JP4823409B2 - セメント成形体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ひび割れ抑制効果に優れたモルタル、コンクリートなどに代表されるセメント成形体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、セメント成形体は土木建築分野等で広く用いられているが、セメント成形体の製造工程で種々の要因によりひび割れが生じやすい問題があった。具体的に説明すると、硬化前のプラスチック状のペーストが収縮することにより生じるプラスチック収縮ひび割れ,乾燥過程で表面からの水の蒸発に内部からの水の拡散が追随できないために生じる乾燥収縮ひび割れ等が生じる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ひび割れの抑制された高性能のセメント成形体を提供することにある。
【0004】
本発明は、(1)親水基を有する油剤を0.001〜1質量%/繊維付着させた繊維径10〜36μmのポリビニルアルコール系繊維を含有するセメント成形体であって、該成形体における単位体積あたりの有機短繊維の総表面積が200〜800mm2であるセメント成形体、(2)界面摩擦接着力が1.5MPa以上のポリビニルアルコール系繊維である(1)に記載のセメント成形体、に関する。
【0005】
【発明の具体的態様】
本発明は、特定の有機短繊維を特定の存在状態となるように配合することにより、高性能のセメント成形体が得られることを見出したものである。まず、本発明者等は、鋭意研究の結果、セメント成形体における単位体積あたりの有機短繊維の総表面積を200〜800mm 2 とする必要があること、すなわちプラスチック収縮抑制効果には繊維本数、繊維径等ではなく単位体積あたりの総表面積により決定されることを見出したものである。単位面積あたりの有機短繊維の総表面積を高めることによってプラスチック収縮ひび割れ効果が向上することから、単位体積あたり(成形体1cm3あたり)の有機短繊維の総表面積を200mm2以上にする必要がある。しかしながら、ある程度以上総表面積を高めてもプラスチック収縮ひび割れ抑制効果はそれほど変化せず、むしろセメントスラリーのスランプ値が低下して施工性が劣化することから、単位体積当りの表面積を800mm2以下とする必要がある。
【0006】
また本発明においては有機短繊維を用いる必要がある。長繊維を用いた場合には繊維を均一に分散させるのが好ましく、またスランプが大きくなるため施工性が低下する。また無機繊維を用いた場合には軽量性等の点で問題が生じる。もちろん、本発明の効果を損わない範囲であれば有機短繊維以外の繊維を配合してもかまわない。
なお、セメントスラリーのスランプは200mm以上、特に210mm以上であるのが好ましく、成形体100000mm2あたりのプラスチック収縮ひび割れ面積は150mm2以下、特に100mm2以下、さらに50mm2以下であるのが好ましい。
【0007】
以上のように、単位体積当りの有機短繊維の表面積を特定範囲とすることにより、施工性及びプラスチック収縮ひび割れ抑制効果の両性能を得ることができるが、本発明者等は、さらに特定の有機短繊維を用いることにより、プラスチック収縮ひび割れのみなく乾燥収縮ひび割れを効果的に抑制できることを見出した。プラスチック収縮ひび割れ及び乾燥収縮ひび割れをともに抑制することにより一層高性能のセメント成形体が得られる。
本発明者等は、乾燥収縮ひび割れを抑制するためには、繊維の少なくとも一部(好適には60質量%以上、さらに好適には80質量%以上)に界面摩擦接着力1.5MPa以上、特に1.8MPa以上の繊維を用いるのが有効であることを見出した。かかる繊維を用いることにより、繊維とマトリックス間の摩擦力が大きくなり、マトリックスが乾燥時に収縮するのを効率的に抑制することが可能になる。界面摩擦接着力の小さい繊維を用いた場合、摩擦力よりもマトリックスの収縮応力が大きくなって繊維とマトリックス間がスリップするため乾燥収縮ひび割れを抑制することは困難である。同一の繊維を用いる場合であっても、適用するセメント成形体を構成するマトリックスにより界面摩擦接着力は変化するため、所望の界面摩擦接着力が奏されるように繊維及びマトリックスを選択するのが好ましい。たとえばセメントとして早強セメントを用いると繊維とセメントの界面が比較的粗いものとなることから、マトリックスとの親和性・摩擦力を一層高めた繊維を用いるのが好ましい。なお成形体100000mm2あたりの乾燥収縮によるひびわれ面積は60mm2以下、特に30mm2以下、さらに20mm2以下であるのが好ましい。
繊維の界面摩擦接着力は実施例に記載の方法で求めることができ、Pb/(πdLe)により算出できる。なおPbは図1に示された特定の応力(最大応力を示した後に応力が低下していく際に、変位と応力が実質的に比例的関係となりはじめる応力 N)、dは繊維直径(mm)、Le(mm)は埋め込み長さである。
【0008】
界面摩擦接着力を高める点からは、マトリックスとの接着性の高い繊維を用いるのが好ましく、具体的に有機短繊維の少なくとも一部にポリビニルアルコール(PVA)系繊維を用いるのが好ましく、有機短繊維の60質量%以上、特に80質量%以上がPVA系繊維であるのがより好ましい。PVA系繊維としては機械的性能、水硬性材料との接着性及び耐アルカリ性の点からは、該ビニルアルコール系ポリマーの含有量が30重量%以上/繊維、特に60重量%以上/繊維、さらに80重量%以上/繊維であるのが好ましい。もちろん、他のポリマーとの複合繊維や海島繊維であってもかまわない。
ビニルアルコール系ポリマーの構成は特に限定されず、本発明の効果を損わない範囲であれば他のユニットにより共重合されていたり、また変性されていてもかまわない。繊維の機械的性能、耐アルカリ性、耐熱水性等の点から変性ユニットは30モル%以下、特に10モル%以下とするのが好ましい。また同理由から30℃の水溶液で粘度法により求めた平均重合度は1000以上、特に1500以上であるのが好ましく、コスト等の点から10000以下、特に5000以下、さらに3000以下であるのが好ましい。また耐熱性、耐久性、寸法安定性等の点からはけん化度は99モル%以上、さらに99.8モル%以上であるのが好ましい。また繊維を均一分散性を高める点からはスラリー混練中に単繊維状態に解離する集束糸を用いるのが好ましい。
【0009】
繊維の界面摩擦接着力を高める具体的手段としては、繊維の表面を改質する方法が好適に挙げられる。たとえば親水基を多く有する油剤を塗布する方法等が挙げられる。該油剤の付着率は用いる繊維、マトリックスの種類等にもよるが、0.001〜1質量%/繊維、特に0.005〜0.1質量%/繊維程度とするのが一般的である。油剤の具体的な種類は、比較的低分子量のPVA樹脂(好適には重合度200〜800のPVA樹脂)、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、アミド樹脂、ポリアミン樹脂、水溶性ウレタン樹脂、多価アルコール誘導体、界面活性剤(アルキルサルフェート系活性剤、アルキルフォスフェート系活性剤、イミダゾリン系活性剤等)などを塗布する方法が挙げられる。複数の油剤を併用してもかまわない。なかでも取扱性、界面摩擦接着力改善効果の点からPVA樹脂がより好ましい。
しかしながら、繊維の界面摩擦接着力が大きくなりすぎてもひび割れ抑制効果はそれほど向上せず、むしろ分散性等が損われやすくなるので、5MPa以下、特に3MPa以下にするのが好ましい。たとえば疎水性の油剤を塗布することにより界面摩擦接着力を低下させることができる。具体的にはポリエチレンワックスエマルジョン、シリコンエマルジョン、パラフィンワックス、フッソ系樹脂、脂肪酸アミド誘導体、アルキルアミド樹脂等が挙げられる。
【0010】
以上のように繊維の界面摩擦接着力を高めることにより乾燥収縮ひび割れを効果的に抑制できるが、繊維の強度が小さすぎると摩擦力に耐えきれなくなったり、繊維性能が損われやすくなることから、繊維強度は300MPa以上、特に500MPa以上、さらに900MPa以上であるのが好ましい。
また本発明に用いられる有機短繊維の1本あたりの表面積は、繊維とマトリックスの摩擦力を高める点、さらに均一分散性を保持する点から50×10−3mm2〜5000×10−3mm2、特に100×10―3mm2〜2000×10―3mm2とするのが好ましい。繊維の繊度は10μm以上のものが使用できる。繊度が小さいとマトリックス中における均一分散性が損われやすくなるだけでなく、折れ曲がりやすくなってマトリックスとの十分な摩擦力が確保できず乾燥収縮を抑制することが困難になりやすい。しかしながら、繊度が大きすぎると所望の表面積とするための添加量が多くなってコスト的に不利となることから、36μm以下のものが好ましい。
【0011】
マトリックスとの接着力を高めて乾燥収縮をより効果的に抑制する点からは繊維長を長くするのが好ましい。繊維長は繊維の種類、マトリックスの種類、繊維径に応じて決定すればよいが、たとえば2mm以上、特に4mm以上とするのが好ましい。しかしながら、繊維が長くなりすぎると繊維の均一分散性が低下したりスラリーのスランプ値が低下しやすくなることから、繊維長20mm以下、特に10mm以下とするのが好ましい。乾燥収縮抑制及び均一分散性の点からは繊維のアスペクト比(繊維長を繊維横断面面積と同一面積を有する円の直径で除した値)は20〜400が好ましく、100〜300がより好ましい。
繊維の添加量(硬化前のマトリックス中に占める繊維の体積分率)はひび割れを十分抑制する点からは0.01体積%以上、特に0.02体積%以上、さらに0.05体積%以上とするのが好ましく、繊維の均一分散性を高め、スランプ値を大きくする点からは0.6体積%以下、さらに0.5体積%以下、またさらに0.1体積%以下とするのが好ましい。
【0012】
本発明に使用されるセメントは特に限定されず、たとえば普通ポルトランドセメントや早強セメントが使用できる。なかでも普通ポルトランドセメントが好適に使用できる。本発明においては、スラリーにおける水/セメント質量比を0.2〜0.7、特に0.3〜0.6とするのが好ましい。またマスコンクリートなどにおいて、内部の水和反応熱による膨張と外部からの冷却による収縮による差から生じる温度収縮ひび割れを抑制するために、高炉スラグ、フライアッシュ等のポゾラン粒子を配合して発熱を抑制するのが好ましい。
また本発明においては、骨材を配合したモルタルやコンクリ−トを用いてセメント成形体を得てもかまわない。骨材としては、細骨材としてたとえば川、海、陸の各砂、破砂、砕石等が用いられ、粗骨材としてたとえばぐり石や破石などが使用できる。また人工の軽量骨材、充填材を配合してもよく、具体的には鉱滓、石灰石、その他発泡パ−ライト、発泡黒よう石、炭酸カルシウム、バ−キュライト、シラスバル−ン等が挙げられる。
【0013】
なお、本発明においては、さらに他の添加剤が添加されていてもかまわない。たとえば流動化剤、減水剤、AE剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、消泡剤、粘性向上剤(メチルセルロース、メチルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等)、収縮低減剤等が挙げられる。たとえば流動化剤、減水剤、AE剤、AE減水剤、高性能AE減水剤を添加することにより繊維によるスランプ低下を抑制できる。スランプ低下抑制の点からは繊維添加前、特に繊維添加の直前に混和するのが好ましい。
【0014】
本発明の成形体はあらゆる方法により形成できる。例えば、吹付成形法、注入成形法(流し込み成形法)、加圧成型法、振動成型法、振動及び加圧併用成型法、遠心力成型法、巻取成型法、真空成型法、そして押出成型法等が利用できる。勿論、左官材料として塗り付けて得られる物品(成形体)も本発明に包含される。
本発明の成形体の具体例としては、スレ−ト板、パイプ類、壁パネル、床パネル、屋根板、間仕切り、道路舗装、土間、トンネルライニング、法面保護、コンクリ−ト工場製品等のすべてのセメント、コンクリ−ト成形物や2次製品に用いることができる。また前述したセメント製品に限らずこれら以外の構造物、建築内外装部材、堰防等の土木材料に応用使用することもできる。また左官用モルタルとして使用してもよく、機械用基礎、原子炉圧力容器、液化天然ガスの容器等として用いてもよい。吹付けによりトンネルや法面の構造体とすることも可能である。
【0015】
以下に本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は実施例により何等限定されるものではない。
【実施例】
[繊度 dtex]
繊維状物の一定試長の重量を測定して見掛け繊度をn=5以上で測定し、平均値を求めた。なお、一定糸長の重量測定により繊度が測定できないもの(細径繊維)はバイブロスコ−プにより測定した。なお、混練成形中に分割して径が変わるテープ状ヤーンについては、混練後のフィブリルの厚さ及び幅から繊度を算出し、n=5以上の平均値を繊度とした。
[繊維強度 MPa]
予め温度20℃、相対湿度65%の雰囲気下で24時間繊維を放置して調湿したのち、単繊維を試長20cm、引張速度10cm/分としてインストロン型試験機「島津製作所製オートグラフ」にて繊維強度を測定した。なお繊維長が20cmより短い場合は、そのサンプルの可能な範囲での最大長さを把持長として測定することとする。
【0016】
[繊維総面積 mm2/cm3]
成形体1cm3あたりの有機単繊維の表面積の総和を算出し、該値を成形体1cm3あたりの繊維とマトリックスの界面の総面積として求めた。
[界面摩擦接着力 MPa]
長さ10cmの試料繊維を、幅2cm,長さ10cm、深さ25mmの型枠に固定し、試料繊維の埋め込み長さが7.5mm、埋め込み方向が垂直なるようにセメント成形体を構成するスラリーと同構成のセメントスラリーを流し込んで打設した。次いで24時間後に脱型し、20℃65RHの気中養生を27日行った後にダイアモンドカッターで切り出し、インストロンで該繊維を硬化体から引抜いて変位―応力曲線を作成し、Pb/(πdLe)により算出した。なおPbは図1に示された特定の応力(最大応力を示した後に応力が低下していく際に、変位と応力が実質的に比例的関係となりはじめる応力 N)、dは繊維直径(mm)、Le(mm)は埋め込み長さである。
【0017】
[プラスチック収縮ひび割れ面積 mm2、乾燥収縮ひび割れ面積 mm2]
得られたスラリーを図2に示される拘束機能を有する鋼製の型枠に打設した。
次いで50℃下の環境下で24時間扇風機の風を当てて水の蒸発を促進させ、打設後24時間経過後のセメント成形体のひび割れを目視により観察した。幅0.1mm以上のひび割れの最大幅及び最大長を測定し、最大ひび割れ幅に最大ひび割れ長を乗じて各ひび割れごとのひび割れ面積を算出し、100000mm2あたりのひび割れ総面積をプラスチック収縮ひび割れ面積として評価した。
次いで同条件で150日間養生した後のセメント成形体の表面を観察し、セメント成形体のひび割れを目視により観察した。幅0.1mm以上のひび割れの最大幅及び最大長を測定し、最大ひび割れ幅に最大ひび割れ長を乗じて各ひび割れごとのひび割れ面積を算出し、100000mm2あたりのひび割れ総面積を求め、該値から100000mm2あたりのプラスチック収縮ひび割れ面積を差し引いた値をプラスチック収縮ひび割れ面積として評価した。
[スランプ mm]
JIS A1101によるコンクリートのスランプ試験方法に準じて、コーン(上辺直径10cm、下辺直径20cm、高さ30cm)にフレッシュコンクリートを所定の手順で満たし且つコーンを引き上げ、崩れたフレッシュコンクリートの上辺部の下がりを測定した。なお広がりが円形にならなかった場合には最大径と最小径の平均値とスランプとして評価した。
【0018】
[実施例1〜5、比較例1〜4]
表1の配合を有するセメントスラリーを強制2軸型ミキサー「スーパーダブルミキサーSD−55(マルイ(株)製)」を用いて混合した。詳細にはまず固形分全量を添加して30秒間攪拌し、次いで水及び減水剤を添加して30秒間混練し、さらにこれを掻き落して90秒間練り混ぜた。さらに繊維を表2に記載されている配合量となるように添加して60秒間混練し、セメントスラリーを製造し、これを打設してセメント成形体を製造した。結果を表2に示す。なお表1に記載の減水剤(高性能AE減水剤)としてはエヌエムビー(株)製 SP−8Nを用い、粗粒率としては、80mm、40mm、20mm、10mm、5mm、2.5mm、1.2mm、0.6mm、0.3mm、0.15mmの各ふるいでふるい分けたとき、それぞれのふるいに残留した成分の質量割合を百分率で示し、かかる質量割合(百分率)の和を100で除した値である。また表2に記載の油剤処理は、親水油剤は重合度500のPVA樹脂を0.01質量%/繊維、疎水油剤はポリエチレンワックスエマルジョン(明性化学製「メイカテックスHP−600」)を0.1質量%/繊維付与したものである。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【図1】 界面摩擦接着力の測定試験を行った際の変位―応力曲線の一例を示した図。
【図2】 ひび割れ総面積の測定に用いられる型枠を模式的に示した図。
Claims (2)
- 親水基を有する油剤を0.001〜1質量%/繊維付着させた繊維径10〜36μmのポリビニルアルコール系繊維を含有するセメント成形体であって、該成形体における単位体積あたりの有機短繊維の総表面積が200〜800mm2であるセメント成形体。
- 界面摩擦接着力が1.5MPa以上のポリビニルアルコール系繊維である請求項1記載のセメント成形体。
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