JP4722224B2 - 牛の判別方法、及び牛の判別用キット - Google Patents

牛の判別方法、及び牛の判別用キット Download PDF

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Description

この発明は、枝肉重量などの経済形質が優れた牛を判別する牛の判別方法及びそれに使用する牛の判別用キットに関する。
現在、肉用牛、特に日本固有の肉用専門種である黒毛和種牛の育種改良は、これまで蓄積された表現型情報と血統情報に基づく統計遺伝学的解析を基盤として牛の遺伝的能力を推定する統計遺伝学的育種改良方法に基づいて行われている。そして、この育種改良方法の確立は、黒毛和種の遺伝的能力の向上に多大な貢献をしている。
ただ、この統計遺伝学的育種改良方法は、肉用牛集団で有する優良遺伝子型が後代の集団に受け継がれる確率を推定する方法であり、個々の肉用牛が有する脂肪交雑、枝肉重量、ロース芯面積、バラ厚などの経済形質に関する遺伝的情報を把握することはできなかった。
また、経済形質は遺伝的要因だけではなく環境の影響を受けることも多いため、遺伝的要因に基づいて優良な個体を厳格に選抜するのは困難であった。さらに、統計的遺伝学的方法に基づく育種改良方法は、牛の交配・肥育などプロセスを必要とするため、育種には多大なコストと時間が掛かっていた。
そこで、1980年代後半から、遺伝子を利用した育種方法、具体的には、肉用牛の経済形質などの量的形質に関与する遺伝子の数やそれらの連鎖地図上での位置を明らかにする量的形質遺伝子座(QTL)解析が行われている。この解析方法は、肉用牛の経済形質に関する責任遺伝子の同定に画期的な成果をもたらすものとして期待されており、ウシDNAマーカーを利用した育種方法の開発を目指した研究が進められている(非特許文献1及び2を参照。)。
ただ、これまでのところ、この方法はクローディン16欠損症など劣性遺伝病の原因遺伝子の同定には寄与しているものの、経済形質に関与する責任遺伝子を同定し、それを利用した肉用牛の育種改良法を確立するまでには至っていない。
また、最近、経済形質の表現型には、責任遺伝子だけでなく、その遺伝子の発現を調節する遺伝子、DNAのメチル化などのエピジェネティック修飾も関与しており、解析を行う際にはこれらについても考慮しなければならないと考えられている。さらに、QTL解析は、適当な交配親を選択するのが困難であり、家系育成というプロセスを必要とするため、育種には統計遺伝学的方法と同じように多大なコストと時間を必要とする。
一方、現在の生命科学全体の研究の流れは、ゲノム研究の次の段階の研究(ポストゲノム研究)、具体的には、トランスクリプトーム解析、プロテオーム解析、メタボローム解析などの解析手法を利用した研究に注目が集まっており、中でも、網羅的・系統的に蛋白質の機能やその関連性を分析するプロテオーム解析が注目され、研究開発が進められている。
この理由として、遺伝子の最終産物である蛋白質は、直接生理学的機能を発揮する分子であり、その発現量や分子修飾によって変化した蛋白質が、細胞・組織・個体レベルで生理機能に直接に関与していることが挙げられている。また、別の理由として、プロテオーム解析では、交配・飼育や家系育成などの時間とコストの掛かるプロセスを必要としないことが挙げられている。
プロテオーム解析は様々な分野で応用が広がっているが、特に、医学分野での研究が進んでいる。例えば、遺伝子の変異と病態との因果関係が少ない遺伝子疾患以外の疾患では、細胞内プロセスの蛋白質機能の変化が発症に直接の引き金となっていると考えられているため、プロテオーム解析により疾患で変化する蛋白質を捉えて、疾患の有無や病態を診断するためのバイオマーカーの同定と開発が活発に行われている(特許文献1〜4及び非特許文献3を参照。)。
しかし、プロテオーム解析の畜産分野への応用は大変遅れており、肉用牛の経済形質に関与する蛋白質の同定や、これらの蛋白質を利用して有用な経済形質を有する牛の判別は現在に至るまでも行われていない。
先行技術文献
特開2006−308533号公報 特開2007−93597号公報 特開2007−139742号公報 特開2007−523346号公報
動物遺伝研究所年報(第11号)、社団法人畜産技術協会付属動物遺伝研究所発行、2004年 肉用牛遺伝資源活用体制整備事業報告書、社団法人畜産技術協会発行、2005年 「疾患プロテオミクスの最前線」、(株)メディカルドゥ発行、2005年
発明の概要
そこで、この発明は、プロテオーム解析によって肉用牛の経済形質に関与する蛋白質を同定し、これらの蛋白質をバイオマーカーとして有用な経済形質を有する牛を個別に判別する方法、この方法によって判別された牛及びこれに使用する牛の判別用キットを提供することを課題とする。
発明者らは、牛の経済形質に関係するバイオマーカーとして利用可能な蛋白質を探索するため、二次元電気泳動、質量分析、統計的手法によるデータ解析を併用して、牛の白色脂肪組織に含まれる蛋白質とその牛の経済形質との相関を網羅的に調べた。その結果、特定の蛋白質の発現と枝肉重量との間に有意に相関があることを発見し、この発明を完成させた。
すなわち、この発明の請求項1に記載の牛の判別方法は、(1)牛から体組織を採取する採取工程と、(2)採取した体組織から全蛋白質を抽出する抽出工程と、(3)抽出した全蛋白質中に含まれるアネキシンA5の野生型蛋白質、アネキシンA5の野生型蛋白質のアイソフォーム、アネキシンA5の野生型蛋白質又はそのアイソフォームの修飾蛋白質を検出する検出工程と、(4)検出工程において、アネキシンA5蛋白質の野生型蛋白質、そのアイソフォーム、及びこれらに由来する修飾蛋白質の何れか一方だけが検出されたか、A5蛋白質の野生型蛋白質、そのアイソフォーム、及びこれらに由来する修飾蛋白質の両方が検出されたかに基づいて、体組織を採取した牛の平均枝肉重量が大きいか否かを判別する判別工程と、を含む方法である。
ここで、アネキシンA5(Annexin A5,AnnexinV又はANX5とも呼ばれる。)とは、カルシウム/リン脂質結合蛋白質であるアネキシンファミリーに属し、細胞伸展促進作用,性腺刺激ホルモン産生促進作用、アポトーシス抑制作用など多様な生理現象に関係することが既に知られている蛋白質である。
また、アネキシンA5の野生型蛋白質とは、配列番号1に記載のアミノ酸配列によって構成されている蛋白質(CaBP33)のことである。さらに、アネキシンA5の野生型蛋白質のアイソフォームとは、野生型蛋白質と機能は全く同じでなく、アミノ酸配列をも少し異なる、具体的には配列番号2に記載のアミノ酸配列によって構成されている蛋白質(CaBP37)のことである。加えて、修飾蛋白質とは、糖鎖修飾、リン酸化、アセチル化、メチル化などの化学修飾をうけた蛋白質のことである。
この発明の請求項2に記載の牛の判別方法は、請求項1に記載の牛の判別方法であって、検出工程において、アネキシンA5の野生型蛋白質、アネキシンA5の野生型蛋白質のアイソフォーム、アネキシンA5の野生型蛋白質又はそのアイソフォームの修飾蛋白質を電気泳動により検出する方法である。
この発明の請求項3に記載の牛の判別方法は、請求項1に記載の牛の判別方法であって、検出工程において、アネキシンA5の野生型蛋白質、アネキシンA5の野生型蛋白質のアイソフォーム、アネキシンA5の野生型蛋白質又はそのアイソフォームの修飾蛋白質を抗原抗体反応により検出する。
この発明の請求項に記載の牛の判別用キットは、アネキシンA5の野生型蛋白質及びその修飾蛋白質の何れかに特異的に結合する抗体と、アネキシンA5の野生型蛋白質のアイソフォーム及びその修飾蛋白質の何れかに特異的に結合する抗体とを含むものである。
この発明の牛の判別方法及び判別用キットを利用することによって、枝肉重量の大きい牛個体を容易に判別することができた。この牛の判別方法により枝肉重量が大きいとされた牛と小さいとされた牛の間の枝肉重量の差は約20〜36kgであり、枝肉の単価が平均2000円/kgであると考えれば、一頭当たり4万円から7万円の経済効果を生み、一般的肥育農家(50〜100頭)で200〜700万円の経済収入の上昇が期待されることがわかった。これにより、畜産における生産性を向上し、従事農家の生活をより向上・安定させることができる。
牛の白色脂肪組織の全蛋白質を二次元電気泳動した結果を示す図である。 図1の部分拡大図である。 牛の白色脂肪組織が含むアネキシンA5の型と、その枝肉重量との関係を示す散布図である。
発明を実施するための形態
1.判別方法
この発明の牛の判別方法は、(1)牛から体組織を採取する採取工程と、(2)採取した体組織から全蛋白質を抽出する抽出工程と、(3)抽出した全蛋白質中に含まれるアネキシンA5関連蛋白質を検出する検出工程と、(4)検出したアネキシンA5の種類に基づいて、牛の平均枝肉重量が大きくなるか否かを判別する判別工程と、を含む方法である。そこで、各工程の詳細等について以下に説明する。
(1)採取工程
採取工程は、体組織を採取する工程であり、採取する体組織としては、アネキシンA5を発現している体組織であればよく、具体的には、白色脂肪組織、筋肉組織、皮膚組織、血液などが挙げられる。中でも、採材時に検体への侵襲が少ない血清が好ましい。
体組織の採取方法は、公知の方法であれば特に限定することなく使用できる。具体的には、注射による吸引、局所麻酔下での外科手術、脂肪吸引法が挙げられる。なお、脂肪吸引法とは、美容成形外科などで一般的に行なわれている方法であり、具体的には、超音波脂肪吸引、カニューレ等を用いたパワードリポサクション、シリンジ吸引等による方法が例示できる。
(2)抽出工程
抽出工程は、体組織から全蛋白質を抽出する工程であり、後述する検出工程で使用できる量と質の全蛋白質を抽出できる公知の方法であれば特に限定することなく使用することができる。具体的には、体組織を適当なpHを有する緩衝液に入れ、ホモジナイザーによって組織、細胞を破砕し、遠心分離して上清を得る方法などが挙げられる。なお、必要に応じて、酵素処理や有機溶媒による処理を加えてもよい。
(3)検出工程
検出工程は、抽出した全蛋白質中に含まれるアネキシンA5の野生型蛋白質、アネキシンA5の野生型蛋白質のアイソフォーム、アネキシンA5の野生型蛋白質の修飾蛋白質、アネキシンA5の野生型蛋白質のアイソフォームの修飾蛋白質を、1)電気泳動、2)抗原抗体反応等を使用して検出する工程である。次に、検出工程の詳細について説明する。
1)電気泳動による検出
電気泳動による検出は、蛋白質の電荷や等電点の違いを利用して蛋白質を分離したのち、アネキシンA5の野生型蛋白質などを検出する公知の方法であればよい。具体的には、下記の(a)一次元電気泳動による検出、及び(b)二次元電気泳動による検出が挙げられる。
(a)一次元電気泳動による検出
一次元電気泳動による検出は、例えば、ネイディブゲルやSDSポリアクリルアミドゲルを利用する電気泳動によって蛋白を分離し、分離した蛋白質をニトロセルロース膜などに転写したのち、抗体を使用して蛋白質を検出するウエスタンブロッティング法によって行う。
なお、前記抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、2つのエピトープを同時に認識することができる二機能性抗体等を例示することができる。なお、これら抗体は、ハイブリドーマ法などの慣用のプロトコールを使用して、ヒト以外の動物に、アネキシンA5の野生型蛋白質、そのアイソフォーム、その修飾蛋白質、それらの断片を投与することにより産生することができる。
また、前記抗体は、FITC(フルオレセインイソシアネート)又はテトラメチルローダミンイソシアネート等の蛍光物質や、125I、32P、14C、35S又は3H等のラジオアイソトープや、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ又はフィコエリトリン等の酵素で標識してもよく、前記抗体とグリーン蛍光蛋白質(GFP)等の蛍光発光蛋白質などと融合させてもよい。
(b)二次元電気泳動による検出
二次元電気泳動による検出は、二次元電気泳動とその泳動像の分析によって行う。この発明で使用する二次元電気泳動法は、等電点と分子量という蛋白質の有する2つの物性を利用して分離する方法であれば、特に制限することなく公知の方法を利用することができる。具体的には、キャピラリーゲルやストリップゲルなどを使用して一次元目の等電点電気泳動を行い、泳動後のゲルをSDS-ポリアクリルアミドゲル(SDS-PAGE)あるいはアガロースゲルに載せ、等電点電気泳動の展開方向に対して直角の方向に電気泳動することにより行う方法が挙げられる。
二次元電気泳動像の分析は、ゲルをクマシーブリリアントブルー(CBB)、SYPRO Ruby(登録商標)、銀染色法等の公知の方法により染色し、染色したゲルの画像をスキャナーやCCDカメラによってコンピュータに取り込み、取込んだ画像のノイズの低減やバックグラウンドの補正をしたのち、pH4.0〜5.0、分子量30〜40KDa付近に現れるアネキシンA5の野生型蛋白質、アネキシンA5の野生型蛋白質のアイソフォーム、及びそれら蛋白質の修飾蛋白質の蛋白質スポットを検出することによって行う。
2)抗原抗体反応による検出
抗原抗体反応による検出は、アネキシンA5の野生型蛋白質と特異的に結合する抗体、アネキシンA5の野生型蛋白質のアイソフォーム、及びそれら蛋白質の修飾蛋白質と特異的に結合する抗体とを使用する公知の免疫学的検出方法であればよい。具体的には、ELISA法、RIA法、蛍光抗体法、免疫組織化学法等が挙げられる。なお、これらに使用する抗体は前記一次元電気泳動で使用したものと同一である。
(4)判別工程
検出工程で検出されたアネキシンA5の種類に基づいて、採取した牛の経済形質を判別する工程である。具体的には、アネキシンA5の野生型蛋白質(CaBP33)、そのアイソフォーム(CaBP37)、及びそれらに由来する修飾蛋白質の何れか一方だけが検出された場合(ホモの場合)には採取した牛の平均枝肉重量が大きくなると判別する。反対に、アネキシンA5の野生型蛋白質、及びそのアイソフォームの両方、及びそれらに由来する修飾蛋白質の両方が検出された場合(ヘテロの場合)には、牛の平均枝肉重量が小さくなると判別する。
.判別用キット
抗原抗体反応によるアネキシンA5の野生型蛋白質、アネキシンA5の野生型蛋白質のアイソフォーム、及びそれら蛋白質の修飾蛋白質の検出に必要な抗体や緩衝液等は、市販のものを別々に購入して使用してもよい。しかし、これらを組み合わせて予めキットとしておけば、各構成要素を別々に購入する手間を省き、抗原抗体反応による検出を容易に行うことができる。また、蛋白質の抽出に必要な緩衝液なども併せてキット化しておけば、牛個体の経済形質の判別をより容易に行うことができる。
以下、この発明について実施例に基づいてより詳細に説明するが、以下の実施例によって、この発明の特許請求の範囲は如何なる意味においても制限されるものではない。
1.バイオマーカーとして利用可能な蛋白質の探索
血統・肉質が既に分かっている複数の牛白色脂肪組織サンプルから、全蛋白質(プロテオーム)を抽出して、各個体の肉質などの形質とプロテオームとを相関分析することによって、バイオマーカーとして利用可能な蛋白質を探索した。以下にその詳細を示す。なお、特に記載しない限り、以下の%は体積%を意味する。
(1)蛋白質抽出
牛白色脂肪組織サンプルには、血統、枝肉重量、ロース芯面積、バラの厚さ等の経済形質が判明している飛騨牛個体から採取され、岐阜県畜産試験場に冷凍保存されている白色脂肪組織サンプル約150検体を使用した。
全蛋白質は次のようにして抽出した。まず、脂肪組織1gに抽出溶液(420mg/ml尿素,140.3mg/ml チオ尿素,40mg/ml CHAPS,0.5% IPG緩衝液(IPG Buffer pH 3-11 NL,GEヘルスケア株式会社製),0.05% Tributylphosphin(以下、TBPと省略する。),0.1mg/ml ブロモフェノールブルー(以下、BPBと省略する。)を含む溶液に、蛋白質分解酵素阻害剤(Complete Mini,Roche社製)を販売元説明書の表記に従って添加したもの。)1mlを加えてホモジナイズした。
つぎに、ホモジナイズした懸濁液を遠心分離して沈殿を除去し、その上清を回収してサンプルとした。最後に、プロテインアッセイ(バイオラド社製)と吸光光度計(UV mini 1240,島津製作所社製)を使用して、Bradford-HCl変法(Electrophoresis 1985, 6, 559-563.を参照。)により全蛋白質濃度を測定した。測定の結果、脂肪組織1gから平均3.5mgの蛋白質を抽出したことが分かった。なお、測定では、標準蛋白質としてウシγグロブリンを使用し、595nmの吸光度を測定した。
(2)二次元電気泳動
1)一次元目(等電点電気泳動)
(1)で得たサンプルを膨潤液(420mg/ml尿素, 140.3mg/mlチオ尿素, 40mg/ml CHAPS,0.5% IPG緩衝液(IPG Buffer pH 3-11 NL(GEヘルスケア株式会社製),0.05% TBP,0.1 mg/ml BPBを含む。)に蛋白質濃度が0.375mg/mlとなるように混和・希釈した。サンプルを含む膨潤液400μl(蛋白質150μg)を膨潤トレイ(GEヘルスケア株式会社製)に注入し、その上側からドライストリップゲル(Immobiline DryStrip pH3-11 NL 18cm,GEヘルスケア株式会社製)で覆った。
ドライストリップの乾燥を防ぐため、ドライストリップの上にミネラルオイル(Immobiline DryStrip Cover Fluid,GEヘルスケア株式会社製)を重層するとともに、膨潤トレイにカバーをして6時間以上静置し、ドライストリップを膨潤させた。ドライストリップをMultiphor II(GEヘルスケア株式会社製)にセットして、15℃、26.8kVhで等電点電気泳動した。
2)二次元目(SDS-PAGE)
等電点電気泳動が完了したドライストリップをSDS平衡化緩衝液(a)(6.057mg/ml Tris-HCl(pH8.8), 360.4mg/ml Urea, 30%グリセロール, 20mg/ml SDS, 10mg/ml DTTを含む。)に15分間浸透し、SDS平衡化緩衝液(a)を捨てSDS平衡化緩衝液(b)(6.057mg/ml Tris-HCl(pH8.8),360.4mg/ml Urea,30% グリセロール,20mg/ml SDS,25mg/ml ヨードアセトアミドを含む。)に15分間浸透して平衡化した。平衡化したドライストリップをSDS-PAGEゲル(ゲル濃度10%)の上部に置いた。
スラブ電気泳動叢装置(Tetra-200,アナテック株式会社製)にゲルをセットして、泳動バッファー(3mg/mgトリス,14.4mg/ml グリシン,1mg/ml SDS)を満たし、ゲル一枚につき30mAで4時間、BPBバンドがゲル下端に見えるまで泳動した。
3)染色
電気泳動が完了したゲルをプラスチック容器に移し、ゲルが充分に浸る量の固定液(10%メタノール、7%酢酸水溶液)を加え、室温で約30分間静かに振盪した。固定液を新しいものに交換し、さらに、室温で約30分間静かに振盪した。
プラスチック容器から固定液を捨て、SYPRO Ruby染色液(登録商標、Molecular Probes社製)を加え、プラスチック容器全体を遮光するため、アルミホイルで覆った。プラスチック容器を、室温で約12時間静かに振盪した。
プラスチック容器から染色液を除き、ゲルが充分浸る量の脱色液(10%エタノール)を加え、プラスチック容器全体を遮光するため、アルミホイルで覆った。プラスチック容器を、室温で約30分間静かに振盪し、脱色液を新しいものに交換した。なお、染色したゲルは後述の画像解析に使用するまで、脱色液中で保存した。
(3)画像解析
染色したゲルからゲル画像撮影装置(アルファイメージャー,アルファイノテック社製)を使用して泳動画像を取り込んだ。取り込んだ泳動画像の一部を図1に示すとともに、図1の四角で囲われた部分を拡大したものを図2に示す。なお、泳動画像の下に記載してある英数字は各個体の識別符号である。
取り込んだ画像は、画像解析ソフト(Progenesis TT900, PerkinElmer社製)を使用して画像のゆがみを補正し、他の画像解析ソフト(Progenesis PG220, PerkinElmer社製)を使用して蛋白質スポットの検出、ゲル間(個体間)での蛋白質スポットのマッチング、各スポットの定量、ゲル間での定量値比較を行った。
2.蛋白質の同定
図2の丸で囲んだ蛋白質スポットを含む複数の蛋白質スポット(約350スポット)について、二次元電気泳動して染色したゲルから抽出し、質量分析法を利用して同定した。具体的には、以下の手順で行った。
(1)ゲルからの抽出
ゲルから特定の蛋白質スポットを含む部分をピンセットで切り出し、切り出したゲルを96穴MTPプレートのウェルに入れ、脱色液A(メタノールと100mM炭酸水素アンモニウム水溶液とを等量混合した液)0.1ml中に20分間3回浸した。脱色液Aを除去し、100%アセトニトリル0.1ml中に5分間浸した。アセトニトリルを蒸発させ、ゲルを完全に乾燥させた。乾燥させたゲルに、トリプシン溶液(0.83μg/mlトリプシン(Sequencing grade Trypsin,Promega社製),25mM炭酸水素アンモニウム)30μlを加え、30℃で一晩反応させ、抽出液を得た。
(2)脱塩
マイクロピペットの先端にZipTipμC18ピペットチップ(登録商標,日本ミリポア社製)を取り付け、90%アセトニトリル水溶液を数回ピペッティングしてピペットチップを洗浄したのち、0.1%トリフルオロ酢酸(以下、TFAと省略する。)水溶液を数回ピペッティングしてピペットチップを平衡化した。洗浄・平衡化したピペットチップで抽出液を数回ピペッティングして、抽出液に含まれる蛋白質をピペットチップ中の樹脂に結合させた。このピペットチップで洗浄液(0.1%TFA水溶液)を数回ピペッティングして、ピペットチップに残っている塩分を洗い流した。最後に、このピペットチップからマトリックス溶液(2mg/ml CHCA,0.1%TFA,70%アセトニトリルを含む溶液)1μlで蛋白質を溶出した。
(3)質量分析
蛋白質を含む溶出液1μlをMALDI-TOF/TOF型質量分析計(Applied Biosystems 4700 Proteomics Analyzer,アプライドバイオシステムズ社製)のターゲットプレートに添加し、常温で静置して結晶化させ、MSスペクトルとMS/MSスペクトルを測定した。
3.データ分析
二次元電気泳動の結果により得られた蛋白質スポットの定量値は、プロテオーム解析用実験室情報管理システム(BIOPRISM,日本電気株式会社製)で管理したのち、各形質データ(個体データ、血統データなど7項目、肉質データ22項目)と共にデータベース化し、各データ間の相関を分析した。
また、質量分析によって得られたMSスペクトルとMS/MSスペクトルのデータをMASCOT(Matrix Science社)に入力して、Swiss Prot (http://au.expasy.org/sprot/)やNCBInr (http://au.expasy.org/sprot/)などの公共の蛋白質配列データベースに対して、ペプチドマスフィンガープリント(PMF)分析、MS/MSイオンサーチ分析し、蛋白質の同定を試みた。そして、得られた結果を前記データベースに入力した。
データベースによるデータ分析の結果、pH4.0〜5.0、分子量30〜40kDa付近にある蛋白質スポット、具体的には図2の丸で囲んだ2つの蛋白質スポットA、Bを含む複数の蛋白質スポットが、有用形質の一つである枝肉重量と相関していることが分かった。
また、前記pH4.0〜5.0、分子量30〜40kDa付近にある蛋白質スポットが、アネキシンA5の野生型蛋白質(CaBP33)とそのアイソフォーム(CaBP37)であることが分かった。さらに、図2の丸で囲んだ蛋白質スポットのうち、蛋白質スポットAがアネキシンA5の野生型蛋白質(CaBP33)のアイソフォーム(CaBP37)であり、蛋白質スポットBが野生型蛋白質(CaBP33)であることが分かった。以上の結果に基づいて、アネキシンA5と枝肉重量との相関について、表1及び図3に示す。
Figure 0004722224
表1及び図3から、アネキシンA5の野生型(CaBP33:B)とそのアイソフォームA(CaBP37:A)の何れか一方だけを有する個体(表1中のAホモ、Bホモ)と、野生型とアイソフォームの両方を有する個体(表1中のA,Bヘテロ)とを比較すると、去勢雄牛の平均枝肉重量に約20〜36kgの統計学的に有意な差(t検定,p<0.05)があった。
このことは、脂肪組織に含まれるアネキシンA5の種類を調べることによって、牛の枝肉重量が検定できる可能性を示している。すなわち、アネキシンA5は、牛の枝肉重量を検定する際のバイオマーカーとして使用できる可能性があることを示している。

Claims (4)

  1. (1)牛から体組織を採取する採取工程と、
    (2)採取した体組織から全蛋白質を抽出する抽出工程と、
    (3)抽出した全蛋白質中に含まれるアネキシンA5の野生型蛋白質、アネキシンA5の野生型蛋白質のアイソフォーム、アネキシンA5の野生型蛋白質又はそのアイソフォームの修飾蛋白質を検出する検出工程と、
    (4)検出工程において、アネキシンA5蛋白質の野生型蛋白質、そのアイソフォーム、及びこれらに由来する修飾蛋白質の何れか一方だけが検出されたか、A5蛋白質の野生型蛋白質、そのアイソフォーム、及びこれらに由来する修飾蛋白質の両方が検出されたかに基づいて、体組織を採取した牛の平均枝肉重量が大きいか否かを判別する判別工程と、
    を含む牛の判別方法。
  2. 検出工程において、アネキシンA5の野生型蛋白質、アネキシンA5の野生型蛋白質のアイソフォーム、アネキシンA5の野生型蛋白質又はそのアイソフォームの修飾蛋白質を電気泳動により検出する請求項1に記載の牛の判別方法。
  3. 検出工程において、アネキシンA5の野生型蛋白質、アネキシンA5の野生型蛋白質のアイソフォーム、アネキシンA5の野生型蛋白質又はそのアイソフォームの修飾蛋白質を抗原抗体反応により検出する請求項1に記載の牛の判別方法。
  4. アネキシンA5の野生型蛋白質及びその修飾蛋白質の何れかに特異的に結合する抗体と、
    アネキシンA5の野生型蛋白質のアイソフォーム及びその修飾蛋白質の何れかに特異的に結合する抗体と、
    を含む牛の判別用キット。
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