以下、本発明を実施形態に基づいて説明する。
(基本形態1)
図1に、本発明の基本形態の超音波診断装置の一例のブロック構成図を示す。図示のように、超音波探触子(探触子)1を構成する各振動素子は、切替スイッチ2を介して、送波ビームフォーマ(送波BF)3と受波ビームフォーマ(受波BF)10に接続されている。送波ビームフォーマ3は、送受信シークエンス制御部6による制御に従って、送信波形選択部4により選択されて送信波形メモリ5から読み出された波形を用い、各振動素子を通じて送信されたときに指向性を持つ超音波パルスとなるような信号が生成される。この信号が、超音波探触子1の各振動素子により超音波パルスに変換され、図示していない被検体の生体に送信される。生体中で反射あるいは散乱されて超音波探触子1に戻ってきた超音波エコー信号は、各振動素子に受信されて電気信号に変換され、受波信号として切替スイッチ2を介して受波ビームフォーマ10に入力される。
受波ビームフォーマ10は、送受信シークエンス制御部6による制御に従って、指向性を持つ受信感度を生成すべく、各受波信号に遅延時間を与えて互いに加算する。この遅延加算により得られた時系列信号のエコー信号は、やはり送受信シークエンス制御部6による制御に従って、受波メモリ選択部11により選択された受信波形メモリ12中の1つのバンクに一旦書き込まれる。受信波形メモリ12内に、互いに加算すべきエコー信号がそろった後、加算器13により読み出されて、互いに加算される。加算器13の出力信号は、雑音成分を除去する帯域通過フィルタ14を通過した後、包絡線検出器16において包絡線信号に変換され、スキャンコンバータ18に入力される。
一方、受信波形メモリ12に書き込まれたエコー信号の一部は、読み出されたまま、互いに加算されることなく、雑音成分を除去する帯域通過フィルタ15を通過し、包絡線検出器17にて包絡線信号に変換され、スキャンコンバータ18に入力される。スキャンコンバータ18では、入力された複数の信号を適宜重畳して表示部19にて2次元ないし3次元表示すべく、信号の生成および制御を行う。
ここで、送信波形メモリ5には、共通の包絡線信号で振幅変調された超音波の搬送波の位相を120゜ずつ回転させてなる位相が異なる3つの送信パルスの波形が書き込まれている。送信波形選択部4は、そのうち1つを選択して送信するというシークエンスを、波形を変えて3回実行する。これにより、受信波形メモリ12内の各バンクに書き込まれる3つのエコー信号の一例を、図2(a)、(b)、(c)に示す。図2では、簡単のために、送信パルスが生体軟部組織中を伝播した後、1つの点状の反射体により反射されて生ずるエコー信号を、数値計算シミュレーションにより求めて示している。ここで、送信パルスの搬送波周波数は2MHzとした。同図の(d)は、(a)、(b)、(c)に示した3つのエコー信号を加算器13で加算して得られる出力信号である。送信パルスが生体軟部組織中を非線形伝播するため、図2(a)、(b)、(c)には基本波成分だけでなく第2高調波成分も含まれている。しかし、加算器13の出力である図2(d)においては、本発明の原理から予測されるように、基本波成分同士が打ち消し合うだけでなく、第2高調波成分同士も打ち消し合い、信号振幅がほぼゼロとなっている。
ここで、本発明の基本形態1により、基本波成分および非線形伝播に起因する高調波を加算器13の加算によって打ち消される原理について説明する。この原理は、レシプロ4ストローク直列エンジンの振動問題を考えると理解しやすい。クランクシャフトが一定の角速度で回転しているとき、レシプロエンジンを構成する各ピストンが振動する線速度は、この角速度の基本波成分だけでなく、無視できない振幅の高調波成分を含む。4ストローク直列4気筒エンジンは、通常、対称配置された2つの同位相ピストンからなる2つの組が180゜のクランク角をなすように構成される。図3に示すように、4ストローク直列4気筒エンジンは、それぞれの組のピストンが発生する基本波成分は打ち消されるが、第2高調波成分は2倍に成長することになり、結果として、クランクシャフト回転数の2倍の周波数をもつ振動が問題となる。図中実線は、第1のピストンの組による振動の位相を、点線は、第2のピストンの組による振動の位相を示す。クランクシャフトの2倍の角速度で回転するバランサーを装備する4気筒エンジンがあるのは、この振動を打ち消すためである。
これに対して、4ストローク直列6気筒エンジンは、通常、対称配置された2つの同位相ピストンからなる3つの組が120゜のクランク角をなすように構成される。図4に示すように、4ストローク直列6気筒エンジンは、それぞれの組のピストンが発生する基本波成分が、クランク角で数えて120゜をなすよう発生して互いに打ち消しあうのは当然として、第2高調波成分も、クランク角で数えて120°×2=240゜、すなわち逆から数えて120゜をなす位相をもって発生するため、互いに打ち消される。これが、直列6気筒エンジンが振動の少ない所以である。図中一点鎖線は、第3のピストンの組による振動の位相を示す。
つまり、図3の第2高調波振動が原理的に強調される直列4気筒エンジンの構成が、PI法に相当する。そして、図4の基本波だけでなく第2高調波の振動も原理的に打ち消される直列6気筒エンジンの構成が、本発明の原理方法に相当する。ここで、一般的に、Nを3以上の整数とするとき、直列2N気筒エンジンの振動について述べれば、基本波すなわち第1次高調波から第(N−1)次高調波までの振動が原理的に打ち消される。これを本発明の超音波イメージングの場合に置き換えれば、送信パルス波形の包絡線信号を共通とし、搬送波の位相を360゜/Nずつ回転させて、N回の送受信を行って得られるN個のエコー信号を加算することにより、変化の無視できる線形散乱体により散乱されたエコー信号の基本波から第(N−1)次高調波までの成分が同時に打ち消されることになる。
次に、本発明の原理方法と比較するために、図5に、従来のPI法により得られるエコー信号のシミュレーション結果を示す。従来のPI法を実現するには、送信波形メモリ5に、共通の包絡線信号で振幅変調された超音波の搬送波の位相を180゜ずつ回転させてなる位相が異なる2つの送信パルスの波形を書き込む。そして、送信波形選択部4により、それらを交互に選択して送信する。これにより、受信波形メモリ12内の各バンクに書き込まれる2つのエコー信号の一例を、図5(a)、(b)に示す。同図(c)は、そのとき得られる加算器13の出力信号である。図示のように、基本波成分同士は打ち消し合っているが、第2高調波成分同士はむしろ強調し合った結果の信号となっている。この信号は、組織高調波(TH)信号と呼ばれるもので、生体軟部組織を描出するときは、高い音響S/N比が得られるという利点があるが、造影剤の分布や動態だけを軟部組織と峻別して描出したい場合には、それを妨害する最大要因となってしまう。
次に、造影剤を用いて、図2の本発明の原理方法を3パルスで実施した受信エコー信号と、図5の従来のPI法の2パルスで実施した受信エコー信号を、それぞれ図6と図8に示す。それらの図は、一例として、半径1.5μmのマイクロハブルにより散乱されて生ずる受信エコー信号を、数値計算シミュレーションにより求めた結果である。また、図7と図9に、そのときの帯域通過フィルタ14の入出力信号を示す。なお、図6〜図9を通じ、縦軸は音圧に比例する信号振幅を表し尺度は共通であり、横軸は時間(μs)を示している。
図2の3パルス法で実施すると、受信波形メモリ12中の各バンクに書き込まれる信号は、図6(a)、(b)、(c)に示すようになる。このときの加算器13の出力信号、すなわち帯城通過フィルタ14の入力信号は、図6(d)および図7(a)である。図7(b)、(c)、(d)、(e)、(f)は、帯城通過フィルタ14の通過帯域中心周波数を、それぞれ搬送波の基本波周波数(2MHz)、1.5倍高調波周波数(3MHz)、第2高調波周波数(4MHz)、2.5倍高調波周波数(5MHz)、第3高調波周波数(6MHz)に設定したときの出力信号である。
一方、図5のPI法による2パルス法で実施したとき、受信波形メモリ12中の各バンクに書き込まれる信号は、図8(a)、(b)であり、そのとき得られる加算器13の出力信号、すなわち帯域通過フィルタ14の入力信号は、図8(c)および図9(a)である。図9(b)、(c)、(d)、(e)、(f)は、帯域通過フィルタ14の通過帯域中心周波数を、図7と同様に設定したときの帯域通過フィルタ14の出力信号である。
それらの図から明らかなように、元々、エコー信号中の第2高調波成分を強調すべく考案された2パルスのPI法によれば、図9(c)、(d)に示すように、1.5倍高調波から第2高調波成分を多く含む造影剤由来の信号が得られるのは当然である。一方、エコー信号中の第2高調波成分のうち非線形伝播などにより生ずる成分を打ち消すべく考案された本発明に係る3パルス法によれば、図7(d)、(e)、(f)に示すように、第2〜第3高調波成分を多く含む造影剤由来の充分な振幅を有するエコー信号が得られている。これは、注目すべき現象であり、この特異かつ有用な現象は、造影剤のマイクロハブルが強い非線形性を有する共振体であるこに起因するのである。より一般化して言いえば、遅延時間が振幅に依存する応答特性をもつことにある。すなわち、入出力音圧の間に、非線形性があっても遅延応答時間に振幅依存性がなければ、図2(d)に示したように、出力信号中の第2高調波成分は打ち消されてしまう。一方、単なる線形共振体では、第2高調波成分そのものが発生しないので論外である。
(基本形態2)
上述した基本形態1によれば、送信パルスに第2高調波成分を意図的に重畳しても、それを打ち消しながら、造影剤由来の充分な振幅を有するエコー信号が得られるという特長もある。すなわち、文献(IEEE Transactions on Ultrasonics,Ferroelectrics,and Frequency Contro1,vo1 43,no.6,pp.1054-1062)に記載されているように、超音波の送信パルス波形に第2高調波成分を意図的に重畳することにより、生体中または液体中におけるマイクロハブルの振動、成長、圧壊を強調したり、その反対に抑圧したりすることができる。この文献に記載された第2高調波を送信パルスに重畳する技術は、マイクロハブル系の造影剤を用いた超音波イメージングの場合にも有用と考えられる。
本基本形態2は、図1の送信波形メモリ5に格納する送信パルスの波形に第2高調波成分を意図的に重畳した場合の例である。図10〜図12に、第2高調波成分を意図的に重畳した送信パルス波形を用いて、3パルス法により計測されたエコー信号の例を示す。送信波形メモリ5には、共通の包絡線信号で振幅変調された超音波の搬送波である基本波と第2高調波の位相を120゜ずつ回転させてなる位相が異なる3つの送信パルスの波形が書き込まれている。送信波形選択部4は、そのうち1つを選択して送信するというシークエンスを、波形を代えて3回実行する。これにより、受信波形メモリ12内の各バンクに書き込まれる3つの受信エコー信号の一例を、図2の場合と同様に求めて、図10(a)、(b)、(c)に示す。また、そのとき得られる加算器13の出力信号を図10(d)に示す。また、造影剤により散乱されて生ずる受信エコー信号を、図6の場合と同様に求めて、受信波形メモリ12中の各バンクに書き込まれる信号を図11(a)、(b)、(c)に示す。さらに、そのとき得られる加算器13の出力信号、すなわち帯域通過フィルタ14の入力信号を、図11(d)および図12(a)に示す。図12(b)、(c)、(d)、(e)、(f)は、帯域通過フィルタ14の通過帯域中心周波数を図8の場合と同様に設定したときの出力信号である。
図10(d)より明らかなように、送信パルス波形に第2高調波成分を意図的に重畳した場合でも、点反射体により散乱されて生ずる受信エコー信号については、加算器13の入力信号の第2高調波成分同士が、図2の場合の非線形伝播により生ずる第2高調波成分と同様に打ち消し合い、加算器13の出力信号の振幅がほぼゼロとなっている。一方、造影剤により散乱されて生ずる受信エコー信号については、図6の場合と同様に、加算器13による加算によって打ち消されることなく、第2〜第3高調波成分を多く含む充分な振幅を有するエコー信号が得られている。
さらに、送信パルスの位相について、本発明の3パルス法の効果を得るために必要な誤差範囲について検討した結果について説明する。第2回目の送信パルスの位相が20゜ずれた場合について、加算器13の出力信号すなわち帯域通過フィルタ14の入力信号と、通過帯域中心周波数を基本波と第2高調波に合わせた場合のフィルタ出力信号を、図2の場合と同様に求めて、図13(b)、(c)に示す。同図(a)には、比較のために、図5の場合、すなわちPI法を位相誤差なしで実施できた場合の信号を示す。図13(c)は、第2回目の送信パルスの位相ずれ20゜に対応させて、第3回目の送信パルスの位相を10゜ずらして、3つの送信パルスの和信号がゼロになるように調整した場合である。
送信パルスの包絡線信号を時間tの関数としてA(t)とすると、本発明に係る第1回目〜第3回目の送波パルスP1(t)、P2(t)、P3(t)は、位相誤差のないとき、
P1(t)=A(t)sinωt (1)
P2(t)=A(t)sin(ωt+2π/3) (2)
P3(t)=A(t)sin(ωt―2π/3) (3)
と書くことができる。このとき、
P1(t)+P2(t)+P3(t)=0 (4)
の関係が成り立っている。第2回目の送信パルスに位相誤差φを生じたとき、第2回目の送信パルスは、
P2(t)=A(t)sin(ωt+2π/3+φ) (5)
と書くことができる。このとき、第3回目の送信パルスを、
P3(t)=A3(t)sin(ωt―2π/3+φ/2) (6)
A3(t)=2A(t)cos(π/3+φ/2) (7)
と書けるよう調整すれば、位相誤差φにかかわらず、(4)式を成り立たせることができる。図13(c)は、そのような第3回目の送信パルスの補正を行った結果であり、第2回目の送信パルスの位相誤差にもかかわらず、加算器13の出力信号中の基本波成分を打ち消すことができている。(4)式が成立していることにより、一般的には、送信に用いるN個の送信パルス波形の和信号が実質的にゼロであることにより、N個の受信エコー信号を加算して得られる信号中の基本波成分が打ち消される。
図14には、加算器13の出力信号の振幅のピーク・ツウ・ピーク(pp)値を、第2回目の送信パルスに与えた位相誤差の関数として示す。PI法を位相誤差なしで実施できた場合の値で規格化した信号振幅を、第3回目の送信パルスの補正なしの場合を実線(a)で、補正を行った場合を点線(b)で示している。位相誤差が20゜に達すると、第3回目の送信パルスの補正を行っても、軟部組織中の非線形伝播に由来し、造影剤に由来しない信号振幅が、従来のPI法の半分以上となり、本発明の効果が充分に発揮されないことになってしまう。この結果から、本発明の効果を充分に得るには、送信パルスの位相誤差を10゜程度以下とすることが望ましいと結論される。
以上説明したように、本発明の基本形態1、2により、エコー信号の中から、軟部組織中の非線形伝播などに由来する信号成分を含まず、造影用マイクロハブルにのみ由来する信号を抽出することができる。さらに、帯域通過フィルタ14によりノイズが除去されて、S/N比が向上され、包絡線検出器16によりその包絡線信号が得られ、これがマイクロハブル系の造影剤の空間分布を表す信号としてスキャンコンバータ18に入力される。
一方、受信波形メモリ12中の1つのバンクに書き込まれた信号を帯域通過フィルタ15に通してS/N比を向上させた信号から、包絡線検出器17により包絡線信号を得て、これが軟部組織の位置と形態を表す信号としてスキャンコンバータ18に入力される。スキャンコンバータ18では、包絡線検出器17の出力信号を背景とし、これと識別するのに便利なように、異なる色調によって包絡線検出器16の出力信号が重畳されて表示部19に表示される。このようにして、検査対象である患者の体の中における造影剤の分布を、2次元または3次元画像によりわかりやすく表示できる。
上記の基本形態1、2では、軟部組織の位置と形態を表す信号として、受信波形メモリ12中の1つのバンクに書き込まれた信号をそのまま用いる場合について説明したが、一般的には、受信波形メモリ12中の3つのバンクに書き込まれた信号に適切な重みをつけた加算信号を用いることができる。
以上述べたように、本発明によれば、エコー信号の中から、軟部組織中の非線形伝播などに由来する信号成分を含まず、造影用マイクロハブルにのみ由来する信号を抽出し、これを造影用マイクロハブルの空間分布を表す信号として、軟部組織の位置と形態を表す背景上に、識別可能な色調で重畳して、2次元または3次元画像によりわかりやすく表示することができる。これにより、造影エコー像を基に確定診断を行うに足るS/N比の高い診断用画像を提供することが可能となる。このように、本発明を実施した装置の医用診断上の有用性はきわめて大きく、したがって、医用診断を支える工業における本発明の意義も、また、大きい。
(実施形態1)
次に、本発明の原理を利用した本発明の一実施形態について説明する。上述した本発明の基本形態1、2によれば、1枚の2次元画像を得るためにN回の送受信を行わなければならないのでフレームレートが低下する。一方、診断対象の部位によっては、得られるエコー信号の強度が微弱な場合、本発明の原理方法(以下、便宜的に、3パルス法と略称する。)により得られる画像の分解能と、従来のPI法(以下、便宜的に、2パルス法と略称する。)とにより得られる画像の分解能とに差異が生じない場合がある。このような場合は、フレームレートを高くした方が診断効率が優れる。そこで、3パルス法と2パルス法の2種の計測を行う機能を設け、それらの2つの機能を切換えて、いずれか一方の機能により計測可能にする本発明の超音波診断装置の一実施形態を図15に示す。
図15に示すように、本実施形態は、図1に示した基本形態1に係る超音波診断装置に、2パルス法の計測を行う機能を付加するとともに、3パルス法と2パルス法の機能を切換えて、分解能優先またはフレームレート優先を選択できるようにしたことを特徴とする。したがって、送信波形メモリ5には、3パルス法用として共通の包絡線信号で振幅変調された超音波の搬送波の位相を120゜ずつ回転させてなる位相が異なる3つの送信パルスの波形と、2パルス法用として共通の包絡線信号で振幅変調された超音波の搬送波の位相を180゜ずつ回転させてなる位相が異なる2つの送信パルスの波形とが書き込まれている。そして、送信波形選択部4は、送受信シークエンス制御部6の指令に基づいて、3パルス法または2パルス法の送信パルスの波形を選択して送波ビームフォーマ3に出力するようになっている。
また、3パルス法で得られた加算器13の出力は、帯域通過フィルタ14に送る前に、フレームメモリ20に一旦格納されるようになっている。このフレームメモリ20に記録されるデータは、例えば、走査変換して表示画像形式にしたもの、あるいは所謂RF信号を受信ビームに従い一旦記録した後にそれぞれのシーケンスで加算処理した結果を採用できる。RF信号の場合は、実部と虚部を有する複素信号で記録することもできる。
一方、送受信シークエンス制御部6による制御に従って、2パルス法による撮像シーケンスが実行されて得られる2つのエコー信号からなる時系列信号は、受波ビームフォーマ10により処理され、受波メモリ選択部11により選択された受信波形メモリ21中のバンクヘ一旦書き込まれる。受信波形メモリ21に、互いに加算すべき時系列信号がそろった後、加算器22により読み出されて互いに加算される。加算器22により加算された2つのエコー信号は、フレームメモリ23に格納される。このフレームメモリ23に格納されるデータは、フレームメモリ20と同様に構成することができる。
切換器24は、フレームメモリ20とフレームメモリ23に記録された加算器13と加算器22の出力のいずれか一方を、帯域通過フィルタ14に出力するようになっている。比較器25は、フレームメモリ20とフレームメモリ23に記録された加算器13と加算器22の出力を取り込み、3パルス法と2パルス法で得られたエコー信号を比較する。すなわち、フレームメモリ20とフレームメモリ23に記録されたエコー信号の画素ごとにデータ(例えば、輝度)の差を求めて、または比を求めて比較する。この比較結果は、比較結果メモリ26に画素ごとに格納するようになっている。なお、フレームメモリ20、フレームメモリ23および比較結果メモリ26は、同じ番地構成を有し、同じアドレス制御信号を使用することが可能である。判定部27は、比較結果メモリ26の全ての番地もしくは特定の番地に格納されている比較結果を、総合的に判定するようになっている。例えば、特定の番地の比較結果に差があっても、他の大部分の比較結果に差がなければ、全体としては差がないと判断するようになっている。この判定基準の詳細については、後述する。
判定部27は、その判定結果を送波選択制御部28に出力するとともに、切換器24を判定結果に基づいて切り換えるようになっている。送波選択制御部28は、判定部27から出力される判定結果に基づいて、3パルス法または2パルス法を選択して、送受信シークエンス制御部6に指令を送り、選択したシークエンスにより超音波診断装置を動作させるようになっている。また、その選択に合わせて、受信波形メモリ12、加算器13、フレームメモリ20、受信波形メモリ21、加算器22、フレームメモリ23、比較器25、比較結果メモリ26、および判定部27を制御するようになっている。
このように構成される実施形態の動作について、図16〜図18に示したフローチャートを参照して説明する。まず、送波選択制御部28は、送受信シークエンス制御部6に、3パルス法による計測を行って画像を得る指令を出力する(S1)。送受信シークエンス制御部6は、送信波形選択部4に対し送信波形メモリ5から3パルス用の送信パルスの波形を選択して出力するように指令する(S2)。送信ビームフォーマ3は、送受信シークエンス制御部6の指令に従い、送信波形選択部4から出力される3つの送信パルスを120°位相差で、切替スイッチ2を介して探触子1に順次送信する(S3)。受信ビームフォーマ10は、送受信シークエンス制御部6の指令に従い、切替スイッチ2を介して探触子1から入力されるエコー信号を取り込んで、周知の受信処理および整相加算処理を行って受波メモリ選択部11に出力する(S4)。受波メモリ選択部11は、3パルスに対応する3つのエコー信号を選択して、それぞれ受信波形メモリ12の対応するバンクに記録する(S5)。加算器13は、受信波形メモリ12に記録されている3パルスに対応した3つのエコー信号を加算し、その加算結果をフレームメモリ20に格納する(S6)。
次に、図17に示すように、送波選択制御部28は、送受信シークエンス制御部6に、2パルス法による計測を行って画像を得る指令を出力する(S11)。送受信シークエンス制御部6は、送信波形選択部4に対し送信波形メモリ5から2パルス用の送信パルスの波形を選択して出力するように指令する(S12)。送信ビームフォーマ3は、送受信シークエンス制御部6の指令に従い、送信波形選択部4から出力される2つの送信パルスを180°位相差で、切替スイッチ2を介して探触子1に順次送信する(S13)。受信ビームフォーマ10は、送受信シークエンス制御部6の指令に従い、切替スイッチ2を介して探触子1から入力されるエコー信号を取り込んで、周知の受信処理および整相加算処理を行って受波メモリ選択部11に出力する(S14)。受波メモリ選択部11は、2パルスに対応する2つのエコー信号を選択して、それぞれ受信波形メモリ21の対応するバンクに記録する(S15)。加算器22は、受信波形メモリ21に記録されている2パルスに対応した2つのエコー信号を加算し、その加算結果をフレームメモリ23に格納する(S16)。
比較器25は、フレームメモリ20とフレームメモリ23にそれぞれ格納されたエコー信号の加算結果を比較して、その結果を比較結果メモリ26に格納する(S21)。例えば、比較器25は、画像の輝度に相関する3パルス法と2パルス法のエコー信号の振幅を比較することができる。また、その比較結果は、それらの振幅の差、または振幅の比とすることができる。判定部27は、比較結果メモリ26に格納された比較結果に基づいて、総合的に判定して、判定結果を切換器24と送波選択制御部28に出力する(S22)。ここで、判定部27は、比較結果メモリ26のメモリ番地に格納された比較結果の全ての結果に基づいて、あるいは特定の番地に格納された比較結果を、総合的に判断して、3パルス法のエコー信号の振幅が2パルス法のエコー信号の振幅よりも振幅の差が設定値より大きいか否か判断する。この設定値は、キーボード等の操作卓から入力設定可能である。そして、3パルス法により得られるエコー信号が、2パルス法により得られるエコー信号の振幅よりも十分に大きいと認められる場合は、3パルス法による計測が有効であることから、その旨の判定結果を出力する。これに対して、3パルス法と2パルス法で差がないと認められる場合は、フレームレートを高くすることが好ましいことから、2パルス法による計測をすべきである旨の判定結果を出力する。切換器24は、判定結果に従って、フレームメモリ20またはフレームメモリ23の格納されているエコー信号を帯域通過フィルタ14に転送する(S23)。帯域通過フィルタ14は、入力されるエコー信号をフィルタ処理して包絡線検出器16に出力する(S24)。包絡線検出器16は、入力されるエコー信号の包絡線信号を検出し、検出した包絡線信号をスキャンコンバータ18に出力する(S25)。スキャンコンバータ18は、入力される包絡線信号を一旦記録した後、画像データに変換して表示部19に出力する(S26)。表示部19は、入力される画像データを表示画面に表示する。
なお、本実施形態においても、基本形態1、2で説明したように、3パルス法または2パルス法による計測以外に、通常のBモード像計測を行い、そのエコー信号を帯域通過フィルタ15および包絡線検出器17によって処理し、これにより得られる画像データに、スキャンコンバータ18において3パルス法または2パルス法によって計測された造影画像データを組み合わせて、表示器19に表示させるようにすることができる。
また、本実施形態では、3パルス法と2パルス法の切り換えを、比較器25と判定部27により自動的に行うようにしたが、本発明はこれに限らず、次に述べるように種々変形することができる。例えば、診断部位、診断深度、使用周波数等の条件に応じ、用手法により検査者の意思に基づいて切り替えることができる。また、それらの条件に応じて、予め設定した手順により切り替えるようにすることもできる。
また、上記の判定部27における判断において、深度方向あるいはビーム走査方向などの条件に応じて、比較対象の物理量に重みをつけて総合判定することもできる。さらに、経時的な複数の画像に基づいて評価を行うことも加えることができる。
さらに、3パルス法と2パルス法の計測結果に基づいて切り替える方法に代えて、送波パルスの音圧に応じて3パルス法と2パルス法を切り替えるようにすることができる。つまり、図2で説明したように、音圧に比例した振幅信号が十分に大きい場合は、3パルス法による3つのエコー信号を加算すると、基本波成分が消滅してノイズの少ない造影画像が得られる。この造影画像は、図5で説明した2パルス法の造影画像よりもノイズが少ない。しかし、音圧が低い場合は、両者の造影画像の分解能に差がなくなることが考えられる。造影画像の画質に差がなければ、フレームレートの高い2パルス法が診断効率に優れる。そこで、エコー信号の強度を監視して、強度が設定値より大きいときには3パルス法に切り替え、強度が設定値より低下した場合は2パルス法に切り替えるようにすることができる。この設定値も、操作卓から入力可能である。
以上説明したように、本実施形態によれば、造影剤を用いて画質に優れた造影画像を得ることができる3パルス法と、フレームレートが高い2パルス法の両方の計測機能を備えていることから、診断の狙いに応じてそれらを使い分けることができ、使い勝手に優れた超音波診断装置を実現できる。
(実施形態2)
実施形態1の3パルス法のフレームレートを改善する一実施形態の超音波診断装置の構成を図19および図20に示す。本実施形態の特徴は、共通の包絡線信号で振幅変調された超音波の搬送波の位相を60゜ずつ回転させてなる位相が異なる6種類の送信パルスを繰り返し送信する。そして、送信パルスに合わせて6種類のエコー信号を受信波形メモリに保持するとともに、次に同一位相のエコー信号を受信したときに上書きするようにする。その結果、受信波形メモリには、常に、位相が60゜ずつ異なる6種類のエコー信号が保持されることになる。
そこで、受信波形メモリから位相が120°ずつ異なる3種類のエコー信号を読み出して加算処理することにより、3パルス法の造影画像が得られる。この読み出す3種類のエコー信号の組を、送信パルスの間隔ごとに、位相を60°ずつずらしながら実行すると、送信パルスの送信間隔と同じ間隔で、3パルス法による1フレームの造影画像が得られる。したがって、フレームレートを下げることなく、通常のBモード像のフレームレートにより3パルス法の造影画像を得ることができる。
以下、図を用いて、詳細に説明する。図19に示すように、本実施形態は、図1の実施形態の受波メモリ選択部11と帯域通過フィルタ14、15との間に、画像データ収集部30を設け、この画像データ収集部30を図20に示すように構成したことを特徴とする。また、送信波形選択部4、送信波形メモリ5および送受信シークエンス制御部6の機能構成が相違する。すなわち、送信波形メモリ5には、共通の包絡線信号で振幅変調された超音波の搬送波の位相が60゜ずつ異なる6種類(0°、60°、120°、180°、240°、300°)の送信パルスが格納されている。送信波形選択部4は、送受信シークエンス制御部6の指令に基づいて、6種類の送信パルスを繰り返し選択して送信するように構成されている。
一方、画像データ収集部30は、図20に示すように、6種類の送信パルスに対応するエコー信号をそれぞれ記憶する6つの受信波形メモリ31a〜31fを備えて構成されている。これらの受信波形メモリ31a〜31fに格納されているエコー信号a〜fは、エコー信号選択部32により読み出し可能に形成されている。エコー信号選択部32は、6種類のエコー信号a〜fを取り込み、位相が120°ずつ異なる3つのエコー信号を選択するように構成されている。これにより選択されたれた3つのエコー信号は加算器33において加算される。なお、受信波形メモリ31a〜31f、エコー信号選択部32および加算器33は、エコー信号選択制御部34により制御されるようになっている。
まず、エコー信号選択制御部34は、送受信シークエンス制御部6の指令に基づいて、超音波の送受信タイミングに合わせて、受波メモリ選択部11から出力されるエコー信号を格納する受信波形メモリ31a〜31fを順次切り替える。また、その切り替えに合わせて、エコー信号選択制御部34は、エコー信号選択部32に6種類のエコー信号a〜fを取り込ませるとともに、位相が120°ずつ異なる3種類のエコー信号を選択させる。つまり、エコー信号選択部32は、6種類のエコー信号a〜fから組合せが異なる3種類のエコー信号を選択する機能を有する。例えば、ある送受信タイミングにて、エコー信号(a、c、e)を選択する。次の送受信タイミングにて、エコー信号(b、d、f)を選択する。さらに次の送受信タイミングにて、エコー信号(c、e、a)を選択する。
エコー信号選択部32により選択された120°ずつ位相が異なるエコー信号は、加算器33にて加算されて、図2で説明したように基本波成分等が打ち消されたエコー信号が得られる。この加算器33の出力を、図19の帯域通過フィルタ14に出力することにより、3パルス法の造影画像を得ることができる。
以上説明したように、本実施形態によれば、通常のBモード像のフレームレートにより、画質に優れた3パルス法の造影画像を得ることができる。
(実施形態3)
図21に、画像データ収集部30の他の実施形態の構成図を示す。本実施形態は、3パルス法と2パルス法の造影画像データを同時に収集することができる実施形態である。本実施形態が図19および図20に示した実施形態2と異なる点は、画像データ収集部30の構成にある。つまり、図21に示すように、3パルス法用のエコー信号選択部32に並列に2パルス法用のエコー信号選択部35が設けられ、これに合わせて加算器36が設けられ、さらに加算器33と加算器36の出力を取り込み、相関処理を行って造影画像データを生成する相関処理部37が設けられていることにある。
ここで、3パルス法用のエコー信号選択部32と加算器33の構成および動作は図20によって説明したのと同様である。エコー信号選択部35は、6種類のエコー信号a〜fを取り込み、位相が180°ずつ異なる2つのエコー信号を選択するように構成されている。これにより選択された2つのエコー信号は加算器36において加算される。また、エコー信号選択部35および加算器36は、エコー信号選択制御部34により制御されるようになっている。
本実施形態の動作を説明する。まず、エコー信号選択制御部34は、送受信シークエンス制御部6の指令に基づいて、超音波の送受信タイミングに合わせて、受波メモリ選択部11から出力されるエコー信号を格納する受信波形メモリ31a〜31fを順次切り替える。エコー信号選択部32は、実施形態2で説明したと同様に、エコー信号選択制御部34の指令に従って、超音波の送受信タイミングに合わせて、6種類のエコー信号a〜fから位相が120°ずつ異なる3種類のエコー信号を選択する。一方、エコー信号選択部35は、エコー信号選択制御部34の指令に従って、6種類のエコー信号a〜fから位相が180°異なる2種類のエコー信号を選択する機能を有する。例えば、ある送受信タイミングにて、エコー信号(a、d)を選択する。次の送受信タイミングにて、エコー信号(b、e)を選択する。さらに次の送受信タイミングにて、エコー信号(c、f)を選択する。そして、この選択動作を繰り返す。エコー信号選択部35により選択された180°ずつ位相が異なるエコー信号は、加算器36にて加算されて、図5で説明したように、基本波成分同士は打ち消し合い、第2高調波成分同士が強調し合ったエコー信号が得られる。
このようにして、超音波の送受信タイミングのたびに、加算器33と加算器36から、3パルス法および2パルス法のエコー信号(造影画像データ)が同時に得られる。これらの3パルス法および2パルス法の造影画像データは、相関処理部37に入力される。相関処理部37は、3パルス法と2パルス法のどちらの造影画像を表示部に表示させるかを判定する。この判定基準は、実施形態1で説明した判定部27の判定基準を適用することができる。この場合に、両者の造影画像の画素ごとに判定し、画素ごとに切換えて3パルス法と2パルス法の造影画像が混在した1フレームの造影画像を生成することもできる。このようにして相関処理部37から出力される造影画像データは帯域通過フィルタ14に入力され、包絡線検出器16とスキャンコンバータ18にて処理された後、表示部19にて画像表示される。
なお、相関処理部37に代えて、単なる切換器とし、用手法的にいずれかの造影画像を選択して切り替えることも可能である。また、実施形態1で説明したように、診断部位、診断深度、使用周波数等の条件に応じて切り替えることができる。さらに、それらの条件に応じて、予め設定した手順により切り替えるようにすることもできる。また、相関処理部37は、深度方向あるいはビーム走査方向などの条件に応じて、比較対象の物理量に重みをつけて総合判定することもできる。さらに、経時的な複数の画像に基づいて評価を行うことも加えることができる。
また、相関処理部37を省略し、帯域通過フィルタと包絡線検出器を1系列増やして、表示部19に3パルス法と2パルス法の造影画像を個別に表示することもできる。