JP4826981B2 - リグノフェノール系吸着媒体を用いた色素の吸着処理方法 - Google Patents
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Description
フェノール類は、好ましくは、フェノール、p(パラ)−クレゾール、m(メタ)−クレゾール、o(オルト)−クレゾール、アニソール、2,4−ジメトキシフェノール、2,6−ジメトキシフェノール、2,4−ジメチルフェノール、2,6−ジメチルフェノール、プロピルフェノール、i−プロピルフェノール、tert−ブチルフェノール、カテコール、レゾルシノール、ピロガロール、フロログルシノール、ビスフェノール、バニリン、シリンゴール、グアイアゴール、フェルラ酸、クマル酸の何れか、又は、これらの組み合わせである。
上記構成において、高分子は、好ましくは、天然高分子、合成高分子、導電性高分子の何れか又はこれらの高分子の組み合わせからなる。
上記構成において、金属化合物は、好ましくは酸化物又は硫化物でなり、金属化合物の粒径は、好ましくは、5nm〜1000nmの範囲にある。酸化物は、好ましくは、酸化チタン又は磁鉄鉱であり、酸化チタンはフィルム状であってもよい。酸化チタンの結晶は、好ましくはアナタース結晶からなる。
本発明のリグノフェノール系吸着媒体は、何れも植物などを原料とし、この原料から抽出したリグノフェノールを用いており、このリグノフェノール系吸着媒体は、色素に対する優れた吸着能を有している。リグノフェノール系吸着媒体は、リグノフェノールをさらに熱などの物理処理により得たリグノフェノール、リグノフェノールとセルロースとの複合体、リグノフェノールと合成高分子との複合体、リグノフェノールの二次誘導体、リグノフェノールの高次フェノール導入体、リグノフェノールと金属化合物との安定な錯体様複合体を用いる。
リグノセルロース自体は植物の主成分であり、植物としては針葉樹や広葉樹のような木本類、草本類の何れも使用できる。木本類では廃材、間伐材、木粉など、ケナフやバガス、アブラヤシ空房といった草本系農産排廃棄物、草本植物、新聞紙、コーヒーガラ等の産業廃棄物も使用可能である。リグノセルロースは、約70%の糖質と約30%の硬い部位であるリグニンからなる。従来は、有用な糖質のみが抽出され、反応性が高いため抽出が困難なリグニンは廃棄されていた。これらの原料のひとつである木本類を用いた場合の特徴を以下に示す。
針葉樹はフェニルプロパン構造のフェニル部の2位にアリールメチルエーテル(メトキシル基)を有するグアイアシル型がすべてを占める。広葉樹ではグアイアシル型と同時にフェニル部2位、5位に共にメトキシル基があるシリンギル型を50:50で有する。さらに草本では広葉樹型の基本骨格に加え、メトキシル基がないフェニルプロパン骨格を有する。このような基本骨格以外は得られるリグノフェノールの構造はいずれの樹種を用いてもほぼ同様となる。針葉樹リグノフェノールではグアイアシル基のフェニル部の5位から単位間結合が形成されるため比較的分子量が高くなる。針葉樹では重量平均分子量であるMwが10000から20000程度、広葉樹や草本では、Mw=6000から8000程度となる。
図1は、リグニンからp−クレゾール型のリグノフェノールに変換する化学反応式を示す図である。図1の反応においては、リグニン1をp(パラ)−クレゾールを用いてフェノール置換体とし、硫酸(H2SO4)と反応させ、p−クレゾール型のリグノフェノール2と水溶性炭水化物(糖類)とに分離している。
リグノフェノールは、以下のような構造特性を有する不定形ポリマーである。植物中20〜30%含まれるフェノール系物質でフェニルプロパン骨格(C6C3)を有するリグニンに酸触媒下、過剰のフェノール類(例えばp−クレゾールなど)との界面反応によってフェノール化処理を施すと、主にフェニルプロパン骨格のC1位にフェノールが、水酸基がC1に対しオルト位になるように求核的に導入され、ほぼ定量的にフェノール性リグニン系構造可変ポリマー(リグノフェノール)が得られる(図1の1−1,ビス(アリール)プロパン−2−O−アリールエーテル型構造参照)。
相分離系変換システムで使用する酸の強度を抑制し、成分中の炭水化物繊維を保持した状態でリグニンのみをリグノフェノールに変換することもできる。条件設定によりヘミセルロースを優先的に抽出することができる。このようにして得られた炭水化物繊維が骨格をなすリグノフェノールとセルロースとからなるリグノフェノール−セルロース複合体は、130℃から180℃で流動開始し、熱圧成型により吸着媒体を形成できる。
リグノフェノールは一般に熱、圧力、光照射等の物理エネルギーを作用することにより構造の一部を条件に応じて高分子化又は低分子化できる。例えば、リグノフェノールを窒素雰囲気下で単純に加熱し、構造の一部を一旦高分子化し、さらにエネルギーを与えると低分子化すると同時に熱に対して安定な素材に誘導される。このような素材は溶媒への溶解性を失わないことから、耐熱性のあるリグノフェノール吸着媒体とすることができる。
リグノフェノールは、溶液中においてセルロースなどの炭水化物と水素結合に代表される安定な複合体を形成できる。複合体と溶媒の界面は主に芳香族化合物の影響で疎水性になることを見出した。この複合体がセルロースと水素結合ならびに水酸基を介した結合形成されているため疎水性になると考えられる。これらのリグノフェノールとセルロースとの複合体を吸着媒体として用いることによって、疎水性リグノフェノールと同様に水中の色素をさらに短時間で吸着分離することができる。
リグノフェノール又はその誘導体と高分子とで構成された複合体からなるリグノフェノール系吸着媒体も、色素を吸着する。高分子としては、天然高分子、合成高分子、導電性高分子の何れか、又はこれらの高分子の組み合わせとすることができる。リグノフェノール又はその誘導体は、天然高分子としては、一般にセルロースやスターチ、木材、絹、カゼインといった天然高分子と脱着が容易な複合体を形成する。また、ポリエステル、ポリアミド、ナイロンなどの極性のある合成高分子やポリアニリン、ポリチオフェンなどの導電性高分子等とも安定な複合体を形成し構造材や導電材料として利用できる。これら複合体は水系や有機溶媒系などの媒体中で安定に存在することができる。例えば、疎水性であるp−クレゾールタイプのリグノフェノールを複合化したセルロース成型体は、著しい疎水性を示す。このような複合体によれば、これまで例示してきたリグノフェノール類と同等以上の特性を有する吸着媒体として使用することができる。
フェニルプロパン骨格C1位に対しオルト位に水酸基を有するリグノフェノールはアルカリ条件下において加熱することで分子鎖を求核的に開裂し、分子量を低下させることができる。この分子制御を分子スイッチと呼ぶ。分子スイッチが作動するには、
(1)導入フェノールの水酸基がオルト位、
(2)C2−O−アリール構造を有することであり、
ハイドロキシメチル化(−CH2−OH)やその重合体、アセチル化(OCOCH3)のような可逆な化学修飾を施した誘導体でも発現する。
リグノフェノールのハイドロキシメチル化物は、クレゾール型フェノール樹脂の原料として用いることができる。ハイドロキシメチル基のメチレン炭素はベンジル位に相当し、相分離系変換システムにおけるフェノール導入箇所に該当する。この性質を利用し、二次あるいはそれ以上の高次フェノール導入が可能である。
リグノフェノール系吸着媒体としては、リグノフェノールへ化学修飾を施した誘導体であってもよい。化学修飾としては、アシル化(OCOR)、シリル化(−O−SiR3)、エポキシ化(−O−CH2−CH(OH)−CH2−O−R)、アルキルカルボキシル化(R−COOH)、カーボネート化(フェノール−O−CO−O−R)が挙げられる。上記化学式において、Rは、アルキル基である。
リグノフェノール及びその誘導体は、金属化合物と安定な錯体様複合体を形成するので、金属化合物と強固な複合体を形成する。金属化合物としては金属酸化物、金属硫化物などが挙げられる。金属としては遷移金属を用いることができる。酸化チタンや磁鉄鉱などはこれらの中でも特に有用である。酸化チタンは単体として、さらには、後述する酸化チタンナノ多孔質フィルム状物質を用いることができる。
処理対象となる系内に、本発明のリグノフェノール系吸着媒体を投入し、このリグノフェノール系吸着媒体に色素を吸着させることができる。特に、高価な色素の回収の場合にはカラム充填方式の処理装置を用いることがより望ましい。
リグノフェノール系吸着媒体に色素を吸着した後で沈殿物を回収し、洗浄して乾燥する。この乾燥した沈殿物中のリグノフェノール系吸着媒体は、有機溶媒又はアルカリ溶液等へ浸漬することによって分離、回収することができる。アルカリ溶液に溶解したリグノフェノールは、酸性化することによって元の状態に回復させることができる。
相分離系変換システム、すなわちリグノセルロースとフェノール類とを用いてリグノフェノールを製造する方法の一例を示す(特許文献1参照)。
p−クレゾールをアセトンに溶解し、このp−クレゾールアセトン溶液を気乾ヒノキ(Chamaecyparis obtusa)等の木粉に加え、該溶液が木粉に十分に浸透するまで放置する。アセトンを除去し、このp−クレゾールが付着した木粉に硫酸を加え、室温で所定時間激しく攪拌する。水洗にて酸を除去した後で乾燥させ、適量のアセトンを加えて、この抽出液を濃縮する。得られた濃縮アセトン抽出液を、ジエチルエーテルに拌下滴下し、その沈殿物としてリグノフェノールを得ることができる。
酸化チタンナノ粒子ペースト(触媒化成株式会社製、PASOL−HPA−15R)10重量部と、酸化チタン(日本アエロジル株式会社製、P25)1重量部と、ポリエチレングリコール(和光純薬工業株式会社製、特級、分子量20000)4重量部とを瑪瑙乳鉢でよく攪拌した。このペーストを、フッ素ドープした酸化スズで被覆された導電性ガラス(FTO)上に厚さ63μmのメンディングテープ(スリーエム株式会社製)で厚み規正し、バーコーティング法でペーストを塗布した。乾燥後450℃のマッフル炉に60分入れて焼結した。得られた酸化チタン膜の厚みは、10μm〜45μmであった。走査電子顕微鏡(SEM)で観察した結果、1μm以下の粒子が確認された。
ヒノキを原料として用い、実施例1のリグノフェノール系吸着媒体を製造した。
p−クレゾール500gをアセトン17リットルに溶解させ、抽出物を除去した気乾ヒノキ(Chamaecyparis obtusa)木粉1000gに加え数時間放置した。アセトンを除去し、木粉に残留したp−クレゾールのリグニン1ユニット(フェニルプロパン構造C6C3)は、1モルあたり3モル倍であった。このp−クレゾールが付着した木粉に硫酸(72%)5リットルを加え室温下1時間激しく攪拌した。水洗にて酸を除去した後乾燥させ、アセトン7リットルを加えて抽出し、この抽出液を3リットル程度まで濃縮した。このようにして得た濃縮アセトン抽出液(54.2mg/cm3)3リットルを、ジエチルエーテル20リットルに磁気攪拌しながら滴下した。沈殿物として得られたリグノフェノール140gの物性をGPC分析で評価すると、重量平均分子量(Mw)は13436であった。熱機械分析法(TMA)による測定では、熱流動開始点が165.8℃であり、終了点が181.1℃であった。
(比較例1)
酸化チタンナノ粒子(石原産業株式会社製、ST01)を比較例1とした。
15cm3の試験管4本に色素として、メチレンブルー水溶液(30mg/cm3)を各5cm3入れた。各試験管に、実施例1のリグノフェノール系吸着媒体、実施例2のリグノフェノールと酸化チタンフィルムとの複合体からなるリグノフェノール系吸着媒体、比較例1の酸化チタンナノ粒子をそれぞれ50mg入れて、遮光下で室温5分間攪拌し、遠心分離した後の上澄みに残存しているメチレンブルーを紫外線可視光(UV−vis)分析で定量した。なお、メチレンブルー溶液のみを、上記実施例と同じ条件で保持したものを紫外線可視光分析における参照とした。
表1に示すように、メチレンブルー水溶液の除去率は、実施例1及び2の場合には99%であり、比較例1の場合が53.1%であった。参照のメチレンブルー水溶液の除去率は、6.5%以下であった。
表2に示すように、ブリリアントグリーン水溶液の除去率は、実施例1及び2の場合には99%であり、比較例1の場合が65%であった。比較例1をさらに70時間撹拌しても、除去率は50%であった。
表3に示すように、クリスタルバイオレット水溶液の除去率は、実施例1及び2の場合には99%であり、比較例1の場合が60%であった。比較例1をさらに70時間撹拌しても、除去率は55%であった。
表4に示すように、実施例1ではリグノフェノール系吸着媒体がエタノールに溶解してクリスタルバイオレットの吸着ができなかった。実施例2及び比較例1のクリスタルバイオレットエタノール溶液の除去率は、それぞれ、30%、5%であった。比較例1をさらに70時間撹拌しても、除去率は7%であった。
表5に示すように、実施例1ではリグノフェノール系吸着媒体がエタノールに溶解してクリスタルバイオレットの吸着ができなかった。実施例2及び比較例1のクリスタルバイオレットエタノール溶液の除去率は、それぞれ、12%、8%であった。比較例1をさらに70時間撹拌しても、除去率は10%であった。
2:リグノフェノール
Claims (3)
- リグノフェノール又はリグノフェノール誘導体と金属化合物とからなる錯体様複合物、リグノフェノール又はリグノフェノール誘導体と高分子との複合体、リグノフェノール化学修飾物、リグノフェノールの水酸基置換誘導体又はリグノフェノール誘導体の加熱処理物から選ばれるリグノフェノール系吸着媒体を用いて、液体中のメチレンブルー、ブリリアントグリーン、クリスタルバイオレット及びメチルオレンジから選択される色素を吸着することを特徴とする、色素の吸着処理方法。
- 前記リグノフェノール系吸着媒体が、リグノフェノールと酸化チタンとの錯体様複合体である、請求項1記載の色素の吸着処理方法。
- 前記液体が水溶液又はエタノール溶液である、請求項1に記載の色素の吸着処理方法。
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