JP4815593B2 - 8−ヒドロキシデオキシグアノシンに特異的な結合性を有するdnaアプタマー - Google Patents

8−ヒドロキシデオキシグアノシンに特異的な結合性を有するdnaアプタマー Download PDF

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Description

本発明は、8−ヒドロキシデオキシグアノシンに特異的な結合性を有するDNAアプタマーに関する。
人体の老化現象、および様々な疾患を引き起こす原因は、活性酸素による人体中での酸化反応であると報告されている。そのため、医療や健康産業の分野で酸化損傷の程度を効果的に評価することが求められている。
近年、生体ストレスのマーカー分子(評価対象)として、遺伝子配列中のデオキシグアノシン(dG)が活性酸素種によって酸化された8−ヒドロキシデオキシグアノシン(以下、8−OHdGと略称する)が注目を浴びている。
例えば、特許文献1には、尿中の修飾核酸塩基である8−OHdGを指標として全身的な酸化ストレスの程度を測定して老化度を測定できる旨記載されている。また、特許文献2には、8−OHdG分子を認識できるモノクローナル抗体が記載されている。
特許第2850128号明細書 特許第3091974号明細書
しかしながら、上記文献記載の従来技術は、以下の点で改善の余地を有していた。
第一に、特許文献1に記載の技術では、8−OHdGを含むサンプルを高速液体クロマトグラフィーにかけて8−OHdGを分離した上で、電気化学的手法または紫外部吸収検出器などにより8−OHdGの濃度を測定する。そのため、8−OHdGの測定方法が複雑かつ煩雑であり、8−OHdGの測定方法の面でさらなる改善の余地があった。
第二に、特許文献2に記載の技術では、熱やpHの変動に対して不安定であるモノクローナル抗体を用いて8−OHdGの濃度を測定するため、測定に用いる物質の安定性の面でさらなる改善の余地があった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、安定な物質を用いた8−OHdGの簡便な検出技術を提供することを目的とする。
本発明によれば、配列番号1乃至18いずれかで表される塩基配列からなり、8−OHdGに特異的な結合性を有するDNAアプタマーが提供される。この構成によれば、安定性および8−OHdGに対する特異性に優れるDNAアプタマーを用いるため、安定な物質を用いて簡便に8−OHdGを検出することができる。
なお、上記のDNAアプタマーは、上記の塩基配列に限定されず、これらの塩基配列の1若しくは数個の塩基が欠失・置換若しくは付加された塩基配列からなるDNAアプタマーも同様の作用効果を奏する。
なお、上記のDNAアプタマーは、上記の塩基配列に限定されず、これらの塩基配列との相同性が90%以上である塩基配列からなるDNAアプタマーも同様の作用効果を奏する。
なお、上記のDNAアプタマーは、上記の塩基配列に限定されず、これらの塩基配列に対して相補的な塩基配列からなるDNAアプタマーも同様の作用効果を奏する。
なお、上記のDNAアプタマーは、上記の塩基配列に限定されず、これらの塩基配列からなるポリヌクレオチド分子に対して相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする哺乳動物由来のポリヌクレオチド分子の塩基配列からなるDNAアプタマーも同様の作用効果を奏する。
なお、上記のDNAアプタマーは、上記の塩基配列に限定されず、上記のDNAアプタマーの塩基配列のうち少なくとも一部を含む塩基配列からなり、前記塩基配列の長さが80塩基以上90塩基以下であるDNAアプタマーも同様の作用効果を奏する。
また、本発明によれば、上記のDNAアプタマーを含む、哺乳動物のストレスを評価するためのストレスマーカーが提供される。この構成によれば、安定性および8−OHdGに対する特異性に優れるDNAアプタマーを用いるため、安定な物質を用いて簡便に哺乳動物のストレスの指標となる8−OHdGを検出することができる。その結果、再現性よく簡便に哺乳動物のストレスを評価することができる。
また、本発明によれば、8−OHdGに特異的な結合性を有するDNAアプタマーを含む、哺乳動物のストレスを評価するためのストレスマーカーが提供される。この構成によれば、安定性および8−OHdGに対する特異性に優れるDNAアプタマーを用いるため、安定な物質を用いて簡便に哺乳動物のストレスの指標となる8−OHdGを検出することができる。その結果、再現性よく簡便に哺乳動物のストレスを評価することができる。
また、本発明によれば、上記のDNAアプタマーと、上記のDNAアプタマーを固定化された水晶振動子と、を備える、DNAアプタマー固定化センサが提供される。この構成によれば、安定性および8−OHdGに対する特異性に優れるDNAアプタマーを用いるため、安定な物質を用いて簡便に哺乳動物のストレスの指標となる8−OHdGを水晶振動子の振動として検出することができる。
また、本発明によれば、8−OHdGに特異的な結合性を有するDNAアプタマーと、当該DNAアプタマーを固定化された水晶振動子と、を備える、DNAアプタマー固定化センサが提供される。この構成によれば、安定性および8−OHdGに対する特異性に優れるDNAアプタマーを用いるため、安定な物質を用いて簡便に哺乳動物のストレスの指標となる8−OHdGを水晶振動子の振動として検出することができる。
また、上記のDNAアプタマー、ストレスマーカーおよびDNAアプタマー固定化センサは本発明の一態様であり、本発明のDNAアプタマー、ストレスマーカーおよびDNAアプタマー固定化センサは、以上の構成要素の任意の組合せであってもよい。また、本発明のストレス評価方法なども、上記のストレスマーカーと同様の構成を有し、同様の作用効果を奏する。
本発明によれば、8−OHdGに特異的な結合性を有するDNAアプタマーを用いるため、安定な物質を用いて簡便に8−OHdGを検出することができる。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本実施形態に係るストレスマーカーにおいて、上述のDNAアダプターは、蛍光標識されていてもよい。この構成によれば、DNAアダプターを感度良く検出することが容易になる利点がある。
本実施形態に係るストレス評価方法は、上述の哺乳動物の尿を採取するステップと、上述の尿および蛍光標識された前記DNAアプタマーを接触させるステップと、上述の蛍光標識を測定するステップと、を含んでもよい。この方法によれば、採取が容易な尿および蛍光検出器を用いて、容易に感度良く8−OHdGを検出することができる。
<DNAアプタマー>
DNAアプタマー(DNA aptamer)とは、様々な分子を特異的に認識し、結合する一本鎖DNAを意味するものとする。DNAアプタマーには、(1)化学合成が容易で迅速かつ安価に取得でき、(2)熱およびpH安定性に優れ、(3)理論上あらゆる物質に対するアプタマーの取得が可能であるという利点がある。
DNAアプタマーは、結合するターゲット分子に合わせ、図1に示すように、(a)ヘアピン型、(b)バルジ型、(c)シュードノット型、(d)Gカルテット型などの様々な立体構造を取り得ることがわかっている。
現在、DNAアプタマーは、タンパク質、抗体、糖、また各種有機化合物等、様々な物質に対して結合することが明らかになっている。アプタマーのターゲットは比較的高い分子量の物質が多く、低分子量の物質をターゲットとしたものは、その研究の蓄積が更に必要であると言える。本実施例に係るDNAアプタマーは、比較的低分子量である8−OHdGをターゲットとするDNAアプタマーであり、従来見出されてきたDNAアプタマーには希にしか見られない特有の特性を有するものであると想定される。
具体的には、本実施形態に係るDNAアプタマーには、下記の表1に示す塩基配列からなる18種類のDNAアプタマーが含まれている。
表1および表2には、18種類の塩基配列が示されている。なお、太字で示した箇所はランダム配列由来の配列である。また、下線を付した箇所は、代表配列に対する変異を有する箇所である。18種類の塩基配列には、以下の配列が含まれている。
(i)Oグループ
配列O (配列番号1)
配列O(A2G) (配列番号2)
配列O(T14C)(配列番号3)
配列O(A28G)(配列番号4)
配列O(T8C) (配列番号5)
(ii)Pグループ
配列P(配列番号6)
配列P(G8A)(配列番号7)
配列P(G12A)(配列番号8)
配列P(A15G)(配列番号9)
配列P(A27G)(配列番号10)
(iii)Qグループ
配列Q(配列番号11)
(iv)Rグループ
配列R(配列番号12)
配列R(T16C)(配列番号13)
(v)Sグループ
配列S(配列番号14)
配列S(C23T)(配列番号15)
(vi)Tグループ
配列T(配列番号16)
(vii)Uグループ
配列U(配列番号17)
(viii)Vグループ
配列V(配列番号18)
なお、上述の18種類のDNAアプタマーは、後述するように、いずれもSELEX法により選抜された8−OHdGに特異的に結合するDNAアプタマーである。
よって、Oグループ、Pグループ、Rグループ、SグループのDNAアプタマーは、グループ内で互いに1若しくは数個の塩基が欠失・置換若しくは付加された塩基配列からなる関係にあるが、いずれも同様に8−OHdGに特異的に結合する特性を有していることになる。
この事実から、8−OHdGに特異的に結合するDNAアプタマーの塩基配列に対して、1若しくは数個の塩基を欠失・置換若しくは付加させた塩基配列からなるDNAアプタマーも、同様に8−OHdGへの特異的結合性を示すことがわかる。
従って、本実施形態に係るDNAアプタマーには、上記の表1および表2に示す塩基配列からなる18種類のDNAアプタマーの1若しくは数個の塩基が欠失・置換若しくは付加された塩基配列からなり、8−OHdGに特異的な結合性を有するDNAアプタマーも含まれる。
また、上記の事実から、8−OHdGに特異的に結合するDNAアプタマーの塩基配列との相同性が90%以上、好ましくは95%、特に好ましくは98%以上である塩基配列からなるDNAアプタマーも、同様に8−OHdGへの特異的結合性を示すことが示唆される。
従って、本実施形態に係るDNAアプタマーには、上記の表1および表2に示す塩基配列との相同性が90%以上である塩基配列からなり、8−OHdGに特異的な結合性を有するDNAアプタマーも含まれる。
また、上記の事実から、8−OHdGに特異的に結合するDNAアプタマーの塩基配列に対して相補的な塩基配列からなるDNAアプタマーも、DNAアプタマーの2次構造は同様の構造となると予想されるため、同様に8−OHdGへの特異的結合性を示すことが示唆される。
従って、本実施形態に係るDNAアプタマーには、上記の表1に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなり、8−OHdGに特異的な結合性を有するDNAアプタマーも含まれる。
また、上記の事実から、8−OHdGに特異的に結合するDNAアプタマーの塩基配列からなるDNA分子に対して相補的な塩基配列からなるDNA分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする哺乳動物由来のDNA分子の塩基配列からなるDNAアプタマーも、同様に8−OHdGへの特異的結合性を示すことが示唆される。
従って、本実施形態に係るDNAアプタマーには、上記の表1および表2に示す塩基配列からなるDNA分子に対して相補的な塩基配列からなるDNA分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする哺乳動物由来のDNA分子の塩基配列からなり、8−OHdGに特異的な結合性を有するDNAアプタマーも含まれる。
<8−OHdG結合性のDNAアプタマーの応用>
上述の特許文献1にも示されているように、尿中の8−OHdGの濃度および哺乳動物(特にヒト)のストレスの程度との間には相関関係があると考えられる。そのため、本実施形態の8−OHdG結合性のDNAアプタマーは、哺乳動物のストレスを評価するためのストレスマーカーとして応用が可能である。
あるいは、上述の表1および表2に記載の塩基配列と異なっていても、同様に8−OHdGに特異的に結合する性質を有するDNAアプタマーであれば、同様に哺乳動物のストレスを評価するためのストレスマーカーとして応用が可能である。
これらのストレスマーカーを用いることにより、図2に示すように、哺乳動物のストレスを評価するストレス評価方法を好適に実施できる。このようなストレス評価方法の一例としては、哺乳動物の尿を採取するステップと、尿および蛍光標識されたDNAアプタマーを接触させるステップと、蛍光標識を測定するステップと、を含む方法などが考えられる。このような方法であれば、尿中の8−OHdGの濃度を感度良く簡便に検出することができる。
また、本実施形態の8−OHdG結合性DNAアプタマーは、図3に示すように、下記のような種々の産業的応用が可能である。つまり、(i)アプタマーの構造解析、(ii)新しいバイオアッセイ系への展開、(iii)バイオデバイスへの展開などが可能である。
(i)アプタマーの構造解析
図3(a)に示すように、本実施形態の8−OHdG結合性DNAアプタマーおよび8−OHdGの相互作用をSPR検出システム、蛍光偏光法などにより、詳細に解析することにより、低分子化合物の認識機構解析に応用可能である。
(ii)新しいバイオアッセイ系への展開
図3(b)に示すように、上述のアプタマーの構造解析の結果を進化展開して、新しいバイオアッセイ系への展開を図ることができる。例えば、DNAアプタマーを2つに断片化し、一方の断片を分子認識に用い、他方の断片に蛍光標識を付加して、一方の断片と複合体を形成させ、シグナル検出に用いるアッセイ系などが考えられる。すなわち、DNAアプタマーの認識機構を利用して、サンドイッチタイプのバイオアッセイシステムへの展開を図ることなどができる。
(iii)バイオデバイスへの展開
図3(c)に示すように、上述のDNAアプタマーの構造解析の結果を発展研究して、バイオデバイスへの展開を図ることができる。例えば、DNAアプタマーを水晶振動子に固定化して作製されるDNAアプタマー固定化センサを、ビスフェノールAやダイオキシンなどの環境ホルモンの測定に用いることが考えられる。
このような水晶振動子としては、例えば、電気回路で発振回路およびフィルター回路と呼ばれている回路に広く用いられている水晶振動子を好適に用いうる。あるいは、腕時計などに組み込まれる水晶振動子なども好適に用いうる。
これらの水晶振動子に、上述のDNAアプタマーを固定化することにより、センサとして利用することができる。その原理は、水晶振動子の表面に物質が吸着すると振動子を組み込んだ発振回路の発振周波数が変化することに基づいている。周波数減少の感度は非常に高く、9MHzで発振する水晶振動子を用いれば、1ng/cm2の吸着で約1Hzの周波数の変化がある。
最近のエレクトロニクスの進歩によりデジタル回路を用いれば、9MHzのうち数10Hzの変化は検出できるので、数ngの量が検知できる。90MHzの特殊な振動子を用いれば、9MHzの場合に比べておおよそ100倍感度が上がるので、0.1ngの吸着は検知できる。そのため、例えば、水晶振動子の表面に8−OHdGに特異的に結合するDNAアプタマーを固定化すれば、8−OHdGを特異的に検出するDNAアプタマー固定化センサとなる。
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
例えば、上記実施の形態では、バイオデバイスへの展開として、DNAアプタマーを固定化した水晶振動子を例に挙げたが、他にもDNAチップなどに展開してもよい。このようにしても、ビスフェノールAやダイオキシンなどに特異的に結合するDNAアプタマーを利用して、環境ホルモンを測定することができる。
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記の実施例1〜3を行うにあたって、まず、以下の実験材料および研究設備を準備した。
1.実験材料
(i)ポジティブコントロール
抗8−OHdGモノクローナル抗体(mAb)(濃度:5nM)(日本老化制御研究所、MOG−020)
(ii)ネガティブコントロール
P1プライマー
P2プライマー相補鎖(CS−P2プライマー)
なお、P1プライマーおよびP2プライマー相補鎖は、図4に示すように、ランダム配列領域の前後に配置されているP1プライマー領域およびCS−P2プライマー領域にそれぞれ対応するプライマーおよびプライマー相補鎖である。
2.研究設備
下記の実施例1〜3で使用した主要な研究設備は、PCR、蛍光偏光度計、BIACORE2000(SPRセンサ)である。
<実施例1>
本実施例では、8−OHdGを特異的に認識するDNAアプタマーを取得し、そのアプタマーについて結合確認を行い、その評価方法を確立することを目的として以下の実験を行った。
1.概要
実験の概要を説明すると、まず、1)DNAアプタマーの探索のために、i)SELEX法による8−OHdGアプタマーの選抜を行い、ii)アプタマーライブラリーの構築を行った。次いで、2)DNAアプタマーの機能解析のために、iii)SPRセンサによる8−OHdGアプタマーの特性評価を行い、iv)蛍光偏光分光法による8−OHdGアプタマーの特性評価を行い、v)個々のアプタマーの高次構造解析を行った。
2.アプタマーの選抜方法
目的のDNAアプタマーを得るため、60塩基のランダムな配列を有する一本鎖DNAのライブラリを用いた。初期のDNA ライブラリは460の多様性を有しており、そこからSELEX(Systematic evolution of ligands by exponential enrichment)法による選抜と、PCR(Polymerase chain reaction)法による増幅と、を繰り返し、スクリーニングすることによって、ターゲットにより結合するDNAアプタマーの取得を目指した。
SELEX法によるDNAの選抜に関しては、8−OHdGまたはdGが表面に結合されている疎水性ビーズを用いて、増幅したssDNAとビーズを混合して室温で結合反応させ、分離用チューブによりビーズと液体を遠心分離し、TE bufferによる洗浄を行った後、95℃による熱溶出を行った。この操作を繰り返すことにより、ターゲットと結合するDNAの選抜を行った。
こうして得られたDNA群をT−Vectorプラスミドに導入し、DNAライブラリを作製した。得られたライブラリのクローンをシークエンサーにより塩基配列を決定し、その一部についてターゲットとの結合確認を行った。その結果、下記の18種のDNAアプタマーのうち一部の配列について、8−OHdG分子を特異的に認識することを確認できた。これより、8−OHdG分子に結合するDNAアプタマーをDNAライブラリより選抜できたと考えられる。
具体的には、図5に示すように、プライマーサイト1およびプライマーサイト2に挟まれたランダム配列領域N60を有する1本鎖DNAを作製した。ランダム配列領域N60には、A・T・C・Gをランダムに60個配列し、理論上460の多様性が得られるようにした。
次いで、直径45〜145μmのアガロースゲルマトリックスに8−OHdGを担持させた。そして、SELEX法を用いて、上述の1本鎖DNAがアガロースゲルマトリックスに担持された8−OHdGに結合するか否かという基準により、上述の1本鎖DNA群から8−OHdGに特異的に結合するDNAアプタマーを選抜した。
図6は、SELEX法(試験管内進化法)について説明するための概念図である。この図に示すように、本実施例のSELEX法では、8−OHdGによる競合的溶出による溶出方法を採用した。すなわち、まず、ランダム配列の1本鎖DNA群を、上述の標的化学物質である8−OHdGを担持するアガロースゲルを壁面に備えるカラム内にアプライした。
そして、適当なバッファーでカラムを洗浄して、8−OHdGに結合しなかった不結合の1本鎖DNA群を除去した。その後、別のバッファーを流して、8−OHdGに結合した1本鎖DNA群を、8−OHdGから解離させてカラムから溶出させた。
続いて、溶出した1本鎖DNA群を、PCR法により増幅させた。そして、PCR法による増幅された1本鎖DNA群を、再度、上述の標的化学物質である8−OHdGを担持するアガロースゲルを壁面に備えるカラム内にアプライして、上述のサイクルを繰り返した。
上述のサイクルを繰り返す際には、ラウンド1〜3のサイクルでは、8−OHdGを担持するアガロースゲルを壁面に備えるカラムを用いた。しかし、ラウンド4のサイクルでは、デオキシグアノシン(dG)との交叉結合性を低減するためのバックプレッシャーを与えることを目的として、dGを担持するアガロースゲルを壁面に備えるカラムを用いた。
さらに、ラウンド5〜7のサイクルでは、再び8−OHdGに対する特異性を高めるために、8−OHdGを担持するアガロースゲルを壁面に備えるカラムを用いた。しかし、ラウンド8のサイクルでは、デオキシグアノシン(dG)との交叉結合性を低減するためのバックプレッシャーを与えることを目的として、dGを担持するアガロースゲルを壁面に備えるカラムを用いた。そして、ラウンド9のサイクルでは、最後の仕上げとして8−OHdGに対する特異性を高めるために、8−OHdGを担持するアガロースゲルを壁面に備えるカラムを用いた。
そして、最後のラウンド9のサイクルでカラムから溶出してきた1本鎖DNA群には、後述するように、8−OHdGに対する優れた特異性を有するDNAアプタマーが含まれていた。
なお、上述の実験に先だって、あらかじめPCRの検討を行い、DNAポリメラーゼ酵素にはExpand Long Template PCR System(Roche)を使用し、dsDNAの作製には95℃,15 sec、72℃,30secの2STEPで15サイクル行い、100mMのテンプレートを1ml用いると、ssDNAやダイマー等の非特異的な増幅が最も少なく、目的の120bp付近の大きさに効率よく増幅されたバンドが確認できた。
また、上述の実験に先だって、あらかじめdsDNAをテンプレートとして、ssDNAを増幅するPCRの条件を同様に検討した。asymmetric PCRを行い、変性PAGEによる確認を行った。その結果、95℃,15sec、72℃,30secの2STEPで40サイクル行い、切り出し精製してきたdsDNAを2ml用いると、効率よく増幅することができた。作製したssDNAは、HPLCシステムによっても確認した。
なお、この実験の各ラウンドにおいて、精製したssDNAを、変性PAGEにて確認した。その結果、ラウンドを重ねていくごとに様々な長さのDNA断片が増幅されていくことが確認された。このように、カラム内での選抜とPCRによる増幅を繰り返すことにより、非常に多様なランダムな配列のライブラリ(本実施例では460の多様性)から徐々に焦点を絞っていくことができた。
3.SELEX法の結果
上述のSELEX法により選抜されたDNAアプタマーのリストを下記の表3に示す。表3では、SELEX後に得られたDNA群を大腸菌に形質転換し、個々の配列のシーケンス解析した結果を示している。表3で*印を付した括弧内の数値は、1ヌクレオチド変異の入ったアプタマーの数を示す。なお、選抜されたDNAアプタマーの配列情報は、既に上述の表1および表2に示している。
表1、表2および表3に示したように、上述のSELEX法の結果得られた1本鎖DNA群のライブラリ総数114の内、配列が同じであるものが多数確認できた。その中には、類似配列も含まれており、1塩基のみ異なるといったものも確認することができた。
また、1塩基違いの配列も含め全部で31種類の配列が確認できた。その中には全体の30%以上の占有率を持つ配列(O)も確認できた。
これらの結果を考察すると、ライブラリの中で同じ配列(O、Pなど)のDNAが多数存在するという結果は、その配列(O、Pなど)の標的物質(8−OHdG)に対する特異性が高いことを示唆しているものと思われる。そこで、特に占有率の高い配列(O)を中心に、全31配列に対してSPRセンサと、蛍光偏光による機能解析を行った。
なお、図7は、配列(O、O(T8C))の予測される2次構造を示す図である。この図に示すように、配列(O)および配列(O(T8C))の予測される2次構造は、わずか1塩基置換にもかかわらず、大きく異なっている。
<実施例2>
図8は、SPR(表面プラズモン共鳴)検出システムの概要を示す図である。SPR検出システムとは、2分子間の相互作用をリアルタイムにモニタリング可能なシステムである。本実施例では、SPR検出システムとして、BIACORE2000(SPRセンサ)を用いた。
BIACORE2000は、タンパク質の性質を他の分子との結合特異性、相互作用の速度(結合および解離)、そしてアフィニティー(他の分子にどのくらい強く結合するか)という観点から解明する。BIACORE2000を用いると、標識を用いることなく高感度、高精度な結合特異性の測定が可能になる。BIACORE2000の測定法は、対象となる生体分子が特定の結合パートナー分子と相互作用するという特徴を基礎にしており、一般的な測定技術(例えば、タンパク質濃度測定)よりもより多くの情報を得ることができる。
BIACORE2000では、偏光を全反射の条件下で、屈折率の異なる媒体、すなわちセンサ表面のガラス(屈折率の高い物質)と緩衡液(屈折率の低い物質)との界面に存在する金膜に照射すると表面プラズモン共鳴現象(SPR)が生じる原理を利用する。
具体的には、広範囲の入射角度をカバーするくさび形の偏光(760nm)がセンサ表面のガラス面へと導かれ、この偏光の反射光がセンサにより検知される。このとき、偏光(760nm)をガラスに照射すると、エバネッセント波が発生し、このエバネッセント波は金膜の自由電子雲と相互作用を起こして吸収される。この吸収の際にプラズモンと呼ばれる電子密度波が発生し、偏光(760nm)の反射光の一部の強度を減衰させる。この反射光が最小となる角度(SPRアングル)は、センサ表面の反対側の金膜近傍の溶液の屈折率に相関するという性質を持っている。
BIACORE2000では、分子間相互作用はセンサ表面上のフローセルで起こる。分子はマイクロ流路系を通ってフローセルまで運ばれる。フローセルは天井のない流路の構造をしており、装置内ではセンサチップがちょうど蓋をするような形で装着される。フローセル内のセンサチップの表面には標的分子(リガンド)が固定されており、フローセル内を流れてきた分子と標的分子との相互作用を検出することができる。
図9は、SPR検出システムの典型的なセンサグラムを示す。この図では、横軸は時間(秒)を示し、縦軸はレスポンス(RU)を示す。
BIACORE2000は、タンパク質の性質を他の分子との結合特異性、相互作用の速度(結合および解離)、そしてアフィニティー(他の分子にどのくらい強く結合するか)という観点から解明する。そのために、まず、(i)ランニングバッファーを流し、(ii)分析対象の溶液を流し、(iii)再度ランニングバッファーを流すという手順で分析を行う。
すなわち、リガンドを固定化したセンサ表面に、結合性を示す試料を含む溶液を添加すると結合反応に伴い測定値は上昇し、バルブの切換えでランニングバッファーを流すことで解離反応が開始され測定値は減少する。ある程度解離反応を測定した後、塩濃度やpHを変化させるなどして、結合競合物質を添加するといった適当な条件で反応物質のみをセンサ表面から除き、表面を再生することができる。再生されたセンサ表面はリガンドの安定性に依存して繰り返し測定が可能となる。得られた相互作用測定グラフをセンサグラムとよぶ。
具体的には、データ処理において、図9で示した、センサグラムの結合容量(Association Volume)を重ね書きするなどして、比較・計算することにより、タンパク質の性質を他の分子との結合特異性、相互作用の速度(結合および解離)、そしてアフィニティー(他の分子にどのくらい強く結合するか)などを評価することができる。
図10は、SPR検出システムによるDNAアプタマー(配列O)の分析結果を示すセンサグラムである。このグラフでは、横軸は時間(秒)を示し、縦軸はレスポンス(RU)を示している。また、8−OHdGを担持させたセンサチップを用い、流速:20μl/min、DNAアプタマー添加量:20ml、DNAアプタマー濃度:10μMの測定条件による測定を行った。DNAアプタマーを添加した時刻を0秒とすると、DNAアプタマーの添加を停止した時刻は60秒であった。
この図には、4種類のDNAアプタマー(配列O、配列O(T8C)、配列O(A28G)、配列N−C(*25C))のセンサグラムが重ね書きされている。なお、配列N−C(*25C)のDNAアプタマーは、ネガティブコントロールとして測定されたものである。
このデータから、3種類のDNAアプタマー(配列O、配列O(T8C)、配列O(A28G))の8−OHdGに対するアフィニティーは、いずれもネガティブコントロールである配列N−C(*25C)配列N−C(*25C)のDNAアプタマーよりも高いことが明らかである。
また、3種類のDNAアプタマー(配列O、配列O(T8C)、配列O(A28G))同士のアフィニティーは、略同程度ではあるが、配列O、配列O(A28G)、配列O(T8C)の順に高いことも明らかである。
図11は、SPR検出システムによるDNAアプタマーおよび抗8−OHdGモノクローナル抗体の競合アッセイの概要を示す概念図である。この競合アッセイにおいては、8−OHdGをセンサチップ表面に固定しておき、フローセル中にDNAアプタマーおよび抗8−OHdGモノクローナル抗体をともに含有する溶液を流す。
そのため、DNAアプタマーに8−OHdGに対する結合特異性がない場合には、図11(a)に示すように、8−OHdGの大部分には抗8−OHdGモノクローナル抗体が結合することになる。一方、DNAアプタマーに8−OHdGに対する結合特異性がある場合には、図11(b)に示すように、8−OHdGの一部には抗8−OHdGモノクローナル抗体が結合し、8−OHdGの残りの一部にはDNAアプタマーが結合することになる。
そして、一般的には、DNAアプタマーよりも、抗8−OHdGモノクローナル抗体の質量(分子量)の方が大きいため、図11(a)の場合には、図11(b)の場合に比べて、SPR検出システムのセンサグラムの結合容量が大きく表示されることになる。
具体的には、競合アッセイは、以下のような条件で行った。
まず、mAb溶液50ml(終濃度:1nM)と、アプタマー溶液50mlとを混合し、25℃で5分静置した。次いで、FITC標識8−OHdG溶液50ml(8−OHdG:終濃度500nM)と、mAbおよびアプタマーの混合溶液50μlとを混合した。その後、遮光して25℃で15分静置した。こうして反応させた後、蛍光偏光測定装置によりI0、I90を測定した。
図12は、SPR検出システムによるDNAアプタマー(配列O)および抗8−OHdGモノクローナル抗体の競合アッセイの結果を示すセンサグラムである。このグラフでは、横軸は時間(秒)を示し、縦軸はレスポンス(RU)を示している。また、8−OHdGを担持させたセンサチップを用い、流速:20μl/min、サンプル添加量:20mlの測定条件による測定を行った。サンプルを添加した時刻を0秒とすると、サンプルの添加を停止した時刻は60秒であった。
この図12には、4種類のサンプルのセンサグラムが重ね書きされている。4種類のサンプルとは、(i)抗8−OHdGモノクローナル抗体10nM、(ii)抗8−OHdGモノクローナル抗体10nM、DNAアプタマー(配列O)100nM、(iii)抗8−OHdGモノクローナル抗体10nM、DNAアプタマー(配列O)1μM、(iv)抗8−OHdGモノクローナル抗体10nM、DNAアプタマー(配列O)10μMの4種類である。
このデータから、4種類のサンプルの結合容量は、(i)、(ii)、(iii)、(iv)の順で大きいことが明らかである。すなわち、DNAアプタマー(配列O)および抗8−OHdGモノクローナル抗体の間で、8−OHdGへの結合の競合が起こっていることが明らかである。言い換えれば、DNAアプタマー(配列O)は、抗8−OHdGモノクローナル抗体と同様に、8−OHdGへの特異的な結合性を有しているということになる。
図13は、SPR検出システムによるP2プライマー相補鎖および抗8−OHdGモノクローナル抗体の競合アッセイの結果を示すセンサグラムである。なお、P2プライマー相補鎖とは、図4に示すように、上述のSELEX法において用いたプライマーサイト2に対応するプライマーの相補鎖である。すなわち、P2プライマー相補鎖には、8−OHdGに対する特異的結合性は存在しない。
このグラフでは、横軸は時間(秒)を示し、縦軸はレスポンス(RU)を示している。また、8−OHdGを担持させたセンサチップを用い、流速:20μl/min、サンプル添加量:20mlの測定条件による測定を行った。サンプルを添加した時刻を0秒とすると、サンプルの添加を停止した時刻は60秒であった。
この図には、4種類のサンプルのセンサグラムが重ね書きされている。4種類のサンプルとは、(i)抗8−OHdGモノクローナル抗体10nM、(ii)抗8−OHdGモノクローナル抗体10nM、P2プライマー相補鎖100nM、(iii)抗8−OHdGモノクローナル抗体10nM、P2プライマー相補鎖1μM、(iv)抗8−OHdGモノクローナル抗体10nM、P2プライマー相補鎖10μMの4種類である。
このデータから、4種類のサンプルの結合容量は、(i)、(ii)、(iii)、(iv)で約同程度であることが明らかである。すなわち、P2プライマー相補鎖および抗8−OHdGモノクローナル抗体の間で、8−OHdGへの結合の競合が起こっていないことが明らかである。言い換えれば、P2プライマー相補鎖は、抗8−OHdGモノクローナル抗体と異なり、8−OHdGへの特異的な結合性を有していないということになる。
すなわち、この図13のデータは、図12のデータに基づいて、DNAアプタマー(配列O)は、抗8−OHdGモノクローナル抗体と同様に、8−OHdGへの特異的な結合性を有しているという結論を導いた推論が正しいことを裏付けるネガティブコントロールとしての役割を果たしている。
<実施例3>
図14は、蛍光偏光法(FP:Fluorescence Polarization)の原理を説明するための概念図である。ここで、蛍光偏光法は、偏光励起光を蛍光物質に照射することにより、蛍光物質から発せられる蛍光が分子量に応じて異なった偏光を示すという特性に基づいた測定方法である。
すなわち、静止した蛍光物質に偏光励起光を照射すると、蛍光も偏光として放出される。溶液中では分子は常に運動をしており、分子量の小さいものほど激しい運動をしている。小さな分子量の蛍光標識物質は溶液中では激しい運動をしているため、偏光励起光をあてても、その偏光を維持した蛍光量は少なく(偏光度が小さく)なる。
ところが、蛍光標識物質が、抗体、受容体等の高分子のものと結合すると、見かけ上の分子量が大きくなるため、分子運動が小さくなり、結果としてその偏光を維持した蛍光(偏光度が高い)を放出することになる。
そのため、リガンドである8−OHdGに蛍光物質を標識し、それに対して抗8−OHdGモノクローナル抗体またはDNAアプタマーを結合させることにより、得られる蛍光の偏向度が大きくなることになる。また、一般的に、抗8−OHdGモノクローナル抗体の質量(分子量)は、DNAアプタマーの質量(分子量)よりも大きいため、8−OHdGに抗8−OHdGモノクローナル抗体が結合している場合の方が、8−OHdGにDNAアプタマーが結合している場合よりも、偏向度は大きくなる。
図15は、FITCラベル8−OHdGにDNAアプタマー(配列O)を結合させた場合のバインディングカーブを示すグラフである。横軸は、DNAアプタマー(配列O)の濃度(M)を示し、縦軸は偏向度(mP)を示している。この実験では、上述の蛍光ラベル用溶液を調整して実験に用いた。
(i)8−OHdG溶液の調整
まず、8−OHdG 5mgを1M Phosphate(pH=7.7)5mlに溶解した(すなわち、8−OHdGの濃度は、1mg/ml=3.5mMである)。次いで、溶解後、得られた溶液をフィルター滅菌(0.22μm)して8−OHdG溶液を調整した。
(ii)FITC溶液の調整
まず、FITC−I(SIGMA、3326−32−7)1mgを、MetOH 400mlに溶解させた。そして、milliQ水(ろ過滅菌済)1600mlをさらにくわえて、FITC−Iの濃度が0.5mg/ml(1mM)になるように調整した。なお、Fluorescein isothiocianate(FITC)は、励起波長488nm、蛍光波長530nmで蛍光を発する性質を有する。
(iii)FITCラベル8−OHdGの作製
まず、8−OHdG溶液とFITC−I溶液とを以下の割合で混合した。
8−OHdG溶液(3.5mM)14ml(終濃度500mM)
FITC−I溶液(1mM)50ml(終濃度 500 mM)
miliQ水36ml
これらを加え全体を100mlに調整(緩衝溶液の終濃度:140mMPhosphate,pH=7.7)した。
次いで、遮光して20時間、緩やかに攪拌(温度:4度)した。そして、下記の化学式に示すように、未反応のFITC−Iのアミノ基を保護基によりマスキングするため、反応後の混合溶液10mlにFolding buffer 4990mlを加えた(8−OHdG:終濃度1mM)。その後、遮光して30分、緩やかに攪拌(温度:25度)した。そして、得られたFITCラベル8−OHdG溶液を、室温にて攪拌しながら保存した。
(iv)8−OHdGとアプタマー溶液の反応
まず、アプタマー溶液(濃度は2nM、20nM、200nM、2mM) 90mlを98℃で5min熱変性させた。次いで、アプタマーをrefolding(再構築)させるために、25℃で30分静置した。そして、アプタマー溶液50mlを、チップ周辺に付着した蛍光物質が混合溶液に混入しないように注意しつつ、FITC標識8−OHdG溶液50mlと混合した(FITC標識8−OHdG:終濃度500nM)。
続いて、この混合溶液を遮光して25℃で15分静置した。こうして反応させた混合溶液について、蛍光偏光測定装置によりI0、I90を測定した。測定条件は、励起波長:495nm、蛍光波長:545nm、測定時間:1分間にて行った。なお、Controlのサンプルも同様に、上述の(i)〜(iv)の手順に従って実験を行った。
なお、蛍光偏光度(mP)は、以下の式に従って算出した。
mP=(I0−I90×1.9)/(I0+I90×1.9)×1000
0:照射光の方向に水平な蛍光の強度
90:照射光の方向に垂直な蛍光の強度
そして、ブランク(サンプルを溶解している緩衝溶液)とサンプルとの偏光度の差(ΔmP)は、以下の式に従い算出した。
ΔmP=mP(サンプル)−mP(ブランク)
再び図15に戻ると、上述の実験方法により得られた、このバインディングカーブから、DNAアプタマー(配列O)を多く添加すればするほど、偏向度が大きくなることが明らかである。すなわち、DNAアプタマー(配列O)は、8−OHdGに特異的に結合していることが明らかである。
図16は、FITCラベル8−OHdGにP1プライマーを添加した場合のバインディングカーブを示すグラフである。横軸は、P1プライマーの濃度(M)を示し、縦軸は偏向度(mP)を示している。なお、P1プライマーとは、図4に示すように、上述のSELEX法において用いたプライマーサイト1に対応するプライマーである。すなわち、P1プライマーには、8−OHdGに対する特異的結合性は存在しない。この実験でも、上述の蛍光ラベル用溶液を調整して実験に用いた。
このバインディングカーブから、P1プライマーを多く添加しても、偏向度が大きくならないことが明らかである。すなわち、P1プライマーは、8−OHdGに特異的に結合しないことが明らかである。
すなわち、この図16のデータは、図15のデータに基づいて、DNAアプタマー(配列O)は、抗8−OHdGモノクローナル抗体と同様に、8−OHdGへの特異的な結合性を有しているという結論を導いた推論が正しいことを裏付るネガティブコントロールとしての役割を果たしている。
図17は、蛍光偏光法によるDNAアプタマーおよび抗8−OHdGモノクローナル抗体の競合アッセイの概要を示す概念図である。この競合アッセイにおいては、8−OHdGに蛍光標識(FITC)をラベルしておき、DNAアプタマーおよび抗8−OHdGモノクローナル抗体をともに添加する。
そのため、DNAアプタマーに8−OHdGに対する結合特異性がない場合には、図17(a)に示すように、8−OHdGの大部分には抗8−OHdGモノクローナル抗体が結合することになる。一方、DNAアプタマーに8−OHdGに対する結合特異性がある場合には、図17(b)に示すように、8−OHdGの一部には抗8−OHdGモノクローナル抗体が結合し、8−OHdGの残りの一部にはDNAアプタマーが結合することになる。
そして、一般的には、DNAアプタマーよりも、抗8−OHdGモノクローナル抗体の質量(分子量)の方が大きい(本実施例では、抗8−OHdGモノクローナル抗体の分子量は150,000であり、DNAアプタマーの分子量は30,000である)ため、図17(a)の場合には、図17(b)の場合に比べて、蛍光偏向度が大きく表示されることになる。
図18は、FITCラベル8−OHdGに対する抗8−OHdGモノクローナル抗体およびDNAアプタマー(配列O)を競合的に結合させた場合のバインディングカーブを示すグラフである。横軸は、DNAアプタマー(配列O)の濃度(M)を示し、縦軸は偏向度(mP)を示している。なお、抗8−OHdGモノクローナル抗体は、当初からFITCラベル8−OHdG溶液に1nMの濃度で含有されており、実験を通じて増減していない。この実験でも、上述の蛍光ラベル用溶液を調整して実験に用いた。
このバインディングカーブから、DNAアプタマー(配列O)を多く添加すればするほど、偏向度が小さくなることが明らかである。すなわち、すなわち、DNAアプタマー(配列O)および抗8−OHdGモノクローナル抗体の間で、8−OHdGへの結合の競合が起こっていることが明らかである。言い換えれば、DNAアプタマー(配列O)は、抗8−OHdGモノクローナル抗体と同様に、8−OHdGへの特異的な結合性を有しているということになる。
上述のように、蛍光偏光測定によって、配列(O)のDNAアプタマーについては、濃度依存的に偏光度の上昇が確認できたが、P1プライマーおよびP2プライマーについては、濃度依存的に偏光度の上昇は確認できなかった。すなわち、SELEX法によりランダム配列から選定してきた配列(O)などのDNAアプタマーが8−OHdGへの特異的結合に関与していることが明らかである。
<実施例のまとめ>
上述の実施例では、バイオマーカーである8−OHdGに対するDNAアプタマーの取得を目的として実験を行った。その結果を以下にまとめる。
(i)SELEX法により、8−OHdGに対するアプタマーの選抜を行い、114サンプルのアプタマーライブラリーの構築をすることができた。
(ii)SPRセンサ(BIACORE2000)および蛍光偏光測定にて、上述のアプタマーライブラリーの代表例(配列Oおよびその変異体)が、8−OHdGに対して非常に高い特異性を有することを確認することができた。
<既存のキットとの比較>
8−OHdG測定キットについては、既に老化制御研究所より抗8−OHdGモノクローナル抗体を用いたキットが販売されている。その感度は、おおよそ1〜200ng/mlであると取扱説明書などには記載されている。すなわち、8−OHdGは約300の分子量であるため、老化制御研究所のキットの検出感度はおおよそ3〜600nM程度であると想定される。
上述の実施例で得られたDNAアプタマー(配列O)の検出感度のレンジについては、現在精査中であるが、500nM程度の8−OHdGは検出することが可能であることを確認している。従って、上述の実施例で得られたDNAアプタマー(配列O)は、既存のキットに含まれる抗8−OHdGモノクローナル抗体と略同等程度の特異的な8−OHdG認識能力を有していると想定される。
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
たとえば、上記実施例では、上述のアプタマーライブラリーの代表例として配列Oおよびその変異体を用いたが、配列Pおよびその変異体、配列Q、配列Rおよびその変異体、配列Sおよびその変異体、配列T、配列U、配列Vなどを代表例として用いても、配列Oおよびその変異体と同様に、8−OHdGに対して非常に高い特異性を有することを確認することができると想定される。
以上のように、本発明にかかる8−OHdGに特異的な結合性を有するDNAアプタマーは、8−OHdGに特異的な結合性を有する。このため、このDNAアプタマーは、ストレスマーカー、ストレス評価方法およびDNAアプタマー固定化センサなどにおいて有効に活用することができる。
DNAアプタマーの多様な立体構造を説明する概念図である。 8−OHdG結合性のDNAアプタマーの人体ストレスを評価するための診断応用について説明する概念図である。 8−OHdG結合性のDNAアプタマーの応用例について説明する概念図である。 ポジティブコントロールおよびネガティブコントロールについて説明する概念図である。 DNAアプタマーの選抜方法について説明する概念図である。 SELEX法(試験管内進化法)について説明する概念図である。 配列Oおよび配列O(T8C)の塩基配列からなるDNAアプタマーの予測される2次構造について説明する概念図である。 SPR検出システムの概要を示す概念図である。 SPR検出システムの典型的なセンサグラムを示す概念図である。 SPR検出システムによるDNAアプタマー(配列O)の分析結果を示すセンサグラムである。 SPR検出システムによるDNAアプタマーおよび抗8−OHdGモノクローナル抗体の競合アッセイの概要を示す概念図である。 SPR検出システムによるDNAアプタマー(配列O)および抗8−OHdGモノクローナル抗体の競合アッセイの結果を示すセンサグラムである。 SPR検出システムによるP2プライマー相補鎖および抗8−OHdGモノクローナル抗体の競合アッセイの結果を示すセンサグラムである。 蛍光偏光法の原理を説明するための概念図である。 FITCラベル8−OHdGにDNAアプタマー(配列O)を結合させた場合のバインディングカーブを示すグラフである。 FITCラベル8−OHdGにP1プライマーを添加した場合のバインディングカーブを示すグラフである。 蛍光偏光法によるDNAアプタマーおよび抗8−OHdGモノクローナル抗体の競合アッセイの概要を示す概念図である。 FITCラベル8−OHdGに対する抗8−OHdGモノクローナル抗体およびDNAアプタマー(配列O)を競合的に結合させた場合のバインディングカーブを示すグラフである。

Claims (6)

  1. 配列番号1乃至18いずれかで表される塩基配列からなり、8−ヒドロキシデオキシグアノシンに特異的な結合性を有するDNAアプタマー。
  2. 請求項1に記載のDNAアプタマーを含む、哺乳動物のストレスを評価するためのストレスマーカー。
  3. 請求項2に記載のストレスマーカーにおいて、
    前記DNAアプタマーは、蛍光標識されている、ストレスマーカー。
  4. 請求項1に記載のDNAアプタマーを用いて、哺乳動物のストレスを評価するストレス評価方法。
  5. 請求項4に記載のストレス評価方法において、
    前記哺乳動物の尿を採取するステップと、
    前記尿および蛍光標識された前記DNAアプタマーを接触させるステップと、
    前記蛍光標識を測定するステップと、
    を含む、ストレス評価方法。
  6. 請求項1に記載のDNAアプタマーと、
    前記DNAアプタマーを固定化された水晶振動子と、
    を備える、DNAアプタマー固定化センサ。


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