JP4800544B2 - 腫瘍治療用の全身性遺伝子送達運搬体 - Google Patents

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Description

【0001】
発明の分野
本発明は、修飾された(遺伝子操作されたまたは増殖因子が操作された)および非修飾の幹細胞(SCs)による、細胞および分子治療の分野に関する。より詳細には、本発明は、固形器官の原型で、非造血幹細胞である、神経幹細胞(NSCs)を用いて、中枢神経系(CNS)ならびに頭蓋内/髄腔内および頭蓋外/髄腔外の両部位における他の腫瘍の、全身性治療の方法に関する。
【0002】
発明の背景
転移性腫瘍は、特に、そこで複数の場所を占める可能性がある神経系中への、侵襲性腫瘍細胞の広範囲な浸潤および散布の故に、あらゆる治療アプローチに対する最も困難な挑戦になっている。いくらかの腫瘍塊の90%以上の根絶が、手術とその後の放射線療法によって達成可能であるが、浸潤性で転移性の細胞が排除されていなければ、数ヶ月以内にきまって再発が起こる。
【0003】
転移性細胞を標的し、そして破壊するために、多くのアプローチが示唆されてきた。可能性のある1つの方法は、脳腫瘍内の現場にレトロウイルスベクターを送達するために、レトロウイルスパッケージング細胞を用いる細胞仲介ベクター送達による[Shortら,J.Neurosci.Res.27,427−439,1990;Culverら,Science 256,1550−52,1992;総説についてはKrammら,Brain Pathol.5,345−381,1995を参照されたい]。しかし大部分の研究では、これらのパッケージング細胞は、脳内へ移動しない繊維芽細胞由来である。繊維芽細胞の他に、神経膠腫細胞[Tamuraら,Hum Gene Ther 8,381−9,1997]および内皮細胞[Lalら,Proc Natl Acad Sci USA 91,9695−9,1994;Ojeifoら,Cancer Res 55,2240−44,1995]も、腫瘍中をくまなく移動するための運搬体として使われてきた。運搬体として神経膠腫細胞を使用することの主要な短所は、それら自身が腫瘍形成性で、そのため腫瘍負荷の一因となりうる点である。内皮細胞は、神経膠腫内を移動可能で、非腫瘍形成性であるが、転移性腫瘍細胞を標的するため、主要腫瘍塊を越えて移動したり、遠方源からの腫瘍へ「入り込む(ホームイン)」ことは、観察されていない[Ojeifoら,Cancer Res 55,2240−44,1995;Lalら,Proc Natl Acad Sci USA 91]。
【0004】
細胞が、腫瘍形成をせずに、腫瘍内および転移に向かって高い移動能をもつための必要条件は、神経幹細胞(NSCs)により理想的に充たされる。NSCsは、一連のより分化した神経系の細胞を生じる、未熟な不確定の細胞である。それらは、自己再生するための、(全部ではないにしろ)大部分のニューロンおよびグリア系統の細胞へ分化する、および多様な解剖学的および発生的情況において発生中および/または退行中の中枢神経系(CNS)領域に集合する能力により定義される。NSCsのクローンは、培養により増殖され、そして哺乳動物の脳に再移植したところ、そこでそれらは、適切に再組込みし、外来遺伝子を安定して発現することが示された。治療用手段としてのNSCsの最も初期の使用の1つは、リソソーム蓄積疾患ムコ多糖症VII型のモデルを矯正するために、新生児マウスの脳全体に欠落遺伝子産物βグルクロニダーゼを送達したことである[Snyderら,Nature,3月 1995]。予備的な研究において、NSCsは、損傷脳領域へ向かって移動し、そして外因性遺伝子を発現し続けることも観察されている[SnyderおよびMacklis,Clin Neurosci 3,310−16,1996]。
【0005】
NSC生物学の大部分の初期研究は、げっ歯類NSCsで実施されたが、それらの明白な臨床的可能性のため、次第に関心がヒトNSCsに集中するようになった[BlackおよびLoeffler(編).CANCER OF THE NERVOUS SYSTEM.Blackwell Scientific Inc,ボストン,1996,349−61ページ;Flatら,Nature Biotech.11,1998;Brustle O.ら,Nature Biotech.11,1040−49,1998]。その結果、神経および幹細胞のいくつかのヒト細胞系が、ヒト胎児終脳から単離され、培養で増殖され、lacZレポーター遺伝子でトランスフェクトされ、そしてクローン化された。ヒトNSCsは、脳全体いたるところに移動し、ニューロンおよびグリアに分化し、およびネズミ脳に移植後、神経構造中へ組込み、レポーター遺伝子を発現することが、証明された[Flatら,Nature Biotech.11,1998]。
【0006】
脳内腫瘍、脳外腫瘍からの脳転移、または他の器官へ転移する他の脳外腫瘍へ、治療剤を送達するための、安全、効率的かつ便利なシステムをもつことが望ましい。
発明の要約
本発明は、幹細胞、例えば神経幹細胞(NSCs)が、腫瘍のいたるところへ移動し、浸襲性および/または転移性腫瘍細胞を追跡し、および全身的に、例えば血管内ルートを介して、投与された場合、血液脳関門を通過して脳中の腫瘍細胞に到達できるという、驚くべき知見に基づく。槽内、鞘内、および脳室内ルートを介して脳脊髄液(CSF)中へ投与された幹細胞は、同様に神経系実質中へ入ることが可能である。
【0007】
本発明者らは、修飾された(遺伝子操作されたまたは増殖因子が操作された)または非修飾のNSCsが、末梢血管を通じて送達された場合、転移性腫瘍細胞を含む腫瘍細胞を、頭蓋内および頭蓋外の両方で標的するという、さらに驚くべき発見をした。
【0008】
本発明は、腫瘍に罹患した個人に対し、修飾または非修飾の幹細胞、より好ましくは神経幹細胞または神経系統になるように指令された幹細胞を投与することにより、腫瘍を治療する方法を提供する。
【0009】
本発明は、周囲の組織への危害を最少にしながら、腫瘍自体を攻撃するだけでなく、転移性細胞をも攻撃し、殺すための方法を提供する。
1つの態様で、本発明は、それを必要とする個人の腫瘍を治療する方法であって、(a)当該腫瘍(神経系の内外における)へ移動し、治療効果を発揮可能な、複数の修飾または非修飾の幹細胞(SCs)を提供すること;そして(b)当該個人に前記SCsを送達し、それによって少なくとも1つの治療剤を当該腫瘍に利用可能にすること、を含む前記方法を提供する。好ましい態様では、前記幹細胞は全身的に投与される。最も好ましい態様では、前記全身的投与は血管内に実施される。適用によっては、前記幹細胞はCSFを介して投与してもよい。
【0010】
本発明の方法では、SCsは、成体の、生後の、胎児の、または胚性の(ヒトを含む)哺乳動物固形組織または器官またはそれらの発生中の前駆体から、得ることが可能である。適切な固形器官および組織の例は、非限定的に例えば、肝臓、膵臓、脾臓、腎臓、甲状腺、下垂体、虫垂、扁桃、腸、肺、腸会合リンパ様組織、粘膜会合リンパ様組織、舌、粘膜組織、副腎、胸腺、ニューロン組織、中枢神経系組織、脊髄、視床下部、破骨細胞および造骨細胞を含む骨、間充織、筋芽細胞・筋細胞・随伴細胞などを含む筋肉、および胚の内部細胞塊、を含む。好ましくは、当該SCsは、神経幹細胞(NSCs)または神経系統になるように指令された幹細胞である。
【0011】
腫瘍は、頭蓋内/髄腔内腫瘍、頭蓋外/髄腔外腫瘍からの頭蓋内/髄腔内転移、または他の神経外系腫瘍であってもよい。
1つの態様で、本発明は、修飾された幹細胞を提供する。本明細書で用いられる場合、「修飾された」は、治療恩典を付与する物質を送達する、または発現するように、当該細胞が、遺伝子導入され(transfected)、形質導入され(transduced)、またはその他の遺伝子操作をされることを意味する。当該物質は、好ましくは核酸によりコードされる。当該核酸は、好ましくはベクター内に含まれる。ウイルスベクターが好ましい。1つの態様で、例えば、当該物質は、非毒性化合物を治療効果を発揮する毒性化合物へ変換することができる酵素である。しかし、前記修飾は遺伝的修飾に限定されるわけではなく、SCsを処理するのに、増殖因子またはタンパク質を使用してもよい。さらに、非修飾SCsは、腫瘍に対する治療に有用な治療作用物質を本来発現する。
【0012】
治療物質は、a)細胞傷害性遺伝子産物の播種、b)新生細胞の分化を直接促進する因子類の発現、c)抗血管新生物質の放出、およびd)腫瘍のいたるところにウイルスベクター・コード治療性遺伝子産物のより有効な送達(例えば、自殺遺伝子、プロアポトーシス遺伝子、トロフィン受容体):をもたらすものを非限定的に含む。
【0013】
もう1つの態様で、本発明は、それを必要とする個人の腫瘍を治療する方法であって、シトシンデアミナーゼを産生するようにトランスフェクトされた幹細胞を含む調製物を提供し、当該幹細胞調製物を血管内に注射することを含む、前記方法を提供する。当該幹細胞が腫瘍細胞へ移動するのに十分な時間の後、5−フルオロシトシンを投与すると、それを幹細胞が、腫瘍細胞の存在下で有毒な5−フルオロウラシルへ変換して、腫瘍細胞を殺す。
【0014】
もう1つの態様では、腫瘍の全身的治療用のキットが提供されるが、そのキットは、移植用に整えられた凍結SCsまたは細胞で、当該SCsが、腫瘍に対して治療効果を発揮するように、修飾および/または決定済みで、当該腫瘍へ移動可能なもののバイアル、当該SCsを懸濁するための薬剤級溶液の容器、および注射器、を含む。
【0015】
発明の詳細な説明
本発明は、幹細胞、例えば神経幹細胞(NSCs)が、腫瘍のいたるところへ移動し、転移性腫瘍細胞を追跡し、そして静脈内に投与された場合、脳内の腫瘍細胞に到達するために血液脳関門を通過できるという、驚くべき知見に基づく。本発明者らは、修飾された(遺伝子操作された)NSCsを含むNSCsが、末梢血管を通じて送達された場合、転移性腫瘍細胞を含む腫瘍を、頭蓋内および頭蓋外の両方で標的するという、さらに驚くべき発見をした。
【0016】
本発明は、神経系の内部または外部のいずれでも腫瘍に罹患した個人に対し、修飾または非修飾の幹細胞、例えば、神経幹細胞を投与することにより、腫瘍を治療するための方法を提供する。
【0017】
本発明の送達方法は、腫瘍内へのウイルスの直接注射に比べて、多くの長所をもつ。例えば、前記修飾幹細胞により運ばれるウイルスは、下記のように当該細胞が、転移性腫瘍細胞に向かって移動できるように、ある遅滞の後に活性化されることが可能である。また、SCs中の治療用遺伝子は、作用すべきでない領域を保護しながら、問題の領域または細胞タイプへ当該遺伝子の発現を「制限投入する」ために、組織特異的プロモーターにより駆動されることが可能である。
【0018】
本発明に従って有用な幹細胞は、侵入細胞を「追い詰める」ため、腫瘍を通り、腫瘍/実質境界を越え、そして脳組織を移動できる細胞、または全身的入口点から神経系の内部および外部に存在する腫瘍に「入り込む」ことができる細胞、を含む。今日まで、これらは、一次脳腫瘍のみならず、脳内にまたは側腹部に移植された神経芽細胞腫、黒色腫、および前立腺癌までも含んでいた。それらはまた、脳へを含め、転移するあらゆる腫瘍細胞タイプを含むはずである。これらの幹細胞は、Snyderによる記載のように調製可能である[Snyderら,Cell 68,33−51,1992;Snyder,The Neuroscientist 4,408−25,1998]。本発明に従って有用な幹細胞の他の例は、非限定的に、神経または胚性幹細胞、HSN−1細胞、ブタ胎仔または他の異種向性細胞、神経冠細胞、骨髄由来幹細胞、筋幹細胞およびhNT細胞、を含む。本発明に従って有用なHSN−1細胞は、例えばRonnettら,Science 248,603−605,1990に記載のように、調製可能である。神経冠細胞の調製は、米国特許第5,654,183号に記載されている。本発明に従って有用なhNT細胞は、例えば、Konubuら,Cell Transplant 7,549−558,1998に記載のように、調製可能である。
【0019】
本発明に従う幹細胞は、腫瘍細胞の増殖を破壊するか阻害するために使用することができる物質を送達するように修飾してもよい。そうした物質は、毒素についての遺伝子をコードするベクター;プロドラッグ;シトシンデアミナーゼ(CD)のような酵素;TNP−470、血小板因子4、トロンボスポンジン−1、メタロプロテアーゼの組織阻害剤(TIMP1およびTIMP2)、プロラクチン(16−Kd断片)、アンギオスタチン(プラスミノーゲンの38−Kd断片)、エンドスタチン、bFGF可溶性受容体、VEGF可溶性受容体、サイトカインのような血管新生阻害剤;増殖因子およびそれらの阻害剤;インターロイキン(IL),IL−1,IL−2,IL−3,IL−4,IL−5,IL−6,IL−7,IL−8,IL−10,およびIL−11;組織壊死因子(TNF)TNFαおよびTNFβ;リンフォトキシン(LT);インターフェロン(IFN)IFNα,IFNβおよびIFNγ;組織増殖因子(TGF);コロニー刺激因子(CSFs);および神経増殖因子(NGF)、を非限定的に含む。好ましい態様では、当該幹細胞は、無毒の5−フルオロシトシン(5−FC)を有毒な5−フルオロウリジン(5−FU)へ変換する、シトシンデアミナーゼを送達するようにつくられる。
【0020】
例えば、下記の実施例は、CD/5−FCプロドラッグ事例で実験腫瘍モデルにおけるサイズ縮小を示しており、NSCsは、生体内で(in vivo)生理活性導入遺伝子を発現し、顕著な抗腫瘍結果をもたらすことができた。5−FUは、その有毒代謝産物によって分裂細胞に選択的毒性を示す化学療法剤で、CDに印象的な「傍観者」効果を与え、周囲の腫瘍細胞中へ容易に拡散できる。CDを発現する腫瘍塊の僅か2%で、5−FCに応答して顕著な抗腫瘍作用を発揮可能である[Huberら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91,8302−06,1994]。
【0021】
本発明の幹細胞を修飾するのに有用なベクターは、(a)アデノウイルスベクター;(b)レトロウイルスベクター;(c)アデノ随伴ウイルスベクター;(d)単純ヘルペスウイルスベクター;(e)SV40ベクター;(f)ポリオーマウイルスベクター;(g)パピローマウイルスベクター;(h)ピカルノウイルスベクター;(i)ワクシニアウイルスベクター;(j)ヘルパー依存性またはガットレスアデノウイルス;および(k)レンチウイルスまたはHIV由来ベクター、を非限定的に含む。1つの好ましい態様では、当該ウイルスは単純ヘルペス1型ウイルス(HSV−1)である。好ましい態様では、当該ベクターは、リボヌクレオチドレダクターゼ活性を欠くようにつくられた複製依存性HSV−1ベクターである。
【0022】
幹細胞を、腫瘍を治療するように意図された所望の物質を制御可能に発現するようにつくることも可能である。そうした制御発現系は、薬剤/ホルモン誘導性プロモーター、例えば、テトラサイクリン[GossenおよびBujard,Nucl Acids Res 21,4411−2,1993]、ラパマイシン[Riveraら,Nat Med 2,1028−32,1996]、およびグルココルチコイド誘導性プロモーター[LuおよびFederoff,Hum Gene Ther 6,419−28,1995];テトラサイクリン サイレンサー システム[Freundliebら,J Gene Med.1,4−12,1999],特に「ピッギーバック」HSV−1送達システムと組合わせて[Pechanら,Hum Gene Ther 7,2003−13,1996];および組織特異的プロモーター、を非限定的に含む。
【0023】
1つの態様では、複製依存性HSV−1ベクターは、リボヌクレオチドレダクターゼ(RR)の外部発現による制御を当該ベクターが受け易くするため、HSV−1ベクターのRR遺伝子を決失させることにより、産生する。
【0024】
移植の際のウイルス複製による送達細胞の破壊を避けるために、ウイルスベクターによる遺伝子の発現の調節が望ましい。遅い発現により、ウイルスベクターで感染された細胞のより十分な移動が可能になる。送達細胞の自己破壊を避け、幹細胞が可能性のある転移腫瘍細胞へ到着できるようにするためには、当該細胞の注射後、発現を1から6日間、好ましくは3日間遅らせることが、好ましい。ウイルスベクター中で誘導性システムを用いる場合、当該ウイルスベクターで感染された幹細胞の未熟死をもたらす可能性がある残存ウイルス複製を阻止するために、フルオフ(full−off)ベースライン発現を達成することが重要である。
【0025】
1つの態様では、本発明は、前記RR酵素を欠くようにエンジニアリングされ、それにより、外部で産生されたRRの欠乏下では複製不能にするHSV−1ベクターで感染された幹細胞、好ましくは神経幹細胞、を提供する。HSV−1ベクターは分裂細胞中でのみ複製できるので、ウイルス複製は、細胞分裂を調節することにより調節可能である。
【0026】
複製条件付きHSV−1RR-ベクター複製の制御は、例えば、感染前に担体細胞の増殖を停止させることにより達成可能である。例えば、薬剤のミモシン(mimosine)を使って、神経幹細胞の増殖を集密(コンフルエンシー;confluency)時に遮断し、それによってウイルス複製を阻止することが可能である。ミモシンは、細胞周期をG1後期で停止させることに加えて、細胞性RR酵素も阻害する。生体内(in vivo)で感染細胞にミモシンを添加すると、ウイルス複製が完全に停止するが、ミモシンの除去後には回復する。細胞分裂およびウイルス複製のミモシン遮断は、少なくとも13日間までは処理時に可逆的である。
【0027】
もう1つの態様で、ウイルス複製遮断として、ガンシクロビル(ganciclovir;GCV)およびミモシンの共処理を用いてもよい。GCV処理後、神経幹細胞は、ニューロンに分化し、当該ウイルスを潜伏状態で宿す。GCVおよびミモシンを排除後、複製条件付きHSV−1RR-の静止状態のウイルスゲノムが複製周期へ再エントリーするには、当該細胞は高レベルのRRが必要である。あるいは、HSV−1再活性化に重要なことが知られている前初期ウイルスタンパク質ICPOまたはICP4を、停止ウイルス複製の再活性化に使用可能である[Zhuら,J Virol 64,4489−98,1990]。さらに、ICP4およびCIP27のようなウイルス複製タンパク質を、薬剤/ホルモン誘導性プロモーターの制御下に置くことも可能である。
【0028】
追加の遺伝子を、複製依存性ベクター中へ挿入することも可能である。非限定的な例はCYP2B1遺伝子で、それはプロドラッグのシクロホスファミドおよびイフォスファミド(ifosfamide)の生物活性化に関与する。一度当該パッケージング細胞が適切な部位へ移動すれば、腫瘍細胞崩壊性作用を起すために、適正なプロドラッグの投与が可能である。同様に、テストされたベクターの必ずしもすべての成分が必要とは考えられない。ベクター構成物は、組織学的な追跡を可能にするためのマーカー遺伝子を追加的に含んでもよい。そのようなマーカーは、lacZまたは緑色蛍光タンパク質GFPのような蛍光タンパク質をコードする遺伝子を含むが、それらに限定されない。他の機能をもつ遺伝子が含まれてもよい。
【0029】
本発明に従って、幹細胞は、薬剤的に許容できる担体中で全身的に、個人に投与される。好ましい態様では、当該幹細胞は、静脈内を含む、血管内に投与される。当該幹細胞は、CSF(脳脊髄液)内または骨内注射を用いて投与してもよい。本発明の腫瘍治療法は、手術、化学療法、放射線療法あるいは他の遺伝子治療さえも含むような在来の治療手段と組合わせてもよい。当該細胞は、他の治療の前、最中、後のいずれでも個人に投与可能である。
【0030】
本発明の実行には、当該技術分野内の、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換えDNAおよび免疫学の既成技術を、特に指定しない限り、使用するものとする。そうした技術は文献に記載されている。[例えば、MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL,第2版、Sambrook, FritschおよびManiatis編、Cold Spring Harbor Laboratory Press.1989;DNA CLONING:IおよびII巻, D.N.Glover編,1985;OLIGONUCLEOTIDE SYNTHESIS, M.J.Gait編,1984;Mullisら,米国特許第4,683,195号;NUCLEIC ACID HYBRIDIZATION,B.D.HamesおよびS.J.Higgins編,1984;TRANSCRIPTION AND TRANSLATION, B.D.HamesおよびS.J.Higgins編,1984;CULTURE OF ANIMAL CELLS, R.I.Freshney編,Alan R.Liss,Inc.,1987;IMMOBILIZED CELLS AND ENZYMES,IRL Press,1986;PRACTICAL GUIDE TO MOLECULAR CLONING,B.Perbal,1984;GENE TRANSFER VECTORS FOR MAMMALIAN CELLS,J.H.MillerおよびM.P.Calos編,Cold Spring Harbor Laboratory,1987;METHODS IN ENZYMOLOGY;154および155巻,Wuら編;IMMUNOCHEMICAL METHODS IN CELL AND MOLECULAR BIOLOGY,MayerおよびWalker編,Academic Press,ロンドン,1987;HANDBOOK OF EXPERIMENTAL IMMUNOLOGY;I−IV巻,D.M.WeirおよびC.C.Blackwell編,1986;MANIPULATING THE MOUSE EMBRYO,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,ニューヨーク,1986、を参照されたい]。
【0031】
本明細書を通じて引用された参考文献は、それら全部が本明細書に援用される。本発明は、以下の実施例および特許請求の範囲により、さらに例証される。当該実施例は、本発明の理解を助けるために提供されており、それを制限するものと解釈してはならない。
【0032】
【実施例】
実施例1. CD発現NSCsは頭蓋内神経膠腫に対して向性を保持する
ヒトおよびネズミ両方の数種のNSC系に、それらが移動性の、腫瘍追跡性質を保持しているかどうかを明らかにするため、細菌性プロドラッグ活性化酵素シトシンデアミナーゼ(CD)をコードする導入遺伝子を形質導入した。0日目に、成体CD−1マウスは、上記のように、右前頭葉中へCNS−1細胞(2μl PBS中に8x104個)を、左前頭葉中へネズミまたはヒトCD−NSCs(2μl PBS中に8x104個)を、定位固定的に誘導注射された。動物は、シクロスポリン(10μg/g)の注射を毎日受け、7日目に屠殺された。CD遺伝子導入ドナーNSCsは、脳梁を横切って移動し、成体ネズミの腫瘍へ浸潤した。
【0033】
図1Aおよび1Bに示すように、ヒトCD−NSCsは、注射後7日目に反対側半球の腫瘍にくまなく分布が見られた。これらのデータは、治療用生理活性剤(CD)を発現するように修飾されたネズミおよびヒト両NSCsが、非修飾NSCsと同様な移動の仕方で行動する;すなわち、治療用遺伝子の設置がそれらの移動能力を鈍らせない、という前提を、裏付けている。
【0034】
ヒトNSCsが真のヒト神経膠芽腫を同様に標的にできることは、ヌードマウス大脳に定着したHGL21由来腫瘍(ヒトGBM)の反対側に、一次ヒトNSCsが移植された図1C、1Dおよび1Eで、示唆される。やはりヒトNSCsは、一方の半球から他方へ移動し、神経膠芽腫に群がった。
【0035】
実施例2. +CD発現NSCsは試験管内で(in vitro)抗腫瘍作用を発揮する
本実験は、修飾CD−NSCsが腫瘍細胞に対し治療を有効に送達し、十分な抗腫瘍応答をもたらせるかどうかを、決定するために実施した。20万個のCNS−1神経膠腫細胞を10cmペトリ皿で培養した。翌日(1日目)培地を交換し、5万または10万個のCD−NSCsを追加した。2日目、培地を交換し、5−FC(500μg/ml)を添加した。対照皿は、5−FC処理をしない腫瘍−NSC共培養皿および5−FC処理をした腫瘍細胞のみの皿、を含んだ。3日後、すべてのプレートを1xPBSでよくすすぎ、4%パラホルムアルデヒドで室温で10分間固定した。プレートは、X−gal(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトシド)で37℃一晩染色してNSCsを可視化し、そしてニュートラルレッドで対比染色して腫瘍細胞を可視化した。高倍率下で視野当りの腫瘍細胞の数を計数した。腫瘍細胞総数は、1プレート当りランダムな20視野から平均した。誤差バーは平均値の標準誤差を表す。
【0036】
これらの細胞培養研究は、プロドラッグ5−FCに被曝させた場合、周囲の脳腫瘍細胞に対してCD−NSCsの顕著な腫瘍細胞崩壊性作用を示した。治療効果について原理の証明を提供するため、NSCsは酵素CDをコードする導入遺伝子で安定的に形質導入した。CDは、無毒のプロドラッグ5−FCを、腫瘍細胞中へ容易に拡散し、急速に分裂する細胞に選択的な毒性をもつ化学治療剤、腫瘍細胞崩壊性薬剤5−フルオロウラシル、へ変換する。
【0037】
当該CD遺伝子は、腫瘍の近接により亢進される可能性がある機能性(腫瘍細胞崩壊性作用)の、適切で特定の定量可能な読取りにより、原型的生理活性遺伝子を調べるための機会を提供した。CD保有NSCsは、まず神経膠腫細胞と共培養し、そしてほぼ集密したところで(図2A)、5−FCに被曝させた。NSCs対腫瘍細胞の比が1:4と低い場合でさえも、周囲の腫瘍細胞の死が誘導された(図2B)。5−FC被曝の際に分裂中あったNSCsは、自己消去した。腫瘍のみの対照プレートは、同用量の5−FCにより、有意には殺滅されなかった。
【0038】
実施例3. +CD発現NSCsは生体内で(in vivo)抗腫瘍作用を発揮する
0日目に、成体ヌードマウスは、CNS−1神経膠芽腫のみ(2μl PBSに中7x104個)、またはCD−NSCsと混合したCNS−1細胞(2μl PBS中に7x104個のCNS−1および3.5x104個のNSCs)を、右前頭葉中へ定位固定的に誘導注射された。2日後、処理動物は、10日間にわたり900mg/kgの5−FCの腹膜内注射を10回受けた。対照動物は5−FCを受けなかった。動物は13日目に屠殺された。
【0039】
図3Aから3Dに示すように、CD−NSCsおよび腫瘍細胞の移植物を受け、続いて5−FCで処理された動物は、無処理の動物に比較して、腫瘍塊の顕著な縮小を示した。
【0040】
実施例4. 大脳内腫瘍移植および全身NSC投与
本発明者らは、神経幹細胞の静脈内注射が、実験的大脳内腫瘍を標的する細胞となるかどうかを決定するため、次の実験を行った:2μl PBS中に1x105個のCNS−1神経膠腫細胞を、成体ヌードマウスの右前頭葉に移植した。7日後、腫瘍が十分定着してから、200μl PBS中の2x106個の神経幹細胞(C17.2)を尾静脈に注射した。当該NSCsは4日間与え分布させ(潜在的に血管から出て、前記実験腫瘍実質中へ移動する、すなわち、潜在的に血管・腫瘍関門を通過する)、その後で、当該マウスを過量麻酔で屠殺した。脳、肝臓、腎臓、脾臓、および心臓を採取し、4%パラホルムアルデヒド中で一晩、後固定し、次いで30%スクロース中で凍結防止した。10ミクロン連続クリオスタット切片を集めた。
【0041】
脳組織切片は、当該実験頭蓋内腫瘍内のドナーNSC分布を調べるため、X−galおよびニュートラルレッドで染色した。X−gal染色は、青色のNSCsが腫瘍塊のいたるところに分布するが、周囲の正常に見える脳組織には分布しないことを、明らかにした。βガラクトシダーゼに対する抗体(ドナーNSCs腫瘍を同定するため)および腫瘍特異的抗原による二重免疫蛍光染色も、当該腫瘍内のドナー由来細胞の存在を別途確認するために、実施した。そのβ−gal抗体免疫蛍光染色は、当該NSCsは腫瘍中に見られるが、周囲の組織には見られないという、X−gal結果を確かにした。このような染色は、NSC注射がない場合、または腫瘍がない場合にNSC注射された動物には、認められなかった。また、腫瘍でなく、運搬体だけを注射してもこれらの知見は得られなかった。
【0042】
実施例5. 大脳外腫瘍移植および全身NSC投与
本発明者らは、神経幹細胞の静脈内注射が、大脳外腫瘍の標的化に帰するかどうかを決定するため、次の実験を行った。成体ヌードマウスの側腹部に、300μl PBS中の3−4x106個のCNS−1ネズミ神経膠腫またはSH−SY5Yヒト神経芽細胞腫細胞を、皮下に移植した。3週間後、腫瘍は十分に定着した。次に、200μl PBS中の2−3x106個の神経幹細胞を尾静脈に注射した。当該神経幹細胞は、lacZ+ネズミNSCs(C17.2)またはシトシンデアミナーゼをレトロウイルスにより形質導入され、プロマイシンで選択されたlacZ+ネズミNSCs(C17.2CD)である。当該NSCsは、4日間循環させ、潜在的に血管から遠く離れて、前記実験腫瘍中へ移動すると思われる。
【0043】
尾静脈NSC投与後4日目に、当該動物を過量麻酔で屠殺した。腫瘍塊、肝臓、腎臓、脾臓、心臓および脳を採取し、4%パラホルムアルデヒド中で一晩、後固定し、次いで30%スクロース中で凍結防止した。10ミクロン連続クリオスタット切片を集めた。
【0044】
腫瘍組織切片は、当該実験皮下腫瘍塊内のドナーNSCを調べるため、X−galおよびニュートラルレッドで染色した。定着した皮下SH−SY5Yヒト神経芽細胞腫をもつマウスの尾静脈中にC17.2.CD細胞を注射後4日で、X−gal染色は、NSCsが当該腫瘍塊のいたるところに分布し、周囲の組織には分布しないことを、明らかにした。定着した皮下CNS−1ラット神経膠腫をもつマウスの尾静脈中にC17.2細胞を注射後、X−gal染色は、NSCsが当該腫瘍塊のいたるところに分布し、周囲の組織には分布しないことを、示した。
【0045】
βガラクトシダーゼに対する抗体(NSCsを同定するため)による免疫蛍光染色を、ドナー由来細胞の存在を別途確認するために、実施した。そのβ−gal抗体免疫蛍光染色は、当該NSCsが腫瘍中に見られるという、X−gal結果を確かにした。β−gal染色は、NSC注射がない場合、または腫瘍がない場合にNSC注射された動物には、認められなかった。NSCsでなく、運搬体だけを当該腫瘍中へ注射しても、これらの知見は得られなかった。本実施例で、非NSCsの注射は、血管を離れ、腫瘍のいたるところに分布するような細胞を供給しなかった。
【0046】
これらの知見から、本発明者らは、NSCsはβ−galの安定な遺伝子導入を維持したこと、そしてNSCsは血管内投与後、頭蓋外/髄腔外腫瘍を標的したこと(すなわち、腫瘍へ浸潤するため関係血管から移動する)、を結論する。これらの細胞は、ベースラインを越えて当該腫瘍をさらに拡大することはない。
【0047】
本実施例は、ネズミ神経膠腫(CNS−1/GFP)、ヒト神経膠腫(HGL−21,U87,U251)およびヒト神経芽細胞腫(SH−SY5Y)を非限定的に含む、異なる神経実験腫瘍についても反復された。腫瘍細胞は、受容動物の側腹部に都合よく皮下注射される;しかし、当業者に知られる他の注射場所および方法を、所望すれば使用可能である。さまざまな幹細胞系、好ましくは、ネズミNSCsまたはヒトNSCsを非限定的に含む、神経幹細胞が使用可能である。NSCsは、当該動物の尾静脈中へ都合よく注射される。
【0048】
実施例6. 血管内に送達されたCD−NSCsは頭蓋外腫瘍に向性を示す
実施例5におけるように、シトシンデアミナーゼ形質導入NSCsの静脈内注射を、頭蓋外腫瘍を標的するのに使用したが、NSC注射後、僅か30分で当該腫瘍を採取した。成体ヌードマウスの側腹部に、300μl PBS中の4−5x106個のSH−SY5Yヒト神経芽細胞腫細胞を、左および右側腹部に皮下移植した。3週間後、両側の腫瘍は十分定着した。この時点で、当該動物を麻酔し、左腫瘍塊を外科的に除去し、そして皮膚を閉鎖した。次いで、200μl PBS中の2−3x106個のNSCsを尾静脈に注射した。当該NSCsは、シトシンデアミナーゼでレトロウイルスにより形質導入され、プロマイシンで選択されたlacZ+ネズミNSCs(C17.2CD)であった。当該NSCsは循環するため30分間が与えられた。当該動物を過量麻酔で屠殺し、右側腹腫瘍塊を外科的に除去した。採取した器官は、肝臓、腎臓、脾臓、心臓および脳を含むが、それらは、両腫瘍塊とともに、4%パラホルムアルデヒド中で一晩、後固定し、次いで30%スクロース中で凍結防止した。10ミクロン連続クリオスタット切片を、組織学的分析用に集めた。
【0049】
腫瘍組織切片は、当該実験皮下腫瘍塊内のドナーNSC分布を調べるため、X−galおよびニュートラルレッドで染色した。定着した右皮下SH−SY5Yヒト神経芽細胞腫をもつマウスの尾静脈中にC17.2.CD NSCを注射後30分で、X−gal染色は、当該腫瘍塊の外側部分に沿うすべてのところでドナーNSCsを明らかにし、周囲の正常に見える組織には存在しないことを示した(図6B,D−G)。そうした染色は、NSC注射の直前に除去された左SH−SY5Y腫瘍塊には、観察されなかった(図6Aおよび6C)。ドナー由来細胞の存在を別途確認するために、βガラクトシダーゼに対する抗体(NSCsを同定するため)による免疫蛍光染色も実施した。
【0050】
実施例7. 非神経頭蓋外腫瘍の全身NSC治療
神経幹細胞の静脈内注射が、非神経頭蓋外腫瘍の標的化に帰するかどうかを決定するため、実施例5におけるように、成体ヌードマウスの側腹部に、200μl PBS中の10−12x106個のヒト黒色腫(SKBE)細胞を皮下に移植した。2週間後、2−4x106個のシトシンデアミナーゼ形質導入C17.CD2ネズミNSCsを、尾静脈へ都合よく静脈注射した。当該NSCsは30分間循環させ、次いで窒息により動物屠殺した。腫瘍塊、肝臓、腎臓、脾臓、心臓および脳を採取し、4%パラホルムアルデヒド中で一晩、後固定し、次いで30%スクロース中で凍結防止した。10ミクロン連続クリオスタット切片を集めた。腫瘍切片は、当該実験腫瘍内にドナーNSCsを同定するため、X−galおよびニュートラルレッドで染色した。定着した皮下黒色腫をもつマウスの尾静脈中にC17.CD2細胞を注射後、実施例5および6におけるように、X−gal染色は、NSCsが当該腫瘍塊のいたるところに分布することを明らにした。
【0051】
βガラクトシダーゼに対する抗体(NSCsを同定するため)による免疫蛍光染色を、ドナー由来細胞の存在を別途確認するために、実施した。そのβ−gal抗体免疫蛍光染色は、当該NSCsが腫瘍中に見られるという、X−gal結果を確かにした。β−gal染色は、NSC注射がない場合には、認められなかった。また、NSCsでなく、運搬体だけを当該腫瘍中へ注射しても、これらの知見は得られなかった。
【0052】
これらの知見から、本発明者らは、全身的に投与されたNSCsが安定な遺伝子導入を維持したこと、そしてNSCsは血管内投与後、非神経全身性腫瘍を標的したこと、を結論する。非神経腫瘍のにおいてさえも、注射されたNSCsは、当該腫瘍容積を拡大することなく、腫瘍実質へ浸潤するため、腫瘍血管から出て移動した。
【0053】
本実施例は、ヒト前立腺癌を非限定的に含む、異なる非神経実験腫瘍(転移を形成する傾向があるものとないものの両者)について反復される。実施例5におけるように、腫瘍細胞は、受容動物の側腹部に都合よく皮下注射されるが、他の注射場所および方法も、所望すれば使用される。さまざまな幹細胞系、好ましくは、ネズミNSCsまたはヒトNSCsを非限定的に含む、神経幹細胞が使用可能である。NSCsは、当該動物の尾静脈中へ都合よく注射される。
【0054】
実施例8. 非神経頭蓋外腫瘍の全身NSC治療
神経幹細胞の静脈内注射が、非神経頭蓋外腫瘍の標的化に帰するかどうかを決定するため、実施例5におけるように、成体ヌードマウスの側腹部に、200μl PBS中の10−12x106個のヒト前立腺癌腫(PC3)細胞を皮下に移植した。2週間後、1x105個のシトシンデアミナーゼ形質導入C17.CD2ネズミNSCsを、当該皮下腫瘍中へ直接都合よく注射した。当該NSCsは3日間分配させ、次いで過剰麻酔により動物屠殺した。腫瘍塊、肝臓、腎臓、脾臓、心臓および脳を採取し、4%パラホルムアルデヒド中で一晩、後固定し、次いで30%スクロース中で凍結防止した。10ミクロン連続クリオスタット切片を集めた。
【0055】
腫瘍切片は、当該実験腫瘍内にドナーNSCsを同定するため、X−galおよびニュートラルレッドで染色した。ヌードマウスの定着した皮下前立腺癌腫側腹部腫瘍中にC17.CD2細胞を直接注射後、実施例5、6および7におけるように、X−gal染色は、NSCsが当該腫瘍塊のいたるところに分布することを明らかにした。
【0056】
β−ガラクトシダーゼに対する抗体(NSCsを同定するため)による免疫蛍光染色を、ドナー由来細胞の存在を別途確認するために、実施した。そのβ−gal抗体免疫蛍光染色は、当該NSCsが腫瘍中に見られるという、X−galの結果を確かにした。実施例5、6および7におけるように、β−gal染色は、NSC注射がない場合には、認められず、また、NSCsでなく、運搬体だけを当該腫瘍中へ注射しても、これらの知見は得られなかった。
【0057】
これらの知見から、本発明者らは、末梢皮下側腹部腫瘍中へ直接注射されたNSCsが安定な遺伝子導入を維持したこと、そしてNSCsは、当該腫瘍容積を拡大することなく腫瘍実質へ浸潤し、非神経腫瘍に広くくまなく分布したこと、を結論する。本実施例は、ヒト黒色腫を非限定的に含む、異なる非神経実験腫瘍(転移を形成する傾向があるものとないものの両者)について反復される。腫瘍細胞およびNSCsは、受容動物の側腹部に都合よく皮下注射されるが、他の注射場所および方法も、所望すれば使用される。さまざまな幹細胞系、好ましくは、ネズミNSCsまたはヒトNSCsを非限定的に含む、神経幹細胞が使用可能である。
【0058】
実施例9. 頭蓋外腫瘍の全身NSC治療
神経幹細胞の静脈内注射が、非神経頭蓋外腫瘍の標的化に帰するかどうかを決定するため、実施例5−8におけるように、成体ヌードマウスの側腹部に、200μl PBS中の2−5x106個のヒト神経芽細胞腫(SH−SY5Y)細胞を皮下に移植した。3週間後、1−2x106個のシトシンデアミナーゼ形質導入C17.CD2ネズミNSCsを、当該尾静脈中へ都合よく静脈注射した。当該NSCsは3日間循環させ、次いで過剰麻酔により動物屠殺した。腫瘍塊、肝臓、腎臓、脾臓、心臓および脳を採取し、4%パラホルムアルデヒド中で一晩、後固定し、次いで30%スクロース中で凍結防止した。10ミクロン連続クリオスタット切片を集めた。
【0059】
腫瘍切片は、当該実験腫瘍内のドナーNSCsを同定するため、X−galおよびニュートラルレッドで染色した。ヌードマウスの定着した皮下ヒト神経芽細胞腫側腹部腫瘍中にC17.CD2細胞を直接注射後、実施例5−8におけるように、X−gal染色は、NSCsが当該腫瘍塊のいたるところに分布することを明らかにした。
【0060】
シトシンデアミナーゼに対する抗体(NSCsを同定するため)による西洋ワサビペルオキシダーゼ−ジアミノベンチジン染色を、ドナー由来細胞の存在を別途確認するために、実施した。そのシトシンデアミナーゼ染色は、当該NSCsが腫瘍中に認められ、そして腫瘍血管内に見られ、実質中へ出ているという、X−gal結果を確かにした。実施例5、6、7および8におけるように、β−gal染色は、NSC注射がない場合には、認められず、また、NSCsでなく、運搬体だけを当該腫瘍中へ注射しても、これらの知見は得られなかった。
【0061】
これらの知見から、本発明者らは、皮下側腹部腫瘍をもつヌードマウスの末梢尾静脈中へ血管内注射されたNSCsが安定な遺伝子導入を維持したこと、そしてNSCsは、当該腫瘍容積を拡大することなく腫瘍実質へ浸潤し、非神経腫瘍に広くくまなく分布したこと、を結論する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1Aおよび1Bは、シトシンデアミナーゼ(CD)を形質導入されたNSCsが、LacZ発現NSCsの腫瘍追跡特徴を保有することを示す。CNS−1神経膠腫細胞およびCDを形質導入されたNSCsを、成体CD−1マウスの相対する半球に移植し、7日後に屠殺した。組織切片は、脳の他方の側から横切って移動するのに成功し、主要腫瘍塊(やじりによる輪郭)のいたるところに分布する、CD形質導入ヒトNSCs(矢印を参照)の高倍率像を示す。切片は、ヒト特異的核分裂抗体(NSCs暗褐色)およびニュートラルレッド(腫瘍細胞暗赤色)で共染色した。スケールバー:図1A:20mmおよび図1B:15mm。
図1C,1Dおよび1Eは、成体ヌードマウスの相対する半球に移植されたヒトHGL21神経芽細胞腫細胞およびhNSCsを示す。次第に倍率を高めて撮影した切片で、ニュートラルレッド染色腫瘍(やじりによる輪郭)が、反対側から移動したlacZ発現hNSCs(Xgal+青色)と混合している。スケールバー:図1C:60mm;図1D:30mm;および図1E:15mm。ヒトおよびネズミ両CD−NSCsは、実験頭蓋内神経膠腫に対する向性に関して、非形質導入NSCsと同様な移動特徴を示した。
【図2】 図2Aから2Eは、試験管内(in vitro)でのCD発現NSCsの顕著な抗腫瘍作用を示す。CNS−1神経芽細胞腫細胞を、ネズミCD−NSCs(図2Aおよび2B)またはヒトCD−NSCs(図2Cおよび2D)と共培養した。無処理の細胞共培養は実質的に集密性であった(図2Aおよび2C);一方、5−FCが添加されたプレートは腫瘍細胞に顕著な減少を示した(図2Bおよび2D)。この処理状態では、NSCsがまだ分裂していたので、5−FUおよびその有毒代謝産物による排除も受けた。図2Eの棒グラフは高倍率視野当りの腫瘍細胞の平均数を示す。無処理培養に比べて、処理CD−NSC共培養の顕著な減少に注目されたい(SEM誤差バー上に星印)。一定数、例えば200,000の腫瘍細胞と50,000または100,000のCD−NSCsとを共培養しても、腫瘍細胞崩壊性作用は実質的には同じであった。
【図3】 図3Aから3Dは、CD発現NSCsが生体内(in vivo)で腫瘍塊に顕著な縮小をもたらすことを示す。CNS−1神経芽細胞腫細胞単独、またはヒトCS−NSCsと共移植されたCNS−1細胞を、成体ヌードマウスの前頭葉に移植した。2日後、処理動物は、5−FCの腹腔内注射を毎日受け始め、それは10日間続いた。図3Aのグラフは、対照、すなわち移植後2週目における無処理腫瘍+CD−NSC、の百分率で表した腫瘍塊を示す。これらのデータは腫瘍切片を測定して得たが、その例を図3B,3Cおよび3Dに示す。腫瘍およびCD−NSCsを移植された5−FC処理動物で、腫瘍塊が約80%縮小したことに注目されたい(図3D)。5−FCはCD−NSCsが無ければ、腫瘍塊に何の作用もしなかった(図3C)。図3B,3Cおよび3Dは、X−galで染色しニュートラルレッドで対比染色した代表的なクリオスタット組織切片上の腫瘍域の「カメラルシダ」切片である。無処理腫瘍+CD−NSCs(図3B)および5−FC処理腫瘍のみ(CD−NSCSなし)(図3C)における大きな腫瘍と、腫瘍およびCD−NSCsの両方を受けた5−FC処理動物の劇的に縮小した腫瘍(図3D)とを比較されたい。
【図4】 図4A,4Bおよび4Cは、血管内に送達されたNSCsが、頭蓋内実験神経膠腫に対して向性を発揮することを示す。図4A,4Bおよび4Cは、NSC尾静脈注射後4日目に屠殺した動物の脳による代表的な10μm腫瘍切片を、ドナーNSCsを同定するためX−gal組織化学(図4A)および抗βgal免疫組織化学(図4Bおよび4C)で処理し、そして腫瘍境界を明らかにするためニュートラルレッドで対比染色したもので、次第に倍率を高めた像を示す。低倍率では(図4A),Xgal+NSCsは、当該腫瘍のいたるところに分布するが、周囲の正常組織には分布しない。テキサスレッド接合抗β−gal抗体と反応させ、高倍率(図4B)およびさらに拡大して(図4C)、可視化した姉妹切片は、当該腫瘍内にドナー由来細胞の存在(矢印)を明示している。スケールバー図4A:25μm,図4B:20μm,および図4C:12μm。
【図5】 図5Aから5Fは、血管内に送達されたNSCsが、頭蓋外腫瘍に向性を発揮することを示す。3−4x106個のCNS−1ネズミ神経膠腫細胞(図5Aから5D)またはSH−SY5Yヒト神経芽細胞腫細胞(図5E,5Fおよび5G)を、成体ヌードマウスの側腹部に皮下に移植した。3週間後、当該腫瘍が十分に確立した後で、2−3x106個のC17.2神経幹細胞を尾静脈に注射した。NSC投与後4日目に、当該動物を過量麻酔で屠殺した。図5Aは、X−galで染色したCNS−1腫瘍切片およびニュートラルレッドで染色したNSC細胞を示す。図5B,5Cおよび5Dは、NSCsに対するテキサスレッド接合抗β−gal抗体およびGFP標識神経芽細胞腫細胞に対するFITC接合抗GFP抗体を用いる二重免疫蛍光用に処理された姉妹切片の、低および高倍率像である。図5Eおよび5Fは、NSCクローンC17.2.CD2を含むX−galで染色したSH−SY5Y腫瘍組織切片の低および高倍率像である。図5Gは、NSCsに対するテキサスレッド接合抗β−gal抗体を用いる二重免疫蛍光用に処理された図5Fの姉妹切片である。
【図6】 図6Aから6Gは、血管内に送達されたNSCsが、30分以内に大脳外実験腫瘍に向性を発揮することを示す。3−4x106個のSH−SY5Yヒト神経芽細胞腫細胞を、成体ヌードマウスの左右の側腹部に皮下に移植した。3週間後、当該腫瘍が十分に確立したときに、左腫瘍塊を外科的に除去し(NSC注射前に)、そして2−3x106個の神経幹細胞を尾静脈に注射した。約30分後、当該動物を過量麻酔で屠殺し、右皮下腫瘍塊(NSC注射後)および器官を採取した。図6Aおよび6Cは、X−galおよびニュートラルレッドで染色したSH−SY5Y左側腹部腫瘍組織切片の低および高倍率像を示す。X−gal陽性細胞が全くないことに注目されたい。図6B,6D,6E,6Fおよび6Gは、X−galおよびニュートラルレッドで染色したSH−SY5Y右側腹部腫瘍組織切片の低および高倍率像を示す。腫瘍境界の外側に沿ったあらゆるところに、X−gal染色ドナー細胞の環状パターンに注目されたい。

Claims (9)

  1. 直接的または間接的抗腫瘍作用をもつ核酸によってコードされた治療物質を腫瘍治療を必要とする個人における腫瘍細胞の近傍に送達または発現する神経幹細胞(NSC)であって、修飾されたまたは非修飾の多数の当該神経幹細胞を含む、腫瘍治療を必要とする個人における腫瘍を治療するための全身性送達用の組成物であって、
    該神経幹細胞が腫瘍の方に移動でき、
    該全身性送達が、頭蓋外部位であり且つ腫瘍が存在する部位以外の投与によって実施される、組成物
  2. 前記腫瘍が、神経系腫瘍であるか、頭蓋外腫瘍からの脳または脊髄転移であるか、または非神経構造体への転移をもつ頭蓋外腫瘍である、請求項1記載の組成物。
  3. 前記全身性送達が、血管内、CSF内、または骨内注射を用いて実施される、請求項1記載の組成物。
  4. 前記物質が、治療的利益を付与する遺伝子である、請求項1記載の組成物。
  5. 前記遺伝子が、シトシンデアミナーゼをコードする、請求項記載の組成物。
  6. シトシンデアミナーゼを発現する神経幹細胞を含む調製物を含む、腫瘍治療を必要とする個人における腫瘍を治療するための全身性送達用の組成物であって、
    該全身性送達が、腫瘍が存在する部位以外の投与によって実施され、
    該シトシンデアミナーゼ産生細胞が腫瘍の方に移動でき、該個人に投与された無毒の5−フルオロシトシンを有毒の5−フルオロウラシルへ変換する、組成物。
  7. 前記腫瘍が、神経系腫瘍、頭蓋外腫瘍からの脳または脊髄転移、または非神経構造体への転移をもつ他の頭蓋外腫瘍である、請求項記載の組成物。
  8. 前記全身性送達が、血管内および静脈内送達である、請求項記載の組成物。
  9. 腫瘍の全身的治療用のキットであって、直接的または間接的抗腫瘍作用をもつ核酸によってコードされた治療物質を腫瘍治療を必要とする個人における腫瘍細胞の近傍に送達または発現し、前記腫瘍に治療効果を発揮するように遺伝的に改変されておりそして前記腫瘍の方へ移動できる全身性送達用の凍結神経幹細胞または活発に増殖している全身性送達用の神経幹細胞のバイアル、前記幹細胞を懸濁させるための医薬品級溶液の容器、ならびに注射器および/またはカテーテルを含み、
    該全身性送達が、腫瘍が存在する部位以外の投与によって実施される、キット
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