上述したように、再帰性反射板を備えた反射型表示装置の表示特性は、再帰性反射板の再帰反射特性に依存する。しかし、再帰性反射板の再帰反射特性を評価できる信頼性の高い方法は未だ確立されておらず、再帰性反射板の再帰反射特性と、表示の明るさやコントラスト比などの表示特性との関係を定量的に把握することは難しかった。特に、パーソナルユースで用いられるパーソナルコンピューターや携帯情報端末機器等のディスプレイに用いられる再帰性反射板の特性をどのような方法で評価し、かつ再帰性反射板の特性がどの程度あれば、実用的なディスプレイが実現できるか、について言及した文献は殆どない。
そこで、本発明者らは、再帰性反射板の特性が実使用に耐え得るか否かを判断することができる再帰性反射板の評価方法の検討に取り組み、これを見出した。また、その評価方法を用いて、再帰性反射板の特性が、その再帰性反射板を用いた反射型表示装置の表示特性に及ぼす影響を検討した。その結果、再帰性反射板の再帰反射率を制御することによって、これを用いた反射型表示装置の表示品位を制御できることがわかった。
まず、図を参照しながら、本発明による再帰性反射板の再帰特性の評価方法を説明する。
(再帰反射特性の評価方法)
本発明では、再帰性反射板の再帰反射率の測定することにより、再帰反射特性を評価する。再帰反射率の測定は、図1に示すような評価装置200を用いて行う。図1の評価装置200は、基本的には落射型の顕微鏡と同じ構成を有している。
評価装置200は、サンプル再帰性反射板20を固定する台19と、対物レンズ(集光角:例えば7.5度)21と、白色光を出射する光源24と、ハーフミラー22と、受光部23とを有している。対物レンズ21、ハーフミラー22および受光部23は、台19に対して垂直な方向に沿って配置されている。ハーフミラー22は、光源24で出射された光を反射して、台19に固定されたサンプル再帰性反射板20に垂直に入射させるように設置されている。受光部23は、サンプル再帰性反射板20によって垂直方向に反射された後、対物レンズ21を通過した光を受光するように、対物レンズ21の真上に設けられている。
次に、この評価装置200を用いた再帰反射率Rrの測定方法を説明する。
まず、評価しようとするサンプル再帰性反射板20を用意する。
サンプル再帰性反射板20は、複数の単位構造(例えばコーナーキューブなど)が2次元的に配列された構成を有する。
このサンプル再帰性反射板20を台19に固定する。続いて、光源24から出射された光をハーフミラー22で反射させた後、集光角7.5度の対物レンズ21を通してサンプル再帰性反射板20に垂直方向に入射させる。このとき、サンプル再帰性反射板20には、入射光によるビームスポット(直径D:例えば1mm)25が形成される。入射光はサンプル再帰性反射板20によって反射される。この反射光のうち、略垂直方向に反射した光は、対物レンズ21を通して受光部23によって受光される。これにより、略垂直方向に反射した光の強度I1が測定される。
なお、サンプル再帰性反射板20による反射光には、再帰反射光が含まれている必要がある。「再帰反射光」とは、サンプル再帰性反射板20に入射する光がサンプル再帰性反射板20の単位構造を構成する複数の面のうち、少なくとも2面で反射されて生じた、入射光ベクトルに対し負のベクトルを持った反射光をいう。
次に、リファレンスとして誘電体ミラーを用意し、サンプル再帰性反射板20の代わりに評価装置200の台19に設置する。上記と同様に光源24から出射された光をハーフミラー22で反射させた後、対物レンズ21を通して誘電体ミラーに垂直方向に入射させる。このとき、誘電体ミラーによって略垂直方向に反射された光は、対物レンズ21を通して受光部23によって受光される。これにより、略垂直方向に反射された光の強度Irが測定される。
この後、サンプル再帰性反射板20による反射光の強度I1の、誘電体ミラーによる反射光の強度Irに対する比(I1/Ir)を求める。本明細書では、この比(I1/Ir)(%)を、サンプル再帰性反射板20の再帰反射率Rrとする。
上記評価方法では、サンプル再帰性反射板20による反射光の強度I1を測定した後に、誘電体ミラーによる反射光の強度Irを測定するが、強度Irを先に測定してもよい。
上記評価方法では、特にパーソナルユースで使用され得るディスプレイパネルに用いられる再帰性反射板を評価することを想定している。そのような再帰性反射板の配列ピッチは、例えばディスプレイパネルの画素ピッチと略同じ、またはそれ以下である。従って、具体的には、本評価方法で評価されるサンプル再帰性反射板20の配列ピッチは、250μm以下、望ましくは20μm以下である。
上記評価装置で、より信頼性の高い評価を行うためには、光源24から出射された光でサンプル再帰性反射板20に形成されるビームスポット25の直径Dは、サンプル再帰性反射板20の単位構造の配列ピッチ以上となるように調整されることが好ましい。ビームスポットの直径Dが単位構造の配列ピッチよりも小さいと、サンプル再帰性反射板20におけるビームスポット25が形成される位置によって、再帰反射率Rrの測定値が大きくばらつく。例えば、単位構造の中心にビームスポット25が形成されると、再帰反射率Rrの測定値は大きくなり、逆に単位構造の外周(単位構造と単位構造の接続部)近傍にビームスポット25が形成されると、再帰した光は受光部23に入りにくくなるので、再帰反射率Rrの測定値は小さくなる。そのため、サンプル再帰性反射板20の再帰反射特性を高精度で評価することは困難となる。より好ましくは、ビームスポット25の直径Dは配列ピッチの3倍以上である。ビームスポット25の直径Dが単位構造の配列ピッチの3倍以上であれば、ビームスポット25の形成される位置や、単位構造ごとの再帰反射特性のばらつきなどが再帰反射率Rrの測定値に与える影響をより小さくできるので、より信頼性の高い評価が可能となる。さらに好ましくは、ビームスポット25の直径Dは、配列ピッチの10倍以上である。
対物レンズ21の集光角は、上記に限らず、上述した好ましい大きさのビームスポット25を形成できるように、適宜設定できる。ただし、対物レンズ21の集光角は20度以下であることが好ましい。集光角が20度よりも大きいと、サンプル再帰性反射板20におけるビームスポット25が小さくなるため、ビームスポット25の形成位置によって、再帰反射率Rrの測定値にばらつきが生じる。また、再帰反射されずに戻ってきた光(スクエアコーナーキューブを構成する3面での反射を外れた光、散乱成分等)まで集光する確率が高くなる。
本評価方法は、例えば道路標識等に使用されるような、巨大なサイズの単位構造からなる再帰性反射板の評価には向いていない。上述したような適切なサイズのビームスポット25を形成することは困難であるからである。なお、ビームスポット25の直径Dを十分に大きくできるように、特別に大きなサイズの対物レンズ21を作製する場合にはこの限りではない。
(表示特性の測定方法)
次に、本発明者らが採用した、再帰性反射板を用いた表示装置の表示特性の測定方法について説明する。
表示特性の測定には、図2に示す測定装置201を用いる。測定装置201は、測定台34、受光部33および投光部36を備えている。測定台34は上面(測定面)が水平になるように設けられている。投光部36は、測定台34における測定面の中心を中心とする半球状(半径:例えば8cm)の投光面を有している。投光部36は、また、測定面の中心の真上に配置された光透過面31(直径:例えば1cm)を有している。受光部33は、投光部36の光透過面31の上方に配置されている。
次に、測定装置201を用いた表示特性の測定方法を説明する。
まず、サンプル素子30を用意する。サンプル素子30は、例えば再帰性反射板と液晶層とを有する表示素子である。液晶層は、例えば散乱状態と光透過状態とを切り替え可能な液晶材料で形成されている。サンプル素子30の具体的な構造および作製方法は、後述する。
次いで、サンプル素子30の白表示の明るさ(輝度)を測定する。サンプル素子30の液晶層を散乱状態とし、このサンプル素子30を測定台34に設置する。投光部36からの光は、光透過面31以外の半球の全ての方向から、等しい輝度で半球の中心位置(すなわち、測定面の中心位置)に入射する。サンプル素子30によって反射される反射光のうち光透過面31を通過する光は、投光部36の上方にある受光部33によって受光される。ここでは、受光部33による受光角は3度とするが、受光角はこれに限定されない。このようにして、受光部33によって受光された光の強度Iwを測定する。
また、上記測定装置201に、サンプル素子30の代わりに、リファレンスとして完全拡散反射板を設置した場合の、完全拡散反射板によって反射される光のうち受光部33によって受光される光の強度Ir2を測定する。
サンプル表示素子30の白表示の明るさは、上記光の強度Iwの、リファレンスを用いた場合の光の強度Ir2に対する比(Iw/Ir2)(%)によって求める。
続いて、サンプル素子30の黒表示の明るさ(輝度)を測定する。サンプル素子30の液晶層を光透過状態に切り替えた後、上記と同様にして、投光部36における様々な方向からからの光をサンプル表示素子に入射させる。全ての入射光がサンプル素子30によって再帰反射されると、再帰反射された光は光透過面31を通過しないが、実際には、入射光の一部は、サンプル表示素子30によって再帰反射されずに光透過面31の方向に反射し、光透過面31を通過して受光部33によって受光される。このとき、受光部33によって受光される光の強度Ibを測定する。
サンプル表示素子30の黒表示の明るさは、強度Ibの上記リファレンスを用いた場合の光の強度Ir2に対する比(Ib/Ir2)(%)によって求める。
このようにして得られた黒表示および白表示の明るさから、サンプル表示素子30のコントラスト比(白表示の明るさ/黒表示の明るさ=Iw/Ib)を求める。
(再帰反射率Rrと表示特性との関係)
上述した再帰性反射板の再帰反射特性の評価方法および表示素子の表示特性の測定方法を用いて、再帰性反射板を備えた表示装置における再帰反射率Rrと表示特性との関係を調べたので、以下に説明する。
ここでは、形状精度の異なる複数のサンプル再帰性反射板を用いる。まず、これらのサンプル再帰性反射板の再帰反射率Rrを、図1の評価装置200を用いて測定しておく。
次いで、サンプル再帰性反射板の表面に透明層(例えば日立化成工業株式会社製 CR440)を形成し、それをサンプル素子として用いて、図2の測定装置201で黒表示の明るさを測定する。黒表示時の明るさ測定は再帰性反射板サンプルの上に透明基板(例えばガラスやフィルム等)を載せて行ってもよいし、その間隙に透明基板と屈折率がほぼ一致するような樹脂を注入してから行ってもよい。また簡便のために再帰性反射板サンプルのみで測定することも可能である。
続いて、サンプル再帰性反射板の上に種々の散乱層を形成することにより複数のサンプル素子を作製し、これらのサンプル素子として用いて、図2の測定装置201で白表示の明るさを測定する。種々の散乱層としては、種々の散乱フィルムや種々の散乱型液晶セルを用いる。また、得られた白表示および黒表示の明るさから、コントラスト比を求める。
この結果、図3に示すような再帰反射率Rrと表示特性との関係が得られる。図3より以下のことがわかる。再帰反射率Rrが大きくなるにつれて黒表示の明るさは低減し、言い換えれば黒表示の品位は向上している。また、散乱層の種類によってばらつきはあるが、再帰反射率Rrが大きくなるにつれて白表示の明るさは増大し、言い換えれば白表示の品位は向上している。従って、コントラスト比は、再帰反射率Rrが大きくなると、急激に増加する。
より具体的には、再帰反射率Rrが20%以下では、黒表示が白表示より明るくなってしまい、コントラスト比が1より小さくなるので、正常な表示ができない。再帰反射率Rrが45%以上になると、コントラスト比は3以上になるので、用途に応じた実用的な表示装置を実現できる。例えば、再帰反射率Rrが55%以上であれば、コントラスト比は5以上となる。コントラスト比が5以上であれば、情報端末等のように図や表を主に表示するには十分である。実際、新聞紙のコントラスト比は5程度である。アニメーション程度の映像を表示するためには、コントラスト比が10以上であることが望ましい。10以上のコントラスト比を得るためには、再帰反射率Rrは65%以上であればよい。再帰反射率Rrが70%以上になると、コントラスト比は20以上となり、通常のテレビ映像も十分楽しめるような高品位な表示が可能になる。なお、ここで示した再帰反射率Rrやコントラスト比の値は、幅を持った領域の例示にすぎないことを付け加えておく。
このように、再帰反射率Rrと表示特性との関係を定量的に把握できることが確認できた。
ただし、実際の表示装置は、上記測定に用いたサンプルよりも複雑な構造をしている。実際の表示装置には、光透過状態と散乱状態とを切り替えることができる層が設けられる他、カラーフィルタ、透明電極、TFTなども設けられるため、実際の表示装置の表示特性は、図3に示すような表示特性と同じではない。
以下、本発明による各実施形態の表示装置の構成を説明する。また、上述した方法を用いて、各実施形態の表示装置の再帰反射特性および表示特性を測定したので、その結果も併せて説明する。
(実施形態1)
以下、本発明による反射型表示装置の第1の実施形態を説明する。
まず、図4を参照しながら、本実施形態の表示装置103の構成を説明する。表示装置103は、再帰性反射板48と、再帰性反射板48の観測者側に設けられた液晶セル40とを有している。
液晶セル40は、対向する1対の透明基板41、42と、それらの間に挟まれた液晶層47とを有している。透明基板41、42は、ガラスや高分子フィルムなどの透明材料からなる。観察者側に配置された透明基板41における液晶層47の側の表面には、透明電極43および配向処理層45がこの順で形成されている。また、非観察者側に配置された透明基板42における液晶層47の側の表面には、透明電極44および配向処理層46がこの順で形成されている。液晶層47は、異なる光学特性を示す2つの状態(例えば散乱状態と光透過状態)を切り替えることが可能な層であればよい。2つの状態の切り替えは、電圧印加などの外部刺激によって行うことができる。液晶層47の材料としては、例えば高分子または低分子の散乱型液晶材料を用いることができる。本実施形態では、液晶層47の材料として、高分子構造に液晶骨格(メソゲン基)を有するリバース型(電圧無印加状態で透明、電圧印加時に散乱)の散乱液晶材料を用いる。なお、液晶セル40の代わりに、異なる光学特性を示す2つの状態を切り替え得る変調層(液晶層に限らない)を備えた変調素子を用いてもよい。
再帰性反射板48は、スクエアコーナーキューブアレイ49と、その表面に形成された金属層50とを有している。金属層50は、高い反射率を示す材料から形成される。金属層50の材料の金属反射率が高いほど再帰性反射板の再帰反射率Rrが高くなる。ここでは、実構造を鑑みて、容易に使用可能な金属のうち高い金属反射率を有するAgを金属層50の材料として用いる。
スクエアコーナーキューブアレイ49の理想的な形状を、図7(a)および(b)に示す。スクエアコーナーキューブアレイ49は、例えば結晶の{100}面によって規定される3面S1〜S3を有するスクエアコーナーキューブの単位要素49Uがアレイ状に配列された構成を有する。単位要素49Uを構成する3面S1〜S3は、互いに直交する3つの略正方形の面である。また、このようにして作製されたスクエアコーナーキューブアレイ49は、頂点97を有する凸部49aと、底点98を有する凹部49bとが組み合わされた立体形状を有している。なお、このスクエアコーナーキューブ単位要素49Uは、上面からみると、頂点97および鞍点99からなる正六角形、または底点98および鞍点99からなる正六角形を示す。スクエアコーナーキューブの単位要素49Uの配列ピッチは、表示装置の画素ピッチよりも十分小さいことが好ましく、ここでは10μmとする。
表示装置103は、例えば以下の方法で作製される。
まず、液晶セル40の作製方法を説明する。透明基板41、42のそれぞれに、公知の方法で透明電極(ITOなど)43、44および配向処理層45、46をこの順で形成する。配向処理層45、46が内側になるように、透明基板41、42を対向させ、その間に液晶材料を注入することにより、液晶層(厚さ:例えば10μm)47を形成する。液晶材料は、上記のリバース型散乱液晶材料である。これは、低分子液晶材料にメソゲン基を有するモノアクリレート4%、メソゲン基を有するジアクリレート2%、反応開始剤1%を加えた混合物を、紫外線(例えば1mW/cm2)で20分間照射することによって得られる。なお、液晶材料の組成や硬化条件も上記の組成や条件に限定されない。また、液晶材料はリバース型に限定されず、高分子構造に液晶骨格を含まないノーマル型(電圧無印加状態で散乱、電圧印加時に透明)の散乱液晶材料を用いてもよい。
次いで、図5(a)〜(i)および図6(a)〜(i)を参照しながら、再帰性反射板48のスクエアコーナーキューブアレイ49の作製方法を説明する。図5(a)〜(i)は、各工程における基板表面の平面図であり、図6(a)〜(i)は、図5(a)〜(i)のそれぞれの工程における、基板の表面部分を模式的に示すA−A’断面図である。A−A’線は図5(i)にのみ示しており、他の図については省略している。
本実施形態では、立方晶単結晶基板(例えば、閃亜鉛構造を有するガリウム砒素結晶から形成される基板)を用い、この基板にウェットエッチングによって所定のパターンで立体形状要素を形成した後、異方性の結晶成長プロセスを行うことによって、図7(a)および(b)に示すようなスクエアコーナーキューブアレイ49を作製する。
まず、閃亜鉛構造を有するガリウム砒素結晶から形成される基板61を用意する(図5(a))。基板61の表面は、[111]B面と実質的に平行である。この基板61の表面は、図6(a)に示すように、鏡面に仕上げられる。
次に、基板61の表面上に、スピンコート法によって厚さ約1μmのポジ型フォトレジスト層を形成する。フォトレジスト層の材料としては例えばOFPR−800(東京応化社製)を用いることができる。このフォトレジスト層を約100度で30分間プリベークした後、フォトレジスト層上にフォトマスクを配置して露光を行う。
フォトマスクとしては、図8に示すような、正三角形の遮光領域65aおよび透過領域65bが三角形の辺方向のそれぞれにおいて互いに逆向きに交互に設けられたフォトマスク65を用いることができる。フォトマスク65は、遮光領域65aのパターンである正三角形のいずれかの一辺が、ガリウム砒素結晶の<01−1>方向と平行になるように基板上に配置される。なお、本実施形態では、遮光領域65aのパターンである正三角形の一辺の長さを約10μmにしている。
このレジスト層を、現像液(例えば、NMD−32.38%(東京応化社製))を用いて現像することによって、図5(b)および図6(b)に示すように、基板61上にはパターニングされたレジスト膜62が形成される。上述のようなフォトマスク65を用いて形成された略正三角形のレジスト膜2は、その一辺がガリウム砒素結晶の<01−1>方向と平行になるように配置される。すなわち、レジスト膜62の各辺が、結晶の{100}面と平行になるように配置される。
本実施形態では、このレジスト膜62の配列パターンに応じて、形成されるコーナーキューブのサイズが制御され得る。より具体的には、形成されるコーナーキューブの配列ピッチは、レジスト膜62のピッチP0(ここでは約10μm)と略同等のサイズとなる。
なお、エッチングマスク層のパターンは、図5(b)に示すものに限らず、種々のものとすることができる。ただし、コーナーキューブを好適に作製するためには、エッチングマスク層のマスク部(残存するレジスト膜2)における所定の点(例えば重心位置)が、ハニカム格子点上に配列されることが望ましい。ここでハニカム格子点とは、合同な正六角形を隙間なく敷きつめた場合における、各正六角形の頂点と各正六角形の重心点とに対応する点を指す。あるいは、第1の方向に延びる等間隔(所定間隔)の複数の平行線と、上記第1の方向とは60°異なる第2の方向に延びる、等間隔かつ上記所定間隔と同一の間隔の複数の平行線との交点に対応する点を指す。また、エッチングマスク層のマスク部は、好適には、三角形または六角形などの3回の回転対称形状を有している。
次に、磁石攪拌器でエッチング液を攪拌させながらウェットエッチング工程を行う(図6(c))。エッチング液としては、例えば、NH4OH:H2O2:H2O=1:2:7の混合液を使用することができる。この場合、エッチング温度は約20度とし、エッチング時間は約60秒とすることができる。
このエッチング工程において、ガリウム砒素結晶の{100}面((100)面、(010)面、および(001)面)は、他の結晶面に比べてエッチングされにくいため、{100}面が露出するように異方性のエッチングが進行する。ただし、このエッチング工程では、開口部から{111}B面方向にエッチングされる量d1と{100}面方向にエッチングされる量d2とは図9に示すような関係になる。
この結果、頂点63aが形成された段階で底面(平坦部)63bが残った立体形状63が形成されることになる。このように、本実施形態では、図6(c)に示すように、立体形状要素として、マスク部62の下に頂点を有する凸部63が基板1に形成される。
凸部63は、互いに直交する3つの{100}面で規定される直角二等辺三角形の面を備えた三角錐形状(すなわち、立方体の一隅に対応する三角錐形状)を有する。また、この凸部63は、ハニカム格子点上に形成され、これらの配列ピッチは、マスク部62のピッチP0(ここでは10μm)と同様になる。
なお、上記のウェットエッチング工程によって形成される凹凸形状は、エッチング液の種類や、エッチング時間などのエッチング条件に応じて変化し得る。例えば、上記のエッチング速度比R{111}B/R{100}がより大きい場合(例えば、1.8以上の場合)には、図4に示した場合に比べて平坦部63bの面積はより小さくなる。また、上述のような凸部ではなく、凹部または凹部と凸部とを組み合わせた立体形状要素が配列される場合もある。本発明において基板上に形成される立体形状要素は、このように三角錐状凸部以外の形状を有する立体形状要素であり得るが、これらはハニカム格子点上に配列されることが望ましい。
次に、上述の異方性のエッチングにより三角錐状の凸部63が所定のパターンで形成された基板61を、アセトンなどの有機溶媒中で超音波洗浄することによって、基板61上に残存する不要なレジスト膜などを除去する(図5(d)および図6(d))。
その後、気相成膜装置を用いて、立体形状要素が形成された基板面において異方性の結晶成長プロセスを行なう。なお、気相成膜装置としては、VPE(気相薄膜成長法)、MBE(分子線薄膜成長法)、MOVPE(有機金属気相薄膜成長法)などのエピタキシャル成長法による薄膜形成のために用いられる公知の装置を利用することができる。気相成膜装置内には、トリメチルガリウム(Ga(CH3)3)およびアルシン(AsH3)が導入される。これらのガスを、例えば、10Torrの減圧環境下、基板を630℃に加熱した状態で100分間流すことによって所望の結晶成長プロセスを実行することができる。
結晶成長を生じさせるために用いられる活性種は、典型的には、基板を構成する結晶材料と同じ元素(本実施形態では、ガリウムまたは砒素)を含むガスとして供給される。このように活性種を含むガスとしては、典型的には、上述のトリメチルガリウムガスやアルシンなどのように、基板を構成する材料と同じ元素を含む分子(ガリウムまたはガリウム化合物と砒素または砒素化合物との少なくとも一方)のガスが用いられる。これは、基板の表面部分を構成する結晶材料と格子整合した結晶を適切に成長させることができるからである。
この結晶成長プロセスでは、ガリウム砒素基板を形成する結晶材料(ガリウムおよび砒素)と同じ元素を含むガスを基板面に接触させる(すなわち、基板に対して活性種を供給する)が、基板に予め形成されている立体形状要素(凸部63)の影響により、結晶の{111}B面の法線方向には結晶成長が生じず、{100}面の法線方向に沿って選択的にガリウム砒素結晶が成長する。すなわち、トリメチルガリウムガスおよびアルシンに含まれる活性種が底面の{111}B面では反応を生じさせず、側壁をなす{100}面において優先的に成長が起こり、結晶面方位によって成長速度が異なる異方性の結晶成長が行なわれる。
この結晶成長工程において、所定の結晶面({100}面)が選択的に形成され、このとき、基板に予め形成された立体形状要素によって、結晶成長が生じる場所などが決定され得る。その結果、図6(e)に示すように、基板表面は、主に[100]結晶面で構成された単位要素のアレイ(以下、「初期単位要素アレイ」と呼ぶことがある)を形成する。初期単位要素アレイでは、各凸部のエッジ(稜線部71)に沿って、[100]面以外の結晶面が露出している。
図6(e)は、稜線部71を含む基板の断面図である。図6(e)に示すように、エッチングによって得られた凸部63上に結晶層64が形成され、結晶層64の表面の一部が稜線部71を構成している。稜線部71は、典型的には、各凸部の頂点付近に生じる三角状の[111]B面と、頂点から各エッジに沿って生じる[110]面とを含んでいる。このような稜線部71は、結晶層64を形成するときに、(110)方向の成長速度が遅いために生じる。また、生じた稜線部71は、同じ条件で結晶成長を続けると拡大する。
稜線部71を取り除くために、図5(f)および図6(f)に示すように、図5(b)と同様の手順で、結晶層64の各凸部の頂点をカバーするレジストマスク72を形成する。このとき、マスク72の面積は、図5(f)で用いたマスク62の面積よりも小さくすることが好ましい。
次いで、異方性ウェットエッチングを行う(図5(g))。エッチング液として、例えば図5(c)で用いたものと同様のエッチング液(NH4OH:H2O2:H2O=1:2:7の混合液)を用いることができる。また、エッチング温度は約20℃、エッチング時間は約20秒とすることができる。エッチング時間は、図5(c)のエッチング時間よりも短くなるように設定することが好ましい。このエッチングによって、基板の露出表面は、図6(g)に示す断面形状を有する。すなわち、稜線部71の面積は減少するが、エッチャントの(111)B/(100)が1.7程度であるために、基板の各凹部に三角形状に[100]面以外の結晶面が露出する(三角形領域73)。典型的には、この三角形領域73の面積は、図5(c)の各凹部に形成される三角形領域の面積より小さくなる。その後、図5(d)と同様の工程で、基板61上に残存する不要なレジスト膜などを除去する(図5(h)、図6(h))。
次に、この基板61に対して、図5(e)と同様の方法で結晶成長を行う。例えばトリメチルガリウム(Ga(CH3)3)およびアルシン(AsH3)を、10Torrの減圧環境下、基板を630℃に加熱した状態で20分間流すことによって所望の結晶成長プロセスを実行することができる(図6(i))。なお、この処理時間(例えば20分間)は、図5(e)における処理時間より短いことが好ましい。この結晶成長によって、図6(j)に示すように、凹部に不要な結晶面(三角形領域73)がなくなるとともに、凸部に図5(e)の稜線部71よりも面積の小さい稜線部(図示せず)が生じる。この稜線部の面積が所定の割合以下の場合、良好なスクエアコーナーキューブアレイ49が完成する。一方、稜線部の面積が所定の割合より大きい場合は、図5(f)および図5(h)のエッチング工程と、図6(i)の成長工程とを繰り返す。
このように、最初の結晶成長(図5(e))によって形成された初期単位要素アレイには、[100]面以外の不要な面が残存しているため、初期単位要素アレイが形成された基板表面に対して2以上の異なる加工処理を行うことによって、上記不要な面の割合を許容範囲内に抑えることができる。すなわち、基板表面のある部分(部分A)にある不要な面を低減させるが、基板表面の他の部分(部分B)に不要な面を生じる加工処理と、基板表面の部分Bにある不要な面を低減させるが、基板表面の部分Aに不要な面を生じる他の加工処理とを繰り返し行うことによって、基板表面全体における不要な面の割合を徐々に減少させる。
従って、異なる2つの加工工程(例えばエッチング工程と結晶成長工程)をより多く繰り返すと、より高い形状精度を有するスクエアコーナーキューブアレイ49を作製できる。
以上のようにしてガリウム砒素基板上作製されたスクエアコーナーキューブアレイ49に、例えば蒸着法などによって、凹凸の表面形状に沿うように略一様な厚さ(例えば200nm)で銀などの金属層50を形成する。これにより、直交する3つの略正方形の反射面を備える再帰性反射板48を作製することができる。
なお、上記方法で得られたガリウム砒素基板上のスクエアコーナーキューブアレイ49の金型を電鋳法などによって作製し、ローラなどを用いて樹脂材料などに基板61の表面形状を転写することで、樹脂材料などからなるスクエアコーナーキューブアレイ49を作製してもよい。この表面に金属層50を形成すると、再帰性反射板48が得られる。
なお、以上には、基板61としてガリウム砒素単結晶基板を用いる例を説明したが、InP、InAs、ZnS、GaPなどの他の閃亜鉛構造をとる化合物から形成される単結晶基板を用いることも可能である。さらに、ゲルマニウム結晶などのダイヤモンド構造を有する単結晶基板を用いることも可能である。
この後、作製された再帰性反射板48の観測者側に、液晶セル40を配置することによって、表示装置103が完成する。
なお、再帰性反射板48の作製方法は上記の方法に限定されず、例えば、フォトマスク65を、遮光領域5aのパターンである正三角形のいずれかの一辺がガリウム砒素結晶の<011>方向と平行になるように基板上に配置してもよい。また、フォトマスク65と異なる形状のフォトマスクを用いてもよい。さらに、非特許文献1に記載されているように、SiO2パッドを用いて基板上に立体形状要素パターンを形成した後に結晶成長を行うことによって、初期単位要素アレイを形成することもできる。[100]面以外の結晶面を減少するために行う2つの加工処理についても、相補的な関係にある複数の異なる加工処理であればよく、上記の処理に限定されない。従って、各加工処理後に不要な結晶面が形成される位置も、上記の位置に限定されない。
再帰性反射板48の構成は上記の構成に限定されない。例えば、キューブコーナーアレイ49は、可視光を透過する透明材料から形成されていてもよい。この場合は、透明材料と空気の屈折率との差を利用することにより(全反射)、再帰反射性を発揮できるので、金属層50を設けなくてもよい。
また、再帰性反射板48における単位構造の配列ピッチは、表示装置の画素ピッチよりも小さくなるように設定されていればよく、上記の配列ピッチに限定されない。配列ピッチは具体的には250μm以下であればよく、好ましくは20μm以下である。一方、配列ピッチは100nm以上であることが好ましい。配列ピッチが100nmよりも小さいと、高精度で再帰性反射板を作製することが困難となる。より好ましくは500nm以上である。
本実施形態における再帰性反射板48はスクエアコーナーキューブリフレクタであるが、本発明はこれに限定されない。再帰性反射板48として、複数の単位構造を規則的に配列した構成(配列ピッチ:250μm以下)を有し、かつ所望の再帰反射特性(再帰反射率Rr:45%以上)を示す反射板であればよく、例えば三角錐形状のコーナーキューブを配列した構成のコーナーキューブリフレクタでもよい。
図4に示す構成では、再帰性反射板48が液晶セル40の外側に配置されており、これらの間は空隙である。しかし、この空隙に、透明基板42と同等の屈折率を有する材料からなる透明層を設けてもよい。あるいは、コーナーキューブアレイ49を透明材料で形成し、コーナーキューブアレイ49が液晶セル40の透明基板42側になるように再帰性反射板48を配置してもよい。この場合、スクエアキューブアレイ49を透明基板42として機能させることもできる。
なお、液晶層の材料は特に限定されないが、液晶層の材料によって、再帰反射率Rrに対する白表示の明るさの変化の割合はある程度異なると考えられる。本実施形態では、液晶層の材料として、再帰性反射板の再帰反射率Rrを変化させて図2の測定装置で白表示の明るさを測定すると、再帰性反射板の再帰反射率Rrが大きくなるにつれて白表示の明るさが大きくなる液晶材料を用いると、より効果的である。
次に、サンプル表示素子A1〜A4を作製して、その再帰反射特性および表示特性を調べたので、説明する。
まず、上述したスクエアコーナーキューブアレイ49の作製方法によって、初期単位要素アレイに対する2つの加工工程(エッチング工程→結晶成長工程)の繰り返し回数の異なる4種類のスクエアコーナーキューブアレイ(配列ピッチ:10μm)49A〜49Dを作製する。これらのスクエアコーナーキューブアレイ49A〜49Dの繰り返し回数は、それぞれ1回、2回、3回、4回である。
なお、これらのスクエアコーナーキューブアレイ49A〜49Dの作製方法では、2つの加工工程のうちエッチング工程で終了するため、単位構造の凹部に若干の不要な面(稜線部の他、理想的な面からの様々なずれを含む)が存在するものの、頂点近傍の凸部には不要な面がほとんど存在しない原盤が作製される。この原盤を「金型(マスター基板)」として用いて、ガラス等の基板に塗布された樹脂材料へ形状の転写を行う。この転写により、スクエアコーナーキューブアレイ49A〜49Dが得られる。従って、得られたスクエアコーナーキューブアレイ49A〜49Dは、単位構造の凸部に若干の不要な面を有するものの、凹部には不要な面をほとんど有していない。
これらのコーナーキューブアレイ49A〜49Dの表面にAgからなる金属層50を形成して、再帰性反射板48A〜48Dを作製する。
続いて、図1の評価装置200を用いて、再帰性反射板48A〜48Dの再帰反射率Rrを測定する。測定結果を表1に示す。
この後、再帰性反射板48A〜48Dの観測者側に、上述の方法で作製された液晶セル40をそれぞれ配置することによって、サンプル表示素子A1〜A4を作製する。これらのサンプル表示素子A1〜A4の表示特性を図2の測定装置で測定すると、表1に示す結果が得られる。
表1から、以下のことがわかる。
上述した方法によれば、微小な配列ピッチを有し、かつ所望の再帰反射特性を示す再帰性反射板48を作製できる。また、2つの異なる加工工程を繰り返すことにより、より高い形状精度を有するスクエアコーナーキューブアレイ49を作製できるので、再帰性反射板48の再帰反射特性をさらに高くできる。これは、初期単位要素アレイに対して2以上の異なる加工処理を交互に繰り返すことにより、初期単位要素アレイに含まれる[100]面以外の不要な結晶面の割合を低減でき、その結果、より形状精度が高いコーナーキューブアレイを作製できるからである。形状精度が高くなると、コーナーキューブアレイ49の全反射面積のうち再帰反射に寄与する面積の割合が高くなるので、再帰反射率Rrを改善できる。
また、再帰反射率Rrが高くなると、白表示および黒表示の品位も向上し、コントラスト比も増大するので、所望の表示特性が得られることが確認できる。より具体的には、上記2つの加工工程(エッチング工程、成長工程)を例えば2回以上繰り返すことにより、再帰反射率Rr:56%程度以上の再帰性反射板48を作製できる。このような再帰性反射板48を用いると、コントラスト比が5以上の実用的な表示装置を構成できる。また、上記2つの加工工程の繰り返し回数を増やすと、再帰反射率Rrがさらに改善されるので、より高品位な表示を行うことできる。
(実施形態2)
以下、本発明による反射型表示装置の第2の実施形態を説明する。
まず、図10を参照しながら、本実施形態の表示装置104の構成を説明する。本実施形態の表示装置104は、カラー表示装置である。
表示装置104は、実施形態1の表示装置103と同様の構成を有するが、カラーフィルタ層51を備えている点で異なっている。カラーフィルタ層51は、観測者側の透明基板41と、透明電極43との間に設けられている。カラーフィルタ層51は、規則的に配列された赤(R)、緑(G)、青(B)の着色層と、隣接する着色層の間に形成された遮光層(BM)とを有している。各着色層のサイズは例えば50μm×150μmである。なお、着色層のサイズは表示素子の画素ピッチに応じて決まるので、これに限定されない。カラーフィルタ層51の各着色層は、通常の透過型表示素子で用いられるカラーフィルタの着色層よりも若干高い透過率を有している。従って、カラーフィルタ層51の各着色層の色は、反射型表示素子で用いられるカラーフィルタのそれぞれの着色層の色に近い。
表示装置104は、実施形態1の表示装置103と同様の材料を用いて、同様の方法で作製できる。なお、カラーフィルタ層51は、例えば、顔料分散タイプのアクリレートを用いて、フォトリソグラフィ法により形成する。
本実施形態でも、サンプル表示素子B1〜B4を作製する。サンプル表示素子B1は、実施形態1で用いた再帰性反射板48Aを用いる。同様に、サンプル表示素子B2〜B4は、再帰性反射板48B〜48Dを用いる。これらのサンプル表示素子B1〜B4における再帰反射率Rrおよび表示特性を、図1の評価装置200および図2の測定装置201で測定する。測定結果を表2に示す。
表2に示す結果から、黒表示および白表示の明るさは若干小さくなるものの、カラーフィルタ層51を設けても、表示素子の表示特性(黒表示および白表示の品位、コントラスト比)は、再帰性反射板48の再帰反射率Rrが高くなるほど向上することがわかる。各表示素子サンプルのコントラスト比は、カラーフィルタ層51を有していない場合(実施形態1)の対応する表示素子サンプル(A1〜A4)のコントラスト比とほぼ同程度あるいはそれ以上である。
(実施形態3)
以下、本発明による反射型表示装置の第3の実施形態を説明する。
まず、図11および図12を参照しながら、本実施形態の表示装置105の構成を説明する。本実施形態の表示装置105は、アクティブマトリクス型表示装置である。
表示装置105は、図12に示すように、表示部91と、表示部91を駆動する駆動回路とを備えている。
表示部91の構成を図11に示す。表示部91は、対向する1対の基板71、72の間に形成された、液晶層73と再帰性反射板48とを有している。基板71は、複数の薄膜トランジスタ76を備えたアクティブマトリクス基板である。再帰性反射板48は、基板71の上に形成されたスクエアコーナーキューブアレイ74と、その表面に形成された金属層75とを有している。金属層75は、画素ピッチ(例えば50μm×150μm)に対応する画素電極ピッチで配列された複数の島から構成されており、電極としても機能する。再帰性反射板48の上には、画素電極174および配向処理層82を介して、液晶層73が設けられている。液晶層73はスペーサ83、84によって所望の厚さを実現している。液晶層73を安定に形成するため、再帰性反射板48と配向処理層82との間に平坦化層176を形成することが好ましい。各画素電極174は、対応する薄膜トランジスタ76のドレイン電極78および反射層75と、コンタクト77を介して接続されている。各コンタクト77は、再帰反射板48および平坦化層176を貫通して設けられている。一方、観察者側に配置される基板72の液晶層73側の表面には、ブラックマトリクス(BM)と、例えば赤(R)、緑(G)、青(B)とからなるカラーフィルタ79、共通透明電極175、および配向処理層81が、この順に形成されている。配向処理層81は液晶層73と接している。液晶層73の材料としては、散乱型液晶表示モード、特に前方散乱型表示モードを実現できる液晶材料を用いる。また、液晶層73は、例えば印加電圧により、光透過状態と散乱状態との間で状態を切り替え得る変調層である。
表示装置105では、画素電極174と共通透明電極175とにより、液晶層73の選択された部分に所望の電圧を印加することができるので、液晶層73の状態(光透過状態または散乱状態)を画素ごとに制御できる。
一方、表示部91を駆動するための駆動回路は、図12に示すように、表示部91の各薄膜トランジスタ76を選択的に駆動するためのゲートドライブ回路92、表示部91の各画素電極174に信号を与えるソースドライブ回路93、およびゲートドライバ/ソースドライバ94、95などから構成されている。表示部91の各画素電極174は、薄膜トランジスタ76、信号配線80およびソースドライバ95を介して、ソースドライバ回路93に接続されている。薄膜トランジスタ76のスイッチング動作は、基板71に形成された走査配線(図示せず)によって制御されるが、この走査配線はゲートドライバ94を介してゲートドライバ回路92に接続されている。薄膜トランジスタ76でスイッチングされた電気信号は、ドレイン電極78からコンタクト77を介して画素電極174へと導かれる。
次に、サンプル表示素子C1〜C3を作製し、再帰反射率Rrと表示特性との関係を測定したので、説明する。
まず、アクティブマトリクス基板の上に、実施形態1で説明した方法と同様の方法で再帰性反射板48E〜48Gを形成する。ただし、金属(Ag)層75は、画素電極174と対応するように、島状(例えば画素電極ピッチ:50μm×150μm、金属層75の配列ピッチ:50μm×150μm)に形成する。また、再帰性反射板48E〜48Gを形成する際の加工工程(エッチング工程、結晶成長工程)の繰り返し回数は、それぞれ2回、3回、4回である。この後、図1の評価装置200で再帰反射率Rrを測定する。測定結果を表3に示す。
再帰反射率Rrの測定後、再帰性反射板48E〜48Gの上に、透明材料(アクリル系樹脂)を用いて平坦化層(最大厚さ:10μm)176を形成し、次いでコンタクト77を形成する。この後、公知の方法で画素電極(ITO)174および配向処理層82を形成する。なお、平坦化層176の厚さは、再帰性反射板48の凹凸を吸収して最表面を平坦できればよく、特に限定されない。
一方、透明な基板72の上に、実施形態2と同様の方法でカラーフィルタ層79を形成する。この後、共通透明電極(ITO)175および配向処理層81を公知の方法で形成する。
続いて、基板71、72を対向させ、その間に液晶層73を形成する。ここでは、液晶性モノマー、ネマチック液晶、光反応開始剤等を混合した材料を注入した後、紫外光等を照射することにより、電圧無印加時には透明で、電圧を印加すると散乱(前方散乱を多く含む)する前方散乱型液晶層を形成する。このようにして、再帰性反射板48Eを用いたサンプル表示素子C1が得られる。同様に、再帰性反射板48F、48Gを用いたサンプル表示素子C2、C3が得られる。
サンプル表示素子C1〜C3の表示特性を、図2の測定装置201を用いて測定する。測定結果を表3に示す
表3に示す測定結果から、再帰性反射板48を用いてアクティブマトリクス型の表示装置を構成した場合でも、実施形態1、2と同様に、再帰性反射特性(Rr)が大きくなると表示特性も向上することがわかる。従って、所定の再帰反射特性を有する再帰性反射板48を用いれば、高品位の表示が可能な表示装置を安定に供給することができる。
(実施形態4)
以下、本発明による反射型表示装置の第4の実施形態について説明する。
本実施形態の表示装置は、実施形態1における表示装置(図4)と同様の構成を有する。図4の表示装置に用いる再帰性反射板48の作製方法では、初期単位要素アレイに対する加工工程の繰り返し回数によって、再帰性反射板48の形状精度を制御し、これにより所望の再帰反射特性を実現している。これに対し、本実施形態における再帰性反射板48の作製方法では、GaAs基板などを加工して得られたスクエアコーナーキューブアレイの原盤49’からスクエアコーナーキューブアレイの最終製品49を作製するための転写回数を制御することによって、再帰反射特性に優れた再帰性反射板48を作製する。
具体的には、転写回数を調整することにより、スクエアコーナーキューブアレイの原盤49’の凹部および凸部のうち、再帰反射に寄与しない面(不要な面)の少ない方を凹部49bとするスクエアコーナーキューブアレイの最終製品49を構成する。これを用いて再帰性反射板48を作製すると、形状精度はそのままで、より高い再帰反射特性が得られる。
図面を参照しながら、本実施形態におけるスクエアコーナーキューブアレイの最終製品49の構成を説明する。
図13(b)および(c)は、本実施形態におけるスクエアコーナーキューブアレイの最終製品49の拡大断面図である。理想的な形状を構成する面以外の面を「不要な面」と呼ぶことにすると、本実施形態におけるスクエアコーナーキューブアレイの最終製品49では、凹部49bにおける不要な面の割合は、凸部49aにおける不要な面の割合よりも小さい。凸部49aの頂点付近は、変形したり(図13(b))、部分的に欠損したり(図13(c))しているため、丸みを帯びた形状を有している。従って、凸部49aの頂点97rのレベルは、理想的な形状を有する凸部の頂点97iのレベルよりも低くなる。一方、凹部49bの形状は、凸部49aの形状よりも理想的な形状に近い。なお、本明細書では、凹部49bおよび凸部49aとは、光入射側から見て凹形状、凸形状を有する部分をそれぞれ指すものとする。
凹部49bと凸部49aとにおける形状のずれの大きさ(不要な面の割合)を相対的に比較する手法の1つとして、凹部49bにおける底点98rのレベルと理想的な底点98iとのレベル差h2と、凸部49aにおける頂点97rと理想的な頂点97iとのレベル差h1とを比較してもよい。これらのレベル差h1、h2は、例えば凹部49bおよび凸部49aにおける表面の凹凸をそれぞれ原子間力顕微鏡(AFM)で測定することにより求めることができる。この手法を用いると、本発明のコーナーキューブアレイの最終製品49では、凹部49bにおけるレベル差h2は、凸部49aにおけるレベル差h1よりも小さくなる。
このようなスクエアコーナーキューブアレイの最終製品49は、例えば以下のように作製できる。
まず、図5(a)〜(d)を参照して説明した方法と同様の方法でウェットエッチングを行った後、マスク(レジスト膜)を除去する。この後、図5(e)を参照して説明した方法と同様の方法で結晶成長を行うと、初期単位要素アレイが形成される。初期単位要素アレイが形成された基板の表面部分の断面図を図14(a)に示す。この基板の表面のうち稜線部111(幅:例えば2.2μm)を構成する面以外は[100]面である。
初期単位要素アレイが形成された基板61に対してマスク120を用いてウェットエッチングを行うと、稜線部111を構成する不要な結晶面はなくなるが、基板61の各底点121を構成する面の底部に反り122を生じる(図14(b))。反り122は、{100}面をテラスとする原子レベルの多数の段差が形成された領域であり、巨視的には{100}面から傾斜した面を形成している。その後、マスク120を除去する。これにより、コーナーキューブアレイの原盤49’が得られる。
得られたコーナーキューブアレイの原盤49’の表面は、図15(a)に示すような形状をしている。図15(a)は、図7(a)のB−B’断面図に相当する図である。すなわち、底点98rの付近には、いわゆる削り残しが存在しており、そのために、底点98rのレベルは、理想的な底点98iのレベルよりも高くなっている。一方、凸部49aは比較的良好な形状を有しており、頂点97rのレベルは理想的な頂点97iのレベルとほぼ等しい。
図15(a)に示すように、凹部49bを構成する1面に沿って、凹部49bの表面を観察すると、上記削り残しは略三角形の「帯」として認識される(図15(b))。この「帯」の頂点の高さHを測定し、高さHの、コーナーキューブの配列ピッチp(ここではp=10μm)に対する比(%)を求める。この比の大きさによって、凹部49bにおける形状のずれ(不要な面の割合)を相対的に評価することにする。本実施形態におけるコーナーキューブアレイの原盤49’のH/pは、約2.0%である。
続いて、このコーナーキューブアレイの原盤49’を樹脂に転写する。
図16(a)に示すように、ガラスなどの基板(例えばコーニング社製1737ガラス)130上に、2P(Photo Polymer)法用の転写樹脂として、例えばアクリル樹脂(三菱レイヨン社製:MP−107)131aを適下した後、コーナーキューブアレイの原盤49’を貼付する。貼付は、チャンバ133の中において減圧下で行う。これにより、気泡を噛み込むこと無く、基板130とコーナーキューブアレイの原盤49’との間にアクリル樹脂131aを充填できる。なお、転写樹脂として、アクリル系樹脂の他、二液性樹脂や、射出成型に用いられる熱可塑性樹脂などを用いてもよい。
この後、アクリル樹脂131aを硬化させる。図16(b)に示すように、基板130を石英板135などの上に固定し、基板130にプレス機134で約1kg/cm2の圧力をかけながら、アクリル樹脂131aを紫外線(高圧水銀灯)136で照射する(3J/cm2)。なお、転写樹脂の種類によって、硬化方法や硬化条件は異なる。転写樹脂を硬化させるために、加熱したり、硬化促進剤を添加したりしてもよい。
次いで、基板130およびコーナーキューブアレイの原盤49’両者を離型すると(図16(c))、基板130の上に形成された、スクエアコーナーキューブアレイ形状を有する樹脂層(第1転写物)131bが得られる。この樹脂層131bは、コーナーキューブアレイの原盤49’の形状(凹凸)を反転させた形状を有している。すなわち、樹脂層131bの凸部の頂点付近は、微視的には丸みを帯びた形状を有している。
得られた樹脂層131bを転写して、第2転写物を形成する。ここでは、第2転写物をマスター基板として用いる。本明細書では、「マスター基板」とは、転写により最終製品49を得るために用いる型を意味する。マスター基板の形成は公知の方法によって行うことができる。例えば、メッキ法を用いた電鋳法により、ニッケル(Ni)などからなるマスター基板を形成できる。電鋳法も転写方法の一つであるため、マスター基板の形状は、コーナーキューブアレイの原盤49’と略同じ形状となる。なお、本実施形態では、マスター基板は第2転写物に限らず、第k転写物(kは偶数)であればよい。
最後に、公知の転写方法でマスター基板を樹脂材料などに転写することにより、コーナーキューブアレイの最終製品49が得られる。最終製品49のベースプレートとしては、PETなどのフィルム材を用いてもよいし、TFT素子などが配置された基板であってもよい。コーナーキューブアレイの最終製品49の形状は、コーナーキューブアレイの原盤49’の形状を反転させた形状となる。従って、凸部49aの頂点のレベルは理想的な凸部のレベルよりも低いが、凹部49bは理想的な凹部に近い形状を有している。
本実施形態の表示装置における再帰性反射板48は、このようなスクエアコーナーキューブアレイの最終製品49に、必要に応じて反射層50を形成することにより得られる。
本実施形態におけるコーナーキューブアレイの原盤49’は、GaAs基板を用いて作製しているが、代わりに、Si基板を用いてもよい。また、原盤49’を作製する方法も上記の方法に限定されず、切削加工に代表される機械加工を行ってもよい。
マスター基板の材料は特に限定されない。GaAsからなる原盤49’を直接マスター基板として用いてもよいし、原盤49’を偶数回または奇数回転写することによって、機械的強度に優れた材料(例えばNi)からなるマスター基板(いわゆるNiスタンパ)や、シリコン樹脂等の樹脂材料からなるマスター基板を作製してもよい。
コーナーキューブアレイの最終製品49の作製方法において、重要なことは、所望の形状のコーナーキューブアレイの最終製品49を形成するために、コーナーキューブアレイの原盤49’からコーナーキューブアレイの最終製品49を形成するまでに行う転写の回数を制御することである。
例えば、上述のように、図13(a)の形状を有するコーナーキューブアレイの原盤49’が作製される場合には、奇数回の転写を行うことにより、図13(a)の形状を反転させた形状(図13(b)または(c))を有するコーナーキューブアレイの最終製品49を形成する。これに対し、コーナーキューブアレイの原盤を作製する際に、例えばウェットエッチング工程の後にさらに結晶成長工程を行うと、図13(b)または(c)に示す形状を有するコーナーキューブアレイの原盤が得られる。この場合には、得られた原盤を偶数回、転写することにより、最終製品49を得るとよい。あるいは、原盤をそのまま最終製品49として用いてもよい。
なお、コーナーキューブアレイの原盤49’、マスター基板およびコーナーキューブアレイの最終製品49のいずれについても、その凹部と凸部とにおける形状のずれの大きさを比較するために、上述したようなレベル差h1、h2を比較する手法を用いることができる。
次に、サンプル反射板D1を作製し、その再帰反射特性を評価したので、その結果を説明する。
まず、サンプル反射板D1は、次の方法で作製する。
上述した方法で作製したコーナーキューブアレイの原盤(配列ピッチ:10μm、H/p:2.0%)49’を、図16(a)〜(c)に示す方法でアクリル樹脂に転写すると、樹脂層131bが得られる。この樹脂層131bのコーナーキューブアレイ形状を有する表面に、真空蒸着法により、銀(Ag)からなる金属層(厚さ:1500Å)50を形成する。これにより、原盤49’を奇数回(1回)転写したサンプル反射板D1が得られる(図17(a))。なお、サンプル反射板D1は、簡単のため、感光性樹脂を用いた転写を1回しか行っていないが、様々な方法によって奇数回の転写を行っても、略同様の形状の反射板が作製される。
また、比較のため、サンプル反射板D1の形状を反転させた形状を有するサンプル反射板D2も作製する。サンプル反射板D2は、原盤49’のコーナーキューブアレイ形状を有する表面に直接、Agからなる金属層50(厚さ:1500Å)を形成することによって得られる(図17(b))。なお、ここでは、サンプル反射板D2として、原盤49’であるGaAs基板そのものを利用しているが、原盤49’を偶数回転写しても、サンプル反射板D2と略同様の形状の反射板が得られる。
得られたサンプル反射板D1、D2のそれぞれについて、図1の評価装置200を用いて再帰反射率Rrを測定する。測定結果を表4に示す。
表4より、同じ原盤49’を用いて、同等の形状精度を有する再帰性反射板48を構成しても、再帰性反射板48を形成する際の転写回数により、再帰反射特性が大幅に変わることが確認できる。すなわち、転写の回数を制御することにより、凸部における不要な面の割合が凹部における不要な面の割合よりも大きい再帰性反射板48を構成すると、再帰反射特性を改善することができる。
このように、本実施形態では、コーナーキューブアレイの最終製品49の作製方法(転写回数)を制御することにより、最終製品49の不要な結晶面の位置を制御できるので、再帰反射性に優れた再帰性反射板48を構成できる。このような再帰性反射板を用いることにより、高い表示特性を有する表示装置が得られる。
コーナーキューブアレイの原盤49’を作製する際に、実施形態1で説明したように、2つの異なる加工工程を繰り返すと、さらに形状精度の高い(すなわち、余剰部分の小さい)原盤49’が得られるので有利である。例えば、上述の作製方法では、最終工程はエッチング工程であるが、その後にさらに結晶成長工程、エッチング工程を繰り返すことにより、原盤49’の形状を理想的な形状に近づけることができる。
そこで、上記2工程の繰り返し回数を変えて複数の原盤49’を作製し、原盤49’の余剰部分の割合と最終製品49の再帰反射特性との関係を調べた。ここでは、複数の原盤49’のそれぞれについて、上記と同様の方法で、互いに反転する形状を有する2種類のサンプル反射板D1、D2を作製し、それらの再帰反射率Rrを図1の評価装置200を用いて測定する。測定結果を、図18に示す。
この結果から、形状精度に劣る(H/pが大きい)原盤49’を用いても、転写回数を制御すれば、再帰反射特性の高い再帰性反射板を構成できることが確認できる。例えば、2つの異なる加工工程を繰り返すことにより、H/pが2.3%以上の原盤49’を形成すれば、その後に行う転写の回数を調整することによって、45%以上の再帰反射率Rrを示す再帰性反射板48を作製できる。同様に、H/pが2.0%以下の原盤49’を形成すれば、その後に行う転写の回数を調整することによって、50%以上の再帰反射率Rrを示す再帰性反射板48を作製できる。