図1は、本発明の実施例に係る内燃機関の制御装置が適用されたエンジンを表す概略構成図、図2は、本発明の実施例に係る内燃機関の制御装置が適用されたエンジンのECUを表すブロック図、図3は、本発明の実施例に係る内燃機関の制御装置が適用されたエンジンにおける給油後点火時期学習制御を説明するフローチャート、図4は、本発明の実施例に係る内燃機関の制御装置が適用されたエンジンにおける空燃比とノック発生限界点火時期との関係の一例を表すグラフ、図5は、本発明の実施例に係る内燃機関の制御装置が適用されたエンジンにおけるノッキングモデルを説明する模式図、図6は、本発明の実施例に係る内燃機関の制御装置が適用されたエンジンにおけるクランク角度と燃料燃焼割合との関係の一例を表すグラフ、図7は、本発明の実施例に係る内燃機関の制御装置が適用されたエンジンにおける点火時期とノック判定クランク角度及び自己着火クランク角度との関係の一例を表すグラフである。
本実施例の内燃機関の制御装置において、図1に示すように、内燃機関としてのエンジン10は、性状の異なる少なくとも2種類の燃料を使用して運転される内燃機関であり、本実施例では、燃料としてアルコール燃料とガソリン燃料を使用して運転可能である。
このエンジン10は、多気筒筒内噴射式であって、シリンダブロック11上にシリンダヘッド12が締結されており、このシリンダブロック11に形成された複数のシリンダボア13にピストン14がそれぞれ上下移動自在に嵌合している。そして、シリンダブロック11の下部にクランクケース15が締結され、このクランクケース15内にクランクシャフト16が回転自在に支持されており、各ピストン14はコネクティングロッド17を介してこのクランクシャフト16にそれぞれ連結されている。
燃焼室18は、シリンダブロック11におけるシリンダボア13の壁面とシリンダヘッド12の下面とピストン14の頂面により構成されており、この燃焼室18は、上部(シリンダヘッド12の下面)の中央部が高くなるように傾斜したペントルーフ形状をなしている。燃焼室18は、アルコール燃料及びガソリン燃料と空気との混合気が燃焼可能であり、この燃焼室18の上部、つまり、シリンダヘッド12の下面に吸気ポート19及び排気ポート20が対向して形成されており、この吸気ポート19及び排気ポート20に対して吸気弁21及び排気弁22の下端部がそれぞれ位置している。この吸気弁21及び排気弁22は、シリンダヘッド12に軸方向に沿って移動自在に支持されると共に、吸気ポート19及び排気ポート20を閉止する方向(図1にて上方)に付勢支持されている。また、シリンダヘッド12には、吸気カムシャフト23及び排気カムシャフト24が回転自在に支持されており、吸気カム25及び排気カム26が吸気弁21及び排気弁22の上端部に接触している。
なお、図示しないが、クランクシャフト16に固結されたクランクシャフトスプロケットと、吸気カムシャフト23及び排気カムシャフト24にそれぞれ固結された各カムシャフトシャフトスプロケットとは、無端のタイミングチェーンが掛け回されており、クランクシャフト16と吸気カムシャフト23と排気カムシャフト24が連動可能となっている。
従って、クランクシャフト16に同期して吸気カムシャフト23及び排気カムシャフト24が回転すると、吸気カム25及び排気カム26が吸気弁21及び排気弁22を所定のタイミングで上下移動することで、吸気ポート19及び排気ポート20を開閉し、吸気ポート19と燃焼室18、燃焼室18と排気ポート20とをそれぞれ連通することができる。この場合、この吸気カムシャフト23及び排気カムシャフト24は、クランクシャフト16が2回転(720度)する間に1回転(360度)するように設定されている。そのため、エンジン10は、クランクシャフト16が2回転する間に、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程の4行程を実行することとなり、このとき、吸気カムシャフト23及び排気カムシャフト24が1回転することとなる。
また、このエンジン10の動弁機構は、運転状態に応じて吸気弁21及び排気弁22を最適な開閉タイミングに制御する吸気・排気可変動弁機構(VVT:Variable Valve Timing-intelligent)27,28となっている。この可変動弁手段としての吸気・排気可変動弁機構27,28は、吸気カムシャフト23及び排気カムシャフト24の軸端部にVVTコントローラ29,30が設けられて構成され、オイルコントロールバルブ31,32からの油圧をこのVVTコントローラ29,30の図示しない進角室及び遅角室に作用させることによりカムスプロケットに対するカムシャフト23,24の位相を変更し、吸気弁21及び排気弁22の開閉時期を進角または遅角することができるものである。この場合、吸気・排気可変動弁機構27,28は、吸気弁21及び排気弁22の作用角(開放期間)を一定としてその開閉時期を進角または遅角する。また、吸気カムシャフト23及び排気カムシャフト24には、その回転位相を検出するカムポジションセンサ33,34が設けられている。
吸気ポート19には、吸気マニホールド35を介してサージタンク36が連結され、このサージタンク36に吸気管37が連結されており、この吸気管37の空気取入口にはエアクリーナ38が取付けられている。そして、このエアクリーナ38の空気流動方向下流側にスロットル弁39を有する負荷調節手段としての電子スロットル装置40が設けられている。また、シリンダヘッド12には、燃焼室18に直接燃料を噴射するインジェクタ(燃料噴射弁)41が装着されており、このインジェクタ41は、吸気ポート19側に位置して上下方向に所定角度傾斜して配置されている。各気筒に装着されるインジェクタ41はデリバリパイプ42に連結され、このデリバリパイプ42には高圧燃料供給管43を介して高圧燃料ポンプ(燃料ポンプ)44が連結されている。更に、シリンダヘッド12には、燃焼室18の上方に位置して混合気に着火する点火プラグ45が装着されている。
一方、排気ポート20には、排気マニホールド46を介して排気管47が連結されており、この排気管47には排気ガス中に含まれるHC、CO、NOxなどの有害物質を浄化処理する三元触媒48,49が装着されている。また、エンジン10には、クランキングを行うスタータモータ50が設けられており、エンジン始動時に図示しないピニオンギヤがリングギヤと噛み合った後、回転力がピニオンギヤからリングギヤへと伝わり、クランクシャフト16を回転することができる。
ところで、車両にはマイクロコンピュータを中心として構成されエンジン10の各部を制御可能な電子制御ユニット(ECU)51が搭載されており、このECU51は、インジェクタ41や点火プラグ45などを制御可能となっている。即ち、吸気管37の空気流動方向上流側にはエアフローセンサ52及び吸気温センサ53が装着され、また、サージタンク36には吸気圧センサ54が設けられており、計測した吸入空気量、吸気温度、吸気圧(吸気管負圧)をECU51に出力している。また、電子スロットル装置40にはスロットルポジションセンサ55が装着されており、現在のスロットル開度をECU51に出力しており、アクセルポジションセンサ56は、現在のアクセル開度をECU51に出力している。更に、エンジン10のクランク角度を検出するクランク角度検出手段としてのクランク角センサ57は、検出した各気筒のクランク角度をECU51に出力し、このECU51は検出したクランク角度に基づいて各気筒における吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程を判別すると共に、エンジン回転数を算出している。なおここで、エンジン回転数は、言い換えれば、クランクシャフト16の回転速度に対応し、このクランクシャフト16の回転速度が高くなれば、クランクシャフト16の回転数、すなわち、エンジン10のエンジン回転数も高くなる。
また、シリンダブロック11にはエンジン冷却水温を検出する水温センサ58が設けられており、検出したエンジン冷却水温をECU51に出力している。更に、シリンダヘッド12には燃焼室18内の圧力、つまり、筒内圧力を検出する筒内圧検出手段としての筒内圧センサ59が設けられており、検出した筒内圧力をECU51に出力している。この筒内圧センサ59は、筒内圧を例えば印加圧力に応じて抵抗値が変化する検知素子に基づいて検出し、検出結果をECU51に出力するものである。なお、筒内圧センサ59は、筒内圧を検出できるものであれば他の形式のセンサを用いてもよい。
また、各インジェクタ41に連通するデリバリパイプ42には燃料圧力を検出する燃圧センサ60が設けられており、検出した燃料圧力をECU51に出力している。一方、排気管47には、三元触媒48の排気ガス流動方向上流側にエンジン10の空燃比を検出する空燃比検出手段としてのA/Fセンサ61、排気ガス流動方向下流側に酸素センサ62が設けられている。A/Fセンサ61は、三元触媒48に導入される前の排気ガスの排気ガス空燃比を検出し、検出した空燃比をECU51に出力し、酸素センサ62は、三元触媒48から排出された後の排気ガスの酸素濃度を検出し、検出した酸素濃度をECU51に出力している。このA/Fセンサ61により検出された空燃比(推定空燃比)は、吸入空気と燃料とからなる混合ガスの空燃比(理論空燃比)をフィードバック制御するために用いられる。すなわち、A/Fセンサ61は、排気ガス中の酸素濃度と未燃ガス濃度から排気空燃比をリッチ域からリーン域までの全域にわたり検出し、これをECU51にフィードバックすることにより燃料噴射量を補正し、燃焼を運転状態に合わせた最適な燃焼状態に制御可能となる。なお、空燃比検出手段としてA/Fセンサ61の代わりに酸素センサ等を用いてもよい。
さらに、ECU51には、エンジン10のノッキングを検出するノック検出手段としてのノックセンサ63と、燃料タンク内の燃料量を検出する燃料量センサ64が電気的に接続されている。ノックセンサ63は、エンジン10におけるノッキングの発生を例えばシリンダブロック11の振動により電圧が変化する圧電素子に基づいて検出し、検出結果をECU51に出力するものである。なお、ノックセンサ63は、ノッキングの発生を検出できるものであれば他の形式のセンサを用いてもよい。
従って、ECU51は、検出した燃料圧力に基づいてこの燃料圧力が所定圧力となるように高圧燃料ポンプ44を駆動すると共に、検出した吸入空気量、吸気温度、吸気圧、スロットル開度、アクセル開度、エンジン回転数、エンジン冷却水温などのエンジン運転状態に基づいて燃料噴射量(燃料噴射時間)、噴射時期、点火時期などを決定し、インジェクタ41及び点火プラグ45を駆動して燃料噴射及び点火を実行する。また、ECU51は、検出した排気ガスの酸素濃度をフィードバックして空燃比がストイキ(理論空燃比)となるように燃料噴射量を補正している。
また、ECU51は、エンジン運転状態に基づいて吸気・排気可変動弁機構27,28を制御可能となっている。即ち、低温時、エンジン始動時、アイドル運転時や軽負荷時には、排気弁22の閉止時期と吸気弁21の開放時期のオーバーラップをなくすことで、排気ガスが吸気ポート19または燃焼室18に吹き返す量を少なくし、燃焼安定及び燃費向上を可能とする。また、中負荷時には、このオーバーラップを大きくすることで、内部EGR率を高めて排ガス浄化効率を向上させると共に、ポンピングロスを低減して燃費向上を可能とする。更に、高負荷低中回転時には、吸気弁21の閉止時期を進角することで、吸気が吸気ポート19に吹き返す量を少なくし、体積効率を向上させる。そして、高負荷高回転時には、吸気弁21の閉止時期を回転数にあわせて遅角することで、吸入空気の慣性力に合わせたタイミングとし、体積効率を向上させる。
ここで、このようなエンジン10では、ガソリン燃料のみでの燃焼、ガソリン燃料にアルコール燃料を混合した場合での燃焼、アルコール燃料のみでの燃焼の何れの場合においても、ノッキングの発生を防止すると共に高い出力を得るために、機関運転状態に応じた的確な点火時期で混合気に点火する必要がある。そして、上記のような少なくとも2種類の性状の異なる燃料を用いて燃焼を行うエンジン10では、点火時期をいずれかの燃料性状にあわせて設定していると、異なる燃料性状の燃料に変更された際に点火時期が適合せず、この結果、ノッキングが発生したりエンジン出力が低下したりしてしまうおそれがある。そこで、燃料性状が変更された際にはこの点火時期を早期に最適な点火時期に収束させることが、過度のノッキングの発生の抑制及び出力の向上にとって重要である。
ところで、例えば、ガソリン燃料にアルコール燃料が添加された際には、アルコール燃料はオクタン価が高くノッキングが起こりにくいことから点火時期を進角側に学習しようとする一方、このアルコール燃料に酸素が多く含まれていることから、空燃比がリーン側に大きくずれてしまい、このため、フィードバック制御により燃料噴射量を増加させ、空燃比をストイキに制御する必要がある。ここで、実際にはノック発生限界点火時期は空燃比をリーン側からストイキに制御すると、これに応じて遅角側に変動することから、空燃比をリーンからストイキに制御する際の過渡期において、上記のような最適な点火時期の学習を実行しても、目標の空燃比における最適な点火時期を早期に学習することができず、また、空燃比がずれたまま学習することで、目標空燃比でのノッキングを適正に回避できず、学習完了時までのノッキング回数が増加してしまうおそれがある。なお、ここで、ノック発生限界点火時期は、ノッキングが発生する限界の点火時期であり、このノック発生限界点火時期よりも進角側で点火されるとノッキングが発生する一方、遅角側で点火されるとノッキングは発生しない。ただし、点火時期を遅角させすぎると十分な出力を確保できなくなるおそれがある。このため、ノッキングを回避しつつ適正な出力を確保するためには、ノッキングが発生しない程度にこのノック発生限界点火時期近傍で点火される必要がある。
そこで、本実施例のエンジン10の制御装置では、図2に示すように、ECU51に、点火プラグ45による点火時期を制御する点火時期制御手段としての点火時期制御部71と、空燃比に応じて変化するノック発生限界点火時期を学習値に基づいて更新する点火時期学習手段としての点火時期学習部72を設けることで、早期にノッキングを回避可能な点火時期を学習している。
さらに、具体的には、エンジン10では、ECU51に、学習値を設定する学習値設定手段としての学習値設定部73と、予測ノック発生限界点火時期を予測する予測ノック発生限界点火時期予測手段としての予測ノック発生限界点火時期予測部74を設けている。そして、この学習値設定部73は、ノックセンサ63によりノッキングが検出された際の実ノック発生点火時期に対する予測ノック発生限界点火時期の遅角量に基づいて学習値を設定し、点火時期学習部72は、ノックセンサ63によりノッキングが検出された際に、ノック発生限界点火時期をこの学習値に基づいて遅角側に更新する。そして、点火時期制御部71は、点火時期学習部72により更新されたノック発生限界点火時期に基づいて点火プラグ45による点火時期を制御する。
ここで、ECU51は、処理部75、記憶部76及び入出力部77を有し、これらは互いに接続され、互いに信号の受け渡しが可能になっている。入出力部77にはエンジン10の各部を駆動する不図示の駆動回路、上述した各種センサが接続されており、入出力部77は、これらのセンサ等との間で信号の入出力を行なう。また、記憶部76には、エンジン10を制御するコンピュータプログラムが格納されている。この記憶部76は、ハードディスク装置や光磁気ディスク装置、またはフラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ(CD−ROM等のような読み出しのみが可能な記憶媒体)や、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。
処理部75は、不図示のメモリ及びCPU(Central Processing Unit)により構成されており、上述の点火時期制御部71、点火時期学習部72、学習値設定部73、予測ノック発生限界点火時期予測部74を有している。
当該エンジン10における給油後の点火時期学習制御は、車両の各部に設けられたセンサによる検出結果に基づいて、処理部75が前記コンピュータプログラムを当該処理部75に組み込まれたメモリに読み込んで演算し、演算の結果に応じて制御信号を送ることにより実行される。その際に処理部75は、適宜記憶部76へ演算途中の数値を格納し、また格納した数値を取り出して演算を実行する。なお、エンジン10を制御する場合には、前記コンピュータプログラムの代わりに、ECU51とは異なる専用のハードウェアによって制御してもよい。
ここで、本実施例のエンジン10の制御装置による給油後点火時期学習制御について、図3のフローチャートに基づいて詳細に説明する。以下の動作は、主としてECU51により実行される。
先ず、運転者がエンジン10を始動させると点火時期学習制御が開始され、ECU51は各種センサからエンジン10の運転状態を取得する(S100)。次に、ECU51は、燃料量センサ64により所定期間における燃料タンク内の燃料増加量に基づいて給油の有無を判定する(S102)。ECU51は、燃料の増加量が予め設定される値よりも大きければ、給油ありと判定し(S102:Yes)、給油フラグをONにし(S104)、給油後点火時期学習条件が成立したか否かを判定する(S106)。燃料の増加量が予め設定される値よりも小さければ、給油なしと判定し(S102:No)、S104をパスして給油後点火時期学習条件が成立したか否かを判定する(S106)。
給油後点火時期学習条件が成立したか否かの判定においては、具体的には、ECU51は、給油フラグがONになっているか否か、燃焼が安定しているか否か及び始動後の燃料使用量が予め定められる規定値以上であるか否かを判定する。燃焼安定性の判定は、不安定な運転状態での学習を避けるために判定するものであり、例えば、クランク角センサ57が検出する回転数や筒内圧センサ59が検出する筒内圧に応じて判定することができ、また、単にエンジン始動からの経過時間に応じて判定することもできる。始動後の燃料使用量が予め定められる規定値以上であるか否かの判定は、燃料配管内に残留していた旧燃料を使い切ったか否かを判定するものであり、燃料噴射量と予め分かっている配管容積に応じて判定することができ、また、単にエンジン始動からの経過時間に応じて判定することもできる。
給油後点火時期学習条件が成立していないと判定された場合(S106:No)、すなわち、給油フラグがOFFである、燃焼が安定していない又は燃料配管内に残留していた旧燃料を使い切っていないと判定された場合には、S100に戻って以降の処理を繰り返す。給油後点火時期学習条件が成立した判定された場合(S106:Yes)、すなわち、給油フラグがONであり、燃焼が安定し、燃料配管内に残留していた旧燃料を使い切ったと判定された場合には、ECU51は、負荷調節手段としての電子スロットル装置40により、燃焼室18に吸入される吸入空気量を調節しエンジン10の負荷を予め設定された所定値以下に調節し、可変動弁手段しての吸気・排気可変動弁機構27,28により吸気弁21及び排気弁22の開弁期間のオーバーラップをなくす(S108)。S108の前に既にエンジン10の負荷が所定値以下に調節され、吸気弁21及び排気弁22の開弁期間のオーバーラップが0に制御されていた場合にはこれを継続する。
ここで、アルコール燃料はオクタン価が高くノッキングが発生しにくいことから、例えば、アルコール燃料使用時には点火時期が比較的進角側に学習されている可能性がある。このとき、燃料がアルコール燃料から通常のガソリン燃料に変更された場合には、ガソリン燃料はアルコール燃料よりもオクタン価が低いことから、上記のように進角側に学習されていた点火時期に対して、実際のノック発生限界点火時期が遅角側に移動し、この結果、大きなノッキングが発生するおそれがある。しかしながら、上記のようにエンジン10の負荷が所定値以下に調節され、吸気弁21及び排気弁22の開弁期間のオーバーラップをなくすことで、燃焼室18への吸入空気の充填効率を抑制すると共に内部EGR量が抑えられ筒内温度の上昇が抑制されるため、大きなノッキングを起こしやすい運転状態を避けることがきる。
次に、ECU51は、ノックセンサ63によりノッキングの発生の有無を判定する(S110)。ノッキングの発生を検出した場合(S110:Yes)、ノック発生限界点火時期を更新するための学習値を学習値設定部73により予測的に算出し(S112)、点火時期学習部72により空燃比に応じて変化するノック発生限界点火時期をこの学習値に基づいて更新する(S114)。
ここで、図4は、エンジンに10おける空燃比とノック発生限界点火時期との関係の一例を表すグラフであり、横軸を空燃比(A/F)、縦軸を点火時期(deg.BTDC:Before Top Dead Center)としている。図中点線は学習値に基づいて更新する前のノック発生限界点火時期を示す曲線X0の一例を表し、実線は更新後のノック発生限界点火時期を示す曲線X1の一例を表す。本図に示すように、ノッキングが発生する限界の点火時期は、実際には空燃比が変化することでこれに伴って変化する。さらに、具体的には、ノック発生限界点火時期は、リッチ側からストイキ側に向かって徐々に遅角側に移動していき、その後、所定の空燃比からリーン側に向かって再び進角側に移動する特性を有している。
例えば、いま、リーン側の空燃比Aにおいてノッキングの発生が検出された点火時期を点火時期aとし、仮に曲線X1が実際のノック発生限界点火時期を示す曲線であるとすると、空燃比Aにおけるノック発生限界点火時期は点火時期bである。このとき、上述したようなノック発生限界点火時期が空燃比に応じて変化するという特性を考慮せずに、空燃比Aをストイキ側の目標空燃比に制御すると共に点火時期bで点火を行うと、目標空燃比におけるノック発生限界点火時期は実際には遅角側に変化して点火時期cになっており、この結果、点火時期の遅角量が足りず、曲線X1を境界として進角側の領域であるノッキング発生領域内の点火時期で点火を実行してしまうことになる。すなわち、空燃比Aをストイキ側の目標空燃比に制御する間にノッキングが多発することになる。
しかしながら、本実施例では、点火時期学習部72により空燃比に応じて変化するノック発生限界点火時期を学習値に基づいて遅角側に更新する。すなわち、点火時期学習部72は、更新前のノック発生限界点火時期を示す曲線X0を学習値に応じて遅角側に曲線X1までオフセットする。そして、点火時期制御部71は、このオフセットされたノック発生限界点火時期を示す曲線X1に基づいて、目標空燃比に応じた適正な点火時期を設定し、点火プラグ45による点火時期を制御することで、空燃比を目標空燃比に制御する際にもノッキング発生領域を通過することがなく、このため、空燃比を目標空燃比に制御する過渡期においても、適正に点火時期の学習を実行することができ、早期にノッキングを回避可能な点火時期を学習することができる。
ここで、図4に示した空燃比とノック発生限界点火時期との関係は、エンジン10の運転状態に応じて変化する。このため、空燃比とノック発生限界点火時期との関係は、エンジン10の各運転状態に応じてマップ化し記憶部76に記憶しておいてもよいし、運転状態を示す各種パラメータに基づいて近似式としてデータ化して記憶部76に記憶しておいてもよい。点火時期学習部72は、記憶部76に記憶されたノック発生限界点火時期を運転状態に応じて読み出して更新する。
ここで、ノック発生限界点火時期を更新するための学習値は、学習値設定部73によって、ノッキングが検出された際のノッキング強度と、図5に模式的に示すような、燃焼室18内の未燃燃料量及び該未燃燃料が自己着火するタイミングに基づいたノッキングモデルとに応じて設定される。
燃焼室18内の未燃燃料が自己着火するタイミングを表す自着火予測式は、例えば、下記数式(1)を用いてモデル化することができる。ここで、A、B、C、Eaは適合値、Pは筒内圧、Tuは筒内未燃燃料温度、φは当量比を示す。この数式(1)は、いわゆるLivengood−Wu積分であり、この式が成立するタイミングで燃焼室18内の未燃燃料が自己着火する。
そして、この燃焼室18内の未燃燃料が自己着火タイミングにおいて、燃焼室18内に未燃燃料が所定量残留していれば、ノッキングが発生することになる。
図6は、エンジンにおけるクランク角度と燃料燃焼割合との関係の一例を表すグラフであり、横軸をクランク角度(deg.ATDC:After Top Dead Center)、縦軸を燃料の燃焼割合(%)としている。燃焼室18内の未燃燃料量は、図6に示すように、クランク角度に応じて変化し、行程が進む程に減少する。
ここで、燃焼室18内の未燃燃料が自己着火するタイミングにおいて、ノッキングが発生するために最低限必要な未燃燃料量をTK判定値とする。このTK判定値は、エンジン回転数や負荷等に応じて予め設定される。そして、ある点火時期において燃焼室18内の混合気に点火された際に未燃燃料量がこのTK判定値以下になるクランク角度をノック判定クランク角度Cbとし、未燃燃料が自己着火するタイミングにおけるクランク角度を自己着火クランク角度Clとする。
図7は、本発明の実施例に係る内燃機関の制御装置が適用されたエンジンにおける点火時期と自己着火クランク角度Cl及びノック判定クランク角度Cbとの関係の一例を表すグラフである。本図に示すように、自己着火クランク角度Cl及びノック判定クランク角度Cbは、所定の点火時期に対応し、近似一次式で表すことができる。すなわち、ある点火時期に対応した自己着火クランク角度Cl及びノック判定クランク角度Cbは、当該点火時期に応じて一義的に算出することができる。本図中、点火時期に応じた自己着火クランク角度Clを直線Y(Y0及びY1)で示し、点火時期に応じたノック判定クランク角度Cbを直線Z(Z0及びZ1)で示す。自己着火クランク角度Cl及びノック判定クランク角度Cbは、点火時期が遅角されるほど大きくなる。
ここで、未燃燃料量がTK判定値以下になるノック判定クランク角度Cbよりも行程が進むと、既にノッキングの発生に必要な未燃燃料量が燃焼室18内に残留していないことから、自己着火クランク角度Clに到達してもノッキングは発生しない。すなわち、図7において、直線Zを境界として、クランク角度が大きくなる側(図中上側)の領域ではノッキングが発生することはない。
一方、ノック判定クランク角度Cbよりも前の行程では、ノッキングの発生に必要な未燃燃料量が十分に燃焼室18内に残留していることから、自己着火クランク角度Clに到達した時点でノッキングが発生する。すなわち、[ノック判定クランク角度Cb]>[自己着火クランク角度Cl]となる点火時期領域においてはノッキングが発生する。
なお、自己着火クランク角度Clに到達した時点で未燃燃料量が多いほど、そのノッキングの強度は大きくなる。すなわち、 [ノック判定クランク角度Cb]−[自己着火クランク角度Cl]の値が大きくなるほど、自己着火クランク角度Clに到達した時点での未燃燃料量が多くなるため、そのノッキングの強度は大きくなる。つまり、[ノック判定クランク角度Cb]−[自己着火クランク角度Cl]の値は、ノッキングの強度に相当する値であり、その値が大きくなるほどノッキングの強度も大きくなる。
予測ノック発生限界点火時期予測部74は、上述したこのノッキングモデルの特性を利用し、ノック判定クランク角度Cbと自己着火クランク角度Clに基づいて予測ノック発生限界点火時期を予測する。点火時期とノック判定クランク角度Cb及び自己着火クランク角度Clとの関係は、エンジン10の各運転状態に応じてマップ化し記憶部76に記憶しておいてもよいし、近似一次式(直線Y、Z)としてデータ化して記憶部76に記憶しておいてもよい。予測ノック発生限界点火時期予測部74は記憶部76に記憶されたノック判定クランク角度Cb及び自己着火クランク角度Clを点火時期に応じて読み出して予測ノック発生限界点火時期を予測する。
図7を続けて参照して、上述した予測ノック発生限界点火時期予測部74による予測ノック発生限界点火時期の予測を具体的に説明する。いま、ノックセンサ63によりノッキングが検出された際の点火時期を実ノック発生点火時期Aとする。このとき、実際にノッキングによる振動が検出され始めたクランク角度が、実際に未燃燃料が自己着火したタイミング、すなわち、実ノック発生点火時期Aにおける実自己着火クランク角度Cl0である。
そして、所定の点火時期に対応した自己着火クランク角度Clを示す直線Yは、この実ノック発生点火時期A及び実自己着火クランク角度Cl0で表されるポイントを通ることになる。つまり、予測ノック発生限界点火時期予測部74は、図中点線で示した自己着火クランク角度Clを示す直線Y0をその傾きを変えずに、実ノック発生点火時期A及び実自己着火クランク角度Cl0で表されるポイントを通過する実線で示した直線Y1までオフセットすることで、実ノック発生点火時期Aに対応した実自己着火クランク角度Cl0を基準としてこの自己着火クランク角度Clを更新する。
次に、この実ノック発生点火時期Aに対応する実ノック判定クランク角度Cb0は、この実ノック発生点火時期Aにおいて実際にノッキングが発生していることから、少なくとも、実自己着火クランク角度Cl0よりも大きい値をとっているはずである。そして、この[実ノック判定クランク角度Cb0]−[実自己着火クランク角度Cl0]の値が今回のノッキング強度に相当することになる。
具体的には、予測ノック発生限界点火時期予測部74は、ノッキングが発生した際に筒内圧センサ59により検出される筒内圧力に応じて発熱割合を算出し燃料の燃焼割合を算出する。そして、この燃焼割合とクランク角度との関係は、上述した図6に示したようになることから、今回のノッキングが発生した際に残留していた未燃燃料量に応じたクランク角度を算出することができる。このとき、実ノック発生点火時期Aにおいて実際にノッキングが発生していることから、この燃焼割合においては、燃焼室18内の未燃燃料量が少なくともTK判定値以上残留していることになる。すなわち、このクランク角度を実ノック判定クランク角度Cb0と予測することができる。
所定の点火時期に対応したノック判定クランク角度Cbを示す直線Zは、この実ノック発生点火時期A及び実ノック判定クランク角度Cb0で表されるポイントを通ることになる。つまり、予測ノック発生限界点火時期予測部74は、図中点線で示したノック判定クランク角度Cbを示す直線Z0をその傾きを変えずに、実ノック発生点火時期A及び実ノック判定クランク角度Cb0で表されるポイントを通過する実線で示した直線Z1までオフセットすることで、実ノック発生点火時期Aに対応した実ノック判定クランク角度Cb0を基準としてこのノック判定クランク角度Cbを更新する。
そして、上述したように、[ノック判定クランク角度Cb]>[自己着火クランク角度Cl]となる点火時期領域においてノッキングが発生する一方、[ノック判定クランク角度Cb]<[自己着火クランク角度Cl]となる点火時期領域においてはノッキングは発生しない。つまり、[ノック判定クランク角度Cb]=[自己着火クランク角度Cl]となるクランク角度C1(C1=Cb1=Cl1)に対応した点火時期をこのときのノッキングが発生する限界の点火時期であると予測することができる。すなわち、予測ノック発生限界点火時期予測部74は、実ノック発生点火時期A及び実自己着火クランク角度Cl0で表されるポイントを通るようにオフセットされた直線Y1と、実ノック発生点火時期A及び実ノック判定クランク角度Cb0で表されるポイントを通るようにオフセットされた直線Z1との交点における点火時期を予測ノック発生限界点火時期Bと予測することができる。
学習値設定部73は、実ノック発生点火時期Aと予測ノック発生限界点火時期予測部74により予測される予測ノック発生限界点火時期Bとに基づいて学習値を設定する。すなわち、学習値設定部73は、実ノック発生点火時期Aに対する予測ノック発生限界点火時期Bの遅角量を学習値に設定する。点火時期学習部72は、学習値設定部73により設定されたこの学習値に応じて、図4で示したノック発生限界点火時期を示す曲線X0を遅角側に曲線X1までオフセットする。点火時期制御部71は、このオフセットされた曲線X1において、目標空燃比に応じたノック発生限界点火時期に基づいて点火プラグ45の最適な点火時期を制御する。これにより、予測ノック発生限界点火時期Bを予測し、実ノック発生点火時期Aからの遅角量を学習値に設定してノック発生限界点火時期を更新するので、例えば、アルコール燃料からガソリン燃料に変更された際等大きなノッキングが発生しやすい場合でも、ノッキングが発生した点火時期からの学習値(遅角量)を早期に設定することができ、学習の収束性が向上し、迅速に最適な点火時期を学習することができる。
再び、図3を参照して、ECU51は、ノックセンサ63によりノッキングの発生の有無を判定し(S110)、ノッキングの発生を検出していない場合(S110:No)、学習値設定部73により給油後の点火時期更新幅(進角量)で、ノック発生限界点火時期の学習値を進角方向に更新し(S116)、この学習値に基づいて点火時期学習部72によりノック発生限界点火時期を更新する(S114)。ここで、給油後の点火時期更新幅(進角量)は、進角側への学習を早期に完了できるように、通常の更新幅よりも大きな値を予め設定しておく。
そして、S114においてノック発生限界点火時期が更新された後、点火時期制御部71によりこの更新されたノック発生限界点火時期に基づいて点火プラグ45の点火時期を制御する。その後、ECU51は、給油後点火時期学習終了条件が成立したか否かを判定する(S118)。
給油後点火時期学習終了条件が成立したか否かの判定においては、具体的には、ECU51は、前回のノック発生限界点火時期の更新時と比較して、学習値の更新幅が小さくなり、学習の方向が反転し、かつ、所定期間内にノッキングが発生しなかった場合に、給油後点火時期学習終了条件が成立したと判定する。なお、学習方向が反転するのは、前回の更新時に進角側に学習し、今回の更新時に遅角側に学習した場合やその逆の場合である。
給油後点火時期学習終了条件が成立していないと判定された場合(S118:No)、S100に戻って以降の処理を繰り返す。給油後点火時期学習終了条件が成立したと判定された場合(S118:Yes)、S104でONにした給油フラグをOFFにした後にS100に戻って以降の処理を繰り返す。
以上で説明した本発明の実施例に係るエンジン10の制御装置によれば、少なくとも2種類の性状の異なる燃料と空気との混合気が燃焼可能な燃焼室18と、混合気に点火する点火プラグ45と、エンジン10のノッキングを検出するノックセンサ63と、エンジン10の空燃比を検出するA/Fセンサ61とを備え、ECU51に、ノックセンサ63によりノッキングが検出された際に、空燃比に応じて変化するノック発生限界点火時期を学習値に基づいて遅角側に更新する点火時期学習部72と、点火時期学習部72により更新されたノック発生限界点火時期に基づいて点火プラグ45による点火時期を制御する点火時期制御部71を設けている。
したがって、空燃比に応じて変化するノック発生限界点火時期を学習値に基づいて遅角側に更新し、この更新されたノック発生限界点火時期に基づいて点火時期を制御することから、空燃比を目標空燃比に制御する過渡期においても、適正に点火時期の学習を実行することができるので、燃料性状が変更されても早期にノッキングを回避可能な点火時期を学習することができる。また、早期に最適な点火時期を学習することができるので、早期に適正な出力を確保することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るエンジン10の制御装置によれば、ノックセンサ63によりノッキングが検出された際のノッキング強度と、燃焼室18内の未燃燃料量及び該未燃燃料が自己着火するタイミングに基づいたノッキングモデルとに応じて学習値を設定する学習値設定部73を備える。したがって、点火時期学習部72は、ノッキング発生時のノッキング強度とノッキングモデルに基づいてノッキングが発生するごとに設定される学習値に応じてノック発生限界点火時期を更新するので、点火時期を過度のノッキングが発生しない適正な点火時期まで素早く遅角することができ、最適な点火時期への収束性が向上し、早期に最適な点火時期を学習することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るエンジン10の制御装置によれば、エンジン10のクランク角度を検出するクランク角センサ57と、混合気に点火された際に未燃燃料量が予め設定された判定値以下になるノック判定クランク角度Cb及び混合気に点火された際に未燃燃料が自己着火する自己着火クランク角度Clに基づいて予測ノック発生限界点火時期を予測する予測ノック発生限界点火時期予測部74とを備え、学習値設定部73は、ノックセンサ63によりノッキングが検出された際の実ノック発生点火時期に対する予測ノック発生限界点火時期の遅角量に基づいて学習値を設定する。したがって、ノック判定クランク角度Cbと自己着火クランク角度Clとに基づいて予測ノック発生限界点火時期を予測し、実ノック発生点火時期に対するこの予測ノック発生限界点火時期の遅角量を学習値に設定することから、例えば、アルコール燃料からガソリン燃料に変更された際等大きなノッキングが発生しやすい場合でも、予測ノック発生限界点火時期に応じた最適な学習値を早期に設定することができ、この結果、最適な点火時期への収束性をさらに向上することができると共にノッキングの発生を効果的に抑制することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るエンジン10の制御装置によれば、予測ノック発生限界点火時期予測部74は、実ノック発生点火時期に対応した実ノック判定クランク角度Cb0を基準として点火時期に対応するノック判定クランク角度Cbを更新し、実ノック発生点火時期に対応した実自己着火クランク角度Cl0を基準として点火時期に対応する自己着火クランク角度Clを更新し、この更新されたノック判定クランク角度Cbと自己着火クランク角度Clとが等しくなる点火時期を予測ノック発生限界点火時期とする。したがって、実ノック判定クランク角度Cb0及び実自己着火クランク角度Cl0を基準としてノック判定クランク角度Cb及び自己着火クランク角度Clを更新することで、[ノック判定クランク角度Cb]=[自己着火クランク角度Cl]となるクランク角度C1に対応した点火時期をノック発生限界点火時期であると予測することができる。この結果、容易に実ノック発生点火時期に対する予測ノック発生限界点火時期の遅角量を算出することができ、この遅角量を学習値に設定することで、学習値を予測ノック発生限界点火時期に応じた値にすることができる。このため、点火時期の学習の初期の段階で最適な学習値を設定することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るエンジン10の制御装置によれば、空燃比に応じて変化するノック発生限界点火時期を示す曲線X、点火時期に対応した自己着火クランク角度Clを示す直線Y及び点火時期に対応したノック判定クランク角度Cbを示す直線Zを記憶する記憶部76を備え、点火時期学習部72は、記憶部76に記憶されたノック発生限界点火時期を示す曲線Xを学習値に基づいてオフセットすることで該ノック発生限界点火時期を更新し、予測ノック発生限界点火時期予測部74は、記憶部76に記憶された自己着火クランク角度Clを示す直線Yを実自己着火クランク角度Cl0に応じたポイント上にオフセットすると共に記憶部76に記憶されたノック判定クランク角度Cbを示す直線Zを実ノック判定クランク角度Cb0に応じたポイント上にオフセットし、該オフセットされた自己着火クランク角度Clを示す直線Yとノック判定クランク角度Cbを示す直線Zとの交点に基づいて予測ノック発生限界点火時期を予測する。したがって、ECU51における演算量を少なくすることでき、この結果、高速で給油後点火時期学習制御を実行することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るエンジン10の制御装置によれば、燃焼室18に連通する吸気ポート19及び排気ポート20と、吸気ポート19及び排気ポート20を開閉自在な吸気弁21及び排気弁22と、吸気弁21及び排気弁22を用いて吸気ポート19及び排気ポート20を開閉可能であると共に開閉タイミングを変更可能な吸気・排気可変動弁機構27、28と、エンジン10の負荷を調節する電子スロットル装置40とを備え、点火時期学習部72がノック発生限界点火時期を更新する場合に、吸気・排気可変動弁機構27、28は、吸気弁21及び排気弁22の開弁期間のオーバーラップをなくし、電子スロットル装置40は、エンジン10の負荷を予め設定された所定値以下に調節する。したがって、エンジン10の負荷が所定値以下に調節され、吸気弁21及び排気弁22の開弁期間のオーバーラップをなくすことで、燃焼室18への吸入空気の充填効率を抑制すると共に内部EGR量が抑えられ筒内温度の上昇が抑制されるため、大きなノッキングを起こしやすい運転状態を避けることがきる。この結果、以降の点火時期学習において、大きなノッキングの発生を回避しながらより正確な点火時期学習を実行することができる。
なお、上述した本発明の実施例に係るエンジン10の制御装置は、上述した実施例に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。以上の説明では、本発明の内燃機関の制御装置を筒内噴射式の多気筒エンジンに適用して説明したが、この形式のエンジンに限らず、直列型またはV型エンジンに適用することもでき、ポート噴射式の内燃機関に適用しても同様の作用効果を奏することができる。また、以上の説明では、性状の異なる少なくとも2種類の燃料としてアルコール燃料とガソリン燃料を使用して運転可能な内燃機関であるものとして説明したが、これに限らず、例えば、炭化水素燃料と水素ガスの双方を燃料として使用可能な内燃機関であってもよい。
また、以上の説明では、学習値は学習値設定部73によりノッキングが検出された際のノッキング強度とノッキングモデルに応じて設定されるものとして説明したが、運転状態に応じて予め設定した値を用いるようにしてもよい。
また、以上の説明では、予測ノック発生限界点火時期予測部74は、クランク角度を用いて予測ノック発生限界点火時期を予測するものとして説明したが、単純に時間を用いて予測するようにしてもよい。また、以上の説明では、予測ノック発生限界点火時期予測部74は、[ノック判定クランク角度Cb]=[自己着火クランク角度Cl]となるクランク角度C1に対応した点火時期を予測ノック発生限界点火時期と予測するものとして説明したが、[ノック判定クランク角度Cb]<[自己着火クランク角度Cl]となる点火時期領域ではノッキングは発生しないことから、[ノック判定クランク角度Cb]=[自己着火クランク角度Cl]となるクランク角度C1に若干のマージンを持たせて[ノック判定クランク角度Cb] <[自己着火クランク角度Cl]となるクランク角度に対応した点火時期を予測ノック発生限界点火時期としてもよい。
また、以上の説明では、筒内圧センサ59が検出する筒内圧に応じてノッキングが発生した際に残留していた未燃燃料量に応じたクランク角度を算出するものとしたが、運転状態を示す各種パラメータに基づいた数式モデルとして記憶部76に記憶しておき、この数式モデルに基づいて算出するようにしてもよい。この場合、筒内圧センサ59を設ける必要がなくなるため構成をより簡単にすることができ、製造コストの低減にも資することができる。また、A/Fセンサ61により検出されるノッキング発生時の空燃比は、燃焼室18から排出される排気ガスがA/Fセンサ61に接触するまでの時間を考慮して算出するとよい。この場合、より正確な点火時期学習が可能となる。