JP4718771B2 - 本態性振戦の予防・治療剤 - Google Patents

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本発明は、シルニジピンまたはその水和物を有効成分として含有する本態性振戦の予防・治療剤に関する。
本態性振戦は、基礎疾患や器質的な異常、外傷、服薬歴など原因となる因子が存在せず、主に姿勢時と動作時に振戦のみを示す病態である。本態性振戦は40歳以後に発現することが多く、加齢により増悪して一生持続する。また、発症頻度は年齢と共に増加する。本態性振戦の患者数は、潜在患者を含め数百万人とも推定されている。なお、本態性振戦の発症に関し、家族性が認められる場合は常染色体優性遺伝を取ることが多く家族性振戦と呼ばれる。老人に発現した場合は、老人性振戦とも呼ばれる。
アルコールで本態性振戦が軽減することが知られているが、アルコール依存症になる危険性が大きく、治療方法として使用できない。現在、本態性振戦の薬物療法は、長期にわたる対処療法であり、かつ振戦が完全に消失するケースはまれであり、振戦を半減させる程度を目標として行われている。使用される薬剤は、β受容体遮断剤である塩酸アロチノロール、塩酸プロプラノロール、塩酸ソタロール、ナドロール、アテノロールまたは酒石酸メトプロロール等、抗てんかん薬であるクロナゼパムまたはプリミドン等、抗不安薬であるジアゼパム、エチゾラムまたはクエン酸タンドスピロン、あるいはA型ボツリヌス毒素等がある。しかし、これらの薬剤には、必ずしも有効性が十分でない点、長期投与で有効性が暫減するため投与量を増やす必要や多剤併用する必要や薬剤を変更する必要が生じる点、β受容体遮断剤は喘息、徐脈、糖尿病、心不全あるいは褐色性細胞腫等の合併症患者に投与禁忌である点、抗てんかん薬や抗不安薬は緑内障の合併症患者に投与禁忌である点、徐脈、低血圧、めまい、インポテンス、眠気、ふらつき、喘鳴、呼吸抑制、悪心等の副作用発現や薬物依存性がある点、あるいはA型ボツリヌス毒素は毒薬指定医薬品の神経筋伝達阻害剤であり、熟練した医師以外は使用が難しい点等の問題があり、十分満足する予防・治療剤が存在しないのが現状である(非特許文献1参照)。
一方、シルニジピンは、アテレックTM(持田製薬株式会社)の製品名で抗高血圧薬として国内で販売されているジヒドロピリジン骨格を有するカルシウム受容体拮抗剤であるが、これまで本態性振戦に対する作用に関する報告はない。
また、ジヒドロピリジン骨格を有する他のカルシウム受容体拮抗剤の本態性振戦に対する作用に関する報告は極めて少ない。塩酸ニカルジピンについて、本態性振戦に有効とする報告(非特許文献2参照)と、単回投与では有効だが1ヶ月連投では効果なしとする報告(非特許文献3参照)との両報告がある。なお、非特許文献2および3のいずれにおいても、一部の被験者で副作用(頸骨前部浮腫、踝浮腫、動悸)で発生したため、塩酸ニカルジピンの投与を中止している。また、ニモジピンについては本態性振戦に有効とする報告(非特許文献4参照)があるが、本態性振戦の改善が認められたのは、被験者16名のうち8名のみであり、1名の被験者は副作用(頭痛、胸焼け)によりニモジピンの投与を中止している。ニフェジピンについては本態性振戦をむしろ増悪し、しかも健常者および本態性振戦罹患者のどちらにおいても、赤面、頭痛、めまい等の副作用が認められたとの報告(非特許文献5参照)がある。また、ジヒドロピリジン骨格を有しない他のカルシウム受容体拮抗剤においても、フルナリジンは本態性振戦に有効および無効の両報告があり、ベラパミルは無効との報告があり、ジヒドロピリジン骨格の有無を問わずカルシウム受容体拮抗剤が本態性振戦に有効か否かは定まっておらず、また、有効性を予測することはできない状況である(非特許文献6参照)。
今日の治療指針2003、医学書院(日本)、2003年、p.612−613 ジメネス、エフジェー.(Jimenez,FJ.)等、アクタ ニューロロジー(Act Neurology)、(イタリア)、1994年、16巻、p.184−188 グラシア,アールピージェー.(Gracia,RPJ.)等、クリニカル ニューロファーマコロジー(Clinical Neurophamacology)、(米国)、1993年、第16巻、p.456−459 ビアリー,エヌ.(Biary,N.)等、ニューロロジー(Neurology)、(米国)、1995年、第45巻、p.1523−1525 トパクタス,エス.(Topaktas,S.)等、ヨーロピアン、ニューロロジー(Europian Neuroligy)、(スイス)、1987年、第27巻、p.114−119 エラン,ディー.(Elan,D.)等、ニュー イングランド ジャーナル オブ メディスン(New England Journal of Medicine)、(米国)、2001年、p.887−891
本発明の目的は、重大な副作用を伴わず、安全かつ有効性の高い本態性振戦、特に高血圧を合併している本態性振戦の予防・治療剤を提供することにある。
上記目的を達成するため、本発明は、シルニジピンまたはその水和物を有効成分として含有する本態性振戦の予防・治療剤を提供する。
また、本発明は、シルニジピンまたはその水和物の投与量が成人1日当り経口で5mg〜20mgである本態性振戦の予防・治療剤を提供する。
また、本発明は、シルニジピンまたはその水和物を有効成分として含有し、高血圧を合併している本態性振戦を対象疾患とする本態性振戦の予防・治療剤を提供する。該本態性振戦の予防・治療剤は、好ましくは合併している高血圧に対しても治療効果を有する。
また、本発明は、シルニジピンまたはその水和物を有効成分として含有する剤と、アロチノロール、プロプラノロール、ソタロール、ナドロール、アテノロール、メトプロロール、フルナリジン、ニカルジピン、ニモジピン、クロナゼパム、プリミドン、ジアゼパム、エチゾラム、タンドスピロン、およびこれらの酸付加塩、ならびにボツリヌス毒素からなる群から選択された1種以上の薬剤と、を併用する本態性振戦の予防・治療剤を提供する。
本発明の本態性振戦の予防・治療剤は、本態性振戦患者の振戦予防および治療に有用でありかつ安全性が高い。また、本発明の予防・治療剤は、高血圧を合併した本態性振戦患者の振戦予防および治療に有用であり、好ましくは合併している高血圧にも治療効果を有し、かつ安全性が高い。また、本発明の予防・治療剤は、他の本態性振戦に使用される薬剤と併用することにより、他の薬剤の投与量および/または投与頻度を減少させることができ、他の薬剤による副作用が軽減される。さらに、長期的な視点で考えた場合、これら他の薬剤の使用を中止し、本発明の本態性振戦の予防・治療剤のみに移行できると考えられる。
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
本発明者は、本態性振戦患者にシルニジピンを投与したところ、実施例1に示すように振戦が改善されることを見いだし、本発明を完成させた。
本発明の態様は、シルニジピンまたはその水和物を有効成分として含有する本態性振戦の予防・治療剤である。
本発明の予防・治療剤における有効成分の投与量は年齢、性別、病態等により適宜調整できるが、成人1日当り経口で1mg〜200mg、好ましくは3mg〜50mg、更に好ましくは5mg〜20mgである。なお、ここでいう投与量は、シルニジピンまたはその水和物の投与量である。
本発明の予防・治療剤が有効成分とするシルニジピンは、カルシウム受容体拮抗剤でもあり降圧作用を有する。ゆえに、本発明の予防・治療剤の対象疾患の好適例としては、高血圧を合併している本態性振戦が挙げられる。本発明の予防・治療剤は、本態性振戦の予防・治療と同時に、好ましくは合併している高血圧の治療も行うことができる。なお、シルニジピンの降圧作用は緩徐であり反射性の頻脈を起こし難いこと、および臨床用量での降圧作用は高血圧患者では著名であるが正常血圧者では明確でなくごく軽度であることが知られている。したがって、本発明の予防・治療剤は、高血圧を合併している本態性振戦の予防・治療に限定されず、正常血圧者に対する本態性振戦の予防・治療剤としても使用し得る。
また、本発明の予防・治療剤は、本態性振戦に対して治療効果を有するとの報告のある従来の薬剤、すなわち、アロチノロール、プロプラノロール、ソタロール、ナドロール、アテノロール、メトプロロール、フルナリジン、ニカルジピン、ニモジピン、クロナゼパム、プリミドン、ジアゼパム、エチゾラム、タンドスピロン、およびこれらの酸付加塩、ならびにボツリヌス毒素からなる群から選択された1種以上の薬剤と併用することができる。シルニジピンまたはその水和物を有効成分とする本発明の本態性振戦の予防・治療剤と、従来の薬剤と、を併用する場合、上記例示した薬剤の中でも、特に塩酸アロチノロール、塩酸プロプラノロール、アテノロール、クロナゼパム、プリミドン、ジアゼパムおよびエチゾラムからなる群から選択された1種以上の薬剤と併用することが好ましい例として挙げられる。
なお、上記した従来の薬剤は市販品を使用してもよい。国内において、塩酸アロチノロールはアルマールTM(住友製薬株式会社)、塩酸プロプラノロールはインデラルTM(アストラゼネカ株式会社)、アテノロールはテノーミンTM(アストラゼネカ株式会社)、クロナゼパムはランドセンTM(住友製薬株式会社)、プリミドンはマイソリンTM(大日本製薬株式会社)、ジアゼパムはセルシンTM(武田薬品工業株式会社)およびエチゾラムはデパスTM(三菱ウェルファーマ株式会社)としてそれぞれ販売されている。
シルニジピンまたはその水和物を有効成分とする本発明の本態性振戦の予防・治療剤は、上記例示した従来の薬剤に比べ、適用忌避、副作用等の問題が少ないため、単独で使用することが好ましい。但し、従来の薬剤と併用する場合であっても、従来の薬剤の投与量および/または投与頻度を減少させることができ、薬剤投与による副作用が軽減される。さらに、長期的には、従来の薬剤の使用を中止し、本発明の本態性振戦の予防・治療剤のみに移行することができると考えられる。
本明細書において、「シルニジピン」とは、(±)2−メトキシエチル 3−フェニル−2(E)−プロペニル 1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−4−(3−ニトロフェニル)−3,5−ピリジンジカルボキシレートであり、例えば特公平3−14307号に記載の方法により製造することができ、また国内では高血圧治療剤のアテレックTM(持田製薬株式会社)およびシナロングTM(ユーシービージャパン株式会社)として販売されているものから抽出することもできる。
このシルニジピンはラセミ体であり光学活性が存在し、そのいずれの光学活性体を用いることもできる。シルニジピンの光学活性体は、例えば特公平6−43397号に記載の方法により製造することができる。シルニジピンの「水和物」とは、薬理上許容し得る水和物を全て含み、常法に従って製造することができる。以下、特に断りがない限り、「シルニジピン」はシルニジピン、シルニジピンの光学活性体およびこれらの水和物を含むものとして使用する。
本明細書において、「本態性振戦」とは、基礎疾患や器質的な異常、外傷、服薬暦など原因となる因子が存在せず、主に姿勢時と動作時に振戦のみを示す病態であり、家族性に見られる「家族性振戦」および老人に発現する「老人性振戦」を含む。患者自身の自覚症状、および上肢を前方挙上させた姿勢(挙手テスト)や軽くひじを曲げ両指示の先端を近接させた状態を保たせる、あるいは、水の入ったコップを持たせたり(フルカップテスト)、字や渦巻き線を書かせたり(書字テスト)すると5〜12Hzの振戦が増強されることで診断可能である。また、筋電図を記録することでも診断可能である。なお、上記したテストまたは筋電図の記録により、以下に示す本発明の本態性振戦の予防・治療剤の効果を、定量的にかつ経時的に評価することができる。
「予防・治療剤」とは、既に振戦が発現している状態で投与する場合に限らず、過去に振戦が発現し、今後も振戦が発現することが予想される状態で予防的に投与する薬剤を含む。予防・治療は、振戦の完全な消失のみならず、振戦の発現頻度の減少、振戦強度の軽減を含む。
本発明の予防・治療剤は、シルニジピンを化合物(精製の際に不可避的に含まれる他の成分を含む場合もある)単独で投与するか、あるいは、シルニジピンに一般的に用いられる適当な担体または媒体の類、例えば賦形剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、香味剤、必要に応じて滅菌水や植物油、更には無害性有機溶媒あるいは無害性溶解補助剤(たとえばグリセリン、プロピレングリコール)、乳化剤、懸濁化剤(例えばツイーン80、アラビアゴム溶液)、等張化剤、pH調整剤、安定化剤、無痛化剤などと適宜選択組み合わせて適当な医薬用製剤に調製することができる。また、市販の製剤をそのまま投与することもできる。
さらには、本態性振戦に対して治療効果を有するとの報告のある従来の薬剤、具体的には、アロチノロール、プロプラノロール、ソタロール、ナドロール、アテノロール、メトプロロール、フルナリジン、ニカルジピン、ニモジピン、クロナゼパム、プリミドン、ジアゼパム、エチゾラム、タンドスピロン、およびこれらの酸付加塩、ならびにボツリヌス毒素からなる群から選択された1種以上の薬剤と併用することができる。「併用」とは、本発明の予防・治療剤の有効成分であるシルニジピンと上記薬剤とを各々が別個に含有される複数剤とし、この複数剤を同時投与すること、もしくは逐次投与すること、またはこれらを混合して一剤の形で同時投与することを包含する。
製剤の剤形としては、錠剤、固体分散製剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、経口用液体製剤、坐剤、シロップ剤、吸入剤、点眼剤、軟膏、注射剤(乳濁性、懸濁性、非水性)、あるいは用時乳濁または懸濁して用いる固形注射剤の形で、経口、静脈内あるいは動脈内、吸入、点眼、直腸内、膣内または外用を問わず患者に投与することができる。これらの中でも、経口投与または吸入投与が好ましく、経口投与が更に好ましい。
本発明の予防・治療剤の投与量は対象となる作用を現すのに十分な量とされるが、その剤形、投与方法、1日当たりの投与回数、症状の程度、体重、年齢、性別、他剤併用条件等によって適宜増減することができる。
例えば、経口投与する場合には、成人には1mg/日〜200mg/日、好ましくは3mg/日〜50mg/日、更に好ましくは5mg/日〜20mg/日をそれぞれ1回あるいは数回に分割投与することができる。なお、ここでいう投与量は、シルニジピンまたはその水和物の投与量である。
併用剤の投与経路、投与量については、各製剤の添付資料の用法用量に記載された範囲で用いることが好ましいが、本発明の予防・治療剤との併用により、併用剤の数(種類)、投与量および/または投与頻度を減少させることができ、これら併用剤による副作用を軽減することができる。シルニジピンと併用剤との投与割合は、本態性振戦の予防・治療効果を増強する割合であれば良い。いずれの投与方法においても、振戦の改善度をモニターしながら投与量・回数・期間を調節することができる。
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されない。
症例は47歳、男性。35歳時、一過性脳虚血性発作で下半身麻痺を生じ、完全に回復はしたが以後体幹、四肢に本態性振戦を見るようになった。同じ時期より高血圧を生じた。なお、46歳時には褐色細胞腫(両側)の疑いを診断され、ステロイド吸入が有効な喘鳴もある。本態性振戦治療剤として塩酸アテノロール(テノーミンTM)50mg/日およびクロナゼパム(ランドセンTM)5mg/日投与を試みたが、塩酸アテノロールはインポテンツの副作用で1ヶ月後に投与を中止した。以降、クロナゼパム単独で5mg/日投与を2.5ヶ月、更に6mg/日・3分割まで増量して1年間投与したが振戦の改善は十分でなかった。
また、クロナゼパム投与開始1ヶ月後から高血圧治療剤としてアムロジピン(アムロジンTM)10mg/日を1ヶ月間投与し、引き続いて酒石酸メトプロロール(ロプレソールSRTM)120mg/日を7ヶ月間投与したが、血圧コントロールが十分ではなく、シルニジピン(アテレックTM)に切り替えた。シルニジピンは、当初5ヶ月間は10mg/日・1回投与、6ヶ月目より20mg/日・1回投与したところ、血圧は良好にコントロールされ、副作用も認められなかった。
シルニジピン投与後は自覚症状として振戦が改善しており、シルニジピン投与開始6ヶ月後には挙手テストにて振戦が改善していることを確認した。また、シルニジピン投与後は、クロナゼパムの服用量および服用頻度が暫減しており、シルニジピン投与6ヶ月後には、クロナゼパムは毎日服用する必要はなく、精神的緊張が予想される日の前日の眠前から2mg/日・3分割まで減量して服用している。但し、クロナゼパムの必要性に関しては、「不安なのでクロナゼパムを飲んでいるが本当に必要かどうか分からない」とのことである。以上より、シルニジピンが本患者の本態性振戦を改善していると判断された。

Claims (4)

  1. シルニジピンまたはその水和物を有効成分として含有する本態性振戦の予防・治療剤。
  2. 本態性振戦が高血圧を合併している本態性振戦である請求項1に記載の本態性振戦の予防・治療剤。
  3. 前記シルニジピンまたはその水和物を有効成分として含有する剤と、アロチノロール、プロプラノロール、ソタロール、ナドロール、アテノロール、メトプロロール、フルナリジン、ニカルジピン、ニモジピン、クロナゼパム、プリミドン、ジアゼパム、エチゾラム、タンドスピロン、およびこれらの酸付加塩、ならびにボツリヌス毒素からなる群から選択された1種以上の薬剤と、を併用することを特徴とする請求項1または2に記載の本態性振戦の予防・治療剤。
  4. β受容体遮断剤であるアロチノロール、プロプラノロール、ソタロール、ナドロール、アテノロール、メトプロロール、およびこれらの酸付加塩、ならびに抗てんかん薬であるクロナゼパムまたはプリミドンからなる群から選択された1種以上の薬剤の投与により、本態性振戦の症状の改善が認められなかった患者に投与することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の本態性振戦の予防・治療剤。
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