JP4725234B2 - 音場再現方法、音声信号処理方法、音声信号処理装置 - Google Patents
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Description
残響付加処理としては、いわゆるデジタルリバーブ方式が知られている。このデジタルリバーブ方式は、原音に対してランダムなディレイタイムとされるディレイ情報を多数発生させ、さらに、ディレイタイムが長くなるほど音量を小さくしたり、ディレイタイムの長い箇所でフィードバックを掛けて残響時間を長くとる等の信号処理を行うものである。これにより原音に対して人工的に残響効果を生成することができる。しかし、ディレイ情報を生成するためのパラメータは、そのパラメータの設定を行う作業者の聴感に基づいて設定されるので、この設定作業は繁雑なものとなる。また、人工的に残響を作り出すことから原音を定位させるという概念がなく、音場の再現に優れたものではない。
この特許文献1に記載の技術では、例えば図1に示されているように、ホールなどの測定環境(測定音場)1に、音源として測定用のスピーカ3を配置する。そして、この測定用スピーカ3にTSP(Time Streched Pulse)信号などとされるインパルス応答測定用の音声信号を供給して、同じ音場内の所要の位置に配置された複数の測定用マイク4(a〜p)に対して、測定用スピーカ3から出力される測定用音声を入力させる。この場合、例えば測定用マイク4aでは、図1に矢印で示されているように、測定用スピーカ3からの直接音、及び測定用スピーカ3から出力され測定環境としてのホール内で反射した反射音を検出することができる。図示は省略しているが、このことは他の測定用マイク4b、4c、4dについても同様である。
そこで、各測定用マイク4(a〜d)により検出された音声信号に基づき、残響を含むインパルス応答を測定することで、測定用スピーカ3から各測定用マイク4までのそれぞれに対応した伝達関数を求めることができる。
つまり、上記のようにして各測定用マイク4のそれぞれの配置位置までに対応した伝達関数が求まれば、再生したい音声信号をこれらの伝達関数を用いてそれぞれ畳み込むことで、各スピーカ8の配置位置から出力すべき音声信号が得られる。従ってそれらの音声信号を、対応する位置に配置したスピーカ8からそれぞれ出力することで、これらスピーカ8に囲まれた空間内にて図1の測定環境と同様の残響効果を得ることができる。
このような方式は、実際に測定した伝達関数を用いるので、再生時における音場の再現性に優れたものとなる。また同時に、再生音場における音像定位としてもより明確なものとなる。
しかしながら、上記のような従来の音場再現の手法では、図1、図3にも示されているように、音場を再現するエリア(閉曲面)としては平面を定義するようにされているため、この閉曲面内に居る聴取者に上方や下方からの音像を明確に知覚させることが困難とされている。
また、このようなHRTFを用いる場合としても、実測された伝達関数に基づくものではないという意味で、リアルな音場再現を行うことはできないことになる。
すなわち、先ず、円柱形状の閉曲面の外側における仮想音像位置から音声を発音する発音工程を備える。
また、前記閉曲面内における複数段の水平面のそれぞれの外周上における複数位置ごとに、前記発音工程で発音された音声を測定した結果に基づき、前記仮想音像位置からそれぞれの前記水平面上の前記複数位置の各々に到達する音声についての伝達関数を生成する伝達関数生成工程を備える。
また、入力した音声信号に対し、前記伝達関数生成工程で生成した前記伝達関数に基づく演算処理を施して、それぞれの前記水平面上の前記複数位置の各々に対応した再現用音声信号を得る再現用音声信号生成工程を備える。
そして、それぞれの前記水平面上の前記複数位置と幾何学的に同等の位置関係となるように配置した複数のスピーカから、前記再現用音声信号生成工程で生成した前記再現用音声信号をそれぞれ出力する再現用音声出力工程を備えるようにした。
このようにして、立体による閉曲面に対して入力する音の波面の続きを複数の水平面ごとに出力できることで、少なくとも縦方向(高さ方向)における2つの位置での波面の続きを再現することができ、これによって少なくとも上方、又は下方の2方向からの音の波面の続きを出力することができる。
また、上記本発明において、これら水平面上の複数位置からそれぞれ出力される再現用音声信号は実測した伝達関数に基づき得られたものであるので、例えばHRTF(頭部音響伝達関数)を利用した手法とする場合よりもリアルに音場再現を行うことができる。
なお、本明細書において、特に断らなければ、音声信号に対する「伝達関数に基づく演算処理」とは、音声信号に対して伝達関数を畳み込み積分処理を施すことや、伝達関数をフィルタ係数として設定したFIR(Finite Impulse Response)フィルタによって音声信号にフィルタ処理を施すことを指すものとする。
この測定環境1には、例えば当該測定環境1の壁に近接しない位置における、半径R_bndとなる円周上に、測定用マイク(マイクロフォン)4a、4b、4c、4d、4e、4f、4g、4h、4i、4j、4k、4l、4m、4n、4o、4pを配置する。
このように各測定用マイク4(a〜p)が配置される半径R_bndとなる円周は、後述する再現環境において測定環境1の音場を再現するエリアを規定するものであり、以下ではこのように測定環境1の音場を再現するエリアを規定する閉曲面を閉曲面10と称する。
また、閉曲面10の中心から半径R_spとなる位置に、仮想音源として測定用スピーカ3を配置する。この測定用スピーカ3に対しては、測定用信号再生部2から測定用信号が供給される。この測定用信号としては、後述するインパルス応答測定のためのTSP(Time Streched Pulse:時間引き延ばしパルス)信号を出力するようにされる。
なお、測定用スピーカ3は、後述する再生環境における仮想スピーカを再現するために備えられることから、その指向性や周波数特性は、再生環境における聴取者に対する聴感を想定したものとすることが望ましい。
各測定用マイク4(a〜p)で検出された音声信号は、図示していないインパルス応答測定装置に供給され、ここでは各測定用マイク4で検出された音声の音圧に基づいて、測定用スピーカ3から各測定マイク4(a〜p)に対応したインパルス応答が測定される。このインパルス応答は、大きなホールなどでは5〜10秒程度であることもあるが、小さなホールや響きの少ないホールなどではより短い時間長となることもある。この測定により、各インパルス応答に基づいた伝達関数を求めることができる。すなわち、図1には、測定用マイク4aに対応した伝達関数Haを求める場合の音声の経路が示されている。また、図示していないが、測定用マイク4b〜測定用マイク4pについても、同様にそれぞれに対応した伝達関数Hb〜Hpを求めることができる。
また、測定用マイク4としては1つのみを用い、これを図中の測定用マイク4a〜4pの配置位置ごとに順次配置して測定を行うようにすることもできる。
また、以降の説明においても、測定環境1における測定用スピーカから測定用マイクまでの伝達関数は「H」により表す。
再現信号生成装置5において、音声再生部6は、任意の音声信号Sを出力することができるようにされている。この音声再生部6から出力された音声信号Sは、演算部7a、7b、7c、7d・・・7n、7o、7pに供給される。個々の演算部7(a〜p)には、それぞれ上記のようにして測定用マイク4a〜4p対応に測定された伝達関数Ha〜Hpのうち、同じ添え字(アルファベット)の付される伝達関数Hが設定されており、各演算部7は、供給された音声信号Sに対してそれぞれ設定された伝達関数Hに基づく演算処理を施す。これにより、各演算部7(a〜p)からは、音声信号Sに対して伝達関数に対応するインパルス応答が畳み込まれた再現信号SHa、SHb、SHc、SHd・・・SHn、SHo、SHpが出力される。
なお、先にも述べたが、各演算部7の動作は、それぞれ設定された伝達関数(インパルス応答)をフィルタ係数として設定したFIRフィルタによっても実現することができる。このことは、後述する全ての「演算部」についても同様である。
再現環境11は、例えば無響室や、残響の少ないスタジオなどとされる。
この再現環境11に、図2に示した再現用スピーカ8(a〜p)を配置する。この場合、再現用スピーカ8(a〜p)は、図1に示した測定用マイク4(a〜p)の配置位置に対応させ、半径R_bndで形成される閉曲面10の外周上に配置される。つまり、再現用スピーカ8(a〜p)、測定用マイク4(a〜p)において同一の添え字(アルファベット)を付したものの配置位置どうしが対応している。つまり、再現環境11におけるこれら再現用スピーカ8(a〜p)は、測定環境1における測定用マイク4(a〜p)と幾何学的に同等の配置関係が得られるようにして配置されている。
なお、測定環境1における閉曲面10と再現環境11における閉曲面10とは、それぞれ別々の空間に存在する閉曲面ではあるが、ここでは同一半径により形成される幾何学的に同等の閉曲面ということで、便宜上同一の符号を付している。
具体的には、閉曲面上に双指向性マイクロフォンを無数個設置し、それぞれの設置点における音圧と粒子速度を測定する。このため、測定環境1における閉曲面10では無数個の測定用マイクを法線方向に外向きに設置し、再現環境11における閉曲面10においてはこれらの測定用マイクに対応した無数個の再現用スピーカを配置することで、再現環境11での閉曲面10の内側を視聴位置とした場合、聴取者は測定環境1の閉曲面10内に居る場合と同様の定位感や残響感を得ることができ、さらに、再現環境11にはない測定用スピーカ3の位置に仮想音像を知覚することができるようになる。つまり、再現環境11の閉曲面10の内側のいずれの聴取位置においても、その外側に測定環境1と同等の音場感を得ることができる。
しかし、上記のように、無数個のマイクロフォンと再現用スピーカを必要とすることは、実際にこれを実現することは困難である。そこで、本出願人は、指向性マイクロフォン、例えば単一指向性マイクロフォンの出力に音圧及び粒子速度成分が含まれることに着目して、有限個数の単一指向性マイクロフォンと、それに対応する数の再現用スピーカでほぼ同様な音響効果が得られることを実験により確かめた。
ここで、このことによれば、図1に示したように測定環境1におけるインパルス応答の測定を1回行っておけば、その後、これら測定データ(伝達関数)を用いることで、再現環境11など測定環境1以外の環境で、随時測定環境1の音場を擬似的に再現することができるようになる。
そして、この場合、先の図2の構成によれば、このように再現される音場で再生する音声としては任意の音声とすることができるので、測定を行ったホールで任意の音声が再生された(任意の演奏が行われた)ものとして再現することができる。
しかしながら、上記のような従来の音場再現の手法では、図1、図3にも示されているように、音場を再現するエリア(閉曲面10)としては平面を定義するようにされているため、この閉曲面10内に居る聴取者に上方や下方からの音像を明確に知覚させることが困難とされる。
また、このようなHRTFを用いる場合としても、実測された伝達関数に基づくものではないという意味で、リアルな音場再現を行うことはできないことになる。
先ず、図示するようにして、この場合は立体による閉曲面10としては円柱形状を定義し、さらに閉曲面10内に形成される複数段の水平面として、図示する上段水平面10−1、中段水平面10−2、下段水平面10−3の3つの円形による水平面を定義する。
この図では、図中の両矢印により縦方向を示しており、この縦方向と直交する面を水平面と呼んでいる。また、この縦方向と直交する方向は水平方向と呼ぶ。
そして、これら上段水平面10−1、中段水平面10−2、下段水平面10−3のそれぞれの外周上に対し、複数の測定用マイク4を配置する。この場合、各水平面に対してはそれぞれ測定用マイク4a〜4jによる10個の測定用マイク4を配置する。上段水平面10−1上に配置される測定用マイク4は、測定用マイク4a−1〜4j−1というように、末尾に「−1」を付して表す。同様に中段水平面10−2上に配置される測定用マイク4は測定用マイク4a−2〜4j−2というように「−2」を付して表し、下段水平面10−3上に配置される測定用マイク4は測定用マイク4a−3〜4j−3というように「−3」を付して表す。
また、この場合においては、測定用マイク4a−1〜4j−1、測定用マイク4a−2〜4j−2、測定用マイク4a−3〜4j−3としては、それぞれ同じ添え字(小文字アルファベット)が付されたもの同士が、図中縦方向において同列の関係となうようにして配置される。つまり、例えば測定用マイク4a−1、測定用マイク4a−2、測定用マイク4a−3は、図中縦方向において同列の関係となるように配置されるといったものである。
そして、この測定用スピーカ3から、先の図1の場合と同様に測定用信号TSPを出力し、これを各測定用マイク4ごとに検出する。この場合も各測定用マイク4に対しては、測定用スピーカ3からの直接音と共に、壁、床、天井で反射した音声が到達し、これによって測定環境1の空間情報を含んだ音声がそれぞれにおいて検出される。
各測定用マイク4ごとに検出された音声信号はこの場合も図示しないインパルス応答測定装置に供給し、測定用マイク4ごとに対応したインパルス応答の測定を行う。これによって測定用スピーカ3から各測定用マイク4までに対応した伝達関数Hが得られる。
この図4では、一例として測定用マイク4a−1までに対応した伝達関数Ha−1、測定用マイク4a−2までに対応した伝達関数Ha−2、測定用マイク4a−3までに対応した伝達関数Ha−3を模式的に示している。
ここで示しているように、上段水平面10−1上に配置された各測定用マイク4(4a−1〜4j−1)までに対応した伝達関数Hについては、伝達関数Ha−1〜Hj−1というように末尾に「−1」を付して表す。同様に中段水平面10−2上に配置される各測定用マイク4(4a−2〜4j−2)まで対応した伝達関数Hは伝達関数Ha−2〜Hj−2というように「−2」を付して表し、また、下段水平面10−3上に配置される各測定用マイク4(4a−3〜4j−3)までに対応した伝達関数Hは伝達関数Ha−3〜Hj−3というように「−3」を付して表す。
ここで、上記のようにして本実施の形態では、複数の測定用マイク4を配置した3つの水平面を定義しているが、これによれば、先の図1に示した平面による閉曲面10をさらに上下に1つずつ増やしたことに相当する。つまり、これら3段の水平面のうち中段水平面10−2が図1に示したものと同様の役割を果たすとすれば、その上段、下段に位置する上段水平面10−1、下段水平面10−3は、それぞれ立体による閉曲面10に対し上方から入力する音声、下方から入力する音声について再現するためのものであるとみることができる。
また、中段水平面10−2については、上記のようにして図1の場合と同様の役割を果たすようにするため、上下方向には傾けず水平方向に向けるものとする。
図6は、このようにして形成される閉曲面10の音場境界イメージの斜視図を示している。
図示するようにして、この場合としても、再現環境11にて配置する再現用スピーカ8としては、測定環境1において配置した測定用マイク4と同数を配置する。
再現環境11における閉曲面10の上段水平面10−1の外周上に配置される再現用スピーカ8については、再現用スピーカ8a−1〜8j−1というように末尾に「−1」を付して表す。また、中段水平面10−2の外周上に配置される再現用スピーカ8については再現用スピーカ8a−2〜8j−2、下段水平面10−3の外周上に配置される再現用スピーカ8については再現用スピーカ8a−3〜8j−3というように、それぞれ「−2」「−3」を付して表す。
そして、上段水平面10−1上の再現用スピーカ8a−1〜8j−1は、測定環境1で配置した測定用マイク4a−1〜4j−1と同じ添え字の付されたもの同士の配置関係が同じとなるように配置される。
さらに、中段水平面10−2上の再現用スピーカ8a−2〜8j−2としても、測定環境1で配置した測定用マイク4a−2〜4j−2と同じ添え字の付されたもの同士の配置関係が同じとなるようにして配置され、また、下段水平面10−3上の再現用スピーカ8a−3〜8j−3についても、測定環境1で配置した測定用マイク4a−3〜4j−3と同じ添え字の付されたもの同士の配置位置が同じとなるようにして配置される。
つまり、これによって測定環境1において配置した各測定用マイク4と、再現環境11において配置した各再現用スピーカ8とが、幾何学的に同等の配置関係となるようにして配置される。
この場合、上段水平面10−1上の各再現用スピーカ8−1(8a−1〜8j−1)としては、測定環境1における上段水平面10−1上に配置した各測定用マイク4−1とは逆向きに配置する。これにより、各再現用スピーカ8−1としては、図示するように閉曲面10の内側方向やや下方向きに向けられて配置される。
さらに、下段水平面10−3上の各再現用スピーカ8−3(8a−3〜8j−3)としても、測定環境1における下段水平面10−3上に配置した各測定用マイク4−3とは逆向きに配置する。これにより各再現用スピーカ8−3は、閉曲面10の内側方向やや上方向きに向けられて配置される。
また、中段水平面10−2上の各再現用スピーカ8−2(8a−2〜8j−2)としても、各測定用マイク4−2と逆向きに配置するものとし、これにより各再現用スピーカ8−2としては閉曲面10の内側方向で且つ水平方向に向けられて配置されることになる。
この場合としても、再現用スピーカ8は単一指向性スピーカとしている。これによれば、上記の各段の再現用スピーカ8の向きによって、この場合の音場境界としては、測定環境1における閉曲面10での音場境界と同様のイメージが得られる。
先ず、この場合も音声再生部6は、先の図2において示したものと同様に任意の音声信号Sを再生することができるように構成される。そしてこの場合、再生された音声信号Sを入力して伝達関数Hに基づく演算処理を施す演算部7として、図示するように上段水平面10−1に対応した演算部7a−1〜7j−1、中段水平面10−2に対応した演算部7a−2〜7j−2、下段水平面10−3に対応した演算部7a−3〜7j−3の3セットが設けられる。
演算部7a−1〜7j−1には、上段水平面10−1上の各測定用マイク4−1対応に得られた伝達関数Ha−1〜Hj−1のうち、同じ添え字の付される伝達関数Hが設定されている。
また、演算部7a−2〜7j−2には、中段水平面10−2上の各測定用マイク4−2対応に得られた伝達関数Ha−2〜Hj−2のうち、同じ添え字の付される伝達関数Hが設定されている。
さらに、演算部7a−3〜7j−3には、下段水平面10−3上の各測定用マイク4−3対応に得られた伝達関数Ha−3〜Hj−3のうち、同じ添え字の付される伝達関数Hが設定されている。
また、同様に演算部7a−2〜7j−2は、設定された伝達関数Hに基づき生成した再現信号を、中段水平面10−2上に配置される再現用スピーカ8a−2〜8j−2のうち、同じ添え字の付される再現用スピーカ8に対して供給する。さらに、演算部7a−3〜7j−3は、設定された伝達関数Hに基づき生成した再現信号を、下段水平面10−3上に配置される再現用スピーカ8a−3〜8j−3のうち同じ添え字の付される再現用スピーカ8に対して供給する。
同様に、中段水平面10−2上に配置された各再現用スピーカ8−2、下段水平面10−3上に配置された各再現用スピーカ8−3からは、それぞれ測定環境1において閉曲面10の中段から閉曲面10の内側方向に入力する音声の波面の続き、下方から閉曲面10の内側方向に入力する音声の波面の続きを、再現環境11における閉曲面10の内側方向に向けて出力していることに相当する動作が得られる。
これによって再現環境11における閉曲面10内の聴取者には、従来と同様に測定環境1に特有の残響感及び仮想音像の定位感を与えることができると共に、さらに上下方向からの音を知覚させることができる。
また、このような上下感は、実測した伝達関数に基づき生成された再現信号に基づくものであり、この点でHRTFを用いた場合よりもリアルな音場再現を実現することができる。
但し、このような一体的な再現用スピーカ8とした場合には、上段の再現用スピーカ8−1、下段の再現用スピーカ8−3を、先の図5、図7に示したようにして傾けて組み込むことが困難であり、水平方向に向けざるを得ないことが考えられる。
この図に示されるように、この場合は上段の再現用スピーカ8−1、下段の再現用スピーカ8−3としても、中段の再現用スピーカ8−2と同様に水平方向に向けれられた状態となる。
但し、この場合は、中段水平面10−2として、従来と同様の音場再現効果が得られるゾーンが形成されていることで、聴取者はこの中段水平面10−2のゾーンにより測定環境1での残響感及び音像の定位感が知覚できる状態にある。さらに、スピーカとしては、通常はマイクほど指向性が強いものではなく、上記のように水平方向に向けた場合と図8のように傾けた場合とで、実用上はさしたる違いが出るものではない。また、さらにこの場合、閉曲面10内の聴取者からみれば、図示するように上段の再現用スピーカ8−1からは(指向性が強かったとしても)結果的には下方向に伝わる波面しか享受されず、また下段の再現用スピーカ8−3についても、結果的には上方向に伝わる波面しか享受されないことになる。
これらのことから、中段水平面10−2により実現される音場効果ゾーンの上側、及び下側の指向パターンや周波数特性は、実用上は特に問題にならないことが理解できる。つまりこのことより、上記のようにして上段の再現用スピーカ8−1、下段の再現用スピーカ8−3が水平面方向を向いた状態とされた場合にも、聴取者は、上段の再現用スピーカ8−1から出力される音声、下段の再現用スピーカ8−3から出力される音声により、上下方向からの音を知覚することができることに変わりはない。
なおこの図において、既に図9で説明した部分については同一の符号を付して説明を省略する。
この場合の再現信号生成装置20としては、図示するように上段の各再現用スピーカ8−1(a〜j)への再現信号の出力ラインと、下段の各再現用スピーカ8−3(a〜j)への再現信号の出力ラインに対し、それぞれ指向性補償ゲイン設定部21−1、指向性補償ゲイン設定部21−3を設ける。
指向性補償ゲイン設定部21−1は、演算部7a−1〜7j−1からの再現信号をそれぞれ入力し、これらに予め設定されたゲインを与えて再現用スピーカ8a−1〜8j−1に供給する。また、指向性補償ゲイン設定部21−3は、演算部7a−3〜7j−3からの再現信号をそれぞれ入力し、これらに予め設定されたゲインを与えて再現用スピーカ8a−3〜8j−3に供給する。
また、指向性補償ゲイン設定部21−3が各再現信号に与えるゲインとしても、図8に示したようにして再現用スピーカ8−3を上方に傾けた場合に上記聴取位置で測定した音圧と、図11に示したように水平方向に向けたときに上記聴取位置で測定した音圧との差に基づいて決定する。
これにより聴取者としては、先の図8の場合での再現用スピーカ8−1、再現用スピーカ8−3の傾きとしたときと同様の音圧(波面)を享受することができ、従って同等の効果を得ることができる。
このことから中段水平面10−2と聴取者の顔位置との高さは一致しないようにされるのが好ましい。
先ず、聴取者が立った状態を想定した場合では、上段水平面10−1は、聴取者の頭位置よりも上側の位置とする。また、下段水平面10−3は、膝位置よりも下側となる位置とする。そして中段水平面10−2は、先にも説明したようにより効果的な残響感・音像定位感を与えることを考慮して顔位置となるは避けるが、この場合は顔位置よりも下方にずらし、且つ下段水平面10−3からは充分な間隔を空けた位置とする(例えば首〜胸位置)。
このような各水平面の位置とすることで、実施の形態としての音響効果(測定環境1での残響感、音像定位感、及び上下方向からの音の知覚)が良好に得られることを実験により確認した。
これによって立った状態の聴取者及び座った状態の聴取者の双方で、同様に実施の形態としての音響効果が良好に得られることを確認した。
但し、実施の形態で例示しているような音場再現の手法としては、ホールでの演奏などについて適用されることを想定しているので、この場合の音像の定位としては、閉曲面10に対して水平方向にあるものについてできれば充分であるとの考えもある。
また、それ以外に適用する場合についても、一般に人間の頭上方向に定位させる音像は、例えば部屋の残響や或いは自然界であれば雨・風・雷など、音源の大きさ自体が大きく定位しにくい、又は分散的で指向性が弱いものであることが多い。その意味で、本実施の形態の音場再現の手法のように聴取者の真上方向をスピーカで覆わないとした場合にも、実用上は充分な上方向の定位感を与えることができるといえる。
この場合には、上段水平面10−1上、下段水平面10−3上に配置する各測定用マイク4、及び各再現用スピーカ8として、無指向性による測定用マイク、再現用スピーカを用いる。
つまり、測定環境1においては上段水平面10−1上、下段水平面10−3上の無指向性マイクで測定した結果に基づき伝達関数をそれぞれ生成する。そして、再現環境11では、音声信号Sをこれらの伝達関数に基づき演算処理した再現用信号を、それぞれ上段水平面上10−1上の無指向性スピーカ、下段水平面上10−3上の無指向性スピーカから出力するものである。
ここで、無指向性マイクによれば、単一指向性マイクを用いる場合よりも広く測定環境1における反響成分を取り込むことができる。つまり、その分伝達関数としてはより多く測定環境1における空間情報を取り入れることができ、従ってこの伝達関数に基づき演算処理した再現信号を上記のように無指向性スピーカから出力すれば、より多くの残響効果を与えることができるものである。
例えば、実施の形態では、閉曲面10内の複数段の水平面として3段の水平面を定義する場合を例示したが、水平面としては2段とすることもできる。
水平面を2段とした場合、一方は従来と同様に測定環境1での残響感及び音像定位感を得るための水平面とすることができ、もう一方を上方向からの音を知覚させるための水平面、又は下方向からの音を知覚させるための水平面とすることができる。つまり、これによれば、少なくとも上方向、又は下方向からの音を知覚させることができる。
或いは、上段水平面10−1、下段水平面10−3のみを定義すれば、上下双方からの音を知覚させることができる。但し、この場合は中段水平面10−2に相当する水平面がないので、特に仮想音像の定位感は薄れるものとはなる。
ここで、実施の形態で説明したような音場再現の手法としては、理論的には、閉曲面10として球面を定義し、この球面上の無数の水平面で波面の続きを再現することで、理想的な音場再現を行うことができるというものである。このことによれば、理想的には水平面の段数を可能な限り増やしてより多くの水平面上の複数の点で波面の続きを再現することで、より測定環境1での残響感や音像定位感の忠実度を高めることができる、ということになる。これに従えば、水平面の段数を、実施の形態としての3つよりも増やすことによっては、より音場再現の忠実度は高めることができる。
このように同列としない場合でも、各測定用マイクと各再現用スピーカとが幾何学的に同等の配置関係となるように配置することで、先に説明した実施の形態の場合と同様の効果を得ることができる。
また、各水平面上で配置する測定用マイク・再現用スピーカの数を同数としたが、各水平面で配置する測定用マイク・再現用スピーカの数は必ずしも同数とする必要はない。その場合にも、各測定用マイクと各再現用スピーカとが幾何学的に同等の配置関係となるように配置することで、先に説明した実施の形態の場合と同様の効果を得ることができる。
Claims (7)
- 円柱形状の閉曲面の外側における仮想音像位置から音声を発音する発音工程と、
前記円柱形状の閉曲面内における複数段の水平面のそれぞれの外周上における複数位置ごとに、前記発音工程で発音された音声を測定した結果に基づき、前記仮想音像位置からそれぞれの前記水平面上の前記複数位置の各々に到達する音声についての伝達関数を生成する伝達関数生成工程と、
入力した音声信号に対し、前記伝達関数生成工程で生成した前記伝達関数に基づく演算処理を施して、それぞれの前記水平面上の前記複数位置の各々に対応した再現用音声信号を得る再現用音声信号生成工程と、
それぞれの前記水平面上の前記複数位置と幾何学的に同等の位置関係となるように配置した複数のスピーカから、前記再現用音声信号生成工程で生成した前記再現用音声信号をそれぞれ出力する再現用音声出力工程と、
を備える
音場再現方法。 - 前記伝達関数生成工程では、
前記発音工程で発音された音声を、前記水平面中心から法線方向外側に向けた単一指向性マイクロフォンを用いて測定し、
前記再現用音声出力工程では、
前記複数のスピーカとして、前記発音工程で配置した前記単一指向性マイクロフォンのそれぞれの向きとは逆向きとなるように配置した単一指向性スピーカにより、前記再現用音声信号を出力する
請求項1に記載の音場再現方法。 - 前記水平面を3段以上とする請求項1に記載の音場再現方法。
- 前記複数段の水平面の上段及び下段に配置される複数のスピーカーは、水平方向に配置されている請求項1に記載の音場再現方法。
- 前記再現用音声信号生成工程は、前記水平面の上段及び下段の位置に対応した再現用音声信号に対して、予め設定されたゲインを与える指向性補償ゲイン設定工程を備える請求項4に記載の音場再現方法。
- 円柱形状の閉曲面の外側における仮想音像位置から音声を発音する発音工程と、
前記円柱形状の閉曲面内における複数段の水平面のそれぞれの外周上における複数位置ごとに、前記発音工程で発音された音声を測定した結果に基づき、前記仮想音像位置からそれぞれの前記水平面上の前記複数位置の各々に到達する音声についての伝達関数を生成する伝達関数生成工程と、
入力した音声信号に対し、前記伝達関数生成工程で生成した前記伝達関数に基づく演算処理を施して、それぞれの前記水平面上の前記複数位置の各々に対応した再現用音声信号を得る再現用音声信号生成工程と、
を備える
音声信号処理方法。 - 円柱形状の閉曲面の外側における仮想音像位置から発音された音声を前記円柱形状の閉曲面内における複数段の水平面のそれぞれの外周上における複数位置ごとに測定した結果に基づき生成された、前記仮想音像位置からそれぞれの前記水平面上の前記複数位置の各々に到達する音声についての伝達関数に基づき、入力した音声信号に対する演算処理を施すことで、それぞれの前記水平面上の前記複数位置の各々に対応した再現用音声信号を生成する再現用音声信号生成手段を備える
音声信号処理装置。
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