JP4726675B2 - 浸透堤 - Google Patents

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本発明は、河川、湖沼等の停滞水域に構築される水質改良機能を有する浸透堤に関するものである。
河川、湖沼等の停滞水域(あるいは閉鎖性水域)では水質の汚濁などが問題となる。特に富栄養化が進行すると藍藻類が異常繁殖して、いわゆるアオコが発生する原因となる。このような停滞水域の水質改善のために従来より様々な提案がなされている。空気を底層部等に送り込む曝気方式やヘドロの浚渫、ろ過槽を用いた生物学的処理などがよく知られている。中でも、自然エネルギーを利用する生物学的処理方法がメンテナンスなどのランニングコストを低減できるため有利である。
このような方法の一つとして、例えば特許文献1がある。これは、内水域と外水域との間で水移動が可能な開口が形成された中空構造体を水底に設置するとともに、該中空構造体の中空内部に礫、砕石等の中詰め材を充填した水質浄化堤とするものである。また、同文献には、礫、砕石等の中詰め材を海底から台形状に積み上げて、これを被覆石で被覆する水質浄化堤とする構成も開示されている。
特開平10−72816号公報
しかし、上記従来の水質浄化堤は、ろ材として、礫、砕石等を使用して内水域の水質浄化を図るものであり、このような礫間浄化だけでは停滞水域などに対しては水質改善効果は期待できない。
河川、湖沼などの停滞水域では、窒素(N)やリン(P)などの過剰な栄養塩の除去が問題であり、また海水域では、いわゆる磯枯れを改善するために、ケイ酸など栄養塩の不足を補うことが問題となる。つまり、河川、湖沼、海水域に至るまであらゆる水域の水質を改善するためには、バランスのとれた栄養塩のコントロールが必要になる。
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたもので、河川、湖沼、海等の水域の水質を改善するために、バランスのとれた栄養塩のコントロールを低コストで行うことができる浸透堤を提供することを目的としている。
前記課題を解決するために、本発明に係る浸透堤は、所定の水域の一部分を区切る浸透堤であって、透水性を有する堤体部と、該堤体部内に埋設され、流入側に面して配設された沈木チップのろ過層と、流出側に面して配設された火山ガラスを主成分とするしらすと沈木チップの混合物のろ過層とを備える構成とするものである。
ここに、「沈木チップ」とは、ダムや湖等に沈降している沈木を利用して、それを砕片化した木片である。また、「しらす」は、南九州等に多量に存在するもので、天然の非晶質シリカを多く含有している。
しらすは、水に触れると固まりやすいので、しらすの固化を防止するために沈木チップを混合するものである。
本発明の浸透堤は、上記のように透水性を有する堤体部の内部に、流入側に面して沈木チップのろ過層を、流出側に面してしらすと沈木チップの混合物のろ過層を配設したものであるので、汚水が本浸透堤を通過する過程において、前段の沈木チップのろ過層では、沈木チップに付着している微生物により有機物や窒素等の除去が行われ、後段のしらすと沈木チップの混合物のろ過層では、おもにしらすからのケイ酸の溶出が行われる。
したがって、停滞水域などの水域のバランスのとれた栄養のコントロールが可能となり、水質の改善が可能となる。しかも、本浸透堤に使用されるろ材は、自然界の存在する物質、材料をほとんどそのまま使用するものであるから、低コストで施工することができる。
また、本発明の浸透堤は、前記沈木チップのろ過層を堤長方向に連続的に設け、前記しらすと沈木チップの混合物のろ過層を堤長方向に断続的に設けたものである。
水域の有機物や窒素の除去が主目的である場合には、しらすと沈木チップの混合物のろ過層を堤長方向に断続的に設けることにより、沈木チップのろ過層の占める割合を多くすることで、目的を達成することができる。
また、本発明の浸透堤は、前記沈木チップのろ過層と前記しらすと沈木チップの混合物のろ過層とは、ほぼ同じ高さであり、かつ、前記2つのろ過層を通過する水の動水勾配によって、流入側と流出側との間に所定の水位差を設けることにより、各ろ過層を全体的に有効利用することができる。
以下、本発明を適用した浸透堤の実施の形態を図面に基づいて説明する。
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1における浸透堤の設置例を示す平面図、図2はその浸透堤の断面図、図3は図2のA−A断面図である。
この浸透堤10は、図1に示すように、例えば池などの停滞水域20の一部分、すなわち流入側の部分を区切って設置されている。なお、図1において、21は流入水路、22は流出水路である。
浸透堤10は、図2に示すように、天然石や砕石、レンガ、ブロック等の築堤材料をほぼ台形状に積み上げて形成された透水性を有する堤体部1と、この堤体部1の内部に埋設され、流入側(上流)に面して配設された沈木チップのろ過層2と、流出側(下流)に面して配設されたしらすと沈木チップの混合物のろ過層3とを備えている。ここに、沈木チップとは、ダムや湖などの底部に沈降している流木や倒木などを2〜40mm程度の長さに砕片化した木片である。
沈木チップろ過層2は、上記の沈木チップのみを例えばネットなどの網体4の中に充填したものである。
しらすと沈木チップの混合物のろ過層(以下、しらすチップろ過層と称する)3は、しらすだけでは水によって固化してしまい目詰まりを生じるため、しらすに上記の沈木チップを混合したものを使用する。しらすの固化を防ぐためには沈木チップが最適であることを実験により確認している。また、上記網体4よりもメッシュの小さい網体5の中にしらすと沈木チップの混合物を充填するのがよい。しらすと沈木チップの混合割合は、重量比で1:1程度、体積比で5:1程度が良好である。
また、流入側に対して前段の沈木チップろ過層2と後段のしらすチップろ過層3は、ほぼ同じ高さで堤体部1の全長にわたって連続的に形成されており、かつ、流入側の水位(計画水位)とほぼ同じ高さを有する。
また、この浸透堤10を通過する水の流速が0.6cm/min以上になるように流入側と流出側とで水位差が設けられている。つまり、水域20の水位コントロールを行っている。
浸透堤10の浸透流速vは、透水係数k=1×10-1cm/s、動水勾配i=0.1とすると、v=k×i=1×10-1×0.1=0.6cm/minとなる。
浸透堤10の底部には、底部からの漏水やパイピングを防止するために、基礎地盤6の上に細粒分を多く含む難透水性材料を使用して底部支承部7が施工されている。なお、本浸透堤10は、池に設置する場合、例えば高さ約1m、長さ数十mで構築されている。
以上のように構成された本浸透堤10の作用について図4を参照しながら説明する。生活廃水などを含む汚水が流入水路21を通じて池などの停滞水域20に流れ込んでくると、その汚水は本浸透堤10の流入側の堤体部1内に浸透する。流入側堤体部1は、天然石や砕石、レンガ、ブロック等で形成されているため、礫間浄化を行うとともに汚水による浸食防止を果たす。礫間浄化が行われた水は次に沈木チップろ過層2に浸透していく。このろ過層2の沈木チップは原生動物の繁殖による目詰まりを起こさず、流水空間を保持しながら沈木チップに付着した微生物により有機物と窒素を除去することができる。さらにこの沈木チップろ過層2を通過した水はしらすチップろ過層3内を浸透していく。しらすは、一般的な板ガラスなどの人造ガラスに比べ、ナトリウム(Na)やカルシウム(Ca)の含有量の少ない火山ガラスを多量に含むので、珪藻類の吸収しやすいケイ酸を供給することができる。但し、しらすだけでは固化するので、しらすの固化を防止するために、沈木チップを混合したしらすチップをろ材として使用する。このしらすと沈木チップの混合ろ材は一部イオン化したポリマーケイ酸を溶出させる機能をもつ。そして、流出側堤体部1を通じて、有機物、窒素等が除去され、ケイ酸が補給された水が停滞水域20内に流出していく。この結果、停滞水域20の優先植物プランクトン種として珪藻類の繁殖を促進させることができる。珪藻類は生態系上一次生産者となり、動物プランクトン等に補食される。以上の過程を通じて、細粒分は除去され、池などの透明度も回復することができる。
以上のように本実施の形態の浸透堤10の構成によれば、透水性を有する堤体部1の内部に、流入側に面して沈木チップろ過層2を、流出側に面してしらすチップろ過層3を配設したものであるので、汚水が本浸透堤10を通過する過程において、前段の沈木チップろ過層2では、沈木チップに付着している微生物により有機物や窒素等の除去が行われ、後段のしらすチップろ過層3では、おもにしらすからのケイ酸の溶出が行われる。そのため、停滞水域などの水域のバランスのとれた栄養のコントロールが可能となり、水質の改善が可能となる。しかも、本浸透堤10を低コストで施工することができる。
しらす及びしらすチップの効果を示す実験結果を図5、図6に示す。図5は河川水をpH7に調整したときのしらすからのケイ酸溶出量の経時変化を示し、図6は同じく河川水をpH7に調整したときのしらすチップからのケイ酸溶出量の経時変化を示す。
実験は、pH7の河川水500mlの中に、しらすを100g、またはしらす50gと沈木チップ50gのしらすチップを投入し、分光分析計によりケイ酸溶出量を測定した。
しらす単独では、図5に示すように、しらす投入後5分間経過したときに最大のケイ酸溶出量を示すが、その後次第にケイ酸溶出量は低下する。投入時から15分を経過すると投入時よりも低くなっている。これは、しらす単独では固化が進行して水との接触が少なくなることによるものと考えられる。
一方、しらすと沈木チップを重量比で1:1の割合で混合したしらすチップの場合は、図6からわかるように、時間経過とともにケイ酸溶出量が増加する傾向にある。
したがって、沈木チップはしらすの固化を防止するとともにケイ酸溶出量を増加させる効果がある。
図7、図8、図9は、それぞれ、しらすチップと水道水、砂浜、砂浜しらすについて、ケイ酸濃度変化、T−N(総窒素濃度変化)、T−P(総リン濃度変化)を比較したグラフである。
実験は、500mlの容器に試料を入れ、上から水を流した。実験に使用した水はすべて同一の水道水(pH=7.23)である。また、砂浜の砂は宮城県石巻市渡波の海浜から採取したものである。砂浜しらすはこの砂浜の砂としらすを重量比で1:1の割合で混合したものである。しらすチップはしらすと沈木チップを重量比で1:1の割合で混合したものである。
これらの図からわかるように、しらすチップのほうが他の試料(水道水、砂浜、砂浜しらす)のどれよりも高いケイ酸濃度変化、T−N変化、T−P変化を示すことがわかる。
したがって、しらすチップはケイ酸、窒素およびリンの供給に高い効果があることがわかる。よって、栄養塩の不足している水域にはしらすチップろ過層3を通して水を供給することにより、水質を改善することができる。
実施の形態2.
図10は本発明の実施の形態2における浸透堤の横断面図で、図2のA−A断面に相当するものである。
本実施の形態の浸透堤は、流出側に配設されるしらすチップろ過層3を堤長方向に断続的に設けたものである。
窒素除去を主目的にする場合は、このようにしらすチップろ過層3を断続的に設け、沈木チップろ過層2の占める割合を多くすることで、窒素を効率よく除去することができる。
以上の実施の形態では、池などの停滞水域の水質改善について説明したが、河川や海水域についても同様に本発明を適用することができるものである。また、コスト的には多少高くなるが、水域の流入側と流出側(排出側)にそれぞれ本透水堤を設置することもできる。
本発明の実施の形態1における浸透堤の設置例を示す平面図。 実施の形態1における浸透堤の断面図。 図2のA−A断面図。 浸透堤の作用説明図。 しらすからのケイ酸溶出量の経時変化を示す実験結果のグラフ。 しらすチップからのケイ酸溶出量の経時変化を示す実験結果のグラフ。 しらすチップと水道水、砂浜、砂浜しらすについて、ケイ酸濃度変化の比較を示したグラフ。 しらすチップと水道水、砂浜、砂浜しらすについて、T−N変化の比較を示したグラフ。 しらすチップと水道水、砂浜、砂浜しらすについて、T−P変化の比較を示したグラフ。 本発明の実施の形態1における浸透堤の横断面図。
符号の説明
1 堤体部
2 沈木チップろ過層
3 しらすチップろ過層
4 網体
5 網体
6 基礎地盤
7 底部支承部
10 浸透堤
20 停滞水域
21 流入水路
22 流出水路

Claims (4)

  1. 所定の水域の一部分を区切る浸透堤であって、透水性を有する堤体部と、該堤体部内に埋設され、流入側に面して配設された沈木チップのろ過層と、流出側に面して配設された火山ガラスを主成分とするしらすと沈木チップの混合物のろ過層とを備えることを特徴とする浸透堤。
  2. 前記沈木チップのろ過層を堤長方向に連続的に設け、前記しらすと沈木チップの混合物のろ過層を堤長方向に断続的に設けたことを特徴とする請求項1記載の浸透堤。
  3. 前記沈木チップのろ過層と前記しらすと沈木チップの混合物のろ過層とは、ほぼ同じ高さであり、かつ、前記2つのろ過層を通過する水の動水勾配によって、流入側と流出側との間に所定の水位差を設けたことを特徴とする請求項1または2記載の浸透堤。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の浸透堤による水質浄化方法であって、火山ガラスを主成分とするしらすと沈木チップの混合物に栄養塩の不足している処理対象水よりケイ酸濃度の低い水を通過させ、pHを上げずにケイ酸を水中に溶出することを特徴とする水質浄化方法。
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