以下、添付図面を参照して、実施形態に係る超音波装置について説明する。
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成について説明する。図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成例を示すブロック図である。図1に例示するように、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、超音波プローブ1と、モニタ2と、入力装置3と、装置本体10とを有する。
超音波プローブ1は、複数の圧電振動子を有し、これら複数の圧電振動子は、後述する装置本体10が有する送信部9から供給される駆動信号に基づき超音波を発生する。また、超音波プローブ1が有する複数の圧電振動子は、被検体Pからの反射波を受信して電気信号(反射波信号)に変換する。また、超音波プローブ1は、圧電振動子に設けられる整合層と、圧電振動子から後方への超音波の伝播を防止するバッキング材等を有する。なお、超音波プローブ1は、装置本体10と着脱自在に接続される。
超音波プローブ1から被検体Pに超音波が送信されると、送信された超音波は、被検体Pの体内組織における音響インピーダンスの不連続面で次々と反射され、反射波として超音波プローブ1が有する複数の圧電振動子にて受信され、反射波信号に変換される。反射波信号の振幅は、超音波が反射される不連続面における音響インピーダンスの差に依存する。なお、送信された超音波パルスが、移動している血流や心臓壁等の表面で反射された場合、反射波信号は、ドプラ効果により、移動体の超音波送信方向に対する速度成分に依存して、周波数偏移を受ける。
なお、第1の実施形態は、超音波プローブ1が、被検体Pを2次元で走査する1Dアレイプローブであっても、被検体Pを3次元で走査するメカニカル4Dプローブや2Dアレイプローブであっても適用可能である。
入力装置3は、マウス、キーボード、ボタン、パネルスイッチ、タッチコマンドスクリーン、フットスイッチ、トラックボール、ジョイスティック等を有する。入力装置3は、超音波診断装置の操作者からの各種設定要求を受け付け、受け付けた各種設定要求を装置本体10へ転送する。
モニタ2は、超音波診断装置の操作者が入力装置3を用いて各種設定要求を入力するためのGUI(Graphical User Interface)を表示したり、装置本体10において生成された超音波画像データ等を表示したりする。
装置本体10は、超音波プローブ1から受信した反射波信号に基づいて超音波画像データを生成する装置である。図1に示す装置本体10は、2次元の反射波信号に基づいて2次元の超音波画像データを生成可能であり、3次元の反射波信号に基づいて3次元の超音波画像データを生成可能な装置である。ただし、第1の実施形態は、装置本体10が、2次元データ専用の装置である場合であっても適用可能である。
装置本体10は、図1に例示するように、送信部9と、受信部11と、抽出部20と、信号処理部12と、画像生成部13と、画像メモリ14と、内部記憶部15と、制御部16とを有する。
送信部9及び受信部11は、後述する制御部16の指示に基づいて、超音波プローブ1が行なう超音波送受信を制御する。送信部9は、パルス発生器、送信遅延部、パルサ等を有し、超音波プローブ1に駆動信号を供給する。パルス発生器は、所定のパルス繰り返し周波数(PRF:Pulse Repetition Frequency)で、送信超音波を形成するためのレートパルスを繰り返し発生する。また、送信遅延部は、超音波プローブ1から発生される超音波をビーム状に集束し、かつ送信指向性を決定するために必要な圧電振動子ごとの遅延時間を、パルス発生器が発生する各レートパルスに対し与える。また、パルサは、レートパルスに基づくタイミングで、超音波プローブ1に駆動信号(駆動パルス)を印加する。
すなわち、送信遅延部は、各レートパルスに対し与える遅延時間を変化させることで、圧電振動子面から送信される超音波の送信方向を任意に調整する。また、送信遅延部は、各レートパルスに対し与える遅延時間を変化させることで、超音波送信の深さ方向における集束点(送信フォーカス)の位置を制御する。
なお、送信部9は、後述する制御部16の指示に基づいて、所定のスキャンシーケンスを実行するために、送信周波数、送信駆動電圧等を瞬時に変更可能な機能を有している。特に、送信駆動電圧の変更は、瞬間にその値を切り替え可能なリニアアンプ型の発信回路、又は、複数の電源ユニットを電気的に切り替える機構によって実現される。
また、受信部11は、アンプ回路、A/D(Analog/Digital)変換器、受信遅延回路、加算器、直交検波回路等を有し、超音波プローブ1から受信した反射波信号に対して各種処理を行って受信信号(反射波データ)を生成する。アンプ回路は、反射波信号をチャンネル毎に増幅してゲイン補正処理を行う。A/D変換器は、ゲイン補正された反射波信号をA/D変換する。受信遅延回路は、デジタルデータに受信指向性を決定するのに必要な受信遅延時間を与える。加算器は、受信遅延回路により受信遅延時間が与えられた反射波信号の加算処理を行う。加算器の加算処理により、反射波信号の受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調される。そして、直交検波回路は、加算器の出力信号をベースバンド帯域の同相信号(I信号、I:In-phase)と直交信号(Q信号、Q:Quadrature-phase)とに変換する。そして、直交検波回路は、I信号及びQ信号(以下、IQ信号と記載する)を受信信号(反射波データ)として抽出部20又は信号処理部12に送信する。なお、直交検波回路は、加算器の出力信号を、RF(Radio Frequency)信号に変換した上で、抽出部20又は信号処理部12に送信しても良い。IQ信号及びRF信号は、位相情報を有する受信信号となる。
送信部9は、被検体P内の2次元領域を走査する場合、超音波プローブ1から2次元領域を走査するための超音波ビームを送信させる。そして、受信部11は、超音波プローブ1から受信した2次元の反射波信号から2次元の受信信号を生成する。また、送信部9は、被検体P内の3次元領域を走査する場合、超音波プローブ1から3次元領域を走査するための超音波ビームを送信させる。そして、受信部11は、超音波プローブ1から受信した3次元の反射波信号から3次元の受信信号を生成する。受信部11は、反射波信号を基に、受信信号を生成し、生成した受信信号を、抽出部20又は信号処理部12に送信する。
送信部9は、超音波プローブ1に、所定の送信位置(送信走査線)から、超音波ビームを送信させる。受信部11は、超音波プローブ1から、所定の受信位置(受信走査線)において、送信部9が送信した超音波ビームの反射波による信号を受信する。並列同時受信を行わない場合、送信走査線と受信走査線は同一の走査線になる。一方、並列同時受信を行う場合には、送信部9が1回の超音波ビームを1つの送信走査線で超音波プローブ1に送信させると、受信部11は、送信部9が超音波プローブ1に送信させた超音波ビームに由来する反射波による信号を、複数本の受信ビームとして複数の所定の受信位置(受信走査線)で超音波プローブ1を通じて同時に受信する。
抽出部20は、高調波イメージングのために設けられた処理部である。抽出部20は、高調波イメージング用のスキャンシーケンスにより受信部11が生成した同一走査線の複数の受信信号に対して各種処理を行って、所定の次数の高調波成分、或いは所定の高調波成分の組み合わせを抽出し、抽出したデータを信号処理部12に受け渡す。なお、抽出部20が行なう処理については、後に詳述する。
信号処理部12は、受信部11が生成した受信信号又は抽出部20が抽出したデータに対して、各種の信号処理を行なう処理部である。信号処理部12は、図1に示すように、Bモード処理部121及びドプラ処理部122を有する。Bモード処理部121は、受信部11又は抽出部20からデータを受信し、対数増幅処理、包絡線検波処理、対数圧縮処理等を行なって、信号強度が輝度(Brightness)の明るさで表現されるデータ(Bモードデータ)を生成する。また、ドプラ処理部122は、受信部11から受信した受信信号(反射波データ)から速度情報を周波数解析し、ドプラ効果による速度、分散、パワー等の移動体情報を多点について抽出したデータ(ドプラデータ)を生成する。ここで、移動体とは、例えば、血流や心壁等の組織、造影剤である。Bモード処理部121やドプラ処理部122は、上述したフレームバッファを介して受信信号(反射波データ)を取得する。
なお、図1に例示するBモード処理部121及びドプラ処理部122は、2次元の反射波データ及び3次元の反射波データの両方について処理可能である。すなわち、Bモード処理部121は、2次元の反射波データから2次元のBモードデータを生成し、3次元の反射波データから3次元のBモードデータを生成する。また、ドプラ処理部122は、2次元の反射波データから2次元のドプラデータを生成し、3次元の反射波データから3次元のドプラデータを生成する。
画像生成部13は、信号処理部12(Bモード処理部121及びドプラ処理部122)が生成したデータから超音波画像データを生成する。画像生成部13は、Bモード処理部121が生成した2次元のBモードデータから反射波の強度を輝度で表した2次元Bモード画像データを生成する。また、画像生成部13は、ドプラ処理部122が生成した2次元のドプラデータから移動体情報を表す2次元ドプラ画像データを生成する。2次元ドプラ画像データは、速度画像データ、分散画像データ、パワー画像データ、又は、これらを組み合わせた画像データである。ここで、画像生成部13は、一般的には、超音波走査の走査線信号列を、テレビ等に代表されるビデオフォーマットの走査線信号列に変換(スキャンコンバート)し、表示用の超音波画像データを生成する。具体的には、画像生成部13は、超音波プローブ1による超音波の走査形態に応じて座標変換を行なうことで、表示用の超音波画像データを生成する。
また、画像生成部13は、スキャンコンバート以外に、種々の画像処理として、例えば、スキャンコンバート後の複数の画像フレームを用いて、輝度の平均値画像を再生成する画像処理(平滑化処理)や、画像内で微分フィルタを用いる画像処理(エッジ強調処理)等を行なう。また、画像生成部13は、超音波画像データに、種々のパラメータの文字情報、目盛り、ボディーマーク等を合成する。
Bモードデータ及びドプラデータは、スキャンコンバート処理前の超音波画像データであり、画像生成部13が生成するデータは、スキャンコンバート処理後の表示用の超音波画像データである。画像生成部13は、スキャンコンバート処理前の2次元超音波画像データから、表示用の2次元超音波画像データを生成する。
更に、画像生成部13は、Bモード処理部121が生成した3次元のBモードデータに対して座標変換を行なうことで、3次元Bモード画像データを生成する。また、画像生成部13は、ドプラ処理部122が生成した3次元のドプラデータに対して座標変換を行なうことで、3次元ドプラ画像データを生成する。画像生成部13は、「3次元のBモード画像データや3次元ドプラ画像データ」を「3次元超音波画像データ(ボリュームデータ)」として生成する。
更に、画像生成部13は、ボリュームデータをモニタ2にて表示するための2次元画像データを生成するために、ボリュームデータに対して各種レンダリング処理を行なう。画像生成部13が行なうレンダリング処理としては、例えば、断面再構成法(MPR:Multi Planer Reconstruction)を行なってボリュームデータからMPR画像データを生成する処理がある。また、画像生成部13が行なうレンダリング処理としては、例えば、3次元の情報を反映した2次元画像データを生成するボリュームレンダリング(VR:Volume Rendering)処理がある。
画像メモリ14は、画像生成部13が生成した表示用の画像データを記憶するメモリである。また、画像メモリ14は、Bモード処理部121やドプラ処理部122が生成したデータを記憶することも可能である。画像メモリ14が記憶するBモードデータやドプラデータは、例えば、診断の後に操作者が呼び出すことが可能となっており、画像生成部13を経由して表示用の超音波画像データとなる。また、画像メモリ14は、受信部11が出力した受信信号(反射波データ)を記憶することも可能である。
内部記憶部15は、超音波送受信、画像処理及び表示処理を行なうための制御プログラムや、診断情報(例えば、患者ID、医師の所見等)や、診断プロトコルや各種ボディーマーク等の各種データを記憶する。また、内部記憶部15は、必要に応じて、画像メモリ14が記憶する画像データの保管等にも使用される。また、内部記憶部15が記憶するデータは、図示しないインターフェースを経由して、外部装置へ転送することができる。また、内部記憶部15は、外部装置から図示しないインターフェースを経由して転送されたデータを記憶することも可能である。
制御部16は、超音波診断装置の処理全体を制御する。具体的には、制御部16は、入力装置3を介して操作者から入力された各種設定要求や、内部記憶部15から読込んだ各種制御プログラム及び各種データに基づき、送信部9、受信部11、信号処理部12(Bモード処理部121及びドプラ処理部122)及び画像生成部13の処理を制御する。また、制御部16は、画像メモリ14や内部記憶部15が記憶する表示用の超音波画像データをモニタ2にて表示するように制御する。
なお、装置本体10に内蔵される送信部9、受信部11等は、集積回路等のハードウェアで構成されることもあるが、ソフトウェア的にモジュール化されたプログラムである場合もある。
以上、第1の実施形態に係る超音波診断装置の全体構成について説明した。かかる構成のもと、第1の実施形態に係る送信部9と、受信部11と、抽出部20とは、以下の処理を行う。なお、第1の実施形態では、送信する超音波は、単一の中心周波数成分を有する。送信部9は、送信する超音波に含まれる中心周波数成分の位相が各送信で異なる3回以上の超音波送信を超音波プローブ1に実行させる。受信部11は、3回以上の超音波送信によって得られた複数の反射波信号を基に、共通の受信走査線に関する3以上の受信信号を生成する。抽出部20は、3以上の受信信号のうち2以上の受信信号に対して位相回転処理を含む処理を実行することで、受信信号に含まれる所定の次数の高調波成分(より一般には、第1の非線形成分)を抽出する。
具体的には、送信部9は、送信する超音波の位相(超音波に含まれる単一の中心周波数の位相)がそれぞれ互いに等しい角度だけ異なる3回以上の超音波送信を超音波プローブに実行させ、抽出部20は、3以上の受信信号のうち2以上の受信信号に対して、当該等しい角度の整数倍の角度だけ位相を回転させる位相回転処理を行うことで、所定の次数の高調波成分を抽出する。ここで、例えば、送信部9は、共通の包絡線で3回以上の超音波送信を超音波プローブに実行させる。また、例えば、送信部9は、送信毎に超音波の位相を変調させて、3回以上の超音波送信を超音波プローブに実行させる。
また、抽出部20は、更に、3以上の受信信号を用いて、3以上の受信信号に含まれ、第1の非線形成分とは種類が異なる第2の非線形成分を抽出する、具体的には、抽出部20は、更に、3以上の受信信号に対して位相回転処理を含まない処理を行うことで、所定の次数とは異なる次数の高調波成分(より一般には、第1の非線形成分とは種類が異なる第2の非線形成分)を抽出する。すなわち、抽出部20は、所定の次数の高調波成分として2次高調波成分を抽出し、所定の次数とは異なる次数の高調波成分として3次高調波成分を抽出する。
そのような構成の一例として、第1の実施形態では、送信部9は、送信する超音波の位相(送信する超音波に含まれる中心周波数成分の位相)が互いに120度異なる3回の超音波送信を超音波プローブに実行させ、受信部11は、3回の超音波送信によって得られた複数の反射波信号を基に、共通の受信走査線に関する3つの受信信号を生成する。抽出部20は、3つの受信信号のうち2以上の受信信号に対して位相回転処理を含む処理を実行することで、2次高調波成分を抽出し、3つの受信信号を加算して、3次高調波成分を抽出する。例えば、送信部9は、第1の位相の超音波送信と、第1の位相から位相を120度進ませた第2の位相の超音波送信と、第1の位相から位相を240度進ませた第3の位相の超音波送信とを超音波プローブに実行させる。換言すると、送信部9は、第1の位相の単一の中心周波数成分を有する第1の超音波の送信と、第1の位相から位相が実質的に120度進んだ第2の位相の単一の中心周波数成分を有する第2の超音波の送信と、第1の位相から位相が実質的に240度進んだ第3の位相の単一の中心周波数成分を有する第3の超音波の送信とを超音波プローブに実行させる。ここで、「実質的に」とは、(1)誤差を許容する意味(2)負の方向に位相を進めることを許容する意味(例えば、第1の位相の第1の超音波の送信と、第1の位相から120度遅れた第2の位相の第2の超音波の送信と、第1の位相から位相が240度遅れた第3の超音波の送信を超音波プローブに実行される場合を含む。)(3)N度の位相回転とN+360度の位相回転を同一視することを許容する意味(例えば、120度の位相回転と、480度の位相回転、−240度の位相回転を許容する意味)のいずれをも含む。
そして、例えば、受信部11は、第1の位相の超音波送信に対応する第1の受信信号と、第2の位相の超音波送信に対応する第2の受信信号と、第3の位相の超音波送信に対応する第3の受信信号とを生成し、抽出部20は、第1の受信信号と、第2の受信信号の位相を120度進ませた信号と、第3の受信信号の位相を240度進ませた信号とを加算して、2次高調波成分を抽出し、第1の受信信号と第2の受信信号と第3の受信信号を加算して、3次高調波成分を抽出する。換言すると、抽出部20は、2次高調波成分の位相が実質的に揃っている第1の受信信号と、第2の受信信号と、第3の受信信号とを加算して、2次高調波成分を抽出し、3次高調波成分の位相が実質的に揃っている第1の受信信号と、第2の受信信号と、第3の受信信号とを加算して、3次高調波成分を抽出する。ここで、例えば、「実質的に揃っている」というのは、小さな誤差を許容する意味である。
また、第1の実施形態に係る画像生成部13は、所定の次数の高調波成分(第1の非線形成分)に基づく超音波画像データ又は所定の次数とは異なる次数の高調波成分(第2の非線形成分)に基づく超音波画像データに基づく超音波画像データを生成する。
まず、送信部9が複数の超音波を送信してから、受信部11が複数の反射波信号を受信して、それをもとに受信信号を生成するまでの流れについて簡単に説明する。
第1の実施形態では、送信部9は、例えば、第1の送信において、位相を0度に設定して送信する。また、送信部9は、第2の送信において、位相を120度に設定して送信する。また、送信部9は、第3の送信において、位相を240度に設定して送信する。
例えば、送信波の波形yが、振幅A,周波数f、時間t、位相θとして、y=A×sin(2πft+θ)であったとすると、第1の送信での送信波の波形は、y=A×sin(2πft)、第2の送信での送信波の波形は、y=A×sin(2πft+2/3×π)、第3の送信での送信波の波形は、y=A×sin(2πft+4/3×π)となる。
また、例えば、送信波の波形yが、y=A×cos(2πft+θ)であったとすると、第1の送信での送信波の波形は、y=A×cos(2πft)、第2の送信波の送信波の波形は、y=A×cos(2πft+2/3×π)、第3の送信波の送信波の波形は、y=A×cos(2πft+4/3×π)となる。実施形態を通じて、第2の送信及び第1の送信での位相の差、第3の送信及び第2の送信での位相の差がいくらであるかが重要であり、第1の送信での初期位相が何であるかは重要ではないので、送信波の波形が「sin」であるか、「cos」であるか、等、初期位相は、適宜定めてよい。
良く知られているように、周期的に正弦波的に時間変化する交流信号は、複素平面上で原点を中心に位相回転する複素数で表現することができる。例えば、実数上で定義され実数値を取る関数y=A×cos(2πft+θ)に、解析接続として知られる所定の操作を施すことにより、送信波は、jを虚数単位として、複素数平面上で定義され複素数値を取る関数y=A×exp(j×(2πft+θ))に、変換することができる。この手続きにより、第1の送信での送信波の波形は、虚数単位をjとして、y=A×exp(j×(2πft))、第2の送信での送信波の波形は、y=A×exp(j×(2πft+2/3π))、第3の送信での送信波の波形は、y=A×exp(j×(2πft+2/3π×2)と書くことができる。
このような複素数表示を取ると、その複素数の絶対値は、送信波の振幅、すなわち、送信波の変位としてとりうる最大値、に対応する。また、その複素数の偏角は、送信波の位相に対応する。また、その複素数の実部は、もともとの送信波の波形yに対応する。また、その複素数の虚部は、もともとの送信波の波形が0になるところで最大値をとり、送信波の波形が最大になるところで最小値をとることから、送信波の運動量あるいは速度として、解釈することができる。
また、実数を用いた表示では、位相をαだけ進める、という操作は、sinθを、sin(θ+α)に、cosθを、cos(θ+α)に変換する操作を意味する。また、複素数を用いた表示では、位相を、αだけ進める、という操作は、複素数であるexp(j×α)を乗じる操作、すなわち、exp(j×θ)を、exp(j×(θ+α))に変換する操作を意味する。
以下、説明の簡便さのため、送信波の波形を実数関数「A×sin(2πft+θ)」や「A×cos(2πft+θ)」で表示するか、或いは、「A×exp(j×(2πft+θ))」などの複素数表示で考えるか、目的に応じて適宜使い分けるが、これらは表示方法の違いに過ぎず、他方の表示方法でも適切に表示することができる。
送信された超音波が、媒質を通過する間に、超音波と媒質が非線形的に相互作用することにより、送信した周波数(基本波成分)の超音波から、2倍波、3倍波、4倍波…などの、高次高調波成分が発生する。従って、反射波の中には、送信した周波数(基本波成分)以外にも、高次高調波成分が含まれることになる。高次高調波成分は、基本波成分と比較して指向性がある(サイドローブレベルが小さい)ため、基本波のみを用いる従来技術と比べて、空間分解能を向上することができ、その結果として超音波画像の画質を向上することができる。
さて、基本波成分の波形が、振幅A、周波数f、位相θの正弦波、y=A×sin(2πft+θ)の場合を仮定すると、2次の非線形効果の成分の波形は、y2に比例することが知られている。従って、2次の非線形効果の成分の波形は、具体的に計算すると分かるように、「周波数2f、位相2θ」の2次の高調波成分、及び「周波数0(直流成分)、位相0」の成分からなる。同様に、3次の非線形効果の成分の波形は、y3に比例することが知られており、3次の波形は、「周波数3f、位相3θ」の3次の高調波成分、及び、「周波数f、位相θ」の成分からなる。
このように、反射波には、周波数成分f、位相θの基本波成分だけではなく、周波数成分2f、位相2θの2次高調波成分、周波数成分3f、位相3θの3次高調波成分が含まれる。送信部9が、周波数fで、位相を変えて、例えば、第1の送信では位相をθ1とし、第2の送信では位相をθ2とし、第3の位相では位相をθ3とし、超音波を3回、超音波プローブ1を介して送信したとすると、第1の送信に対応する受信信号には、周波数f、位相θ1の基本波成分に加えて、周波数2f、位相2θ1の2次の高調波成分、周波数3f、位相3θ1の3次の高調波成分が含まれる。また、第2の送信に対応する反射波には、周波数f、位相θ2の基本波成分に加えて、周波数2f、位相2θ2の2次の高調波成分、周波数3f、位相3θ2の3次の高調波成分が含まれる。また、第3の送信に対応する反射波には、周波数f、位相θ3の基本波成分に加えて、周波数2f、位相2θ2の2次の高調波成分、周波数3f、位相3θ3の3次の高調波成分が含まれる。
受信部11が受信信号として生成するIQ信号は、その絶対値が信号の振幅を表し、その偏角が信号の位相を表すような、複素数の値を、各周波数成分ごとに表示した信号である。例えば、A×cos(2πf1t+θ1)という信号に対して、直交検波を行うと、A×exp(j×(2πf1t+θ1))という複素数を受信信号として取得する。以下、指数の肩の部分のうち、時間tに比例する部分は適宜省略して、「複素数A×exp(j×θ1)を取得する」などと書く。
図2は、第1の実施形態における超音波診断装置の行う位相回転処理について説明した図である。送信部9は、共通の包絡線で位相を互いに等しい角度だけずらして超音波を、超音波プローブ1を介して複数回送信する。例えば、送信部9は、図2の左図のように、第1の送信で、位相を0度(0)に設定して超音波プローブ1を介して超音波を送信する。また、送信部9は、第2の送信で、位相を120度(2/3π)に設定して超音波プローブ1を介して超音波を送信する。また、送信部9は、第3の送信で、位相を240度(4/3π)に設定して超音波プローブ1に超音波を送信させる。すなわち、送信部9が送信する超音波の送信シーケンスは、(0度、120度、240度)となる。また、以下、送信波の振幅は、簡単のため、「1」として説明する。
受信部11は、複数の超音波それぞれに対応する反射波信号を基に、複数の受信信号を生成する。信号50〜52は、第1の送信に対応する受信信号である。信号53〜55は、第2の送信に対応する受信信号である。信号56〜58は、第3の送信に対応する受信信号である。第1の送信で得られた信号50,51,52それぞれは、基本波成分、2次高調波成分、3次高調波成分に対応する受信信号である。第2の送信で得られた信号53,54,55それぞれは、基本波成分、2次高調波成分、3次高調波成分に対応する受信信号である。第3の送信で得られた信号56,57,58それぞれは、基本波成分、2次高調波成分、3次高調波成分に対応する受信信号である。
ここで、信号50は、第1の送信で基本波の位相が0度(0)に設定されているので、その位相は、0度(0)の信号であり、信号値は、exp(j×0)である。信号51は、2次高調波成分なので、その位相は、基本波成分の2倍であり、その位相は、0度×2=0度(0)の信号であり、信号値は、exp(j×0)である。同様に、信号52は、3次高調波成分なので、その位相は、基本波成分の3倍であり、その位相は、0度×3=0度(0)の信号であり、信号値は、exp(j×0)である。
また、信号53は、第2の送信で基本波の位相が120度(2/3π)に設定されているので、その位相は、120度(2/3π)の信号であり、信号値は、exp(j×2/3π)である。信号54は、2次高調波成分なので、その位相は、基本波成分の2倍であり、その位相は、120度×2=240度(4/3π)の信号であり、信号値は、exp(j×4/3π)である。信号55は、3次高調波成分なので、その位相は、基本波成分の3倍であり、その位相は、120度×3=360度(2π)の信号であり、信号値は、exp(j×2π)である。
また、信号56は、第3の送信で基本波の位相が240度(4/3π)に設定されているので、その位相は、240度(4/3π)の信号であり、信号値は、exp(j×4/3π)である。信号57は、2次高調波成分なので、その位相は、基本波成分の2倍であり、その位相は、240度×2=480度(8/3π)の信号であり、信号値は、exp(j×8/3π)である。信号55は、3次高調波成分なので、その位相は、基本波成分の3倍であり、その位相は、240度×3=720度(4π)の信号であり、信号値は、exp(j×4π)である。
ここで、第1の受信信号、第2の受信信号、第3の受信信号を単純に加算すると、以下の通りとなる。
基本波成分について、第1の受信信号、第2の受信信号、第3の受信信号を単純に加算した値は、信号50、信号53、信号56の和であるから、この値を計算すると、「0」になる。従って、基本波成分は、「0」になる。
2次高調波成分について、第1の受信信号、第2の受信信号、第3の受信信号を単純に加算した値は、信号51、信号54、信号57の和であるから、この値を計算すると、「0」になる。従って、2次高調波成分は、「0」になる。
3次高調波成分について、第1の受信信号、第2の受信信号、第3の受信信号を単純に加算した値は、信号52、信号55、信号58の和であるから、この値を計算すると、「3」になる。従って、3次高調波成分は0でない値を持つ。
従って、抽出部20が、第1の受信信号、第2の受信信号、第3の受信信号を単純に加算すると、抽出部20は、基本波成分及び2次高調波成分が除去され、3次高調波成分のみが抽出された信号を抽出することができる。
次に、第1の受信信号、第2の受信信号、第3の受信信号を、位相回転処理を含む処理を行った後に加算すると、以下の通りとなる。例えば、抽出部20は、第1の受信信号に対して、0度(0)だけ位相回転処理を行う。すなわち、抽出部20は、第1の受信信号に対しては、位相回転処理を行わない。また、例えば、抽出部20は、第2の受信信号に対して、120度(2/3×π)だけ位相回転処理を行い、第3の受信信号に対して、240度(4/3×π)だけ位相回転処理を行う。すなわち、抽出部20は、(0度(0)、120度(2/3×π)、240度(4/3×π))となる回転位相角の組み合わせで位相回転処理を行う。
図2の下段の信号50〜52、信号60〜62、信号63〜65は、図2の上段の信号50〜52、信号53〜55、信号56〜58に対して、位相回転処理を行った受信信号を表している。すなわち、図2の下段の信号50,51,52は、第1の送信における位相回転処理後の基本波、2次高調波、3次高調波の受信信号、信号60,61,62は、第2の送信における位相回転処理後の基本波、2次高調波、3次高調波の受信信号、信号63,64,65は、第3の送信における位相回転処理後の基本波、2次高調波、3次高調波の受信信号である。
第1の送信に関しては、位相回転角度が0度(0)であるので、位相は回転されない。従って、図2の下段の信号50〜52は、図2の上段の信号50〜52と同一の信号となる。
次に、第2の送信に関しては、位相回転角度が120度(2/3×π)であるので、位相回転後の基本波の信号60の位相は、120度+120度=240度(4/3×π)となる。従って、位相回転後の基本波の信号60の値は、exp(j×(4/3×π))となる。また、位相回転後の2次高調波の信号61の位相は、240度+120度=360度(2π)となる。従って、位相回転後の2次高調波の信号61の値は、exp(j×2π)となる。また、位相回転後の3次高調波62の位相は、360度+120=480度(8/3π)となる。従って、位相回転後の3次高調波の信号62の値は、exp(j×(8/3π))となる。
次に、第3の送信に関しては、位相回転角度が240度(4/3×π)であるので、位相回転後の基本波の信号63の位相は、240度+240度=480度(8/3π)となる。従って、位相回転後の基本波の信号63の値は、exp(j×(8/3×π))となる。また、位相回転後の2次高調波の信号64の位相は、480度+240度=720度(4π)となる。従って、位相回転後の2次高調波の信号65の値は、exp(j×4π)となる。また、位相回転後の3次高調波65の位相は、720度+240度=960度(16/3)となる。従って、位相回転後の3次高調波の信号65の値は、exp(j×(16/3π))となる。
ここで、抽出部20は、位相回転後の第1の受信信号、位相回転後の第2の受信信号、位相回転後の第3の受信信号を加算する。
基本波成分について、位相回転後の第1の受信信号、位相回転後の第2の受信信号、位相回転後の第3の受信信号の加算値は、信号50「exp(j×0)」、信号60「exp(j×(4/3×π))」、信号63「exp(j×(8/3×π))」の和であるから、この値を計算すると、「0」になる。従って、基本波成分は、「0」になる。
2次高調波成分について、位相回転後の第1の受信信号、位相回転後の第2の受信信号、位相回転後の第3の受信信号の加算値は、信号51「exp(j×0)」、信号61「exp(j×2π)」、信号64「exp(j×(4×π))」の和であるから、この値を計算すると、「3」になる。従って、2次高調波成分は、0でない値を持つ。
3次高調波成分について、位相回転後の第1の受信信号、位相回転後の第2の受信信号、位相回転後の第3の受信信号の加算値は、信号52「exp(j×0)」、信号62「exp(j×(8/3π))」、信号65「exp(j×(16/3π))」の和であるから、この値を計算すると、「0」になる。従って、3次高調波成分は「0」になる。
従って、抽出部20は、基本波成分及び3次高調波成分を除去し、2次高調波成分のみを抽出することができる。
すなわち、位相回転後の第1の受信信号、位相回転後の第2の受信信号、位相回転後の第3の受信信号をそのまま加算すると、基本波成分及び3次高調波成分は、0になり、2次高調波成分のみが0でない値を持つことから、抽出部20は、2次高調波成分のみを抽出することができる。
また、同様の計算をDC(Direct Current)ハーモニック成分について行うと、DCハーモニック成分について、第1の受信信号、第2の受信信号、第3の受信信号を単純に加算すると、0でない値が残る。しかし、(0度(0)、120度(2/3×π)、240度(4/3×π))となる角度も組み合わせで位相回転処理を行うと、DCハーモニック成分について、位相回転後の第1の受信信号、位相回転後の第2の受信信号、位相回転後の第3の受信信号の加算値は、「0」となる。従って、抽出部20は、(0度(0)、120度(2/3×π)、240度(4/3×π))となる角度の組み合わせで位相回転処理を行うことにより、DCハーモニック成分を除去することができる。
また、上記では、位相回転角度が120度の場合、すなわち、抽出部20が、第1の受信信号に対して、0度(0)だけ位相回転処理を行い、第2の受信信号に対して、120度(2/3×π)だけ位相回転処理を行い、第3の受信信号に対して、240度(4/3×π)だけ位相回転処理を行った場合を説明したが、実施形態はこれに限られない。例えば、位相回転角度が240度の場合でもよい。
すなわち、抽出部20が、第1の受信信号に対して、0度(0)だけ位相回転処理を行い、第2の受信信号に対して、240度(4/3×π)だけ位相回転処理を行い、第3の受信信号に対して、480度(8/3×π)だけ位相回転処理を行ってもよい。その後、位相回転処理後の第1の受信信号、第2の受信信号、第3の受信信号を加算する。その場合、2次高調波成分及び3次高調波成分は、0になり、基本波成分のみが0でない値を持つことから、抽出部20は、1次の高調波成分(基本波成分)のみを抽出することができる。
図3は、第1の実施形態に係る超音波診断装置が行う処理の流れについて説明したフローチャートである。制御部16から、送信する超音波に関するパラメータを受信すると、送信部9は、共通の包絡線で位相を変調させながら超音波を複数回、超音波プローブ1を介して、送信する(ステップS100)。受信部11は、複数回の超音波送信それぞれに対応する受信信号を生成し、生成した受信信号を抽出部20に送信する。これにより、抽出部20は、複数の受信信号を受信し(ステップS101)、一部の受信信号に対して位相回転処理を行い、位相回転処理が行われた受信信号を生成する(ステップS102)。
抽出部20は、位相回転処理を行った受信信号(位相回転角度が0度である受信信号を含む)それぞれに対してビーム加算処理を行って、2次高調波成分(より一般には、第1の非線形成分)を抽出する(ステップS103)。抽出部20は、2次高調波成分が抽出された信号に対して、帯域通過フィルタを適用して、ノイズ除去を行う(ステップS104)。信号処理部12は、抽出部20から、ノイズ除去の行われた後の信号を受信し、当該信号を基にBモードデータを生成する。画像生成部13は、信号処理部12からBモードデータを受信し、Bモードデータから画像を生成し、生成した画像をモニタ2に出力する(ステップS300)。
なお、抽出部20は、ステップS103において、2次高調波成分(第1の非線形成分)の抽出処理と並行して、さらに、位相回転処理がおこなわれていない受信信号に対して、ビーム加算処理を行い、3次高調波成分(より一般には、第2の非線形成分)を抽出し、ステップS104において、3次高調波成分が抽出された信号に対して、帯域通過フィルタを適用して、ノイズ除去を行っても良い。この場合、ステップS300において、信号処理部12は、抽出部20から、ノイズ除去の行われた3次高調波成分(第2の非線形成分)が抽出された信号を基にBモードデータを生成し、画像処理部13は、2次高調波成分(第1の非線形成分)が抽出された信号を基に生成されたBモードデータと、3次高調波成分(第2の非線形成分)が抽出された信号を基に生成されたBモードデータとから、3次高調波成分(第2の非線形成分)の画像及び2次高調波成分(第1の非線形成分)の画像の双方の画像を生成し、モニタ2に出力する。また、帯域フィルタを適用するステップS104については、必要に応じて、適宜省略することができる。
図4A及び図4Bは、第1の実施形態に係る超音波診断装置を用いた2次高調波成分(第1の非線形成分)及び3次高調波成分(第2の非線形成分)の抽出例について説明した図である。ここでは、送信部9は、(0度、120度、240度)の超音波送信シーケンスを用いている。図4Aは、3次高調波成分の抽出について説明した図である。信号201、信号202、信号203は、この超音波送信シーケンスにおける、第1、第2、第3の受信信号を、縦軸をデシベル(dB)(信号強度の対数値に比例する量)を単位とした信号強度、横軸を周波数(MHz)を単位としてプロットしたものである。信号201、信号202、信号203は、共通の包絡線で位相のみを変調して3回送信したものであるので、おおむね同じような信号強度になっている。送信信号の基本波成分の周波数1.8MHzに対応する周波数の信号強度が最も大きく、次いで2倍波の周波数3.6MHz付近、次いで3倍波の周波数5.4MHz付近に信号強度のピークが存在する。
抽出部20は、第1、第2、第3の受信信号に対して、位相回転処理を行わないで、第1、第2、第3の受信信号を単純に加算する。この結果、前述したように、基本波成分、2次高調波成分が除去され、3次高調波成分が抽出される。信号204は、このようにして抽出部20が、第1、第2、第3の受信信号に対して加算処理を行って抽出した信号をプロットしたものである。信号204は、3倍波の周波数5.4MHz付近に最大のピークを持ち、縦軸がデジベル(信号強度の対数値に比例する量)で表されていることに留意すると、基本波の周波数1.8MHz、2倍波の周波数3.6MHzには目立った強度を持たない。従って、抽出部20が、3次高調波成分(第2の非線形成分)を抽出していることがわかる。
次に、2次高調波(第1の非線形成分)の抽出について説明する。図4Bは、2次高調波(第1の非線形成分)の抽出について説明した図である。送信部9は、図4Aと同じく、(0度、120度、240度)の超音波送信シーケンスを用いている。信号205、信号206、信号207は、図4Aと同じく、この超音波送信シーケンスにおける、第1、第2、第3の受信信号を、縦軸をデシベル(dB)(信号強度の対数値に比例する量)を単位とした信号強度、横軸を周波数(MHz)を単位としてプロットしたものである。これらの信号については図4Aと同じであるから説明は省略する。
抽出部20は、第1、第2、第3の受信信号に対して、回転位相角の組み合わせが、(0度、120度、240度)となる組み合わせで位相回転処理を行う。この結果、前述したように、基本波成分、3次高調波成分が除去され、2次高調波成分が抽出される。信号208は、このようにして、抽出部20が、第1、第2、第3の受信信号に対して位相回転処理を行って抽出した信号をプロットしたものである。信号208は、2倍波の周波数3.6MHz付近に最大のピークを持ち、縦軸がデジベル(信号強度の対数値に比例する量)で表されていることに留意すると、基本波の周波数1.8MHz、3倍波の周波数5.4MHzには目立った強度を持たない。従って、抽出部20が、2次高調波成分(第1の非線形成分)を抽出していることがわかる。
以上、送信部9が、共通の包絡線で、位相を変調させながら複数の信号を送信する場合を考えたが、実施形態はこれらに限られない。例えば、送信部9が、位相を変調させながら複数の信号を送信する場合、位相及び振幅を変調させながら複数の信号を送信してもよい。また、抽出部20の処理として、位相回転処理だけではなく、振幅変換処理も行って、複素数係数での重みづけを行っても良い。
以上のように、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、送信部9が、共通の包絡線で位相を変調させながら超音波を複数回送信し、抽出部20が、送信された超音波の反射波をもとに生成された受信信号に対して、位相回転処理を含む処理を行って、所望の次数の高調波成分を抽出する。この結果、所望の次数の高調波成分を、送信回数を増やすことなく分離抽出することができ、高画質な超音波画像を生成することができる。
例えば、従来、2次高調波成分と3次高調波成分とをそれぞれ抽出するシーケンスとして、送信する超音波の位相を60度ずつずらした6回送信で、180度異なる2つの信号を加算して、2次高調波を抽出し、120度異なる3つの信号を加算して、3次高調波を抽出する方法が考えるが、送信回数が6回必要になる。また、送信する超音波の位相を72度ずつずらした5回送信で、5つの信号をインコヒーレントに加算して、2次高調波成分及び3次高調波成分を抽出する方法では、2次高調波成分及び3次高調波成分を分離抽出できない。本実施形態では、3回の超音波の送信で、3次高調波成分を抽出可能であるとともに、2次高調波成分も、3次高調波成分と分離した形で抽出することができる。
なお、抽出部20は、3以上の受信信号のうち2以上の受信信号に対して所定の位相回転処理を実行することで所定の次数の高調波成分を抽出し、3以上の受信信号のうち2以上の受信信号に対して、少なくとも1つの受信信号に対する位相回転角度が当該所定の位相回転処理とは異なる位相回転処理を含む処理を実行することで、所定の次数とは異なる次数の高調波成分を抽出してもよい。この場合、送信部9は、送信する超音波の位相(送信する超音波に含まれる中心周波数成分の位相)がそれぞれ互いに等しい角度だけ異なる3回以上の超音波送信を超音波プローブ1に実行させる。抽出部20は、3以上の受信信号のうち2以上の受信信号に対して、当該互いに等しい角度の整数倍の角度だけ位相を回転させる位相回転処理を実行することで、所定の次数の高調波成分を抽出する。また、抽出部20は、3以上の受信信号のうち2以上の受信信号に対して、当該互いに等しい角度の整数倍の角度だけ位相を回転させる位相回転処理であって、少なくとも1つの受信信号に対する位相回転角度が当該所定の位相回転処理とは異なる位相回転処理を実行することで、所定の次数とは異なる次数の高調波成分を抽出する。
具体例としては、例えば送信部9は、送信する超音波の位相が互いに120度だけ異なる3回の超音波送信を超音波プローブ1に実行させる。抽出部20は、3回の超音波送信に対応する3回の受信信号に対して、後述するように、(0度、120度、240度)の角度だけ位相を回転させる位相回転処理を所定の位相回転処理として実行することで、2次の次数の高調波成分を抽出する。また、抽出部20は、所定の位相回転処理とは少なくとも1つの受信信号に対する位相回転角度が異なる位相回転処理である、(0度、240度、120度)の角度だけ位相を回転させる位相回転処理を実行することで、所定の位相回転処理の場合とは異なる1次の次数の高調波成分(基本波成分)を抽出する。
また、例えば送信部9は、送信する超音波の位相が互いに90度だけ異なる4回の超音波送信を超音波プローブ1に実行させる。抽出部20は、4回の超音波送信に対応する4回の受信信号に対して、(0度、90度、180度、270度)の角度だけ位相を回転させる位相回転処理を所定の位相回転処理として実行することで、3次の次数の高調波成分を抽出する。また、抽出部20は、少なくとも1つの受信信号に対する位相回転角度が所定の位相回転処理とは異なる、(0度、180度、360度(0度)、540度(180度))の角度だけ位相を回転させる位相回転処理を所定の位相回転処理とは異なる位相回転処理として実行することで、所定の位相回転処理の場合とは異なる、2次の次数の高調波成分を抽出する。
また、抽出部20が、3以上の受信信号に対して位相回転処理を含まない処理を行うことで、所定の次数とは異なる次数の高調波成分を抽出する例を説明したが、実施形態はこれに限られない。抽出部20は、更に、3以上の受信信号それぞれに対して同一の位相回転角度だけ回転させる位相回転処理を実行することで、所定の次数とは異なる次数、例えば3次の高調波成分を抽出してもよい。すなわち、抽出部20は、第1の非線形成分とは種類が異なる第2の非線形成分を抽出してもよい。例えば、抽出部20は、3つの受信信号それぞれに対して、45度だけ回転させる位相回転処理を実行し、実行した結果を加算して3次高調波成分を抽出してもよい。
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、位相回転処理を含む処理で抽出した所定の次数の高調波成分に基づく超音波画像データと、位相回転処理を含まない処理で抽出した所定の次数とは異なる次数の高調波成分に基づく超音波画像データとを表示用に出力する場合について説明した。第2の実施形態では、所定の次数の高調波成分と、所定の次数とは異なる次数の高調波成分とを合成した成分に基づく超音波画像データを表示用に出力する場合について説明する。具体的には、第2の実施形態に係る画像生成部13は、所定の次数の高調波成分(第1の非線形成分)と所定の次数とは異なる次数の高調波成分(第2の非線形成分)とを合成した成分に基づく超音波画像データを生成する。一例として、抽出部20は、所定の次数の高調波成分(第1の非線形成分)として2次高調波成分を抽出し、所定の次数とは異なる次数の高調波成分(第2の非線形成分)として3次高調波成分を抽出する。そして、画像生成部13は、2次高調波成分と3次高調波成分とを合成した成分に基づく超音波画像データを生成する。
図5は、第2の実施形態に係る超音波診断装置が行う処理の流れについて説明したフローチャートである。制御部16から、送信する超音波に関するパラメータを受信すると、送信部9は、共通の包絡線で位相を変調させながら超音波を複数回、超音波プローブ1を介して、送信する(ステップS100)。受信部11は、複数回の超音波送信それぞれに対応する受信信号を生成し、生成した受信信号を抽出部20に送信する。これにより、抽出部20は、複数の受信信号を受信する(ステップS101)。
抽出部20は、受信部11が生成した複数の受信信号を加算する処理(ビーム加算処理)を行い、3次高調波成分(より一般には、第2の非線形成分)が抽出された信号を生成する(ステップS110)。抽出部20は、3次高調波成分が抽出された信号に対して、帯域通過フィルタを適用して、ノイズ除去を行う(ステップS111)。
また、抽出部20は、受信部11が生成した複数の受信信号のうち、一部の受信信号に対して位相回転処理を行い、位相回転処理が行われた受信信号を生成する(ステップS102)。抽出部20は、位相回転処理を行った受信信号(位相回転角度が0度である受信信号を含む)それぞれに対してビーム加算処理を行い、2次高調波成分(より一般には、第1の非線形成分)が抽出された信号を生成する(ステップS103)。抽出部20は、2次高調波成分が抽出された信号に対して、帯域通過フィルタを適用して、ノイズ除去を行う(ステップS104)。
ステップS110〜S111及び、ステップS102〜S104は、同時並列的(concurrently)に実行されても良いし、逐次実行的に(sequentially)実行されてもよい。逐次実行的に実行される場合、例えばステップS110〜S111が実行された後、ステップS102〜S104が実行されてもよいし、ステップS102〜S104が実行された後、ステップS110〜S111が実行されてもよい。
また、帯域通過フィルタを適用するステップS111及びS104の処理については、必要に応じて省略することができる。
抽出部20が、ステップS111の処理及びステップS104の処理を完了すると、合成部としての抽出部20は、ステップS104で抽出した2次高調波成分(第1の非線形成分)とステップS111で抽出した3次高調波成分(第2の非線形成分)とを合成する(ステップS200)。当該合成処理の詳細については後述する。抽出部20が合成したデータは、Bモード処理部121でBモードデータとされ、画像生成部13は、Bモードデータから画像を生成し、生成した画像をモニタ2に出力する(ステップS300)。
なお、2次高調波の成分(第1の非線形成分)と、3次高調波の成分(第2の非線形成分)との合成処理は、抽出部20以外の処理部で行われても良い。例えば、Bモード処理部121が有する合成部が、3次高調波成分から生成したBモードデータと、2次高調波成分から生成したBモードデータとを合成し、画像生成部13が、Bモード処理部121が生成した合成Bモードデータから超音波画像データを生成しても良い。或いは、例えば、画像生成部13が有する合成部が、3次高調波成分(第2の非線形成分)に基づくBモードデータから生成した3次高調波成分(第2の非線形成分)の画像データと、2次高調波成分(第1の非線形成分)に基づくBモードデータから生成した2次高調波成分(第1の非線形成分)の画像データとを合成しても良い。
図6は、第2の実施形態における超音波診断装置の行う合成処理を説明した図である。以下では、画像生成部13が合成部を有するとして説明する。合成部は、2次高調波成分の画像と3次高調波成分の画像とに、重みをつけて合成処理を行い、超音波画像を生成する。例えば、2次高調波成分の画像の重みが1であり、3次高調波成分の画像の重みが0であれば、生成される超音波画像は、2次高調波成分の画像と等しくなる。また、例えば、2次高調波成分の画像の重みが0であり、3次高調波成分の画像の重みが1であれば、生成される超音波画像は、3次高調波成分の画像と等しくなる。また、2次高調波成分の画像の重みが0.5であり、3次高調波成分の画像の重みが0.5であれば、生成される超音波画像は、3次高調波成分の画像と、2次高調波成分の画像とが、1:1の割合で加算されたものになる。
図6の上図は、第1の合成方法について説明した図である。グラフ80は、第1の合成方法における2次高調波成分の重みを、超音波プローブ1からの距離(深さ)の関数として、描いたグラフである。また、グラフ81は、第1の合成方法における3次高調波成分の重みを、超音波プローブ1からの距離の関数として、描いたグラフである。3次高調波成分のほうが、2次高調波成分に比べ、指向性が高い(サイドローブの影響が少ない)ため、3次高調波成分を用いた方が、2次高調波成分を用いるより、高い画質(分解能)を得ることができる。一方、超音波プローブ1からの距離(深さ)が大きい場合、3次高調波成分は、深さが浅い場合に比べて、長い距離を進むことになるので、反射波強度が減衰することになるが、その減衰の度合いは、2次高調波成分に比べて深刻になる。従って、第1の合成方法では、図6の上図に示すように、超音波プローブ1からの距離(深さ)が小さいときには、3次高調波成分の重みを大きくし、超音波プローブ1からの距離(深さ)が大きいときには、3次高調波成分の重みを小さくして合成を行う。
図6の下図は、第2の合成方法について説明した図である。グラフ82は、第2の合成方法における2次高調波成分の重みを、超音波プローブ1からの距離(深さ)の関数として、描いたグラフである。また、グラフ83は、第2の合成方法における3次高調波成分の重みを、超音波プローブ1からの距離の関数として、描いたグラフである。図6の上図と同様に、第2の合成方法では、超音波プローブ1からの距離(深さ)が小さいときには、3次高調波成分の重みを大きくして合成を行い、超音波プローブ1からの距離(深さ)が大きいときには、3次高調波成分の重みを小さくして合成を行う。
ここで、超音波プローブ1からの距離(深さ)がごく小さいところでは、超音波が媒質を通過する距離がごく小さいので、3次高調波成分が十分に発生せず、信号強度が小さい3次高調波成分を用いて画像を生成すると、信号雑音強度が低下する。この理由により、第2の合成方法では、図6の下図に示すように、超音波プローブ1からの距離(深さ)がごく小さいときには、3次高調波成分の重みを小さくする。
図7は、第2の実施形態における超音波診断装置において、超音波用ファントムを用いた場合に生成される画像の例を説明した図である。超音波用ファントムとして、他の部分とは材質が異なる丸い点が、空間的に一定の間隔で配置されることにより、生成される画像に、当該丸い点に対応する穴が、一定の間隔で現れる。これを用いて、装置のキャリブレーションを行うことができる。図7において、横方向は、方位方向、縦方向は、深さ方向に対応する。
画像210は、画像生成部13が、3次高調波成分のみを用いて画像生成をした場合の画像の例である。また、画像211は、画像生成部13が、2次高調波成分のみを用いて画像生成をした場合の画像の例である。3次高調波成分から生成された画像210は、中程度の深さまでは、2次高調波成分から生成された画像211と比較して、細かい構造が見えており、高画質な画像を得ることができる。一方で、深さが深くなると、画像210では、画像211と比較して、3次高調波成分は信号が減衰してしまうため、画質が劣化してしまう。
一方、画像211は、中程度の深さまでは、画像210と比較して、画質が低下しているが、深さが深くなると、画像210と比較して、信号が減衰しないため、深さが深い場合でも、画質が比較的劣化しない。
画像212は、2次高調波成分と、3次高調波成分との合成処理を行って画像生成をした場合の画像の例である。合成方法としては、第1の合成方法を使用している。深さが浅い場合には、画像生成部13は、3次高調波の重みを大きくして画像生成を行い、深さが深い場合には、画像生成部13は、2次項高調波の重みを大きくして画像生成を行っている。深さに応じて、それぞれ適した次数の高調波を主に画像生成に使用することで、画像生成部13は、深さが浅いところから深いところまで、劣化しない画質の画像212を生成することができる。
図8は、第2の実施形態における超音波診断装置において、肝臓を撮影した場合の例を説明した図である。図7と同様に、横方向は、方法方向、縦方向は、深さ方向に対応する。画像220は、画像生成部13が、3次高調波成分のみを用いて生成した超音波画像データであり、画像221は、画像生成部13が、2次高調波成分のみを用いて生成した超音波画像データであり、画像222は、画像生成部13が、2次高調波成分と、3次高調波成分との合成処理を行って生成した超音波画像データである。
画像220のように、3次高調波成分のみを用いると、中程度の深さまでは、高画質な画像を得ることができる一方で、深さが深くなると画質が劣化してしまう。画像221のように、2次高調波成分のみを用いると、深さが深くなった場合でも、画像が比較的劣化しない一方で、中程度の深さまでは、3次高調波成分を用いた画像に比べて低画質な画像になる。
そこで、画像222のように、2次高調波成分と、3次高調波成分とを合成し、深さに応じて、それぞれ適した次数の高調波を主に画像生成に使用することで、画像生成部13は、深さが浅いところから深いところまで、劣化しない画質の超音波画像を生成することができる。
以上のように、第2の実施形態では、所望の次数の高調波成分と、それとは異なる次数の高調波成分とを合成して超音波画像データを生成する。異なる次数の高調波成分は、異なる超音波プローブ1からの距離(深さ)において、相対的に高画質の超音波画像を生成することができる。異なる次数の高調波成分を分離抽出し、もっとも高画質の超音波画像を得ることができる次数の高調波成分を大きな重みにして画像を生成することで、超音波プローブ1からの距離(深さ)に影響されず、高画質の超音波画像を生成することができる。
(第3の実施形態)
第2の実施形態では、抽出部20が、第1の非線形成分(例えば2次高調波成分)と、第2の非線形成分(例えば3次高調波成分)とを、インコヒーレントに合成する場合について説明した。第3の実施形態では、抽出部20が、第1の非線形成分と第2の非線形成分とをそのまま合成するのではなく、第1の非線形成分の位相と第2の非線形成分をコヒーレントに、合成処理を行う。
図9〜図12を用いて、第3の実施形態に係る超音波診断装置について説明する。図9は、第3の実施形態に係る超音波診断装置の行う処理の流れについて説明したフローチャートである。また、図10は、第3の実施形態に係る超音波診断装置の行う処理の流れについて説明した図である。また、図11A及び図11Bは、第3の実施形態に係る超音波診断装置が処理する信号について説明するための図である。また、図12は、第3の実施形態の変形例に係る超音波診断装置の行う処理の流れについて説明した図である。
図9に示すように、第3の実施形態に係る超音波診断装置は、例えば図5と比較すると、ステップS150以外の処理については、第2の実施形態と同様の処理を行う。以下、第2の実施形態と共通する処理については、詳しい説明は適宜省略する。
送信部9は、共通の包絡線で位相を変調させながら超音波を複数回、超音波プローブ1を介して、送信する(ステップS100)。受信部11は、複数回の超音波送信それぞれに対応する受信信号を生成し、生成した受信信号を抽出部20に送信する。抽出部20は、複数の受信信号を受信する(ステップS101)。例えば、図10の例では、抽出部20は、0度の位相で送信された超音波に対応する受信信号401、120度の位相で送信された超音波に対応する受信信号402、240度の位相で送信された超音波に対応する受信信号403を受信する。
抽出部20は、受信した複数の受信信号のうち、一部の受信信号に対して位相回転処理を行い、位相回転処理が行われた受信信号を生成する(ステップS102)。例えば、図10の例では、抽出部20は、受信信号401に対してダウンミキサー405を適用し、受信信号401の信号処理を行うのに適した周波数帯域の信号を通過させる。また、抽出部20は、受信信号402、403に対してそれぞれダウンミキサー406、407を適用し、受信信号402、403の信号処理を行うのに適した周波数帯域の信号を通過させる。次に、抽出部20は、位相回転処理部410を通じて、ダウンミキサー405を通過した受信信号401に対して0度の位相回転処理を行って(exp(j*0deg)を乗じて)、すなわち位相回転処理を行わず)、位相回転処理が行われた受信信号を生成する。また、抽出部20は、位相回転処理部411を通じて、ダウンミキサー406を通過した受信信号402に対して120度の位相回転を行って(exp(j*120deg)を乗じて)、位相回転処理が行われた受信信号を生成する。また、抽出部20は、位相回転処理部412を通じて、ダウンミキサー407を通過した受信信号403に対して240度の位相回転を行って(exp(j*240deg)を乗じて)、位相回転処理が行われた受信信号を生成する。
続いて、抽出部20は、ステップS103において、位相回転処理を行った受信信号それぞれに対してビーム加算処理(例えばコヒーレント加算処理)を行って、第1の非線形成分(2次高調波成分)に対応する信号である第1信号を抽出する(ステップ103)。図10の例では、抽出部20は、位相回転処理部410を通過した受信信号と、位相回転処理部411で位相回転処理が行われた受信信号と、位相回転処理部412で位相回転処理が行われた受信信号とに対してビーム加算処理を行って、第1信号を生成する。必要に応じて、抽出部20は、第1の非線形成分が抽出された第1信号に対して、帯域通過フィルタを適用して、ノイズ除去を行う(ステップS104)。
一方、抽出部20は、ステップS110において、受信した受信信号それぞれに対してビーム加算処理(例えばコヒーレント加算処理)を行って、第2の非線形成分(例えば3次高調波成分)に対応する信号である第2信号を抽出する(ステップ110)。図10の例では、抽出部20は、受信信号401、受信信号402、受信信号403に対してビーム加算処理を行って、第2の非線形成分に対応する信号である第2信号404を抽出する。
抽出部20は、位相回転処理部413を通じて、ステップS110において抽出した第2信号404に対して、第1の非線形成分と第2の非線形成分との間で位相を揃えるための位相回転処理である第2の位相回転処理を含む処理を実行する(ステップS150)。例えば、抽出部20は、ステップS110において抽出した第2信号404に対して、第2の位相回転処理として、第2信号404の位相を90度回転させる(例えば、90度加算させる)処理を実行する。(より一般には、抽出部20は、第1信号と第2信号が、N次、N+1次と連続する高次の非線形成分の組み合わせである場合、一方の位相を90度回転させる処理を実行する。)
必要に応じて、抽出部20は、第2の非線形成分が抽出された信号に対して、帯域通過フィルタを適用して、ノイズ除去を行う(ステップS111)。かかる処理の後で、抽出部20は、ステップS104で帯域通過フィルタを通過した第1信号と、ステップS111で帯域フィルタを通過した第2の位相回転処理後の第2信号404とを合成し、合成信号414を生成する(ステップS200)。抽出部20が合成したデータは、Bモード処理部121でBモードデータとされ、画像生成部13は、Bモードデータから画像を生成し、生成した画像をモニタ2に出力する(ステップS300)。
第3の実施形態に係る超音波診断装置が、これまでの実施形態に係る超音波診断装置と異なる点は、図9のステップS150、換言すると、位相回転処理部413における第2の位相回転処理である。かかる点について、図11A及び図11Bを用いて説明する。
図11Aにおいて、グラフ430A、グラフ430B、グラフ430Cは、それぞれ第1、第2、第3の送信に係る受信信号の信号強度を、周波数の関数として表したものである。グラフ430A、グラフ430B、グラフ430Cは、例えば図10における受信信号401、受信信号402、受信信号403の信号強度に対応する。グラフ431は、位相回転処理部413における第2の位相回転処理がなかったと仮定した場合の合成信号414の信号強度を、周波数の関数として表したものである。グラフ431は、位相回転処理部413における第2の位相回転処理部がなかったと仮定した場合の合成信号414の信号強度に対応する。グラフ431は、例えば3.8MHz付近のピーク及び5MHz付近のピークとの間に、信号強度が弱くなる谷間の構造をもつ。すなわち、位相回転処理部414における第2の位相回転処理がなかったと仮定した場合、合成信号414は、これらの谷間の周波数領域で、信号強度が低下する。
これに対して、図11Bは、位相回転処理部413における第2の位相回転処理がある場合の状況を示している。グラフ432A、グラフ432B、グラフ432Cは、それぞれ第1、第2、第3の送信に係る受信信号の信号強度を、周波数の関数として表したものである。グラフ432A、グラフ432B、グラフ432Cは、例えば図10における受信信号401、受信信号402、受信信号403の信号強度に対応する。グラフ433は、位相回転処理部413における第2の位相回転処理がある場合の合成信号414の信号強度を、周波数の関数として表したものである。グラフ433は、例えば3MHzから5MHzの広い周波数帯域で、強い信号強度を維持している。
位相回転処理部413における位相回転処理がある場合に、広い周波数帯域で強い信号強度を維持することができる理由は以下の通りである。すなわち、一般に、2次高調波成分と、3次高調波成分とは、90度の位相のずれが存在する。例えば、2次高調波成分の信号が、cos xのような関数系になるとき、3次高調波成分の信号は、sin xのような関数系で表される。このとき、2次高調波成分の信号と、3次高調波成分の信号を単純に足し合わせると、2次高調波成分と3次高調波成分とで位相が揃っていないため、合成信号の信号強度が減少する。そこで、例えば3次高調波成分の信号の位相を90度進める処理を行うと、第1の非線形成分と第2の非線形成分とで位相を揃えることができる。この結果、例えば正の値と負の値を足し合わせることがなくなり、合成信号の信号強度が減少するのを防止することができる。この結果、抽出部20は、幅広い周波数領域で、強い信号強度を維持することができる。
(第3の実施形態の変形例)
なお、抽出部20が、位相回転処理部413を通じて、第2の非線形成分(第2信号)の位相を90度進める場合について説明したが、実施形態はこれに限られない。第3の実施形態の変形例では、抽出部20が、第1の非線形成分(第1信号)の位相を90度遅らせる。かかる状況が、図12に示されている。
図12の例では、図10と同様に、抽出部20は、0度の位相で送信された超音波に対応する受信信号401、120度の位相で送信された超音波に対応する受信信号402、240度の位相で送信された超音波に対応する受信信号403を受信する。抽出部20は、受信信号401、402、403に対してそれぞれダウンミキサー405、406、407を適用し、受信信号401、402、403の信号処理を行うのに適した周波数帯域の信号をそれぞれ通過させる。続いて、抽出部20は、受信信号401、402、403それぞれに対して、第1の非線形成分抽出のための第1の位相回転処理と、第1の非線形成分と第2の非線形成分との間で位相を揃えるための位相回転処理である第2の位相回転処理とを行う。例えば、抽出部20は、第2の位相回転処理として、位相を90度回転させる(例えば、位相を90度減算させる)処理を実行する。(より一般には、抽出部20は、第1信号と第2信号が、N次、N+1次と連続する高次の非線形成分の組み合わせである場合、一方の位相を90度回転させる処理を実行する。)具体的には、抽出部20は、位相回転処理部420を通じて、ダウンミキサー405を通過した受信信号401に対して0度の位相回転を行った後、90度位相を減算し、(すなわち合計で90度位相を減算し)位相回転処理が行われた受信信号を生成する。また、抽出部20は、位相回転処理部421を通じて、ダウンミキサー406を通過した受信信号402に対して120度の位相回転を行った後、90度位相を減算し、(すなわち合計で30度位相を加算し)、位相回転処理が行われた受信信号を生成する。また、抽出部20は、位相回転処理部422を通じて、ダウンミキサー407を通過した受信信号403に対して240度の位相回転を行った後、90度位相を減算し、(すなわち合計で150度位相を加算し)、位相回転処理が行われた受信信号を生成する。
続いて、抽出部20は、第1の位相回転処理と第2の位相回転処理とを行った受信信号それぞれに対してビーム加算処理を行って、第1の非線形成分(2次高調波成分)に対応する信号である第1信号を抽出する。
一方、抽出部20は、受信した受信信号それぞれに対してビーム加算処理を行って、第2の非線形成分(3次高調波成分)に対応する信号である第2信号404を抽出する。図10の例では、抽出部20は、受信信号401、受信信号402、受信信号403に対してビーム加算処理を行って、第2の非線形成分に対応する信号である第2信号404を抽出する。抽出部20は、位相回転処理部423では、位相回転処理を行わない。
かかる処理の後で、抽出部20は、第1信号と、第2信号404とを合成し、合成信号424を生成する。抽出部20が合成したデータは、Bモード処理部121でBモードデータとされ、画像生成部13は、Bモードデータから画像を生成し、生成した画像をモニタ2に出力する。
なお、実施形態はこれに限られない。抽出部20が、受信信号401、402、403のそれぞれに対して、第1の位相回転処理と、第2の位相回転処理とを行った受信信号それぞれに対してビーム加算処理を行って、第1の非線形成分に対応する信号である第1信号を抽出する場合について説明した。しかしながら、例えば、抽出部20は、受信信号401,402,403のそれぞれに対して、第1の位相回転処理のみを行った後にビーム加算処理を行って、第1の非線形成分(2次高調波成分)に対応する信号である第1信号を抽出し、抽出した第1信号に対して第2の位相回転処理を含む処理を実行してもよい。かかる処理の後で、抽出部20は、第2の位相回転処理を行った第1信号と、第2信号とを合成する。
また、抽出部20が、第2信号404の位相を90度進ませ、又は第1信号の位相を90度遅らせる場合について説明したが、実施形態はこれに限られない。例えば、抽出部20は、第1信号の位相を45度遅らせ、第2信号404の位相を45度進ませてもよい。また、抽出部20は、第1信号の位相を120度遅らせ、第2信号404の位相を30度遅らせてもよい。また、第1の非線形成分及び第2の非線形成分の性質に応じて、抽出部20は、第2の位相回転処理に用いる位相回転角度として、90度以外の角度を用いても良い。
また、抽出部20が位相回転処理を行うタイミングは、これまでに説明したタイミングに限られない。例えば、図10においては、抽出部20が、位相回転処理部413により、第2信号404に対して第2の位相回転処理を行う場合について説明したが、実施形態はこれに限られない。例えば、抽出部20は、受信信号401、受信信号402、受信信号403それぞれに対して第2の位相回転処理を行ってから、ビーム加算処理を行って、第2信号404を抽出してもよい。この場合、抽出部20は、例えば、位相回転処理部413においては、第2の位相回転処理を行わない。
また、図10において、抽出部20が受信信号401、受信信号402、受信信号403それぞれに対して第2の位相回転処理を行ってからビーム加算処理を行って第2信号404を生成する場合、ダウンミキサ405に入力される信号は、受信信号401であってもよいし、第2の位相回転処理が行われた受信信号401であってもよい。
また、抽出部20が、Log検波前にコヒーレント加算を行って信号合成を行う場合について説明したが、実施形態はこれに限られない。例えば、抽出部20は、コヒーレント加算に加えてインコヒーレント加算を行って信号合成を行っても良い。
実施形態に係る超音波診断装置は、種々のデータを、所定の記憶媒体に保存し、または当該装置から読み出してもよい。ここでいう所定の記憶媒体とは、例えば画像生成部13、画像メモリ14、又は超音波診断装置の外部の記憶装置が挙げられる。ここで、実施形態に係る超音波診断装置が保存する、または読みだすデータの例としては、例えば図10の受信信号401,402、403等の生データに近いデータ、ビーム加算処理が行われたあとの信号である第2信号404、合成信号414、位相回転処理部410にて位相回転処理が行われる直前のデータ、位相回転処理部410にて位相回転処理が行われる直後のデータ、最終的な診断画像のデータ等である。
また、上記の実施形態で説明した信号処理方法は、超音波診断装置とは独立に設置された画像処理装置により実行されても良い。
かかる画像処理装置は、例えば、受信部11が生成した受信信号群を、超音波診断装置や、記憶媒体等から取得する取得部と、抽出部20、信号処理部12及び画像生成部13と同等の機能を有する処理部とを有する。そして、かかる画像処理装置は、これら抽出部20等としての処理部により、上記の実施形態で説明した信号処理方法を実行する。
かかる画像処理装置は、上述した記憶媒体等と連携して、上記の実施形態で説明した信号処理方法を実行する。この際、当該記憶媒体等にデータを保存することにより、または当該記憶媒体等からデータを読み出すことにより、かかる画像処理装置は、上記の実施形態で説明した信号処理方法の手順のうち任意のステップにおいて処理を中断し、または任意のステップから処理を再開することができる。
以上のように、第3の実施形態では、抽出部20が、第1の非線形成分と、第2の非線形成分との間の位相を揃えるための位相回転処理を更に行う。これにより、広帯域な信号を抽出することができる。
(第4の実施形態)
これまでの実施形態では、単一の周波数成分を持った超音波を、超音波プローブ1を介して送信する場合について説明した。第4の実施形態では、複数の周波数成分を持った超音波を、超音波プローブ1を介して送信し、3次高調波成分等、高次高調波成分の広帯域化を実現する場合について説明する。
第4の実施形態では、送信部9と、受信部11と、抽出部20とは、以下の処理を行う。なお、第4の実施形態では、送信する超音波は、複数の中心周波数成分を有する。送信部9は、送信する超音波に含まれる複数の中心周波数成分のうち少なくとも一つの位相(又は複数の中心周波数成分それぞれの位相)が各送信で異なる3回以上の超音波送信を超音波プローブ1に実行させる。受信部11は、3回以上の超音波送信によって得られた複数の反射信号を基に、共通の受信走査線に関する3以上の受信信号を生成する。抽出部20は、3以上の受信信号のうち2以上の受信信号に対して位相回転処理を含む処理を実行することで、所定の高調波成分の組み合わせ(すなわち、当該3以上の受信信号に含まれる種類が異なる複数の非線形成分)を抽出する。具体的には、送信部9は、超音波送信を、複数の周波数成分それぞれの位相を互いに等しい角度だけずらして、超音波プローブに3回以上実行させる。抽出部20は、3以上の受信信号のうち2以上の受信信号に対して、当該互いに等しい角度の整数倍の角度である角度だけ位相を回転させる位相回転処理を実行することで、所定の高調波成分の組み合わせ(複数の非線形成分)を抽出する。例えば、第4の実施形態に係る抽出部20は、所定の高調波成分の組み合わせとして、2次高調波成分を有する組み合わせ(複数の非線形成分)を抽出し、位相回転処理を含まない処理を実行することで、3次高調波成分を有する組み合わせ(複数の非線形成分)を抽出する。
そして、第4の実施形態に係る制御部16は、例えば、所定の高調波成分の組み合わせの有する帯域が、超音波の基本波成分の帯域よりも、広帯域となるように、超音波の周波数、振幅及び位相を制御する。かかる制御部16の制御により、例えば、送信部9は、送信する超音波が、第1の周波数と、第1の周波数の4倍を超えない周波数である第2の周波数成分との2つの周波数成分を含み、送信する超音波の位相がそれぞれ異なる3回以上の超音波送信を、超音波プローブ1に実行させる。また、かかる制御部16の制御により、例えば、送信部9は、第1の周波数(f1)と、第1の周波数より大きい第2の周波数(f2)の2つの周波数成分を含み、送信する超音波の位相がそれぞれ異なる3回以上の超音波送信を、超音波プローブに実行させる。
そして、例えば、抽出部20は、3以上の受信信号を加算することにより第1の周波数の2倍の周波数と第2の周波数との和の周波数の信号(2f1+f2)と、第1の周波数の3倍の周波数の信号(3f1)との組み合わせを3次高調波成分を有する組み合わせとして抽出するとともに、3以上の受信信号のうち2以上の受信信号に対して位相回転処理を行って、第1の周波数と第2の周波数との和の周波数(f1+f2)に対応する信号と、第1の周波数の2倍の周波数(2f1)との組み合わせとを2次高調波成分を有する組み合わせとして抽出する。
初めに、複数の周波数成分を利用することによる高次高調波成分の広帯域化について説明する。送信部9は、複数の周波数成分を含む超音波を送信することができ、これにより、画像生成に利用可能な周波数帯域を広帯域化することができる。例えば、周波数がf1の第1の周波数成分と、周波数がf2の第2の周波数成分の2種類の周波数成分を持った超音波を送信することで、周波数がf1の周波数成分由来の高調波成分と、周波数がf2の周波数成分由来の高調波成分とを、画像生成のために使用することができる。
しかし、3次高調波成分を用いた画像生成など、高次高調波を用いた画像生成においては、単純な超音波送信シーケンスでは、周波数帯域を広域化するのは難しい。その理由は、画像化したい次数の高調波成分より低い次数の高調波成分(例えば2次の高調波成分)を除外することが困難であるからである。3次高調波成分よりも、2次高調波成分のほうが、信号強度が高いので、画像化したい3次高調波成分の帯域が、より信号強度の強い2次高調波成分の帯域と重なってしまうと、3次高調波成分の信号が、2次高調波成分の信号に埋もれてしまう。その結果、3次高調波成分を用いた画像の画質が劣化する。例えば、周波数f1と、周波数f2の2種類の周波数成分を持った超音波を送信する場合、周波数が「3f1」及び「2f1+f2」の3次高調波成分を利用したいと思っても、周波数が「2f1」、「f1+f2」及び「2f2」等の2次高調波成分の存在が邪魔になる。
第4の実施形態では、送信部9が複数の周波数成分を有する超音波を、第1の実施形態の超音波送信シーケンスで位相を変調しながら送信する。第1の実施形態では、単一の周波数成分を有し、高い対称性をもつ超音波送信シーケンスで送信部9が超音波を送信した。そして、第1の実施形態では、抽出部20が、複数の受信信号を、単純加算(コヒーレント加算)するか、位相回転を行った後に単純加算(コヒーレント加算)することにより、所望の次数の高調波成分を抽出し、その他の次数の高調波成分を除去した。例えば、第1の実施形態では、抽出部20は、3次高調波成分を抽出し、2次高調波成分を除去した。逆に、抽出部20は、2次高調波成分を抽出し、3次高調波成分を除去した。
第1の実施形態の超音波送信シーケンスの有するこのような性質、すなわち、特定の対称性の成分が抽出され、特定の対称性の成分が除去される、という性質は、送信する超音波を、単一周波数成分から、複数の周波数成分に拡張しても保たれる。例えば、抽出部20は、「3f1、2f1+f2」の3次高調波成分が抽出され、「2f1、f1+f2、2f2」の2次高調波成分が対称性により「0」になるような処理を行うことができる。その結果、「3f1及び2f1+f2」の3次高調波成分は、2次高調波成分の混入による信号雑音強度の低下が起こることがなくなるので、広帯域の周波数領域を画像生成に利用することができる。
また、例えば、抽出部20は、「3f1、2f1+f1」の3次高調波成分が対称性により「0」になり、「2f1、f1+f2、2f2」の2次高調波成分が抽出されるような処理を行うことができる。その結果、「2f1、f1+f2、2f2」の2次高調波成分は、3次高調波成分の混入による信号雑音強度の低下が起こることがなくなるので、広帯域の周波数領域を画像生成に利用することができる。
周波数がf1の第1の周波数成分と、周波数f2の第2の周波数成分の2つの周波数成分を含む超音波を送信する場合について考える。この場合、第1の周波数成分の振幅をA、第2の周波数成分の振幅をB、第1の周波数成分の初期位相をθ1、第2の周波数成分の初期位相をθ2、時刻をtとすると、送信される超音波(基本波成分)の変位x(t)は、式(1)のように表される。
また、2次の非線形効果の成分は、基本波成分の2乗に比例するから、x(t)2に比例し、これは式(2)のように表される。
また、3次の非線形効果の成分は、基本波成分の3乗に比例するから、x(t)3に比例し、これは式(3)のように表される。
式(2)の第1項は、周波数が0の周波数成分、すなわち、0次高調波成分(直流成分)である。式(2)の第2項、第3項は、周波数がそれぞれ2f1、2f2の周波数成分である、2次高調波成分である。式(2)の第4項、第5項は、周波数がそれぞれf1−f2、f1+f2の、2次の非線形成分である。
式(3)の第1項、第2項は、周波数がそれぞれf1、f2の周波数成分である、3次の非線形成分である。式(3)の第3項、第5項は、周波数がそれぞれ2f1+f2、f1+2f2の周波数成分である、3次の非線形成分である。式(3)の第4項、第6項は、周波数がそれぞれf2−2f1、f1-2f2の周波数成分である、3次高調波成分である。式(3)の第1項、第2項は、周波数がそれぞれ3f1、3f2の周波数成分である、3次高調波成分である。
図13及び図14は、第4の実施形態に係る超音波診断装置が行う処理の流れについて説明したフローチャートである。図13は、位相回転処理を含まない場合の処理、図14は、位相回転処理を含む場合の処理を表している。
まず、図13を用いて、位相回転処理を含まない場合の、第4の実施形態に係る超音波診断装置が行う処理の流れについて説明する。
送信部9は、共通の包絡線で位相を変調させながら、複数回、超音波プローブ1を介して超音波を送信する(ステップS400)。
第1の例として、送信部9は、(0度、120度、240度)の、超音波送信シーケンスで、位相を変調させる。この時、送信部9は、第1の送信においては、第1の周波数成分及び第2の周波数成分の位相を、0度に設定して送信する。第2の送信では、第1の周波数成分及び第2の周波数成分の位相を、120度に設定して送信する。第3の送信においては、第1の周波数成分及び第2の周波数成分の位相を、240度に設定して送信する。
第2の例として、送信部9は、((0度、120度)、(120度、240度)、(240度、360度))の、超音波シーケンスで、位相を変調させる。この時、送信部9は、第1の送信においては、第1の周波数成分の位相を0度に設定し、第2の周波数成分の位相を120度に設定して送信する。第2の送信においては、第1の周波数成分の位相を120度に設定し、第2の周波数成分の位相を240度に設定して送信する。第3の送信においては、第1の周波数成分の位相を240度に設定し、第2の周波数成分の位相を360度に設定して送信する。
第3の例として、送信部9は、((0度、0度)、(120度、−120度)、(240度、−240度))の、超音波シーケンスで、位相を変調させる。この時、送信部9は、第1の送信においては、第1の周波数成分の位相を0度に設定し、第2の周波数成分の位相を120度に設定して送信する。第2の送信においては、第1の周波数成分の位相を120度に設定し、第2の周波数成分の位相を−120度に設定して送信する。第3の送信においては、第1の周波数成分の位相を240度に設定、第2の周波数成分の位相を240度に設定して送信する。
受信部11は、複数回の超音波送信それぞれに対応する受信信号を生成し、生成した受信信号を、抽出部20に送信する。これにより、抽出部20は、複数の受信信号を受信する(ステップS401)。
抽出部20は、受信した受信信号それぞれに対して、ビーム加算処理を行って、3次の非線形成分の組み合わせを抽出する(ステップS402)。例えば、送信部9が送信した超音波の回数が3回の場合、抽出部20は、第1の送信の送信波の反射波より生成された第1の受信信号、第2の送信の送信波の反射波より生成された第2の受信信号、第3の送信の送信波の反射波より生成された第3の受信信号を加算する。
ここで、後述するように、複数回の超音波送信それぞれに対応する受信信号に対して加算処理を行った信号は、超音波送信シーケンスの有する高い対称性のため、所定の高調波成分の組み合わせ以外の周波数成分の寄与が相殺されて、「0」になる。例えば、(0度、120度、240度)の第1の例の超音波送信シーケンスで得られる第1の受信信号、第2の受信信号、第3の受信信号を加算すると、「f1、f2、2f1、2f2、f1+f2、f1−2f2、f2−2f1」の周波数成分が、対称性によりキャンセルされて、「0」になり、「f2−f1、3f1、2f1+f2、f1+2f2、3f2」の周波数成分のみが、0でない値として抽出される。
送信部9が送信する超音波送信シーケンスが高い対称性を有すると、抽出部20は、それに応じて、「邪魔な」周波数成分が取り除かれた、所定の高調波成分の組み合わせを抽出することができる。例えば、f1+2f2、3f2の周波数成分がプローブ帯域外とし、f2−f1の周波数成分が3f1、2f1+f2と周波数が大きく異なるため、例えば帯域通過フィルタにより分離可能な場合を考える。この場合、抽出部20は、通常のシーケンスにおいて3f1、2f1+f2の周波数成分に交じってくる、2f2、f1+f2、f2−2f1などの周波数成分が取り除かれた、広帯域な3f1、2f1+f2の周波数帯域を得ることができる。このようして抽出された所定の高調波成分の組み合わせは、邪魔な周波数成分が取り除かれているので、広帯域にわたって、高画質な超音波診断画像を生成するのに利用できる。
抽出部20は、抽出されたデータに対して、所望の周波数帯域を通過させる帯域通過フィルタを適用し(ステップS500)、ノイズを除去する。抽出部20は、ノイズを除去したデータを、Bモード処理部121に送信する。
なお、ステップS500の処理は、抽出部20以外、例えばBモード処理部121が行っても良い。また、ステップS500の処理は、必要に応じて、適宜省略可能である。
画像生成部13は、抽出部20から受信したデータを基にBモード処理部121が生成したBモードデータから画像を生成し、生成した画像をモニタ2に出力し(ステップS600)、一連の処理が完了する。
次に、図14を用いて、抽出部20が位相回転処理を行う場合の、第4の実施形態に係る超音波診断装置が行う処理の流れについて説明する。
ステップS400、S401、S402及びS500については、図13ですでに説明した処理と同一の処理であるので、説明は省略する。
ステップS401で、受信部11が、受信信号を生成し、抽出部20に送信すると、抽出部20は、受信した受信信号に対して、位相回転処理を行う(ステップS403)。
抽出部20が行う位相回転処理としては、例えば、(0度、120度、240度)の回転位相角の組み合わせで位相回転処理を行う。この場合、第1の受信信号に対して、抽出部20は、全ての周波数成分に対して、0度の角度で位相回転処理を行う。すなわち、抽出部20は、第1の受信信号では、位相回転処理を行わない。また、第2の受信信号に対して、抽出部20は、全ての周波数成分に対して、120度の角度で位相回転処理を行う。また、抽出部20は、第3の受信信号に対して、全ての周波数成分に対して、240度の角度で位相回転を行う。
そして、抽出部20は、位相回転処理を行った受信信号(位相回転角度が0度である受信信号を含む)それぞれに対してビーム加算処理を行って、2次の非線形成分の組み合わせを抽出する(ステップS404)。例えば、抽出部20は、それぞれの周波数成分ごとに、第1の受信信号と、位相回転処理を行った第2の受信信号と、位相回転処理を行った第3の受信信号とを加算する。
ここで、後述するように、位相回転処理を行ったそれぞれの受信信号に対して加算処理を行った信号は、超音波送信シーケンス及び、位相回転角度の組み合わせの有する高い対称性のため、所定の高調波成分の組み合わせ以外の周波数成分の寄与が相殺されて、「0」になる。例えば、(0度、120度、240度)の第1の例の超音波送信シーケンスで、位相を変調させ、位相回転角度の組み合わせを(0度、120度、240度)とする場合、この超音波送信シーケンス及び位相回転角度回転処理は、複素数平面で、3回回転対称性(120度回転対称性)を有する。
その結果、第1の受信信号、位相回転後の第2の受信信号、位相回転後の第3の受信信号を加算すると、3回回転対称性により、3f1、3f2、2f1+f2、f1+2f2の周波数成分が「0」になり、2f1、2f2、f1+f2、f1−2f2、f2−2f1の周波数成分のみが、0でない値として抽出される。
このように、超音波送信シーケンスが高い対称性を有すると、抽出部20は、それに応じた位相回転処理及び加算処理を行うことにより、「邪魔な」周波数成分が取り除かれた、所定の高調波成分の組み合わせを抽出することができる。例えば、f2−2f1、f1−2f2の周波数成分が2f1、f1+f2、2f2と周波数が大きく異なるため分離可能な場合を考える。この場合、第4の実施形態に係る超音波診断装置は、広帯域な周波数帯域を得ることができる。
一方、抽出部20は、このように位相回転処理を行うことにより抽出された信号に対して、帯域通過フィルタを適用して、特定の周波数帯域の信号を抽出することにより、信号からノイズ除去を行う(ステップS501)。抽出部20が、ステップS500の処理及びステップS501の処理を完了すると、合成部としての抽出部20は、ステップS500で抽出した3次高調波成分と、ステップS104で抽出した2次高調波成分とを合成する(ステップS510)。抽出部20が合成したデータは、Bモード処理部121でBモードデータとされ、画像生成部13は、Bモードデータから画像を生成し、生成した画像をモニタ2に出力する(ステップS600)。
図13のステップS402及び図14のステップS403について再び説明する。図15は、第4の実施形態に係る超音波診断装置において、所定の高調波成分の組み合わせが除去(キャンセル)され、所定の高調波成分の組み合わせが抽出される例について説明した図である。
図15の上図は、送信部9が送信する超音波送信シーケンスが、(0度、120度、240度)の場合における単純な加算処理により、抽出及び除去される高調波成分の組み合わせについて説明した図である。
送信「transmit」される超音波は、周波数「frequency」が第1の周波数成分f1=1.5MHz及び第2の周波数成分f2=3MHzからなる。第1の周波数成分の振幅「Amplitude」Aは、1であり、第2の周波数成分の振幅Bは、0.7である場合を考える。第1の周波数成分の位相はθ1と表され、第2の周波数成分の位相はθ2と表される。
送信部9は、第1の送信(rate1)では、0度の位相で超音波を送信する。すなわち、第1の周波数成分の位相θ1及び第2の周波数成分の位相θ2は0度である。送信部9は、第2の送信(rate2)では、120度の位相で超音波を送信する。すなわち、第2の送信では、第1の周波数成分の位相θ1及び第2の周波数成分の位相θ2は120度である。送信部9は、第3の送信(rate3)では、−120度(240度)の位相で超音波を送信する。すなわち、第2の送信では、第1の周波数成分の位相θ1及び第2の周波数成分の位相θ2は−120度である。
2次高調波「second harmonic」には、周波数がf2−f1である周波数成分、周波数が2f1である周波数成分、周波数がf1+f2である周波数成分等がある。周波数がf2−f1である周波数成分の周波数は、3.0−1.5=1.5である。周波数が2f1である周波数成分の周波数は、2×1.5=3.0である。周波数がf1+f2である周波数成分の周波数は、3.0+1.5=4.5である。周波数がf2−f1である周波数成分の振幅は、式(2)の第4項を参照すると、A×B=1×0.7=0.7となる。周波数が2f1である周波数成分の振幅は、式(2)の第2項を参照すると、A2/2=1.02/2=0.5となる。同様に、f1+f2である周波数成分の振幅は、式(2)の第5項を参照すると、A×B=1.0×0.7=0.7である。
次に、それぞれの送信ごとの、それぞれの周波数成分の位相を計算する。第1の受信信号(rate1)において、第1の周波数成分の位相θ1は0、第2の周波数成分の位相θ2は0である。よって、周波数がf2−f1である周波数成分の位相は、θ2−θ1=0である。同様に、周波数が2f1である周波数成分の位相は、2θ1=2×0=0、周波数がf1+f2である周波数成分の位相はθ1+θ2=0+0=0となる。
また、第2の受信号(rate2)において、第1の周波数成分の位相θ1が120、第2の周波数成分の位相θ2が120であるから、周波数がf2−f1である周波数成分の位相は、θ2−θ1=120−120=0である。同様に、周波数が2f1である周波数成分の位相は、2θ1=2×120=240度(−120度)、周波数がf1+f2である周波数成分の位相はθ1+θ2=120+120=240度(−120度)となる。
同様に、第3の受信信号(rate3)において、第1の周波数成分の位相θ1が−120、第2の周波数成分の位相θ2が−120であるから、周波数がf2−f1である周波数成分の位相は、θ2−θ1=−120−(−120)=0である。同様に、周波数が2f1である周波数成分の位相は、2θ1=2×(−120)=−240度(120度)、周波数がf1+f2である周波数成分の位相はθ1+θ2=−120−120=−240度(120度)となる。
ここで、抽出部20は、第1の受信信号、第2の受信信号、第3の受信信号を加算する。この結果、所定の高調波成分の組み合わせが抽出され、所定の高調波成分の組み合わせ以外の組み合わせがキャンセルされる。
例えば、周波数がf1の周波数成分の場合を考える。第1の受信信号における周波数がf1の周波数成分の位相は、0度であるので、信号値は、cos0°となる。第2の受信信号における周波数がf1の周波数成分の位相は、120度であるので、信号値は、cos120°となる。第3の受信信号における周波数がf1の周波数成分の位相は、−120度であるので、信号値は、cos(−120°)となる。抽出部20が、第1の受信信号、第2の受信信号、第3の受信信号を加算すると、cos0°+cos120°+cos(−120°)となるが、これは計算すると「0」になる。よって、f1の周波数成分は、(0度、120度、240度(−120度))の超音波送信シーケンスでは、超音波送信シーケンスの対称性から、除去される(キャンセルされる)から、「cancel」は、「Yes」となる。同様に、周波数がf2の周波数成分の場合も、「cancel」が、「Yes」となる。
また、周波数がf2−f1の周波数成分の場合を考える。第1の受信信号における周波数がf2−f1の周波数成分の位相は、0度であるので、信号値は、cos0°となる。第2の受信信号における周波数がf2−f1の周波数成分の位相は、0度であるので、信号値は、cos0°となる。第3の受信信号における周波数がf2−f1の周波数成分の位相は、0度であるので、信号値は、cos0°となる。抽出部20が、第1の受信信号、第2の受信信号、第3の受信信号を加算すると、cos0°+cos0°+cos0°となるが、これは計算すると「3」になり、0にならない。よって、f2−f1の周波数成分は、(0度、120度、240度(−120度))の超音波送信シーケンスでは、超音波送信シーケンスの対称性から、除去されない(キャンセルされない)から、「cancel」は、「No」となる。
また、同様に、周波数がf1+f2の周波数成分の場合を考える。第1の受信信号における周波数がf1+f2の周波数成分の位相は、0度であるので、信号値は、cos0°となる。第2の受信信号における周波数がf1+f2の周波数成分の位相は、−120度であるので、信号値は、cos(−120°)となる。第3の受信信号における周波数がf1+f2の周波数成分の位相は、120度であるので、信号値は、cos120°となる。
抽出部20が、第1の受信信号、第2の受信信号、第3の受信信号を加算すると、cos0°+cos−120°+cos120°となるが、これは計算すると「0」になる。よって、f1+f2の周波数成分は、(0度、120度、240度(−120度))の超音波送信シーケンスでは、超音波送信シーケンスの対称性から、除去される(キャンセルされる)から、「cancel」は、「Yes」となる。
同様に、周波数が2f1の周波数成分は、抽出部20が、第1の受信信号、第2の受信信号、第3の受信信号を加算すると、cos0°+cos−120°+cos120°となるが、これは計算すると「0」になる。よって、2f1の周波数成分は、(0度、120度、240度(−120度))の超音波送信シーケンスでは、超音波送信シーケンスの対称性から、除去される(キャンセルされる)から、「cancel」は、「Yes」となる。
同様に、3次高調波成分「3rd harmonic」についても、同様の方法で計算することができる。この結果、周波数がf2−2f1、2f2−f1の周波数成分については、「cancel」が「Yes」となり、2f1+f2、3f1の周波数成分については、「cancel」が「No」となる。
すなわち、送信部9が、(0度、120度、240度)の超音波送信シーケンスで、位相を変調させて超音波を3回送信し、抽出部20が、第1の受信信号と、第2の受信信号と、第3の受信信号とを加算すると、対称性より、f1、f2、2f1、2f2、f1+f2、f2−2f1、2f2+f1の周波数成分については、「cancel」が「Yes」となり、除去される。f2−f1、3f2、2f1+f2、f1+2f2、3f1の周波数成分については、「cancel」が「No」となりこれらの高調波成分が抽出される。
また、送信部9が、(0度、120度、240度)の超音波送信シーケンスで、位相を変調させて超音波を3回送信し、抽出部20が、位相回転角度の組み合わせが、(0度、120度、240度(−120度))で位相回転処理を行い、0度の位相回転処理後の第1の受信信号(位相回転処理を行わない第1の受信信号)と、120度の位相回転処理後の第2の受信信号と、240度(−120度)の位相回転処理後の第3の受信信号を加算した場合も、同様の計算を行うことができる。この場合、対称性より、f1、f2、f2−f1、3f1、2f1+f2、f1+2f2,3f2、2f2−f1の周波数成分については、「cancel」が「Yes」となり、除去される。2f1、f1+f2、2f2、f2−2f1の周波数の周波成分については、「cancel」が「No」となりこれらの高調波成分が抽出される。
また、送信部9が、(0度、120度、240度)の超音波送信シーケンスで、位相を変調させて超音波を3回送信し、抽出部20が、位相回転角度の組み合わせが、(0度、240度、480度(120度))で位相回転処理を行い、0度の位相回転処理後の第1の受信信号(位相回転処理を行わない第1の受信信号)と、240度の位相回転処理後の第2の受信信号と、480度(−120度)の位相回転処理後の第3の受信信号を加算した場合、f1、f2、2f2−f1の周波数成分については、「cancel」が「No」になりこれらの高調波成分(基本波成分)が抽出され、それ以外の周波数成分については、「cancel」が「Yes」になり、除去される。このように、位相回転の角度を変えることにより、異なる周波数成分が抽出される。周波数成分ごとに、当該周波数成分が抽出される位相回転の角度がただ一つだけ存在する。
図15の上段の図では、複数の周波数成分同士の間で、送信部9が変調させる位相が同じである場合について説明した。しかしながら、実施形態はこれに限られない。図15の下段の図では、複数の周波数成分同士の間で、送信部9が変調させる位相が異なる場合について説明する。例えば、2つの周波数成分同士の間で、送信部9が変調させる位相極性が反転していてもよい。
図15の下段の図では、送信部9が、((0度、0度)、(120度、−120度)、(−120度、120度))の第3の例の超音波送信シーケンスで、位相を変調させて超音波を3回送信する。即ち、第1の受信信号では、周波数がf1である周波数成分については、位相が0度であり、周波数がf2である周波数成分についても、位相が0度である。第2の受信信号では、周波数がf1である周波数成分については、位相が120度であり、周波数がf2である周波数成分については、位相が−120度である。第3の受信信号では、周波数がf3である周波数成分については、位相が−120度であり、周波数がf2である周波数成分については、位相が120度である。
かかる条件のもと、これまでと同様に計算を行うと、f1、f2、f2−f1,2f1,2f1+f2の周波数成分については、「cancel」が「Yes」となり、これらの周波数成分は除去される。また、f1+f2、f2−2f1、2f2−f1、3f1の周波数成分については、「cancel」が「No」となり、これらの周波数成分が抽出される。
また、抽出部20が、位相回転角度の組み合わせが、(0度、120度、240度)で位相回転処理を行い、位相回転処理を行った受信信号それぞれに対して(位相回転角度が0度である受信信号を含む)、ビーム加算処理を行って、2次高調波成分の組み合わせを抽出する。かかる条件の元、f1、f1+f2、f2−f1、2f2、3f1、2f1+f2、3f2、2f2−f1、f2−2f1の周波数成分については、「cancel」が「Yes」になり、これらの周波数成分は除去される。また、f2、2f1、f1+2f2の周波数成分については、「cancel」が「No」となり、これらの周波数成分が抽出される。また、抽出部20が、位相回転角度の組み合わせが、(0度、240度、480度)で位相回転処理を行い、位相回転処理を行った受信信号それぞれに対して(位相回転角度が0度である受信信号を含む)、ビーム加算処理を行って、2次高調波成分の組み合わせを抽出する。かかる条件の元、f2、2f1、f1+f2、3f1、f1+2f2、3f2、f1−2f2、f2−2f1の周波数成分については、「cancel」が「Yes」になり、これらの周波数成分は除去される。また、f1、f2−f1、2f2、2f1+f2の周波数成分については、「cancel」が「No」となり、これらの周波数成分が抽出される。
このように、複数の周波数成分同士の間で、送信部9が変調させる位相が異なる場合であっても、変調させる位相の組み合わせに対称性がある場合には、特定の周波数成分のみが抽出され、それ以外の周波数成分が、対称性により「0」となる。複数の周波数成分同士の間で、送信部9が変調させる位相が同じ場合には、周波数成分は、f1とf2の間で対称に抽出される。例えば、f1が抽出される場合にはf2も同時に抽出され、f1が除去される場合にはf2も同時に除去される。一方、複数の周波数成分同士の間で、送信部9が変調させる位相が異なる場合には、周波数成分は、f1とf2の間で非対称に抽出される。
例えば、上記の例では、f1が抽出される場合にはf2が除去され、f1が除去される場合にはf2が抽出される。このように、複数の周波数成分同士の間で、送信部9が変調させる位相を変えることにより、複数の周波数成分のうち、特定の周波数成分に由来する周波数成分を抽出することができ、位相回転の角度を変えることで、どの周波数成分に由来する周波数成分を抽出するかを制御することができる。
図16Aは、単一周波数成分の超音波を送信する場合の周波数帯域について説明した図である。送信部9が、(0度、120度、240度)の超音波送信シーケンスで、位相を変調させて、周波数がf0=2.0MHzの超音波を3回送信する場合を表している。最上段のグラフのように、基本波成分は、信号強度のピークが、f0=2.0MHzとなっている。第1の実施形態で述べたように、抽出部20は、受信信号それぞれを単純加算して、3次高調波成分(3f0=6.0MHz)を抽出する。また、抽出部20は、受信信号それぞれに対して、位相回転角度が、(0度、120度、240度)の位相回転処理を行うことにより、2次高調波成分(2f0=4.0MHz)を抽出する。
図16Bは、複数の周波数成分を用いた超音波を送信する場合の周波数帯域について説明した図である。送信部9は、(0度、120度、240度)の超音波送信シーケンスで、位相を変調させて、周波数がf1=1.3MHzの第1の周波数成分と、周波数がf2=3MHzの超音波を3回送信する場合を表している。受信信号それぞれには、f2−2f1(0.4MHz)、f1(1.3MHz)、f2−f1(1.7MHz)、2f1(2.6MHz)、f2(3MHz)、3f1(3.9MHz)、f1+f2(4.3MHz)、2f2−f1(4.7MHz)、2f1+f2(5.6MHz)、2f2(6.0MHz)、f1+2f2(7.3MHz),3f2(9MHz)等の様々な周波数の周波数成分が含まれる。
抽出部20は、ここで、受信信号それぞれを単純加算する(3次高調波成分抽出)。この結果、前述したように、「cancel」が「No」の結果となる、f2−f1、3f2、2f1+f2、f1+2f2、3f1の周波数成分が抽出され、「cancel」が「Yes」の結果となる、f1、f2、2f1、2f2、f1+f2、f2−2f1,2f2+f1の周波数成分が除去される。この結果、周波数成分が、3f1(3.9MHz)〜3f2(9MHz)の領域は、基本波成分も、2次高調波成分も、「cancel」が「Yes」の結果となるので、それらの成分からの影響を受けることがなく、3次高調波成分を用いた画像生成のための周波数帯域として利用できる。従って、単一周波数を用いた場合(図12A)と比較して、周波数帯域が広帯域化される。
また、抽出部20は、受信信号それぞれに対して、位相回転角の組み合わせとして、(0度、120度、240度(−120度))で位相回転処理を行い、0度の位相回転処理後の第1の受信信号(位相回転処理を行わない第1の受信信号)と、120度の位相回転処理後の第2の受信信号と、240度(−120度)の位相回転処理後の第3の受信信号を加算する(2次抽出)。この結果、前述したように、「cancel」が「No」の結果となる、2f1、f1+f2,2f2、f2−2f1の周波数成分が抽出され、「cancel」が「Yes」の結果となる、f1、f2、f2−f1,3f1,2f1+f2、f1+2f2,2f2−f1、3f2の周波数成分が除去されるので、それらの成分からの影響を受けることがなく、2次高調波成分を用いた画像生成のための周波数帯域として利用できる。従って、単一周波数を用いた場合(図16A)と比較して、周波数帯域が広帯域化される。
図17A〜17Dは、送信部9が複数の周波数成分を用いた超音波送信を行う場合の3次高調波成分の広帯域化についてのシミュレーションデータである。
図17Aは、送信部9が超音波を、f0=1.7MHzの単一周波数で、同一の包絡線で位相を(0度、120度、240度)で、変調させて送信した場合の、超音波の時間波形を表したものである。
グラフ230、グラフ231、グラフ232は、それぞれ第1の送信の送信波形、第2の送信の送信波形、第3の送信の送信波形を、時間の関数としてプロットしたものである。これら3つのグラフは、共通の包絡線で位相を変えて複数回送信したに過ぎないので、これら3つのグラフは、共通の包絡線を構成する。図17Bは、第1の周波数f1=1.3MHz及び第2の周波数f2=3MHzの、2つの周波数成分をもつ超音波を、同一の包絡線で位相を(0度、120度、240度)で、変調させて送信した場合の、超音波の時間波形を表したものである。
グラフ233、グラフ234、グラフ235は、それぞれ第1の受信信号の波形、第2の受信信号の波形、第3の受信信号の波形を、時間の関数としてプロットしたものである。二つの周波数成分を含む波形であるので、形はやや崩れているものの、これら3つのグラフは、共通の包絡線を構成し、その振幅は、単一周波数の場合(図17A)とほぼ同じものになっている。
図17Cは、単一周波数(f0=1.7MHz)の場合における送信部9が送信する超音波の周波数特性について、各々、周波数特性が最大となる周波数を基準に、プロットしたものである。グラフ236は、第1の送信における基本波成分の周波数特性をプロットしたものである。基本波成分は、f0=1.7MHz付近で信号強度が最大となり、f0から遠ざかるにつれて強度が減衰する。グラフ239は、抽出部20が、第1の受信信号、第2の受信信号、第3の受信信号を単純加算したときの基本波成分の値についてプロットしたものである。同様に、グラフ237、グラフ238は、抽出部20が、第1の受信信号、第2の受信信号、第3の受信信号を単純加算したときの、2次の成分及び3次高調波成分についてプロットしたものである。
対称性より、グラフ239(基本波成分)は、周波数によらず0になる。グラフ237(2次成分)は、2次の成分のうち、2次高調波成分が0になり、2次の成分のうち、0次高調波部分(直流成分)の部分が値をもつため、周波数0(直流成分)でもっとも信号強度が高く、周波数が0から遠ざかるにつれて信号強度が減衰する。グラフ238(3次成分)は、3次高調波成分(3f0=5.1MHz)が抽出されるので、5MHz付近で信号強度が最大となる。
図17Dは、第1の周波数f1=1.3MHz及び第2の周波数f2=3MHzの、2つの周波数成分をもつ超音波を送信した場合の、送信波形の周波数特性について、各々、周波数特性が最大となる周波数を基準に、プロットしたものである。グラフ240は、第1の送信における基本波成分の周波数特性をプロットしたものである。基本波成分は、f1=1.3MHz付近及びf2=3MHz付近に信号強度のピークを有する。グラフ243は、抽出部20が、第1の受信信号、第2の受信信号、第3の受信信号を単純加算したときの基本波成分の値についてプロットしたものである。
同様に、グラフ241、グラフ242は、抽出部20が、第1の受信信号、第2の受信信号、第3の受信信号を単純加算したときの、2次の成分及び3次高調波成分についてプロットしたものである。対称性より、グラフ243(基本波成分)は、周波数によらず0になる。グラフ241(2次成分)は、2次の成分のうち、0次高調波部分(直流成分)の部分に加えて、新たにf2−f1の周波数成分が、単純加算でキャンセルせずに残り、f2−f1=1.7MHz付近に信号強度のショルダーを有する。グラフ238(3次成分)は、3次高調波成分(3f1=3.9MHz、2f1+f2=5.6MHz、f1+2f2=7.3MHz、3f2=9MHz)が抽出されていると考えられる。従って、3.9MHz〜9.0MHzの帯域を有すると考えられる。ただし、基本波成分の周波数特性を見ると分かるように、1.3MHzの周波数成分に比べて、3MHzの周波数成分の大きさが、10dBほど弱い。
従って、図17Dの3次成分は、3f1〜3f2の周波数成分によって、広帯域が作られていることがわかる。
3f1〜2f1+f2の周波数領域でのみ強度が大きくなっているようにみえるのは、f1とf2それぞれの周波数成分の振幅比によるものであり、f1とf2それぞれの周波数成分の振幅比を変えることにより、異なる周波数帯域のプロファイルを生成することができる。例えば、f1よりf2の周波数成分の振幅を大きくすることにより、3次高調波のメインの信号強度ピークの位置が、f1+2f2〜3f2の周波数帯域となるようにすることもできる。
図18A及び図18Bは、腹部コンベックスプローブを用いて、ファントムの受信信号を基に、3次抽出を行った場合のデータを示している。
図18Aは、単一周波数の通常波形(2.0MHz)の場合を示している。グラフ250、グラフ251、グラフ252は、それぞれ第1の受信信号、第2の受信信号、第3の受信信号の周波数依存性を示している。それぞれ、共通の包絡線で位相を変調させているだけなので、ほぼ同じ周波数依存性をしめしている。基本波成分(2MHz付近)の強度は95dB、2次高調波成分(4MHz付近)の強度が90dBであるのに対して、3次高調波成分(6MHz付近)の強度は75dB程度であり、3次高調波成分の強度は、基本波成分の強度に比べて20dB低い(10分の1)になっている。
抽出部20は、第1の受信信号、第2の受信信号、第3の受信信号を単純に加算して、3次高調波成分を抽出する。グラフ253は、そのようにして抽出された信号を表している。抽出部20は、3次高調波成分を9dB(3倍)ほど増幅して抽出している。すなわち、抽出部20は、3回分の受信信号を加算することで、基本波成分をキャンセルし、また、3次高調波成分を3倍に増幅することができる。
図18Bは、2つの周波成分(f1=1.3MHz,f2=3MHz)を含む場合を示している。グラフ254、グラフ255、グラフ256は、それぞれ第1の受信信号、第2の受信信号、第3の受信信号の周波数依存性を示している。これらの信号は3MHz付近で信号強度が最大になっている。抽出部20は、第1の受信信号、第2の受信信号、第3の受信信号を単純に加算して、3次高調波成分を抽出する。グラフ257は、そのようにして抽出された信号を表している。この時、「cancel」が「No」となるような周波数成分は、f2−f1(1.7MHz)、3f1(3.9MHz)、2f1+f2(5.6MHz)、f1+2f2(7.3MHz)、3f2(9MHz)と考えられるが、f1+2f2及び3f2は、超音波プローブ1の帯域外の周波数になってしまっているため、信号強度を有しないと考えられる。この結果、f2−f1、3f1、2f1+f2の周波数成分の信号が抽出されている。
図18Aでは、5MHz〜7MHzの範囲で、3次抽出された信号強度が、第1から第3の受信信号の信号強度より強くなっている。従って、3次抽出された信号強度の帯域幅は、7−5=2MHz程度と考えることができる。これに対して、図18Bでは、4MHz〜7MHzの範囲で、3次抽出された信号強度が、第1から第3の受信信号の信号強度より強くなっている。従って、3次抽出された信号強度の帯域幅は、7−4=3MHz程度と考えることができる。このことより、2つの周波数成分を含む超音波送信を用いることにより、3次成分の広帯域化が実現されていることがわかる。
図19は、複数周波数を含む送信波形の場合に、3次抽出及び2次抽出を行った場合の
信号強度のデータを示している。グラフ271,272,273は、それぞれ、第1の受信信号、第2の受信信号、第3の受信信号を表している。グラフ274は、2次抽出された信号を表している。グラフ275は、3次抽出された信号を表している。2次抽出された信号は、3.5MHz〜7MHzの間で、受信信号より信号強度が大きくなっており、この周波数帯域で、信号が抽出されていることがわかる。3次抽出された信号は、4MHz〜7MHzの間で、受信信号より信号強度が大きくなっており、この周波数帯域で、信号が抽出されていることがわかる。抽出部20は、かかる処理を行うことで、このような広い周波数帯域において、信号の抽出を行うことができ、超音波診断装置の画質を向上させることができる。
次に、図20を用いて、f1及びf2の値を、どのように定めれば、高次高調波成分を広帯域化するのに好適かを検討する。
まず、第1の周波数f1と第2の周波数f2の比を、α=f2/f1として、どのような値が望ましいかを検討する。
α>4のときは、f2>4f1であるから、f2−f1>3f1となる。従ってこの時には、3次高調波3f1の周波数帯域に、2次高調波f2−f1の周波帯域が重なり、画質が劣化する。従って、αは4を超えないことが望ましい。
一方、例えば3f1と2f1+f2の周波数の差はf2−f1となるが、帯域幅は、この値、すなわちf2−f1と相関すると考えられる。f2−f1=(α―1)f1であるから、αの値は大きい方が、帯域幅を大きくするのには望ましい。
次に、αの値を固定した上で、第1の周波数f1の値の設定方法について検討する。例えば、第1の周波数f1の値は、画像化のターゲットとなる周波数成分のうちの最大の周波数成分が、プローブ帯域上限Dと等しくなるように定めることができる。
例えば、ターゲットとなる周波数成分のうちの最大の周波数成分が、「2f1+f2」の場合、2f1+f2=Dとなるように、f1を定めることができる。この式からf1、f2を求めると、f1=D/(2+α)、f2=αD/(2+α)になる。
また、例えば、ターゲットとなる周波数成分のうちの最大の周波数成分が、「f1+2f2」の場合、f1+2f2=Dとなるように、f1を定めることができる。この式からf1、f2を求めると、f1=D/(1+2α)、f2=αD/(1+2α)になる。
また、例えば、ターゲットとなる周波数成分のうちの最大の周波数成分が、「3f2」の場合、3f2=Dとなるように、f1を定めることができる。この式からf1、f2を求めると、f1=D/(3α)、f2=D/3になる。
図20は、画像化のターゲットとする3次高調波成分の組み合わせを変えたときの、f1とf2の選び方について説明した図である。この図の第1の周波数f1及び第2の周波数f2は、例えば、α=2.5程度、D=5.5MHz程度になるような値を選んだものである。
図20の上段の図は、3次高調波成分として、3f1及び2f1+f2をターゲットにした場合を説明した図である(f1=1.3MHz、f2=3.0MHz)。f2<4f1であるので、f2−f1<3f1であり、2次高調波成分f2−f1=1.7MHzより、3f1=3.9MHzが十分大きくなる。また、2f1+f2=5.6MHzとなり、プローブ帯域上限D=5.5MHzに近くなっている。従って、3次高調波成分は、3f1〜2f1+f2の周波数帯域を有する。
図20の中段の図は、3次高調波成分として、3f1、2f1+f2及びf1+2f2をターゲットにした場合を説明した図である(f1=0.9MHz、f2=2.3MHz)。f2<4f1であるので、f2−f1<3f1であり、2次高調波成分f2−f1=1.4MHzより、3f1=2.7MHzが十分大きくなる。また、f1+2f2=5.5MHzとなり、プローブ帯域上限D=5.5MHzに近くなっている。従って、3次高調波成分は、3f1〜f1+2f2の周波数帯域を有する。
図20の下段の図は、3次高調波成分として、3f1、2f1+f2、f1+2f2、及び3f2をターゲットにした場合を説明した図である(f1=0.8MHz、f2=1.8MHz)。f2<4f1であるので、f2−f1<3f1であり、2次高調波成分f2−f1=1.0MHzより、3f1=2.4MHzが十分大きくなる。また、3f2=5.4MHzとなり、プローブ帯域上限D=5.5MHzに近くなっている。従って、3次高調波成分は、3f1〜3f2の周波数帯域を有する。
また、送信部9が送信する超音波が、3つ以上の周波数成分を有する場合でも同様に考えることができる。例えば、送信部9が送信する超音波が、第1の周波数成分f1、第1の周波数成分より大きい周波数成分f2、第2の周波数成分f2より大きい周波数成分f3を有する場合について検討する。抽出部20は、第1の受信信号、第2の受信信号、第3の受信信号を単純に加算して、3次高調波成分を抽出する。この場合、高い対称性により、多くの周波数成分が、「cancel」が「Yes」となり、除去される。「cancel」が「No」となる周波数成分は、目的の3次高調波成分である、3f1、2f1+f2、2f1+f3、f1+2f2、f1+f2+f3、f1+2f3、f2+2f3、2f2+f3、3f2、3f3、及び、2次高調波成分である、f2−f1、f3−f2、f3−f1である。
今、最も高い周波数成分であるf3が、最も低い周波数成分f1の4倍を超えない周波数になる場合について考える。f3<4f1であるので、f3−f1<3f1となる。f3−f1は、「cancel」が「No」となる2次高調波成分の中で、最も高い周波数の周波数成分であり、3f1は、「cancel」が「Yes」となる3次高調波成分の中で、最も低い周波数の周波数成分である。よって、この場合、抽出される3次高調波成分の中で、最も低い周波数の周波数が、抽出される2次高調波成分の中で、最も高い周波数成分よりも大きい周波数になっているので、3次高調波成分の周波数帯域に2次高調波成分が入り込まず、従って周波数帯域3f1〜3f3を広帯域化することができる。周波数成分が4つ以上の場合でも同様に、周波数成分のうちもっとも大きい周波数の周波数成分fMAXが、周波数成分のうちもっとも小さい周波数の周波数成分fMINの4倍を超えない時、fMAX−fMIN<3fMINとなり、3次高調波成分の帯域の中に、2次高調波成分が入り込まず、従って周波数帯域3fMIN〜3fMAXを広帯域化することができる。
また、抽出部20が、受信信号のそれぞれに対して、(0度、120度、240度)の位相回転処理を行い、位相回転処理を行った受信信号それぞれに対してビーム加算処理を行って、2次高調波成分の組み合わせを抽出したとき、「cancel」が「No」の結果となる、2f1、f1+f2、2f2、f2−2f1が抽出され、その他の周波数成分、例えば基本波成分f1、f2や、f2−2f1以外の3次高調波成分が除去される。ここで、前述のように、広帯域化にはαが大きい方が望ましいので、α>2の場合を考える。その場合、f2−2f1>0となる。さて、f2がf1の4倍を超えない(f2<4f1)とき、f2−2f1<2f1となる。3次高調波成分2f2−f1が、2次高調波成分のうちもっとも低い周波数成分2f1を下回るので、2次高調波成分に、基本波成分や、2次高調波成分が入り込まない。また、3次高調波成分に、基本波成分や、2次高調波成分が入り込まない。従って、2次の周波数帯域2f1〜2f2が広帯域化される。また、3次の周波数帯域f2−2f1の画質が向上する。同様に、周波数成分が3つ以上の場合でも同様に、周波数成分のうちもっとも大きい周波数の周波数成分fMAXが、周波数成分のうちもっとも小さい周波数の周波数成分fMINの4倍を超えない(fMAX<4fMIN)時、fMAX−2fMIN<2fMINとなり、2次高調波成分の帯域の中に、3次高調波成分が入り込まず、従って周波数帯域2fMIN〜2fMAXを広帯域化することができる。
以上のように、第4の実施形態では、送信部9が、複数の周波数成分を有する超音波を複数回送信する。これにより、広帯域な高次高調波成分を抽出することができる。
また、抽出部20は、3以上の受信信号のうち2以上の受信信号に対して所定の位相回転処理を実行することで所定の高調波成分の組み合わせ(第1の複数の非線形成分)を抽出する。また、抽出部20は、3以上の受信信号のうち2以上の受信信号に対して少なくとも1つの受信信号に対する位相回転角度が所定の位相回転処理とは異なる位相回転処理を含む処理を実行することで、所定の高調波成分の組み合わせとは異なる組み合わせ(第1の複数の非線形成分とは種類が異なる複数の第2の非線形成分)を抽出してもよい。具体的には、送信部9は、超音波送信を、複数の周波数成分それぞれの位相を互いに等しい角度だけずらして、超音波プローブに3回以上実行させ、抽出部20は、3以上の受信信号のうち2以上の受信信号に対して、当該互いに等しい角度の整数倍の角度である角度だけ位相を回転させる位相回転処理を第1の位相回転処理として実行することで、所定の高調波成分の組み合わせを抽出する。また、抽出部20は、3以上の受信信号のうち2以上の受信信号に対して、当該互いに等しい角度の整数倍の角度である角度だけ位相を回転させる位相回転処理であって、少なくとも一つの受信信号に対する位相回転角度が所定の位相回転処理とは異なる位相回転処理を実行することで、異なる組み合わせを抽出してもよい。
また、抽出部20が、位相回転処理を含まない処理を実行することで、3次高調波成分を抽出する例について説明したが、実施形態はこれに限られない。例えば、抽出部20は、所定の高調波成分の組み合わせとして、2次高調波成分を有する組み合わせを抽出し、3以上の受信信号それぞれに対して同一の位相回転角度だけ回転させる位相回転処理を実行することで、3次高調波成分を有する組み合わせを抽出してもよい。
(第5の実施形態)
第4の実施形態では、送信部9が、複数の周波数中心成分を有する超音波を、超音波プローブ1に送信させる例について説明した。第5の実施形態では、特に、深部画質を劣化させるDCハーモニック成分を除去しながら、3回の超音波送信で、2次高調波成分と差音成分を同相で抽出するシーケンスについて説明する。これにより、抽出部20は、画像生成にあたり、プローブ帯域のうち広い範囲の周波数帯域を活用することができる。
図21〜図24Bを用いて、第5の実施形態に係る超音波診断装置について説明する。図21及び図23は、第5の実施形態に係る超音波診断装置における超音波送信について説明した表である。図22は、第5の実施形態に係る超音波診断装置における超音波送信について説明した図である。図24A及び図24Bは、第5の実施形態に係る超音波診断装置が処理する信号について説明するための図である。
図21の上段は、超音波を4回送信する4レート送信を行う例について説明している。この場合、送信部9は、送信する超音波に含まれる第1の中心周波数成分f1及び第2の中心周波数f2における位相がそれぞれ異なる4回の超音波送信を、超音波プローブ1に実行させる。例えば、送信部9は、第1の中心周波数成分f1について、第1の送信では位相が90度、第2の送信では位相が-90度、第3の送信では位相が0度、第4の送信では位相が180度で、第2の中心周波数成分f2について、第1の送信では位相が90度、第2の送信では位相が-90度、第3の送信では位相が180度、第4の送信では位相が0度で、4回の超音波送信を、超音波プローブ1に実行させる。
受信部11は、4回の超音波送信によって得られた4つの反射波信号を基に、共通の受信走査線に係る4つの受信信号を生成する。抽出部20は、受信信号に所定の受信重み係数を乗じて和を取ることで、合成信号を生成する。例えば、抽出部20は、第1の送信に対応する第1の受信信号に、受信重み係数「1」を乗じ、第2の送信に対応する第2の受信信号に、受信重み係数「1」を乗じ、第3の送信に対応する第3の受信信号に、受信重み係数「−1」を乗じ、第4の送信に対応する第4の受信信号に、受信重み係数「−1」を乗じ、かかる後にそれらの値を加算することで、合成信号を生成する。かかる処理により、抽出部20は、f2−f1、2f1、2f2の成分を抽出する。また、かかる処理により、DCハーモニック成分は除去される。
しかしながら、図21の上段の例では、4回の送信が必要となり、フレームレートが低下する。
かかる背景のもとで、第5の実施形態に係る超音波診断装置では、送信部9は、送信する超音波に含まれる複数の中心周波数成分のうちの少なくとも一つの周波数成分における位相がそれぞれ異なる3回以上の超音波送信を、超音波プローブ1に実行させる。例えば、送信部9は、各送信で異なる(例えば、互いに120度異なる)位相で送信する第1の中心周波数成分f1と、各送信で同一の位相で送信する第2の中心周波数成分f2とを含んだ複数の中心周波数成分で、3回以上の超音波送信を前記超音波プローブに実行させる。ここで、例えば、第2の中心周波数成分f2は第1の中心周波数成分f1より大きい。
例えば、図21の下段の例では、送信部9は、第1中心周波数成分f1と第2中心周波数成分f2との2つの周波数成分を各送信にそれぞれ含んだ3回の超音波送信を、超音波プローブ1に実行させる。この時、送信部9は、第1の中心周波数成分f1について、第1の送信では位相が0度、第2の送信では位相が120度、第3の送信では位相が240度、第2の中心周波数成分f2について、第1の送信では位相が0度、第2の送信では位相が0度、第3の送信では位相が0度で、3回の超音波送信を、超音波プローブ1に実行させる。
受信部11は、3回以上の超音波送信によって得られた複数の反射波信号を基に、共通の受信走査線に関する3以上の受信信号を生成する。抽出部20は、受信部11が生成した3以上の受信信号のうち2以上の受信信号に対して位相回転処理を行う。例えば、抽出部20は、3以上の受信信号それぞれに対して、位相回転角度の差が、互いに120度だけ異なる位相回転角度を用いて位相回転処理を行う。
図21の下段の例では、抽出部20は、第1の送信に対応する第1の受信信号に対して、0度の位相回転を行う。すなわち、抽出部20は、第1の送信に対応する第1の受信信号に対して、受信重み係数「1」を乗じる。また、抽出部20は、第2の送信に対応する第2の受信信号に対して、120度の位相回転を行う。すなわち、抽出部20は、第2の送信に対応する第2の受信信号に対して、受信重み係数「exp(j*120deg)」を乗じる。また、抽出部20は、第3の送信に対応する第3の受信信号に対して、240度の位相回転を行う。すなわち、抽出部20は、第3の送信に対応する第3の受信信号に対して、受信重み係数「exp(-j*120deg)」を乗じる。
かかる処理を行うことで、抽出部20は、一例として、第1の中心周波数f1の2倍の周波数に対応する信号(2f1)と、第2の中心周波数f2と第1の中心周波数f1との差の周波数に対する信号(f2−f1)との組み合わせを複数の非線形成分として抽出する。
かかる点について、図22の例及び図23の例を用いて説明する。図22の上段の例では、各送信における送信される超音波の位相が、各周波数成分ごとに示されている。第1の送信(Rate1)では、送信部9は、第1の中心周波数成分f1については位相が0度で、第2の中心周波数成分f2については位相が0度で、超音波送信を超音波プローブ1に実行させる。第2の送信(Rate2)では、送信部9は、第1の中心周波数成分f1については位相が120度で、第2の中心周波数成分f2については位相が0度で、超音波送信を超音波プローブ1に実行させる。第3の送信(Rate3)では、送信部9は、第1の中心周波数成分f1については位相が240度で、第2の中心周波数成分f2については位相が0度で、超音波送信を超音波プローブ1に実行させる。
図22の中段では、各送信での非線形伝播の位相が示されている。第1の送信では、非線形伝播により発生する周波数成分2f1の位相は、f1の位相が0度であるから、2×0度=0度になる。また、非線形伝播により発生する周波数成分f2-f1の位相は、f1の位相が0度であり、f2の位相が0度であるから、0度−0度=0度になる。また、第2の送信では、周波数成分2f1の位相は、f1の位相が120度であるから、2×120度=240度になる。また、周波数成分f2-f1の位相は、f1の位相が120度であり、f2の位相が0度であるから、0度−120度=-120度(240度)になる。また、第3の送信では、周波数成分2f1の位相は、f1の位相が240度であるから、2×240度=480度(120度)になる。また、周波数成分f2-f1の位相は、f1の位相が240度であり、f2の位相が0度であるから、0度−240度=-240度(120度)になる。
抽出部20は、位相回転角度(0度、120度、240度)の位相回転処理を受信信号に対して行う。この結果、図22の下段のように、第1の送信では、位相回転角度が0度であるから、周波数成分2f1の位相及び周波数成分f1-f2の位相は、位相回転処理前の位相と同様に、0度となる。また、第2の送信では、位相回転角度が120度であり、位相回転前の位相が240度であるから、周波数成分2f1の位相及び周波数成分f1-f2の位相は、240+120=360度(0度)となる。また、第3の送信では、位相回転角度が240度であり、位相回転前の位相が120度であるから、周波数成分2f1の位相及び周波数成分f1-f2の位相は、120+240=360度(0度)となる。これら位相回転処理後の位相が揃っていることから、抽出部20は、周波数成分2f1及び周波数成分f1-f2を、抽出することができる。
図23に、様々な周波数成分のモードが抽出されるか否か(キャンセルされるか否か)が、図15と同様に示されている。送信部9は、第1中心周波数f1(f1=1.5MHz)について、第1の送信(rate1)では位相を0度で、第2の送信(rate2)では位相を120度で、第3の送信(rate3)では位相を240度で、第2中心周波数f2(f2=4MHz)について、第1の送信(rate1)では位相を0度で、第2の送信(rate2)では位相を0度で、第3の送信(rate3)では位相を0度で、超音波送信を超音波プローブ1に実行させる。下段には、抽出部20が、位相回転角度が(0度、0度、0度)であるような抽出である3次抽出を行った場合、位相回転角度が(0度、120度、240度)であるような抽出である2次抽出を行った場合、それぞれの周波数成分が加算処理によりキャンセルされるか否かが示されている。かかる計算の詳細については、図15及び図22において述べたので省略する。
図23の最下段を参照すると、周波数成分2f1、f2−f1、2f1+f2、2f2−f1のモードは、cancelが「No」になる。従って、抽出部20は、位相回転角度が(0度、120度、240度)であるような抽出を行った場合、周波数成分2f1、f2−f1、2f1+f2、2f2−f1のモードを抽出することができる。それ以外のモード、例えば、f1、f2、f1+f2、2f2、3f1、f1+2f2、3f2、f2−2f1の成分は、cancelが「Yes」になる。抽出部20は、位相回転角度が(0度、120度、240度)であるような抽出を行った場合、f1、f2、f1+f2、2f2、3f1、f1+2f2、3f2、f2−2f1の成分を除去することができる。また、第1の実施形態ですでに説明した通り、抽出部20は、(0度、120度、240度)となる角度の組み合わせで位相回転処理を行うことにより、DCハーモニック成分を除去することができる。従って、DCハーモニック成分については、cancelが「Yes」となる。
また、プローブ帯域上限が例えば6MHzである場合、抽出部20は、位相回転角度が(0度、120度、240度)であるような抽出を行った場合、周波数成分2f1(3MHz)、f2−f1(2.5MHz)のモードを抽出することができ、かつプローブ帯域内のモードf1(1.5MHz)、f2(4MHz)、f1+f2(5.5MHz)、2f2(8MHz)、3f1(4.5MHz)、f2−2f1(1MHz)、DCハーモニック成分(0MHz)に起因する信号をすべて除去することができる。これにより、例えば、抽出部20は、さまざまな雑音が除去された信号を抽出することができる。
特筆すべき点として、第1に、抽出部20は、かかる位相回転処理を行うことにより、DCハーモニック成分を除去することができる。信号の減衰が大きい時にはDCハーモニック成分は深部画質を劣化させることが知られているので、抽出部20は、DCハーモニック成分の除去を3回送信で実現することにより、深部画質を向上させることができる。また、第2に、抽出部20は、和音ではなく差音を抽出する。差音のほうが、和音よりもプローブ帯域を効率的に利用できるので、抽出部20は、プローブ帯域を効率的に活用できる。
図24Aにおいて、グラフ442A、グラフ442Bは、対照法であるPM法(Phase Modulation法)における第1の送信に対応する受信信号、第2の送信に対応する受信信号の信号強度の周波数依存性をそれぞれ示している。また、グラフ443は、当該対照法を用いて出力された合成信号の信号強度の周波数依存性を示している。図24Aでは、DCハーモニック成分が十分除去されない。
図24Bにおいて、グラフ440A、グラフ440B、グラフ440Cは、第5の実施形態に係る方法における第1の送信に対応する受信信号、第2の送信に対応する受信信号、第3の送信に対応する受信信号の信号強度の周波数依存性をそれぞれ示している。グラフ441は、第5の実施形態に係る方法における合成信号の信号強度の周波数依存性を示している。図24Bでは、DCハーモニック成分が十分除去されているため、DCハーモニック成分に起因する深部画質の劣化を抑制することができる。
なお、実施形態はこれに限られない。例えば、第2の中心周波数成分f2の周波数が第1の中心周波数成分f1の周波数より大きい場合について説明したが、第1の中心周波数成分f1の周波数が第2の中心周波数成分f2の周波数より大きい場合であってもよい。
また、第2の中心周波数成分f2に関して、各送信で同一の位相で超音波が送信される場合について説明したが、第2の中心周波数成分f2に関しても、各送信で異なった位相で超音波が送信されてもよい。
また、超音波送信の回数は3回に限られず、また位相回転角度は120度の倍数に限られない。例えば、送信部9は、各送信で同一の位相で送信する第1の中心周波数成分f1と、各送信で互いに等しい角度だけ異なる位相で送信する第2の中心周波数成分f2とを含んだ複数の中心周波数成分で、3回以上の超音波送信を超音波プローブ1に実行させる。抽出部20は、3以上の受信信号それぞれに対して、位相回転角度が、当該等しい角度だけ異なる位相回転角度を用いて位相回転処理を行うことで、非線形成分を抽出する。
また、第5の実施形態に係る超音波診断装置は、プローブの位相特性を送信波形の位相変調に反映させてもよい。すなわち、プローブのインピーダンスは周波数により異なるから、プローブに入力された信号は周波数に応じて異なる大きさの位相変調を受ける。送信部9は、かかるプローブの位相特性を、送信波系の位相変調に反映させてもよい。例えば、送信部9は、δ1及びδ2をプローブの位相特性を反映した量とし、第1の中心周波数成分f1に対して、第1の送信では、位相をδ1度で、第2の送信では、位相を120+δ1度で、第3の送信では、位相を240+δ1度で送信し、第2の中心周波数成分f2に対して、第1の送信では、位相をδ2度で、第2の送信では、位相をδ2度で、第3の送信では、位相をδ2度で送信してもよい。
以上のように、第5の実施形態では、送信部9は、位相変調を行う第1の中心周波数成分f1と、位相変調を行わない第2の中心周波数成分f2を含む波形を送信する。抽出部20は、受信信号に対して位相回転処理を伴う処理を行い、例えばDCハーモニック成分及び和音成分を除去し、同時に差音と2次高調波成分を抽出する。これにより、差音を使ったDCハーモニック成分の除去を、3回送信で実現することができる。
(第6の実施形態)
これまでの実施形態では、同一の走査線で位相をずらしながら3回以上の超音波送信を実行する場合について主に説明してきたが、実施形態は、これに限られない。第6の実施形態では、1回の送受信で複数の受信信号を得る並列同時受信を、第1の実施形態に係る超音波シーケンスと組み合わせる例について説明する。これにより、複数回送信によるフレームレート低下を抑制する。
第6の実施形態にかかる超音波診断装置では、送信部9は、一度の送信で複数の受信走査線それぞれに対応する受信信号を得ることができる3回以上の超音波送信を超音波プローブ1に実行させ、受信部11は、3回以上の超音波送信によって得られた複数の反射波信号を基に、受信走査線ごとに3以上の受信信号を生成する。
まず初めに、並列同時受信について説明する。超音波診断装置における並列同時受信とは、一度の送受信で複数の受信走査線それぞれに対応する受信信号を得ることができる超音波の送受信方法のことである。例えば、第6の実施形態に係る超音波診断装置は、送信部9が1本の送信ビームを超音波プローブ1に送信させると、受信部11は、送信部9が超音波プローブ1に送信させた1本の送信ビームに由来する反射波信号を、複数本の受信ビームとして同時に受信する。例えば、並列同時受信数が「8」の場合、送信部9が、ある送信位置(送信走査線)で、1本の送信ビームを超音波プローブ1に送信させると、受信部11は、反射波信号を、8本の受信ビームとして同時に受信する。
このように、並列同時受信を用いることで、複数回送信によるフレームレート低下を抑制することができる。このことを簡単に説明する。例えば、一つの走査線に対して、3回の送信を1セットとして超音波送信を行うと、フレームレート、すなわち単位時間あたりに走査することができる走査線の本数は、一つの走査線に対して1回の超音波送信を行った場合と比較して、3分の1となり、フレームレートは低下する。ここで、例えば、並列同時受信数が「3」の並列同時受信を行った場合、1回の送信(1個の送信走査線)に対して、3つの受信走査線で受信信号を得ることができるので、並列同時受信を行わない場合と比較して、フレームレートは3倍となる。したがって、並列同時受信を用いることで、複数回送信によるフレームレート低下を抑制することができる。
図25Aは、第6の実施形態に係る第1の超音波送信シーケンスについて説明した図である。図25Aに示すように、送信部9は、送信する超音波の包絡線が共通するような3回の超音波送信を1セットとして、超音波の位相がそれぞれ0度(0deg)、120度(120deg)、240度(240deg)となるように位相を変調させながら、超音波プローブ1に送信させる。また、送信部9は、超音波送信を行う送信位置(送信走査線)を変化させながら、超音波プローブ1に超音波を送信させる。具体的には、送信部9は、第1の送信、第2の送信、第3の送信では、走査線Bが、送信する超音波の中心軸となるような送信位置(送信走査線)で、超音波プローブ1に超音波を送信させ、第4の送信、第5の送信、第6の送信では、走査線Eが、送信する超音波の中心軸となるような送信位置(送信走査線)で、超音波プローブ1に超音波を送信させる。このとき、第1の送信及び第4の送信では、送信される超音波の位相は0度、第2及び第5の送信では、送信される超音波の位相は120度、第3及び第6の送信では、送信される超音波の位相は240度となる。
今、並列同時受信数が「3」の場合を考える。このとき、受信部11は、送信部9が送信した超音波の中心軸となるような走査線の周りの、3本の走査線それぞれでの受信信号を生成する。例えば、送信部9が第1の送信において、走査線Bが送信した超音波の中心軸となるように超音波を送信すると、受信部11は、それに対応する受信信号を、走査線A、B及びCの3本の走査線(受信走査線)で生成する。同様に、送信部9が第2、第3の送信において、走査線Bが送信した超音波の中心軸となるように超音波を送信すると、受信部11は、それに対応する受信信号を、走査線A、B及びCの3本の走査線(受信走査線)で生成する。同様に、第4、第5、第6の送信において、受信部9は、走査線D、E及びFの3本の走査線(受信走査線)で受信信号を生成する。
受信部11は、受信走査線ごとに受信信号を生成する。例えば、受信部11は、走査線Aの位置で、第1の送信に対応する受信信号、第2の送信に対応する受信信号、第3の送信に対応する受信信号を生成する。受信部11は、走査線Bの位置で、第1の送信に対応する受信信号、第2の送信に対応する受信信号、第3の送信に対応する受信信号を生成する。その他の走査線に関しても以下同様である。
抽出部20は、受信走査線ごとに生成された受信信号に対して、これまでの実施形態で述べた位相回転処理を含む処理を行って、所定の次数の高調波成分、例えば2次の高調波成分を抽出する。また、抽出部20は、受信走査線ごとに生成された受信信号に対して、これまでの実施形態で述べた位相回転処理を含まない処理を行って、所定の次数とは異なる次数の高調波成分、例えば3次の高調波成分を抽出する。また、以降の操作として、必要に応じて、第2の実施形態で述べたように、所定の次数の高調波成分と、所定の次数とは異なる次数の高調波成分とを合成した成分に基づく超音波画像データを、モニタ2など表示装置に表示用に出力してもよい。また、送信する超音波として、第3の実施形態で述べたような、複数の周波数成分を有する超音波を用いてもよい。
また、受信走査線は、必ずしもシーケンシャルに並んでいなくともよい。図25Bは、第6の実施形態に係る第2の超音波送信シーケンスである。
この例では、第1、第3、第5の送信で、送信部9が、走査線Cが、送信する超音波の中心軸となるような送信位置で、超音波プローブ1に超音波を送信させる。また、第2、第4、第6の送信で、送信部9が、走査線Dが、送信する超音波の中心軸となるような送信位置で、超音波プローブ1に超音波を送信させる。このとき、第1及び第2の送信では、送信される超音波の位相は0度、第3の送信及び第4の送信では、送信される超音波の位相は120度、第5及び第6の送信では、送信される超音波の位相は240度となる。
受信部11は、第1、第3、第5の送信に対応する受信信号を、走査線A、C、Eの位置(受信走査線)で生成し、第2、第4、第6の送信に対応する受信信号を、走査線B、D、Fの位置(受信走査線)で生成する。抽出部20は、受信走査線ごとに位相回転処理を含む処理を行って、所定の次数の高調波成分、例えば2次の高調波成分を抽出する。また、抽出部20は、受信走査線ごとに位相回転処理を含まない処理を行って、所定の次数とは異なる次数の高調波成分、例えば3次の高調波成分を抽出する。
また、すべての送信それぞれに対応する超音波の包絡線が、必ずしもすべての送信に対して共通の包絡線でなくてもよい。例えば、第1、第3、第5の送信に対応する超音波の包絡線が、第1、第3、第5の送信に共通の包絡線である第1の包絡線であり、第2、第4、第6の送信に対応する超音波の包絡線が、第2、第4、第6の送信に共通の包絡線であって、第1の包絡線とは異なる第2の包絡線であってもよい。一例として、第1の包絡線が、深さ方向に浅い位置に対して適した超音波の波形となるような包絡線であり、第2の包絡線が、深さ方向に深い位置に対して適した超音波の波形となるような包絡線であってもよい。
以上、送信部9が、1セットの超音波送信において送信位置(送信走査線)を固定し、受信部11が、単純に並列同時受信を行う場合について説明したが、実施形態はこれに限られない。例えば、送信部9は、1回の送信ごとに送信位置をずらしながら、超音波送信を行っても良い。すなわち、送信部9は、3回以上の超音波送信を、それぞれ異なる送信位置で、超音波プローブ1に実行させてもよい。図26Aは、第6の実施形態に係る第3の超音波送信シーケンスについて説明した図である。
送信部9は、1回の送信ごとに、送信位置をずらしながら、超音波送信を行う。例えば、送信部9は、第1の送信では、走査線Bが、送信する超音波の中心軸となるような送信位置で、超音波プローブ1に超音波を送信させる。送信部9は、第2の送信では、走査線Cが、送信する超音波の中心軸となるような送信位置で、超音波プローブ1に超音波を送信させる。同様に、送信部9は、第3、4、5、6の送信では、走査線D、E、F、Gが、送信する超音波の中心軸となるような送信位置で、超音波プローブ1に超音波を送信させる。この時、第1の送信で送信される超音波の位相は0度(0 deg)となる。また第2の送信で送信される超音波の位相は120度(120 deg)となる。同様に、第3、4、5、6の送信で、送信される超音波の位相は240度(240 deg)、0度、120度、240度となる。
受信部11は、第1の送信に対応する受信信号を、走査線A、走査線B及び走査線Cの3本の走査線で生成する。受信部11は、第2の送信に対応する受信信号を、走査線B、走査線C及び走査線Dの3本の走査線で生成する。受信部11は、第3の送信に対応する受信信号を、走査線C、走査線D及び走査線Eの3本の走査線で生成し、その他の送信についても以下同様である。
受信部11は、受信走査線ごとに受信信号を生成する。例えば、受信部11は、走査線Cに関して、ボックス300に示されているように、走査線Cの位置における第1の送信に対応する受信信号、第2の送信に対応する受信信号、第3の送信に対応する受信信号を生成する。また、例えば、受信部11は、走査線Dに関して、ボックス301に示されているように、走査線Dの位置における第2の送信に対応する受信信号、第3の送信に対応する受信信号、第4の送信に対応する受信信号を生成する。その他の走査線についても以下同様である(例えば、ボックス302を参照。)。
抽出部20は、受信走査線ごとに生成された受信信号に対して、これまでの実施形態で述べた位相回転処理を含む処理を行って、所定の次数の高調波成分、例えば2次の高調波成分を抽出する。また、抽出部20は、受信走査線ごとに生成された受信信号に対して、これまでの実施形態で述べた位相回転処理を含まない処理を行って、所定の次数とは異なる次数の高調波成分、例えば3次の高調波成分を抽出する。
走査線Cでは、3つの受信信号の位相がそれぞれ、0度、120度、240度なので、回転位相角の値が、(0度、120度、240度)となる組み合わせで位相回転処理を行って、2次の高調波成分を抽出する。また、3つの受信信号を単純に加算して、3次の高調波成分を抽出する。
走査線Dでは、3つの受信信号の位相はそれぞれ、120度、240度、0度なので、走査線Cとは位相が異なるが、その場合でも、回転位相角の値が、(0度、120度、240度)となる組み合わせで位相回転処理を行うと、2次の高調波成分を抽出することができる。一般に、3つの受信信号の位相がそれぞれ、θ度、θ+120度、θ+240度の組み合わせであれば、θの値によらず(走査線C:θ=0度、走査線D:θ=120度、走査線E:θ=240度)、回転位相角の値が(0度、120度、240度)となる組み合わせで位相回転処理を行うと、2次の高調波成分を抽出することができる。同様に、3つの受信信号を単純に加算することにより、θの値によらず3次高調波成分を抽出することができる。この場合、走査線Dにおいても、3つの受信信号を単純に加算することで、3次の高調波成分を抽出することができる。
同様に、走査線Eでは、3つの受信信号の位相はそれぞれ、240度、0度、120度となり、走査線Cとは位相が異なるが、その場合でも、回転位相角の値が、(0度、120度、240度)となる組み合わせで位相回転処理を行うと、2次の高調波成分を抽出することができる。また、走査線Dにおいても、3つの受信信号を単純に加算することで、3次の高調波成分を抽出することができる。走査線F、G,H…の場合でも、受信信号の位相が走査線Cとは異なる場合があるが、その場合でも、回転位相角の値が、(0度、120度、240度)となる組み合わせで位相回転処理を行うと、2次の高調波成分を抽出することができ、3つの受信信号を単純に加算することで、3次の高調波成分を抽出することができる。
図26Bは、第6の実施形態に係る第4の超音波送信シーケンスについて説明した図である。図26Bでは、図26Aと同様であるが、図26Aと異なり、並列同時受信数を「6」とし、ビームのずらし数を、「2ビームずらし」とした場合について説明する。
送信部9は、1回の送信ごとに、送信位置をずらしながら、超音波送信を行う。例えば、送信部9は、第1の送信では、走査線Cと走査線Dとの中間が、送信する超音波の中心軸となるような送信位置で、超音波プローブ1に超音波を送信させる。送信部9は、第2の送信では、「2ビームずらし」であるので、送信する走査線の位置を、2ビーム分だけずらして送信する。すなわち、送信部9は、第2の送信では、走査線Eと走査線Fとの中間が、送信する超音波の中心軸となるような送信位置で、超音波プローブ1に超音波を送信させる。以下同様である。この時、第1の送信で送信される超音波の位相は0度(0 deg)となる。また第2の送信で送信される超音波の位相は120度(120 deg)となる。同様に、第3、4、5、6の送信で、送信される超音波の位相は240度(240 deg)、0度、120度、240度となる。
受信部11は、並列同時受信数が「6」であるので、第1の送信に対応する受信信号を、6本の走査線で生成する。具体的には、受信部11は、第1の送信に対応する受信信号を、走査線A、B、C、D、E、Fの6本の走査線で生成する。受信部11は、第2の送信に対応する受信信号を、走査線C、D、E、F、G、Hの6本の走査線で生成する。その他の送信についても以下同様である。
受信部11は、受信走査線ごとに受信信号を生成する。例えば、受信部11は、走査線E及びFに関して、ボックス310に示されているように、走査線E及びFの位置における第1の送信に対応する受信信号、第2の送信に対応する受信信号、第3の送信に対応する受信信号を生成する。また、例えば、受信部11は、走査線G及び走査線Hに関して、ボックス311に示されているように、走査線G及びHの位置における第2の送信に対応する受信信号、第3の送信に対応する受信信号、第4の送信に対応する受信信号を生成する。また、受信部11は、走査線I及びJに関して、ボックス312に示されているように、同様に受信信号を生成する。その他の走査線についても以下同様である。
抽出部20は、受信走査線ごとに生成された受信信号に対して、これまでの実施形態で述べた位相回転処理を含む処理を行って、所定の次数の高調波成分、例えば2次の高調波成分を抽出する。また、抽出部20は、受信走査線ごとに生成された受信信号に対して、これまでの実施形態で述べた位相回転処理を含まない処理を行って、所定の次数とは異なる次数の高調波成分、例えば3次の高調波成分を抽出する。
走査線E及びFでは、3つの受信信号の位相がそれぞれ、0度、120度、240度なので、回転位相角の値が、(0度、120度、240度)となる組み合わせで位相回転処理を行って、2次の高調波成分を抽出する。また、3つの受信信号を単純に加算して、3次の高調波成分を抽出する。
走査線G及びHでは、3つの受信信号の位相はそれぞれ、120度、240度、0度なので、走査線E及びFとは位相が異なるが、その場合でも、前述した理由により、回転位相角の値が、(0度、120度、240度)となる組み合わせで位相回転処理を行うと、2次の高調波成分を抽出することができる。また、3つの受信信号を単純に加算することで、3次の高調波成分を抽出することができる。
同様に、走査線I及びJでは、3つの受信信号の位相はそれぞれ、240度、0度、120度なので、走査線E及びFとは位相が異なるが、その場合でも、前述した理由により、回転位相角の値が、(0度、120度、240度)となる組み合わせで位相回転処理を行うと、2次の高調波成分を抽出することができる。また、3つの受信信号を単純に加算することで、3次の高調波成分を抽出することができる。
以上のように、ずらし送信を組み合わせることで、第6の実施形態に係る超音波診断装置は、複数回の送信を1セットとして用いることによるフレームレート低下を抑制することができる。また、ずらし送信を、単純な並列同時受信と比較すると、例えば、単純な並列同時受信の場合である図25Aの走査線A及び走査線Cの受信走査線は、送信走査線である走査線B、すなわち超音波送信の中心軸からずれている位置になるので、走査線Bの受信走査線に比べて画像の精度が低下する。これに対して、例えば図18Aのようなずらし送信の場合、どの受信走査線に対しても、受信走査線が送信走査線と一致する送信が一つ存在する。従って、ずらし送信の場合、受信走査線ごとの画像のばらつきを抑えることができる。
(その他の実施形態)
第1の実施形態では、超音波送信シーケンスが、(0度、120度、240度)の場合について主に説明してきたが、ここでは、他の例を説明する。図27A、27B及び27Cは、そのような超音波送信シーケンス及び回転位相角度の組み合わせの具体例を示している。
図27Aは、送信回数が4回の場合の超音波送信シーケンス及び位相回転角度の組み合わせの具体例を示している。例えば、超音波送信シーケンス(0度、90度、180度、270度)となる。これに対して、位相回転角度の組み合わせとして、(0度、0度、0度、0度)(0度、90度、180度、270度)(0度、180度、360度、540度)(0度、270度、540度、810度)の操作を行うと、それぞれ4次、3次、2次、1次の高調波成分のみを抽出することができる。変形例として、図示していないが、超音波送信シーケンスは、(0度、180度、360度、540度)(0度、270度、540度、810度)などを使っても良く、また初期位相を一定の角度だけずらしてよい。送信回数が4回の場合、360度÷4=90度が基本的な角度の単位となり、この角度の整数倍の位相回転処理を行うことで、抽出を行うことができる。
図27Bは、送信回数が5回の場合の超音波送信シーケンス及び位相回転角度の組み合わせの具体例を示している。例えば、超音波送信シーケンスは、(0度、72度、144度、216度、288度)となる。これに対して、位相回転角度の組み合わせとして、(0度、0度、0度、0度、0度)(0度、72度、144度、216度、288度)(0度、144度、288度、432度、576度)(0度、216度、432度、648度、864度)(0度、288度、576度、864度、1152度)の操作を行うと、それぞれ、5次、4次、3次、2次、1次の高調波成分のみを抽出することができる。図示していないが、超音波送信シーケンスは、(0度、144度、288度、432度、576度)(0度、216度、432度、648度、864度)(0度、288度、576度、864度、1152度)などを使っても良く、また初期位相を一定の角度だけずらしてよい。送信回数が5回の場合、360度÷5=72度が基本的な角度の単位となり、この角度の整数倍の位相回転処理を行うことで、抽出を行うことができる。
図27Cは、送信回数が6回の場合の超音波送信シーケンス及び位相回転角度の組み合わせの具体例を示している。例えば、超音波送信シーケンスは、(0度、60度、120度、180度、240度、300度)となる。これに対して、位相回転角度の組み合わせとして、(0度、0度、0度、0度、0度、0度)(0度、60度、120度、180度、240度、300度)(0度、120度、240度、360度、480度、600度)(0度、180度、360度、540度、720度、900度)(0度、240度、480度、720度、960度、1200度)(0度、300度、600度、900度、1200度、1500度)の操作を行うと、それぞれ、6次、5次、4次、3次、2次、1次の高調波成分のみを抽出することができる。図示していないが、超音波送信シーケンスは、初期位相を一定の角度だけずらしてよい。送信回数が6回の場合、360度÷6=60度が基本的な角度の単位となり、この角度の整数倍の位相回転処理を行うことで、抽出を行うことができる。
一般に、送信回数がnのとき、超音波送信シーケンス及び位相回転角度を、360÷n(度)を基本的な角度の単位として、この角度の整数倍の位相回転処理を行うことで、1〜nの次数の高調波成分すべてが、これらの異なるn個の位相回転角を用いることにより、抽出される。
また、「角度の整数倍」といった時には、適宜360度を加えたり減じたりして得られる角度を含むものとする。すなわち、144度の角度の整数倍といった時に、144×3=432度は、432−360=72度と等価であるから、72度も、144度の整数倍に含まれる。また、例えば、(0度、180度、360度、540度、720度、900度)の場合、超音波は、実質的には0度と180度で送信を繰り返しているが、6回送信する場合の位相回転角度としては、360÷6=60度が基本的な角度の単位になるので、例えば位相回転角度として、60度を選ぶことができる。
また、言うまでもないが、超音波送信シーケンスにおける各送信の角度の組み合わせが重要であり、その送信をどの順番で行うかは適宜変更してよい。例えば、超音波シーケンスが(0度、72度、144度、216度、288度)であり、位相回転角度が(0度、72度、144度、216度、288度)である場合、3番目と4番目の送信を入れ替えて、超音波送信シーケンスを、(0度、72度、216度、144度、288度)に、位相回転角度が(0度、72度、216度、144度、288度)とすることもできる。また、本願の超音波送信シーケンスに、冗長性を持たせた送信を加えることも任意である。
また、すべての受信信号に対して同一の位相回転角度を加算又は減算することは任意である。例えば、位相回転角度が、(0度、120度、240度)の超音波シーケンスを用いる代わりに、全体に位相回転角度をθ度だけ加えて、(θ度、θ度+120度、θ度+240度)の超音波シーケンスを用いても、それぞれの受信信号に単純に複素数exp(j×π(θ/180))を追加で乗じたものに過ぎないから、抽出される高次高調波の種類は同一となり、実質的に元の超音波シーケンスと等価なシーケンスとなる。実施形態で説明した超音波シーケンスの代わりに、これら等価な超音波シーケンスを用いることは任意である。すなわち、送信部9は、送信する超音波の位相(送信する超音波に含まれる中心周波数成分の位相)がそれぞれ互いに等しい角度だけ異なる3回以上の超音波送信を超音波プローブに実行させ、抽出部20は、3以上の受信信号それぞれに対して、位相回転角度の差が、互いに等しい角度であって、3回以上の超音波送信における各々の超音波の位相の差に対応する角度のうち、0でない最も小さい角度の整数倍である角度だけ異なるような位相回転角度を用いて位相回転処理を行うことで、所定の次数の高調波成分を抽出する。
例えば、送信部9が、送信する超音波の位相がそれぞれ互いに等しい角度「120度」だけ異なる3回以上の超音波送信を、例えば、(0度、120度、240度)で、超音波プローブ1に実行させる。この時、超音波送信における各々の超音波の位相の差に対応する角度のうち、0でない最も小さい角度は、「120度」である。抽出部20は、受信信号のそれぞれに対して、位相回転角度の差が、「120度」の整数倍となるような位相回転角度を用いて位相回転処理を行う。例えば、抽出部20は、位相回転角度が、(20度、140度、260度)となるような位相回転角度を用いて位相回転処理を行う。
また、例えば、送信部9が、送信する超音波の位相がそれぞれ互いに等しい角度「216度」だけ異なる3回以上の超音波送信を、例えば、(0度、216度、432度(72度)、648度(288度)、864度(144度))で、超音波プローブ1に実行させる。この時、超音波送信における各々の超音波の位相の差に対応する角度のうち、0でない最も小さい角度は、「72度」である。抽出部20は、受信信号のそれぞれに対して、位相回転角度の差が、「72度」の整数倍となるような位相回転角度を用いて位相回転処理を行う。例えば、抽出部20は、位相回転角度が、(1度、145度、289度、433度(73度)、579度(219度))となるような位相回転角度を用いて位相回転処理を行い、所定の次数の高調波成分を抽出する。
また、送信部9及び抽出部20は、送信する超音波が複数の周波数成分を有する場合にも、同様の処理を行っても良い。
また、超音波シーケンスにおいて、位相だけでなく振幅も変調させて送信を行っても良いし、抽出部20が行う、位相回転処理を含む処理として、振幅変調処理を含む処理を行ってもよい。すなわち、抽出部20は、絶対値が1でない任意の複素数を含んで重みづけ処理をすることができる。
超音波が複数の周波数成分を有する場合を考えると、送信回数がnの時、1〜nの番号で特徴づけられる所定の高調波成分の組み合わせを、これらの異なるn個の位相回転角を用いることにより、抽出することができる。例えば、f1、f2、f3、f4の4種類の周波数成分を混合して送信するとし、送信回数は5回、すなわち、(0度、72度、144度、216度、288度)の超音波シーケンスを送信するとする。高次高調波成分として、4f1、f1−2f2+f3、2f1+f2−f3など、様々な対称性の周波数成分が現れるが、これらの任意の周波数成分に対して、その成分を抽出できるただ一つの整数mが対応づけられ、その時の位相回転角度は、(0度、72度×m、144度×m、216度×m、288度×m)で与えられる。すなわち、任意の周波数成分を抽出することができる。これらのパラメータの自由度を生かして、所望の周波数成分を抽出することができる。
また、これまでの実施形態において、「共通の受信走査線」或いは「共通の包絡線」という表現を用いたが、これらの「共通の」という表現は、厳密に共通であることを要求するものではなく、若干の誤差があってもよい。また、位相を遅らせる/進ませる角度、及び位相回転角度等についても同様に、例えば厳密に120度であることを要求するものではなく、若干の誤差があってもよい。
また、送信部9は、送信走査線を、超音波送信毎に変化させてもよい。ここで、送信走査線の変化とは、例えば送信開口を一定にして送信遅延パタンを変化させる場合、送信遅延パタンを一定にして送信開口を変化させる場合、送信遅延パタン及び送信開口が変化する場合が挙げられる。
なお、上記の実施形態で説明した信号処理方法は、THIたけでなく、高調波イメージングの別の一例であるCHI(Contrast Harmonic Imaging)に適用される場合であっても良い。
また、超音波診断装置とは独立に設置された画像処理装置が、実施形態で説明した信号処理方法を実行する例については、第3の実施形態で説明したが、かかる画像処理装置の例は、第3の実施形態には限られない。
かかる画像処理装置は、例えば、受信部11が生成した受信信号群を、超音波診断装置や、記憶媒体等から取得する取得部と、抽出部20、信号処理部12及び画像生成部13と同等の機能を有する処理部とを有する。そして、かかる画像処理装置は、これら処理部により、上記の実施形態で説明した信号処理方法を実行する。これによっても、送信回数を増やさずに所定の高調波成分を抽出することができる。
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況等に応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPU及び当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
また、上記の実施形態で説明した信号処理方法は、予め用意された信号処理プログラムをパーソナルコンピュータやワークステーション等のコンピュータで実行することによって実現することができる。この信号処理プログラムは、インターネット等のネットワークを介して配布することができる。また、この信号処理プログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD−ROM、MO、DVD等のコンピュータで読み取り可能な非一時的な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することもできる。
以上述べた少なくとも一つの超音波診断装置によれば、送受信回数を増やさずに所定の高調波成分を抽出することができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。