JP4725762B2 - アーク溶接機の制御方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、交流電流を整流して直流とし、その出力をインバータ回路により高周波交流とし変圧器により適宜変圧した後に整流回路にて直流とする方式のアーク溶接機の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のアーク溶接機の出力制御では、検出された溶接電圧値と所定の電圧値である溶接電圧設定値を誤差増幅し、その出力信号により溶接出力を制御しており、以下、図5を用いて説明する。
図5は従来のアーク溶接機の構成を示す図で、電源6に第1整流部7の入力側を接続し、この第1整流部7の整流出力側にスイッチング部8の入力側を接続している。そして、スイッチング部8の出力側と主変圧器9の一次側を接続し、主変圧器9の二次側は第2整流部10の入力側に接続し、この第2整流部10の出力側の一方に直流リアクタ11の一端を接続し、この直流リアクタ11の他端と第2整流部10の出力側の他方の間に溶接電圧検出部5を並列接続している。
この直流リアクタ11の他端と第2整流部10の出力側の他方は溶接出力として出力され、直流リアクタ11の他端からワイヤ送給装置13とトーチ14を介してワイヤ15へ通電し、第2整流部10の出力側の他方は母材12に接続し、このワイヤ15と母材12間でアーク溶接を行うようにしていた。なお、溶接電圧検出部5からの信号を平滑すること無く、制限部1に取り込み、加算部2で溶接電圧司令部4からのデータと加算し、スイッチング部8に出力している(例えば、特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】
特開2002−248573号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来の制御方式は、溶接電流、及び、溶接電圧をゆるやかに変化させる大きな直流リアクトル11が回路にあることを前提にした制御方式であり、例えば、回路の直流リアクトルが20μHのような小さな場合は、正常な制御を行うことができない問題点があった。
また、従来の短絡型のアーク溶接機では、溶接電流、及び、溶接電圧をゆるやかに変化させる大きな直流リアクトル11、例えば、30μH以上の直流リアクトル11が付いていることが前提となっている。
しかしながら、大きな直流リアクトル11が付くと、アークスタート時の電流変化も阻害されてアークスタート不良となりやすく、また、急峻な電流変化を要求するパルス溶接も行うことができない。また、通常の短絡溶接においても、大きな直流リアクトル11が付くと短絡からアークに切り換わる瞬間に直流リアクトルに蓄えられた大きな電流が流れるため、例えば極薄板のように、大きな電流を嫌うワークの溶接は、不可能であるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、20μH以下の小さな直流リアクトルを有する溶接機でも安定した短絡型溶接を実現する方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように制御したのである。
本発明の請求項1記載のアーク溶接機の制御方法は、出力電流を検出する電流検出器と出力電圧を検出する電圧検出器とを備え、予め設定された溶接電圧値に基づいて溶接を行うアーク溶接機の制御方法において、アーク期間中の出力電圧を設定する溶接電圧指令値として、0より大きく1より小さい値を底とし、前記アーク期間に移行してからの経過時間を指数とした指数関数による溶接電圧指令値を作成するとともに、前記アーク期間中に前記電流検出器で検出した出力電流値について時間当たりの電流変化率を計算し、前記電流変化率に予め設定された負の定数を乗じた値を前記溶接電圧指令値に加えて前記溶接電圧指令値を補正し、前記補正された溶接電圧指令値に基づいてアーク溶接機を制御することを特徴とするものである。
本発明の請求項2記載のアーク溶接機の制御方法は、短絡開放直後から所定時間が経過するまでの間は前記溶接電圧指令値の補正を行わないことを特徴とするものである。
本発明の請求項3記載のアーク溶接機の制御方法は、アーク発生前の短絡期間の長さ、溶接材料、板厚、シールドガスの種類に応じて、前記指数関数の底、係数および定数項を変化させることを特徴とするものである。
本発明の請求項4記載のアーク溶接機の制御方法は、前記アーク期間中の出力電圧を逐次PID制御でフィードバック制御することを特徴とするものである。
本発明の請求項5記載のアーク溶接機の制御方法は、前記PID制御は、出力電圧を増大させる時の制御速度を速く、出力電圧を減少させる時の制御速度を遅くすることを特徴とするものである。
本発明の請求項6記載のアーク溶接機の制御方法は、前記指数関数の定数項と前記出力電圧との大小を比較することによって短絡状態かアーク状態かの判定を行うことを特徴とするものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の具体的実施例を図に基づいて説明する。
(第1実施例)
第2図及び第3図に本発明のブロック図を示す。図2は、アーク溶接機の構成図であり、図3は、本発明の構成図の電流制御回路17の説明図である。図2に基づいて、構成を説明する。交流電源6から入力された交流電流は、整流回路7にて直流電流に整流される。直流電流をインバータ回路8で高周波交流に変換し、トランス9は、これをアーク溶接に適した電圧に変換する。次に図3に基づいて、電流制御回路17の構成を説明する。アーク時の出力の電流値は、電流検出器16で検出され、デジタルシグナルプロセッサ18に読み込まれる。デジタルシグナルプロセッサ18では、アナログ入力された溶接電流値をA/D変換器20を介して、デジタル値に変換する。通常、溶接電流値は、ホール素子やシャントにより、一定割合のアナログ値に変換される。たとえば、1000Aは、10Vというアナログ電圧に変換され、A/D変換器20に入力される。A/D変換器20は、デジタルシグナルプロセッサ18に予め設定されたプログラムによって、一定周期の割り込み処理により、A/D変換器20の出力をバッファリングする。
【0008】
このように、デジタル値に変換された電流値は、メモリ22内に格納される。こうして、変換された電流値は、デジタルシグナルプロセッサ18のタイマ機能により、時系列的に処理することが可能となる。ここで、変換された電流値I(n)とt時間前に検出した電流値I(n−t)より、時間当たりの電流値変化α=(I(n)−I(n−t))/tを求める。この電流値の変化αを小さくするために、αが正に大の場合は、負の電圧を、αが負に大の場合は、正の電圧を、溶接指令電圧に加える。
つまり、溶接指令電圧=指令電圧−*αとなる。
は、実験的に求められる定数であり、電流値変化を緩やかにする場合は、大きな定数を設定する。アーク時の指令電圧に(−*α)電圧を加えると電流値は穏やかな変化となるが、アーク時に短絡が発生し、この短絡が開放した直後から、(−*α)電圧を加えると短絡が開放した瞬間の高い電流から通常のアーク時の電流に戻るまでの時間がかかり、動作が発振的になるため、所定の時間(数百マイクロ秒)は、この−*α電圧は加えない。
以上で説明した処理をフローチャートで図1に示す。
図1のS1では、出力電流を入力する。S2では、S1で入力された出力電流の時系列データから、電流変化率を求める。S3では、変化率の大小を比較する。S4では、電流変化率が正の場合には、負の電圧を加算する。S5では、電流変化率が負の場合には、正の電圧を加算する。
【0009】
(第2実施例)
デジタルシグナルプロセッサ18では、アーク期間中の指令電圧として、指数関数を用いたカーブで指令を行う。
指数関数は、Y(指令電圧値)=a・b+c 0<a<1 で表すことができる。指数関数で表される指令電圧は、電流変化を小さくする前記−*αと重畳されて、溶接指令電圧となる。指数関数で表される指令電圧は、アーク発生前の短絡期間の長さ、溶接材料、シールドガスの種類により、a、b、cは、異なる値が設定される。
例えば、アーク発生前の短絡期間が長い場合は、熱量不足であるため、入熱を大きくするために、a、b、cに大きな値を設定する。しかし、単純にアーク発生前の短絡期間に比例してa、b、cを変化させると、アーク長が常に変動して不安定となるため、同一溶接区間中では、a、cは、ほとんど固定し、bをアーク発生前の短絡期間に強い相関を持たせて変化させている。溶接材料として、ステンレスを適用した場合、ステンレスは凸型ビードに生り易い為、短絡からアークになった直後に熱を入れて、できるだけフラットなビードを形成する必要がある。このように短絡からアークの瞬時に熱を入れるためには、aを小さくし、bを大きくして、短絡からアークになった直後の電圧だけ大きくして、後は急激に小さくなるようにする。
【0010】
また、極薄板を対象に溶接を行う場合は、アーク熱をできるだけ入れ無く、かつ、短絡回数を多くして溶接を安定させる必要があるため、aを大きく、bを小さく、cを小さくして、低いアーク電圧で、かつ、短絡を促進するアーク電圧の角度をつける。例えば、シールドガスにCO2ガスを用いた場合、特に低い電流域でアーク長を長くするとアーク切れになりやすいため、aを大きくし、bを小さくして、短絡からアークになった瞬間の電圧を高くしないことで、アーク長を短く保つ。例えば、シールドガスにArガスを用いて、スプレー移行のような状態にして、スパッタを少なくする時には、aを小さくし、bを大きくして、短絡からアークになった瞬間の電圧を高くして、アーク長を長く保つ。
【0011】
本発明のハード構成図第2図では、パルス溶接性、アークスタート性、制御性を考慮し、直流リアクトル11を20μH以下に設定している。直流リアクトル11が小さいため直流リアクトルの出力電圧に対する影響が小さいと、図4に示すように、指令電圧波形と出力電圧波形はほぼ同じになる。前記ハードで出力電圧波形を指数関数カーブで変化させるために、アーク期間中の出力電圧を逐次PID制御でフィードバックしている。PID制御とは、P:比例ゲイン、I:積分ゲイン、D:差分ゲインに基づいて、アーク期間中の指令電圧と出力電圧を等しくする制御をしている。
また、PID制御でアーク電圧をフィードバックしている時に、溶融プール内のガス爆発等によりワイヤ先端が飛び、突然アーク長が異常に長くなった時は、フィードバックのアーク電圧が高くなるため、指令の電圧は低くなる。この時に急速に指令電圧を低くすると、アーク長に対するアーク電圧が不足してアーク切れを引き起こす。このため、PID制御は、アーク電圧を低く制御する時は、制御速度を遅くし、アーク電圧を高く制御する時は、制御速度を速くしている。この方式として、例えば、通常は、指令電圧の幅を0V〜40Vとして、PID制御を行っているのを、12V〜40Vとして、アーク電圧が高くなり急速に下げようとしても制御の最低電圧を12Vとすることでアークが切れるような小さな電圧になることを防止している。短絡とアークを繰り返すアーク溶接において、アーク電圧を指数関数カーブで制御する本発明では、短絡状態とアーク状態の判定が重要である。
【0012】
本発明では、Y(指令電圧値)=ax・b+c(0<a<1)≒出力電圧になる。また、出力電圧が下がる場合には、速いPID制御を行い出力電圧を一定に保つように制御している。このため、cを下回る電圧状態は、短絡状態である。フィードバック電圧Vf < c − 3V(通常、cは20V〜30Vなので、明らかに下回る状態と判定するオフセット電圧は、2V〜10Vとなる)のフィードバック電圧の時に短絡と判定される。
【発明の効果】
以上述べたように、本発明のアーク溶接機の制御方法では、メインの電流回路の直流リアクトルが小さい溶接機で性能の高い溶接ができる効果があり、直流リアクトルが小さいことにより、アークスタート性の向上、パルス溶接が1台の溶接機で実現することができるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のフローチャート
【図2】本発明のブロック図
【図3】制御部17の詳細
【図4】電流、電圧、波形指令カーブ
【図5】従来例の図
【符号の説明】
1 制限部
2 加算部
3 短絡・アーク判定部
4 溶接電圧指令部
5 溶接電圧検出部
6 商用電源
7 第1整流部
8 スイッチング(インバータ部)
9 主変圧器
10 第2整流部
11 直流リアクトル
12 母材
13 ワイヤ送給装置
14 トーチ
15 ワイヤ
16 電流検出部
17 制御部
18 デジタルシグナルプロセッサ
19 電圧A/D
20 電流A/D
21 演算部
22 メモリ
23 ドライバーへの指令生成
24 インバータ駆動用ドライバー
25 上位CPU

Claims (6)

  1. 出力電流を検出する電流検出器と出力電圧を検出する電圧検出器とを備え、予め設定された溶接電圧値に基づいて溶接を行うアーク溶接機の制御方法において、
    アーク期間中の出力電圧を設定する溶接電圧指令値として、0より大きく1より小さい値を底とし、前記アーク期間に移行してからの経過時間を指数とした指数関数による溶接電圧指令値を作成するとともに、
    前記アーク期間中に前記電流検出器で検出した出力電流値について時間当たりの電流変化率を計算し、
    前記電流変化率に予め設定された負の定数を乗じた値を前記溶接電圧指令値に加えて前記溶接電圧指令値を補正し、
    前記補正された溶接電圧指令値に基づいてアーク溶接機を制御することを特徴とするアーク溶接機の制御方法。
  2. 短絡開放直後から所定時間が経過するまでの間は前記溶接電圧指令値の補正を行わないことを特徴とする請求項1記載のアーク溶接機の制御方法。
  3. アーク発生前の短絡期間の長さ、溶接材料、板厚、シールドガスの種類に応じて、前記指数関数の底、係数および定数項を変化させることを特徴とする請求項1記載のアーク溶接機の制御方法。
  4. 前記アーク期間中の出力電圧を逐次PID制御でフィードバック制御することを特徴とする請求項1記載のアーク溶接機の制御方法。
  5. 前記PID制御は、出力電圧を増大させる時の制御速度を速く、出力電圧を減少させる時の制御速度を遅くすることを特徴とする請求項4記載のアーク溶接機の制御方法。
  6. 前記指数関数の定数項と前記出力電圧との大小を比較することによって短絡状態かアーク状態かの判定を行うことを特徴とする請求項1記載のアーク溶接機の制御方法。
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