以下、本発明について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
本実施形態は、車両の制動装置に運転者からの制動のための入力を伝達するアームと、前記アームに取り付けられるペダル本体とを備え、前記ペダル本体の踏面の姿勢を変更可能なブレーキペダルの前記踏面の姿勢を制御するものであり、ブレーキペダルの操作形態と、運転者の体格と、に基づいて踏面の姿勢を設定し、制御する点に特徴がある。
図1は、本実施形態に係るブレーキ入力装置及びブレーキペダルの姿勢制御装置が適用される車両を示す模式図である。車両100は、左前輪10FL、右前輪10FR、左後輪10RL、右後輪10RRを備える。以下において、これらを区別しない場合には、車輪10という。
車両100には、左前輪10FL、右前輪10FR、左後輪10RL、右後輪10RRに機械的な制動力(車輪制動力)を発生させる制動装置101が設けられている。この制動装置101は、制動制御装置1によってその動作が制御され、目標とする車両制動制御値(目標車両制動制御値)に応じた車輪制動力を左前輪10FL、右前輪10FR、左後輪10RL、右後輪10RRに発生させる。制動制御装置1は、例えば、マイクロコンピュータやメモリ等を組み合わせて構成され、それぞれの車輪10に対する車輪制動力を制御するとともに、本実施形態に係るブレーキペダルの姿勢制御を実現する。すなわち、制動制御装置1は、本実施形態に係るブレーキペダルの姿勢制御装置としても機能する。
制動制御装置1は、目標車両制動制御値を求める目標車両制動制御値演算手段1aと、その目標車両制動制御値を満足させるそれぞれの車輪10の目標車輪制動制御値を求める目標車輪制動制御値演算手段1bと、制動装置を駆動制御してその目標車輪制動制御値をそれぞれの車輪10に働かせる制動装置制御手段1cと、ブレーキペダルの踏面の押圧分布を求める押圧分布演算手段1dと、を備える。これによって、それぞれの車輪10に対する車輪制動力を制御する。
また、制動制御装置1は、車両100の運転者による前記ブレーキペダルの操作形態を推定する操作形態推定手段1eと、車両100の運転者の体格を推定する体格推定手段1fと、ブレーキペダルの踏面の姿勢を設定する姿勢設定手段1gと、ブレーキペダルの踏面の姿勢を変更する姿勢制御手段1hと、を備える。これによって、制動制御装置1は、本実施形態に係るブレーキペダルの姿勢制御を実行する。また、制動制御装置1は、車両100の運転者が着座する座席、すなわち運転席の位置を設定し、変更する座席位置制御手段1iを備えており、制動制御や本実施形態に係るブレーキペダルの姿勢制御においては、必要に応じて運転席の位置を変更する。
ここで、目標車両制動制御値とは、主として運転者によるブレーキペダル20の操作状態量に応じた、車両100の制動に要する目標値のことである。具体的には目標車両制動力や目標車両減速度等が目標車両制動制御値に該当する。ここで、ブレーキペダル20の操作状態量は、ブレーキペダル20を操作したときの状態や、ブレーキペダル20に対する入力の状態を示すパラメータであり、例えば、ペダルストローク量、ペダルストローク位置、ペダル踏力、ペダル操作速度、ペダル踏面に対する入力位置等である。
例えば、ブレーキペダル20の操作状態量が大きくなるにしたがって、目標車両制動制御値を大きくすることにより、車両100に大きな制動力(減速度)を働かせる。本実施形態においては、操作状態量に対応する目標車両制動制御値を予め実験やシミュレーションによって求め、その対応関係をデータとして例えばマップに用意しておく。ここで、ブレーキペダル20の操作状態量が大きくなるとは、例えば、ペダルストローク量が多くなること、ペダルストローク位置が深くなること、ペダル踏力が強くなること、ペダル操作速度が速くなること等をいう。
このように、本実施形態では、ブレーキペダル20の操作状態量が目標車両制動制御値を設定する際の重要な要素となっている。このため、本実施形態においては、車両100の運転者による操作状態量を検出可能なブレーキペダル操作状態量検出手段が必要である。本実施形態では、ブレーキペダル操作状態量検出手段として、ペダルストローク位置を検出するペダルストローク位置検出手段31やペダル踏力を検出するペダル踏力検出手段32を用いる。
ペダルストローク位置検出手段31としては、例えばブレーキペダル20に配設したペダルストローク位置検出センサ等を用いる。ここでは、ペダルストローク位置検出手段31により検出されたペダルストローク位置の情報の変化に基づいて、目標車両制動制御値演算手段1aがペダルストローク量を求める。また、ペダル踏力検出手段32としては、例えばブレーキペダル20に設けたペダル踏力検出センサやペダル踏力検出スイッチ等を用いる。なお、ペダル操作速度は、例えば、ブレーキペダル20のペダルストローク量とブレーキペダル20の移動時間とに基づいて求めることができる。
上述した目標車輪制動制御値とは、目標車両制動制御値を車両100に働かせるためにそれぞれの車輪10に分担させる制動目標値のことであり、具体的には目標車輪制動トルクや目標車輪制動力等である。本実施形態の目標車輪制動制御値演算手段1bは、それぞれの車輪10に対して発生させる目標車輪制動制御値を、目標車両制動制御値が満たされるように求めるが、その演算の際に例えば車両前後加速度、車両横加速度、ヨーモーメントやそれぞれの車輪10のスリップ率等を考慮することが望ましい。つまり、それぞれの車輪10の目標車輪制動制御値は、少なくとも車両100の挙動が不安定にならない範囲内で、目標車両制動制御値をそれぞれの車輪10に分担させることが好ましい。
ここで、本実施形態の制動装置101として、油圧の力によりそれぞれの車輪10に機械的な車輪制動トルクを付与し、これにより車両制動力を発生させる、いわゆる油圧ブレーキ装置を例示する。例えば、この制動装置101は、油圧制動手段12FL、12FR、12RL、12RRと、油圧配管14FL、14FR、14RL、14RRと、踏力増加手段(ブレーキブースタ)16と、マスタシリンダ18と、油圧調節手段(以下、「ブレーキアクチュエータ」という。)11と、を備えている。
油圧制動手段12FL、12FR、12RL、12RRは、それぞれの車輪10に配設したキャリパーやブレーキパッド、ディスクロータ等から構成される。油圧配管14FL、14FR、14RL、14RRは、それぞれの油圧制動手段12FL、12FR、12RL、12RRのキャリパーに対して、ブレーキオイルを介して油圧を与える。踏力増加手段(ブレーキブースタ)16は、運転者によりブレーキペダル20に入力されたペダル踏力を増加させる。マスタシリンダ18は、踏力増加手段16によって増加されたペダル踏力をブレーキ液の圧力(油圧)へと変換する。マスタシリンダ18は、変換された油圧をそのまま又は調節してそれぞれの油圧配管14FL、14FR、14RL、14RRに伝える。
本実施形態において、マスタシリンダ18は、それぞれの油圧配管14FL、14FR、14RL、14RRの油圧を個別に調節できる機能を有する。マスタシリンダ18は、それぞれの車輪10に対して、それぞれ独立した大きさの車輪制動トルクを発生させることができる。例えば、そのマスタシリンダ18は、オイルリザーバ、オイルポンプ、それぞれの油圧配管14FL、14FR、14RL、14RRの油圧をそれぞれ増減するための増減圧制御弁のような種々の弁装置等を含んで構成される。そして、図1に示す制動制御装置1の制動装置制御手段1cが、マスタシリンダ18の弁装置等を駆動制御することによって、いわゆるABS制御やブレーキアシスト制御等が行われる。マスタシリンダ18が備える増減圧制御弁は、通常時にはマスタシリンダ18により制御されてそれぞれの油圧配管14FL、14FR、14RL、14RR内の油圧を調節する。一方、この増減圧制御弁は、ABS制御時等のように必要に応じて制動装置制御手段1cによってデューティ比制御され、それぞれの油圧配管14FL、14FR、14RL、14RRの油圧を調整する。
図2−1〜図2−3は、ブレーキペダルの操作時におけるブレーキペダルの踏面と運転者の足との状態を示す模式図である。ブレーキペダル20は、アーム21Aと、アーム21Aに取り付けられるペダル本体22とで構成される。アーム21Aは、図1に示す車両100の制動装置101へ、車両100の運転者からの車両100を制動するための入力を伝達する。ペダル本体22は、運転者からブレーキペダルへ踏力が入力される踏面(以下ペダル踏面という)21Pが設けられており、運転者からの踏力をアーム21Aへ伝達する。
図1に示す車両100の制動装置101に制動力を発生させる場合、車両100の運転者DMは、その足Fでブレーキペダル20の踏面(以下ペダル踏面という)21Pを踏み込む。このとき、運転者がペダル踏面21Pを踏み込むときに運転者DMの足裏とペダル踏面21Pとが接触する部分が、ペダル踏面21Pの踏力が入力される部分(押圧部)HPとなる。図2−1に示すように、押圧部HPが、ペダルストローク軌跡PTとペダル踏面21Pとの交点(ペダルストローク交点)PPと一致するときに、ブレーキペダル20に対する踏力の伝達効率が向上する。
ここで、アーム21Aは、図1に示す車両100に取り付けられる部分(アーム取付部、揺動中心ともいう)PCを中心として揺動運動する。アーム21Aが揺動する中心を、揺動中心PCという。ペダルストローク軌跡PTは、アーム21Aがアーム取付部PCを中心として揺動する際における、ペダル踏面21Pがアーム21Aに取り付けられる部分(ペダル取付部)FPの軌跡である。
図2−2に示すように、押圧部HP1とペダルストローク交点PPとの間にずれLが存在すると、ペダル踏面21Pに曲げモーメントMが発生し、その分だけアーム21Aへ伝達される踏力がロスする。すなわち、ブレーキペダル20に対する踏力の伝達効率は低下する。このため、本実施形態では、ペダル踏面21Pを起こす、すなわち、ペダル踏面21Pと車両100の床floorとのなす角度を変更し、ペダル踏面21Pの姿勢を変更する。
図2−2に示す例では、押圧部HP1がペダルストローク交点PPよりも床floor側にあるので、ペダル踏面21Pを現時点よりも起こす、すなわちペダル踏面21Pと車両100の床floorとのなす角度のうち小さい方の角度(踏面−床間角度)θを現時点よりも大きくする。このようにすれば、図2−3に示すように、踏面−床間角度θaがθbに増加してペダル踏面21Pが図2−3の矢印R1方向へ動く結果、押圧部HP1は押圧部HP2へ移動し、押圧部H2とペダルストローク交点PPとの間のずれが0に近づく。これによって、押圧部HP2とペダルストローク交点PPとの間のずれに起因してペダル踏面21Pに発生する曲げモーメントMも減少する。その結果、ブレーキペダル20に対する踏力の伝達効率の低下が抑制される。
また、押圧部HPがペダルストローク交点PPよりもアーム取付部PC側、すなわち車両の天井側にある場合、ペダル踏面21Pを現時点よりも寝かせる、すなわち、踏面−床間角度θを現時点よりも小さくする。これによって、押圧部HP1がペダルストローク交点PPよりも床floor側にある場合と同様に、押圧部HP1とペダルストローク交点PPとの間のずれLに起因してペダル踏面21Pに発生する曲げモーメントMが減少し、ブレーキペダル20に対する踏力の伝達効率の低下が抑制される。次に、本実施形態に係るブレーキ入力装置について説明する。
図3〜図5は、本実施形態に係るブレーキ入力装置の構成を説明するための模式図である。図4は、図3の矢印方向からブレーキ入力装置20Aを見た図である。図5は、図4のX−X断面を示している。図3に示すブレーキ入力装置20Aは、ペダル踏面21Pを形成するペダル本体22と、ペダル本体を覆うペダルパッド22Pと、このペダル本体22を保持するアーム21Aと、ペダルパッド22Pの内部に配設した感圧手段としての感圧素子(例えば、圧電素子)23A1、23A2と、ペダル踏面21Pの姿勢を変更する姿勢変更機構40と、を備えて構成される。
感圧素子23A1、23A2は、ペダル本体22を覆う弾性体(例えばゴム)のペダルパッド22Pの内部に、車両100に搭載された状態におけるペダル踏面21Pの上部と下部とに分けてそれぞれ埋設され、ペダルパッド22Pの変形に応じて圧力を検知する。なお、ペダルパッド22Pの表面がペダル踏面21Pを構成している。このように構成することにより、図1に示す車両100の運転者がペダル踏面21Pを踏んだ際には、その踏力が感圧素子23A1、23A2によって検出され、この検出信号が電線やワイヤー等のそれぞれの通信線24A1、24A2を介して図1に示す制動制御装置1に送信される。
これによって、検出信号を受け取った制動制御装置1の押圧分布演算手段1dは、ペダル踏面21Pにおける押圧分布を求めることができ、その押圧分布に変化があれば、その変移の演算が可能になる。さらに、押圧分布演算手段1dは、感圧素子23A1、23A2の検出結果や押圧分布の演算結果に基づいて、図2−1や図2−2に示す押圧部HPの位置を求めることもできる。これによって、押圧分布演算手段1dは、例えば、図2−1や図2−2に示す押圧部HPが、ペダル踏面21Pのどの位置にあるかを求めることができる。
ここで、その通信線24A1、24A2は、ペダル本体22に形成した、図4に示す貫通孔22hを介して、ペダルパッド22Pの裏面(ペダル踏面21Pとは反対側の面)へと導き出される。そして、このそれぞれの通信線24A1、24A2は、アーム21Aに沿って配置され、このアーム21Aに対して図4、図5に示すクリップ等の通信線保持体25によって固定される。これによって、ペダル操作する際の通信線24A1、24A2の断線を防ぐことができ、押圧部HPを検知する際の信頼性を高めることができる。
本実施形態においては、このようにペダル踏面21Pの上部と下部とに少なくとも1つずつ感圧素子23A1、23A2を配置したが、感圧素子(感圧手段)は、車両100に搭載された状態におけるペダル踏面21Pの上下方向にさらに分割して多数配置してもよい。これにより、ペダル踏面21Pの押圧分布及び押圧部HPの位置を検知する際の精度がさらに高くなる。このように、ブレーキ入力装置20Aは、ペダル踏面21Pの押圧分布や押圧部HPの位置を検知できる。これによって、本実施形態のブレーキペダルの姿勢制御が実現可能なブレーキ入力装置20Aが構成される。
操作形態推定手段1eは、車両100に搭載された状態におけるペダル踏面21Pの押圧分布の上下方向に対する変移と、検出したペダルストローク量Dsとに基づいて、足首ブレーキ操作であるか脚ブレーキ操作であるかを推定する。本実施形態において、操作形態推定手段1eは、ペダルストローク量Dsに対する押圧分布の上下方向への変移量を所定値と比較し、ペダル踏面21Pの下部側から上部側への変移量が所定値以上の場合に足首ブレーキ操作と推定する。
また、操作形態推定手段1eは、上下方向の変移量が所定値よりも少ない場合に脚ブレーキ操作と推定する。足首ブレーキ操作であるか脚ブレーキ操作であるかを判別するための所定値としては、足首ブレーキ操作と脚ブレーキ操作との境界に該当する閾値(ペダルストローク量に対する押圧分布の上下方向への変移量)を、予め実験やシミュレーションにより求めて設定すればよい。次に、ペダル踏面21Pの姿勢を変更する姿勢変更機構40を説明する。
図6は、本実施形態に係るブレーキ入力装置が備える姿勢変更機構の構成を説明するための模式図である。図6に示すように、本実施形態において、ペダル本体22は、ペダル踏面21Pの姿勢を変更する姿勢変更機構40を介してアーム21Aに取り付けられる。姿勢変更機構40は、アーム21Aのペダル取付部FP(図2−1等参照)とは反対側の端部に設けられる。
姿勢変更機構40は、ペダル踏面21Pの姿勢を変更するためにペダル本体22を駆動するペダル駆動手段と、ペダル駆動手段の駆動力をペダル本体22へ伝達するリンク機構とを含んで構成される。姿勢変更機構40が備えるペダル駆動手段は、制動制御装置1によって制御される水平方向駆動用モータ41H及び垂直方向駆動用モータ41Vである。ここで、水平とは、図1に示す車両100の床floorと略平行な方向であり、垂直とは、図1に示す車両100の床floorと略直交する方向である(以下同様)。
ペダル本体22は、垂直方向リンク42Vと水平方向リンク42Hとを介してアーム21Aに取り付けられる。垂直方向リンク42V及び水平方向リンク42Hのアーム21A側には長穴が設けられており、この長穴に差し込んだピンをアーム21Aに固定することで、アーム21Aに取り付けられる。このような構成により、垂直方向リンク42Vは矢印V方向に動くことができ、また、水平方向リンク42Hは矢印H方向に動くことができる。
垂直方向リンク42V及び水平方向リンク42Hのペダル本体22側は、ペダル本体22に設けたブラケット43V、43Hにピン結合される。これにより、垂直方向リンク42Vはピンを中心として矢印R1方向に揺動でき、また、水平方向リンク42Hはピンを中心として矢印R2方向に揺動できる。
垂直方向駆動用モータ41Vの回転は、垂直方向歯車列44Vを介して垂直方向リンク42Vに伝達される。また、水平方向駆動用モータ41Hの回転は、水平方向歯車44Hを介して水平方向歯車44Hへ伝達される。垂直方向駆動用モータ41V及び水平方向駆動用モータ41Hによって垂直方向リンク42V及び水平方向リンク42Hがアーム21Aから突出する量を変更できる。垂直方向リンク42V及び水平方向リンク42Hがアーム21Aから突出する量を変更することにより、ペダル踏面21Pの姿勢が変化する。次に、本実施形態に係るブレーキペダルの姿勢制御を説明する。
図7は、本実施形態に係るブレーキペダルの姿勢制御の手順を示すフローチャートである。図8−1、図8−2は、ブレーキペダルの操作形態を説明する模式図である。図9−1〜図9−4は、本実施形態に係るブレーキペダルの姿勢制御を説明するための模式図である。
本実施形態のブレーキペダルの姿勢制御を実行するにあたり、ステップS101において、ブレーキペダルの姿勢制御装置として機能する制動制御装置1(図1参照)が備える目標車両制動制御値演算手段1aは、運転者による制動要求時(ブレーキペダル20が操作されたとき)に、ブレーキペダル20の操作状態量(ペダルストローク位置、ペダルストローク量Ds、ペダル踏力及びペダル操作速度等)を取得する。
ここで、目標車両制動制御値演算手段1aは、ペダルストローク位置検出手段31とペダル踏力検出手段32とから送られてきた検出結果に基づいてペダルストローク位置とペダル踏力の各情報を取得する。また、ペダルストローク量Dsは、目標車両制動制御値演算手段1aがペダルストローク位置の変化に基づいて求めることにより取得できる。また、ペダル操作速度は、目標車両制動制御値演算手段1aがペダルストローク量Dsとブレーキペダル20の移動時間(操作時間)とから求めることによって取得できる。
続いて、ステップS102において、目標車両制動制御値演算手段1aは、ブレーキペダル20の操作状態量に応じた目標車両制動制御値(目標車両制動力や目標車両減速度)を求める。これは、上述したように、操作状態量に対応する目標車両制動制御値を予め実験やシミュレーションによって求め、その対応関係をデータとして記述したマップから求める。次に、ステップS103において、制動制御装置1の目標車輪制動制御値演算手段1bは、ステップS102で求めた目標車両制動制御値が図1に示す車両100に働くように車両前後加速度や車両横加速度等を考慮して、それぞれの車輪10の目標車輪制動制御値(目標車輪制動トルクや目標車輪制動力)を求める。
次に、ステップS104において、制動制御装置1の押圧分布演算手段1dは、ペダル踏面21Pの押圧分布と押圧部HPの位置を検知する。押圧分布演算手段1dは、上述したように、押圧力検知手段(ここでは、図3、図4に示す感圧素子23A1、23A2)により検知されたペダル踏面21Pに対するペダル押圧力からペダル踏面21Pの押圧分布を求める。そして、押圧分布演算手段1dは、求めた押圧分布から押圧部HPの位置がペダル踏面21Pの上下方向の何処に位置しているのかを把握する。なお、ステップS104は、ブレーキペダル20の操作が継続中であれば繰り返し実行される。
次に、ステップS105において、制動制御装置1の操作形態推定手段1eは、運転者によるブレーキペダル20の操作形態(足首ブレーキ操作であるか脚ブレーキ操作であるか)を推定するとともに、推定した操作形態が足首ブレーキ操作であるか否かを判定する。ここで、ブレーキペダルの操作形態及びその推定手法を説明する。
図8−1、図8−2に示すように、運転者によるブレーキペダル20の操作形態は、必ずしもあらゆる状況下で不変であるとは限らない。その操作形態は、踵を床floorに着け、その踵を支点に足首を前後に動かしてブレーキペダル20を操作する図8−1に示す足首ブレーキ操作と、脚全体を動かしてブレーキペダル20を操作する図8−2に示す脚ブレーキ操作と、に大別される。
通常、足首ブレーキ操作は、ブレーキペダル20の操作状態量(ペダルストローク量やペダルストローク位置、ペダル踏力やペダル操作速度等)を細かく調節する場合などに効果的であり、また、脚ブレーキ操作は、急制動等のように車両に大きな制動力を働かせたい場合などに効果的である。なお、これはあくまでも一例であり、その操作状態量を微調整するときに脚ブレーキ操作を行ってもよく、車両制動力を大きくしたいときに足首ブレーキ操作を行ってもよい。つまり、どのような操作形態でブレーキペダル20を操作するのかについては、運転者の意思や癖などに依存する。
図8−1に示すように、足首ブレーキ操作の場合には、図1に示す車両100に搭載された状態のペダル踏面21Pにおける足裏との接点(すなわち、押圧部HP)が下から上へと大きく移動しながらペダルストローク量Dsが増加していく。一方、脚ブレーキ操作の場合には、図8−2に示すように、足裏との接点(押圧部HP)の上下方向の移動が小さいままペダルストローク量Dsが増加していく。つまり、ペダルストローク量Dsに対するペダル踏面21Pにおける足裏との接点(押圧部HP)の上下方向の移動量が大きければ足首ブレーキ操作と判断できる。一方、ペダルストローク量Dsに対する足裏との接点(押圧部HP)の上下方向の移動量が小さければ脚ブレーキ操作と判断できる。したがって、運転者によるブレーキペダル20の操作形態は、ペダル踏面21Pにおける押圧部HPの上下方向の軌跡を明らかにすることによって推定できる。
ステップS105においては、上述したように、制動制御装置1の操作形態推定手段1eは、ペダルストローク量Dsに対する押圧分布の上下方向への変移量に基づいて操作形態を推定する。なお、操作形態推定手段1eは、ペダルストローク量Dsに対するペダル押圧部HPの上下方向への変移量によって操作形態を推定してもよい。
ステップS105においてYesと判定された場合、すなわち、操作形態推定手段1eが、ブレーキペダル20の操作形態は足首ブレーキ操作であると推定した場合、ステップS106へ進む。ステップS106において、操作形態推定手段1eは、押圧部HPがペダル踏面21Pの下側であるか否かを判定する。ここで、本実施形態において、ペダル踏面21Pの下側か否かは、図2−1や図2−2等に示すペダルストローク交点PPを基準として判定する。すなわち、ペダルストローク交点PPよりも床floor側に押圧部HPが存在すれば、押圧部HPはペダル踏面21Pの下側であると判定され、ペダルストローク交点PPよりもペダル取付部FP側に押圧部HPが存在すれば、押圧部HPはペダル踏面21Pの上側であると判定される。
ステップS106においてYesと判定された場合、すなわち、操作形態推定手段1eが、押圧部HPはペダル踏面21Pの下側であると判定した場合、ステップS107へ進む。ステップS107において、制動制御装置1の体格推定手段1fは、図1に示す運転席前後位置検出手段33から図9−1、図9−3に示す運転席50の前後位置の情報を取得し、運転席50が車両の後方にあるか否かを判定する。
運転席50が車両の後方にあるか否かは、例えば、運転席50の先端部とアーム取付部PCとの水平距離LSが所定の第1閾値LS1以上であるか否かで判定する。第1閾値LS1は、運転者DMの体格が予め定めた所定の第1の基準体格以上であるか否かを判定するための閾値である。第1基準体格は、平均よりも身長の大きい体格の運転者であることを判定するための基準値であり、例えば、身長175cm以上の運転者を対象とする。第1閾値LS1は、身長175cm以上の運転者を判定できるように設定される。
ステップS107でYesと判定された場合、すなわち、体格推定手段1fが、運転席50は車両の後方にあると判定した場合、図9−1に示すように、体格推定手段1fは、正規位置S1で着座している所定の第1基準体格以上の運転者がブレーキペダル20を操作していると推定する。次に、ステップS108へ進む。なお、ステップS105〜ステップS107の順序は問わない。
ステップS108は、ステップS105〜ステップS107ですべてYesと判定された場合、すなわち、足首ブレーキ操作であると推定され、かつ押圧部HPはペダル踏面21Pの下側であると判定され、かつ正規位置S1で着座している所定の第1基準体格以上の運転者がブレーキペダル20を操作していると推定された場合に実行される。この場合、図9−2の点線で示すペダル踏面21Pの状態のように、押圧部HPとペダルストローク交点PPとの間にずれが発生しているため、ブレーキペダル20のアーム21Aへ伝達される踏力がロスする。
したがって、ステップS108において、制動制御装置1の姿勢設定手段1gは、図9−2の実線で示すペダル踏面21Pの状態になるように、ペダル踏面21Pを現時点(ブレーキペダル20の操作前においては図9−1に示すブレーキペダル初期位置B1)よりも起こすように設定する。すなわち、姿勢設定手段1gは、踏面−床間角度θを現時点の踏面−床間角度θnよりも大きく設定する。
踏面−床間角度θは、例えば、次のように設定する。まず、足首ブレーキ操作である場合には、実験やシミュレーション等によって予め定められた踏面−床間角度(足首ブレーキ操作基準角度)θ1が設定される。そして、ペダルストローク交点PPと押圧部HPとのずれ量に基づいて定められる踏面−床間角度(オフセット補正基準角度)θ2が設定される。さらに、運転者DMの体格に基づいて定められる踏面−床間角度(体格補正基準角度)θ3が設定される。そして、足首ブレーキ操作基準角度θ1と、オフセット補正基準角度θ2と、体格補正基準角度θ3との和を、ステップS108で設定する踏面−床間角度θとする。すなわち、θ=(θ1+θ2+θ3)とする。
このように、本実施形態では、ブレーキペダル20の操作形態や押圧部HPや体格を考慮してペダル踏面21Pの姿勢、すなわち、踏面−床間角度θを設定するので、踏力の伝達効率低下を最小限に抑制できる。オフセット補正基準角度θ2及び体格補正基準角度θ3は定数として与えてもよいが、押圧部HPの位置や運転者DMの体格に応じてこれらを変更してもよい。例えば、押圧部HPがペダル踏面21Pの下側である場合には、ペダルストローク交点PPと押圧部HPとのずれ量が大きくなるにしたがってオフセット補正基準角度θ2が増加するように設定してもよい。これによって、ペダルストローク交点PPと押圧部HPとのずれ量の影響がペダル踏面21Pの姿勢により適切に反映されるので、踏力の伝達効率低下をより効果的に抑制できる。また、例えば、基準体格よりも体格が大きい運転者である場合には、運転者DMの体格が大きくなるにしたがって、体格補正基準角度θ3が増加するように設定してもよい。これによって、運転者DMの体格の影響がペダル踏面21Pの姿勢により適切に反映されるので、踏力の伝達効率低下をより効果的に抑制できる。
ステップS108においてブレーキペダル20のペダル踏面21Pの姿勢が設定されたら、ステップS109に進む。ステップS109において、図1に示す制動制御装置1の制動装置制御手段1cは、車両100が備えるそれぞれの車輪10の制動力が、ステップS103で求められた目標車輪制動制御値となるようにマスタシリンダ18を制御する。同時に、制動制御装置1の姿勢制御手段1hは、ステップS108で設定された踏面−床間角度θになるようにペダル踏面21Pの姿勢を変更する。これによって、図9−2に示すように、押圧部HPとペダルストローク交点PPとの間のずれが0に近づくので、ブレーキペダル20のアーム21Aに対する踏力の伝達効率の低下が抑制される。
次に、ステップS105に戻って説明する。ステップS105でNoと判定された場合、すなわち、操作形態推定手段1eが、ブレーキペダル20の操作形態は足首ブレーキ操作でないと推定した場合、ステップS110へ進む。ステップS110において、操作形態推定手段1eは、運転者によるブレーキペダル20の操作形態を推定するとともに、推定した操作形態が脚ブレーキ操作であるか否かを判定する。ステップS110でYesと判定された場合、すなわち、操作形態推定手段1eが、ブレーキペダル20の操作形態が脚ブレーキ操作であると判定した場合、ステップS111へ進む。
ステップS111において、操作形態推定手段1eは、押圧部HPがペダル踏面21Pの上側であるか否かを判定する。ステップS111においてYesと判定された場合、すなわち、操作形態推定手段1eが、押圧部HPはペダル踏面21Pの上側であると判定した場合、ステップS112へ進む。ステップS112において、制動制御装置1の体格推定手段1fは、図1に示す運転席前後位置検出手段33から図9−1、図9−3に示す運転席50の前後位置の情報を取得し、運転席50が図1に示す車両100の前方にあるか否かを判定する。ここで、車両100の前方とは、車両100の進行方向側、すなわち、運転者DMが運転席50に着座したときに、運転者の視線が向く方向であり、運転席50からハンドル52へ向かう方向である。また、車両100の後方とは、車両100の進行方向とは反対側、すなわち、ハンドル52から運転席50へ向かう方向である。
運転席50が車両の前方にあるか否かは、例えば、運転席50の先端部とアーム取付部PCとの水平距離LSが所定の第2閾値LS2以上であるか否かで判定する。第2閾値LS2は、運転者DMの体格がある所定の第2基準体格以下であるか否かを判定するための閾値である。上述した第1閾値LS1と第2閾値LS2との関係は、LS1>LS2となる。第2基準体格は、平均よりも身長の小さい体格の運転者であることを判定するための基準値であり、例えば、身長155cm以下の運転者を対象とする。第2閾値LS2は、身長155cm以下の運転者を判定できるように設定される。
ステップS112でYesと判定された場合、すなわち、体格推定手段1fが、運転席50は車両の前方にあると判定した場合、図9−3に示すように、体格推定手段1fは、正規位置S1で着座している所定の2基準体格以下の運転者がブレーキペダル20を操作していると推定する。なお、ステップS110〜ステップS112の順序は問わない。次に、ステップS113へ進む。
ステップS113は、ステップS110〜ステップS112ですべてYesと判定された場合、すなわち、脚ブレーキ操作であると推定され、かつ押圧部HPはペダル踏面21Pの上側であると判定され、かつ正規位置S1で着座している所定の2基準体格以下の運転者がブレーキペダル20を操作していると推定された場合に実行される。この場合、図9−4の点線で示すペダル踏面21Pの状態のように、押圧部HPとペダルストローク交点PPとの間にずれが発生しているため、ブレーキペダル20のアーム21Aへ伝達される踏力がロスする。
したがって、ステップS113において、制動制御装置1の姿勢設定手段1gは、図9−4の実線で示すペダル踏面21Pの状態のように、ペダル踏面21Pを現時点(ブレーキペダル20の操作前においては図9−2に示すブレーキペダル初期位置B1)よりも寝かせるように設定する。すなわち、姿勢設定手段1gは、ペダル踏面21Pと床floorとのなす角度のうち小さい方の角度(踏面−床間角度という)θを現時点の踏面−床間角度θnよりも小さく設定する。
踏面−床間角度θは、ステップS108と同様に設定する。ここで、オフセット補正基準角度θ2及び体格補正基準角度θ3は定数として与えてもよいが、押圧部HPの位置や運転者DMの体格に応じてこれらを変更してもよい。例えば、押圧部HPがペダル踏面21Pの上側である場合には、ペダルストローク交点PPと押圧部HPとのずれ量が大きくなるにしたがってオフセット補正基準角度θ2が減少するように設定してもよい。これによって、ペダルストローク交点PPと押圧部HPとのずれ量の影響がペダル踏面21Pの姿勢により適切に反映されるので、踏力の伝達効率低下をより効果的に抑制できる。また、例えば、所定の2基準体格以下の運転者である場合には、運転者DMの体格が小さくなるにしたがって、体格補正基準角度θ3が減少するように設定してもよい。これによって、運転者DMの体格の影響がペダル踏面21Pの姿勢により適切に反映されるので、踏力の伝達効率低下をより効果的に抑制できる。
ステップS113においてブレーキペダル20のペダル踏面21Pの姿勢が設定されたら、ステップS109に進む。ステップS109において、図1に示す制動制御装置1の制動装置制御手段1cは、車両100が備えるそれぞれの車輪10の制動力が、ステップS103で求められた目標車輪制動制御値となるようにマスタシリンダ18を制御する。同時に、制動制御装置1の姿勢制御手段1hは、ステップS108で設定された踏面−床間角度θになるようにペダル踏面21Pの姿勢を変更する。これによって、図9−2に示すように、押圧部HPとペダルストローク交点PPとの間のずれが0に近づくので、ブレーキペダル20のアーム21Aに対する踏力の伝達効率の低下が抑制される。
次の場合には、ステップS114に進む。
(1)ステップS106でNoと判定された場合、すなわち、足首ブレーキ操作であると推定され、かつ押圧部HPはペダル踏面21Pの下側でないと判定された場合。
(2)ステップS107でNoと判定された場合、すなわち、足首ブレーキ操作であると推定され、かつ押圧部HPはペダル踏面21Pの下側であると判定され、かつ正規位置S1で着座している所定の第1基準体格以上の運転者がブレーキペダル20を操作していないと推定された場合。
(3)ステップS110でNoと判定された場合、すなわち、足首ブレーキ操作でもなく脚ブレーキ操作でもないと推定された場合。
(4)ステップS111でNoと判定された場合、すなわち、脚ブレーキ操作であると推定され、かつ押圧部HPはペダル踏面21Pの上側でないと判定された場合。
(5)ステップS112でNoと判定された場合、すなわち、脚ブレーキ操作であると推定され、かつ押圧部HPはペダル踏面21Pの上側であると判定され、かつ正規位置S1で着座している所定の2基準体格以下の運転者がブレーキペダル20を操作していないと推定された場合。
上記(1)〜(4)である場合、押圧部HPとペダルストローク交点PPとの間のずれは許容範囲であるので、ブレーキペダル20のアーム21Aへ伝達される踏力のロスは許容範囲であると判断できる。ステップS114において、制動制御装置1の姿勢設定手段1gは、ペダル踏面21Pの姿勢を現時点(ブレーキペダル20の操作前においては図9−1、図9−3に示すブレーキペダル初期位置B1)の姿勢に維持する。
上述したステップS101〜ステップS114により、ブレーキペダル20の操作時においては、押圧部HPとペダルストローク交点PPとの間のずれを0に近づけることができる。これによって、押圧部HPとペダルストローク交点PPとの間のずれに起因してペダル踏面21Pに発生する曲げモーメントMが減少するので、ブレーキペダル20に対する踏力の伝達効率の低下が抑制される。
さらに、ブレーキペダル20の操作状態量(例えば、ペダルストローク量、ペダルストローク位置、ペダル踏力、ペダル操作速度等)に基づいて、ブレーキペダル20のペダル踏面21Pの姿勢を設定し、変更してもよい。例えば、ペダル操作速度が速い場合には、緊急性の高いブレーキであり、ブレーキペダル20の操作形態はより脚ブレーキ操作に近いと推定できる。この場合には、ブレーキペダル20のペダル踏面21Pをより寝かせる、すなわち踏面−床間角度θをより小さくして、ブレーキペダル20に対する踏力の伝達効率の低下をより効果的に抑制する。このように、ブレーキペダル20の操作状態量を考慮してブレーキペダル20のペダル踏面21Pの姿勢を設定し、変更することにより、揚力の伝達効率低下をより効果的に抑制できる。
(変形例1)
図10−1〜図10−4は、本実施形態の第1変形例に係るブレーキペダルの姿勢制御を説明するための模式図である。本変形例に係るブレーキペダルの姿勢制御は、上述したブレーキペダルの姿勢制御に加え、さらに運転者の座る座席の車両前後方向における位置を変更する。上記ステップS108は、足首ブレーキ操作であると推定され、かつ押圧部HPはペダル踏面21Pの下側であると判定され、かつ正規位置S1で着座している所定の第1基準体格以上の運転者がブレーキペダル20を操作していると推定された場合に実行される。
この場合、図10−1、図10−2に示すように、運転席50を図1に示す車両100の前方に移動させるように設定するとともに、ステップS109で運転席50を図1に示す車両100の前方に移動させる。すなわち、現時点における運転席50の先端部とアーム取付部PCとの水平距離LSbをLSaとし(LSb>LSa)、着座位置をS1からS2へ変更する。
これにより、押圧部HPとペダルストローク交点PPとの間のずれが0に近づくので、ブレーキペダル20のアーム21Aに対する踏力の伝達効率の低下が抑制される。また、着座位置をS1からS2へ変更すると、ブレーキペダル20の踏み込み方向がEbからEとなる。これにより、ブレーキペダル20の踏み込み方向Eと、ペダルストローク交点PPにおけるペダルストローク軌跡PTの接線(以下ストローク軌跡接線という)Cとが平行に近づくので、さらに、踏力の伝達効率の低下が抑制される。
ここで、本実施形態の運転席前後位置検出手段33としては、例えば、運転席50の前後位置を検出可能な位置センサを用いることができ、また、電動で前後位置や座面位置等を変更できる運転席(いわゆる電動パワーシート)であれば電動モータの駆動時間や主軸の回転角度等を利用してもよい。また、運転席50は、図10−1、図10−3に示す運転席位置制御用アクチュエータ51が移動させる。運転席位置制御用アクチュエータ51は、図1に示す制動制御装置1に接続されており、制動制御装置1が備える座席位置制御手段1iにより動作が制御される。
また、上記ステップS113は、脚ブレーキ操作であると推定され、かつ押圧部HPはペダル踏面21Pの上側であると判定され、かつ正規位置S1で着座している所定の第2基準体格以下の運転者がブレーキペダル20を操作していると推定された場合に実行される。
この場合、図10−3、図10−4に示すように、運転席50を図1に示す車両100の後方に移動させるように設定するとともに、ステップS109で運転席50を図1に示す車両100の後方に移動させる。すなわち、現時点における運転席50の先端部とアーム取付部PCとの水平距離LSbをLSaとする(LSb<LSa)、着座位置をS1からS2へ変更する。
これにより、押圧部HPとペダルストローク交点PPとの間のずれが0に近づくので、ブレーキペダル20のアーム21Aに対する踏力の伝達効率の低下が抑制される。また、着座位置をS1からS2へ変更すると、ブレーキペダル20の踏み込み方向がEbからEとなる。これにより、ブレーキペダル20の踏み込み方向Eとストローク軌跡接線Cとが平行に近づくので、さらに、踏力の伝達効率の低下が抑制される。
ステップS108、S113における運転席50の移動の設定、及びステップS109における運転席50の移動は、ブレーキペダル20のペダル踏面21Pの姿勢変更とともに実行してもよいし、単独で実行してもよい。ブレーキペダル20のペダル踏面21Pの姿勢変更とともに運転席50を移動させれば、いずれか一方を単独で動作させるよりも迅速に、押圧部HPとペダルストローク交点PPとの間のずれを0に近づけることができる。
また、ブレーキペダル20のペダル踏面21Pの姿勢変更とともに運転席50を移動させれば、いずれか一方の動作可能範囲を超えて押圧部HPとペダルストローク交点PPとの間のずれを0にできない場合でも、他方の動作により不足分を補って、押圧部HPとペダルストローク交点PPとの間のずれを0に近づけることができる。このように、ブレーキペダル20のペダル踏面21Pの姿勢変更とともに運転席50を移動させると、ブレーキペダルの姿勢制御の自由度が向上する。なお、運転席50の移動距離や、運転席50の移動については、図1に示す制動制御装置1が備える座席位置制御手段1iが実行する。
(変形例2)
図11−1、図11−2は、本実施形態の第2変形例に係るブレーキペダルの姿勢制御の概念を説明するための模式図である。図11−1に示すように、押圧部HPとペダルストローク交点PPとの間に発生するずれLが0であっても、ストローク軌跡接線Cとブレーキペダル20の踏み込み方向Eとが異なる場合には、アーム21Aへ伝達される踏力がロスする。すなわち、ストローク軌跡接線Cとブレーキペダル20の踏み込み方向Eとが同一であれば踏力FTがアーム21Aへ伝達されるところ、ストローク軌跡接線Cとブレーキペダル20の踏み込み方向Eとが異なると、アーム21Aへ伝達される踏力は、FT×cosαとなる。
本変形例では、ペダルストローク軌跡PTとブレーキペダル20の踏み込み方向Eとが異なることに起因するブレーキペダル20に対する踏力の伝達効率の低下を抑制するため、上述したブレーキペダルの姿勢制御に加え、運転者が座る運転席の位置も調整する。図11−1に示す例は、ブレーキペダル20の踏み込み方向Eが、ストローク軌跡接線Cに対して床floor側に偏向している状態を示しているが、この場合は、運転席の位置を図1に示す車両100の後方に移動する。これによって、図11−2に示すように、ストローク軌跡接線Cとブレーキペダル20の踏み込み方向Eとが揃うので、両者が異なることに起因する踏力の伝達効率の低下を抑制できる。
また、ブレーキペダル20の踏み込み方向Eが、ストローク軌跡接線Cに対してアーム取付部PC、すなわち車両の天井側に偏向している場合には、運転席の位置を図1に示す車両100の前方に移動する。これによって、ストローク軌跡接線Cとブレーキペダル20の踏み込み方向Eとが揃うので、両者が異なることに起因する踏力の伝達効率の低下を抑制できる。なお、運転席50の移動距離や、運転席50の移動については、図1に示す制動制御装置1が備える座席位置制御手段1iが実行する。
(変形例3)
本変形例は、上記実施形態に係るブレーキペダルの姿勢制御に加え、ブレーキペダル20の操作形態や運転者DMの体格に基づいて、目標車両制動制御値を補正する。一般に、足首ブレーキ操作の場合には、ブレーキペダル20の踏み込み量が大きくなる、すなわち、ペダルストローク位置が深くなると、ある時点で足首の自由度がなくなって、これ以上踵を支点にしたブレーキペダル20の操作をしにくくなる。その際には、踵が床(floor)の上をずれていくとともに、爪先がブレーキペダル20のペダル踏面21Pの上を滑っていく。これによって、足首ブレーキ操作によってブレーキペダル20がある程度まで深く踏み込まれていったときには、その踵ずれによってペダル踏力が減少してしまう。すなわち、ペダルストローク量が小さくなってしまう。したがって、運転者が望んでいるよりも目標車両制動制御値が小さく設定されて、車両に対して所望の車両制動力(車両減速度)を発生できないおそれがある。
一方、一般に、脚ブレーキ操作の場合には、足を床(floor)に着けることなくペダル踏面21Pよりも上から踏み下ろすので、所定のペダルストローク位置に達するまでの間は踏み込みの慣性力が大きくなる。これにより、その間のペダル踏力は運転者が意図するよりも慣性力の分だけ大きくなるので、その間においては、運転者が望んでいるよりも大きい目標車両制動制御値が設定されて、車両に対して必要以上に大きな車両制動力(車両減速度)が発生してしまう。
したがって、ブレーキペダル20の操作状態量が同じであっても、そのブレーキペダル20の操作形態によって最適な目標車両制動制御値が異なるので、その操作形態に応じて目標車両制動制御値を変更することが好ましい。そこで、本変形例においては、図1に示す制動制御装置1が備える操作形態推定手段1eが推定した、運転者によるブレーキペダル20の操作形態に基づいて、目標車両制動制御値演算手段1aが、目標車両制動制御値を変更する。
図12は、本実施形態の第3変形例に係るブレーキペダルの姿勢制御の手順を示すフローチャートである。本変形例のブレーキペダルの姿勢制御を実行するにあたり、ステップS201において、ブレーキペダルの姿勢制御装置として機能する制動制御装置1(図1参照)が備える目標車両制動制御値演算手段1aは、運転者による制動要求時(ブレーキペダル20が操作されたとき)に、ブレーキペダル20の操作状態量(ペダルストローク位置、ペダルストローク量Ds、ペダル踏力及びペダル操作速度等)を取得する。
続いて、ステップS202において、目標車両制動制御値演算手段1aは、ブレーキペダル20の操作状態量に応じた目標車両制動制御値(目標車両制動力や目標車両減速度)を求める。次に、ステップS203において、制動制御装置1の押圧分布演算手段1dは、ペダル踏面21Pの押圧分布と押圧部HPの位置を検知する。
次に、ステップS204〜ステップS207、及びステップS208〜ステップS211、及びステップS212により、運転者によるブレーキペダル20の操作形態、押圧部の位置、運転者の体格に基づいて、踏面−床間角度θを設定することにより、ブレーキペダル20のペダル踏面21Pの姿勢を設定する。これらの手順は、上記実施形態に係るブレーキペダルの姿勢制御におけるステップS105〜ステップS108、及びステップS110〜ステップS113、及びステップS114の手順と同様なので、説明を省略する。
ステップS207又はステップS212又はステップS211で踏面−床間角度θが設定されたら、ステップS213へ進む。ステップS213において、目標車両制動制御値演算手段1aは、操作形態推定手段1eの推定結果や体格推定手段1fの推定結果に応じて、目標車両制動制御値の補正値を求める。そして、ステップS214で、目標車両制動制御値演算手段1aは、ステップS213で求めた補正値により、ステップS202で求めた目標車両制動制御値を補正する。次に、目標車両制動制御値の補正について説明する。
例えば、目標車両制動制御値演算手段1aは、足首ブレーキ操作と推定された場合、ブレーキペダル20のペダルストローク位置が所定の基準ペダルストローク位置以上になったときに目標車両制動制御値を増大させる補正値を求める。その基準ペダルストローク位置としては、例えば、上述した踵ずれが起こる手前のペダルストローク位置を、図1に示す車両100の平均的な運転者の体格を参考にして予め設定しておく。また、その際の補正値については、予め実験やシミュレーションを行い、例えばペダルストローク位置に対応させた足首ブレーキ操作時におけるマップデータとして用意しておく。
この補正値は、例えば、ペダルストローク位置が基準ペダルストローク位置を超えて深くなるほどに増大側へと大きく補正されるよう設定される。つまり、ペダルストローク位置が基準ペダルストローク位置を超えて深くなるほどに運転者のペダル踏力が低下していくので、少なくともその低下分が補われるように目標車両制動制御値を徐々に増大させる。
一方、目標車両制動制御値演算手段1aは、脚ブレーキ操作と推定された場合、ブレーキペダル20のペダルストローク位置が所定の基準ペダルストローク位置以下のときに目標車両制動制御値を減少させる補正値を求める。このときの基準ペダルストローク位置としては、例えば、上述した慣性力が大から小へと変化する変化点におけるペダルストローク位置を、図1に示す車両100の平均的な運転者の体格を参考にして予め設定しておく。また、その際の補正値については、予め実験やシミュレーションを行い、例えばペダルストローク位置に対応させた脚ブレーキ操作時におけるマップデータとして用意しておく。
この補正値は、ペダルストローク位置が深くなりながら基準ペダルストローク位置に近づくにしたがって、目標車両制動制御値の減少度合いが少なくなるよう設定される。つまり、ペダルストローク位置が基準ペダルストローク位置に到達するまではペダルストローク位置が浅いほど運転者のペダル踏力が慣性力で強くなっているので、少なくともその強くなった分が弱められるように目標車両制動制御値を減少させる。
このように、本実施形態においては、目標車両制動制御値を運転者によるブレーキペダル20の操作形態(足首ブレーキ操作又は脚ブレーキ操作)に応じた適切な値へと補正できる。
さらに、この目標車両制動制御値演算手段1aは、押圧部HPの位置に応じた目標車両制動制御値の補正値を求める。一般に、運転者は、ブレーキペダル20の踏み込み量(ペダルストローク量Ds)を多くするほど大きな車両制動力(車両減速度)が車両に働くことを望んでいるものである。そして、足首ブレーキ操作の場合には、ペダルストローク量Dsに応じてペダル踏面21Pにおける押圧部HPが下から上へと移動していくので、そのことから運転者の意思を知ることができる。このため、目標車両制動制御値演算手段1aは、押圧部HPが上へと移動するにしたがって、車両に大きな車両制動力(車両減速度)が働くように補正値を設定する。これにより、本実施形態においては、目標車両制動制御値を運転者によるブレーキペダル20の操作状況に応じた適切な値へと補正することができる。
ここで、その補正値は、押圧部HPに対応する値を予め実験やシミュレーションによって求め、マップデータとして用意しておく。このマップデータにおいては、押圧部HPがペダル踏面21Pの上部へと近づくにしたがって補正値が大きくなるように設定されている。また、例えば、ペダル踏面21Pの押圧分布が下部に集中していれば制動初期と推定でき、その押圧分布が中央に集中していれば制動中期と推定でき、その押圧分布が上部に集中していれば制動後期と推定できるので、ここでの補正値については、その制動時期に適応させた値を予め実験やシミュレーションによって求め、マップデータとして用意しておいてもよい。
なお、大半の運転者は、ペダル踏面21Pの下部よりも上部を踏み込むことによって大きな車両制動力(車両減速度)を車両に働かせようとするものである。したがって、ブレーキペダル20の操作形態に関わらず、この押圧部HPの位置に応じた目標車両制動制御値の補正を実行してもよい。
上述した目標車両制動制御値演算手段1aによって運転者によるブレーキペダル20の操作形態や操作状況に適応させた目標車両制動制御値を設定することができるが、厳密にいえば、運転者の体格についても考慮した上で最終的な目標車両制動制御値を設定すべきである。すなわち、一般的には体格の小さな運転者よりも体格の大きな運転者の方が相対的に力(主に脚力等)は強く、体格が大きくなるにつれてペダル踏力は強くなる。したがって、体格の大きな運転者ほど目標車両制動制御値を下げなければ、必要以上に車両制動力(車両減速度)が働いてしまい、運転者に違和感を与えてしまう可能性がある。そして、運転者の体格の差は、運転席の前後位置に表れるものである。
そこで、本実施形態においては、運転席前後位置検出手段33により運転席の前後位置を検出し、その前後位置に応じて目標車両制動制御値の補正値を求めるよう目標車両制動制御値演算手段1aを構成する。
この場合、例えば、目標車両制動制御値演算手段1aは、運転席の前後位置が基準位置に対して車両の後方寄りであればあるほど、目標車両制動制御値を減少させる補正値を求める。一方、運転席の前後位置が基準位置に対して車両の前方寄りであればあるほど、目標車両制動制御値を増大させる補正値を求める。その補正値については、運転席の前後位置に対応させた値を予め実験やシミュレーションによって求め、マップデータとして用意しておく。また、運転席の前後位置が基準位置と同じであれば、目標車両制動制御値の補正がなされないようにする。その基準位置は、例えば、車両の購買対象者における平均的な体格の者が着座したときの前後位置とする。このように、本変形例においては、運転者の体格をも考慮に入れて最終的な目標車両制動制御値を設定する。
ステップS214で目標車両制動制御値が補正されたら、ステップS215において、目標車輪制動制御値演算手段1bは、ステップS214で補正された目標車両制動制御値が図1に示す車両100に働くように、車両前後加速度や車両横加速度等を考慮して、それぞれの車輪10の目標車輪制動制御値(目標車輪制動トルクや目標車輪制動力)を求める。そして、ステップS216において、制動装置制御手段1cは、図1に示す車両100が備えるそれぞれの車輪10の制動力が、ステップS215で求められた目標車輪制動制御値となるようにマスタシリンダ18を制御する。
同時に、制動制御装置1の姿勢制御手段1hは、ステップS207又はステップS211又はステップS212で設定された踏面−床間角度θになるようにペダル踏面21Pの姿勢を変更する。これによって、押圧部HPとペダルストローク交点PPとの間のずれが0に近づくので、ブレーキペダル20のアーム21Aに対する踏力の伝達効率の低下が抑制される。また、ブレーキペダル20の操作形態や運転者の体格に基づいて図1に示す車両100が備えるそれぞれの車輪10の制動力が調整されるため、車両100をより確実に制動できる。
以上、本実施形態及びその変形例では、車両の制動装置に運転者からの制動のための入力を伝達するアームと、前記アームに取り付けられるペダル本体とを備え、前記ペダル本体の踏面の姿勢を変更可能なブレーキペダルの前記踏面の姿勢を制御するものであり、ブレーキペダルの操作形態と、運転者の体格と、に基づいて踏面の姿勢を設定し、制御する。これによって、ペダル踏面の押圧部と、ペダルストローク軌跡とペダル踏面との交点と、の間のずれを0に近づけることができるので、ブレーキペダルのアーム21Aに対する踏力の伝達効率の低下を抑制できる。