JP4691904B2 - 油井鋼管用継手 - Google Patents

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本発明は、油井鋼管用継手に係わり、詳しくは、継手の雄部材外周面と雌部材内周面とによって構成されるシールを改良する技術である。
天然ガスや原油は、地表から数千mにも及ぶ地中から汲み上げられることが多い。そのためには、鋼管用継手(以下、単に継手ともいう)を用いて連結した多数本の油井鋼管が使用される。したがって、各油井鋼管同士を互いに連結する継手には、高圧、高荷重の下でシール性(管の外部にガスや原油を漏らさないこと)に優れていることが要求される。
一般に、これら継手は、図8に断面視で示すように、空洞の内周に雌ネジ1及びカップリングの平行部6´を有する雌部材(ボックス又はカップリングという)2と、その雌ネジ1に螺着する雄ネジ3及び環状のニブ部6を設けた雄部材(ピンという)4とを備えた方式である。つまり、各油井鋼管5の長手方向の両端に雄部材(ピン)4を設け、それをボックスである雌部材2内に挿入して連結し、それぞれのネジ同士を螺着させるものである。
ところが、最近は、シール性を一層向上させるため、図7に断面視で示すように、ピン4の外周に設ける雄ネジ3を先端部分の手前とし、またボックス2の内周に設ける雌ネジ1も奥手前までとし、ネジを設けていない環状の内周面7(カップリングのシール部ともいう)及び外周面8(ピンのシール部ともいう)同士を接触させるようにした継手が多用されるようになっている(例えば、特許文献1参照)。つまり、図7から明らかなように、ピン及びボックス2の連結させる(「締め付け」ともいう)際に、該ピン4の先端が該ボックス2の内周奥に突き当たると、ボックス2の環状内周面7とピン4の環状外周面8とが接触してシール面(金属面対金属面のシールと称されている)が形成される。なお、このピン4とボックス2とを完全に連結した時に、雄部材4の環状外周面8と雌部材3の環状内周面7との接触で生じるシール面は、断面視で上方(上方接触部14という)及び下方(ショルダ15)の二箇所で形成されることになる。そして、この継手は、以前のネジを主体としたものに比べてシール性が著しく向上した。
しかしながら、上記したネジ及び金属面対金属面シールの二種類のシールを備えた従来の継手は、高い耐リーク性を確保するため、ボックス2の環状内周面7(カップリングのシール部ともいう)及びピン4の環状外周面8(ピンのシール部ともいう)同士の接触で形成させるシール部にかける面圧を高めて、両方のシール部を局所的に圧着するようにしていた。そのため、両シール部の材が塑性変形したり、ゴーリングと称する「むしれ」現象を起こし易くなる。このような現象が生じると、継手のリークテストにおける圧縮や引っ張りによって、シール部がずれて試験媒体(ガス)がリークし、不合格になる恐れがある。
また、天然ガスや原油の探査、生産に関する最近の作業環境は、以前に比べ益々悪化し、深度1万5千メートルにも達するようになったので、継手の使用条件が従来より複雑、且つ厳しくなった。そのため、上記のような従来の継手を利用したのでは、シール性が不十分であるばかりでなく、最悪な場合として、やむなく作業の中断や油井の放棄をする場合も予想される。
特開2001−124253号公報
本発明は、かかる事情に鑑み、従来の継手に簡単な工夫を凝らすだけで、従来より苛酷な作業環境においてもシール性に優れると共に、製造コストの安価な油井鋼管用継手を提供することを目的としている。
発明者は、上記目的を達成するため、従来の金属面対金属面のシールを一層改良することに着眼した研究を重ね、その成果を本発明に具現化した。
すなわち、本発明は、鋼管の先端側に環状外周面及び引き続き雄ネジを設けた雄部材(ピン)と、この雄部材を内部に収容する空洞を有し、該空洞に前記雄ネジに螺合する雌ネジ、前記雄部材の環状外周面に接触、衝合する環状内周面を有する雌部材(ボックス)とで形成された油井鋼管用継手において、前記雌部材の環状内周面を凹円弧状に、前記雄部材の環状外周面を凸円弧状に形成してなり、前記雄部材の環状外周面の曲率半径が、前記雄部材と該雌部材とを連結する前の状態で、該雌部材の環状内周面の曲率半径より小さく、前記雄部材と該雌部材とを連結した際に、前記雄部材の環状外周面と前記雌部材の環状内周面とが互いに弾性変形の範囲内で接触してシール面を形成してなることを特徴とする油井鋼管用継手である。
この場合、前記雄ネジ及び前記雌ネジの荷重面を負のロード・フランク角を有するネジ山で形成させたり、あるいは、そのロード・フランク角を−0.5°〜−25°とすると一層良い。
本発明によれば、以前より苛酷な作業環境、つまり継手の降伏強度の95%においてもシール性が優れた油井鋼管用継手を安価に供給できるようになる。
以下、発明をなすに至った経緯をまじえ、本発明の最良の実施形態について説明する。
まず、発明者は、従来の継手(図8参照)のシール構造について見直した。その結果、過酷な条件下で使用してもシール性が損なわれないようにするには、前記した金属面対金属面のシールを改良する必要があると考えた。その理由は、従来の金属面対金属面のシールのうちの上方接触部14は、図7に示したように、ピン4側のシール部8(環状外周面)とボックス2側のシール部7(環状内周面)との接触部分が少なく(断面視では線状で接触)、継手に高荷重(引っ張り力等)が負荷され、材に塑性変形等が生じた場合、接触が保障できないように見受けられたからである。ちなみに、13Crの鋼種で、シール部7の角度が水平より30°の空洞内周面を備えたボックス2と、シール部8を有するピン4とからなる従来の継手に、ある高荷重を加えた時の接触状況を有限要素法で計算した概要を図5に示す。このピン4を備えた鋼管のサイズは、後述の表1に示す通りである。図5では、従来の金属面対金属面シールの上方接触部14は、高荷重が負荷された際でも、ほとんど接触していないように見え、接触状況が不安定であることが明らかである。
このような接触状況が劣る原因を追究するため、同一継手を用いて締め付け時のピン4側及びボックス2側のシール部8,7同士の接触長さ(以下、シール長さという)を調査した。つまり、1回の締め付け(ピンとボックスの連結)を行う毎に、締め戻しをして金属面の干渉で変化したシール長さを測定した。ここで、このシール長さは、ピン4とボックス(カップリング)2とのシール干渉量に対応するので、シール長さの変化量としてピンとカップリングのシール径から生じる干渉量を測定してそのシール径変化量とした。
図4に10回の締め付けにおけるシール長さの変化を示す。図4より、1回毎にシール長さが減少していくが、ピン4のシール部8は塑性変形し、締め付けの都度シール長さが変化することが明らかである。
そこで、発明者は、ピン4の環状外周面8とボックス2の環状内周面7とが局部的に高い面圧を受けないように圧着させ、弾性変形だけで互いになじみ合って変形するようにしてやれば、従来よりシール長さを長くできると考えた。つまり、前記ボックス2の環状内周面7を、前記ピンと前記ボックスとを連結させた際に、前記環状外周面と前記環状内周面とが互いに弾性変形の範囲内で接触してシール面を形成させるのである(ピンの環状外周面とボックスの環状内周面とが共通の曲率半径を有するようになる)。
そして、具体的に、シール長さを1mm以上にすることを目標として、同一鋼種で、ピンの環状外周面8及びボックスの環状内周面7の形状を、種々変化させることを試みた。実際には、NC数値制御機能を備えた旋盤で切削する。
その結果、図1(a)に示すように、ピン4及びボックス2の連結時(締め付け時)に主にピン4の弾性変形が起きて、ボックス2の環状内周面7の曲率半径とピン4の環状外周面8の曲率半径とが共通になる場合に、非常に良好なシール成績を得ることができた。また、前記と同様に、有限要素法で計算した結果を図2に示すが、シール長さ11が長くなることが確認できた。つまり、図1(a)の破線で囲った部分を拡大した図1(b)に断面視で示すように、本発明では、従来は直線状であったボックス2の環状内周面7を凹円弧状に、ピン4の先端を凸円弧状に形成してあるので、ボックス2とピン4とを連結した際の弾性変形で、前記上方接触部14及びショルダ15での両者の接触長さ11が従来より格段に増大するのである。ちなみに、上方接触部14は、従来より約3倍の長さとなる。なお、図1(b)の破線状円は、弾性変形後のピン先端に生じる仮想の円弧を表している。
そこで、ボックスの環状内周面7を、ピン4をボックス2で締め付けた際に、該ピン4の環状外周面8とボックス2の環状内周面7とが互いに接触して弾性変形の範囲内でシール面を形成するような形状にすることを要件に本発明を完成させたのである。
この場合、前記ピンを前記ボックスで締め付ける前の状態で、前記ピン4の環状外周面の曲率半径が前記ボックス2の曲率半径より小さいことが好ましい。弾性変形でのシール面が形成し易いからである。
また、前記雄ネジ3及び雌ネジ1の荷重面9は、図6に示したように、負のロード・フランク角(θ)を有するネジ山で形成するのが好ましく、さらに前記ロード・フランク角(θ)は−0.5°〜−25°とすると一層良い。このようなネジ山にすると、雄部材4と雌部材2のネジ山の噛み合いが外れ難くなるからであり、前記ロード・フランク角(θ)を−0.5°〜−25°とするのは、−0.5°未満では、噛み合い外れの抑止効果がなく、−25°超えでは、効果が飽和し、それ以上の角度にする必要がないからである。
図1に示した本発明に係る油井鋼管用継手を製作し、流体漏れの調査を行った。その際、ピン4とボックス2とを連結して、弾性変形の範囲内でシール面を形成させた。NC数値制御機能を備えた旋盤で製作したピン4及びボックス2の各部のサイズを、表1に示す。図4に示した締め付け試験と同様に、上方接触部14についてのピン4及びボックス2のシール長さ11の変化量を測定したが、その結果は、図3に示すように、複数回の締め付け毎の値が一定であり、弾性変形が起きていることが明らかである。また、本発明の効果を確認するため、ネジ山のロードフランク角(θ)が負の従来の継手での流体漏れ調査も行った。
いずれの調査も、流体として原油や天然ガスに替え高圧の水及びガスを採用し、漏れ程度の評価は、ISO規格の(最上級)+αに準ずる方法で行うものである。
その結果、本発明に係る油井用鋼管用継手は、降伏強度の95%の圧縮力がかかった後でも、ガス(ヘリウム)漏れは一切生じなかった。
Figure 0004691904
本発明に係る油井鋼管用継手を示す断面図であり、(a)は、ピンとボックスとで共通の曲率半径を有する接触面のシールを形成することを説明し、(b)は、ピンとボックスとを締め付けた際に、互いの接触面に形成される仮想の円弧を示している。 本発明に係る油井鋼管用継手のピンとボックスとの接触状況を有限要素法で計算した結果を示す図である。 本発明に係る油井鋼管用継手の締め付け試験におけるピンとボックスとの干渉量変化を示す図である。 従来の油井鋼管用継手の締め付け試験におけるピンとボックスとの干渉量変化を示す図である。 従来の油井鋼管用継手のピンとボックスとの接触状況を有限要素法で計算した結果を示す図である。 負のロードフランク角を有するネジ山を示す図である。 金属面対金属面シールを備えた継手の断面図である。 一般的な油井鋼管用継手を示す断面図である。
符号の説明
1 雌ネジ
2 雌部材(ボックス又はカップリング)
3 雄ネジ
4 雄部材(ピン)
5 油井鋼管
6 ニブ部
6´ カップリング又はボックスの平行部
7 カップリング又はボックスのシール部(環状内周面)
8 ピンのシール部(環状外周面)
9 ネジの荷重面
10 ネジの挿入面
11 接触長さ(シール長さ)
13 隙間
14 上方接触部
15 肩部(ショルダ)

Claims (3)

  1. 鋼管の先端側に環状外周面及び引き続き雄ネジを設けた雄部材(ピン)と、この雄部材を内部に収容する空洞を有し、該空洞に前記雄ネジに螺合する雌ネジ、前記雄部材の環状外周面に接触、衝合する環状内周面を有する雌部材(ボックス)とで形成された油井鋼管用継手において、
    前記雌部材の環状内周面を凹円弧状に、前記雄部材の環状外周面を凸円弧状に形成してなり、
    前記雄部材の環状外周面の曲率半径が、前記雄部材と該雌部材とを連結する前の状態で、
    該雌部材の環状内周面の曲率半径より小さく、
    前記雄部材と該雌部材とを連結した際に、前記雄部材の環状外周面と前記雌部材の環状内周面とが互いに弾性変形の範囲内で接触してシール面を形成してなることを特徴とする油井鋼管用継手。
  2. 前記雄ネジ及び前記雌ネジの荷重面を負のロード・フランク角を有するネジ山で形成してなることを特徴とする請求項1記載の油井鋼管用継手。
  3. 前記ロード・フランク角を−0.5°〜−25°としたことを特徴とする請求項2記載の油井鋼管用継手。
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