JP4734509B2 - スキャンピの養殖方法 - Google Patents

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Description

本発明は、スキャンピの養殖方法に関するものである。
本発明において「スキャンピ」とは、十脚目アカザエビ科(Nephropidae)のMetanephrops属又はNephrops属のエビ類をいう。
即ち、スキャンピは、Metanephrops andamanicus、Metanephrops arafurensis、Metanephrops armatus、Metanephrops australensis、Metanephrops binghami、Metanephrops boschmai、Metanephrops challengeri、Metanephrops formosanus、Metanephrops japonicus、Metanephrops mozambicus、Metanephrops neptunus、Metanephrops rubellas、Metanephrops sagamiensis、Metanephrops sibogae、Metanephrops sinensis、Metanephrops Thomsoni、Metanephrops velutinus、Nephrops norvegicus等のエビ類である。
なお、本発明における「養殖」には飼育、培養、種苗生産、養成及び蓄養が含まれる。
スキャンピ(scampi)は、フランス語でラングスチ−ヌ(langostino)、スペイン語でシガラ(cigala)と呼ばれ、世界的に人気のある食材である。
世界的にスキャンピ漁業は近年乱獲状態とされ、資源管理と共に増養殖的措置をとる必要がある。しかしながら、スキャンピの増養殖に関する知見は非常に乏しく、商業的な増養殖は世界中のどこでも行なわれていない。特許関連技術も皆無で、増養殖技術を開発する必要がある。
このような状況に鑑み、スキャンピについては、資源の回復、増大のために必要な放流種苗の飼育、培養、種苗生産技術の開発や、天然資源を枯渇させないための食材の提供手法として養成、蓄養技術の開発が急務である。
即ち、本発明は、スキャンピの飼育、培養、種苗生産、養成、蓄養技術を確立し、効率良くスキャンピを飼育、培養、種苗生産、養成、蓄養する方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明者は、鋭意努力した結果、良好なスキャンピの養殖条件等を見出した。
即ち、本発明は下記に示すスキャンピの養殖方法を提供する。
(1)陸上の養殖施設において、海水を収納した養殖容器内にスキャンピを収容し、該スキャンピを人為的な管理下で飼育、培養、種苗生産、養成又は蓄養し、
前記スキャンピはゾエア幼生期を持たないアカザエビであり、
前記スキャンピの成長段階は、卵、メガロパとポストラ−バとを含む幼生、稚エビを含む若令又は成体のいずれかであり、該スキャンピは天然から採取されたもの又は人為的な管理下で採取されたものであり、
人為的な管理下における養殖水として海水又は海洋深層水を、流入、循環又は汲み置き使用し、
人為的な管理下における養殖水の水温が8〜20℃であることを特徴とするスキャンピの養殖方法(請求項1)。
(2)人為的な管理下における餌料として魚介類、配合飼料又はアルテミアを使用することを特徴とする請求項1に記載のスキャンピの養殖方法(請求項2)。
(3)前記スキャンピの成長段階が幼生又は若令であって、その初期餌料として、アルテミアと配合飼料とを単独で又は併用して使用することを特徴とする請求項2に記載のスキャンピの養殖方法(請求項3)。
(4)前記スキャンピの成長段階が成体であって、その養殖水の水温が16℃以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のスキャンピの養殖方法(請求項4)。
(5)前記スキャンピの成長段階が幼生又は若令であって、その養殖水の水温が14〜18℃であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスキャンピの養殖方法(請求項5)。
(6)人為的な管理下における養殖容器が通水性を備え、該養殖容器内に前記スキャンピを収容することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のスキャンピの養殖方法(請求項6)。
(7)前記スキャンピを低密度で養殖容器に収容し又は該養殖容器にシェルターを使用することにより、スキャンピ個体間の干渉を少なくしたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のスキャンピの養殖方法(請求項7)。
(8)前記スキャンピを養殖容器内にて個体単独で養殖することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のスキャンピの養殖方法(請求項8)。
(9)養殖容器内で抱卵したスキャンピから幼生をふ化させることを特徴とする請求項1に記載のスキャンピの養殖方法(請求項9)。
(10)スキャンピの親から分離した卵を養殖容器内で養殖し、ふ化させることを特徴とする請求項1に記載のスキャンピの養殖方法(請求項10)。
(11)前記養殖容器において下方から上方へ向けての水流により前記分離した卵が浮遊状態又は動的状態となることを特徴とする請求項10に記載のスキャンピの養殖方法(請求項11)。
(12)幼生及び若令のスキャンピが出入不能であり、かつ、該スキャンピの餌料が出入可能な通水性養殖容器内に幼生又は若令のスキャンピを個別に収容し、該通水性養殖容器を餌料が存在する別の容器内に収容することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスキャンピの養殖方法(請求項12)。
本発明によれば、スキャンピの飼育、培養、種苗生産、養成、蓄養が可能となる。また、スキャンピを効率良く飼育、培養、種苗生産、養成、蓄養することが可能となる。更に、資源の回復、増大を目指したスキャンピの放流種苗の効率的な生産及び食材の提供を目指したスキャンピの効率的な生産が可能となる。もとより、飼育、培養、種苗生産、養成、蓄養したスキャンピを食品として利用することが可能となる。加えて、飼育、培養、種苗生産、養成、蓄養したスキャンピを展示用として利用することも可能である。
本発明において養殖されるスキャンピは、前述の如く、十脚目アカザエビ科のMetanephrops属又はNephrops属のエビ類をいうが、その中でも、ゾエア幼生期をもたないエビ類が好ましく養殖される。けだし、該エビ類は、成長段階においてゾエア幼生期がないことから、発達した成長段階から養殖が可能であるため、高い生残率が確保されるからである。
本発明においては、アカザエビ(Metanephrops japonicus)がより好ましく養殖される。アカザエビは、プレゾエアとしてふ化し、摂餌することなく3時間以内にほとんどがメガロパ(ポストラ−バ)に脱皮する。そしてメガロパは1齢稚エビに脱皮する。そのため、アカザエビは、ゾエア幼生期をもつスキャンピと比較して、その成長段階においてゾエア幼生期がなく、発達した成長段階から養殖が可能であるため、高い生残率が確保される。
人為的な管理下における養殖対象としてのスキャンピは、その成長段階が卵、幼生(メガロパとポストラ−バとを含む)、若令(稚エビ含む)又は成体のいずれかである。
また、該スキャンピは、天然から採取されたものであってもよいが、人工下で親からふ化したもの、人工下で培養卵からふ化したもの、人工養殖されたもの等の人為的な管理下で採取されたものであってもよい。
人為的な管理下における餌料として、エビ類、イカ類、貝類等の魚介類、配合飼料又はアルテミアを使用することが好ましい。けだし、それらの餌料を使用することにより、スキャンピの生残、成長が良好になるからである。
特に、スキャンピの成長段階が幼生あるいは若令時の餌料として、アルテミアや配合飼料を使用することが好ましい。けだし、それらの餌料を使用することにより、スキャンピの生残が良好になるからである。アルテミアと配合飼料は単独で用いてもよいが、アルテミアと配合飼料との両方を併用して使用することが好ましい。けだし、アルテミアと配合飼料とを併用することにより、スキャンピの成長が良好になるからである。特に、アルテミアは可能な限り使用した方がスキャンピの生残率が安定する。
人為的な管理下における養殖水は、好ましくは、海水若しくは海洋深層水又はその両者を混合して使用するが、該養殖水は流入、循環又は汲み置き使用してもよい。
養殖容器内の養殖水の水温と水質は、流入若しくは循環させる養殖水の温度を一定にすることにより安定化させ、又は養殖水と近似する水温の水を満たした大型容器内に該養殖容器を設置することにより安定化させる。
また、養殖容器に養殖水を流入、循環させると共に排水することにより、又は養殖容器の養殖水を事前に汲み置いた養殖水と交換することにより、養殖容器内の水質と水温とを安定化させる。排泄物等は、養殖水の排水、交換と共に除去し、又は人為的に養殖容器内から除去する。
スキャンピは、水温が8〜20℃の範囲内で養殖することが好ましい。けだし、8〜20℃の範囲内ではスキャンピの生残率が良好になるからである。この水温範囲内においては、高水温ほどスキャンピの成長速度が速くなる。
スキャンピの成体については、水温16℃以下で養殖することにより生残率が良好となる。
スキャンピの幼生又は若令については、水温14〜18℃で養殖することにより生残率が良好となる。
人為的な管理下における養殖容器は、通水性のものとし、該養殖容器内にスキャンピを収容することが好ましい。通水性の養殖容器であれば、養殖水が流水状態となり、新鮮な環境を保持することができるからである。更に、その養殖容器のサイズと数とを調整することにより、対象生物たるスキャンピのグル−プ又は個体管理が容易となる。
スキャンピを、低密度に収容し、又はシェルタ−を使用することにより、スキャンピの個体間の干渉をできるかぎり少なくすることが好ましい。けだし、格闘や共食い等の個体間同士の関係において生残率が低下することを防止することができるからである。
スキャンピの個体間の干渉をできるかぎり少なくする方法として、個体単独で養殖することが最も好ましい。けだし、格闘や共食い等の個体間同士の関係を排除することにより生残率が向上するからである。
スキャンピの幼生又は若令を養殖する場合、該スキャンピを通水性養殖容器に個別に収容し、該通水性養殖容器をアルテミアが存在する別の容器内に収容して養殖することが好ましい。けだし、生残率が低い初期生活史において、餌料としてアルテミアを使用し、通水性の養殖容器にスキャンピを個体単独で収容し、個体間同士の関係を排除することによる複合的な効果として、スキャンピの生残率がより向上するからである。
本発明は、養殖容器内に抱卵したスキャンピを収容し、養殖することにより、幼生をふ化させることを特徴とするスキャンピの養殖方法をも提供する。抱卵したスキャンピから幼生をふ化させることにより、安定的に養殖対象たるスキャンピを確保することができる。この場合、個体間の干渉が少ない状態の方がスキャンピにストレスがかからず、更には卵の脱落も少なく、ふ化する幼生数が多くなることが期待される。
また、本発明は、スキャンピの卵を親から分離して、養殖容器内で養殖し、ふ化させる卵養殖方法を特徴とするスキャンピの養殖方法を提供する。へい死した親が抱える卵や、親から脱落した卵等を人為的に養殖し、幼生をふ化させることにより、安定的に養殖対象たるスキャンピを確保することができる。
この場合、養殖容器内における下方から上方へ向けての水流により分離卵が浮遊状態又は動的状態となる上昇流卵養殖方法が好ましい。上昇流卵養殖方法であれば、養殖水が流水状態となり、卵が静的な状態とならずに常に新鮮な環境が保持でき、幼生を効率的にふ化させることができるからである。
更に、本発明は、幼生や若令のスキャンピが出入不能であり、かつ、スキャンピの餌料が出入可能な通水性養殖容器1内に幼生又は若令のスキャンピ3を個別に収容し(図1)、該通水性養殖容器1を餌料5が存在する別の容器7内に収容することを特徴とするスキャンピ3の養殖装置(図2)を提供する。スキャンピの個体間同士の関係を排除し、スキャンピ収容養殖容器の外側から内側に入る餌料をスキャンピに摂餌させるようにしたものである。エアレ−ション等により水流をつくることにより、餌料をスキャンピに供給することができる。スキャンピを収容する通水性養殖容器が可能な限り小型であれば、高密度での個体養殖が可能となり、餌料の使用量も効率的となり、給餌等の管理作業の効率も極めて高くなる養殖装置である。
上記餌料は、好ましくは、アルテミアとする。アルテミアは、スキャンピにとって好ましい餌料であると共に、スキャンピより小型であり、ほぼ均一のサイズを供給することができるため、本装置を容易に実現することができる。
本発明の養殖装置を使用することにより、幼生や若令のスキャンピの養殖を容易に実施することができる。
更に、本発明は、前記方法又は装置を複合的に使用することを特徴とするスキャンピの養殖方法を提供する。各々の方法あるいは装置を複合的に使用することにより、スキャンピを効率良く養殖することができる。
以上、本発明により、スキャンピの養殖が可能となる。例えば、放流種苗として4齢の若令スキャンピを生産する場合には、その期間はふ化から2〜3ヶ月、生残率は4〜8割であり、商品サイズ(甲長45mm)を生産する場合には、その期間はふ化から約2年、生残率は1〜2割であると思われる。
本発明は、以上の方法により飼育、培養、種苗生産、養成又は蓄養されたスキャンピを提供する。資源の回復、増大のために必要な放流種苗として、若しくは養成、蓄養のための種苗あるいは食材として、又は展示鑑賞用等として、スキャンピの用途は広い。
本発明において養殖されるスキャンピは、好ましくはアカザエビである。アカザエビは、銚子から南日向灘の水深200〜400mの砂泥底に生息し、体長20cmに成長する高級食用種である。本種の各成長段階におけるサイズは、卵径はおよそ2〜4mm、頭胸甲長はプレゾエアでおよそ3mm、メガロパでおよそ3〜4mm、1齢エビでおよそ4〜5mm、4齢エビでおよそ6〜8mm、10齢エビでおよそ15〜19mm、成体でおよそ45〜80mmである。
海水は、水深100m以浅の表層海水と水深100m以深の海洋深層水とよりなる。本発明において使用される海水は、いずれも地上に汲み上げたものである。本発明において使用される表層海水は、例えば駿河湾の水深10〜30mから汲み上げたものである。本発明において使用される海洋深層水は、例えば駿河湾の水深300〜700mから汲み上げたものである。
以下、本発明の実施例について説明する。本願発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
[実施例1]異なる水温別の成体養殖
<材料と方法>
駿河湾で漁獲された26個体の抱卵成体エビを実験に供試した。水温条件として、10(8.6〜10.7)℃、14(13〜16.3)℃、18(16〜18.4)℃の3実験区を設定した。3個の1.5トン容水槽内に各々通水性の20リットル容養殖容器を設置し、当該各20リットル容養殖容器内に1個体ずつアカザエビを収容した。10℃区は9個体、14℃区は11個体、18℃区は6個体養殖した。養殖水は、3実験区とも海洋深層水を使用し、水槽に約10回転/日程度の換水率となるように注入することにより、各々の水温条件に調節し、養殖容器内を流水状態とした。実験開始後200日まで養殖し、餌料は冷凍サクラエビを1日おきに十分量与え,残餌等は毎日除去し、アカザエビの生残状況等を確認した。
<結果>
10℃区、14℃区、18℃区の生残率は、養殖開始100日後で各々100%、100%、83.3%、養殖開始200日後で各々77.8%、81.8%、0%となり、半年以上養殖する場合において、水温16℃以下は有効であった。
[実施例2]成体養殖と幼生ふ化
<材料と方法>
駿河湾で漁獲された41個体の抱卵成体アカザエビを実験に供試した。養殖水の条件として、海洋深層水区と表層海水区の2実験区を設定した。2個の1.5トン容水槽内に各々通水性の20リットル容養殖容器を設置し、当該各20リットル容養殖容器内に1個体ずつアカザエビを収容した。海洋深層水区は14個体、表層海水区は27個体養殖した。養殖水は、水槽に約10回転/日程度の換水率となるように注入することにより、水温を15(12.1〜17)℃に調節し、養殖容器内を流水状態とした。実験開始後200日まで養殖し、餌料は冷凍サクラエビを1日おきに十分量与え,残餌等は毎日除去し、アカザエビの幼生ふ化状況等を確認した。
<結果>
海洋深層水区と表層海水区の生残率は、養殖開始100日後で各々92.9%、81.5%、養殖開始200日後で各々85.7%、40.7%であった。両区とも半年以上の養殖が可能であった。
幼生のふ化は4〜7月に観察された。幼生のふ化が観察された個体数とその割合(ふ化が観察された個体数を実験開始個体数で除した値)は、海洋深層水区で10個体(71.4%)、表層海水区で9個体(33.3%)であり、両区とも幼生のふ化が認められた。
1親当たりの平均ふ化幼生数は、海洋深層水区で143.2個体、表層海水区で149.8個体であった。
[実施例3]卵養殖
<材料と方法>
抱卵親から分離した60個体のアカザエビ発眼卵を実験に供試した。上昇流区とビ−カ−区の2実験区を設定した。上昇流区は、直径15cm、高さ45cmの6リットル容プラスチック製養殖容器の下部から養殖水を注入し、上部から排水することにより生じる湧昇流の環境下で卵を養殖する方式である。その養殖容器に40個体卵を収容し、卵が上部より流れ出ることがなく容器内を重力と湧昇流によりバランスよく常に上下に浮遊している状態を保った。ビ−カ−区は1リットル容ビ−カ−に20個体卵を収容し、緩やかに通気した。そして養殖水の交換を、1日おきに卵を事前に用意した養殖容器に移し替えることにより行った。養殖水は、海洋深層水を使用し、両区とも水温を平均15.0℃に調整した。
<結果>
実験開始20〜26日後に幼生のふ化が確認された。上昇流区とビ−カ−区の幼生のふ化率は、各々95.0%、20.0%で、両区ともふ化した。特に、上昇流卵養殖方法により養殖卵のふ化率が高まった。
[実施例4]異なる水温別のメガロパ養殖
<材料と方法>
抱卵親からふ化した28個体のアカザエビメガロパを実験に供試した。水温条件として、4(平均4.3)℃、8(平均7.8)℃、13(平均12.8)℃、15(平均15.2)℃、17(平均16.5)℃、20(平均19.7)℃、23(平均22.7)℃の7実験区を設定した。1実験区に1個の1リットル容ビ−カ−を使用し、1ビ−カ−に4個体ずつメガロパを収容し養殖した。餌料は、アルテミアノ−プリウスとサクラエビ細片とを併用した。養殖水は、表層海水を使用し、ウォ−タ−バスにより水温を調整し緩やかに通気した。養殖水の交換は、1日おきに養殖生物を事前に用意した養殖容器に移し替えることにより行った。ほぼ毎日、生残、脱皮状況を観察した。
<結果>
8〜20℃区において1齢稚エビへ変態した。8℃区では1個体(25.0%)、13℃区では1個体(25.0%)、15℃区では2個体(50.0%)、17℃区では3個体(75.0%)、20℃区では1個体(25.0%)が変態した。
[実施例5]異なる水温別のメガロパと若令エビの養殖
<材料と方法>
抱卵親からふ化した38個体のアカザエビメガロパを実験に供試した。水温条件として、8(平均8.8)℃、10(平均9.8)℃、14(平均14.5)℃、18(平均18.0)℃の4実験区を設定した。8℃区は6個、10℃区は6個、14℃区は16個、 18℃区は10個の1リットル容ビ−カ−を使用し、1ビ−カ−に1個体ずつメガロパを収容し、各実験区とも6〜16個体養殖した。餌料は、アルテミアノ−プリウスとクルマエビ用配合飼料とを併用した。養殖水は、4実験区とも海洋深層水を使用し、緩やかに通気した。養殖水の交換は、1日おきに養殖生物を事前に用意した養殖容器に移し替えることにより行った。ほぼ毎日、生残、脱皮状況を観察した。稚エビに変態以降も、メガロパと同様の方法で3齢稚エビに脱皮するまで継続養殖した。
<結果>
8℃区、10℃区、14℃区、18℃区ともに、1齢稚エビへ変態した。8℃区、10℃区、14℃区、18℃区において、1齢稚エビに成長した個体は、それぞれ、4個体(66.7%)、6個体(100%)、16個体(100%)、10個体(100%)であり、3齢稚エビに成長した個体は、それぞれ、4個体(66.7%)、4個体(66.7%)、15個体(93.8%)、10個体(100%)であった。
実験開始から1齢稚エビに脱皮するまでの平均日数は、8℃区で40.8(37〜47)日、10℃区で30.8(30〜32)日、14℃区で15.2(14〜17)日、18℃区で12.4(12〜13)日、実験開始から3齢稚エビに脱皮するまでの平均日数は、8℃区で142.8(133〜150)日、10℃区で121.8(115〜131)日、14℃区で57.3(55〜60)日、18℃区で48.2(45〜52)日であった。メガロパおよび稚エビの成長に要する所要日数は、水温が上昇すると短縮した。生残、成長結果から、水温14〜18℃が有効であった。
[実施例6]異なる餌料別のメガロパと若令エビの養殖(1)
<材料と方法>
抱卵親からふ化した40個体のアカザエビメガロパを実験に供試した。餌料条件として、アルテミアノ−プリウス区、サクラエビ細片区、アミエビ区、配合飼料区の4実験区を設定した。1実験区につき10個の1リットル容ビ−カ−を使用し、1ビ−カ−に1個体ずつ幼生を収容し、4実験区とも各々10個体養殖した。養殖水は、4実験区とも表層海水を使用し、ウォ−タ−バスにより水温を平均15.2℃に調整し緩やかに通気した。養殖水の交換は、1日おきに養殖生物を事前に用意した養殖容器に移し替えることにより行った。ほぼ毎日、生残、脱皮状況を観察した。稚エビに変態以降も、メガロパと同様の方法で4齢稚エビに脱皮するまで継続養殖した。
<結果>
アルテミアノ−プリウス区、サクラエビ細片区、アミエビ区、配合飼料区ともに実験開始16〜19日後に1齢稚エビへ変態した。アルテミアノ−プリウス区、サクラエビ細片区、アミエビ区、配合飼料区において、1齢稚エビに成長した個体は、それぞれ、10個体(100%)、9個体(90.0%)、6個体(60.0%)、10個体(100%)であり、4齢稚エビに成長した個体は、それぞれ、8個体(80.0%)、3個体(30.0%)、2個体(20.0%)、7個体(70.0%)であった。実験開始から4齢稚エビに脱皮するまでの平均日数は、アルテミアノ−プリウス区で95.4(89〜106)日、サクラエビ細片区で86.3(85〜89)日、アミエビ区で91.0(85〜97)日、配合飼料区で105.1(93〜114)日であった。アルテミアノ−プリウス、サクラエビ細片、アミエビ、配合飼料ともに稚エビまでの成長が可能であった。4齢までの生残率から初期餌料としてアルテミアノ−プリウスと配合飼料は有効であった。
[実施例7]異なる餌料別のメガロパと若令エビの養殖(2)
<材料と方法>
抱卵親からふ化した30個体のアカザエビメガロパを実験に供試した。餌料条件として、アルテミアノ−プリウス区、配合飼料区、両者併用区の3実験区を設定した。1実験区につき10個の1リットル容ビ−カ−を使用し、1ビ−カ−に1個体ずつ幼生を収容し、3実験区とも各々10個体養殖した。養殖水は、3実験区とも海洋深層水を使用し、ウォ−タ−バスにより水温を平均15.1℃に調整し緩やかに通気した。養殖水の交換は、1日おきに養殖生物を事前に用意した養殖容器に移し替えることにより行った。ほぼ毎日、生残、脱皮状況を観察した。稚エビに変態以降も、メガロパと同様の方法で4齢稚エビに脱皮するまで継続養殖した。
<結果>
アルテミアノ−プリウス区、配合飼料区、両者併用区ともに実験開始15〜20日後に1齢稚エビへ変態した。アルテミアノ−プリウス区、配合飼料区、併用区において、1齢稚エビに成長した個体は、それぞれ、10個体(100.0%)、10個体(100.0%)、10個体(100.0%)であり、4齢稚エビに成長した個体は、それぞれ、9個体(90.0%)、6個体(60.0%)、8個体(80.0%)であった。実験開始から4齢稚エビに脱皮するまでの平均日数は、アルテミアノ−プリウス区で85.3(78〜97)日、配合飼料区で94.5(88〜104)日、両者併用区で78.4(76〜86)日であった。餌料としてアルテミアノ−プリウスと配合飼料は有効であり、両者を併用することにより稚エビの成長に好影響をもたらした。
[実施例8]異なる密度別のメガロパ養殖
<材料と方法>
抱卵親からふ化した31個体のアカザエビメガロパを実験に供試した。密度条件として、1リットルあたりの密度が0.5個体区、1個体区、1.5個体区、4個体区、7.5個体区の5実験区を設定した。0.5個体区は2リットルのフィンガ−ボ−ル3個に各々1個体ずつメガロパを収容し計3個体養殖した。1個体区は2リットルのフィンガ−ボ−ル1個に2個体メガロパを収容し養殖した。1.5個体区は2リットルのフィンガ−ボ−ル1個に3個体メガロパを収容し養殖した。4個体区は2リットルのフィンガ−ボ−ル1個に8個体メガロパを収容し養殖した。7.5個体区は2リットルのフィンガ−ボ−ル1個に15個体メガロパを収容し養殖した。餌料は、アルテミアノ−プリウスとサクラエビ細片とを併用した。養殖水は、表層海水を使用し、ウォ−タ−バスにより水温を平均15.2℃に調整し緩やかに通気した。養殖水の交換は、1日おきにメガロパを事前に用意した養殖容器に移し替えることにより行った。ほぼ毎日、生残、脱皮状況を観察した。
<結果>
0.5個体区、1個体区、1.5個体区、4個体区、7.5個体区ともに実験開始15〜17日後に1齢稚エビへ変態した。0.5個体区では3個体(100.0%)、1個体区では2個体(100.0%)、1.5個体区では3個体(100.0%)、4個体区では3個体(37.5%)、7.5個体区では3個体(20.5%)が変態した。1.5個体以下/リットルの密度で生残率が高く、密度が増加すると生残率は減少した。
[実施例9]異なる密度別のメガロパと若令エビの養殖
<材料と方法>
抱卵親からふ化した107個体のアカザエビメガロパを実験に供試した。密度条件として、1個体/リットルの低密度区、4.5個体/リットルの中密度区、14個体/リットルの高密度区の3実験区を設定した。低密度区は1リットルのビ−カ−1個に1個体メガロパを収容し計10個体養殖した。中密度区は6リットルの水槽1個に27個体メガロパを収容し養殖した。高密度区は5リットルの水槽1個に70個体メガロパを収容し養殖した。餌料は、アルテミアノ−プリウスと配合飼料とを併用した。養殖水は、3実験区とも海洋深層水を使用し、ウォ−タ−バスにより水温を平均15.1℃に調整し緩やかに通気した。養殖水の交換は、1日おきに養殖生物を事前に用意した養殖容器に移し替えることにより行った。ほぼ毎日、生残、脱皮状況を観察した。稚エビに変態以降も、メガロパと同様の方法で稚エビをふ化後60日まで継続養殖した。
<結果>
低密度区、中密度区、高密度区ともに実験開始15〜18日後に1齢稚エビへ変態した。低密度区では8個体(80.0%)、中密度区では2個体(7.4%)、高密度区では2個体(7.1%)が変態した。3実験区とも3齢稚エビへ成長し、低密度区では8個体(80.0%)、中密度区では1個体(3.7%)、高密度区では1個体(1.4%)であった。低密度が稚エビの生残に好影響をもたらした。
[実施例10]シェルタ−有無別のメガロパと若令エビの養殖
<材料と方法>
抱卵親からふ化した194個体のアカザエビメガロパを実験に供試した。シェルタ−条件として、有区と無区の2実験区を設定し、2事例実施した。1事例目は、6リットルの角型水槽2個を使用し、一方の水槽に格子状のシェルタ−を取り付け、各々27個体メガロパを収容し養殖した。2事例目は、5リットルの円形水槽2個を使用し、一方の水槽にネット状のシェルタ−を取り付け、各々70個体メガロパを収容し養殖した。餌料は、アルテミアノ−プリウスと配合飼料とを併用した。養殖水は、海洋深層水を使用し、ウォ−タ−バスにより水温を平均15.1℃に調整し緩やかに通気した。養殖水の交換は、1日おきに養殖生物を事前に用意した養殖容器に移し替えることにより行った。ほぼ毎日、生残、脱皮状況を観察した。稚エビに変態以降も、メガロパと同様の方法で稚エビをふ化後60日まで継続養殖した。
<結果>
2事例ともに実験開始15〜18日後に1齢稚エビへ変態した。シェルタ−有区と無区の生残数は、1事例目で各々5個体(19.0%)と2個体(7.4%)、2事例目で各々13個体(19.0%)と5個体(7.1%)であった。2事例とも3齢稚エビへ成長し、シェルタ−有区と無区の生残数は、1事例目で各々3個体(11.0%)と1個体(3.7%)、2事例目で各々4個体(5.7%)と1個体(1.4%)であった。シェルタ−の存在が稚エビの生残に好影響をもたらした。
[実施例11]養殖容器・収容数別のメガロパと若令エビの養殖
<材料と方法>
抱卵親からふ化した215個体のアカザエビメガロパを実験に供試した。養殖容器条件として、ビ−カ−区、カプセル区、水槽区の3実験区を設定した。ビ−カ−区は、1リットルのビ−カ−1個に1個体メガロパを収容し計10個体養殖した(1個体/リットル)。カプセル区は、0.008リットル容通水性カプセル(組織切片用容器、直径35mm、高さ8mm、目合い2mm) 1個 に1個体メガロパを収容し計175個体養殖した(125個体/リットル)。カプセルは5リットル容円形水槽1個に収容して養殖した。水槽区は、35リットル容コンテナ1個
に30個体メガロパを収容し養殖した(0.86個体/リットル)。餌料は、アルテミアノ−プリウスを使用し、カプセル区の場合はカプセルを収容した水槽内にアルテミアノ−プリウスを投与することにより給餌した。養殖水は、3実験区とも海洋深層水を使用し、ウォ−タ−バスにより水温を平均15.1℃に調整し緩やかに通気した。養殖水の交換は、1日おきに、養殖生物又は養殖生物が収容されたカプセルを事前に用意した養殖容器又はカプセル収容水槽に移し替えることにより行った。一旦、カプセルに収容された養殖生物は実験終了までそのまま使用した。ほぼ毎日、生残、脱皮状況を観察した。稚エビに変態以降も、メガロパと同様の方法で稚エビをふ化後40日まで継続養殖した。
<結果>
ビ−カ−区、カプセル区、水槽区ともに実験開始15〜18日後に1齢稚エビへ変態した。ビ−カ−区では9個体(90.0%)、カプセル区では148個体(85.0%)、水槽区では15個体(50.0%)が変態した。3実験区とも2齢稚エビへ成長し、ビ−カ−区では8個体(80.0%)、カプセル区では101個体(57.7%)、水槽区では2個体(6.7%)が成長した。密度は高くても個別養殖であれば生残率は高かった。さらに、通水性カプセルを使用することにより、初期成長段階において、大量にかつ簡易的に養殖できた。
[実施例12]メガロパ・若令エビ養殖による生残・成長推定
<材料と方法>
抱卵親からふ化した10個体のアカザエビメガロパを実験に供試した。餌料は、アルテミアノ−プリウスとサクラエビ細片とを併用した。1リットル容ビ−カ−を使用し、1ビ−カ−に1個体ずつメガロパを収容し、10個体養殖した。養殖水は表層海水を使用し、ウォ−タ−バスにより水温を調整し緩やかに通気した。養殖水の交換は、1日おきに養殖生物を事前に用意した養殖容器に移し替えることにより行った。ほぼ毎日、生残、脱皮状況を観察した。稚エビに変態以降も、メガロパと同様の方法で稚エビを継続養殖した。
稚エビ4〜5齢以降は、水槽内に設置したプラスチック籠(目合い5mm、上面開口の約15cm方形、水深10cm)に収容し、流水により養殖した。養殖水として表層海水を使用し、籠を収容した水槽に時間あたり2回転程度注入した。餌料は冷凍サクラエビを毎日十分量与え、残餌、死亡個体、脱皮殻等は毎日除去し、ふ化後600日まで継続養殖した。水温は15.5(14.2〜17.2)℃に調整した。
<結果>
生残率は、養殖開始50日後で70%、100日後で40%、200日後で20%、300日後で20%、400日後で10%、500日後で10%、600日後で10%であった。200日以降生残率は1〜2割で安定した。メガロパ時から15回脱皮することにより甲長33.8mmに成長した。
ふ化からの日数と甲長の関係について図3に示す。日数(x)と甲長(y)の関係は、y=0.0545x + 3.2638
( R=0.9948, n=61) の回帰式で表される。この式より、ふ化から商品サイズの甲長45mmに達するまで766日、すなわち約2年かかるものと思われる。
スキャンピ収容のための通水性養殖容器を概略的に示す説明図である。 上記通水性養殖容器を餌料が存在する別の容器内に収容した養殖装置を概略的に示す説明図である。 アカザエビ養殖におけるふ化からの日数と甲長との関係を示すグラフである。
1 通水性養殖容器
3 スキャンピ
5 餌料
7 別の容器

Claims (12)

  1. 陸上の養殖施設において、海水を収納した養殖容器内にスキャンピを収容し、該スキャンピを人為的な管理下で飼育、培養、種苗生産、養成又は蓄養し、
    前記スキャンピはゾエア幼生期を持たないアカザエビであり、
    前記スキャンピの成長段階は、卵、メガロパとポストラ−バとを含む幼生、稚エビを含む若令又は成体のいずれかであり、該スキャンピは天然から採取されたもの又は人為的な管理下で採取されたものであり、
    人為的な管理下における養殖水として海水又は海洋深層水を、流入、循環又は汲み置き使用し、
    人為的な管理下における養殖水の水温が8〜20℃であることを特徴とするスキャンピの養殖方法。
  2. 人為的な管理下における餌料として魚介類、配合飼料又はアルテミアを使用することを特徴とする請求項1に記載のスキャンピの養殖方法。
  3. 前記スキャンピの成長段階が幼生又は若令であって、その初期餌料として、アルテミアと配合飼料とを単独で又は併用して使用することを特徴とする請求項2に記載のスキャンピの養殖方法。
  4. 前記スキャンピの成長段階が成体であって、その養殖水の水温が16℃以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のスキャンピの養殖方法。
  5. 前記スキャンピの成長段階が幼生又は若令であって、その養殖水の水温が14〜18℃であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスキャンピの養殖方法。
  6. 人為的な管理下における養殖容器が通水性を備え、該養殖容器内に前記スキャンピを収容することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のスキャンピの養殖方法。
  7. 前記スキャンピを低密度で養殖容器に収容し又は該養殖容器にシェルターを使用することにより、スキャンピ個体間の干渉を少なくしたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のスキャンピの養殖方法。
  8. 前記スキャンピを養殖容器内にて個体単独で養殖することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のスキャンピの養殖方法。
  9. 養殖容器内で抱卵したスキャンピから幼生をふ化させることを特徴とする請求項1に記載のスキャンピの養殖方法。
  10. スキャンピの親から分離した卵を養殖容器内で養殖し、ふ化させることを特徴とする請求項1に記載のスキャンピの養殖方法。
  11. 前記養殖容器において下方から上方へ向けての水流により前記分離した卵が浮遊状態又は動的状態となることを特徴とする請求項10に記載のスキャンピの養殖方法。
  12. 幼生及び若令のスキャンピが出入不能であり、かつ、該スキャンピの餌料が出入可能な通水性養殖容器内に幼生又は若令のスキャンピを個別に収容し、該通水性養殖容器を餌料が存在する別の容器内に収容することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスキャンピの養殖方法。
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