JP4775701B2 - 酵素の計測方法および計測装置 - Google Patents
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Description
自己触媒反応とは、反応進行にともなって、反応物質が増加したり、反応を触媒する物質が増加する化学反応である。
この反応の特徴は、反応進行にともなって、反応速度が指数関数的に増大し、ある時間が経過した時に反応が急激に進むことである。この反応において反応開始剤となる物質(たとえば反応を触媒する酵素)をトリガーと呼ぶ。そして、トリガーの量は反応開始から反応終点までの時間(誘導期間)から求めることができる。自己触媒反応では、混合して反応を開始させても誘導期間は、ほとんど無反応であるかのように進み、このような誘導期間を過ぎて急激に反応が進行すると共に完了する。したがって、誘導期間とは、このように反応物および必要な触媒を混合してから反応が完了するまでの期間であると共に、その期間の経過の直前まで実質的に反応が進行せず、経過時点でほぼ瞬時に反応が完了する期間であることを意味する。
HSO3- + H2O2 + H+
→ 2H+ + SO4 2- + H2O ・・・・・(1)
Co2+イオンは、式(2)の反応に対して触媒として働くため、結果的に、上記の(1)の反応と同様、反応進行とともに反応速度が高まっていく。Co−(5−Br−PAPS)2 は紫色、その分解生成物は無色であるため、誘導期間が経過した後、紫色だった反応溶液は無色透明になる。
本発明に係る酵素の計測方法では、自己触媒反応を流路中で行う。自己触媒反応に関わる試薬、および試料液は、ポンプなどを用いて流路に流して混合し、例えば、ガラス棒にポリテトラフロロエチレンチューブをらせん状に巻きつけた流路(コイル)の中に通す。このような形態では、コイルの任意の長さの場所を境に自己触媒反応に伴う変化(例えば溶液の変色)が起こる。
∫S(X) dx = V × T ・・・・・(3)
式(3)において、管路の断面積を一定のSとすると、
S × x = V × T
x = V/S × T
となり、これは、
距離 = 流速 × 時間 ・・・・・(4)
と解釈することもできる。すなわち、流量だけでなく、流速が一定であることを意味する。
式(1)の自己触媒反応にBTBを添加した系を用いた場合、試料液中のHRP濃度が異なると、その濃度の増加とともにガラス棒上の青色バンドの長さが短くなる。それは、HRP濃度の増加に伴って自己触媒反応の速度が向上し、誘導期間が短くなった結果、変化が起こる場所までの距離が短くなるためである。この事実に基づき、自己触媒反応をフロー系で検出する方法を確立したのが本発明である。
管径が一定の場合には、距離と誘導期間とが比例関係にあり、これに基づいて、HRP濃度を特定することができる。
管径が変化しても、流量を一定とすれば、誘導期間中の全流量を測定し、誘導期間中の全流量と、誘導期間とが比例関係にあることからHRP濃度を特定することができる。
本発明者らは、pH変化を利用した自己触媒反応系であるBTB/亜硫酸塩/過酸化水素自己触媒反応を流路に流して行った。その結果、攪拌コイル中の任意の長さを境界として、青色バンドと黄色バンドが現れた。この自己触媒反応系では、ある誘導時間を経て、反応溶液のpHが急激に下降する。そのため、青色バンドの溶液は高pH(反応進行前)の溶液、黄色バンドの溶液は低pH(反応進行後)の溶液に相当する。青色バンドと黄色バンドの境界の位置の変動は6時間の連続運転でおよそ±1mm程度であった。このことから、本発明では、従来の変色時間を目視とストップウォッチで測定するバッチ系自己触媒反応のように、急激に反応が進む瞬間まで溶液を監視する必要はない。
実施例
1.試薬
BTB、亜硫酸ナトリウム、HRPは和光純薬製を使用した。過酸化水素は関東化学製を使用した。その他の試薬は断りの無い限り市販の特級試薬を蒸留水で希釈して使用した。
送液手段としては、プランジャーポンプを用いることができる。本実施例では、東京化成製のダブルプランジャー型ポンプTCI−NOX1000ωを2台使用した。プランジャータイプ以外のポンプとしては、流量比保持を重視する場合はペリスタティックポンプが好適であり、微小化を目指すにはピエゾポンプが適している。
亜硫酸塩/BTB水溶液は亜硫酸ナトリウム0.64gとBTB 15mgを蒸留水に溶解し、50mLに希釈し、流路に流す際はこの溶液をさらに5倍に希釈して使用した。過酸化水素水は30%過酸化水素水4mLを蒸留水で100mLに希釈して使用した。
HRP試料溶液は蒸留水で希釈し、HRP濃度100μgL-1に調製したものを母液とし、これをさらに蒸留水で希釈して使用した。
図1に、本発明の実施例であるフローシステム装置の概略を示す。プランジャーポンプ1を用いて、流路AにはBTB/亜硫酸塩水溶液2を、流路Bには過酸化水素水3をそれぞれ流速0.5mL・min-1で流した。同様に、流路CにはHRP試料溶液4を流速1.0mL・min-1で流した。なお、図1の装置は、本発明を実施するための一実施形態であり、本発明を実施するための装置は、図1のものに限定されるものではない。
本実施例では、試料液中のHRP濃度を0ppm、1ppm、2ppm、1ppm、0ppmと変化させたときに、時間経過に伴ない、青色領域6の長さがどのように変化するかを測定した。結果を図2に示す。HRP濃度が増加すると青色領域6の長さは短くなった。また、濃度が減少して初期の0ppmに戻ると、青色領域の長さは元に戻った。
青色領域6の長さは誘導期間によって変化する。本発明者らは、亜硫酸塩/過酸化水素系自己触媒反応の誘導時間はHRP濃度の負の常用対数値に比例することを認識している。このHRP濃度との相関関係の一致は、流速が一定の場合、距離が時間に比例する式(4)の関係から導くことができる。青色領域6の長さとHRP濃度の対数値の関係は1〜50ppmの間で良好な直線性を示した(図3)。このように、青色領域6の長さはHRP濃度の負の常用対数値に比例した。
なお、図3に係る実施例では、青色領域6の長さとHRP濃度の対数値の関係を示した。このように、管径が一定の場合には、距離(青色領域6の長さ)と誘導期間とが比例関係にあり、これに基づいて、HRP濃度を特定することができる。すなわち、検量線を得ることができる。
しかし、前記したように、管径が変化しても、流量を一定とすれば、誘導期間中の全流量を測定し、誘導期間中の全流量と、誘導期間とが比例関係にあることからHRP濃度を特定することができる。すなわち、流量に基づいて検量線を得ることができる。
例えば、反応時間が遅ければ、反応初期では経路を太くして流速を落とし、反応が現れる頃の到達時間(誘導期間の終了時間)付近では、その反応時間の差を顕著に見るため、半径を細くして、流速を速くするといったように管(チューブ)を構成することもできる。また、管を徐々に細くして、同一流量で引き流速を徐々に速くすることも可能である。このような形態であっても、誘導期間中の全流量を計測することができる。このように、必ずしも流速を一定とせず、流量を一定とし、誘導期間中の全流量を測定し、誘導期間中の全流量と、誘導期間との比例関係からHRP濃度を特定するように実施することも、本発明の技術的範囲に含まれる。
本実施例で用いた、式(1)で表される自己触媒反応は、試薬2、3が混合すると、HRPが存在しなくても、反応が進行する。この、いわゆるブランク反応の影響を軽減するには、試料液4は、試薬と試料液の混合タイミングを近づけることが好ましい。最も好適な方法は、試薬と試料液とを同時に混合することである。
A.複数の試料の計測
複数の試料を計測する場合は、試料液を保持する容器とそれに付随する流路を複数構成し、電磁弁などの流路切りかえ機構を加えて、所望の試料液を送液できるよう、装置を構成すればよい。
本発明の装置の実用化を想定すると、校正機能の実現は重要である。校正機能をもつ装置の構成は、基本的に、上記図1〜図3に係る実施例で用いた装置の構成と同じである。試料液を保持する容器のうち、ひとつに酵素を含まない校正用溶液(ゼロ校正液)を備えれば、それを用いて、ゼロ校正を行うことができる。また、既知の濃度の酵素を含む校正用溶液(スパン校正液)を備えれば、スパン校正を行うことができる。これらのいずれか一方、ないしは両方を備えることで、校正機能を実現できる。
自己触媒反応は温度によってその反応速度が影響を受ける。装置を一定温度に調節すれば、周囲温度の影響を避けることが可能である。
また、所定の自己触媒反応について、温度変化が反応速度に与える影響をあらかじめ把握しておけば、装置に温度センサを設けて、その温度によって温度影響を演算で補正することができる。この方式は、装置の温度調節機構を省略できるので、装置の簡略化には好ましい。
本発明に係る酵素の計測方法では、測定の間、試薬が消費され続けることになる。試薬消費を抑制するには、計測系のマイクロ化が有効である。マイクロチップフローシステムを実現すれば、環境に与える負荷を軽減した環境調和型の計測方法となることが期待される。
2 BTB/亜硫酸塩水溶液
3 過酸化水素水
4 HRP試料溶液
5 反応コイル
6 青色領域
8、9 ミキサー
10 廃液
Claims (7)
- 酵素が触媒として作用する自己触媒反応を利用し、反応が急激に進行するまでの時間にもとづいて、試料液に含まれる酵素の量を求める酵素の計測方法であって、
上記試料液に自己触媒反応に関わる試薬を混合して混合液とし、
該混合液を一定の流量で流路に流し、
該流路中で自己触媒反応を起こさせ、
自己触媒反応に伴って上記流路中に現れる変色した混合液の流量から誘導時間を算出することにより、上記試料液に含まれる酵素の量を求め、
上記流路中に現れる変色をpH指示薬の呈色状態の変化を利用して検知する場合には、上記試料液と上記自己触媒反応に関わる試薬と共にpH指示薬も混合することを特徴とする酵素の計測方法。 - 上記流路の管径を一定とし、自己触媒反応に伴って流路中で現れる変色領域の長さ、または、非変色領域の長さのどちらか一方から、試料液に含まれる酵素の量を計測することを特徴とする請求項1に記載の酵素の計測方法。
- 請求項1または2の酵素の計測方法を実施するための装置であって、
上記試薬を保持する手段と、
上記試料液を保持する手段と、
上記試薬と上記試料液とを両者を混合する領域へ送るための送液手段と、
上記試薬、上記試料液およびそれらの混合液を流す流路と
上記試薬および上記試料液を混合する手段と
変色状態を観察するための手段とを備える
ことを特徴とする酵素の計測装置。 - 上記流路のうち、上記試薬と上記試料液の上記混合液を流す部分が透明であることを特徴とする請求項3に記載の酵素の計測装置。
- 上記混合液を流す部分がらせん状構造を有することを特徴とする請求項4に記載の酵素の計測装置。
- 複数の試料液を保持する手段と、
複数の流路と、
該流路の切りかえ機構とを備える
ことを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の酵素の計測装置。 - 酵素を含まない校正用溶液と、
既知の濃度の酵素を含む校正用溶液と
のいずれか一方、または両方を備える
ことを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の酵素の計測装置。
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