まず、プローブ光として内側に向かうほど光強度が大きくなるように光強度が階段状になった光パルスを用いる理由について説明する。
図21は、ブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルを示す図である。図21の横軸は、周波数であり、その縦軸は、ロス/ゲインである。図22は、漏れ光の光パルスを示す図である。
背景技術で説明した分布型光ファイバセンサ500の空間分解能は、測定に用いられる光パルスの幅で制限される。即ち、光ファイバ中の光の速度をvg[m/s]とした場合に、光パルス幅がTp[s]の光パルスを用いた測定では、空間分解能△zは、vgTp/2[m]となる。
具体的には、光ファイバの材質によって光ファイバ中の光の速度が若干異なるが通常使用される一般的な光ファイバでは、ブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)は、光パルスの光パルス幅が30nsまではローレンツ曲線(Lorentzain curve)(図21に示す曲線a)であり、それよりも光パルス幅を短くすると広帯域な曲線(図21に示す曲線b)となって中心周波数近傍で急峻さを失ったなだらかな形状となる。このため、空間分解能△zは、約2〜3mとなる。空間分解能を向上させるためには短い光パルス幅の光パルスを必要とするが、この場合光パルスの持つスペクトル幅が広がるため、結果的に歪みの測定精度が悪くなってしまう。そのため、高精度(例えば200με以下)で高空間分解(例えば1m以下)に歪み及び/又は温度の分布を測定することは、困難とされ、高精度で高空間分解に歪み及び/又は温度の分布を測定することが要望されていた。なお、100με=0.01%である。
そのため、例えば、下記文献1乃至文献3に開示されているように、プローブ光光源501が図22に示すように、微弱な光強度Cs2の連続光(漏れ光)を検出用光ファイバ503に入射しながら所定光強度As2の光パルスを入射することによって、図21において曲線aで示すように、ブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)が中心周波数を明らかに認識することができる略中心周波数で急峻なピークを持つ略ローレンツ曲線となるので、高精度で高空間分解に歪み及び/又は温度を測定することができることが知られている。
ここで、ローレンツ曲線は、ローレンツ関数g(x)の式3で一般に表される。
g(x)=1/πa/(a2+(x−a)2) ・・・(式3)
文献1;X.Bao and A.Brown,M. DeMerchant,J.Smith,"Characterization of the Brillouin-loss spectrum of single-mode fibers by use of very short(<10-ns)pulses",OPTICS LETTERS,Vol.24,No.8,April 15,1999
文献2;V.Lecoeuche,D.J.Webb,C.N.Pannell,and D.A.Jackson,"Transient response in high-resolution Brillouin-based distributed sensing using probe pulses shorter than the acoustic relaxation time",OPTICS LETTERS,Vol.25,No.3,February 1,2000
文献3;Shahraam Afshar V.,Graham A.Ferrier,Xiaoyi Bao,and Liang Chen,"Effect of the finite extinction ratio of an electro-optic modulator on the performance of distributed probe-pump Brillouin sensor systems",OPTICS LETTERS,Vol.28,No.16,August 15,2003
ここで、漏れ光の光強度Cs2の設定は、検出用光ファイバの長さに依存するため、測定のたびに検出用光ファイバのファイバ長に合わせてマニュアルで微妙な調整を行う必要があった。このため、分布型光ファイバセンサを工業製品とした場合に、ユーザがこの難しいマニュアル調整を行う必要があり、このことが分布型光ファイバセンサを工業製品化する妨げとなっていた。そして、文献2では、その筆者らは、シミュレーションを行うことにより文献1の現象を確認しているが理論解析的には明らかにしていない。文献2では、微弱な光強度の連続光(漏れ光)を検出用光ファイバに入射しながら所定光強度の光パルスを入射することによって高精度で高空間分解に歪み及び/又は温度を測定することができるその要因が明らかではなかった。このため、高精度で高空間分解に歪み及び/又は温度を測定するために、微弱な光強度の連続光と所定光強度の光パルスとにおける物理的な諸量をどのように調整すれば良いかが明らかではなかった。
そこで、本発明者らは、研究を積み重ねた結果、かかる現象を理論解析的に明らかにし、この理論解析結果に基づいて、検出用光ファイバのファイバ長に合わせて漏れ光の光強度のマニュアル調整が不要な分布型光ファイバセンサを得るに至った。以下、光強度階段状光パルスをプローブ光として用いた場合におけるブリルアン散乱現象の理論解析について図1乃至図3を用いて説明し、そして、光強度階段状光パルスの波形について図4及び図5を用いて説明する。
図1は、ブリルアン散乱現象の理論解析を説明するための図である。図1(A)は、ブリルアン散乱現象の理論解析における測定系を示し、図1(B)は、ポンプ光を示し、そして、図1(C)は、プローブ光を示す。図2は、論理解析に基づくシミュレーションの一例を示す図(その1)である。図3は、論理解析に基づくシミュレーションの一例を示す図(その2)である。図4は、光強度階段状光パルスの波形を示す図である。図5は、論理解析に基づく比Prxに対するH2/(H1+H3+H4)のシミュレーションを示す図である。
図1において、本理論解析は、光強度AL2である連続光(CW)のポンプ光が検出用光ファイバSOFの一方端から入射され、時間幅Tfで光強度Cs2である光パルス前方光OPfとパルス幅Dで光強度(As+Cs)2である光パルスOPとからなる光強度階段状光パルスOPsがプローブ光として検出用光ファイバSOFの他方端から入射される場合におけるブリルアン・ロス・スペクトルを導出するものである。光強度As2は、光パルス前方光OPfの光強度Cs2を基準とした光強度である。
ここで、本明細書では、この光強度階段状光パルスOPsの光パルスOPにおける前方に所定時間幅Tfで残された連続的な漏れ光を光パルス前方光OPfと呼称し、光強度階段状光パルスOPsの光パルスOPにおける後方に所定時間幅Tbで残された連続的な漏れ光(図4参照)を光パルス後方光OPbと呼称することとする。
本理論解析において、検出用光ファイバSOFの長さをLとし、検出用光ファイバSOFの長尺方向における位置座標をz(0≦z≦L、原点は、検出用光ファイバSOFの一方端とする)とし、そして、時間座標をtとすると、検出用光ファイバに歪みがある場合のブリルアン散乱の方程式は、式4乃至式6によって表される。
ここで、vgは検出用光ファイバSOF中における光の群速度(vg=c/n、cは光速であり、nは検出用光ファイバSOFの屈折率である)であり、E
Lはポンプ光の電界強度であり、E
Sはストークス光の電界強度であり、E
AはΓ×ρ/Λである。*は共役であることを示す。ΓはΓ
B/2であり、ρは検出用光ファイバの密度であり、Λは(γ×q×q)/(16×π×Ω)である。Γ
Bは、音響フォノンの寿命をτ
BとするとΓ
B=1/τ
Bであり、γは電歪結合定数(Electrostrietive Coupling Constant)と呼ばれ誘電率をεとするとγ=ρ(δε/δρ)であり、qはポンプ光の波数をk
Lとしストークス光の波数をk
Sとするとq=k
L+k
Sであり、Ωは歪みが発生しない場合のブリルアン角周波数シフトであり、ポンプ光の角周波数をω
Lとしストークス光の角周波数をω
SとするとΩ=ω
L−ω
Sであり、Ω
Bは或る歪みが生じている場合のブリルアン角周波数シフトであり、ポンプ光の角周波数をω
BLとしストークス光の角周波数をω
BSとするとΩ
B=ω
BL−ω
BSである。iは複素単位であり、i×i=−1である。βはκ×Λ/Γであり、κは(γ×ω
L)/(4×ρ
0×n×c)≒(γ×ω
S)/(4×ρ
0×n×c)である。ρ
0は、検出用光ファイバの密度の平均値である。また、βは、誘導ブリルアン散乱(SBS)の利得係数をg
SBSとすると、g
SBS=16×π×β/(n×c)であり、g
SBS=2.5×10
−11m/Wであることが例えば、文献4に示されている。
文献4;A.L.Gaeta and R.W.Boyd,"Stochastic dynamoics of stimulated Brillouin scattering in an optical fiber",Physical Review A,Vol.44,no.5,1991,pp3205-3209
式4は、ポンプ光に関する式であり、式5は、プローブ光に関する式であり、式6は、音響フォノンの寿命に関する式である。これら式4乃至式6を解いて、近似解として、ブリルアン・ロスV(t、Ω)を求めると、式7乃至式11となる。
ここで、ζは検出用光ファイバの長尺方向における位置であり、sは時間である。c.cは、定数であり、h(z,s)は、検出用光ファイバの全長をLLとすると、位置zで時間sにおけるΓ×e
−(Γ+i(ΩB(z)−Ω))であり、h
c(ζ,s)=h(z,s)=h((LL−ζ)、s)である。
この式8によって示されるH1は、光パルスOPとポンプ光とにより励起される音響フォノンに基づくブリルアン・ロス・スペクトルを示す。式9によって示されるH2は、光パルス前方光OPfとポンプ光とにより励起されさらに光パルスOPとポンプ光とにより励起される音響フォノンに基づくブリルアン・ロス・スペクトルを示す。式10によって示されるH3は、光パルスOPとポンプ光とにより励起されさらに光パルス前方光OPfとポンプ光とにより励起される音響フォノンに基づくブリルアン・ロス・スペクトルを示す。式11によって示されるH4は、光パルス前方光OPfとポンプ光とにより励起される音響フォノンに基づくブリルアン・ロス・スペクトルを示す。
一例として、光強度階段状光パルスOPsにおけるその時間幅を14ns、光パルスOPの時間幅Dを1ns、10×log((As+Cs)2/Cs2)を20dBとし、検出用光ファイバSOF(全長10mの零歪みの光ファイバ)における3.05mの所に100μεの歪みが生じ、3.05m±0.2mの所では歪みが生じていない場合について、3.05m−0.2m、3.05m、3.05m+0.2mにおけるH1+H3、H2及びH4対する各シミュレーションの結果を図2及び図3に示す。図2(A)はH1+H3の場合であり、図2(B)はH2の場合であり、図3(A)は、H4の場合であり、図3(B)は、H(=H1+H2+H3+H4)の場合である。各図の横軸は、周波数であり、実線は、100μεの歪みがある場合であり、破線は、歪みがない場合である。そして、各図は、ブリルアン・ロス・スペクトルが中心周波数(ブリルアン・ロス・スペクトルのピークにおける周波数)を中心軸として左右対称であることから、右半分について示している。即ち、各図の縦軸が中心周波数であり、中心軸である。図2からH2の成分のみが顕著にブリルアン周波数シフトを示していることが分かる。
式7乃至式11から分かるように、H3及びH4は、プローブ光からポンプ光へのエネルギーの転移が広範囲に亘ることから、局所的な歪みの情報が得難い。一方、H1及びH2は、プローブ光からポンプ光へのエネルギーの転移が局所的に行われることから、局所的な歪みの情報が得易い。ところで、シミュレーションの結果によると、H3は、他のH1、H2及びH4に較べて1桁小さく、H1の半値全幅は、例えば図2(A)から分かるように約1GHzに及ぶため、H2に較べてH1は、広帯域な曲線となって中心周波数を見つけ難い。従って、H2を検出することができるように設定することによって、短いパルス幅の光パルスを用いて高精度で高空間分解能で歪み及び/又は温度を検出することができる。
次に、このH2を検出することができる光強度階段状光パルスOPsの波形について説明する。本発明におけるプローブ光は、波形を予め設定して検出用光ファイバのファイバ長に応じた調整を不要とするために、例えば図4に示す光強度階段状光パルスOPsとする必要がある。
この光強度階段状光パルスOPsの波形を規定するためには、光パルス前方光OPfの時間幅Tf、光パルスOPのパルス幅(時間幅)Tp及び光パルス後方光OPbの時間幅Tb、並びに、光パルスOPの光強度P1及び光パルス前方光OPfの光強度P2(光パルス後方光OPbの光強度P2)を規定する必要がある。
まず、光パルス前方光OPfの時間幅Tf、光パルスOPのパルス幅Tp及び光パルス後方光OPbの時間幅Tbについて説明する。
この光パルス前方光OPfの時間幅Tfは、例えば現在一般に使用されている1300nm帯シングルモード光ファイバや1550nm帯シングルモード光ファイバを検出用光ファイバSOFに使用する場合に、音響フォノンの立上り時間に応じてその音響フォノンが90%に立ち上がった場合で、そのブリルアン散乱スペクトルの半値全幅が約35MHzであるから、Tp<Tf≦(1/35MHz)=28.57nsであればよい。
また、光パルス前方光OPfの時間幅Tfを長くすると(Tf>28.57ns)、ブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)の形状がよりローレンツ曲線に近くなるので、ブリルアン周波数シフトの値が精度よく得られ歪み及び/又は温度の精度が良くなる一方で、検出用光ファイバSOFの或る位置におけるブリルアン周波数シフトにこの或る位置の周辺におけるブリルアン周波数シフトの情報が混じってしまうのでこの或る位置におけるブリルアン周波数シフトのSNR(Signal to Noise Ratio)が悪くなってこの或る位置における歪み及び/又は温度の精度が悪くなる。このように光パルス前方光OPfの時間幅Tfを長くすることは、歪み及び/又は温度の精度の点で良くなる方向と悪くなる方向とに作用する。
光パルスOPのパルス幅Tpは、1m以下の高空間分解能を得るために10ns≧Tp>0であればよい。光パルス後方光OPbの時間幅Tbは、Tb<Tfであって短い程よく、0でもよい。
そして、本発明では、光強度階段状光パルスOPsが検出用光ファイバSOF内で図22ではなく図4の波形で存在する必要がある。このため、上述の範囲で、まず光パルス前方光OPfの時間幅Tf、光パルスOPの時間幅Tp及び光パルス後方光OPbの時間幅Tbが決定され、この決定された各時間幅を持つ光強度階段状光パルスOPsが検出用光ファイバSOF内で図4の波形で存在する検出用光ファイバSOFの最小の長さが規定される。従って、この規定された最小の長さ以上の光ファイバを検出用光ファイバSOFに使用することにより、背景技術のように測定のたびに検出用光ファイバSOFのファイバ長に応じてプローブ光をマニュアルで調整する必要がなくなる。
次に、光パルスOPの光強度P1及び光パルス前方光OPfの光強度P2(光パルス後方光OPbの光強度P2)について説明する。
ここで、光パルス前方光OPfの光強度P2(光パルス後方光OPbの光強度P2)に対する光パルスOPの光強度P1の比Prxを式12によって定義する。
Prx=10×log(P1/P2)
=10×log((As+Cs)2/Cs2) ・・・(式12)
そして、上述のH2を容易に検出する条件を調べるため、式12によって定義される比Prxに対するH2/(H1+H3+H4)をシミュレーションした。なお、H2/(H1+H3+H4)は、H1、H2、H3及びH4の各ピークの値をそれぞれ用いて計算した。一例として、光パルス前方光OPfの時間幅Tfが11nsであり、光パルスOPの時間幅Tpが1nsであり、そして、光パルス後方光OPbの時間幅Tbが0nsである光強度階段状光パルスOPsを用いた場合の論理解析に基づくシミュレーションの結果を図5に示す。
図5の横軸はdB単位で表す比Prxであり、図5の縦軸はH2/(H1+H3+H4)である。なお、シミュレーションにおける検出用光ファイバSOF(全長10mの零歪みの光ファイバ)には、3.05mの所で100μεの歪みが生じ、3.05±0.2mの所では歪みが生じていないと仮定してシミュレーションを行った。
図5から分かるように、比Prxに対するH2/(H1+H3+H4)を示す曲線は、比Prxが所定値でピークを持つ上に凸形状の高次曲線である。H2を検出するためには、H2/(H1+H3+H4)が0.5以上であればよいことから、このような曲線を得ることによって、H2/(H1+H3+H4)が0.5以上となる比Prxの範囲(a≦比Prx≦b)を求めることができ、最も精度よくH2を検出するためには、H2/(H1+H3+H4)が最高値、即ちピークとなる比Prxの値(比Prx=c)とすればよい。
従って、各時間幅が上述のように設定した光強度階段状光パルスOPsを用いる場合において、高精度で高空間分解能で歪み及び/又は温度を検出するためにはH2/(H1+H3+H4)が約0.5以上となる比Prxの範囲内の値に、そして、最も高精度で高空間分解能で歪み及び/又は温度を検出するためにはH2/(H1+H3+H4)がピークとなる比Prxの値に、光強度階段状光パルスOPsの比Prxを設定すればよい。
以上の説明から、高精度で高空間分解能に歪み及び/又は温度を検出し、そして、微小な歪みの変化を検出するためには、上述の各範囲で光強度階段状光パルスOPsの各時間幅Tf、Tp、Tbをそれぞれ決定し、この決定した各時間幅Tf、Tp、Tbを持つ光強度階段状光パルスOPsにおいて、式12によって定義される比Prxに対するH2/(H1+H3+H4)を式8乃至式11に基づいてシミュレーションし、そして、シミュレーションの結果におけるH2/(H1+H3+H4)が0.5以上となる比Prx、特にこのH2/(H1+H3+H4)がピークとなる比Prxを光強度階段状光パルスの比Prxに設定すればよい。
また、この決定した各時間幅Tf、Tp、Tbを持つ光強度階段状光パルスOPsから検出用光ファイバSOFにおける使用可能な最小の長さが規定される。
本特許出願人は、以上の理論解析に基づく分布型光ファイバセンサを未公開のPCT/JP2004/009352で提案している。
このような、内側に向かうほど光強度が大きくなるように光強度が階段状になった光パルス(光強度階段状光パルス)をプローブ光に用い、さらに、より高速に光ファイバの長尺方向について歪み及び/又は温度を測定し得る分布型光ファイバセンサの一実施形態について図面に基づいて以下に説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
(第1の実施形態)
本発明に係る第1の実施形態における分布型光ファイバセンサは、歪み及び/又は温度を検出するための検出用光ファイバの一方端から光強度階段状パルス光のプローブ光を入射すると共にこの検出用光ファイバの他方端から連続光のポンプ光を入射して、検出用光ファイバで生じたブリルアン散乱現象に係る光を受光し、ブリルアン・ゲイン・スペクトラム時間領域分析(BGain−OTDA、Brillouin Gain Optical Time Domain Analysis)又はブリルアン・ロス・スペクトラム時間領域分析(BLoss−OTDA、Brillouin Loss Optical Time Domain Analysis)を行うことにより、ブリルアン周波数シフトに基づいて歪み及び/又は温度の分布を検出するものである。そして、この分布型光ファイバセンサは、連続光のポンプ光を第1周波数間隔で掃引しながら検出用光ファイバに入射させ、この際に検出用光ファイバから射出されるブリルアン散乱現象に係る光の光強度が所定条件を満たした場合に、所定条件を満たした周波数を含む所定周波数範囲において連続光をこの第1周波数間隔より小さい第2周波数間隔で掃引しながら検出用光ファイバに入射させるものである。以下、ブリルアン・ゲイン・スペクトラム時間領域分析又はブリルアン・ロス・スペクトラム時間領域分析をブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトラム時間領域分析と略記する。このブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトラム時間領域分析では、ブリルアン散乱現象に係る光は、ブリルアン減衰/増幅を受けた光である。
図6は、第1の実施形態における分布型光ファイバセンサの構成を示すブロック図である。図7は、分布型光ファイバセンサにおける階段状光パルス光源の構成を示すブロック図である。図8は、分布型光ファイバセンサにおける自動温度制御器の構成を示すブロック図である。図9は、分布型光ファイバセンサにおける自動周波数制御器の構成を示すブロック図及びその動作原理を説明するための図である。図9(A)は、分布型光ファイバセンサにおける自動周波数制御器の構成を示し、図9(B)は、その動作原理を説明するための図である。図10は、階段状光パルスの生成を説明するための図である。図11は、分布型光ファイバセンサにおける光強度・偏光調整部の構成を示すブロック図である。図12は、第1の実施形態の分布型光ファイバセンサにおけるCW光源の構成を示すブロック図である。図13は、分布型光ファイバセンサにおける光強度調整部の構成を示すブロック図である。
図6において、第1の実施形態における分布型光ファイバセンサ1は、階段状光パルス光源11と、光カプラ12と、光強度・偏光調整部13と、光サーキュレータ14と、光コネクタ15と、制御処理部16と、ブリルアン時間領域検出計17と、検出用光ファイバ18と、CW光源19と、光カプラ20と、光強度調整部21と、光コネクタ22とを備えて構成される。
階段状光パルス光源11は、制御処理部16によって制御され、内側に向かうほど光強度が大きくなるように光強度が階段状になった光パルスを生成する光源装置である。このような光パルスは、見かけ上、互いに異なる光強度の光パルスが多重されているように見える。階段状光パルス光源11の出力端子(射出端子)は、光カプラ12の入力端子(入射端子)に光学的に接続される。
このような階段状光パルス光源11は、例えば、図7に示すように、基板101と、温度検出素子102と、発光素子103と、光カプラ104と、ファブリペローエタロンフィルタ(Fabry-perotEtalon Filter以下、「EF」と略記する。)105と、第1受光素子106と、第2受光素子107と、温度調整素子108と、自動温度制御器(Automatic Temperature Controller、以下、「ATC」と略記する。)109と、自動周波数制御器(Automatic Frequency Controller、以下、「AFC」と略記する。)110と、第1光強度変調器111と、第1光強度変調器駆動部112と、第2光強度変調器113と、第2光強度変調器駆動部114とを備えて構成される。
基板101は、温度検出素子102、発光素子103、光カプラ104、EF105、第1受光素子106及び第2受光素子107が載置される架台である。
温度検出素子102は、発光素子103の近傍に配置され、発光素子103の温度を検出するための部品であり、例えば、抵抗値が温度変化に応じて変化することによって温度を検出するサーミスタである。温度検出素子102が発光素子103の温度を精度よく検出し得る観点から、基板101は、例えば、アルミニウムや銅等の熱伝導率の高い金属材料(合金を含む)であることが好ましい。また、基板101は、階段状光パルス光源11の周囲における環境変化によってその温度変化が少なくなるように、その熱容量が大きいことが好ましい。温度調整素子108は、発熱及び吸熱を行うことにより基板101の温度を調整する部品であり、例えば、ペルチェ素子やゼーベック素子等の熱電変換素子である。本実施形態では、P型とN型の熱電半導体を銅電極にはんだ付けしたペルチェ素子が用いられ、発光素子103等が配置された基板101の面と逆の面にこのペルチェ素子が密着状態で配置される。
ATC109は、温度検出素子102の検出出力に基づいて温度調整素子108を制御することによって、基板101の温度を所定温度に自動的に略一定に保持する回路である。ATC109は、例えば、図8に示すように、温度検出素子102の検出出力と制御処理部16からの参照電圧Vref1とが入力されこれらの差分を出力する増幅器201と、増幅器201の差分出力が入力される例えばローパスフィルタ回路から成る積分回路202と、増幅器201の差分出力が入力される例えばハイパスフィルタ回路から成る微分回路203と、積分回路202の積分出力及び微分回路203の微分出力が入力されその比例を出力する比例回路204と、比例回路204のプラス出力及びマイナス出力に応じて温度調整素子ドライバ207を駆動する出力を得る増幅器205、206と、比例回路204の比例出力に応じて温度調整素子108の駆動電流を生成するブリッジ回路からなる温度調整素子ドライバ207とを備えて構成される。即ち、ATC109は、温度検出素子102の検出出力に基づいて温度調整素子108をPID制御する構成である。参照電圧Vref1は、基板101が所定温度である場合における温度検出素子102の検出出力と同じ値に設定される。
このような構成によって、ATC109は、基板101が所定温度よりも高い場合には、温度調整素子108が吸熱するように温度調整素子108を駆動し、基板101が所定温度よりも低い場合には、温度調整素子108が発熱するように温度調整素子108を駆動する。このようにATC109が温度調整素子108を駆動することによって基板101の温度が所定温度に自動的に略一定に保持される。その結果、発光素子103の温度も所定温度に自動的に略一定に保持される。そのため、発光素子103が発光する光の周波数が温度依存性を有する場合に、その温度依存性が抑制される。そして、所定温度は、発振すべき発振周波数f0で発光素子103が発振する場合における温度である。また、比例回路204の比例出力は、基板101の温度安定度をモニタするために、アナログ/ディジタル変換されて制御処理部16に出力される。
図7に戻って、発光素子103は、線幅の狭い所定周波数の光を発光すると共に素子温度や駆動電流を変更することによって発振波長(発振周波数)を変えることができる素子であり、例えば、多量子井戸構造DFBレーザや可変波長分布ブラッグ反射型レーザ等の波長可変半導体レーザ(周波数可変半導体レーザ)である。周波数可変半導体レーザが発光するレーザ光の周波数は、温度に依存するが、上述のようにATC109によって所定温度に自動的に略一定に保持されるため発振周波数の温度依存性が抑制され、周波数可変半導体レーザは、駆動電流によって発振周波数を安定的に変更し得る。
光カプラ104は、入射光を2つの光に分配して射出する光部品であり、例えば、ハーフミラー等のビームスプリッタである。EF105は、周波数(波長)の変化に従って周期的に透過光強度が変化する周期的な透過周波数特性(周期的な透過波長特性)を持つ周期的フィルタである。EF105のFSR(Free Spectral Range)は、本実施形態では100GHzである。第1及び第2受光素子106、107は、受光した光の光強度に応じた電流を発生し、この発生した電流を電圧に変換して出力する光電変換素子であり、例えば、ホトダイオードや抵抗器を備えて構成される。
発光素子103の前方及び後方から射出される光(本実施形態では、レーザ光)は、それぞれ第1光強度変調器111及び光カプラ104に入射される。発光素子103の後方から光カプラ104に入射された光は、光カプラ104で所定分配比で2つに分配され、分配された一方の光は、第2受光素子107に入射され、分配された他方の光は、EF105を介して第1受光素子106に入射される。第1及び第2受光素子106、107は、入射された光の光強度に応じた電圧を受光出力としてそれぞれAFC110へ出力する。
AFC110は、第1及び第2受光素子106、107の受光出力PDv1、PDv2に基づいて発光素子103を制御することによって、発光素子103が発光する光の周波数を所定周波数に自動的に略一定に保持する回路である。AFC110は、例えば、図9(A)に示すように、第1受光素子106の受光出力PDv1を増幅する増幅器211と、第2受光素子107の受光出力PDv2を増幅する増幅器212と、増幅器211で増幅された第1受光素子106の受光出力PDv1を増幅器212で増幅された第2受光素子106の受光出力PDv2で割る割り算を行う割算回路213と、割算回路213の割算出力PDv1/PDv2を増幅しアナログ/ディジタル変換を行って制御処理部16へ出力する増幅器216と、割算回路213の割算出力PDv1/PDv2と制御処理部16からの参照電圧Vref2とが入力されこれらの差分を出力する増幅器214と、増幅器214の差分出力を増幅しアナログ/ディジタル変換を行って制御処理部16へ出力する増幅器217と、増幅器214の差分出力と制御処理部16からの参照電圧Vref3とが入力されこれらの差分を出力する増幅器215とを備えて構成される。
発光素子103が発光する光の周波数を発光素子103が発振すべき所定周波数f0に自動的に略一定に保持するAFC110の動作について説明する。
上述の割算出力PDv1/PDv2は、発光素子103から周期的な透過周波数特性を持つEF105を介して受光した光の光強度(受光出力PDv1)を発光素子103から直接受光した光の光強度(受光出力PDv2)で割った値であるから、図9(B)に示す曲線cのように、EF105のFSRに合わせて周波数の変化に従って周期的に変化することになる。
発光素子103が発振すべき発振周波数f0(即ち、発光素子103が発光すべき光の周波数f0)に対応する曲線c上の点をロックポイント(Lock Point)とし、その割算出力PDv1/PDv2の値をロックポイント値LP0とする。
従って、仮に発光素子103の光の周波数が、発振すべき発振周波数f0よりも高くなると割算出力PDv1/PDv2がロックポイント値LP0よりも大きくなり、逆に、発振周波数f0よりも低くなると割算出力PDv1/PDv2がロックポイント値LP0よりも小さくなる。そこで、AFC110は、割算出力PDv1/PDv2がロックポイント値LP0よりも大きい場合には、発光素子103の光の周波数が、発振すべき発振周波数f0よりも高い場合であるから、発光素子103の光の周波数が下がるように発光素子103を駆動し、一方、割算出力PDv1/PDv2がロックポイント値LP0よりも小さい場合には、発光素子103の光の周波数が、発振すべき発振周波数f0よりも低い場合であるから、発光素子103の光の周波数が上がるように発光素子103を駆動すればよい。このため、上述の参照電圧Vref3は、発光素子103の光の周波数が、発振すべき発振周波数f0で駆動されている場合の割算出力PDv1/PDv2と同じ値に設定され、そして、上述の参照電圧Vref2は、微調整を行うための参照電圧であり、さらに正確にロックポイント値LP0に合わせるべく参照電圧Vref2が設定される。このように参照電圧Vref2、Vref3は、発光素子103の光の周波数が発振すべき発振周波数f0で駆動するロックポイント値LP0になるように設定される。
このように参照電圧Vref2及びVref3が設定され、AFC110が動作することによって、AFC110は、発光素子103の光の周波数が、発振すべき発振周波数f0からズレを生じると、このズレを解消するように発光素子103を駆動することができる。本実施形態では、発光素子103に周波数可変半導体レーザが用いられるから、AFC110は、発振すべき発振周波数f0からのズレに応じて駆動電流を調整するので、周波数可変半導体レーザは、自動的に略一定に保持された所定周波数f0でレーザ光を発光することができる。
このため、光カプラ104、EF105、第1及び第2受光素子106、107及びAFC110は、発光素子103が発光する光の波長(周波数)を略固定する所謂波長ロッカーを構成している。
第1及び第2光強度変調器111、113は、入射光の光強度を変調する光部品であり、例えば、マッハツェンダ型光変調器(以下、「MZ光変調器」と略記する。)や半導体電界吸収型光変調器等である。
MZ光変調器は、例えばニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム・タンタル酸リチウム固有体等の電気光学効果を有する基板に、光導波路と信号電極と接地電極とが形成される。光導波路は、2個のY分岐導波路でその中間部分が2本に分かれて第1及び第2導波路アームを形成して、マッハ・ツェンダ干渉計(Mach-Zehnder interferometer)を構成する。信号電極は、この2本の導波路アーム上にそれぞれ形成され、接地電極は、所定間隔で信号電極と平行するように基板上に形成される。MZ光変調器に入射された光は、光導波路を伝播し、第1Y分岐導波路で2つに分岐し、それぞれ各導波路アームを伝播し、第2Y分岐導波路で再び合波され、光導波路から射出される。
ここで、各信号電極に電気信号、例えば、高周波信号を印加すると電気光学効果によって各導波路アームの屈折率が変化するため、第1及び第2導波路アームを伝播する第1及び第2光は、進行速度が変化することになる。このため、各電気信号間で所定位相差を設けることで、第2Y分岐導波路で第1光と第2光とが異なる位相で合波されることになり、合波された光は、入射した光のモードと異なるモード、例えば、高次モードになる。この異なるモードの合波光は、光導波路を伝播することができないので、光が強度変調されることになる。MZ光変調器は、電気信号→屈折率変化→位相変化→強度変化というプロセスで入射光の光強度を変調する。電気光学効果を利用したものの他、磁気光学効果を利用した磁気光学変調器、音響光学効果を利用した音響光学変調器及びフランツ・ケルディッシュ効果(Franz-Keldysh effect)や量子閉込めシュタルク効果(quantum-confined Stark effect )を利用した電界吸収型光変調器等もある。
第1及び第2光強度変調器駆動部112、114は、制御処理部16によってそれぞれ制御され、それぞれ第1及び第2光強度変調器111、113を駆動するドライバ回路であり、例えば、第1及び第2光強度変調器111、113に印加する電圧パルスを発生するパルス発生回路と、この電圧パルスの発生タイミングを制御するタイミング発生回路とを備えて構成される。この電圧パルスは、第1及び第2光強度変調器111、113がMZ光変調器である場合には、上述の電気信号に相当する。
このような構成の階段状光パルス光源11が階段状光パルスを生成する動作について説明する。図10(A)は、発光素子103の出力光(図7に示す矢印Aの位置)を示す図であり、図10(B)は、第1光強度変調器111の出力光(図7に示す矢印Bの位置)を示す図であり、そして、図10(C)は、第2光強度変調器113の出力光、即ち、階段状光パルス光源11の出力光(図7に示す矢印Cの位置)を示す図である。
図10(A)に示すように、発光素子103は、制御処理部16の制御に基づくAFC110によって、線幅の狭い所定周波数f0であって略一定の光強度P1である光CW0を連続的に発光し射出する。この発光素子103によって射出された連続光CW0は、第1光強度変調器111に入射される。
背景技術では光強度変調器は、通常状態ではオフであり、所定タイミングでオン・オフすることによって図20(B)に示す光パルスを生成するものである。光強度変調器がマッハツェンダ型光変調器である場合には、導波路に印加される電圧を調整することにより、オフは、第1導波路アームを伝播する光と第2導波路アームを伝播する光との位相差を180度に設定することによって実現され、オンは、第1導波路アームを伝播する光と第2導波路アームを伝播する光の位相を揃えることによって実現される。
図10(B)に示すように、第1光強度変調器111は、通常状態では第1光強度変調器111から射出される光の光強度が光強度P1より小さく微弱な光強度P2となるように、制御処理部16の制御に基づく第1光強度変調器駆動部112によって駆動され、タイミングT1でオンすると共にタイミングT2で通常状態に戻るように、制御処理部16の制御に基づく第1光強度変調器駆動部112によって駆動される。このように第1光強度変調器駆動部112によって第1光強度変調器111が駆動されることによって、第1光強度変調器111に入射した連続光CW0は、タイミングT1まで光強度P2に変調され、タイミングT1からタイミングT2まで変調を受けずに光強度P1のままに為され、タイミングT2から再び光強度P2に変調される。即ち、このように第1光強度変調器駆動部112によって駆動されることによって、第1光強度変調器111は、図10(B)に示す光強度P2の連続的な漏れ光CWLの中に光強度P1の光パルスOPが在る光を射出する。この光強度P1は、図1及び図4における光強度P1(=(As+Cs)2)に対応し、光強度P2は、図1及び図4に示す光パルス前方光OPf及び光パルス後方光OPbの光強度P2(=Cs2)に対応する。光強度変調器がMZ光変調器である場合には、第1光強度変調器駆動部112は、MZ光変調器の第1及び第2導波路アームに印加される電圧を調整することにより、通常状態では光強度がP2となるように第1導波路アームを伝播する光と第2導波路アームを伝播する光との位相差を調整し、タイミングT1では第1導波路アームを伝播する光と第2導波路アームを伝播する光の位相を揃え、タイミングT2では通常状態の光強度がP2となるように第1導波路アームを伝播する光と第2導波路アームを伝播する光との位相差を調整する。
そして、連続的な漏れ光CWLと光パルスOPから成る図10(B)に示す波形の光が第1光強度変調器111から第2光強度変調器113に入射される。図10(C)に示すように、第2光強度変調器113は、通常状態ではオフであり、タイミングT3でオンすると共にタイミングT4で通常状態のオフに戻るように、制御処理部16の制御に基づく第2光強度変調器駆動部114によって駆動される。このように第2光強度変調器駆動部114によって第2光強度変調器113が駆動されることによって、第1光強度変調器111から第2光強度変調器113に入射した図10(B)に示す波形の光は、タイミングT3まで光強度0に変調され(オフされ)、タイミングT3からタイミングT4まで変調を受けずにそのままに為され、タイミングT4から再び光強度0に変調される(オフにされる)。即ち、このように第2光強度変調器駆動部114によって駆動されることによって、第2光強度変調器113は、光パルスOPの前方だけ光強度P2の連続的な漏れ光OPf(光パルス前方光OPf)を残して残余を除去する。これによって第2光強度変調器113は、光強度P2の光パルスの中に光強度P2よりも大きい光強度P1の光パルスが在る光強度が一段階変化する階段状であって線幅の狭い光強度階段状光パルスOPsを生成する。なお、タイミングT4を調整することによって光パルス後方光OPbを持つ光強度階段状光パルスOPsとしてもよい。
ここで、この光強度階段状光パルスOPsにおける光パルス前方光OPfの時間幅Tf、光パルスOPの時間幅Tp及び式12で定義される比Prxは、前述のように設定される。
本実施形態では、光パルス前方光OPfの時間幅Tfは、例えば、5nsや10nsや15nsや20ns等に設定した。また、光パルスOPのパルス幅Tpは、前述したように1m以下の高空間分解能を得るために10ns以下に設定する必要があるが、検出用光ファイバ18の或る位置におけるブリルアン周波数シフトにこの或る位置の周辺におけるブリルアン周波数シフトの情報が混じることを抑制し得る観点から、ブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)をブリルアン時間領域検出計17が測定する場合におけるサンプリング時間間隔に合わせると好適であり、本実施形態では、光パルスOPのパルス幅Tpは、5nsや2nsや1nsに設定した。そして、比Prxは、前述したように、比Prxに対するH2/(H1+H3+H4)を式8乃至式11に基づいてシミュレーションし、そして、そのシミュレーションの結果に基づいて設定される。本実施形態では、ブリルアン・ロス・スペクトルBSl/g(νd)のピークを検出する上で最も良好なローレンツ曲線を得ることができ、最も高精度で高空間分解能に歪み及び/又は温度を検出することができることから、比Prxは、シミュレーションの結果におけるH2/(H1+H3+H4)のピークを与える値に設定される。比Prxは、シミュレーションの結果におけるH2/(H1+H3+H4)の値が0.5以上となる比Prxの値に設定しても、高精度で高空間分解能に歪み及び/又は温度を検出することができる。例えば、光パルス前方光OPfの時間幅Tfが12nsであって光パルスOPの時間幅Tpが1nsである場合において、比Prxは、約15dB〜約27dBの間の値に、そして、最も良好なローレンツ曲線を得るためには約21dBに設定される。
なお、第1光強度変調器111及び第2光強度変調器113の損失を補償するために光を増幅する光増幅器115を発光素子103から光カプラ12の光路上に配置してもよい。特に、雑音となる自然放出光(ASE、Amplifier Spontaneous Emission)の少ないうちに増幅する観点から図7に破線で示すように第1光強度変調器111と第2光強度変調器113との間の光路上に配置することが好ましい。光増幅器115は、例えば、発光素子103が発光する光の周波数に対し利得を持つ光ファイバ増幅器や半導体光増幅器である。光ファイバ増幅器は、例えば、エルビウム(元素記号;Er)、ネオジム(元素記号;Nd)、プラセオジウム(元素記号;Pr)及びツリウム(元素記号;Tm)等の希土類元素を光ファイバに添加した希土類元素添加光ファイバ増幅器やラマン増幅を利用したラマン増幅光ファイバ増幅器等がある。
図6に戻って、光カプラ12、20は、入射光を2つの光に分配して射出する光部品であり、例えば、ハーフミラー等の微少光学素子形光分岐結合器や溶融ファイバの光ファイバ形光分岐結合器や光導波路形光分岐結合器等を利用することができる。光カプラ12の一方の出力端子は、光強度・偏光調整部13の入力端子に光学的に接続され、他方の出力端子は、ブリルアン時間領域検出計17の第1入力端子に光学的に接続される。
光強度・偏光調整部13は、制御処理部16によって制御され、入射光の光強度を調整すると共に入射光の偏光面をランダムに変更して射出する部品である。光強度・偏光調整部13の出力端子は、光サーキュレータ14の第1端子に光学的に接続される。光強度・偏光調整部13は、例えば、図11に示すように光可変減衰器121と、偏光制御器122とを備えて構成される。光可変減衰器121は、入射光の光強度を減衰して射出するとともにその減衰量を変更することができる光部品である。光可変減衰器121は、例えば、入射光と射出光との間に減衰円板を挿入し、減衰円板の表面には回転方向に厚みが連続的に変えてある金属膜を蒸着して、この減衰円板を回転させることにより減衰量を調節する光可変減衰器や、入射光と射出光との間に磁気光学結晶およびこの磁気光学結晶の射出側に偏光子を挿入し、磁気光学結晶に磁界を印加してこの磁界の強さを変えることにより減衰量を調整する光可変減衰器等を利用することができる。偏光制御器122は、入射光の偏光面をランダムに変えて射出する光部品である。光強度・偏光調整部13に入射した入射光は、光可変減衰器121で制御処理部16の制御により光強度が所定光強度に調整されて偏光制御器122に入射され、偏光制御器122で偏光面がランダムに変えられて射出される。
光サーキュレータ14は、第1乃至第3の3端子の光サーキュレータであり、入射光と射出光とがその端子番号に循環関係を有する非可逆性の光部品である。即ち、第1端子に入射した光は、第2端子から射出されると共に第3端子からは射出されず、第2端子に入射した光は、第3端子から射出されると共に第1端子からは射出されず、第3端子に入射した光は、第1端子から射出されると共に第2端子からは射出されない。光コネクタ15、22は、光ファイバ同士や光部品と光ファイバとを光学的に接続する光部品である。光サーキュレータ14の第2端子は、光コネクタ15を介して検出用光ファイバ18の一方端に光学的に接続され、光サーキュレータ14の第3端子は、ブリルアン時間領域検出計17の第3入力端子に光学的に接続される。
CW光源19は、制御処理部16によって制御され、所定周波数範囲frで光強度が略一定の連続光CWpump1を発光する装置である。CW光源19は、例えば、図12に示すように、基板131と、温度検出素子132と、発光素子133と、光カプラ134と、EF135と、第1受光素子136と、第2受光素子137と、温度調整素子138と、ATC139と、AFC140とを備えて構成される。即ち、CW光源19は、所定周波数範囲frで光強度が略一定の連続光CWpump1を発光すればよいから、発光素子133が射出する連続光を階段状光パルス光源11のように光強度が階段状の光パルスに形成する必要がないので、階段状光パルス光源11における第1及び第2光強度変調器111、113と第1及び第2光強度変調器駆動部112、114とを備えない構成である。CW光源19における基板131、温度検出素子132、発光素子133、光カプラ134、EF135、第1受光素子136、第2受光素子137、温度調整素子138、ATC139及びAFC140は、AFC140が制御処理部16の制御に基づき発光素子133の光の周波数を後述するように変更することを除き、光学的な接続関係や電気的な接続関係を含めて階段状光パルス光源11における基板101、温度検出素子102、発光素子103、光カプラ104、EF105、第1受光素子106、第2受光素子107、温度調整素子108、ATC109及びAFC110とそれぞれ同様なので、その説明を省略する。
本実施形態の分布型光ファイバセンサ1は、プローブ光である階段状光パルスの周波数f0を固定し、ポンプ光である連続光CWpump1の周波数を第1周波数間隔△faで掃引しながら検出用光ファイバ18に入射させ、この際に検出用光ファイバ18から射出されるブリルアン散乱現象に係る光の光強度が所定条件を満たした場合に、所定条件を満たした周波数を含む所定周波数範囲frにおいて連続光CWpump1を第1周波数間隔△faより小さい第2周波数間隔△fbで掃引しながら検出用光ファイバ18に入射させることによってブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)を測定し、ブリルアン周波数シフトνbを測定するものである。
そのため、制御処理部16が、第1周波数間隔△faで掃引するための周波数に合わせてAFC140における参照電圧Vref2及び参照電圧Vref3を変更してAFC140のロックポイント値LP0を変更するように構成され、さらに、ブリルアン時間領域検出計17の出力を参照することによって、制御処理部16が、この際に検出用光ファイバ18から射出されるブリルアン散乱現象に係る光の光強度が所定条件を満たした場合に、所定条件を満たした周波数を含む所定周波数範囲frにおいて連続光CWpump1を第1周波数間隔△faより小さい第2周波数間隔△fbで掃引するための周波数に合うように階段状に駆動電流を変更するように構成される。
CW光源19の出力端子は、光カプラ20の入力端子に光学的に接続される。光カプラ20の一方の出力端子は、光強度調整部21の入力端子に光学的に接続され、他方の出力端子は、ブリルアン時間領域検出計17の第2入力端子に光学的に接続される。
図6に戻って、光強度調整部21は、制御処理部16によって制御され、入射光の光強度を調整して射出する部品である。光強度調整部21の出力端子は、光コネクタ22を介して検出用光ファイバ18の他方端に光学的に接続される。光強度調整部21は、例えば、図13に示すように光可変減衰器151と、光アイソレータ152とを備えて構成される。光可変減衰器151は、光可変減衰器121と同様に、入射光の光強度を減衰して射出する光部品である。光アイソレータ152は、入力端子から出力端子へ一方向のみ光を透過する光部品であり、例えば45度ずれた状態の2つの偏光子の間にファラデー回転子を配置することによって構成することができる。光アイソレータ152は、分布型光ファイバセンサ1内における各光部品の接続部などで生じる反射光の伝播やプローブ光のCW光源19への伝播を防止する役割を果たす。光強度調整部21に入射した入射光は、光可変減衰器151で光強度が所定光強度に調整されて光アイソレータ152を介して射出される。
なお、検出用光ファイバ18を伝播したポンプ光は、光コネクタ15及び光サーキュレータ14を介してブリルアン時間領域検出計17に入射するので、光強度・偏光調整部13や階段状光パルス光源11に入射することはない。ここで、光サーキュレータ14の代わりに光カプラを用いる場合には、ポンプ光が光強度・偏光調整部13や階段状光パルス光源11に入射することを防止するために、光強度・偏光調整部13の出力端子に光アイソレータ又はポンプ光を遮断し階段状光パルスOPsを透過する光フィルタを配置することが好ましい。
検出用光ファイバ18は、歪み及び/又は温度を検出するセンサ用の光ファイバであり、その一方端からプローブ光が入射され、その他方端からポンプ光が入射され、ブリルアン散乱現象の作用を受けたプローブ光及びポンプ光がその他方端及び一方端からそれぞれ射出される。ここで、橋、トンネル、ダム、建物等の構造物や地盤等の計測対象物に生じた歪み及び/又は温度を測定する場合には、検出用光ファイバ18を計測対象物に固定することによって測定することができる。
制御処理部16は、ブリルアン時間領域検出計17と信号を入出力することによって、検出用光ファイバ18の長尺方向における検出用光ファイバ18の歪み及び/又は温度の分布を高空間分解能で測定するように、階段状光パルス光源11、光強度・偏光調整部13、CW光源19及び光強度調整部21を制御する電子回路であり、例えば、マイクロプロセッサ、ワーキングメモリ、及び、ATC109用の参照電圧Vref1、AFC110用の参照電圧Vref2、Vref3、ATC139用の参照電圧Vref1、AFC140用の参照電圧Vref2、Vref3(第1周波数間隔△fa)、駆動電流(第2周波数間隔△fb)、タイミングT1、T2、T3、T4、比Prx等の各データを記憶するメモリ等を備えて構成される。
ブリルアン時間領域検出計17は、分布型光ファイバセンサ1の各部を制御し、制御処理部16の制御によりCW光源19が第1周波数間隔△faで掃引しながら連続光CWpump1を検出用光ファイバ18に入射させている場合にはブリルアン散乱現象に係る光の光強度が所定条件を満たしているか否かを判断して所定条件を満たすとその旨を制御処理部16に通知する。ブリルアン時間領域検出計17は、この通知により制御処理部16が所定条件を満たした周波数を含む所定周波数範囲frにおいて第2周波数間隔△fbで掃引しながら連続光CWpump1を検出用光ファイバ18に入射させる場合には、ブリルアン散乱現象に係る光を検出することによって検出用光ファイバ18の長尺方向における検出用光ファイバ18の各領域部分のブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)をそれぞれ求め、求めた各領域部分のブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)に基づいて各領域部分のブリルアン周波数シフトνbをそれぞれ求め、求めた各領域部分のブリルアン周波数シフトνbに基づいて検出用光ファイバ18の歪み分布及び/又は温度分布を検出する。所定条件は、ブリルアン・ロス・スペクトルBSl(νd)に基づいて検出用光ファイバ18の歪み分布及び/又は温度分布を検出する場合には、ブリルアン散乱現象に係る光の光強度が所定閾値以下になることであり、ブリルアン・ゲイン・スペクトルBSg(νd)に基づいて検出用光ファイバ18の歪み分布及び/又は温度分布を検出する場合には、ブリルアン散乱現象に係る光の光強度が所定閾値以上になることである。
そして、ブリルアン時間領域検出計17は、ローレンツ曲線が得られる上述の比Prxが記憶されており、階段状光パルス光源11が射出した光強度階段状光パルスOPsの光強度を検出し、光強度階段状光パルスOPsのP1/P2がこの比Prxとなるように制御処理部16に通知する。さらに、ブリルアン時間領域検出計17は、ローレンツ曲線を得るべく最適なプロープ光の光強度及び最適なポンプ光の光強度が記憶されており、階段状光パルス光源11が射出した光強度階段状光パルスOPsの光強度を検出すると共にCW光源19が射出した連続光CWpump1の光強度を検出し、この最適なプロープ光の光強度及び最適なポンプ光の光強度となるように光強度・偏光調整部13及び光強度調整部21を調整すべく制御処理部16に通知する。ブリルアン時間領域検出計17は、光スイッチ、スペクトルアナライザ及びコンピュータ等を備えて構成される。
このようにローレンツ曲線が得られる上述の比Prxをブリルアン時間領域検出計17に予め記憶することができるのは、プローブ光が階段状光パルスであるからである。また、ローレンツ曲線が得られる上述の比Prxがブリルアン時間領域検出計17に予め記憶されるので、背景技術のように測定のたびに検出用光ファイバのファイバ長に合わせて光パルスをマニュアルで調整する必要がない。
次に、第1の実施形態に係る分布型光ファイバセンサの動作について説明する。図14は、ブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)を測定する場合における連続光の発光方法を説明するための図である。図14の横軸は周波数であり、その縦軸は光強度である。図15は、第2周波数間隔△fbで連続光を発光する場合における駆動電流を説明するための図である。図15の横軸は時間であり、その縦軸は駆動電流である。図16は、ブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルの分布及び距離L1と距離L2とにおけるブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルを示す図である。図16(A)は、ブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルの分布を示し、x軸は、検出用光ファイバ18の一方端からの距離であり、y軸は、周波数であり、z軸は、光強度である。図16(B)は、距離L1と距離L2とにおけるブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルを示し、x軸は、周波数であり、y軸は、光強度である。また、説明の都合上、距離L1では、検出用光ファイバ18に歪みが生じていないものとし、距離L2では、検出用光ファイバ18に歪みが生じているものとする。
まず、ブリルアン時間領域検出計17は、光カプラ12を介して階段状光パルス光源11からの光のスペクトルを測定するように準備し、階段状光パルス光源11から光を射出させる信号を制御処理部16に通知する。
この信号を受けると、制御処理部16は、既定のATC109用の参照電圧Vref1とAFC110用の参照電圧Vref2、Vref3とをATC109とAFC110とにそれぞれ印加し、発光素子103を発光させ、階段状光パルス光源11から光を射出させる。
階段状光パルス光源11から射出された光は、光カプラ12を介してブリルアン時間領域検出計17に入射され、ブリルアン時間領域検出計17は、その光のスペクトルを測定する。ブリルアン時間領域検出計17は、この測定結果から階段状光パルス光源11が所定発振周波数f0の光を射出しているか否かを確認する。所定発振周波数f0ではない場合には、ブリルアン時間領域検出計17は、所定発振周波数f0となるようにAFC110用の参照電圧Vref2、Vref3を調整する信号を制御処理部16に通知する。
この信号を受けると、制御処理部16は、所定発振周波数f0となるようにAFC110用の参照電圧Vref2、Vref3を調整する。階段状光パルス光源11から射出された光の発振周波数fが所定発振周波数f0になると、ブリルアン時間領域検出計17は、その光強度P1を制御処理部16に通知する。
制御処理部16は、この通知された光強度P1及び記憶している比Prxに基づいて、光強度階段状光パルスOPsにおける光パルス前方光OPf(光パルス後方光OPbがある場合には、光パルス前方光OPf及び光パルス後方光OPb)の光強度P2に対する光パルスOPの光強度P1の比が前述した所定比Prxとなるように、第1光強度変調器駆動部112を制御すると共に、光強度階段状光パルスOPsを射出するように第2光強度変調器駆動部114を制御する。
階段状光パルス光源11から射出された光強度階段状光パルスOPsは、光カプラ12を介してブリルアン時間領域検出計17に入射され、ブリルアン時間領域検出計17は、その光強度階段状光パルスOPsのスペクトルを測定する。ブリルアン時間領域検出計17は、この測定結果から階段状光パルス光源11が所定比Prxの光強度階段状光パルスOPsを射出しているか否かを確認する。所定比Prxではない場合には、ブリルアン時間領域検出計17は、所定比Prxとなるように第1光強度変調器111を調整する信号を制御処理部16に通知する。
この信号を受けると、制御処理部16は、所定比Prxとなるように第1光強度変調器111を調整する。このような調整を繰り返し、階段状光パルス光源11から射出された光強度階段状光パルスOPsの比が所定比Prxになると、ブリルアン時間領域検出計17は、スペクトルの測定結果から階段状光パルス光源11が射出した光強度階段状光パルスOPsが、ローレンツ曲線のブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)を得られる最適な光強度で検出用光ファイバ18に入射するように、光強度・偏光調整部13の減衰量を調整する信号を制御処理部16に通知する。
この信号を受けると、制御処理部16は、光強度・偏光調整部13の減衰量を調整し、制御処理部16は、減衰量の調整が終了した旨を示す信号をブリルアン時間領域検出計17に通知する。
この信号を受けると、ブリルアン時間領域検出計17は、階段状光パルス光源11が所定光強度階段状光パルスOPsを射出する準備が整ったと判断し、所定光強度階段状光パルスOPsの射出を止めるように階段状光パルス光源11を制御処理部16に制御させる。
そして、ブリルアン時間領域検出計17は、ブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)の測定を開始する。
まず、ブリルアン時間領域検出計17は、光カプラ20を介してCW光源19からの光のスペクトルを測定するように準備する。そして、ブリルアン時間領域検出計17は、図14に示すように、第1周波数間隔△faで掃引する周波数範囲における最低の周波数fa1の連続光をCW光源19から射出させる信号を制御処理部16に通知する。
この通知を受けると、制御処理部16は、既定のATC139用の参照電圧Vref1と最低の周波数fa1に対応するAFC140用の参照電圧Vref2、Vref3とをATC139とAFC140とにそれぞれ印加し、発光素子133を発光させ、CW光源19から連続光を射出させる。
CW光源19から射出された連続光は、光カプラ20を介してブリルアン時間領域検出計17に入射され、ブリルアン時間領域検出計17は、その光のスペクトルを測定する。ブリルアン時間領域検出計17は、CW光源11が最低の周波数fa1の連続光を射出しているか否かを確認する。最低の周波数fa1ではない場合には、ブリルアン時間領域検出計17は、最低の周波数fa1となるようにAFC140用の参照電圧Vref2、Vref3を調整する信号を制御処理部16に通知する。さらに、ブリルアン時間領域検出計17は、スペクトルの測定結果からCW光源19が射出した連続光が、ローレンツ曲線のブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)を得られる最適な光強度で検出用光ファイバ18に入射するように、光強度調整部21の減衰量を調整する信号を制御処理部16に通知する。
これらの信号を受けると、制御処理部16は、最低の周波数fa1となるようにAFC140用の参照電圧Vref2、Vref3を調整する。さらに、制御処理部16は、光強度調整部21の減衰量を調整し、制御処理部16は、減衰量の調整が終了した旨を示す信号をブリルアン時間領域検出計17に通知する。
この信号を受け、CW光源19から射出された光の周波数が最低の周波数fa1になると、光サーキュレータ14を介したブリルアン散乱現象に係る光のスペクトルを測定するように準備し、ブリルアン時間領域検出計17は、階段状光パルス光源11から光強度階段状光パルスOPsを射出させる信号を制御処理部16に通知する。
この信号を受けると、制御処理部16は、階段状光パルス光源11に光強度階段状光パルスOPsを射出させ、射出させたタイミングを知らせる信号をブリルアン時間領域検出計17に通知する。
階段状光パルス光源11から射出された光強度階段状光パルスOPsは、光カプラ12を介して光強度・偏光調整部13に入射され、光強度・偏光調整部13でその光強度及び偏光面が調整され、光サーキュレータ14及び光コネクタ15を介してプローブ光として検出用光ファイバ18の一方端に入射する。検出用光ファイバ18の一方端に入射したプローブ光(光強度階段状光パルスOPs)は、検出用光ファイバ18の他方端から入射され検出用光ファイバ18を伝播するポンプ光(連続光CWpump1)とブリルアン散乱現象を生じさせながら検出用光ファイバ18の一方端から他方端へ伝播する。
ブリルアン散乱現象に係る光は、検出用光ファイバ18の一方端から射出され、光サーキュレータ14を介してブリルアン時間領域検出計17に入射される。ブリルアン時間領域検出計17は、制御処理部16から通知された光強度階段状光パルスOPsを射出したタイミングに基づいて、受光したブリルアン散乱現象に係る光を時間領域分析し、検出用光ファイバ18の長尺方向におけるブリルアン散乱現象に係る光の光強度の分布を測定する。
このようにブリルアン時間領域検出計17は、CW光源19に最低の周波数fa1の連続光をポンプ光として射出させると共に階段状光パルス光源11に光強度階段状光パルスOPsをプローブ光として射出させ、検出用光ファイバ18でこれらプローブ光及びポンプ光によってブリルアン散乱現象を生じさせ、ブリルアン散乱現象に係る光を時間領域分析し、検出用光ファイバ18の長尺方向におけるブリルアン散乱現象に係る光の光強度の分布を測定する。このように測定することによって、最低の周波数fa1のポンプ光に対応するブリルアン散乱現象に係る光の光強度が得られる。
ここで、ブリルアン散乱現象に係るプローブ光とポンプ光との間における相互作用の程度は、プローブ光の偏光面とポンプ光の偏光面との相対関係に依存する。本実施形態に係る分布型光ファイバセンサ1は、測定ごとに光強度・偏光調整部13で光強度階段状光パルスOPsの偏光面がランダムに変わるので、最低の周波数fa1のポンプ光に対応するブリルアン散乱現象に係る光の光強度の分布の測定を複数回実行してその平均値を採用することによって、この依存性を実質的に解消することができる。そのため、精度よくブリルアン散乱現象に係る光の光強度を得ることができる。
ブリルアン時間領域検出計17は、最低の周波数fa1のポンプ光に対応するブリルアン散乱現象に係る光の光強度の測定が終わると、この測定した最低の周波数fa1のポンプ光に対応するブリルアン散乱現象に係る光の光強度が所定条件を満たしているか否かを判断する。即ち、上述したように、ブリルアン・ロス・スペクトルBSl(νd)に基づいて検出用光ファイバ18の歪み分布及び/又は温度分布を検出する場合には、ブリルアン時間領域検出計17は、この測定した最低の周波数fa1のポンプ光に対応するブリルアン散乱現象に係る光の光強度が所定閾値Th以下であるか否かを判断する。この所定閾値Thは、この測定した光強度がブリルアン・ロス・スペクトルBSl(νd)に係る光の光強度であるか否かを判定するための値である。一方、ブリルアン・ゲイン・スペクトルBSg(νd)に基づいて検出用光ファイバ18の歪み分布及び/又は温度分布を検出する場合には、ブリルアン時間領域検出計17は、この測定した最低の周波数fa1のポンプ光に対応するブリルアン散乱現象に係る光の光強度が所定閾値Th以上であるか否かを判断する。この所定閾値Thは、この測定した光強度がブリルアン・ゲイン・スペクトルBSg(νd)に係る光の光強度であるか否かを判定するための値である。
例えば、図14に示すように周波数fa3を含む或る周波数範囲でブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)が生じている場合には、周波数fa1、周波数fa2及び周波数fa4では、測定したブリルアン散乱現象に係る光の光強度が所定条件を満たさないことになる。よって、この例では、この測定した最低の周波数fa1のポンプ光に対応するブリルアン散乱現象に係る光の光強度が所定条件を満たしているか否かを判断した場合に、ブリルアン時間領域検出計17は、この測定した光強度が所定条件を満たしていないと判断して、第1周波数間隔△faで掃引すべく、同様に、次の周波数fa2のポンプ光を発光するように制御処理部16に通知する。この通知を受けると制御処理部16は、次の周波数fa2のポンプ光を発光するようにCW光源19を調整する。そして、ブリルアン時間領域検出計17は、次の周波数fa2のポンプ光に対応するブリルアン散乱現象に係る光の光強度の測定し、この測定した次の周波数fa2のポンプ光に対応するブリルアン散乱現象に係る光の光強度が所定条件を満たしているか否かを判断する。
ここで、第1周波数間隔△fa(=fan+1−fan、n=1、2、3、・・・)は、ブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)が生じている周波数を探すための周波数間隔であり、ブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)の半値幅の2倍以下である。本実施形態では、効率よくブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)を探すために、第1周波数間隔△faは、ブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)の半値幅の2倍に設定され、例えば、100MHzに設定される。
この図14に示す例では、この測定した周波数fa2のポンプ光に対応するブリルアン散乱現象に係る光の光強度が所定条件を満たしているか否かを判断した場合に、ブリルアン時間領域検出計17は、この測定した光強度が所定条件を満たしていないと判断して、第1周波数間隔△faでさらに掃引すべく、次の周波数fa3のポンプ光を発光するように制御処理部16に通知する。この通知を受けると制御処理部16は、次の周波数fa2のポンプ光を発光するようにCW光源19を調整する。そして、ブリルアン時間領域検出計17は、次の周波数fa3のポンプ光に対応するブリルアン散乱現象に係る光の光強度の測定し、この測定した次の周波数fa3のポンプ光に対応するブリルアン散乱現象に係る光の光強度が所定条件を満たしているか否かを判断する。
この図14に示す例では、この測定した周波数fa3のポンプ光に対応するブリルアン散乱現象に係る光の光強度が所定条件を満たしているか否かを判断した場合に、ブリルアン時間領域検出計17は、この測定した光強度が所定条件を満たしている判断する。この場合には、ブリルアン時間領域検出計17は、所定条件を満たした周波数fa3を含む所定周波数範囲frにおいて第2周波数間隔△fbで掃引しながらポンプ光を検出用光ファイバ18に入射させる。そして、ブリルアン時間領域検出計17は、ブリルアン散乱現象に係る光を検出することによって検出用光ファイバ18の長尺方向における検出用光ファイバ18の各領域部分のブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)をそれぞれ求め、求めた各領域部分のブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)に基づいて各領域部分のブリルアン周波数シフトνbをそれぞれ求め、求めた各領域部分のブリルアン周波数シフトνbに基づいて検出用光ファイバ18の歪み分布及び/又は温度分布を検出する。
より具体的に説明すると、まず、ブリルアン時間領域検出計17は、光カプラ20を介してCW光源19からの光のスペクトルを測定するように準備する。そして、ブリルアン時間領域検出計17は、図14に示すように、所定条件を満たした周波数fa3を含む所定周波数範囲frにおいて、第1周波数間隔△faより狭い第2周波数間隔△fbで掃引しながら連続光をCW光源19から射出させる信号を制御処理部16に通知する。
この通知を受けると、制御処理部16は、既定のATC139用の参照電圧Vref1と最低の周波数fb31に対応するAFC140用の参照電圧Vref2、Vref3とをATC139とAFC140とにそれぞれ印加し、発光素子133を発光させ、CW光源19から連続光を射出させる。
CW光源19から射出された連続光は、光カプラ20を介してブリルアン時間領域検出計17に入射され、ブリルアン時間領域検出計17は、その光のスペクトルを測定する。ブリルアン時間領域検出計17は、CW光源11が最低の周波数fb31の連続光を射出しているか否かを確認する。最低の周波数fb31ではない場合には、ブリルアン時間領域検出計17は、最低の周波数fb31となるようにAFC140用の参照電圧Vref2、Vref3を調整する信号を制御処理部16に通知する。さらに、ブリルアン時間領域検出計17は、スペクトルの測定結果からCW光源19が射出した連続光が、ローレンツ曲線のブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)を得られる最適な光強度で検出用光ファイバ18に入射するように、光強度調整部21の減衰量を調整する信号を制御処理部16に通知する。
これらの信号を受けると、制御処理部16は、最低の周波数fb31となるようにAFC140用の参照電圧Vref2、Vref3を調整する。さらに、制御処理部16は、光強度調整部21の減衰量を調整し、制御処理部16は、減衰量の調整が終了した旨を示す信号をブリルアン時間領域検出計17に通知する。
この信号を受け、CW光源19から射出された光の周波数が最低の周波数fb31になると、光サーキュレータ14を介したブリルアン散乱現象に係る光のスペクトルを測定するように準備し、ブリルアン時間領域検出計17は、階段状光パルス光源11から光強度階段状光パルスOPsを射出させる信号を制御処理部16に通知する。
この信号を受けると、制御処理部16は、階段状光パルス光源11に光強度階段状光パルスOPsを射出させ、射出させたタイミングを知らせる信号をブリルアン時間領域検出計17に通知すると共に、周波数fb31から第2周波数間隔△fb(=fbn+1−fbn、n=31、32、33、・・・)で掃引しながらポンプ光を検出用光ファイバ18に入射させるべく、図15に示すように、AFC140用の参照電圧Vref2、Vref3を調整することにより発光素子133の駆動電流を所定時間間隔で階段状に増加させる。即ち、時間t32−t31では駆動電流i31で発光素子133を発光させ、時間t33−t32では駆動電流i32で発光素子133を発光させ、時間t34−t33では駆動電流i33で発光素子133を発光させ、・・・、時間t312−t311では駆動電流i31で発光素子133を発光させる。この駆動電流i31は、発光素子133を周波数fb31で発光させる電流であり、この駆動電流i32は、発光素子133を周波数fb32で発光させる電流であり、・・・、この駆動電流i311は、発光素子133を周波数fb311で発光させる電流である。
このように駆動電流i31から駆動電流i311まで所定時間間隔で階段状に駆動電流を増加させることによって、最低の周波数fb31から最高の周波数fb311まで第2周波数間隔△fbで次々とポンプ光を検出用光ファイバ18に入射させることができ、ブリルアン散乱現象に係る光の光強度を第2周波数間隔△fbで次々と測定することができる。そして、上述したように、CW光源19から射出される連続光CWpump1の周波数を第1周波数間隔△faで掃引する場合や最低の周波数fb31でCW光源19から連続光CWpump1を射出させる場合では、CW光源11がこれらの周波数の連続光CWpump1を射出しているか否かを確認するが、最低の周波数fb31の次の周波数fb32から最高の周波数fb311までは、この確認を行うことなく、駆動電流のみを変化させているだけなので、さらに高速にブリルアン散乱現象に係る光の光強度を第2周波数間隔△fbで測定することができる。
ここで、所定条件を満たした周波数fa3を含む所定周波数範囲frは、ブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)のピークを検出することができる範囲であればよく、例えば、所定条件を満たした周波数fa3を中心周波数とするブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)の半値幅の2倍の周波数範囲である。そして、第2周波数間隔△fbは、ブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)のピークを検出する精度に関係し、狭ければピークを検出する精度が向上し、広ければピークを検出する精度が低下する。第2周波数間隔△fbは、仕様によって決定され、本実施形態では、例えば、5MHzに設定される。
このようにブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)が生じていない場合には、第1周波数間隔△faでブリルアン散乱現象に係る光の光強度が測定され、ブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)が生じている場合には、この所定条件を満たした周波数を含む所定周波数範囲frにおいて、第1周波数間隔△faより狭い第2周波数間隔△fbでブリルアン散乱現象に係る光の光強度が測定される。こうして、図16(A)に示すように、第1周波数間隔△faで掃引される周波数範囲の各周波数における検出用光ファイバ18の長尺方向におけるブリルアン散乱現象に係る光の光強度の分布m1、m2、m3、m4、・・・、mnが高精度かつ高空間分解能でより高速に得られ、その結果、検出用光ファイバ18の長尺方向の各領域部分におけるブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)が高精度かつ高空間分解能でより高速に得られる。
そして、ブリルアン時間領域検出計17は、検出用光ファイバ18に歪みを生じていない部分におけるブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)のピークに対応する周波数を基準に、検出用光ファイバ18の長尺方向の各領域部分におけるブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)のピークに対応する周波数の差を求めることによって、検出用光ファイバ18の長尺方向の各部分におけるブリルアン周波数シフトνbを高精度かつ高空間分解能でより高速に求める。
例えば、図16(A)、(B)に示すように、検出用光ファイバ18の一方端から距離L1の部分では、歪みが無く、距離L2の部分で歪みが生じているとする。距離L1におけるブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)は、図16(B)で実線の曲線eで示され、距離L1におけるブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)は、図16(B)で破線の曲線fで示されている。この場合では、距離L1におけるブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)のピークに対応する周波数νb1と距離L2におけるブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)のピークに対応する周波数νb2と差を求めて、ブリルアン周波数シフトνb=νb2−νb1が求められる。
そして、ブリルアン時間領域検出計17は、この各領域部分のブリルアン周波数シフトνbから検出用光ファイバ18の長尺方向の各領域部分における歪み及び/又は温度を高精度かつ高空間分解能でより高速に求める。この求めた検出用光ファイバ18の長尺方向の各領域部分における歪み及び/又は温度の分布は、CRT表示装置やXYプロッタやプリンタ等の不図示の出力部に提示される。
このように第1の実施形態に係る分布型光ファイバセンサ1は、プローブ光に光強度階段状光パルスOPsを用いるので、ローレンツ曲線が得られる上述の比Prxをブリルアン時間領域検出計17に予め記憶することができるから、背景技術のように測定のたびに検出用光ファイバ18のファイバ長に合わせて光パルスをマニュアルで調整する必要がない。従って、分布型光ファイバセンサ1を工業製品化することも可能である。また、論理解析の結果、最適な比Prxに設定し得るので、ブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)は、ローレンツ曲線となるから、高精度かつ高空間分解能で検出用光ファイバ18に生じた歪み及び/又は温度を測定することができる。また、さらに、第1周波数間隔△faで掃引することによってブリルアン散乱現象に係る光が生じている周波数範囲の目安をつけ、ブリルアン散乱現象に係る光が生じている周波数範囲の辺りで第2周波数間隔△fbで細かくブリルアン散乱現象に係る光の光強度を検出するようにしているので、より高速に検出用光ファイバ18に生じた歪み及び/又は温度を測定することができる。
次に、別の実施形態について説明する。
(第2の実施形態)
本発明に係る第2の実施形態における分布型光ファイバセンサは、歪み及び/又は温度を検出するための検出用光ファイバの一方端からプローブ光及びポンプ光を入射して、検出用光ファイバでブリルアン散乱現象の作用を受けたポンプ光を受光し、ブリルアン・ゲイン・スペクトラム時間領域反射分析(BGain−OTDR、Brillouin Gain Optical Time Domain Reflectometer)又はブリルアン・ロス・スペクトラム時間領域反射分析(BLoss−OTDR、Brillouin Loss Optical Time Domain Reflectometer)を行うことにより、ブリルアン周波数シフトに基づいて歪み及び/又は温度を検出するものである。以下、ブリルアン・ゲイン・スペクトラム時間領域反射分析又はブリルアン・ロス・スペクトラム時間領域反射分析をブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトラム時間領域反射分析と略記する。このブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトラム時間領域反射分析では、ブリルアン散乱現象に係る光は、ブリルアン散乱光である。
まず、第2の実施形態における分布型光ファイバセンサの構成について説明する。図17は、第2の実施形態における分布型光ファイバセンサの構成を示すブロック図である。図18は、第2の実施形態の分布型光ファイバセンサにおけるCW光源の構成を示すブロック図である。
第2の実施形態における分布型光ファイバセンサ2は、階段状光パルス光源11と、光カプラ12と、光強度・偏光調整部13と、光サーキュレータ14と、光カプラ33と、光コネクタ15と、制御処理部31と、ブリルアン時間領域検出計17と、検出用光ファイバ18と、CW光源32と、光カプラ20と、光強度調整部21とを備えて構成される。第2の実施形態における分布型光ファイバセンサ2は、ブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトラム時間領域反射分析を行うことから、制御処理部16及びCW光源19の代わりに制御処理部31及びCW光源32を用い、光サーキュレータ14の第2端子が一方の入力端子に光学的に接続され光強度調整部21の出力端子が他方の入力端子に光学的に接続されると共に出力端子が光コネクタ15に光学的に接続される光カプラ33を光サーキュレータ14と光コネクタ15との間にさらに備え、検出用光ファイバ18の他方端には何も光学部品が接続されていない点を除き、光学的な接続関係や電気的な接続関係を含めて第1の実施形態における分布型光ファイバセンサ1と同様であるので、その説明を省略する。
光カプラ33は、入射光を2つの光に分配して射出する光部品であり、光カプラ12、22と同様の光部品である。
CW光源32は、制御処理部31によって制御され、所定タイミングで所定期間だけ連続光CWpump2を発光する点を除き、第1の実施形態におけるCW光源19と同様である。そのため、CW光源32は、例えば図18に示すように、AFC140が制御処理部31の制御に基づき発光素子133の発振周波数を変更することを除き、光学的な接続関係や電気的な接続関係を含めて階段状光パルス光源11における基板101、温度検出素子102、発光素子103、光カプラ104、EF105、第1受光素子106、第2受光素子107、温度調整素子108、ATC109及びAFC110とそれぞれ同様な基板131、温度検出素子132、発光素子133、光カプラ134、EF135、第1受光素子136、第2受光素子137、温度調整素子138、ATC139及びAFC140を備え、さらに、第3光強度変調器161及びこれを駆動する第3光強度変調器駆動部162を備えた構成である。
第3光強度変調器161は、第1及び第2光強度変調器111、113と同様に、入射光の光強度を変調する光部品である。第3光強度変調器駆動部162は、第1及び第2光強度変調器駆動部112、114と同様に、制御処理部31によって制御され、第3光強度変調器161を駆動するドライバ回路である。発光素子133からの光は、第3光強度変調器161に入射される。第3光強度変調器161は、この発光素子133からの連続光CWpump2を第3光強度変調器駆動部162の制御に基づいてオン・オフする。第3光強度変調器161がオンの場合に第3光強度変調器161から射出された光は、CW光源32の出力光として光カプラ20に入射される。CW光源32は、このように動作することによって所定タイミングで所定期間だけ連続光CWpump2を射出する。なお、図18に破線で示すように、第3光強度変調器161の損失を補償するために光を増幅する光増幅器163を第3光強度変調器161の後に配置してもよい。
制御処理部31は、ブリルアン時間領域検出計17と信号を入出力することによって、検出用光ファイバ18の一方端に入射したポンプ光が他方端で反射したタイミングでプローブ光が検出用光ファイバ18の一方端に入射するようにポンプ光及びプローブ光を検出用光ファイバ18に伝播させ、検出用光ファイバ18の長尺方向における検出用光ファイバ18の歪み及び/又は温度の分布を高空間分解能で測定するように、階段状光パルス光源11、光強度・偏光調整部13、CW光源19及び光強度調整部21を制御する電子回路であり、例えば、マイクロプロセッサ、ワーキングメモリ及びデータを記憶するメモリ等を備えて構成される。
なお、検出用光ファイバ18の一方端から他方端へ伝播したポンプ光がこの他方端でパワーを損失することなく効率よく反射するようにするために、検出用光ファイバ18の他方端にさらに入射光を反射する鏡部を備えてもよく、また、検出用光ファイバ18の他方端を鏡面処理してもよい。
このような構成の第2の実施形態における分布型光ファイバセンサ2は、ブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトラム時間領域反射分析を行うので、各周波数において、ブリルアン散乱現象に係る光の光強度を測定する場合に、検出用光ファイバ18の一方端に入射したポンプ光が他方端で反射したタイミングでプローブ光が検出用光ファイバ18の一方端に入射するようにポンプ光及びプローブ光を検出用光ファイバ18に伝播させ、ブリルアン散乱現象に係る光をブリルアン時間領域検出計17で分析する点を除く、第1の実施形態における分布型光ファイバセンサ1の動作と同様であるので、その説明を省略する。
このようにブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトラム時間領域反射分析によっても、ブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトラム時間領域分析と同様に、プローブ光に階段状光パルスを用いるので、ローレンツ曲線が得られる上述の比Prxをブリルアン時間領域検出計17に予め記憶することができるから、背景技術のように測定のたびに検出用光ファイバ18のファイバ長に合わせて光パルスをマニュアルで調整する必要がない。従って、分布型光ファイバセンサ2を工業製品化することも可能である。また、論理解析の結果、最適な比Prxに設定し得るので、ブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)は、ローレンツ曲線となるから、高精度かつ高空間分解能で検出用光ファイバ18に生じた歪み及び/又は温度を測定することができる。さらに、第1周波数間隔△faで掃引することによってブリルアン散乱現象に係る光が生じている周波数範囲の目安をつけ、ブリルアン散乱現象に係る光が生じている周波数範囲の辺りで第2周波数間隔△fbで細かくブリルアン散乱現象に係る光の光強度を検出するようにしているので、より高速に検出用光ファイバ18に生じた歪み及び/又は温度を測定することができる。
次に、別の実施形態について説明する。
(第3の実施形態)
本発明に係る第3の実施形態における分布型光ファイバセンサは、1台でブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトラム時間領域分析及びブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトラム時間領域反射分析を行うことができるものである。
図19は、第3の実施形態における分布型光ファイバセンサの構成を示すブロック図である。第3の実施形態における分布型光ファイバセンサ3は、階段状光パルス光源11と、光カプラ12と、光強度・偏光調整部13と、光サーキュレータ14と、光カプラ33と、光コネクタ15と、制御処理部41と、ブリルアン時間領域検出計17と、検出用光ファイバ18と、CW光源32と、光カプラ20と、光強度調整部21と、光スイッチ42と、光コネクタ22とを備えて構成される。第3の実施形態における分布型光ファイバセンサ3は、1台でブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトラム時間領域分析及びブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトラム時間領域反射分析を行うことから、制御処理部16及びCW光源19の代わりに制御処理部41及びCW光源32を用い、光カプラ33を光サーキュレータ14と光コネクタ15との間に、及び、光スイッチ42を光強度調整部21と光コネクタ22との間にそれぞれさらに備える点を除き、光学的な接続関係や電気的な接続関係を含めて第1の実施形態における分布型光ファイバセンサ1と同様であるので、その説明を省略する。
光カプラ33は、入射光を2つの光に分配して射出する光部品であり、光サーキュレータ14の第2端子がその一方の入力端子に光学的に接続され、光スイッチ42の一方の出力端子がその他方の入力端子に光学的に接続され、そして、その出力端子が光コネクタ15に光学的に接続される。
光スイッチ42は、1入力2出力である1×2の光スイッチであり、制御処理部41の制御に基づいて入力端子から入射された光を2個の出力端子の何れか一方に選択的に射出する。光スイッチ42は、光強度調整部21の出力端子がその入力端子に光学的に接続され、その一方の出力端子が光カプラ33の他方の入力端子に光学的に接続され、そして、その他方の出力端子が光コネクタ22を介して検出用光ファイバ18の他方端に光学的に接続される。
光スイッチ42は、例えば、機械式光スイッチや光導波路スイッチなどを利用することができる。機械式光スイッチは、プリズム、ロッドレンズおよび鏡などの微少光学素子や光ファイバ自体を移動・回転させることによって光路を切り換える光学部品である。さらに、半導体微細加工技術を用いて光導波路間に屈折率整合液を封入して該整合液を機械的に動かしたり、鏡を静電アクチュエータで動かしたりする光微少電気機械システム(Opto Micro ElectroMechanical Systems )の光スイッチもある。光導波路スイッチは、例えば、光導波路でMZ干渉計を構成し、各光導波路アームに電界を印加することによって各光導波路アームの屈折率を変化させ、光路を切り換える光学部品である。また、キャリア注入による屈折率変化を利用した半導体光スイッチや光半導体増幅器をオン・オフのゲートとして用いた分配合流型の半導体光スイッチも知られている。
制御処理部41は、ブリルアン時間領域検出計17と信号を入出力することによって、ブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトラム時間領域分析及びブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトラム時間領域反射分析により、検出用光ファイバ18の長尺方向における検出用光ファイバ18の歪み及び/又は温度の分布を高空間分解能で測定するように、階段状光パルス光源11、光強度・偏光調整部13、CW光源19、光強度調整部21及び光スイッチ42を制御する電子回路であり、例えば、マイクロプロセッサ、ワーキングメモリ及びデータを記憶するメモリ等を備えて構成される。
このような構成の分布型光ファイバセンサ3は、ブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトラム時間領域分析を行う場合には、制御処理部41は、入力端子から入射された光が、光コネクタ22を介して検出用光ファイバ18の他方端に光学的に接続される出力端子から射出するように、光スイッチ42を制御する。そして、分布型光ファイバセンサ3は、第1の実施形態における分布型光ファイバセンサ1と同様に動作することによってブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトラム時間領域分析を行うので、その動作の説明を省略する。
一方、ブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトラム時間領域反射分析を行う場合には、制御処理部41は、入力端子から入射された光が、光カプラ33及び光コネクタ15を介して検出用光ファイバ18の一方端に光学的に接続される出力端子から射出するように、光スイッチ42を制御する。そして、分布型光ファイバセンサ3は、第2の実施形態における分布型光ファイバセンサ2と同様に動作することによってブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトラム時間領域反射分析を行うので、その動作の説明を省略する。
なお、この場合において、検出用光ファイバ18でプローブ光とブリルアン散乱現象の相互作用を受け、検出用光ファイバ18の一方端から射出されるポンプ光は、光カプラ33で2つに分配され、その一方が光サーキュレータ14を介してブリルアン時間領域検出計17に入射されることになる。即ち、相互作用を受けたポンプ光は、光カプラ33でそのパワーが損失する。そのため、この損失を補償するために、光サーキュレータ14からブリルアン時間領域検出計17までの光路上に光増幅器をさらに備えてもよい。あるいは、ポンプ光を受光素子で受光し光電変換した後に増幅するように増幅器をブリルアン時間領域検出計17にさらに備えてもよい。
このように第3の実施形態における分布型光ファイバセンサ3は、第1及び第2の実施形態に係る分布型光ファイバセンサ1、2と同様に、プローブ光に階段状光パルスを用いるので、ローレンツ曲線が得られる上述の比Prxをブリルアン時間領域検出計17に予め記憶することができるから、背景技術のように測定のたびに検出用光ファイバ18のファイバ長に合わせて光パルスをマニュアルで調整する必要がない。従って、分布型光ファイバセンサ3を工業製品化することも可能である。また、論理解析の結果、最適な比Prxに設定し得るので、ブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)は、ローレンツ曲線となるから、高精度かつ高空間分解能で検出用光ファイバ18に生じた歪み及び/又は温度を測定することができる。さらに、第1周波数間隔△faで掃引することによってブリルアン散乱現象に係る光が生じている周波数範囲の目安をつけ、ブリルアン散乱現象に係る光が生じている周波数範囲の辺りで第2周波数間隔△fbで細かくブリルアン散乱現象に係る光の光強度を検出するようにしているので、より高速に検出用光ファイバ18に生じた歪み及び/又は温度を測定することができる。
なお、第1乃至第3の実施形態において、分布型光ファイバセンサ1、2、3は、プローブ光である階段状光パルスの周波数f0を固定し、ポンプ光である連続光CWpump1の周波数を所定周波数範囲frで走査することによってブリルアン・ロス/ゲイン・スペクトルBSl/g(νd)を測定し、ブリルアン周波数シフトνbを測定するものである。このため、階段状光パルス光源11の発光素子103は、必ずしも周波数可変半導体レーザである必要はなく、半導体レーザでもよい。