上記したような圧電/電歪膜型センサ(単にセンサともいう)では、近年、半導体集積回路チップ(IC、LSI)等と同様に、以下の問題を抱えている。
先ず、膜状の圧電/電歪体(絶縁体)が絶縁破壊を起こし、圧電/電歪膜型センサが動作不能となる問題がある。シリコン製のチップにおいては、高速化を進めるには薄膜化と高い電圧(電界)の印加が必須であり、それによって酸化膜(絶縁体)が絶縁破壊し易くなるという問題が知られる。これと同様に、圧電/電歪膜型センサにおいても、例えば縦効果振動子では、圧電/電歪体を薄膜化して、印加電圧を高めると振幅が大きくなり、センサの感度向上に有効であるため、圧電/電歪体を薄膜化し印加電圧を高める場合があるが、圧電/電歪体が絶縁破壊され易くなり、これによって圧電/電歪膜型センサの信頼性低下を招来するため、絶縁破壊を防止することが解決すべき課題となっている。
又、上記絶縁破壊に関連して、静電気による破壊(静電破壊)が問題となっている。全ての物質は原子中に電子を持っており、そのような物質からなる物と物あるいは人と物が、接触(摩擦、衝突等を含む)又は剥離する際に、電子が移動し、電気的に不安定な状態になることで、静電気は生じると考えられている。この静電気の発生においては、電子の移動に伴い、電子を受け取った方が−極となり、電子を放出した方が+極となる。圧電/電歪膜型センサの場合には、絶縁体である圧電/電歪体が、その表面で、他の物、人、あるいは空気中から、電子を受け取り、−極に帯電している状態になり得る。そして、その状態から、他の物、人、あるいは空気中へ、電子を放出する(放電する)と、その放電時に数kVの電圧がかかり、圧電/電歪体が破壊(静電破壊)され得る。又、−極に帯電している状態において、圧電/電歪体の表面に、+極を帯びている埃、ゴミ等が誘引され付着すると、それらによって圧電/電歪体を挟んだ一対の電極間が短絡し、圧電/電歪体に所望の電圧がかからず、センサとしての振動が不安定になり、あるいは、ゴミ等の質量によってセンサの共振周波数がずれて誤検出等が生じ、流体の特性又は流体の有無が正確に測定することが出来なくなるおそれがある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、耐電圧以上の高い電圧が圧電/電歪体にかかり難く、それが故に、絶縁破壊が防止され、且つ、静電気が帯電され難く、それが故に、静電破壊が防止され、埃、ゴミ等を誘引しない圧電/電歪膜型センサを提供することである。研究が重ねられた結果、圧電/電歪体の表面近傍に、硫化物及び端子電極の主成分を適度に存在させた圧電/電歪膜型センサによって、上記目的が達成されることが見出された。
即ち、本発明によれば、薄肉ダイヤフラム部、及びその薄肉ダイヤフラム部の周縁に一体的に架設された厚肉部、を有し、それら薄肉ダイヤフラム部及び厚肉部によって、外部に連通した空洞が形成されたセラミック基体と、そのセラミック基体の薄肉ダイヤフラム部の外表面上に配設された、膜状の圧電/電歪体、及びその圧電/電歪体を挟んだ下部電極及び上部電極、を含む積層構造を有する圧電/電歪素子と、下部電極及び上部電極を電源に接続するためのそれぞれの端子電極を具備し、圧電/電歪素子の駆動に連動して、セラミック基体の薄肉ダイヤフラム部が振動する圧電/電歪膜型センサであって、圧電/電歪体が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含有するとともに、その圧電/電歪体の表面近傍に、硫化物、及び、圧電/電歪体と接していない前記端子電極の主成分、を含有する圧電/電歪膜型センサが提供される。
補助電極を設けて、セラミック基体上に配設される(上部電極用の)端子電極と、圧電/電歪体の上に形成される上部電極とを接続してもよい。補助電極を設ける場合、上部電極と同一の材料で形成することが出来る。又、上部電極の一部として補助電極を構成してもよい。下部電極はセラミック基体上に配設されるから、同じくセラミック基体上に配設される(下部電極用の)端子電極と直接に接続され、下部電極と(下部電極用の)端子電極との間には、補助電極は不要である。尚、本明細書において、圧電/電歪体の表面近傍とは、表面の近傍ではなく、表面及びその近傍を意味し、表面を含んで表面の近傍部分を指すものとする。
本発明に係る圧電/電歪膜型センサにおいては、圧電/電歪体の表面近傍に含有される硫化物は、加熱処理によって、圧電/電歪体に含有されるアルカリ金属又はアルカリ土類金属と、硫黄と、が(圧電/電歪体の表面近傍で)結合したものであることが好ましい。
換言すれば、本発明に係る圧電/電歪膜型センサは、その製造に際し加熱処理(例えば焼成処理)を行うことによって、圧電/電歪体に含有されるアルカリ金属又はアルカリ土類金属と、空気中の硫黄と、を反応させ、圧電/電歪体の表面近傍に硫化物を生成させることによって、得ることが出来る。空気中には、特別なクリーンルームでない限り、必ず硫黄は存在するが、その量は僅かである。従って、圧電/電歪体の表面近傍に含有される硫化物は、極微少量である。
又、予め、硫黄を電極の材料に含有させ、その硫黄で硫化物を形成することが出来、これは好ましい手段である。電極の材料に含有させる硫黄の量を調整することによって、圧電/電歪体の表面近傍に含有される硫化物の量を、極微少とすることが可能だからである。
本発明に係る圧電/電歪膜型センサにおいては、圧電/電歪体の表面近傍に含有される端子電極の主成分は、その端子電極を形成した後の加熱処理によって、その端子電極から圧電/電歪体の表面近傍に拡散したものであることが好ましい。
換言すれば、本発明に係る圧電/電歪膜型センサは、端子電極を形成した後に、加熱処理(例えば焼成処理)を行うことによって、圧電/電歪体の表面近傍に、端子電極を構成する導電材料の主成分を拡散(熱拡散)させることによって、得ることが出来るものである。従って、圧電/電歪体の表面近傍に含有される端子電極の主成分は、極微少量である。
本発明に係る圧電/電歪膜型センサにおいては、端子電極が、銀、又はこれを主成分とする導電材料からなることが好ましい。
本発明に係る圧電/電歪膜型センサにおいては、上部電極が、金、又はこれを主成分とする導電材料からなることが好ましい。
本発明に係る圧電/電歪膜型センサにおいては、下部電極が、白金、又はこれを主成分とする導電材料からなることが好ましい。尚、本明細書において、単に電極というとき、端子電極、上部電極、下部電極、及び(存在する場合には)補助電極、の全てを指すものとする。
本発明に係る圧電/電歪膜型センサにおいては、圧電/電歪体が、(Bi0.5Na0.5)TiO3、又はこれを主成分とする圧電/電歪材料からなることが好ましい。即ち、圧電/電歪体に含有されるアルカリ金属又はアルカリ土類金属の好適な例としては、ナトリウムが挙げられる。
本発明に係る圧電/電歪膜型センサは、薄肉ダイヤフラム部の上に配設された圧電/電歪素子を備え、圧電/電歪素子の駆動に連動して薄肉ダイヤフラム部が振動するものであるので、従来知られた粘度、密度、濃度等の流体の特性を測定するセンサとして利用することが出来る(特許文献1〜4を参照)。流体中において圧電/電歪膜型センサ(圧電/電歪素子)を振動させ、流体の粘性抵抗によって機械的抵抗を受け、その機械的抵抗と一定の関係において圧電/電歪素子の電気的定数が変化するので、その電気的定数を検出して、流体の粘度を測定することが可能である。
そして、それに加えて、本発明に係る圧電/電歪膜型センサは、圧電/電歪体の表面近傍に、硫化物を含有しており、耐電圧以上の高い電圧が圧電/電歪体にかかり難いので、絶縁破壊が防止され、信頼性の高いものとなっている。硫化物は、一定湿度下において、導電性を発揮するから、圧電/電歪体の表面近傍のうち硫化物を含有する部分は、絶縁体である圧電/電歪体を挟む上部電極と下部電極の間の絶縁抵抗を低下させる。従って、印加電圧が高い使用状況下において、何らかの要因で異常に高い電圧がかかったとしても、その絶縁抵抗が低下した部分を通じて導通する(僅かに短絡電流が流れる)ことで、電極間の放電にまでは至らない。そのため、本発明に係る圧電/電歪膜型センサは、圧電/電歪体にかかる電圧がその耐電圧以上の高いものにはなり難いのである。又、膜状の圧電/電歪体の表面における絶縁破壊を、膜状の圧電/電歪体の厚さ方向の絶縁破壊より先に発生させることによって、膜状の圧電/電歪体の厚さ方向の致命的な破壊を防止することが出来る。よって、上記絶縁破壊は防止される。
本発明に係る圧電/電歪膜型センサは、周囲の湿度が高くなったときに、圧電/電歪体の内部に水分が浸透して破壊に至ることを、圧電/電歪体の表面でリークさせることによって防止出来るので、季節により湿度の変動があっても、破壊され難い。
これまで知られた圧電/電歪膜型センサには、圧電/電歪体の表面近傍に、硫化物が含有されているものは存在していない。又、従来、圧電/電歪膜型センサにおいて圧電/電歪体の表面近傍に、硫化物を含有させる技術も知られていなかった。そのため、今までの圧電/電歪膜型センサにおいては、シリコン製のチップ等と同様に、絶縁破壊の問題が起こり得たが、本発明に係る圧電/電歪膜型センサによれば、そのような問題を回避することが可能である。
本発明に係る圧電/電歪膜型センサによれば、膜状の圧電/電歪体の絶縁破壊は防止されるので、従来の圧電/電歪膜型センサと比して、圧電/電歪体をより薄くし、印加電圧をより高めることが可能である。従って、従来の圧電/電歪膜型センサと比べて、より大きな振幅で振動させることが出来、センサの感度を向上させることが出来る。
本発明に係る圧電/電歪膜型センサは、その好ましい態様において、圧電/電歪体の表面近傍に含有される硫化物は、加熱処理によって、圧電/電歪体に含有されるアルカリ金属又はアルカリ土類金属と、空気中の硫黄又は電極の材料に含有された硫黄と、が(圧電/電歪体の表面近傍で)結合したものであるので、圧電/電歪体の表面近傍に含有される硫化物は、極微少量である。そのため、耐電圧以上の高い電圧を圧電/電歪体にかかり難くするが、上部電極と下部電極の間に流れる短絡電流は極僅かであるから、圧電/電歪体には所望の電圧がかかる。従って、圧電/電歪素子を駆動させ、その駆動に連動して薄肉ダイヤフラム部を振動させることが出来、センサとして、優れた性能を発揮し得る。
本発明に係る圧電/電歪膜型センサでは、その好ましい態様において、電極の材料に金及び白金の少なくとも何れかが含有される。従って、圧電/電歪体の表面近傍に含有される硫化物が、圧電/電歪体に含有されるアルカリ金属又はアルカリ土類金属と、空気中の硫黄又は電極の材料に含まれ(焼成後にも残留する)硫黄と、が結合したものである場合に、金及び白金の少なくとも何れかが触媒となって、その結合反応を促進する。よって、この場合に、硫化物は、極微少量であるが、必ず圧電/電歪体の表面近傍に含有される。
更に加えて、本発明に係る圧電/電歪膜型センサは、圧電/電歪体の表面近傍に、端子電極の主成分を含有しており、静電気が帯電され難いので、静電破壊が防止され、この点においても信頼性の高いものとなっている。端子電極の主成分は導電材料であるから、圧電/電歪体の表面近傍のうち端子電極の主成分を含有する部分は低抵抗部になり、絶縁体である圧電/電歪体が、その表面で電子を受け取っても、その電子は、直ぐに、その低抵抗部を介して放出される。そのため、本発明に係る圧電/電歪膜型センサは、電子が滞留して静電気を帯びる状態にはなり難いのである。従って、上記静電破壊の防止が図られる他、表面に埃やゴミ等が誘引され付着することもなく、それらに起因して圧電/電歪体を挟んだ上部電極と下部電極が短絡し圧電/電歪体に所望の電圧をかけられなくなってセンサとしての精度低下を招来する、といった問題も生じ難い。
本発明に係る圧電/電歪膜型センサは、硫化物が局所的に表面近傍に存在しない状態においても、上記した致命的な絶縁破壊を防止することが出来る。即ち、高い湿度下において、結露(圧電/電歪体の表面の微小な結露を含む)が生じ、局所的に硫化物が集まっても、表面の電子は移動しない。よって、圧電/電歪膜型センサの性能は安定した状態で得られる。
これまで知られた圧電/電歪膜型センサには、圧電/電歪体の表面近傍に、端子電極の主成分が含有されているものは存在していない。又、従来、圧電/電歪膜型センサにおいて圧電/電歪体の表面近傍に、端子電極の主成分を含有させる技術も知られていなかった。そのため、今までの圧電/電歪膜型センサにおいては、半導体集積回路チップを含む他の電子部品と同様に、静電破壊の問題が常に起こり得たが、本発明に係る圧電/電歪膜型センサによれば、そのような問題を回避することが可能である。
本発明に係る圧電/電歪膜型センサは、その好ましい態様において、圧電/電歪体の表面近傍に含有される端子電極の主成分は、その端子電極を形成した後の加熱処理によって、その端子電極から圧電/電歪体の表面近傍に拡散したものであるので、圧電/電歪体の表面近傍に含有される端子電極の主成分は、極微少量である。そのため、静電気を帯電し難くするが、その一方において、端子電極の主成分が圧電/電歪体の表面近傍に含有されていることのみに起因しては、上部電極と下部電極とを短絡させることには至らず、圧電/電歪体に所望の電圧をかけ得る。従って、圧電/電歪素子を駆動させ、その駆動に連動して薄肉ダイヤフラム部を振動させることが出来、センサとして、優れた性能を発揮し得る。
本発明に係る圧電/電歪膜型センサは、その好ましい態様において、端子電極が、低融点材料である銀又はこれを主成分とする導電材料からなり、補助電極及び上部電極が、銀より融点の高い金又はこれを主成分とする導電材料からなるので、上記加熱処理に伴う拡散によって、端子電極の主成分である銀のみを圧電/電歪体の表面近傍に含有させ易い。即ち、この好ましい態様の本発明に係る圧電/電歪膜型センサは、製造容易なものということが出来る。
本発明に係る圧電/電歪膜型センサは、その好ましい態様において、圧電/電歪体が、残留分極が大きい(Bi0.5Na0.5)TiO3若しくはこれを主成分とする圧電/電歪材料からなるものであるので、高出力を可能とする。
以下、本発明について、適宜、図面を参酌しながら、実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではない。本発明の要旨を損なわない範囲で、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良、置換を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施の形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は、以下に記述される手段である。
先ず、本発明に係る圧電/電歪膜型センサの構成について説明する。図1は、本発明に係る圧電/電歪膜型センサの一の実施形態を示す平面図(上面図)であり、図2は、図1におけるAA断面を表す断面図であり、図3は、図1におけるBB断面を表す断面図である。
図1〜図3に示される圧電/電歪膜型センサ20は、セラミック基体1と圧電/電歪素子12とを備えている。セラミック基体1は、薄肉ダイヤフラム部3と、その薄肉ダイヤフラム部3の周縁に一体的に架設された厚肉部2と、を有し、そのセラミック基体1には、それら薄肉ダイヤフラム部3及び厚肉部2によって、貫通孔9で外部に連通する空洞10が形成されている。圧電/電歪素子12は、セラミック基体1の薄肉ダイヤフラム部3の外表面上に配設されており、膜状の圧電/電歪体5及びその圧電/電歪体5を挟んだ一対の膜状の電極(上部電極6及び下部電極4)による積層構造を呈するものである。
圧電/電歪膜型センサ20では、圧電/電歪体5の下側であってセラミック基体1の薄肉ダイヤフラム部3の上に形成された下部電極4は、(下部電極用の)端子電極18と、直接に接続され導通されている。圧電/電歪体5の上側に形成された上部電極6は、(上部電極用の)端子電極19とは、補助電極8を介して導通され接続される。尚、補助電極8は、本来、上部電極6の一部を構成するものであるが、本実施形態(圧電/電歪膜型センサ20)においては、機能が理解し易いように、補助電極8として示した。
(上部電極用の)端子電極19と下部電極4とは、結合層7を挟むことで絶縁される。その結合層7は、圧電/電歪体5の下側に入り込むように形成されており、圧電/電歪体5と薄肉ダイヤフラム部3を結合させる役割を担う層である。圧電/電歪体5は、下部電極4を覆う大きさで形成されており、その圧電/電歪体5に跨るように、上部電極6が形成されている。上部電極6及び補助電極8で覆われていない圧電/電歪体5の露になった表面近傍には、硫化物と、後述する端子電極18,19の主成分と、が含有されている。尚、結合層7は、センサの用途に応じて、適宜、適用し得るものであり、結合層7の部分を不完全結合状態にしてもよい。
圧電/電歪膜型センサ20では、圧電/電歪素子12を駆動(変位発生)させると、それに連動して、セラミック基体1の薄肉ダイヤフラム部3が振動する。セラミック基体1の薄肉ダイヤフラム部3の厚さは、圧電/電歪体5の振動を妨げないために、一般に、50μm以下、好ましくは30μm以下、更に好ましくは15μm以下とされる。薄肉ダイヤフラム部3の平面形状としては、長方形、正方形、三角形、楕円形、真円形等の如何なる形状も採り得るが、励起される共振モードを単純化させる必要のあるセンサの応用では、長方形や真円形が必要に応じて選択される。
次に、本発明に係る圧電/電歪膜型センサの各構成要素の材料について、上記した圧電/電歪膜型センサ20を例にして説明する。
セラミック基体1に使用される材料は、耐熱性、化学的安定性、絶縁性を有する材質が好ましい。これは、下部電極4、圧電/電歪体5、上部電極6を一体化する際に、熱処理する場合があること、及び、圧電/電歪膜型センサが液体の特性をセンシングする場合、その液体が導電性や、腐食性を有する場合があるためである。好ましく使用可能な材料としては、安定化された酸化ジルコニウム、部分的に安定化された酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、ムライト、窒化アルミニウム、窒化珪素及びガラス等を例示することが出来る。これらのうち、安定化された酸化ジルコニウム及び部分的に安定化された酸化ジルコニウムは、薄肉ダイヤフラム部を極薄く形成した場合にも機械的強度を高く保てること、靭性に優れること等から、最も好適である。
圧電/電歪体5の材料としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含有し、圧電/電歪効果を示す材料であれば、何れの材料でもよい。条件を満たす好適な材料として、(Bi0.5Na0.5)TiO3若しくはこれを主成分とする材料、又は、(1−x)(Bi0.5Na0.5)TiO3−xKNbO3(xはモル分率で0≦x≦0.06)若しくはこれを主成分とする材料が挙げられる。
結合層の材料としては、圧電/電歪体5とセラミック基体1の双方と密着性、結合性が高い、有機材料又は無機材料を使用することが出来る。使用する材料は、その熱膨張係数が、セラミック基体1の材料の熱膨張係数、及び、圧電/電歪体5に用いられる材料の熱膨張係数の中間の値を有するものであることが、信頼性の高い結合性を得るために、好ましい。圧電/電歪体5が熱処理される場合には、圧電/電歪体5の熱処理温度以上の軟化点を有するガラス材料が好適に用いられる。圧電/電歪体5とセラミック基体1を強固に結合せしめ、軟化点が高いために熱処理による変形が抑制されるからである。更に、圧電/電歪体5が、上記に挙げた2つの好適材料で構成される場合には、結合層の材料としては、(1−x)(Bi0.5Na0.5)TiO3−xKNbO3(xはモル分率で0.08≦x≦0.5)を主成分とするものを採用することが好ましい。圧電/電歪体5とセラミック基体1の双方との密着性が高く、熱処理の際の圧電/電歪体5及びセラミック基体1への悪影響を抑制出来るからである。即ち、圧電/電歪体5と同様の成分を有することから、圧電/電歪体5との密着性が高く、又、ガラスを用いた場合に生じ得る異種元素の拡散による問題が少なく、更に、KNbO3を多く含むことから、セラミック基体1との反応性が高く、強固な結合が可能となる。加えて、(1−x)(Bi0.5Na0.5)TiO3−xKNbO3(xはモル分率で0.08≦x≦0.5)は、圧電/電歪特性を殆ど示さないので、使用時に下部電極4と補助電極8に生じる電界に対し、変位を発生しないため、安定したセンサ特性を得ることが可能である。
各電極の材料については、端子電極が銀又はこれを主成分とする導電材料、補助電極及び上部電極が金又はこれを主成分とする導電材料、下部電極が白金又はこれを主成分とする導電材料、がそれぞれ採用される。
次に、本発明に係る圧電/電歪膜型センサの製造方法について、上記した圧電/電歪膜型センサ20を製造する場合を例にして説明する。
(工程1.セラミック基体の作製)セラミック基体1は、グリーンシート積層法によって作製することが出来る。具体的には、既述のセラミック材料を主成分とする、所定枚数のセラミックグリーンシートを用意し、パンチとダイとを備える打抜加工機を用いて、得られたセラミックグリーンシートのうちの必要枚数に、積層後に空洞10になる所定形状の孔部を開け、他の必要枚数に、積層後に貫通孔9になる所定形状の孔部を開ける。そして、のちに薄肉ダイヤフラム部3を構成するセラミックグリーンシート、空洞10になる孔部を開けたセラミックグリーンシート、貫通孔9になる孔部を開けたセラミックグリーンシート、の順に積層しグリーン積層体を得て、それを焼成することによって、セラミック基体1が得られる。セラミックグリーンシートの一枚の厚さは、既述の薄肉ダイヤフラム部3を構成するものを除いて、100〜300μm程度とする。
セラミックグリーンシートは、従来知られたセラミック製造方法によって作製することが出来る。一例を挙げると、所望のセラミック材料の粉末を用意し、これにバインダ、溶剤、分散剤、可塑剤等を望む組成に調合してスラリーを作製し、これを脱泡処理後、ドクターブレード法、リバースロールコーター法、リバースドクターロールコーター法等のシート成形法によって、セラミックグリーンシートを得ることが可能である。
(工程2.下部電極の形成)膜状の下部電極4は、公知の各種の膜形成手法による膜形成、乾燥、焼成を経て、セラミック基体1の薄肉ダイヤフラム部3の外表面上に形成される。具体的には、膜形成手法として、イオンビーム、スパッタリング、真空蒸着、CVD、イオンプレーティング、メッキ等の薄膜形成手法や、スクリーン印刷、スプレー、ディッピング等の厚膜形成手法が、適宜、選択される。特に、スパッタリング法及びスクリーン印刷法が、好適に選択される。乾燥は、50〜150℃で行われる。焼成は、1100〜1300℃で行い、焼成時間は、1〜2時間程度である。
(工程3.結合層の形成)結合層7の形成には、通常の厚膜手法が用いられ、特にスタンピング法、スクリーン印刷法、あるいは、形成すべき部分の大きさが数十μm〜数100μm程度の場合には、インクジェット法が好適に用いられる。結合層7の熱処理が必要な場合には、次の圧電/電歪体5の形成前に熱処理されてもよいし、圧電/電歪体5の形成後、同時に熱処理されてもよい。
(工程4.圧電/電歪体の形成)膜状の圧電/電歪体5は、下部電極4と同様に、公知の各種膜形成法により膜形成され、焼成を経て、形成される。膜形成手法としては、低コストの観点から、スクリーン印刷が好適に用いられる。膜厚は、100μm以下が好ましく、更に、変位量を大きくする(即ち特性を上げる)ためには、50μm以下が好適であり、より好ましい膜厚は5〜20μmである。これにより形成された圧電/電歪体5は、焼成時に、先に形成した下部電極4及び結合層7と、一体化される。焼成の温度は、900〜1400℃程度であり、焼成時間は、2〜50時間程度である。高温時に圧電/電歪体5が不安定にならないように、圧電/電歪材料の蒸発源とともに雰囲気制御を行いながら、焼成を行うことが好ましい。
(工程5.端子電極の形成)上部電極6のための端子電極19、及び下部電極4のための端子電極18は、下部電極4と同様の膜形成法により膜形成され、乾燥、焼成を経て、形成される。端子電極18は、焼成の際に、下部電極4及び圧電/電歪体5と接合され、一体構造とされる。
(工程6.上部電極の形成)上部電極6は、下部電極4と同様の膜形成法により膜形成され、乾燥、焼成を経て、形成される。焼成は、500〜900℃で行い、焼成時間は、1〜2時間程度である。
この上部電極の形成工程において、先に形成した端子電極18,19の主成分(銀)が、熱によって拡散され、先に形成した圧電/電歪体5の表面近傍に含有される。図4及び図5は、本発明に係る圧電/電歪膜型センサの一の実施形態を示す図である。図4は、走査型電子顕微鏡により圧電/電歪体の表面を示す写真である。図5は、X線マイクロアナライザ(EPMA、Electron Probe Micro Analyzer)により圧電/電歪体の表面を示す写真であり、圧電/電歪体に端子電極の材料である銀が拡散している様子を表している。尚、EPMAによる写真では、青、緑、黄、朱、赤の順に、徐々に対象物質が多くなる(存在する)ことを表している(青が最も少なく、赤が最も多い)。端子電極の形成(焼成を含む)の後に、上部電極の形成(焼成を含む)をすることによって、図5に示されるように、圧電/電歪体5の表面近傍に端子電極18,19の材料である銀を含有させることが可能である。銀は、厚さ方向の極表層に存在させることが好ましく、スパッタ等でも形成する(存在させる)ことは可能であるが、より薄く、極表層に容易に且つ均一に拡散出来る点、絶縁を保持したまま抵抗を微小に下げることが可能な点で、熱による拡散が好ましい。尚、圧電/電歪体5の膜厚を5〜20μmとした実施例において、銀の拡散は2μm以下の状態であり、良好な特性が得られたことが確認されている。
又、上記焼成温度の調整によって、あるいは、端子電極を形成するために使用する材料に含まれる主成分(銀)の含有量を調整することによって、得られる圧電/電歪膜型センサ20の圧電/電歪体5の表面近傍に含有される端子電極の主成分(銀)の量を調節することが出来る。
(工程7.補助電極の形成)補助電極8は、上部電極6と同様の膜形成法により膜形成され、乾燥、焼成を経て、形成される。補助電極8は、焼成の際に、上部電極6、圧電/電歪体5、及び端子電極19と接合され、一体構造とされる。
以上のようにして圧電/電歪素子12が得られるが、圧電/電歪素子12は、別途、それのみを作製した後に、セラミック基体1に貼り付けてもよく、セラミック基体1の上に、直接、形成してもよい。
尚、端子電極18,19の形成工程で焼成を行い、上部電極6の形成工程で焼成を行う限り、下部電極4、結合層7、圧電/電歪体5、及び端子電極18,19は、上述したような、それぞれを形成の都度、焼成(熱処理)する他、それぞれを、順次、膜形成し、一括して同時に焼成(熱処理)してもよい。又、上部電極6及び補助電極8も、それぞれを形成の都度、焼成(熱処理)する他、それぞれを、順次、膜形成し、一括して同時に焼成(熱処理)してもよい。これらの際、良好な接合性を実現するために、温度が適切に選ばれることはいうまでもない。
以上の工程によって、セラミック基体1及び圧電/電歪素子12を備えた圧電/電歪膜型センサ20が、構造上は完成する。
(工程8.分極)圧電/電歪膜型センサ20の圧電/電歪素子12における上部電極6と下部電極4との間に、直流高電圧(一例としてDC300Vの電圧)をかけて、分極処理を行う。
(工程9.変位測定)0〜200V、1kHzの交流正弦波電圧を印加し、レーザードップラー振動計を使用して、分極処理を施した圧電/電歪膜型センサ20の圧電/電歪素子12の変位測定を行う。
(工程10.UVシート貼付)圧電/電歪膜型センサ20は、通常、多数個取りで製造される。この場合、圧電/電歪膜型センサ20の圧電/電歪素子12とは反対側の面に、固定手段としてUVシートを貼付し、所定の場所に固定する。
(工程11.外形切断)多数個取りの場合に、前工程までは、分断せずに行われるが、ここで、ダイサーを使用して切断し、個々の圧電/電歪膜型センサ20を得る。
(工程12.選別)良品のみを選別すべく、工程9で変位が基準値以下となったものは、不良品として除外する。
(工程13.加熱処理)外形切断は、通常、水洗浄しながら行われるので、水分を排除すべく、良品に対し、加熱処理を施し、乾燥させる。温度条件は、60℃以上900℃以下である。この工程における温度調整によっても、得られる圧電/電歪膜型センサ20の圧電/電歪体5の表面近傍に含有される端子電極の主成分(銀)の量を調節することが可能である。
この最後の加熱処理、及びそれ以前に行われる焼成、を含む複数回の加熱処理によって、圧電/電歪体5に含有されるアルカリ金属又はアルカリ土類金属が、空気中の硫黄又は電極の材料に含有され焼成後に残留する硫黄と反応し、硫化物が圧電/電歪体の表面近傍に生成され、そこに含有される。圧電/電歪体5が(Bi0.5Na0.5)TiO3の場合には、圧電/電歪体5の表面近傍にはナトリウムと硫黄の化合物が含有されることになる。このこと及び既述の端子電極の主成分を含有させることを併せることによって、圧電/電歪膜型センサ20が、本発明に係る圧電/電歪膜型センサとなる。
図6〜図9は、本発明に係る圧電/電歪膜型センサの一の実施形態を示す図である。図6は、走査型電子顕微鏡により圧電/電歪体の表面を示す写真である。図7及び図8は、X線マイクロアナライザ(EPMA、Electron Probe Micro Analyzer)により圧電/電歪体の表面を示す写真であり、そのうち図7は、圧電/電歪体にナトリウムが存在している様子を表すものであり、図8は、圧電/電歪体に硫黄が存在している様子を表すものである。尚、既述のように、EPMAによる写真では、青、緑、黄、朱、赤の順に、徐々に対象物質が多くなる(存在する)ことを表している(青が最も少なく、赤が最も多い)。又、図9は、走査型電子顕微鏡により圧電/電歪体の表面を示す写真であり、圧電/電歪体に硫化物であるナトリウムと硫黄の化合物が含有されている(存在している)様子を示している。図9において、黒点となって現われている部分が、ナトリウムと硫黄の化合物である。圧電/電歪体の材料としてアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含有するものを用い、作製完成するまでに加熱処理(焼成を含む)を行うことによって、図6〜図9に示されるように、圧電/電歪体5の表面近傍に硫化物であるナトリウムと硫黄の化合物を含有させることが可能である。
尚、焼成及び最後の加熱処理における温度調整によって、あるいは、圧電/電歪体の材料に含まれるアルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量を調整することによって、得られる圧電/電歪膜型センサ20の圧電/電歪体5の表面近傍に含有される硫化物(ナトリウムと硫黄の化合物)の量を調節することが出来る。ナトリウム(Na)と硫黄(S)の化合物の組成は、Na/S(比)が0.5〜2の範囲となることが好ましい。又、ナトリウムと硫黄の化合物の大きさ及び形状は、表面からの投影形状が100〜500nmの円形又は楕円形であることが好ましい、更に、ナトリウムと硫黄の化合物は、圧電粒子の粒界又は粒上に存在し、粒上に存在する場合は稜部ではなく斜面部に存在させることが好ましい。これら好ましい態様によれば、高湿下で絶縁破壊等の発生がなく、特性を満たすことが可能である。
(工程14.外観検査)最後に外観の検査を行い、その後、出荷となる。
次に、本発明に係る圧電/電歪膜型センサの用途について説明する。本発明に係る圧電/電歪膜型センサは、流体特性測定装置を構成するセンサとして用いることが出来る。流体特性測定装置は、本発明に係る圧電/電歪膜型センサと、この圧電/電歪膜型センサの圧電/電歪素子を駆動させるべく上部電極と下部電極の間に電圧を印加するための電源と、圧電/電歪膜型センサの薄肉ダイヤフラム部の振動に伴う電気的定数の変化を検出するための電気的定数監視手段と、で構成することが出来る。
流体特性測定装置は、電気的定数監視手段による電気的定数の検出によって流体の特性を測定することが可能な装置である。流体中において、圧電/電歪膜型センサにおいて圧電/電歪素子を駆動させて薄肉ダイヤフラム部を振動させると、流体の粘性抵抗によって機械的抵抗を受けて、その機械的抵抗と一定の関係において圧電/電歪素子の電気的定数が変化するので、それを検出して、流体の粘度を測定することが出来る。
この流体特性測定装置の、流体の特性を測定する上での基本的原理は、振動子である圧電/電歪素子及び薄肉ダイヤフラム部の振幅と、この振動子に接触する流体の特性とに相関性があることを利用したものである。流体の特性が粘性抵抗である場合、その流体の粘性抵抗が大きいと振動子の振幅は小さくなり、粘性抵抗が小さくなれば振動子の振幅は大きくなる。そして、振動子の振動のような機械系における振動形態は、電気系の等価回路に置き換えることが出来、この場合、振幅は電流と対応すると考えればよいことになる。又、等価回路の振動状態は、共振点近傍で種々の電気的定数の変化を示すが、流体特性測定装置は、これら損失係数、位相、抵抗、リアクタンス、コンダクタンス、サセプタンス、インダクタンス及びキャパシタンス等の電気的定数のうち、等価回路の共振周波数近傍での変化が極大又は極小の変化点を1つもつ損失係数又は位相を好ましく指標として用いるものである。損失係数又は位相の検知は、他の電気的定数の場合と比較して、より容易に行うことが可能である。
勿論、流体の特性が粘性抵抗以外の場合(例えば流体の圧力(いうまでもなく流体の有無))においても、振動子の振動に対して影響を及ぼす要素が特性を測定すべき流体に存在すれば、その特性を、圧電/電歪素子及び薄肉ダイヤフラム部の振動の変化に関連させることによって、測定することが出来る。流体が溶液であって、その溶液の濃度が変化することにより、粘度ないし密度が変化すれば、溶液中における圧電/電歪素子及び薄肉ダイヤフラム部の振動形態が変化するため、溶液濃度の測定を行うことが可能である。即ち、本発明に係る流体特性測定装置は、溶液の粘度測定、密度測定、濃度測定を行うことが出来る。
本発明に係る圧電/電歪膜型センサが流体の特性を測定することが出来ることを応用して、流体の流れ状態、流体の存在の有無を判断することが可能である。例えば測定対象である流体が存在しなければ、振動子(圧電/電歪素子及び薄肉ダイヤフラム部)の振幅変化は如実なものとなり、これを検知することは容易である。具体的には、本発明に係る圧電/電歪膜型センサは、医療用の点滴装置の点滴状態を監視することを含み、あらゆる液体の送液あるいは輸液の状態を、即ち、液が(計画通り)流れているか否かを、監視する計器のセンサとして、好適に利用することが出来る(点滴に関する従来技術につき、特許文献5及び特許文献6を参照)。
薬液が入ったボトルと、チューブと、薬液の滴下が目視出来るドリップチャンバと、注射針とからなる点滴装置において、ボトル、チューブ、ドリップチャンバの何れかに(必要なら複数個所に)、本発明に係る圧電/電歪膜型センサを取り付け、それによって検出された流体の流れ状態や流体の存在の有無(電気的定数の変化)の情報を入力して、演算、表示、通信等を行う制御監視装置を設けることにより、点滴管理装置を構築することが出来る。演算には制御監視装置に備わるタイマーに基づく点滴終了時刻の予測や予定時間経過に伴う異常検知等が含まれ、表示対象には流量等のデータ及び警報等が含まれ、通信には看護士(ナース)ステーションへの出力等が含まれる。この点滴管理装置を医療用の点滴装置に適用することによって、患者を安心させ、看護士及び看護者の負担を軽減することが可能である。