JP4804827B2 - 経皮性薬剤配送装置及び経皮性薬剤配送装置用針装置の製造方法 - Google Patents

経皮性薬剤配送装置及び経皮性薬剤配送装置用針装置の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、薬剤を皮下に供給する経皮性薬剤配送装置及び該装置に用いる針装置の製造方法に関する。本発明は、医療用薬剤,医薬部外薬剤あるいは化粧用薬剤を皮下に配送(供給)するための装置、及び皮下への栄養供給装置,医療検査装置に利用可能である。
皮膚を経由して、薬剤を皮下に配送(供給)する装置として従来利用されている技術は、注射器による皮下注射、あるいは、点滴である。折損しない程度に十分な強度をもつ金属製の注射針を皮膚に刺し、皮下組織にまで達した針先端から薬剤を体内に注入する。
上記注射器等による従来方法には、皮膚を針で刺すときの痛みに加え、頻繁な使用によって皮膚組織が硬化するという短所がある。また、皮膚の表皮層または真皮層が薬剤配送のターゲットである場合には、注射針を皮膚の表面から数百μmの深さに限定して刺入することが困難であるため、期待どおりの薬剤配送効果が得られない。
また皮膚の表面に軟膏等の薬剤を塗布する方法では、角質層によって薬剤の皮下への浸透が遮断される。このため、十分な量の薬剤が,表皮層や真皮層に供給されない。
皮下注射や薬剤塗布とは異なる従来手法に、イオントフォレーシスとエレクトロポレーションがある(非特許文献1参照)。
上記イオントフォレーシスは、水溶液中で荷電した薬物を皮膚の表面に供給し、同時に、皮膚に電極を接触させて通電を行うことによって、皮下に能動的に薬物を浸透させる経皮性薬剤配送方法である。この方法では、表皮層や真皮層への薬物の吸収効率は改善されるものの、皮膚に通電するため、過電流や長期使用による皮膚刺激や皮膚障害という健康上の問題が起こり得る。
また上記エレクトロポレーションは、数百ボルトの高電圧を短時間印加することによって皮膚に形成された可逆的な微細孔を通して、薬物を皮下に導入する経皮性薬剤配送方法である。この場合も、イオントフォレーシスと同様に、通電による皮膚刺激、皮膚障害が起こり得るという問題がある。
これら従来の技術における問題を克服する経皮性薬剤配送装置として、マイクロマシン製造技術を応用して作製されるマイクロ針アレイを用いるものがある(非特許文献2参照)
上記薬剤配送装置は、多くの場合、半導体結晶または金属を材料に用いて作製される。針先端を球とすると、その直径は数μm以下、針の長さは、10〜100μm程度を最短長として自由に設計可能である。皮膚の角質層と表皮層には神経組織が存在しないので、このような微細針を表皮層に刺しても、痛みはまったく感じない。一定面積内に林立した多数の針アレイの表面に薬剤を塗布する等して、表皮層または真皮層に薬剤を供給することができる。
しかしながら,これらのマイクロ針には軽視できない欠点がある。微細針は非常に細いため、皮膚への侵入時に折損し、破片が皮膚に残留する可能性がある。半導体や金属のような無機材料が皮膚に残留することは、一般に、人体の健康上有害である。また、針が折損しなかったとしても、使用後に廃棄するためには、特別な設備やプロセスが必要となる。即ち、廃棄にコストがかかる。
無機材料による微細針薬剤配送装置の問題点を克服し、安全で廃棄の容易な経皮性薬剤配送システムを実現する方法として、生体適合な材料を用いた微細針が考えられる(特許文献1参照)。
上記従来技術では、天然糖を材料とする微細針による薬剤配送装置が提案されている。この手法では、薬物と糖の混合物を材料として微細針が作製される。針を皮膚に刺入し、針部だけを折損して皮膚に残留させる。針部の主成分は糖であり、これは体液によって自発的に加水分解する。このとき、薬物が皮膚に放出される。天然糖は人体に安全で、水溶性であるために廃棄も容易である。
皮膚の測定・評価マニュアル集,技術情報協会,2003年,335 〜341 ページ)。 Annual Review of Biomedical Engineering, Vol.2, pp.289−313, 2000 )。 特開2003−238347号公報
しかしながら、上記従来公報に記載された技術には、次のような決定的な問題点がある。糖は粘性が高く、流動性に乏しいために、針形状への整形や針アレイの形成が容易ではない。即ち、製造歩留まりや製造スループットが低く、製造コストが著しく高い。また、針材料への薬物の混入時に、糖の流動性を確保するためには、糖材料を100°C程度にまで加熱しなければならず、熱によって薬物が変性しやすい。更には、糖と化学反応して薬剤としての機能を失う物質は、針に混入することができない。こうして、利用可能な薬物の種類が限定される。
本発明は、従来の経皮性薬剤配送システムに存在する問題点を克服し、人体に無痛、安全で、廃棄が容易であり、利用可能な薬物の限定が少なく、かつ、製造が容易で製造コストの安価な経皮性薬剤配送装置及び経皮性薬剤配送装置の製造方法を提供することを課題としている。
請求項1の発明は、下端に開口を有するシリンダ内に、ポリエチレングリコールを材料として作製された1本又は複数本の微細針を線状又は面状をなすように基板上に配列するとともに、該基板の反微細針側に操作棒を接続してなる針装置が、上記開口から上記微細針を下方に出没可能に、かつ没入方向に付勢して配置され、
上記シリンダの内面に、上記針装置の没入位置を規制するストッパが形成され、
上記シリンダと上記没入位置にある基板とで形成された薬剤貯留室内に薬剤が充填され、上記シリンダの上記開口を皮膚に当接させた状態で上記微細針を下方に突出させしかる後に没入させると、上記薬剤貯留室内の薬剤が上記突出時に形成された上記基板とストッパとの隙間から流下し、上記微細針の没入時に、上記流下した薬剤が上記皮膚に形成された微細孔を介して皮下に供給されることを特徴とする経皮性薬剤配送装置である。
請求項2の発明は、請求項1において、上記ポリエチレングリコールは分子量が1000以上であることを特徴としている。
請求項3の発明は、請求項1又は2において、上記微細針は、円錐形をなし、基底部分の直径は針長の2/3又はそれ以下であることを特徴としている。
請求項の発明は、請求項1ないしの何れかに記載の針装置の製造方法であって、上記微細針の反転形状を有する金型と、平坦な下面にポリエチレングリコール膜が一様な厚さに塗布形成されたプラスチック製基板とを準備し、上記金型を所定温度に加熱し、上記基板を上記ポリエチレングリコール膜が金型に押圧されるように押し付け、該金型を冷却した後、上記基板を金型から分離させることを特徴としている。
ここで本発明における金型として、例えば単結晶シリコンからなるものが採用可能である。
本発明では、ポリエチレングリコールを材料に用いて微細針を作製する。ポリエチレングリコールの融点は、分子量に依存するが、一般に、50°C程度で溶融して流動的となり、粘性が低く、糖と比べて加工が非常に容易であるために、微細針の製造コストが低下する。特に、剣山のように、微細針を面内に分布させて形成するのが、糖材料に比べて非常に容易である。またポリエチレングリコールは低温での加工性が良好なので、薬剤を混入する場合でも薬剤の熱変性は軽微である。
薬剤を混入することなくポリエチレングリコールだけで微細針を作製し、針を皮膚に刺入して直ちに抜き取ることにより、皮膚に可逆的微細孔を形成する。この微細孔上に薬剤を塗布するか、あるいは、さらに微弱電場または圧力を加え、微細孔を通して薬剤を皮下に導入すると、微細孔のない角質上部に塗布するよりも、薬物の吸収効率が顕著に向上する。
また微細孔を通して薬剤を導入する方法であるため、薬剤を針に混入する場合に比べて、利用可能な薬剤に対する限定が大幅に緩和される。
ポリエチレングリコールは、医薬品または化粧品の軟膏基剤として広く利用されており、人体に安全であることが確認されている。またポリエチレングリコールは体液と反応して自発的に溶解するので、長期間、皮膚層に残留することはない。従って仮に針が折損して皮膚に残留しても、健康上、問題はない。さらにポリエチレングリコールは水、および、アルコールのいずれにも溶解するため、使用後の廃棄は容易である。
ポリエチレングリコールは、分子量が増加するにつれて、融点が高くなる。室温で固体とするためには、分子量が1000以上であることが望ましい。また50°C以上の高温環境でも保存できるようにしたい場合には、分子量が4000以上のポリエチレングリコールを用いる。
以下本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
本実施形態に係る経皮性薬剤配送装置は、ポリエチレングリコールを材料として作製された1本又は複数本の微細針を線状又は面状をなすように基板上に配列してなる針装置を備えている。
この針装置を構成する各微細針の形状は、例えば円錐型であり、その針長は、薬剤を導入したい皮膚の深さに相当するように設計される。例えば薬剤の導入を表皮層に限定する場合には、針長は200μm以下とされる。一方、真皮層に導入する場合には、200μm以上とされる。
また微細針の基底部分の断面形状は円となるが、その直径は針長の2/3またはそれ以下とされる。また針間ピッチは、針長と同じかまたはそれ以上とされる。
図1〜図3に基づいて、上記針装置を製造する場合の具体的な手順の一例を説明する。ただし、本発明における微細針アレイを有する針装置の製造プロセスは、この作製方法に限定されるものではない。
図1は、剣山のように、一定面積の面内に微細針が多数配列された微細針アレイを製造するための金型を示す。この金型1は、例えば単結晶シリコン基板からなり、微細針の反転形状を有する凹部1aが多数形成されている。なお、微細針の反転形状を単結晶シリコン基板に形成するには、既に広範に利用されている半導体シリコン集積回路製造技術、または単結晶シリコンを用いたマイクロマシンを製造するための既存の技術を用いればよい。
上記金型1には、より具体的には、面積が1cm2 の正方形面内に、1mmピッチで100本の微細針の反転形状が形成されている。この場合、針長は200μm、針基底部断面の直径は100μmである。
図2は、上記微細針アレイが形成されるプラスチック製治具2を示す。この治具2は、上部が取手として利用できるように加工された基板2aを有する。この基板2aの下面は、面積1cm2 の正方形面を内包する平面となるように作製されている。この基板2aの下面には、分子量1000以上のポリエチレングリコールを一様の厚さで塗布してなる膜3が形成されている。この膜3の厚さは、針長の2倍かまたはそれ以上の厚さとされている。
図3は上記金型1と治具2とを使用して針装置を作成する場合の工程の一例を示す。この例では、分子量2000のポリエチレングリコールを用いて、200μm長の針100本からなる微細針アレイを作製する。
まず上記金型1をポリエチレングリコールが流動的となる温度、例えば55°Cに加熱し、図2に例示した治具2を金型1に押し付ける(図3(a))。治具2を金型1に押し付けたたままで該金型1を冷却する(図3(b))。金型1の温度が40°C以下になったら、治具2からはみ出たポリエチレングリコールを取り除き、治具2を引き上げる(図3(c))。こうして、面積が1cm2 の正方形面内に、1mmピッチで配列された100本の微細針3aを備えた針装置2′が得られる。
次に、本発明による経皮性薬剤配送方法の具体例を図4(a)〜(c)に基づいて説明する。
まず上記200μmの微細針を備えた針装置2′を、通常の圧力で、皮膚4に押し付ける(図4(a))。ここで4aは角質層、4bは表皮層、4cは真皮層である。
続いて針装置2′を引き上げて微細針を皮膚4から抜く。すると皮膚4に表皮層4bに達する微細孔5が一時的に形成される(図4(b))。このようにして形成された微細孔5の上部に薬剤6を供給し、該微細孔5を通して薬剤6を皮下に浸透させる(図4(c))。なお、上記微細孔5上に薬剤を塗布してもよい。また薬剤供給時に、陽極と陰極の電極を皮膚4に当て、通常のイオントフォレーシスよりも微弱な電場を印加して、薬剤の浸透を促進することができる。
なお、上記薬剤配送中に、上記微細針3aが折損して皮膚に残留しても、この微細針3aは体液と反応して自己溶解するので、健康上、問題はない。しかし残留した針によって微細孔5が塞がるという問題は生じる。この問題を回避したい場合には、ポリエチレングリコールに薬剤を適当量混入させた材料を用いて微細針を作製すればよい。
このように本実施形態では、ポリエチレングリコールを材料に用いて微細針3aを作製したので、加工が容易で製造コストを低減できる。そしてこの微細針3aの製造に当たって、本実施形態では、微細針3aの反転形状の凹部1aを有する金型1を所定温度に加熱するとともにこれにポリエチレングリコール膜を押し付けるようにしたので、より一層製造コストを低減できる。
即ち、ポリエチレングリコールの融点は、分子量に依存するが、一般に、50°C程度で溶融して流動的となり、粘性が低く、糖と比べて加工が非常に容易である。その結果、微細針3aの製造コストが低下する。特に、剣山のように、微細針を面内に分布させて形成するのが、糖材料に比べて非常に容易である。またポリエチレングリコールは低温での加工性が良好なので、薬剤を混入する場合でも薬剤の熱変性は軽微である。
また本実施形態では、薬剤を混入することなくポリエチレングリコールだけで微細針3aを作製し、この微細針3aを皮膚に刺入して直ちに抜き取ることにより、皮膚に可逆的な微細孔5を形成し、微細孔5上に薬剤を供給するようにしたので、微細孔のない角質上部に塗布するよりも、薬剤の吸収効率を顕著に向上させることができる。さらに微弱電場または圧力を加えた場合には、薬剤を微細孔を通してより一層効率的に皮下に供給することができる。
図5は、図4で説明した経皮性薬剤配送方法を簡単な操作で実行できるようにした経皮性薬剤配送装置の具体例を示す。この薬剤配送装置7は、円筒状で下端が開口したシリンダ8と、該シリンダ8内に上下動可能に配設された上述の針装置2′とを備えている。この針装置2′は、微細針3aがシリンダ8の下端面8cから下方に突出可能に配置され、かつばね9により内方に没入するよう付勢されている。なお、8aは針装置2′の没入位置を規制するストッパである。
そして上記シリンダ8と針装置2′で囲まれた空間は薬剤貯留室8aとなっており、該貯留室8aには薬剤6が充填されている。なお11は薬剤を上記貯留室8a内に注入する薬剤注入口である。
また上記針装置2′には操作棒10がシリンダ上方に突出するように配設されており、該操作棒10を押し込むと上記微細針3aが下方に突出し、操作力を緩めると内方に没入するようになっている。
上記薬剤配送装置7を皮膚上に配置し、針装置2′に操作棒10を介して指で通常の圧力を加える。すると針装置2′が下方に移動し、微細針3aが皮膚に刺入する。このとき、針装置2′の基板2aはストッパー8aから離れ、薬剤が皮膚上部に供給される。操作棒10に圧力を加えるのを止めると、微細針3aはばね9の復元力によって皮膚から離れ、皮膚に微細孔が形成される。この微細孔を通して、薬剤は皮下に浸透する。なお、シリンダの下面に電極を取り付けると、微弱電場によってイオントフォレーシスと同等な効果を得ることができる。
このように本実施形態装置7を用いた場合には、操作棒10に指で通常の力を加えて、しかる後に元に戻すだけで、微細孔5の形成と、薬剤6の供給を行なうことができ、非常に簡単な操作で経皮性薬剤配送を実現できる。
本発明の一実施形態に係る経皮性薬剤配送装置の微細針を成形するための金型の模式断面図である。 上記微細針を成形するための治具の模式断面図である。 上記針装置の製造工程を説明するための模式工程図である。 上記針装置を用いた経皮性薬剤配送方法を説明するための模式工程図である。 本発明の他の実施形態に係る経皮性薬剤配送装置の模式断面図である。
符号の説明
1 金型
2 治具
2a 基板
2′ 針装置
2a 基板
3 ポリエチレングリコール膜
3a 微細針
4 皮膚
4b 表皮層
4c 真皮層
5 微細孔
6 薬剤
7 経皮性薬剤配送装置
8 シリンダ
8b 薬剤貯留空間

Claims (4)

  1. 下端に開口を有するシリンダ内に、ポリエチレングリコールを材料として作製された1本又は複数本の微細針を線状又は面状をなすように基板上に配列するとともに、該基板の反微細針側に操作棒を接続してなる針装置が、上記開口から上記微細針を下方に出没可能に、かつ没入方向に付勢して配置され、
    上記シリンダの内面に、上記針装置の没入位置を規制するストッパが形成され、
    上記シリンダと上記没入位置にある基板とで形成された薬剤貯留室内に薬剤が充填され、
    上記シリンダの上記開口を皮膚に当接させた状態で上記微細針を下方に突出させしかる後に没入させると、上記薬剤貯留室内の薬剤が上記突出時に形成された上記基板とストッパとの隙間から流下し、上記微細針の没入時に、上記流下した薬剤が上記皮膚に形成された微細孔を介して皮下に供給される
    ことを特徴とする経皮性薬剤配送装置。
  2. 請求項1において、上記ポリエチレングリコールは分子量が1000以上であることを特徴とする経皮性薬剤配送装置。
  3. 請求項1又は2において、上記微細針は、円錐形をなし、基底部分の直径は針長の2/3又はそれ以下であることを特徴とする経皮性薬剤配送装置。
  4. 請求項1ないしの何れかに記載の微細針の製造方法であって、上記微細針の反転形状を有する金型と、平坦な下面にポリエチレングリコール膜が一様な厚さに塗布形成されたプラスチック製基板とを準備し、上記金型を所定温度に加熱し、上記基板を上記ポリエチレングリコール膜が金型に押圧されるように押し付け、該金型を冷却した後、上記基板を金型から分離させることを特徴とする経皮性薬剤配送装置用針装置の製造方法。
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