この種の多方向入力装置の従来例を図34および図35を用いて説明すると、これらの図に示す多方向入力装置は、ハウジングをなす枠体51および底板部材52と、レバー部53aや柱状部53bを有して傾動操作可能な操作部材53と、枠体51に回動可能に軸支されて軸線方向を互いに直交させている第1駆動部材54および第2駆動部材55と、操作部材53の柱状部53bに係合可能に挿通されて底板部材52上に摺動可能に搭載された作動部材56と、操作部材53と作動部材56間に弾接状態で介設されたコイルばね57と、第1駆動部材54の回転位置を検出する回転型可変抵抗器58と、第2駆動部材55の回転位置を検出する図示せぬ回転型可変抵抗器とによって主に構成されている(例えば、特許文献1参照)。
枠体51は上部に開口51aを有して下部を開放した方形箱状の金属板からなり、この枠体51の下端部に底板部材52を組み付けることによって内部が空洞のハウジング(筐体)が形成されている。操作部材53は互いに逆向きに延びるレバー部53aと柱状部53bを有しており、レバー部53aは枠体51の開口51aを貫通して上方へ突出している。柱状部53bはハウジングの空洞内で作動部材56の係合穴56aに進出後退可能に挿入されており、レバー部53aが傾倒すると作動部材56が底板部材52上を摺動しながら傾いて、柱状部53bが係合穴56a内へ深く挿入されるようになっている。操作部材53には柱状部53bを包囲する筒状部53cが形成されており、柱状部53bと筒状部53cとの間の環状空間にコイルばね57が組み込まれている。
第1駆動部材54は中央部に長孔54aを有するアーチ状に成形されており、長孔54aには操作部材53のレバー部53aが挿通されている。この第1駆動部材54は、長手方向の一端部が枠体51に軸支されて他端部が回転型可変抵抗器58の摺動子受け59に係止されており、この長手方向を軸線方向として第1駆動部材54は回動可能である。つまり、レバー部53aを図34の紙面と直交する方向へ傾倒させることによって、第1駆動部材54がレバー部53aに駆動されて回転し、それに伴い摺動子受け59も回転するようになっている。摺動子受け59には摺動子60が保持されており、回転型可変抵抗器58内の基板61に設けられた抵抗体パターンに摺動子60が摺接しているため、第1駆動部材54に連動して摺動子受け59が回転すると、抵抗体パターンに対する摺動子60の接触位置が変化する。それゆえ、回転型可変抵抗器58の出力抵抗値に基づいて第1駆動部材54の回転方向および回転量を検出することができる。ただし、レバー部53aを長孔54aに沿って傾倒させても第1駆動部材54が連動することはない。
第2駆動部材55の長手方向両端部には図示せぬ軸部が突設されており、これら両軸部が枠体51に軸支されているため、この長手方向を軸線方向として第2駆動部材55は回動可能である。また、一方の軸部が図示せぬ回転型可変抵抗器の摺動子受けに係止されており、この回転型可変抵抗器の構成は上記の回転型可変抵抗器58と同様である。第2駆動部材55の中央部にはハウジング内で操作部材53を挿通させる貫通孔が形成されており、この貫通孔を挟んで対向する箇所にそれぞれ受け部55aが形成されている。受け部55aには操作部材53の支軸53dが回動自在に支承されており、レバー部53aを図34の紙面と直交する方向へ傾倒させても第2駆動部材55が連動することはない。そして、レバー部53aを図34の矢印A−A方向へ傾倒させることによって、図35に示すように第2駆動部材55が支軸53dに駆動されて回転し、それに伴い図示せぬ摺動子受けも回転するようになっている。したがって、図示せぬ回転型可変抵抗器の出力抵抗値に基づいて第2駆動部材55の回転方向および回転量を検出することができる。
つまり、この多方向入力装置は、操作部材53のレバー部53aを傾倒させると第1駆動部材54や第2駆動部材55が回転駆動されて、その回転方向および回転量が回転型可変抵抗器58等によって検出可能なため、レバー部53aの傾倒方向や傾倒角度に応じた信号が得られるようになっている。また、操作部材53と作動部材56が図34に示す中立位置で起立している非操作時に、レバー部53aに操作力を付与して傾倒させていくと、例えば図35に示すように柱状部53bが作動部材56の係合穴56a内へ深く進入していくため、コイルばね57が圧縮されて弾性反発力を生起する。そのため、レバー部53aに対する操作力が除去されると、コイルばね57の弾性反発力によって操作部材53と作動部材56が図34に示す中立位置まで押し戻されると共に、操作部材53を介して第1駆動部材54や第2駆動部材55が回転前の中立位置まで押し戻され、それに伴い回転型可変抵抗器58等の摺動子受けがその基準位置(非操作時の回転位置)へと復帰するようになっている。
上記の従来例ではレバー部53aの傾倒角度を大きくしていくと、操作部材53と作動部材56との間に組み込まれたコイルばね57が次第に圧縮して弾性反発力を増大させるが、作動部材56が底板部材52上を摺動するため、レバー部53aの傾倒に必要な作動力はさほど変化しない。しかしながら、例えばゲーム機のコントローラ等においては、操作者がレバー部の傾倒角度の大小を把握しやすくするために、レバー部を所定角度傾倒させたときに作動力が明確に変化するような構造を要望されることがある。
そこで従来より、図36に示すように、操作部材53と作動部材56との間に2個のコイルばね62,63を組み込むことによって、レバー部53aの傾倒に必要な作動力が所定の傾倒角度で明確に変化するように構成した多方向入力装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。図36の要部断面図に示すように、操作部材53と作動部材56との間には、弾接状態で組み込まれた第1コイルばね62と、無負荷状態で組み込まれた第2コイルばね63とが、図示上下方向にずらして配置されている。かかる構成において、傾動操作開始時には第1コイルばね62の付勢力に抗する操作力を付与することによってレバー部53aを傾倒させることができるが、レバー部53aが所定角度傾倒して第2コイルばね63が作動部材56と操作部材53とに挟圧された状態になると、このレバー部53aをさらに傾倒させるためには第1および第2コイルばね62,63の付勢力に抗する操作力が必要となる。つまり、レバー部53aを所定角度傾倒させると作動力が明確に変化して操作感触が異なるように設計されており、これによってレバー部53aの傾倒角度の大小を操作者が手指で感得しやすくなっている。
特開2000−112552号公報(第3−6頁、図8)
特開2007−59160号公報(第10頁、図32)
発明の実施の形態を図面を参照して説明すると、図1は本発明の実施形態例に係る多方向入力装置の外観図、図2は該多方向入力装置のハウジング内の構造を示す分解斜視図、図3は該多方向入力装置の回転型可変抵抗器の構造を示す分解斜視図、図4は該多方向入力装置の非操作時の平面図、図5は図4のA−A線に沿う断面図、図6は図4のB−B線に沿う断面図、図7は該多方向入力装置のレバー部を傾倒させて操作感触が変化する直前の状態を示す平面図、図8は図7のC−C線に沿う断面図、図9は該多方向入力装置のレバー部を図7とは逆向きに傾倒させた状態を示す平面図、図10は図9のD−D線に沿う断面図、図11は該多方向入力装置に用いられた第1駆動部材の斜視図、図12は該第1駆動部材の平面図、図13は該第1駆動部材を短手方向一端側から見た側面図、図14は該第1駆動部材を長手方向一端側から見た側面図、図15は該第1駆動部材を長手方向他端側から見た側面図、図16は該多方向入力装置に用いられる第2駆動部材の斜視図、図17は該第2駆動部材の平面図、図18は該第2駆動部材を短手方向一端側から見た側面図、図19は該第2駆動部材を長手方向一端側から見た側面図、図20は該第2駆動部材を長手方向他端側から見た側面図、図21は該多方向入力装置に用いられる操作部材の斜視図、図22は該操作部材の平面図、図23は図22のE−E線に沿う断面図、図24は該操作部材の側面図、図25は該操作部材の底面図、図26は該多方向入力装置に用いられる板ばねの斜視図、図27は該板ばねの正面図、図28は該板ばねの側面図、図29は該多方向入力装置に用いられる摺動子受けの斜視図、図30は該摺動子受けの正面図、図31は該摺動子受けの側面図、図32は該摺動子受けの非操作時の回転位置を示す説明図、図33は図32のF−F線に沿う断面図である。
図1〜図10に示す多方向入力装置は、ハウジングをなす枠体1および底板部材2と、レバー部3aや柱状部3bを有して傾動操作可能な操作部材3と、枠体1に回動可能に軸支されて軸線方向を互いに直交させている第1駆動部材4および第2駆動部材5と、操作部材3の柱状部3bに係合可能に挿通されて底板部材2上に摺動可能に搭載された作動部材6と、円環状のばね受け部材7と底板部材2間に組み込まれて第1および第2駆動部材4,5を常時弾性付勢する第1コイルばね8と、操作部材3と作動部材6間に組み込まれて非操作時には無負荷状態の第2コイルばね9と、第1駆動部材4の回転位置を検出する回転型可変抵抗器10と、第2駆動部材5の回転位置を検出する回転型可変抵抗器11と、第2駆動部材5を介して押圧操作可能な押釦スイッチ12とによって概略構成されている。
枠体1は上部に開口1aを有して下部を開放した方形箱状の金属板からなり、この枠体1の下端部に樹脂モールド品の底板部材2を組み付けることによって、内部が空洞のハウジング(筐体)が形成されている。このハウジングには回転型可変抵抗器10,11のステータ部が固定される。具体的には、枠体1の一側面に回転型可変抵抗器10のケース20が固定され、他側面に回転型可変抵抗器11のケース30が固定される。底板部材2のうち枠体1に覆われる部分には、ハウジングの内底面となる円形の受け面2aと、受け面2aの周囲に沿って円環状に延びる溝部2bとが形成されている。後述するように、受け面2aには作動部材6が摺動可能に搭載され、溝部2bには第1コイルばね8が搭載される。なお、受け面2aは略平坦状に形成されており、その中央部には、非操作時の操作部材3の柱状部3bと対向するドーム状の隆起部2dが僅かに突出して設けられている。また、底板部材2のうち枠体1に覆われない延出部2cには、押釦スイッチ12が取り付けられる。
操作部材3のレバー部3aは枠体1の開口1aを貫通して上方へ突出している。レバー部3aとは逆向きに延びる柱状部3bは、ハウジングの空洞内で作動部材6の係合穴6aに進出後退可能に挿入されている。この作動部材6は底板部材2の受け面2a上に摺動可能に搭載されて柱状部3bと係合しており、レバー部3aが傾倒すると作動部材6の下部に設けられたリング状の摺接部6bが受け面2a上を摺動しながら傾いて、柱状部3bが係合穴6a内へ深く挿入されるようになっている。操作部材3には柱状部3bを包囲する筒状部3cが形成されており、柱状部3bと筒状部3cとの間の環状空間3dに第2コイルばね9が配置されている。この第2コイルばね9の一端部は作動部材6に圧入されることにより固定されているが、他端部は少なくとも非操作時には拘束されておらず、よって非操作時に第2コイルばね9は無負荷状態に保たれている(図5,6参照)。そして、レバー部3aが所定角度傾倒すると、柱状部3bが係合穴6a内へ深く挿入されて環状空間3dの天井面が第2コイルばね9に当接するため、レバー部3aをさらに傾倒させると、第2コイルばね9が該天井面と作動部材6とに挟圧される圧縮状態となって弾性反発力を生起するようになっている(図7,8参照)。また、この操作部材3には、第2駆動部材5の後述する受け部5dに支持される一対の支軸3eが設けられている。
第1駆動部材4はアーチ状に成形された樹脂モールド品で、中央部に長孔4aを有して長手方向両端部に軸部4b,4cを突設している。長孔4aには操作部材3のレバー部3aが挿通されており、このレバー部3aを長孔4aに沿って傾倒させても第1駆動部材4が連動することはない。この第1駆動部材4は、一方の軸部4bが枠体1の軸孔1bに軸支され、他方の軸部4cが回転型可変抵抗器10の摺動子受け21に係止されているため、両軸部4b,4cを回転軸として第1駆動部材4は回動可能である。つまり、レバー部3aを図5の矢印P−P方向へ傾倒させることによって、第1駆動部材4がレバー部3aに駆動されて回転し、それに伴い摺動子受け21も回転するようになっている。後述するように摺動子受け21には摺動子22がかしめや接着等により固定されて保持されており、回転型可変抵抗器10内の基板23に設けられた抵抗体パターン(図示せず)に摺動子22が摺接しているため、第1駆動部材4に連動して摺動子受け21が回転すると、円弧状の抵抗体パターンに対する摺動子22の接触位置が変化する。それゆえ、回転型可変抵抗器10の出力抵抗値に基づいて第1駆動部材4の回転方向および回転量を検出できるようになっている。
第2駆動部材5は樹脂モールド品で、中央部に角孔5aを有して長手方向両端部に軸部5b,5cを突設していると共に、環状に形成されて角孔5aを短手方向に挟んで対向する一対の受け部5dを有している。各受け部5dには操作部材3の支軸3eが回動自在に支承されており、レバー部3aを図6の紙面と直交する方向(図5の矢印P−P方向)へ傾倒させても第2駆動部材5が連動することはない。第2駆動部材5の一方の軸部5bは枠体1の半円形状の軸受部1cに軸支されており、他方の軸部5cは枠体1の軸孔1dを貫通して回転型可変抵抗器11の摺動子受け31に係止されているため、両軸部5b,5cを回転軸として第2駆動部材5は回動可能である。つまり、レバー部3aを図6の矢印Q−Q方向へ傾倒させることによって、第2駆動部材5がレバー部3aに駆動されて回転し、それに伴い摺動子受け31も回転するようになっている。後述するように摺動子受け31には摺動子32がかしめや接着等により固定されて保持されており、回転型可変抵抗器11内の基板33に設けられた抵抗体パターンに摺動子32が摺接しているため、第2駆動部材5に連動して摺動子受け31が回転すると、円弧状の抵抗体パターンに対する摺動子32の接触位置が変化する。それゆえ、回転型可変抵抗器11の出力抵抗値に基づいて第2駆動部材5の回転方向および回転量を検出できるようになっている。
円環状のばね受け部材7は底板部材2の溝部2bに対向して配置され、これらばね受け部材7と溝部2b間に第1コイルばね8が弾接状態で介設されている。この第1コイルばね8は操作部材3よりも大径で、傾動操作後に第1および第2駆動部材4,5を元の中立位置へ押し戻す復帰ばねとして動作する。
回転型可変抵抗器10は、枠体1に取り付けられるケース20と、抵抗体パターンおよび端子24を有してケース20に固定された基板23と、該抵抗体パターンに摺接する摺動子22を保持して回動可能な摺動子受け21と、この摺動子受け21の基板23側とは反対側の面に対向して配置されケース20に固定された板ばね25とを具備している。弾性を有する金属板からなる板ばね25は円弧状の弾性片25aを有し、この弾性片25aの所定位置(中央位置)に凸部25bが形成されている。また、摺動子受け21には、非円形状(矩形状)の孔を有すると共に基板23に軸支される円筒部21aと、凸部25bが係脱自在な凹部21bとが形成されており、第1駆動部材4の軸部4c(正確には、軸部4cの先端側の非円形状突部)が円筒部21aの非円形状の孔内に係止されて摺動子受け21と一体的に回転するようになっている。
凸部25bと凹部21bは、第1駆動部材4を介して回転する摺動子受け21の基準位置(非操作時の回転位置)を高精度に規定するための回転位置補正手段を構成している。すなわち、凸部25bと凹部21bは非操作時に略対向するように設定されており、図32,33に示すように、両者25b,21bが略対向すると、凸部25bが凹部21b内に嵌入して基板23に対する摺動子受け21の回転位置が補正されるようになっている。
回転型可変抵抗器11は、上記の回転型可変抵抗器10と同様に、枠体1に取り付けられるケース30と、抵抗体パターンおよび端子34を有してケース30に固定された基板33と、該抵抗体パターンに摺接する摺動子32を保持して回動可能な摺動子受け31と、この摺動子受け31の基板33側とは反対側の面に対向して配置されケース30に固定された板ばね35とを具備している。弾性を有する金属板からなる板ばね35は円弧状の弾性片35aを有し、この弾性片35aの所定位置(中央位置)に凸部35bが形成されている。また、摺動子受け31には、非円形状(矩形状)の孔を有すると共に基板33に軸支される円筒部31aと、凸部35bが係脱自在な凹部31bとが形成されており、第2駆動部材5の軸部5c(正確には、軸部5cの先端側の非円形状突部)が円筒部31aの非円形状の孔内に係止されて摺動子受け31と一体的に回転するようになっている。
凸部35bと凹部31bは、第2駆動部材5を介して回転する摺動子受け31の基準位置(非操作時の回転位置)を高精度に規定するための回転位置補正手段を構成している。すなわち、凸部35bと凹部31bは非操作時に略対向するように設定されており、両者35b,31bが略対向すると、凸部35bが凹部31b内に嵌入して基板33に対する摺動子受け31の回転位置が補正されるようになっている。
押釦スイッチ12は昇降可能なステム部12aを有し、スナップ係合等によって底板部材2の延出部2cに取り付けられている。ステム部12a上には第2駆動部材5の軸部5bが搭載されており、後述するようにレバー部3aがプッシュ操作されると、軸部5bがステム部12aを押下して押釦スイッチ12の接点切替が行えるようになっている。
次に、本実施形態例に係る多方向入力装置の動作について説明する。まず、レバー部3aに操作力が加わっていない非操作時には、図5,6に示すように、第1コイルばね8がばね受け部材7を介して第1および第2駆動部材4,5を図示上方へ弾性付勢しているため、両駆動部材4,5がそれぞれ中立位置に保持されていると共に、両駆動部材4,5に位置規制されて操作部材3が起立姿勢(中立位置)に保持されており、よって受け面2a上の作動部材6も起立姿勢に保持されている。また、第1および第2駆動部材4,5が中立位置に保持されているため、各軸部4c,5cに連結されている回転型可変抵抗器10,11の摺動子受け21,31もそれぞれ基準位置(非操作時の回転位置)に保持されている。しかも、本実施形態例では、この基準位置の精度が板ばね25,35を用いた前記回転位置補正手段によって極めて高くなっている。
すなわち、各駆動部材4,5の軸部4c,5cと摺動子受け21,31との間には組立性に配慮して僅かなガタが見込まれており、このガタ分だけ摺動子受け21,31の基準位置がばらつく可能性があるため、本実施形態例では、板ばね25,35の凸部25b,35bが非操作時に摺動子受け21,31の凹部21b,31bと略対向するように設定しておき、これら凸部25b,35bを略対向する凹部21b,31b内へ自動的に嵌入させることで摺動子受け21,31の回転位置が補正できるようにしてある。具体的には、図33に示す凹部21b(31b)の幅寸法wを、摺動子受け21(31)の基準位置のばらつきが吸収できる大きさに設定し、この凹部21b(31b)に対して係脱自在となるように凸部25b(35b)を滑らかな湾曲形状とする。これにより、図33に鎖線で示すように、凸部25b(35b)と凹部21b(31b)が互いの中心を若干ずらして対向したとしても、図示下向きに弾性付勢される凸部25b(35b)が摺動子受け21(31)を僅かに回転させて自動的に凹部21b(31b)と嵌合し、図33に実線で示す安定した状態に移行する。したがって、非操作時に、基板23,33に対する摺動子受け21,31の回転位置を精度よく規定できるようになっている。なお、凸部25b(35b)が嵌合する凹部21b(31b)の対向する角部は湾曲形状をした案内面となっており、この案内面が凸部25b(35b)に案内されることにより、摺動子受け21(31)の回転位置補正がより確実に行われるようにしている(図33参照)。
次に、中立位置に起立しているレバー部3aを図6の矢印Q−Q方向(図4の上下方向)へ傾倒させた場合の動作について説明する。かかる傾動操作において、レバー部3aを中立位置から傾倒させていくと第1コイルばね8が次第に圧縮されていくので、レバー部3aの傾倒に必要な作動力は次第に増大していき、かつレバー部3aの傾倒に伴い作動部材6が受け面2a上を摺動しながら一体的に傾倒していく。ただし、レバー部3aが図8に示す所定の傾倒角度に到達するまでは、環状空間3d内の第2コイルばね9が無負荷状態に保たれており、作動力は第1コイルばね8の圧縮量に応じて変化していくため、操作感触が急に変わるということはない。そして、レバー部3aの傾倒角度がこの所定角度を越えると、第2コイルばね9が環状空間3dの天井面と作動部材6とに挟圧される圧縮状態となって弾性反発力を生起するため、作動力が明確に変化する。つまり、レバー部3aを図8に示す所定角度以上傾倒させると、作動力は第1および第2コイルばね8,9の圧縮量に応じて変化するようになるため、それまでとは操作感触が異なる。よって操作者は、レバー部3aを所定角度傾倒させたか否かを操作感触の相違によって感得することができる。
また、図9,10に示すようにレバー部3aを大きく傾倒させると、第1コイルばね8が大きく圧縮されるため、作動力は顕著に増大するが、作動部材6が受け面2a上を摺動するため、第2コイルばね9が大きく圧縮されることはない。したがって、レバー部3aを作動力が明確に変化する所定角度以上傾倒させた後も、傾倒角度に応じて作動力を漸次増大させることができると共に、傾動操作時に作動部材6を受け面2a上で円滑に摺動させることができる。なお、レバー部3aを傾倒末端近傍まで傾倒させると、作動部材6の摺接部6bが受け面2aの隆起部2dに乗り上げるようになっており、その際には、第2コイルばね9がそれまでより(乗り上げる前より)大きく圧縮される。
こうしてレバー部3aを図6の矢印Q−Q方向へ傾倒させると、操作部材3の支軸3eに駆動される第2駆動部材5が軸部5b,5cを回転軸として回転するため、軸部5cに連結されている摺動子受け31が一体的に回転し、基板33の抵抗体パターンに対する摺動子32の接触位置が変化する。そのため、回転型可変抵抗器11の出力抵抗値に基づいて第2駆動部材5の回転方向および回転量を検出することができる。
また、中立位置に起立しているレバー部3aを図5の矢印P−P方向(図4の左右方向)へ傾倒させた場合には、長孔4a内のレバー部3aに駆動されて第1駆動部材4が軸部4b,4cを回転軸として回転するが、この場合も、レバー部3aを傾倒させていくと第1コイルばね8が次第に圧縮されていき、かつレバー部3aを所定角度以上傾倒させると第2コイルばね9が圧縮状態となるため、作動力の変化の仕方は前記傾動操作時(レバー部3aを図6の矢印Q−Q方向へ傾倒させる操作時)と同様である。そして、レバー部3aに駆動されて第1駆動部材4が回転すると、軸部4cに連結されている摺動子受け21が一体的に回転し、基板23の抵抗体パターンに対する摺動子22の接触位置が変化するため、回転型可変抵抗器10の出力抵抗値に基づいて第1駆動部材4の回転方向および回転量を検出することができる。つまり、この多方向入力装置は、レバー部3aを傾倒させると第1駆動部材4や第2駆動部材5が回転駆動され、それに伴い回転型可変抵抗器10,11の摺動子受け21,31が連動して回転するようになっているため、レバー部3aの傾倒方向や傾倒角度に応じた信号が得られるようになっている。
また、この多方向入力装置は、傾動操作後に操作力を除去すると圧縮状態の第1コイルばね8の弾性反発力によって第1駆動部材4や第2駆動部材5がその中立位置まで押し戻されるため、これら駆動部材4,5や圧縮状態の第2コイルばね9に駆動されて操作部材3も中立位置へ復帰し、図4〜図6に示す非操作時の状態に戻る。ただし、第2コイルばね9はレバー部3aが起立姿勢に戻る前に無負荷状態に復元するため、第2コイルばね9に操作部材3を中立位置まで戻す働きはない。そして、かかる駆動部材4,5の復帰動作に伴い、軸部4c,5cに連結されている摺動子受け21,31が操作時とは逆向きに回転駆動されて基準位置(非操作時の回転位置)へ復帰するため、回転型可変抵抗器10,11の出力抵抗値は非操作時に設定されているレベルに戻る。
なお、第1駆動部材4や第2駆動部材5がその中立位置へ復帰しても、回転型可変抵抗器10,11側において板ばね25,35の凸部25b,35bが摺動子受け21,31の凹部21b,31bと完全に対向するとは限らない。つまり、各駆動部材4,5と回転型可変抵抗器10,11との連結部分に存するガタ等の影響により、傾動操作後の復帰動作で摺動子受け21,31が元の回転位置から若干ずれてしまう可能性がある。しかし本実施形態例では、図33に示す凹部21b(31b)の幅寸法wが摺動子受け21(31)の基準位置のばらつきを吸収できる大きさに設定されており、非操作時に凸部25b(35b)の先端部が必ず凹部21b(31b)とオーバーラップする範囲内に配置されるように設定してあるため、凹部21b,31bと略対向した凸部25b,35bが摺動子受け21,31を僅かに回転させて自動的に該凹部21b,31b内へ嵌入し、それゆえ摺動子受け21,31が復帰する回転位置を常に高精度に規定できるようになっている。
次に、レバー部3aを押下させるプッシュ操作時の動作について説明する。例えば図5に示すようにレバー部3aが中立位置に起立しているとき、このレバー部3aを操作者が図示下方へ押し込むと、支軸3eを介して第2駆動部材5の受け部5dに押圧荷重が加わるため、軸孔1d内の軸部5cを支点として第2駆動部材5が図5の反時計回りに回転する。そのため、第2駆動部材5の軸部5bがステム部12aを押下して押釦スイッチ12の接点切替が行える。ただし、かかるプッシュ操作は、レバー部3aを傾倒させている傾動操作時にも行うことができる。
以上説明したように本実施形態例に係る多方向入力装置は、第1および第2駆動部材4,5を常時弾性付勢する第1コイルばね8が両駆動部材4,5と底板部材2との間に組み込んであると共に、非操作時に無負荷状態となる第2コイルばね9が操作部材3と作動部材6との間に組み込んであるため、作動部材6を底板部材2の受け面2a上で円滑に摺動させながら、レバー部3aの傾倒角度に応じて作動力を増大させることができると共に、レバー部3aを所定角度以上傾倒させたときに第2コイルばね9が圧縮されて弾性反発力を生起することから、作動力が明確に変化する所定の傾倒角度を手指で感得しやすくなっている。したがって、この多方向入力装置は、傾動操作時の作動力の変化によって操作量(レバー部3aの傾倒角度)を容易に把握することができる。また、傾動操作後に操作力が除去されると、操作部材3によって回転駆動された第1駆動部材4や第2駆動部材5が第1コイルばね8に弾性付勢されて中立位置へ復帰するので、これら第1および第2駆動部材4,5を非操作時にガタのない状態に保持することができ、それゆえ各駆動部材4,5に連動して回転する回転型可変抵抗器10,11の摺動子受け21,31を基準位置(非操作時の回転位置)へ精度よく復帰させることができて、高精度な検出が行えるようになっている。
また、この多方向入力装置では、各駆動部材4,5と回転型可変抵抗器10,11との連結部分、つまり軸部4c,5cと摺動子受け21,31との連結部分に存するガタ等の影響により、傾動操作後の復帰動作で摺動子受け21,31が元の回転位置から若干ずれたとしても、非操作時には板ばね25,35の凸部25b,35bと摺動子受け21,31の凹部21b,31bとが略対向するように設定してあり、かつ凸部25b,35bと凹部21b,31bは略対向すると自動的に嵌合状態へ移行して摺動子受け21,31の回転位置が補正されるようにしてある。したがって、傾動操作後に摺動子受け21,31が復帰する回転位置はほとんどばらつかず、こうして非操作時の摺動子受け21,31の回転位置を高精度に規定できることから、この多方向入力装置は極めて高精度な検出が可能である。
なお、本実施形態例では板ばね25,35に設けた凸部25b,35bを摺動子受け21,31の凹部21b,31bに嵌入させるという回転位置補正手段を採用しているため、構造が複雑化せず部品点数も抑えられている。ただし、他の構造の回転位置補正手段を採用してもよく、例えば、摺動子22,32の一部に設けた凸部を基板23,33の一部に設けた凹部に嵌入させることによって摺動子受け21,31の基準位置を補正することも可能である。
また、本実施形態例では、操作部材3よりも大径な第1コイルばね8と第1および第2駆動部材4,5との間に円環状のばね受け部材7が介設してあるため、傾動操作時に第1コイルばね8の生起する弾性反発力がレバー部3aの傾倒方向によってばらつかず、良好な操作感触を期待できるとともに、組立作業性が良好となる。しかも、作動部材6を搭載している底板部材2の受け面2aの周囲に円環状の溝部2bを設け、この溝部2bとばね受け部材7とによって第1コイルばね8の両端部を保持しているため、第1コイルばね8の位置ずれを確実に防止できる。
また、本実施形態例では、作動力を明確に変化させるための第2コイルばね9を、操作部材3の柱状部3bと筒状部3cとの間の環状空間3dを利用して無理なく組み込むことができると共に、この第2コイルばね9の一端部を作動部材6側(操作部材3側であってもよい)に固定しているため、非操作時に無負荷状態となる第2コイルばね9をガタつきの虞なく支持することができる。ただし、第2コイルばね9と同様に機能する例えばエラストマー等の弾性部材を、操作部材3と作動部材6との間に組み込んでもよい。