JP4783755B2 - 物質検出方法 - Google Patents

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本発明は、蛋白、核酸等の物質を検出する方法に関し、より詳しくは、分析種を簡便かつ高感度に検出し得る物質検出方法に関する。
プローブ核酸とターゲット核酸とのハイブリダイゼーション、抗原−抗体相互作用、レセプター−リガンド相互作用、タンパク−タンパク相互作用、DNA−タンパク相互作用等の生体分子の相互作用を利用して、蛋白質、核酸等の生体分子を検出することが広く行われている。例えば、抗原−抗体反応を利用した蛋白質の検出方法の一例が非特許文献1および2に開示されている。
R. Bakalova et al. J. Am. Chem. Soc. 2005年, 127巻, 9328-9329ページ. C. X. Luo et al. Lab Chip 2005年, 5巻, 726-729ページ.
非特許文献1では、膜上に吸着した特定の蛋白質を検出する方法として、以下の方法が提案されている。まずビオチン化した抗体を膜上の蛋白質に結合させる。次いで、ビオチン化抗体と蛋白質が結合した膜を、アビジン(架橋剤)含有溶液中でインキュベートし、次いで、ビオチン化した量子ドット(標識)含有溶液中でインキュベートする。以降、架橋剤溶液中でのインキュベートと標識溶液中でのインキュベートを交互に繰り返す。この方法の概略を図1に示す。図1に示すように、上記2種の溶液中でのインキュベートを1回行うことにより、架橋剤と標識により形成される層が1層形成され、n回行うことにより、架橋剤と標識により形成される層がn層形成される。これにより信号を増幅(このような増幅は、一般に「樹状増幅」と呼ばれる)することが可能である。しかし、この方法では信号増幅のためには、架橋剤溶液と標識溶液を順次交換しインキュベートする工程が必要であるため、操作が非常に煩雑であった。
また、非特許文献2には、Y字型マイクロ流路を用いて、以下の方法により蛋白質を検出する方法が提案されている。Y時型マイクロ流路の一方から試料となる蛋白質を含む溶液、他方から抗体を固定化した金微粒子含む溶液を同時に流して層流を形成させる。上記2つの溶液と固体基板の三者が接する線上に、蛋白質と金微粒子の複合体が堆積する。しかし、この方法では、基板への最初の吸着は非特異的であるため所望の部分で目的物質を検出することは困難である。また信号増幅の機構を欠くため、検出感度を高めるためには大量の試料を用いなければならず、検出可能な濃度が高いため微量試料の検出は困難であった。
そこで本発明の目的は、生体分子等の分析対象を高感度かつ簡便に検出し得る手段を提供することにある。
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
非特許文献1に記載の技術等の従来の樹状増幅では、被検出物質を固定化した直線型流路に架橋剤と標識とを交互に送液していた。これに対し、本発明者らの検討の結果、Y字型マイクロ流路を用い、予めY字型マイクロ流路の主流路内に検出対象分子を固定化した上で、異なる分岐流路から二液を同時かつ連続的に送液することにより、検出対象物質上に樹状構造を形成できることが新たに見出された。この方法によれば二液を繰り返し送液する必要がなく簡便な操作により樹状構造を形成し信号を増幅することが可能となる。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
即ち、上記目的を達成する手段は、以下の通りである。
[1]第一流路および第一流路から分岐する少なくとも2つの分岐流路を有するマイクロチップにおいて物質を検出する方法であって、
被検出物質と結合可能な部位を有する捕捉物質が内壁に固定化された第一流路内へ検体溶液を送液すること、ならびに、
上記送液後の第一流路内へ、被検出物質と直接または間接に結合可能な第一物質を含む第一溶液、および第一物質と直接結合可能な第二物質を含む第二溶液を、異なる分岐流路から略同時に送液することを含み、
第一物質および第二物質は、それぞれ他方の物質と結合可能な部位を2つ以上有し、
上記第一溶液および第二溶液の送液中および/または送液後の第一流路において、被検出物質の検出を行う物質検出方法。
[2]検体溶液の送液中ならびに/または送液後かつ第一溶液および第二溶液の送液前に、被検出物質と結合可能な部位および第一物質と結合可能な部位を有する連結物質を含む溶液を第一流路内へ送液することを含む[1]に記載の物質検出方法。
[3]上記検体溶液の送液および連結物質含有溶液の送液は、検体溶液および連結物質含有溶液を、異なる分岐流路から第一流路内へ略同時に送液することによって行われる[2]に記載の物質検出方法。
[4]第一物質および第二物質の少なくとも一方は、他方の物質と結合可能な部位を3つ以上有する[1]〜[3]のいずれかに記載の物質検出方法。
[5]上記送液中、第一溶液および第二溶液はそれぞれ層流を形成する[1]〜[4]のいずれかに記載の物質検出方法。
[6]第一物質および/または第二物質は標識を含む[1]〜[5]のいずれかに記載の物質検出方法。
[7]上記被検出物質の検出は、第一溶液および第二溶液の送液中および/もしくは送液後の第一流路における標識の有無を観察することにより、ならびに/または、該流路において標識から得られるシグナルを測定することにより行われる[6]に記載の物質検出方法。
[8]被検出物質は生体分子である[1]〜[7]のいずれかに記載の物質検出方法。
[9]生体分子は蛋白質または核酸である[8]に記載の物質検出方法。
[10]捕捉物質は被検出物質に対する抗体である[9]に記載の物質検出方法。
[11]検体溶液の送液前に、第一流路へブロッキング溶液を送液することを更に含む[1]〜[10]のいずれかに記載の生体分子検出方法。
本発明によれば、架橋剤溶液と標識溶液を順次交換することなく、架橋剤と標識とを連続的に反応させることにより、検出対象物質上に樹状構造を形成することができる。これにより簡便かつ高感度に目的物質を検出することができる。
本発明の物質検出方法は、第一流路および第一流路から分岐する少なくとも2つの分岐流路を有するマイクロチップにおいて物質を検出する方法に関する。本発明の物質検出方法は、被検出物質と結合可能な部位を有する捕捉物質が内壁に固定化された第一流路内へ検体溶液を送液すること、ならびに、上記送液後の第一流路内へ、被検出物質と直接または間接に結合可能な第一物質を含む第一溶液、および第一物質と直接結合可能な第二物質を含む第二溶液を、異なる分岐流路から略同時に送液することを含む。ここで、第一物質および第二物質は、それぞれ他方の物質と結合可能な部位を2つ以上有する。そして、上記送液中および/または送液後の第一流路において、被検出物質の検出を行う。本発明において、「略同時」とは、2つの溶液を異なる分岐流路から第一流路内へ流入するにあたり、一方の溶液により他方の溶液の流入が妨げられることなく二液が連続的に流入することをいうものとする。
本発明の物質検出方法では、それぞれ他方と結合可能な部位を2つ以上有する二種の物質(第一物質および第二物質)の結合を、被検出物質上で連続的に生じさせることができる。例えば、少なくとも一方の物質が標識されていれば複数の標識が被検出物質上に堆積することにより信号を増幅し検出感度を高めることができる。このように二種の物質を用いて多数の標識を被検出物質上に堆積させる方法は、一般に「樹状増幅」と呼ばれる。先に説明したように、従来の樹状増幅は、被検出物質を固定化した膜を架橋剤溶液中および標識溶液中でインキュベートする工程を複数回繰り返すことにより行われていた。しかし、この方法では工程が非常に煩雑である。また反応をバッチで行う必要があるため作業効率が低いという問題もある。
そこで、連続的に反応を行うために、被検出物質を固定化したマイクロ流路内に、二種の溶液を順次送液しマイクロ流路内で樹状構造を形成することが考えられる。しかし、本発明者らの検討の結果、一般的なマイクロ流路において架橋剤と標識を含む溶液を送液しても信号増幅効果を得ることができないことが判明した。本発明者らは、この理由について、架橋剤と標識を予め混合すると、ただちに巨大な複合体が形成され、被検出物質や後述する連結物質への結合が、立体障害により妨げられるからではないかと推定している。そのため一般的なマイクロ流路において被検出物質上に樹状構造を形成しようとすれば、二液の送液を順次繰り返す必要がある。しかし、この方法では、依然として作業効率の点で問題がある。
これに対し、本発明では、Y字型流路等の分岐流路と主流路を有するマイクロチップにおいて、被検出物質(検出対象物質)が固定化された主流路に、樹状構造を形成するための2種の物質を異なる分岐流路から略同時に送液する。これにより被検出物質上に樹状構造を形成できることが、本発明者らの検討の結果、新たに見出された。本発明の物質検出方法によれば、従来の樹状増幅のように二液と交互に接触させる必要がない。また、架橋剤と標識を連続的に反応させることができる。これにより、簡便かつ短時間での信号増幅が可能となる。
以下に、本発明の物質検出方法の詳細を説明する。
検体溶液
本発明の物質検出方法では、第一流路および第一流路から分岐する少なくとも2つの分岐流路を有するマイクロチップを使用する。2つの分岐流路を有するマイクロチップの概略図を図6に示す。なお、本発明の物質検出方法において使用可能なマイクロチップの詳細は後述する。
前記マイクロチップにおいて、第一流路内に検体溶液を送液する。あらかじめ目的物質(被検出物質)と結合可能な部位を有する捕捉物質を第一流路内壁に固定化しておくことにより、検体溶液に被検出物質が含まれる場合には、検体溶液中の被検出物質を捕捉物質を介して第一流路内壁に固定化することができる。
本発明の物質検出方法の検出対象である被検出物質は、例えば、生体分子、合成高分子、ウイルス粒子等であり、相互作用による検出の容易性を考慮すると生体分子であることが好ましい。
生体分子としては、蛋白質、核酸、ポリペプチド、糖化合物、脂質、天然分子等を挙げることができる。
蛋白質としては、抗体、抗原、酵素、腫瘍マーカー等を挙げることができる。中でも本発明の物質検出方法は、蛋白質の検出方法として好適である。
検出対象となる蛋白質としては、通常、酵素免疫法(ELISAまたはEIA)によって測定される抗原、抗体等の各種蛋白質を挙げることができる。一例としては、前立腺特異抗原(PSA)、breast cancer antigen 225 (BCA225)、HIV抗原・抗体、塩基性フェトプロテイン(BFP)、C-reactive protein(CRP)を挙げることができる。また、本発明の物質検出方法は、異常プリオン検出にも適用可能である。
核酸としては、cDNA、ゲノムDNA、合成DNA、mRNA、全RNA、hnRNA、SiRNA、miRNA、SnoRNA等のnon-coding RNA、および合成RNAを含むDNAおよびRNA、ならびにペプチド核酸、モルホリノ核酸、メチルスルフォネート核酸、およびS−オリゴ核酸等の人工合成核酸を挙げることができる。被検出物質としての核酸は、任意の配列を有する任意の核酸であり得るが、遺伝病の原因遺伝子、癌関連遺伝子、またはウイルス由来の核酸等、疾病のマーカーとなり得る核酸が好適である。
糖化合物としては、例えば、単糖、オリゴ糖、多糖、糖鎖複合体、糖蛋白質、糖脂質、およびそれら誘導体などを挙げることができる。
脂質としては、例えば、脂肪酸、リン脂質、糖脂質、グリセリドなどを挙げることができる。
天然低分子としては、例えば、ホルモン分子や抗生物質、毒物、ビタミン類、生理活性物質、二次代謝産物などを挙げることができる。
合成低分子としては、例えば、天然低分子の合成物、およびそれら誘導体などを挙げることができる。
本発明における検体溶液は、通常、被検出物質を含む溶液であるが、被検出物質を含まない溶液である場合もある。検体溶液は、具体的には、被検出物質の有無および/またはその含有量が未知の溶液であることができる。このような溶液としては、血清、血液、尿、唾液等の体液が挙げられる。また、試料が固体であれば、酵素処理、界面活性剤または有機溶媒の添加等の適切な方法により、送液可能な液体状試料とすることができる。
捕捉物質は、被検出物質の種類に応じて選択すればよい。例えば、抗原抗体反応、レセプター−リガンド反応、酵素−基質反応、DNAと蛋白またはDNAとの反応、RNAと蛋白、RNAとの反応等により、被検出物質と結合可能な部位を有する物質を用いることができる。
第一流路内壁への捕捉物質の固定化は、例えば、物理吸着を利用して行うことができる。一般に、疎水性基を有する物質は、シリコーンゴムやポリスチレン等の疎水性表面と接触すると、疎水性相互作用により吸着する性質を有する。よって、捕捉物質が蛋白質等の疎水性基を有する物質である場合、固定化方法として物理吸着を利用することが好ましい。
また、捕捉物質の固定化には、公知の固定化方法、例えば、エレクトロスプレーディポジション法、ピンタイプスポッター、インクジェット、マイクロコンタクトプリンティング(例えばQuist AP, Pavlovic E, Oscarsson S:Recent advances in microcontact printing. Anal Bioanal. Chem. 381:591-600,2005参照)、マイクロチャンネルを用いた固定法(例えばCesaro-Tadic S, Dernick G, Juncker D,Buurman G, Kropshofer H, Michel B, Fattinger C, Delamarche E:High-sensitivity miniaturized immunoassays for tumor necrosis factor alphausing microfluidic systems.. Lab Chip 4:563-569,2004参照)などの公知の固定化方法を用いることもできる。
捕捉物質は、第一流路内壁全面に固定化してもよく、内壁の少なくとも一部に固定化してもよい。第一流路内壁の一部に捕捉物質を固定化する場合、少なくとも分岐流路から流入する2種の溶液の合流箇所に固定化することが好ましく、具体的には、少なくとも第一流路の送液方向中央部(図6中の破線部)に直線状またはスポット状に固定化することが好ましい。このように2液の合流箇所に固定化することにより、後述する第一溶液に含まれる第一物質と第二溶液に含まれる第二物質を、被検出物質上に略同時に到達させ、該物質上において樹状構造の形成を良好に行うことができる。なお、捕捉物質は1種のみ固定化してもよく2種以上固定化してもよい。例えば複数の被検出物質の検出を行う場合、各被検出物質と結合可能な捕捉物質を、それぞれ第一流路内壁へ固定化し、その後1種または2種以上の検体溶液を第一流路内へ順次送液すれば、複数の被検出物質を第一流路内へ捕捉することができる。
内壁に捕捉物質が固定化された第一流路内へ検体溶液を送液する前に、第一流路内へブロッキング溶液を送液することが好ましい。この処理により、第一流路内壁において、捕捉物質が固定化された部分以外に被検出物質が非特異的に吸着することを防ぎ、検出感度を高めることができる。ブロッキング溶液としては、スキムミルク、牛血清アルブミン等の蛋白質溶液等の各種ブロッキング溶液を用いることができる。ブロッキング溶液の送液は、分岐流路の1つのみから行ってもよく、複数の分岐流路から行ってもよい。
好ましくはブロッキング溶液送液後の第一流路内へ検体溶液を送液する。検体溶液の送液は、分岐流路の1つのみから行ってもよく、複数の分岐流路から行ってもよい。また、後述するように連結物質を使用する場合、検体溶液と連結物質含有溶液を、異なる分岐流路から第一流路内へ略同時に送液してもよい。内壁に捕捉物質が固定化された第一流路内へ検体溶液を送液することにより、検体溶液が被検出物質を含む場合、検体溶液に含まれる被検出物質を捕捉物質により捕捉することができる。これにより捕捉物質を介して被検出物質を第一流路内壁に固定化することができる。検体溶液の送液速度および送液量は、捕捉物質により被検出物質を捕捉可能な程度の速度とすればよく、マイクロチップサイズ、流路内径、被検出物質の種類、含有量等により適宜設定すればよいが、例えば送液速度0.1〜1.0μl/min、好ましくは0.2〜0.5μl/min、送液量0.1〜5μl、好ましくは0.5〜1μl程度とすることができる。
前記検体溶液の送液後、第一物質を含む第一溶液と第二物質を含む第二溶液を、異なる分岐流路から略同時に送液する。本発明において使用される第一物質および第二物質は、それぞれ他方の物質と結合可能な部位を2つ以上有する。更に第一物質は被検出物質と直接または間接に結合可能である。これにより、捕捉物質を介して第一流路内壁に固定化された被検出物質と第一物質が結合し、次いで被検出物質と結合した第一物質と第二物質とが結合し、更に第二物質と第一物質とが連続的に結合することにより、第一物質と第二物質とが結合して形成された複合体(樹状構造)を被検出物質上に形成することができる。
検体溶液送液後の第一流路内へ第一物質および第二物質の複合体(樹状構造)を形成する方法としては、(1)被検出物質と間接に結合可能な第一物質を用いる方法(以下、「方法I」という)、(2)被検出物質と直接に結合可能な第一物質を用いる方法(以下、「方法II」という)、のいずれを用いてもよい。以下、方法I、方法IIのそれぞれについて、使用可能な第一物質および第二物質等の詳細を説明する。
−方法I−
方法Iでは、被検出物質と間接に結合可能な第一物質を使用する。方法Iでは、被検出物質と第一物質を結合するために、被検出物質と結合可能な部位および第一物質と結合可能な部位を有する連結物質を含む溶液を、検体溶液の送液中ならびに/または送液後かつ第一溶液および第二溶液の送液前に、第一流路内へ送液する。連結物質含有溶液の送液は、分岐流路の1つのみから行ってもよく、複数の分岐流路から行ってもよい。また、検体溶液と連結物質含有溶液を異なる分岐流路から第一流路内へ略同時に送液することもできる。
連結物質としては、被検出物質に特異的に結合可能な物質(例えば被検出物質を抗原とする抗体、被検出物質としての核酸と相補的な核酸)であって、かつ第一物質と抗原抗体反応、アビジン−ビオチン反応等の特異的結合により結合可能な部位を有する物質、具体的にはビオチン導入抗体、ビオチン導入DNA等を挙げることができる。連結物質は、被検出物質と結合可能な部位および第一物質と結合可能な部位をそれぞれ1つずつ有すればよい。
次いで、方法Iでは、第一物質を含む第一溶液と第二物質を含む第二溶液を、異なる分岐流路から第一流路内へ略同時に送液する。方法Iにおいて使用される第一物質は、連結物質と結合可能な部位を少なくとも1つ有し、かつ第二物質と結合可能な部位を2つ以上、好ましくは3つ以上有する物質である。そのような第一物質としては、抗原抗体反応、ビオチン−アビジン反応等の特異的結合により連結物質および第二物質と結合可能な部位を有する物質、具体的にはアビジン、アビジン固定化金微粒子等を挙げることができる。
方法Iにおいて使用される第二物質は、第一物質と結合可能な部位を2つ以上、好ましくは3つ以上有する物質である。そのような第二物質としては、抗原抗体反応、アビジン−ビオチン反応等の特異的結合等により結合可能な部位を2つ以上有する物質、具体的には、ビオチン導入抗体、ビオチン固定化金微粒子等を挙げることができる。
以下に、被検出物質が抗原であり、捕捉物質が該抗原に対する抗体であり、連結物質がビオチン化された該抗原に対する抗体であり、第一物質がアビジンであり、第二物質がビオチン化された抗アビジン抗体である場合を例にとり、図7に基づき方法Iについて具体的に説明する。但し、本発明は以下に示す具体的態様に限定されるものではない。
内壁に捕捉物質(抗体)が固定化された第一流路内へ検体溶液を送液する。検体溶液中に被検出物質(抗原)が含まれる場合、捕捉物質に被検出物質が捕捉される。これにより捕捉物質を介して被検出物質が第一流路内壁へ固定化される。次いで、連結物質(ビオチン化抗体)を含む溶液を第一流路内へ送液する。または、検体溶液および連結物質含有溶液を、異なる分岐流路から第一流路内へ略同時に送液することもできる。以上の工程により、被検出物質と連結物質が結合した複合体が形成される(以上、図7(a)参照)。
次いで、異なる分岐流路から第一物質(アビジン)を含む第一溶液および第二物質(ビオチン化抗アビジン抗体)を第一流路へ略同時に送液する(図7(b)参照)。
アビジンは、ビオチン化抗体およびビオチン化抗アビジン抗体と、アビジン−ビオチン反応により結合可能である。よって、ビオチン化抗体上にアビジンとビオチン化抗アビジン抗体が複数連結した複合体を形成することができる(図7(c)参照)。こうして被検出物質上に樹状構造を形成することができる。
−方法II−
方法IIでは、被検出物質と直接結合可能な第一物質を使用する。本発明において、「直接結合可能」とは、被結合物質と結合可能な部位を有することを意味する。これに対し、「間接に結合可能」とは、被結合物質と他の物質を介して結合可能であることを意味する。また、「結合可能な部位」とは、他の物質を介することなく被結合物質と結合し得る部位をいうものとする。方法IIでは、前述の連結物質を使用することなく被検出物質上に第一物質と第二物質が複数結合することにより形成される複合体(樹状構造)を形成することができる。
方法IIにおいて使用可能な第一物質としては、被検出物質に特異的に結合可能な物質(例えば被検出物質を抗原とする抗体、被検出物質としての核酸と相補的な核酸)であって、かつ第二物質と抗原抗体反応、アビジン−ビオチン反応等の特異的結合により結合可能な部位を有する物質、具体的にはビオチン導入抗体、ビオチン導入DNA等を挙げることができる。第一物質は、被検出物質と結合可能な部位を少なくとも1つ有し、かつ第二物質と結合可能な部位を2つ以上、好ましくは3つ以上有すればよい。
方法IIにおいて使用可能な第二物質としては、抗原抗体反応、ビオチン−アビジン反応等の特異的結合により第一物質と結合可能な部位を2つ以上、好ましくは3つ以上有する物質、具体的にはアビジン、アビジン固定化金微粒子等を挙げることができる
方法IIの具体的態様としては、被検出物質が抗原であり、第一物質がビオチンが2つ以上導入されたビオチン化抗体であり、第二物質がアビジンである態様を挙げることができる。この場合、内壁に捕捉物質を介して被検出物質を固定化する工程は、方法Iと同様に行うことができる。次いで、内壁に被検出物質が固定化された第一流路へ、ビオチン導入抗体を含む第一溶液とアビジンを含む第二溶液を異なる分岐流路から略同時に送液する。これにより被検出物質(抗体)と第一物質(ビオチン化抗体)が抗原抗体反応により結合し、更に第一物質(ビオチン化抗体)と第二物質(アビジン)が、ビオチン−アビジン反応により連続的に結合する。こうして被検出物質上に第一物質と第二物質が複数結合することにより形成された複合体(樹状構造)を形成することができる。
前記方法Iおよび方法IIのいずれにおいても、第一溶液および第二溶液の送液にあたり、送液速度および送液量は、マイクロチップサイズ、流路内径、溶液濃度等に応じて適宜設定すればよい。例えば、送液速度は0.2〜0.5μl/min程度、送液量は1〜3μl程度とすることができる。
第一溶液と第二溶液の送液は、第一溶液と第二溶液が混ざり合う前に、第一物質と第二物質を被検出物質上に略同時に到達させることができるように行うことが好ましい。
管内を流れる流体の流れは、乱流(非定常的な流れ)と層流(定常的な流れ)に大別される。層流では流れの方向は送液方向に限定されるため異なる分岐流路から導入された第一溶液と第二溶液は、両溶液の境界でのみ接することとなる。よって、少なくともこの境界部分に被検出物質を固定化すれば、両物質を被検出物質上に略同時に到達させることができる。また、第一流路内壁全面に被検出物質が固定化されている場合、2液が層流を形成して第一流路内に導入されれば、両溶液の界面でのみ第一物質と第二物質の連続的結合(樹状構造形成)が生じる。これにより、第一流路内において、2液の界面に沿った直線状に、被検出物質を介して樹状構造を固定化することができる。このように第一流路内に選択的に樹状構造を固定化できれば、被検出物質の有無を顕微鏡観察等により容易に判定することができる。更に樹状構造が選択的に固定化された部分においてシグナルの読み取りを行うことにより、高精度な定量を行うことが可能となる。よって、本発明の物質検出方法では、第一溶液と第二溶液の送液は、両溶液の流れが、少なくとも被検出物質上に到達するまでは層流となるように行うことが好ましい。また、検体溶液と連結物質含有溶液を異なる分岐流路から第一流路内へ略同時に送液する場合にも、両液体の流れが、少なくとも被検出物質上に到達するまでは層流となるように行うことが好ましい。
層流と乱流は、下記式によって定義されるレイノルズ数Re(Reynolds number)により規定されることが知られている。
上記式において、ここでlは流れの代表長さ、uは代表流速、ρは流体の密度、μは粘度を示す。管内の流れに対しては、流れの代表長さlに管の内径Dを用いて、Re=ρuD/μを用いる。円管内ではRe < 2100ならば層流、Re > 4000ならば乱流となる。この間のRe =2100-4000の範囲では不安定であって、遷移域(transition region)と呼ばれる。一般に流動が層流から乱流に変化するときの Re を臨界レイノルズ数という。この値はレイノルズが実験的に得たRec=2300が多く採られており(そのほか2000、2100、3000などが採用されることもある)、状態によってはこれより大きいReでも層流が保たれるが、これが下限である。
次に、本発明の物質検出方法において使用可能なマイクロチップについて説明する。
本発明の物質検出方法では、第一流路および第一流路から分岐する少なくとも2つの分岐流路を有するマイクロチップを用いる。本発明において、「マイクロチップ」とは、平板状の基板上に、太さ数μm〜数百μm程度の微細なマイクロ流路を集積化したものを意味する。
前記本発明の物質検出方法において使用されるマイクロチップは、第一流路と2つ以上の分岐流路を有するものであればよい。上記構成を有するマイクロチップであれば送液機構等は特に限定されるものではないが、マイクロチップに形成されたマイクロ流路の中に液体を導入するために外部からの動力を必要としないマイクロ流体制御機構を有するマイクロチップを用いることが好ましい。そのようなマイクロチップとしては、高分子材料により形成し、マイクロ流路内に減圧された空間を生起させて、自動的にマイクロ流路内に液体を導入するようにしたマイクロ流体制御機構を有するマイクロチップ、具体的には、以下に記載するようなマイクロ流体制御機構を有するマイクロチップを挙げることができる。下記マイクロチップによれば、外部ポンプが不要であり自律駆動による送液が可能であるとともに、先に説明した層流を容易に得ることができる。
(1)所定の形状に形成されたマイクロチャネルと、前記マイクロチャネル内に液体を導入するために外部に開口する複数のポートとを有し、前記マイクロチャネルの全体または一部を高分子材料により形成し、前記高分子材料を脱気したことを特徴とするマイクロ流体制御機構を有するマイクロチップ;
(2)所定の形状に形成されたマイクロチャネルと、前記マイクロチャネルの複数の端部のうちの所定の端部側に連接され、前記マイクロチャネルの内部とのみ連通し外部に対して遮蔽された内部空間を有する減圧室と、前記マイクロチャネルの複数の端部のうちの前記減圧室が連接された端部を除いた残余の端部それぞれに形成され、前記マイクロチャネル内に液体を導入するために外部に開口する複数のポートとを有し、前記マイクロチャネルまたは前記減圧室のそれぞれの全体または一部のうちの少なくともいずれかを高分子材料により形成し、前記高分子材料を脱気したことを特徴とするマイクロ流体制御機構を有するマイクロチップ;
(3)一方の端部に複数の導入用流路が連接され、他方の端部が減圧室に連接された混合用流路と、前記複数の導入用流路それぞれの前記混合用流路と連通する側の端部とは異なる端部側に形成され、前記導入用流路内に液体を導入するために外部に開口する複数のポートと、前記減圧室の内部空間を、前記混合用流路の内部とのみ連通させ外部に対して遮蔽する封止手段とを有し、前記封止手段、前記減圧室または前記混合用流路のそれぞれの全体または一部のうちの少なくともいずれかを高分子材料により形成し、前記高分子材料を脱気したことを特徴とするマイクロ流体制御機構を有するマイクロチップ。
以下に、前記マイクロ流体制御機構を有するマイクロチップについて説明する。
まず、図2には、マイクロ流体制御機構を有するマイクロチップの概略構成上面説明図を示す。図3(a)には、図2に示すマイクロチップのA−A線による断面図(概略構成縦断面図)が示されており、図3(b)には、図2に示すマイクロチップのB−B線による断面図(概略構成縦断面図)が示されている。
ここで、マイクロチップ10は、第1の板状部材12と、第2の板状部材14と、第1の板状部材12に配置された封止手段としての被覆部材16とを有して構成されている。
そして、第1の板状部材12には、マイクロチャネルとして、上面から見てY字型状の一連の流路を構成するマイクロチャネル20が形成されている。このマイクロチャネル20は、上面から見て直線状に延長するマイクロ流路たる混合用流路22と、混合用流路22の一方の端部22aが二股に分岐されて形成されたマイクロ流路たる第1導入用流路24ならびに第2導入用流路26とを有するものである。ここで、混合用流路22、第1導入用流路24ならびに第2導入用流路26は、第1の板状部材12の下面12b側が開口した溝状に形成されており、その下面12b側の開口面は、第2の板状部材14により遮蔽されている。
また、第1導入用流路24の一方の端部24a、即ち、混合用流路22の端部22a側とは異なる側の端部は、第1の板状部材12の上面12aに形成された試料や試薬などの液体を導入するために外部に開口している開口部たる第1サンプル用ポート30と連通している。一方、第2導入用流路26の一方の端部26a、即ち、混合用流路22の端部22a側とは異なる側の端部は、第1の板状部材12の上面12a側に形成された試料や試薬などの液体を導入するために外部に開口している開口部たる第2サンプル用ポート32と連通している。
従って、第1導入用流路24の端部24aならびに第2導入用流路26の端部26aは、大気に開放されていることになる。一方、第1導入用流路24の他方の端部24bと第2導入用流路26の端部26bとは、混合用流路22の一方の端部22aと連通している。
そして、混合用流路22の他方の端部22b、即ち、第1導入用流路24ならびに第2導入用流路26と連通する側とは異なる側の端部は、減圧室40の側方開口部40aと連通している、即ち、混合用流路22の一方の端部22aには、第1導入用流路24ならびに第2導入用流路26の複数の導入用流路が連接されており、他方の端部22bには、減圧室40が連接されている。この減圧室40は、第1の板状部材12の上面12aにおいて、略円形形状の上方開口部40bで開口するとともに、下面12b側において略円形形状の開口部で開口する円筒状に形成されており、その下面12b側の開口部は第2の板状部材14により遮蔽されている。
一方、減圧室40の上方開口部40bには、封止手段たる被覆部材16が配設されており、被覆部材16によって上方開口部40bは封止されている。これにより、減圧室40の内部空間40cは、混合用流路22の内部とのみ連通し、外部に対しては遮蔽されている。即ち、混合用流路22の他方の端部22bは、減圧室40の内部空間40cには開放されているが、大気には開放されていない。
ここで、マイクロチップ10を構成する第1の板状部材12、第2の板状部材14、および被覆部材16の材料としては、高分子材料を用いることができる。
例えば、高分子材料の1つであるゴムは、固体のミクロ構造がかなり疎であり、かつ固体分子の運動自由度が相当に大であるので、気体が固体中に入り込み易く、非常に多くの気体が溶解する固体材料である。このように非常に多くの気体が溶解可能な固体材料であるゴムなどの高分子材料によって、第1の板状部材12、第2の板状部材14、および被覆部材16を形成するとよい。
なお、この実施の形態において、マイクロチップ10を構成する第1の板状部材12、第2の板状部材14、および被覆材料16の材料として、ゴム、具体的にはポリジメチルシロキサン(以下、「PDMS」ともいう)などのシリコーンゴムを用いることができる。
マイクロチップ10を構成する第1の板状部材12、第2の板状部材14、および被覆部材16の材料としては、非常に多くの気体が溶解可能な固体材料が好適であり、例えば、空気に対する溶解度係数S=0.011〜10(cm3(STP;標準状態(0℃、1atm))/(cm3atm))の高分子材料を用いることができる。
ここで、
C:固体中の気体濃度(cm3(STP)/cm3
(1cm3の固体に溶けている気体の量を、標準状態での体積に換算したもの)
P:固体に接触する気体の圧力(atm)
S:溶解度係数(cm3(STP)/(cm3atm))
とするヘンリーの法則
C=SP
により、PDMSの空気に対する溶解度係数を算出することができる。温度35℃、空気を窒素80%、酸素20%とすると、PDMSの空気に対する溶解度は、S=0.11cm3(STP)/(cm3atm)となる。ただし、このPDMSの空気に対する溶解度係数Sは、PDMSの重合度などに依存するものである。
なお、マイクロチップ10を構成する第1の板状部材12、第2の板状部材14、および被覆材料16の材料は、上記のものに限られるものではなく、マイクロチップ10を用いて実験を行う際の試料や試薬などの液体の種類などに応じて適宜選択することができる。
また、マイクロチップ10の第1の板状部材12は、例えば、長さL1が30mm、長さL2が30mm、厚さL3が2mmの大きさの直方体形状を有しており、第2の板状部材14は、例えば、第1の板状部材12と略一致する寸法に設定されている。
そして、マイクロチャネル20の混合用流路22の端部22aから端部22bまでの長さL4は、例えば、14mmに設定され、混合用流路22の幅L5は、例えば、100μmに設定され、混合用流路22の深さL6は、例えば、25μmに設定されている。
また、第1導入用流路24の端部24aから端部24bまでの長さ、ならびに、第2導入用流路26の端部26aから端部26bまでの長さL7は、例えば、4mmに設定されている。なお、第1導入用流路24ならびに第2導入用流路26の幅は、例えば、混合用流路22の幅L5と略一致する寸法に設定され、第1導入用流路24ならびに第2導入用流路26の深さは、例えば、混合用流路22の深さL6と略一致する寸法に設定されている。
また、第1サンプル用ポート30ならびに第2サンプル用ポート32の直径L8は、例えば、2mmに設定されている。また、減圧室40の上方開口部40bの直径L9は、例えば、1mmに設定されている。
なお、上記した各構成部位の寸法は、各構成部位の大きさの一例を示すものであって、本発明で使用する場合、前記寸法に限定されるものではない。
以上の構成において、マイクロチップ110を脱気するために、圧力10kPaの真空チャンバーに、例えば、0.5〜3時間入れることができる(図4(a)参照)。このように、マイクロチップ10全体を低圧環境に置くことにより、マイクロチップ10全体に溶け込んでいる空気を抜くことができる(図4(a)における破線矢印参照)。つまり、マイクロチップ10を形成しているPDMSに溶解している気体が取り除かれることになる。
そして、脱気を開始してから所定時間が経過した後、マイクロチップ10を真空チャンバー内から大気中(100kPa)に取り出す(図4(b)参照)。こうして、真空チャンバー内における脱気を終了し、大気中に取り出されてマイクロチップ10が大気圧に戻されたときから、マイクロチップ10を形成するPDMSへの空気の再溶解が始まる(図4(b)における破線矢印参照)。
こうしたPDMSへの空気の再溶解は、気体溶解度に関するヘンリーの法則に基づく現象である。即ち、PDMSなどのシリコーンゴムは、液体のように平衡溶解度が接触気体の分圧に比例するものである。このため、低圧から大気圧に戻すことにより、平衡溶解度が再び上がり、系がこの新しい平衡に向かう際に、PDMSへの空気の再溶解が始まる。
そして、前述のように溶解度係数S=0.11cm3(STP)/(cm3atm)のPDMSは、非常に多くの気体が溶解可能な固体材料であって、こうしたPDMSによりなるマイクロチップ110の外部環境が低圧環境下から大気圧に戻されることで、マイクロチップ10全体に新たに多くの空気が溶解することになる。こうして、大気中に取り出した後、マイクロチップ10の第1サンプル用ポート30および/または第2サンプル用ポート32に検体溶液を滴下する。
先に説明したように、検体溶液の導入は、第1導入用流路24または第2導入用流路26のいずれか一方のみから行ってもよく、第1導入用流路24および第2導入用流路26の両方から行ってもよい。例えば、マイクロチャネル20内へ、第1サンプル用ポート30のみから検体溶液を導入する場合は、マイクロチャネル20を構成する3つの流路、即ち、混合用流路22、第1導入用流路24、ならびに第2導入用流路26のうち、混合用流路22の端部22b側を、被覆材料16によって被覆すれば、第2導入用流路26は大気には開放されない。また、第1導入用流路24の端部24aは、第1サンプル用ポート30に滴下された検体溶液によって封止される。その結果、検体溶液がマイクロチャネル20に導入されたときには、第2導入用流路26の端部26aのみが大気に開放されていることになる。検体溶液を第2導入用流路26のみから導入する場合も同様である。
検体溶液送液後かつ第一および第二溶液の送液前に連結物質を含む溶液を送液する場合、該溶液の送液は、検体溶液の送液と同様に行うことができる。また、検体溶液送液前のブロッキング溶液の送液についても同様である。なお、第1導入用流路24および第2導入用流路26のいずれか一方から検体溶液を、他方の流路から連結物質含有溶液を、第一流路に向かって略同時に送液する場合の送液方法については、第一溶液および第二溶液の送液方法について後述する通りである。
次に、第1サンプル用ポート30および第2サンプル用ポート32のいずれか一方に第一溶液を滴下し、他方に第二溶液を滴下する。この状態では、マイクロチャネル20に形成された各流路が外部に対して閉ざされるので、混合用流路22内の空気や、混合用流路22の端部22bが開放している減圧室40の内部空間40cの空気は、第1サンプル用ポート30ならびに第2サンプル用ポート32を介したマイクロチップ10の外部との連絡を失い、マイクロチップ10の閉ざされた各流路と減圧室とにより形成される空間(以下、「閉空間」という)に位置するようになる。
ここで、前述のようにマイクロチップ10を真空チャンバー内から大気中に取り出したときから、マイクロチップ10を形成するPDMSへの空気の再溶解が始まっているので(図4(b)参照)、この閉空間に位置する空気は、混合用流路22の内壁22cや減圧室40の内壁40dからPDMSに溶解する(図4(d)における破線矢印参照)。
その結果、混合用流路22内や減圧室40の内部空間40cよりなる閉空間の圧力が下がり、第1導入用流路24内の溶液と第2導入用流路26内の溶液とは、同時に混合用流路22に流れ込む(図4(c)参照)。こうして、第1の液体と第2の液体との2液は、混合用流路22内において混合される。
前述のマイクロチップ10においては、第1の板状部材12、第2の板状部材14、および被覆材料16をPDMSにより形成して、脱気し、PDMSへの空気の再溶解が始まるようにした状態において、混合用流路(第一流路)22へ略同時に送液すべき2液によってマイクロチャネル20が外部に対して閉ざされると、マイクロチャネル20内に減圧された空間が生起され、液体は減圧された空間に吸引されて自動的に混合用流路22内へ導入される。2液が導入される第一流路内壁には被検出物質が固定化されているため、固定化された被検出物質上に第一物質と第二物質が複数結合して形成された複合体(樹状構造)を形成することができる。
なお、前述のマイクロチップは、脱気終了後に真空チャンバー内から大気中(100kPa)に取り出した直後に密閉容器に封入し、密閉容器ごと真空デシケーター内に保管してもよい。保管したマイクロチップを使用直前に密閉容器から取り出し大気圧に戻せば、以降の工程は前述と同様に行うことができる。前記保管方法については、Hosokawa et al Lab Chip 2006,6巻,236-241ページ付録資料を参照することができる。
次に、前述のマイクロチップ10の製造方法について説明する。マイクロチップ10の製造工程の概略を、図5(a)〜(d)の順に時系列で示す。
まず、マイクロチップ10の第1の板状部材12は、以下のような型成形技術によって製造され得る。即ち、所定の高さのマイクロチャネル20を成形するための反転パターンを形成するために、超厚膜フォトレジスト(SU−8;Microchem社製、米国)をシリコン基板の上にスピンコートし、製造者メーカーの指示に従って処理する。その後、反転パターンを露光し、現像する。
現像の後に、接着を強化するために、炉中で4分間150℃で焼き、次いで、1〜2時間かけて室温まで徐冷する。型離れをよくするために、シリコン基板は、反応性イオンエッチング(RIE)機械(RIE−10NR;サムコインターナショナル研究所社製、日本)中で、CHF3プラズマにより重合化されたフロロカーボン層を2分間成膜する。そのときの条件は、例えば、CHF3ガス流量50sccm、圧力20Pa、電力200Wとすることができる。
更に、PDMS(Sylgard 184;Dow Corning社製、米国)の未重合液体を、当該溶液を保持する型枠を使用してシリコン基板上に注ぐ(図5(a)参照)。これに対して、65℃で1時間の第1キュアと、100℃で1時間との第2キュアを行う。キュアされたPDMSチップは、シリコン基板から剥離される。
こうして製造されたPDMSチップに対して、金属パイプを使用してパンチすることにより、第1サンプル用ポート30、第2サンプル用ポート32、ならびに減圧室40に対応する丸孔を穿設する(図5(b)参照)。こうして製造された第1の板状部材12は、同じくPDMSチップからなる第2の板状部材14の表面に単に接触させるだけで可逆的に接着される(図5(c)参照)。
そして、減圧室40の開口部を被覆するようにして、第1の板状部材12の上面12aにPDMSからなるテープを取り付けると(図5(d)参照)、マイクロチップ10が完成する。この際、PDMSからなるテープに代わって、市販されている粘着テープを用いてもよい。
なお、本発明において使用し得るマイクロチップの製造方法は、上記の態様に限られるものではなく、マイクロチップを形成する材料の種類などに応じて、適当な製造プロセスでマイクロチップを製造することができる。また、上記には、導入用のマイクロ流路として、第1導入用流路24ならびに第2導入用流路26を有するマイクロチップを例にとり説明したが、混合用流路の一方の端部に連接される導入用流路の本数は、3本以上でもよい。また、PDMSのような高分子材料により形成される領域は、マイクロチップ10の全体に限られるものではなく、被覆材料16の全体または一部、マイクロチャネル20の混合用流路22の全体または一部、減圧室40の全体または一部、これらのうちの少なくともいずれかとすることができる。ただし、PDMSなどの高分子材料により形成される領域全体の容量は、高分子材料内部の気体濃度に影響するものなので、マイクロチャネル20内に減圧された空間が生起可能な範囲で、マイクロチャネル20全体や減圧室40全体の寸法に応じて、高分子材料により形成される領域は適宜変更するとよい。
以上説明したマイクロチップの詳細については、特開2005−31070号公報を参照できる。特開2005−31070号公報の図4に示された顕微鏡写真において、溶液が送液方向に流れていることから前述のマイクロチップによれば層流が得られることがわかる。
ただし、本発明の物質検出方法では、送液機構として、吸引ポンプまたは加圧ポンプを用いるマイクロチップを用いることもできる。そのようなマイクロチップの詳細については、例えば特開2002−243734号公報、特開2007−101221号公報等を参照できる。
上記では2つの分岐流路を有するマイクロチップを例に取り説明したが、本発明において使用されるマイクロチップの分岐流路の数は少なくとも2つであり、3つ以上であってもよい。図8に、3つの分岐流路を有するマイクロチップの概略図を示す。図8に示すマイクロチップでは、例えば分岐流路1から検体溶液を送液することにより破線1で示す線上に検体溶液中の被検出物質を固定化し、分岐流路3から既知濃度の被検出物質を含む参照溶液を送液することにより破線2で示す線上に参照溶液中の被検出物質を固定化した後、第一溶液および第二溶液の一方を、分岐流路1および3から送液し、他方の溶液を分岐流路2から送液すれば、検体溶液と参照溶液との対比が可能である。
前述の捕捉物質含有溶液、連結物質含有溶液、第一溶液、第二溶液等の各溶液の濃度は、各溶液に含まれる物質の種類に応じて適宜決定すればよい。ある物質が有する他の物質へ結合可能な部位数の上限は特に限定されるものではなく、分子構造等により適宜決定することができる。実用上、例えば20〜30個程度が上限となる。また各溶液の送液は、例えば室温下(例えば20〜25℃程度)で行うことができる。
被検出物質の検出
本発明の物質検出方法では、第一溶液および第二物質の送液中および/または送液後の第一流路において、被検出物質の検出を行う。
検出方法としては、標識を利用する検出方法、例えば蛍光法、化学発光法、顕微鏡法等を挙げることができる。標識を利用する場合、第一物質および第二物質のいずれか一方に標識を導入すればよい。第一物質および第二物質のいずれか一方に標識が導入されていれば、樹状構造形成により被検出物質上に複数の標識を堆積させることができ、これにより信号増幅が可能となる。
標識物質としては、各種蛍光色素(蛍光法)、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(光学顕微鏡法、電子顕微鏡法)、コロイド状金粒子(電子顕微鏡法)、アルカリホスファターゼ(化学発光法)、ペルオキシダーゼ(化学発光法)等の公知の標識物質を用いることができる。なお括弧内は各標識物質を使用した場合に使用可能な検出方法を示す。第一物質および/または第二物質への標識物質の導入も公知の方法により行うことができる。
例えばマイクロチップ上面を透明部材から形成すれば、第一溶液および第二溶液の送液中および/または送液後にマイクロチップ上面を介して第一流路内の標識物質からのシグナルを検出することができる。またマイクロチップ上面が光透過性が低い材質からなる場合は前記送液後にマイクロチップ上面を除去し標識物質を検出すればよい。また後述する質量変化により被検出物質を検出する場合はマイクロチップ上面の光透過性を問わず送液中および/または送液後の検出が可能である。
更に本発明の物質検出方法では、マイクロチップ上の付着物の質量変化により被検出物質を検出する方法を用いることもできる。前述のように被検出物質上に第一物質と第二物質の複合体(樹状構造)が形成されればマイクロチップ上の付着物の質量が増加するため、この質量変化を測定することにより、標識物質を使用することなく被検出物質を検出することができる。この場合、検出方法としては、表面プラズモン共鳴、水晶振動子マイクロバランス等を用いることができる。
本発明の物質検出方法によれば、検体溶液中の被検出物質の有無を判定することができる。例えば、第一溶液および第二溶液の送液中および/もしくは送液後の第一流路における標識の有無を観察することにより、検体溶液中の被検出物質の有無を判定することができる。また、第一溶液および第二溶液の送液中および/もしくは送液後の第一流路における標識からのシグナルを測定することにより、またはマイクロチップ上の付着物の質量変化を測定することにより、検体溶液中の被検出物質がどの程度含有されるか知ることができる。例えば2つの検体溶液に本発明の物質検出方法を適用し、標識からのシグナルの強弱、または質量変化の大小により、どちらの検体溶液がより多くの被検出物質を含むか知ることができる。更に既知濃度の被検出物質を含む溶液を用いて検量線を作成すれば、検体溶液中の被検出物質量を定量することができる。
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。なお、以下に示す「%」は、特記しない限り「質量%」を示す。
1−1.マイクロチップの作製
Y字型流路を有するマイクロチップおよび比較用マイクロチップとして直線型(I字型)流路を有するマイクロチップを用意した。両マイクロチップの概略図を図9に示す。
比較用マイクロチップは、30×20×2mmのPDMS部品と76×26×1mmのガラス板からなり,4本のI字型流路(図9A参照)を備えていた。
Y字型流路を有するマイクロチップは、主流路と主流路から分岐する二本の流路を備えていた(図9B参照)。
両マイクロチップとも、Hosokawa, K.; Omata, M.; Sato, K.; Maeda, M. Lab Chip 2006, 6, 236-241.に記載の方法により作製した。まずPDMS成型に用いるための反転型を、シリコンウエハーの上に、超厚膜フォトレジスト(SU-8 25, MicroChem, Newton, MA)を用いて製作した。反転型の表面を不活性化するため,プラズマエッチング装置(RIE-10NR, Samco International, Kyoto, Japan).の中でCHF3プラズマ処理した.反転型の上に型枠を取り付け,PDMSプレポリマー溶液(Sylgard 184, Dow Corning, Midland, MI)を注ぎ込んだ。PDMSを硬化させた後、反転型から剥がし取り、金属製のパイプを使ってリザーバとなる穴を開けた。流路入り口を開口するため、PDMS部品をナイフで切った。PDMS部品を顕微鏡用スライドガラス(S1112, Matsunanmi Glass, Osaka, Japan)に可逆的に接合した。露出したガラス表面を疎水化するため,プラズマエッチング装置の中で10 秒間CHF3プラズマ処理した。
1−2.各溶液の調製
精製済みヒトCRP(CHEMICON International, Temecula, CA)を、CRP抜きヒト血清(HyTest, Turku, Finland)で順次希釈することにより、20 nM、0.20 nM、2.0 pMを含む検体溶液を調製した。ブランク試料溶液として、CRP抜きヒト血清を用いた。捕捉物質(1次抗体)として、0.50 mg/mLのウサギ抗ヒトCRP抗体(anti-CRP, Dako Cytomation, Glostrup, Denmark)溶液をリン酸バッファー(PBS, pH 7.5, Cambrex Bioscience, Walkersville, MD)で調製した。連結物質(2次抗体)として、100 または 75 μg/mLのビオチン化ヒツジ抗ヒトCRP抗体(B-anti-CRP, R&D Systems, Minneapolis, MN)溶液を、1%ウシ血清アルブミン(BSA, Wako Pure Chemical Industries, Osaka, Japan)を含むPBSで調製した。第一物質(第一の増幅用試薬)として、100 または 75 μg/mLのFITC標識ストレプトアビジン(F-SA, Sigma, St. Louis, MO)溶液を、1% BSAを含むPBSで調製した。第二物質(第二の増幅用試薬)として、100 または 75 μg/mLのビオチン化ウサギ抗ストレプトアビジン抗体(B-anti-SA, Rockland Immunochemicals, Gilbertsville, PA)溶液を、1% BSAを含むPBSで調製した。ブロッキング剤として、0.1%の市販試薬(Blocking Reagent #1096176, Roche Diagnostics, Basel, Switzerland)と1% BSA 混合溶液をPBSで調製した。
なお、上記ストレプトアビジンは、1分子あたり、ビオチンに対して4つの結合部位を有する。またビオチン化抗体には1分子あたり10個程度のビオチンが導入されている。
1−3.被検出物質の検出
それぞれの溶液をマイクロ流路に注入する際には、Hosokawa, K.; Omata, M.; Sato, K.; Maeda, M. Lab Chip 2006, 6, 236-241.に記載の無動力逐次注入法を用いた。まずマイクロチップを真空デシケーターに入れ、10 kPaで1時間脱気した。真空デシケーターから取り出した後、すぐにPDMS上面に粘着テープを貼った。マイクロチップを倒立型蛍光顕微鏡(TE2000-U, Nikon, Tokyo, Japan)のステージにのせた。マイクロピペットを使って、注入すべき溶液0.5-3.0 μLを流路入り口に滴下した。実験は室温で行った。全ての実験は新しい流路を使って行った。
比較用マイクロチップを用いた検出では、以下の溶液を逐次注入した。(1) 0.50 mg/mLのanti-CRPを0.5 μL、(2) ブロッキング剤を0.5 μL、(3) 0-2.3 μg/mL (0-20 nM) のCRP 試料を1.0 μL、(4) 100 μg/mL のB-anti-CRP を0.5 μL、(5) 100 μg/mL のF-SA を0.5 μL、(6) 100 μg/mL のB-anti-SA を0.5 μL、(7) 100 μg/mL のF-SA を0.5 μL、(8) 100 μg/mL のB-anti-SA を0.5 μL、(9) 100 μg/mL のF-SA を0.5 μL、(10) 1% BSAを0.5 μL。
上記(6), (8), および(10)の溶液の送液中、蛍光画像を撮影し、蛍光強度を測定した。それぞれ図1に示す態様の1層目、2層目、3層目F-SAが発する信号に相当する。
Y字型流路を有するマイクロチップを用いた検出では、両分岐流路から0.50 mg/mLのanti-CRPを0.5 μL送液し、次いで両分岐流路からブロッキング剤を0.5 μL送液した。その後、左側の分岐流路から0-2.3 μg/mL (0-20 nM) のCRP 試料を0.5 μL、右側の分岐流路から75 μg/mL のB-anti-CRP を0.5 μL、主流路に向かって同時に送液した。次いで、左側の分岐流路から75 μg/mL のF-SA を3.0 μL、右側の分岐流路から75 μg/mLのB-anti-SA を3.0 μL、主流路に向かって同時に送液した。F-SAおよびB-anti-SAの溶液が流れている間、蛍光画像を撮影した。
1−4.データの測定と解析
上記1−3.に記載の通り、蛍光顕微鏡を用いて蛍光画像を撮影した。蛍光顕微鏡は、100 Wの高圧水銀ランプ、フィルタブロック(励起465-495 nm, 吸収515-555 nm)、10倍対物レンズ(開口数 0.3)、冷却CCDカメラ(C5958, Hamamatsu Photonics, Hamamatsu, Japan)を備えていた。CCDカメラの露光時間(Tで表す)は、予測される蛍光強度に合わせて最適な撮影条件となるように、0.1から3.0 秒の間で変化させた。得られた画像のマイクロ流路の中と外のグレイスケール値(それぞれGとG0で表す)を、画像解析ソフトウエア(ImageJ 1.28u, National Institutes of Health)で測定した。信号強度 I を、次式によって規格化した。
I = (G - G0) / T.
測定により得られたデータは,次の4パラメータロジスティック関数で回帰した。
I = d + (a - d) / [1 + (x / c)b].
ここで x は分析種濃度であり,a, b, c, d は回帰パラメータである.これらのパラメータはグラフ作成ソフトウエア(KaleidaGraph ver. 3.51, Synergy Software, Reading, PA)を用いて最適化した。そのアルゴリズムは、各データの分散の逆数を重みとした、重み付き最小二乗非線形回帰である。得られた回帰関数から、検出限界を次の定義に従って計算した。すなわち、検出限界はある I を与える x であり、その I とは、ブランク試料に相当する値(つまり a)から、ブランク試料で得られた実測信号の標準偏差の3倍だけ離れた値である。
1−5.結果
前述のY字型流路について、以下の方法によりレイノルズ数を試算した。
一方の分岐流路と主流路を合わせた流路の寸法(すなわち分岐流路から主流路へ送液される溶液の移動距離)lは10-3m、送液中の第一溶液および第二溶液の流速uは10-3m/sであった。ここで流体の密度および粘度として純水の密度および粘度(ρ=103kg/m3、μ=10-3Pa・sを)用いて前述の式からレイノルズ数を試算すると、Re=1となり、臨界レイノルズ数を3桁も下回る値であった。この試算から、前述のY字型流路を有するマイクロチップにおいて、第一溶液および第二溶液の流れが層流であったことが確認された。
Y字型流路を有するマイクロチップを用いた検出において、CRP濃度20nMの検体溶液を用いて得られた蛍光画像を図10Aに示し、図10A中の破線に沿った蛍光強度プロファイルを図10B(増幅時間:10分、CCD 露光時間:0.3秒)に示す。図10に示すように、流路の中心線が強い蛍光を発した。これは流路中心線上で被検出物質上に樹状構造が形成されたことを示す結果である。
図11に、異なる濃度のCRPを含む検体溶液およびブランク溶液を送液した場合の第一溶液および第二溶液の送液時間(増幅時間)と蛍光強度との関係を示す。図11に示すように、CRP濃度とピーク強度との間には良好な相関が見られた。また、図11に示す結果から、最小濃度(2.0pM)の場合、増幅時間10分でブランク溶液と有意な差が見られた。よって、増幅時間10分で検体溶液中のCRPの有無を判定することが可能である。抗体の固定化および10分の増幅を含んだイムノアッセイの総所要時間は23分であり短時間で簡便に信号を増幅することができた。得られた結果から作成した検量線を図12に示す。図12に示す検量線から求められる検出限界は0.15pM(17pg/mL)であり、標準的なELISAと同程度であった。
比較用マイクロチップを用いて得られたCRP濃度と蛍光強度との関係を図13に示す。図13に示すように、異なる増幅用試薬を含む2つの溶液を交互にI字型流路に送液する方法では、F−SA溶液の送液を3回行うことによって初めて有意な増幅効果が得られた。この方法では、検体溶液中の被検出物質が微量(例えば10pM以下)であると、被検出物質を検出するためには2液の交互送液を複数回繰り返す必要があるため、長時間を要し簡便な信号増幅は困難であることがわかる。
2−1.第一溶液と第二溶液の予備混合
第一物質(第一の増幅用試薬)として、200μg/mLのFITC標識ストレプトアビジン(F-SA, Sigma, St. Louis, MO)溶液を、1% BSAを含むPBSで調製した。第二物質(第二の増幅用試薬)として、200μg/mLのビオチン化ウサギ抗ストレプトアビジン抗体(B-anti-SA, Rockland Immunochemicals, Gilbertsville, PA)溶液を、1% BSAを含むPBSで調製した。両溶液をそれぞれ1.5μl採取して混合し、第一物質および第二物質を含む混合溶液を調製した。
2−2.溶液の送液
前述の比較用マイクロチップを用いて、第一溶液および第二溶液を順次送液する代わりに、調製した混合溶液1.5μlを送液した以外は上記1−3.と同様の操作を行った。
2−3.蛍光強度の測定
上記2−2.の操作を行ったマイクロチップについて、前述の1−4.と同様の方法で蛍光強度の測定を行った。前述の1−3.において(6), (8), および(10)の溶液の送液中の蛍光画像から測定した蛍光強度とともに結果を図14に示す。
2−4.結果
図14に示すように、第一溶液と第二溶液を予め混合した後にマイクロ流路内に送液する方法では、ブランクと同程度の蛍光強度となり信号増幅を行うことはできなかった。これにより、予め第一物質と第二物質の複合体を形成し、この複合体を被検出物質と結合させることは困難であることが確認された。これに対し、先に示したように異なる分岐流路から2種の溶液を連続的に送液する方法によれば、信号を増幅し検出度を顕著に向上させることができる。
本発明の物質検出方法は、抗原、抗体、核酸等の各種生体分子の検出方法として好適である。
従来の樹状増幅の説明図である。 マイクロ流体制御機構を有するマイクロチップの概略構成上面説明図を示す。 図3(a)は、図2に示すマイクロチップのA−A線による断面図(概略構成縦断面図)を示し、図3(b)は、図2に示すマイクロチップのB−B線による断面図(概略構成縦断面図)を示す。 図2に示すマイクロチップの動作原理を示す説明図であり、(a)は脱気処理を示す説明図であり、(b)は液体の滴下を示す説明図であり、(c)は2液の混合を示す説明図であり、(d)は(c)の一部拡大説明図である。 図5(a)、(b)、(c)、(d)は、本発明で使用可能なマイクロ流体制御機構を有するマイクロチップの製造過程を示す概略構成説明図である。 第一流路および第一流路から分岐する2つの分岐流路を有するマイクロチップの概略図である。 被検出物質と間接に結合可能な第一物質を使用する方法(方法I)の説明図である。 3つの分岐流路を有するマイクロチップの概略図である。 Y字型流路を有するマイクロチップおよび直線型(I字型)流路を有するマイクロチップの概略図である。 図10Aは、Y字型流路を有するマイクロチップを用いた検出において、CRP濃度20nMの検体溶液を用いて得られた蛍光画像を示し、図10Bは、図10A中の破線に沿った蛍光強度プロファイルを示す。 Y字型流路を有するマイクロチップを用いた検出において、異なる濃度のCRPを含む検体溶液およびブランク溶液を送液した場合の第一溶液および第二溶液の送液時間(増幅時間)と蛍光強度との関係を示す。 Y字型流路を有するマイクロチップを用いた検出により得られた検量線を示す。 直線型(I字型)流路を有するマイクロチップを用いて得られたCRP濃度と蛍光強度との関係を示す。 第一物質と第二物質を予め混合した混合溶液を、直線型流路を有するマイクロチップに送液した後に得られた蛍光強度を示す。

Claims (11)

  1. 第一流路および第一流路から分岐する少なくとも2つの分岐流路を有するマイクロチップにおいて物質を検出する方法であって、
    被検出物質と結合可能な部位を有する捕捉物質が内壁に固定化された第一流路内へ検体溶液を送液すること、ならびに、
    上記送液後の第一流路内へ、被検出物質と直接または間接に結合可能な第一物質を含む第一溶液、および第一物質と直接結合可能な第二物質を含む第二溶液を、異なる分岐流路から略同時に送液することを含み、
    第一物質および第二物質は、それぞれ他方の物質と結合可能な部位を2つ以上有し、
    上記第一溶液および第二溶液の送液中および/または送液後の第一流路において、被検出物質の検出を行う物質検出方法。
  2. 検体溶液の送液中ならびに/または送液後かつ第一溶液および第二溶液の送液前に、被検出物質と結合可能な部位および第一物質と結合可能な部位を有する連結物質を含む溶液を第一流路内へ送液することを含む請求項1に記載の物質検出方法。
  3. 上記検体溶液の送液および連結物質含有溶液の送液は、検体溶液および連結物質含有溶液を、異なる分岐流路から第一流路内へ略同時に送液することによって行われる請求項2に記載の物質検出方法。
  4. 第一物質および第二物質の少なくとも一方は、他方の物質と結合可能な部位を3つ以上有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の物質検出方法。
  5. 上記送液中、第一溶液および第二溶液はそれぞれ層流を形成する請求項1〜4のいずれか1項に記載の物質検出方法。
  6. 第一物質および/または第二物質は標識を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の物質検出方法。
  7. 上記被検出物質の検出は、第一溶液および第二溶液の送液中および/もしくは送液後の第一流路における標識の有無を観察することにより、ならびに/または、該流路において標識から得られるシグナルを測定することにより行われる請求項6に記載の物質検出方法。
  8. 被検出物質は生体分子である請求項1〜7のいずれか1項に記載の物質検出方法。
  9. 生体分子は蛋白質または核酸である請求項8に記載の物質検出方法。
  10. 捕捉物質は被検出物質に対する抗体である請求項9に記載の物質検出方法。
  11. 検体溶液の送液前に、第一流路へブロッキング溶液を送液することを更に含む請求項1〜10のいずれか1項に記載の生体分子検出方法。
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