本発明によるマイクロコーナーキューブアレイの作製方法では、閃亜鉛構造を有する化合物半導体やダイヤモンド構造を有する材料から形成した基板などの、立方晶系の結晶からなる単結晶基板(以下、「立方晶単結晶基板」と呼ぶ場合もある)を用いてマイクロコーナーキューブアレイを作製する。具体的には、表面が結晶の{111}面と実質的に平行に配置されている立方晶単結晶基板を用意し、この基板の表面に対して異方性エッチング処理を行なうことにより、表面の加工を行なう。
なお、本明細書において「結晶の{111}面と実質的に平行な表面を有する基板」は、結晶の{111}面に対して平行な表面を有する基板だけでなく、0°〜10°傾いた表面を有する基板を含むものとする。
本発明では、基板表面を加工する際、結晶面に応じてエッチング速度が異なる異方性のエッチングを行う点に特徴の1つを有している。基板材料として、例えば、閃亜鉛構造をとるガリウム砒素結晶(図19参照)の場合、結晶の{111}B面(砒素が形成する{111}面)におけるエッチング速度は速く、{100}面((100)面、(010)面、(001)面などの結晶面)におけるエッチング速度は遅い。従って、結晶の{100}面が残るように異方性のエッチングが進行し、その結果、結晶の{100}面を有する凹凸が基板表面上に形成される。このように形成された凹凸は、互いに直交する3面(例えば、(100)面と(010)面と(001)面)を有し、コーナーキューブを形成する。
上述のような方法によって作製されたコーナーキューブアレイの反射面は、立方晶系結晶の結晶面に沿う形状を有しており、その形状精度が非常に高い。各コーナーキューブを構成する3面の平面性は良好であり、各面が交わる部分(角部または稜)の形状はシャープである。さらに、上記のコーナーキューブアレイは、規則的に配列された複数の凹凸を含む立体形状をとり得るが、各凹凸の頂点の高さレベルが揃っており、これらが略同一の面内に位置する。このようなコーナーキューブアレイは、入射光を再帰反射する再帰性反射板として適切に用いられ得る。
また、本発明によって作製されるコーナーキューブアレイの単位要素(1つのコーナーキューブ)のサイズは、エッチング工程で用いられるレジスト(またはマスク)のパターンを調節することによって、数十μm以下に設定され得る。従って、液晶表示装置などに用いられる再帰性反射板として適切に使用される微細なコーナーキューブアレイを作製することが可能である。
なお、本発明で用いられる立方晶単結晶基板は、非晶質や多結晶の材料からなる支持基板の上に単結晶層を有する基板を含むものとする。また、平板状のものだけでなく、平坦な表面を含む限り種々の立体形状を有し得る。
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。なお、図面を通じて同様の部材には同一の参照符号を付している。
(実施形態1)
図1は、本実施形態のマイクロコーナーキューブアレイの作製工程を示す。本実施形態では、立方晶単結晶基板として、閃亜鉛構造を有する化合物半導体であるガリウム砒素から形成される単結晶基板を用い、この基板の表面上にマイクロコーナーキューブアレイを作製する。
まず、表面が{111}B面のガリウム砒素単結晶基板1を用意し、この表面を鏡面に仕上げる(図1(a))。なお、ガリウムが形成する{111}面が{111}A面であり、砒素が形成する{111}面が{111}B面である。図19は、この基板1を上から見た場合における、ガリウム砒素単結晶の{111}B面を示す。なお、図においてガリウム砒素結晶の単位格子の外形を一点鎖線で示している。
次に、基板表面上に、スピンコート法によって厚さ1μmのポジ型フォトレジスト層2を形成する(図1(b))。フォトレジスト層2の材料としては例えばOFPR−800(東京応化社製)を用いることができる。
次に、フォトレジスト層2を約100度で30分間プリベークした後、フォトレジスト層2上にフォトマスク3を配置して露光を行う(図1(c))。フォトマスク3としては、図3に示すように、正三角形の遮光領域と逆正三角形の透過領域とが三角形の辺方向のそれぞれにおいて交互に設けられたフォトマスク3を用いる。フォトマスク3は、マスク3のパターンである正三角形のいずれかの一辺が、ガリウム砒素結晶の<01−1>方向(図19参照)と平行になるように基板上に配置される。なお、本実施形態では、マスク3のパターンである正三角形の一辺の長さを約10μmにしている。
次に、フォトレジスト層2を現像する(図1(d))。現像液としては、たとえばNMD−32.38%(東京応化社製)を用いることができる。これにより、図2(a)に示すようにパターニングされたレジスト2’(エッチングのマスク部)が形成される。なお、図1(d)は、図2(a)のx−x線断面に対応している。
本実施形態では、レジスト2’のパターン(またはマスク3のパターン)に応じて、形成されるコーナーキューブのサイズが制御される。より具体的には、形成されるコーナーキューブのサイズは、レジスト2’が設けられていない部分である開口部R0のピッチPr(本実施形態では約10μm)と同程度のサイズになる。なお、本明細書では、レジスト2’をマスク部ということがあり、このマスク部と開口部R0とを含むものをエッチングマスク層と呼ぶ場合がある。つまり、エッチングマスク層は、パターニングされたフォトレジスト層2である。
また、レジスト2’のパターンは、図4(a)に示すように、仮想的な正三角形Tの頂点において、正三角形の開口部R0が互いに離れて配置されたパターンや、図4(b)に示すように、仮想的な正三角形Tの頂点において、複数の四角形の開口部R0が設けられたパターンであってもよい。これらのレジストパターンを用いた場合にも、形成されるコーナーキューブのサイズは、開口部R0のピッチPrと同程度のサイズに制御される。なお、これらのいずれのパターンにおいても、図に示した仮想的な三角形Tの一辺を、ガリウム砒素結晶の<0,1,−1>方向と平行に位置させることが望ましい。
次に、磁石攪拌器でエッチング液を攪拌させながらウエットエッチング工程を行う(図1(e)および(f))。エッチング液としては、NH4OH:H2O2:H2O=4:1:20の混合溶液を使用し、エッチング温度は0度とし、エッチング時間は30分とした。
図1(e)に示すエッチングの途中段階(例えば15分経過後)では、図2(b)および(c)に示すように、レジスト2’が設けられていない領域R1において、基板1は大きくエッチングされる。また、上述のようにウエットエッチングを行なっているので、レジスト2’が設けられている領域R2においても、基板1は側面方向からエッチングされる。このとき、ガリウム砒素単結晶の{100}面((100)面、(010)面、および(001)面)は他の面に比べてエッチングされにくく、この{100}面が形成されるように異方的なエッチングが進行する。
その後、図1(f)に示すようにエッチングが進むと、図2(d)および(e)に示すように、ガリウム砒素単結晶の{100}面Sを有する凹凸が形成される。これによりマイクロコーナーキューブアレイが得られる。なお、エッチングが進んだ段階では、レジスト2’もあわせて剥離される。
このようにして作製されたマイクロコーナーキューブアレイは、図2(e)からわかるように凸部と凹部とが組み合わせられた立体形状を有している。また、その単位要素(1つのコーナーキューブ)は、互いに直交する略正方形の3面によって構成され、図2(d)からわかるように上面から見た場合に略六角形の形状を示す。このように本実施形態で形成されるコーナーキューブは、直角二等辺三角形の3面で構成される従来のコーナーキューブに比べて複雑な形状を有しているが、そのサイズは十数μm程度と非常に小さい。また、形状精度(略正方形の3面の各々の平面度など)も高い。
このようにして形成したマイクロコーナーキューブアレイを再帰性反射板として用いる場合、上記凹凸が形成されたガリウム砒素基板上に、例えば蒸着法などによって、凹凸の表面形状に沿うように略一様な厚さ(例えば200nm)でアルミニウムや銀などの反射性材料の薄膜を形成する。これにより、直交する3つの略正方形の反射面を備える再帰性反射板を作製することができる。
さらに、上記凹凸が形成された基板から電鋳型をとり、この電鋳型を用いて樹脂材料に凹凸を転写したものをマイクロコーナーキューブアレイとして使用してもよい。
なお、以上にはガリウム砒素単結晶基板を用いる例を説明したが、InP、InAs、ZnS、GaPなどの他の閃亜鉛構造をとる化合物から形成される単結晶基板を用いてもよい。
(実施形態2)
図5は、本実施形態のマイクロコーナーキューブアレイの作製工程を示す。本実施形態では、立方晶単結晶基板として、ダイヤモンド構造を有するゲルマニウム結晶からなる単結晶基板を用い、この基板の表面上においてマイクロコーナーキューブアレイを作製する。
まず、その表面が、ゲルマニウム結晶の(111)面に対して平行に位置しているゲルマニウム単結晶基板4を用意し、この表面を鏡面に仕上げる。その上に、CVD法によって厚さ200nmのSiO2層5を成膜し、さらにその上にスピンコート法にて厚さ1μmのポジ型フォトレジスト層2を形成する(図5(a))。レジスト材料としては、例えばOFPR−800(東京応化社製)を用いることができる。
次に、フォトレジスト層2を約100度で30分間プリベークした後、図8(a)に示すような、比較的小さい正三角形の透過領域が複数設けられたマスク3aを用いて、フォトレジスト層2の露光および現像を行う。
次に、上述のようにして形成したレジストを用いてSiO2層5のエッチング処理を行ない、これにより、図8(a)に示したマスク3aと同様な形状の開口部を有するSiO2層を形成する(図5(b))。さらに、このSiO2層をマスクとして用いてゲルマニウム単結晶基板4に対してドライエッチング工程を行う(図5(c))。これにより、図6(a)および(b)に示すように基板表面上の所定の領域において凹部C1が形成される。
次に、図8(b)に示すような、マスク3aに比べて透過領域の面積を拡大させたマスク3bを用いて、再び、フォトレジスト層2の露光および現像を行い、さらに、現像されたフォトレジストをマスクとしてSiO2層5のエッチング処理を施すことによって、マスク3bと同様な形状の開口部を有するSiO2層を形成する(図5(d))。次に、このSiO2膜をマスクとして用いてゲルマニウム単結晶基板4に対してドライエッチング工程を行う(図5(e))。これにより、図6(c)および(d)に示すように、中心部が周辺部よりも深い2段階の深さを有する凹部C2が基板の所定領域において形成される。
次に、図8(c)に示すようなマスク3bに比べてさらに透過領域の面積を拡大させたマスク3cを用いて、フォトレジストの露光および現像を行い、SiO2層のエッチング処理を施すことによって、マスク3cと同様な形状の開口部を有するSiO2マスクを形成し(図5(f))、これを用いて基板4に対してドライエッチングを行う(図5(g))。これにより、図7(a)および(b)に示すような階段状の凹凸C3が基板表面上に形成される。
なお、上記の露光工程のそれぞれにおいて、マスク3a、3bおよび3cは、マスクのパターンである正三角形のいずれかの一辺がゲルマニウム結晶の<01−1>方向に平行になるように基板上に配置している。また、本実施形態においても、実施形態1と同様に、マスク3a、3b、3cが有するパターンのピッチPrを約10μmにしている。また、上記のドライエッチング工程のそれぞれにおいて、エッチングガスとしてはCF4/O2ガスを使用している。
最後に、レジストおよびSiO2膜を剥離した後(図5(h))、手動で基板を揺らしながらウエットエッチングを行う。エッチング液として、HF:H2O2:H2O=1:1:4の混合溶液を使用し、エッチング温度は0度とし、エッチング時間は5分とした(図5(i))。このとき、ゲルマニウム結晶の{100}面((100)面、(010)面、および(001)面)は、その他の面に比べてエッチングレートが遅いため、この{100}面が残されるように異方性のエッチングが進行する。これにより、基板表面上には、図7(c)および(d)に示すような、ゲルマニウム結晶の{100}面を有する凹凸が形成される。
このように、本実施形態では、開口部の大きさの異なる複数のマスクを用いて、ドライエッチング工程によって予めコーナーキューブに近似した階段状の凹凸を基板上に形成した後、ウエットエッチング工程によってゲルマニウム結晶の{100}面を有する凹凸を形成している。
このようにして形成したマイクロコーナーキューブアレイを再帰性反射板として用いる場合、上記凹凸が形成されたガリウム砒素基板上に、例えば蒸着法などによって、凹凸の表面形状に沿うように略一様な厚さ(例えば200nm)でアルミニウムや銀などの反射性材料の薄膜を形成すればよい。これにより、直交する3つの略正方形の反射面を備える再帰性反射板を作製することができる。
さらに、上記凹凸が形成された基板から電鋳型をとり、この電鋳型を用いて樹脂材料に凹凸を転写したものをマイクロコーナーキューブアレイとして使用してもよい。
(実施形態3)
本実施形態においても、上記実施形態と同様に異方性エッチング処理によって単結晶基板上にマイクロコーナーキューブアレイを作製するが、異方性エッチングに用いるエッチング液として異なる種類の溶液を用いた場合を説明する。
図21(a)に示すように、単結晶基板としてガリウム砒素基板101を用い、この上にエッチングマスク(エッチングマスク層のマスク部)102を設けた後、基板101に異方性エッチング処理を施すことによってマイクロコーナーキューブアレイを作製する。
本実施形態では、エッチング条件を調べるために、アンモニア水と過酸化水素水と水(NH4OH:H2O2:H2O=15:15:70)の混合溶液(エッチング液A)と、濃硫酸と過酸化水素水と水(H2SO4:H2O2:H2O=80:5:15)の混合溶液(エッチング液B)との2種類のエッチング液を使用した。これらのエッチング液をそれぞれ用いて、エッチング温度は20度とし、エッチング時間は3分として、異方性エッチング処理をそれぞれ行なった。なお、上記のエッチング条件以外は実施形態1における工程と同様の工程によってマイクロコーナーキューブアレイを作製した。
図21(a)に、エッチング液Aを用いた場合とエッチング液Bを用いた場合とのそれぞれの結果を示す。[a1]はエッチング液A(アンモニア水と過酸化水素水と水の混合溶液)を使用した場合の結果を示し、[a2]はエッチング液B(濃硫酸と過酸化水素水と水の混合溶液)を使用した場合の結果を示す。なお、図では理解しやすいように同一基板に双方の結果を示すようにしているが、実際にはそれぞれ異なる基板上に形成されたものである。
図からわかるように、エッチング液Aを用いた場合[a1]ではマイクロコーナーキューブ形状の底部が頂点となる(すなわち、底部において鋭い角が形成されている)のに対して、エッチング液Bを用いた場合[a2]では底部が面となっていた。
この結果より、マイクロコーナーキューブアレイ作製においては、エッチング液Bを用いるよりも、エッチング液Aを用いることが望ましいことがわかる。以下、使用するエッチング液が、作製されるマイクロコーナーキューブの形状に対して及ぼす影響について図21(b)を参照しながら説明する。
図21(b)の[b1]、[b2]、[b3]は、それぞれガリウム砒素単結晶基板の(111)B面のエッチング速度と、(100)面のエッチング速度の比((111)B面のエッチング速度を(100)面のエッチング速度で除した値)が1.73よりも大きい場合、1.73と等しい場合、1.73よりも小さい場合を示している。図21(b)では、(111)B面のエッチング速度を矢印103の長さで表し、(100)面のエッチング速度を矢印104の長さで表わしている(ただし以下では、速度103、速度104というように、上記矢印を、エッチングの方向および速さを示す速度(ベクトル)として示す場合もある)。なお、結晶面毎のエッチング速度は、その結晶面の垂直な方向における、時間あたりのエッチング量(エッチング深さ)を意味する。
[b1]においては(111)B面がエッチングされる速度103が、(100)面がエッチングされる速度104と比較して十分に速いため、形成される凹所101aの底部101bが頂点をなしている。また、[b3]においては(111)B面がエッチングされる速度103が、(100)面がエッチングされる速度104と比較して十分速いものではないため、底部101bが面をなしている。なお、[b2]では、開口部105と同じ形を有する面状の底部101bが形成されている。
次に、これらの速度103と速度104との比について定量的に考察する。(111)B面の法線ベクトルと(100)面の法線ベクトルは約54.7度の角度をなす。このとき、図22(a)に示すように、(111)B面のエッチング速度103と、(100)面のエッチング速度104との比が約1.73と等しい場合には、エッチング処理前のエッチングマスク層の開口部105の大きさが保持されたままエッチングが進行することになる。すなわち、底部101bと開口部105の大きさが等しい状態のままエッチングが進行する。
これに対して、図22(b)に示すように、(111)B面のエッチング速度103と、(100)面のエッチング速度104との比が約1.73よりも大きい場合には、凹所の面状の底部101bはエッチングが進行するにつれて段々と狭くなる。その結果、底部が頂点となるようなマイクロコーナーキューブを作製することができる。このような底部が角状のマイクロコーナーキューブを用いて作製される再帰性反射板は、より確実に入射光を再帰反射させることができる。
以上に説明したように、底部が頂点となるマイクロコーナーキューブを作製する場合には、(111)B面のエッチング速度と、(100)面のエッチング速度の比が1.73より大きい必要があることがわかる。(111)B面のエッチング速度103と、(100)面のエッチング速度104との比は、好ましくは1.8以上であり、さらに好ましくは3以上である。
従って、形状精度の高いマイクロコーナーキューブアレイを作製するためには、エッチング液として、(111)B面と(100)面とにおけるエッチング選択比が少なくとも1.73より大きいものを用いることが望ましい。このようなエッチング液としては、上記に示したエッチング液A以外にも、例えば、水酸化ナトリウムと過酸化水素水と水(混合比率NaOH:H2O2:H2O=5g:5g:90g)などを用いることができる。
このように、それぞれの結晶面におけるエッチング速度の比を適切に選択することで、より形状精度の向上したマイクロコーナーキューブアレイを作製することができる。本実施形態では立方晶単結晶における{100}面を表面として有するマイクロコーナーキューブのアレイを作製しているが、上述のようにして適切な異方性エッチング処理を行なうことで、{100}面が自動的に露出するような過程を経てマイクロコーナーキューブアレイが形成される。このような過程によって形成されたマイクロコーナーキューブは、それを構成する面(立方晶単結晶の{100}面)の面精度(平面性)が高い。
なお、上記には異方性エッチング処理によってマイクロコーナーキューブアレイを作製する形態を説明したが、異方性エッチング処理に代えて、結晶の選択成長プロセスを利用してマイクロコーナーキューブアレイを作製することも可能である。この場合にも、所定の結晶面が自動的に露出するように結晶を成長させることによって、形状精度の高いマイクロコーナーキューブアレイを作製することができる。
(実施形態4)
本発明の第4の実施形態として、例えば図23に示すように、ガリウム砒素基板101上に、マスク部102と開口部105とによって構成されたエッチングマスク層110を配置した後で、基板101に対して異方性エッチング処理を行なうことによって、マイクロコーナーキューブアレイを作製する場合を説明する。本実施例では、エッチングマスク層110(マスク部102および開口部105)のパターンが、形成されるマイクロコーナーキューブアレイの形状に及ぼす影響を調べるために、図23から図31に示すような種々のマスク層110を用いてそれぞれエッチング処理を行った。
なお、以下に説明する各エッチングマスク層110は、実施形態1で示したように、基板101上に設けたフォトレジスト膜を、フォトマスクを用いてパターニングすることなどによって形成することができる。この場合、パターニング後にレジストの残っている部分(すなわち、上記のレジスト2’)がエッチングマスク層110のマスク部102となり、レジストが除去された部分がエッチングマスク層110の開口部105となる。
本実施形態では、エッチングマスク層110におけるマスク部102の単位構造は、所定の方向において周期的に位置している。より具体的には、基板面内における互いに60°の角度で交わる3方向106A,106B,106C(図23参照)のそれぞれにおいて、マスク部102の単位構造が周期的に配置されている。ここでは、上記3方向106A,106B,106Cにおける、マスク部102の単位構造の重心位置または中心位置のピッチ106は13μmとしている。
なお、マスク部102の単位構造は、典型的には、同様の平面形状を有する互いに離間した複数のマスク部102のそれぞれを意味する。ただし、マスク部102の単位構造は、必ずしも1つのマスク部102で構成されている必要はない。また、複数のマスク部という場合、これらのマスク部同士は必ずしも離間されている必要はなく、隣接するマスク部同士が僅かに接続されているものでもあり得る。
また、単結晶基板101上に各種パターンのエッチングマスク層110を設けた後、異方性エッチング処理を行なうが、エッチング液としてはアンモニア水と過酸化水素水と水(NH4OH:H2O2:H2O=15:15:70)の混合溶液を用いている。また、エッチング温度は20度とし、エッチング時間は3分と5分とに設定している。
以下、図23〜図31を参照しながら、エッチングマスク層110のそれぞれのパターンについて説明する。
図23に示しているマスク層110は、実施形態1において使用したものと同様のパターンを有するマスク層である。このマスク層110のマスク部102のそれぞれの平面形状は、単結晶基板101の(100)面、(010)面、(001)面に平行な3辺を有する正三角形となっている。つまり、各マスク部102のエッジの辺は(100)面、(010)面、(001)面に平行である。
以下、図35に示すように、結晶の[111]方向と、エッチングが行なわれる基板表面の法線方向とが同じ向きになるように結晶のabc軸を規定して、すなわち、通例とは異なり{111}B面を[111]方向と規定して、上記マスク部102の形状を詳しく説明する。図35に示す結晶構造において、結晶の{111}B面が基板表面に対応する面であり、マスク部は{111}B面上に形成される。本明細書では、マスク部102のエッジについて、「(100)面に平行な辺」と言う場合には、図35において線分a1で示されるような辺を指すものとする。すなわち、当該辺(線分a1)に直交し、かつ、マスク部の内側から外側に向かうマスク面内におけるベクトルA1(図23にも図示)の向きが、結晶の[−211]方向と略同一な場合、その辺を「(100)面に平行な辺」と呼ぶ。また、「(010)面に平行な辺」と言う場合には、図35において線分a2で示されるような辺を指すものとする。すなわち、当該辺(線分a2)に直交し、かつ、マスク部の内側から外側に向かうマスク面内におけるベクトルA2(図23にも図示)の向きが、結晶の[1−21]方向と略同一な場合、その辺を「(010)面に平行な辺」と呼ぶ。また、「(001)面に平行な辺」と言う場合には、図35における線分a3で示されるような辺を指すものとする。すなわち、当該辺(線分a3)に直交し、かつ、マスク部の内側から外側に向かうマスク面内におけるベクトルA3(図23にも図示)の方向が、結晶の[11−2]方向と略同一な場合、その辺を(001)面に平行な辺と呼ぶ。
再び図23を参照する。各マスク部102は、お互いが重なり部107においてわずかに重なっている。すなわち、エッチングマスク層110に対するマスク部102の面積比は50%以上となっている。言いかえれば、マスク部102の総面積は、開口部105の総面積よりも大きい。
各マスク部102の重心位置(または中心位置)は略ハニカム格子点上に配置されている。本明細書において、ハニカム格子点とは、所定の平面を、互いに合同な複数の正六角形で隙間なく敷き詰めた場合における、各正六角形の頂点と各正六角形の重心点とに対応する点を指している。あるいは、ハニカム格子点は、所定の平面内において、それぞれが第1の方向に沿って延び、全てが同じ間隔(所定間隔)で並べられた第1の複数の平行線と、それぞれが上記第1の方向とは60°異なる方向に沿って延び、全てが上記の第1の複数の平行線と同一の所定間隔で並べられた第2の複数の平行線との交点に対応する点でもある。
図24に示しているマスク層110は、実施形態1または図23に示したものとパターン自体は同様であるが、単結晶基板101の所定の結晶面に対するマスク部102の向きが異なる。このため、図24に示しているマスク層110は、図23に示したマスク層110と比較すると、マスク部102と開口部105とが反転して配置されたようなパターンを有している。
このマスク層110のマスク部102のそれぞれの平面形状は、単結晶基板101の(11−1)面、(1−11)面、(−111)面に平行な3辺を有する正三角形となっている。つまり、各マスク部102のエッジの辺は(11−1)面、(1−11)面、(−111)面に平行である。
なお、本明細書において、マスク部102のエッジについて「(11−1)面に平行な辺」と言う場合には、図35において線分b1で示されるような辺を指すものとする。すなわち、当該辺(線分b1)に直交し、かつ、マスク部の内側から外側に向かうマスク面内におけるベクトルB1(図24にも図示)の向きが、結晶の[−1−12]方向と略同一な場合、その辺を(11−1)面に平行な辺と呼ぶ。また、「(1−11)面に平行な辺」と言う場合には、図35において線分b2で示されるような辺を指すものとする。すなわち、当該辺(線分b2)に直交し、かつ、マスク部の内側から外側に向かうマスク面内におけるベクトルB2(図24にも図示)の向きが、結晶の[−12−1]方向と略同一な場合、その辺を(1−11)面に平行な辺と呼ぶ。また、「(−111)面に平行な辺」と言う場合には、図35において線分b3で示されるような辺を指すものとする。すなわち、当該辺b3に直交し、かつ、マスク部の内側から外側に向かうマスク面内におけるベクトルB3(図23にも図示)の向きが、結晶の[2−1−1]方向と略同一な場合、その辺を(−111)面に平行な辺と呼ぶ。
再び図24を参照する。各マスク部102は、お互いが重なり部107においてわずかに重なっている。すなわち、エッチングマスク層110に対するマスク部102の面積比は50%以上となっている。言いかえれば、マスク部102の総面積は、開口部105の総面積よりも大きい。また、各マスク部102の重心位置(または中心位置)は略ハニカム格子点上に配置されている。
図25〜図27に示すエッチングマスク層110のマスク部102は、正6角形の平面形状を有しており、マスク部102は互いが離間している。図25、図26、図27では、マスク層110におけるマスク部102が占める面積の比をそれぞれ約75%、約60%、約50%としている。また、図25〜図27に示すエッチングマスク層110も、各マスク部102の重心位置(または中心位置)が略ハニカム格子点上に配置されたパターンを有している。
なお、マスク層102の面積は、マスク部102の面積と開口部105の面積とを合わせたものであるが、マスク部102と開口部105とが一様なパターンで設けられている領域における、マスク部102の面積と開口部105との合計面積を意味している。また、マスク層102の面積に対するマスク部102の面積の比は、隣接する4つのマスク部102の中心点のそれぞれを結んで形成される四角形の領域(例えば、図25における破線106Dで囲まれた領域)におけるマスク部102の占める面積の比率としても表現され得る。
図28に示しているマスク層110は、マスク部102のエッジの辺が(100)面、(010)面、(001)面、(11−1)面、(1−11)面、(−111)面のそれぞれに平行な6辺を有する正6角形となっており、マスク部102のそれぞれは互いに離間している。また、マスク部102の中心位置は略ハニカム格子点上に配置されている。なお、図28に示す正6角形のマスク部102は、図25〜図27に示した正6角形のマスク部102を基板面内で90度回転したものと相似の関係にある。また、図28に示しているマスク層110におけるマスク部102が占める面積比は約60%である。
図29に示しているマスク層110のマスク部102は、そのエッジの辺が(100)面、(010)面、(001)面に平行な辺を有する9角形の平面形状を有している。各マスク部102は互いに離間している。また、各マスク部102の中心位置は略ハニカム格子点上に位置している。
図30に示しているマスク層110のマスク部102は、そのエッジの辺が(100)面、(010)面、(001)面、(11−1)面、(1−11)面、(−111)面に平行な辺を有する12角形の平面形状を有している。各マスク部102は互いに離間している。また、各マスク部102の中心位置は略ハニカム格子点上に位置している。
図31に示すエッチングマスク層110のマスク部102は、それぞれ、正方形の平面形状を有しているが、このマスク部102も、その中心位置が略ハニカム格子点上に位置している。
これら図23〜図31のそれぞれに示したパターンを有するマスク層110を用いて、基板101に対して異方性エッチングを行なったところ、以下のような結果を得た。
図23〜図31に示したいずれのマスク層110を用いた時も、マスク部102の中心位置にマイクロコーナーキューブの凸部の頂点(最頂部)が形成される。つまり、上述したようにマスク層110のマスク部102の中心位置は略ハニカム格子点上に位置しているが、このハニカム格子点に対応する最頂部を持つようにマイクロコーナーキューブが形成される。このことから、マスク層110のマスク部102の中心位置は、マイクロコーナーキューブアレイの頂点ができる位置(すなわち、ハニカム格子点上の位置)と対応させることが望ましいことがわかる。また、マスク部102の中心位置のピッチ106に応じてマイクロコーナーキューブのサイズが制御されるので、マスク層のパターンを適切に選択すれば所望のサイズを有するマイクロコーナーキューブを作製できることがわかる。
図32および図33には、例として、図23および図24に示したエッチングマスク層110を用いた場合に形成されるマイクロコーナーキューブアレイをそれぞれ示している。これらの図において、○がマイクロコーナーキューブの最頂部(凸部の頂点)を示し、●がマイクロコーナーキューブの最底部(凹部の頂点)を示している。また、△はこれらの中間部を示している。図からわかるように、図23および図24に示した何れのエッチングマスク層110を用いた場合にも、マスク部102の重心位置にマイクロコーナーキューブの最頂部○が設けられている。ただし、マイクロコーナーキューブは、(100)面、(010)面、(001)面を有しており、図23に示すマスク層110を用いた場合、開口部105の中心位置にコーナーキューブの最底部●が対応するのに対し、図24に示すマスク層110を用いた場合、開口部105の中心位置にコーナーキューブの中間部△が対応するようになる。
また、いずれのパターンのマスク層110を用いた時も、エッチング時間を3分としたものは、作製されたマイクロコーナーキューブアレイの頂部の形状が鋭くなっていた(図34(a)参照)が、エッチング時間を5分としたものは頂部の形状が丸くなっていた(図34(b)参照)。これは、エッチング処理が進行するにつれて、ガリウム砒素単結晶基板101の{111}B面(基板表面)とマスク部102との接触部の面積が小さくなってくるのであるが、この接触部がなくなった後は、頂点部から{111}B面のエッチングがはじまり、その結果、コーナーキューブの頂部の形状が丸くなるものと考えられる。
従って、ガリウム砒素単結晶基板101の{111}B面とマスク部102との接触部とがなくなる(または、これらの接触面積が最小になる)と同時に、エッチング処理を停止させることが望ましいことがわかった。このように、{111}B面とマスク部との接触面積が最小になったときにエッチングを停止させるためには、上述のような状態となるエッチング時間の最適値を予め試験などを行なうことによって求めておけばよい。このようにしてエッチング時間を適切に設定すれば、頂部が尖った所望の形状のマイクロコーナーキューブアレイを作製することが可能になる。
また、使用するエッチング液によっては、エッチングマスク層110における開口部105の面積が小さい方が望ましいことがわかった。これは、{111}B面のエッチング速度と{100}面のエッチング速度の比({111}B面のエッチング速度を{100}面のエッチング速度で除した値)が十分に大きくない場合、開口部105に対応する領域が面状の底部を残したままエッチングが進行することがあるからである。すなわち、適切な形状のマイクロコーナーキューブアレイ構造を作製するためには、エッチングマスク層110の開口部105の面積が大きいほどエッチング速度比も比較的大きくなくてはならず、エッチングマスク層110の開口部105の面積が小さいほどエッチング速度比も比較的小さくて済む。従って、エッチングマスク層110の開口部105の面積を小さくした方がエッチング条件への負担を小さくすることができる。
例えば、図25、図26、図27のそれぞれのマスク層を用いた場合において、マスク部102の面積比を全体の50%より大きくした前者2つ(図25および図26の場合)は適切なマイクロコーナーキューブアレイ形状が作製されたが、面積比を50%とした後者(図27を用いた場合)では適切なマイクロコーナーキューブアレイ形状が作製されず、底部に平面が残ってしまった。これより、エッチングマスク層110のマスク部102の面積比はマスク層全体の50%より大きくした方が好ましい、すなわち、マスク部102の面積が、少なくとも開口部105の面積よりも大きい方が望ましいことがわかった。
次に、図23と図31のエッチングマスク層110を用いた場合の比較結果について説明する。どちらのマスク層110を用いてもマイクロコーナーキューブアレイを作製することができることがわかった。しかし、電子顕微鏡観察により、コーナーキューブを構成する面の面精度(平坦性)を評価した所、図23のマスク層110を用いたときの方が高い面精度を有することがわかった。これにより、作製されるマイクロコーナーキューブアレイが3回の回転対称形状を有していることから、使用するマスク層110のマスク部102(または開口部105)の平面形状も3回の回転対称形状を有している方が好ましいことがわかった。
次に、図23と図24のマスク層110を用いた場合の比較結果について説明する。図32および図33に示したように、どちらのマスク層を用いてもマイクロコーナーキューブアレイは作製することができることがわかった。しかし、電子顕微鏡観察により、コーナーキューブを構成する面の面精度(平坦性)を評価した所、図23のマスク層110を用いた結果の方が優れていたが、同時に、マスク部102の重なり部107において基板表面に不必要な頂点(凸部)ができている個所があることがわかった。従って、大面積に均一にコーナーキューブ形状を形成するためには、図23に示したパターンのマスク層110を用いる場合には、図24に示したパターンのマスク層110を用いる場合よりも、マスク層110の形状精度を高くすることが望ましい。
また、マスク部102の重なり部107が存在しない図25〜図31のマスク層を用いた場合には、基板表面に不必要な凸部が形成されていなかったため、この不必要な凸部はマスク部102の重なり部107に起因していることがわかった。これにより、エッチングマスク層110のマスク部102のそれぞれは離間していることが好ましいことがわかった。
このように、エッチング処理に用いるエッチングマスク層のパターンを適切に選択することで、より形状精度の向上したマイクロコーナーキューブアレイを作製することができる。また、エッチングマスク層におけるマスク部の重心位置を規定することで、形成されるマイクロコーナーキューブの頂点位置およびマイクロコーナーキューブのサイズを定めることができる。
(実施形態5)
以下、上記実施形態で説明した方法によって作製されたマイクロコーナーキューブアレイを再帰性反射板として用いる反射型液晶表示装置を説明する。
図9は、本実施形態の反射型液晶表示装置100の構成を示す。この液晶表示装置100は、観察者側に位置する入射側基板8と、この基板8と対向するように設けられた反射側基板9と、これら一対の基板間に挟持された、光変調層としての散乱型液晶層6とを備えている。入射側基板8および反射側基板9は、ガラス板や高分子フィルムなどの透明材料から形成されている。
入射側基板8の液晶層6側表面には、R、G、Bの3色のカラーフィルタを含むカラーフィルタ層7および透明電極12が設けられている。一方、反射側基板9の液晶層6側には、マイクロコーナーキューブアレイ10が設けられている。このマイクロコーナーキューブアレイ10上には、銀やアルミニウムなどの表面反射率の高い材料から形成される反射電極11が、マイクロコーナーキューブアレイ10の表面形状(凹凸)に沿うように略一様な厚さで設けられている。反射電極11は、例えば、厚さ200nmで銀を蒸着することによって形成され得、入射光を反射させる反射面を形成するともに、液晶層6に電圧を印加するための電極として用いられる。
このように構成された液晶表示装置100において、透明電極12と反射電極11とを用いて液晶層6に電圧を印加し、画素ごとに液晶層6の光変調状態を制御することで画像の表示が行なわれる。なお、各電極11および12の駆動手段としては、例えば、薄膜トランジスタなどの公知のアクティブ素子を用いることができるが、他の駆動手段を用いてもよい。
また、上記には反射側基板9上にマイクロコーナーキューブアレイ10を設ける形態を説明しているが、反射側基板9を設けずマイクロコーナーキューブアレイ10自体を反射側基板として利用しても良い。上記実施形態1で説明したように、マイクロコーナーキューブアレイ10はガリウム砒素基板から形成され得る。このようなガリウム砒素基板を用いる場合、上記アクティブ素子を駆動するための回路などを表示領域の周辺において基板上に一体的に形成することができる。このように基板上に駆動回路を形成できれば、表示装置のサイズを縮小することができるため、特に、携帯電話などのディスプレイとして用いる場合に有効である。
本実施形態では、光散乱型液晶層6の材料として、高分子分散型液晶を用いている。ただし、液晶層6の材料はこれに限定されず、ネマティック−コレステリック相転移型液晶、液晶ゲル等の光散乱型液晶を用いてもよい。さらに、透過状態と、少なくとも散乱作用が含まれる状態との間で変調されるモードを有する限り、液晶層として他にも種々の材料を使用し得る。具体的には、液晶分子のドメインサイズを制御して拡散性を付与した透過−反射状態でスイッチングするコレステリック液晶、拡散光による露光により拡散性を付与した透過−反射状態でスイッチングするホログラフィック機能を有する高分子分散型液晶等を用いることができる。
本実施形態で用いる高分子分散型液晶は、低分子液晶組成物と未重合プレポリマーの混合物とを相溶させて基板間に配置し、プレポリマーを重合することにより得られるものである。プレポリマーを重合することにより得られるものであれば、その種類は特に限定されない。ここでは、液晶性を示す紫外線硬化性プレポリマーと液晶組成物との混合物を紫外線等の活性光線の照射により光硬化させることにより得られる硬化物(紫外線硬化液晶)を用いている。高分子分散型液晶として紫外線硬化液晶を用いることにより、重合性液晶の重合を行う際に加熱を行う必要がなくなるため、他の部材への熱による悪影響が防止される。
上記のプレポリマー液晶混合物としては、例えば、紫外線硬化材料と液晶とを20:80の重量比にて混合した混合物に対して少量の重合開始剤(チバ・ガイギー社製)を添加することによって得られた、常温でネマティック液晶相を示すプレポリマー液晶混合物を用いることができる。以上のようにして作製された液晶層に入射された光は、印加された電圧に応じて変化する液晶層の散乱・透過状態にしたがって変調される。なお本実施形態においては、電圧無印加時に液晶層が散乱状態をとり、電圧印加時に液晶層が透過状態をとるように設定している。
以下、反射型液晶表示装置100の動作について説明する。まず、白表示の動作について説明する。白表示では、液晶層6が散乱状態に制御されており、入射側基板8およびカラーフィルタ7を透過した外部からの光は液晶層6において散乱される。このとき、液晶層6において後方散乱された光が観察者側に戻る。また、本実施形態の表示装置では、液晶層6を透過した直進光および前方散乱された光がマイクロコーナーキューブアレイ10に設けられた反射電極11によって反射され、再び散乱状態の液晶層6を通るときに散乱され、その一部が観察者側に戻る。このように白表示では、後方散乱された光のみでなく前方散乱された光の一部も観察者側に戻るので、明度の高い表示を実現することができる。
次に、黒表示の動作について説明する。黒表示では、電圧を印加することによって液晶層6は透過状態に制御されており、装置外部から光は、入射側基板8、カラーフィルタ7および液晶層6を透過する。液晶層6を透過した光は、マイクロコーナーキューブ10上の反射電極11によって再帰反射される。表示を観察している観察者の眼に入射してくる光のもとをたどっていくと、基板8や液晶層6などにより屈折作用を受け、マイクロコーナーキューブアレイ10により再帰され、同様に基板8や液晶層6などにより屈折作用を受け、最終的に観察者の眼の近傍にたどりつく。すなわち、観察者の眼の近傍からの入射光のみが観察者に観察される出射光となる。ここで、前記観察者の眼の近傍が、光源が存在しない程度十分狭い領域(例えば、眼の瞳よりも狭い領域)であれば、良好な黒表示が実現される。
上述のようにマイクロコーナーキューブアレイ10に入射した光は、入射方向とちょうど逆向きの方向へ向かうように再帰反射される。ただし、反射された光線の位置は、入射光の位置に対して、コーナーキューブアレイ10の単位要素のサイズ(またはピッチ)と同程度、併進移動する。従って、図10(a)に示すように、マイクロコーナーキューブアレイ10の単位要素のサイズL1が絵素領域のサイズL2よりも大きいときは、入射時に通過するカラーフィルタの色(図ではG)と出射時に通過するカラーフィルタの色(図ではB)とが異なり混色を起こしてしまう。
これに対して、図10(b)に示すように、マイクロコーナーキューブアレイ10の単位要素L1のサイズが絵素領域のサイズL2よりも小さいときは、入射時に通過するカラーフィルタの色(図ではG)と出射時に通過するカラーフィルタの色とが同じであり混色を起こさない。従って、所望の表示を行なうためには、マイクロコーナーキューブアレイ10の単位要素のサイズL1が絵素領域のサイズL2よりも小さい必要がある。本実施形態で用いられるマイクロコーナーキューブアレイ10の単位要素のサイズは、実施形態1または2で説明したように、通常の絵素領域のサイズ(例えば数十μm)よりも十分に小さく(例えば約10μm)設定されている。従って、所望の適切な表示を行なうことができる。
また、コーナーキューブの単位要素が直角二等辺三角形3面からなっている場合と、正方形3面からなっている場合とで、正面から入射した光の再帰性反射率について比較を行う。なお、コーナーキューブに入射した光は、コーナーキューブの中心点に関する対称点から入射方向と逆向きに出射する特性を有しており、この特性は必要十分条件となっている。
図11(a)〜(c)は、コーナーキューブの単位要素が直角二等辺三角形3面からなっている場合を示す。図11(a)はコーナーキューブの単位要素を示し、図11(b)および(c)はコーナーキューブのアレイを示す。コーナーキューブの単位要素が直角二等辺三角形3面からなっている場合、図11(c)に示すように、単位要素を構成する面を基準面へ射影すると、その形状は正三角形となる。この場合、正三角形の頂点に近い部分に入射した光は、コーナーキューブの中心点に関する対称点が存在しないため、再帰反射されないことになる。このため、再帰性反射率は最大で66%となる。
一方、図12(a)〜(c)は、示すように、コーナーキューブの単位要素が正方形3面からなっている場合を示す。図12(a)はコーナーキューブの単位要素を示し、図12(b)および(c)はコーナーキューブのアレイを示す。コーナーキューブの単位要素が正方形3面からなっている場合、図12(c)に示すように、単位要素を構成する面を基準面へ射影すると正六角形となる。この場合、コーナーキューブの中心点に関する対称点が存在するため、正六角形の任意の箇所に入射した光はすべて再帰反射される。よって、入射光を確実に再帰反射させるという点からは、マイクロコーナーキューブアレイの単位要素を構成する面は正方形であり、単位要素を構成する面を基準面へ射影したものの形状が正6角形である方が好ましいことがわかる。
本実施形態で用いているマイクロコーナーキューブアレイの単位要素は、上記実施形態1または2で説明したように、立方晶単結晶の{100}面で構成される略正方形の3面を有している。このため、入射光を確実に再帰反射させることができる。従って、黒表示時において、観察者が好ましくない光を観察することがなく、暗い表示を実現することができ、その結果、コントラスト比も向上する。
ここで、本実施形態にかかるマイクロコーナーキューブアレイを備える反射型液晶表示装置(実施例)と、図13に示すようなマイクロコーナーキューブアレイを備えない反射型液晶表示装置(比較例)とを用いて、それぞれの反射率およびコントラスト比を測定した。比較例の反射型液晶表示装置は、マイクロコーナーキューブの代わりに散乱反射板を使用しているため、液晶層6が透過状態のとき、観察者から離れた位置に存在する光源からの光も観察者に向けて反射され得る。このため、入射側基板8の前面に偏光板13および位相差板14を設けており、これらを用いて上述のような反射光を吸収することで、黒表示を行なうように構成されている。なお、これらの構成を除く、液晶層6やカラーフィルタ層7などの他の構成は、実施例の液晶表示装置と同様である。
各表示装置の反射率およびコントラスト比を測定するための装置は、図14に示すように、積分球15により拡散光をサンプル(すなわち実施例または比較例の反射型表示装置)16に向けて照射し、正面方向に設置してある受光器17で受光するように構成されている。下記の表1に測定の結果を示す。
以上の結果により、偏光板13や位相差板14を用いる代わりにマイクロコーナーキューブアレイを用いた本実施形態の液晶表示装置は、明るく、コントラストも比較的高く、視認性の良い表示が可能となることがわかった。
(実施形態6)
以下、自発光型表示装置である有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示装置において実施形態1または2で説明したマイクロコーナーキューブアレイを用いる例を説明する。
図15は、本実施形態の有機EL表示装置の構成を示す。有機EL表示装置200は、ガラスや高分子フィルムなどの透明材料から形成される上側基板30と、これに対向するように設けられた下側基板34と、これらの基板間に位置する有機EL層42とを備える。有機EL層42は、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層または電子注入層などの複数の薄膜により形成されている。また、有機EL層42と上側基板30との間には、ITO(インジウム錫酸化物)などの透明導電性材料から形成された陰極(透明電極)32が設けられている。また、有機EL層42と下側基板34との間には陽極40が設けられている。陽極40は、例えば30nmの厚さを有するアルミニウム膜から形成されており、このように薄い膜を用いていることで光を透過させることができる。
下側基板32の有機EL層42側表面には、実施形態1または2で説明した方法によって作製されたマイクロコーナーキューブアレイ36が設けられている。このマイクロコーナーキューブアレイ36の表面には、例えばアルミニウムから形成される反射膜(不図示)が形成されており、マイクロコーナーキューブアレイ36に入射した光は再帰反射される。このような反射膜が設けられたマイクロコーナーキューブアレイ36の表面の凹凸は、透明平坦化部材38によって埋められている。陽極40は、このようにして平坦化された表面上において設けられている。
有機EL表示装置200では、陰極32と陽極40との間に所定の電圧を印加することによって、陰極32からの電子と陽極40からの正孔とを有機EL層42において再結合させ、これによって有機EL層42を発光させることで所定の表示を行なうことができる。なお、このような有機EL層42は、種々の公知の材料を用いて種々の公知の方法によって作製され得る。
このような有機EL表示装置200では、有機EL層42が非発光のとき(黒表示時)に、観察者の周囲に位置する電灯や太陽などの光源からの外部光は、マイクロコーナーキューブアレイ36によって入射方向へと再帰反射され、観察者の目に届かない。従って、外部光の映り込みが防止され、良好な黒表示を実現することができる。
また、有機EL層42が発光しているとき(白表示時)は、有機EL層42から観察者方向に進む光だけでなく、有機EL層42から下側基板34の方向に進む光もマイクロコーナーキューブアレイ36によって再帰反射されて観察者方向に戻る。従って、有機EL層42で発生した光をより効率良く利用することができ、明度の高い良好な白表示を実現することができる。また、白表示の際にも観察者の周囲の光源からの外部光の映り込みが防止される。
この有機EL表示装置200においても、実施形態5の液晶表示装置と同様に、マイクロコーナーキューブアレイ36の単位要素のサイズが、絵素領域のサイズ以下であることが望ましい。有機EL表示装置200の有機EL層42は、例えば、図15に示すようにR、G、Bの各色を発光する複数の発光領域を含んでおり、この発光領域のそれぞれが絵素領域に対応する。マイクロコーナーキューブアレイ36の単位要素のサイズが、絵素領域のサイズ以下である場合、所定の色の発光領域で生じた光がマイクロコーナーキューブアレイ36によって反射されたときに、隣接する他の色の発光領域を通過することがない。従って、混色が生じず、輝度および色度の低下が防止される。
(実施形態7)
本実施形態では、基材の基準面の法線方向から傾いた光軸を有するマイクロコーナーキューブアレイを作製する方法を説明する。なお、このようなマイクロコーナーキューブアレイを用いた表示装置が、例えばRaychem Corporationによって特許文献3に開示されている。
まず、その表面が結晶の(111)B面から約5度傾いているガリウム砒素基板を用意する。なお、本実施形態では実施形態1と同様にガリウム砒素基板を用いているが、結晶の{111}面から所定の角度(0°〜10°)だけ傾いた表面を有している限り、他の材料からなる立方晶単結晶基板(例えば、実施形態2のゲルマニウム単結晶基板)をも使用し得る。
次に、用意したガリウム砒素基板に対し、実施形態1と同様に、鏡面加工、レジスト形成、およびウエットエッチングを行なうことによって、結晶の{100}面で構成される凹凸を基板表面上に形成する。このように形成された凹凸は、互いに直交する3つの面(例えば、(100)面、(010)面、および(001)面)を有し、コーナーキューブアレイを構成する。ただし、実施形態1と異なり、結晶の{111}B面から約5度傾いた表面を有するガリウム砒素基板を用いているため、基板の基準面(すなわちエッチングを行なう前の基板表面)に対して、コーナーキューブの各面が為す角度が、実施形態1の場合とは異なる。また、このようにして形成されたコーナーキューブの各面の形状は、長方形であり得る。
なお、上述のように結晶の{111}面から傾いた表面を有する単結晶基板を用いる場合、その傾きに応じて、エッチングの際に用いるマスク層におけるマスク部の形状の縦横の長さの比率を変更することが好ましい。これは、形成されるコーナーキューブを上から見たときに、実施形態1の場合(例えば図2(d))のように完全な正六角形にはならず、上記の傾きに応じて、わずかに縦長(または横長)になる場合もあるからである。また、本実施形態のようにしてコーナーキューブを作製する場合、マスク部の重心位置は、上述したハニカム格子点と完全に一致しておらず、わずかにハニカム格子点から外れた、略ハニカム格子点上に位置するものであってよい。
このようにしてガリウム砒素基板上に形成されたコーナーキューブアレイは、実施形態1または2で説明したように表面に反射膜を形成することで再帰性反射板として用いられ得る。
ただし、本実施形態では、図16に示すように、ガリウム砒素基板の表面に形成されたマイクロコーナーキューブアレイを樹脂20に転写し、樹脂からなるマイクロコーナーキューブアレイを作製する。このために、まず、上記のガリウム砒素基板から電鋳型18を作製する。この電鋳型18の作製は、公知の方法によって行なうことができる。次に、この電鋳型18をロール19に貼り付け、このローラ19を用いて型押し樹脂成形を行なうことによって、樹脂20にマイクロコーナーキューブアレイを転写する。
図16には、ローラーの回転方向21および樹脂移動方向22が示されている。ここで、図に示す直線A−Bは樹脂移動方向22と平行な直線を表すものとする。なお、ローラ19の回転および樹脂20の移動に伴って、樹脂20に電鋳型18の表面が押しつけられ、その後、電鋳型18から樹脂20が剥離されるが、この剥離方向も直線A−Bと平行な方向である。
図17(a)および(b)は、上述のようにして樹脂20の表面上に形成(転写)されたマイクロコーナーキューブアレイを示す。これらの図においても、上記図16で示した直線A−Bを示している。マイクロコーナーキューブアレイが転写された樹脂20は、上述のように直線A−Bに沿って剥離される。本実施形態では、樹脂20の剥離方向と、コーナーキューブを構成する正方形の3面のうちの1面24に垂直な方向(法線方向)23とが同一平面内に存在するように剥離が行なわれる。すなわち、図17(b)からわかるように、法線方向23の樹脂表面への射影と、樹脂20の剥離方向とが平行な関係にある。この場合、法線方向23の樹脂表面への射影に対して平行でない方向に剥離した時よりも樹脂20の剥離・抜きが容易になる。
このような樹脂の剥離を行なうためには、図16に示した樹脂の移動方向22と、電鋳型18に設けられたマイクロコーナーキューブを構成する3面のうちの1面に対して垂直な方向とが常に同一平面内(例えば紙面内)に存在するように転写を行なえば良い。このことは、電鋳型18をローラ19の表面に貼りつける際に、電鋳型18の向きを適切に調節することによって容易に実現することができる。
また、本実施形態のように、表面が(111)B面から5度傾いているガリウム砒素基板から形成された電鋳型を用いた場合、実施形態1のように表面が(111)B面のガリウム砒素基板(実施形態1)から形成された電鋳型を用いた場合よりも、樹脂20の剥離・抜きを容易にすることができた。
このようにして形成されたマイクロコーナーキューブアレイの光軸は、基板の基準面に垂直な方向から傾いている。これを用いて形成された再帰性反射板では、その傾いた光軸の方向を中心として、再帰反射が適切に行なわれる入射光領域が規定される。この入射光領域から再帰性反射板に向かう光は適切に再帰反射されるが、入射光領域の外側の領域から再帰性反射板に向かう光は適切に再帰反射されないおそれがある。従って、表示装置のパネル面の法線方向に対して上側に傾いた方向に光軸が位置するように再帰性反射板を設ければ、表示装置の上方に位置している光源からの光を確実に再帰反射し得る。これにより、より良好な黒表示を行ない得る。
なお、上記には結晶の{111}面に対して5°傾いた表面を有する基板を用いる形態を説明したが、この角度は、0°より大きく10°以下であることが望ましい。基板表面と{111}面とが為す角度は、形成されるマイクロコーナーキューブの光軸(ここでは、コーナーキューブを形成する互いに直交する3面からの距離が等しい直線)と基板表面に対する法線とが為す角度と同等であるが、マイクロコーナーキューブはその光軸の方向における再帰性性能が最も良い。すなわち、光源の方向に光軸を向ければ、その光源から入射した光は適切に再帰反射されるため、良好な黒表示が行なわれる。しかし、基板法線に対して光軸を傾けすぎると、基板表面の法線方向から観察する観察者にとっての再帰性性能は悪化し、黒表示時に、観察者の眼(瞳)の近傍以外の場所からの入射光も観察し得る。これによって、良好な黒表示が行なえなくなるおそれがある。これらのことを踏まえて発明者が検討した結果、コーナーキューブの光軸の傾斜角度の適切な範囲は0°以上10°以下であることがわかった。従って、このような光軸を有するコーナーキューブを作製するためには、{111}面に対して0°以上10°以下の角度だけ傾いた表面を有する基板を用いることが望ましい。
また、図20に示すように、結晶の{111}面に対して角度θだけ傾いた表面S0を有する単結晶基板を用いる場合、{111}面と表面S0との交線L3の方向が、単結晶結晶基板における所定のヘキ開面(ガリウム砒素基板の場合は(0,1,−1)面)に対して垂直であることが好ましい。言いかえると、{111}面の法線L4と基板表面S0の法泉L5とを含む面が、基板の所定のヘキ開面と平行であることが好ましい。この場合コーナーキューブを構成する各面の対称性を向上させることができ、例えば図17(b)に示したように、各コーナーキューブの形状を上下線対称な形状とすることができる。また、このように形成されたコーナーキューブを型として用いる場合には、型抜きが容易になるという効果も得られる。