JP4702118B2 - 燃料電池用セパレータの製造方法 - Google Patents

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本発明は、燃料電池用セパレータ並びに燃料電池用セパレータの製造方法に関し、詳しくは、単セルを複数積層して構成する燃料電池において、隣接する単セル間に設けられ、電極との間で燃料ガス流路および酸化ガス流路を形成すると共に、燃料ガスと酸化ガスとを隔てる燃料電池用セパレータ、並びにその製造方法に関する。
従来、この種の燃料電池用セパレータの製造方法としては、カーボン粉末を原材料とし、これにフェノール樹脂をバインダとして加えて混練・成形した後に焼成し、炭化および黒鉛化する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような方法によってセパレータを製造する場合には、上記した焼成の工程によってブロック状のカーボン部材を作製し、このカーボン部材に機械加工を施して板状部材を切り出し、所望の形状のセパレータを製造する。あるいは、セパレータを製造する他の方法として、カーボン粉末に対してフェノール樹脂をバインダとして混合したものを、樹脂が黒鉛化しない温度で加熱プレス成形する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。このような方法によってセパレータを製造する場合には、所定の形状を有する金型を用いて加熱プレスを行なうことによって、所望の形状のセパレータを製造することができる。
実開平8−222241号公報 実開昭60−246568号公報
しかしながら、上記した2つの方法のうち、前者の製造方法では、1000〜3000℃の高温で長時間加熱を行なう焼成の工程を含むと共に、焼成カーボンに対して機械加工を施す工程を含むため、製造に要する時間が長くなると共に、製造工程が煩雑となってコストが上昇してしまうという問題があった。さらに、焼成の工程で、カーボン粉末にバインダとして加えたフェノール樹脂が水を発生するため、焼成によって製造される上記カーボン部材内で、この発生した水のために気泡が生じ、製造されるセパレータのガス不透過性が損なわれてしまうおそれがある。したがって、セパレータのガス不透過性を確保するために、カーボン部材内に生じた気泡を塞ぐ処理を行なう必要があり、製造工程がさらに煩雑になってしまう。
一方、後者の製造方法では、焼成の工程および機械加工の工程を含まないため、上記した前者の方法に比べて製造工程を簡素化できるという利点を有する。しかしながら、上記した加熱プレスの工程において、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂が熱硬化する際には、このフェノール樹脂が有する水酸基が反応してガス(水蒸気)を発生するため、製造されるセパレータ内に気泡が発生して、セパレータのガス不透過性が不十分となってしまうおそれがある。また、カーボンと、熱硬化性樹脂からなるバインダとを含む原材料を加熱プレス成形すると、成形時に融解したバインダがにじみ出して、セパレータ部材表面にはバインダの層が形成される。また、プレス成形時に用いる金型には、金型からセパレータ部材を取り出す際の離型性を高めるために離型剤が塗布されており、この離型剤の少なくとも一部は、金型から取り出されたセパレータ部材の表面に付着してしまう。このようなセパレータ部材表面のバインダの層や離型剤は導電性を有しないという問題があった。
本発明は、こうした問題を解決し、簡便な製造方法によって、充分なガス不透過性あるいは導電性を有する燃料電池用セパレータを製造することを目的としてなされ、そのため、本発明の燃料電池用セパレータの製造方法は次の構成を採った。
発明の燃料電池用セパレータの製造方法は、
(a)カーボンとバインダとを含む原材料を、所定の型内で加熱プレス成形し、所定の形状を有するセパレータ部材を形成する工程と、
(b)前記セパレータ部材から燃料電池用セパレータを作製する工程と
を備え、
前記工程(b)は、
(b−1)前記工程(a)で形成した前記セパレータ部材の表面のうち、該セパレータ部材から得られる前記セパレータを燃料電池に組み込んだときに、前記セパレータに隣接する部材と接触する面に対応する面において、研磨除去によって、前記加熱プレス成形の際に軟化して前記セパレータ部材表面に滲み出した前記バインダを、前記セパレータ部材表面から除去する工程を備える
ことを要旨とする。
以上のように構成された本発明の燃料電池用セパレータの製造方法によれば、セパレータ部材表面に形成されたバインダの層や、セパレータ部材表面に付着する離型剤を取り除くことができる。すなわち、カーボンと、熱硬化性樹脂からなるバインダとを含む原材料を加熱プレス成形すると、成形時に融解したバインダがにじみ出して、セパレータ部材表面にはバインダの層が形成される。また、プレス成形時に用いる金型には、金型からセパレータ部材を取り出す際の離型性を高めるために離型剤が塗布されており、この離型剤の少なくとも一部は、金型から取り出されたセパレータ部材の表面に付着してしまう。このようなセパレータ部材表面のバインダの層や離型剤は導電性を有しないため、セパレータ部材に対して上記した研磨除去の処理を施すことによって、製造されるセパレータの導電性を高めることができる。
以上説明した本発明の構成・作用を一層明らかにするために、以下本発明の実施の形態を実施例に基づき説明する。まず最初に、説明の便宜上、図3から図5を基にして、本発明の第1実施例であるセパレータの製造方法に基づいて製造したセパレータを備える燃料電池の構成および動作について説明し、続いて本発明の第1実施例であるセパレータの製造方法について説明することとする。
本発明の第1実施例であるセパレータの製造方法に基づいて製造したセパレータを備える燃料電池は、構成単位である単セルを複数積層したスタック構造を有している。図3は、燃料電池の構成単位である単セル28の構成を例示する断面模式図、図4は、単セル28の構成を表わす分解斜視図、図5は、単セル28を積層したスタック構造14の外観を表わす斜視図である。
本実施例の燃料電池は、固体高分子型燃料電池である。固体高分子型燃料電池は、湿潤状態で良好な導電性を示す固体高分子からなる膜を電解質層として備えている。このような燃料電池は、アノード側に水素を含有する燃料ガスの供給を受け、カソード側に酸素を含有する酸化ガスの供給を受けて、以下に示す電気化学反応を進行する。
2 → 2H++2e- …(1)
(1/2)O2+2H++2e- → H2O …(2)
2+(1/2)O2 → H2O …(3)
(1)式はアノードにおける反応、(2)式はカソードにおける反応を表わし、燃料電池全体では(3)式に示す反応が進行する。このように、燃料電池は、燃料電池に供給される燃料が有する化学エネルギを直接電気エネルギに変換するものであり、エネルギ効率が非常に高い装置として知られている。燃料電池の構成単位である単セル28は、図3に示すように、電解質膜21と、アノード22およびカソード23と、セパレータ30a,30bとから構成されている。
アノード22およびカソード23は、電解質膜21を両側から挟んでサンドイッチ構造を成すガス拡散電極である。セパレータ30a,30bは、このサンドイッチ構造をさらに両側から挟みつつ、アノード22およびカソード23との間に、燃料ガスおよび酸化ガスの流路を形成する。アノード22とセパレータ30aとの間には燃料ガス流路24Pが形成されており、カソード23とセパレータ30bとの間には酸化ガス流路25Pが形成されている。実際に燃料電池を組み立てるときには、上記単セル28を所定の枚数積層してスタック構造14を形成する。
図3では、各セパレータ30a,30bの片面においてだけガス流路を成すリブが形成されているように表わされているが、実際の燃料電池では、図4に示すように、各セパレータ30a,30bは、その両方の面にそれぞれリブ54およびリブ55を形成している。セパレータ30a,30bのそれぞれの片面に形成されたリブ54は隣接するアノード22との間で燃料ガス流路24Pを形成し、セパレータ30の他面に形成されたリブ55は隣接する単セルが備えるカソード23との間で酸化ガス流路25Pを形成する。したがって、セパレータ30a,30bは、ガス拡散電極との間でガスの流路を形成すると共に、隣接する単セル間で燃料ガスと酸化ガスとの流れを分離する役割を果たしている。このように、セパレータ30a,30bは、実際に組み立てられる燃料電池では、形態上、あるいは働きの上で区別はなく、以後、セパレータ30と総称する。
なお、各セパレータの表面に形成されたリブ54,55の形状は、ガス流路を形成してガス拡散電極に対して燃料ガスまたは酸化ガスを供給可能であれば良い。本実施例では、各セパレータの表面に形成されたリブ54,55は平行に形成された複数の溝状の構造とした。図3では、単セル28の構成を模式的に表わすために、燃料ガス流路24Pと酸化ガス流路25Pとを平行に表わしたが、燃料電池を組み立てる際に実際に用いるセパレータ30では、各セパレータ30の両面で、リブ54とリブ55とがそれぞれ直交する方向となるように、リブ54,55を形成した。
電解質膜21は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。本実施例では、ナフィオン膜(デュポン社製)を使用した。電解質膜21の表面には、触媒としての白金または白金と他の金属からなる合金が塗布されている。
アノード22およびカソード23は、共に炭素繊維からなる糸で織成したカーボンクロスにより形成されている。なお、本実施例では、アノード22およびカソード23をカーボンクロスにより形成したが、炭素繊維からなるカーボンペーパまたはカーボンフエルトにより形成する構成も好適である。
セパレータ30は、本実施例の要部に対応する後述する製造方法に従って製造され、カーボン材料を圧縮した成形カーボンとして形成されている。このセパレータ30の周辺部には、4つの穴構造が設けられている。燃料ガス流路34Pを形成するリブ54を連絡する燃料ガス孔50,51と、酸化ガス流路35Pを形成するリブ55連絡する酸化ガス孔52,53である。燃料電池を組み立てたときには、各セパレータ30が備える燃料ガス孔50,51は、燃料電池内部をその積層方向に貫通する燃料ガス供給マニホールド56および燃料ガス排出マニホールド57を形成する。また、各セパレータ30が備える酸化ガス孔52,53は、同じく燃料電池内部をその積層方向に貫通する酸化ガス供給マニホールド58および酸化ガス排出マニホールド59を形成する。
以上説明した各部材を備える燃料電池を組み立てるときには、セパレータ30、アノード22、電解質膜21、カソード23、セパレータ30の順序で順次重ね合わせ、その両端にさらに集電板36,37、絶縁板38,39、エンドプレート40,41を配置して、図5に示すスタック構造14を完成する。集電板36,37にはそれぞれ出力端子36A,37Aが設けられており、燃料電池で生じた起電力を出力可能となっている。
エンドプレート40は、図5に示すように2つの穴構造を備えている。一つは燃料ガス孔42、もう一つは酸化ガス孔44である。エンドプレート40と隣接する絶縁板38および集電板36は、エンドプレート40が備える2つの穴構造と対応する位置に同様の2つの穴構造を形成している。この燃料ガス孔42は、セパレータ30の備える燃料ガス孔50の中央部に開口している。なお、燃料電池を動作させるときには、燃料ガス孔42と図示しない燃料供給装置とが接続され、水素リッチな燃料ガスが燃料電池内部に供給される。同様に、酸化ガス孔44は前記セパレータ30の備える酸化ガス孔52の中央部に対応する位置に形成されている。燃料電池を動作させるときには、この酸化ガス孔44と図示しない酸化ガス供給装置とが接続され、酸素を含有する酸化ガスが燃料電池内部に供給される。ここで、燃料ガス供給装置と酸化ガス供給装置は、それぞれのガスに対して所定量の加湿および加圧を行なって燃料電池に供給する装置である。
また、エンドプレート41は、エンドプレート40とは異なる位置に2つの穴構造を備えている。絶縁板39、集電板37もまたエンドプレート41と同様の位置に、それぞれ2つの穴構造を形成している。エンドプレート41が備える穴構造の一つ燃料ガス孔43はセパレータ30の備える燃料ガス孔51の中央部に対応する位置に開口している。もう一つの穴構造である酸化ガス孔45はセパレータ30の備える酸化ガス孔53の中央部に対応する位置に開口している。燃料電池を動作させるときには、燃料ガス孔43には図示しない燃料ガス排出装置が接続され、酸化ガス孔45には図示しない酸化ガス排出装置が接続される。
以上説明した各部材からなるスタック構造14は、その積層方向に所定の押圧力がかかった状態で保持され、燃料電池が完成する。スタック構造14を押圧する構成については図示は省略した。
次に、以上のような構成を備えた燃料電池における燃料ガスおよび酸化ガスの流れについて説明する。燃料ガスは、上記した所定の燃料ガス供給装置から、エンドプレート40に形成された燃料ガス孔42を経て燃料電池内部に導入される。燃料電池内部で燃料ガスは、燃料ガス供給マニホールド56を介して各単セル28が備える燃料ガス流路24Pに供給され、各単セル28のアノード側で進行する電気化学反応に供される。燃料ガス流路24Pから排出された燃料ガスは、燃料ガス排出マニホールド57に集合してエンドプレート41の燃料ガス孔43に達し、この燃料ガス孔43から燃料電池の外部へ排出されて、所定の燃料ガス排出装置に導かれる。
同様に酸化ガスは、上記した所定の酸化ガス供給装置から、エンドプレート40に形成された酸化ガス孔44を経て燃料電池内部に導入される。燃料電池内部で酸化ガスは、酸化ガス供給マニホールド58を介して各単セル28が備える酸化ガス流路25Pに供給され、各単セル28のカソード側で進行する電気化学反応に供される。酸化ガス流路25Pから排出された酸化ガスは、酸化ガス排出マニホールド59に集合してエンドプレート41の酸化ガス孔45に達し、この酸化ガス孔45から上記所定の酸化ガス排出装置に排出される。
次に、本発明の要部に対応するセパレータ30の製造方法について説明する。図1は本実施例のセパレータ30の製造方法を表わす工程図、図2は、図1に表わす工程のなかのプレス成形の様子を表わす説明図である。図1に示したセパレータ30の製造工程は、カーボン粉末にバインダを加えた原材料粉末を用いて、加熱プレスによって成形するというものであるが、原材料粉末に加えるバインダとして、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂とノボラック型フェノール樹脂とを用いていることを特徴としている。
最初に、図1に基づいて、セパレータ30の製造方法を説明する。セパレータ30を製造するには、まず原材料粉末の調製を行なう(ステップS100)。ここでは、原材料として、カーボン粉末と、このカーボン粉末を互いに結着させてセパレータに充分な強度を与えるためのバインダを用意する。
一般にバインダは、所定の温度に加熱することによって熱硬化反応を起こす熱硬化性樹脂からなり、セパレータを製造するためのバインダとしては、燃料電池の運転温度および燃料電池に供給するガスの各成分に対して安定であることが望まれる。そこで、本実施例では、バインダとして使用する熱硬化性樹脂として、上述したように、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂とノボラック型フェノール樹脂とを用いている。ステップS100で用意するバインダの組成内容は、エポキシ当量が214グラム当量であるクレゾールノボラック型エポキシ樹脂と、OH当量が103グラム当量であるノボラック型エポキシ樹脂とを等量ずつ用い、さらに、エポキシ樹脂の硬化促進剤として、イミダゾール化合物(2−エチル−4−メチル イミダゾール)をエポキシ樹脂に対して0.5%の割合で加える。上記ステップS100では、このような組成のバインダを、カーボン粉末に対して12%用意する。
なお、カーボン粉末としては、本実施例では鱗片状天然黒鉛を用いた。この鱗片状天然黒鉛としては、平均粒径が5〜50μm、粒度分布が1〜200μmのものを用いた。カーボン粉末の粒径が小さいと、後述する加熱プレス成形においてより多くのバインダを要することになる。また、カーボン粉末の粒径が大きいと、カーボン粉末とバインダとを充分に均一に混合することが困難となる。これらのことを考慮して、用いるカーボン粉末としては、上記した範囲の粒径を有する粒子からなる粉末を用いることとした。
次に、ステップS100で用意した原材料粉末に、有機溶媒であるメチルエチルケトン(MEK)を加え、ボールミルで均一に混合して、粘度200cpsのスラリを作製する(ステップS110)。続いて、このスラリをスプレードライヤ装置に充填し、80℃の温度条件で噴霧乾燥して造粒し、平均粒径100μm程度の粉末を得る(ステップS120)。なお、ステップS110で作製するスラリの粘度は、ステップS120で使用するスプレードライヤ装置の性能などを考慮して、上記した所望の粒径を有する粒子が造粒可能となるように、適宜調節すればよい。
上記ステップS120では、カーボン粉末とバインダとを混合して作製したスラリを、スプレードライヤ装置を用いて造粒したが、異なる方法によって、カーボンとバインダとが混合した粉末を調製してもよい。たとえば、上記スラリを乾燥させた後に粉砕することとしてもよい。また、原材料粉末を均一に混合可能であれば、上記した湿式混練に代えて、樹脂が硬化しない程度の温度(室温から100℃程度)において、溶媒を用いることなく原材料粉末を混合する乾式混練を行なってもよい。
ここで、原材料として用いるカーボンは、既述した湿式混練や乾式混練によって、許容できる程度に均一に、バインダと混合可能な形状であればよい。バインダと充分に均一に混合し、ステップS120において既述した粒径の粒子に造粒するために、本実施例では、既述した範囲の粒径を有する粒子からなる鱗片状天然黒鉛粉末を用いた。
ステップS120において、カーボン粉末とバインダとからなる粒子によって構成される粉末が得られると、次に、これらの粉末を所定形状の金型に投入する(ステップS130)。原材料粉末を金型60内に投入した様子を、図2(A)に模式的に示す。この金型60は、これを用いて原材料粉末をプレス成形することによって、図4に示した形状のセパレータ30を形成可能となる凹凸形状を内面に有するものである。ここで、面圧1ton/cm2 、180℃にてプレスすることで、図4に示したセパレータ30と同様の形状を有するセパレータ部材が得られる(ステップS140)。なお、プレス時の面圧は、製造されるセパレータ30が充分な強度を有するならば、異なる値としてもよく、選択した面圧に応じて、原材料粉末としてカーボン粉末に混合するバインダ量を適宜調節すればよい。
上記ステップS140のプレス成形時には、金型を180℃で加熱することによって、バインダを構成する熱硬化性樹脂が一旦軟化すると共に熱硬化反応が起こり、プレス成形と同時にセパレータ部材に所定の強度を与えることができる。ここで、プレス成形時の加熱条件は、上記した樹脂の軟化および熱硬化反応がおこる条件であればよく、例えば、140〜220℃の温度範囲で、1〜30分間という加熱時間範囲の中で適宜決定することができる。あるいは、熱硬化性樹脂が軟化するものの熱硬化反応は起こさない温度範囲(80〜100℃)で加熱プレス成形を行なった後に、成形されたセパレータ部材を所定の加熱炉内で140〜220℃で30〜600分間加熱することによって熱硬化性樹脂の熱硬化を行なうこととしても良い。この場合には、プレス成形時に熱硬化性樹脂を軟化させることによって、カーボン粉末間に熱硬化性樹脂を行き渡らせて充分な結着性を得ることができる。また、プレス時には熱硬化反応を完了させる必要がないためプレス工程の時間を短縮することができ、また、熱硬化反応は後でまとめて行なうことができるため、多量のセパレータを製造する場合に有利となる。この熱硬化反応のために行なう加熱は、選択した熱硬化性樹脂が熱硬化可能であって、熱硬化性樹脂等の構成材料が劣化しない温度範囲および加熱時間であれば良い。
上記したプレス成形を行なうときに、上記金型内の空気が原材料粉末中に取り込まれてプレスが行なわれると、成形されたセパレータ部材内に空気が残留してセパレータ部材内に気泡が形成されることがある。このように局所的に非所望の気泡が形成されてしまうのを防ぐために、プレス成形時には上記金型内を10torr以下に排気しておき、セパレータ部材内に空気が残留するのを防ぐ構成としてもよい。
次に、加熱プレス成形で得られたセパレータ部材において、燃料電池内に組み込んだときにガス流路を形成する凹凸構造(リブ54,55)の凸部の表層を研磨除去する(ステップS150)。上記ステップS140における加熱プレス成形を行なうと、熱硬化性樹脂が加熱によって一旦軟化するときに、熱硬化性樹脂の一部がセパレータ部材表面ににじみ出して、得られるセパレータ部材の表面に熱硬化性樹脂の層が形成される。熱硬化性樹脂は導電性を有しないため、このような熱硬化性樹脂の層が表面に形成されると、製造されるセパレータにおいて抵抗が増大し、導電性が悪化する。したがって、セパレータ部材表面の研磨除去を行なうことによって、セパレータ部材からこの熱硬化性樹脂の層を取り除き、セパレータの導電性を確保している。ここで、セパレータを燃料電池に組み込んだときには、セパレータと、このセパレータと隣接する部材(ガス拡散電極)とが接触する接触部位における接触抵抗が特に問題となるため、このような接触部位にあたる領域、すなわち、セパレータ部材表面に形成された凹凸構造の内、凸部の表面を削り取る。本実施例では、この凸部表面を約10μm研磨除去した。このようにして、セパレータ部材表面に形成された熱硬化性樹脂の層を取り除いて、セパレータ30を完成させる。
なお、ステップS150において、セパレータ部材表面に形成された凹凸構造の凸部の表面を研磨除去するという処理を行なうと、加熱プレス成形の際にセパレータ部材の表面に熱硬化性樹脂が滲み出して形成された熱硬化性樹脂の層が取り除かれる他に、この研磨除去を行なう部位において、セパレータ部材表面に付着した離型剤も取り除かれる。原材料にバインダとして加える熱硬化性樹脂は密着性が高いため、加熱プレス成形の後に、加熱プレス成形で用いた金型からセパレータ部材を取り出すときの離型性を高めるため、上記金型には加熱プレス成形に先立って離型剤を塗布する。この離型剤として、本実施例ではポリテトラフルオロエチレン(テフロン:登録商標)を用いたが、金型に塗布したこのような離型剤の少なくとも一部は、金型からセパレータ部材を取り出すときにはセパレータ部材に付着してしまう。ステップS150の研磨除去の工程を行なうことによって、セパレータ部材に付着した離型剤は、上記したガス拡散電極と接触可能な面において除去される。
このようにして得られたセパレータ30について密度を測定し、この値を理論密度と比較したところ、セパレータ30の密度は理論密度の95%以上であり、燃料電池用セパレータとして、充分なガス不透過性を備えていた。ここで、理論密度とは、原材料として用いたカーボン粉末の密度とバインダの密度、および、原材料におけるカーボン粉末とバインダとの混合比率から求まる平均密度を、セパレータが完全に緻密に形成された場合の密度として仮想的に計算したものである。実際にセパレータを製造する場合には、完全に緻密な理想的な状態とはならないが、製造したセパレータの密度が上記理論密度に近いほど、セパレータはより緻密な状態となり、そのガス不透過性は良好となる。製造したセパレータのガス不透過性が、燃料電池用セパレータとして充分であるためには、製造したセパレータの実際の密度が、上記理論密度の93%以上であることが望ましい。
以上説明したように製造したセパレータ30を用いて燃料電池を組み立て、その電流−電圧特性を調べた結果を図6に示す。図6では、比較例として、従来知られる技術に従って作製した黒鉛化カーボンと、従来知られる技術に従って作製した成形カーボンからなるセパレータをそれぞれ用いた燃料電池における電流−電圧特性も合わせて示した。ここで、従来知られる技術に従って作製した黒鉛化カーボンからなるセパレータとは、カーボン粉末とフェノール樹脂とを混練して成形したものを焼成して黒鉛化し、機械加工を施して所定の形状としたものである。なお、既述したように、焼成の工程で生じる水などによって焼成カーボンでは内部に気泡が形成されてしまうので、ここで比較例として用いた黒鉛化カーボンからなるセパレータは、焼成の工程の後に、さらに樹脂を含浸させて上記気泡を塞ぎ、セパレータにおけるガス不透過性を確保している。また、従来知られる技術に従って作製した成形カーボンからなるセパレータとは、カーボン粉末に、フェノール樹脂からなる充分量のバインダを加えて混練した後に、加熱プレス成形を行なって製造したものである。ここでは、従来技術として既述した公報(特開平60−246568)に開示された方法に従い、セパレータのガス不透過性を確保するのに充分量のバインダとして、カーボン粉末に対して20%以上の割合のバインダを加えた。
図6に示すように、本実施例のセパレータ30を用いて組み立てた燃料電池は、従来知られる黒鉛化カーボンからなるセパレータを用いて組み立てた燃料電池と、ほぼ同等の電流−電圧特性を示すと共に、従来知られる成形カーボンからなるセパレータを用いて組み立てた燃料電池に比べて優れた電池特性を示した。すなわち、出力電流値が大きくなっても、充分に高い出力電圧を維持することができた。ここで、従来知られる成形カーボンからなるセパレータを用いて組み立てた燃料電池の電池特性が劣っているのは、加熱プレスによって成形する際に、成形されたセパレータの表面に加熱によって軟化したバインダがしみ出し、セパレータ表面にバインダの層が形成されてしまうことによる。フェノール樹脂からなるバインダは導電性を有しないため、このようなセパレータを用いて燃料電池を組み立てると、燃料電池の内部抵抗が増大し、出力電流値が大きいときの出力電圧を充分に確保することが困難となる。
以上説明した本実施例のセパレータの製造方法によれば、カーボン粉末に加えるバインダとして、フェノール樹脂とエポキシ樹脂とを混合して用いているため、加熱プレス成形時にバインダとして用いる熱硬化性樹脂が化学反応を起こして熱硬化するときに、これらの樹脂がガス(水蒸気)を発生することがない。したがって、加熱時に発生したガスによってセパレータが膨張したり、割れが生じたりすることがなく、充分な強度のセパレータを製造することができる。
フェノール樹脂とエポキシ樹脂は、加熱プレス成型時に互いに化学反応して分子間で架橋が起こり、熱硬化する。この反応の様子を、図9に示す。フェノール樹脂は水酸基を有しており、フェノール樹脂だけをバインダとして用いる場合には、フェノール樹脂が有するこの水酸基が互いに反応して水を生じる。このようにフェノール樹脂だけをバインダとして用いる場合に、プレス成型時の加熱が急速に行なわれ、上記水酸基同士の反応が急激に進行すると、急激に生成される水蒸気によって、プレス成形で得られるセパレータ部材に膨れが生じるおそれがある。これに対して、バインダとしてフェノール樹脂とエポキシ樹脂とを用いると、図9に示すように、フェノール樹脂の水酸基はエポキシ樹脂のエポキシ基と反応するため、水蒸気を生じることがない。
なお、バインダとしてフェノール樹脂とエポキシ樹脂とを組み合わせて用いることによって、加熱プレス成型時における水蒸気の発生を抑える場合に、その効果を充分に得るには、バインダとして用いるフェノール樹脂が有する水酸基から非所望の水蒸気が生じないように、この水酸基と反応するのに充分量のエポキシ基を、バインダとして用いるエポキシ樹脂が有していることが必要である。たとえば、エポキシ樹脂とフェノール樹脂とを等量用いる場合には、エポキシ当量が100〜250グラム当量のエポキシ樹脂と、OH当量が100〜120グラム当量のフェノール樹脂とを混合して用いればよい。バインダ中のエポキシ樹脂とフェノール樹脂とが、加熱に伴って化学反応を起こして熱硬化する際に、エポキシ樹脂においてこの化学反応に供されるエポキシ基の量と、フェノール樹脂においてこの化学反応に供される水酸基の量との比の値が、0.8〜1.2となるように設定することによって、バインダ中のエポキシ樹脂量とフェノール樹脂量とのバランスをとることができる。ここで、エポキシ樹脂は、フェノール樹脂に比べて熱硬化に長時間を要するため、エポキシ樹脂量とフェノール樹脂量とのバランスを取ることによって、上記したガス発生を抑える効果を得ながら、製造時間が長期化するのを抑えることができる。なお、製造時間が許容できる範囲であれば、エポキシ樹脂量をフェノール樹脂量よりも多く設定しても差し支えない。
本実施例では、バインダとして用いるエポキシ樹脂としてクレゾールノボラック型エポキシ樹脂を、フェノール樹脂としてノボラック型フェノール樹脂を用いたが、それぞれ異なる種類の樹脂を用いることとしてもよい。例えば、エポキシ樹脂としては、クレゾールノボラック型の他に、グリシジルアミン型やビスフェノールA型などを用いることができ、フェノール樹脂としては、ノボラック型の他にレゾール型などを用いることができる。いずれの場合にも、エポキシ樹脂とフェノール樹脂とを組み合わせて用いることによって、加熱時に発生するガス量を抑える上記した効果を得ることができる。
ここで、用いる樹脂の種類によって、最終的に製造されるセパレータの性質が変わるため、製造するセパレータに対して望む性質・性能に応じて、用いる樹脂の種類を適宜選択すればよい。例えば、エポキシ樹脂としてクレゾールノボラック型を用いると、セパレータの耐熱性を向上させることができる。これに対して、エポキシ樹脂としてビスフェノールA型を用いると、セパレータを柔らかくすることができ、堅すぎることによってセパレータが脆く壊れやすくなるのを抑えることができる。あるいは、エポキシ樹脂として、これらクレゾールノボラック型とビスフェノールA型の両方を混合して用いると、その混合比に応じてそれぞれの樹脂の利点をセパレータに与えることができる。
さらに、本実施例の燃料電池用セパレータの製造方法によれば、焼成の工程を行なうことなく、加熱プレス成形によってセパレータ部材を作製しているため、焼成体から所定の形状を切り出すための機械加工の工程が不要となる。したがって、製造工程を簡素化することができると共に製造コストを抑えることができる。
また、本実施例の燃料電池用セパレータの製造方法では、原材料として用いるカーボン粉末として、鱗片状天然黒鉛を用いているため、他種のカーボン粉末を用いる場合に比べてバインダ量を少なくすることができるという効果を奏する。すなわち、鱗片状天然黒鉛の粉末は、この粉末を構成する各粒子が薄片状であるため、鱗片状天然黒鉛粉末自体が所定の結着力を有し、セパレータを構成するカーボン粉末に充分な結着力を付与するために加えるバインダ量がより少なくて済む。また、カーボン粉末として、平均粒径5〜50μm、粒度分布1〜200μmの粒子からなる粉末を用いることによって、より微小な粒子からなるカーボン粉末を用いる場合に比べて、バインダの所要量を減らすことができる。バインダとして用いる熱硬化性樹脂は導電性を有しないため、原材料に加えるバインダ量が少なくて済むことによって、製造されるセパレータの導電性を向上させることができる。なお、上記したカーボン粉末を構成する粒子の大きさの範囲は、カーボン粉末とバインダとを均一に混合するために充分な細かさとなっている。
さらに、原材料に加えるバインダ量を抑えることによって、製造されるセパレータの強度を向上させることができる。図7は、原材料粉末に加えるバインダ量と、製造されるセパレータの示す強度との関係を表わす説明図である。室温においては、加えるバインダ量が増えるにしたがってセパレータの強度は増し、セパレータの示す強度は、加えるバインダ量がカーボン粉末量の約10%を超えると最大となって安定する。これに対し、140℃の温度条件下では、セパレータの強度が最大となるまでは、室温の場合と同様に、バインダ量が増えるにしたがってセパレータ強度は増すが、加えるバインダ量がカーボン粉末量の15%程度を超えると、バインダ量が増えるにしたがって逆にセパレータ強度は低下するようになる。本実施例のように、カーボン粉末として鱗片状天然黒鉛を用いて、バインダ量をカーボン粉末量の12%程度に削減すると、高い温度条件下でのセパレータ強度を高めることができる。固体高分子型燃料電池の運転温度は、室温よりも高く(例えば80〜100℃)、このように高い温度条件下でのセパレータの強度を増すことによって、燃料電池の耐久性を向上させることができる。また、固体高分子型燃料電池を構成する固体高分子膜の耐熱温度の上限は140℃程度であり、バインダ量を上記したように削減することによって、固体高分子膜の耐熱温度範囲において、セパレータの強度を充分に確保することができる。
さらに、本発明の燃料電池用セパレータの製造方法では、加熱プレス成形によって得たセパレータ部材の表面に形成された凹凸構造の凸面を研磨し、セパレータ部材表面に形成されたバインダの層を取り除いてセパレータ30を製造しているため、導電性が充分に高いセパレータを得ることができる。図8は、セパレータ部材表面に形成されるバインダ層を取り除くための、このような研磨を行なう場合と行なわない場合とについて、原材料粉末に加えるバインダ量と、製造されるセパレータが示す接触抵抗との関係を表わす説明図である。バインダとして加える熱硬化性樹脂は導電性を示さず、また、加えるバインダ量が増えるほど、加熱プレス成形時にセパレータ部材表面に滲み出るバインダ量が増え、セパレータ部材表面に形成されるバインダ層が厚くなるため、加えるバインダ量が増えるほど、セパレータの接触抵抗は増大する。これに対し、上記研磨の処理を行なうと、このようなバインダ層が取り除かれるため、セパレータの導電性は充分に確保され、加えるバインダ量が多くなっても、それによってセパレータの接触抵抗が増大してしまう程度ははるかに小さくなる(図8参照)。
また、加熱プレス成形で得たセパレータ部材に対し、上記した研磨の処理を施すことによって、セパレータ部材表面のバインダ層を取り除くだけでなく、既述したように、セパレータ部材の表面に付着した離型剤を取り除くこともできる。離型剤は、導電性を有しない他に、撥水性を示すため、セパレータ部材表面を研磨することによって、導電性を向上させることができるのに加えて、セパレータ表面が非所望の撥水性を帯びてしまうのを防ぐことができる。セパレータの撥水性は、このセパレータを用いて組み立てた燃料電池内部のガス流路における排水性に影響し、セパレータが非所望の撥水性を有することで、上記燃料電池における排水性が悪化する場合があるが、セパレータ部材表面を研磨することによって、このような不都合を回避することができる。
以上本発明の実施例について説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる様態で実施し得ることは勿論である。
本発明の実施例であるセパレータ30の製造方法を表わす工程図。 加圧成形によってセパレータ30を製造する様子を表わす説明図である。 単セル28の構成を表わす断面模式図である。 燃料電池の構成を表わす分解斜視図である。 単セル28を積層したスタック構造14の外観を表わす斜視図である。 セパレータ30を用いて組み立てた燃料電池の電流−電圧特性を表わす説明図である。 原材料に加えるバインダ量と、製造されるセパレータの強度との関係を表わす説明図である。 原材料に加えるバインダ量と、製造されるセパレータの接触抵抗との関係を表わす説明図である。 エポキシ樹脂とフェノール樹脂とが反応する様子を表わす説明図である。
符号の説明
14…スタック構造
21…電解質膜
22…アノード
23…カソード
24P…燃料ガス流路
25P…酸化ガス流路
28…単セル
30…セパレータ
30a,30b…セパレータ
34P…燃料ガス流路
35P…酸化ガス流路
36,37…集電板
36A,37A…出力端子
38,39…絶縁板
40,41…エンドプレート
42,43…燃料ガス孔
44,45…酸化ガス孔
50,51…燃料ガス孔
52,53…酸化ガス孔
54,55…リブ
56…燃料ガス供給マニホールド
57…燃料ガス排出マニホールド
58…酸化ガス供給マニホールド
59…酸化ガス排出マニホールド
60…金型

Claims (2)

  1. 燃料電池用セパレータの製造方法において、
    (a)カーボンとバインダとを含む原材料を、所定の型内で加熱プレス成形し、所定の形状を有するセパレータ部材を形成する工程と、
    (b)前記セパレータ部材から燃料電池用セパレータを作製する工程と
    を備え、
    前記工程(b)は、
    (b−1)前記工程(a)で形成した前記セパレータ部材の表面のうち、該セパレータ部材から得られる前記セパレータを燃料電池に組み込んだときに、前記セパレータに隣接する部材と接触する面に対応する面において、研磨除去によって、前記加熱プレス成形の際に軟化して前記セパレータ部材表面に滲み出した前記バインダを、前記セパレータ部材表面から除去する工程を備える
    燃料電池用セパレータの製造方法。
  2. 請求項1記載の燃料電池用セパレータの製造方法であって、
    前記セパレータ部材は、該セパレータ部材から得られる前記燃料電池用セパレータを燃料電池内に組み込んだときにガス流路を形成する凹凸構造を有し、
    前記(a)工程は、前記所定の型に対して、前記加熱プレス成形に先立って予め離型剤を塗布する工程を含み、
    前記(b−1)工程は、前記セパレータ部材における前記凹凸構造の凸部の表層を研磨除去することにより、前記バインダを除去する
    燃料電池用セパレータの製造方法。
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