以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の形態について説明する。
図1は本発明の実施形態に係るエンジン制御システムの概略構成図であり、図2は前記エンジン制御システムの吸気系および排気系の構成を示す模式図である。
各図を参照して、このエンジン制御システムは、シリンダヘッド10およびシリンダブロック11を備えたエンジン本体1と、該エンジン本体1を制御するためのコントロールユニット(ECU)2とを備えている。
前記エンジン本体1には、4つの気筒12A〜12Dが設けられていて、該各気筒12A〜12Dの内部には、図1に示すように、クランクシャフト3に連結されるピストン13がそれぞれ嵌挿され、これにより、前記各気筒12A〜12D内部でピストン13の上方には燃焼室14が形成されている。
一般的に、多気筒4サイクルエンジンにおいては、各気筒が所定の位相差をもって吸気、圧縮、膨張、排気の各行程からなる燃焼サイクルを行うようになっている。本実施形態の4気筒エンジンの場合、気筒列方向一端側から1番気筒12A、2番気筒12B、3番気筒12C、4番気筒12Dと呼ぶと、1番気筒(#1)、3番気筒(#3)、4番気筒(#4)、2番気筒(#2)の順にクランク角で180度ずつの位相差をもって燃焼が行われるようになっている。さらに本実施形態では、エンジンの自動停止中に圧縮行程にあった気筒を停止時圧縮行程気筒、膨脹行程にあった気筒を停止時膨脹行程気筒と称する(同様に吸気行程にあった気筒を停止時吸気行程気筒、排気行程にあった気筒を停止時排気行程気筒と称する)。
図1を参照して、前記各気筒12A〜12Dのそれぞれの燃焼室14の頂部には、該燃焼室14内の混合気に点火して燃焼させるための点火プラグ15が設けられている。各点火プラグ15先端の電極は、前記燃焼室14に臨むように配置されている。また、前記燃焼室14の側方(図1の右方向)には、先端の噴孔を燃焼室14に臨ませた燃料噴射弁16が設けられている。この燃料噴射弁16は、図示しないニードル弁およびソレノイドを内蔵し、前記コントロールユニット2からのパルス信号の入力によりそのパルス幅に対応する時間だけ開弁駆動されて、その駆動時間に応じた量の燃料を各気筒12A〜12D内に直接筒内に噴射するように構成されている。そして、その燃料の噴射方向が前記点火プラグ15の電極付近に向かうように調整されている。
また、前記燃料噴射弁16には、図示しないが、燃料ポンプにより燃料供給通路等を介して燃料が供給されるようになっており、その燃料供給圧は、各気筒12A〜12Dの圧縮行程中期以降で高圧の気筒内燃焼室14に燃料を噴射できるように、その燃焼室14の圧力よりも高い値に設定されている。
前記各気筒12A〜12Dの燃焼室14の上部には、該燃焼室14に向かって開口する吸気ポート17および排気ポート18が設けられている。これらのポート17、18に吸気弁19および排気弁20がそれぞれ配設されている。これらの吸気弁19および排気弁20は、図示省略のカムシャフト等からなる動弁機構により駆動されるものである。前記動弁機構による吸気弁19および排気弁20の開弁タイミングは、各気筒12A〜12Dが所定の位相差をもって燃焼サイクルを行うように気筒12A〜12D毎に設定されている。
図2に示すように、吸気ポート17および排気ポート18には、それぞれ吸気通路21および排気通路22が連通している。吸気ポート17に近い吸気通路21の下流側は、気筒12A〜12D毎に独立した分岐吸気通路21aを構成しており、各分岐吸気通路21aの上流端は、それぞれサージタンク21bに連通している。このサージタンク21bよりも上流の吸気通路21は各気筒12A〜12Dに共通の共通吸気通路21cである。この共通空気通路21cには、例えばバタフライ弁により通路断面積を調節して吸気流を絞るスロットル弁23と、このスロットル弁23を駆動するアクチュエータ24とが配設されている。さらに、スロットル弁23の上流側および下流側には、吸気量を検出するためのエアフローセンサ25と吸気圧力(負圧)を検出するための吸気圧センサ26とが配設されている。
次に、エンジン本体1には、ベルト等によりクランクシャフト3に駆動連結されたオルタネータ28が付設されている。このオルタネータ28には、フィールドコイルの電流を制御することによって出力電圧を変更し、これにより発電量を調整するレギュレータ回路28aが内蔵されており、このレギュレータ回路28aに前記コントロールユニット2からの制御指令(例えば電圧)が入力されることで、基本的には車両の電装品の電気負荷と車載バッテリ電圧とに応じて発電量が制御されるようになっている。このようにしてオルタネータ28の発電量が変更されるときには、これに伴いその駆動力、即ちエンジン本体1の外部負荷の大きさが変化することになる。
次に、各気筒12A〜12Dの排気通路22の集合部下流には、排気を浄化するための触媒37が配設されている。この触媒37は、例えば、排気の空燃比状態が理論空燃比近傍にあるときにHC、CO、NOxの浄化率が極めて高い、いわゆる三元触媒であり、これは排気中の酸素濃度が比較的高い酸素過剰雰囲気でこれを吸蔵する酸素吸蔵能を有し、酸素濃度の比較的低いときには吸蔵している酸素を放出して、HC、CO等と反応させるものである。なお、触媒37は、三元触媒に限らず、前記のような酸素吸蔵能を有するものであればよく、例えば、酸素過剰雰囲気でもNOxを浄化可能ないわゆるリーンNOx触媒であってもよい。
次に、エンジン本体1には、クランクシャフト3の回転角を検出する2つのクランク角センサ30、31が設けられ、一方のクランク角センサ30から出力される検出信号に基づいてエンジン回転速度Neが検出されるとともに、両クランク角センサ30、31から出力される位相のずれた検出信号に基づいてクランクシャフト3の回転方向および位相が検出されるようになっている。
次に、エンジン本体1には、カムシャフトに設けられた気筒識別用の特定回転位置を検出するカム角センサ32と、エンジンの冷却水温度を検出する水温センサ33とが設けられ、また車体側には運転者のアクセル操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサ34が設けられている。
コントロールユニット2は、エンジンの運転を統括的に制御するマイクロプロセッサである。この本実施形態のエンジンは、予め設定された自動停止条件が成立したときに各気筒12A〜12Dへの燃料噴射を所定のタイミングで停止(燃料カット)して自動的にエンジンを停止させる制御(アイドルストップ制御)を実行するとともに、エンジンの自動停止後に運転者によるアクセル操作が行わる等により再始動条件が成立したときにエンジンを自動的に再始動させる制御(燃焼再始動制御)を実行するように構成されている。かかる制御を実現するために、コントロールユニット2には、エアフローセンサ25、吸気圧センサ26、吸気温センサ29、クランク角センサ30、31、カム角センサ32、水温センサ33およびアクセル開度センサ34からの各検知信号が入力されるとともに、燃料噴射弁16、スロットル弁23のアクチュエータ24、点火装置27およびオルタネータ28のレギュレータ回路28aのそれぞれに各駆動信号を出力する。これにより、コントロールユニット2は、運転状態検出手段、ピストン停止位置識別手段、燃料噴射制御手段、並びに点火制御手段を機能的に構成している。
次に、前記コントロールユニット2によりエンジン本体1を自動で停止する制御について説明する。
エンジン本体1の自動停止制御は、既に先行技術文献欄に記載した特許文献3等に開示されているように、車速、ブレーキの作動状況、エンジン水温等に基づいて、所定のエンジン停止条件が成立した際、いずれか1つの気筒12(例えば1番気筒12A)を特定して、エンジン本体1を停止させる所定の条件が成立したかどうかを判定し、判定条件が成立した場合には、各気筒12A〜12Dへの燃料噴射を停止させるとともに、スロットル弁23を設定開度になるように開いて十分な掃気を行い、エンジン本体1が速度に基づいて、スロットル弁23やオルタネータ28を制御してエンジン本体1の負荷を調整する。これにより、エンジン本体1は、アップダウンを繰り返しながら徐々に減速し、所望の停止範囲(図4に示す単独停止範囲)Rで停止時圧縮行程気筒12A(停止時膨張行程気筒12B)が停止するように制御する。
図3はエンジンの自動停止制御についての停止時膨張行程気筒および停止時圧縮行程気筒のピストン停止位置を示す説明図である。
図3を参照して、コントロールユニット2のメモリには、予め燃焼による再始動が可能な下死点限界(停止時圧縮行程気筒12Aのθ1、停止時膨張行程気筒のθ4)と上死点限界(停止時圧縮行程気筒12Aのθ4、停止時膨張行程気筒のθ1)とによって決定される燃焼再始動可能範囲Aが決定されている。このピストン13は、上述した制御に基づき、この燃焼再始動可能範囲A内で停止するのであるが、この燃焼再始動範囲の中でも、停止時圧縮行程気筒については、上死点前90°CAよりも僅かに上側の範囲に停止していることが好ましい。本実施形態の例では、図3のθ2からθ3で示すように、停止時圧縮行程気筒が上死点前60°CAから80°CA(従って停止時膨張行程気筒が上死点後100°CAから120°CA)の範囲にあるときを単独燃焼停止範囲R、この単独燃焼停止範囲Rよりも図3のθ1までの上死点側(停止時膨張行程気筒にあっては下死点側)とθ4までの下死点側(停止時膨張行程気筒にあっては上死点側)の所定範囲を併用燃焼停止範囲、残余の範囲を燃焼再始動不能範囲NG1、NG2としてコントロールユニット2に判定基準を設定している。
単独燃焼停止範囲Rとは、再始動時に、図略のスタータモータを使用せずに、燃焼のみによってエンジン本体1の再始動が可能な停止位置をいう。停止時膨張行程気筒のピストン13がこの単独燃焼停止範囲Rにある場合には、当該気筒の空気量が多くなって充分な燃焼エネルギーが得られる。またエンジン停止動作期間中にスロットル弁23の開度Kを増大させることにより掃気が促進されるので、触媒37に充分な量の新気が供給される。従ってエンジン停止中は触媒37の酸素吸蔵量が充分に多い状態となっている。また、停止時圧縮行程気筒内に所定量の空気が確保されて前記初回の燃焼によりクランクシャフト3を少しだけ逆転方向させ得る程度の燃焼エネルギーが得られることになる。しかも、停止時膨張行程気筒内に多くの空気量を確保することにより、クランクシャフト3を正転方向させるための燃焼エネルギーを充分に発生させてエンジンを確実に再始動させることが可能となる。
そこで本実施形態では、アイドル時にエンジン本体1を自動で停止させるときに、まず、各気筒12A〜12Dの掃気が十分に行われるように、アイドル回転速度よりもやや高い所定回転速度で燃料カットを行うとともに、その後の所定期間、スロットル弁23を開いて、予め設定した開度になるように制御する。そして、そのスロットル弁23を予め設定した適切なタイミングで閉じるようにしている。これにより停止時膨張行程気筒12Bおよび停止時圧縮行程気筒12Aへそれぞれ吸入される空気量が十分に多くなり、且つ該膨張行程気筒12Bの空気量が圧縮行程気筒12Aよりもやや多くなる。この結果、再始動時に駆動される2つの気筒12A、12B内の空気の圧縮圧力のバランスによって、膨張行程気筒12Bのピストン13が行程中央部から多少、下死点(下死点)寄りの再始動に好適な単独燃焼停止範囲R内に停止するようになる。
次に、併用燃焼停止範囲A1、A2とは、再始動時に図略のスタータモータを併用することによって、再始動が可能な停止範囲をいう。
さらに、燃焼再始動不能範囲NG1、NG2とは、燃焼による逆転再始動ができない停止範囲をいう。
これらの停止範囲R、A1、A2、NG1、NG2は、コントロールユニット2が停止範囲を推定した後、設定される停止範囲判定フラグFSTによって識別され、次に説明するエンジン本体1の再始動制御において、それぞれの場合に応じて、再始動制御が実行されるようにしている。ここで、停止位置判定フラグFSTは、エンジン本体1が自動停止した場合の停止状態を示すものであり、1の場合には、ピストン13が単独燃焼停止範囲Rで停止していることを示し、1以外の場合には、単独燃焼停止範囲から外れていることを示すものである。停止位置判定フラグFSTの初期値は1に設定されている。
次に、アイドル時に自動で停止したエンジン本体1を自動で再始動する場合について説明する。
図4は前記エンジン制御システムにおけるエンジンの始動手順を示す模式図である。
図4を参照して、エンジンの再始動時には、原則として、図略のスタータモータの力を借りることなく、エンジン本体1を自力で始動させるのであるが、この実施形態では、図4(A)〜図4(D)に模式的に示すように、まず、停止時圧縮行程気筒12Aで最初の燃焼を行わせて、ピストン13を押し下げることにより、クランクシャフト3を少しだけ逆転させ(図4(A)参照)、これにより、停止時膨張行程気筒12Bのピストン13を上昇させて、この気筒12B内の混合気を圧縮する(図4(B)参照)。そして、そのようにして圧縮されて温度および圧力の高くなった停止時膨張行程気筒12B内の混合気に点火して、燃焼させることにより、クランクシャフト3に正転方向のトルクを与えて、エンジン本体1を始動するようにしている。そのようにエンジン本体1を自力で始動させるためには、停止時膨張行程気筒12Bの燃焼によってクランクシャフト3にできるだけ大きな正転方向のトルクを与え、これにより、図4(C)に示すように停止時圧縮行程気筒12Aが、その圧縮反力(圧縮圧力)に打ち勝って上死点を越えるようにしなければならない。そのために、エンジン本体1の確実な始動のためには停止時膨張行程気筒12B内に燃焼のための空気を十分に確保しておく必要がある。他方、再始動の際に、停止時膨張行程気筒12B内に相当な空気が存在していることは、逆転時にその空気を強く圧縮することの妨げとなる。圧縮された空気の圧縮反力が停止時膨張行程気筒12Bのピストン13を押し戻す方向に作用するからである。
そこで本実施形態では、停止時膨張行程気筒12Bへの燃料噴射タイミングを遅らせることにより、停止時膨張行程気筒12B内の空気の圧縮量を増大(密度を増大)させる制御を行っている。燃料噴射タイミングを遅らせると、ある程度筒内空気が圧縮された状態の気筒内に燃料を噴射することになり、その気化潜熱によって圧縮圧力が減少する。従って同じエンジン逆転方向のエネルギーであればピストン13がより上死点近くまで移動することができ(ピストンストローク増大)、圧縮空気の密度をより高めることができるからである。
次に、正転後においては、停止時圧縮行程気筒に残存する既燃ガスの反力が、正転後のトルクを下げる原因となり得る。そのため、本実施形態では、停止時膨張行程気筒に対する燃焼の後に、停止時圧縮行程気筒12Aに対して燃料を噴射することにより、気化潜熱で逆転後の停止時圧縮行程気筒12A内の圧力を下げ、トルクの低減を抑制するようにしている(図4(C)参照)。
さらに、停止時膨張行程気筒12Bでの燃焼後に圧縮行程を迎える停止時吸気行程気筒12Cにおいては、点火タイミングを圧縮上死点後にリタードさせて、いわゆる吹上がりを防止している(図4(D)参照)。
エンジン本体1が強制的に停止した後、上述のように自動再始動する場合、停止時膨張行程気筒を燃焼させた後に圧縮行程を迎える気筒(主として停止時吸気行程気筒)で自着火が生じると、その気筒でピストンが大きな反力を受け、ノッキングが生じて再始動に失敗することになる。そこで本実施形態では、燃焼再始動時の自着火を防止するために、種々の対策がなされている。
まず、自着火の対策の一つとしては、筒内温度の管理がある。
図5は、エンジン停止からの経過時間と筒内温度との関係を示すグラフであり、エンジン停止時の筒内温度が80℃であった場合の筒内温度変化の推定値である。図5を参照して、エンジンが完全に停止すると、各気筒12A〜12Dの筒内温度は、同図に示す温度特性で変化する。エンジン本体1の自動停止後、エンジン本体1が完全に停止すると冷却水の流れも停止するので、停止直後に筒内温度が急速に上昇する。そしてエンジン停止後約10秒でピークとなり、以後は徐々に低下して行く。この特性は冷却水の温度(エンジン水温)や外気温(吸気温度)等によって異なるが、エンジン本体1の仕様毎に実験等で決定することも可能であることから、コントロールユニット2には、エンジン本体1の仕様毎に図5の特性をマップ化したデータを記憶させて、エンジン停止後の約10秒前後の範囲を所定停止時間範囲とし、この所定停止時間範囲では、当該エンジン本体1の吸気通路の空気温度が急上昇する運転状態のときに前記所定の温間状態であると判定するとともに、この所定停止時間範囲に再始動時間に近いほど、筒内温度が高いと判定するように設定して、自着火防止のために対策処理を実行することとしている。本実施形態においては、図13の制御マップM6が図5に対応するマップとして具体化されている。
図6は自動停止したエンジンの停止位置と自着火発生タイミングとの関係を示すグラフである。
次に、図6を参照して、温間時(warm-up:例えば、吸気温センサ29の検出値が100℃以上の場合)において、停止時圧縮行程気筒12Aの停止位置が上死点前90よりも下死点側にある場合、停止時圧縮行程気筒12Aに未燃燃料が存在すると、その空燃比に殆ど関係なく、停止時膨張行程気筒12Bの燃焼後に停止時圧縮行程気筒12Aで自着火が生じやすくなることが、本件発明者が実験した結果、明らかになった。このため、本実施形態では、ピストン停止位置の許容範囲のうち、ピストン13がθ3を超えてθ4までのところに存在する場合には、ピストン位置を強制してからエンジン本体1の再始動を実行するようにしている。また、停止時膨張行程気筒12Bでの燃焼が終了した後、停止時圧縮行程気筒12Aに対して燃料を噴射することにより、噴射された燃料の気化霧化によって筒内圧力を低減することが実行されることになるが、一定の場合には、その燃料噴射を停止したり、或いは、自着火防止のために追加燃料を噴射して停止時圧縮行程気筒12Aでの自着火防止を図るようにしている。
次に、自着火防止対策が必要な事項として燃料のリークがある。本実施形態のように、燃料噴射弁16が燃焼室14に臨む直噴式のエンジンでは、エンジン本体1の停止時に各気筒12A〜12D内では燃料噴射弁16の噴孔からリーク出した燃料が気化して、混合気が形成されている。そして、再始動時に、停止時吸気行程気筒12C内で自着火を生じる場合が考えられる。
図7および図8は停止時吸気行程気筒12Cの圧縮行程において、燃料リーク量毎に噴射タイミングと自着火との関係を示すグラフである。なお各図において、Ag1は、自着火が生じなかった範囲、Ag2〜Ag4は、自着火が発生した燃料噴射タイミングの範囲を示しており、Ag2は、上死点経過後20°CAから10°CA、Ag3は、上死点経過後10°CAから0°CA、Ag4は、上死点経過前0°CAから10°CAであることをそれぞれ示している。また図7はサージタンク21b内の温度が75℃のときのグラフであり、図8は100℃のときのグラフである。
図7(A)〜(F)に示すように、燃料リークが全くない場合、燃料噴射タイミングが圧縮行程中期(約96°CA)のところから前半になるほど、自着火が生じやすい範囲Ag4の面積が広くなる傾向がある。他方、同じ燃料噴射タイミングであっても、燃料リーク量が多い場合(A/Fで30以下)には、オーバーリッチになるため、かえって自着火は生じにくくなる。さらに、図7の(A)と図8の(A)、並びに図7(C)と図8の(B)を比較して、リーク量が同じであっても、吸気温度が高いと、自着火が生じやすくなる範囲Ag4は、広くなる傾向がある。そこで、本実施形態では、圧縮中期に燃料を噴射する場合には、特に圧縮上死点前約96°CAのところで燃料を噴射することとするとともに、リーク量に応じて、停止時吸気行程気筒12Cに追加燃料を噴射することにより、自着火の防止を図っている。
図9は燃料噴射タイミングを示すタイミングチャートである。
図9を参照して、本実施形態においては、再始動時において最初の圧縮行程を迎える停止時吸気行程気筒12Cに燃料を噴射するに際し、図9に示すように、圧縮行程内に燃料を噴射するとともに、圧縮行程内にて追加噴射を実行するように構成されている。燃料噴射総量は、筒内空燃比が可燃範囲(リッチ限界が5以上)内に収まるように設定される。この際、後段の燃料噴射量は、図13に示す制御マップM6によって具体化される。
次に、始動制御の手順について説明する。
図10は再始動制御のメインフローを示すフローチャートである。
図10を参照して、本実施形態のエンジン本体1の再始動制御は、上述したようにエンジン本体1を自力で始動させることを基本としているが、フェールセーフ機能として、スタータモータを併用する場合のみならず、最初からスタータモータを併用する場合も含められている。
このフローでは、再始動条件が成立するか否かをコントロールユニット2が最初に判定する(ステップS60)。この再始動条件とは、停車状態から発進するためにブレーキが解除された場合やアクセル操作等が行われた場合、エアコン等の動作のためにエンジンの運転が必要になった場合等である。再始動条件が成立すると、エンジン本体1が停止しているか否かが判定される(ステップS61)。仮にエンジンが停止していない状態でアクセルが踏み込まれた場合、その時点でのエンジン回転速度Neが、所定の許容回転速度Neminに達しているか否かが判定される(ステップS62)。このフローで仮にエンジンが所定の回転速度に達していない場合には、エンジンが停止するのを待機し、許容回転速度以上であれば、そのまま通常運転に切り変えて(ステップS63)、処理を終了する。
次にステップS61において、エンジン本体1が停止していると判定された場合、まず、始動アシストが必要な運転状態であるか否かが判定され(ステップS64)、この判定に基づいて、始動アシストが不要な場合には(ステップS64においてYES)燃焼再始動制御サブルーチン(ステップS110)、始動アシストが必要な場合には(ステップS64においてNO)アシスト併用再始動制御サブルーチン(S120)が実行されることになる。コントロールユニット2は、直ちにアシスト併用再始動制御サブルーチンS120を実行する。なお、アシスト併用再始動制御サブルーチンS120自体は、公知の制御技術によって実行可能なので、その詳細については説明を省略する。
次に、燃焼再始動制御サブルーチンS110について説明する。
図11から図14は、燃焼再始動制御サブルーチンS110を示すフローチャートであり、図15は図11から図14のフローチャートに基づくタイミングチャートである。
まず図11および図15を参照して、コントロールユニット2は、水温、停止時間、吸気温度等から、各気筒12A〜12Dの筒内温度を推定する(ステップS1101)。そして、コントロールユニット2は、検出されたピストン13の停止位置に基づいて停止時圧縮行程気筒12Aおよび停止時膨張行程気筒12B内の空気量を算出する(ステップS1102)。つまり、上記ピストン13の停止位置から停止時圧縮行程気筒12Aおよび停止時膨張行程気筒12Bの燃焼室容積が求められ、また、エンジン停止の際には燃料噴射の停止後にエンジンが数回転してから停止するので停止時膨張行程気筒12Bも新気で満たされた状態にあり、且つ、エンジン停止中に停止時圧縮行程気筒12Aおよび停止時膨張行程気筒12Bの内部は略大気圧となっているので、上記燃焼室容積から新気量が求められることとなる。
次に、コントロールユニット2は、停止位置判定フラグFSTの値を読み取ることにより、ピストン停止位置が、停止時圧縮行程気筒12Aにおける単独燃焼停止範囲R(圧縮上死点前60〜80°CA)のうち、比較的下死点側であるか否かを判定する(ステップS1103)。
比較的空気量が多く、ステップS1103でYESと判定した場合、コントロールユニット2は、ステップS1104に移行して、上記ステップS1102で算出された停止時圧縮行程気筒12Aの空気量に対してλ(空気過剰率)>1なる空燃比(例えば空燃比=20程度)となるように燃料を噴射させる(1回目の燃料噴射)。この空燃比はピストンの停止位置に応じて予め設定された圧縮行程気筒1回目用空燃比マップM1から求められる。λ>1というリーン空燃比とすることにより、比較的停止時圧縮行程気筒12A内の空気量が多いときであっても、逆転方向のための燃焼エネルギーが過多となることなく、逆転し過ぎる(停止時圧縮行程気筒12Aにおいて、下死点側に動いたピストン13が下死点を通過して、吸気行程まで逆転方向してしまう)ことを防止している。
一方、比較的空気量が少なく、ステップS1103でNOと判定した場合、コントロールユニット2は、ステップS1105に移行して、ステップS1102で算出された停止時圧縮行程気筒12Aの空気量に対してλ≦1なる空燃比となるように燃料を噴射させる(1回目の燃料噴射:図15のTf1)。この空燃比はピストンの停止位置に応じて予め設定された停止時圧縮行程気筒12Aの1回目用空燃比マップM2から求められる。λ≦1という理論空燃比ないしはそれよりリッチ空燃比とすることにより、比較的停止時圧縮行程気筒12A内の空気量が少ないときであっても、逆転方向のための燃焼エネルギーを充分得ることができる。
次に、コントロールユニット2はステップS1106に移行し、停止時圧縮行程気筒12Aへの1回目燃料噴射から気化時間を考慮して設定した時間の経過後に、当該気筒に対して点火を行う(図15のTs1)。そして、点火してから所定時間TLT内にクランク角センサ30、31のエッジ(クランク角信号の立ち上がり又は立ち下がり)が検出されたか否かにより、コントロールユニット2はピストン13が動いたか否かを判定する(ステップS1107)。
このステップS1107において、YESと判定されてピストン13が動いたことが確認すると、コントロールユニット2は、次のステップに進む。
他方、ステップS1107において、NOと判定されて失火によりピストン13が動かなかったことを確認した場合には、コントロールユニット2は、点火後の経過時間Tが所定時間TLTだけ経過していないかどうかを判断し(ステップS1108)、経過していない場合には、停止時圧縮行程気筒12Aに対して再点火を繰り返し行う(ステップS1109)。他方、ステップS1108において、点火後の経過時間Tが所定時間を経過してしまった場合には、コントロールユニット2はアシスト併用再始動制御サブルーチンS120に移行する。
図12および図15を参照して、ステップS1107において、YESと判定されてピストン13が動いたことが確認されると、コントロールユニット2は、ピストン停止位置およびステップS1101で推定した筒内温度に基づいて、停止時膨張行程気筒12Bに対する分割燃料噴射の分割比(前段噴射(1回目)と後段噴射(2回目)との比率)を算出する(ステップS1112)。停止時膨張行程気筒12Bにおけるピストン停止位置が下死点寄りであるほど、また筒内温度が高いほど、後段の噴射比率を大きくする。
次に、コントロールユニット2は、ステップS1102で算出した停止時膨張行程気筒12Bの空気量に対して所定の空燃比(λ≦1)となるように燃料噴射量を算出する(ステップS1113)。この際の空燃比はピストンの停止位置に応じて予め設定された膨張行程気筒用空燃比マップM3から求められる。なお本実施形態では、ステップS1112での演算に際し、燃料リーク特性テーブルM10に基づいて、燃料リーク量に基づく補正がなされるようになっている。
次に、コントロールユニット2は、ステップS1112で算出された分割比とステップS1113で算出された停止時膨張行程気筒12Bへの燃料噴射量とによって、停止時膨張行程気筒12Bに対する前段(1回目)の燃料噴射量を算出し、噴射する(ステップS1114:図15のTf2)。
次に、コントロールユニット2は、ステップS1101で推定された筒内温度に基づき、停止時膨張行程気筒12Bに対する後段(2回目)の燃料噴射タイミングを算出する(ステップS1115)。この2回目の噴射タイミングは、ピストン13が上死点側への移動(エンジンの逆転方向)を開始した後の、筒内空気が圧縮されている時期であるとともに、噴射燃料の気化潜熱が圧縮圧力を効果的に減少させる(ピストン13を可及的に上死点へ近づける)ように、且つこの2回目の噴射燃料が点火時期までに気化する時間が可及的に長くなるように設定される。
次に、コントロールユニット2は、ステップS1115で算出された2回目の噴射タイミングの燃料噴射量を算出し、燃料噴射弁16に算出した量の燃料を噴射させる(ステップS1116:図15のTf3)。この停止時膨張行程気筒12Bへの2回目の燃料噴射後、コントロールユニット2は、所定のディレー時間経過後に点火プラグ15を駆動する(ステップS1117、S1118:図15のTs2)。所定のディレー時間はピストンの停止位置に応じて予め設定された膨張行程気筒点火ディレーマップM4から求められる。この点火による停止時膨張行程気筒12Bでの初回燃焼により、エンジンは逆転方向から正転方向に転ずる。従って停止時圧縮行程気筒12Aのピストン13は上死点側に移動し、内部のガス(ステップS1106の点火によって燃焼した既燃ガス)を圧縮し始める。
ステップS1118による停止時膨張行程気筒12Bでの点火後、コントロールユニット2は、再度、点火してから所定時間TLT内にクランク角センサ30、31のエッジ(クランク角信号の立ち上がり又は立ち下がり)が検出されたか否かにより、ピストン13が動いたか否かを判定する(ステップS1119)。このステップS1118において、YESと判定されてピストン13が動いたことを確認すると、コントロールユニット2は、燃料気化時間を考慮し、停止時圧縮行程気筒12Aに燃料を噴射させ(ステップS1120:図15のTf4)、次のステップに移行する。この際の燃料噴射量は、1回目の噴射量と合計した量に基づく全体の空燃比が可燃空燃比(下限は7〜8)よりもさらにリッチ(例えば6程度)になるように、ピストンの停止位置に応じて予め設定された停止時圧縮行程気筒12Aへの2回目用空燃比マップM5から求められる。この停止時圧縮行程気筒12Aへの2回目の噴射燃料の気化潜熱によって、停止時圧縮行程気筒12Aの1回目の圧縮上死点付近の圧縮圧力が低減するので、当該1回目の圧縮上死点を容易に越えることができる。なお、この停止時圧縮行程気筒12Aへの2回目の燃料噴射Tf4は、専ら筒内の圧縮圧力を低減させるためになされるものであって、これに対する点火、燃焼は行われない(可燃空燃比よりもリッチなので自着火も起こらない)。この不燃燃料は、その後、排気通路22の触媒37において吸蔵されている酸素と反応し、無害化される。
他方、ステップS1119において、NOと判定されて失火によりピストン13が動かなかったことを確認した場合には、コントロールユニット2は、点火後の経過時間Tが所定時間TLTだけ経過していないかどうかを判断し(ステップS1121)、経過していない場合には、停止時圧縮行程気筒12Aに対して再点火を繰り返し行う(ステップS1122)。ここで、ステップS1121において、点火後の経過時間Tが所定時間を経過してしまった場合には、コントロールユニット2はアシスト併用再始動制御サブルーチンS120に移行する。
次に、図13および図15を参照して、ステップS1120の燃料噴射が終了した後、コントロールユニット2は、停止時圧縮行程気筒12Aが圧縮行程の上死点を通過するか否かを判定する(ステップS1123)。仮に追加が確認されない場合、さらに燃料噴射後から所定時間経過しているか否かが判定され(ステップS1124)、経過していない場合には、ステップS1123の判定に戻る一方、経過しても停止時圧縮行程気筒12Aが圧縮行程の上死点を通過していない場合には、アシスト併用再始動制御サブルーチンS120に移行する。
次に、上述したように、停止時圧縮行程気筒12Aでの2回目の噴射燃料は燃焼しないので、停止時膨張行程気筒12Bでの最初の燃焼に続く次の燃焼は、停止時吸気行程気筒12Cでの燃焼である。停止時吸気行程気筒12Cのピストン13が2回目の圧縮上死点を越えるためのエネルギーとして、停止時膨張行程気筒12Bにおける初回燃焼のエネルギーの一部が充てられる。つまり停止時膨張行程気筒12Bにおける初回燃焼のエネルギーは、停止時圧縮行程気筒12Aが1回目の圧縮上死点を乗り超えるためと、その後、停止時吸気行程気筒12Cが2回目の圧縮上死点を越えるためとの両方に供される。
従って、円滑な始動のためには停止時吸気行程気筒12Cが2回目の圧縮上死点を越える際の負荷が小さいことが望ましい。その場合には、小さなエネルギーで2回目の圧縮上死点を超えることができる。以下のフローは、次の停止時吸気行程気筒12Cでの燃焼を行うにあたり、可及的に小さなエネルギーで2回目の圧縮上死点を越えるための制御である。
まず、コントロールユニット2は、停止時圧縮行程気筒12Aのピストン13が圧縮上死点を通過した時点で改めて筒内温度を推定する(ステップS1125)。この筒内温度の推定は、停止時吸気行程気筒12Cでの自着火を防止するためのものである。すなわち自着火が起こると、その燃焼によって2回目の圧縮上死点に至る前にピストン13を下死点側に押し戻す力(逆トルク)が発生する。これはその分2回目の圧縮上死点を越えるためのエネルギーを多く消費するので望ましくない。他方、停止時吸気行程気筒12Cが圧縮行程を迎える時点では、停止時膨張行程気筒12Bにおける初回燃焼のエネルギーの一部が充てられる関係上、エンジン回転速度Neが相当に遅くなっている。そのため、停止時吸気行程気筒12Cは、比較的高温の新気を導入して自着火が起こりやすい状況になっている。そこで、本実施形態では、停止時圧縮行程気筒12Aのピストン13が圧縮上死点を通過した時点で改めて筒内温度を推定し、自着火防止対策を講じるようにしているのである。
次にコントロールユニット2は筒内空気密度を推定し、その推定値から停止時吸気行程気筒12Cの空気量を算定する(ステップS1126)。
さらにコントロールユニット2は、ステップS1126で推定した空気量に基づき、基準空燃比となる燃料噴射量QSTを算出する(ステップS1127)。この燃料噴射量QSTは、当該基準空燃比が10から15の範囲内、すなわち、いわゆるパワー空燃比となるように設定される。これにより、本実施形態では、高い出力を停止時吸気行程気筒12Cでの燃焼によって得ることが可能になる。
次に、コントロールユニット2は、現時点が、エンジン本体1が自動停止してから10秒前後の範囲にあるか否かを判定する(ステップS1128)。仮にこの範囲にあれば、吸気温度は、極めて高くなっている蓋然性が高いので、本実施形態では、直ちに筒内温度の推定値から、自着火防止のための追加燃料噴射量FQADを算出し、リッチ限界を5以上として、基準空燃比よりもリッチな空燃比で停止時吸気行程気筒12Cに燃料を噴射するように構成されている(ステップS1129)。これにより、自動停止後、吸気温度が急上昇するような運転環境にあっても、自着火防止のための追加燃料噴射量FQADの演算が迅速に実行され、確実に自着火を防止することが可能になる。
さらに、このステップS1129において、追加噴射が実行される場合、図9で示した多段噴射が設定される(図15参照)。その際、後段に噴射される燃料噴射量は、図9に基づく制御マップM6のデータを参照しながら、エンジン回転速度Neが遅ければ遅いほど、筒内空燃比が可燃範囲内でリッチになるように増量されるよう構成されている。
そして、ステップS1129が実行された場合、当該気筒に対する燃料噴射タイミングは、圧縮行程の中期に設定され(ステップS1130)、その後、点火タイミングの設定ステップS1141に移行する。
他方、ステップS1128において、自動停止後の経過時間が10前後の範囲外であるときには、改めてステップS1125で演算された筒内温度に基づいて、自着火防止対策の要否が判定され(ステップS1131)、筒内温度が予め設定された許容温度の範囲外であれば、上述したステップS1129以降のステップを実行するように構成されている。
他方、ステップS1131の判定において、筒内温度が予め設定された許容温度の範囲内であれば、今度は、停止時圧縮行程気筒12Aのピストン13が圧縮上死点を通過した時点のエンジン回転速度Neが算出され(ステップS1132)、演算されたエンジン回転速度Neが予め設定された基準回転速度NST以上であるか否かが判定される(ステップS1133)。このステップS1133において、仮にエンジン速度Neが基準エンジン速度NST以上である場合、コントロールユニット2は、自着火防止のための追加燃料噴射量QADの値を0とする(ステップS1134)。すなわち、ステップS1127で設定した燃料噴射量QSTに燃料は追加されないことになる。他方、エンジン速度Neが基準エンジン速度NSTに満たない場合、コントロールユニット2は、ステップS1129を実行し、回転速度に応じて追加燃料噴射量QADを算出するとともに、ステップS1130以降のステップに移行する。
次に、図14を参照して、上述したステップS1134またはステップS1129によって、追加燃料噴射量QADが算出されると、今度は、ステップS1127で算出された基準空燃比となる燃料噴射量QSTと上記追加燃料噴射量QADとが合算され、最終燃料噴射量FQが演算される(ステップS1135)。
次にコントロールユニット2は、最終燃料噴射量FQが演算された燃料の噴射タイミングを決定する制御に移行する。
まず、この燃料が噴射される気筒が、停止時吸気行程気筒12Cの最初の圧縮行程であるか否かが判定され(ステップS1136)、YESであれば、燃料噴射タイミングを当該気筒の圧縮行程中期(圧縮上死点前約96°CA)に設定する(ステップS1137)。他方、停止時吸気行程気筒12C以外の気筒である場合、或いは、2回目以降の燃料噴射である場合、さらに、吸気行程での燃料噴射が可能であるか否かが判定される(ステップS1138)。ここで、従来のシステムであれば、停止時吸気行程気筒12C以降の気筒に燃料を噴射する場合には、自着火の問題が生じ得ないものとして、直ちに吸気行程で燃料を噴射し、トルクの向上を図っていた。しかし、エンジン回転速度が比較的低い場合、吸気温度が極めて高い場合には、停止時排気行程気筒12Dにおいても、自着火が起こり得ることが本件発明者の研究により明らかになってきた。そこで本実施形態では、停止時吸気行程気筒12Cの最初の圧縮行程以降に圧縮上死点を迎える気筒についても、燃料噴射タイミングを検証することとしているのである。また、図9のグラフおよび図13のステップS1129で説明したように、停止時吸気行程気筒12Cに対し、再始動後に最初に圧縮行程を迎えるタイミングでは、当該圧縮行程内にて多段噴射が実行される(図15のTf5、Tf6参照)。
このステップS1138では、上述したS1128〜S1133と同様な判定が実行されるとともに、燃料噴射タイミングが間に合うか否かが判定される。そして、エンジン回転速度Ne、筒内温度の観点から自着火のおそれがなく、しかも、吸気行程に燃料を噴射可能なタイミングであると判定された場合には、燃料噴射タイミングが吸気行程に設定され(ステップS1139)、何れかの要件を満たしていない場合には、燃料噴射タイミングが圧縮行程の前半にリタードされる(ステップS1140)。これにより、所定の運転状態の場合には、燃料噴射タイミングが吸気行程に設定され、気化霧化が促進された高い燃費と排気性能とを実現することができる一方、自着火が起こり得る運転状態では、燃料噴射タイミングが圧縮行程にリタードされ、確実に自着火を防止することが可能になっている。
次に、コントロールユニット2は、点火タイミングを、当該気筒の圧縮上死点経過後に遅延させる(ステップS1141)。これは、過渡的なエンジン本体1の再始動時にエンジン回転速度Neが急激に上昇する吹上がり現象を防止するためである。
そして、コントロールユニット2は、ステップS1137からステップS1139で決定された何れかの燃料噴射タイミングで燃料を噴射し(ステップS1142:図15のTf5、Tf6)、ステップS1141で設定された点火タイミングで圧縮上死点経過後に点火プラグ15をスパークさせる(ステップS1143:図15のTs3)。
この点火後、コントロールユニット2は、対象となる気筒(ここでは停止時吸気行程気筒12C)のピストン13が圧縮上死点を通過するのを所定時間、待機する(ステップS1144、S1145)。仮に当該ピストン13が所定時間経過しても圧縮上死点を通過しない場合には、コントロールユニット2はアシスト併用再始動制御サブルーチンS120に移行する。他方、ステップS1144において、当該ピストン13が圧縮上死点を超えた場合には、コントロールユニット2は、ステップS1141で設定されたタイミングで点火プラグ15をスパークさせる(ステップS1146:図15のTs3)。本実施形態では、ステップS1141で設定される点火タイミングを圧縮上死点以降に遅延しているので、逆トルクの発生を抑制することが可能になる。
その後、コントロールユニット2は、エンジン回転速度Ne等から、通常運転に移行可能か否かを判定し(ステップS1144)、可能であれば、メインルーチンに戻って、図10で示したステップS63の通常運転制御に移行する。この場合、図15のTf9、Ts6で示すように、吸気行程で燃料が噴射され、圧縮上死点前で点火される。
他方、移行不可と判断した場合には、ステップS1122に移行することにより、次に圧縮行程を迎える気筒(停止時排気行程気筒12D)についても、燃料噴射量、追加燃料噴射量の是非判定、燃料噴射タイミングの決定、点火タイミングの遅延を実行する(図15のTf7、Ts4)。この結果、従来看過されてきた停止時排気行程気筒12Dでの自着火をも確実に防止することが可能になる。尤も、ステップS1147の判定で再度、ステップS1122が実行されるのは、停止時排気行程気筒12Dまでであり、それ以降に圧縮行程を迎える気筒、すなわち、停止時圧縮行程気筒12Aの2回目の圧縮行程以降は、図15に示すように、エンジン回転速度Neに拘わらず、各気筒の吸気行程時に燃料を噴射するようにして、燃費の向上を図っている。
以上説明したように、本実施形態によれば、逆転始動方式において、前記再始動後に停止時膨張行程気筒12Bを燃焼させることにより、停止時圧縮行程気筒12Aでの燃焼によって逆転したエンジン本体1が正転に転じる。さらに、既燃後の停止時圧縮行程気筒12Aが最初の圧縮行程を経過した後、停止時吸気行程気筒12Cが2番目の圧縮行程を迎える。この停止時吸気行程気筒12Cにおいては、その圧縮行程に燃料が噴射され、所定タイミングに点火される。その後、3番目に圧縮行程を迎える気筒に対しては、前記停止時膨張行程気筒12Bでの燃焼時から前記停止時吸気行程気筒12Cへの燃料噴射時までの所定期間に検出されたエンジン回転速度Neに応じて燃料噴射タイミングが変更される。この所定期間に検出されたエンジン回転速度Neが基準エンジン回転速度NST以上である場合には、吸気行程前半から遅くとも圧縮行程前半までに燃料が噴射される(図14参照)。さらに、基準エンジン回転速度NST以上のエンジン回転速度Neが出ていれば、2番目の圧縮上死点を通過することができるとともに、その後に圧縮行程を迎える気筒での自着火も生じないことから、燃料噴射タイミングをアドバンスさせることにより、出力の向上を図ることが可能になるのである。他方、基準エンジン回転速度NSTを下回った場合、依然、圧縮行程での自着火が生じ得る可能性があるので、その場合には、燃料噴射タイミングを圧縮行程の中期までリタードさせることにより、自着火の確実な防止を図ることが可能になるのである。
また本実施形態では、前記エンジン本体1は、4気筒エンジンであり、前記燃料噴射制御手段は、前記停止時吸気行程気筒12Cが最初の圧縮行程を終了した後の吸気行程からはエンジン回転速度Neに拘わらず、各気筒の吸気行程時に燃料を噴射するものである。このため本実施形態では、全ての気筒が最初の圧縮行程を終了した後については、既に圧縮行程での自着火が生じにくい運転状況にあることに着目し、吸気行程時に燃料噴射を実行することによって、燃費の向上を図ることが可能になる。
また本実施形態では、コントロールユニット2は、当該エンジン本体1の筒内温度を推定可能な機能を有し、このコントロールユニット2が、前記停止時吸気行程気筒12Cが最初の圧縮行程を経過するまでの間に推定した筒内温度が所定温度以上の場合には、エンジン回転速度Neに拘わらず噴射タイミングを圧縮行程中期にリタードするものである。このため本実施形態では、停止時吸気行程気筒12Cが圧縮行程に移行するまでの期間については、エンジン本体1の筒内温度に着目し、エンジン本体1の筒内温度が高い場合には、エンジン回転速度Neに拘わらず燃料噴射タイミングを圧縮行程の中期にリタードさせ、より確実な自着火防止を図っている。
また本実施形態では、図5並びに図13に示したように、エンジン本体1の自動停止後の経過時間が60秒以内の所定時間に近いほど筒内温度が高いと判定するものである。これは、エンジン本体1の自動停止後の経過時間が60秒以内の所定時間に筒内の空気温度が急上昇するという知見に基づき、再始動条件が成立した時点が該所定時間に近いほど筒内温度が高いと判定されるように運転状態検出手段を構成しているので、自着火の生じやすい温度環境下でのノッキングを確実に防止することが可能になる。
また本実施形態では、各気筒での点火を所定タイミングで実行する点火制御手段としての点火プラグ15並びに点火装置27を設け、停止時吸気行程気筒12Cが最初に圧縮行程を迎えたときは、当該圧縮上死点経過後に前記停止時圧縮行程気筒12Aにて点火を実行するように構成されている。このため本実施形態では、最も吸気温度が高くなる傾向にある停止時吸気行程気筒12Cでの点火が圧縮上死点経過後にリタードさせることにより、停止時吸気行程気筒12Cで吹上がり(必要以上に急速なエンジン回転速度Neの上昇)が生じるのを確実に防止することが可能になる。
また本実施形態では、図15のTf9、Ts6で示したように、吸気行程での燃料噴射が可能な運転状態で燃料が圧縮行程で噴射された場合には、点火タイミングを圧縮上死点前の所定タイミングにアドバンスするものである。このため本実施形態では、充分なエンジン回転速度Neがあっても、エンジン回転速度Neの判定タイミング後に吸気行程が間に合わない場合には、燃料噴射が圧縮行程で実行されることになるが、そのような場合には、自着火が生じるおそれが少ないので、点火タイミングを圧縮上死点前にアドバンスさせることにより、高い出力を得るようにして、自着火防止と出力の向上とを両立させるようにしている。
従って本実施形態によれば、再始動後の運転状態が自着火しやすい環境下にあるときには、自着火を確実に防止できる対策を講じることが可能となるので、これまで問題視されてこなかった気筒での自着火をも確実に防止し、始動確実性を確保することができるという顕著な効果を奏する。
上述した実施形態は本発明の好ましい具体例に過ぎず、本発明は上述した実施形態に限定されない。本発明の特許請求の範囲内で、種々の変更が可能であることはいうまでもない。