JP4830099B2 - 音速測定方法、及び音速測定装置 - Google Patents

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Description

本発明は、超音波を利用して被検査物における音速を測定する音速測定方法、及び音速測定装置に関するものである。
外科手術中において切除する部位の大きさは、術後の患者の負担を考えるとできるかぎり小さく抑えるべきであるが、患部の一部が切除されずに残ってしまうと病気が再発するといった問題がある。このため、切除後の残留部分から標本(生体組織)をサンプリングし、患部の拡がりがないことを確認する必要がある。現在、この作業は、摘出した生体組織の切片を染色し、光学顕微鏡で観察することによって行われている。組織確定診断は、病理学的所見に基づいて標本部分に患部が拡がっていないことを確認する診断であるが、切片の染色には数日を要することから、術後の確認に用いられている。
術中においては、縫合前に患部が残されていないことを短時間で判断することが要求される。そのため、特殊な染料を用いて短時間で染色し、標本部分に患部が拡がっていないことを概ね確認する「組織迅速診断」といった方法も実用化されている。ところが、この組織迅速診断においても1時間程度の時間を必要とし、この間手術が中断されるので、これに代わる方法として、超音波による音速像の観察が提案されている。つまり、超音波によって音速像を得る場合には、染色法を用いなくても生体組織の観察を行うことができる。このことから、組織確定診断を行う診断装置として超音波顕微鏡を応用した製品の開発が進められている。
具体的には、従来の超音波顕微鏡では、単一周波数のバースト波を利用し、反射した超音波信号の強度や位相を解析することで、生体組織の性状を観察する。しかし、このような超音波顕微鏡には、超音波信号の測定に長時間を要するという問題があった。また、十分な精度と安定度を持った発振器や測定系などのアナログシステムが必要となるため、装置が大型化、複雑化するといった問題もあった。
これら問題を解消して術中診断を可能とするための手段として、本発明者らはパルス励起型の超音波顕微鏡をすでに提案している(例えば、非特許文献1、特許文献1参照)。このパルス励起型超音波顕微鏡を用いた観察では、生体組織から切り出し、その組織を用いて厚さ数μmの凍結切片41を作製し、これをまずガラス基板42上に固定する(図12参照)。そして、パルス波でトランスデューサ43を励起して超音波Sを出力させ、その超音波Sを水などの媒質44を介して凍結切片41に照射する。そして、組織表面の反射波Sfrontと組織裏面の反射波Srearとの合成波を、トランスデューサ43で受信する。さらに、この受信波をフーリエ変換して基板42からの直接反射と比較することにより、強度及び位相スペクトルを得る。
ところで、バースト波を用いた従来方式では、同じ測定点で周波数を切り替え何回も測定し、組織表面の反射と背面の反射との干渉を観測する必要があった。これに対して、パルス励起型超音波顕微鏡によれば、1回の測定で算出することができるという利点がある。この測定で得られた信号強度の極小点または極大点の周波数をf、そのときの位相をφとすると、組織表面と背面からの反射は極小点では逆位相、極大点では同位相となる。すなわち、極小点においては組織表面からの反射は背面からの反射より位相が(2n−1)π進んでおり、φ+(2n−1)πとなる(nは自然数)。従って、組織の厚さd、水の音速Cとすると、
が成立している。
従って、次式のように組織厚さdが求まる。
また、距離2dを組織音速Cで通過した波と水の音速Cで通過した波との位相差がφであることから、
となり、次式のように組織音速Cが求まる。
また、極大点においては組織表面からの反射と背面からの反射との位相差が2nπとなっていることから、次式の関係が成立している。
この式を用いれば、極小点の場合と同様に、組織厚さdを求めることができ、さらに、その組織厚さdを用いて音速Cを求めることができる。
このように、組織音速Cを測定しながら、超音波の照射点を二次元走査することにより、二次元の音速像が得られる。音速Cは、組織の硬さに関連するパラメータであり、音速像によって凍結切片41の性状を観察することができる。
特開2004−294189号公報 「医用超音波:パルス励起型超音波音速顕微鏡」(「超音波TECHNO」VOL.15 No.6(2003.11〜12)(101〜105頁)日本工業出版社発行)
ところで、上記の音速測定方法では、信号強度の極小点または極大点の周波数fにおける組織音速Cを求めることができるが、それ以外の任意の周波数における組織音速Cについてまでは求めることができない。それゆえ、音速に関して得られる情報の量が十分であるとはいえず、これに基づいて被検査物における音速の周波数依存性に関する情報を得ることは困難である。また、凍結切片41の内部構造によっては、組織表面の反射波Sfrontや組織裏面の反射波Srear以外の反射波が含まれる場合がある。この場合には、上記の音速測定方法では、組織音速Cを正確に求めることができず、より精密で、きめ細かな画像診断を行うことが困難となる。
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、被検査物における音速の周波数依存性に関する情報を得ることで、その被検査物の物理特性をより正確に把握することができる音速測定方法、及び音速測定装置を提供することにある。
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明では、パルス励起型超音波顕微鏡を利用して、試料載置板上に載置された被検査物の音速を超音波の反射波に基づいて測定する音速測定方法であって、前記試料載置板における被検査物の非載置面からの反射波を取得するステップと、前記被検査物からの反射波を取得するステップと、前記非載置面からの反射波を参照波形として前記被検査物からの反射波を補正するデコンボリューション処理を行うステップと、前記補正された反射波を用いて前記被検査物の表面の反射波と前記被検査物の裏面の反射波とを時間領域で分離するステップと、前記被検査物の表面の反射波と前記被検査物の裏面の反射波とをそれぞれ周波数領域で解析し、その解析結果から、前記被検査物の表面の反射波の周波数とこれに対応する位相と、前記被検査物の裏面の反射波の周波数とこれに対応する位相とを計算し、これらに基づいて周波数に対応した被検査物の音速を算出するステップとを含むことを特徴とする音速測定方法をその要旨とする。
請求項1に記載の発明によれば、パルス励起型超音波顕微鏡において、異なる周波数成分を含む超音波がパルス励起されて被検査物に照射される。その被検査物で反射される反射波は、被検査物の表面での反射波及び裏面での反射波が干渉した波形となる。そのため、本発明では、試料載置板における被検査物の非載置面からの反射波を用いてデコンボリューション処理を行うことにより、被検査物からの反射波が補正され、被検査物の表面での反射波及び裏面での反射波が時間領域で分離される。そして、分離された各反射波をそれぞれ周波数領域で解析することにより、周波数に応じた被検査物の音速が算出される。このようにすると、音速に関してより多くの情報が得られるため、これに基づいて被検査物における音速の周波数依存性に関する情報を得ることができ、被検査物の物理特性を正確に把握することが可能となる。またこの測定方法では、被検査物の内部構造によって表面及び裏面以外の反射波が含まれる場合であっても、表面の反射波及び裏面での反射波を時間領域で確実に分離することができるため、被検査物の音速をより正確に求めることができる。
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記非載置面からの反射波と前記被検査物の表面反射波との位相差から被検査物の厚さを求め、前記非載置面からの反射波と前記被検査物の裏面反射波との位相差と前記被検査物の厚さとに基づいて前記音速を求めることをその要旨とする。
前記時間領域で分離した各反射波(被検査物の表面での反射波及び裏面での反射波)も異なる周波数成分を含むため、各反射波をそれぞれフーリエ変換することにより、位相スペクトルの周波数特性データを求めることができる。そして、このデータを用いて各反射波の位相差を得ることができる。従って、請求項2に記載の発明のように、非載置面からの反射波と被検査物の表面での反射波との位相差から被検査物の厚さを求めることができ、さらに、非載置面からの反射波と被検査物の裏面での反射波との位相差と被検査物の厚さとに基づいて音速を求めることができる。
請求項3に記載の発明は、パルス励起型超音波顕微鏡を利用して、試料載置板上に載置された被検査物の音速を超音波の反射波に基づいて測定する音速測定装置であって、パルス励起されることによって超音波を被検査物に照射するとともに、前記被検査物からの反射波を受信する超音波振動子と、前記試料載置板における被検査物の非載置面からの反射波を参照波形として前記被検査物からの反射波を補正するデコンボリューション処理を行う処理手段と、前記処理手段により補正された反射波を用いて前記被検査物の表面の反射波と前記被検査物の裏面の反射波とを時間領域で分離する波形分離手段と、前記波形分離手段により分離された前記被検査物の表面の反射波と前記被検査物の裏面の反射波とをそれぞれ周波数領域で解析し、その解析結果から、前記被検査物の表面の反射波の周波数とこれに対応する位相と、前記被検査物の裏面の反射波の周波数とこれに対応する位相とを計算し、これらに基づいて周波数に対応した被検査物の音速を算出する算出手段とを備えることを特徴とする音速測定装置をその要旨とする。
請求項3に記載の発明によれば、超音波振動子がパルス励起されることによって超音波が被検査物に向けて照射され、超音波振動子により被検査物からの反射波が受信される。そして、処理手段により、試料載置板における被検査物の非載置面からの反射波を用いてデコンボリューション処理が行われて被検査物からの反射波が補正される。また、波形分離手段により、補正された反射波から被検査物の表面での反射波及び裏面での反射波が時間領域で分離される。さらに、算出手段により、分離された各反射波がそれぞれ周波数領域で解析されることにより、周波数に応じた被検査物の音速が算出される。このようにすると、音速に関してより多くの情報が得られるため、これに基づいて被検査物における音速の周波数依存性に関する情報を得ることができ、被検査物の物理特性を正確に把握することが可能となる。またこの測定装置では、被検査物の内部構造によって表面及び裏面以外の反射波が含まれる場合であっても、表面の反射波及び裏面での反射波を時間領域で確実に分離することができるため、被検査物の音速をより正確に求めることができる。
以上詳述したように、請求項1〜3に記載の発明によると、被検査物における音速の周波数依存性に関する情報を得ることで、その被検査物の物理特性をより正確に把握することができる。
以下、本発明を具体化した一実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は音速測定装置としての超音波画像検査装置を示す概略構成図である。
図1に示されるように、本実施の形態の超音波画像検査装置1は、パルス励起型超音波顕微鏡2と、A/Dボード3と、パーソナルコンピュータ(パソコン)4とを備える。
超音波顕微鏡2には、パルス発生回路11と、送受波分離回路12と、受信回路13と、トランスデューサ14と、X−Yステージ15と、エンコーダ(ENC)16と、コントローラ17と、駆動モータ18X,18Yとが設けられている。
トランスデューサ14は、酸化亜鉛の薄膜圧電素子14aとサファイアロッドの音響レンズ14bとからなり、パルス発生回路11で発生される励起パルスにより薄膜圧電素子14aが振動して所定周波数帯域の超音波が音響レンズ14bを通して出力される。この音響レンズ14bにおける超音波は円錐状に収束され、水などの媒質19を介して試料載置板としてのガラス基板20の表面で焦点を結ぶようになっている。なお、トランスデューサ14としては、口径1.2mm、焦点距離1.5mm、中心周波数80MHz、帯域幅50〜105MHz(−6dB)の仕様のものを用いている。
また、トランスデューサ14の下方に、二次元走査手段としてのX−Yステージ15が設けられ、そのステージ15上にはガラス基板20が固定されている。そして、そのガラス基板20の上面に、被検査物としての生体組織21が載置され、この生体組織21に対してその上方から超音波が照射される。なお、この生体組織21は、数μm程度(通常4μm〜10μm)の厚さにスライスされた凍結切片(生体組織切片)である。
X−Yステージ15は、生体組織21を二次元的に動かすためのステージ15X,15Yと、それぞれのステージ15X,15Yを駆動するモータ18X,18Yとを備えている。このモータ18X,18Yとしては、ステッピングモータやリニアモータが使用される。
各モータ18X,18Yにはコントローラ17が接続されており、該コントローラ17の駆動信号に応答してモータ18X,18Yが駆動される。これらモータ18X,18Yの駆動により、Xステージ15Xを連続走査(連続送り)するとともに、Yステージ15Yを間欠送りとなるよう制御することで、X−Yステージ15の高速走査が可能となっている。
また、本実施の形態においては、Xステージ15Xに対応してエンコーダ16が設けられ、エンコーダ16によりXステージ15Xの走査位置が検出される。具体的にいうと、走査範囲を300×300個の測定点(ピクセル)に分割した場合、1回のX方向(水平方向)の走査が300分割される。そして、各測定点の位置がエンコーダ16によって検出され、パソコン4に取り込まれる。パソコン4はそのエンコーダ16の出力に同期して駆動制御信号を生成して、その駆動制御信号をコントローラ17に供給する。コントローラ17は、この駆動制御信号に基づいてモータ18Xを駆動する。また、コントローラ17は、エンコーダ16の出力信号に基づきX方向の1ラインの走査が終了した時点でモータ18Yを駆動して、Yステージ15YをY方向に1ピクセル分移動させる。
さらに、コントローラ17は、駆動制御信号に同期してトリガ信号を生成してパルス発生回路11に供給する。これにより、パルス発生回路11において、そのトリガ信号に同期したタイミングで励起パルスが生成される。その励起パルスが送受波分離回路12を介してトランスデューサ14に供給されて該トランスデューサ14から超音波が照射される。
図2は、トランスデューサ14側から見たX−Yステージ15の平面図である。図2に示されるように、Xステージ15Xによるx方向への往復走査とYステージによるy方向への走査とを行うことにより、ガラス基板20上の生体組織21に対して超音波が二次元的に走査される。
図3には、本実施の形態における超音波の走査範囲Rの一例を示している。すなわち、超音波の走査範囲Rは、生体組織21に加えてガラス基板20の表面が露出している部分(ガラス面20a)を含むように設定される。そして、走査範囲Rの左上の隅の位置から走査が開始され、矢印で示すように、X方向及びY方向に二次元的に走査が順次行われる。
図1に示すトランスデューサ14の薄膜圧電素子14aは、送受波兼用の超音波振動子であり、生体組織21で反射した超音波(反射波)を電気信号に変換する。そして、その反射波の信号は送受波分離回路12を介して受信回路13に供給される。受信回路13は、図示しない信号増幅回路を含み、反射波の信号を増幅してA/Dボード3の検波回路23に出力する。
検波回路23は、超音波の反射波を検出するための回路であり、図示しないゲート回路を含む。本実施の形態の検波回路23は、トランスデューサ14で受信した反射波信号のなかからガラス面20aもしくは生体組織21の反射波信号を抽出する。超音波はトランスデューサ14とガラス面20aもしくは生体組織21との間で繰り返し反射されるものであるため、検波回路23は、最初に得られる反射波信号を抽出するよう構成されている。そして、検波回路23で抽出された反射波信号はA/D変換回路24に入力されて、A/D変換された後、パソコン4に転送される。
パソコン4は、CPU31、インターフェース(I/F)32,33、メモリ34、記憶装置35、入力装置36、及び表示装置37を備え、それらはバス38を介して相互に接続されている。
CPU31は、メモリ34を利用して制御プログラムを実行し、装置全体を統括的に制御する。制御プログラムとしては、X−Yステージ15による二次元走査を制御するためのプログラムや組織音速を算出するためのプログラムなどを含む。
インターフェース32は、A/Dボード3からの転送データ(A/D変換後の反射波信号など)を取り込むための通信ポート(例えば、USBポート)であり、インターフェース33は、コントローラ17への駆動制御信号を出力したりエンコーダ16の出力信号を取り込むための入出力ポートである。
表示装置37は、例えば、LCDやCRTなどのカラーディスプレイであり、生体組織21の音速像や、各種設定の入力画面を表示するために用いられる。入力装置36は、キーボードやマウス装置などであり、ユーザからの要求や指示、パラメータの入力に用いられる。
記憶装置35は、磁気ディスク装置や光ディスク装置などであり、その記憶装置35には制御プログラム及び各種のデータが記憶されている。CPU31は、入力装置36による指示に従い、プログラムやデータを記憶装置35からメモリ34へ転送し、それを逐次実行する。なお、CPU31が実行するプログラムとしては、メモリカード、フレキシブルディスク、光ディスクなどの記憶媒体に記憶されたプログラムや、通信媒体を介してダウンロードしたプログラムでもよく、その実行時には記憶装置35にインストールして利用する。
次に、本実施の形態の超音波画像検査装置1において、生体組織21の厚さ及び音速を算出するための方法について説明する。
先ず、図4に示すように、ガラス基板20の表面(ガラス面)20aに超音波Sを照射し、そのガラス面20aでの反射波Srefを取得する。その後、生体組織21の表面に超音波Sを照射し、生体組織21からの反射波Sを取得する。この生体組織21からの反射波Sは、組織表面の反射波Sfrontと組織裏面の反射波Srearとを含んだ合成波として取得される。そして、ガラス面20aでの反射波Srefを参照波形としてデコンボリューション処理を行うことにより、生体組織21での反射波Sを補正して組織表面の反射波Sfrontと組織裏面の反射波Srearとを分離する。
なお、このデコンボリューション処理では、各反射波Sref,Sをそれぞれフーリエ変換し、フーリエ変換後の反射波Sの周波数成分を反射波Srefの周波数成分で除算し、さらに、その算出結果を逆フーリエ変換する。これにより、補正した反射波Sのデータが得られる。
図5は、デコンボリューション処理前のガラス面20aの反射波Srefと生体組織21の反射波Sとを示している。図6は、デコンボリューション処理後におけるガラス面の反射波Srefと生体組織21の反射波Sとを示している。
図5及び図6に示されるように、デコンボリューション処理により補正された生体組織21の反射波Sは、補正前の波形に比べて生体組織21の表面及び裏面での反射が分離可能な波形となる。本実施の形態では、このデコンボリューション処理によって補正された反射波Sに対して窓関数をかけることにより、組織表面での反射波Sfrontと組織裏面での反射波Srearとを時間領域で分離する。
この分離した各反射波Sfront,Srearも、超音波Sと同様に異なる周波数成分を含む。従って、各反射波Sfront,Srearのデータをそれぞれフーリエ変換することで各反射波Sfront,Srearの位相スペクトルの周波数特性データ(図7参照)を求めることができる。なお、このデータは、ガラス面20aでの反射波Srefを基準とした位相のデータである。
ここで、組織表面での反射波Sfrontの位相φfrontは次式で表される。
また、組織裏面での反射波Srearの位相φrearは次式で表される。
ただし、fは周波数、dは組織の厚さ、Cは水の音速、Cは組織の音速である。
従って、上記式(6)から組織の厚さdは次式により求められる。
また、上記式(7)から組織の音速Cは次式により求められる。
このように、周波数fとそれに応じた位相φfront,φrearを上記式(8)及び式(9)に代入することにより、各周波数fに対応した組織音速Cを求めることができる。
次に、本実施の形態において、生体組織21の音速像を生成するためにCPU31が実行する処理例について、図8のフローチャートを用いて説明する。
先ず、CPU31は、制御信号を出力することでコントローラ17によってモータ18X,18Yを駆動し、超音波の照射点がガラス面20a上に位置するようにX−Yステージ15を移動する。またこのとき、励起パルスがトランスデューサ14に供給されると、トランスデューサ14から超音波が照射され、反射波の電気信号が検波回路23で抽出される。そして、CPU31は、A/D変換回路24で変換されたデジタルデータをインターフェース32を介して取り込み、そのデータをガラス面20aでの反射波のデータとしてメモリ34に記憶する(ステップ100)。
次に、CPU31は、制御信号を出力することでコントローラ17によってモータ18X,18Yを駆動し、X−Yステージ15による二次元走査を開始させる。このとき、CPU31は、エンコーダ16の出力に基づいて測定点の座標データを取得する(ステップ110)。ここで、励起パルスがトランスデューサ14に供給されると、トランスデューサ14から超音波が照射され、反射波の電気信号が検波回路23で抽出される。そして、CPU31は、A/D変換回路24で変換されたデジタルデータをインターフェース32を介して取り込み、そのデータを各測定点での反射波のデータとして座標データに関連付けてメモリ34に記憶する(ステップ120)。
その後、処理手段としてのCPU31は、ガラス面20aからの反射波のデータを用いてデコンボリューション処理を行う(ステップ130)。図9には、そのデコンボリューション処理の具体例を示している。
すなわち、第1のフーリエ変換手段としてのCPU31は、ガラス面20aからの反射波Srefのデータをフーリエ変換する(ステップ131)。次に、第2のフーリエ変換手段としてのCPU31は、生体組織21における測定点での反射波Sのデータをフーリエ変換する(ステップ132)。そして、除算手段としてのCPU31は、フーリエ変換後の反射波Sの周波数成分を反射波Srefの周波数成分で除算する(ステップ133)。その後、逆フーリエ変換手段としてのCPU31は、その除算結果を逆フーリエ変換することで補正された反射波S(図6参照)のデータを得る(ステップ134)。この処理の終了後、CPU31は、図8に示すステップ140に移行する。
ステップ140において、波形分離手段としてのCPU31は、所定の窓関数を用いて、補正された反射波Sから組織表面での反射波Sfrontと組織裏面での反射波Srearとを時間領域で分離する。次いで、算出手段としてのCPU31は、分離した各反射波Sfront,Srearのデータをそれぞれフーリエ変換して各反射波Sfront,Srearの位相スペクトルの周波数特性データを求める。そして、CPU31は、そのデータを用いて、上記式(8)及び式(9)に対応した演算を行うことで、測定点での組織の厚さd及び音速Cを周波数毎に算出し、それら算出値を各測定点の座標データに関連付けてメモリ34に記憶する(ステップ150)。
CPU31は、全ての測定点での処理が終了し、1画面分の測定データが取得されたか否かを判断する(ステップ160)。ここで、全データが取得されていない場合、CPU31は、ステップ100に戻って、ステップ100〜160の処理を繰り返し実行し、全データが取得された場合には、音速像の表示処理を実行する(ステップ170)。
図10には、その表示処理の具体例を示している。
先ず、CPU31は、所定のデータを表示装置37に送信し、設定画面を表示させる(ステップ171)。この設定画面には、例えば、表示すべき音速像の周波数を指定するためのテキストボックスが表示されており、ユーザにより入力装置36が操作されてそのテキストボックスに所定の周波数が入力される。すると、画像生成手段としてのCPU31は、その周波数に対応する1画面分の音速Cのデータをメモリ34から順次読み出して、音速Cのデータに基づいて音速像を生成するための画像処理を行う(ステップ172)。すなわち、CPU31は、音速Cを用いてカラー変調処理を行い、音速Cの大きさに応じた画像データを生成する。そして、CPU31は、それら画像データを表示装置37に転送することにより、図11に示すような音速像39を表示させる(ステップ173)。なお、図11の音速像39では、生体組織21における音速の違いを色の濃淡で示しているが、実際には、音速の値に応じて色分けされたカラー画像として表示される。
このように、CPU31は、ユーザが指定した周波数の音速像39を表示装置37に表示した後に本処理を終了する。なお、ステップ171の処理において複数の周波数が入力された場合、それら周波数に応じた複数の音速像39を表示装置37に並べて表示する。
従って、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
(1)本実施の形態の超音波画像検査装置1では、デコンボリューション処理を行うことにより、生体組織21の表面での反射波Sfront及び裏面での反射波Srearに分離することができ、各反射波Sfront,Srearに基づいて異なる周波数についての音速Cを求めることができる。従って、音速Cに関してより多くの情報が得られることとなり、これに基づいて生体組織21における音速Cの周波数依存性に関する情報を得ることができ、生体組織21の物理特性を正確に把握することが可能となる。
(2)本実施の形態の場合、生体組織21の内部構造によって表面及び裏面での反射波Sfront,Srear以外の反射波が含まれる場合であっても、所定の窓関数を用いることにより、表面の反射波Sfront及び裏面の反射波Srearを時間領域で確実に分離することができる。そのため、生体組織21の音速Cをより正確に求めることができる。
(3)本実施の形態の超音波画像検査装置1では、X−Yステージ15により超音波の照射点を二次元的に走査することで、生体組織21における複数点での音速Cを求めることができる。また、ユーザが指定した周波数における音速Cのデータを用いて画像処理を行うことにより、その周波数に対応した生体組織21の音速像39を生成することができる。生体組織21の音速Cは、組織の硬さに関連するパラメータであり、その音速Cに対応した音速像39を表示させることにより、生体組織診断を行うことが可能となる。特に、本実施の形態の場合、異なる周波数についての音速像を表示装置37に並べて表示できるため、各音速像を比較することにより、生体組織21の周波数依存性を容易に確認することができる。
なお、本発明の実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施の形態では、生体組織21に超音波Sを照射して音速Cを測定した後に、設定画面を表示させて音速像39の周波数を指定するものであったが、これに限定するものではない。例えば、超音波を照射して音速Cを測定する前(図8のステップ100の処理前)に、設定画面を表示させて音速像39の周波数を指定するように構成してもよい。このようにすると、指定された周波数での音速Cを求めそれに対応した画像データを生成すればよいので、使用するメモリ34の容量やCPU31の処理負荷を抑えることができる。
・上記実施の形態では、X−Yステージ15を駆動することにより、超音波の照射点を二次元的に走査する構成を採用したが、超音波トランスデューサ14側に二次元走査手段を設けてもよい。
・上記実施の形態では、被検査物としての生体組織21の音速Cを測定するものであったが、それ以外に、例えば樹脂表面などの音速Cを測定してもよい。
・上記実施の形態において、パソコン4を用いて超音波画像検査装置1を構成したが、それ以外にワークステーションなどのコンピュータを用いてもよい。また、音速像39を表示するための表示装置37は、パソコン4に一体的に設けられるものであったが、パソコン4と別体で設けてもよい。
・上記実施の形態の超音波画像検査装置1では、カラー変調による音速像39を得るものであったが、それ以外に輝度変調した音速像として可視化してもよい。
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
(1)請求項2において、前記分離した各反射波をそれぞれフーリエ変換することで、位相スペクトルの周波数特性データを求め、そのデータにより得られる位相差に基づいて前記被検査物の厚さ及び音速を求めることを特徴とする音速測定方法。
(2)請求項3において、前記処理手段は、前記被検査物の非載置面からの反射波をフーリエ変換する第1のフーリエ変換手段と、前記被検査物からの反射波をフーリエ変換する第2のフーリエ変換手段と、前記第2のフーリエ変換手段により得られた変換結果を前記第1のフーリエ変換手段により得られた変換結果で除算する除算手段と、その除算結果を逆フーリエ変換することで補正された反射波のデータを得る逆フーリエ変換手段とを含むことを特徴とする音速測定装置。
(3)請求項3において、前記超音波の照射点を二次元的に走査させる二次元走査手段をさらに備えることを特徴とする音速測定装置。
(4)技術的思想(3)に記載の音速測定装置と、前記被検査物の音速に基づいて音速像を生成する処理を行う画像生成手段と、前記音速像を表示するための表示装置とを備えることを特徴とする超音波画像検査装置。
(5)技術的思想(4)において、前記画像生成手段は、輝度変調またはカラー変調して画像表示するための画像データを生成することを特徴とする超音波画像検査装置。
(6)技術的思想(4)または(5)において、周波数を指定するための入力装置をさらに備え、前記画像生成手段はその周波数に対応する音速像を生成することを特徴とする超音波画像検査装置。
(7)技術的思想(4)〜(6)のいずれかにおいて、前記画像生成手段は、異なる周波数についての音速像を生成し、それら周波数毎の音速像を前記表示装置に並べて表示することを特徴とする超音波画像検査装置。
本発明を具体化した一実施の形態の超音波画像検査装置を示す概略構成図。 トランスデューサ側から見たX−Yステージの平面図。 超音波の走査範囲を示す説明図。 各反射波を示す説明図。 デコンボリューション処理前の反射波を示す説明図。 デコンボリューション処理後の反射波を示す説明図。 生体組織の表面及び裏面での反射波の位相スペクトルを示すグラフ。 生体組織の音速像を生成するための処理を示すフローチャート。 デコンボリューション処理を示すフローチャート。 音速像の表示処理を示すフローチャート。 音速像を示す説明図。 従来のパルス励起型超音波顕微鏡での測定方法を示す模式図。
符号の説明
1…音速測定装置としての超音波画像検査装置
2…パルス励起型超音波顕微鏡
14a…超音波振動子としての薄膜圧電素子
20…試料載置板としてのガラス基板
20a…非載置面としてのガラス面
21…被検査物としての生体組織
31…処理手段、波形分離手段、及び算出手段としてのCPU

Claims (3)

  1. パルス励起型超音波顕微鏡を利用して、試料載置板上に載置された被検査物の音速を超音波の反射波に基づいて測定する音速測定方法であって、
    前記試料載置板における被検査物の非載置面からの反射波を取得するステップと、
    前記被検査物からの反射波を取得するステップと、
    前記非載置面からの反射波を参照波形として前記被検査物からの反射波を補正するデコンボリューション処理を行うステップと、
    前記補正された反射波を用いて前記被検査物の表面の反射波と前記被検査物の裏面の反射波とを時間領域で分離するステップと、
    前記被検査物の表面の反射波と前記被検査物の裏面の反射波とをそれぞれ周波数領域で解析し、その解析結果から、前記被検査物の表面の反射波の周波数とこれに対応する位相と、前記被検査物の裏面の反射波の周波数とこれに対応する位相とを計算し、これらに基づいて周波数に対応した被検査物の音速を算出するステップと
    を含むことを特徴とする音速測定方法。
  2. 前記非載置面からの反射波と前記被検査物の表面反射波との位相差から被検査物の厚さを求め、前記非載置面からの反射波と前記被検査物の裏面反射波との位相差と前記被検査物の厚さとに基づいて前記音速を求めることを特徴とする請求項1に記載の音速測定方法。
  3. パルス励起型超音波顕微鏡を利用して、試料載置板上に載置された被検査物の音速を超音波の反射波に基づいて測定する音速測定装置であって、
    パルス励起されることによって超音波を被検査物に照射するとともに、前記被検査物からの反射波を受信する超音波振動子と、
    前記試料載置板における被検査物の非載置面からの反射波を参照波形として前記被検査物からの反射波を補正するデコンボリューション処理を行う処理手段と、
    前記処理手段により補正された反射波を用いて前記被検査物の表面の反射波と前記被検査物の裏面の反射波とを時間領域で分離する波形分離手段と、
    前記波形分離手段により分離された前記被検査物の表面の反射波と前記被検査物の裏面の反射波とをそれぞれ周波数領域で解析し、その解析結果から、前記被検査物の表面の反射波の周波数とこれに対応する位相と、前記被検査物の裏面の反射波の周波数とこれに対応する位相とを計算し、これらに基づいて周波数に対応した被検査物の音速を算出する算出手段と
    を備えることを特徴とする音速測定装置。
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