時に1種類の捕捉物質に結合させたときの実測結合量は、例えば、SPR法によって短時間で得られる。
それゆえ、第1および第2分析対象物質が、捕捉物質に対して競合的結合様式または独立的結合様式を示すかどうかの判定を、平衡透析、限外ろ過等を用いた従来の方法よりも短時間で行うことができる。
また、その結果、結合阻害現象が競合的結合によるものか、それ以外の結合様式によるものかを判定できる。
また、上記競合モデル定数算出手段は、上記競合モデル式として、下記(1)式
RU=C×Rmax/(C+Kd+Kd×C/Kd
+C×Rmax×MW/MW/(C+Kd+Kd×C/Kd
・・・(1)
(ただし、上記(1)式において、RUは、上記実測結合量であり、Cは、上記第1分析対象物質の試料溶液中のモル濃度であり、Cは、上記第2分析対象物質の試料溶液中のモル濃度であり、Kdは、上記第1解離定数であり、Kdは、上記第2解離定数であり、Rmaxは、上記第1最大結合量であり、MWは、上記第1分析対象物質の分子量であり、MWは、上記第2分析対象物質の分子量である。)
を用いることが好ましい。
上記の構成によれば、競合モデル定数算出手段は、上記競合モデル式を用いることにより第2解離定数を算出することができる。
また、上記競合モデル定数算出手段は、上記(1)式の右辺に、測定誤差による変動を表す定数項が加えられた競合モデル式を用いることが好ましい。
上記の構成によれば、競合モデル式に測定誤差による変動を表す定数項が加えられることにより、競合モデル定数算出手段は、第2解離定数をより正確に算出することができる。
本発明に係る結合様式判定装置は、上記の課題を解決するために、上記実測結合量を取得し、上記第1および第2分析対象物質が上記1種類の捕捉物質に対して独立的結合様式を示す場合の数学モデル式である独立モデル式であって、上記第1解離定数と、上記第1最大結合量と、上記第2最大結合量とを既知の値として含み、上記第2解離定数を変数とする独立モデル式を用いて、第1および第2分析対象物質の総モル濃度に対する第2分析対象物質のモル濃度の割合と取得した実測結合量との関係から上記第2解離定数を独立第2解離定数として算出する独立モデル定数算出手段と、上記解離定数算出装置が算出した第2解離定数である競合第2解離定数を取得し、取得した競合第2解離定数と、上記独立モデル定数算出手段が算出した独立第2解離定数とが、それぞれ所定の範囲内のものであるかどうかを判定することにより、上記第1および第2分析対象物質が上記捕捉物質に対して競合的結合様式または独立的結合様式を示すかどうかを判定する判定手段とを備えることを特徴としている。
上記の構成によれば、独立モデル定数算出手段は、上記独立モデル式を用いて、第1および第2分析対象物質の総モル濃度に対する第2分析対象物質のモル濃度の割合と取得した実測結合量との関係から、第2解離定数(独立第2解離定数)を算出する。判定手段は、競合第2解離定数と独立第2解離定数とが、それぞれ所定の範囲内のものであるかどうかを判定することにより、第1および第2分析対象物質が捕捉物質に対して競合的結合様式または独立的結合様式を示すかどうかを判定する。
2種類の分析対象物質を同時に1種類の捕捉物質に結合させたときの実測結合量は、例えば、SPR法によって短時間で得られる。
それゆえ、第1および第2分析対象物質が、捕捉物質に対して競合的結合様式または独立的結合様式を示すかどうかの判定を、平衡透析、限外ろ過等を用いた従来の方法よりも短時間で行うことができる。
また、上記判定手段は、上記競合第2解離定数および上記独立第2解離定数がともに上記所定の範囲内のものであると判定した場合に、上記関係が上記競合モデル式にどの程度一致するかを示す第1規準値と、上記関係が上記独立モデル式にどの程度一致するかを示す第2規準値とを比較することにより、上記第1および第2分析対象物質が上記捕捉物質に対して競合的結合様式または独立的結合様式を示すかどうかを判定することが好ましい。
上記の構成によれば、判定手段は、競合第2解離定数および独立第2解離定数がともに所定の範囲内のものであると判定した場合に、第1規準値と第2規準値とを比較することにより、第1および第2分析対象物質が捕捉物質に対して競合的結合様式または独立的結合様式を示すかどうかを判定する。
それゆえ、競合第2解離定数および独立第2解離定数がともに所定の範囲内のものである場合にも、結合様式の判定を行うことができる。
また、上記解離定数算出装置を動作させる解離定数算出プログラムであって、コンピュータを上記各手段として機能させるための解離定数算出プログラム、および当該解離定数算出プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も本発明の技術的範囲に含まれる。
本発明に係る解離定数算出装置は、以上のように、第1および第2分析対象物質の総モル濃度が一定であり、当該第1および第2分析対象物質の組成比が互いに異なる複数の試料溶液に含まれる上記第1および第2分析対象物質が、1種類の捕捉物質に可逆的に結合した量を示す実測結合量を上記複数の試料溶液ごとに取得する取得手段と、上記第1および第2分析対象物質が上記捕捉物質に対して競合的結合様式を示す場合の数学モデル式である競合モデル式であって、上記第1分析対象物質と上記捕捉物質との解離定数である第1解離定数と、上記第1分析対象物質が上記捕捉物質へ結合し得る最大の結合量である第1最大結合量と、上記第2分析対象物質が上記捕捉物質へ結合し得る最大の結合量である第2最大結合量とを既知の値として含み、上記第2分析対象物質の上記捕捉物質に対する解離定数である第2解離定数を変数とする競合モデル式を用いて、上記総モル濃度に対する第2分析対象物質のモル濃度の割合と上記取得手段が取得した実測結合量との関係から、上記第2解離定数を算出する競合モデル定数算出手段とを備える構成である。
本発明に係る解離定数算出方法は、以上のように、第1および第2分析対象物質の総モル濃度が一定であり、当該第1および第2分析対象物質の組成比が互いに異なる複数の試料溶液に含まれる上記第1および第2分析対象物質が、1種類の捕捉物質に可逆的に結合した量を示す実測結合量を上記複数の試料溶液ごとに取得する取得工程と、上記第1および第2分析対象物質が上記捕捉物質に対して競合的結合様式を示す場合の数学モデル式である競合モデル式であって、上記第1分析対象物質と上記捕捉物質との解離定数である第1解離定数と、上記第1分析対象物質が上記捕捉物質へ結合し得る最大の結合量である第1最大結合量と、上記第2分析対象物質が上記捕捉物質へ結合し得る最大の結合量である第2最大結合量とを既知の値として含み、上記第2分析対象物質の上記捕捉物質に対する解離定数である第2解離定数を変数とする競合モデル式を用いて、上記総モル濃度に対する第2分析対象物質のモル濃度の割合と上記取得工程において取得された実測結合量との関係から、上記第2解離定数を算出する競合モデル定数算出工程とを含む構成である。
それゆえ、上記第2解離定数を用いることにより、第1および第2分析対象物質が、捕捉物質に対して競合的結合様式または独立的結合様式を示すかどうかを判定することができるという効果を奏する。
本発明の実施の一形態について図1〜図10に基づいて説明すれば、以下のとおりである。
(結合様式判定システム1の構成)
図1は、結合様式判定システム1の構成を示す機能ブロック図である。同図に示すように、結合様式判定システム1は、判定装置2、検出装置21、出力装置22を備えている。
結合様式判定システム1は、1種類の捕捉物質と、2種類の分析対象物質の混合物質との結合量を示すデータを解析する判定装置2を含むシステムであり、より詳細には、検出装置21から出力された、捕捉物質と2種類の分析対象物質との結合に伴う表面プラズモン共鳴シグナルの変化を示すデータを判定装置2によって解析し、捕捉物質と2種類の分析対象物質との結合様式を判定するシステムである。
本実施形態において、捕捉物質とは、タンパク質であり、より具体的には、生体に含まれるタンパク質または当該タンパク質を人為的に改変したタンパク質である。これらのタンパク質は、生体から抽出されたものであってもよいし、人工発現系または人工合成系によって合成されたものであってもよい。
また、分析対象物質とは、捕捉物質と可逆的に結合する可能性が想定される低分子化合物である。当該低分子化合物の分子量は、概ね2000未満である。
検出装置21は、捕捉物質が結合されたセンサー表面を有するセンサーチップ30(図2参照)に、分析対象物質を含む試料溶液を反応させることにより、捕捉物質と分析対象物質との結合状態を表面プラズモン共鳴シグナル(SPRシグナル)の変化として検出する検出装置である。検出装置21の例として、例えば、BIACORE T1000(ビアコア社製:http://www.biocore.com)を挙げることができる。
なお、本明細書において用いる、「捕捉物質と分析対象物質との結合」という表現は、「捕捉物質と分析対象物質との相互作用」とも表現できる。つまり、上記「結合」とは、共有結合を意味しているわけではない。
図2は、検出装置21が備えるセンサーチップ30の構成を示す概略図である。同図に示すように、センサーチップ30は、センサー表面31、ガラス基板32、凹部34を有する流路系33を備えている。凹部34は、センサー表面31で蓋をされて、フローセルを形成する。センサーチップ30のセンサー表面31上には、複数のフローセルが形成されており、複数のフローセルに同時に複数の試料を添加することができる。なお、センサーチップ30の、センサー表面31とは反対側の面には、プリズム35が設けられている。
本実施形態では、検出装置21は、センサーチップ30のセンサー表面31に1種類の捕捉物質を結合させ、2種類の分析対象物質(基準化合物および被験化合物)を含む試料溶液をセンサーチップ30のフローセルに添加した時のSPRシグナルの変化を検出する。センサーチップ30に添加される試料溶液は、2種類の分析対象物質の、単位試料溶液当たりのモル数の比率がそれぞれ異なるものの、2種類の分析対象物質の、単位試料溶液当たりの総モル数は一定である複数の試料溶液である。
なお、本実施形態において、基準化合物とは、捕捉物質と結合する2種類の分析対象物質の一方であり、2種類の分析対象物質の混合試料を用いた結合様式判定実験の前に、捕捉物質に対する解離定数および最大結合量が求められている分析対象物質である。本実施形態では、便宜上、この基準化合物を化合物A(第1分析対象物質)と称している。
一方、被験化合物とは、捕捉物質と結合する2種類の分析対象物質のうち、基準化合物とは異なる分析対象物質である。本実施形態では、便宜上、この基準化合物を化合物B(第2分析対象物質)と称している。
結合量をより精密に測定するために、2つのフローセルを用いる。すなわち、センサーチップ30上の複数のフローセルのうちの1つに捕捉物質を化学的に固定し、他の1つのフローセルには何も固定化しない。捕捉物質を固定化したフローセルをアクティブセル、未処理のフローセルをリファレンスセルと称する。そして、これらアクティブセルおよびリファレンスセルの両方に同時に同じ試料溶液を添加する。後述するように、判定装置2は、アクティブセルから得られたデータをリファレンスセルから得られたデータで補正する。
なお、検出装置21は、溶媒補正用検量線試料溶液をアクティブセルおよびリファレンスセルに添加した時のレスポンス値も出力する。上記溶媒補正用検量線試料とは、溶媒補正用の検量線を作成するための試料であり、化合物AおよびBを含まない試料溶液、すなわち、溶媒のみの試料溶液であり、かつ、含有する有機溶媒(例えば、ジメチルスルホキシド)の濃度を様々な段階に設定した試料溶液である。
上記溶媒には、生理的条件に近い緩衝液を使用する。当該溶媒として、例えば、pH
7.4のリン酸緩衝液を用いることができる。また、化合物AおよびBの溶解補助剤として、少量の有機溶媒を溶媒に添加してもよい。当該有機溶媒として、例えば、ジメチルスルホキシドを10%以下の濃度で、望ましくは7%以下の濃度で使用することができる。
出力装置22は、判定装置2の判定結果を出力するものであり、例えば、レーザプリンタまたはディスプレイ装置である。
(判定装置2の構成)
図1に示すように、判定装置2は、取得部3、第1記憶部4、レスポンス増分算出部5、溶媒補正式導出部6、第2記憶部7、差レスポンス値算出部8、溶媒補正ファクター算出部9、溶媒補正レスポンス値算出部10、パラメータ算出部(取得手段、競合モデル定数算出手段)11、判定部(判定手段)14、基準パラメータ判定部19および出力制御部18を備えている。
取得部3は、捕捉物質と化合物AおよびBとの結合に伴うSPRシグナルの変化を示すデータ(レスポンス値)を、各試料溶液の濃度と関連付けて検出装置21から取得し、当該レスポンス値を第1記憶部4に格納する。より詳細には、取得部3は、化合物A単独試料溶液、および化合物Aと化合物Bとをともに含む混合試料溶液を添加する前後のレスポンス値を取得する。SPRシグナルの変化を示すデータ(レスポンス値)とは、具体的には、RU値(1000RU≒1ng/mm)として表示される、単位面積あたりの、分析対象物質の捕捉物質への結合量である。
検出装置21から、2種類の分析対象物質の濃度の相対比率が異なる複数の試料溶液または溶媒補正用検量線試料溶液を添加した時の複数のレスポンス値が出力される。取得部3は、これら複数のレスポンス値を一群のデータとして第1記憶部4に格納する。
レスポンス増分算出部5は、取得部3が取得した一群のレスポンス値のそれぞれについて、試料溶液を添加した後のレスポンス値から試料溶液を添加する前のレスポンス値を引いた値であるレスポンス増分を算出する。つまり、レスポンス増分算出部5は、試料溶液の添加に伴う実質的なレスポンス値の増分を算出する。
溶媒補正式導出部6は、センサーチップ30に複数の溶媒補正用検量線試料溶液を添加した時の、各溶媒補正用検量線試料溶液の添加に対応したリファレンスセルのレスポンス値の増分(レスポンス増分)に対し、アクティブセルのレスポンス増分からリファレンスセルのレスポンス増分を引いた値(溶媒補正ファクターと称する)をプロットし、プロットした値に適当な関数(例えば1次の整関数)を回帰させて溶媒補正用検量線のための数式(以下、溶媒補正検量線用数式と称する)を導出する。理解を容易にするため、溶媒補正ファクターの算出方法を図3に、溶媒補正用検量線の一例を図4に示す。溶媒補正式導出部6は、導出した溶媒補正検量線用数式を第2記憶部7に格納する。
差レスポンス値算出部8は、アクティブセルのレスポンス値の増分からリファレンスセルのレスポンス値の増分を引いた値である差レスポンス値を算出し、算出した差レスポンス値を溶媒補正レスポンス値算出部10へ出力する。
溶媒補正ファクター算出部9は、試料溶液添加に伴うリファレンスセルのレスポンス値の増分をレスポンス増分算出部5から取得し、取得したリファレンスセルのレスポンス値の増分に対応する溶媒補正ファクターを、第2記憶部7に格納された溶媒補正検量線用数式を用いて算出する。溶媒補正ファクター算出部9は、算出した溶媒補正ファクターを溶媒補正レスポンス値算出部10へ出力する。
図5は、溶媒補正レスポンス値(実測結合量)を説明するための図である。溶媒補正レスポンス値算出部10は、図5に示すように、差レスポンス値算出部8が算出した差レスポンス値から、溶媒補正ファクター算出部9が算出した溶媒補正ファクターを差し引いた値である溶媒補正レスポンス値を算出する。溶媒補正レスポンス値算出部10は、算出した溶媒補正レスポンス値をパラメータ算出部11または基準パラメータ判定部19へ出力する。このとき、化合物Aと化合物Bとをともに含む混合試料溶液の測定から得られた溶媒補正レスポンス値はパラメータ算出部11に、化合物A単独試料溶液の測定から得られた溶媒補正レスポンス値は基準パラメータ判定部19へ出力される。
レスポンス増分算出部5、差レスポンス値算出部8、溶媒補正ファクター算出部9、溶媒補正レスポンス値算出部10は、取得部3が取得した一群のデータとしての複数のレスポンス値のそれぞれについて、上述の各値の算出を行い、算出した各値を、当該値を得るに至った試料溶液中の分析対象物質Aの濃度、または分析対象物質AおよびBの割合と対応付けて出力する。レスポンス増分算出部5、溶媒補正式導出部6、差レスポンス値算出部8、溶媒補正ファクター算出部9、および溶媒補正レスポンス値算出部10は、複数の試料溶液を、捕捉物質に対してそれぞれ添加することに伴う結合量の実質的な増分(実測結合量)を算出する増分算出部20としての役割を果たす。
パラメータ算出部11は、独立モデルパラメータ算出部(独立モデル定数算出手段)12および競合モデルパラメータ算出部(解離定数算出装置、競合モデル定数算出手段)13を備えている。
独立モデルパラメータ算出部12は、溶媒補正レスポンス値算出部10が算出した、複数の試料溶液ごとの溶媒補正レスポンス値に、2種類の分析対象物質が1種類の捕捉物質に対して独立的結合様式を示す場合の数学モデルである独立モデル式を非線形最小二乗法によって当てはめることで、当該独立モデル式のパラメータを算出する。
より詳細には、上記独立モデル式は、化合物Aの捕捉物質に対する解離定数である解離定数A(第1解離定数)と、化合物Aが捕捉物質へ結合し得る最大の結合量である最大結合量A(第1最大結合量)と、化合物Bが捕捉物質へ結合し得る最大の結合量である最大結合量B(第2最大結合量)とを既知の値として含み、化合物Bの捕捉物質に対する解離定数(解離定数B(第2解離定数)と称する)を変数として含むものである。
独立モデルパラメータ算出部12は、この独立モデル式を用いて、各試料溶液中の化合物AおよびBの総モル濃度に対する化合物Bのモル濃度の割合(換言すれば、複数の試料溶液に含まれる各化合物の濃度)と、複数の試料溶液ごとの溶媒補正レスポンス値との関係から解離定数Bを算出する。
また、独立モデルパラメータ算出部12は、各試料溶液中の化合物AおよびBの総モル濃度に対する化合物Bのモル濃度の割合と、複数の試料溶液ごとの溶媒補正レスポンス値との関係に独立モデル式を当てはめた時の、残差平方和および最適オフセット値を算出する。独立モデル式の詳細については後述する。
競合モデルパラメータ算出部13は、溶媒補正レスポンス値算出部10が算出した、複数の試料溶液ごとの溶媒補正レスポンス値に、2種類の分析対象物質が1種類の捕捉物質に対して競合的結合様式を示す場合の数学モデルである競合モデル式を当てはめることによって当該競合モデル式のパラメータを算出する。
より詳細には、上記競合モデル式は、解離定数Aと、最大結合量Aと、最大結合量Bとを既知の値として含み、解離定数Bを変数として含むものである。
競合モデルパラメータ算出部13は、この競合モデル式を用いて、各試料溶液中の化合物AおよびBの総モル濃度に対する化合物Bのモル濃度の割合と、複数の試料溶液ごとの溶媒補正レスポンス値との関係から、解離定数Bを算出する
また、競合モデルパラメータ算出部13は、各試料溶液中の化合物AおよびBの総モル濃度に対する化合物Bのモル濃度の割合と、複数の試料溶液ごとの溶媒補正レスポンス値との関係に競合モデル式を当てはめた時の、残差平方和および最適オフセット値を算出する。競合モデル式の詳細については後述する。
パラメータ算出部11は、独立モデルパラメータ算出部12が算出した独立モデル式由来の残差平方和、解離定数Bおよび最適オフセット値、および競合モデルパラメータ算出部13が算出した競合モデル式由来の残差平方和、解離定数Bおよび最適オフセット値を判定部14へ出力する。
なお、パラメータ算出部11は、溶媒補正レスポンス値、化合物AおよびBの試料溶液中の濃度、解離定数Aおよび最大結合量Aを取得する取得部としての機能も有している。換言すれば、パラメータ算出部11は、化合物AおよびBの総モル濃度が一定であり、当該化合物AおよびBの組成比が互いに異なる複数の試料溶液に含まれる化合物AおよびBが、1捕捉物質に可逆的に結合した量を示す実測結合量を複数の試料溶液ごとに取得する。
判定部14は、競合モデルパラメータ算出部13が算出した解離定数B(KdB,comp)(競合第2解離定数)と、独立モデルパラメータ算出部12が算出した解離定数B(KdB,ind)(独立第2解離定数)とが、それぞれ所定の範囲内のものであるかどうかを判定することにより、化合物AおよびBが捕捉物質に対して競合的結合様式または独立的結合様式を示すかどうかを判定する。判定部14は、第1比較部15、第2比較部16および第3比較部17を備えている。
第1比較部15は、独立モデルパラメータ算出部12が算出した、解離定数Bおよび最適オフセット値を取得し、これらの値が所定の範囲内のものであるかどうかを判定する。
第2比較部16は、競合モデルパラメータ算出部13が算出した解離定数Bおよび最適オフセット値を取得し、これらの値が所定の範囲内のものであるかどうかを判定する。
第3比較部17は、競合モデルの残差平方和と独立モデルの残差平方和とが一定比率以上離れているかどうかを判定する。
判定部14は、第1比較部15、第2比較部16および第3比較部17の判定結果から、2種類の分析対象物質が、捕捉物質に対して独立的結合様式を示すのか、競合的結合様式を示すのか、アロステリック的結合様式を示すのかという最終的な判定を行い、判定結果を出力制御部18へ出力する。判定部14における判定方法の詳細については後述する。
基準パラメータ判定部19は、基準パラメータ算出部19aおよび判定部19bを備えている。
基準パラメータ算出部19aは、後述する(2)式を用いて、溶媒補正レスポンス値算出部10が算出した、濃度の異なる化合物A(基準化合物)の複数の試料溶液ごとの溶媒補正レスポンス値および当該試料溶液における化合物Aの濃度から、化合物Aの捕捉物質に対する解離定数(解離定数Aと称する)、化合物Aの捕捉物質に対する最大結合量(最大結合量Aと称する)および最適オフセット値を算出する。基準パラメータ算出部19aは、算出した各パラメータを判定部19bへ出力する。
判定部19bは、基準パラメータ算出部19aが算出した各パラメータが所定の範囲内のものであるかどうかを判定する。判定部19bにおける判定方法の詳細については後述する。判定部19bは、判定結果を出力制御部18へ出力する。
出力制御部18は、判定部14および判定部19bから出力された判定結果を出力装置22を制御することによりユーザに報知する。
(数学モデル式の導出)
(独立モデルの導出)
捕捉物質と分析対象物質との一対一の結合(独立的結合)を仮定したときの溶媒補正レスポンス値を表す数学モデル式(独立モデル式)の導出方法について以下に説明する。
固定化タンパク質(捕捉物質)と試料溶液中の化合物(分析対象物質)とが一対一で結合しうる時、SPR法において観測されるレスポンス値は下記の(1)式で表される。
Req=C×Rmax/(C+Kd) ・・・(1)
ただし、上記(1)式において、Reqは、平衡時のレスポンス値(RU)であり、Cは、添加試料溶液中の化合物濃度であり、Rmaxは、化合物の固定化タンパク質に対する最大結合量(RU)であり、Kdは、化合物の固定化タンパク質に対する解離定数(mol/L)である。
単一の化合物と固定化タンパク質との間の一対一の結合を評価する場合には、測定誤差によるベースライン変動を表す定数項(offset)を追加した下記(2)式を用いる。
Req=C×Rmax/(C+Kd)+offset ・・・(2)
一方、固定化タンパク質と結合することが出来る化合物AおよびBが添加試料溶液中に2種類共存し、それらの化合物AおよびBが互いに相手の結合に影響しない時、観測される結合量(RU値)は(1)式表される化合物Aの結合量(Req)と、(1)式で表される化合物Bの結合量(Req)との和で表現することができる(下記(3)式)。
Ru=Req+Req
=C×Rmax/(C+Kd)+C×Rmax/(C+Kd) ・・・(3)
ここで化合物A及び化合物Bの最大結合量(RmaxおよびRmax)は、化合物AおよびBの濃度をそれぞれ無限に大きくした時に観測される、化合物A及び化合物Bの固定化タンパク質への結合量(RU値)である。換言すれば、最大結合量とは、分析対象物が捕捉物質へ結合することができる最大の結合量である。
ところで、SPR法におけるレスポンスは、センサーチップへ結合した物質の質量に概ね依存することが知られている。よって、化合物AおよびBがともに固定化タンパク質と一対一で結合する条件下において、化合物A及びBの最大結合量をモル量で表記すると、これらの値は、下記(4)式および(5)式のように表現できる。
化合物Aの最大結合量(mol)=Rmax/MW ・・・(4)
化合物Bの最大結合量(mol)=Rmax/MW ・・・(5)
上記(4)式において、MWは化合物Aの分子量であり、上記(5)式において、MWは化合物Bの分子量である。
また同時に、下記(6)式が成立する。
タンパク質の固定化量(mol)=化合物Aの最大結合量(mol)
=化合物Bの最大結合量(mol)・・・(6)
この(6)式の第2辺と第3辺とに着目すると、Rmaxは、Rmaxと化合物A及びBの分子量とを用いて表現できることがわかり、その式は、下記(7)式として表すことができる。
Rmax=Rmax×MW/MW ・・・(7)
上記(7)式を(3)式に代入し、測定誤差によるベースライン変動を表す定数項(offset)を追加すると下記(8)式(独立モデル式)が得られる。
Ru=Req+Req
=C×Rmax/(C+Kd)+C×Rmax×MW/MW/(C+Kd)+offset ・・・(8)
(競合モデル式の導出)
捕捉物質に対する、基準化合物と被験化合物との競合的結合阻害を仮定したときの溶媒補正レスポンス値を表す数学モデル式である競合モデル式の導出方法について以下に説明する。
添加試料溶液中に化合物AとBとの2種類が共存し、それらの化合物が互いに相手の結合を競合的に阻害する時の状況を図6に示す。同図に示すように、固定化タンパク質のうち、化合物AおよびBのいずれとも結合していないフリーのタンパク質は存在しうるが、化合物AとBとは競合するので、両者が1つの固定化タンパク質分子に同時に結合することはない。今、化合物AもBも結合していない固定化タンパク質(フリーの部分)の全てに化合物Aが結合している仮想的状況を考える時、化合物Aの最大結合量(モル量)は下記(9)式で表される。
Rmax/MW=(Req+Rf)/MW+Req/MW ・・・(9)
上記(9)式において、Rfは、フリーの固定化タンパク質の全てに化合物Aが結合した場合に得られる結合量である。
(9)式におけるReqを下記(10)式および(11)式を用いて消去する。
Kd=Rf×C/Req ・・・(10)
Rf/MW=Rf/MW ・・・(11)
上記(11)式において、Rfは、フリーの固定化タンパク質の全てに化合物Bが結合した場合に得られる結合量である。
その結果、下記(12)式が得られる。
Rmax=Req+Rf(1+C/Kd) ・・・(12)
次いで、(12)式のRfを下記(13)式を用いて消去する。
Kd=Rf×C/Req ・・・(13)
その結果、下記(14)式が得られる。
Rmax=Req(1+Kd/C+Kd×C/(C×Kd)) ・・・(14)
化合物Bについても上記と同様の導出を行うと、次式(15)が得られる。
Rmax=Req(1+Kd/C+Kd×C/(C×Kd)) ・・・(15)
実験で観測される溶媒補正レスポンスは、平衡時の化合物Aの結合量と平衡時の化合物Bの結合量との和であるが、これを(14)式、(15)式および(7)式を用いて整理すると下記(16)式で表わされる。
Ru=Req+Req
=Rmax/(1+Kd/C(1+C/Kd))
+Rmax×MW/MW/(1+Kd/C(1+C/Kd)) ・・・(16)
最後に、この(16)式の右辺に測定誤差によるベースライン変動を表す定数項(offset)を加え、さらに整理すると次の競合モデル式(17)が得られる。
Ru=C×Rmax/(C+Kd+Kd×C/Kd
+C×Rmax×MW/MW/(C+Kd+Kd×C/Kd
+offset ・・・(17)
(結合様式判定システム1における処理の流れ)
(溶媒補正用検量線作成のための処理の流れ)
図7は、結合様式判定システム1における溶媒補正用検量線作成処理の流れの一例を示すフローチャートである。
まず、ユーザは、溶媒補正用検量線試料溶液を、捕捉物質(例えば、ヒト血清由来アルブミン)を固定化したセンサーチップと固定化していないセンサーチップとに同時に添加する。
検出装置21は、アクティブセルおよびリファレンスセルの両方について、溶媒補正用検量線試料溶液の添加の前後の結合量(レスポンス値)を測定時間および溶媒補正用検量線試料溶液に含まれる有機溶媒の濃度と対応づけて判定装置2へ出力する(S1)。
判定装置2の取得部3は、これら複数のレスポンス値を一群のデータとして取得し、当該レスポンス値を第1記憶部4に格納する。
レスポンス増分算出部5は、第1記憶部4から一群のレスポンス値を取得し、アクティブセルおよびリファレンスセルの両方について、溶媒補正用検量線試料溶液の添加直前のレスポンス値に対する、溶媒補正用検量線試料溶液添加後のレスポンス値の増分を、溶媒補正用検量線試料溶液ごとに算出する(S2)。
例えば、レスポンス増分算出部5は、アクティブセルおよびリファレンスセルの両方について、溶媒補正用検量線試料の添加10秒前のレスポンス値に対し、試料溶液添加終了5秒前のレスポンス値の増分を算出する。レスポンス増分算出部5は、算出した増分を溶媒補正式導出部6へ出力する。
溶媒補正式導出部6は、リファレンスセルのレスポンス増分に対し、溶媒補正ファクターをプロットし、プロットした溶媒補正用検量線試料溶液ごとの各点に適当な関数を回帰させて溶媒補正検量線用数式を導出し(S3)、導出した溶媒補正検量線用数式を第2記憶部7に格納する。
(解離定数Aを算出するための処理の流れ)
次に、独立および競合モデル式を利用して結合様式の判定を行うために必要な、化合物A(基準化合物)の捕捉物質に対する解離定数(解離定数A)および化合物Aの捕捉物質に対する最大結合量(最大結合量A)を算出するための処理の流れについて説明する。図8は、解離定数Aおよび最大結合量Aを算出する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
まず、ユーザは、化合物Aを含む試料溶液を、アクティブセルとリファレンスセルとに同時に添加する。
検出装置21は、アクティブセルおよびリファレンスセルの両方について、試料溶液添加の前後の結合量(レスポンス値)を測定時間および試料溶液に含まれる化合物Aの濃度と対応づけて判定装置2へ出力する(S11)。
取得部3は、これら複数のレスポンス値を一群のデータとして取得し、当該レスポンス値を第1記憶部4に格納する。
レスポンス増分算出部5は、第1記憶部4から一群のレスポンス値を取得し、アクティブセルおよびリファレンスセルの両方について、試料溶液添加直前のレスポンス値に対する、試料溶液添加後のレスポンス値の増分を試料溶液ごとに算出する(S12)。レスポンス増分算出部5は、算出した、試料溶液ごとの、アクティブセルおよびリファレンスセルのレスポンス増分を差レスポンス値算出部8へ出力し、リファレンスセルのレスポンス増分を溶媒補正ファクター算出部9へ出力する。
差レスポンス値算出部8は、試料溶液ごとに、アクティブセルのレスポンス値の増分からリファレンスセルのレスポンス値の増分を差し引き、この値を差レスポンス値として溶媒補正レスポンス値算出部10へ出力する(S13)。
溶媒補正ファクター算出部9は、第2記憶部7に格納された溶媒補正検量線用数式を用いて、レスポンス増分算出部5から出力されたリファレンスセルのレスポンス増分に対応する溶媒補正ファクターをそれぞれ算出する(S14)。溶媒補正ファクター算出部9は、算出した試料溶液ごとの溶媒補正ファクターを溶媒補正レスポンス値算出部10へ出力する。
溶媒補正レスポンス値算出部10は、差レスポンス値算出部8から出力された差レスポンス値から、溶媒補正ファクター算出部9から出力された溶媒補正ファクターを差し引き、溶媒補正レスポンス値を試料溶液ごとに算出する(S15)。溶媒補正レスポンス値算出部10は、算出した溶媒補正レスポンス値を基準パラメータ判定部19へ出力する。
基準パラメータ判定部19の基準パラメータ算出部19aは、化合物Aの濃度に対して溶媒補正レスポンス値をプロットし、プロットした各点に上記(2)式を回帰させ、解離定数A(Kd)、最大結合量A(Rmax)および最適オフセット値(Offset)を算出する(S16)。基準パラメータ算出部19aは、算出した各値を判定部19bへ出力する。
判定部19bは、解離定数A、最大結合量Aおよび最適オフセット値(Offset)が所定の範囲内のものであるかどうかを判定する(S17)。すなわち、判定部19bは、化合物Aの解離定数が文献値等の既知の値と概ね同等か、最大結合量は一対一の結合にふさわしい値の範囲内であるか、オフセット値は0に近い値か、の3つの観点で判定を行う。
以下に上記所定の範囲の例を挙げる。解離定数Aの範囲は、文献値の10-2〜10倍以内であり、望ましくは10-2〜10倍以内である。最大結合量の範囲は、20RU以上400RU以下であり、望ましくは30RU以上200RU以下である。最適オフセット値の範囲は、±30RU以内であり、望ましくは±20RU以内である。
判定部19bは、上記各値のすべてが基準範囲以内であれば(S17にてYES)、実験結果は適切であると判定し(S18)、上記各値の少なくとも1つが基準値以内でなければ(S17にてNO)、実験結果は不適切であると判定する(S19)。判定部19bは、判定結果を出力制御部18へ出力するとともに、実験結果が適切であると判定した場合には、基準パラメータ算出部19aが算出した解離定数A(Kd)および最大結合量A(Rmax)を第2記憶部7に格納する。
出力制御部18は、出力装置22を介して判定部19bの判定結果をユーザに報知する。
なお、判定部19bは、最適オフセット値(Offset)については判定せず、解離定数Aおよび最大結合量Aが所定の範囲内のものであるかどうかを判定してもよい。
(結合様式を判定するための処理の流れ)
次に、結合様式を判定するための処理の流れの一例について説明する。図9は、結合様式判定システム1における、結合様式を判定するための処理の流れの一例を示すフローチャートである。
まず、ユーザは、化合物Aと化合物Bとの複数種類の混合試料溶液をセンサーチップ30のアクティブセルとリファレンスセルとに同時に添加する。上記複数種類の混合試料溶液とは、混合試料溶液における化合物Aの濃度と化合物Bの濃度との総和は一定であり、化合物Aと化合物Bとの組成比が互いに異なる混合試料溶液である。
化合物Aと化合物Bとの総濃度は10〜200μMであり、望ましくは40〜80μMである。また、化合物Aと化合物Bとのモル比は、1:9〜9:1の範囲であることが好ましい。また、捕捉物質の量(固定化量)は3000〜20000RUであり、望ましくは6000〜18000RUである。捕捉物質の量が3000〜20000RUであれば、結合量を測定する感度が優れるため、捕捉物質の量を当該範囲内のものにすることが好ましい。
検出装置21は、アクティブセルおよびリファレンスセルの両方について、混合試料溶液添加の前後の結合量(レスポンス値)を測定時間および混合試料溶液の濃度の割合と対応づけて判定装置2へ出力する(S21)。
取得部3は、これら複数のレスポンス値を一群のデータとして取得し、当該レスポンス値を第1記憶部4に格納する。これ以降、図に示すS22からS25までの処理の流れは、図に示すS12からS15までの処理の流れと同様のため、その説明を省略する。
溶媒補正レスポンス値算出部10から溶媒補正レスポンス値を受け取ると、パラメータ算出部11の競合モデルパラメータ算出部13は、溶媒補正レスポンス値を、化合物AおよびBの総モル濃度に対する化合物Bのモル濃度の割合(以下、化合物Bのモル分率と称する)に対してプロットし、プロットした各点に、競合モデル式(上記(17)式)を回帰させ、残差平方和(SScomp)、解離定数B(KdB,comp)および最適オフセット値(Offsetcomp)を算出する(S26)(競合モデル定数算出工程)。
このとき、競合モデルパラメータ算出部13は、第2記憶部7から、解離定数A(Kd)、最大結合量A(Rmax)を取得し、上記各値の算出のために利用する。また、競合モデルパラメータ算出部13は、化合物Bの最大結合量B(Rmax)を、化合物Aの最大結合量Aに化合物Bの分子量と化合物Aの分子量との比を乗ずることによって算出する。すなわち、競合モデルパラメータ算出部13は、競合モデル式(上記(7)式)を用いて最大結合量Bを算出する。化合物AおよびBの分子量は、予め第2記憶部7に格納されている。なお、最大結合量Bを算出する機能ブロック(最大結合量算出部)を競合モデルパラメータ算出部13とは別に設けてもよい。
競合モデル式と独立モデル式とのパラメータ数が異なる場合には、競合モデル式から得られた残差平方和の代わりに「赤池の情報量規準(AIC)」を用いてもよい。残差平方和および赤池の情報量規準は、試料溶液の濃度の割合と溶媒補正レスポンス値との関係が競合モデル式にどの程度一致するかを表す値(第1規準値)である。
競合モデルパラメータ算出部13は、算出した各値を判定部14へ出力する。
続いて、溶媒補正レスポンス値算出部10から溶媒補正レスポンス値を受け取ると、パラメータ算出部11の独立モデルパラメータ算出部12は、化合物Bのモル分率に対して溶媒補正レスポンス値をプロットし、プロットした各点に独立モデル式(上記(8)式)を回帰させ、残差平方和(SSind)、解離定数B(KdB,ind)および最適オフセット値(Offsetind)を算出する(S27)。
このとき、独立モデルパラメータ算出部12は、第2記憶部7から、解離定数A(Kd)、最大結合量A(Rmax)を取得し、上記各値の算出のために利用する。また、独立モデルパラメータ算出部12は、化合物Bの最大結合量B(Rmax)を、化合物Aの最大結合量Aに化合物Bの分子量と化合物Aの分子量との比を乗ずることによって算出する。すなわち、独立モデルパラメータ算出部12は、上記(7)式を用いて最大結合量Bを算出する。化合物AおよびBの分子量は、予め第2記憶部7に格納されている。なお、最大結合量Bを算出する機能ブロック(最大結合量算出部)を独立モデルパラメータ算出部12とは別に設けてもよい。
競合モデル式と独立モデル式とのパラメータ数が異なる場合には、独立モデル式から得られた残差平方和の代わりに「赤池の情報量規準(AIC)」を用いてもよい。残差平方和および赤池の情報量規準は、試料溶液の濃度の割合と溶媒補正レスポンス値との関係が独立モデル式にどの程度一致するかを表す値(第2規準値)である。
独立モデルパラメータ算出部12は、算出した各値を判定部14へ出力する。
判定部14は、独立モデルパラメータ算出部12および競合モデルパラメータ算出部13が算出した、解離定数Bおよび最適オフセット値が所定の範囲内のものであるかどうかを判定する(S28)(判定工程)。すなわち、判定部14は、化合物Bの解離定数が化合物Aの解離定数と概ね同等か、オフセット値は0に近い値か、の2つの観点で判定を行う。
以下に上記所定の範囲の例を挙げる。解離定数Bの範囲は、解離定数Aの10-2〜10倍以内であり、望ましくは10-2〜10倍以内である。最適オフセット値の範囲は、±30RU以内であり、望ましくは±20RU以内である。
化合物Aの捕捉物質に対する親和性と化合物Bの捕捉物質に対する親和性との間に著しい(10-2〜10倍以内に入らないような)違いがあるとき、例えば、化合物Aに比べ化合物Bの親和性が低すぎるときには、化合物Aと化合物Bとの混合試料溶液を用いて測定しても、化合物Bの寄与はほとんど検出されず、化合物A単独で測定したときと似た測定結果が得られる。このため競合モデル式((17)式)および独立モデル式((8)式)は、どちらも化合物単独溶液の解析モデル式((2)式)と類似した曲線を与え、結合様式の違いを識別することが困難となる。化合物Aと化合物Bとの親和性の大小関係が逆の場合でも、同様のことが言える。
したがって、解離定数Bの範囲が、解離定数Aの10-2〜10倍以内であるかどうかを判定することが好ましい。
なお、解離定数Bの比較対象となる解離定数Aは、基準パラメータ算出部19aが算出したものであることが好ましいが、文献値であってもよい。
判定部14における判定処理の詳細については、別のフローチャートを参照しつつ説明する。
出力制御部18は、出力装置22を介して判定部14の判定結果をユーザに報知する(S29)。
(判定部14における判定処理の流れ)
判定部14における判定処理の流れの一例について説明する。図10は、判定部14における判定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
独立モデルパラメータ算出部12および競合モデルパラメータ算出部13から算出された各値を判定部14が受け取ると、まず、第1比較部15は、独立モデルパラメータ算出部12が算出した、解離定数Bおよび最適オフセット値が所定の範囲内のものであるかどうかを判定し(S31)、判定結果を第3比較部17へ出力する。
続いて、第2比較部16は、競合モデルパラメータ算出部13が算出した、解離定数Bおよび最適オフセット値が所定の範囲内のものであるかどうかを判定し(S32)、判定結果を第3比較部17へ出力する。
第3比較部17は、第1比較部15および第2比較部16から出力された判定結果を受け取ると、当該判定結果を自らが利用可能なメモリ(不図示)に格納する。そして、第3比較部17は、第1比較部15および第2比較部16の判定結果に基づいて、独立モデルパラメータ算出部12および競合モデルパラメータ算出部13が算出した解離定数Bおよび最適オフセット値のすべてが所定の範囲内のものであるかどうかを判定する(S33)。
上記各値のすべてが所定の範囲内のものである場合には(S33にてYES)、第3比較部17は、競合モデルの残差平方和が、独立モデルの残差平方和よりも一定比率(例えば3倍)以上大きいかどうかを判定する(S34)。
競合モデルの残差平方和が、独立モデルの残差平方和よりも一定比率以上大きい場合には(S34にてYES)、第3比較部17は、化合物AおよびBは、捕捉物質に対して独立結合様式を示す旨の判定結果を出力制御部18へ出力する(S35)。なお、第3比較部17は、独立モデルで得られた解離定数の最適解(KdB,ind)は化合物Bと捕捉タンパク質との結合における解離定数であるとの判定結果を出力してもよい。
一方、競合モデルの残差平方和が、独立モデルの残差平方和よりも一定比率以上大きくない場合には(S34にてNO)、第3比較部17は、独立モデルの残差平方和が、競合モデルの残差平方和よりも一定比率(例えば、3倍)以上大きいかどうかを判定する(S36)。
独立モデルの残差平方和が、競合モデルの残差平方和よりも一定比率以上大きい場合には(S36にてYES)、第3比較部17は、化合物AおよびBは、捕捉物質に対して競合的結合様式を示す旨の判定結果を出力制御部18へ出力する(S37)。なお、第3比較部17は、競合モデルで得られた解離定数の最適解(KdB,comp)は化合物Bと捕捉物質との結合における解離定数であるとの判定結果を出力してもよい。
一方、独立モデルの残差平方和が、競合モデルの残差平方和よりも一定比率以上大きくない場合には(S36にてNO)、第3比較部17は、化合物AおよびBは、捕捉物質に対してアロステリック的結合様式を示す旨の判定結果を出力制御部18へ出力する(S38)。
一方、S33において、独立モデルパラメータ算出部12および競合モデルパラメータ算出部13が算出した解離定数Bおよび最適オフセット値の少なくとも1つが所定の範囲内のものではない場合(S33にてNO)、第3比較部17は、独立モデルパラメータ算出部12が算出した解離定数Bおよび最適オフセット値の両方が所定の範囲内のものである場合には(S39にてYES)、化合物AおよびBは、捕捉物質に対して独立結合様式を示す旨の判定結果を出力制御部18へ出力する(S40)。
一方、独立モデルパラメータ算出部12が算出した解離定数Bおよび最適オフセット値の少なくとも一方が所定の範囲内のものでない場合(S39にてNO)、第3比較部17は、競合モデルパラメータ算出部13が算出した解離定数Bおよび最適オフセット値の両方が所定の範囲内のものである場合には(S41にてYES)、化合物AおよびBは、捕捉物質に対して競合的結合様式を示す旨の判定結果を出力制御部18へ出力する(S42)。
一方、競合モデルパラメータ算出部13が算出した解離定数Bおよび最適オフセット値の少なくとも一方が所定の範囲内のものでない場合には(S41にてNO)、第3比較部17は、測定結果が不適切である旨の判定結果を出力制御部18へ出力する(S43)。
出力制御部18は、判定部14から出力された判定結果を、出力装置22を介してユーザに報知する。
上記の処理の流れを別の観点から説明すると以下のようになる。すなわち、第3比較部17は、ステップS33、39、41において、独立モデルパラメータ算出部12および競合モデルパラメータ算出部13がそれぞれ算出した解離定数Bおよび最適オフセット値が所定の範囲内のものであるかどうかを判定することにより、化合物AおよびBが、捕捉物質に対して競合的結合様式を示すか独立的結合様式を示すかを判定する。
ただし、ステップS33において、独立モデルパラメータ算出部12および競合モデルパラメータ算出部13が算出した解離定数Bおよび最適オフセット値のすべてが所定の範囲内のものである場合(S33にてYES)には、解離定数Bおよび最適オフセット値が所定の範囲内のものであるかどうかを判定するだけでは、結合様式の判定はできない。そのため、第3比較部17は、ステップS34およびS36において、残差平方和の比較を行うことにより結合様式の判定を行っている。
なお、上述の説明では、独立モデルパラメータ算出部12および競合モデルパラメータ算出部13がそれぞれ算出した解離定数Bおよび最適オフセット値の両方を結合様式の判定に用いているが、解離定数Bのみを結合様式の判定に用いてもよい。ただし、この場合には、結合様式の判定精度が低下する可能性がある。そのため、解離定数Bおよび最適オフセット値の両方を結合様式の判定に用いることが好ましい。
(適用可能性)
本発明の手法が適用可能である固定化タンパク質の一例として、アルブミン、α-酸性糖タンパク質(イミプラミン、プロプラノロール、ジソピラミドなど)を挙げることができる。
また、本発明の手法が適用可能である基準化合物(または被験化合物)の一例として、アルブミンのサイトIに結合するワルファリン、フェニルブタゾン、サイトIIに結合するナプロキセン、イブプロフェン、サイトIIIに結合するジギトキシンを挙げることができる。
上記のタンパク質および基準化合物(または被験化合物)は、あくまで一例であり、その他のタンパク質および基準化合物に本発明を適用しても構わない。
(効果)
以上のように、結合様式判定システム1では、ハイスループットで1種類の捕捉物質に対する2種類の分析対象物質の結合様式を判定することができる。それゆえ、薬物の開発ステージの低い段階で多種類の化合物を迅速に評価することができ、タンパク結合能の側面から開発困難と思われる化合物を早期に排除することができる。
(変更例)
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
例えば、増分算出部20、基準パラメータ判定部19、独立モデルパラメータ算出部12、競合モデルパラメータ算出部13および判定部14を独立した装置として実現してもよい。
競合モデルパラメータ算出部13を判定装置2とは独立した解離定数算出装置として実現した場合、当該解離定数算出装置を以下のように表現することができる。すなわち、解離定数算出装置は、化合物AおよびBの総モル濃度が一定であり、当該化合物AおよびBの組成比が互いに異なる複数の混合試料溶液に含まれる化合物AおよびBが、1種類の捕捉物質に可逆的に結合した量を示す実測結合量を上記複数の混合試料溶液ごとに取得する取得部(不図示)と、競合モデル式を用いて、上記総モル濃度に対する化合物Bのモル濃度の割合と取得部が取得した実測結合量との関係から、解離定数B(KdB,comp)を算出する競合モデルパラメータ算出部13とを備えている。
また、競合モデルパラメータ算出部13を判定装置2とは独立した解離定数算出装置として実現した場合、判定装置2は、以下のように表現することができる。すなわち、
判定装置2は、上記実測結合量を取得し、独立モデル式を用いて、化合物AおよびBの総モル濃度に対する化合物Bのモル濃度の割合と上記実測結合量との関係から解離定数B(KdB,ind)を算出する独立モデルパラメータ算出部12と、解離定数算出装置が算出した解離定数Bである解離定数B(KdB,comp)を取得し、取得した解離定数B(KdB,comp)と、独立モデルパラメータ算出部12が算出した解離定数B(KdB,ind)とが、それぞれ所定の範囲内のものであるかどうかを判定することにより、化合物AおよびBが捕捉物質に対して競合的結合様式または独立的結合様式を示すかどうかを判定する判定部14とを備えている。
また、上述した判定装置2の各ブロック、特にパラメータ算出部11および判定部14は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
すなわち、判定装置2は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである判定装置2の制御プログラム(結合様式判定プログラム)のプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、判定装置2に供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
また、判定装置2を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。
〔実施例1〕
本発明の一実施例について図11〜図14に基づいて説明すれば、以下のとおりである。本実施例は、捕捉物質としてヒト血清由来アルブミン(A3782、シグマ社製)を用い、分析対象物質としてワルファリン(基準化合物)とフェニルブタゾン(被験化合物)とを用いた場合の例である。また、検出装置21として、Biacore T100(ビアコア社製)を用い、センサーチップとして、Series S sensor chip CM5を用いた。
(1.捕捉物質のセンサーチップへの固定)
センサーチップ上の2つのフローセルのうちの一方にヒト血清由来アルブミン(約10000RU)を化学的に固定した。ヒト血清由来アルブミンの固定化は、アミンカップリング(約7分、10μL/min)にて行った。他方のフローセルには何も固定化しない。タンパク質を固定化したフローセルをアクティブセル、未処理のフローセルをリファレンスセルと称する。
固定化用緩衝液として、pH7.4の67mMリン酸ナトリウム等張緩衝液を用いた。
(2.センサーチップの平衡化)
ヒト血清由来アルブミンを固定化したセンサーチップをランニング緩衝液で平衡化した。ランニング緩衝液には生理的条件に近い緩衝液を用いた。この緩衝液の一例として、約5%のジメチルスルホキシドを含むpH7.4の67mMリン酸ナトリウム等張緩衝液を用いた。溶解補助剤として用いられるジメチルスルホキシドの濃度は、約3〜10%の間で変更可能であり、約7%以下が望ましい。
ニードル洗浄液として50%のジメチルスルホキシドを用いた。
(3.溶媒補正用検量線試料溶液の添加)
溶媒補正用検量線試料溶液を、ヒト血清由来アルブミンを固定化したセンサーチップと固定化していないセンサーチップとに同時に添加した。添加時間は概ね数十秒間である。本実施例では、30秒間添加した。溶媒補正用検量線試料溶液には、例えばランニング緩衝液が約5%のジメチルスルホキシドを含むpH7.4のリン酸ナトリウム等張緩衝液である場合、約4〜6%の複数段階の濃度のジメチルスルホキシドを含むpH7.4のリン酸ナトリウム等張緩衝液を使用する。本実施例では、4〜6%の間の11段階の濃度のジメチルスルホキシドを含むpH7.4のリン酸ナトリウム等張緩衝液を使用した。測定する検量線試料溶液の有機溶媒濃度水準数は4以上、望ましくは7以上である。なお、上記有機溶媒濃度水準数とは、検量線作成に用いる、異なる濃度の有機溶媒を含む溶媒補正用検量線試料溶液の数である。
検出装置21は、アクティブセルおよびリファレンスセルの両方について、溶媒補正用検量線試料溶液の添加の前後の結合量(レスポンス値)を測定時間および溶媒補正用検量線試料溶液の有機溶媒の濃度と対応づけて判定装置2へ出力する。
(4.溶媒補正用検量線の作成)
判定装置2の取得部3は、検出装置21から出力された、これら複数のレスポンス値を一群のデータとして取得し、当該レスポンス値を第1記憶部4に格納する。これ以降、溶媒補正検量線用数式を導出するまでの処理の流れは、上述したものと同様のため、その説明を省略する。本実施例において得られた検量線を図4に示す。
(5.基準化合物の添加)
ワルファリンの単独試料溶液(濃度:0〜80μMの間の14段階)を数十秒間(より具体的には、30秒間)、アクティブセルおよびリファレンスセルの両方に同時に添加した。これらアクティブセルおよびリファレンスセルは、溶媒補正用検量線の作成のために用いたものと同じものである。各濃度の単独試料溶液を2度添加し、流速は、ワルファリンの供給が相互作用の律速要因とならないように設定し、例えば約30μLとする。単独試料溶液の添加終了後、ランニング緩衝液を同一の流速で送液した。
検出装置21は、アクティブセルおよびリファレンスセルの両方について、ワルファリンの単独試料溶液の添加の前後の結合量(レスポンス値)を測定時間およびワルファリンの濃度と対応づけて判定装置2へ出力する。
(7.溶媒補正レスポンス値の算出)
判定装置2の取得部3は、検出装置21から出力された、これら複数のレスポンス値、測定時間およびワルファリンの濃度が対応付けられたデータを一群のデータとして取得し、当該一群のデータを第1記憶部4に格納する。
レスポンス増分算出部5は、第1記憶部4から上記一群のデータを取得し、アクティブセルおよびリファレンスセルの両方について、試料溶液添加10秒前のアクティブセルのレスポンス値に対する、試料溶液添加終了5秒前のアクティブセルのレスポンス値の増分を、異なる濃度のワルファリンの単独試料溶液ごとに算出する。
これ以降、溶媒補正レスポンス値の算出までの処理の流れは、上述したものと同量であるため、その説明を省略する。
図11は、ワルファリン単独溶液の測定時に得られたセンサーグラムを示す図である。同図において、縦軸は、レスポンス値(アクティブセルのレスポンス値とリファレンスセルのレスポンス値との差)を表しており、横軸は、経過時間(秒)を表している。また、ワルファリン濃度を0、1、2、4、8、16、24、32、40、48、56、64、72、80μMとふって、各濃度において二回測定している。試料溶液注入時間は、30秒間であり、時刻0点(試料添加前の時点)を試料添加開始10秒前とし、結合量測定ポイントを試料添加終了5秒前としている。
(8.解離定数、最大結合量及びオフセット値の最適値の算出)
溶媒補正レスポンス値を受け取ると、基準パラメータ判定部19の基準パラメータ算出部19aは、ワルファリン濃度に対する溶媒補正レスポンス値をプロットし、プロットした各点に、一対一の結合を仮定したときの溶媒補正レスポンス値を表す数学モデル式(上記(2)式))を回帰させ、解離定数A(Kd)、最大結合量A(Rmax)および最適オフセット値(Offset)を算出する。独立モデルパラメータ算出部12は、算出した各値を判定部19bへ出力する。
(9.解離定数、最大結合量及びオフセット値の最適値の妥当性の判定)
判定部19bは、解離定数A、最大結合量Aおよび最適オフセット値(Offset)が所定の範囲内のものであるかどうかを判定する。図12は、ワルファリン濃度に対する溶媒補正レスポンス値をプロットしたグラフである。同図に示す本実施例の実験結果では、ワルファリンのヒト血清由来アルブミンに対する解離定数Aは、34.5μMであり、文献値(12μM)と概ね一致する値が得られた。また、ワルファリンのヒト血清由来アルブミンに対する最大結合量は、48RUであり、好ましい範囲内のものであった。さらに、最適オフセット値は、3.3RUであり、好ましい範囲内のものであった。
(10.混合試料溶液の添加)
ワルファリンとフェニルブタゾンとの混合試料溶液を約30〜50秒間アクティブセルおよびリファレンスセルの両方に同時に添加した。これらアクティブセルおよびリファレンスセルは、溶媒補正用検量線の作成のために用いたものと同じものである。混合試料溶液の濃度は、例えば、ワルファリン濃度を8〜72μMとし、フェニルブタゾン濃度を72〜8μMとし、ワルファリン濃度とフェニルブタゾン濃度とを合わせた濃度が80μMとなるようにする。
流速は、化合物の供給が律速要因とならないように設定し、一例として約30μLとした。混合試料溶液の添加終了後、ランニング緩衝液を同じ流速で送液した。
検出装置21は、アクティブセルおよびリファレンスセルの両方について、混合試料溶液の添加の前後の結合量(レスポンス値)を測定時間および混合溶液におけるワルファリン濃度とフェニルブタゾン濃度との割合と対応づけて判定装置2へ出力する。
(11.溶媒補正レスポンス値の算出)
判定装置2の取得部3は、検出装置21から出力された、これら複数のレスポンス値を一群のデータとして取得し、当該一群のレスポンス値を第1記憶部4に格納する。これ以降、溶媒補正レスポンス値を算出するまでの処理の流れは、上述したものと同様のため、その説明を省略する。
図13は、ワルファリンおよびフェニルブタゾン混合溶液の測定時に得られたセンサーグラムを示す図である。同図において、縦軸は、レスポンス値(アクティブセルのレスポンス値とリファレンスセルのレスポンス値との差)を表しており、横軸は、経過時間(秒)を表している。ワルファリン濃度を8、16、24、32、40、48、56、64、72μMとし、フェニルブタゾン濃度をそれぞれ72、64、56、48、40、32、24、16、8μMと設定して、各濃度において二回測定している。試料溶液注入時間は、30秒間であり、時刻0点(試料添加前の時点)を試料添加開始10秒前とし、結合量測定ポイントを試料添加終了5秒前としている。
(12.残差平方和、解離定数及びオフセット値の最適値の算出)
溶媒補正レスポンス値を受け取ると、パラメータ算出部11の競合モデルパラメータ算出部13は、溶媒補正レスポンス値を、混合試料溶液におけるワルファリンおよびフェニルブタゾンの総モル濃度に対するフェニルブタゾンのモル濃度の割合(以下、フェニルブタゾンのモル分率と称する)に対してプロットし、プロットした各点に、ワルファリンとフェニルブタゾンとの競合的結合阻害を仮定したときの溶媒補正レスポンス値を表す競合モデル式(上記(17)式)を回帰させ、残差平方和(SScomp)、解離定数(KdB,comp)および最適オフセット値(Offsetcomp)を算出する。
また、溶媒補正レスポンス値を受け取ると、パラメータ算出部11の独立モデルパラメータ算出部12は、溶媒補正レスポンス値を、フェニルブタゾンのモル分率に対してプロットし、プロットした各点に独立モデル式(上記(8)式)を回帰させ、残差平方和(SSind)、解離定数B(KdB,ind)および最適オフセット値(Offsetind)を算出する。
(19.解離定数及びオフセット値の最適解の妥当性の判定)
判定部14は、独立モデルパラメータ算出部12および競合モデルパラメータ算出部13が算出した、解離定数(KdB,comp)、最適オフセット値(Offsetcomp)、解離定数B(KdB,ind)、最適オフセット値(Offsetind)が所定の範囲内のものであるかどうかを判定するとともに、残差平方和(SScomp)と残差平方和(SSind)とが一定比率以上離れているかどうかを判定する。この判定処理は、上述したものと同様であるため、その説明を省略する。
図14は、ワルファリンとフェニルブタゾンとが競合結合様式を示すことを示すグラフである。同図に示す、本実施例の実験結果では、競合モデル式から算出された、フェニルブタゾンのヒト血清由来アルブミンに対する解離定数(KdB,comp)は、3.57μMであり、基準パラメータ算出部19aが算出した、ワルファリンのヒト血清由来アルブミンに対する解離定数A(34.5μM)の10-2〜10倍以内であった。また、最適オフセット値(Offsetcomp)は、3.3RUであり、好ましい範囲内のものであった。
一方、独立モデル式から算出された解離定数B(KdB,ind)は、39.3μMであり、最適オフセット値(Offsetind)は、3.3RUであった。
また、競合モデル式から算出された残差平方和(SScomp)は、24.3であり、独立モデル式から算出された残差平方和(SSind)は、351であった。つまり、残差平方和(SSind)は、残差平方和(SScomp)よりも3倍以上大きかった。
換言すれば、溶媒補正レスポンス値を、フェニルブタゾンのモル分率に対してプロットした各点は、独立モデル式よりも競合モデル式によりフィットした。
よって、判定部14は、ワルファリンとフェニルブタゾンとは競合結合様式を示すと判定した。
〔実施例2〕
本発明の別の実施例について図15〜図18に基づいて説明すれば、以下のとおりである。
ヒト血清由来アルブミン(以下、単にアルブミンと称する)を捕捉物質とし、ワルファリンを基準化合物とし、被験化合物を、アルブミンに結合することが知られている様々な物質とした場合の実験結果について以下に説明する。
図15は、被験化合物がバルプロ酸(valproic acid)である場合の実験結果を示すグラフである。図16は、競合モデル式(競合)および独立モデル式(独立)を用いて実施例の実験から得られた解離定数B(Kd)、最適オフセット値(Offset)、残差平方和(SS)の各値を示す図である。図15に示す実験結果では、図16に示すように、競合モデル式から算出された、バルプロ酸のアルブミンに対する解離定数は、2.94mMであり、基準パラメータ算出部19aが算出した、ワルファリンのヒト血清由来アルブミンに対する解離定数A(34.5μM)の10-2〜10倍以内であった。また、溶媒補正レスポンス値を、ワルファリンおよびバルプロ酸の総モル濃度に対するバルプロ酸のモル濃度の割合に対してプロットした各点は、独立モデル式よりも競合モデル式によりフィットした。
よって、判定部14は、ワルファリンとバルプロ酸とはアルブミンに対して競合的結合様式を示すと判定した。
図17は、被験化合物がクマリン(coumarin)である場合の実験結果を示すグラフである。図17に示す実験結果では、図16に示すように、競合モデル式から算出された、クマリンのアルブミンに対する解離定数は、415μMであり、基準パラメータ算出部19aが算出した解離定数A(34.5μM)の10-2〜10倍以内であった。また、溶媒補正レスポンス値を、ワルファリンおよびクマリンの総モル濃度に対するクマリンのモル濃度の割合に対してプロットした各点は、独立モデル式よりも競合モデル式によりフィットした。
よって、判定部14は、ワルファリンとクマリンとはアルブミンに対して競合的結合様式を示すと判定した。
図18は、被験化合物がジアゼパム(diazepam)である場合の実験結果を示すグラフである。図18に示す実験結果では、図16に示すように、独立モデル式から算出された、ジアゼパムのアルブミンに対する解離定数は、88.9μMであり、基準パラメータ算出部19aが算出した解離定数A(34.5μM)の10-2〜10倍以内であった。また、溶媒補正レスポンス値を、ワルファリンおよびジアゼパムの総モル濃度に対するジアゼパムのモル濃度の割合に対してプロットした各点は、競合モデル式よりも独立モデル式によりフィットした。
よって、判定部14は、ワルファリンとジアゼパムとはアルブミンに対して独立的結合様式を示すと判定した。
2種類の分析対象物質を同時に捕捉物質に相互作用させた時の結合様式が、競合的結合様式であるかどうかをハイスループットで判定することができるため、医薬品の開発過程において、タンパク質と2種類の薬物との結合様式を迅速に判定できる。
本発明の一実施形態に係る結合様式判定システムの構成を示す機能ブロック図である。 検出装置が備えるセンサーチップの構成を示す概略図である。 溶媒補正ファクターの算出方法を説明するための図である。 溶媒補正用検量線の一例を示すグラフである。 溶媒補正レスポンス値を説明するための図である。 添加試料溶液中に含まれる2種類の化合物が互いに相手の、固定化タンパク質に対する結合を競合的に阻害する時の状況を示す図である。 上記結合様式判定システムにおける溶媒補正用検量線作成処理の流れの一例を示すフローチャートである。 解離定数Aおよび最大結合量Aを算出する処理の流れの一例を示すフローチャートである。 上記結合様式判定システムにおける、結合様式を判定するための処理の流れの一例を示すフローチャートである。 判定部における判定処理の流れの一例を示すフローチャートである。 ワルファリン単独溶液の測定時に得られたセンサーグラムを示す図である。 ワルファリン濃度に対する溶媒補正レスポンス値をプロットしたグラフである。 ワルファリンおよびフェニルブタゾン混合溶液の測定時に得られたセンサーグラムを示す図である。 ワルファリンとフェニルブタゾンとが競合結合様式を示すことを示すグラフである。 被験化合物がバルプロ酸である場合の実験結果を示すグラフである。 競合モデル式および独立モデル式を用いて実施例の実験から得られた解離定数B、最適オフセット値、残差平方和の各値を示す図である。 被験化合物がクマリンである場合の実験結果を示すグラフである。 被験化合物がジアゼパムである場合の実験結果を示すグラフである。
符号の説明
1 結合様式判定システム
2 判定装置(結合様式判定装置)
11 パラメータ算出部(解離定数算出装置、取得手段、競合モデル定数算出手段)
12 独立モデルパラメータ算出部(独立モデル定数算出手段)
13 競合モデルパラメータ算出部(解離定数算出装置、競合モデル定数算出手段)
14 判定部(判定手段)

Claims (8)

  1. 第1および第2分析対象物質の総モル濃度が一定であり、当該第1および第2分析対象物質の組成比が互いに異なる複数の試料溶液に含まれる上記第1および第2分析対象物質が、1種類の捕捉物質に可逆的に結合した量を示す実測結合量を上記複数の試料溶液ごとに取得する取得手段と、
    上記第1および第2分析対象物質が上記捕捉物質に対して競合的結合様式を示す場合の数学モデル式である競合モデル式であって、上記第1分析対象物質と上記捕捉物質との解離定数である第1解離定数と、上記第1分析対象物質が上記捕捉物質へ結合し得る最大の結合量である第1最大結合量と、上記第2分析対象物質が上記捕捉物質へ結合し得る最大の結合量である第2最大結合量とを既知の値として含み、上記第2分析対象物質の上記捕捉物質に対する解離定数である第2解離定数を変数とする競合モデル式を用いて、上記総モル濃度に対する第2分析対象物質のモル濃度の割合と上記取得手段が取得した実測結合量との関係から、上記第2解離定数を算出する競合モデル定数算出手段とを備えることを特徴とする解離定数算出装置。
  2. 上記競合モデル定数算出手段は、上記競合モデル式として、下記(1)式
    RU=C×Rmax/(C+Kd+Kd×C/Kd
    +C×Rmax×MW/MW/(C+Kd+Kd×C/Kd
    ・・・(1)
    (ただし、上記(1)式において、RUは、上記実測結合量であり、Cは、上記第1分析対象物質の試料溶液中のモル濃度であり、Cは、上記第2分析対象物質の試料溶液中のモル濃度であり、Kdは、上記第1解離定数であり、Kdは、上記第2解離定数であり、Rmaxは、上記第1最大結合量であり、MWは、上記第1分析対象物質の分子量であり、MWは、上記第2分析対象物質の分子量である。)
    を用いることを特徴とする請求項1に記載の解離定数算出装置。
  3. 上記競合モデル定数算出手段は、上記(1)式の右辺に、測定誤差による変動を表す定数項が加えられた競合モデル式を用いることを特徴とする請求項2に記載の解離定数算出装置。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の解離定数算出装置を動作させる解離定数算出プログラムであって、コンピュータを上記各手段として機能させるための解離定数算出プログラム。
  5. 請求項4に記載の解離定数算出プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
  6. 第1および第2分析対象物質の総モル濃度が一定であり、当該第1および第2分析対象物質の組成比が互いに異なる複数の試料溶液に含まれる上記第1および第2分析対象物質が、1種類の捕捉物質に可逆的に結合した量を示す実測結合量を上記複数の試料溶液ごとに取得し、上記第1および第2分析対象物質が上記1種類の捕捉物質に対して独立的結合様式を示す場合の数学モデル式である独立モデル式であって、上記第1分析対象物質と上記捕捉物質との解離定数である第1解離定数と、上記第1分析対象物質が上記捕捉物質へ結合し得る最大の結合量である第1最大結合量と、上記第2分析対象物質が上記捕捉物質へ結合し得る最大の結合量である第2最大結合量とを既知の値として含み、上記第2分析対象物質の上記捕捉物質に対する解離定数である第2解離定数を変数とする独立モデル式を用いて、第1および第2分析対象物質の総モル濃度に対する第2分析対象物質のモル濃度の割合と取得した実測結合量との関係から上記第2解離定数を独立第2解離定数として算出する独立モデル定数算出手段と、
    請求項1〜3のいずれか1項に記載の解離定数算出装置が算出した第2解離定数である競合第2解離定数を取得し、取得した競合第2解離定数と、上記独立モデル定数算出手段が算出した独立第2解離定数とが、それぞれ所定の範囲内のものであるかどうかを判定することにより、上記第1および第2分析対象物質が上記捕捉物質に対して競合的結合様式または独立的結合様式を示すかどうかを判定する判定手段とを備えることを特徴とする結合様式判定装置。
  7. 上記判定手段は、上記競合第2解離定数および上記独立第2解離定数がともに上記所定の範囲内のものであると判定した場合に、上記関係が競合モデル式にどの程度一致するかを示す第1規準値と、上記関係が上記独立モデル式にどの程度一致するかを示す第2規準値とを比較することにより、上記第1および第2分析対象物質が上記捕捉物質に対して競合的結合様式または独立的結合様式を示すかどうかを判定し、
    上記競合モデル式は、上記第1および第2分析対象物質が上記捕捉物質に対して競合的結合様式を示す場合の数学モデル式であり、上記第1解離定数と、上記第1最大結合量と、上記第2最大結合量とを既知の値として含み、上記第2解離定数を変数とするモデル式であることを特徴とする請求項6に記載の結合様式判定装置。
  8. 解離定数算出装置における解離定数算出方法であって、
    第1および第2分析対象物質の総モル濃度が一定であり、当該第1および第2分析対象物質の組成比が互いに異なる複数の試料溶液に含まれる上記第1および第2分析対象物質が、1種類の捕捉物質に可逆的に結合した量を示す実測結合量を上記複数の試料溶液ごとに取得する取得工程と、
    上記第1および第2分析対象物質が上記捕捉物質に対して競合的結合様式を示す場合の数学モデル式である競合モデル式であって、上記第1分析対象物質と上記捕捉物質との解離定数である第1解離定数と、上記第1分析対象物質が上記捕捉物質へ結合し得る最大の結合量である第1最大結合量と、上記第2分析対象物質が上記捕捉物質へ結合し得る最大の結合量である第2最大結合量とを既知の値として含み、上記第2分析対象物質の上記捕捉物質に対する解離定数である第2解離定数を変数とする競合モデル式を用いて、上記総モル濃度に対する第2分析対象物質のモル濃度の割合と上記取得工程において取得された実測結合量との関係から、上記第2解離定数を算出する競合モデル定数算出工程とを含むことを特徴とする解離定数算出方法。
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