JP4734805B2 - クラッド鋼材の熱処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、クラッド鋼材の製造方法、特に、靭性に優れた炭素鋼を母材とし、耐食性に優れた非磁性金属を合せ材とするクラッド鋼材を能率的で且つ安価に製造することができる、クラッド鋼材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、プラント設備の使用環境激化とメンテナンスフリー指向が高まるのに応じて、厳しい腐食環境下での構造用材料として、ステンレスクラッド鋼板が適用される傾向が強くなっている。中でも圧延によるクラッド鋼板の製造は、量産化、大型商品への対応、経済性等の観点から注目されており、例えば、18Cr−8Niステンレス鋼に代表されるCr−Ni系、および、Cr−Ni−Mo系を主とするオーステナイト系ステンレス鋼は、クラッド化して主に化学プラントや圧力容器等への使用に提供できる技術が確立されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ステンレス鋼は、圧延後の冷却時にCr炭化物の析出が生じて耐食性の劣化を招くため、圧延後に溶体化熱処理を行なって析出物を再固溶させる必要がある。ステンレスクラッド鋼の場合も、合せ材の耐食性の確保のため高温での熱処理が必要である。しかしながら、高温で長時間の溶体化処理を行なうと、母材である炭素鋼の機械的性質の劣化、特に、強度低下を招く。
【0004】
このために、ステンレスクラッド鋼は、熱処理を行なうことなく、圧延ままで使用する場合(この方法の一例が特開平5−154672号に開示されている)、熱処理後の機械的性質の劣化の小さい合金元素が添加された鋼種を母材に使用する場合とがある。
【0005】
前者の場合は、ステンレス鋼からなる合せ材のC、N等を低減して析出物を析出しにくくするが、耐食性は完全でなく、しかも、精製コストがかさむ。一方、後者の場合は、合金元素が添加するので、母材コストがかさむ。
【0006】
従って、この発明の目的は、圧延後の熱処理を適切に行なうことによって、合せ材の耐食性を確保した上で、母材の靭性を向上させることができるクラッド鋼材の製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、母材が炭素鋼からなり、合せ材が非磁性金属からなるクラッド鋼材の熱処理方法において、クラッド鋼材の幅1m当たり1000kW以上の出力を有する高周波誘導加熱手段を用い、前記高周波誘導加熱手段に3kHz以上の交流電流を、前記母材の表面温度上昇率が5℃/sec以上となるように通電して、前記合せ材を700℃以下の温度から900℃以上に加熱し、そして、加熱終了時の前記合せ材の表面温度を800℃以下にすることに特徴を有するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
次に、この発明のクラッド鋼材の熱処理方法の一実施態様を、図面を参照しながら説明する。
【0010】
図1は、この発明のクラッド鋼材の熱処理方法を示す概略図である。
【0011】
図1において、1は、母材1Aが炭素鋼、合せ材1Bが非磁性金属からなる仕上げ圧延されたクラッド鋼材、2は、クラッド鋼材1の搬送ライン上に設置された高周波誘導加熱コイル、3、4は、クラッド鋼材1の温度を測定する温度計、5は、高周波誘導加熱コイル2からの温度データに基づいて、高周波誘導加熱コイル2の出力を制御する制御器である。
【0012】
仕上げ圧延されたクラッド鋼材1は、一旦、母材1Aが少なくとも700℃となるまで(あるいは材質を損なわない温度まで)冷却されるが、700℃未満の温度になったら、高周波誘導加熱あるいは別の加熱手段によって事前に700℃を上限とする温度に加熱する。この事前の加熱を高周波誘導加熱コイル2により行なえば、表面温度が内部温度より高い状態を維持できるので好適である。
【0013】
次いで、高周波誘導加熱コイル2によってクラッド鋼材1を加熱するが、この加熱に当たり、高周波誘導加熱コイル2に通電する高周波電流の周波数が3kHz未満では、非磁性である合せ材1Bの発熱量が小さく、母材1Aの内部が主に発熱する。しかし、3kHz以上では、母材1Aの表層部分において高周波誘導加熱による温度上昇が起こり、これにより母材1Aと密着した合せ材1Bが熱伝導により加熱される。従って、高周波誘導加熱の周波数は、3kHz以上に限定する。
【0014】
このとき、母材1A内部の温度が上昇しないようにするために、母材1Aの表面温度上昇率5℃/sec以上とする必要がある。これを実現するには、クラッド鋼材1の幅1m当たり1000kW以上の出力を有する高周波誘導加熱コイルを使用する。高周波誘導加熱コイル2の出力制御は、温度計3、4からの温度データに基づいて行なうか、事前の設定に従って行なう。
【0015】
このようにして熱処理された時点で、クラッド鋼材1の中心部は、表層より低温であるので、表層は、内部によって急速に温度低下するが、高温状態になる母材1Aの表層部分の厚さは薄いので熱量が小さい。従って、母材1Aは、短時間に温度低下する。この際、空気、水等によって冷却を促進しても良い。
【0016】
誘導加熱は、通常の加熱炉のように、一定の温度を上回ることがないという上限の温度がないので、初期の温度ムラや加熱途中で発生する温度ムラを矯正するためには、補助的な加熱手段が必要となる。特に、この発明のように、温度の上下限が厳しいものについては、本体の誘導加熱と同じような応答速度と昇温量を確保するために、例えば、補助的な加熱手段として、小型のトランスバース型の誘導加熱装置をクラッド鋼材1の板幅方向に移動可能に設けるか、クラッド鋼材1の板幅方向に密接して並べ、温度が低い位置に相当する個所を補助的に加熱するようにする。
【0017】
【実施例】
次に、この発明を実施例により更に説明する。
【0018】
母材が炭素鋼からなり、合せ材が18Cr−8Niステンレス鋼からなるクラッド鋼を圧延し、板厚50mm、合せ材の厚さが2および5mmの2種類のクラッド鋼板を調製し、このクラッド鋼板から幅200mm、長さ5500mmの試験材を切り出し、この試験材を小型の誘導加熱装置により熱処理した。
【0019】
誘導加熱装置として周波数10kHzのソレノイド型高周波誘導加熱装置を使用した。誘導加熱装置の最大出力は、クラッド鋼板の板幅1m当たり1500kWのものを用い、出力を変化させた。使用周波数は、一般に知られているように、浸透深さが1cm程度の周波数で良く、オーステナイト系ステンレスや磁気変態点を超えた温度では3kHz以上であれば、母材の表層部分を主に加熱することができるので、熱伝導により母材と密着した合せ材を加熱することができる。
【0020】
また、クラッド鋼板の予熱と、誘導加熱による熱処理との比較のための用途に窒素ガスにより内部を置換した電気炉も用いた。
【0021】
熱処理後、試験材から腐食試験片と引張試験片を切り出した。そして、腐食試験片は、合せ材部に酸を塗布して腐食状態を相互に比較し、引張試験片は、引張試験機にかけて母材の引張強度がJIS規格値を満足するものを○、満足しないものを×とした。この結果を、本発明例1から4、および、比較例1から5として、表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
表1から明らかなように、本発明例1から4は、何れも、合せ材の耐食性および母材の強度に優れていることが分かった。
【0024】
これに対して、比較例1は、合せ材の表面最高加熱温度が本発明範囲外の900℃以下であるので、合せ材の耐食性が劣っていた。
【0025】
比較例2は、熱処理の開始温度が700℃超であるので、母材の強度が劣っていた。
【0026】
比較例3および4は、板幅1m当たりの誘導コイルの出力が本発明範囲外の800kWであるので、母材の表面温度上昇率が本発明範囲を外れて小さかった。従って、母材の強度が劣っていた。比較例5のように、電気炉を使用した場合も同様であった。
【0027】
次に、熱電対により板厚方向の温度分布を測定できる試験片を用いて、表1の本発明例1および比較例3の条件下で温度を測定した。表面と板厚の4分の1の深さと、板厚の半分の深さの温度分布の結果を図2および3に示す。図2が本発明例1の結果であり、図3が比較例3の結果である。図2および3から明らかなように、本発明例1では、母材の板厚中心温度は、広い範囲で750℃程度に抑えられている。一方、比較例3では、それが800℃程度になっていて、そのような温度に曝された場合において、一般的にいわれているように、機械的特性が劣っていたものと予測された。
【0028】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明によれば、合せ材部分のみを積極的に加熱することができるので、合せ材の耐食性を確保した上で、母材の機械的性質を向上させることができるといった有用な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明のクラッド鋼材の熱処理方法を示す概略図である。
【図2】本発明例における温度変化を示すグラフである。
【図3】比較例における温度変化を示すグラフである。
【符号の説明】
1:クラッド鋼材
1A:母材
1B:合せ材
2:高周波誘導加熱コイル
3:温度計
4:制御器
5:搬送ローラ
Claims (1)
- 母材が炭素鋼からなり、合せ材が非磁性金属からなるクラッド鋼材の熱処理方法において、
クラッド鋼材の幅1m当たり1000kW以上の出力を有する高周波誘導加熱手段を用い、前記高周波誘導加熱手段に3kHz以上の交流電流を、前記母材の表面温度上昇率が5℃/sec以上となるように通電して、前記合せ材を700℃以下の温度から900℃以上に加熱し、そして、加熱終了時の前記合せ材の表面温度を800℃以下にすることを特徴とする、クラッド鋼材の熱処理方法。
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