前述の筋骨格モデルは、人体の関節運動すなわち運動学的挙動を規定する骨格モデルと、人体の筋肉運動すなわち力学的挙動を規定する筋モデルとに大別される。
したがって、筋骨格モデルを、人体の現実の物理的特性をできる限り忠実にコンピュータ上で再現できるように作成するためには、解析者が、それら骨格モデルおよび筋モデルの妥当性を個別に評価したり、総合的に評価することが重要である。
よって、解析者にとっては、それら骨格モデルおよび筋モデルの妥当性を簡単にかつ正確に評価することを支援する技術が要望される。
さらに、それら骨格モデルおよび筋モデルの妥当性が不足している場合には、解析者が、それら骨格モデルおよび筋モデルを簡単にかつ正確に修正することを支援する技術も、筋骨格モデルの作成効率を改善するために重要である。
しかしながら、従来の筋骨格モデル作成方法を実施する場合には、例えば、筋モデルについては、その筋モデルの妥当性を評価することが比較的困難であり、そのため、その筋モデルを修正する作業も比較的困難であった。
具体的に説明すれば、本発明者らは、その研究により、筋モデルの妥当性を精度よく評価したりその妥当性を精度よく向上させるためには、その筋モデルによって表現される筋を収縮させたときにその筋が発揮する力によって骨が関節まわりに動く際の回転軸線方向(以下、「第1回転軸線方向」という。)に注目することが重要であることに気が付いた。
本発明者らは、さらに、その第1回転軸線方向は、ある運動を人体に行わせたときに骨が関節まわりに動く際の回転軸線方向(以下、「第2回転軸線方向」という。)に対して相対的に評価することも重要であることに気が付いた。
しかしながら、従来の筋骨格モデル作成方法を実施しても、筋骨格モデルの作成中に、第1回転軸線および第2回転軸線が可視化されて解析者に提示されることはないし、また、第1回転軸線が第2回転軸線に接近するようにコンピュータによって筋骨格モデルが自動的に修正されることもない。
以上説明した事情を背景として、本発明は、人体を構成する複数の骨と複数の筋とに関して人体をコンピュータ上において物理的に表現する筋骨格モデルをコンピュータ上において作成する技術であってその筋骨格モデルの解析精度を容易に向上させ得るものを提供することを課題としてなされたものである。
上記課題を解決するために、本発明の一側面によれば、人体を構成する複数の骨と複数の筋とに関して前記人体をコンピュータ上において物理的に表現する筋骨格モデルを前記コンピュータ上において作成する筋骨格モデル作成方法であって、前記筋骨格モデルは、前記複数の骨を、各々剛体セグメントとして定義された複数の骨モデルとして近似的に表現するとともに、それら複数の骨モデルが複数の関節のそれぞれのまわりに互いに回動可能であるように表現する一方、前記複数の筋を、各々、力を1次元的に伝達する複数のワイヤ要素として定義された複数の筋モデルとして近似的に表現するものであり、当該筋骨格モデル作成方法は、ユーザからの入力指示を受け付けて、前記コンピュータが、前記複数の関節のうちの注目関節に関し、前記複数の骨モデルのうち前記注目関節まわりに互いに回動可能に連結された複数の対象骨モデルが、前記複数の筋モデルのうち前記注目関節に作用する対象筋モデルの伸縮運動に伴い、前記注目関節まわりに互いに回動する際の回転軸線の向きを、第1回転軸線方向として定義する第1定義工程と、前記コンピュータが、ある運動を前記人体に行わせた場合に、前記複数の骨のうち前記複数の対象骨モデルに対応する複数の対象骨が前記注目関節まわりに互いに回動する際の回転軸線の向きを第2回転軸線方向として定義する第2定義工程と、前記コンピュータが、前記注目関節に関し、前記定義された第1回転軸線方向の、前記定義された第2回転軸線方向に対する相対角度が許容値より大きい場合には前記第1回転軸線方向を変更しない一方、前記相対角度が前記許容値以下である場合には前記相対角度が減少するように前記第1回転軸線方向を変更することにより、前記第1回転軸線方向を再定義する再定義工程とを含む筋骨格モデル作成方法が提供される。
<本発明の概要>
本発明の第1の側面によれば、人体を構成する複数の骨と複数の筋とに関して前記人体をコンピュータ上において物理的に表現する筋骨格モデルを前記コンピュータ上において作成する筋骨格モデル作成方法が提供される。
ここに、前記筋骨格モデルは、例えば、前記複数の骨を、各々剛体セグメントとして定義された複数の骨モデルとして近似的に表現するとともに、それら複数の骨モデルが複数の関節のそれぞれのまわりに互いに回動可能であるように表現する一方、前記複数の筋を複数の筋モデルとして近似的に表現する。
当該筋骨格モデル作成方法は、例えば、第1定義工程と第2定義工程と再定義工程とを含むように構成される。
前記第1定義工程は、例えば、前記複数の関節のうちの注目関節に関し、前記複数の骨モデルのうち前記注目関節まわりに互いに回動可能に連結された複数の対象骨モデルが、前記複数の筋モデルのうち前記注目関節に作用する対象筋モデルの伸縮運動に伴い、前記注目関節まわりに互いに回動する際の回転軸線の向きを、第1回転軸線方向として定義するための工程である。
前記第2定義工程は、例えば、ある運動を前記人体に行わせた場合に、前記複数の骨のうち前記複数の対象骨モデルに対応する複数の対象骨が前記注目関節まわりに互いに回動する際の回転軸線の向きを第2回転軸線方向として定義するための工程である。
前記再定義工程は、例えば、前記コンピュータが、前記注目関節に関し、前記定義された第1回転軸線方向を、前記定義された第2回転軸線方向に対する相対角度の大きさに基づいて再定義するための工程である。
本発明の第2の側面によれば、コンピュータにより、共に人体を物理的に表現する筋骨格モデルと有限要素モデルとを用いることにより、前記人体の挙動から、その人体の各部位の応力とひずみとの少なくとも一方を推定する人体応力/ひずみ推定方法が提供される。
ここに、前記筋骨格モデルは、例えば、前記人体を構成する複数の骨と複数の筋とに関して前記人体を前記コンピュータ上において、前記複数の骨については複数の剛体セグメントを用いる一方、前記複数の筋については複数の有限要素を用いることにより、物理的に表現するモデルである。
具体的には、前記筋骨格モデルは、例えば、前記複数の骨を、各々剛体セグメントとして定義された複数の骨モデルとして近似的に表現するとともに、それら複数の骨モデルが複数の関節のそれぞれのまわりに互いに回動可能であるように表現する一方、前記複数の筋を複数の筋モデルとして近似的に表現するモデルである。
これに対し、前記有限要素モデルは、同じ人体を前記コンピュータ上において、その人体における各部位が骨であるか筋であるかを問わず、複数の有限要素を用いて物理的に表現するモデルである。
当該人体応力/ひずみ推定方法は、例えば、(i)前記筋骨格モデルを作成する筋骨格モデル作成工程と、(ii)その作成された筋骨格モデルを用いることにより、前記人体の各部位の挙動に基づき、前記人体の各部位に作用する複数種類の負荷を推定する負荷推定工程と、(iii)それら推定された複数種類の負荷に基づき、前記有限要素人体モデルを用いることにより、前記人体の各部位の応力とひずみとの少なくとも一方を推定する応力/ひずみ推定工程とを含むように構成される。
前記筋骨格モデル作成工程は、例えば、(a)提供された筋骨格モデル情報に基づき、前記筋骨格モデルを暫定的に作成する暫定的作成工程と、(b)第1計算工程と、(c)第2計算工程と、(d)筋骨格モデル修正工程とを含むように構成される。
前記第1計算工程は、例えば、前記作成された暫定的な筋骨格モデルにつき、前記複数の関節のうちの注目関節に関し、前記複数の骨モデルのうち前記注目関節まわりに互いに回動可能に連結された複数の対象骨モデルが、前記複数の筋モデルのうち前記注目関節に作用する対象筋モデルの伸縮運動に伴い、前記注目関節まわりに互いに回動する際の回転軸線の向きを、第1回転軸線方向として計算するための工程である。
前記第2計算工程は、例えば、前記作成された暫定的な筋骨格モデルにつき、ある運動を前記人体に行わせた場合に、前記複数の骨のうち前記複数の対象骨モデルに対応する複数の対象骨が前記注目関節まわりに互いに回動する際の回転軸線の向きを第2回転軸線方向として計算するための工程である。
前記筋骨格モデル修正工程は、例えば、前記注目関節に関し、前記計算された第1回転軸線方向を、前記計算された第2回転軸線方向に対する相対角度の大きさに基づいて修正し、それにより、前記作成された暫定的な筋骨格モデルを修正するための工程である。
前記複数種類の負荷は、例えば、前記各筋に関する負荷であって筋活性度と筋力との少なくとも一方を有するものと、前記人体の各部位に作用する外力と、前記人体の各部位の速度および加速度と、それら物理量と置換可能である物理量とのうちの少なくとも一つを含むように定義される。
本発明の第3の側面によれば、人体を構成する複数の骨と複数の筋とに関して前記人体をコンピュータ上において物理的に表現する筋骨格モデルを前記コンピュータ上において作成する筋骨格モデル作成方法が提供される。
ここに、前記筋骨格モデルは、例えば、前記複数の骨を、各々剛体セグメントとして定義された複数の骨モデルとして近似的に表現するとともに、それら複数の骨モデルが複数の関節のそれぞれのまわりに互いに回動可能であるように表現する一方、前記複数の筋を複数の筋モデルとして近似的に表現するモデルである。
当該筋骨格モデル作成方法は、例えば、前記第1および第2定義工程と、第1および第2表示工程と、再定義工程とを含むように構成される。
前記第1表示工程は、例えば、前記複数の対象筋モデルについてそれぞれ定義された複数の第1回転軸線方向をそれぞれ表現する複数の第1図形のうちの少なくとも一つを、前記注目関節に位置的に関連付けて表示装置のスクリーン上に表示するための工程である。
前記第2表示工程は、例えば、前記定義された第2回転軸線方向を表現する第2図形を、前記注目関節に位置的に関連付けて前記スクリーン上に表示するための工程である。
前記再定義工程は、例えば、前記注目関節に関し、前記定義された第1回転軸線方向を、前記定義された第2回転軸線方向に対する相対角度の大きさに基づいて再定義するための工程である。
<本発明の説明のための具体例>
本発明により、さらに、下記の各態様も得られる。各態様は、項に区分し、各項には番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、本発明が採用し得る技術的特徴の一部およびそれの組合せの理解を容易にするためであり、本発明が採用し得る技術的特徴およびそれの組合せが以下の態様に限定されると解釈すべきではない。すなわち、下記の態様には記載されていないが本明細書には記載されている技術的特徴を本発明の技術的特徴として適宜抽出して採用することは妨げられないと解釈すべきなのである。
さらに、各項を他の項の番号を引用する形式で記載することが必ずしも、各項に記載の技術的特徴を他の項に記載の技術的特徴から分離させて独立させることを妨げることを意味するわけではなく、各項に記載の技術的特徴をその性質に応じて適宜独立させることが可能であると解釈すべきである。
(1) 人体を構成する複数の骨と複数の筋とに関して前記人体をコンピュータ上において物理的に表現する筋骨格モデルを前記コンピュータ上において作成する筋骨格モデル作成方法であって、
前記筋骨格モデルは、前記複数の骨を、各々剛体セグメントとして定義された複数の骨モデルとして近似的に表現するとともに、それら複数の骨モデルが複数の関節のそれぞれのまわりに互いに回動可能であるように表現する一方、前記複数の筋を、各々、力を1次元的に伝達する複数のワイヤ要素として定義された複数の筋モデルとして近似的に表現するものであり、
当該筋骨格モデル作成方法は、
前記複数の関節のうちの注目関節に関し、前記複数の骨モデルのうち前記注目関節まわりに互いに回動可能に連結された複数の対象骨モデルが、前記複数の筋モデルのうち前記注目関節に作用する複数の対象筋モデルのそれぞれの伸縮運動に伴い、前記注目関節まわりに互いに回動する際の回転軸線の向きを、各対象筋モデルごとに、第1回転軸線方向として定義する第1定義工程と、
ある運動を前記人体に行わせた場合に、前記複数の骨のうち前記複数の対象骨モデルに対応する複数の対象骨が前記注目関節まわりに互いに回動する際の回転軸線の向きを第2回転軸線方向として定義する第2定義工程と、
前記複数の対象筋モデルについてそれぞれ定義された複数の第1回転軸線方向をそれぞれ表現する複数の第1図形のうちの少なくとも一つを、前記注目関節に位置的に関連付けて表示装置のスクリーン上に表示する第1表示工程と、
前記定義された第2回転軸線方向を表現する第2図形を、前記注目関節に位置的に関連付けて前記スクリーン上に表示する第2表示工程と、
前記注目関節に関し、前記定義された複数の第1回転軸線方向のうちの少なくとも一つを、前記定義された第2回転軸線方向に対する相対角度の大きさに基づいて再定義する再定義工程と
を含む筋骨格モデル作成方法。
この方法が実施されると、複数の骨が、各々剛体セグメントである複数の骨モデルとして、かつ、該当する関節まわりに互いに回動可能であるように表現される一方、複数の筋が、各々、力を1次元的に伝達するワイヤ要素である複数の筋モデルとして表現されるように、筋骨格モデルが作成される。
また、この方法が実施されると、筋骨格モデルを作成するために、注目関節に関し、その注目関節まわりに互いに回動可能に連結された複数の対象骨モデルが、同じ注目関節に作用する複数の対象筋モデルのそれぞれの伸縮運動に伴い、注目関節まわりに互いに回動する際の回転軸線の向きが、各対象筋モデルごとに、第1回転軸線方向として定義される。
この第1回転軸線方向は、ある筋が収縮させられると同じ関節まわりに複数の骨が互いに回動する際の回転軸線の方向を、筋(筋力、関節に対する筋の配置等)を基準にして、各筋ごとに、求めた場合の筋基準回転軸線方向である。
この第1回転軸線方向の定義は、例えば、ユーザの入力によって直接的に行ったり、ユーザによって入力されたデータに基づくコンピュータの計算によって行うことが可能である。
また、本項に係る方法が実施されると、筋骨格モデルを作成するために、さらに、ある運動を人体に行わせた場合に、複数の対象骨モデルに対応する複数の対象骨が注目関節まわりに互いに回動する際の回転軸線の向きが第2回転軸線方向として定義される。
この第2回転軸線方向は、ある運動を人間に行わせると、同じ関節まわりに複数の骨が互いに回動する際の回転軸線の方向を、人間が行わせられる運動を基準にして、同じ関節に作用するすべての筋に共通に求めた場合の運動基準回転軸線方向である。
この第2回転軸線方向の定義も、第1回転軸線方向の場合と同様に、例えば、ユーザの入力によって直接的に行ったり、ユーザによって入力されたデータに基づくコンピュータの計算によって行うことが可能である。
また、本項に係る方法が実施されると、さらに、複数の対象筋モデルについてそれぞれ定義された複数の第1回転軸線方向をそれぞれ表現する複数の第1図形のうちの少なくとも一つが、注目関節に位置的に関連付けて表示装置のスクリーン上に表示される。すなわち、少なくとも一つの第1回転軸線方向が可視化されてユーザに提示されるのである。
この方法が実施されると、さらに、注目関節について定義された第2回転軸線方向を表現する第2図形が、注目関節に位置的に関連付けてスクリーン上に表示される。すなわち、第2回転軸線方向が可視化されてユーザに提示されるのである。
この方法が実施されると、さらに、注目関節に関し、定義された複数の第1回転軸線方向のうちの少なくとも一つが、定義された第2回転軸線方向に対する相対角度の大きさに基づいて再定義される。
このように、この方法によれば、少なくとも一つの第1回転軸線方向が可視化されてユーザに提示されるとともに、第2回転軸線方向も可視化されてユーザに提示されるため、ユーザは、筋骨格モデルの妥当性(特に、筋モデルの妥当性)を、人体の骨格(関節構造を含む。)に依存した関節運動との関係において評価することが支援される。
よって、この方法によれば、筋骨格モデルの妥当性評価が支援されることにより、筋骨格モデルの作成効率が改善される。さらに、この方法によれば、筋骨格モデルの解析精度を容易に向上させ得る。
さらに、この方法によれば、ユーザは、そのような妥当性の評価結果を踏まえて、予め定義された複数の第1回転軸線方向のうちの少なくとも一つが、予め定義された第2回転軸線方向に対する相対角度の大きさに基づいて再定義されるように、筋骨格モデルを修正することが可能となる。
よって、この方法によれば、筋骨格モデルの修正作業も容易化されるため、この理由によっても、筋骨格モデルの作成効率が改善される。さらに、この方法によれば、筋骨格モデルの解析精度を容易に向上させ得る。
この方法は、前記第1表示工程が、第1回転軸線方向が再定義されると、その再定義された第1回転軸線方向を表す第1図形をスクリーン上に表示する態様で実施することが可能である。
この態様によれば、第1回転軸線方向が再定義されるごとに、最新の第1回転軸線方向が可視化されるため、第1回転軸線方向の反復的な再定義が必要である場合に、そのような再定義の作業効率が改善される。
本項に係る方法は、前記第1表示工程が、前記複数の第1図形を一斉に表示する態様で実施したり、それら第1図形のうちユーザによって選択されたもののみを表示する態様で実施することが可能である。
なお付言するに、本明細書の全体を通じて、「定義する」および「再定義する」という用語は、例えば、ユーザによる入力に応じて特定の物理量を特定することを意味するように解釈したり、コンピュータによる計算によって特定の物理量を特定することを意味するように解釈することが可能である。
(2) 前記第1表示工程は、前記少なくとも一つの第1図形の表示を、前記第2表示工程による前記第2図形の表示と並行して行う(1)項に記載の筋骨格モデル作成方法。
この方法によれば、同じ注目関節に関し、少なくとも一つの第1回転軸線方向(筋基準回転軸線方向)と第2回転軸線方向(運動基準回転軸線方向)とが一緒に可視化されてユーザに提示されるため、ユーザは、それら2種類の回転軸線方向を互いに直接的に対比して観察することが可能となる。
よって、この方法によれば、それら2種類の回転軸線方向が互いに異なる時期に表示される場合より、第1回転軸線方向の妥当性を正確に評価することが容易となる。
(3) 前記複数の第1図形はそれぞれ、3次元空間内において、前記注目関節の中心を表す1つの関節中心点から、前記複数の第1回転軸線方向に、互いに等しい距離だけ延びる複数の直線またはそれら直線に沿って延びる複数の図形として定義されており、
前記第2図形は、前記3次元空間内において、前記関節中心点から前記第2回転軸線方向に延びる1つの直線またはその直線に沿って延びる1つの図形として定義されており、
前記第1表示工程は、前記第1図形を、一投影方向において投影した投影第1図形として、前記スクリーン上に2次元的に表示し、
前記第2表示工程は、前記第2図形を、前記投影方向において投影した投影第2図形として、前記スクリーン上に2次元的に表示する(1)または(2)項に記載の筋骨格モデル作成方法。
この方法によれば、第1回転軸線方向(筋基準回転軸線方向)が、3次元空間内において、注目関節の中心を表す1つの関節中心点から延びる直線またはその直線に沿って延びる第1図形として表示される。この第1図形は、一投影方向において投影した投影第1図形として、スクリーン上に2次元的に表示される。
この方法によれば、さらに、第2回転軸線方向(運動基準回転軸線方向)が、3次元空間内において、関節中心点から延びる直線またはその直線に沿って延びる第2図形として表示される。この第2図形は、前記投影方向において投影した投影第2図形として、スクリーン上に2次元的に表示される。
したがって、この方法によれば、ユーザは、第1および第2回転軸線方向を、スクリーン上の2次元表示から、立体的に知覚することにより、それら回転軸線方向を3次元空間内において正確に把握することが可能となる。
(4) さらに、
前記関節中心点に中心が配置されるとともに前記複数の直線と同じ長さの半径を有するように前記3次元空間内において定義された1つの球面を、前記投影方向において投影した投影球面として、前記スクリーン上に2次元的に、前記投影第1図形に重ね合わせて表示する第3表示工程を含む(3)項に記載の筋骨格モデル作成方法。
この方法によれば、関節中心点に中心が配置されるとともに第1図形と同じ長さだけ延びる半径を有する球面が、投影球面として、投影第1図形に重ね合わせて、スクリーン上に2次元的に表示される。そのスクリーン上において、その投影球面は、投影第1図形の奥行きをユーザに知覚させることを促すデプスキューとして機能する。
したがって、この方法によれば、ユーザは、その投影球面がスクリーン上に表示されない場合より、投影第1図形、すなわち、第1回転軸線方向を正確に立体的に知覚することが容易となる。
(5) 前記球面は、前記3次元空間内において、メッシュとして定義されており、
前記第3表示工程は、その定義されたメッシュを、前記投影方向において投影した投影メッシュとして、前記スクリーン上に2次元的に表示する工程を含む(4)項に記載の筋骨格モデル作成方法。
この方法によれば、投影第1図形に重ね合わせて表示される球面が、3次元空間内において、メッシュとして定義される。その定義されたメッシュは、投影メッシュとして、スクリーン上に2次元的に表示される。
したがって、この方法によれば、その投影メッシュが前述のデプスキューとしてより効果的にスクリーン上に表示され、その結果、第1回転軸線方向(筋基準回転軸線方向)を正確に立体的に知覚することが一層容易となる。
(6) さらに、
前記各対象筋モデルごとに、前記定義された第1回転軸線方向と同じ方向を基準軸線方向に選定するとともに、前記第1回転軸線方向が前記基準軸線方向に対して変更可能な許容角度範囲を定義する第3定義工程を含み、
前記各第1図形は、3次元空間内において、前記基準軸線方向に延びる中心線と、前記定義された許容角度範囲の大きさに応じて大きさが変化する底面とによって定義される円錐面として定義されており、
前記第1表示工程は、前記各対象筋モデルごとに、前記定義された円錐面を、一投影方向において投影した投影円錐面として、前記スクリーン上に2次元的に表示する円錐面表示工程を含む(1)ないし(5)項のいずれかに記載の筋骨格モデル作成方法。
現実の人体の構造を観察すると、筋は、真っ直ぐに延びているが、太さを有するとともに、面積を有する領域において骨に付着させられている。しかも、筋は、剛体ではなく、変形可能である。
このような構造のため、筋が収縮させられてその筋に筋力が発生すると、その筋力が効果的に骨に伝達されるように、筋における筋力の作用直線の方向が、骨の運動方向に適合させられる。
一方、筋力の作用直線の方向が変化すると、その筋力によって関節まわりに2本の骨が互いに回動させられる際の回転軸線方向すなわち第1回転軸線方向(筋基準回転軸線方向)も変化する。また、現実の筋においては、筋力の作用直線方向が変化するにも限度があり、よって、第1回転軸線方向が変化するにも限度がある。
したがって、筋骨格モデルが現実の人体をできる限り忠実に再現するためには、第1回転軸線方向が、それの許容角度範囲と共に定義されることが望ましい。また、その許容角度範囲も、スクリーン上に表示されることが、筋骨格モデルの作成効率を改善するために望ましい。
このような知見に基づき、本項に係る方法が実施されると、各筋ごとに、第1回転軸線方向と同じ方向が基準軸線方向に選定されるとともに、第1回転軸線方向が基準軸線方向に対して変更可能な許容角度範囲が定義される。この許容角度範囲の定義は、通常は、ユーザによって入力されたデータを用いて直接的に行われる。
この方法が実施されると、さらに、前述の第1図形が、3次元空間内において、前記基準軸線方向に延びる中心線と、前記定義された許容角度範囲の大きさに応じて大きさが変化する底面とによって定義される円錐面として定義される。その定義された円錐面は、一投影方向において投影した投影円錐面として、スクリーン上に2次元的に表示される。
(7) 前記第1表示工程は、前記各対象筋モデルごとに、その対象筋モデルに対応する前記筋から前記注目関節に作用する筋のモーメントアームの大きさに応じて前記各第1図形の視覚的特徴が変化するように、前記各第1図形を表示する工程を含む(1)ないし(6)項のいずれかに記載の筋骨格モデル作成方法。
一般に、筋が収縮させられると、その筋から関節に筋モーメントが作用する。この筋モーメントは、筋モーメントアームと筋力との積として表現される。その筋モーメントアームは、幾何学的には、第1回転軸線と筋経路(筋走行)との距離を意味する物理量である。
ここに、「筋モーメントアームの方向」という用語を、第1回転軸線方向(筋基準回転軸線方向)を意味する用語として定義し、「筋モーメントアームの大きさ」という用語を、第1回転軸線と筋経路(筋走行)との距離を意味する用語として定義することが可能である。一方、筋モーメントアームの方向も大きさも、筋骨格モデル、特に、筋モデルを高精度で作成するために、ユーザが参照すべき重要な物理量である。
これに対し、本項に係る方法が実施されると、第1回転軸線方向すなわち筋モーメントアームの方向がグラフィカルに可視化されるとともに、同じ筋モーメントアームの大きさもグラフィカルに可視化される。
したがって、この方法によれば、ユーザが、筋モーメントアームの方向のみならずその大きさも視覚的に把握しつつ、筋骨格モデルを効率よく作成することが可能となる。
本項における「視覚的特徴」は、例えば、各第1図形を形成する直線の長さ、明るさもしくは色であり、または、各第1図形を形成する円錐面の高さ、明るさまたは色である。
(8) 前記再定義工程は、前記コンピュータが、前記複数の第1回転軸線方向のうちの少なくとも一つを、前記相対角度が減少するように変更することにより、再定義する変更工程を含む(1)ないし(7)項のいずれかに記載の筋骨格モデル作成方法。
現実の筋の挙動を観察すると、前述のように、各筋は、人体の関節運動の具体的態様に応じて変形し、それに伴い、筋力の作用直線の方向が変化し、ひいては、第1回転軸線方向(筋基準回転軸線方向)も変化する。具体的には、各筋は、それの第1回転軸線方向が第2回転軸線方向(運動基準回転軸線方向)に接近するように、すなわち、第2回転軸線方向に対する相対角度が減少するように変化する。
このような知見に基づき、本項に係る方法が実施されると、複数の第1回転軸線方向のうちの少なくとも一つが、第2回転軸線方向に対する相対角度が減少するように、コンピュータによって自動的に変更され、それにより、筋骨格モデルが自動的に修正される。
したがって、この方法によれば、筋骨格モデルの修正作業の効率が改善される。さらに、この方法によれば、筋骨格モデルの解析精度を容易に向上させ得る。
(9) 前記変更工程は、前記コンピュータが、前記複数の第1回転軸線方向の各々につき、前記相対角度が許容値より大きい場合には前記相対角度を変更しない一方、前記相対角度が前記許容値以下である場合には前記相対角度を減少させる(8)項に記載の筋骨格モデル作成方法。
現実の筋の挙動を観察すると、人体に、ある関節まわりに特定の運動を行わせると、その関節に作用するすべての筋が、それらの第1回転軸線方向(筋基準回転軸線方向)が第2回転軸線方向(運動基準回転軸線方向)に接近するように変形するわけではない。
具体的には、同じ関節に作用する各筋は、もとの第1回転軸線方向と第2回転軸線方向との相対角度が比較的小さい場合には、そのもとの第1回転軸線方向が第2回転軸線方向に接近するように変形するのに対し、その相対角度が比較的大きい場合には、変形しない。
このような知見に基づき、本項に係る方法が実施されると、同じ注目関節に作用する複数の筋についての複数の第1回転軸線方向の各々につき、第2回転軸線方向に対する相対角度が許容値より大きい場合には、その相対角度が変更されない一方、その相対角度が許容値以下である場合には、その相対角度が減少させられる。
したがって、この方法によれば、筋モデルを現実の筋の挙動をより忠実に反映するように作成することが容易となる。
(10) 前記変更工程は、前記コンピュータが、前記複数の第1回転軸線方向のうち、前記相対角度が前記許容値以下であるものの各々を、前記相対角度が前記許容値より小さい基準値以下である場合には、前記相対角度が前記基準値より大きい場合より、前記相対角度が0に接近する傾向が増加する特性に従って変更する(9)項に記載の筋骨格モデル作成方法。
現実の筋の挙動を観察すると、人体に、ある関節まわりに特定の運動を行わせた場合に、各筋は、もとの第1回転軸線方向と第2回転軸線方向との相対角度が比較的小さければ、その相対角度が減少するように変形する。しかしながら、その相対角度が減少する程度は、もとの相対角度の大きさによって異なる。
具体的には、もとの相対角度が比較的小さい場合には、その相対角度が0に減少する傾向が比較的強いのに対し、もとの相対角度が比較的大きい場合には、その相対角度が0に減少する傾向が比較的弱い。
このような知見に基づき、本項に係る方法が実施されると、同じ関節に作用する複数の筋についての複数の第1回転軸線方向のうち、第2回転軸線方向に対する相対角度が前記許容値以下であるものの各々が、相対角度が許容値より小さい基準値以下である場合には、相対角度が前記基準値より大きい場合より、相対角度が0に接近する傾向が増加する特性に従って変更される。
したがって、この方法によれば、筋モデルを現実の筋の挙動を一層忠実に反映するように作成することが容易となる。
(11) 人体を構成する複数の骨と複数の筋とに関して前記人体をコンピュータ上において物理的に表現する筋骨格モデルを前記コンピュータ上において作成する筋骨格モデル作成方法であって、
前記筋骨格モデルは、前記複数の骨を、各々剛体セグメントとして定義された複数の骨モデルとして近似的に表現するとともに、それら複数の骨モデルが複数の関節のそれぞれのまわりに互いに回動可能であるように表現する一方、前記複数の筋を、各々、力を1次元的に伝達する複数のワイヤ要素として定義された複数の筋モデルとして近似的に表現するものであり、
当該筋骨格モデル作成方法は、
前記複数の関節のうちの注目関節に関し、前記複数の骨モデルのうち前記注目関節まわりに互いに回動可能に連結された複数の対象骨モデルが、前記複数の筋モデルのうち前記注目関節に作用する複数の対象筋モデルのそれぞれの伸縮運動に伴い、前記注目関節まわりに互いに回動する際の回転軸線の向きを、各対象筋モデルごとに、第1回転軸線方向として定義する第1定義工程と、
ある運動を前記人体に行わせた場合に、前記複数の骨のうち前記複数の対象骨モデルに対応する複数の対象骨が前記注目関節まわりに互いに回動する際の回転軸線の向きを第2回転軸線方向として定義する第2定義工程と、
前記コンピュータが、前記注目関節に関し、前記定義された複数の第1回転軸線方向のうちの少なくとも一つを、前記定義された第2回転軸線方向に対する相対角度の大きさに基づいて再定義する再定義工程と
を含む筋骨格モデル作成方法。
この方法が実施されると、前記(1)項に係る方法と同様にして、筋骨格モデルが作成され、各対象筋モデルごとに、第1回転軸線方向が定義され、さらに、注目関節に関し、第2回転軸線方向が定義される。
この方法が実施されると、さらに、注目関節に関し、複数の第1回転軸線方向のうちの少なくとも一つが、コンピュータにより、定義された第2回転軸線方向に対する相対角度の大きさに基づいて再定義すなわち修正され、それにより、筋骨格モデルが自動的に修正される。
したがって、この方法によれば、筋骨格モデルの修正作業の効率が改善される。さらに、この方法によれば、筋骨格モデルの解析精度を容易に向上させ得る。
(12) 前記再定義工程は、前記コンピュータが、前記複数の第1回転軸線方向のうちの少なくとも一つを、前記相対角度が減少するように変更することにより、再定義する変更工程を含む(11)項に記載の筋骨格モデル作成方法。
この方法によれば、前記(8)項に係る方法と基本的に同じ原理に従い、基本的に同じ作用効果を実現することが可能である。
(13) 前記変更工程は、前記コンピュータが、前記複数の第1回転軸線方向の各々につき、前記相対角度が許容値より大きい場合には前記相対角度を変更しない一方、前記相対角度が前記許容値以下である場合には前記相対角度を減少させる(12)項に記載の筋骨格モデル作成方法。
この方法によれば、前記(9)項に係る方法と基本的に同じ原理に従い、基本的に同じ作用効果を実現することが可能である。
(14) 前記変更工程は、前記コンピュータが、前記複数の第1回転軸線方向のうち、前記相対角度が前記許容値以下であるものの各々を、前記相対角度が前記許容値より小さい基準値以下である場合には、前記相対角度が前記基準値より大きい場合より、前記相対角度が0に接近する傾向が増加する特性に従って変更する(13)項に記載の筋骨格モデル作成方法。
この方法によれば、前記(10)項に係る方法と基本的に同じ原理に従い、基本的に同じ作用効果を実現することが可能である。
(15) 人体を構成する複数の骨と複数の筋とに関して前記人体をコンピュータ上において物理的に表現する筋骨格モデルを前記コンピュータ上において作成する筋骨格モデル作成方法であって、
前記筋骨格モデルは、前記複数の骨を、各々剛体セグメントとして定義された複数の骨モデルとして近似的に表現するとともに、それら複数の骨モデルが複数の関節のそれぞれのまわりに互いに回動可能であるように表現する一方、前記複数の筋を複数の筋モデルとして近似的に表現するものであり、
前記各筋モデルは、少なくとも1個の有限要素を用いて定義されており、
当該筋骨格モデル作成方法は、
前記複数の関節のうちの注目関節に関し、前記複数の骨モデルのうち前記注目関節まわりに互いに回動可能に連結された複数の対象骨モデルが、前記複数の筋モデルのうち前記注目関節に作用する対象筋モデルの伸縮運動に伴い、前記注目関節まわりに互いに回動する際の回転軸線の向きを、第1回転軸線方向として定義する第1定義工程と、
ある運動を前記人体に行わせた場合に、前記複数の骨のうち前記複数の対象骨モデルに対応する複数の対象骨が前記注目関節まわりに互いに回動する際の回転軸線の向きを第2回転軸線方向として定義する第2定義工程と、
前記コンピュータが、前記注目関節に関し、前記定義された第1回転軸線方向を、前記定義された第2回転軸線方向に対する相対角度の大きさに基づいて再定義する再定義工程と
を含む筋骨格モデル作成方法。
この方法が実施されると、前記(1)項に係る方法と同様にして、筋骨格モデルが作成され、各対象筋モデルごとに、第1回転軸線方向が定義され、さらに、注目関節に関し、第2回転軸線方向が定義される。
この方法が実施されると、さらに、注目関節に関し、第1回転軸線方向が、コンピュータにより、定義された第2回転軸線方向に対する相対角度の大きさに基づいて再定義すなわち修正され、それにより、筋骨格モデルが自動的に修正される。
したがって、この方法によれば、筋骨格モデルの修正作業の効率が改善される。さらに、この方法によれば、筋骨格モデルの解析精度を容易に向上させ得る。
この方法は、前記(12)ないし(14)項のそれぞれに記載された特徴と一緒に実施することが可能である。
本明細書の全体を通じて、「有限要素」なる用語は、例えば、ワイヤ要素(一方向においてのみ変形可能な要素)、ソリッド要素(複数方向において変形可能な要素)などを意味する。
(16) 前記再定義工程は、前記注目関節に関し、その注目関節の関節回転中心を表す位置座標と、前記対象筋モデルが、前記複数の対象骨モデルに付着する2個の付着点間を通過する際に経由する2個の経由点を表す位置座標とに基づき、前記対象筋モデルについて前記第1回転軸線方向を計算する第1方向計算工程を含む(15)項に記載の筋骨格モデル作成方法。
(17) 前記各筋は、複数の筋線維の束として構成されており、
前記複数の筋モデルは、対応する筋を構成する複数の筋線維の束を複数の筋線維モデルの束として表現する少なくとも一つの詳細筋モデルを含み、
前記各筋線維モデルは、少なくとも1個の有限要素を用いて成る1つの連続体として定義されており、
前記再定義工程は、前記各筋線維モデルごとに、前記第1回転軸線方向を計算する第2方向計算工程を含む(15)項に記載の筋骨格モデル作成方法。
現実の筋は複数の筋線維の束として構成されており、筋線維が運動神経の活動によって収縮することにより、筋は力を発生し、また、筋線維は動作中に柔軟に変形する。運動神経は複数の筋線維を支配して運動単位を構成するが、支配される筋線維の本数は数十本から数百本まで多様に分布している。
そのため、筋力は、筋の幾何学的中心線からずれた方向においても作用し得る。一方、各筋線維ごとに、筋力発生方向を定義するとともに、各筋線維ごとに、前記第1回転軸線方向(すなわち、後述の筋モーメントアームベクトルの方向)を定義し、そのうえで、各筋線維ごとに、第1回転軸線方向を再定義可能とすれば、筋モデルが現実の筋を再現する精度を向上させることが容易となる。
このような知見に基づき、本項に係る方法においては、複数の筋モデルが、対応する筋を構成する複数の筋線維の束を複数の筋線維モデルの束として表現する少なくとも一つの詳細筋モデルを含んでいる。さらに、この方法においては、各筋線維モデルごとに、前記第1回転軸線方向が計算される。すなわち、例えば、各筋線維モデルごとに、筋モーメントアームベクトルの方向が計算されるのである。
(18) 前記再定義工程は、
前記各筋線維モデルごとに、その筋線維モデルに対応する前記筋線維から前記注目関節に作用する筋線維のモーメントアームを表すモーメントアームベクトルを計算するベクトル計算工程と、
前記各筋線維モデルごとに、前記計算されたモーメントアームベクトルと、前記定義された第2回転軸線方向とに基づいて前記相対角度を計算する相対角度計算工程と、
その計算された相対角度に基づき、前記各筋線維モデルごとに、前記計算されたモーメントアームベクトルを修正するベクトル修正工程と
を含む(17)項に記載の筋骨格モデル作成方法。
(19) 前記ベクトル計算工程は、前記注目関節に関し、その注目関節の関節回転中心を表す位置座標と、前記各筋線維モデルが、前記複数の対象骨モデルに付着する2個の付着点間を通過する際に経由する2個の経由点を表す位置座標とに基づき、前記各筋線維モデルごとに、前記モーメントアームベクトルを計算する工程を含む(18)項に記載の筋骨格モデル作成方法。
(20) 人体を構成する複数の骨と複数の筋とに関して前記人体をコンピュータ上において、前記複数の骨については複数の剛体セグメントを用いる一方、前記複数の筋については複数の有限要素を用いることにより、物理的に表現する筋骨格モデルと、同じ人体を前記コンピュータ上において、その人体における各部位が骨であるか筋であるかを問わず、複数の有限要素を用いて物理的に表現する有限要素モデルとを用いることにより、前記コンピュータにより、前記人体の挙動から、その人体の各部位の応力とひずみとの少なくとも一方を推定する人体応力/ひずみ推定方法であって、
前記筋骨格モデルを作成する筋骨格モデル作成工程と、
その作成された筋骨格モデルを用いることにより、前記人体の挙動に基づき、前記人体の各部位に作用する複数種類の負荷を推定する負荷推定工程と、
それら推定された複数種類の負荷に基づき、前記有限要素人体モデルを用いることにより、前記人体の各部位の応力とひずみとの少なくとも一方を推定する応力/ひずみ推定工程と
を含み、
前記筋骨格モデルは、前記複数の骨を、各々剛体セグメントとして定義された複数の骨モデルとして近似的に表現するとともに、それら複数の骨モデルが複数の関節のそれぞれのまわりに互いに回動可能であるように表現する一方、前記複数の筋を複数の筋モデルとして近似的に表現するものであり、
前記各筋モデルは、少なくとも1個の有限要素を用いて定義されており、
前記筋骨格モデル作成工程は、
(a)前記提供された筋骨格モデル情報に基づき、前記筋骨格モデルを暫定的に作成する暫定的作成工程と、
(b)その作成された暫定的な筋骨格モデルにつき、前記複数の関節のうちの注目関節に関し、前記複数の骨モデルのうち前記注目関節まわりに互いに回動可能に連結された複数の対象骨モデルが、前記複数の筋モデルのうち前記注目関節に作用する対象筋モデルの伸縮運動に伴い、前記注目関節まわりに互いに回動する際の回転軸線の向きを、第1回転軸線方向として計算する第1計算工程と、
(c)前記作成された暫定的な筋骨格モデルにつき、ある運動を前記人体に行わせた場合に、前記複数の骨のうち前記複数の対象骨モデルに対応する複数の対象骨が前記注目関節まわりに互いに回動する際の回転軸線の向きを第2回転軸線方向として計算する第2計算工程と、
(d)前記注目関節に関し、前記計算された第1回転軸線方向を、前記計算された第2回転軸線方向に対する相対角度の大きさに基づいて修正し、それにより、前記作成された暫定的な筋骨格モデルを修正する筋骨格モデル修正工程と
を含み、
前記複数種類の負荷は、前記各筋に関する負荷であって筋活性度と筋力との少なくとも一方を有するものと、前記人体の各部位に作用する外力と、前記人体の各部位の速度および加速度とのうちの少なくとも一つを含む人体応力/ひずみ推定方法。
この方法によれば、現実の筋骨格を高い精度で再現し得るように第1回転軸線方向が修正された筋骨格モデルを用いることにより、人体の挙動に基づき、人体の各部位に作用する複数種類の負荷が推定される。
さらに、この方法によれば、それら推定された複数種類の負荷に基づき、別のモデルである有限要素人体モデルを用いることにより、人体の各部位の応力とひずみとの少なくとも一方が推定される。
したがって、この方法によれば、ある挙動を人体が示すときにその人体に発生する応力とひずみとの少なくとも一方を高精度で推定することが容易となる。
(21) (1)ないし(19)項のいずれかに記載の方法を実施するためにコンピュータにより実行されるプログラム。
このプログラムがコンピュータにより実行されれば、前記(1)ないし(19)項のいずれかに係る方法と基本的に同じ原理に従い、同様な作用効果が実現され得る。
本項に係るプログラムは、それの機能を果たすためにコンピュータにより実行される指令の組合せのみならず、各指令に従って処理されるファイルやデータをも含むように解釈することが可能である。
また、このプログラムは、それ単独でコンピュータにより実行されることにより、所期の目的を達するものとしたり、他のプログラムと共にコンピュータにより実行されることにより、所期の目的を達するものとすることができる。後者の場合、本項に係るプログラムは、データを主体とするものとすることができる。
(22) (21)項に記載のプログラムをコンピュータ読取り可能に記録した記録媒体。
この記録媒体に記録されているプログラムがコンピュータにより実行されれば、前記(1)ないし(19)項のいずれかに係る方法と同じ作用効果が実現され得る。
この記録媒体は種々な形式を採用可能であり、例えば、フレキシブル・ディスク等の磁気記録媒体、CD、CD−ROM等の光記録媒体、MO等の光磁気記録媒体、ROM等のアンリムーバブル・ストレージ等のいずれかを採用し得る。
(23) 人体を構成する複数の骨と複数の筋とに関して前記人体をコンピュータ上において物理的に表現する筋骨格モデルを前記コンピュータ上において作成する筋骨格モデル作成装置であって、
前記筋骨格モデルは、前記複数の骨を、各々剛体セグメントとして定義された複数の骨モデルとして近似的に表現するとともに、それら複数の骨モデルが複数の関節のそれぞれのまわりに互いに回動可能であるように表現する一方、前記複数の筋を、各々、少なくとも1個の有限要素を用いて定義された複数の筋モデルとして近似的に表現するものであり、
当該筋骨格モデル作成装置は、
前記複数の関節のうちの注目関節に関し、前記複数の骨モデルのうち前記注目関節まわりに互いに回動可能に連結された複数の対象骨モデルが、前記複数の筋モデルのうち前記注目関節に作用する複数の対象筋モデルのそれぞれの伸縮運動に伴い、前記注目関節まわりに互いに回動する際の回転軸線の向きを、各対象筋モデルごとに、第1回転軸線方向として定義する第1定義手段と、
ある運動を前記人体に行わせた場合に、前記複数の骨のうち前記複数の対象骨モデルに対応する複数の対象骨が前記注目関節まわりに互いに回動する際の回転軸線の向きを第2回転軸線方向として定義する第2定義手段と、
前記複数の対象筋モデルについてそれぞれ定義された複数の第1回転軸線方向をそれぞれ表現する複数の第1図形のうちの少なくとも一つを、前記注目関節に位置的に関連付けて表示装置のスクリーン上に表示する第1表示手段と、
前記定義された第2回転軸線方向を表現する第2図形を、前記注目関節に位置的に関連付けて前記スクリーン上に表示する第2表示手段と、
前記注目関節に関し、前記定義された複数の第1回転軸線方向のうちの少なくとも一つを、前記定義された第2回転軸線方向に対する相対角度の大きさに基づいて再定義する再定義手段と
を含む筋骨格モデル作成装置。
この装置によれば、前記(1)項に係る方法と基本的に同じ原理に従い、同様な作用効果が実現され得る。
(24) 人体を構成する複数の骨と複数の筋とに関して前記人体をコンピュータ上において物理的に表現する筋骨格モデルを前記コンピュータ上において作成する筋骨格モデル作成装置であって、
前記筋骨格モデルは、前記複数の骨を、各々剛体セグメントとして定義された複数の骨モデルとして近似的に表現するとともに、それら複数の骨モデルが複数の関節のそれぞれのまわりに互いに回動可能であるように表現する一方、前記複数の筋を、各々、少なくとも1個の有限要素を用いて定義された複数の筋モデルとして近似的に表現するものであり、
当該筋骨格モデル作成装置は、
前記複数の関節のうちの注目関節に関し、前記複数の骨モデルのうち前記注目関節まわりに互いに回動可能に連結された複数の対象骨モデルが、前記複数の筋モデルのうち前記注目関節に作用する複数の対象筋モデルのそれぞれの伸縮運動に伴い、前記注目関節まわりに互いに回動する際の回転軸線の向きを、各対象筋モデルごとに、第1回転軸線方向として定義する第1定義手段と、
ある運動を前記人体に行わせた場合に、前記複数の骨のうち前記複数の対象骨モデルに対応する複数の対象骨が前記注目関節まわりに互いに回動する際の回転軸線の向きを第2回転軸線方向として定義する第2定義手段と、
前記注目関節に関し、前記定義された複数の第1回転軸線方向のうちの少なくとも一つを、前記定義された第2回転軸線方向に対する相対角度の大きさに基づいて再定義する再定義手段と
を含む筋骨格モデル作成装置。
この装置によれば、前記(11)項に係る方法と基本的に同じ原理に従い、同様な作用効果が実現され得る。
(25) 人体を構成する複数の骨と複数の筋とに関して前記人体をコンピュータ上において物理的に表現する筋骨格モデルのうちの少なくとも骨格モデルを表示装置のスクリーン上に表示する筋骨格モデル表示方法であって、
前記筋骨格モデルは、前記複数の骨を、各々剛体セグメントとして定義された複数の骨モデルとして近似的に表現するとともに、それら複数の骨モデルが複数の関節のそれぞれのまわりに互いに回動可能であるように表現する一方、前記複数の筋を、各々、少なくとも1個の有限要素を用いて定義された複数の筋モデルとして近似的に表現するものであり、
当該筋骨格モデル表示方法は、
前記複数の関節のうちの注目関節に関し、前記複数の骨モデルのうち前記注目関節まわりに互いに回動可能に連結された複数の対象骨モデルが、前記複数の筋モデルのうち前記注目関節に作用する複数の対象筋モデルのそれぞれの伸縮運動に伴い、前記注目関節まわりに互いに回動する際の回転軸線の向きを、各対象筋モデルごとに、第1回転軸線方向として定義する第1定義工程と、
前記複数の対象筋モデルについてそれぞれ定義された複数の第1回転軸線方向をそれぞれ表現する複数の第1図形のうちの少なくとも一つを、前記注目関節に位置的に関連付けて前記スクリーン上に表示する第1表示工程と
を含む筋骨格モデル表示方法。
この方法が実施されると、前記(1)項に係る方法と基本的に同じ原理に従い、同じ関節に作用する複数の筋についての複数の第1回転軸線方向(筋基準回転軸線方向)の少なくとも一つが可視化されてユーザに提示される。
したがって、この方法によれば、ユーザは、例えば、筋骨格モデルの妥当性(特に、筋モデルの妥当性)を視覚的に評価することや、特定の人間の各部位の可動範囲であって、例えば、その人間が健常者であるか否かによって異なるものを視覚的に評価することが支援される。特定の人間の各部位の可動範囲の評価結果は、その人間が操作機器を操作する際の操作性を評価したり、その操作性を踏まえて操作機器を設計する際に利用することが可能である。
(26) さらに、
ある運動を前記人体に行わせた場合に、前記複数の骨のうち前記複数の対象骨モデルに対応する複数の対象骨が前記注目関節まわりに互いに回動する際の回転軸線の向きを第2回転軸線方向として定義する第2定義工程と、
その定義された第2回転軸線方向を表現する第2図形を、前記注目関節に位置的に関連付けて前記スクリーン上に表示する第2表示工程と
を含む(25)項に記載の筋骨格モデル表示方法。
この方法が実施されると、前記(1)項に係る方法と基本的に同じ原理に従い、同じ関節に作用する複数の筋についての複数の第1回転軸線方向(筋基準回転軸線方向)のうちの少なくとも一つのみならず、同じ関節についての第2回転軸線方向(運動基準回転軸線方向)も可視化されてユーザに提示される。
したがって、この方法によれば、ユーザは、例えば、筋骨格モデルの妥当性(特に、筋モデルの妥当性)を、人体の骨格(関節構造を含む。)に依存した関節運動との関係において視覚的に評価することが支援される。
(27) 前記第1表示工程は、前記少なくとも一つの第1図形の表示を、前記第2表示工程による前記第2図形の表示と並行して行う(26)項に記載の筋骨格モデル表示方法。
この方法によれば、前記(2)項に係る方法と基本的に同じ原理に従い、基本的に同じ作用効果を実現することが可能となる。
(28) 前記複数の第1図形はそれぞれ、3次元空間内において、前記注目関節の中心を表す1つの関節中心点から、前記複数の第1回転軸線方向に、互いに等しい距離だけ延びる複数の直線またはそれら直線に沿って延びる複数の図形として定義されており、
前記第2図形は、前記3次元空間内において、前記関節中心点から前記第2回転軸線方向に延びる1つの直線またはその直線に沿って延びる1つの図形として定義されており、
前記第1表示工程は、前記第1図形を、一投影方向において投影した投影第1図形として、前記スクリーン上に2次元的に表示し、
前記第2表示工程は、前記第2図形を、前記投影方向において投影した投影第2図形として、前記スクリーン上に2次元的に表示する(26)または(27)項に記載の筋骨格モデル表示方法。
この方法によれば、前記(3)項に係る方法と基本的に同じ原理に従い、基本的に同じ作用効果を実現することが可能となる。
(29) さらに、
前記関節中心点に中心が配置されるとともに前記複数の直線と同じ長さの半径を有するように前記3次元空間内において定義された1つの球面を、前記投影方向において投影した投影球面として、前記スクリーン上に2次元的に、前記投影第1図形に重ね合わせて表示する第3表示工程を含む(28)項に記載の筋骨格モデル表示方法。
この方法によれば、前記(4)項に係る方法と基本的に同じ原理に従い、基本的に同じ作用効果を実現することが可能となる。
(30) 前記球面は、前記3次元空間内において、メッシュとして定義されており、
前記第3表示工程は、その定義されたメッシュを、前記投影方向において投影した投影メッシュとして、前記スクリーン上に2次元的に表示する工程を含む(29)項に記載の筋骨格モデル表示方法。
この方法によれば、前記(5)項に係る方法と基本的に同じ原理に従い、基本的に同じ作用効果を実現することが可能となる。
(31) さらに、
前記各対象筋モデルごとに、前記定義された第1回転軸線方向と同じ方向を基準軸線方向に選定するとともに、前記第1回転軸線方向が前記基準軸線方向に対して変更可能な許容角度範囲を定義する第3定義工程を含み、
前記各第1図形は、3次元空間内において、前記基準軸線方向に延びる中心線と、前記定義された許容角度範囲の大きさに応じて大きさが変化する底面とによって定義される円錐面として定義されており、
前記第1表示工程は、前記各対象筋モデルごとに、前記定義された円錐面を、一投影方向において投影した投影円錐面として、前記スクリーン上に2次元的に表示する円錐面表示工程を含む(26)ないし(30)項のいずれかに記載の筋骨格モデル表示方法。
この方法によれば、前記(6)項に係る方法と基本的に同じ原理に従い、基本的に同じ作用効果を実現することが可能となる。
(32) 前記第1表示工程は、前記各対象筋モデルごとに、その対象筋モデルに対応する前記筋から前記注目関節に作用する筋のモーメントアームの大きさに応じて前記各第1図形の視覚的特徴が変化するように、前記各第1図形を表示する工程を含む(26)ないし(31)項のいずれかに記載の筋骨格モデル表示方法。
この方法によれば、前記(7)項に係る方法と基本的に同じ原理に従い、基本的に同じ作用効果を実現することが可能となる。
(33) さらに、
前記少なくとも一つの第1図形の表示結果に基づき、特定の操作機器が人間によって操作される際の操作性を評価する評価工程を含む(25)ないし(32)項のいずれかに記載の筋骨格モデル表示方法。
本項および下記の各項における「操作機器」は、例えば、車両のステアリング操作系、アクセル操作系、ブレーキ操作系、クラッチ操作系、内装部品操作系、空調部品操作系、電装部品操作系等に選定することが可能である。
(34) 人間によって操作される特定の操作機器をコンピュータ上で設計することをそのコンピュータによって支援する設計支援方法であって、
人体を構成する複数の骨と複数の筋とに関して前記人体を前記コンピュータ上において物理的に表現する筋骨格モデルのうちの少なくとも骨格モデルを表示装置のスクリーン上に表示するモデル表示工程であって、前記筋骨格モデルは、前記複数の骨を、各々剛体セグメントとして定義された複数の骨モデルとして近似的に表現するとともに、それら複数の骨モデルが複数の関節のそれぞれのまわりに互いに回動可能であるように表現する一方、前記複数の筋を、各々、少なくとも1個の有限要素を用いて定義された複数の筋モデルとして近似的に表現するものと、
前記複数の関節のうちの注目関節に関し、前記複数の骨モデルのうち前記注目関節まわりに互いに回動可能に連結された複数の対象骨モデルが、前記複数の筋モデルのうち前記注目関節に作用する複数の対象筋モデルのそれぞれの伸縮運動に伴い、前記注目関節まわりに互いに回動する際の回転軸線の向きを、各対象筋モデルごとに、筋基準回転軸線方向として定義する定義工程と、
前記複数の対象筋モデルについてそれぞれ定義された複数の筋基準回転軸線方向をそれぞれ表現する複数の図形のうちの少なくとも一つを、前記注目関節に位置的に関連付けて前記スクリーン上に表示する方向表示工程と、
前記少なくとも一つの図形の表示結果に基づき、前記操作機器が人間によって操作される際の操作性を評価する評価工程と、
前記操作性の評価結果に基づき、前記操作機器を設計する設計工程と
を含む設計支援方法。
以下、本発明のさらに具体的な実施の形態のうちのいくつかを図面に基づいて詳細に説明する。
図1には、本発明の第1実施形態に従う筋骨格モデル作成方法を含む人間挙動解析方法を実施するのに好適なシステム10のハードウエア構成が概念的にブロック図で表されている。
このシステム10は、人間の挙動をコンピュータ20上で表現し得る人体モデルを用いることにより、その人間が乗車している車両が障害物に接触する際(人間が乗車している車両に外部から衝撃が加わった際)にその人間の各部位に生ずる挙動と荷重(応力)と変形とをシミュレーションにより解析するものである。
図1に示すように、このシステム10は、コンピュータ20に入力装置22と出力装置24とが接続されることによって構成されている。コンピュータ20は、よく知られているように、プロセッサ30とストレージ32とがバス34によって互いに接続されて構成されている。
コンピュータ20においては、必要なプログラムがストレージ32から読み出されてプロセッサ30によって実行され、その際、その実行に必要なデータがストレージ32から読み込まれるとともに、その実行結果を表すデータが必要に応じてストレージ32に格納されて保存される。
入力装置22は、例えば、図示しないが、ポインティング・デバイスとしてのマウスとキーボードとを含むように構成される。出力装置24は、図示しないが、文字、図形等の画像をスクリーン36上に表示する表示装置38(例えば、LCD,CRT)や、プリンタ39を含むように構成される。
図1に示すように、ストレージ32には、プログラムメモリ40とデータメモリ42とが設けられている。プログラムメモリ40には、人間挙動解析プログラムを始めとする各種プログラムが予め記憶されている。その人間挙動解析プログラムは、後に詳述するが、骨格モデル作成ルーチン、動作解析ルーチン、筋骨格モデル作成ルーチン、方向表示ルーチン、筋骨格モデル修正ルーチンおよび筋活性度推定ルーチンを含むように構成されている。
データメモリ42には、コンピュータ20上において人体全身を3次元的に表現する複数種類の人間物理モデルを定義するためのモデルデータがストアされる。それら複数種類の人間物理モデルは、有限要素人体モデルと、多関節剛体セグメントモデルである骨格モデルと、同じく多関節剛体セグメントモデルである筋骨格モデルとを含んでいる。
有限要素人体モデルは、人体を複数の有限要素(以下、単に「要素」という。)に分割することにより、人体を近似的に再現するためのモデルである。この有限要素人体モデルは、そもそも、人体の挙動を有限要素法によってシミュレーション解析するために用いられるが、本実施形態においては、骨格モデルを0からではなく、有限要素人体モデルを利用して作成することにより、骨格モデルの作成効率向上および作成時間短縮を目的にして有限要素人体モデルが利用される。
この有限要素人体モデルに対し、骨格モデルおよび筋骨格モデルとしての多関節剛体セグメントモデルは、機構モデルともいわれ、複数の剛体セグメントが複数の関節まわりに回動可能に連結されることにより、人体の形状よりむしろその動作を再現するためのモデルである。
それら骨格モデルおよび筋骨格モデルのいずれについても、各モデルを構成する複数の剛体セグメントが、人体における複数の骨をコンピュータ20上で表現する複数の骨モデルである。
有限要素人体モデルにおいては、人体の各組織が複数の要素によって表現されており、各要素の形状、密度、材料物性値等、属性が定義されている。各要素を構成する複数の節点の位置(幾何学量の一例)や材料物性値などの物理量は、すべて唯一のグローバル座標系において定義されている。
この有限要素人体モデルにおいては、人体全身が骨格組織のみならず靭帯、腱、筋肉等の結合組織に関してもモデル化されることにより、人体全身が、それの解剖学的な形状と構造と特性とに関して忠実に表現されている。その結果、各部位の、外力に対する物理的な応答が精度よく表現されている。
さらに、この有限要素人体モデルは、それの少なくとも1つの部位の形状、位置、機構学的特性および力学的特性の少なくとも1つを定義する可変パラメータを有するものとされており、その可変パラメータが、人間挙動解析に先立ち、ユーザである設計者または解析者により特定される。
図2には、有限要素人体モデルが、人体の下肢部のみに関し、斜視図で示されている。図2に示すように、この有限要素人体モデルは、人体の骨格のみならず筋および皮膚等の軟組織をも再現している。この有限要素人体モデルにおける下肢部は、腰部100と、左右の大腿部102,102と、左右の脛部104,104と、左右の足部106,106とに分割されている。
図3には、骨格モデルが、有限要素人体モデルのうち図2に示す部分に対応する部分に関し、斜視図で示されている。図3に示すように、この骨格モデルは、人体のうち骨格のみを再現している。この骨格モデルにおける下肢部は、腰骨110と、左右の大腿骨112,112と、左右の脛骨114,114と、左右の腓骨116,116と、左右の足骨118,118とに分割されている。各足骨118は、細かい骨の結合体である。
この骨格モデルにおいては、人体の各組織が複数の剛体セグメントによって表現され、それら剛体セグメントが関節において回動可能に互いに連結されている。それら剛体セグメントは、腰骨110と、左右の大腿骨112,112と、左右の脛骨114,114と、左右の腓骨116,116と、左右の足骨118,118とを含んでいる。
各剛体セグメントの形状の表面は、ポリゴンによって構成されている。ポリゴン上における複数個の頂点は、そのポリゴンのベースとなった複数の要素上における複数個の節点によって構成される。よって、各剛体セグメントの形状は、対応するポリゴンデータによって表されている。各剛体セグメントごとにローカル座標系が割り当てられており、そのローカル座標系において、対応する剛体セグメントの質量、慣性モーメントおよびポリゴンの位置が定義される。
図4には、筋骨格モデルが、骨格モデルのうち図3に示す部分に対応する部分に関し、斜視図で示されている。図4に示すように、この筋骨格モデルは、図3に示す骨格モデルに筋がワイヤ要素(図4において太い実線で示す。)として付加されて構成されることにより、人体のうち骨格および筋のみを再現している。すなわち、この筋骨格モデルは、上述の骨格モデルと、ワイヤ要素として構成される複数の筋モデル(筋要素モデル)とが合成されたものなのである。
この筋骨格モデルを構成する複数の筋モデルはそれぞれ、人体における複数の筋を、各々、力を1次元的に伝達する複数のワイヤ要素としてコンピュータ20上で表現する。
この筋骨格モデルにおいては、各筋が、対応する骨への付着点(骨に対する相対移動が阻止される位置であり、図4において黒丸で示す。)と、対応する骨に貼り付けられる際に各筋が付着点間の途中において経由する点(骨に対し、筋の延びる方向における相対移動は許容されるが、それと交差する方向における相対移動は阻止される位置であり、図4において黒丸で示す。)とに関して定義される。解剖学的には、筋が骨の表面に付着させられるため、各筋モデルも同様に、各剛体セグメント(各骨モデル(骨要素モデル))の表面に付着させられる。
図5には、互いに機械的に接触する人間と対象物(例えば、車両、機械)との間に存在する複数の座標空間が概念的に表されている。それら座標空間は、人間から対象物に向かって、人間の筋が存在する筋空間、人間の挙動(例えば、変位qh、変位速度、変位加速度等)を表す一般化座標が存在する人間一般化座標空間、人間のうち、対象物との接触点が存在する人間接触点空間、仮想空間である接触伝達空間、対象物のうち、人間との接触点が存在する対象物接触点空間、および対象物の挙動(例えば、変位qm、変位速度、変位加速度等)を表す一般化座標が存在する対象物一般化座標空間である。
図5には、さらに、互いに隣接した座標空間間において座標変換を行うための行列Ju,cJh,HおよびcJmが示されている。それら記号の定義は後に詳述する。例えば、行列Juは、図5(a)に示すように、筋空間と人間一般化座標空間との間において、筋長(=筋の変位)luと、人間の挙動の一種である人間変位qhとを物理的に互いに関連付ける(lu=Juqh)。また、行列Juは、図5(b)に示すように、筋空間と人間一般化座標空間との間において、筋長変化速度(=筋の変位速度)dlu/dtと、人間の挙動の一種である人間変位速度dqh/dtとを物理的に互いに関連付ける(dlu/dt=Judqh/dt)。
図5(a)には、各座標空間ごとに、変位と力/トルクとを剛性(弾性)という物理特性によって互いに物理的に関連付けられる様子も示されている。具体的には、筋空間においては、筋の変位luと筋力fuとが筋剛性(人間剛性)Kuによって互いに物理的に関連付けられる。人間一般化座標空間においては、人間の変位quと一般化力τhとが、関節の受動特性に基づく剛性Kj0によって互いに物理的に関連付けられる。
また、人間接触点空間においては、接触点の変位cと接触力τcとが剛性cKhによって互いに物理的に関連付けられる。対象物接触点空間においては、接触点の変位cと接触力τcとが剛性cKmによって互いに物理的に関連付けられる。対象物一般化座標空間においては、対象物の変位qmと一般化力τmとが対象物剛性Kmによって互いに物理的に関連付けられる。
それら各種用語および各種記号のうち、「変位」は、ある物体の並進運動の位置と回転運動の位置とを一般化して包括的に表現する用語である。具体的には、人間の変位quは、人間一般化座標空間において、人間のある点の並進運動の位置と回転運動の位置とを包括的に表現し、対象物の変位qmは、対象物一般化座標空間において、対象物のある点の並進運動の位置と回転運動の位置とを包括的に表現する。以上、「変位」の定義を説明したが、この説明は、後述の「変位速度」および「変位加速度」に準用される。
また、「一般化力τ」は、ある物体に作用する並進力とトルクまたはモーメントとを一般化して包括的に表現する用語である。具体的には、一般化力τhは、人間一般化座標空間(関節を定義する関節空間でもある。)において人間の関節に作用する並進力およびトルクを意味する。その一般化力τhと同様に人間に作用する力に分類される物理量として筋力fuが存在するが、この筋力fuは、筋空間において筋に作用する並進力(圧縮力)を意味する。また、一般化力τmは、対象物一般化座標空間において対象物に作用する並進力およびトルクを意味する。
また、接触力τcは、人間と対象物との接触点に作用する一般化力を意味しており、その接触点に作用する並進力とモーメントとを一般化して包括的に表現する用語である。図5に示すように、接触力τcは、人間接触点空間にも対象物接触点空間にも存在するが、それら2つの接触力τcは、大きさが同じで向きが互いに逆であるという関係を有する。
以上、図5に示す各種用語および各種記号を部分的に説明したが、他の用語および記号は後に詳述する。
図5(b)には、各座標空間ごとに、速度と力/トルクとを粘性という物理特性によって互いに物理的に関連付けられる様子も示されている。具体的には、筋空間においては、筋長の変化速度dlu/dtと筋力fuとが筋粘性(人間粘性)Buによって互いに物理的に関連付けられる。人間一般化座標空間においては、人間の変位速度dqh/dtと一般化力τhとが、関節の受動特性に基づく粘性Bj0によって互いに物理的に関連付けられる。
また、人間接触点空間においては、接触点の変位速度dc/dtと接触力τcとが粘性cBhによって互いに物理的に関連付けられる。対象物接触点空間においては、接触点の変位速度dc/dtと接触力τcとが粘性cBmによって互いに物理的に関連付けられる。対象物一般化座標空間においては、対象物の変位速度dqm/dtと一般化力τmとが対象物粘性Bmによって互いに物理的に関連付けられる。
本実施形態においては、人間の人体物理特性を含む人間物理モデルを、人体の剛体セグメントモデル(例えば、骨格モデル、筋骨格モデル等)または有限要素モデル(例えば、有限要素人体モデル)という形態で作成する。
本実施形態における人間物理モデルは、さらに具体的に説明するに、人体の各部をnb個の剛体または弾性体である要素によって表現する。この人間物理モデルにおいては、それら要素がnj個の関節によって拘束あるいは連結されることにより、骨格系または筋骨格系が形成されている。さらに、この人間物理モデルにおいては、na本の筋および腱が、人体各部に対する付着点位置および経由点位置を用いて表現されている。
この人間物理モデルが持っている物理特性は、人体各部については、寸法、重心位置、主慣性モーメント、関節位置、皮膚表面の粘弾性等である。また、関節については、種類、粘弾性等であり、筋については、骨への付着点位置、途中の経由点位置、後述の最大筋力fmaxおよびペネーション角度、自然長、剛性(弾性)Ku、粘性Bu等である。
本実施形態においては、前述のように、有限要素モデルとしての有限要素人体モデルから第1の剛体セグメントモデルとしての骨格モデルを作成し、その作成された骨格モデルに、付着点と経由点とによって幾何学的に定義される筋モデル(筋要素モデル)を付加することにより、第2の剛体セグメントモデルとしての筋骨格モデルを作成する。
図6において式(101)で表すように、人間における各筋ごとに、最大筋力fmaxと、筋長lの関数guと、筋長変化速度の関数huとが定義されれば、各筋の筋力fiが誘導される。すなわち、本実施形態においては、その式(101)が、各筋モデルを記述する式の一例なのである。
本実施形態においては、上述のように、人体が、複数の剛体セグメントがそれぞれリンクとして回動可能に連結された剛体リンクモデルとして表現されている。この剛体リンクモデルを用いる場合には、人体の姿勢が、各関節の関節角度によって一義的に決まる。
このような運動学的関係に従い、本実施形態においては、逆運動学解析により、人体の手先や足先の位置を表す情報に基づき、各関節の関節角度が誘導される。
さらに、本実施形態においては、逆運動学解析によって各関節の関節角度が誘導されたならば、今度は、逆動力学解析により、各関節に作用する関節モーメントが誘導される。具体的には、各関節に作用する力のつりあいを考慮して、手先や足先の自重およびそこに作用する外力(人間が対象物から受ける接触力τc)、各剛体セグメントの慣性、各剛体セグメントに作用する遠心力やコリオリ力を表す情報に基づき、各関節に作用する関節モーメント(一般化力τh(図5参照)に要素として含まれる。)が誘導される。
また、本実施形態においては、人間筋特性(例えば、最大筋力fmax、筋剛性パラメータとして機能する、筋長lの関数gu、筋粘性パラメータとして機能する、筋長変化速度の関数hu、筋の自然長等)および人間挙動と、上述のようにして誘導された関節モーメント(一般化力τhに要素として含まれる。)とに基づき、後述の最適化手法により、各筋ごとに筋活性度αが推定される。
図7には、一般化力τhと筋力fuとの関係式が式(201)として示されている。この式(201)は、一般化力τhが、ヤコビ行列Juの転置行列Ju Tと筋力fuとの積として誘導されることを表している。
ヤコビ行列Juは、筋空間から人間一般化座標空間(関節空間)への座標変換のための行列であり、図5には、それの転置行列Ju Tと共に示されている。ヤコビ行列Juは、筋骨格モデルの姿勢すなわち関節角度に依存する。筋力fは、筋活性度αの関数である。
図7には、一般化力τhのうちの関節モーメントτと、筋力fuのうち、その関節モーメントτを発生させる筋力fとの関係式が式(202)として示されている。この式(202)は、関節モーメントτが、転置行列Ju Tと筋力fとの積として誘導されることを表している。
転置行列Ju Tは、物理的には、図8に示すように、関節に働く筋のモーメントアームに相当する。本実施形態においては、その筋モーメントアームが適宜調整されると、それに連動してヤコビ行列Ju中の該当要素が変更されるようになっている。
本実施形態においては、筋骨格モデルを作成するために、まず、前述の有限要素人体モデルを表すデータがデータメモリ42から読み出される。有限要素人体モデルは、前述のように、人体を複数の有限要素によって表現する有限要素モデルであって、人体を構成する複数の部位と複数の有限要素との帰属関係が予め設定されたモデルである。
その読み出された有限要素人体モデルを用いることにより、前述の骨格モデルが作成される。具体的には、その有限要素人体モデルを構成する複数の有限要素が前記帰属関係に従って分類されて結合されることにより、人体を構成する複数の部位が、複数の剛体セグメントとして、それら複数の剛体セグメントが関節まわりに回動可能であるように表現される。このようにして骨格モデルが作成される。
前述の有限要素人体モデルにおける複数の有限要素のうち、全体における複数の筋を表現するものに従い、前記作成された骨格モデル上に、それら複数の筋をそれぞれワイヤとして表現するワイヤ要素が、各筋の各剛体セグメントに対する付着点および途中の経由点の位置と共に定義される。それにより、筋骨格モデルが作成される。
図8には、共通の関節の回転軸まわりに互いに回動可能に連結された2本の骨に1本の筋がそれら2本の骨に跨って付着されている様子が示されている。その筋は、それの一端部において、一方の骨に付着点Pにおいて付着させられる一方、その他端部において、他方の骨に付着点Qにおいて付着させられている。
図8に示すように、その筋は、それの中間部においては、いずれの骨にも付着させられていないが、2個の付着点P,Q間を通過する際に経由する2個の経由点A,Bが規定されている。経由点Aは、2本の骨のうち、付着点Pが属するものに力学的に支持され、経由点Bは、付着点Qが属する骨に力学的に支持される。
このようなジオメトリのもとに2本の骨が1本の筋によって連結されているため、その筋に張力が発生すると、それら2本の骨には関節の回転軸線まわりの関節モーメントが発生する。その関節モーメントの大きさは、筋に発生する筋力の大きさに依存することはもとより、その筋力の作用直線と回転軸線との距離、すなわち、筋モーメントアームの方向および大きさにも依存する。
一方、本実施形態においては、図9に斜視図で示すように、各関節ごとに、関節の中心点(図8においては「回転軸」、図9においては「関節回転中心」でそれぞれ表す。)の位置座標(後述の関節座標系の原点の、グローバル座標系上における位置座標)と、2個の経由点A,Bのそれぞれの位置座標(グローバル座標系上における位置座標)とに基づき、関節の回転軸線の向きがグローバル座標系において暫定的に計算される。
具体的には、3次元空間において、関節回転中心と2個の経由点A,Bとをそれぞれ3頂点とする三角形が想定され、その三角形が作る平面に垂直にして関節回転中心を通過する一直線が暫定的な回転軸線として求められる。本実施形態においては、その回転軸線の方向が、筋モーメントアームの方向として定義され、また、その回転軸線と、2個の経由点A,Bを通過する一直線との距離が、筋モーメントアームの大きさとして定義されている。
そのようにして算出される回転軸線は、互いに逆向きである2つの方向を有している。本実施形態においては、それら2つの方向のうち、図9に示すように、筋が縮むことによって経由点Bが経由点Aに、図9において細い矢印で示す向きに接近する場合に、右ねじの法則に従う方向が、回転軸線方向として決定される。
本実施形態においては、図7の式(202)として示すように、関節モーメントベクトルτが、筋モーメントアーム行列Ju Tと、筋力ベクトルfとの積に一致するという力のつりあいが考慮される。筋力ベクトルfは、各筋の筋力の大きさのみを表すベクトルである。
本実施形態においては、計算の便宜上、筋力ベクトルfは、筋力の向きを表すように定義されておらず、筋力の向きと筋モーメントアームの方向とがモーメント計算のために合成された方向は、筋モーメントアーム行列Ju Tによって表されるようになっている。
したがって、本実施形態においては、逆運動学解析および逆動力学解析から誘導された関節モーメントの方向と、筋骨格モデルから誘導された筋モーメントアーム行列Ju Tによって表される筋モーメントアームの方向とは、その筋骨格モデルが理想的に作成されていれば、互いに一致することになる。
関節モーメントベクトルτは、各関節ごとに、関節モーメントの向きと大きさとの双方を表す。関節モーメントTの向きは、各関節まわりに互いに回動可能に連結された2本の骨が互いに回動する際の回転軸線(以下、「参照回転軸線」といい、前述の「第2回転軸線(運動基準回転軸線)」に相当する。)の向きを意味する。
筋モーメントアーム行列Ju Tは、各筋ごとに、筋モーメントアームの向きと大きさとの双方を表す。筋モーメントアームの向きは、各関節まわりに互いに回動可能に連結された2本の骨が、その関節に作用する各筋の伸縮運動に伴って、互いに回動する際の回転軸線(以下、「個別回転軸線」といい、前述の「第1回転軸線(筋基準回転軸線)」に相当する。)の向きを意味する。筋モーメントアームの大きさは、3次元空間において、個別回転軸線と筋走行(図9において2個の経由点A,Bをつなぐ直線によって表される筋の経路)との距離を意味する。
図10には、筋モーメントアーム行列Ju Tが示されている。これは、筋骨格モデルの自由度をn、筋の本数をmとすると、n×mの行列となる。ここで、m本の筋のうちj番目の筋が、球関節である注目関節に作用すると仮定して、その場合の筋モーメントアームを考察する。
その注目関節の自由度が、n個の自由度のうちのi番目、i+1番目およびi+2番目の自由度に割り当てられている場合、筋モーメントアーム行列Ju Tのうち、(i,j)要素と、(i+1,j)要素と、(i+2,j)要素とから成るベクトル(図10において四角形のブロックで囲まれたベクトル)が、j番目の筋の、注目関節における筋モーメントアームベクトルである。
その筋モーメントアームベクトルの方向が、個別回転軸線の方向を表し、その筋モーメントアームベクトルの大きさが、個別回転軸線と筋走行との距離を表している。例えば、ある筋の、ある関節における筋モーメントアームベクトルvが(vx,vy,vz)で表される場合、この筋モーメントアームベクトルvの大きさ|v|は、√(vx2+vy2+vz2)なるスカラで表され、一方、この筋モーメントアームベクトルvの方向は、(vx/|v|,vy/|v|,vz/|v|)なる単位方向ベクトルで表される。
図10に示すように、筋モーメントアーム行列Ju Tにおいては、複数の要素が、自由度の番号iを表す行方向と、筋の番号jを表す列方向とに2次元的に並んでいる。したがって、この筋モーメントアーム行列Ju Tは、人体に属するすべての筋と、人体に属するすべての関節のすべての自由度との組合せすべてについて、筋モーメントアームを定義している。
ただし、各筋は、常にすべての軸まわりの回転運動に関与するとは限らず、関与しない自由度には0が割り当てられる。関与しない自由度は、各関節ごとに、その関節の構造によって決まる場合と、各筋の筋走行の方向と各関節との相対位置関係とによって決まる場合とがある。
例えば、ある筋の、ある関節における筋モーメントアームベクトルvが(vx,vy,vz)で表される場合、その関節が、その構造上、x軸まわりにしか曲がらない場合には、その筋の筋モーメントアームベクトルvが、(vx,0,0)に置き換えられて、筋モーメントアーム行列Ju Tに組み込まれる。
その結果、筋モーメントアーム行列Ju Tは、すべての関節の回転自由度と、すべての筋の筋走行の方向と、すべての筋の筋走行と関節中心との距離とを反映するように作成されることになる。
一方、関節モーメントベクトルτは、前述のように、逆運動学解析と逆動力学解析とによって計算される値であるが、その計算値は基本的には、それら解析のために使用されるモデル、すなわち、筋モデルの作成誤差に依存しない。これに対し、筋モーメントアーム行列Ju Tは、各骨ごとに人為的に定義される筋経由点の位置誤差、すなわち、筋モデルの作成誤差に依存する。
そのため、関節モーメントベクトルτと筋モーメントアーム行列Ju Tとから誘導される筋力ベクトルfすなわち各筋の筋力の大きさの精度は、筋モーメントアーム行列Ju Tの誤差に依存する。
一方、同じ関節に複数の筋が作用可能である場合に、その関節の参照回転軸線の向きは、活性化されて収縮させられる筋の位置によって変化する。そのため、同じ関節に作用可能な複数の筋のうち、特定の運動を関節が行うために活性化させられる筋として、その特定の運動を行うために関節が曲がる際の回転軸線の向きに近い向きを有する個別回転軸線を有する筋を選択し、その選択された筋が他の筋より有効化されるように筋骨格モデルを解析することが、現実の筋肉運動に合致する。
ところで、いずれの筋も、単純な一直線として構成されているわけではなく、太さを有しており、しかも、骨との付着点も、単純な一点として構成されているわけではなく、面積を有している。そのため、各筋の作用時に各筋に作用する力の方向は、不変であるわけではなく、各筋の作用によって関節が曲がる方向に接近するように変化する。
すなわち、関節を曲げようとするときには、各筋に作用する力が効率よく関節に作用するように、各筋における力の作用方向が、関節が曲がる方向に接近するように自然に変化するのである。
したがって、上述のようにして選択された各筋については、その個別回転軸線がより参照回転軸線により接近するように筋骨格モデルを修正することも、現実の筋肉運動に合致する。筋骨格モデルの修正は、具体的には、筋モーメントアーム行列Ju Tの修正によって行われ、その修正により、筋力ベクトルfの計算精度が向上する。
以上説明した知見に基づき、本実施形態においては、参照回転軸線の向きに近い向きを有する個別回転軸線(参照回転軸線との相対角度が許容値以下である個別回転軸線)を有する各筋については、その個別回転軸線がより参照回転軸線に接近するように筋モーメントアーム行列Ju Tが修正され、それにより、筋骨格モデルが修正される。
図11には、図1に示す人間挙動解析プログラムであってコンピュータ20によって実施されるものが概念的にフローチャートで表されている。コンピュータ20は、前述のように、入力装置22および出力装置24と共同してシステム10を構成している。
この人間挙動解析方プログラムの各回の実行時には、まず、ステップS1(以下、単に「S1」で表す。他のステップについても同じとする。)において、有限要素人体モデルを用いて骨格モデルが作成される。
図12には、このS1の詳細が骨格モデル作成ルーチン(図1参照)としてフローチャートで概念的に表されている。
この骨格モデル作成ルーチンが実行されると、まず、S101において、有限要素人体モデルが各要素ごとに、データメモリ42からストレージ32内の別の記憶領域であるワーキングエリア(図示しない)に順次読み出される。正確には、有限要素人体モデルを表すモデルデータが、各要素を表す要素データごとに、順次読み出される。
このS101においては、さらに、有限要素人体モデルを構成する複数の要素(有限要素)のうち人体の骨を表現するものが、人体を構成する複数の部位にそれぞれ分類される。有限要素人体モデルを構成する複数の要素のうち、骨以外の組織、すなわち、皮膚、肉等を表現するものは、その分類対象から除外されている。
有限要素人体モデルにおいては、各要素ごとに、それが属する人体部位が予め定められている。すなわち、要素と人体部位との関係を規定するデータが、有限要素人体モデルを表すデータに予め組み込まれており、そのデータを用いて各要素の各人体部位への分類が行われる。各人体部位ごとに、それに分類された複数の要素が互いに結合されることによって、1個の剛体セグメント(骨モデル)が構成される。
次に、S102において、例えば図13に示すように、各剛体セグメントごとに、ローカル座標系が定義される。各ローカル座標系は、それの原点において各剛体セグメントの重心位置に一致する。ローカル座標系の定義は、システム10のユーザによって行われる。
各ローカル座標系は、x座標軸とy座標軸とz座標軸とを有しており、それら座標軸の向きは、各剛体セグメントの複数の慣性主軸の向きにそれぞれ一致する。ただし、それら座標軸は、それら慣性主軸に、慣性モーメントの値の大きい順にそれぞれ割り当てられる。各ローカル座標系は、右手系となるように、各座標軸の符号の向きが調整される。
続いて、S103において、人体の複数の部位のうち隣り合った2個の部位間に関節位置となる点が定義される。その点は、有限要素人体モデルにおける複数個の点のいずれかと一致するように定義される。その点は、隣り合った2個の剛体セグメント間の関節位置を表している。関節位置の定義はユーザによって行われる。
このS103においては、さらに、例えば図13に示すように、その定義された関節位置に関節座標系が割り当てられる。この関節座標系の原点位置は、対応する関節中心点の位置に一致させられる。関節座標系の定義はユーザによって行われる。
その後、S104において、各剛体セグメントごとに、それに属する複数の要素に関する属性情報(形状、密度、材料物性値等)から、重心位置、質量および慣性モーメントが算出される。
それら重心位置、質量および慣性モーメントを算出する際には、有限要素人体モデルを構成する複数個の要素のうち骨を表現するもののみならず、皮膚、肉等、骨以外の組織部分を表現するものも考慮される。その結果、骨格モデルにおける各剛体セグメントは、その形状に関しては、骨の表面を反映するが、各剛体セグメントの重心位置、質量および慣性モーメントに関しては、各剛体セグメントに対応する人体部位を構成するすべての組織部分を反映する。
続いて、S105において、複数の剛体セグメントが、対応する関節において、互いに回動可能に連結されるようにするために、各剛体セグメント間において関節座標系が互いに一致するように座標変換される。その座標変換はユーザの指令に応じて行われる。それにより、骨格モデルが作成される。その作成された骨格モデル(正確には、骨格モデルを表すデータ)は、データメモリ42に格納される。
以上で、この骨格モデル作成ルーチンの一回の実行が終了する。
この骨格モデル作成ルーチンの一回の実行が終了すると、図11に示すS2において、動作解析が行われる。
図14には、このS2の詳細が動作解析ルーチン(図1参照)としてフローチャートで概念的に表されている。
この動作解析ルーチンが実行されると、まず、S201において、ある運動を人体に行わせるときにその人体が示す動作およびその人体に作用する外力が計測される。その動作の計測は、例えば、モーションキャプチャ(人体表面の複数個所に貼り付けられたマーカを3次元的に撮影する装置)を用いて行われる。また、外力の計測は、例えば、力センサを用いて行われる。
動作が計測されることにより、人体の手先や足先の位置を時系列的に表す情報が取得され、また、外力が計測されることにより、人体の手先や足先に作用する外力の大きさおよび向きを時系列的に表す情報が取得される。
次に、S202において、前述の逆運動学解析により、計測された動作が骨格モデルを用いて再現される。その結果、計測された動作を表す情報に基づき、各関節の関節角度が誘導される。
続いて、S203において、前述の逆動力学解析により、誘導された各関節の関節角度に基づき、各関節に作用する関節モーメントが算出される。この算出により、関節モーメントが定義される。
具体的には、前述のように、各関節に作用する力のつりあいを考慮して、手先や足先の自重およびそこに作用する外力、各剛体セグメントの慣性、各剛体セグメントに作用する遠心力やコリオリ力を表す情報に基づき、各関節に作用する関節モーメントが算出される。算出された関節モーメントは、データメモリ42に格納される。
以上で、この動作解析ルーチンの一回の実行が終了する。
この動作解析ルーチンの一回の実行が終了すると、図11に示すS3において、筋骨格モデルが作成される。
図15には、このS3の詳細が筋骨格モデル作成ルーチン(図1参照)としてフローチャートで概念的に表されている。
この筋骨格モデル作成ルーチンが実行されると、まず、S301において、先に作成された骨格モデルの各剛体セグメントに付着させるべき各筋につき、各筋が各剛体セグメントの表面に付着させられるべき複数の付着点の位置と、それら付着点間の経由点であって各筋が各剛体セグメントに沿って延びる際に経由する点の位置とが定義される。
それら付着点の位置と経由点の位置とは、各剛体セグメントのローカル座標系において定義される。それら付着点の位置と経由点の位置との定義は、ユーザによって行われる。
次に、S302において、付着点位置と経由点位置とが定義された各筋が各剛体セグメントに沿って延びる際の経路すなわち複数の付着点および少なくとも一つの経由点を各筋が通過する順序が定義される。各筋が通過する順序の定義は、ユーザによって行われる。これにより、各筋が骨格モデル上に配置される。
本実施形態においては、各筋ごとに、筋モーメントアームが定義されるが、筋モーメントアームは、各筋に対応する複数個の付着点の位置と複数個の経由点の位置とから幾何学的に計算できる。よって、それら付着点および経由点をユーザが定義することにより、筋モーメントアームが定義される。
続いて、S303において、各筋ごとに、筋モーメントアームの方向の許容角度範囲が定義される。前述のように、各筋における力の作用方向は、各筋によって関節が曲げられる向きに依存しており、一定の角度範囲内において変化することが許容される。その結果、各筋の個別回転軸線に許容角度範囲が存在し、ひいては、筋モーメントアームの方向にも許容角度範囲が存在する。
この許容角度範囲の定義は、各筋ごとに、ユーザによって行われるが、その許容角度範囲が、後述のシグモイド関数(図31に示す式(505))に代入されるべき定数β(図33参照)を意味するように定義されている場合には、結局、各筋ごとに、ユーザにより、定数βが入力されることを意味する。
その後、S304において、前記配置された各筋の物理量が定義される。その物理量には、各筋の生理断面積、各筋において筋線維と腱との成すペネーション角度等がある。それら生理断面積およびペネーション角度は、後述するが、各筋の最大筋力を算出するために利用される。各筋の物理量の定義は、ユーザによって行われる。
各筋の最大筋力は、定数k(約5ないし約10)を用いた次式によって算出することが可能である。
最大筋力=k×生理断面積[cm2]×COS(ペネーション角度[rad])
このS304においては、さらに、筋モデルとして例えばHillモデルを用いることにより、各筋の内部の粘弾性特性が定義される。Hillモデルによれば、各筋の筋力は、図6の式(101)によって算出することができる。この式は、各筋の筋力Fiが、筋活性度αiと、最大筋力fmax iと、筋長liの関数gと、筋長変化速度d(li)/dtの関数hとの積として推定されることを表している。
したがって、各筋の粘弾性特性を定義するために、具体的には、筋長の関数gと筋長変化速度の関数hとが定義されることになる。以上のようにその作成された筋骨格モデル(正確には、筋骨格モデルを表すデータ)は、データメモリ42に格納される。
以上で、この筋骨格モデル作成ルーチンの一回の実行が終了する。
この筋骨格モデル作成ルーチンの一回の実行が終了すると、図11に示すS4において、参照回転軸線の方向と個別回転軸線の方向とが表示装置38のスクリーン36上にグラフィカルに表示される。
図16には、このS4の詳細が方向表示ルーチン(図1参照)としてフローチャートで概念的に表されている。
この方向表示ルーチンが実行されると、まず、S401において、図14に示す動作解析ルーチンの実行によって算出された関節モーメントがデータメモリ42から読み出され、その読み出された関節モーメントの方向が、関節座標系上に表示される。
具体的には、このS401においては、関節モーメントの方向(前述の「第2回転軸線」の一例)が、それを表現する図形としての矢印(前述の「第2図形」の一例)を用いて、注目関節に位置的に関連付けてスクリーン36上に表示される。その矢印は、一投影方向(例えば、正面視、側面視または平面視)において投影した1つの投影図形として、スクリーン36上に2次元的に表示される。
図17(a),(b)および(c)にはそれぞれ、骨格モデル(筋骨格モデルでも可。)のうち人体の腰部および右脚部に対応する部分が正面視、側面視および平面視でスクリーン36上に表示される様子が示されている。
さらに、図17(a)には、人体に、腰部と右脚部との間の股関節まわりに特定の運動を行わせた場合にその股関節に作用する関節モーメントの方向が、右斜め下方向に延びる矢印で示され、同様に、図17(c)には、同じ関節モーメントの方向が、左斜め下方向に延びる矢印で示されている。いずれの矢印も、関節座標系の原点から延び出している。
次に、図16のS402において、人体におけるすべての関節につき、各関節に作用するてのすべての筋(もしくはその一部)、または、人体におけるすべての関節のうち指定されたもの(以下、「指定関節」という。)につき、順次注目される注目関節に作用するすべての筋(もしくはその一部)を対象にして、筋モーメントアームの方向とその許容角度範囲とが算出される。
具体的には、筋モーメントアームの方向を算出するために、図9を参照して前述したように、注目関節に対応する2個の経由点A,Bのxyz座標値(例えば関節座標系)と、関節回転中心(対応する関節座標系の原点)のxyz座標値(例えば関節座標系)とから、暫定的な個別回転軸線の方向と、その個別回転軸線と筋走行(2個の経由点A,Bをつなぐ直線)との距離とが算出される。
さらに、注目関節につき、x軸まわりの回転自由度と、y軸まわりの回転自由度と、z軸まわりの回転自由度とがユーザによって定義される。それら自由度は、モーションキャプチャ等で測定されたデータから決めることも可能である。
筋モーメントアームの方向を算出するために、さらに、それら算出された個別回転軸線の方向および距離と、定義された回転自由度とから、前述のようにして、筋モーメントアームベクトルv(vx,vy,vz)が算出される。その算出された筋モーメントアームベクトルv(vx,vy,vz)は、筋モーメントアーム行列Ju Tに組み込まれる。
その筋モーメントアームベクトルvの方向が、算出すべき筋モーメントアームの方向である。この筋モーメントアームの方向は、基本的には、関節回転中心と筋走行(2個の経由点A,Bをつなぐ直線)との相対的位置関係を反映しており、よって、図9に示す回転軸線方向(もとの回転軸線方向)と一致する。
しかし、注目関節の回転が少なくとも1つの座標軸について拘束されていると、その拘束条件が反映されるように、図9に示す回転軸線方向が修正され、その修正された回転軸線方向が、最終的な筋モーメントアームベクトルvの方向として表現される。
以上のようにして算出された筋モーメントアームの方向を表すデータがデータメモリ42に格納される。
その後、図16のS403において、算出された筋モーメントアームの方向と、その許容角度範囲とが、関節モーメントの方向が表示されている関節座標系と同じ関節座標系に、その関節モーメントの方向の表示に並行して、表示される。
具体的には、このS403においては、注目関節に作用する複数の筋をそれぞれ表現する複数の筋モデルについてそれぞれ算出された複数の筋モーメントアームの方向(前述の「第1回転軸線方向」の一例)が、各方向を表現する図形としての円錐面(前述の「第2図形」の一例)を用いて、かつ、注目関節に位置的に関連付けてスクリーン36上に表示される。
すなわち、このS403においては、同じ注目関節につき、複数の筋についての複数の筋モーメントアームの方向がそれぞれ複数の円錐面を用いて表示されるのである。それら複数の円錐面はそれぞれ、一投影方向(例えば、正面視、側面視または平面視)において投影した複数の投影図形として、スクリーン36上に2次元的に表示される。
具体的には、それら円錐面はそれぞれ、3次元空間内において、注目関節の中心を表す1つの関節中心点(関節回転中心)から、複数の筋モーメントアームの方向に、互いに等しい距離だけ延びる複数の直線に沿って延びる複数の図形として定義されている。
さらに具体的には、各円錐面は、3次元空間内において、注目関節の関節回転中心から、対応する筋のモーメントアームの方向に延びる中心線と、前記定義された許容角度範囲の大きさに応じて大きさが変化する底面とによって定義されている。
本実施形態においては、筋モーメントアームの方向がもとの回転軸線方向から変化する際の容易さが等方性を有すると仮定し、円錐面の底面が真円として定義されている。これに対し、筋モーメントアームの方向が変化する際の容易さが異向性を有することを表現することが必要である場合には、円錐面の底面を、その異向性を表現する楕円等の非真円図形として定義することが可能である。
図17(a),(b)および(c)には、人体に、腰部と右脚部との間の股関節まわりに特定の運動を行わせた場合にその股関節に作用する複数の筋の筋モーメントアームの方向および許容角度範囲の大きさが、関節回転中心から放射状に延びる複数の円錐面として表示されている。それら円錐面はいずれも、関節座標系の原点から延び出している。
図18には、より明瞭に説明するために、骨格モデルのうち人体の腰部および右脚部に対応する部分が拡大されて斜視でスクリーン36上に表示される様子が示されている。
さらに、図18には、人体に、右脚部の膝関節まわりに特定の運動を行わせた場合にその膝関節に作用する複数の筋のうちの代表的な筋につき、筋モーメントアームの方向および許容角度範囲の大きさが、関節回転中心から広角的に延び出た1つの円錐面として表示される様子が示されている。
その後、図16のS404において、スクリーン36上に2次元的に表示されている複数の円錐面間の方向の違いをユーザが正確に視覚的に知覚することを助けるために、それら円錐面に重ねて1つの単位球面がスクリーン36上に表示される。
この単位球面は、それら円錐面に対してユーザが正確に奥行きを知覚することを助けるためのデプスキューの一例である。具体的には、この単位球面は、関節回転中心に中心が配置されるとともに複数の円錐面の高さと同じ長さの半径を有するように3次元空間内において定義された1つの球面である。したがって、複数の円錐面はそれぞれ、各底面の外周面において単位球面に内接する。
さらに具体的には、この単位球面は、一投影方向(例えば、正面視、側面視または平面視)において投影した1つの投影球面として、スクリーン36上に2次元的に表示される。
さらに具体的には、この球面は、3次元空間内において、メッシュ(球面が複数の要素の分割されたもの)として定義されている。そのメッシュは、前記投影方向において投影した投影メッシュとして、スクリーン36上に2次元的に表示される。
図19(a),(b)および(c)には、それぞれ図17(a),(b)および(c)と同様にして、人体に、腰部と右脚部との間の股関節まわりに特定の運動を行わせた場合にその股関節に作用する関節モーメントの方向(単位球面から突き出た矢印)と、その股関節に作用する複数の筋の筋モーメントアームの方向および許容角度範囲の大きさを表す複数の円錐面と、それら円錐面に共通の1つの単位球面とが正面視、側面視および平面視でスクリーン36上に表示される様子が示されている。
図20には、より明瞭に説明するために、骨格モデルのうち人体の腰部および右脚部に対応する部分が拡大されて斜視でスクリーン36上に表示される様子が示されている。
さらに、図20には、人体に、膝関節まわりに特定の運動を行わせた場合にその膝関節に作用する複数の筋のうちの代表的な筋につき、筋モーメントアームの方向および許容角度範囲の大きさを表す1つの円錐面と、その円錐面と同心の単位球面とが示されている。さらにまた、図20には、その代表的な筋が、折れ曲がった細長い図形として示されている。
図21には、より明瞭に説明するために、図20に示す膝関節と円錐面と単位球面とが拡大されて示されている。
図16に示す方向表示ルーチンの一回の実行が終了すると、図11のS5において、先に作成された筋骨格モデルに対し、必要な修正が施される。
図22には、このS5の詳細が筋骨格モデル修正ルーチン(図1参照)としてフローチャートで概念的に表されている。
この筋骨格モデル修正ルーチンが実行されると、まず、S501において、ユーザが、注目関節ごとに、関節モーメントの方向と筋モーメントアームの方向との差を目視することが促される。そのようにするために、例えば、特定の絵表示やメッセージをスクリーン36上に表示することが可能である。関節モーメントの方向と筋モーメントアームの方向との差は、それら関節モーメントの方向と筋モーメントアームの方向との間における相対角度である。
次に、S502において、ユーザからの指令に応じ、注目関節ごとに、筋付着点の位置と、筋経由点の位置と、筋モーメントアームの方向の許容角度範囲とのうち必要な幾何学量が修正される。その結果、筋骨格モデルが修正される。その修正された筋骨格モデルは、データメモリ42に格納される。
続いて、S503において、ユーザが、注目関節ごとに、関節モーメントの方向と、修正された少なくとも一つの筋モーメントアームの方向との差を目視することが促される。そのようにするために、例えば、特定の絵表示やメッセージをスクリーン36上に表示することが可能である。
この筋骨格モデル修正ルーチンの一回の実行が終了すると、図11のS6において、作成された筋骨格モデルを用いて筋活性度が推定される。
図23には、このS6の詳細が筋活性度推定ルーチン(図1参照)としてフローチャートで概念的に表されている。
まず、この筋活性度推定ルーチンの目的を概略的に説明するに、人間が能動的に出力した関節モーメントは、筋力の結果生じたものであるため、関節モーメントの算出値から、それに応じた筋力が算出される。しかし、ある関節モーメントを実現する筋力の組み合わせは一般に無限に存在する。これは、関節の自由度よりも筋の数の方が多いからである。そこで、この筋活性度推定ルーチンにおいては、筋力を一意に求めるために、ある目的関数を設定して、最適化手法を用いて解が探索的に求められる。
この筋活性度推定ルーチンの実行時には、まず、S601において、設計変数が筋活性度に設定される。筋活性度に代えて筋力を設計変数に設定することは可能であるが、この場合には、後述の解析における制約条件の定式化が複雑になり易い。
次に、S602において、図24において式(401)で表す目的関数が設定される。この目的関数中の変数ベクトルF(α)が同図において式(402)で表されている。
その変数ベクトルは、各筋につき、重み係数wiと筋活性度αiとの積で表される要素を含んでいる。目的関数は、注目すべきすべての筋につき、重み係数wiと筋活性度αiとの積の合計値が最小になる筋活性度αiが最適化計算によって算出されるように設定されている。
本実施形態においては、人体の特性に合わせるため、注目すべきすべての筋につき、重み係数wiと筋活性度αiとの積の二乗和を最小化する筋活性度αiが最適化計算によって算出されるように目的関数が設定されている。
その後、図23のS603において、最適化計算において考慮される制約条件が設定される。制約条件としては、人間の関節に作用する一般化力(関節モーメントを含む。)τと筋力fとの関係式と、筋活性度αiの変域(0以上で1以下)とがある。この制約条件が成立するように後述の最適化計算が行われれば、上記一般化力τと筋力fとの間に力のつりあいが実質的に成立するように筋活性度αiが推定されることが保証される。
図25には、上記一般化力τと筋力fとの関係式が式(403)として示されている。この式(403)は、上記一般化力τが、ヤコビ行列Juの転置行列である筋モーメントアーム行列Ju Tと筋力fとの積として誘導されることを表している。ヤコビ行列Juは、筋骨格モデルの姿勢すなわち関節角度に依存する。筋力fは、筋活性度αの関数である。
このS603においては、制約条件が、筋骨格モデル修正ルーチンの実行によって修正された筋モーメントアーム行列Ju Tを用いて設定される。図1に示すように、筋モーメントアーム行列Ju Tおよび筋モーメントアームベクトルvは、データメモリ42に格納される。筋モーメントアームベクトルvは、各筋に関連付けてデータメモリ42に格納される。
続いて、S604において、前記設定された目的関数および制約条件のもとに最適化計算が行われ、それにより、各筋ごとに筋活性度αiが算出される。その算出のために参照されるパラメータは、重み係数wと、最大筋力fmaxと、筋長および筋長変化速度と、筋長の関数gと、筋長変化速度の関数hと、ヤコビ行列cJhが依存する関節角度と、上記一般化力τとを含んでいる。
その最適化計算は、一般に「制約付き最適化」と呼ばれ、これの一般的な手法としては、「逐次2次計画法」や「修正実行可能方向法」が既に知られている。最適化計算の具体的な手法は、種々の用途に応じて適宜変更することが可能である。
以上で、この筋活性度推定ルーチンの一回の実行が終了する。
そのようにして推定された筋活性度αには、種々の実用的用途が存在する。例えば、その筋活性度αを前述の人間筋特性と共に用い、かつ、図6において式(102)で表される関係に従えば、各筋の剛性Kuを算出することが可能である。その剛性Kuは、図5に示すように、筋空間において定義される。
この筋活性度推定ルーチンの一回の実行が終了すると、図11に示す人間挙動解析プログラムの一回の実行が終了する。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、図15に示すS301、S302および図16に示すS402が互いに共同して、前記(1)項における「第1定義工程」の一例を構成し、図14に示すS201ないしS203が互いに共同して、同項における「第2定義工程」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、図16に示すS403が前記(1)項における「第1表示工程」の一例を構成し、図16に示すS401が同項における「第2表示工程」の一例を構成し、図22に示すS501ないしS503が互いに共同して同項における「再定義工程」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、図16に示すS404が前記(4)項における「第3表示工程」の一例を構成し、図16に示すS402が前記(6)項における「第3定義工程」の一例を構成し、図16に示すS403が同項における「円錐面表示工程」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、図22に示すS501ないしS503が互いに共同して前記(11)項における「再定義工程」の一例を構成し、図1に示す人間挙動解析プログラムのうち筋活性度推定ルーチンを除く部分が前記(21)項に係る「プログラム」の一例を構成し、図1に示すプログラムメモリ40が前記(22)項に係る「記録媒体」の一例を構成しているのである。
次に、本発明の第2実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態に対し、方向表示ルーチンが異なるのみで、他の要素については共通するため、共通する要素については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、重複した説明を省略し、方向表示ルーチンのみを詳細に説明する。
図26には、本実施形態に従う人間挙動解析プログラムのうちの方向表示ルーチンがフローチャートで概念的に表されている。この方向表示ルーチンは、第1実施形態における方向表示ルーチンと共通するステップがあるため、共通するステップについては、ステップの番号を使用して引用することにより、簡単に説明する。
図26に示す方向表示ルーチンが実行されると、まず、S421において、S401と同様にして、図14に示す動作解析ルーチンの実行によって算出された関節モーメントの方向が、関節座標系上に表示される。
次に、S422において、S402と同様にして、注目関節に作用するすべての筋(もしくはその一部)を対象にして、筋モーメントアームの方向が算出され、さらに、その方向の許容角度範囲がユーザによって定義される。
その後、S423において、注目関節に作用するすべての筋(もしくはその一部)を対象にして、筋モーメントアームの大きさが算出される。筋モーメントアームの大きさを算出するために、前述の筋モーメントアームベクトルv(vx,vy,vz)であって、暫定的な個別回転軸線の方向および距離(もとの筋モーメントアームベクトルによって表される)と、注目関節について定義された回転自由度との双方を反映したものが用いられる。この最終的な筋モーメントアームベクトルv(vx,vy,vz)は、筋モーメントアーム行列Ju Tに組み込まれている。
続いて、S424において、算出された筋モーメントアームの方向と、その許容角度範囲と、算出された筋モーメントアームの大きさとが、関節モーメントの方向が表示されている関節座標系と同じ関節座標系に、その関節モーメントの方向の表示に並行して、表示される。
具体的には、このS424においては、注目関節に作用する複数の筋をそれぞれ表現する複数の筋モデルについてそれぞれ算出された複数の筋モーメントアームの方向および大きさが、各方向を表現する図形としての円錐面を用いて、かつ、注目関節に位置的に関連付けてスクリーン36上に表示される。
各筋ごとに、円錐面は、3次元空間内において、注目関節の中心を表す1つの関節中心点(関節回転中心)から、筋モーメントアームの方向に、その筋モーメントアームの大きさを反映した距離だけ延びる直線に沿って延びる図形として定義されている。
具体的には、各円錐面は、3次元空間内において、注目関節の関節回転中心から、対応する筋のモーメントアームの方向に、その筋モーメントアームの大きさに相当する長さだけ延びる中心線と、前記定義された許容角度範囲の大きさに応じて大きさが変化する底面とによって定義されている。
図27(a),(b)および(c)には、人体に、腰部と右脚部との間の股関節まわりに特定の運動を行わせた場合にその股関節に作用する複数の筋の筋モーメントアームの方向および大きさならびに許容角度範囲の大きさが、関節回転中心から放射状に延びる複数の円錐面として表示されている。それら円錐面はいずれも、関節座標系の原点から広角的に延び出している。図27(a),(b)および(c)には、股関節に作用する関節モーメントの方向が矢印で示されている。
以上で、図26に示す方向表示ルーチンの一回の実行が終了する。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、図26に示すS423およびS424が互いに共同して、前記(7)項における「第1表示工程」の一例を構成しているのである。
次に、本発明の第3実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態に対し、筋骨格モデル修正ルーチンが異なるのみで、他の要素については共通するため、共通する要素については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、重複した説明を省略し、筋骨格モデル修正ルーチンのみを詳細に説明する。
第1実施形態においては、ユーザの入力に応じて、筋骨格モデルが、関節モーメントの方向と筋モーメントアームの方向とが可及的に互いに一致するように修正される。これに対し、本実施形態においては、そのような修正がコンピュータ20による筋骨格モデル修正ルーチンの実行によって自動的に行われる。
図28には、本実施形態に従う人間挙動解析プログラムのうちの筋骨格モデル修正ルーチンがフローチャートで概念的に表されている。
この筋骨格モデル修正ルーチンが実行されると、まず、S521において、図15に示す筋骨格モデル作成ルーチンの実行によって作成された筋骨格モデルを表すデータがデータメモリ42から読み込まれる。
次に、S522において、人体におけるすべての関節のうちのいずれかが注目関節に決定される。
続いて、S523において、解析対象である動作ないしは挙動を人体に行わせると今回の注目関節に作用する関節モーメントを表す関節モーメントベクトルTがデータメモリ42から読み込まれる。関節モーメントベクトルTは、図14に示す動作解析ルーチンの実行によってデータメモリ42に予め格納されている。
その後、S524において、今回の注目関節に寄与するすべての筋につき、筋モーメントアームベクトルvが、図16に示すS402と同様にして、算出される。続いて、S525において、各筋ごとに、筋モーメントアームの方向と関節モーメントの方向との相対角度θが算出される。
図29には、このS525の詳細が相対角度算出ルーチンとしてフローチャートで概念的に表されている。
この相対角度算出ルーチンが実行されると、まず、S701において、読み込まれた関節モーメントベクトルTから、関節モーメントの方向を表す方向ベクトルdTが算出される。方向ベクトルdTは、図31に式(502)として示すように、関節モーメントベクトルTを、それの大きさ|T|で割り算する(正規化する)ことによって算出される。
次に、図29のS702において、今回の注目関節に寄与するすべての筋のうちのいずれかが注目筋として決定され、その決定された今回の注目筋に関連付けてデータメモリ42に予め格納されている筋モーメントアームベクトルvがそのデータメモリ42から読み出される。
このS702においては、さらに、読み込まれた筋モーメントアームベクトルvから、筋モーメントアームの方向を表す方向ベクトルdvが算出される。方向ベクトルdvは、図31に式(501)として示すように、筋モーメントアームベクトルvを、それの大きさ|v|で割り算する(正規化する)ことによって算出される。
続いて、図29のS703において、それら算出された2つの方向ベクトルdTとdvとの相対角度θが算出される。この相対角度θは、図31に式(503)として示すように、それら方向ベクトルdTとdvとの内積を用いて算出される。算出された相対角度θは、各筋に関連付けてデータメモリ42に格納される。
その後、図29のS704において、相対角度θの算出が、今回の注目関節に寄与するすべての筋について終了したか否かが判定される。今回は、未だ終了していないと仮定すれば、S704の判定がNOとなり、S702およびS703の実行が次の注目筋について行われる。
S702およびS703の実行が今回の注目関節に寄与するすべての筋について終了したならば、S704の判定がYESとなり、この相対角度算出ルーチンの一回の実行が終了する。
続いて、図28のS526において、各筋ごとに、筋モーメントアームの方向が必要に応じて修正される。
図30には、このS526の詳細が筋モーメントアーム方向修正ルーチンとしてフローチャートで概念的に表されている。
この筋モーメントアーム方向修正ルーチンが実行されると、まず、S801において、今回の注目関節に寄与するすべての筋のうちのいずれかが注目筋として決定され、その決定された今回の注目筋に関連付けてデータメモリ42に予め格納されている筋モーメントアームベクトルvがそのデータメモリ42から読み出される。
さらに、このS801においては、読み込まれた筋モーメントアームベクトルvから、筋モーメントアームの大きさ|v|が算出される。
次に、S802において、関節モーメントの方向ベクトルdTと、今回の注目筋の筋モーメントアームの方向ベクトルdvとの相対角度θから、その筋モーメントアームの方向ベクトルの修正角度δが算出される。図32には、方向ベクトルdTと、修正前の方向ベクトルdvと、修正後の方向ベクトルdv’と、相対角度θと、修正角度δとの間における幾何学的な相対的関係が示されている。
修正角度δは、基本的には、各筋の筋モーメントアームの方向が関節モーメントの方向に一致するように算出される。ただし、本実施形態においては、もとの相対角度θが許容値より大きい場合には、その相対角度θが変更されない一方、もとの相対角度θが前記許容値以下である場合には、その相対角度θが0に接近すように、修正角度δが算出される。
さらに、本実施形態においては、もとの相対角度θが前記許容値以下であっても、その相対角度θが前記許容値より小さい基準値以下である場合には、その相対角度θが前記基準値より大きい場合より、その相対角度θが0に接近する傾向が増加する特性に従ってその相対角度θが変更されるように、修正角度δが算出される。
図33には、そのような変更特性(θ−δ特性)の一例がグラフで表されている。このグラフは、図31に式(505)として示されているシグモイド関数によって記述される。このシグモイド関数を用いる場合には、定数βの値次第で、許容値および基準値が決まる。
そのθ−δ特性によれば、図33に示すように、相対角度θが基準値より大きく、かつ、許容値より小さい領域においては、相対角度θが増加するにつれて修正角度δが減少する。この特性は、実際の筋の特徴を正確に反映している。
図33に示すように、シグモイド関数を用いる場合には、基準値は、相対角度θの変域であって相対角度θと修正角度δとが互いに完全に一致する変域の上限値に実質的に一致する。また、許容値は、相対角度θの変域であって修正角度δが0ではない変域の上限値に実質的に一致する。
ここで、許容値、基準値および定数βと、前述の、筋モーメントアームの方向の許容角度範囲との関係について説明するに、図33にグラフで示されるθ−δ特性を念頭において、許容角度範囲が定数βを意味するように定義することが可能である。この場合には、許容値および基準値は、そのθ−δ特性において概念的に存在する物理量にすぎない。
これに対し、筋モーメントアームの方向の許容角度範囲が許容値を意味するように定義する一方で、その許容値から定数βを予め定られた関数に従って直接的に誘導したり、その許容値から基準値を予め定められた関数に従って誘導し、それら許容値と基準値とから定数βを予め定られた関数に従って誘導することが可能である。
また、筋モーメントアームの方向の許容角度範囲が基準値を意味するように定義する一方で、その基準値から定数βを予め定られた関数に従って直接的に誘導したり、その基準値から許容値を予め定られた関数に従って誘導し、それら基準値と許容値とから定数βを予め定られた関数に従って誘導することが可能である。
図30に示すS802においては、具体的には、今回の注目筋につき、相対角度θの実際値と定数βの実際値とを、図31に示す式(505)に代入することにより、修正角度δが算出される。
その後、図30のS802において、今回の注目筋につき、筋モーメントアームの方向ベクトルdvを関節モーメントの方向ベクトルdTに接近させるために方向ベクトルdvを回転させる際の回転軸線の方向が、方向修正回転軸線方向として算出される。
その方向修正回転軸線方向は、方向ベクトルdvと方向ベクトルdTとの双方に直交する単位ベクトルaとして定義されている。その単位ベクトルaは、方向ベクトルdvおよび方向ベクトルdTと共に、図32に示されている。このS802においては、この単位ベクトルaが、図31に式(504)として示すように、方向ベクトルdvと方向ベクトルdTとの外積を用いて算出される。
続いて、図30のS804において、筋モーメントアームの方向ベクトルdvを修正するための座標変換行列(回転行列)Rが算出される。その回転行列Rは、図31に式(506)として示すように、直交ベクトルaを回転軸線、修正角度δを回転角とする行列(3×3)として定義されている。
その後、図30のS805において、その算出された回転行列Rを用いて修正方向ベクトルdv’が、図31に示す式(506)を用いて算出される。続いて、図30のS806において、図31に式(507)として示すように、その算出された修正方向ベクトルdv’と、筋モーメントアームの大きさ|v|との積として、修正筋モーメントアームベクトルv’が算出される。
続いて、図30のS807において、修正筋モーメントアームベクトルv’の算出が、今回の注目関節に寄与するすべての筋について終了したか否かが判定される。今回は、未だ終了していないと仮定すれば、S807の判定がNOとなり、S801ないしS806の実行が次の注目筋について行われる。
S801ないしS806の実行が今回の注目関節に寄与するすべての筋について終了したならば、S807の判定がYESとなり、この筋モーメントアーム方向修正ルーチンの一回の実行が終了する。
続いて、図28のS527において、修正筋モーメントアームベクトルv’の算出が、人体のすべての関節について終了したか否かが判定される。今回は、未だ終了していないと仮定すれば、S527の判定がNOとなり、S528において、注目関節が更新された後、S523ないしS526の実行が次の注目関節について行われる。
S523ないしS526の実行がすべての関節について終了したならば、S527の判定がYESとなり、この筋骨格モデル修正ルーチンの一回の実行が終了する。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、図28に示す筋骨格モデル修正ルーチンが前記(1)項における「再定義工程」の一例、前記(8)項における「変更工程」の一例、前記(9)項における「変更工程」の一例および前記(10)項における「変更工程」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、図28に示す筋骨格モデル修正ルーチンが前記(11)項における「再定義工程」の一例、前記(12)項における「変更工程」の一例、前記(13)項における「変更工程」の一例および前記(14)項における「変更工程」の一例を構成しているのである。
次に、本発明の第4実施形態を図34を参照して説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態と共通する要素があるため、共通する要素については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、重複した説明を省略する。
例えば、車両のステアリング操作系、アクセル操作系、ブレーキ操作系、クラッチ操作系、内装部品操作系、空調部品操作系、電装部品操作系等、人間によって操作される操作機器を設計することが必要となる場合がある。
この場合、操作機器の設計中、その操作機器を操作するために使用される人体の筋について筋モーメントアームの方向が人体の骨格モデルまたは筋骨格モデルに重ねて一緒にスクリーン36上に表示されれば、設計者は、人間による操作機器の操作性を正確に評価しつつ設計を高効率で行うことが容易となる。
また、例えば、操作機器を使用する人間が健常者であるとは限らず、一部の筋が正常に機能しない人間によっても支障なく操作されるように操作機器をユニバーサルに設計しなければならない場合や、健常者ではない人間によって専ら操作されることを念頭において操作機器を設計しなければならない場合がある。
それらの場合には、操作機器の潜在的なユーザすなわち対象者の運動特性(正常に機能しない筋を特定するための情報)を考慮して、操作機器の仕様、例えば、対象者との相対位置、要求操作方向、要求操作力等を決定することが肝要である。
以上説明した事情を背景として、本実施形態は、前述の、筋モーメントアームの方向をスクリーン36上に骨格モデルまたは筋骨格モデルに重ねて一緒に表示する技術を用いて、人間による操作機器の操作性を設計者が評価することを支援する操作性評価方法に向けられている。その操作性評価方法を実施するために、操作機器の設計の高効率化を容易にするための設計支援プログラムがコンピュータ20によって実行される。
図34には、その設計支援プログラムがフローチャートで概念的に表されている。
この設計支援プログラムが実行されると、まず、S1001において、データメモリ42から筋骨格モデルが読み込まれる。次に、S1002において、その読み込まれた筋骨格モデルが、設計すべき操作機器の対象者の運動特性に合わせて、設計者の入力に応じて修正される。
続いて、S1003において、図16のS402およびS403と同様にして、対象者におけるすべての関節のうちのいずれかが注目関節として決定され、その決定された注目関節に寄与するすべての筋の筋モーメントアームの方向が、算出されてスクリーン36上に表示される。筋モーメントアームの方向は、それの許容角度範囲と共に、円錐面を用いて、図17または図19に示すように表示される。
その後、S1004において、設計者は、各筋ごとに、円錐面を観察することにより、各筋によって動く手先や足先の位置の可動範囲を評価する。
続いて、S1005において、可動範囲の評価がすべての関節について終了したか否かが判定される。今回は、未だ終了していないと仮定すれば、S1005の判定がNOとなり、S1003およびS1004の実行が次の注目関節について行われる。
S1003およびS1004の実行がすべての関節について終了したならば、S1005の判定がYESとなる。
その後、S1006において、S1004における設計者の評価結果を踏まえて、設計者は、操作機器の仕様を決定する。
以上で、この設計支援プログラムの一回の実行が終了する。
次に、本発明の第5実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第3実施形態に対し、筋骨格モデル修正ルーチンが異なるのみで、他の要素については共通するため、共通する要素については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、重複した説明を省略し、筋骨格モデル修正ルーチンのみを詳細に説明する。
第3実施形態においては、筋骨格モデルを用い、数値解析によって筋力が推定される。その筋骨格モデルは、人体のうち骨格をモデル化する剛体セグメントまたは剛体リンクと、筋をモデル化するワイヤ要素とを含んでいる。
具体的には、この筋骨格モデルにおいては、実際の1本の筋が1つのワイヤ要素によって近似的に表現され、さらに、そのワイヤ要素によって表現される筋走行が実際の筋の幾何学的中心線に近づくように定義されている。
そして、第3実施形態においては、このような筋骨格モデルを用いて骨格の運動と筋力との関係が運動方程式によって記述され、逆解析により、骨格の運動から筋力が求められる。ただし、一般に、筋の本数は、関節の自由度より多いため、筋力を推定する問題は不整定問題となる。第3実施形態においては、その問題を解くために、対象となる動作に適合するように選定された目的関数のもと、最適化計算手法が用いられる。
ところで、現実の筋は複数の筋線維の束として構成されており、筋線維が運動神経の活動によって収縮することにより、筋は力を発生し、また、筋線維は動作中に柔軟に変形する。運動神経は複数の筋線維を支配して運動単位を構成するが、支配される筋線維の本数は数十本から数百本まで多様に分布している。
そのため、筋力は、筋の幾何学的中心線からずれた方向においても作用し得る。第3実施形態においては、筋の幾何学的中心線に基づいて筋走行が定義されるため、筋力が作用する方向が筋の幾何学的中心線上に固定されてしまう。
しかしながら、第3実施形態においては、筋力が作用する方向という変数から独立して筋モーメントアームを設定可能とすることにより、筋力が作用する方向が筋の幾何学的中心線上に固定されてしまうにもかかわらず、種々な動作に対して関節モーメントとのつりあいを満たすように筋力を推定することが容易となっている。
すなわち、第3実施形態においては、筋力が作用する方向が筋の幾何学的中心線上に固定されてしまうにもかかわらず、筋力の推定精度を向上させることが容易となっているのである。
これに対し、本実施形態においては、1本の筋が、複数の筋線維モデルの束としてモデル化されている。したがって、各筋線維モデルごとに、筋力が作用する方向を設定することが可能であり、よって、筋モーメントアームが、各筋線維モデルごとに、定義される。
ただし、現実の1本の筋が、それを構成する実際の筋線維の本数と同数の筋線維モデルの束として表現されるわけではなく、例えば計算負荷軽減等の目的のため、実際の筋線維の本数より少ない数の筋線維モデルの束として表現される。
そのため、本実施形態においては、各筋線維モデルごとに、筋モーメントアームベクトルが計算されるとともに、その筋モーメントアームベクトルが、第3実施形態と同様なアルゴリズムによって修正される。したがって、本実施形態によれば、第3実施形態より、筋モデルによって実際の筋の力学を高精度に表現することが容易となる。
図35には、1本の筋が複数の筋線維モデルの束によってモデル化される一例が斜視図で示されている。
図35に示す例においては、2個の骨モデルAおよびBが、関節Cまわりに回動可能に配置されるとともに、それら骨モデルAおよびBが1つの筋モデルDによって互いに連結されている。筋モデルDは、前記詳細筋モデルの一例である。
図35に示す例においては、1本の筋を表現する筋モデルDが、複数の筋線維モデルa1,・・・,au(u:筋線維モデルの数)の束として構成されている。それら筋線維モデルa1,・・・,auは、通常、同一平面上に存在しない。
また、各筋線維モデルaは、それの一端において、骨モデルA上の付着点に付着し、また、他端において、骨モデルB上の付着点に付着している。さらに、各筋線維モデルaは、それら2個の付着点間を通過する際に、2個の経由点によって規定される一直線に沿って延びている。それら2個の付着点と2個の経由点とにより、各筋線維モデルaの筋走行が一意に定義される。
図35には、さらに、関節Cに関連付けて、複数の筋モーメントアームベクトルd1,・・・,du(u:筋線維モデルの数)が示されている。各筋線維モデルaごとに筋モーメントアームベクトルdが割り当てられるため、図35には、筋線維モデルaと同数の筋モーメントアームベクトルdが存在する。
本実施形態においても、第3実施形態と同様に、図36の式(601)として示すように、関節モーメントベクトルτが、筋モーメントアーム行列Ju Tと、筋力ベクトルfとの積に一致するという力のつりあいが考慮される。
図36には、さらに、関節モーメントベクトルτと、筋モーメントアーム行列Ju Tと、筋力ベクトルfとが示されている。筋骨格モデルの自由度をn、すべての筋モデルに属する筋線維モデルの数をm、j番目の筋モデルに属する筋線維モデルの数をuとすると、関節モーメントベクトルτは、n行の列ベクトルとなり、筋モーメントアーム行列Ju Tは、n×mの行列となり、筋力ベクトルfは、m行の列ベクトルとなる。
ここで、複数本の筋のうちj番目の筋が、球関節である注目関節に作用すると仮定して、その場合の筋モーメントアームを考察する。j番目の筋に属する複数本の筋線維の相対番号は、j1,j2,・・・,juで表し、絶対番号は、mj1,mj2,・・・,mjuで表す。
その注目関節の自由度が、n個の自由度のうちのi番目、i+1番目およびi+2番目の自由度に割り当てられている場合、筋モーメントアーム行列Ju Tのうち、(i,mj1)要素と、(i+1,mj1)要素と、(i+2,mj1)要素とから成る3行の列ベクトルが、j番目の筋のうちの1番目(絶対番号で表すと、mj1番目)の筋線維に対応する筋モーメントアームベクトルである。
また、同様にして、筋モーメントアーム行列Ju Tのうち、(i,mj2)要素と、(i+1,mj2)要素と、(i+2,mj2)要素とから成る3行の列ベクトルが、j番目の筋のうちの2番目(絶対番号で表すと、mj2番目)の筋線維に対応する筋モーメントアームベクトルである。
また、同様にして、筋モーメントアーム行列Ju Tのうち、(i,mju)要素と、(i+1,mju)要素と、(i+2,mju)要素とから成る3行の列ベクトルが、j番目の筋のうちのu番目(絶対番号で表すと、mju番目)の筋線維に対応する筋モーメントアームベクトルである。
したがって、本実施形態においては、j番目の筋についての筋モーメントアームベクトルが、u個の筋線維モデルに対応するu個の筋モーメントアームベクトルの集合として計算されることになる。
各筋線維モデルに対応する筋モーメントアームベクトルの方向が、各筋線維ごとの個別回転軸線の方向を表し、その筋モーメントアームベクトルの大きさが、各筋線維ごとの個別回転軸線と筋走行との距離を表している。
例えば、ある筋線維の、ある関節における筋モーメントアームベクトルvが(vx,vy,vz)で表される場合、この筋モーメントアームベクトルvの大きさ|v|は、√(vx2+vy2+vz2)なるスカラで表され、一方、この筋モーメントアームベクトルvの方向は、(vx/|v|,vy/|v|,vz/|v|)なる単位方向ベクトルで表される。
図36に示すように、筋モーメントアーム行列Ju Tにおいては、複数の要素が、自由度の番号iを表す行方向と、筋線維の番号mjを表す列方向とに2次元的に並んでいる。したがって、この筋モーメントアーム行列Ju Tは、人体に属するすべての筋と、人体に属するすべての関節のすべての自由度との組合せすべてについて、筋モーメントアームを定義している。
図37には、本実施形態に従う人間挙動解析プログラムのうちの筋骨格モデル修正ルーチンがフローチャートで概念的に表されている。
この筋骨格モデル修正ルーチンは、図28に示す筋骨格モデル修正ルーチンとアルゴリズムが基本的に共通しており、異なるのは、各筋ごとにではなく、各筋線維ごとに、筋モーメントアームが算出されるとともに、その算出値が必要に応じて修正されることである。
以下、図37に示す筋骨格モデル修正ルーチンを説明するが、図28に示す筋骨格モデル修正ルーチンと共通するステップについては、対応するステップを明示することにより、重複した説明を省略する。
この筋骨格モデル修正ルーチンが実行されると、まず、S1021において、図28に示すS521と同様にして、筋骨格モデルを表すデータがデータメモリ42から読み込まれる。
次に、S1022において、図28に示すS522と同様にして、人体におけるすべての関節のうちのいずれかが注目関節に決定される。
続いて、S1023において、図28に示すS523と同様にして、解析対象である動作ないしは挙動を人体に行わせると今回の注目関節に作用する関節モーメントを表す関節モーメントベクトルTがデータメモリ42から読み込まれる。
その後、S1024において、図28に示すS524と同様にして、今回の注目関節に寄与するすべての筋に属するすべての筋線維につき、筋モーメントアームベクトルvが、図16に示すS402と同様にして、算出される。
続いて、S1025において、図28に示すS525と同様にして、各筋線維ごとに、筋モーメントアームの方向と関節モーメントの方向との相対角度θが算出される。相対角度θの算出は、図29に示す相対角度算出ルーチンが、各筋線維について実行されることによって行われる。
その後、S1026において、図28に示すS526と同様にして、各筋線維ごとに、筋モーメントアームの方向が必要に応じて修正される。この修正は、図30に示す筋モーメントアーム方向修正ルーチンが、各筋線維について実行されることによって行われる。
続いて、S1027において、図28に示すS527と同様にして、修正筋モーメントアームベクトルv’の算出が、人体のすべての関節について終了したか否かが判定される。今回は、未だ終了していないと仮定すれば、S1027の判定がNOとなり、S1028において、図28に示すS528と同様にして、注目関節が更新された後、S1023ないしS1026の実行が次の注目関節について行われる。
S1023ないしS1026の実行がすべての関節について終了したならば、S1027の判定がYESとなり、この筋骨格モデル修正ルーチンの一回の実行が終了する。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、図15に示すS301、S302および図16に示すS402が互いに共同して、前記(15)項における「第1定義工程」の一例を構成し、図14に示すS201ないしS203が互いに共同して、同項における「第2定義工程」の一例を構成し、図37に示す筋骨格モデル修正ルーチンが同項における「再定義工程」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、図37に示すS1024が前記(16)項における「第1方向計算工程」の一例、前記(17)項における「第2方向計算工程」の一例および前記(18)項における「ベクトル計算工程」の一例を構成し、同図に示すS1025が同項における「相対角度計算工程」の一例を構成し、同図に示すS1026が同項における「ベクトル修正工程」の一例を構成しているのである。
次に、本発明の第6実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第3実施形態と共通する要素が多いため、共通する要素については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、重複した説明を省略し、異なる要素についてのみ、詳細に説明する。
第3実施形態においては、人体全身を、各部位が骨であるか筋であるかを問わず、複数個の有限要素としてのソリッド要素によって物理的に表現する有限要素人体モデルと、人体全身を、複数の骨については、各々剛体セグメントである複数の骨モデル、複数の筋については、各々ワイヤ要素(「バー要素」ともいう。)である複数の筋モデルを用いて物理的に表現する筋骨格モデル(以下、「剛体系筋骨格モデル」という。)が用いられる。その剛体系筋骨格モデルは、前述のように、多関節剛体セグメントモデルとして分類される。
これに対し、本実施形態においては、2種類の有限要素人体モデルと、第3実施形態と共通する剛体系筋骨格モデルとが用いられる。それら2種類の有限要素人体モデルは、人体のうちの筋骨格のみを複数の有限要素によって物理的に表現する有限要素筋骨格モデルと、人体のうちの複数の筋のみを複数の有限要素によって物理的に表現する有限要素筋モデルとから構成される。有限要素筋骨格モデルは、有限要素筋モデルを含むように構成される。
有限要素筋骨格モデルは、有限要素モデルであるため、人体の筋骨格を弾性体として表現し、よって、筋骨格の変形を表現することができる。同様に、有限要素筋モデルは、有限要素モデルであるため、人体の筋を弾性体として表現し、よって、筋の変形を表現し得る。これに対し、剛体系筋骨格モデルは、骨格については、剛体セグメントとして表現するため、骨格の変形を表現し得ないが、筋については、ワイヤ要素として表現するため、筋の変形(ただし、変形方向が一方向にのみ限定される)を表現し得る。
また、第3実施形態においては、有限要素人体モデル(全身モデル)を用いて剛体系筋骨格モデルが作成され、その作成された剛体系筋骨格モデルを用いて筋活性度が推定される。
これに対し、本実施形態においては、有限要素筋骨格モデル(部分モデル)を用いて剛体系筋骨格モデルが作成され、その作成された剛体系筋骨格モデルを用いて筋力および筋活性度が推定される。
本実施形態においては、さらに、その推定された筋活性度が、必要な変換を受けた後に、有限要素筋モデル(部分モデル)に適用され、その結果、人体に特定の運動を与えたときに人体の各部位に生じる応力とひずみとが推定される。
図38には、本実施形態に従う人体応力・ひずみ推定方法を含む人間挙動解析方法を実施するのに好適なシステム210のハードウエア構成が概念的にブロック図で表されている。
このシステム210は、図1に示すシステム10と同様に、人間の挙動をコンピュータ20上で表現し得る人体モデルを用いることにより、その人間が乗車している車両が障害物に接触する際(人間が乗車している車両に外部から衝撃が加わった際)にその人間の各部位に生ずる応力(負荷)とひずみ(変形)とをシミュレーションにより解析するものである。
図38に示すように、このシステム210は、図1に示すシステム10と同様に、コンピュータ20に入力装置22と出力装置24とが接続されることによって構成されている。コンピュータ20は、よく知られているように、プロセッサ30とストレージ32とがバス34によって互いに接続されて構成されている。
図38に示すように、ストレージ32には、プログラムメモリ40とデータメモリ42とが設けられている。プログラムメモリ40には、人間挙動解析プログラムを始めとする各種プログラムが予め記憶されている。
その人間挙動解析プログラムは、後に詳述するが、有限要素筋骨格モデル作成ルーチン、剛体系筋骨格モデル作成ルーチン、関節モーメント解析ルーチン、筋モーメントアーム再定義ルーチン、筋活性度・筋力推定ルーチンおよび人体応力・ひずみ解析ルーチンを含むように構成されている。
データメモリ42には、有限要素筋骨格モデルと、有限要素筋モデルと、剛体系筋骨格モデルと、関節モーメントと、筋モーメントアームと、応力と、ひずみとをそれぞれ記憶するための領域が存在する。ただし、有限要素筋骨格モデルは、有限要素筋モデルを内部に有するモデル(筋モデルと骨格モデルとが合体したモデル)であるため、少なくとも有限要素筋骨格モデルさえデータメモリ42に記憶されれば足りる。
図39には、本実施形態に従う人間挙動解析プログラムが概念的にフローチャートで表されている。
この人間挙動解析方プログラムの各回の実行時には、まず、S2001において、前述の有限要素筋骨格モデル作成ルーチンが実行されることにより、図2に示すように、有限要素筋骨格モデルが作成される。その作成方法の一例が日本国特開2002−149719号公報(米国特許出願公開番号:US−2002−0042703−A1)に記載されており、その公報は引用によって本明細書に合体される。
次に、S2002において、その作成された有限要素筋骨格モデルを用いることにより、図4に示す剛体系筋骨格モデルが作成される。その作成は、前述の剛体系筋骨格モデル作成ルーチンの実行によって行われる。この剛体系筋骨格モデル作成ルーチンは、例えば、図12に示す骨格モデル作成ルーチンおよび図15に示す筋骨格モデル作成ルーチンを含むように設計されている。
続いて、S2003において、その作成された剛体系筋骨格モデルを用いることにより、人体のうち対象物と接触している部位に作用する力が外力として算出される。一解析例においては、外力の一例は、人間が足で自動車のブレーキペダルを踏んだときに足に作用する反力であり、外力の別の例は、座席に背中を押し付けるときに背中に作用する反力である。この解析例においては、人間が足でブレーキペダルを踏むという挙動が剛体系筋骨格モデルに与えられる。
このS2003においては、さらに、剛体系筋骨格モデルを用いることにより、拘束条件、変位、速度および加速度が算出される。拘束条件は、例えば、人間と対象物とが互いに接触する部位の運動の自由度を意味する。変位、速度および加速度は、例えば、剛体系筋骨格モデルの各関節に関連付けて求められる。
このS2003においては、それら外力、拘束条件、変位、速度および加速度が、図14に示すS201およびS202と同様な手法で算出される。
その後、S2004において、図14に示すS203と同様にして、各関節に作用する関節モーメントが算出される。そのために、前述の関節モーメント解析ルーチンが実行される。
続いて、S2005において、図16に示すS402と同様にして、各筋ないしは各筋線維ごとに、筋モーメントアームが算出される。このS2005においては、さらに、図28に示すS521ないしS528と同様にして、各筋ないしは各筋線維ごとに、前述の相対角度θに基づき、予め算出された筋モーメントアームが修正されることにより、再定義される。そのために、前述の筋モーメントアーム再定義ルーチンが実行される。
その後、S2006において、筋力および筋活性度が推定される。この推定は、基本的には、最適化計算により行われる。その際、設計変数として筋力を選択する方法と、筋活性度を選択する方法とがある。いずれの方法を実施する場合にも、筋力と関節モーメントとのつりあいが拘束条件となる。
設計変数として筋活性度を選択する方法を実施する場合には、図11に示すS6と同様にして、まず、各筋ないしは各筋線維ごとに、筋活性度が推定される。この推定は、前述のように、最適化計算を必要とする。
次に、図6に示す式(101)を用いることにより、各筋ないしは各筋線維ごとに、上記推定された筋活性度に基づいて筋力が推定される。具体的には、式(101)に示すように、各筋ないしは各筋線維ごとに、筋活性度の推定値と、最大筋力と、筋長と、筋長変化速度とに基づいて筋力が推定される。
一方、設計変数として筋力を選択する方法を実施する場合には、まず、上記最適化計算に準じた計算により、各筋ないしは各筋線維ごとに、筋力が推定される。
次に、図6に示す式(101)を用いることにより、各筋ないしは各筋線維ごとに、上記推定された筋力に基づいて筋活性度が推定される。具体的には、式(101)に示すように、各筋ないしは各筋線維ごとに、筋力の推定値と、最大筋力と、筋長と、筋長変化速度とに基づいて筋活性度が推定される。
その後、S2007において、各筋ないしは各筋線維ごとに、筋活性度の推定値が分配されることにより、有限要素筋モデル上で定義される筋活性度に変換される。
例えば、同じ現実の筋につき、剛体系筋骨格モデル上で定義される筋モデルの構成要素数は、普通、有限要素筋モデルの構成要素数より少ない。すなわち、剛体系筋骨格モデルのうちの筋モデルと、有限要素筋モデルとの間で、同じ現実の筋を構成するように使用される要素の数が互いに異なるのである。
そのため、剛体系筋骨格モデルを用いて推定された筋活性度をそのまま、有限要素筋モデルの筋活性度として使用して有限要素解析を行ったのでは、その解析結果の精度が低下してしまう。
そこで、このS2007においては、剛体系筋骨格モデル上で定義される筋モデルの構成態様と、有限要素筋モデルの構成態様との関係に従って、剛体系筋骨格モデルを用いて推定された筋活性度が分配されることにより、有限要素筋モデル上で定義される筋活性度に変換される。
なお付言するに、このステップS2007においては、筋活性度以外の物理量も、後述のシミュレーション解析に必要であれば、筋活性度と同様にして、変換される。
続いて、S2008において、有限要素筋モデルのもと、有限要素法を用いることにより、人体の各部位(例えば、各有限要素)に作用する応力およびひずみがシミュレーション解析される。
有限要素法は、よく知られているように、コンピュータによる数値計算手法の一つであり、連続体を多数の、有限の大きさを有する要素、例えば、メッシュに分割し、個々の要素の物理量を連立の材料特性方程式に組み込んで全体の系を数値計算する手法である。材料特性方程式は、有限要素法の解析特性を制御する係数として材料特性係数を有している。
そのシミュレーション解析方法の一例が日本国特開2002−149719号公報(米国特許出願公開番号:US−2002−0042703−A1)に記載されており、その公報は引用によって本明細書に合体される。
図40には、本実施形態において使用される複数種類のモデルと実施される複数種類の数値解析法との関係が概念的にブロック図で表されている。
本実施形態においては、前述のように、剛体系筋骨格モデルを用いることにより、逆運動解析が関節角度を求めるために実行され、その関節角度に基づき、かつ、剛体系筋骨格モデルを用いることにより、逆動力学解析が関節モーメントを求めるために実行される。さらに、関節モーメントに基づき、筋力および筋活性度を推定するために最適化計算が実行される。
さらに、本実施形態においては、有限要素人体モデル(有限要素筋モデル)を用いることにより、シミュレーション解析が、人体の各部位に発生する応力およびひずみを推定するために実行される。その推定結果は、種々の評価ないしは用途に用いられる。
さらにまた、本実施形態においては、有限要素人体モデル(有限要素筋骨格モデル)から剛体系筋骨格モデルを作成するために、有限要素人体モデルから、骨格に関する情報と、関節に関する情報と、筋に関する情報と、姿勢に関する情報とが提供され、それら情報に基づき、剛体系筋骨格モデルが作成される。
さらにまた、本実施形態においては、有限要素人体モデルを用いてシミュレーション解析を実行するために、剛体系筋骨格モデルから有限要素人体モデルに、筋に関する情報と、外力および境界条件に関する情報と、変位、速度および加速度に関する情報とが提供される。それら情報に基づき、かつ、有限要素人体モデルを用いることにより、人体の各部位に発生する応力およびひずみが推定される。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、図39に示すS2002、S2004およびS2005が互いに共同して、前記(20)項における「筋骨格モデル作成工程」の一例を構成し、同図に示すS2003が同項における「負荷推定工程」の一例を構成し、同図に示すS2006ないしS2008が互いに共同して、同項における「応力/ひずみ推定工程」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、図39に示すS2002が前記(20)項における「暫定的作成工程」の一例を構成し、同図に示すS2005のうち筋モーメントアームを算出するための部分が同項における「第1計算工程」の一例を構成し、同図に示すS2004が同項における「第2計算工程」の一例を構成し、同図に示すS2005のうち筋モーメントアームを再定義するための部分が同項における「筋骨格モデル修正工程」の一例を構成しているのである。
以上、本発明の実施の形態のうちのいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、前記[発明の開示]の欄に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。