以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態における燃料電池システムの構成を示す図、図2は本発明の第1の実施の形態における燃料電池システムの電気系統の構成を示すブロック図である。
図1及び2において、20は燃料電池(FC)としての燃料電池スタックであり、乗用車、バス、トラック、乗用カート、荷物用カート等の車両用の動力源として使用される。ここで、前記車両は、照明装置、ラジオ、パワーウィンドウ等の車両の停車中にも使用される電気を消費する補機14を多数備えており、また、走行パターンが多様であり動力源に要求される出力範囲が極めて広いので、動力源としての燃料電池スタック20と蓄電手段としての二次電池11とを併用して使用することが望ましい。
そして、燃料電池スタック20は、アルカリ水溶液型(AFC)、リン酸型(PAFC)、溶融炭酸塩型(MCFC)、固体酸化物型(SOFC)、直接型メタノール(DMFC)等のものであってもよいが、固体高分子型燃料電池(PEMFC)であることが望ましい。
なお、更に望ましくは、水素ガスを燃料とし、酸素又は空気を酸化剤とするPEMFC(Proton Exchange Membrane Fuel Cell)型燃料電池、又は、PEM(Proton Exchange Membrane)型燃料電池と呼ばれるものである。ここで、該PEM型燃料電池は、一般的に、プロトン等のイオンを透過する電解質層としての固体高分子電解質膜の両側に触媒、電極及びセパレータを結合した燃料電池としてのセル(Fuel Cell)を複数及び直列に結合したスタック(Stack)から成る。
この場合、固体高分子電解質膜を2枚のガス拡散電極で挟み、一体化させて接合する。そして、該ガス拡散電極の一方を燃料極(アノード極)とし、該燃料極表面に接する燃料ガス流路を介し前記燃料極に燃料ガス、すなわち、アノードガスとしての水素ガスを供給すると、水素が水素イオン(プロトン)と電子とに分解され、水素イオンが固体高分子電解質膜を透過する。また、前記ガス拡散電極の他方を酸素極(カソード極)とし、該酸素極表面に接する空気流路を介し前記酸素極に酸化ガス、すなわち、カソードガスとしての空気を供給すると、空気中の酸素、前記水素イオン及び電子が結合して、水が生成される。このような電気化学反応によって起電力が生じるようになっている。
また、図1及び2には、燃料電池スタック20に燃料ガスとしての水素ガスを供給する装置が示されている。なお、図示されない改質装置によってメタノール、ガソリン等を改質して取り出した燃料である水素ガスを燃料電池スタック20に直接供給することもできるが、車両の高負荷運転時にも安定して十分な量の水素ガスを供給することができるようにするためには、燃料貯蔵手段73に貯蔵した水素ガスを供給することが望ましい。これにより、水素ガスがほぼ一定の圧力で、常に、十分に供給されるので、前記燃料電池スタック20は車両の負荷の変動に遅れることなく追随して、必要な電流を供給することができる。この場合、前記燃料電池スタック20の出力インピーダンスは極めて低く、0に近似することが可能である。
水素ガスは、水素吸蔵合金を収納した容器、デカリンのような水素吸蔵液体を収納した容器、水素ガスボンベ等の燃料貯蔵手段73から、燃料供給管路としての第1燃料供給管路21、及び、該第1燃料供給管路21に接続された燃料供給管路としての第2燃料供給管路33を通って、燃料電池スタック20の燃料ガス流路の入口に供給される。そして、前記第1燃料供給管路21には、水素供給電磁弁としての燃料供給電磁弁26が配設される。また、前記第2燃料供給管路33には、前記燃料ガス流路内の圧力を検出する圧力検出手段としての圧力センサ78が配設される。なお、前記燃料貯蔵手段73は、十分に大きな容量を有し、常に、十分に高い圧力の水素ガスを供給することができる能力を有するものである。なお、前記燃料貯蔵手段73は、単数であってもよいし、また、複数であってもよいし、複数の場合にはいくつであってもよい。
そして、燃料電池スタック20の燃料ガス流路の出口から未反応成分として排出される水素ガスは、燃料排出管路31を通って燃料電池スタック20の外部に排出される。前記燃料排出管路31には、回収容器としての水回収ドレインタンク60が配設されている。そして、該水回収ドレインタンク60には水と分離された水素ガスとを排出する燃料排出管路30が接続され、該燃料排出管路30には水素循環ポンプとしての吸引循環ポンプ36が配設されている。また、前記燃料排出管路30には水素循環切り替え電磁弁としての水素循環電磁弁34が配設されている。また、前記燃料排出管路30における水回収ドレインタンク60と反対側の端部は、第2燃料供給管路33に接続されている。これにより、燃料電池スタック20の外部に導出された水素ガスを回収し、燃料電池スタック20の燃料ガス流路に供給して再利用することができる。
なお、前記水回収ドレインタンク60は、燃料電池システムの運転を停止する際に燃料ガス流路から排出された水素ガスを収容するための吸引タンクとしても機能する。そのため、前記水回収ドレインタンク60の容量は、置換ガスとしての空気を燃料ガス流路内へ導入して燃料ガスとしての水素ガスのパージを行うと、燃料電池スタック20の燃料ガス流路内に残留していた水素ガスが急速に水回収ドレインタンク60内に追いやられ、前記燃料ガス流路内に残留しない状態となるのに十分な大きさとなるように設定されている。すなわち、燃料電池スタック20に空気が導入される時点において、前記燃料電池スタック20の燃料ガス流路内が真空になっていなくても、該燃料ガス流路内において残留している水素ガスが急速に水回収ドレインタンク60内に移動し、燃料電池スタック20内において導入された空気中の酸素と混合状態になることがないようにするために、水回収ドレインタンク60は十分に大きな容量を有するものである。
また、前記燃料排出管路30における吸引循環ポンプ36と水素循環電磁弁34との間には、アノードガス排出管としての燃料排出管路56が接続され、該燃料排出管路56には水素排気電磁弁としての水素起動停止電磁弁56aが配設されている。これにより、燃料電池スタック20の運転終了時に水素ガスを排出することができる。
さらに、前記第2燃料供給管路33には、パージ手段としての外気導入管路28が接続されている。そして、該外気導入管路28には、空気導入用電磁弁としての外気導入用電磁弁28a及びエアフィルタ28bが配設され、燃料電池スタック20の運転終了時に置換ガスとしての外気を燃料ガス流路に導入して燃料ガスとしての水素ガスのパージを行うことができるようになっている。
ここで、前記燃料供給電磁弁26、外気導入用電磁弁28a、水素循環電磁弁34及び水素起動停止電磁弁56aは、いわゆる、オン−オフ式のものであり、電気モータ、パルスモータ、電磁石等から成るアクチュエータによって作動させられる。さらに、前記吸引循環ポンプ36は、水素ガスとともに逆拡散水を強制的に排出し、燃料ガス流路内を負圧の状態にすることができるポンプであれば、いかなる種類のものであってもよい。なお、前記エアフィルタ28bは、空気に含まれる塵埃(じんあい)、不純物、有害ガス等を除去する。
一方、酸化剤としての空気は、図示されない空気供給ファン、空気ボンベ、空気タンク等の酸化剤供給源から、吸気マニホールド等を通って、燃料電池スタック20の空気流路に供給される。なお、酸化剤として、空気に代えて酸素を使用することもできる。そして、空気流路から排出される空気は、図示されない排気マニホールド、凝縮器等を通って大気中へ排出される。
また、前記吸気マニホールドには、水をスプレーして、燃料電池スタック20の酸素極を湿潤な状態に維持するための水供給ノズルが配設される。また、スプレーされた水によって前記酸素極及び燃料極を冷却することができる。さらに、前記凝縮器は、前記燃料電池スタック20から排出される空気に含まれる水分を凝縮して除去するためのもので、前記凝縮器によって凝縮された水は図示されない水タンクに回収され、水供給ノズルに供給される。
そして、前記蓄電手段としての二次電池11は、いわゆる、バッテリ(蓄電池)であり、鉛蓄電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、ナトリウム硫黄電池等が一般的である。なお、前記二次電池11は、必ずしもバッテリでなくてもよく、電気二重層キャパシタのようなキャパシタ(コンデンサ)、フライホイール、超伝導コイル、蓄圧器等のように、エネルギを電気的に蓄積し放出する機能を有するものであれば、いかなる形態のものであってもよい。さらに、これらの中のいずれかを単独で使用してもよいし、複数のものを組み合わせて使用してもよい。
ここで、燃料電池スタック20は、図2に示されるような電気回路によって、負荷や二次電池11に接続されている。図2において、17は燃料電池スタック20から負荷や二次電池11への電流を供給又は遮断するためのスイッチング素子としての負荷接続リレースイッチであり、16は負荷や二次電池11からの電流が燃料電池スタック20に供給されないように配設されたダイオード素子としてのサイリスタである。なお、前記負荷接続リレースイッチ17は、燃料電池スタック20の運転時には、オンになっており、電気回路を接続して、燃料電池スタック20から負荷や二次電池11への電流を供給することができるようになっている。
そして、二次電池11は、充放電制御回路12を介して燃料電池スタック20に接続されている。前記充放電制御回路12は、スイッチング及び変圧機能を備え、二次電池11と燃料電池スタック20及び補機14との接続及び遮断を行い、二次電池11を充電するために燃料電池スタック20から供給される電流及び二次電池11から放電されて負荷に供給される電流を制御する。
また、図2において、13は負荷としてのモータユニットであり、車両の車輪を回転させるための駆動モータ、及び、前記燃料電池スタック20又は二次電池11からの直流電流を交流電流に変換して駆動モータに供給するインバータ回路を含むものである。そして、前記モータユニット13は、二次電池11と並列に燃料電池スタック20に接続されている。なお、前記駆動モータは発電機としても機能するものであり、前記モータユニット13は、車両の減速運転時には回生電流を発生して、二次電池11に供給する。この場合、前記駆動モータは、車輪にブレーキをかける、すなわち、車両の制動装置(ブレーキ)として機能する。
さらに、15は吸引循環ポンプ36を駆動するための図示されないポンプモータ、照明装置、ラジオ、パワーウィンドウ等の負荷としての補機14に電流を供給する補機制御電源装置である。該補機制御電源装置15は、スイッチング機能、変圧機能、インバータ機能等を備え、補機14の各々に対して、所定の電圧、所定の周波数の直流又は交流電流を供給する。なお、前記補機制御電源装置15は、二次電池11と並列に燃料電池スタック20に接続されている。
なお、本実施の形態において、燃料電池システムは図示されない制御手段を有する。該制御手段は、CPU、MPU等の演算手段、磁気ディスク、半導体メモリ等の記憶手段、入出力インターフェイス等を備え、各種のセンサから燃料電池スタック20の燃料ガス流路及び空気流路に供給される水素、酸素、空気等の流量、温度、出力電圧等を検出して、前記酸化剤供給源、燃料供給電磁弁26、外気導入用電磁弁28a、水素循環電磁弁34、吸引循環ポンプ36、水素起動停止電磁弁56a、負荷接続リレースイッチ17、充放電制御回路12、モータユニット13、補機14、補機制御電源装置15等の動作を制御する。なお、前記制御手段は、燃料電池スタック20の燃料ガス流路への水素ガスの供給を停止してからの経過時間を計測するためのタイマーも備える。そして、前記制御手段は、後述されるように、待機モード、又は、停止モードを選択的に実行する。さらに、前記制御手段は、他のセンサ及び他の制御装置と連携して、燃料電池スタック20に燃料及び酸化剤を供給するすべての装置の動作を統括的に制御する。
次に、前記構成の燃料電池システムの動作について説明する。まず、定常運転における動作について説明する。
本実施の形態の燃料電池システムにおける定常運転時には、燃料貯蔵手段73の出口から流出する水素ガスの圧力をあらかじめ設定した一定の圧力に調整した後、前記燃料貯蔵手段73の出口から流出する水素ガスの圧力は、燃料電池システムの運転中には調整されることがなく、そのままの状態が保持される。また、酸化剤供給源は常に一定量の空気を燃料電池スタック20の空気流路に供給するように作動する。この場合、供給される空気の量は、燃料電池スタック20の出力が最大となるために必要な空気の量よりも十分に多い量である。
そして、燃料電池スタック20が運転を開始すると、該燃料電池スタック20を構成する各単位セルにおいて逆拡散水が発生し、該逆拡散水が固体高分子電解質膜を透過して燃料ガス流路にまで浸透して、前記固体高分子電解質膜の燃料極側を加湿する。これにより、該固体高分子電解質膜の燃料極側は湿潤な状態となり、電気化学反応によって水素から生成された水素イオンが固体高分子電解質膜内をスムーズに移動することができる。
また、前記燃料ガス流路に供給されて余剰となった水素ガスは、前記燃料ガス流路にまで浸透して余剰となった逆拡散水と混合して、気液混合物となる。該気液混合物となった水素ガスは、吸引循環ポンプ36によって吸引され、燃料電池スタック20に接続された燃料排出管路31を通って前記燃料電池スタック20の外部に導出される。そして、前記気液混合物は、燃料排出管路31を通過して水回収ドレインタンク60内に導入される。そして、比較的広い空間を備える該水回収ドレインタンク60内に滞留することによって、重量物である水分が重力によって下方に落下し、水素ガスから逆拡散水が分離する。該逆拡散水が分離した状態の水素ガスは、燃料排出管路30から水回収ドレインタンク60外に排出される。
そして、定常運転においては、前記燃料排出管路30から排出された水素ガスは、開いた状態になっている水素循環電磁弁34を通過して、第2燃料供給管路33に導入され、再び、燃料電池スタック20の燃料ガス流路に供給されて再利用される。なお、水素起動停止電磁弁56aが閉じた状態となっているので、吸引循環ポンプ36から排出された水素ガスは、燃料排出管路56を通って大気中に排出されることなく、第2燃料供給管路33に導入される。また、外気導入用電磁弁28aも閉じた状態となっているので、大気が第2燃料供給管路33に導入されることもない。
ここで、前記燃料排出管路30は、水回収ドレインタンク60上部の側壁に接続されているので、逆拡散水が分離して軽量となった状態の水素ガスだけが、燃料排出管路30から排出され、水分が排出されることがない。また、燃料排出管路31と燃料排出管路30とは、互いに離れた位置で水回収ドレインタンク60上部の側壁に接続されているので、燃料排出管路31から水回収ドレインタンク60内に導入された気液混合物が、そのまま燃料排出管路30から流出してしまうこともない。これにより、燃料ガス流路に浸透して余剰となった逆拡散水を適切にトラップすることができ、余剰となった水素ガスを回収して、再利用することができる。
一方、前記気液混合物から分離して落下した逆拡散水は、水回収ドレインタンク60内の下部に貯留水として貯留する。そして、前記水回収ドレインタンク60の容量は、大きく設定されているので、燃料電池スタック20を搭載した車両が、一度燃料である水素ガスを燃料貯蔵手段73に充填(てん)してから走行を行って、次回に水素ガスを燃料貯蔵手段73に充填するまでの間に、水回収ドレインタンク60から水分を排出する必要がない。
また、定常運転時においては、燃料電池スタック20が発電を行い、また、負荷接続リレースイッチ17がオンになっているので、電気回路を接続して、燃料電池スタック20から二次電池11、補機14及びモータユニット13への電流を供給することができるようになっている。この場合、充放電制御回路12は、二次電池11のSOC(State of Charge:残存容量)をチェックして、該SOCが低下している場合には、燃料電池20からの電流又はモータユニット13が発生する回生電流を二次電池11へ供給して充電を行う。また、車両が坂道を登っている場合のように、補機14又はモータユニット13の要求電流量が多い場合には、放電を行って二次電池11から補機14又はモータユニット13へ電流を供給する。
次に、燃料電池システムの運転を停止する際の動作について説明する。まず、燃料電池システムの運転を停止する際に発生する電位シフトのタイミングについて説明する。
図3は本発明の第1の実施の形態において燃料電池システムの運転を停止する際における燃料ガス流路内の圧力と電位シフトのタイミングとの関係を示すグラフ、図4は本発明の第1の実施の形態において燃料電池システムの運転を停止する際における出力電圧と燃料ガス流路内の圧力との関係を示すグラフ、図5は本発明の第1の実施の形態において待機モードにおける待機時間と燃料ガス流路内の圧力及び電位シフト時間との関係を示すグラフである。
図3において、縦軸には燃料ガス流路内の圧力を、横軸には時間を採ってあり、線41は燃料ガス流路内の圧力と時間との関係を示している。また、線42は燃料ガス流路内への空気の混入が開始されるタイミングを示し、線43は燃料電池スタック20の出力電圧の降下が開始されるタイミングを示し、線44は電位シフトが発生するタイミングを示し、線45は電圧降下及び電位シフトが終了するタイミングを示している。そして、図3から、燃料ガス流路内の圧力が大気圧になると燃料ガス流路内への空気の混入が開始され、燃料ガス流路内の圧力が限界値となると燃料電池スタック20の出力電圧の降下が開始されることが分かる。
また、図4は本発明の発明者が実際に試作した燃料電池スタック20を使用しての実験結果を示すグラフである。図4において、縦軸には燃料ガス流路内の圧力及び燃料電池スタック20の出力電圧を、横軸には時間を採ってあり、線51は燃料電池スタック20の出力電圧と時間との関係を示し、線52は燃料ガス流路内の圧力と時間との関係を示している。また、点53は燃料ガス流路内の圧力が負圧になるポイントであり、54は電位シフトの発生が予測される時間である。なお、実際に試作した燃料電池スタック20を使用しての実験であるために、電位シフトの発生を測定することができなかった。
さらに、図5は待機モードにおけるグラフであり、縦軸には燃料ガス流路内の圧力及び電位シフト時間を、横軸には待機時間を採ってある。そして、線61は電位シフト時間と待機時間との関係を示し、線62は燃料ガス流路内の圧力と待機時間との関係を示している。なお、電位シフト時間は劣化度合いに比例する。また、線63は燃料ガス流路内の圧力が大気圧になるタイミングを示し、線64は電位シフト発生が開始されるタイミングを示し、線65は電位シフト発生が終了するタイミングを示している。線64が示すタイミングを過ぎると電位シフトが始まるので、劣化反応が進行しやすくなる。
続いて、停止モードが選択された場合の動作について説明する。
まず、車両の運転者が図示されないメインスイッチのキー挿入スロットに挿入されたキーを回転させ、回転位置をOFFにすると、燃料電池システムの制御手段に運転の停止命令が伝えられ、燃料電池システムの運転を停止する動作が開始される。この場合、前記キーの回転位置をOFFにすることによって、停止モードが選択される。そして、前記制御手段は、運転の停止命令を受けると、燃料ガス流路への水素ガスの供給を停止し、前記燃料ガス流路内の水素ガスの空気によるパージを行う停止モードを実行する。まず、前記制御手段は、水素供給電磁弁CLOSEを実行し、燃料供給電磁弁26を閉じて燃料貯蔵手段73からの水素ガスの供給を遮断する。続いて、前記制御手段は、水素循環切り替え電磁弁OFFを実行し、水素循環電磁弁34を閉じて水素ガスの循環を停止させる。これにより、燃料電池スタック20の燃料ガス流路への水素ガスの供給が遮断される。
続いて、前記制御手段は、水素排気電磁弁OPENを実行し、水素起動停止電磁弁56aを開いて、燃料ガス流路内の水素ガスを燃料排出管路56から大気中に排出させる。この場合、吸引循環ポンプ36が作動しているので、減圧が開始され、燃料電池スタック20、水回収ドレインタンク60、第2燃料供給管路33、燃料排出管路30及び燃料排出管路31に残留している水素ガスは、吸引循環ポンプ36によって吸引され、燃料排出管路56から大気中に排出される。そして、燃料ガス流路の内部が負圧となるので、燃料ガス流路内から水素ガスが確実に速やかに除去されて排出される。なお、燃料排出管路56に水素燃焼器が配設されている場合、大気中に排出される水素ガスは、燃焼させられ、酸素と結合して水になって排出される。
また、前記燃料ガス流路内の水素ガスの圧力は、圧力センサ78によって検出される。この場合、水素ガスの流れる経路において燃料供給電磁弁26から吸引循環ポンプ36までの範囲では水素ガスの圧力は同一であると考えることができるので、圧力センサ78が前記範囲内に配設されていれば、該圧力センサ78の検出する圧力は、燃料電池スタック20の燃料ガス流路の圧力に等しい。
続いて、前記制御手段は、この状態で前記燃料ガス流路内の水素ガスの圧力があらかじめ設定された閾(しきい)値、例えば、−70〔kPaG〕未満となったか否かを判断する。この場合、前記閾値が相当の負圧を示しているので、圧力が閾値未満の状態は、前記燃料ガス流路内の燃料通路に水素ガスが実質的に残留していない状態である。なお、前記制御手段は、燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が閾値未満となるまで、前記判断を繰り返して行う。
そして、燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が前記閾値未満となると、前記制御手段は、空気導入用電磁弁ONを実行し、外気導入用電磁弁28aを開き、空気を燃料ガス流路内へ導入する。この場合、燃料供給電磁弁26は閉じた状態であるので、導入された空気が燃料貯蔵手段73の方へ流入することはない。これにより、燃料電池スタック20の燃料ガス流路内には空気が充満する。なお、該空気はエアフィルタ28bを通過して濾(ろ)過された空気なので、大気中に存在する塵埃、不純物、有害ガス等を含んでいない。したがって、前記燃料ガス流路における触媒等の部材が前記塵埃、不純物、有害ガス等によって汚染されたり変質させられることがない。
本実施の形態においては、燃料電池スタック20に吸引タンクとしても機能する水回収ドレインタンク60が接続されているので、燃料電池スタック20に空気が導入されると、前記燃料電池スタック20の燃料ガス流路内に残留していた水素ガスは、急速に水回収ドレインタンク60内に追いやられる。そのため、燃料電池スタック20に空気が導入される時点において、燃料電池スタック20の燃料ガス流路内が真空になっていなくても、該燃料ガス流路内において残留している水素ガスが導入された空気中の酸素と混合状態になることがない。したがって、単位セル内において電位シフトが発生することがないので、触媒粒子が溶出したり、燃料電池スタック20の性能の低下を抑えることができる。
この場合、水回収ドレインタンク60の容積が大きいほど、燃料電池スタック20内に残留している水素ガスが水回収ドレインタンク60内に移動する時間が短縮されるが、水回収ドレインタンク60の容積を大きくし過ぎると燃料電池システム全体が大型化してしまう。なお、空気を燃料電池スタック20の燃料ガス流路内に導入する前に、吸引循環ポンプ36が減圧ポンプとして機能し、燃料電池スタック20の燃料ガス流路内に残留している水素ガスを吸引する。この場合、吸引循環ポンプ36が減圧ポンプとしての機能も果たすので、減圧ポンプを独立して配設する必要がなく、燃料電池システム全体をコンパクトにすることができる。
続いて、前記制御手段は、この状態で燃料電池スタック20が出力する電圧があらかじめ設定された閾値、例えば、5〔V〕以下となったか否かを判断する。ここで、前記閾値は、燃料ガス流路に水素ガスが残留しておらず、空気が充満しており、燃料極と酸素極との間に実質的に電位差が生じていない状態に対応する出力電圧の値である。なお、前記制御手段は、燃料電池スタック20が出力する電圧が閾値未満となるまで、前記判断を繰り返して行う。
そして、燃料電池スタック20の出力が前記所定電圧以下となると、前記制御手段はすべての補機14を停止させ、処理を終了する。また、前記制御手段は、吸引循環ポンプ36を停止させ、外気導入用電磁弁28aを閉じ、最後に酸化剤供給源を停止させる。これにより、燃料電池スタック20の運転が停止された状態となる。
次に、燃料電池システムの運転を一時停止する際の動作について説明する。ここでは、待機モードが選択された場合について説明する。
図6は本発明の第1の実施の形態における燃料電池システムの運転を一時停止する際の動作を示すフローチャートである。
まず、車両の運転者が、メインスイッチのキー挿入スロットに挿入されたキーを回転させ、回転位置をIDOLにすると、燃料電池システムの制御手段に運転の停止命令としての待機モード命令が伝えられ(ステップS1)、燃料電池システムの運転を所定時間以下の短時間だけ停止する一時停止の動作が開始される。この場合、前記キーの回転位置をIDOLにすることによって、待機モードが選択される。そして、前記制御手段は、運転の停止命令を受けると、前記燃料ガス流路への水素ガスを封入する処理を開始する。そして、前記制御手段は、水素供給電磁弁CLOSEを実行し(ステップS2)、燃料供給電磁弁26を閉じて燃料貯蔵手段73からの水素ガスの供給を遮断する。
続いて、前記制御手段は、水素循環ポンプOFFを実行し(ステップS3)、吸引循環ポンプ36を停止させる。これにより、燃料電池スタック20の燃料ガス流路内からの水素ガスの排出を停止させる。続いて、前記制御手段は、水素循環切り替え電磁弁CLOSEを実行し(ステップS4)、水素循環電磁弁34を閉じて水素ガスの循環を停止させる。これにより、燃料電池スタック20の燃料ガス流路への水素ガスの供給が遮断され、燃料電池スタック20の燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態が開始される。この場合、外気導入用電磁弁28aも水素起動停止電磁弁56aも閉止したままであるので、燃料電池スタック20の燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態が維持される。なお、充放電制御回路12は燃料電池スタック20と二次電池11との接続状態を維持する。すなわち、燃料電池スタック20の発電による電流を二次電池11に供給して、該二次電池11を充電することができる。
続いて、前記制御手段は、この状態で待機時間、すなわち、燃料電池スタック20の燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態が開始されてからの経過時間が所定時間としての閾値、例えば、10分〜2時間になったか否かを判断する(ステップS5)。この場合、厳密には経過時間が閾値を超えていないか否かが判断される。そして、燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態が開始されてからの経過時間が閾値を超えていない場合、前記制御手段は、前記燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が所定圧力値としての0〔kPaG〕、すなわち、大気圧となったか否かを判断する(ステップS6)。この場合、厳密には、前記燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が大気圧未満となったか否かが判断される。そして、燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が大気圧未満となった場合、前記制御手段は、水素供給電磁弁一定時間OPENを実行し(ステップS7)、燃料供給電磁弁26を開いて燃料貯蔵手段73からの水素ガスの再供給を一定時間だけ行わせる。これにより、燃料電池スタック20の燃料ガス流路に水素ガスを再度封入する水素再封入が行われる。そして、再び、経過時間が閾値を超えていないか否かが判断される。また、燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が大気圧未満とならなかった場合も、再び、経過時間が閾値を超えていないか否かが判断される。
一方、経過時間が閾値を超えていないか否かが判断されて、経過時間が閾値を超えた場合、前記制御手段は、燃料電池スタック20の燃料ガス流路内を減圧した後に空気を導入することによって停止させる動作を開始して、水素循環ポンプONを実行し(ステップS8)、吸引循環ポンプ36を作動させる。続いて、前記制御手段は、水素排気電磁弁OPENを実行し(ステップS9)、水素起動停止電磁弁56aを開いて、燃料ガス流路内の水素ガスを燃料排出管路56から大気中に排出させる。この場合、吸引循環ポンプ36が作動しているので、減圧が開始され、燃料電池スタック20、水回収ドレインタンク60、第2燃料供給管路33、燃料排出管路30及び燃料排出管路31に残留している水素ガスは、吸引循環ポンプ36によって吸引され、燃料排出管路56から大気中に排出される。そして、燃料ガス流路の内部が負圧となるので、燃料ガス流路内から水素ガスが確実に速やかに除去されて排出される。なお、燃料排出管路56に水素燃焼器が配設されている場合、大気中に排出される水素ガスは、燃焼させられ、酸素と結合して水になって排出される。また、前記燃料ガス流路内の水素ガスの圧力は、圧力センサ78によって検出される。
続いて、前記制御手段は、この状態で前記燃料ガス流路内の水素ガスの圧力があらかじめ設定された閾値、例えば、−70〔kPaG〕未満となったか否かを判断する(ステップS10)。この場合、前記閾値が相当の負圧を示しているので、圧力が閾値未満の状態は、前記燃料ガス流路内の燃料通路に水素ガスが実質的に残留していない状態である。なお、前記制御手段は、燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が閾値未満となるまで、前記判断を繰り返して行う。
そして、燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が前記閾値未満となると、前記制御手段は、空気導入用電磁弁OPENを実行し(ステップS11)、外気導入用電磁弁28aを開き、空気を燃料ガス流路内へ導入する。この場合、燃料供給電磁弁26は閉じた状態であるので、導入された空気が燃料貯蔵手段73の方へ流入することはない。これにより、燃料電池スタック20の燃料ガス流路内には空気が充満する。
続いて、前記制御手段は、燃料電池−二次電池間接続OFFを実行し(ステップS12)、充放電制御回路12に燃料電池スタック20と二次電池11との接続状態を遮断させる。そして、前記制御手段は、一定時間経過後、全補機14を停止させ(ステップS13)、処理を終了する。また、前記制御手段は、吸引循環ポンプ36を停止させ、外気導入用電磁弁28aを閉じ、最後に酸化剤供給源を停止させる。これにより、燃料電池スタック20の運転が停止された状態となる。
このように、本実施の形態において、燃料電池システムは、該燃料電池システムの停止時間が短い一時停止を行うために、待機モードを選択することができる。例えば、コンビニエンスストア等の店舗に立ち寄るときのように、短時間だけ燃料電池システムの運転を停止させる場合に選択することができる。一時停止を行う場合、待機モードを選択すると燃料ガス流路内の水素ガスを大気中に排出しないので、水素ガスを無駄に消費することがない。また、車両から水素ガスが排出されないので、車両が屋内駐車場等のような閉ざされた場所において一時停止を行っても、安全上の問題が生じることがない。さらに、燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態が維持されるので、燃料ガス流路内において水素と酸素とが混合状態にならず、電位シフトの発生を防止することができる。そのため、停止回数が多くても、電位シフトが発生せず、燃料電池スタック20の燃料ガス流路における燃料極の性能が低下することを防止することができる。
また、燃料電池スタック20の燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態で前記燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が大気圧未満になると、前記燃料ガス流路に水素ガスが再度封入されるようになっている。そのため、経過時間が閾値を超えるまで、前記燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が大気圧未満にならないので、空気流路の空気が固体高分子電解質膜やガス拡散電極を通して燃料ガス流路に流入することがない。したがって、該燃料ガス流路内において水素と酸素とが混合しないので、電位シフトの発生を防止することができる。
さらに、燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態が維持されている間は燃料電池スタック20において発電が行われるが、その間、燃料電池スタック20と二次電池11との接続状態が維持されるようになっているので、燃料電池スタック20の発電による電流が二次電池11に供給され、該二次電池11が充電される。そのため、該二次電池11のSOCが低下することがないので、燃料電池システムの再起動時にも補機14に十分な電流を二次電池11から供給することができる。
さらに、燃料電池スタック20の発電による電流が二次電池11に供給されるので、酸素極の電位が高くなることがない。そのため、燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態が維持されている間も、酸素極の電位を開放端子電圧よりも低く維持することができるので、酸素極の電位が高くなることに起因する触媒の担持体である炭素の腐食を防止することができる。
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図7は本発明の第2の実施の形態における燃料電池システムの運転を一時停止する際の動作を示すフローチャートである。
まず、車両の運転者が、メインスイッチのキー挿入スロットに挿入されたキーを回転させ、回転位置をIDOLにすると、燃料電池システムの制御手段に運転の停止命令としての待機モード命令が伝えられ(ステップS21)、燃料電池システムの運転を所定時間以下の短時間だけ停止する一時停止の動作が開始される。そして、前記制御手段は、運転の停止命令を受けると、前記燃料ガス流路への水素ガスを封入する処理を開始する。そして、前記制御手段は、水素供給電磁弁CLOSEを実行し(ステップS22)、燃料供給電磁弁26を閉じて燃料貯蔵手段73からの水素ガスの供給を遮断する。
続いて、前記制御手段は、水素循環ポンプOFFを実行し(ステップS23)、吸引循環ポンプ36を停止させる。これにより、燃料電池スタック20の燃料ガス流路内からの水素ガスの排出を停止させる。続いて、前記制御手段は、水素循環切り替え電磁弁CLOSEを実行し(ステップS24)、水素循環電磁弁34を閉じて水素ガスの循環を停止させる。これにより、燃料電池スタック20の燃料ガス流路への水素ガスの供給が遮断され、燃料電池スタック20の燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態が開始される。この場合、外気導入用電磁弁28aも水素起動停止電磁弁56aも閉止したままであるので、燃料電池スタック20の燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態が維持される。
続いて、前記制御手段は、二次電池−補機間接続OFF及び燃料電池−二次電池間接続OFFを実行し(ステップS25)、充放電制御回路12に二次電池11と補機14との接続状態及び燃料電池スタック20と二次電池11との接続状態を遮断させる。これにより、二次電池11に燃料電池スタック20から電流が供給されて充電が行われることもなく、また、二次電池11から補機14に電流が供給されることもない。そして、燃料電池スタック20の発電による電流は、補機制御電源装置15を介して補機14に供給される。なお、待機モードにおいては車両が停止しているのであるから、モータユニット13に電流を供給する必要はない。
続いて、前記制御手段は、この状態で待機時間、すなわち、燃料電池スタック20の燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態が開始されてからの経過時間が所定時間としての閾値、例えば、10分〜2時間になったか否かを判断する(ステップS26)。この場合、厳密には経過時間が閾値を超えていないか否かが判断される。そして、燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態が開始されてからの経過時間が閾値を超えていない場合、前記制御手段は、前記燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が所定圧力値としての0〔kPaG〕、すなわち、大気圧となったか否かを判断する(ステップS27)。この場合、厳密には、前記燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が大気圧未満となったか否かが判断される。そして、燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が大気圧未満となった場合、前記制御手段は、水素供給電磁弁一定時間OPENを実行し(ステップS28)、燃料供給電磁弁26を開いて燃料貯蔵手段73からの水素ガスの再供給を一定時間だけ行わせる。これにより、燃料電池スタック20の燃料ガス流路に水素ガスを再度封入する水素再封入が行われる。そして、再び、経過時間が閾値を超えていないか否かが判断される。また、燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が大気圧未満とならなかった場合も、再び、経過時間が閾値を超えていないか否かが判断される。
一方、経過時間が閾値を超えていないか否かが判断されて、経過時間が閾値を超えた場合、前記制御手段は、燃料電池スタック20の燃料ガス流路内を減圧した後に空気を導入することによって停止させる動作を開始して、水素循環ポンプONを実行し(ステップS29)、吸引循環ポンプ36を作動させる。続いて、前記制御手段は、水素排気電磁弁OPENを実行し(ステップS30)、水素起動停止電磁弁56aを開いて、燃料ガス流路内の水素ガスを燃料排出管路56から大気中に排出させる。
続いて、前記制御手段は、この状態で前記燃料ガス流路内の水素ガスの圧力があらかじめ設定された閾値、例えば、−70〔kPaG〕未満となったか否かを判断する(ステップS31)。なお、前記制御手段は、燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が閾値未満となるまで、前記判断を繰り返して行う。
そして、燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が前記閾値未満となると、前記制御手段は、空気導入用電磁弁OPENを実行し(ステップS32)、外気導入用電磁弁28aを開き、空気を燃料ガス流路内へ導入する。これにより、燃料電池スタック20の燃料ガス流路内には空気が充満する。
続いて、前記制御手段は、一定時間経過後、全補機14を停止させ(ステップS33)、処理を終了する。また、前記制御手段は、吸引循環ポンプ36を停止させ、外気導入用電磁弁28aを閉じ、最後に酸化剤供給源を停止させる。これにより、燃料電池スタック20の運転が停止された状態となる。
このように、本実施の形態においては、燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態が維持されている間、二次電池11と補機14との接続状態及び燃料電池スタック20と二次電池11との接続状態が遮断され、燃料電池スタック20の発電による電流が補機14に供給されるようになっている。これにより、二次電池11から補機14に電流を供給する必要がなく、二次電池11のSOCが低下することがない。そのため、燃料電池システムの再起動時に、補機14に十分な電流を二次電池11から供給することができる。
また、燃料電池スタック20の発電による電流が補機14に供給されるので、酸素極の電位が高くなることがない。そのため、燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態が維持されている間も、酸素極の電位を開放端子電圧よりも低く維持することができるので、酸素極の電位が高くなることに起因する触媒の担持体である炭素の腐食を防止することができる。
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。なお、第1及び第2の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1及び第2の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図8は本発明の第3の実施の形態における燃料電池システムの運転を一時停止する際の動作を示すフローチャートである。
まず、車両の運転者が、メインスイッチのキー挿入スロットに挿入されたキーを回転させ、回転位置をIDOLにすると、燃料電池システムの制御手段に運転の停止命令としての待機モード命令が伝えられ(ステップS41)、燃料電池システムの運転を所定時間以下の短時間だけ停止する一時停止の動作が開始される。そして、前記制御手段は、運転の停止命令を受けると、前記燃料ガス流路への水素ガスを封入する処理を開始する。そして、前記制御手段は、水素供給電磁弁CLOSEを実行し(ステップS42)、燃料供給電磁弁26を閉じて燃料貯蔵手段73からの水素ガスの供給を遮断する。
続いて、前記制御手段は、水素循環ポンプOFFを実行し(ステップS43)、吸引循環ポンプ36を停止させる。これにより、燃料電池スタック20の燃料ガス流路内からの水素ガスの排出を停止させる。続いて、前記制御手段は、水素循環切り替え電磁弁CLOSEを実行し(ステップS44)、水素循環電磁弁34を閉じて水素ガスの循環を停止させる。これにより、燃料電池スタック20の燃料ガス流路への水素ガスの供給が遮断され、燃料電池スタック20の燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態が開始される。この場合、外気導入用電磁弁28aも水素起動停止電磁弁56aも閉止したままであるので、燃料電池スタック20の燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態が維持される。
続いて、前記制御手段は、この状態で待機時間、すなわち、燃料電池スタック20の燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態が開始されてからの経過時間が所定時間としての閾値、例えば、10分〜2時間になったか否かを判断する(ステップS45)。この場合、厳密には経過時間が閾値を超えていないか否かが判断される。そして、燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態が開始されてからの経過時間が閾値を超えていない場合、前記制御手段は、前記燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が所定圧力値としての0〔kPaG〕、すなわち、大気圧となったか否かを判断する(ステップS46)。この場合、厳密には、前記燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が大気圧未満となったか否かが判断される。そして、燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が大気圧未満とならなかった場合も、再び、経過時間が閾値を超えていないか否かが判断される。
一方、経過時間が閾値を超えていないか否かが判断されて、経過時間が閾値を超えた場合、及び、燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が大気圧未満となったか否かが判断されて、燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が大気圧未満となった場合、前記制御手段は、燃料電池スタック20の燃料ガス流路内を減圧した後に空気を導入することによって停止させる動作を開始して、水素循環ポンプONを実行し(ステップS47)、吸引循環ポンプ36を作動させる。続いて、前記制御手段は、水素排気電磁弁OPENを実行し(ステップS48)、水素起動停止電磁弁56aを開いて、燃料ガス流路内の水素ガスを燃料排出管路56から大気中に排出させる。
続いて、前記制御手段は、この状態で前記燃料ガス流路内の水素ガスの圧力があらかじめ設定された閾値、例えば、−70〔kPaG〕未満となったか否かを判断する(ステップS49)。なお、前記制御手段は、燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が閾値未満となるまで、前記判断を繰り返して行う。
そして、燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が前記閾値未満となると、前記制御手段は、空気導入用電磁弁OPENを実行し(ステップS50)、外気導入用電磁弁28aを開き、空気を燃料ガス流路内へ導入する。これにより、燃料電池スタック20の燃料ガス流路内には空気が充満する。
続いて、前記制御手段は、燃料電池−二次電池間接続OFFを実行し(ステップS51)、充放電制御回路12に燃料電池スタック20と二次電池11との接続状態を遮断させる。そして、前記制御手段は、一定時間経過後、全補機14を停止させ(ステップS52)、処理を終了する。また、前記制御手段は、吸引循環ポンプ36を停止させ、外気導入用電磁弁28aを閉じ、最後に酸化剤供給源を停止させる。これにより、燃料電池スタック20の運転が停止された状態となる。
このように、本実施の形態においては、経過時間が閾値を超えるか、又は、燃料電池スタック20の燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態で前記燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が大気圧未満になると、通常の停止を行う場合と同様の動作が実行され、燃料電池スタック20内の燃料ガス流路から水素が排出されて空気が導入される。そのため、前記燃料ガス流路内において水素と酸素とが混合しないので、電位シフトの発生を防止することができる。
また、燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態が維持されている間は燃料電池スタック20において発電が行われるが、その間、燃料電池スタック20と二次電池11との接続状態が維持されるようになっているので、燃料電池スタック20の発電による電流が二次電池11に供給され、該二次電池11が充電される。そのため、該二次電池11のSOCが低下することがないので、燃料電池システムの再起動時にも補機14に十分な電流を二次電池11から供給することができる。
さらに、燃料電池スタック20の発電による電流が二次電池11に供給されるので、酸素極の電位が高くなることがない。そのため、燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態が維持されている間も、酸素極の電位を開放端子電圧よりも低く維持することができるので、酸素極の電位が高くなることに起因する触媒の担持体である炭素の腐食を防止することができる。
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。なお、第1〜第3の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1〜第3の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図9は本発明の第4の実施の形態における燃料電池システムの運転を一時停止する際の動作を示すフローチャートである。
まず、車両の運転者が、メインスイッチのキー挿入スロットに挿入されたキーを回転させ、回転位置をIDOLにすると、燃料電池システムの制御手段に運転の停止命令としての待機モード命令が伝えられ(ステップS61)、燃料電池システムの運転を所定時間以下の短時間だけ停止する一時停止の動作が開始される。そして、前記制御手段は、運転の停止命令を受けると、前記燃料ガス流路への水素ガスを封入する処理を開始する。そして、前記制御手段は、水素供給電磁弁CLOSEを実行し(ステップS62)、燃料供給電磁弁26を閉じて燃料貯蔵手段73からの水素ガスの供給を遮断する。
続いて、前記制御手段は、水素循環ポンプOFFを実行し(ステップS63)、吸引循環ポンプ36を停止させる。これにより、燃料電池スタック20の燃料ガス流路内からの水素ガスの排出を停止させる。続いて、前記制御手段は、水素循環切り替え電磁弁CLOSEを実行し(ステップS64)、水素循環電磁弁34を閉じて水素ガスの循環を停止させる。これにより、燃料電池スタック20の燃料ガス流路への水素ガスの供給が遮断され、燃料電池スタック20の燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態が開始される。この場合、外気導入用電磁弁28aも水素起動停止電磁弁56aも閉止したままであるので、燃料電池スタック20の燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態が維持される。
続いて、前記制御手段は、二次電池−補機間接続OFF及び燃料電池−二次電池間接続OFFを実行し(ステップS65)、充放電制御回路12に二次電池11と補機14との接続状態及び燃料電池スタック20と二次電池11との接続状態を遮断させる。これにより、二次電池11に燃料電池スタック20から電流が供給されて充電が行われることもなく、また、二次電池11から補機14に電流が供給されることもない。そして、燃料電池スタック20の発電による電流は、補機制御電源装置15を介して補機14に供給される。なお、待機モードにおいては車両が停止しているのであるから、モータユニット13に電流を供給する必要はない。
続いて、前記制御手段は、この状態で待機時間、すなわち、燃料電池スタック20の燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態が開始されてからの経過時間が所定時間としての閾値、例えば、10分〜2時間になったか否かを判断する(ステップS66)。この場合、厳密には経過時間が閾値を超えていないか否かが判断される。そして、燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態が開始されてからの経過時間が閾値を超えていない場合、前記制御手段は、前記燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が所定圧力値としての0〔kPaG〕、すなわち、大気圧となったか否かを判断する(ステップS67)。この場合、厳密には、前記燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が大気圧未満となったか否かが判断される。そして、燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が大気圧未満とならなかった場合も、再び、経過時間が閾値を超えていないか否かが判断される。
一方、経過時間が閾値を超えていないか否かが判断されて、経過時間が閾値を超えた場合、及び、燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が大気圧未満となったか否かが判断されて、燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が大気圧未満となった場合、前記制御手段は、燃料電池スタック20の燃料ガス流路内を減圧した後に空気を導入することによって停止させる動作を開始して、水素循環ポンプONを実行し(ステップS68)、吸引循環ポンプ36を作動させる。続いて、前記制御手段は、水素排気電磁弁OPENを実行し(ステップS69)、水素起動停止電磁弁56aを開いて、燃料ガス流路内の水素ガスを燃料排出管路56から大気中に排出させる。
続いて、前記制御手段は、この状態で前記燃料ガス流路内の水素ガスの圧力があらかじめ設定された閾値、例えば、−70〔kPaG〕未満となったか否かを判断する(ステップS70)。なお、前記制御手段は、燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が閾値未満となるまで、前記判断を繰り返して行う。
そして、燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が前記閾値未満となると、前記制御手段は、空気導入用電磁弁OPENを実行し(ステップS71)、外気導入用電磁弁28aを開き、空気を燃料ガス流路内へ導入する。これにより、燃料電池スタック20の燃料ガス流路内には空気が充満する。
続いて、前記制御手段は、一定時間経過後、全補機14を停止させ(ステップS72)、処理を終了する。また、前記制御手段は、吸引循環ポンプ36を停止させ、外気導入用電磁弁28aを閉じ、最後に酸化剤供給源を停止させる。これにより、燃料電池スタック20の運転が停止された状態となる。
このように、本実施の形態においては、経過時間が閾値を超えるか、又は、燃料電池スタック20の燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態で前記燃料ガス流路内の水素ガスの圧力が大気圧未満になると、通常の停止を行う場合と同様の動作が実行され、燃料電池スタック20内の燃料ガス流路から水素が排出されて空気が導入される。そのため、前記燃料ガス流路内において水素と酸素とが混合しないので、電位シフトの発生を防止することができる。
また、燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態が維持されている間、二次電池11と補機14との接続状態及び燃料電池スタック20と二次電池11との接続状態が遮断され、燃料電池スタック20の発電による電流が補機14に供給されるようになっている。これにより、二次電池11から補機14に電流を供給する必要がなく、二次電池11のSOCが低下することがない。そのため、燃料電池システムの再起動時に、補機14に十分な電流を二次電池11から供給することができる。
さらに、燃料電池スタック20の発電による電流が補機14に供給されるので、酸素極の電位が高くなることがない。そのため、燃料ガス流路に水素ガスが封入された状態が維持されている間も、酸素極の電位を開放端子電圧よりも低く維持することができるので、酸素極の電位が高くなることに起因する触媒の担持体である炭素の腐食を防止することができる。
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。