本発明は、ストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans(S.mutans))の新規血清型株、当該新規血清型株に特異的な抗体、当該抗体を作製する方法、当該抗体を用いる当該新規株を検出するための方法およびキット、ならびに、S.mutansの新規血清型株に特異的な多糖抗原の生合成に関与する酵素をコードするポリヌクレオチド、当該ポリヌクレオチドを用いる当該新規株を検出するための方法およびキットに関する。具体的には、上記抗体と被験体サンプルから抽出した表層多糖抗原とを免疫反応させることによって、または被験体サンプルより抽出したゲノムDNAに対して上記ポリヌクレオチドを用いてハイブリダイゼーションを行うかもしくは上記ポリヌクレオチドを用いてPCR反応を行うことによって、被験体におけるS.mutansの新規血清型株の存在を検出する方法および当該検出方法を行うためのキットに関するものである。
ストレプトコッカス ミュータンス(S.mutans)が、う蝕(むし歯)の原因菌として有名である。う蝕は、S.mutansが発生する酸によって歯が溶出する疾患である。S.mutansは、口腔内で増殖して酵素グルコシルトランスフェラーゼを分泌する。この酵素は、食物中の糖分を分解して不溶性の多糖類グルカンを生成する。生成したグルカンは、S.mutans菌体とともに歯の表面に付着してプラーク(歯垢)を形成する。S.mutansは、プラーク内で糖を代謝して乳酸などの酸を生成する。この酸が歯表面のエナメル質からカルシウムを溶出し、その結果、う蝕が進行する。以上のように、う蝕は、歯科領域において重要な疾患の1つであるので、う蝕の治療および予防に関する研究が進められている。
細菌を分類する公知の方法としては、生理生化学的性状に基づく方法、キノン組成、菌体脂肪酸組成または細胞壁成分等に基づく方法、DNAのG+C含量に基づく方法、DNA相同性に基づく方法、DNAプローブを用いる方法、および16SリボソームRNA(rRNA)遺伝子の塩基配列の解析を行う方法等が挙げられる。特に、近年では、16SリボソームRNA遺伝子の塩基配列に基づいて系統分類したグループ(クラスター)を指標とする細菌の分類および識別が行なわれている。
ミュータンス連鎖球菌(mutans streptococci)は、その細胞壁多糖類の組成およびその連鎖における相違に基づいて、Streptococcus mutans(S.mutans)(血清型c、e、f)、Streptococcus sobrinus(血清型d、g)、Streptococcus cricetus(血清型a)、Streptococcus rattus(血清型b)、Streptococcus ferus(血清型c)、Streptococcus macacae(血清型c)、及びStreptococcus downei(血清型h)の計8つの血清型に分類される。
さらに、S.mutansは、感染性心内膜炎(Infective Endocarditis;IE)患者の血液より分離されることがある。感染性心内膜炎は、歯科領域において最も良く知られている全身性疾患の一つである。感染性心内膜炎は致死的な感染症であり、心臓弁置換術を受けた患者または心臓に先天性奇形を有する患者が罹患しやすいとされる。感染性心内膜炎は、歯科治療によって患者の血液中に原因菌が侵入し、心内膜に細菌塊を形成して炎症を引き起こす。この原因菌は、口腔に存在する連鎖球菌(特に、Streptococcus sanguinis)であることが多いが、S.mutansもまた原因菌として挙げられ得る。
通常、感染性心内膜炎を発症する患者を歯科治療する場合は、治療の前に抗生物質の投与が行なわれ、そして抗生物質の血中濃度が上昇してから下降するまでの間に治療が行なわれる(非特許文献1および2参照)。
Dajani A.S.et al.,Prevention of Bacterial Endocarditis;Recommendations by the American Heart Association.Circulation 1997 96:358−366.
Nakatani S et al.,Current characteristics of infective endocarditis in Japan;an analysis of 848 cases in 2000 and 2001.Circ.J.2003 67:901−905.
感染性心内膜炎を予防するために、多量の抗生物質が使用される。例えば、ペニシリン系抗生物質であるサワシリンは、体重25kgの子供に1回につき1000mgがカプセルまたは粉末にて術前投与される。
このような多量の抗生物質は、医学的に必要である。しかし、抗生物質の乱用に起因する薬剤耐性菌の出現は、近年大きな問題となっている。従って、抗生物質の使用量を減らすこと、および抗生物質の使用による耐性菌出現を抑制することは、有用である。
本発明者らの以前の研究において、抜歯処置の後の菌血症患者または感染性心内膜炎患者から分離した4つの連鎖球菌株は、その生物学的な性質および16SリボソームRNAの塩基配列に基づいてS.mutans株と特定された(非特許文献3参照)。通常、S.mutans株は、その約80%以上が血清型cに分類されるが、上記患者の血液から分離した4株のS.mutansはいずれも血清型cではなかった。これらの株のうち、1株が血清型e、1株が血清型fであり、残りの2つの株(TW295及びTW871)は、公知の血清型(c型、e型またはf型)のいずれにも属さず、血清学的に不定であった。
S.mutans株の血清型を決定する血清型特異的な多糖抗原は、ラムノース基本骨格とα−又はβ−結合のグルコシド基側鎖とを有するラムノース−グルコースポリマーからなる。上記TW295株及びTW871株の血清学的に不定であるという性質は、血清型特異的な多糖抗原におけるグルコース側鎖の量の低下に起因することが示された。さらに、血清学的に不定な株(便宜上、S.mutansの血清型不定株と称する)TW295及びTW871における血清型特異多糖抗原は、gluA遺伝子(グルコース側鎖ドナーにおける直前の前駆体の生産を触媒する酵素をコードする)を不活性化した変異株における血清型特異多糖抗原と類似しており、gluA遺伝子不活化変異株およびS.mutansの血清型不定株のいずれにおいても、血清型特異多糖抗原のグルコースの量は低い。
また、S.mutansの血清型不定株は、口腔から分離した株と同じくらい高い疎水性とショ糖依存的付着能とを有することが示され、また、食作用を受けにくいことが明らかになった。
Fujiwara,T.,K.Nakano,M.Kawaguchi,T.Ooshima,S.Sobue,S.Kawabata,I.Nakagawa,and S.Hamada.2001.Biochemical and genetic characterization of serologically untypable Streptococcus mutans strains isolated from patients with bacteremia.Eur.J.Oral Sci.109:330−334.
上記の知見は、高い疎水性とショ糖依存的な付着レベルとに起因して、S.mutansの血清型不定株がヒトの口腔に存在し得ることを意味する。さらに、S.mutansの血清型不定株は、食作用を受けにくいために、血液中においてより長く生存することが可能になり、その結果、血液より分離されたと考えられる。
感染性心内膜炎を予防するために、患者が感染性心内膜炎の原因菌(例えば、S.mutansの血清型不定株)を保有するか否かを簡便に同定することが、非常に望まれている。さらに、感染性心内膜炎の原因菌を特定することは、治療に用いる抗生物質を選択する際に有用である。しかし、患者が感染性心内膜炎の原因菌を保有するか否かを簡便に同定する方法や、感染性心内膜炎の原因菌を特定する方法は、未だ開発途上である。
上述したように、S.mutansの血清型不定株は血液中でも安定であり、その結果、S.mutansの血清型不定株が感染した患者は感染性心内膜炎を発症する可能性が高いと考えられる。S.mutansの血清型不定株は、死に至る可能性がある感染性心内膜炎の発症を予防する観点から重要であると考えられているので、S.mutansの血清型不定株の分離および同定が、特に望まれる。
本発明の目的は、当該S.mutansの血清型不定株を分離および同定して、被験体中に存在するか否かを有効かつ効率的に判定する方法を提供することにある。
本発明者等は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、免疫方法に改良を加えることによって、S.mutansの血清型不定株に対する抗血清を取得し、S.mutansの血清型不定株を新規血清型(k型)と定義した。
この新規血清型k型を規定する多糖抗原を解析するために、S.mutans多糖抗原の生合成に関与する酵素(rgpA、rgpB、rgpC、rgpD、rgpE、rgpF、ORF7、rgpH、rgpIおよびORF10)をコードする遺伝子の全配列を、当該k型株において特定した。これらの遺伝子配列についてk型株と既知の血清型S.mutans株との間で比較して、rgpFにおいて複数のk型株に共通した特異配列が存在することを見出した。さらに本発明者らは、rgpFにおいて見出されたS.mutansのk型株に特異的な塩基配列に基づいて設計したプライマーを用いて、被験体より得られた組織サンプルをPCR増幅することによって、当該被験体におけるS.mutansの血清型不定株の存在を有効かつ効率的に検出することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明のポリヌクレオチドまたはそのフラグメントは、ストレプトコッカス ミュータンスの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下したストレプトコッカス ミュータンス株に特異的な塩基配列あるいは当該塩基配列の相補配列を含むことを特徴としている。
好ましくは、本発明のポリヌクレオチドまたはそのフラグメントは、ストレプトコッカス ミュータンス特異的な多糖抗原のグルコース側鎖量を低下させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであることを特徴としている。
上記ポリヌクレオチドは、
配列番号1ないし4の何れか1つに示される塩基配列;または
配列番号1ないし4の何れか1つに示される塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列、
からなることを特徴とするポリヌクレオチドであることが好ましい。
上記ポリヌクレオチドはまた、
配列番号1ないし4の何れか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
配列番号1ないし4の何れか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
であることが好ましい。
さらに好ましくは、上記ポリヌクレオチドは、配列番号1ないし4の何れか1つに示される塩基配列からなることを特徴としている。
上記構成によれば、新規血清型を有するストレプトコッカス ミュータンス株に特異的に存在するポリヌクレオチドを提供することができる。
即ち、本発明のオリゴヌクレオチドは、ストレプトコッカス ミュータンスの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下したストレプトコッカス ミュータンス株に特異的な塩基配列あるいは当該塩基配列の相補配列を含むことを特徴としている。
好ましくは、上記オリゴヌクレオチドは、配列番号1ないし4の何れか1つに示される塩基配列の少なくとも12個連続する塩基配列またはその相補配列を含むことを特徴としている。
上記オリゴヌクレオチドは、配列番号8ないし10に示される塩基配列またはその相補配列を含むことが好ましい。
上記構成によれば、新規血清型を有するストレプトコッカス ミュータンス株を特異的に検出することに優れたオリゴヌクレオチドを提供することができる。
即ち、本発明のポリペプチドは、ストレプトコッカス ミュータンス特異的な多糖抗原のグルコース側鎖量を低下させることを特徴としている。
好ましくは、本発明のポリペプチドは、上記ポリヌクレオチドまたはそのフラグメントによってコードされることを特徴としている。
さらに好ましくは、本発明のポリペプチドは、配列番号1ないし4の何れか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされることを特徴としている。
上記構成によれば、ストレプトコッカス ミュータンスの血清型c、eまたはfの株以外の新規血清型を有するストレプトコッカス ミュータンス株に特異的に存在するポリペプチドを提供することができる。
即ち、本発明のストレプトコッカス ミュータンス株は、ストレプトコッカス ミュータンス特異的な多糖抗原のグルコース側鎖量が低下していることを特徴とする。
好ましくは、本発明のストレプトコッカス ミュータンス株は、ストレプトコッカス ミュータンスの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下した新規血清型であることを特徴としている。
1つの局面において、本発明のストレプトコッカス ミュータンス株は、上記ポリヌクレオチドを有することが好ましい
他の局面において、本発明のストレプトコッカス ミュータンス株は、上記ポリペプチドを発現することが好ましい。
上記構成によれば、既知の血清型を有するストレプトコッカス ミュータンスに関する新たな知見を加えるとともに、既知の血清型を有するストレプトコッカス ミュータンスだけでは解明できなかった疾患の治療および/または予防に有用であるストレプトコッカス ミュータンス株を提供することができる。
即ち、本発明の抗体は、上記の課題を解決するために、ストレプトコッカス ミュータンスの血清型c、eまたはfの株に特異的な多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下したストレプトコッカス ミュータンス株の多糖抗原に特異的に結合することを特徴としている。
即ち、本発明の抗体は、ストレプトコッカス ミュータンスの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下したストレプトコッカス ミュータンス株に特異的な多糖抗原に結合することを特徴としている。
好ましくは、本発明の抗体は、上記ストレプトコッカス ミュータンス株の血清型特異多糖抗原と特異的に結合することを特徴とする。
上記構成によれば、ストレプトコッカス ミュータンスの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下したストレプトコッカス ミュータンス株、すなわち、新規血清型を有するストレプトコッカス ミュータンス株を検出するために有用な抗体を提供することができる。
即ち、本発明の被験体サンプル中のストレプトコッカス ミュータンス株を検出する方法は、上記オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCR反応を行なう工程を包含することを特徴とする。
好ましくは、本発明の被験体サンプル中のストレプトコッカス ミュータンス株を検出する方法は、被験体サンプルより細菌を分離する工程、および、上記分離した細菌のゲノムDNAまたは総RNAを抽出する工程をさらに包含することを特徴とする。
本発明の被験体サンプル中のストレプトコッカス ミュータンス株を検出する方法において、上記組織サンプルは血液、唾液または歯垢より得られることが好ましい。
本発明の被験体サンプル中のストレプトコッカス ミュータンス株を検出する方法において、上記プライマーは、配列番号8に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号9または10に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであることが好ましい。
即ち、上記構成によれば、新規血清型を有するストレプトコッカス ミュータンス株の血清型特異多糖抗原の生合成に重要な酵素をコードする遺伝子の存在を検出して当該新規血清型株の存在を知ることができる。
即ち、本発明の被験体サンプル中のストレプトコッカス ミュータンス株を検出する方法は、上記の課題を解決するために、上記オリゴヌクレオチドをプローブとして用いてハイブリダイゼーション反応を行なう工程を包含することを特徴とする。
好ましくは、本発明の被験体サンプル中のストレプトコッカス ミュータンス株を検出する方法は、被験体サンプルより細菌を分離する工程、および、上記分離した細菌のゲノムDNAまたは総RNAを抽出する工程をさらに包含することを特徴とする。
本発明の被験体サンプル中のストレプトコッカス ミュータンス株を検出する方法において、上記組織サンプルは、血液、唾液または歯垢より得られることが好ましい。
本発明の被験体サンプル中のストレプトコッカス ミュータンス株を検出する方法において、上記オリゴヌクレオチドは、配列番号8ないし10の何れかに示される塩基配列からなることが好ましい。
本発明の被験体サンプル中のストレプトコッカス ミュータンス株を検出する方法において、上記細菌を分離する工程が上記抗体を用いることが好ましい。
即ち、本発明のハイブリダイゼーション反応によってストレプトコッカス ミュータンスの血清型を判定する方法は、上記の課題を解決するために、上記ハイブリダイゼーション反応に使用されるプローブとして、ストレプトコッカス ミュータンスの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下したストレプトコッカス ミュータンス株に特異的な塩基配列あるいは当該塩基配列の相補配列を含むオリゴヌクレオチドが用いられるとともに、上記特異的な塩基配列が、配列番号1ないし4の何れか1つに示される塩基配列の少なくとも12個連続する塩基配列であることを特徴としている。
好ましくは、本発明のハイブリダイゼーション反応によってストレプトコッカス ミュータンスの血清型を判定する方法は、さらに、上記ハイブリダイゼーション反応に使用されるプローブとして、ストレプトコッカス ミュータンスの血清型c、eまたはfの株に特異的な塩基配列の少なくとも12個連続する塩基配列あるいは当該塩基配列の相補配列を含むオリゴヌクレオチドが用いられることを特徴としている。
好ましくは、本発明のハイブリダイゼーション反応によってストレプトコッカス ミュータンスの血清型を判定する方法は、さらに、被験体の組織サンプルから染色体DNAまたは総RNAを得ることを特徴としている。
好ましくは、本発明のハイブリダイゼーション反応によってストレプトコッカス ミュータンスの血清型を判定する方法は、さらに、上記組織サンプルが血液、唾液または歯垢より得られることを特徴としている。
好ましくは、本発明の本発明のハイブリダイゼーション反応によってストレプトコッカス ミュータンスの血清型を判定する方法は、さらに、唾液または歯垢より菌を分離する工程を包含することを特徴としている。
上記構成によれば、ストレプトコッカス ミュータンスの血清型c、eまたはfの株に特異的な多糖類のグルコース側鎖の量が低下したストレプトコッカス ミュータンス株を特異的に検出することに優れたストレプトコッカス ミュータンスの血清型を判定する方法を提供することができる。
即ち、上記構成によれば、新規血清型を有するストレプトコッカス ミュータンス株の血清型特異多糖抗原の生合成に重要な酵素を検出して当該新規血清型株の存在を知ることができる。
即ち、本発明のストレプトコッカス ミュータンスの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下したストレプトコッカス ミュータンス株を検出する方法は、上記の課題を解決するために、上記の抗体を用いて免疫反応を行う工程を包含することを特徴としている。
好ましくは、本発明の被験体サンプル中のストレプトコッカス ミュータンス株を検出する方法は、
被験体サンプルより細菌を分離する工程;
上記分離した細菌と請求の範囲第9項に記載の抗体をインキュベートする工程;
および
上記抗体と結合した細菌を検出する工程、
を包含することを特徴とする。
上記構成によれば、新規血清型を有するストレプトコッカス ミュータンスの有用な検出方法を提供することができる。
即ち、本発明の被験体中のストレプトコッカス ミュータンス株の血清型を判定する方法は、上記ストレプトコッカス ミュータンス株を検出する方法を用いることを特徴とする。
即ち、本発明のPCR反応によってS.mutansの血清型を判定する方法は、上記の課題を解決するために、上記PCR反応に使用されるプライマーとして、S.mutansの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下したS.mutans株に特異的な塩基配列あるいは当該塩基配列の相補配列を含むオリゴヌクレオチドが用いられるとともに、上記特異的な塩基配列が、配列番号1ないし4の何れか1つに示される塩基配列の少なくとも12個連続する塩基配列であることを特徴としている。
好ましくは、本発明のPCR反応によってストレプトコッカス ミュータンスの血清型を判定する方法は、さらに、上記PCR反応に使用されるプライマーとして、ストレプトコッカス ミュータンスの血清型c、eまたはfの株に特異的な塩基配列の少なくとも12個連続する塩基配列あるいは当該塩基配列の相補配列を含むオリゴヌクレオチドが用いられることを特徴としている。
好ましくは、本発明のPCR反応によってストレプトコッカス ミュータンスの血清型を判定する方法は、さらに、被験体の組織サンプルから染色体DNAまたは総RNAを得ることを特徴としている。
好ましくは、本発明のPCR反応によってストレプトコッカス ミュータンスの血清型を判定する方法は、さらに、上記組織サンプルが血液、唾液または歯垢より得られることを特徴としている。
好ましくは、本発明のPCR反応によってストレプトコッカス ミュータンスの血清型を判定する方法は、さらに、唾液または歯垢より菌を分離する工程を包含することを特徴としている。
上記構成によれば、ストレプトコッカス ミュータンスの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下したストレプトコッカス ミュータンス株を特異的に検出することに優れたストレプトコッカス ミュータンスの血清型を判定する方法を提供することができる。
即ち、本発明のストレプトコッカス ミュータンスの血清型を判定する方法は、上記の課題を解決するために、ストレプトコッカス ミュータンスの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下したストレプトコッカス ミュータンス株に特異的に結合する抗体を用いることを特徴としている。
好ましくは、本発明のストレプトコッカス ミュータンスの血清型を判定する方法は、さらに、ストレプトコッカス ミュータンスの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下したストレプトコッカス ミュータンス株に特異的に結合する抗体を用いることを特徴としている。
上記構成によれば、ストレプトコッカス ミュータンスの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下したストレプトコッカス ミュータンス株を特異的に検出することに優れたストレプトコッカス ミュータンスの血清型を判定する方法を提供することができる。
即ち、本発明のストレプトコッカス ミュータンス株のスクリーニング方法は、上記のストレプトコッカス ミュータンス株を検出する方法を用いることを特徴とする。
即ち、本発明のストレプトコッカス ミュータンスの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下したストレプトコッカス ミュータンス株をスクリーニングする方法は、上記のポリヌクレオチドまたはそのフラグメントを用いることを特徴としている。
好ましくは、本発明のストレプトコッカス ミュータンスの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下したストレプトコッカス ミュータンス株をスクリーニングする方法は、上記のポリヌクレオチドまたはそのフラグメントがPCR反応に用いられることを特徴としている。
好ましくは、本発明のストレプトコッカス ミュータンスの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下したストレプトコッカス ミュータンス株をスクリーニングする方法は、上記のポリヌクレオチドまたはそのフラグメントがハイブリダイゼーション反応に用いられることを特徴としている。
好ましくは、本発明のストレプトコッカス ミュータンスの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下したストレプトコッカス ミュータンス株をスクリーニングする方法は、上記の抗体を用いることを特徴としている。
上記構成によれば、ストレプトコッカス ミュータンスの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下したストレプトコッカス ミュータンス株のスクリーニングに優れた方法を提供することができる。
即ち、本発明のストレプトコッカス ミュータンス株は、上記のスクリーニング方法によって取得されることを特徴とする。
即ち、本発明のストレプトコッカス ミュータンスの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下したストレプトコッカス ミュータンス株は、上記のスクリーニング方法によって分離されることを特徴としている。
上記構成によれば、新たにスクリーニングされたストレプトコッカス ミュータンスの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下したストレプトコッカス ミュータンス株を提供することができる。
即ち、本発明のストレプトコッカス ミュータンスの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下したストレプトコッカス ミュータンス株は、上記の課題を解決するために、上記のスクリーニング方法によってスクリーニングされることを特徴としている。
上記構成によれば、新規血清型を有するストレプトコッカス ミュータンス株をさらに提供することができる。
即ち、本発明のストレプトコッカス ミュータンス株を検出するためのキットは、上記のオリゴヌクレオチドを備えることを特徴とする。
本発明のストレプトコッカス ミュータンス株を検出するためのキットにおいて、上記オリゴヌクレオチドは配列番号9に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであることが好ましい。
本発明のストレプトコッカス ミュータンス株を検出するためのキットにおいて、配列番号8に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをさらに備えることが好ましい。
本発明のストレプトコッカス ミュータンス株を検出するためのキットにおいて、配列番号10に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをさらに備えることが好ましい。
本発明のストレプトコッカス ミュータンス株を検出するためのキットは、PCR反応またはハイブリダイゼーション反応に用いることが好ましい。
即ち、本発明のストレプトコッカス ミュータンスの血清型を判定するためのキットは、上記の課題を解決するために、ストレプトコッカス ミュータンスの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下したストレプトコッカス ミュータンス株に特異的である塩基配列あるいは当該塩基配列の相補配列を含むオリゴヌクレオチドを備えるとともに、上記特異的な塩基配列が、配列番号1ないし4の何れか1つに示される塩基配列の少なくとも12個連続する塩基配列であることを特徴としている。
好ましくは、本発明のストレプトコッカス ミュータンスの血清型を判定するためのキットは、さらに、ストレプトコッカス ミュータンスの血清型c、eまたはfの株に特異的な塩基配列の少なくとも12個連続する塩基配列またはその相補配列を含むオリゴヌクレオチドを備えることを特徴としている。
好ましくは、本発明のストレプトコッカス ミュータンスの血清型を判定するためのキットは、さらに、被験体の組織サンプルから染色体DNAまたは総RNAを得るための試薬を含むことを特徴としている。
好ましくは、本発明のストレプトコッカス ミュータンスの血清型を判定するためのキットは、さらに、上記組織サンプルが血液、唾液または歯垢より得られることを特徴としている。
好ましくは、本発明のストレプトコッカス ミュータンスの血清型を判定するためのキットは、さらに、唾液または歯垢より菌を分離するための試薬を含むことを特徴としている。
好ましくは、本発明のストレプトコッカス ミュータンスの血清型を判定するためのキットは、さらに、PCR反応に用いるための試薬を含むことを特徴としている。
好ましくは、本発明のストレプトコッカス ミュータンスの血清型を判定するためのキットは、さらに、ハイブリダイゼーション反応に用いるための試薬を含むことを特徴としている。
好ましくは、本発明のストレプトコッカス ミュータンスの血清型を判定するためのキットは、さらに、上記オリゴヌクレオチドが標識されていることを特徴としている。
上記構成によれば、ストレプトコッカス ミュータンスの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下したストレプトコッカス ミュータンス株を特異的に検出することに優れたストレプトコッカス ミュータンスの血清型を判定するためのキットを提供することができる。
即ち、上記構成によれば、新規血清型を有するストレプトコッカス ミュータンス株に特異的な多糖抗原の生合成に重要な酵素をコードする遺伝子の存在を検出して当該新規血清型株の存在を知ることができる。
即ち、本発明のストレプトコッカス ミュータンスの血清型を判定するためのキットは、上記の課題を解決するために、ストレプトコッカス ミュータンスの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下したストレプトコッカス ミュータンス株に特異的に結合する抗体を備えることを特徴としている。
好ましくは、本発明のストレプトコッカス ミュータンスの血清型を判定するためのキットは、新規血清型を有するストレプトコッカス ミュータンス株に特異的に結合する上記抗体を備えることを特徴とする。
上記構成によれば、新規血清型を有するストレプトコッカス ミュータンス株の検出に有用なキットを提供することができる。
好ましくは、本発明のストレプトコッカス ミュータンスの血清型を判定するためのキットは、さらに、ストレプトコッカス ミュータンスの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下したストレプトコッカス ミュータンス株の多糖抗原に特異的に結合する抗体を備えることを特徴としている。
上記構成によれば、ストレプトコッカス ミュータンスの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下したストレプトコッカス ミュータンス株、すなわち、新規血清型を有するストレプトコッカス ミュータンス株を特異的に検出することに優れたストレプトコッカス ミュータンスの血清型を判定するためのキットを提供することができる。
即ち、本発明の抗体の製造方法は、上記の課題を解決するために、従来の免疫方法を改良していることを特徴としている。
1つの局面において、本発明の抗体の製造方法は、リン酸緩衝化生理食塩水に懸濁した上記ストレプトコッカス ミュータンス株を5日間連続でウサギ耳介静脈に注射する工程を包含することが好ましい。
本発明の抗体の製造方法は、1週間間隔をあけた後、さらなる2週間において1週間に5日間ずつリン酸緩衝化生理食塩水に懸濁した上記ストレプトコッカス ミュータンス株を反復注射する工程をさらに包含することが好ましい。
上記方法によれば、ストレプトコッカス ミュータンスの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下したストレプトコッカス ミュータンス株、すなわち、新規血清型を有するストレプトコッカス ミュータンス株に特異的に結合する抗体の製造方法を提供することができる。
上記構成によれば、従来の免疫方法では取得し得なかった新規血清型を有するストレプトコッカス ミュータンス表層抗原に対する抗体を提供することができる。
即ち、本発明の細菌検出器具は、新規血清型を有するストレプトコッカス ミュータンス株に特異的な塩基配列またはその相補配列を含むオリゴヌクレオチドが基板上に固定化されていることを特徴としている。
好ましくは、本発明の細菌検出器具において、上記塩基配列は、新規血清型を有するストレプトコッカス ミュータンス株に特異的な多糖抗原の生合成に重要な酵素をコードするポリヌクレオチドの塩基配列の少なくとも12個連続する塩基配列であることを特徴としている。
上記構成によれば、サンプル中に含まれる新規血清型を有するストレプトコッカス ミュータンス株を検出・同定することができる。
さらに上記構成によれば、サンプル中に含まれるストレプトコッカス ミュータンス株の網羅的な検査を行なうことができる。
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
A〜Eは、S.mutansのTW295株に特異的な抗血清およびTW871株に特異的な抗血清と、TW295株、TW871株、c型株、e型株およびf型株から調製したランツ−ランドール(RR)抗原との反応を示す図である。
A〜Cは、S.mutansにおけるPA、CA−GTFおよびCF−GTFの発現のウエスタンブロットの結果を示す図である。
A・Bは、S.mutansの口腔分離株および血液分離株の食作用率を示す図である。
S.mutansの血清型c型とk型とにおけるrgpF遺伝子前半部の塩基配列を比較することにより、変異の存在を示す図である。
S.mutansの血清型c型とk型とにおけるrgpF遺伝子前半部の塩基配列を比較する図であり、図4の続きを示す。
S.mutansの血清型c型とk型とにおけるrgpF遺伝子前半部の塩基配列を比較する図であり、図5の続きを示す。
S.mutansの血清型c型とk型とにおけるrgpF遺伝子前半部の塩基配列を比較する図であり、図6の続きを示す。
S.mutansの血清型c型とk型とにおけるrgpF遺伝子前半部の塩基配列を比較する図であり、図7の続きを示す。
S.mutansの血清型c型とk型とにおけるrgpF遺伝子前半部の塩基配列を比較する図であり、図8の続きを示す。
S.mutansの血清型c型とk型とにおけるrgpF遺伝子前半部の塩基配列を比較する図であり、図9の続きを示す。
S.mutansの血清型c型とk型とにおけるrgpF遺伝子前半部の塩基配列を比較する図であり、図10の続きを示す。
S.mutansの血清型c型とk型とにおけるrgpF遺伝子前半部の塩基配列を比較する図であり、図11の続きを示す。
S.mutansの血清型c型とk型とにおけるrgpF遺伝子前半部の塩基配列を比較する図であり、図12の続きを示す。
S.mutansの血清型c型とk型との塩基配列を整列させて、rgpF遺伝子前半部の塩基配列を比較した図である。
至適なPCR条件を示す図である。
MT8148株(c型)、TW295株(k型)およびFT1株(k型)から抽出したゲノムDNAを希釈しそれをテンプレートにして血清型に特異的なプライマーを用いてPCR増幅して検出感度を求めた結果を示す図である。
A・Bは、種々の血清型のS.mutans株および種々の連鎖球菌から抽出したゲノムDNAをテンプレートにして血清型特異的プライマーを用いてPCR増幅した結果を示す図である。
A・Bは、唾液サンプルから抽出したゲノムDNAをテンプレートにして血清型特異的プライマーを用いてPCR増幅した結果を示す図である。
A・Bは、S.mutansにおけるCA−GTF発現およびCF−GTF発現のウエスタンイムノブロット検出を示す。
本発明の実施の一形態について以下に詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではない。
(1)血清型kのS.mutans株
S.mutansは、感染性心内膜炎を発症する患者の血液より時折単離されるが、その侵入機構および生存機構は、解明の余地を残す。菌血症または感染性心内膜炎を発症する患者より得た4つの血液分離株のうち2つ(TW295株およびTW871株)は、免疫沈降試験によると血清学的に不定であった。
これらの血清型不定株に対する抗血清を用いる免疫拡散分析は、100人の被験体より得た100株の口腔分離株のうち2つが陽性反応を示した。50人の被験体より得た2500株の口腔分離株に対するさらなる免疫拡散分析において、単一の患者より得た50個の分離株全てが抗c型抗血清、抗e型抗血清、および抗f型抗血清と反応しないが、抗TW295抗血清および抗TW871抗血清と反応した。これらの株は、対照株であるS.mutans株MT8148と同様の生物学的特性(例えば、高レベルのショ糖依存的吸着および菌体疎水性、ならびにグルコシルトランスフェラーゼおよびタンパク質抗原(PA)の発現)を示した。本発明者らは、この生物を血清型kと名付けた。
本発明者らは、ヒト血液サンプルおよび口腔サンプルより血清型kの新たなS.mutans株を分離し、そして特徴付けた。血清型k株の血清学的特徴は、MT8148のgluA不活化変異株(MT8148GD)の特徴と同様であることを見出した。
血清型kの口腔分離株は、血液分離株およびMT8148GDと同様に食作用に抵抗性を示した。これらの結果は、S.mutans血清型k株がヒトロ腔内に存在するだけでなく、食作用に対する低い感受性に起因して血液中で生存し得るということを示す。
MT8148GDは、ガラス表面に対するショ糖依存的付着、唾液で被覆したヒドロキシアパタイトに対するショ糖非依存的付着、デキストラン結合活性、および菌体結合型(cell−associated)グルコシルトランスフェラーゼ(GTF)活性などの生物学的特性に関して、その親株であるMT8148株よりも有意に低い。
さらに、ウエスタンブロット分析は、血清型kにおけるGTFB/GTFCの発現率比がMT8148より減少したことを示したが、ラットに対するう蝕誘発能は、MT8148、MT8148GDおよび血清型kの口腔分離株の間で同程度であった。
これらの結果は、S.mutansの血清型特異的多糖におけるグルコース側鎖の欠失がう蝕誘発能と関連し得るが、その他の主要な表層タンパク質(例えば、GTF、PAc等)よりもその程度が低いということを示す。
本発明において、従来の免疫方法に改良を加えることによって、血清型kのS.mutans株に対する抗血清が取得された。S.mutans株の血清型特異多糖抗原の生合成に関わる遺伝子群の配列を特定して血清型kと既知株とを比較した結果、血清型kのS.mutans株に共通して存在するrgpF遺伝子の配列において変異が同定された。
(A)ポリヌクレオチド
本発明は、ストレプトコッカス ミュータンス特異的な多糖抗原のグルコース側鎖量を低下させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。本明細書中において使用される場合、「ストレプトコッカス ミュータンス特異的な多糖抗原のグルコース側鎖量を低下させるポリペプチド」は、「血清型kのS.mutans株に特異的な多糖抗原の生合成に関与するポリペプチド」または「血清型kのS.mutans株の血清型特異多糖抗原の生合成に関与するポリペプチド」と置換可能に使用される。一実施形態において、本発明は、配列番号1ないし4の何れか1つに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドまたはそのフラグメントを提供する。本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。本明細書中で使用される場合、用語「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。また、「配列番号1ないし4の何れか1つに示される塩基配列を含むポリヌクレオチドまたはそのフラグメント」とは、配列番号1ないし4の各デオキシヌクレオチドA、G、Cおよび/またはTによって示される配列を含むポリヌクレオチドまたはその断片部分が意図される。
本発明に係るポリヌクレオチドは、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖または一本鎖であり得る。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖としても知られる)であり得るか、またはそれは、非コード鎖(アンチセンス鎖としても知られる)であり得る。
本明細書中で使用される場合、用語「オリゴヌクレオチド」は、ヌクレオチドが数個ないし数十個結合したものが意図され、「ポリヌクレオチド」と交換可能に使用される。オリゴヌクレオチドは、短いものはジヌクレオチド(二量体)、トリヌクレオチド(三量体)といわれ、長いものは30マーまたは100マーというように重合しているヌクレオチドの数で表される。オリゴヌクレオチドは、より長いポリヌクレオチドのフラグメントとして生成されても、化学合成されてもよい。
本発明のポリヌクレオチドのフラグメントは、少なくとも12nt(ヌクレオチド)、好ましくは約15nt、そしてより好ましくは少なくとも約20nt、なおより好ましくは少なくとも約30nt、そしてさらにより好ましくは少なくとも約40ntの長さのフラグメントが意図される。例えば、「配列番号1ないし4の何れか1つに示されるヌクレオチド配列の少なくとも20ntの長さのフラグメント」によって、配列番号1ないし4の何れか1つに示されるヌクレオチド配列からの20以上の連続した塩基を含むフラグメントが意図される。本明細書を参照すれば配列番号1ないし4の何れか1つに示されるヌクレオチド配列が提供されるので、当業者は,このようなDNAフラグメントを容易に作製することができる。例えば、制限エンドヌクレアーゼ切断または超音波による剪断は、種々のサイズのフラグメントを作製するために容易に使用され得る。あるいは、このようなフラグメントは、合成的に作製され得る。適切なフラグメント(オリゴヌクレオチド)が、Applied Biosystems Incorporated(ABI,850 Lincoln Center Dr.,Foster City,CA 94404)392型シンセサイザーなどによって合成される。
本発明は、血清型kのS.mutans株に特異的な多糖抗原の生合成に関与するポリペプチドをコードするか否かに関係なく、配列番号1ないし4の何れか1つに示される塩基配列の少なくとも12個連続する配列またはその相補配列からなるポリヌクレオチドに関する。特定のポリヌクレオチドが血清型kの血清型kのS.mutans株に特異的な多糖抗原の生合成に関与するポリペプチドをコードしない場合でさえ、当業者は、上記ポリヌクレオチドが、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のプライマー、またはハイブリダイゼーションプローブとして使用され得ることを容易に理解する。本発明のポリヌクレオチドは、血清型kのS.mutans株に特異的な多糖抗原の生合成に関与するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを特異的にPCR増幅できるので、本発明のポリヌクレオチドは、血清型kのS.mutans株に特異的な多糖抗原の生合成に関与するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズするハイブリダイゼーションプローブとしてもまた利用可能である。血清型kのS.mutans株に特異的な多糖抗原の生合成に関与するポリペプチドをコードしない本発明のポリヌクレオチドの他の用途としては、Vermaら、Human Chromosomes:a Manual of Basic Techniques,Pergamon Press,New York(1988)に記載の、正確な染色体位置を提供するための分裂中期染色体展開物に対するインサイチュハイブリダイゼーション(例えば、FISH);および、特定の組織における血清型kのS.mutans株に特異的な多糖抗原の生合成に関与するポリペプチドに関するmRNA発現を検出するためのノーザンブロット分析が挙げられる。
例えば、「長さが少なくとも20nt」のポリヌクレオチドの部分によって、参照のポリヌクレオチドのヌクレオチド配列からの20以上の隣接したヌクレオチドが意図される。好ましい実施形態において、本発明のこのような部分は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による標的配列の増幅のためのプライマーとして、または従来のDNAハイブリダイゼーション技術に従ったプローブとしてのいずれかで診断的に有用である。
別の局面において、本発明は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、上記の本発明のポリヌクレオチド(例えば、配列番号1ないし4の何れか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド)またはその一部にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、単離したポリヌクレオチドを提供する。用語「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄することが意図される。ポリヌクレオチドの「一部」にハイブリダイズするポリヌクレオチドによって、参照のポリヌクレオチドの少なくとも約15ヌクレオチド(nt)、そしてより好ましくは少なくとも約20nt、さらにより好ましくは少なくとも約30nt、そしてさらにより好ましくは約30〜70ntにハイブリダイズするポリヌクレオチド(DNAまたはRNAのいずれか)が意図される。これらは、本明細書中においてより詳細に考察されるような診断用プライマーおよび診断用プローブとして有用である。
血清型kのS.mutans株の血清型特異多糖抗原の生合成に関与するポリペプチドをコードする本発明のポリヌクレオチドとしては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:それ自体によって、成熟ポリペプチドのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド;成熟したポリペプチドのコード配列およびさらなる配列(例えば、リーダー配列をコードする配列)(例えば、プレタンパク質配列またはプロタンパク質配列またはプレプロタンパク質配列);イントロン、非コード5’配列および非コード3’配列(例えば、転写、mRNAプロセシング(スプライシングおよびポリアデニル化シグナルを含む)において役割を担う転写非翻訳配列);さらなる機能性を提供するようなさらなるアミノ酸をコードするさらなるコード配列。従って、例えば、ポリペプチドをコードする配列は、マーカー配列(例えば、融合されたポリペプチドの精製を容易にするペプチドをコードする配列)に融合され得る。本発明のこの局面の特定の好ましい実施態様において、マーカーアミノ酸配列は、ヘキサ−ヒスチジンペプチド(例えば、pQEベクター(Qiagen,Inc.)において提供されるタグ)であり、他の中では、それらの多くは公的および/または商業的に入手可能である。例えば、Gentzら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:821−824(1989)において記載されるように、ヘキサヒスチジンは、融合タンパク質の簡便な精製を提供する。「HA」タグは、インフルエンザ赤血球凝集素(HA)タンパク質由来のエピトープに対応する精製のために有用な別のペプチドであり、それは、Wilsonら、Cell 37:767(1984)によって記載されている。他のそのような融合タンパク質は、N末端またはC末端にてFcに融合される血清型kのS.mutans株に特異的な多糖抗原の生合成に関与するポリペプチドまたはそのフラグメントを含む。
血清型kのS.mutans株の血清型特異多糖抗原の生合成に関与するポリペプチドまたはそのフラグメントをコードする本発明に係るポリヌクレオチドは、宿主細胞における増殖のための選択マーカーを含有するベクターに結合され得る。一般的に、プラスミドベクターは、リン酸カルシウム沈殿物のような沈殿物中か、または荷電された脂質との複合体中で導入される。また、下記で詳述するように、DEAEデキストラン法やエレクトロポレーション法を用いてもよい。ベクターがウイルスである場合、ベクターは、適切なパッケージング細胞株を用いてインビトロでパッケージングされ得、次いで宿主細胞に形質導入され得る。
本発明はさらに、血清型kのS.mutans株の血清型特異多糖抗原の生合成に関与するポリペプチドをコードする本発明のポリヌクレオチドの変異体に関する。変異体は、天然の対立遺伝子変異体のように、天然に生じ得る。「対立遺伝子変異体」によって、生物の染色体上の所定の遺伝子座を占める遺伝子のいくつかの交換可能な形態の1つが意図される。天然に存在しない変異体は、例えば当該分野で公知の変異誘発技術を用いて生成され得る。
そのような変異体は、本発明のポリヌクレオチドにおいて1または数個のヌクレオチド置換、欠失、または付加によって生成される変異体を含む。置換、欠失、または付加は、1つ以上のヌクレオチドを含み得る。変異体は、コードもしくは非コード領域、またはその両方において変化され得る。コード領域における変異は、保存的もしくは非保存的なアミノ酸置換、欠失、または付加を生成し得る。
このように、本発明に係るポリヌクレオチドは、少なくとも、配列番号1ないし4の何れか1つに示される塩基配列を含むかまたはその変異体であればよいといえる。また、本発明に係るポリヌクレオチドの塩基配列は、適切なリンカーペプチドをコードするポリヌクレオチドで連結されていてもよい。
つまり、本発明の目的は、血清型kのS.mutans株に特異的な多糖抗原の生合成に関与するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドおよび当該ポリヌクレオチドを検出するために使用するポリヌクレオチド(オリゴヌクレオチド)を提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載したポリヌクレオチド作製方法等に存するのではない。したがって、上記各方法以外によって取得される血清型kのS.mutans株に特異的な多糖抗原の生合成に関与するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドおよび当該ポリヌクレオチドを検出するために使用するポリヌクレオチド(オリゴヌクレオチド)も本発明の範囲に属することに留意しなければならない。
(B)ポリペプチド
本発明者らは、新規血清型(k型)のS.mutans株を見出し、この血清型を規定する多糖抗原の生合成に関与する酵素の1つであるrgpFにおいて変異が存在することを見出した。
本明細書中で使用される場合、用語「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」と交換可能に使用される。また、ポリペプチドの「フラグメント」は、当該ポリペプチドの部分断片が意図される。本発明に係るポリペプチドはまた、天然供給源より単離されても、化学合成されてもよい。
用語「単離された」ポリペプチドまたはタンパク質は、その天然の環境から取り出されたポリペプチドまたはタンパク質が意図される。例えば、宿主細胞中で発現された組換え産生されたポリペプチドおよびタンパク質は、任意の適切な技術によって実質的に精製されている天然または組換えのポリペプチドおよびタンパク質と同様に、単離されていると考えられる。
本発明に係るポリペプチドは、天然の精製産物、化学合成手順の産物、および原核生物宿主または真核生物宿主(例えば、細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された産物を含む。組換え産生手順において用いられる宿主に依存して、本発明に係るポリペプチドは、グリコシル化され得るか、または非グリコシル化され得る。さらに、本発明に係るポリペプチドはまた、いくつかの場合、宿主媒介プロセスの結果として、開始の改変メチオニン残基を含み得る。
1つの局面において、本発明は、k型S.mutans株のrgpFポリペプチドを提供する。本明細書中で使用される場合、「k型S.mutans株のrgpFポリペプチド」は、新規血清型kのS.mutans株の多糖抗原の生合成に関与する酵素であるrgpFポリペプチドが意図される。
1つの実施形態において、本発明は、配列番号1ないし4の何れか1つに示される塩基配列によってコードされるポリペプチドを提供する。本発明の好ましいポリペプチドとしては、成熟ポリペプチド、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞内ドメイン、または膜貫通ドメインの全てまたは一部を欠失した細胞外および細胞内ドメインを含むポリペプチドが挙げられる。
本発明は、さらに、実質的なk型S.mutans株のrgpFポリペプチド活性を示すk型S.mutans株のrgpFポリペプチドの変異体を提供する。1つの実施形態において、本発明は、配列番号1ないし4の何れか1つに示される塩基配列によってコードされるポリペプチドにおいて1または数個のアミノ酸が置換、付加または欠失した、k型S.mutans株のrgpFポリペプチド活性を示すポリペプチド変異体を提供する。
本明細書中で使用される場合、用語「k型S.mutans株のrgpFポリペプチド活性」は、公知の血清型のS.mutans株には存在しない多糖抗原、すなわち、k型S.mutans株に特異的な多糖抗原の生合成に関与するrgpFポリペプチドの特徴が意図される。
このような変異体は、欠失、挿入、逆転、反復、およびタイプ置換(例えば、親水性の残基の別の残基への置換(通常は強く親水性の残基を強く疎水性の残基には置換しない))を含む。「中性」アミノ酸置換は、一般的にほとんど活性に影響しない。
ポリペプチドのアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、このポリペプチドの構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけではく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。
当業者は、周知技術を使用してポリペプチドのアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸を容易に変異させることができる。例えば、公知の点変異導入法に従えば、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の塩基を変異させることができる。また、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の部位に対応するプライマーを設計して欠失変異体または付加変異体を作製することができる。さらに、本明細書中に記載される方法を用いれば、作製した変異体が所望の活性を有するか否かを容易に決定し得る。
好ましい変異体は、保存的もしくは非保存的アミノ酸置換、欠失、または付加を有する。好ましくは、サイレント置換、付加、および欠失であり、特に好ましくは、保存的置換である。これらは、k型S.mutans株のrgpFポリペプチド活性を変化しない。
代表的に保存的置換と見られるのは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、Leu、およびIleの中での1つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換;ヒドロキシル残基SerおよびThrの置換、酸性残基AspおよびGluの置換、アミド残基AsnおよびGlnの間の置換、塩基性残基LysおよびArgの置換、ならびに芳香族残基Phe、Tyrの間の置換である。
上記に詳細に示されるように、どのアミノ酸の変化が表現型的にサイレントでありそうか(すなわち、機能に対して有意に有害な効果を有しそうにないか)に関するさらなるガイダンスは、Bowie,J.U.ら「Deciphering the Message in Protein Sequences:Tolerance to Amino Acid Substitutions」,Science 247:1306−1310(1990)(本明細書中に参考として援用される)に見出され得る。
別の局面において、本発明に係るポリペプチドは、融合タンパク質のような改変された形態で組換え発現され得る。例えば、付加的なアミノ酸、特に荷電性アミノ酸の領域が、宿主細胞内での、精製の間の、または精製に続く操作および保存の間の、安定性および持続性を改善するために、ポリペプチドのN末端に付加され得る。
特定の局面において、本発明に係るk型S.mutans株のrgpFポリペプチドは、例えば、融合されたポリペプチドの精製を容易にするペプチドをコードする配列であるタグ標識(タグ配列またはマーカー配列)をN末端またはC末端へ付加され得る。このような配列は、ポリペプチドの最終調製の前に除去されてもよい。本発明のこの局面の特定の好ましい実施態様において、タグアミノ酸配列は、ヘキサ−ヒスチジンペプチド(例えば、pQEベクター(Qiagen,Inc.)において提供されるタグ)であり、他の中では、それらの多くは公的および/または商業的に入手可能である。例えば、Gentzら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:821−824(1989)(本明細書中に参考として援用される)において記載されるように、ヘキサヒスチジンは、融合タンパク質の簡便な精製を提供する。「HA」タグは、インフルエンザ赤血球凝集素(HA)タンパク質由来のエピトープに対応する精製のために有用な別のペプチドであり、それは、Wilsonら、Cell 37:767(1984)(本明細書中に参考として援用される)によって記載されている。他のそのような融合タンパク質は、NまたはC末端にてFcに融合される本実施形態に係るk型S.mutans株のrgpFポリペプチドまたはそのフラグメントを含む。
本発明に係るk型S.mutans株のrgpFポリペプチドは、下記で詳述されるように組換え生成されても、化学合成されてもよい。
組換え生成は、当該分野において周知の方法を使用して行なうことができ、例えば、以下に詳述されるようなベクターおよび細胞を用いて行なうことができる。
合成ペプチドは、化学合成の公知の方法を使用して合成され得る。例えば、Houghtenは、4週間未満で調製されそして特徴付けられたHA1ポリペプチドセグメントの単一アミノ酸改変体を示す10〜20mgの248の異なる13残基ペプチドのような多数のペプチドの合成のための簡単な方法を記載している。Houghten,R.A.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:5131−5135(1985)。この「Simultaneous Multiple Peptide Synthesis(SMPS)」プロセスは、さらにHoughtenら(1986)の米国特許第4,631,211号に記載される。この手順において、種々のペプチドの固相合成のための個々の樹脂は、別々の溶媒透過性パケットに含まれ、固相法に関連する多くの同一の反復工程の最適な使用を可能にする。完全なマニュアル手順は、500〜1000以上の合成が同時に行われるのを可能にする(Houghtenら、前出、5134)。これらの文献は、本明細書中に参考として援用される。
1つの局面において、本発明は、本明細書中に記載のk型S.mutans株のrgpFポリペプチドのエピトープ保有部分のアミノ酸配列を有するポリペプチドに関する。本発明のk型S.mutans株のrgpFポリペプチドのエピトープ保有部分のアミノ酸配列を有するポリペプチドは、少なくとも6個、7個、8個、9個、10個のアミノ酸を有するポリペプチドの部分を含むが、配列番号1ないし4の何れか1つに示される塩基配列によってコードされる本発明のk型S.mutans株のrgpFポリペプチドの全アミノ酸配列の長さまでの任意の長さ(全体を含む)のエピトープ保有部分ポリペプチドもまた含まれる。
本発明のk型S.mutans株のrgpFポリペプチドのエピトープ部分は、当該分野で公知の方法により同定される。例えば、Geysenら(1984)は、酵素−結合免疫吸着アッセイにおける反応に十分に純粋な何百というペプチドを同時に固体支持体上に迅速に合成する手順を開示する。合成ペプチドの抗体との相互作用は、次いで、それらを支持体から除去することなく容易に検出される。この様式において、所望のタンパク質の免疫原性エピトープを保有するペプチドは、当業者により容易に同定され得る。例えば、口蹄疫ウイルスのコートタンパク質における免疫学的に重要なエピトープは、タンパク質の213のアミノ酸配列全体を覆う全ての208の可能なヘキサペプチドの重複セットの合成による7アミノ酸の解明によりGeysenらによって位置付けされた。次いで、全ての20アミノ酸が順にエピトープ内の各位置で置換されたペプチドの完全な置換セットが合成され、そして抗体との反応のための特異性を与える特定のアミノ酸が決定された。従って、本発明のエピトープ保有ペプチドのペプチドアナログは、この方法により日常的に作製され得る。Geysen(1987)の米国特許第4,708,781号は、所望のタンパク質の免疫原性エピトープを保有するペプチドを同定するこの方法をさらに記載している。
「免疫原性エピトープ」は、タンパク質全体が免疫原である場合、抗体応答を誘発するタンパク質の一部として定義される。これらの免疫原性エピトープは、分子上の2、3の焦点に制限されると考えられている。一方では、抗体が結合し得るタンパク質分子の領域は、「抗原性エピトープ」と定義され得る。タンパク質の免疫原性エピトープの数は、一般には、抗原性エピトープの数よりも少ない。例えば、Geysen,H.M.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:3998−4002(1984)を参照のこと。
本発明の抗原性エピトープ保有ペプチドは、本発明のポリペプチドに特異的に結合するモノクローナル抗体を含む抗体を惹起するのに有用である。従って、抗原エピトープ保有ペプチドで免疫化されたドナーからの脾臓細胞の融合により得られるハイブリドーマの大部分は、一般に天然のタンパク質と反応性がある抗体を分泌する。抗原性エピトープ保有ペプチドにより惹起された抗体は、模倣タンパク質を検出するのに有用であり、そして異なるペプチドに対する抗体が、翻訳後プロセシングを受けるタンパク質前駆体の種々の領域の末路を追跡するために使用され得る。免疫沈降アッセイにおいて、短いペプチド(例えば、約9アミノ酸)でさえ、より長いペプチドに結合しそして置換し得ることが示されているので、ペプチドおよび抗ペプチド抗体は、模倣タンパク質についての種々の定性的または定量的アッセイ、例えば、競合的アッセイにおいて使用され得る。例えば、Wilson,I.A.ら、Cell 37:767−778(1984)777を参照のこと。本発明の抗ペプチド抗体もまた、模倣タンパク質の精製(例えば、当該分野で周知の方法を使用して、吸着クロマトグラフィーにより)に有用である。
上記のガイドラインに従って設計された本発明の抗原性エピトープ保有ペプチドは、好ましくは本発明のポリペプチドのアミノ酸配列内に含まれる少なくとも7、より好ましくは少なくとも9、そして最も好ましくは約15〜約30アミノ酸の間の配列を含む。しかし、本発明のポリペプチドのアミノ酸配列の約30〜約50アミノ酸または全体までの任意の長さおよび全体を含む、本発明のポリペプチドのアミノ酸配列のより大部分を含むペプチドまたはポリペプチドもまた、本発明のエピトープ保有ペプチドであると考えられ、そしてまた模倣タンパク質と反応する抗体を誘導するのに有用である。好ましくは、エピトープ保有ペプチドのアミノ酸配列は、水性溶媒中で実質的な溶解性を提供するように選択され(すなわち、その配列は、比較的親水性残基を含み、そして高度な疎水性配列は好ましくは回避される);そしてプロリン残基を含む配列が特に好ましい。
本発明のエピトープ保有ペプチドは、本発明のポリヌクレオチドを使用する組換え手段を含むペプチドを作製するための任意の従来の手段によって産生され得る。例えば、短いエピトープ保有アミノ酸配列は、組換え体産生および精製の間、ならびに抗ペプチド抗体を産生するための免疫化の間、キャリアとして作用するより大きなポリペプチドに融合され得る。エピトープ保有ペプチドはまた、化学合成の公知の方法を使用して合成され得る。
本発明のエピトープ保有ペプチドは、当該分野に周知の方法によって抗体を誘導するために使用される。例えば、Chow,M.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:910−914;およびBittle,F.J.ら、J.Gen.Virol.66:2347−2354(1985)を参照のこと。一般には、動物は遊離ペプチドで免疫化され得る;しかし、抗ペプチド抗体力価はペプチドを高分子キャリア(例えば、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)または破傷風トキソイド)にカップリングすることにより追加免疫され得る。例えば、システインを含有するペプチドは、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)のようなリンカーを使用してキャリアにカップリングされ得、一方、他のペプチドは、グルタルアルデヒドのようなより一般的な連結剤を使用してキャリアにカップリングされ得る。ウサギ、ラット、およびマウスのような動物は、遊離またはキャリア−カップリングペプチドのいずれかで、例えば、約100μgのペプチドまたはキャリアタンパク質およびFreundのアジュバントを含むエマルジョンの腹腔内および/または皮内注射により免疫化される。いくつかの追加免疫注射が、例えば、固体表面に吸着された遊離ペプチドを使用してELISAアッセイにより検出され得る有用な力価の抗ペプチド抗体を提供するために、例えば、約2週間の間隔で必要とされ得る。免疫化動物からの血清における抗ペプチド抗体の力価は、抗ペプチド抗体の選択により、例えば、当該分野で周知の方法による固体支持体上のペプチドへの吸着および選択された抗体の溶出により増加され得る。
(C)ベクターおよび細胞
本発明は、k型S.mutans株のrgpFポリペプチドを生成するために使用されるベクターに関する。本発明に係るベクターは、インビトロ翻訳に用いるベクターであっても組換え発現に用いるベクターであってもよい。
本発明はまた、本発明に係るk型S.mutans株のrgpFポリペプチドを組換え的に生成するための本発明に係るポリヌクレオチドを含む組換え構築物で形質転換された宿主細胞、および組換え技術によるk型S.mutans株のrgpFポリペプチドまたはそのフラグメントの産生方法に関する。
組換え構築物は、感染、形質導入、トランスフェクション、エレクトロポレーション、および形質転換のような周知の技術を用いて宿主細胞に導入され得る。組換え構築物としてのベクターは、例えば、ファージベクター、プラスミドベクター、ウイルスベクター、またはレトロウイルスベクターであり得る。レトロウイルスベクターは、複製可能かまたは複製欠損であり得る。後者の場合、ウイルスの増殖は、一般的に、相補宿主細胞においてのみ生じる。
発現させる目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、当該分野において周知の方法を用いて取得することができる。公知のタンパク質の部分配列は、所望の部位に対してプライマーを設計してPCR増幅することによって対応するポリヌクレオチドを取得した後、発現ベクターに挿入して細胞内で容易に得られる。
目的の挿入ポリヌクレオチドに対するシス作用性制御領域を含有するベクターが好ましい。適切なトランス作用性因子は、宿主によって供給され得るか、相補ベクターによって供給され得るか、または宿主への導入の際にベクター自体によって供給され得る。
特定の実施態様において、ベクターは、誘導性および/または細胞型特異的であり得る特異的な発現を提供するベクターが好ましい。このようなベクターの中で特に好ましいベクターは、温度および栄養添加物のような操作することが容易である環境因子によって誘導性のベクターである。
本発明において有用な発現ベクターとしては、染色体ベクター、エピソームベクター、およびウイルス由来ベクター(例えば、細菌プラスミド、バクテリオファージ、酵母エピソーム、酵母染色体エレメント、ウイルス(例えば、バキュロウイルス、パポバウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、トリポックスウイルス、仮性狂犬病ウイルス、およびレトロウイルス)、ならびにそれらの組合せに由来するベクター(例えば、コスミドおよびファージミド)が挙げられる。
DNA挿入物は、適切なプロモーター(例えば、ファージλPLプロモーター、E.coli lacプロモーター、trpプロモーター、およびtacプロモーター、SV40初期プロモーターおよび後期プロモーター、ならびにレトロウイルスLTRのプロモーター)に作動可能に連結されるべきである。他の適切なプロモーターは、当業者に公知である。発現構築物は、さらに、転写開始、転写終結のための部位、および、転写領域中に翻訳のためのリボゾーム結合部位を含む。構築物によって発現される成熟転写物のコード部分は、翻訳されるべきポリペプチドの始めに転写開始コドンを含み、そして終わりに適切に位置される終止コドンを含む。
発現ベクターは、好ましくは少なくとも1つの選択マーカーを含む。このようなマーカーとしては、真核生物細胞培養についてはジヒドロ葉酸レダクターゼまたはネオマイシン耐性遺伝子、E.coliおよび他の細菌における培養についてはテトラサイクリン耐性遺伝子またはアンピシリン耐性遺伝子が挙げられる。適切な宿主の代表的な例としては、細菌(例えば、E.coli細胞、Streptomyces細胞、およびSalmonella typhimurium細胞);真菌細胞(例えば酵母細胞);昆虫細胞(例えば、Drosophila S2細胞およびSpodoptera Sf9細胞);動物細胞(例えば、CHO細胞、COS細胞、およびBowes黒色腫細胞);ならびに植物細胞が挙げられる。上記の宿主細胞のための適切な培養培地および条件は当分野で周知である。
好ましい実施形態において、本発明に係るベクターは、細菌(特に、E.coli)において本発明に係るk型S.mutans株のrgpFポリペプチドを発現し得る。細菌における使用に好ましいベクターの中には、pQE70、pQE60、およびpQE−9(Qiagenから入手可能);pBSベクター、Phagescriptベクター、Bluescriptベクター、pNH8A、pNH16a、pNH18A、pNH46A(Stratageneから入手可能);ならびにptrc99a、pKK223−3、pKK233−3、pDR540、pRIT5(Pharmaciaから入手可能)が含まれる。
本発明における使用に適した公知の細菌プロモーターの中には、E.coli lacIおよびlacZプロモーター、T3プロモーターおよびT7プロモーター、gptプロモーター、λPRプロモーターおよびλPLプロモーター、ならびにtrpプロモーターが含まれる。適切な真核生物プロモーターとしては、CMV前初期プロモーター、HSVチミジンキナーゼプロモーター、初期SV40プロモーターおよび後期SV40プロモーター、レトロウイルスLTRのプロモーター(例えば、ラウス肉腫ウイルス(RSV)のプロモーター)、ならびにメタロチオネインプロモーター(例えば、マウスメタロチオネインIプロモーター)が挙げられる。
別の実施形態において、本発明に係るベクターは、高等真核生物細胞において本発明に係るk型S.mutans株のrgpFポリペプチドを発現し得る。高等真核生物細胞によるDNAの転写は、ベクター中にエンハンサー配列を挿入することによって増大させ得る。エンハンサーは、所定の宿主細胞型におけるプロモーターの転写活性を増大するように働く、通常約10〜300bpのDNAのシス作用性エレメントである。エンハンサーの例としては、SV40エンハンサー(これは、複製起点の後期側上の100〜270bpに位置される)、サイトメガロウイルスの初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側上のポリオーマエンハンサー、およびアデノウイルスエンハンサーが挙げられる。
好ましい真核生物ベクターとしては、pWLNEO、pSV2CAT、pOG44、pXT1、およびpSG(Stratageneから入手可能);ならびにpSVK3、pBPV、pMSG、およびpSVL(Phrmaciaから入手可能)が挙げられる。他の適切なベクターは、当業者に周知である。
宿主細胞への構築物の導入は、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAEデキストラン媒介トランスフェクション、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、感染または他の方法によってもたらされ得る。このような方法は、Davisら、Basic Methods In Molecular Biology(1986)(本明細書中に参考として援用される)のような多くの標準的研究室マニュアルに記載されている。
高等真核生物によるDNAの転写は、ベクター中にエンハンサー配列を挿入することによって増大させ得る。エンハンサーは、所定の宿主細胞型におけるプロモーターの転写活性を増大するように働く、通常約10〜300bpのDNAのシス作用性エレメントである。エンハンサーの例としては、SV40エンハンサー(これは、複製起点の後期側上の100〜270bpに位置される)、サイトメガロウイルスの初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側上のポリオーマエンハンサー、およびアデノウイルスエンハンサーが挙げられる。
翻訳されたタンパク質の小胞体の管腔内へか、周辺質空間内へか、または細胞外環境内への分泌のために、適切な分泌シグナルが、発現されるポリペプチド中に組み込まれ得る。シグナルは、ポリペプチドに対して内因性であり得るか、またはそれらは異種シグナルであり得る。
従って、ポリペプチドは、融合タンパク質のような改変された形態で発現され得、そして分泌シグナルだけでなく、付加的な異種の機能的領域も含み得る。例えば、付加的なアミノ酸、特に荷電性アミノ酸の領域が、宿主細胞内での、精製の間の、または続く操作および保存の間の、安定性および持続性を改善するために、ポリペプチドのN末端に付加され得る。また、ペプチド部分が、精製を容易にするためにポリペプチドへ付加され得る。そのような領域は、ポリペプチドの最終調製の前に除去され得る。とりわけ、分泌または排出を生じるため、安定性を改善するため、および精製を容易にするためのペプチド部分のポリペプチドへの付加は、当分野でよく知られており、そして日常的な技術である。好ましい融合タンパク質は、タンパク質の可溶化に有用な免疫グロブリン由来の異種領域を含む。例えば、EP A 0 464 533(また、カナダ対応出願2045869)は、別のヒトタンパク質またはその一部とともに免疫グロブリン分子における定常領域の種々の部分を含む融合タンパク質を開示する。多くの場合、融合タンパク質中のFc部分は、治療および診断における使用に十分に有利であり、従って、例えば改善された薬物動態学的特性を生じる(EP A 0232 262)。一方、いくつかの使用について、融合タンパク質が、記載される有利な様式で、発現され、検出され、および精製された後にFc部分が欠失され得ることが望ましい。これは、Fc部分が、治療および診断における使用の妨害であると判明する場合(例えば、融合タンパク質が免疫のための抗原として使用されるべき場合)である。薬物探索において、例えばhIL−5のようなヒトタンパク質は、hIL−5のアンタゴニストを同定するための高処理能力スクリーニングアッセイの目的でFc部分と融合されている。D.Bennettら、Journal of Molecular Recognition Vol.8:52−58(1995)、およびK.Johansonら、The Journal of Biological Chemistry Vol.270,No.16,9459−9471頁(1995)を参照のこと。
k型S.mutans株のrgpFポリペプチドは、周知の方法(例えば、硫安沈殿またはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、およびレクチンクロマトグラフィー)によって組換え細胞培養物から回収され、そして精製され得る。最も好ましくは、高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)が精製のために用いられる。
このように、本発明に係るベクターは、少なくとも、本発明に係るポリヌクレオチドを含めばよいといえる。すなわち、発現ベクター以外のベクターも、本発明の技術的範囲に含まれる点に留意すべきである。
また、本発明に係る細胞は、少なくとも、本発明に係るベクターを含めばよいといえる。すなわち、市販の細胞以外の初代培養細胞も、本発明の技術的範囲に含まれる点に留意すべきである。
つまり、本発明の目的は、本発明に係るポリヌクレオチドを含有するベクターおよび当該ベクターを含有する細胞を提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した個々のベクター種および細胞種、ならびにベクター作製方法および細胞導入方法に存するのではない。したがって、上記以外のベクター種および細胞種、ならびにベクター作製方法および細胞導入方法を用いて取得したベクターおよび細胞も本発明の範囲に属することに留意しなければならない。
(D)細菌
本発明は、分離された血清型kのS.mutans株を提供する。好ましくは、本発明の血清型kのS.mutans株は、以下で詳述されるような血清型kのS.mutans株に特異的に結合する抗体を用いて、生物学的サンプルより分離される。好ましい血清型kのS.mutans株としては、血液分離株2株(TW295およびTW871)、口腔分離株154株(FT1〜FT51、SU1〜SU51、およびYK1〜YK50、ならびにAT1およびYT1)が挙げられるがこれらに限定されない。用語「生物学的サンプル」は、個体、体液、細胞株、組織培養物、または血清型kのS.mutans株タンパク質もしくはそのDNAもしくはmRNAを含む他の供給源から得られる、任意の生物学的サンプルが意図される。生物学的サンプルとしては、血清型kのS.mutans株タンパク質を含む体液(例えば、血液、唾液、歯垢、血清、血漿、尿、滑液および髄液)あるいは血清型kのS.mutans株タンパク質を発現する可能性のある組織供給源が挙げられる。本明細書中で使用される場合、用語「組織サンプル」は、組織供給源より得られた生物学的サンプルが意図される。哺乳動物から組織生検および体液を得るための方法は当該分野で周知である。生物学的サンプルがmRNAを含む場合、組織生検が好ましい供給源である。本明細書中で使用される場合、用語「サンプル」としては、上記生物学的サンプルおよび上記組織サンプル以外に、上記生物学的サンプルおよび上記組織サンプルより抽出したゲノムDNAサンプルおよび/または総RNAサンプルも挙げられる。
1つの局面において、本発明は、S.mutansの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下したS.mutans株を提供する。本明細書中で使用される場合、用語「S.mutansの血清型c、eまたはfの株に特異的な多糖類のグルコース側鎖の量が低下した」は、S.mutansの血清型c、eまたはfの株に特異的な既知の抗体を用いて検出することができないことが意図される。従って、本明細書を参照して、この用語は、S.mutansの血清型c、eまたはfの株に特異的な多糖抗原のグルコース側鎖が全くないことを意味するのではなく、S.mutansの血清型c、eまたはfの株に特異的な既知の抗体に対する抗原性が著しく低下している状態であるということを意図していることを、当業者は容易に理解する。
(E)抗体
本発明は、S.mutansの血清型c、e、もしくはfの株に特異的な多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下した血清型の株に特異的に結合する抗体を提供する。好ましくは、本発明は、血清型kのS.mutans株に特異的に結合する抗体を提供する。本明細書中で使用される場合、用語「抗体」は、免疫グロブリン(IgA、IgD、IgE、IgG、IgMおよびこれらのFabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fcフラグメント)を意味し、例としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体、抗イディオタイプ抗体およびヒト化抗体が挙げられるがこれらに限定されない。本発明の抗体は、従来の免疫方法では取得し得なかったが、免疫方法に創意工夫を重ねることによって取得された。さらに、本発明の抗体は、k型以外の血清型を有する既知のS.mutans株を公知のグルコース側鎖欠失方法を用いて作製した変異株を用いて作製される。さらに、本発明の抗体は、本発明のポリペプチドを抗原に用いて作製される。本発明の抗体は、血清型kのS.mutans株の検出および/または診断に有用であり得る。
本明細書中で使用される場合、用語「血清型kのS.mutans株に対する抗体」は、血清型kのS.mutans株抗原に特異的に結合し得る完全な分子および抗体フラグメント(例えば、FabおよびF(ab’)2フラグメント)を含むことを意味する。FabおよびF(ab’)2フラグメントは完全な抗体のFc部分を欠いており、循環によってさらに迅速に除去され、そして完全な抗体の非特異的組織結合をほとんど有し得ない(Wahlら、J.Nucl.Med.24:316−325(1983))。従って、これらのフラグメントもまた好ましい。
あるいは、血清型kのS.mutans株抗原に結合し得るさらなる抗体が、抗イディオタイプ抗体の使用を通じて二工程手順で産生され得る。このような方法は、抗体それ自体が抗原であるという事実を使用し、従って、二次抗体に結合する抗体を得ることが可能である。この方法に従って、血清型kのS.mutans株特異的抗体は、動物(好ましくは、マウス)を免疫するために使用される。次いで、このような動物の脾細胞はハイブリドーマ細胞を産生するために使用され、そしてハイブリドーマ細胞は、血清型kのS.mutans株特異的抗体に結合する能力が血清型kのS.mutans株抗原によってブロックされ得る抗体を産生するクローンを同定するためにスクリーニングされる。このような抗体は、血清型kのS.mutans株特異的抗体に対する抗イディオタイプ抗体を含み、そしてさらなる血清型kのS.mutans株特異的抗体の形成を誘導するために動物を免疫するために使用され得る。
FabおよびF(ab’)2ならびに本発明の抗体の他のフラグメントは、本明細書中で開示される方法に従って使用され得ることが、明らかである。このようなフラグメントは、代表的には、パパイン(Fabフラグメントを生じる)またはペプシン(F(ab’)2フラグメントを生じる)のような酵素を使用するタンパク質分解による切断によって産生される。あるいは、血清型kのS.mutans株結合フラグメントは、組換えDNA技術の適用または合成化学によって産生され得る。
ヒトにおける診断のために、インビボでのイメージングを用いて、上昇レベルの血清型kのS.mutans株を検出する場合、「ヒト化」キメラモノクローナル抗体を使用することが好ましくあり得る。このような抗体は、上記のモノクローナル抗体を生成するハイブリドーマ細胞由来の遺伝構築物を用いて生成され得る。キメラ抗体を生成するための方法は、当該分野で公知である。総説については、Morrison,Science 229:1202(1985);Oiら、Bio Techniques 4:214(1986);Cabillyら、米国特許第4,816,567号;Taniguchiら、EP 171496;Morrisonら、EP 173494;Neubergerら、WO 8601533;Robinsonら、WO 8702671;Boulianneら、Nature 312:643(1984);Neubergerら、Nature 314:268(1985)を参照のこと。
このように、本発明に係る抗体は、少なくとも、本発明に係るk型S.mutans株を認識する抗体フラグメント(例えば、FabおよびF(ab’)2フラグメント)を備えていればよいといえる。すなわち、本発明に係るk型S.mutans株を認識する抗体フラグメントと、異なる抗体分子のFcフラグメントとからなる免疫グロブリンも本発明に含まれることに留意すべきである。
つまり、本発明の目的は、本発明に係るk型S.mutans株を認識する抗体を提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した個々の免疫グロブリンの種類(IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM)、キメラ抗体作製方法、ペプチド抗原作製方法等に存するのではない。したがって、上記各方法以外によって取得される抗体も本発明の範囲に属することに留意しなければならない。
(2)血清型kのS.mutans株の検出法および診断法
本発明にかかるS.mutansの血清型検出法および診断法は、被験体に存在し得る血清型kのS.mutans株を検出および診断するものである。
感染因子、または、代謝産物、核酸、およびタンパク質を含む病気の指標となる分子の検出は、医学的疾患の診断および治療、ならびに研究における基本的な要素である。多くの方法論が現在検出に使用されている。これらの方法論は、一般に、病気を引き起こす因子の成分をコードする遺伝物質のような、核酸に対する診断アッセイ、および病気を引き起こす因子または病気の副産物のいずれかの成分であるタンパク質に対する抗体をベースにした診断アッセイに分けられる。
本発明は、生物学的サンプルにおいて、特に被験体から得られた組織または他の細胞または体液において、血清型kのS.mutans株に特異的な多糖抗原の生合成に関与する酵素をコードするポリヌクレオチドを検出することによって、血清型kのS.mutans株関連障害を診断する方法を提供する。
(A)核酸に対する検出法および診断法
核酸に対するアッセイは、ポリヌクレオチド(核酸分子)の存在を検出するための放射性標識プローブを用いるノーザンブロットハイブリダイゼーションのような単純な方法から、ハイブリダイゼーション技術による配列の検出に使用され得るところまで非常に少量の特定の核酸配列を増幅するためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の使用までの範囲にわたる。ヌクレオチドプローブは、市販の染料、または酵素、蛍光、化学発光、あるいは放射性の標識を用いて標識され得る。これらのプローブは、ハイブリダイゼーションにより細胞中または組織試料中の遺伝子または関連配列(そこではその遺伝子は通常の成分である)の発現を検出するために、および生物の感染から生じる疾患を有すると疑われるヒトからの血清または組織試料をスクリーニングするために使用され得る。プライマーがまた、逆転写酵素、またはDNAポリメラーゼおよびポリメラーゼ連鎖反応を用いて調製され得、組織または液体中に非常に少量で存在するポリヌクレオチドの検出のために使用され得る。
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、特に、クローニング、遺伝子発現の分析、DNA配列決定、遺伝的マッピング、薬物の発見などにおいて適用される、非常に重要な手段である。例えば、Innisら、PCR Protocols A guide to Methods and Applications,Academic Press,San Diego(1990);および米国特許第4,683,195,4,683号を参照のこと。
本発明は、配列番号1ないし4に示される塩基配列の少なくとも12個連続する塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCR反応を行う工程を包含する、血清型kのS.mutans株を検出する方法を提供する。PCR試薬および方法論は、Perkin Elmer,761 Main Ave.,Norwalk,Conn.06850;またはRoche Molecular Systems,1145 Atlantic Ave.,Suite 100,Alameda,CA 94501から入手可能である。好ましいPCR反応は、20mlのPCR反応液(20ng/μlのゲノムDNAを5μl、dNTP混合物 2μl、10×PCR緩衝液 2μl、順方向プライマー(20pmol/μl)1μl、逆方向プライマー(20pmol/μl)1μl、AmpliTaq Gold 0.1μl、MilliQ水 8.9μlを含む)を、94℃で5分間処理した後、94℃で30秒間、60℃で30秒間、72℃で30秒間を30サイクル行い、次いで72℃で7分間処理して行うが、これに限られない。本明細書中で使用される場合、用語「少なくとも12個」は、12、13、14、15、またはそれ以上の整数をいう。本発明に従うと、被験体から得られたサンプル中に血清型kのS.mutans株が存在するか否かを、有効かつ効率的に判定し得る。
伝統的には、PCRおよびハイブリダイゼーションプロセスは、別の作業として行われている。しかし、PCRおよびハイブリダイゼーションプロセスを組み合わせることによって得られる利点がいくつかある:(i)単一の試薬添加工程が必要とされるのみであり、これにより、反応チューブを開ける必要なく、この組み合わされた反応を進行させることが可能であり、これにより、サンプルの混同およびサンプルの汚染の機会を減少させる;(ii)必要とされる試薬がより少量である;(iii)必要とされる試薬添加工程がより少なく、自動化をより容易にする;そして(iv)in situの方法の場合、熱循環の間に細胞サンプルの完全性を保護するのに使用されるサンプル封じ込め(containment)アセンブリを分解する必要がない。単一の反応において、PCRをハイブリダイゼーションプロセスと組み合わせた、1つの存在する方法は、「Taqman」として知られる技術である。例えば、Hollandら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:7276−7280(1991)を参照のこと。
インサイチュでのPCRは、特定の増幅された核酸が、標的核酸配列を元々含んでいた細胞または下位の細胞構造内に実質的に含まれるように、固定された細胞において実行されるPCR増幅をいう。細胞は、水性懸濁液中にあっても、または組織サンプルの部分(例えば、組織化学的切片または細胞化学的スメア)であってもよい。本明細書中で使用される場合、用語「組織化学的切片」は、凍結または化学的に固定され、ワックスまたはプラスチック中に包埋されることにより固められ、薄板(代表的には、数ミクロンの厚さ)にスライスされ、そして固体支持体(例えば、顕微鏡スライド)に付着された生物学的組織の固体サンプルをいい、そして用語「細胞化学的スメア」は、化学的に固定されそして顕微鏡スライドに付着された細胞(例えば、血球)の懸濁物をいう。好ましくは、細胞は、プロテイナーゼ消化、界面活性剤または有機溶媒を用いる液体抽出、または透過化(permeabilization)法のような他のものによって、PCR試薬に対して透過性にされている。
本明細書中で使用する場合、用語「固定された細胞」は、溶媒変化、温度変化、機械的ストレス、または乾燥による破裂に対して細胞構造(特に、膜)を強化するために化学的に処理された生物学的細胞のサンプルをいう。細胞は、懸濁物中に固定されても、または組織サンプルの部分として固定されても、いずれでもよい。細胞固定液は、一般に、細胞構造のタンパク質構成要素を、最も一般的には、タンパク質アミノ基と反応することによって架橋する化学薬品である。好ましい固定液には、緩衝化ホルマリン、95%エタノール、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、およびグルタルアルデヒドが含まれる。固定された細胞の透過性は、プロテイナーゼ、または界面活性剤、または膜脂質を溶解する有機溶媒での処理により増加され得る。
本発明は、配列番号1ないし4に示される塩基配列の少なくとも12個連続する塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドをプローブとして用いてハイブリダイゼーション反応を行う工程をさらに包含する血清型kのS.mutans株を検出する方法を提供する。本発明に従うと、被験体から得られたサンプル中に存在するS.mutans株を、有効かつ効率的に判定し得る。
本発明のオリゴヌクレオチドは、染色体とのインサイチュハイブリダイゼーションによって遺伝子マッピングするため、および例えばノーザンブロット分析によってヒト組織中の血清型kのS.mutans株の発現を検出するためのプローブとして有用である。以下に詳細に記載されるように、特定の組織における血清型kのS.mutans株遺伝子発現の変化を検出することは、特定の疾患および/または障害を提示し得る。
好ましい実施形態において、本発明のオリゴヌクレオチドは、標識される。適切な標識としては、例えば、基質との反応による過酸化水素の生成を触媒するオキシダーゼ群由来の酵素が挙げられる。グルコースオキシダーゼは、それが良好な安定性を有し、そしてその基質(グルコース)が容易に入手できるために、特に好ましい。オキシダーゼ標識の活性は、酵素−標識抗体/基質反応によって形成される過酸化水素の濃度を測定することによってアッセイされ得る。酵素に加えて、他の適切な標識として、放射性同位元素(例えば、ヨウ素(125I、121I)、炭素(14C)、イオウ(35S)、トリチウム(3H)、インジウム(112In)、およびテクネチウム(99mTc))、ならびに蛍光標識(例えば、フルオレセインおよびローダミン)ならびにビオチンが挙げられる。
(B)タンパク質に対する検出法および診断法
タンパク質に対するアッセイは、さらに、分子(通常抗体)と、検出されるタンパク質との結合反応、または、酵素の活性化をもたらし、検出可能な色の変化を生じる基質を開裂し得る、酵素と酵素に結合する標的された分子間の反応を含む方法に分けられる。多くの結合アッセイは、染料、酵素または放射性または蛍光標識を含み、検出を増強する。タンパク質に対する抗体は、患者、免疫化動物、または抗原特異的モノクローナル細胞株から得られ得る。これらの抗体アッセイは、サンドイッチELISAアッセイ、ウエスタンブロット、放射性イムノアッセイ、および免疫拡散アッセイのようなアッセイを包含する。その他のアッセイは、分子の固定化および検出のためにアビジンおよびビオチンのような分子を用いる。これらの試薬を調製する技術およびそれを使用する方法は、当業者に公知である。
本発明は、ストレプトコッカス ミュータンスの血清型c、e、もしくはfの株に特異的な多糖類のグルコース側鎖の量が低下した血清型の株に特異的に結合する抗体を用いて免疫反応を行う工程を包含する血清型kのS.mutans株を検出する方法を提供する。本明細書中で使用される場合、用語「免疫反応」としては、サンドイッチELISAアッセイ、ウエスタンブロット、放射性イムノアッセイ、および免疫拡散アッセイのようなアッセイが挙げられるがこれらに限定されない。本発明に従うと、被験体から得られたサンプル中に血清型kのS.mutans株が存在するか否かを、有効かつ効率的に判定し得る。
上記のように、本発明に従うと、血中に侵入した際に、多型核白血球による食作用を受けにくいS.mutans株を保有するか否かを判定し得る。さらに、他の主要な原因菌の同定法と組み合わせることによって、感染性心内膜炎予防の対象者を減少させ、抗生物質の使用量を低下させ、抗生物質の使用による耐性菌出現を抑制することが可能である。
本発明はさらに、本明細書中に記載される血清型kのS.mutans株に特異的に結合する抗体を用いる血清型kのS.mutans株の診断方法を提供する。抗体を使用するアッセイ方法としては、サンドイッチELISAアッセイ、ウエスタンイムノブロット、放射性イムノアッセイ、および免疫拡散アッセイのようなアッセイが挙げられる。その他のアッセイは、分子の固定化および検出のためにアビジンおよびビオチンのような分子を用いる。これらの試薬を調製する技術およびそれを使用する方法は、当業者に公知である。
生物学的サンプル中の血清型kのS.mutans株タンパク質レベルのアッセイは、任意の当該分野で公知の方法を使用して行われ得る。抗体に基づく技術が、生物学的サンプル中の血清型kのS.mutans株タンパク質レベルをアッセイするために好ましい。例えば、組織中での血清型kのS.mutans株タンパク質の発現は、ウェスタンブロットアッセイまたはドットブロットアッセイを含む、伝統的な免疫組織学的方法で研究され得る。これらの場合、特異的認識は一次抗体(ポリクローナルまたはモノクローナル)によって提供されるが、二次検出系は、蛍光、酵素、または他の結合された二次抗体を利用し得る。結果として、病理学試験のための組織切片の免疫組織学的染色が得られる。
血清型kのS.mutans株タンパク質レベルを検出するために有用な他の抗体に基づく方法は、イムノアッセイ(例えば、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)およびラジオイムノアッセイ(RIA))を含む。例えば、血清型kのS.mutans株特異的モノクローナル抗体は、血清型kのS.mutans株タンパク質を検出および定量するための、免疫吸着剤としておよび酵素標識プローブとしての両方に使用され得る。サンプル中に存在する血清型kのS.mutans株タンパク質の量は、直線回帰コンピューターアルゴリズムを使用して、標準的な調製物中に存在する量との比較によって算出され得る。抗原を検出するためのこのようなELISAは、Iacobelliら、Breast Cancer Research and Treatment 11:19−30(1988)に記載されている。別のELISAアッセイにおいては、2つの異なる特異的なモノクローナル抗体が、体液中の血清型kのS.mutans株タンパク質を検出するために使用され得る。このアッセイにおいて、一方の抗体が免疫吸着剤として使用され、そして他方が酵素標識プローブとして使用される。
適切な酵素標識は、例えば、基質との反応による過酸化水素の生成を触媒するオキシダーゼ群由来のものを含む。グルコースオキシダーゼは、それが良好な安定性を有し、そしてその基質(グルコース)が容易に入手できるために、特に好ましい。オキシダーゼ標識の活性は、酵素−標識抗体/基質反応によって形成される過酸化水素の濃度を測定することによってアッセイされ得る。酵素に加えて、他の適切な標識として、放射性同位元素(例えば、ヨウ素(125I、121I)、炭素(14C)、イオウ(35S)、トリチウム(3H)、インジウム(112In)、およびテクネチウム(99mTc))、ならびに蛍光標識(例えば、フルオレセインおよびローダミン)ならびにビオチンが挙げられる。
個体から得られる生物学的サンプル中の血清型kのS.mutans株レベルをアッセイすることに加えて、血清型kのS.mutans株はまた、画像解析によってインビボで検出され得る。血清型kのS.mutans株のインビボでの画像解析のための抗体標識またはマーカーとして、X線撮影法、NMR、またはESRによって検出可能なものが挙げられる。X線撮影法については、適切な標識として、検出可能な放射線を放射するが、被検体に対して明らかには有害ではない、バリウムまたはセシウムのような放射性同位元素が挙げられる。NMRおよびESRのための適切なマーカーとして、関連のハイブリドーマの栄養分の標識によって抗体中に取り込まれ得る、重水素のような検出可能な特徴的な回転を有するものが挙げられる。
放射性同位元素(例えば、131I、111In、99mTc)、放射性不透過体(radio−opaque)基質、または核磁気共鳴によって検出可能な物質のような適切な検出可能な画像解析部分で標識されている、血清型kのS.mutans株特異的抗体または抗体フラグメントが、障害について試験される哺乳動物中に(例えば、非経口的、皮下、または静脈内)導入される。被検体の大きさおよび使用される画像解析システムによって、診断用の画像を生じるために必要とされる画像解析部分の量が決定されることが、当該分野で理解される。放射性同位元素部分の場合、ヒト被検体については、注射される放射活性の量は、通常約5〜20ミリキュリーの範囲の99mTcである。次いで、標識抗体または抗体フラグメントは、血清型kのS.mutans株を含む細胞の位置に優先的に蓄積する。インビボでの腫瘍画像解析は、S.W.Burchielら、「Immunopharmacokinetics of Radiolabeled Antibodies and Their Fragments」(Tumer Imaging第13章:The Radiochemical Detection of Cancer,Burchiel,S.W.およびRhodes,B.A.編、Masson Publishing Inc.(1982))に記載されている。
本発明の血清型kのS.mutans株特異的抗体にさらに適切な標識は、以下に提供される。適切な酵素標識の例としては、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、スタフィロコッカスヌクレアーゼ、酵母アルコールデヒドロゲナーゼ、α−グリセロールリン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼ、およびアセチルコリンエステラーゼが挙げられる。
適切な放射性同位体標識の例としては、3H、111In、125I、131I、32P、35S、14C、51Cr、57To、58Co、59Fe、75Se、152Eu、90Y、67Cu、217Ci、211At、212Pb、47Sc、109Pdなどが挙げられる。111Inは、インビボでのイメージングが用いられる場合に好ましい同位体である。なぜなら、これは、125Iまたは131Iで標識したモノクローナル抗体の肝臓による脱ハロゲン化の問題を回避するからである。さらに、この放射性核種は、イメージングのためにより好ましいγ放出エネルギーを有する(Perkinsら、Eur.J.Nucl.Med.10:296−301(1985);Carasquilloら、J.Nucl.Med.28:281−287(1987))。例えば、1−(P−イソチオシアネートベンジル)−DPTAを用いてモノクローナル抗体にカップリングした111Inは、非腫瘍性組織(特に肝臓)における取り込みをほとんど示さなかった。それゆえ、腫瘍局在化の特異性を増強する(Estebanら、J.Nucl.Med.28:861−870(1987))。
適切な非放射性同位体標識の例としては、157Gd、55Mn、162Dy、52Tr、および56Feが挙げられる。
適切な蛍光標識の例としては、152Eu標識、フルオレセイン標識、イソチオシアネート標識、ローダミン標識、フィコエリトリン標識、フィコシアニン標識、アロフィコシアニン標識、o−フタルアルデヒド標識、およびフルオレサミン標識が挙げられる。
適切な毒素標識の例としては、ジフテリア毒素、リシン、およびコレラ毒素が挙げられる。
化学発光標識の例としては、ルミナール標識、イソルミナール標識、芳香族アクリジニウムエステル標識、イミダゾール標識、アクリジニウム塩標識、シュウ酸エステル標識、ルシフェリン標識、ルシフェラーゼ標識、およびエクオリン標識が挙げられる。
核磁気共鳴コントラスト剤の例としては、Gd、Mn、およびFeのような重金属原子核が挙げられる。
上記の標識を抗体に結合するための代表的な技術は、Kennedyら(Clin.Chim.Acta 70:1−31(1976))およびSchursら(Clin.Chim.Acta 81:1−40(1977))により提供される。後者において言及されるカップリング技術は、グルタルアルデヒド方法、過ヨウ素酸方法、ジマレイミド方法、m−マレイミドベンジル−N−ヒドロキシ−スクシンイミドエステル方法であり、これらの方法は全て本明細書中に参考として援用される。
(C)血清型kのS.mutans株のスクリーニング
本発明は、生物学的サンプルから血清型kのS.mutans株をスクリーニングする方法を提供する。1つの局面において、本発明は、配列番号1ないし4に示される塩基配列を含みかつS.mutansの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下した血清型の株に特異的な塩基配列またはその相補配列からなるポリヌクレオチドまたはそのフラグメントを用いて、S.mutansの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下した血清型の株をスクリーニングする方法を提供する。好ましい実施形態において、上記S.mutansの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下した血清型の株は、血清型kのS.mutans株である。さらに好ましい実施形態において、本発明のスクリーニング方法は、本発明の抗体を用いてS.mutans株の血清型を確認する工程をさらに包含する。
別の局面において、本発明は、S.mutansの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下した血清型の株に特異的に結合する抗体を用いて、S.mutansの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下した血清型の株をスクリーニングする方法を提供する。好ましい実施形態において、上記S.mutansの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下した血清型の株は、血清型kのS.mutans株である。さらに好ましい実施形態において、本発明のスクリーニング方法は、本発明のポリヌクレオチドまたはそのフラグメントを用いてS.mutans株の血清型を確認する工程をさらに包含する。
本発明はさらに、上記のスクリーニング方法を用いて同定された、S.mutansの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下した血清型の株を提供する。好ましい実施形態において、上記S.mutansの血清型特異多糖抗原のグルコース側鎖の量が低下した血清型の株は、血清型kのS.mutans株である。さらに好ましい実施形態において、上記血清型kのS.mutans株は、TW295、TW871、FT1〜FT51、SU1〜SU51、YK1〜YK50、FT1GD、YK1R、AT1およびYT1が挙げられるが、これらに限定されない。
(3)血清型kのS.mutans株の検出キットおよび診断キット
本発明にかかるS.mutansの血清型判定キットは、判定対象となるS.mutans株が上記k型であるか否かを判定するものである。
本発明は、配列番号1ないし4に示される塩基配列の少なくとも12個連続する塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドを備える、血清型kのS.mutans株を検出するためのキットを提供する。好ましくは、本発明のキットは、c型、e型またはf型のS.mutans株に特異的に結合するオリゴヌクレオチドをさらに備える。さらに好ましくは、上記オリゴヌクレオチドは標識されている。本発明に従えば、患者が血清型kのS.mutans株を保有するか否かを簡便に同定し得る。特に、これまで検出限界以下であった症例において血清型kのS.mutans株を検出し得る。
1つの局面において、本発明のキットは、上記オリゴヌクレオチドがPCRプライマーである。好ましい実施形態において、本発明のキットは、PCR反応に用いるための試薬をさらに含む。
別の局面において、本発明のキットは、上記オリゴヌクレオチドがハイブリダイゼーションプローブである。好ましい実施形態において、本発明のキットは、ハイブリダイゼーション反応に用いるための試薬をさらに含む。
一実施形態において、本発明のキットは、配列番号9に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを備えることを特徴とする。本実施形態に係るキットは、配列番号8に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをさらに備えることが好ましく、配列番号10に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをさらに備えることがなお好ましい。
本発明はさらに、血清型kのS.mutans株の多糖抗原に特異的に結合する抗体を備える、血清型kのS.mutans株を検出するためのキットを提供する。好ましくは、上記オリゴヌクレオチドは標識されている。本発明に従えば、患者が血清型kのS.mutans株を保有するか否かを簡便に同定し得る。特に、これまで検出限界以下であった症例において血清型kのS.mutans株を検出し得る。
(4)血清型kのS.mutans株の検出器具および診断器具
本発明に係る細菌検出器具は、サンプル中の細菌を検出・同定するための器具であって、対象となる細菌が属する種または属に特異的な塩基配列に基づくオリゴヌクレオチドが基板表面に固定化されており、当該オリゴヌクレオチドとサンプルに由来する核酸とのハイブリダイゼーションによりサンプル中の細菌を検出・同定するものである。血清型kのS.mutans株の検出に用いる場合、上記オリゴヌクレオチドは、血清型kのS.mutans株に特異的な多糖抗原の生合成に関与する酵素をコードするポリヌクレオチドの塩基配列の少なくとも12個連続する塩基配列またはその相補配列を含む。さらに他種の細菌を網羅的に検査する場合は、当該他種の細菌(複数であってもよい)に特異的な塩基配列を含むオリゴヌクレオチドも基板上に固定化することが好ましい。このように、複数種の細菌を含むサンプルを使用するアッセイに供することによって、血清型kのS.mutans株がどのような細菌種と共存する傾向があるかを知ることができる。
(A)基板
本発明に係る細菌検出器具に用いる基板の材質としては、オリゴヌクレオチドを安定して固定化することができるものであればよい。例えば、ポリカーボネートやプラスティックなどの合成樹脂、ガラス等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。基板の形態も特に限定されるものではないが、例えば、板状、フィルム状等の基板を好適に用いることができる。
〔基板表面に固定化されるオリゴヌクレオチド〕
本発明に係る細菌検出器具の基板表面に固定化されるオリゴヌクレオチドは、検出対象細菌が属する種または属に特異的な塩基配列に基づくオリゴヌクレオチドであればよい。当該オリゴヌクレオチドとサンプル由来の核酸との間にハイブリダイゼーションが成立することにより、サンプル中に含まれている目的の種または属に属する細菌を検出することが可能となる。なお、上記検出対象細菌が属する種または属に特異的な塩基配列に基づくオリゴヌクレオチドを、以下適宜「キャプチャーオリゴ」と称する。
上記特異的な塩基配列は、検出対象細菌のゲノムの塩基配列から属または種特異的な塩基配列を見出せばよいが、検出対象細菌のリボソームRNA遺伝子に対応する塩基配列から見出すことが好ましい。なかでも細菌の16SリボソームRNA遺伝子は属または種特異的な塩基配列を多く有していることが知られており、16SリボソームRNA遺伝子に対応するDNA配列中から属または種特異的な塩基配列を見出すことが特に好ましい。リボソームRNA遺伝子の塩基配列は、GenBank、EMBL、DDBJ等のデータベース等から入手することができる。
キャプチャーオリゴは上記属または種特異的な塩基配列に基づいて設計すればよい。したがって、上記属または種特異的な塩基配列そのものであってもよいし、検出対象細菌から調製した核酸と特異的なハイブリダイゼーションが成立する限りにおいて、変異が含まれていてもよい。変異の位置は特に限定されるものではない。
キャプチャーオリゴの長さ(塩基数)は特に限定されるものではないが、短すぎるとハイブリダイゼーションの検出が困難になり、長すぎると非特異的ハイブリダイゼーションを許容してしまう。発明者らは、キャプチャーオリゴの長さの最適化について検討を重ね、標準的な長さを12〜50塩基長とした。好ましくは、12〜40塩基長、より好ましくは12〜30塩基長、さらにより好ましくは、13〜22塩基長であるが、これらに限定されない。塩基長は主として配列特性(特定の塩基の含有率,同一塩基のリピート)に依存するものであり、結合性の良いものは短鎖でも特異的ハイブリダイゼーションが可能であることが、発明者らにより確認されている。
キャプチャーオリゴが、サンプル由来の核酸とのハイブリダイゼーションを妨害するヘアピン構造、ループ構造、またはそれ以外の立体構造を持つ場合、キャプチャーオリゴを構成する1またはそれ以上のヌクレオチドをイノシンまたはいずれのヌクレオチドとも対合しない核酸に置換することにより、その立体構造を解除することができる。
キャプチャーオリゴの合成法は特に限定されるものではなく、公知の方法(例えば、Maniatis,T.et al.,Molecular Cloning A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)に記載の方法等)により合成すればよい。一般的には、市販のDNA合成機を用いて化学合成することができる。
本発明に係る細菌検出器具において、上記検出対象細菌が属する種または属に特異的な塩基配列に基づくオリゴヌクレオチドのみではなく、それらに加えて、いわゆるコントロール・キャプチャーオリゴを基板表面に固定化することが好ましい。コントロール・キャプチャーオリゴには、陽性コントロール・キャプチャーオリゴおよび陰性コントロール・キャプチャーオリゴが含まれる。陽性コントロール・キャプチャーオリゴは、後述するプローブ調製工程において増幅反応がうまくいっているかどうかを判定するために用いるものである。陰性コントロール・キャプチャーオリゴは、非特異的ハイブリダイゼーションが生じていないこと、すなわち擬陽性のハイブリダイゼーションシグナルが生じていないことを確認するために用いるものである。これらの陽性コントロール・キャプチャーオリゴおよび陰性コントロール・キャプチャーオリゴが基板表面に固定化された細菌検出器具も本発明に含まれる。
陽性コントロール・キャプチャーオリゴは検出対象細菌から調製するプローブに含まれる塩基配列に基づいて設計されるものであればよい。また、複数の検出対象細菌を同時に同一の細菌検出器具を用いて検出する場合には、各検出対象細菌について陽性コントロール・キャプチャーオリゴを設計してもよいが、複数の検出対象細菌から調製するプローブに共通する塩基配列に基づいて設計してもよい。すべての検出対象細菌から調製するプローブに共通する塩基配列がない場合は、いくつかのグループごとに陽性コントロール・キャプチャーオリゴを設計してもよい。あるいは、プライマー配列部分が同じで、対象となる細菌の配列とは異なる人工的な配列を設計し、この配列の一部を陽性コントロール・キャプチャーオリゴとすることもできる。上記人工的な配列を鋳型としてプローブを調製し(本明細書では、このようなプローブをコントロールプローブと称する。)、サンプルから調製したプローブに添加することにより、ハイブリダイゼーションの特異性を検証することが可能となる。なお、上記プローブについては後述する。
陰性コントロール・キャプチャーオリゴは、陽性コントロール・キャプチャーオリゴの塩基配列において、1塩基以上であり、かつ、当該配列の有する塩基数の20%未満の範囲内で人為的な塩基の置換を含む塩基配列を有するように設計することが好ましい。塩基置換を行う塩基数は、ハイブリダイゼーションの条件との関係で決定され、検出対象細菌由来のプローブがハイブリダイゼーションを生じないような塩基数を選択すればよい。
検出対象細菌は特に限定されるものではなく、目的とするサンプル中から検出しようとする細菌を適宜選択すればよい。例えば、食品中に混入し当該食品を汚染する可能性のある細菌を挙げることができる。食品中に有害な細菌が混入することは、公衆衛生上非常に大きな問題となる。上記の食品汚染細菌の存在および/またはその量と比較することによって、本発明の血清型kのS.mutans株の存在および/またはその量を測定することができる。
食品を汚染する細菌としては、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ペディオコッカス属(Pediocuccus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、メガスフェラ属(Megasphaera)およびペクチネータス属(Pectinatus)に属する細菌を挙げることができる。また、ラクトバチルス属(Lactobacillus)に属する細菌種としては、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・コリニフォルミス(Lactobacillus coryniformis)、ラクトバチルス・カルバトス(Lactobacillus curvatus)、ラクトバチルス・デルブリュッキィ(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス・リンドネリ(Lactobacillus lindneri)、ラクトバチルス・マレファーメンタンス(Lactobacillus malefermentans)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・ブヒネリ(Lactobacillus buchneri)、ロイコノストック属(Leuconostoc)およびザイモモナス属(Zymomonas)に属する細菌、並びにエンテロコッカス・デュランス(Enterococcus durans)およびラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)を挙げることができる。ただし、検出対象細菌はこれらに限定されるものではない。
上記例示した細菌を検出・同定するためのキャプチャーオリゴとしては、上記に列挙した細菌の16SリボソームRNA遺伝子に対応する塩基配列のうち、各属に特異的な配列に基づくオリゴヌクレオチドを挙げることが、これらに限定されるものではない。
本発明に係る細菌検出器具の基板表面に固定化されるキャプチャーオリゴは、対象とする細菌から調製されたプローブとハイブリダイゼーションが成立するものであれば特に限定されるものではない。
1つの基板上に固定化するキャプチャーオリゴは、少なくとも1種類以上であればよく、特に上限はない。一般に、試料中に混入した細菌を検出する場合は、サンプル中から検出可能な細菌を1つの基板で網羅的に検出できることが、操作の簡便性および検査の迅速性の観点から好ましいといえる。したがって、本発明に係る細菌検出器具も、1つの基板上に目的の細菌種または属に対応するキャプチャーオリゴを複数固定化した、いわゆるマイクロアレイ型の器具とすることが最も好ましい。
(B)オリゴヌクレオチド(キャプチャーオリゴ)の固定化
オリゴヌクレオチドの基板表面への固定化法は特に限定されるものではなく、公知の方法を適宜選択して用いればよい。例えば、物理的吸着、電気的結合または分子共有結合などの一般的なハイブリダイゼーション法に用いられる手法が利用可能である。本発明に係る細菌検出器具においては、表面にカルボジイミド基またはイソシアネート基を有する基材を使用し(米国特許:US5,908,746、特開平8−23975号)、固定化することが好ましい。
オリゴヌクレオチドをスポッティングする際に、オリゴヌクレオチドのスポット量が少なすぎると、オリゴヌクレオチドとプローブとの間の反応性を十分に確保することができず、判定が困難になることがある。また、高集積度のスポッティングは技術的な問題と同時にコストがかかり、さらにプローブの蛍光標識や化学発色などを用いたハイブリダイゼーションシグナルの検出にもより精密で高額な検出装置(例えば、スキャナー)が必要となる。したがって、オリゴヌクレオチドは、基板の表面に径10〜1,000μmのサイズに固定することが好ましい。オリゴヌクレオチドの基板上へのスポッティング方法は特に限定されるものではない。例えば、スポッティングマシンを使用して基板上にオリゴヌクレオチド溶液をスポッティングすることにより行うことができる。これによりオリゴヌクレオチド溶液は、通常ほぼ円形にスポッティングされる。
(5)本発明の用途
本発明を用いることによって、患者が感染性心内膜炎の原因菌の1つであるS.mutansのうち病原性の高い可能性のある菌株を保有するか否かを簡便に同定し得る。特に、これまで検出限界以下であった症例において原因菌を検出し得る。感染性心内膜炎発症のリスクの高い菌株を保有する個体の限定が可能となり、それにより感染性心内膜炎を予防するために使用される多量の抗生物質を抑制し得、抗生物質の乱用に起因する薬剤耐性菌の出現を抑制し得る。また、原因菌となるS.mutans株と症状との間の相関関係を知ることができるとともに、他の原因菌との関係についてさらなる情報を与えることができる。
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(A)S.mutans臨床口腔分離株の収集およびS.mutans血清型の同定
1982年から1990年の間に571人の幼児から分離した1326個のS.mutans株(分離株のMT4000シリーズまたはMT10000シリーズ)を、本発明者らの研究室ストックより選択した。
さらに、2002年8月に大阪大学歯学部病院小児歯科(日本国大阪府吹田市)へ訪れた100人の被験体(3〜17歳;平均8.9歳)より得た株を、無作為に選択した(NN2000シリーズ)。これらの被験体は、88人の健常な幼児とともに、口唇裂および口蓋裂を有する患者5人、心室中隔欠損を有する患者3人、エナメル質形成不全症を有する患者2人、二分脊椎を有する患者1人、ならびに自閉症の患者1人を含んだ。
臨床標本の収集を、ヒト被験体に関与する研究のための大阪大学倫理委員会規定に従って行った。プラークサンプルを、滅菌したPBS中に懸濁し、希釈し、そしてバシトラシン(0.2単位/ml;Sigma Chemical Co.,St.Louis,Mo.)および15%(w/v)のスクロースを含有するMS寒天培地(Difco)上に広げた。コロニーの形態に基づいて、各被験体からコロニーを1つ選択して実験に供した。
Masuda,N.et al.,1985.Transmission of Streptococcus mutans in some selected families.Microbios.44:223−232に記載の方法に従って、S.mutans株のc型、e型およびf型に対する抗血清を取得し、この抗血清を使用する免疫拡散法によって、上記臨床標本の血清型を決定した。
MTシリーズ1326株の全てが血清学的にc、eまたはfとして分類され、血清型が不定である分離株は見出されなかった。一方、NN2000シリーズ100株のうちの78株、17株および3株は、それぞれ血清型c、eおよびfとして分類され、残りの2株(FT1(NN2011)およびSU1(NN2029))は、c型、e型またはf型に特異的な抗血清と反応しなかった(表1)。また、血清学的に不定な株(FT1株またはSU1株)を保有する被験体の各々から、50コロニーを分離した。
(B)S.mutans株
上述したS.mutans株のc型、e型およびf型に対する抗血清を用いて、S.mutans血液分離株TW295、TW871、TW964およびTW1378が、それぞれ、血清型不定株、血清型不定株、f型株およびe型株であることを同定した。これらのS.mutans株ならびに上述した口腔分離株であるMT8148(c型株)、MT4245株(e型株)、およびMT4251(f型株)の特徴を、表2に示す。
(C)S.mutansに対する抗血清の作製
S.mutans血清型不定株に対する抗血清を取得した。新規血清型のS.mutansに対する抗血清は、その抗原性が著しく低下しているために従来の方法では抗血清が得られなかったが、本発明者らは、免疫法を工夫することによってその高血清を得ることに成功した。
具体的には、S.mutansのTW295株およびTW871株の全菌体を、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)に懸濁し、各々の菌体について一日あたり乾燥重量5mgを、5日間連続でウサギ耳介静脈に注射した。1週間間隔をあけた後、さらなる2週間において1週間に5日間ずつ反復注射し、ウサギ耳介静脈より採血し、S.mutansのTW295株に対する抗血清およびTW871株に対する抗血清を得た。
(D)グルコース側鎖欠失変異株の構築、およびその細菌学的特徴づけおよび血清学的特徴づけ
MT8148のグルコース側鎖欠失(GD)変異株を、gluA遺伝子に抗生物質耐性遺伝子の挿入不活化によって構築した。S.mutans株Xc(GenBank accession no.AB001562)およびOklahoma大学より公開されているS.mutansゲノムデータベース(GenBank accession no.AE014133)から得たgluA配列に基づいて構築したプライマーとともにAmpliTaq Goldポリメラーゼ(Applied Biosystems,Foster City,Calif)を用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、gluA遺伝子およびその隣接領域を増幅した。この増幅したフラグメントを、次いで、pST Blue−1ベクター(Promega,Madison,Wis)にクローニングして、プラスミドpRN101を作製した。pRN101のgluAのオープンリーディングフレームの中央部を、Stu1によって消化し、次いで、pVA838より得た830bpのエリスロマイシン耐性遺伝子(erm)フラグメントを挿入してプラスミドpRN102を構築した。制限酵素Not Iでの消化によって線状化した後、このプラスミドを、TobianおよびMacrinaの方法によってS.mutans MT8148株に導入した。この形質転換体を、エリスロマイシン(10μg/ml)を含有するMitis−salivarius(MS)寒天培地(Difco Laboratories,Detroit,Mich.)プレート上でスクリーニングした。gluA遺伝子のPCR増幅および免疫拡散法によって、変異株MT8148GDの適切な挿入不活化を確認した。
MT8148GDは、S.mutansの典型的な生物学的特徴を示した。この特徴としては、MS寒天培地上での粗いコロニー、糖発酵能陽性、PAおよびGTFの発現、ならびに高レベルのショ糖依存的付着および菌体疎水性が挙げられる。
(E)種々のS.mutans株に対する抗血清の反応性
上記の抗体を用いて免疫拡散法(ゲル内沈降反応)を行なうために、TW295株およびTW871株、ならびにc型、e型およびf型のS.mutans株を一晩培養し、121℃で15分加熱した後に遠心分離して、上清として抗原(ランツ−ランドール(RR)抗原)を得た。
S.mutansのTW295株に対する抗血清およびTW871株に対する抗血清は、S.mutansのc型株、e型株およびf型株から調製した抗原と反応しなかったが、S.mutansのTW295株およびTW871株から調製した抗原と反応した(図1A〜E)。これらS.mutansのTW295株およびTW871株の血清型をk型と名付けた。
なお、図1Aの中央のウェルは、TW295株から得たRR抽出物を含み(ウェル1)、外側のウェルは、TW295株に対する抗血清(ウェル2)およびTW871株に対する抗血清(ウェル3)、ならびに血清型cに特異的な抗血清(ウェル4)、血清型eに特異的な抗血清(ウェル5)および血清型fに特異的な抗血清(ウェル6)を含む。また、図1Bの中央のウェルは、TW871株に対する抗血清を含み(ウェル7)、の外側のウェルは、TW295株から得たRR抽出物(ウェル8)、TW871株から得たRR抽出物(ウェル9)、MT4251株(f)から得たRR抽出物(ウェル10)、MT4245株(e)から得たRR抽出物(ウェル11)およびMT8148株(c)から得たRR抽出物(ウェル12)を含む。また、図1Cの中央のウェルは、FT1株から得たRR抽出物を含み(ウェル13)、外側のウェルは、TW871株に特異的な抗血清(ウェル14)、血清型cに特異的な抗血清(ウェル15)、血清型eに特異的な抗血清(ウェル16)および血清型fに特異的な抗血清(ウェル17)を含む。図1Dの中央のウェルは、血清型cに特異的な抗血清を含み(ウェル18)、外側のウェルは、MT8148株から得たRR抽出物(ウェル19)およびMT8148GD株(c)から得たRR抽出物(ウェル20)を含む。図1Eの中央のウェルは、TW871株に対する抗血清を含み(ウェル21)、図1Eの外側のウェルは、TW295株から得たRR抽出物(ウェル22)、TW871株から得たRR抽出物(ウェル23)、FT1株から得たRR抽出物(ウェル24)、SU1株から得たRR抽出物(ウェル25)、YK1株から得たRR抽出物(ウェル26)およびMT8148GD株から得たRR抽出物(ウェル27)を含む。
MM8148GDのRR抽出物は、TW871に対する抗血清と沈降バンドを形成し(しかし、血清型c特異的抗血清とは沈降バンドを形成しない)、このバンドは、TW295、TW871、FT1、SU1およびYK1の沈降バンドと融合した。
さらに、この抗血清を用いて、100人の被験体から分離した100株(NN2000シリーズ)のS.mutans中にk型株が存在する頻度を調べた。2株のRR抗原は、c型、e型またはf型のS.mutans株に対する抗血清とは反応しなかったが、k型のS.mutans株に対する抗血清と反応した。残りの98株のRR抗原は、c型株、e型株またはf型株に特異的な抗血清のいずれかと反応した。よって、NN2000シリーズのS.mutans臨床口腔分離株における血清型不定株(FT1株およびSU1株)はk型株であると同定した。
(F)血清型不定株S.mutansの特徴づけ
血清型が不定な臨床分離株のショ糖依存的付着および菌体疎水性を、それぞれ、Hamadaら(1981)、およびRosenbergら(1980)、によって記載されるように評価した。菌体結合型(cell−associated)グルコシルトランスフェラーゼ(CA−GTF)または菌体遊離型(cell−free)グルコシルトランスフェラーゼ(CF−GTF)および表層タンパク質抗原(PA)の発現を、GTFおよびPAに特異的な抗体を用いるウエスタンブロット分析を使用して分析した(図2A〜C)。ゲノムDNAを試験菌体より抽出し、16S rRNA配列を決定し、そして対照株NCTC10449(GenBank accession no.X58303、S70358)の配列と比較した。
なお、図2AおよびBでは、全細胞を、7%SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離し、S.mutansのPA(図2A)またはCA−GTF(図2B)に対するウサギ抗体と反応させた。一方、図2Cでは、硫酸アンモニウム沈殿によって濃縮した細胞上清(C)PVDF膜上に転写したタンパク質を、7%SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離し、CF−GTF(C)に対するウサギ抗体と反応させた。各レーンについて説明すると、レーン1がMT8148株であり、レーン2がFT1株であり、レーン3がSU1株であり、レーン4がYK1株である。FT1株およびSU1株は、PAおよび3つの型のGTFを発現した。
FT1株およびSU1株は、高レベルのショ糖依存的付着および菌体疎水性を示し(データ示さず)、そしてこれらの16S rRNA遺伝子配列は、NCTC10449株(GenBank accession no.X58303およびS70538)の16S rRNA遺伝子配列と同一であった。さらに、FT1株のRR抽出物は、TW871株およびTW295株に対する抗血清とともに沈降バンドを形成し、このバンドはまた、TW871のRR抽出物とTW871に対する抗血清との沈降バンドと融合した。さらに、FT1株およびSU1株を有する被験体の各々より得た50株は、c型、e型またはf型に特異的な抗血清と反応性ではなかった。
また、これら両方の株は、S.mutansの特徴であるMS寒天培地上での粗いコロニー、バシトラシン耐性、血液寒天上でのγ溶血性、マンニトール、ソルビトール、ラフィノースおよびメリビオースにおける糖発酵能陽性、ならびにデキストラン凝集陰性を示した。
(G)さらなる臨床分離株の解析
S.mutansのさらなる臨床的分離株2500個を、2003年初頭に大阪大学歯学部病院の小児歯科へ訪れた別の群の被験体50人(3〜19歳;平均7.8歳)より得た。これらの被験体は、45人の健常な幼児および一般的健康問題または口腔の健康問題(例えば、ダウン症、先天性心障害、口唇裂および口蓋裂、エナメル質形成不全症、ならびに部分的無歯症)を有する患者5人を含んだ。
表3は、S.mutansの上記分離株2500個(そのうち2450個はc型、e型またはf型に分類された)の血清型分布を示す。
一方で、単一の被験体(ダウン症の少女)より得た他の50株(YK1〜YK50)のRR抽出物が、TW871に対する抗血清と沈降バンドを形成した。このバンドはまた、TW295、TW871、FT1およびSU1のRR抽出物の沈降バンドと融合した。表4は、個々の被験体における血清型分布パターンを示し、これらの被験体のほとんどが、S.mutansの血清型cのみを保有し、次いで血清型eのみを保有するが、50人の被験体のうち5人は複数の血清型を保有するということが、見出された。
(H)食作用アッセイ
生物を、Brain Heart Infusion broth(Difco)中にて37℃で18時間培養した。この菌体を洗浄した後、細胞濃度を、PBSで1.0×108CFU/mlに調整した。ヒト末梢血(500μl)を、健常なボランティアより収集し、そして細菌500μl(5.0×107CFU)とともに37℃で10分間インキュベートした。ギムザ染色(Wako Pure Chemical Industries,Osaka,Japan)を用いて染色し、光学顕微鏡(倍率、×100;Olympus Industries,Tokyo,Japan)を用いて、食作用を呈している多型核白血球(PMN)の割合を求めた。100個のPMN当たり食菌したPMNの平均値(500個のPMNを試験した)によって、比率を表した。
さらに、MT8148株、MT8148GD株、FT1株、およびTW295株における経時的な食作用の比率の変化を、15分後、30分後、60分後、90分後および120分後に観察した。種々の因子について群の間での差異を、要因モデルについての統計学的分散分析(ANOVA)によって評価した(図3)。
図3A・Bは、S.mutansの口腔分離株および血液分離株の食作用率を示す。なお、図3A・Bに示す結果は、5回の実験の平均±標準偏差を示す。図3Aでは、12株の食作用率を、10分間のインキュベーション後に試験した。図3Bでは、15分間、30分間、60分間、90分間および120分間のインキュベーションにおけるMT8148(●)、MT8148GD(○)、FT1(▲)およびTW295(□)の食作用率の変化を示す。
MT8148GD株の食作用率は22.0±2.4%であり、これは、親株MT8148の食作用率(68.4±4.1%)より有意に低かった(P<0.001)。さらに、NN2001(c)、NN2002(e)およびNN2003(f)の口腔分離株は、MT8148と同等の食作用率を示したが、血清型kの口腔分離株であるFT1、SU1およびYK1はまた、MT8148よりも有意に低い食作用率を示した(P<0.001)。さらに、血液分離株の4つ全ての食作用率は、口腔分離株の食作用の割合よりも有意に低かった(P<0.001)。また、MT8148GD、FT1およびTW295の食作用率は、不活化60分間までMT8148よりも有意に低く、TW295の食作用率はまた、不活化の90分間後MT8148よりも有意に低かった(P<0.001)。
感染性心内膜炎は、病原性細菌の血流中への侵入によって開始されることが知られているが、侵入機構および血液中でのS.mutansの生存機構は、未だ明らかになっていない。本実施例において、本発明者らは、血清型特異多糖抗原においてグルコース側鎖を欠失した同系の変異株の食作用率が、親株の食作用率より低いことを見出した。フィッシャーPLSD分析によって決定した場合、MT8148(血清型c)と他の株との間に統計学的に有意な差異があった(*P<0.001)。
さらに、血清型kの口腔分離株および血液分離株は、PMNによる食作用率が低下した。総じて、これらの知見は、血清型k株(これは、血清型特異多糖抗原においてグルコース側鎖を欠くと考えられている)がおそらく菌血症病原性株であり得ることを示唆する。一方で、血液分離株であるTW964(e)およびTW1378(f)は、口腔分離株であるNN2002(e)およびNN2003(f)より食作用に対して感受性ではない。しかし、本発明者らは、TW964がグルカン結合タンパク質Aを欠くが、TW1378ではこのような変異は何ら見られなかったということを示した。従って、食作用能に対する効果を有する血清型特異的多糖抗原以外に、菌体表層構造物の変異が存在し得る。
(I)考察
血液分離株2株(TW295およびTW871)、口腔分離株152株(FT1〜FT51、SU1〜SU51、およびYK1〜YK50)、および、gluA不活化株(MT8148GD)のRR抽出物は、TW295またはTW871に対する抗血清と沈降バンドを形成した。一方で、これらの分離株は、S.mutansに典型的な生物学的特徴(高レベルのショ糖依存的付着および疎水性、ならびにグルコシルトランスフェラーゼが挙げられる)を有することが示された。
本研究においてS.mutans血清型c、eおよびfが分離される頻度は、デンマークでの研究において報告されたものと非常に類似した。この報告において、ヒト歯垢サンプルより得られた76個のmutans streptococciのうち1つおよびヒトう蝕性病変より得られた70個のmutans streptococciのうち7つは、血清型a〜gとして血清学的に分類することができなかった。生化学的分析は、これらの血清型不定株がS.mutansに属することを示したが、血清型特異的多糖の構造は分布していなかった。別の研究において、ヒトの歯垢サンプル、う蝕性象牙質サンプル、または糞サンプルより採取された1047個のS.mutans分離株またはS.sobrinus分離株の全ては、血清型c、e、f、dまたはgとして分類され得た。さらに、日本の別の地域において実施された最近の研究において、歯垢より得られた144個のS.mutansまたはS.sorbinusの全てが、血清型c、e、dまたはgとして分類され、そしてf型株または血清型不定株は検出されなかった。一方で、最近日本において、103人の被験体のうち9人が、血清学的に不定なS.mutansを保有することが報告されたが、血清型特異的多糖の特徴に関する正確な記載はなかった。以上のことは、本発明者らは、最近日本において血清型k型が出現したことを示している。
本研究において、この新たな血清型を有するS.mutansが3人の幼児由来のプラークサンプル中に見出され、152株全てが血清型kとして分類された。これらの臨床分離株の起源は、未だ同定されていないが、血清型k株は、これら3人の被験体より得られた歯垢サンプル中に見出されたS.mutans株の大部分を占めた。そしてこれらの全てが、高レベルの菌体疎水性およびショ糖依存的付着、ならびに食作用に対する高い抵抗性を示した。これらの知見は、S.mutansの血清型k株が、GTFおよびPAの発現ならびに高い疎水性およびショ糖依存的付着に起因してヒトの口腔中に存在すること、ならびにより低い食作用能に起因して血液中で生存し得ることが明らかとなった。従って、心障害を有する幼児に対して特別な注意が払われなければならない。特に、口腔中にS.mutans血清型k株を保有するダウン症患者については、心室中隔欠損とともに多型核白血球(PMN)の機能障害を合併することもあるため、より危険であり得る。これらの患者において新たな血清型kが検出されるということは危険性の増加を示し得るので、歯科処置の前に抗生物質処方のような臨床的アプローチが必要とされ得、そしてこのことは留意されるべきである。
[実施例2.S.mutansのk型株に特異的な遺伝子配列の検索]
S.mutansのk型株(TW295株、TW871株、FT1株、YT1株)からゲノムDNAを抽出し、それぞれの株において、血清型特異的多糖抗原の生合成に関与する酵素をコードする遺伝子配列を特定し、血清型cのMT8148株において対応する配列と比較した。さらに、S.mutansのk型株のDNA配列をデータベース上の株(Xc株:GenBank accession no.AB010970、UA159株:GenBank accession no.AE014133)のDNA配列と比較して、k型株に特異的な遺伝子配列を特定した。k型株においてrgp遺伝子群中で様々な変異が認められたが、全てのk型株に共通して、rgpF遺伝子の前半部において変異が認められた(図4〜図13)。
[実施例3.S.mutansのk型株の簡易同定法の確立]
S.mutansのc型株と比較した場合、S.mutansのk型株において、rgpF遺伝子の前半部分3分の1に特異的な遺伝子配列が存在した。その領域を利用して、rgpF遺伝子の開始コドンの上流部において各血清型(c型、e型、f型およびk型)の株の間で共通する配列に基づいて順方向プライマーを設計し(ATTCCCGCCGTTGGACCATTCC(配列番号8):CEFK−F)、k型に特異的な配列に基づく逆方向プライマー(CCAATGTGATTCATCCCATCAC(配列番号9):K−R)、ならびにc型、e型およびf型に特異的な配列に基づく逆方向プライマー(CCGACAAAGACCATTCCATCTC(配列番号10):CEF−R)を設計した(表5および図14)。
上記のプライマー対を用いてk型株のみが特異的にPCR増幅する系を確立した。具体的には、S.mutansのk型株(TW295株、TW871株、FT1株、YT1株)および唾液サンプルからゲノムDNAを抽出し、CEFK−FとCEF−Rとのプライマー対、およびCEFK−FとK−Rとのプライマー対を用いて、図15に従ってPCR反応溶液を、94℃5分を1サイクル、94℃30秒、60℃30秒、72℃30秒を30サイクル、72℃7分1サイクルの条件でPCR反応を行った。得られた反応溶液を1.5%アガロースゲルで電気泳動した。その結果を図16に示す。
[実施例4:S.mutansの血清型k以外の株または血清型k株についてのPCRアッセイの感度]
S.mutans菌体の滴定培養を用いて、プライマー対CEFK−FおよびCEF−Rならびにプライマー対CEFK−FおよびK−Rを用いるPCR反応の感度を調べた。具体的には、1ml当たり108個のMT8148株(c型)、TW295株(k型)およびFT1株(k型)について、プライマー対CEFK−FおよびK−Rを用いてPCRを行った。テンプレートとして、上記菌体より抽出したゲノムDNAを用いた。滅菌水中に希釈した既知の数(5×104個、5×103個、5×102個、5×101個、および5個)の菌体を使用することによって、PCRの検出限界を決定した(図16)。
なお、図16では、1ml当たり108個のMT8148株(c型)、TW295株(k型)およびFT1株(k型)の細胞の滴定培養を用いて、PCR反応の感度を調べた。以下の数の細胞を添加した:5×104(レーン1)、5×103(レーン2)、5×102(レーン3)、5×101(レーン4)、および5(レーン5)。Mは、分子サイズマーカー(100bp DNAラダー)を示す。
S.mutansのk型株(TW295株およびFT1株)において、k型に特異的なプライマーによるPCR増幅が生じ、c型(MT8148株)において、k型に特異的なプライマーによるPCR増幅が起こらなかった。
検出限界は、血清型c/e/f株に特異的なプライマー対において50〜500細胞、血清型k株に特異的なプライマー対において5〜50細胞であり、非常に良好な感度であることがわかった。
[実施例5:S.mutans血清型k株の検出のためのPCRアッセイ]
種々の血清型のS.mutans株およびS.mutans以外の連鎖球菌より抽出したDNAをテンプレートに用いて、プライマー対CEFK−FおよびCEF−R、プライマー対CEFK−FおよびK−Rを使用するPCRの確からしさを確認した(図17A・B)。
なお、図17Aでは、血清型c/e/f株に特異的なプライマー対(CEFK−FおよびCEF−R)を用いて、血清型c/e/f株の細菌より抽出したゲノムDNA(レーン1〜4)、血清型k株の細菌より抽出したゲノムDNA(レーン5〜8)、唾液サンプルより抽出したゲノムDNA(レーン9〜14)をテンプレートとして、PCR反応を行った。また、図17Bでは、血清型k株に特異的なプライマー対(CEFK−FおよびK−R)(B)を用いて、血清型c/e/f株の細菌より抽出したゲノムDNA(レーン1〜4)、血清型k株の細菌より抽出したゲノムDNA(レーン5〜8)、唾液サンプルより抽出したゲノムDNA(レーン9〜14)をテンプレートとして、PCR反応を行った。
各レーンについて説明すると、レーン1がMT8148(c型)であり、レーン2がNN2001(c型)であり、レーン3がNN2002(e型)であり、レーン4がNN2003(f型)であり、レーン5がTW295(k型)であり、レーン6がTW871(k型)であり、レーン7がFT1(k型)であり、レーン8がYT1(k型)であり、レーン9がSteptococcus sanguinis ATCC10556であり、レーン10がStreptococcus oralis ATCC10557であり、レーン11がStreptococcus gordonii ATCC10558であり、レーン12がStreptococcus mitis ATCC903であり、レーン13がStreptococcus milleri NCTC10703であり、レーン14がStreptococcus salivarius HHTである。
プライマー対CEFK−FおよびCEF−Rは、血清型c/e/f株を特異的に検出し、プライマー対CEFK−FおよびK−Rは、血清型k株を特異的に検出したが、いずれのプライマー対も、S.mutans以外の連鎖球菌を検出しなかった。このように、プライマー対CEFK−FおよびCEFK−R、ならびにプライマー対CEFK−FおよびK−Rを使用すると、それぞれ血清型c/e/f株および血清型k株を特異的に検出し得るだけでなく、S.mutansのみを特異的に検出し得ることがわかった。
[実施例6:唾液サンプルを用いるPCR反応によるS.mutans血清型k株を有する被験体の同定]
吐出した全唾液(約1ml)を、2004年1〜2月に大阪大学歯学部小児歯科を訪れた200人の小児あるいは思春期の患者(2〜18歳(平均年齢7.9±3.6歳))より収集した。これらの唾液サンプルを、Hoshinoら(2004)によって報告された方法をいくらか改変したPCRアッセイに用いた.簡単には、無刺激の全唾液を滅菌チューブ中に収集して氷上に置いた。菌体を、500μlの唾液から16,000×gにて5分間で微量遠心管中に回収し、電子オーブン中にて500Wで5分間処理し、N−アセチルムラミリダーゼSG(Seikagaku Corp.,Tokyo,Japan)中にて50℃で1時間消化した.次いで、80μlの核溶解(nucleilysis)液(Promega)を添加して、80℃で5分間インキュベートし、その後60μlのタンパク質沈降溶液(Promega)を添加した。16,000×gにて3分間の遠心分離によってタンパク質を除去し、フェノール−クロロホルム抽出およびエタノール沈殿によって、DNAを生成した。抽出したDNAを、50μlのTE緩衝液(10mM Tris−HCl、1mM EDTA(pH8.0))中に溶解した。このDNA抽出方法は、歯垢から菌体ゲノムを抽出する際にも用いることができる。
上記のように得たDNAをテンプレートに用いるPCRによって、プライマー対CEFK−FおよびCEF−Rを使用して血清型c/e/f株を(A)、プライマー対CEFK−FおよびK−Rを使用して血清型k株(B)を検出した(図18A・B)。その結果、被験体200人から得た臨床標本のうち190個が、血清型k株に非特異的(血清型c/e/f株に特異的)なプライマー対に対して陽性を示したが(A)、血清型k株に特異的なプライマー対(B)に対して陰性であった。また、残りの10個の標本は、血清型k株に特異的なプライマー対(B)および血清型k株に非特異的(血清型c/e/f株に特異的)なプライマー対(A)に対して陽性を示した。
なお、図18Aでは、プライマー対CEFK−FおよびCEF−Rを使用して、血清型k株に非特異的(血清型c/e/f株に特異的)なプライマー対(A)に対して陽性を示したが血清型k株に特異的なプライマー対(B)に対して陰性であった上記190個の標本のうちで代表的な5例を示す。また、図18Bでは、血清型k株の検出のために、プライマー対CEFK−FおよびK−Rを使用した。各レーンについて説明すると、レーン1〜5が血清型k株に特異的なプライマー対に対して陰性であった上記190株の標本のうち代表的な5例を示す。レーン6〜8は、血清型k株に特異的なプライマー対に対して陽性であった株を示す。
以上のように、S.mutansのk型株(TW295株、TW871株、FT1株、SU1株、YK1株、YT1株およびAT1株)、ならびにS.mutans臨床分離株(NN2000シリーズ:c型78株、e型17株、f型3株)において、k型に特異的なプライマーによるPCR増幅が生じ、c型、e型またはf型に特異的なプライマーによるPCR増幅は起こらなかった。また、98個のc型、e型またはf型のS.mutans株において、c型、e型またはf型に特異的なプライマーによるPCR増幅が起こり、k型に特異的なプライマーによるPCR増幅が起こらなかった。
S.mutansは、その細胞表面多糖の化学組成に基づいてc型、e型およびf型の血清型に分類される(Linzerら、1987)。S.mutansの血清型特異的多糖は、ラムノース骨格およびα連結グルコシド残基またはβ連結グルコシド残基の側鎖を有するラムノース−グルコースポリマーからなることが知られている。本発明者らの以前の研究において、菌血症を発症する患者の血液より得た血清型不定株(TW295)および感染性心内膜炎を発症する患者の血液より得た血清型不定株(TW871)は、血清型特異的多糖においてグルコース側鎖の量が低下することが示された(Fujiwaraら、2001)。
実施例1に示すように、k型の血清型を示すMT8148GDは、高レベルのショ糖依存的付着を示したが、その付着率は、親株MT8148(c型)の付着率よりも有意に低かった。
最近、血清型特異的多糖が、ヒト単核球および線維芽細胞に対する連鎖球菌の付着において重要な役割を担うことが実証され、そして最も有効なサイトカイン刺激成分であることが予測された(Engels−Deutschら、2003)。しかし、血清型特異的多糖とう蝕との間の関係は、解明の余地を残す。
そこで本発明者らは、新たに解明されたS.mutansの血清型k株のう蝕原性における血清型特異的多糖のグルコース側鎖の役割を分析した。
(A)S.mutans株
本実施例において使用したS.mutans株を、表6に示す。MT8148(c)の口腔分離株を、本発明者らの研究室の培養物ストックコレクションより選択した。FT1株(k)、SU1株(k)およびYK1株(k)をまた、日本人の幼児の口腔より分離した。さらに、YT1株を、6歳の健常な少年の口腔より分離し、実施例1に記載する方法に従ってS.mutans血清型kであることを確認した。MT8148R株およびYK1R株を、漸増濃度のストレプトマイシン(寒天培地1ml当たり最終濃度1500μgまで)中での継代培養を繰り返すことによってストレプトマイシンに対して耐性にした(Ooshimaら、2000)。MT8148GD株(MT8148のgluA不活化同系変異株)を、実施例1と同様に構築した。
(B)う蝕原性特性のインビトロ分析
S.mutansのガラスチューブに対するショ糖依存的付着性および唾液被覆ヒドロキシアパタイト(SHA)に対するショ糖非依存的付着性を、以前に記載した(Ooshimaら、2001;Nakanoら、2002)ように分析した。菌体疎水性およびデキストラン結合活性をまた、以前に記載した(Fujiwaraら、2001;Nakanoら、2002)ように分析した。
種々の因子について群の間での差異を、要因モデルについての統計学的分散分析(ANOVA)によって評価した(表7)。
表7は、う蝕原性のインビトロ分析より得た生物学的特性を示す。MT8148GDは、ガラス表面に対するショ糖依存的付着性、SHAに対するショ糖非依存的吸着率、デキストラン結合能、CA−GTF活性およびCF−GTF活性について有意に低い値を示した(P<0.001)。しかし、FT1とFT1GDとの間ではこれらの特性に関して有意差はなかった。
(C)GTFの発現
発現したタンパク質の量を評価するために、本発明者らの以前の研究において作製した抗菌体結合型(CA)GTF抗血清および抗菌体遊離型(CF)GTF抗血清を用いて、GTFのイムノブロットを行った。試験生物を、37℃にてBrain Heart Infusion(BHI)ブロス(Difco Laboratories,Detroit,MI,USA)中で、550nmでの吸光度1.0まで増殖させた。この菌体および上清(硫酸アンモニウム沈殿によって濃縮した)を、SDSゲルローディング緩衝液中に溶解した。等量の各タンパク質を、7%SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離し、次いで、ポリビニリデンジフルオリド膜(Immobilon;Millipore,Bedford,MA,USA)上に転写した。この転写したタンパク質バンドを、CA−GTFまたはCF−GTFに対するウサギ抗体と反応させ、次いで、アルカリホスファターゼ複合体化抗ウサギ免疫グロブリンG抗体(New England Biolabs,Beverly,MA,USA)および5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスフェート−ニトロブルーテトラゾリウム基質(Moss Inc.,Pasadena,MD,USA)を使用して可視化した。さらに、各株におけるGTFBに対する発現強度/GTFCに対する発現強度の比を、NIH imageソフトウェア(National Technical Information Service,Springfield,VA,USA)を使用する反応バンドの相対的デンシトメトリー分析によって評価した。
GTFB、GTFC、およびGTFDが試験した株の全てにおいて発現することを見出した。しかし、GTFBの強度は、MT8148において他のいずれの株においてよりも有意に強かった。GTFB発現強度/GTFC発現強度の比は、1.80±0.15であった。この値は、MT8148GDの値(0.80±0.11)および血清型kのほかの血液分離株および口腔分離株の値(0.17〜0.81の範囲の値)より有意に高かった(P<0.001)。対照的に、試験した全ての株の中でGTFD発現強度において有意差はなかった。
(D)CA−GTF活性およびCF−GTF活性の測定
CA−GTF活性およびCF−GTF活性を、以前に記載された方法(Matsumotoら、2003)を用いて[14C]ショ糖からの[14C]グルカン合成によって評価した。GTF活性1単位を、1μmolのグルコース残基が1分間にショ糖からグルカンへ組み込まれるために必要な酵素量として規定した。
血清型kの血液分離株TW295およびTW871、ならびに3つの口腔分離株SU1、YK1およびYT1の各々は、MT8148より有意に低いショ糖依存的付着率、デキストラン結合能、CA−GTF活性、およびCF−GTF活性を示した(P<0.001)。SHAに対するショ糖非依存的吸着率と同様に、試験した血清型k株(SU1株およびYK1株を除く)の値は、MT8148の値よりも有意に低かった(P<0.001)。さらに、MT8148と試験した他の株との間では菌体疎水性において有意差はなかった。
(E)ラットにおけるう蝕誘発実験
以前に記載された方法(Nakanoら、2002)に従って、36匹の特異的病原体のない(SPF)Sprague−Dawleyラット(Charles River Inc.,Osaka,Japan)(1群あたり12匹)において、う蝕誘発活性を試験した。試験した3株(MT8148R、MT8148RGDおよびYK1R)を、1×109CFUずつ5日間毎日18〜22日齢のラットに経口的に感染させた後、各ラットについてプラークおよびう蝕のスコアを、72日齢の時点で評価した。
種々の因子について群の間での差異を、要因モデルについての統計学的分散分析(ANOVA)によって評価した。
ラットにおいて、血清型kは、明らかなう蝕を誘発した。しかし、MT8148R株とその変異株MT8148RGDと口腔分離株YK1Rとの間でう蝕スコアまたはプラーク指数において有意差はなかった(表8)。
(F)考察
本実施例において、gluA遺伝子(グルコース側鎖ドナーにおける直前の前駆体であるUDP−D−グルコースの生産を触媒する酵素をコードする)の挿入不活化によって構築したMT8148GDの生物学的特性を、親株であるMT8148の生物学的特性と比較した。UDP−D−グルコースは、低pH環境条件におけるS.mutansの生存度に重要であることが報告されているので、本発明者らは、gluA遺伝子自体がう蝕原性に関連する特性の変更を引き起こし得るということを予想した。従って、本発明者らは、gluA遺伝子を挿入不活化した、血清型k株FT1のさらなる変異株(FT1GD)を構築した。本発明者らの結果は、FT1とFT1GDとの間で生物学的特性に有意差がなかったことを示した(表7)。このことは、gluA遺伝子自体の不活化が、このインビトロアッセイで測定した特性に関連しないことを示す。従って、本発明者らは、血清型特異的多糖のグルコース側鎖の存在が、より高いショ糖依存的付着、ショ糖非依存的付着、デキストラン結合能、ならびにCA−GTF活性およびCF−GTF活性に重要であると結論付けた。
CA−GTF活性およびCF−GTF活性の低減は、血清型kの臨床分離株において突出していた(表7)。さらに、血清型kの臨床分離株におけるCA−GTF活性およびCF−GTF活性は、30個のS.mutans分離株(16株の血清型c、8株の血清型e、および6株の血清型f)におけるCA−GTF活性およびCF−GTF活性より有意に低かった。インビトロでの付着能に必要とされる最適なGTFB/GTFC/GTFDの比率を、本発明者らの以前の研究において決定した(Ooshimaら、2001)。この比率からの隔たりは、菌体の付着能やプラークバイオフィルムの構造に影響を与える(Idoneら、2003)。本研究におけるウエスタンブロット分析は、GTFBの発現が、MY8148より血清型k株においてより低い傾向があることを示した(図19A・B)。
なお、図19Aでは、全菌体(A)を、7%SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離し、PVDF膜上に転写したタンパク質バンドを、S.mutansのCA−GTFに対するウサギ抗体と反応させた。図19Bでは、硫酸アンモニウム沈殿によって濃縮された培養上清を、7%SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離し、PVDF膜上に転写したタンパク質バンドを、CF−GTFに対するウサギ抗体と反応させた。各レーンについて説明すると、レーン1がMT8148株であり、レーン2がMT8148GD株であり、レーン3がTW295株であり、レーン4がTW871株であり、レーン5がFT1株であり、レーン6がFT1GD株であり、レーン7がSU1株であり、レーン8がYK1株であり、レーン9がYT1株である。
GTFBは、不溶性グルカン合成の大部分を担うと考えられ、ミュータンス連鎖球菌の歯面への付着および歯垢の蓄積において、重要な毒性因子であると考えられている(Mattos−Granerら、2000)。従って、血清型k株のより低いCA−GTF活性は、GTFBのより低い発現に起因し得る。一方で、菌体表層でのその発現は、血清型特異的多糖のグルコース側鎖の存在と相関し得る。総じて、これらの結果は、S.mutansの他の主要な表面構造(例えば、GTF、PAおよびGbp)より程度が低いが、S.mutansの血清型特異的多糖におけるグルコース側鎖の欠失がS.mutansのう蝕原性と関連し得ることと結論付けられる。
尚、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する特許請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
これまで、感染性心内膜炎の発症に関与するS.mutans株については、他のS.mutans株と判別することは容易ではなかった。しかしながら、本発明では、感染性心内膜炎の感染に関与する可能性の高いS.mutans株を、新規な血清型k型として容易に確認することができるので、本発明は、歯科医療分野等の医療現場だけでなく、医薬品産業や検査産業等に広く利用することができる。
本発明によって、死に至る可能性がある感染性心内膜炎の発症を予防する観点から重要であると考えられているS.mutansの血清型不定株が被験体中に存在するか否かを有効かつ効率的に判定する方法を提供することができる。