JP4807281B2 - 焼入パターン検査方法及び検査装置 - Google Patents
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Description
焼入パターンの検査については、例えば特許文献1に開示されているように、渦電流を用いる方法がある。特許文献1に開示されている方法は、鋼材の焼入硬化層の深さ(焼入深さ)を非破壊で測定するものであり、鋼材についての焼入深さと検出コイルによる出力電圧との相関データをあらかじめ求めておき、励磁コイルによって対象鋼材を磁化し、それにより発生する渦電流で誘起される誘導磁場を検出コイルで検出し、この検出コイルの出力電圧を、既知となる前記相関データと比較することにより、焼入深さを算出するというものである。
本例に係るCVJアッシー101においては、ドライブシャフト102の両端側に等速ジョイントであるジョイント部103・104が構成されており、各ジョイント部103・104を構成する部品であってドライブシャフト102の両端側に連結される軸部材105・106が、焼入部品として存在する。
このように、高周波焼入等における焼入パターン切れの検知は、非常に重要な品質課題であるが、従来においては、焼入部品を含む組立品の抜取りによるねじり試験でしか保証できていないのが現状である。
すなわち、まず、前述のような抜取りによるねじり試験は、検査対象に対して所定のトルクを加え、その破断部の発生等を検知するものであるため、結果が出るまでに相当程度の時間を要する。
また、ねじり試験は破壊試験であるため、非破壊試験と比べて検査対象となる部品についてのロスコストが大きくなる。
また、検査対象が焼入部品を含む組立品であるため、そのアッシー状態までの工数が必要となり組付けコストが無駄になってしまう。同じく検査対象が組立品であるため、焼入パターン切れを有する部品以外の部品を含め、検査対象となる組立品全体が無駄になってしまう。つまり、アッシー状態まで組み付けた後のねじり試験であるため、組付けコストや焼入部品以外の部品のコストについてのロスコストが大きい。
さらに、あくまでも抜取りによる検査であって全数検査ではないため、組立ライン等において全数保証することができない。
また、特許文献1に開示されている方法については、実際の組立ライン等で測定を行い、その測定結果を焼入部品の良否判定に用いようとする場合、その測定対象である部品についての温度変化や形状誤差等を考慮する余地がある。
すなわち、渦流計測においては、その計測値が部品の導電率(電気伝導率)によって影響を受けるところ、導電率は、抵抗率(電気抵抗率)の逆数であり、抵抗率は温度の影響を受けて変化するものであるため、部品の温度は、渦流計測値に大きな影響を及ぼす。
こうした温度状況による部品の温度変化は、前述したように渦流計測値に大きな影響を及ぼし、焼入パターンの検査の信頼性の低下につながる。
しかし、渦流計測値に対して温度補正をするためには、部品の温度を計測する必要が生じ、さらには部品の温度を計測するための温度計等の計測器自体の温度校正をする必要も生じる。また、アルゴリズムを用いて渦流計測値に基づく焼入パターンの検査を行うに際し、部品の温度変化による渦流計測値に対する影響を加味した結果を得ようとした場合、自動温度補正アルゴリズムを組み込まなければならないこととなる。これらのことから、渦流計測値に対して温度補正をする方法では、組立ラインにおいて多数の部品について連続的に渦流計測(焼入パターン検査)を行う場合等、多大な時間やコストが必要となる。
これにより、高周波焼入等の焼入が施された鋼材の部品について、その焼入パターン切れの非破壊検査によるインラインでの全数検査が可能となり、焼入品質を向上させることができるとともに、焼入パターンの検査に際し、ロスコストや時間の削減を図ることができ、さらには、渦流計測において部品の温度変化による計測値に対する影響を排除することができ、検査の信頼性を向上させることができる。
これにより、良品データの温度ドリフトを加味した焼入パターンの良否の判定に際し、検査対象部品の温度状況や形状誤差等の影響による渦流計測値のバラツキ(計測誤差)を、それぞれのバラツキの傾向性に応じた範囲で許容することができ、検査対象部品の性状に応じた正確な判定(均等な評価)を行うことが可能となる。
したがって、焼入品質を向上させることができるとともに、焼入パターンの良否の判定に際して過検出(実際には不良品でないものを不良品と判定すること)を減らすことが可能となり、生産性を向上することができる。
これにより、焼入パターンの検査において、渦流計測における検査対象部品の温度変化や室温(環境温度)の変化による影響を無効化することができ、一年あるいは一日を通じて同じ感度での信頼性の高い検査が実現可能となる。
これにより、高周波焼入等の焼入が施された鋼材の部品について、その焼入パターン切れの非破壊検査によるインラインでの全数検査が可能となり、焼入品質を向上させることができるとともに、焼入パターンの検査に際し、ロスコストや時間の削減を図ることができ、さらには、渦流計測において渦流センサの温度変化による計測値に対する影響を排除することができ、検査の信頼性を向上させることができる。
これにより、渦流計測値の温度ドリフトを加味した焼入パターンの良否の判定についてその正確性を向上させることができるとともに、焼入パターン検査における渦流計測について、その計測条件の一つである交流励磁信号の周波数についての最適な条件を、分離値及び温度ドリフトの方向を指標として計測者の渦流計測についての知識や熟練度等にかかわらず導くことができる。
これにより、渦流センサの交換後も、信頼性の高い焼入パターンの検査を継続的に実施することが可能となる。
また、交換前の渦流センサで使用していた許容誤差領域を、交換後の渦流センサでも活用することができ、渦流センサの交換に際して許容誤差領域の再度の設定が不要となる。したがって、渦流センサの故障に対しての早期復旧が可能となり、渦流センサの交換が工場内の組立ライン等における生産計画に与える影響を小さくすることができる。
これにより、高周波焼入等の焼入が施された鋼材の部品について、その焼入パターン切れの非破壊検査によるインラインでの全数検査が可能となり、焼入品質を向上させることができるとともに、焼入パターンの検査に際し、ロスコストや時間の削減を図ることができ、さらには、渦流計測において部品の温度変化による計測値に対する影響を排除することができ、検査の信頼性を向上させることができる。
これにより、良品データの温度ドリフトを加味した焼入パターンの良否の判定に際し、検査対象部品の温度状況や形状誤差等の影響による渦流計測値のバラツキ(計測誤差)を、それぞれのバラツキの傾向性に応じた範囲で許容することができ、検査対象部品の性状に応じた正確な判定(均等な評価)を行うことが可能となる。
したがって、焼入品質を向上させることができるとともに、焼入パターンの良否の判定に際して過検出(実際には不良品でないものを不良品と判定すること)を減らすことが可能となり、生産性を向上することができる。
これにより、焼入パターンの検査において、渦流計測における検査対象部品の温度変化や室温(環境温度)の変化による影響を無効化することができ、一年あるいは一日を通じて同じ感度での信頼性の高い検査が実現可能となる。
これにより、高周波焼入等の焼入が施された鋼材の部品について、その焼入パターン切れの非破壊検査によるインラインでの全数検査が可能となり、焼入品質を向上させることができるとともに、焼入パターンの検査に際し、ロスコストや時間の削減を図ることができ、さらには、渦流計測において渦流センサの温度変化による計測値に対する影響を排除することができ、検査の信頼性を向上させることができる。
すなわち、本発明によれば、高周波焼入等の焼入が施された鋼材の部品について、その焼入パターン切れの非破壊検査によるインラインでの全数検査が可能となり、焼入品質を向上させることができるとともに、焼入パターンの検査に際し、ロスコストや時間の削減を図ることができ、さらには、渦流計測において部品等の温度変化による計測値に対する影響を排除することができ、検査の信頼性を向上させることができる。
そこでまず、発明の実施の形態の説明に先立ち、本発明に関係する渦流計測の原理について説明する。
図1に示すように、焼入部材においては、その概略的な組織構成として、表面側から、焼入が施された部分である硬化層1と、母材の部分である母層2とが、境界層3を介して形成される。硬さ変化曲線4を参照すると、硬化層1と母層2とは異なる硬さとなり、硬化層1の硬さが母層2のそれよりも大きくなる。境界層3においては、硬さは硬化層1から母層2にかけて漸減する。硬さの具体例としては、ビッカース硬さ(Hv)で、硬化層1ではHv=600〜700、母層2ではHv=300程度の硬さを示す。
本発明に関係する渦流計測においては、このような焼入部材における、表面からの距離に対する硬さと透磁率との関係を利用する。
図2に示すように、渦流計測においては、計測対象であるワーク(磁性体)6の計測部位6aに対し、中心軸を共通にして隣接配置される励磁コイル7と検出コイル8とが所定の位置にセットされる。
このような構成において、励磁コイル7に電流が供給されると、励磁コイル7の周囲に磁界が発生する。すると、電磁誘導によって磁性体であるワーク6の計測部位6aの表面近傍に渦電流が発生する(矢印C1参照)。計測部位6aの表面における渦電流発生にともない、検出コイル8を磁束が貫通する。そして、検出コイル8によって計測部位6aの表面における渦電流発生にともなう誘起電圧が計測される。
検出コイル8は、その両端(両端子)が、計測装置10に接続される。計測装置10は、励磁コイル7に交流電源9からの交流励磁信号V1が印加されたときの検出コイル8から得られる検出信号(前記誘起電圧についての電圧信号)V2の大きさと、検出信号V2の交流励磁信号V1に対する位相差(位相遅れ)Φ(図3参照)とを検出する。ここで、計測装置10には、位相差Φを検出するため、交流励磁信号V1(波形)が与えられる。なお、図3には、渦流計測における交流励磁信号V1と検出信号V2との関係を示している。
この渦電流に基づく検出信号V2を定量化(数値化)するため、図3に示すように、検出信号V2の大きさの値である振幅値Yと、検出信号V2の交流励磁信号V1に対する位相差Φに起因する値である値X(=YcosΦ)とに着目し、次のような知見が得られている。
すなわち、図1における硬さ変化曲線4と透磁率変化曲線5との比較からわかるように、焼入表面硬さが低いときには透磁率は高いという関係がある。透磁率が高いと、交流励磁信号V1が励磁コイル7に印加されたときに生じる磁束は増し、計測部位6aの表面に誘導される渦電流も増大する。これにともない、検出コイル8によって検出される検出信号V2の振幅値Yも増大する。したがって、逆に、検出コイル8によって検出される検出信号V2の振幅値Yから、渦電流が発生している計測部位6aを貫く磁束、つまり透磁率が導かれる。これにより、図1に示す硬さ変化曲線4と透磁率変化曲線5との関係から焼入表面硬さがわかる。
すなわち、焼入深さが深くなること、つまり焼入部材において焼入された硬化層1が増大することは、透磁率の低い範囲が深さ方向に増すこととなり、交流励磁信号V1に対して検出信号V2の位相遅れが増すこととなる。これにより、位相差Φに起因する値の大小から、焼入深さの深浅がわかる。
図4に示すように、本実施形態に係る焼入パターン検査方法は、検査対象部品としてのワーク50に対して所定の交流励磁信号V1を印加するための励磁コイル11と、交流励磁信号V1が印加されたワーク50から渦電流による検出信号V2を検出するための検出コイル12と、を有する渦流センサである渦流貫通コイル13を用い、ワーク50についての焼入パターンの良否を判定するものである。
本実施形態では、励磁コイル11は検出コイル12の外側に配されている。ケース14は、矩形の厚板形状の外形を有するとともにワーク50を挿通させるための貫通孔14aを有する。つまり、励磁コイル11及び検出コイル12は、各コイル中空部を貫通孔14aに位置合わせした状態でケース14内に収納される。
そして、検査部位50aについての焼入表面硬さと相関するY値(振幅値Y)と、同じく検査部位50aについての焼入深さと相関するX値(値X=YcosΦ)とが計測される。
渦流探傷器20は、励磁コイル11に対する交流励磁信号V1の印加や、検出コイル12によって検出される検出信号V2に基づくX値及びY値の計測や、そのX値及びY値の計測値等を用いたワーク50についての焼入パターンの良否の判定を行う。
また、渦流探傷器20は、計測部22によるX値及びY値の計測値等を用いて、ワーク50についての焼入パターンの良否を判定する判定部23を具備する。
このように、本実施形態では、渦流探傷器20が、X値及びY値を計測する計測手段、及びワーク50についての焼入パターンの良否を判定する判定手段として機能する。
また、渦流探傷器20には、計測部22による計測結果や判定部23による判定結果等を表示するための表示部24が備えられる。
計測治具30は、基台31を有し、この基台31上に、ワーク50が載置される載置面32aを形成する載置台32を有する。ワーク50は、載置面32aに所定の姿勢で載置された状態で保持固定される。本実施形態では、軸状の部材であるワーク50は、その所定の姿勢として軸方向が鉛直方向(図5における上下方向)となるように直立姿勢をとった状態で、ワーク50をその上部から押圧することで固定する固定部材33等により、載置台32上にて保持固定される。
本実施形態では、移動支持部材34は、貫通孔34aを有する板状部材により構成され、載置台32上に所定の姿勢で保持固定されるワーク50を貫通孔34aに挿通させた状態となる。この移動支持部材34に対し、渦流貫通コイル13が、そのケース14を介してワーク50に対応する姿勢、即ち貫通孔14aにワーク50を挿通させた状態で固定支持される。つまり、移動支持部材34に渦流貫通コイル13が固定支持された状態で、互いの貫通孔34a・14aが略同軸状態となり、これら貫通孔34a・14aに、載置台32上に所定の姿勢で保持固定されるワーク50が貫通した状態となる。
このような構成を有する計測治具30においては、ワーク50についての渦流計測に際し、ワーク50の所定の姿勢(直立姿勢)での保持固定及びワーク50(の軸方向)に対する渦流貫通コイル13の移動方向について、要求される所定の精度が確保される。
以下に説明する焼入パターン検査方法においては、図6に示すように、検出信号V2の交流励磁信号V1に対する位相差Φに起因する値(X値)を示す第一の座標軸であるX軸40xと、X軸40xに直交するとともに検出信号V2の大きさの値である振幅値(Y値)を示す第二の座標軸(Y軸40y)とから定められる座標平面であるX−Y平面40を用いる。
すなわち、X値についての出力値(出力値X)を示すX軸40x、及びY値についての出力値(出力値Y)を示すY軸40yから定められる座標平面がX−Y平面40となる。したがって、出力値X及び出力値Yは、渦流探傷器20の計測部22から出力される値となり、その値は電圧値となる。
トレランスゾーン41は、渦流貫通コイル13を用いて計測した、多数の良品についてのX値(出力値X)及びY値(出力値Y)から定まるX−Y平面40上の各点を、予め想定されるワーク50の温度変化範囲で温度ドリフトさせた点の分布に基づいて設定する。
図7は、高周波焼入が施された軸状の部材であるワーク50の長手方向(軸方向)を剪断方向とする断面図を示すものであり、図7(a)は良品の断面図、同図(b)は焼入パターン切れ品の断面図をそれぞれ示している。
図7(a)、(b)に示すように、高周波焼入が施された本実施形態に係るワーク50は、前述したように軸部50bの略全体を含む部分に高周波焼入が施される。すなわち、ワーク50においては、母材の部分である母層52に対し、軸部50bの表面の略全体にわたって焼入が施された部分である硬化層51(薄墨色部分参照)が形成される。なお、図示では省略するが、硬化層51と母層52との間には境界層が形成される。
これに対し、図7(b)に示す焼入パターン切れ品のワーク50においては、その硬化層51について、途切れたり局所的に極端に浅くなったりする部分である焼入パターン切れ53が存在する。
つまり、図7(a)に示すように前記のような焼入パターン切れ53が存在することなく所望の部位に均一に焼入パターン(硬化層51)が形成されているワーク50が良品となり、良品以外のワーク50であって、同図(b)に示すような焼入パターン切れ53が存在する焼入パターン切れ品等の、所望の部位に均一に焼入パターンが形成されていないワーク50が不良品となる。
以下に、図6に示すX値及びY値についての渦流計測結果例を用いて、トレランスゾーン41の設定について説明する。
トレランスゾーン41の設定に係る渦流計測に際しては、計測対象であるワーク(焼入パターンの検査対象となるワーク50とは異なる)について、図7に示すような断面視において焼入パターン切れの有無等について視覚的に検査する切断検査等により、予め良品・不良品の判定を行い、良品であることが既知のワークを計測対象とする。
すなわち、同一の条件で高周波焼入を施したワークを複数(少なくとも二つ)の作製し、これらのうち、一部のワークについては前記のような切断検査等によって予め良品・不良品の判定を行い、残りの一部のワークについてX値及びY値を計測し、X−Y平面40上にプロットする。これにより、多数の良品についてのX−Y平面40上における点(データ)を取得する。
図6に示すように、白丸で示す良品のワークについての計測点である良品データ42は、X−Y平面40上において所定の領域に集中的に分布する。そして、これらのデータは、ワークの温度変化によって温度ドリフトする。
なお、ここでの「温度ドリフト」とは、得られるデータの値がワークの温度によって変動することをいう。
そして、良品データ42の温度ドリフトについては、同図(b)に示すように、本例においては、前記のようにワークの温度が常温(約25℃)の場合の良品データ42(分布領域42A参照)に対し、これらを高温側についてはワークの温度を約50℃とし(分布領域42B参照)、低温側についてはワークの温度を約5℃として(分布領域42C参照)、それぞれ温度ドリフトさせた。
ここで、渦流計測における温度ドリフトは、次のような原理に基づく。すなわち、ワークにおいて、その温度変化は抵抗率(電気抵抗率)に影響し、抵抗率の逆数は導電率(電気伝導率)であるため、ワークの温度変化は導電率の変化として表れる。そして、渦流計測において、ワークの導電率の変化は、検出信号V2の振幅値及び位相差Φの変化、つまり渦流計測値(X値及びY値)の変化となる。したがって、良品データ42等のX−Y平面40上における計測点は、ワークの温度が変化することにより移動する。こうしたワークの温度変化によるX−Y平面40上における良品データ42の移動(温度ドリフト)の方向性が、図6(b)において矢印D1で示す所定の方向性となる。
すなわち、図6(b)に示すように、黒丸で示す焼入パターン切れ品のワークについての計測点であるパターン切れ品データ44は、X−Y平面40上において良品データ42が分布する領域から乖離した領域に位置する。ここで、焼入パターン切れ品とは、図7(b)に示すように、はっきりとした焼入パターン切れを有し、焼入パターンについての不良の程度が著しい粗悪品を指す。
すなわち、図6(b)に示すように、パターン切れ品データ44の温度ドリフトについては、ワークの温度が常温(約25℃)の場合のパターン切れ品データ44(分布領域44A参照)に対し、これらを高温側についてはワークの温度を約50℃とし(分布領域44B参照)、低温側についてはワークの温度を約5℃として(分布領域44C参照)、それぞれ温度ドリフトさせた。
X−Y平面40上におけるパターン切れ品データ44の温度ドリフトは、良品データ42のそれと同様、所定の方向性を有する(矢印D2参照)。
なお、ワークの温度変化によるX−Y平面40上におけるデータのドリフト方向は、渦流貫通コイル13の励磁コイル11における交流励磁信号V1の周波数によって異なることとなる。このことは、X−Y平面40が導電率及び透磁率に対するインピーダンスの関係を示すインピーダンス平面に対応することに起因する。
また、X−Y平面40上における計測点は、前述のように、良品データ42及びパターン切れ品データ44のいずれについてもワークの温度変化による影響を同等に受けて温度ドリフトする。
そこで、このようなX−Y平面40における、ワークの温度変化にともなう温度ドリフトを加味した良品データ42が分布する所定の領域を、トレランスゾーン41として予め設定し、ワーク50についての焼入パターンの良否の判定に用いる。
つまり、トレランスゾーン41は、ワーク50の検査部位50aについての導電率等の性状や温度による計測値のバラツキ(計測誤差)を許容する領域となる。
また、図5に示すように、本実施形態に係る焼入パターン検査装置においては、トレランスゾーン41を表すX−Y平面40や、このX−Y平面40上において渦流計測値(出力値X及び出力値Y)から定まる(プロットされる)点等は、渦流探傷器20に接続されるコンピュータ25が用いられて表示される。つまり、コンピュータ25によって、X−Y平面40におけるトレランスゾーン41やワークについての渦流計測値から定まる点等が視覚的に把握できる構成となっている。
すなわち、本実施形態に係る焼入パターン切れ検査方法においては、前述したようにトレランスゾーン41を予め設定した後、渦流貫通コイル13を用い、ワーク50の検査部位50aについてのX値及びY値を計測し、その計測したX値及びY値から定まるX−Y平面40上の点(以下「計測点」とする。)が、トレランスゾーン41内にあるか否かにより、ワーク50についての焼入パターンの良否を判定する。
分離値とは、X−Y平面40上におけるトレランスゾーン41を区画する境界線43に対するこの境界線43の形状に沿う距離の値である。したがって、本実施形態のように楕円形状であるトレランスゾーン41に対しては、分離値が同じ値である計測点については、X−Y平面40上における境界線43に対する長軸の方向の距離に対して境界線43に対する短軸の方向の距離は短くなる。
また、分離値については、ワーク50についての計測点がトレランスゾーン41の境界線43上に位置する場合を分離値=1とする。
まず、X−Y平面40上における良品データ42の分布のバラツキ及び温度ドリフトから、トレランスゾーン41を設定する(S100)。つまり、渦流計測を行うことによって予め良品であることが既知のワークについての多数の計測点(良品データ42)を取得し、これらの良品データ42の分布のバラツキ及び温度ドリフトを考慮してトレランスゾーン41を設定する。
具体的に本実施形態では、予め想定される温度変化範囲として、高温側については、ワーク50が最も高温となる温度状況と考えられる焼入工程直後のワーク50の温度として約50℃を採用し、低温側については、ワーク50が最も低温となる温度状況として真冬の朝一番のワーク50の温度として約5℃を採用する。つまり、予め想定される温度変化範囲を約5〜約50℃として、この温度変化範囲で多数の良品データ42をX−Y平面40上において温度ドリフトさせる。
一方、算出した分離値の値が1より大きい場合、そのワーク50は不良品である(良品ではない)とするNG判定を行う(S130)。つまり、分離値の値が1より大きいということは、そのワーク50についての計測点が、トレランスゾーン41外に存在するということとなるので、そのワーク50について不良品と判定する。
すなわち、渦流探傷器20は、X値を示すX軸40xとY値を示すY軸40yとから定められるX−Y平面40を用い、計測部22により計測された、多数の良品データ42を、予め想定されるワーク50の温度変化範囲で温度ドリフトさせた点の分布に基づき、X−Y平面40におけるトレランスゾーン41を予め設定し、計測部22により計測された、ワーク50の検査部位50aについての計測点が、トレランスゾーン41内にあるか否かにより、ワーク50についての焼入パターンの良否を判定する判定手段として機能する。
これにより、従来行われていた破壊試験である抜取りによるねじり試験を廃止することができ、ねじり試験廃止にともなうロスコストや工数の削減を図ることができる。この結果、焼入品質を向上させることができるとともに、焼入パターンの検査に際し、ロスコストや時間の削減を図ることができる。
また、実際の組立ライン等において全部品の渦流計測値を取得することで、トレーサビリティ管理を行うことが可能となる。これに関連して、前記のような焼入異常の発生とワーク50における焼入パターン切れ発生との相関を究明することができ、良品についての製造要件や管理要件を知見化することが可能となる。
そして、前記のとおり焼入パターンについてのインラインでの全数検査を行うに際し、ワーク50についての温度変化による影響を排除したアルゴリズムが実現される。
すなわち、ある温度状況の下において、渦流貫通コイル13を用いて計測した、多数の良品データ42の分布に基づき、X−Y平面40にて例えば楕円形状の分布領域を設定し、その分布領域を、予め想定されるワーク50の温度変化範囲で例えば所定温度間隔毎(5℃毎等)で温度ドリフトさせ、各分布領域が含まれるように例えば楕円形状のトレランスゾーンを設定する方法である。
本実施形態に係る焼入パターン検査方法においては、トレランスゾーン41の形状を、多数の良品データ42の分布に最も寄与率の高い成分である第一主成分の方向を長軸の方向、第一主成分に直交する第二主成分の方向を短軸の方向とし、長軸と短軸との交点が前記分布の中心を示す値から定まるとともに、前記分布を、前記長軸の方向を広がりの方向として前記交点を平均とする正規分布とした場合の標準偏差に基づく所定の広がりを有する楕円とすることが好ましい。
図9に示すように、トレランスゾーン41の設定に際しては、まず、多数の良品データ42の分布に最も寄与率の高い成分である第一主成分の方向(矢印49x参照)を求める。
前述したように、X−Y平面40上における良品データ42の分布のバラツキは、ワーク50の有する性状によって傾向性を有する。つまり、X−Y平面40上における良品データ42の分布は、無作為にばらつくのではなくワーク50の性状に起因する傾向性をもってばらつく。
なお、導電率は、抵抗率(電気抵抗率)の逆数であり、抵抗率は温度の影響を受けて変化するものであるため、第一主成分は、ワーク50の温度の影響による分布のバラツキと言うこともできる。つまり、第一主成分の方向は、前述した良品データ42の温度ドリフトの方向に一致することとなり、多数の良品データ42については、これらを予め想定されるワーク50の温度変化範囲(約5〜約50℃)で温度ドリフトさせたものを用いる。
第二主成分は、ワーク50の透磁率や形状誤差(ロット間のバラツキ)等の影響(主に透磁率の影響)による分布のバラツキとなる。つまり、検査対象であるワーク50の透磁率の変化や形状誤差が、X−Y平面40上における計測点の第二主成分の方向の移動距離として表れる。
また、X−Y平面40上における多数の良品データ42の分布について、第二主成分の方向(短軸の方向)についての平均値を通る第一主成分の方向(長軸の方向)の直線と、第一主成分の方向についての平均値を通る第二主成分の方向の直線との交点における値を、良品データ42の分布の中心を示す値として用いることが考えられる。
すなわち、図9に示すように、多数の良品データ42の分布を、矢印49xで示す長軸の方向を広がりの方向とし、長軸における短軸との交点O1における値を平均μとした場合、つまり交点O1で交わる長軸及び短軸から定まる座標平面において交点O1を原点とした場合(μ=0の場合)の、標準偏差σ(分散:σ2)とする正規分布N(μ、σ2)とする(正規分布曲線47参照)。
このように、多数の良品データ42の分布を正規分布とした場合におけるμ±3σの範囲を、長軸の方向の広がりとして用いることにより、設定楕円の長軸の長さが決定する。そして、この長軸の長さと、多数の良品データ42の分布の短軸の方向のバラツキに基づき、楕円の焦点を求める。これにより、設定楕円が決定する(境界線43参照)。
また、設定楕円を決定するに際しては、多数の良品データ42の分布のバラツキに基づき、その渦流計測値(X値及びY値)の平均値等から、多数の良品データ42がほぼ全部含まれるように長軸上の点となる焦点を予め求めた後、前述した正規分布におけるμ±3σの広がりを用い、焦点からの距離を決定することで、設定楕円を決定することとしてもよい。
このように、トレランスゾーン41を設定するに際し、長軸の方向について正規分布におけるμ±3σの広がりを有する楕円を用いることにより、長軸の方向については理論上約99.7%の良品データ42が含まれることとなる。
以上のようにして、設定楕円を決定することで、X−Y平面40上におけるトレランスゾーン41(境界線43の形状)を設定する。
前述したように、設定楕円である境界線43上の計測点は、分離値=1となる。したがって、図9に示すように、前述した正規分布におけるμ±3σの広がりを有する楕円(3σの楕円)であるトレランスゾーン41の境界線43上は、分離値=1となる。
これに対し、分離値は、X−Y平面40上におけるトレランスゾーン41を区画する境界線43に対するこの境界線43の形状(楕円形状)に沿う距離の値であるため、境界線43の形状である3σの楕円と相似形であって、交点O1を原点とし、設定楕円を決定する際に用いた場合と同様の正規分布におけるμ±6σの広がりを有する楕円(6σの楕円)46上は、分離値=2となる。同様にして正規分布におけるμ±9σの広がりを有する楕円(9σの楕円)49上は、分離値=3となる。
したがって、図9に示すX−Y平面40においては、パターン切れ品データ44は、分離値が約3となる位置に分布していることとなる。
まず、X−Y平面40上における温度ドリフトさせた良品データ42のバラツキから、多数の良品データ42の分布に最も寄与率の高い第一主成分を求める(S200)。ここでは、ワーク50の導電率の影響及び温度ドリフトによる分布のバラツキが第一主成分となる(図9、矢印49x参照)。
すなわち、渦流探傷器20は、トレランスゾーン41の形状を、多数の良品データ42の分布に最も寄与率の高い成分である第一主成分の方向を長軸の方向、第一主成分に直交する第二主成分の方向を短軸の方向とし、長軸と短軸との交点O1が前記分布の中心を示す値から定まるとともに、前記分布を、長軸の方向を広がりの方向として交点O1における値を平均μとする正規分布とした場合の標準偏差σに基づく所定の広がりμ±3σを有する楕円とする。
これにより、焼入品質を向上させることができるとともに、焼入パターンの良否の判定に際して過検出(実際には不良品でないものを不良品と判定すること)を減らすことが可能となり、生産性を向上することができる。
逆に、励磁コイル11の温度が高くなると、励磁コイル11において、抵抗が大きくなって、電流の値が小さくなる。これにより、励磁コイル11の周囲に発生する磁界、及びこの磁界発生にともなってワーク50において発生する渦電流の値が小さくなり、検出コイル12によって計測される誘起電圧が小さくなる。結果として、渦流計測値であるX値及びY値の出力の値(絶対値)が小さくなる。
こうした焼入パターンの検査が行われる環境の温度変化は、前述したように渦流計測値に大きな影響を及ぼすため、焼入パターンの検査において、一年あるいは一日を通じて同じ感度で検査をすることを困難とし、検査の信頼性の低下に繋がる。
つまり、渦流貫通コイル13の温度変化にともなって、トレランスゾーン41を温度ドリフトさせる場合は、前述したように良品データ42の温度ドリフトを加味して設定した、焼入パターンの良否についての判定基準楕円となるトレランスゾーン41を、X−Y平面40上において所定の方向に渦流貫通コイル13の温度変化に応じた距離だけ移動させる。そして、その移動させたトレランスゾーンを用いて、ワーク50についての焼入パターンの良否の判定を行う。
また、渦流貫通コイル13の温度変化にともなって、X−Y平面40上における計測点(以下単に「計測点」ともいう。)を温度ドリフトさせる場合は、計測点をX−Y平面40上において所定の方向に渦流貫通コイル13の温度変化に応じた距離だけ移動させる。そして、その移動させた計測点に対して、一旦設定したトレランスゾーン41をそのまま用いて、ワーク50についての焼入パターンの良否の判定を行う。
図4及び図5に示すように、本実施形態に係る焼入パターン検査装置は、渦流貫通コイル13の温度を検出する温度検出手段としての温度センサ16を備える。また、図5に示す渦流探傷器20において、温度センサ16により検出された温度に基づいて渦流貫通コイル13の温度を測定する温度測定部26が具備される。
温度センサ16としては、例えば、サーミスタや熱電対等の接触式の温度センサや、赤外線を測定することで温度を測定するサーモパイル等の非接触式の温度センサ等、周知の温度センサが適宜用いられる。
温度センサ16が設けられる場所としては、例えば、渦流貫通コイル13のケース14の外側や、計測治具30における渦流貫通コイル13の近傍(移動支持部材34や支柱35の任意の場所)等が考えられる。
以下に、図11に示すX値及びY値についての渦流計測結果例を用いて、トレランスゾーン41または計測点を、渦流貫通コイル13の温度変化によって温度ドリフトさせることについて説明する。
図11には、X−Y平面40上において、出力値Xが450〜490(mV)の範囲、出力値Yが−1120〜−1040(mV)の範囲の部分を示している。
第一計測点群61について、薄墨の点で示す計測点61aは、ワーク50の温度(以下単に「ワーク温度」ともいう。)が常温(約25℃)の場合の計測値を示しており、白の点で示す計測点61bは、ワーク温度が常温に対する高温(約50℃)の場合の計測値を示しており、黒の点で示す計測点61cは、ワーク温度が常温に対する低温(約5℃)の場合の計測値を示している。
つまり、計測点61a・61b・61cで示す第一計測点群61は、コイル温度が20℃で一定の状態において、ワーク温度を約25℃、約50℃、約5℃と変化させた場合の良品データの分布を示している。
このことから、コイル温度が20℃の場合における各ワーク温度に対応した良品のワーク50についての計測点61a・61b・61c(第一計測点群61)は、第一トレランスゾーン41A内に位置することとなる。そして、前述したように、図11において矢印D3で示すごとく、X−Y平面40において、ワーク温度の変化による計測点の温度ドリフトは所定の方向性を有する。この矢印D3で示すワーク温度の変化による温度ドリフトの方向性は、第一計測点群61における各計測点61a・61b・61cの相対的な移動についての方向性に対応する。
なお、ここでの「温度ドリフト」とは、得られるデータの値がコイル温度によって変動することをいう。
すなわち、図11に示すように、第一計測点群61の計測点61b(白の点)の計測条件と同様にワーク温度が約50℃の状態で、コイル温度が30℃である場合の計測結果として、計測点61bに対してX−Y平面40において左上に移動した四角形状の白の点で示す計測点62bが得られ、コイル温度が10℃である場合の計測結果として、計測点61bに対してX−Y平面40において右下に移動した三角形状の白の点で示す計測点63bが得られた。また、第一計測点群61の計測点61c(黒の点)の計測条件と同様にワーク温度が約5℃の状態で、コイル温度が30℃である場合の計測結果として、計測点61cに対してX−Y平面40において左上に移動した四角形状の黒の点で示す計測点62cが得られ、コイル温度が10℃である場合の計測結果として、計測点61cに対してX−Y平面40において右下に移動した三角形状の黒の点で示す計測点63cが得られた。
また、図示は省略するが、不良品のワークである焼入パターン切れ品の計測点(パターン切れ品データ)についても、図11に示すようなコイル温度の変化による良品データの温度ドリフトと共通する方向性(矢印D4と略平行の方向性)をもって温度ドリフトするという知見が得られている。つまり、良品データ及びパターン切れ品データは、いずれもX−Y平面40上においてコイル温度の変化に対して同等程度の影響を受ける。
ここで、コイル温度の変化による温度ドリフトについて「所定の移動方向」とは、前述したように、図11において矢印D4で示すような、渦流計測における原理に基づいたコイル温度の変化にともなう計測点のX−Y平面40上における計測値の移動方向である。
また、コイル温度の変化による温度ドリフトについて「コイル温度の変化に応じた距離」とは、前記所定の移動距離と同様、渦流計測における原理に基づいたコイル温度の変化にともなう計測点のX−Y平面40上における計測値の移動距離である。
以下では、こうしたコイル温度の変化による、トレランスゾーン41または計測点の温度ドリフトの態様について具体例を挙げて説明する。
この場合、ワーク50についての焼入パターンの良否の判定に用いるトレランスゾーン41を、コイル温度の変化にともなってX−Y平面40上において移動させ、そのコイル温度に対応するトレランスゾーンを用いて焼入パターンの良否の判定を行う。
つまり、コイル温度を所定の温度間隔で変化させ、そのコイル温度の変化にともなう、トレランスゾーン41の設定に用いた良品データ42の分布のX−Y平面40上における移動に基づき、各コイル温度に対応する複数のトレランスゾーンを設定する。
この場合、例えば、コイル温度が常温に近い20℃の状態で、ワーク温度について温度ドリフトさせた多数の良品データ42の分布に基づいて第一トレランスゾーン41Aを設定したとする。これに対し、コイル温度を20℃から30℃に変化させることにより、コイル温度が30℃の状態である場合における、ワーク温度について温度ドリフトさせた多数の良品データ42の分布を取得し、この分布に基づいてトレランスゾーン(以下「第二トレランスゾーン」とする。)41Bを設定する。このトレランスゾーン41Bとトレランスゾーン41Aとの関係により、コイル温度が20℃から30℃に変化した場合におけるトレランスゾーンの温度ドリフトに際しての、コイル温度の変化に応じた距離についてのデータを取得する。
同様にして、コイル温度を20℃から10℃に変化させることにより、コイル温度が10℃の状態である場合におけるトレランスゾーン(以下「第三トレランスゾーン」とする。)41Cを設定する。このトレランスゾーン41Cとトレランスゾーン41Aとの関係により、コイル温度が20℃から10℃に変化した場合におけるトレランスゾーンの温度ドリフトに際しての、コイル温度の変化に応じた距離についてのデータを取得する。
したがって、図11に示すように、コイル温度が30℃の場合における各ワーク温度に対応した良品データの分布である、四角形状で表す計測点群62(前述した計測点62a・62b・62c)は、第二トレランスゾーン41B内に位置することとなり、コイル温度が10℃の場合における各ワーク温度に対応した良品データの分布である、三角形状で表す計測点群63(前述した計測点63a・63b・63c)は、第三トレランスゾーン41C内に位置することとなる。
そして、本例では、前記各コイル温度に対応するトレランスゾーン41A・41B・41Cに基づいて、コイル温度について5℃間隔ごとにトレランスゾーンを設定することとする。つまり、コイル温度が10℃、20℃、30℃である場合に加え、コイル温度が5℃、15℃、25℃、35℃である場合にそれぞれ対応するトレランスゾーンを設定する。この場合、コイル温度が10℃、20℃、30℃である場合にそれぞれ対応するトレランスゾーン41A・41B・41CのX−Y平面40上における平行移動量を用い、コイル温度が5℃、15℃、25℃、35℃である場合にそれぞれ対応するトレランスゾーンの平行移動量を推定して設定する。
したがって、例えばコイル温度が15℃の場合のトレランスゾーンのX−Y平面40上における位置は、第一トレランスゾーン41Aと第二トレランスゾーン41Bとの平行移動の軌跡における略中間の位置として推定することとなる。
まず、図5に示すような焼入パターン検査装置のシステム起動時において、温度センサ16及び温度測定部26によってコイル温度を測定する。このシステム起動時において測定したコイル温度に基づき、焼入パターンの良否の判定に用いるトレランスゾーンを自動選択する。つまり、例えばシステム起動時において測定したコイル温度が20℃であった場合、第一トレランスゾーン41Aを選択することとなる。
このように、コイル温度に対応して自動的に切り替わるトレランスゾーンを用いて、焼入パターンの良否の判定を行う。
すなわちこの場合、渦流探傷器20は、温度センサ16により測定されたコイル温度に基づき、トレランスゾーンを、前述した所定の移動方向に沿って、コイル温度の変化量に応じた距離だけ、温度ドリフトさせる。
この場合、あるコイル温度の下でワーク温度について温度ドリフトさせた多数の良品データ42の分布に基づいて設定したトレランスゾーン41に対して、コイル温度の変化にともなって対応しなくなった計測点を、そのコイル温度の変化に応じてX−Y平面40上において移動させることで、設定したトレランスゾーン41に対応させて焼入パターンの良否の判定を行う。
つまり、トレランスゾーン41を設定した際のコイル温度に対して、コイル温度の変化にともなう計測点のズレ(温度ドリフト)を、計測点を逆方向に温度ドリフトさせることで補正する。言い換えると、設定した一つのトレランスゾーン41に対して、その設定時からのコイル温度の変化にともなうX−Y平面40上における移動の影響を排除するように温度ドリフトさせた計測点を用いて焼入パターンの良否の判定を行う。
まず、コイル温度が20℃の状態で、ワーク温度について温度ドリフトさせた多数の良品データ42の分布に基づいてトレランスゾーンを設定したとする。つまりこの場合、焼入パターンの良否を判定に用いるトレランスゾーンが第一トレランスゾーン41Aとなる。
そして、例えばコイル温度が20℃の状態から30℃の状態となった場合、ワーク温度が一定であっても、例えば計測点61aから計測点62a等のように計測点は温度ドリフトすることとなる。つまりこの場合、計測点は、20℃から30℃へと10℃変化(上昇)したコイル温度の変化に対して、そのコイル温度の変化に応じた移動量(距離)、所定の移動方向に沿って温度ドリフトする。
そして、このコイル温度の変化に応じて逆方向に温度ドリフトさせた計測点を、第一トレランスゾーン41Aに対応する計測点として焼入パターンの良否の判定を行う。
また、コイル温度の変化による計測点の温度ドリフトに際しての、所定の移動方向については、コイル温度を、第一トレランスゾーン41Aの設定の際の温度である20℃の状態から、30℃及び10℃の各温度状態とした場合の良品データ42の分布の移動方向から、前述したような渦流計測における原理に基づく所定の方向で共通とする(矢印D4参照)。
すなわちこの場合、渦流探傷器20は、温度センサ16により測定されたコイル温度に基づき、計測点を、前述した所定の移動方向に沿って、コイル温度の変化量に応じた距離だけ、温度ドリフトさせる。
この点、例えば、渦流計測の対象となるワーク50が、所定の高温洗浄を経る場合等のように、渦流計測の対象となるワーク50の温度が一定の場合がある。このような場合、渦流貫通コイル13の温度変化のみを加味した渦流計測を行うことができる。
すなわち、この場合、渦流探傷器20は、X値を示すX軸40xとY値を示すY軸40yとから定められるX−Y平面40を用い、計測部22により計測された、多数の良品データ42を、予め想定される渦流貫通コイル13の温度変化範囲で温度ドリフトさせた点の分布に基づき、X−Y平面40におけるトレランスゾーンを予め設定し、計測部22により計測された、ワーク50の検査部位50aについての計測点が、そのトレランスゾーン内にあるか否かにより、ワーク50についての焼入パターンの良否を判定する判定手段として機能する。
上述した焼入パターン検査方法に用いるX−Y平面40は、渦流貫通コイル13の検出コイル12からの検出信号V2の大きさの値(振幅値)であるY値と、検出信号V2の交流励磁信号V1に対する位相差Φに起因する値(YcosΦ)であるX値とから定まる座標平面であり、導電率及び透磁率に対するインピーダンスの関係を示すインピーダンス平面に対応する。
つまり、励磁周波数が変化すると、ワーク50について同様の良品及び不良品(焼入パターン切れ品)を用いて良品データ42及びパターン切れ品データ44を取得したとしても、X−Y平面40のインピーダンス平面に対応する部分及びX値及びY値の値が異なることとなり、良品データ42に基づいて設定されるトレランスゾーン41の形状や、計測点の分離値が異なることとなる。
図12には、励磁周波数の変化にともなうトレランスゾーン41及びパターン切れ品データ44の分離値の変化についての計測結果例を示している。図12(a)〜(h)は、それぞれ励磁周波数を4.8kHz、6.0kHz、7.5kHz、10.0kHz、12.0kHz、15.0kHz、20.0kHz、24.0kHzとした場合の、X−Y平面40における多数の良品データ42の分布、トレランスゾーン41及びパターン切れ品データ44の分布を示している。なお、トレランスゾーン41の形状となる設定楕円(境界線43の形状)は、前述したように良品データ42の分布のバラツキ及び正規分布におけるμ±3σの広がりを用いて決定したものである。
そこで、パターン切れ品データ44の分離値に着目すると、図12(a)に示すように、励磁周波数が4.8kHzの場合は、分離値が3.26〜3.45の範囲となり、同様に、6.0kHzの場合は、分離値が4.13〜4.31の範囲(同図(b))、7.5kHzの場合は、分離値が3.56〜3.73の範囲(同図(c))、10.0kHzの場合は、分離値が3.06〜3.34の範囲(同図(d))、12.0kHzの場合は、分離値が3.32〜3.45の範囲(同図(e))、15.0kHzの場合は、分離値が2.52〜2.72の範囲(同図(f))、20.0kHzの場合は、分離値が1.52〜1.88の範囲(同図(g))、24.0kHzの場合は、分離値が2.34〜2.38の範囲(同図(h))となるという結果が得られた。
つまり、温度ドリフトさせた良品データ42に基づくトレランスゾーン41を用いて焼入パターンの検査を行うに際し、前記温度変化範囲においてパターン切れ品データ44も温度ドリフトするため、この温度変化範囲における全体的なパターン切れ品データ44の分離値を指標として励磁周波数を設定する。
これは、温度ドリフトさせた良品データ42に基づくトレランスゾーン41に対し、例えば、温度ドリフトさせたパターン切れ品データ44の領域が重なる等のように、温度ドリフトさせたパターン切れ品データ44のうちの一部のパターン切れ品データ44の分離値が極端に小さくなること等を避ける観点に基づく。
この点に関しては、図12に示す計測結果例においては、励磁周波数が6.0kHzである場合のパターン切れ品データ44の分離値(4.13〜4.31)が、比較的大きい分離値となる。
つまりは、分離値を指標として用いることで、最適な励磁周波数を容易に設定することができ、焼入パターン検査における渦流計測について適した条件を容易に実現することが可能となる。
一方で、このような渦流貫通コイル13は、一般的に、生産量が少なく、手作りに近い状態で製造されているため、必然的に性能に個体差が生じる。また、渦流貫通コイル13の性能は、渦流計測値(X値及びY値)に大きく影響する。つまり、渦流貫通コイル13の性能の個体差は、渦流貫通コイル13の交換にともなって渦流計測値に大きな影響を及ぼす場合がある。
したがって、前記のように渦流貫通コイル13を交換した場合、その交換にともなって用いる渦流貫通コイルの性能が変わるため、それまで用いていた焼入パターンの良否についての判定基準であるトレランスゾーンを継続して使用することができない場合がある。つまり、性能の異なる渦流貫通コイルに対して共通のトレランスゾーンを用いると、焼入パターンの検査の信頼性を損なうこととなる。
かかる理由により、渦流貫通コイル13の交換にともなってトレランスゾーンを再度設定することは、渦流貫通コイル13の故障に対しての渦流計測の早期復旧の妨げとなり、工場内の組立てライン等における生産計画に大きな影響を及ぼす。
次に、本実施形態に係る焼入パターン検査方法において、渦流貫通コイル13の交換を行う場合に用いる方法について説明する。
つまり、初期導入コイルは、渦流計測において渦流貫通コイル13について最初に用いるものであり、新規導入コイルは、初期導入コイルが故障した場合にこの初期導入コイルと交換して用いるものである。
すなわち、各渦流貫通コイル13を用いて計測した計測値から定まる計測点のバラツキから、このバラツキに最も寄与率の高い成分である第一主成分の方向を長軸の方向、第一主成分に直交する第二主成分の方向を短軸の方向とし、長軸と短軸との交点が前記バラツキの中心を示す値から定まるとともに、前記バラツキを、前記長軸の方向を広がりの方向として前記交点における値を平均とする正規分布とした場合の標準偏差に基づく所定の広がりを有する楕円を、初期導入コイル及び新規導入コイルそれぞれについてX−Y平面40において作製する。
以下では、この共通する複数の良品についての渦流計測値から、各渦流貫通コイルについて作製する楕円を「性能評価楕円」とする。
つまり、各渦流貫通コイルのトレランスゾーンの設定に係る性能を表す性能評価楕円同士を比較し、新規導入コイルの初期導入コイルに対する性能評価楕円の、X−Y平面40上における位置や広がり等の変化量を、初期導入コイルの使用の際に設定したトレランスゾーン41に反映させることで、新規導入コイルの使用に際してトレランスゾーン41を補正する。
まず、前述のような二種類の渦流貫通コイル13、つまり初期導入コイル及び新規導入コイルのうち、初期導入コイルについての基本性能データを取得する(S300(S301〜S303))。ここで、渦流貫通コイル13についての基本性能データとは、性能評価楕円のX−Y平面40上における中心座標と、長軸の長さ(長径)及び短軸の長さ(短径)である。
初期導入コイルについての基本性能データの取得は、例えば次のようにして行う。
すなわち、特定の実部品として、図7に示すような断面視において焼入パターン切れの有無等について視覚的に検査する切断検査等によって良品であることが既知のワークを3個用意し、これらの良品のワークを計測対象として初期導入コイルを用いて複数回(例えば5回)渦流計測を行う。そして、各ワークについて複数回行った渦流計測による計測値の平均値を算出し、その平均値を示す計測点をX−Y平面40上にプロットする。
なお、ここでの渦流計測は、検査対象部品であるワーク50における検査部位50aに対応する所定の部位を計測部位として行う。
また、ここでの渦流計測の対象である良品のワークの個数については、本例では3個としているが、これに限定するものではなく、少なくとも3個以上であり、例えば数百個程度の多数となるトレランスゾーンの設定に用いる良品データの個数に対して十分に少ない個数(例えば数個程度)であればよい。
ここでは、前記のとおりトレランスゾーン41を区画する設定楕円の決定に際して用いた手法を用いて性能評価楕円70をX−Y平面40上に描く。
すなわち、図14に示すように、まず、X−Y平面40上における3つの計測点72のバラツキから、そのバラツキに最も寄与率の高い第一主成分を求める(矢印79x参照)。次に、第一主成分に直交する第二主成分を求める(矢印79y参照)。続いて、前記計測点72のバラツキ及び第一主成分の方向(長軸の方向)を広がりの方向とする正規分布におけるμ±3σの広がりを用い、第一主成分の方向を長軸の方向、第二主成分の方向を短軸の方向とする楕円(符号70参照)を作製する。かかる楕円が、初期導入コイルについての性能評価楕円70となる。
つまり、図14に示すように、初期導入コイルの性能評価楕円70について、長軸73と短軸74との交点となる中心点71の座標と、長軸73の長さ(長径)及び短軸74の長さ(短径)を、初期導入コイルの基本性能データとして取得する。
以上のようにして、初期導入コイルについての基本性能データを取得する(S300)。
つまりここでは、初期導入コイルについての基本性能データの取得に用いた3個の良品と共通のものを、新規導入コイルを用いた渦流計測の計測対象とし、初期導入コイルの場合と同様の手法を用いて、性能評価楕円を作製し、基本性能データを取得する。なお、新規導入コイルを用いた渦流計測に際しては、初期導入コイルを用いた渦流計測の際の所定の励磁周波数と同じ励磁周波数とする。
つまり、初期導入コイル及び新規導入コイルについて、基本性能データを指標とし、各渦流貫通コイル13の性能の個体差を、基本性能データの変化量(差)として定量化する。
これは、X−Y平面40が導電率及び透磁率に対するインピーダンスの関係を示すインピーダンス平面に対応することや、性能評価楕円の傾きが導電率及び透磁率それぞれの変化にともなうX−Y平面40上における計測点の移動方向に関係すること等に起因する。つまり、導電率及び透磁率は、渦流計測の対象であるワークの性状によるものであるため、初期導入コイル及び新規導入コイルで、共通のワークを、同じ励磁周波数で(励磁周波数が変化すると渦流計測値も変化する)、渦流計測した計測値に基づく性能評価楕円の傾きについては、渦流貫通コイル13が有する性能の個体差自体の影響は少ない(ほぼない)と考えてよい。そしてこの渦流貫通コイル13の性能の個体差の影響が少ないことは、性能評価楕円の傾きと同様、トレランスゾーンのX−Y平面40上における傾きについても言えることである。
この場合、図13に示すフロー図に戻り、前記のとおり初期導入コイル及び新規導入コイルそれぞれについての基本性能データを取得(S300・S310)した後、渦流貫通コイル13の交換にともなうトレランスゾーン41の補正に際して、新規導入コイルの初期導入コイルに対する性能評価楕円の中心座標の変化分、トレランスゾーンを平行移動させる(S320)。
そして、図15(a)に示すように、X−Y平面40において、新規導入コイルの性能評価楕円80の中心点81が初期導入コイルの性能評価楕円70の中心点71に対して左上に移動している本例では、新規導入コイルの性能評価楕円80の中心点81が、初期導入コイルの性能評価楕円70の中心点71に対して、その中心点に対応する出力値Xが小さくなり、出力値Yが大きくなった場合を示している。
すなわち、図15(b)に示すように、初期導入コイルについて設定したトレランスゾーン41を、性能評価楕円についての中心座標の変化量(平行移動量)だけ平行移動させることにより補正する。つまり、図15(b)において一点鎖線矢印T1で示すように、平行移動後(補正後)のトレランスゾーン91の中心点O2は、平行移動前(補正前)のトレランスゾーン41の中心点O1(前記交点O1)に対して、性能評価楕円の中心点の移動(図15(a)の一点鎖線矢印t1参照)に対応する(同一の)方向・距離で移動した状態となる。
このようにトレランスゾーン41について位置の補正のみで行う補正は、図15(a)に示すように、新規導入コイルの性能評価楕円80の長軸83及び短軸84それぞれの長さが、初期導入コイルの性能評価楕円70の長軸73及び短軸74それぞれの長さに対して変化していないか、あるいはその変化量がトレランスゾーン41の補正に際して無視できる程度のものである場合に行う。
この場合、図13に示すフロー図に戻り、前記のとおり初期導入コイル及び新規導入コイルそれぞれについての基本性能データを取得(S300・S310)した後、渦流貫通コイル13の交換にともなうトレランスゾーン41の補正に際しては、まず、新規導入コイルの初期導入コイルに対する性能評価楕円の中心座標の変化分、トレランスゾーンを平行移動させる(S320)。
すなわち、この場合、図16(a)において一点鎖線矢印t2で示すように、新規導入コイルの性能評価楕円80の中心点81が、初期導入コイルの性能評価楕円70の中心点71に対して、X−Y平面40上において所定の方向・距離で移動した状態となる。なお、図16(a)に示すように、X−Y平面40において、新規導入コイルの性能評価楕円80の中心点81が初期導入コイルの性能評価楕円70の中心点71に対して右上に移動している本例では、新規導入コイルの性能評価楕円80の中心点81が、初期導入コイルの性能評価楕円70の中心点71に対して、その中心点に対応する出力値X及び出力値Yがともに大きくなった場合を示している。
すなわち、図16(a)に示すように、初期導入コイル及び新規導入コイルそれぞれの性能評価楕円70・80について、新規導入コイルの性能評価楕円80の長軸及び短軸の長さが、初期導入コイルの性能評価楕円70の長軸及び短軸の長さに対して、所定の変化量(変化率)で変化したとする。つまりこの場合、図16(a)において性能評価楕円70・80同士を結ぶ二点鎖線で示すように、新規導入コイルの性能評価楕円80が、初期導入コイルの性能評価楕円70に対して広がりが変化した状態となる。これは、渦流貫通コイル13の基本性能データである、性能評価楕円の長軸及び短軸の長さについて、新規導入コイルの性能評価楕円80の長軸及び短軸の長さが、初期導入コイルのそれに対して変化したことを示している。
そして、図16(a)に示すように、X−Y平面40において、新規導入コイルの性能評価楕円80が初期導入コイルの性能評価楕円70に対して大きくなっている(広がっている)本例では、新規導入コイルの性能評価楕円80が初期導入コイルの性能評価楕円70に対して、その作製に係る良品データ(図14、計測点72参照)のバラツキの範囲が広がった場合を示している。
すなわち、図16(b)に示すように、初期導入コイルについて設定したトレランスゾーン41を、性能評価楕円についての長軸及び短軸の変化量だけ広がりを変化させることにより補正する。つまり、図16(b)に示すような補正後のトレランスゾーン91の長軸a2の長さの、補正前のトレランスゾーン41の長軸a1の長さに対する変化率は、同図(a)に示す新規導入コイルの性能評価楕円80の長軸83の長さの、初期導入コイルの性能評価楕円70の長軸73の長さに対する変化率に対応する(同一となる)。同様に、補正後のトレランスゾーン91の短軸b2の長さの、補正前のトレランスゾーン41の短軸b1の長さに対する変化率は、新規導入コイルの性能評価楕円80の短軸84の長さの、初期導入コイルの性能評価楕円70の短軸74の長さに対する変化率に対応する(同一となる)。
なお、以上説明したようなトレランスゾーン41の補正に際しては、位置の補正(前記S320)と広がりの補正(前記S330)のうち、必要に応じていずれか一方のみを行ってもよい。つまり、前述したように位置の補正のみでトレランスゾーン41の補正を行う場合(図15参照)のほか、これとは逆に、新規導入コイルの性能評価楕円80の中心点81が初期導入コイルの性能評価楕円70の中心点71に対して移動していないか、あるいはその移動量がトレランスゾーン41の補正に際して無視できる程度のものである場合においては、広がりの補正のみでトレランスゾーン41の補正を行う場合であってもよい。
また、トレランスゾーン41の補正に関し、位置の補正と広がりの補正についての行う順序等は特に限定するものではない。つまり、図13に示すフロー図において、位置の補正に対応するS320と広がりの補正に対応するS330とは逆であってもよく、また、これらの各補正を同じタイミングで行ってもよい。
また、交換前の渦流貫通コイル13で使用していたトレランスゾーン41を、交換後の渦流貫通コイル13でも活用することができ、渦流貫通コイル13の交換に際してトレランスゾーンの再度の設定が不要となる。したがって、渦流貫通コイル13の故障に対しての早期復旧が可能となり、渦流貫通コイル13の交換が工場内の組立ライン等における生産計画に与える影響を小さくすることができる。
図17において(a)〜(c)は、ワークにおける計測部位や渦流計測における励磁周波数等の渦流計測についての条件がそれぞれ異なる場合を示している。これにともない、図17(a)には、X−Y平面40上において、出力値Xが−60〜80(mV)の範囲、出力値Yが−3950〜−3450(mV)の範囲の部分を示し、同じく同図(b)には出力値Xが−320〜−200(mV)の範囲、出力値Yが−5400〜−4800(mV)の範囲の部分、同図(c)には出力値Xが400〜600(mV)の範囲、出力値Yが−2450〜−2100(mV)の範囲の部分をそれぞれ示している。
なお、図17の各図に示す実証データは、トレランスゾーン41の補正について位置の補正のみを行った場合を表している。
一方、図17の各図において黒の四角形状の点で示す点群である計測点群99は、交換後の新規導入コイルを用いて、前記計測点群94を得た場合と共通する多数の良品のワークについて渦流計測することによって得た計測点の分布(良品データの分布)である。かかる計測点群99は、図17の各図からわかるように、初期導入コイルについてのデータである計測点群94に対して分布は若干異なるものの、ほぼ全部が補正後のトレランスゾーン91内に位置している。つまり、補正後のトレランスゾーン91は、補正前のトレランスゾーン41と同様に、良品のワークについての新規導入コイルによる渦流計測値に基づく計測点群に対して、この計測点群が良品データの分布となるように(トレランスゾーン内となるように)位置している。
すなわち、渦流貫通コイル13の交換に際して、前述したような方法を用いて補正したトレランスゾーンは、ワークにおける計測部位や渦流計測における励磁周波数等に依存することなく、交換後の渦流貫通コイル13(新規導入コイル)を用いた渦流計測に際して十分に対応したものとなる。
このように、本実施形態に係る焼入パターン検査方法において、前述したような渦流貫通コイル13の交換を行う場合に用いる方法が有用であることが実証できている。
12 検出コイル
13 渦流貫通コイル(渦流センサ)
16 温度センサ(温度検出手段)
20 渦流探傷器(計測手段、判定手段、温度測定手段)
22 計測部
23 判定部
26 温度測定部
40 X−Y平面(座標平面)
40x X軸(第一の座標軸)
40y Y軸(第二の座標軸)
41 トレランスゾーン(許容誤差領域)
42 良品データ
43 境界線
44 パターン切れ品データ
50 ワーク
50a 検査部位
70 性能評価楕円
71 中心点
72 計測点
73 長軸
74 短軸
Claims (10)
- 検査対象部品に対して所定の交流励磁信号を印加するための励磁コイルと、前記交流励磁信号が印加された検査対象部品から渦電流による検出信号を検出するための検出コイルと、を有する渦流センサを用い、検査対象部品についての焼入パターンの良否を判定する焼入パターン検査方法であって、
前記検出信号の前記交流励磁信号に対する位相差に起因する値を示す第一の座標軸と、該第一の座標軸に直交するとともに前記検出信号の大きさの値を示す第二の座標軸とから定められる座標平面を用い、
前記渦流センサを用いて計測した、多数の良品についての前記位相差に起因する値及び前記検出信号の大きさの値から定まる前記座標平面上の各点を、予め想定される検査対象部品の温度変化範囲で温度ドリフトさせた点の分布に基づき、前記座標平面における許容誤差領域を予め設定し、
前記渦流センサを用い、検査対象部品の検査部位についての前記位相差に起因する値及び前記検出信号の大きさの値を計測し、
その計測した前記位相差に起因する値及び前記検出信号の大きさの値から定まる前記座標平面上の点が、前記許容誤差領域内にあるか否かにより、検査対象部品についての焼入パターンの良否を判定することを特徴とする焼入パターン検査方法。 - 前記許容誤差領域の形状を、
前記分布に最も寄与率の高い成分である第一主成分の方向を長軸の方向、前記第一主成分に直交する第二主成分の方向を短軸の方向とし、長軸と短軸との交点が前記分布の中心を示す値から定まるとともに、前記分布を、前記長軸の方向を広がりの方向として前記交点における値を平均とする正規分布とした場合の標準偏差に基づく所定の広がりを有する楕円とすることを特徴とする請求項1に記載の焼入パターン検査方法。 - 前記渦流センサの温度を測定し、
その測定した前記渦流センサの温度に基づき、
前記許容誤差領域、または、前記検査部位についての前記位相差に起因する値及び前記検出信号の大きさの値から定まる前記座標平面上の点を、
前記検査部位についての前記位相差に起因する値及び前記検出信号の大きさの値から定まる前記座標平面上の点の、前記渦流センサの温度変化にともなう所定の移動方向に沿って、前記渦流センサの温度変化に応じた距離だけ、温度ドリフトさせることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の焼入パターン検査方法。 - 検査対象部品に対して所定の交流励磁信号を印加するための励磁コイルと、前記交流励磁信号が印加された検査対象部品から渦電流による検出信号を検出するための検出コイルと、を有する渦流センサを用い、検査対象部品についての焼入パターンの良否を判定する焼入パターン検査方法であって、
前記検出信号の前記交流励磁信号に対する位相差に起因する値を示す第一の座標軸と、該第一の座標軸に直交するとともに前記検出信号の大きさの値を示す第二の座標軸とから定められる座標平面を用い、
前記渦流センサを用いて計測した、多数の良品についての前記位相差に起因する値及び前記検出信号の大きさの値から定まる前記座標平面上の各点を、予め想定される前記渦流センサの温度変化範囲で温度ドリフトさせた点の分布に基づき、前記座標平面における許容誤差領域を予め設定し、
前記渦流センサを用い、検査対象部品の検査部位についての前記位相差に起因する値及び前記検出信号の大きさの値を計測し、
その計測した前記位相差に起因する値及び前記検出信号の大きさの値から定まる前記座標平面上の点が、前記許容誤差領域内にあるか否かにより、検査対象部品についての焼入パターンの良否を判定することを特徴とする焼入パターン検査方法。 - 前記座標平面上における前記許容誤差領域を区画する境界線に対する該境界線の形状に沿う距離の値を分離値と定義し、
前記渦流センサを用いて計測した、焼入パターン切れを有する不良品についての前記位相差に起因する値及び前記検出信号の大きさの値から定まる前記座標平面上の点を、前記温度変化範囲で温度ドリフトさせた各点の、前記分離値が平均的にかつ比較的大きくなるように、
前記検査部位についての前記位相差に起因する値及び前記検出信号の大きさの値の計測に用いる、前記交流励磁信号の周波数を設定することを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の焼入パターン検査方法。 - 前記渦流センサについて、先に用いる第一の渦流センサと、該第一の渦流センサに対する交換対象としての第二の渦流センサとを用意し、
前記第一の渦流センサ及び前記第二の渦流センサそれぞれを用いて、共通する複数の良品についての前記位相差に起因する値及び前記検出信号の大きさの値を計測し、
これらの計測値から定まる前記座標平面上の点のバラツキから、該バラツキに最も寄与率の高い成分である第一主成分の方向を長軸の方向、前記第一主成分に直交する第二主成分の方向を短軸の方向とし、長軸と短軸との交点が前記バラツキの中心を示す値から定まるとともに、前記バラツキを、前記長軸の方向を広がりの方向として前記交点における値を平均とする正規分布とした場合の標準偏差に基づく所定の広がりを有する楕円を、前記第一の渦流センサ及び前記第二の渦流センサそれぞれについて前記座標平面において作製し、
前記渦流センサについての前記第一の渦流センサから前記第二の渦流センサへの交換にともない、
前記第二の渦流センサによる計測値に基づいて作製した前記楕円の、前記第一の渦流センサによる計測値に基づいて作製した前記楕円に対する、前記座標平面における中心点の移動量と長軸及び短軸の長さの変化量とを用いて、前記許容誤差範囲を補正することを特徴とする請求項1〜5のいずれかの項に記載の焼入パターン検査方法。 - 検査対象部品に対して所定の交流励磁信号を印加するための励磁コイル、及び前記交流励磁信号が印加された検査対象部品から渦電流による検出信号を検出するための検出コイルを有する渦流センサと、
前記検出信号の前記交流励磁信号に対する位相差に起因する値、及び前記検出信号の大きさの値を計測する計測手段と、
前記位相差に起因する値を示す第一の座標軸と、該第一の座標軸に直交するとともに前記検出信号の大きさの値を示す第二の座標軸とから定められる座標平面を用い、前記計測手段により計測された、多数の良品についての前記位相差に起因する値及び前記検出信号の大きさの値から定まる前記座標平面上の各点を、予め想定される検査対象部品の温度変化範囲で温度ドリフトさせた点の分布に基づき、前記座標平面における許容誤差領域を予め設定し、前記計測手段により計測された、検査対象部品の検査部位についての前記位相差に起因する値及び前記検出信号の大きさの値から定まる前記座標平面上の点が、前記許容誤差領域内にあるか否かにより、検査対象部品についての焼入パターンの良否を判定する判定手段と、
を備える焼入パターン検査装置。 - 前記判定手段は、
前記許容誤差領域の形状を、
前記分布に最も寄与率の高い成分である第一主成分の方向を長軸の方向、前記第一主成分に直交する第二主成分の方向を短軸の方向とし、長軸と短軸との交点が前記分布の中心を示す値から定まるとともに、前記分布を、前記長軸の方向を広がりの方向として前記交点における値を平均とする正規分布とした場合の標準偏差に基づく所定の広がりを有する楕円とすることを特徴とする請求項7に記載の焼入パターン検査装置。 - 前記渦流センサの温度を検出する温度検出手段と、
前記温度検出手段により検出された温度に基づいて前記渦流センサの温度を測定する温度測定手段と、を備え、
前記判定手段は、
前記温度測定手段により測定された前記渦流センサの温度に基づき、
前記許容誤差領域、または、前記検査部位についての前記位相差に起因する値及び前記検出信号の大きさの値から定まる前記座標平面上の点を、
前記検査部位についての前記位相差に起因する値及び前記検出信号の大きさの値から定まる前記座標平面上の点の、前記渦流センサの温度変化にともなう所定の移動方向に沿って、前記渦流センサの温度変化に応じた距離だけ、温度ドリフトさせることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の焼入パターン検査装置。 - 検査対象部品に対して所定の交流励磁信号を印加するための励磁コイル、及び前記交流励磁信号が印加された検査対象部品から渦電流による検出信号を検出するための検出コイルを有する渦流センサと、
前記検出信号の前記交流励磁信号に対する位相差に起因する値、及び前記検出信号の大きさの値を計測する計測手段と、
前記位相差に起因する値を示す第一の座標軸と、該第一の座標軸に直交するとともに前記検出信号の大きさの値を示す第二の座標軸とから定められる座標平面を用い、前記計測手段により計測された、多数の良品についての前記位相差に起因する値及び前記検出信号の大きさの値から定まる前記座標平面上の各点を、予め想定される前記渦流センサの温度変化範囲で温度ドリフトさせた点の分布に基づき、前記座標平面における許容誤差領域を予め設定し、前記計測手段により計測された、検査対象部品の検査部位についての前記位相差に起因する値及び前記検出信号の大きさの値から定まる前記座標平面上の点が、前記許容誤差領域内にあるか否かにより、検査対象部品についての焼入パターンの良否を判定する判定手段と、
を備える焼入パターン検査装置。
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