JP4683408B2 - 新規精子前培養培地 - Google Patents

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Description

本発明は、精子(凍結保存した精子または新鮮精子)、特にマウス精子を、体外受精前に前培養するための前培養培地、また、前記前培養培地を用いて精子を前培養する方法、ならびに、前記前培養培地を用いて精子を体外受精する方法に関する。
自らの持つ遺伝情報に基づいて、新たな個体を発生させる能力を有する胚や生殖細胞を生存状態で安定的かつ恒久的に保存する技術は、医学、薬学、生命工学、畜産等を含む広範囲な分野で今や必須の技術であり、遺伝子改変生物や希少な野生生物などの遺伝子資源の保全においても極めて重要である。
このような保存技術のうち、現在最も一般に使用されているものの1つとして精子を凍結保存する方法がある。これは、精子を凍結保存剤中、−80℃以下などの超低温で保存することにより、精子の代謝や変性を抑制して劣化を防ぎつつ、その機能や活性を維持するものであるが、精子を凍結する過程および一定の保存期間後に精子を融解する過程において精子に様々な傷害が発生し、精子を一定期間凍結保存した後、融解して使用しようとしても、精子の多くは損傷しているために、保存前に精子が有していた機能や活性を完全に維持したままの正常な精子の割合がかなり減少してしまうという問題があった。すなわち、凍結保存された精子は、凍結および融解の操作によりその多くが物理的な損傷を受け、受精する能力を喪失してしまうのである(非特許文献1参照)。
そこで、このような精子への凍結傷害を軽減することを目的として、これまで精子の凍結保存剤や凍結保存方法が数多く開発されてきた(例えば、特許文献1〜4参照)。しかしながら、かかる凍結保存剤や凍結保存方法によって凍結傷害を受ける精子(凍結傷害精子)の割合はある程度減少し、傷害されていない正常な精子の割合が増加するため、全体として凍結精子の受精率を向上させることは可能になったが、凍結保存およびその後の融解操作を行う以上は、必ず一定以上の割合の受精能力を喪失した凍結傷害精子が生じることから、凍結保存剤や凍結保存方法の開発のみによって凍結精子の受精率向上を図るには限界があった。
一方、精子を体外受精前に前培養する技術については以前から多くの方法が知られ、その前培養に用いる培地についても数多くの工夫と提案がなされてきており、現在では、血清やBSA(ウシ血清アルブミン)を含有するHTF培地やTYH培地などが広く用いられている。しかし、血清やBSAなどの生物由来の抽出成分は、種々のホルモンや酵素、成長因子、タンパク質、脂質などの他、受精における機能を完全に特定できない様々な成分を多く含む上に、抽出する個体により各成分のばらつきが出るため、品質を一定に保つことは不可能であり、したがって、精子の受精率も、前培養培地中に含まれるこれら生物由来の抽出成分の品質に依存して変化することになり、かかる成分を含有する前培養培地を用いて安定した受精率を得ることは極めて困難であった。さらに、これら生物由来の抽出成分は採取や精製に多大なコストがかかるために高価であり、また、一方でウイルスなどの有害成分が混入する可能性もあることから、近年では、このような生物由来の抽出成分を含有しない、特定された化学成分のみを含有する体外受精用前培養培地の開発が試みられており、例えばBSAの代わりにシクロデキストリン誘導体を含有するc-TYH培地(特許文献5参照)や、約20種類ものアミノ酸をそれぞれ特定の割合で配合した培地(特許文献6および7参照)などが提案されてきた。
しかしながら、これらはいずれも従来の生物由来の抽出成分を含有する培地に代えて用いることができる、特定の化学成分のみを含有する前培養培地を提案しているものであり、正常な(損傷していない)新鮮精子の受精能力を前記の培地で前培養することにより充分に発揮せしめるためのものであって、凍結等に基づく損傷により受精能力を喪失している精子が受精能を獲得することを可能にする前培養培地や方法は、これまで全く知られていなかった。さらにまた、新鮮精子についても、前記の通り、従来の生物由来の抽出成分を含有する前培養培地を用いた場合を上回る受精率を得られるような受精率向上を実現できる前培養培地や方法については、これまで全く知られていなかった。
よって、凍結精子および新鮮精子のいずれについても、受精の方法やそれに用いられる培地等によって、さらなる受精率向上を実現できる技術の開発が望まれていた。
特開平10−7501号公報 特開平11−228301号公報 特開平11−98935号公報 特願2004−89102号 特開平11−346596号公報 特開平9−70240号公報 特開2001−17160号公報 Nisizono H. et al., Biology ofReproduction, 2004 Sep; 71(3) 973-8
したがって、本発明の課題は、凍結精子および新鮮精子の受精率向上を図ることができる、体外受精用の精子前培養培地であって、上記のような生物由来の抽出成分が含まれない前記前培養培地を提供することにある。
本発明者らは、上記の課題を達成すべく鋭意検討を行う中で、まず、凍結精子の受精率向上を図るには、従来法では受精能を獲得できない凍結傷害精子に受精能を獲得させる必要があると考えて、受精のメカニズムが、精子の細胞膜表面に存在するシグナル伝達分子の活性化に始まる細胞内シグナル伝達機構の活性化に基づくこと、ならびに、凍結融解後の凍結傷害精子がその傷害の程度により、主に精子の先体膜表面が損傷している傷害の程度が軽・中度の凍結傷害精子(軽・中度凍結傷害精子)と、主に先体内酵素の多くが失われている傷害の程度が重度の凍結傷害精子(重度凍結傷害精子)とに分類されることに着目した。すなわち、軽・中度凍結傷害精子は先体内酵素が失われておらず、良好な運動性を維持しており、その損傷が主に膜に限られていることに注目して、本発明者らは、まず、軽・中度凍結傷害精子の受精できない原因が、凍結保存剤に含まれる過剰量のコレステロールに代表される脂質が凍結の段階で精子細胞膜に取り込まれるために、細胞膜が損傷して受精の際に細胞膜表面のシグナル伝達分子が活性化できなくなっていることにあるという仮説を立てた。一方で、凍結保存剤に含まれる過剰量のコレステロールなどの脂質は、結果的に細胞膜を損傷するものの、凍結の段階で細胞膜に取り込まれることによって、凍結およびその後の融解の段階で細胞自体が破壊されるのを防ぐという保護的で重要な役割を果たしていることから、凍結保存剤からこれらの成分を除去することは好ましくないことを考慮して、融解後に多く生じる凍結傷害精子のうち、軽・中度凍結傷害精子の膜損傷による細胞膜表面のシグナル伝達分子の不活性化に基づく受精能力の喪失を人工的に解消し、これらの凍結傷害精子に受精能を獲得させることによって、凍結精子の受精率向上を図る方法を探索した。
そこで、本発明者らは、受精能力を喪失した凍結傷害精子に受精能を獲得させるためには、凍結傷害精子から凍結保存剤由来の余分なコレステロール等の脂質を除去することが必要であると考え、かかる知見に基づいて研究を進めた結果、凍結保存剤の成分等による細胞膜の損傷に基づいて惹起される細胞膜表面のシグナル伝達分子の不活性化を人工的に解消する物質として、コレステロールの包接剤であるシクロデキストリン誘導体を添加した前培養培地を用いて凍結精子を前培養することにより、従来の方法では受精能を獲得できなかった軽・中度凍結傷害精子が、受精能を獲得できるようになることを初めて発見した。そしてさらに研究を進めた結果、前記のシクロデキストリン含有前培養培地に、受精の際に惹起される細胞内シグナル伝達機構の活性化に対して補完的に作用する物質として、アミノ酸および/または解糖系中間体物質を添加することによって、軽・中度凍結傷害精子に対する受精能獲得効果が一層飛躍的に向上することを見出し、本発明を完成させた。そしてまた、さらに研究を進めたところ、驚くべきことに前記の前培養培地を用いることにより、新鮮精子においても飛躍的に受精率を向上させ得ることを見出すとともに、従来法に比べて前培養時間を大きく短縮できることから、精子に対する損傷を大幅に軽減することができることをも見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、シクロデキストリン誘導体ならびに、アミノ酸および/または解糖系中間体物質を含有する、体外受精用の精子前培養培地に関する。
また、本発明は、シクロデキストリン誘導体が、メチル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、グルコシル-β-シクロデキストリン、マルトシル-β-シクロデキストリンおよびスルフォブチル-β-シクロデキストリン、ならびにこれらのα体およびγ体からなる群より選択される1種または2種以上である、前記前培養培地に関する。
さらに本発明は、アミノ酸が、グリシン、アラニン、およびグルタミンからなる群より選択される1種または2種以上である、前記の前培養培地に関する。
さらにまた、本発明は、解糖系中間体物質が、ホスホエノールピルビン酸、α-D-グルコース6-リン酸、α-D-フルクトース6-リン酸、D-フルクトース1,6-二リン酸、ジヒドロキシアセトンリン酸、D-グリセルアルデヒド3-リン酸、D-グリセルアルデヒド3-リン酸、1,3-ジホスホグリセリン酸、3-ホスホグリセリン酸および2-ホスホグリセリン酸からなる群より選択される1種または2種以上である、前記の前培養培地に関する。
また、本発明は、シクロデキストリン誘導体の含有量が0.1〜20mMである、前記の前培養培地に関する。
本発明はさらに、アミノ酸の含有量が1〜200mMである、前記の前培養培地に関する。
本発明はまた、解糖系中間体物質の含有量が1〜200mMである、前記の前培養培地に関する。
さらに本発明は、精子が哺乳動物の精子である、前記の前培養培地に関する。
また、本発明は哺乳動物がマウスである、前記の前培養培地に関する。
本発明はさらに、マウスが、C57BL/6系統、C57BL/10系統、BALB/c系統、129系統、DBA/1系統、DBA/2系統およびA系統からなる群から選択される系統のマウスまたは前記系統をバックグラウンドに持つ遺伝子改変マウスである、前記の前培養培地に関する。
本発明はまた、前記の前培養培地を用いて体外受精のために精子を前培養する方法にも関する。
また、本発明は前記の前培養培地を用いて、精子を前培養する、体外受精方法にも関する。
本発明の前培養培地によれば、従来の前培養培地では凍結保存した精子の受精率が極めて低い生物種の凍結精子であっても、極めて優れた受精率を得ることが可能となる。したがって、遺伝子資源の有効活用に資すると共に、凍結保存により受精能力を喪失するという遺伝子資源保存上のリスクを大きく低減することができる。
また、本発明の前培養培地は、損傷された精子膜表面分子の不活性化を人工的に解消するシクロデキストリン誘導体だけでなく、受精の際に惹起される細胞内シグナル伝達系を補完する作用を有する物質として、受精能獲得の際のシグナル伝達において重要な働きを担う分子であるATPやcAMPの産生を促進し、かつ、ATPやcAMPのように不安定な分子でない、アミノ酸や解糖系中間体物質をといった化合物をも含んでいることから、この両者の併用により、凍結傷害精子も充分に受精能を獲得できるようになり、高い受精率を容易に得ることが可能になった。
また、さらに、新鮮精子を用いて体外受精を行う場合にも、従来の培地では実現できなかった極めて優れた受精率を達成することが可能になった。また、本発明の前培養培地を用いて新鮮精子で体外受精を行う場合には、従来法の前培養時間の約1/4〜1/10程度の短時間で受精能を効率的に発揮させることが可能となり、人工培地に曝されることによる精子DNAのダメージを大きく軽減させることができる。
したがって、本発明の前培養培地は、上記のような比較的高価で経時的に変性しやすい生物由来の抽出成分を含まず、いずれも経時的に安定で入手が容易な特定の化学物質のみを含有するものであるため、本発明によれば、常に安定した受精率を容易に得ることが可能となるだけでなく、安価で安定な前培養培地を提供することが可能となり、凍結保存精子または新鮮精子のいずれを用いた場合にも、前培養や体外受精にかかるコストや時間を大幅に削減することができる。
さらに、本発明の前培養培地により、これまで(特に凍結融解後において)十分な受精率が得られなかったマウス系統、特に遺伝子解析などの研究で重要なC57BL/6系統やC57BL/10系統、129系統などの精子でも充分な体外受精率を得ることが可能となり、遺伝子改変マウスの遺伝子資源の利用やその効率的な長期保存に関して多大な貢献が期待できる。
すなわち、本発明の前培養培地は、上記の構成をとることにより、損傷された膜表面分子の不活性化を人工的に解消しつつ、受精の際に惹起される細胞内シグナル伝達系を強化することで、受精能力を喪失した凍結傷害精子に受精能獲得を可能ならしめるものであるとともに、新鮮精子においても極めて優れた受精率向上効果を実現するものである。そして、かかる効果を奏する体外受精用の精子前培養培地は、上記の構成をとることにより本発明により初めて実現されたものである。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の前培養培地は、有効成分としてシクロデキストリン誘導体ならびに、アミノ酸および/または解糖系中間体物質とを含有することを特徴とするものである。
本発明において、凍結精子という場合には、少なくとも一度凍結された精子を意味し、凍結状態での保存期間の長さは問わない。また、新鮮精子は、精巣上体あるいは精管から採取された精子であって、採取後一度も凍結されていない精子を指す。さらにまた、単に精子という場合には、特に記載がない限り、凍結精子と新鮮精子の両者を包含する。
本発明の前培養培地に含有されるシクロデキストリン誘導体は、凍結精子に対しては、凍結保存剤のコレステロール等によって傷害された精子細胞膜から、その傷害の原因となっているコレステロールを包接して取り除くことにより、細胞膜上のシグナル伝達分子が受精能を獲得する際に活性化できるように作用する。したがって、本発明の前培養培地に用いられるシクロデキストリン誘導体は、水溶性であり、かつコレステロールを包接する性質を有するものであれば、特に限定されないが、6個のグルコースがα−1,4結合で環状に結合したα−シクロデキストリン骨格、7個のグルコースがα−1,4結合で環状に結合したβ−シクロデキストリン骨格、または8個のグルコースがα−1,4結合で環状に結合したγ−シクロデキストリン骨格を有するものが好ましい。このような好ましいシクロデキストリン誘導体としては、メチル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、グルコシル-β-シクロデキストリン、マルトシル-β-シクロデキストリン、スルフォブチル-β-シクロデキストリン、ならびにこれらのα体(すなわち、メチル-α-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-α-シクロデキストリン、グルコシル-α-シクロデキストリン、マルトシル-α-シクロデキストリンおよびスルフォブチル-α-シクロデキストリン)およびγ体(すなわち、メチル-γ-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン、グルコシル-γ-シクロデキストリン、マルトシル-γ-シクロデキストリンおよびスルフォブチル-γ-シクロデキストリン)を挙げることができ、これらのうち、メチル-β-シクロデキストリンが特に好ましい。
これらのシクロデキストリン誘導体は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本発明の前培養培地におけるシクロデキストリン誘導体の含有量は、凍結精子および新鮮精子が充分に受精能を獲得することができる濃度であれば、特に限定されないが、0.1〜20mMであることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜10mMであり、特に好ましくは0.5〜5 mMである。これは、20mMを超えると精子への毒性が発現する傾向にあり、0.1mM未満であると、精子の受精能が充分に得られない傾向にあることによる。
本明細書中、精子が充分に受精能を獲得することができるとは、例えば、凍結精子の場合はその融解後、新鮮精子の場合は精巣上体または精管から採取後、透明帯切開法や、卵細胞質内精子注入法などの特別な技法を使わずに未受精卵に体外受精させた場合に、20%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上、特に好ましくは40%以上の受精率が得られることをいう。
本発明の前培養培地に用いるアミノ酸は、上記のシクロデキストリン誘導体と共に前培養培地に含有されることにより、精子が充分に受精能を獲得することができるものであればよく、特に限定されない。したがって、精子が充分に受精能を獲得する際に惹起されるシグナル伝達経路の活性化に対して補完的に作用するものが好ましく、中でもTCA回路において異化的経路(ATPを産生する方向に働く経路)の基質となるアミノ酸がさらに好ましい。このようなアミノ酸としてはグリシン、アラニン、およびグルタミンが特に好ましい。これらのアミノ酸は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本発明の前培養培地におけるアミノ酸の含有量は、精子が充分に受精能を獲得することができる濃度であれば、特に限定されないが、1〜200mMであることが好ましく、さらに好ましくは5〜50mMであり、特に好ましくは10〜30mMである。これは、200mMを超えると浸透圧の影響から精子の運動性が低下する傾向にあり、1mM未満であると、精子の受精能を向上する効果が充分に得られない傾向にあることによる。
本発明の前培養培地における解糖系中間体物質は、上記のシクロデキストリン誘導体と共に前培養培地に含有されることにより、精子が充分に受精能を獲得することができるものであればよく、特に限定されない。また、解糖系は、グルコースがピルビン酸または乳酸にまで分解される代謝経路を指すから、解糖系中間体物質にはグルコース、ピルビン酸および乳酸は含まれない。よって、本発明において用いられる解糖系中間体物質は、精子が充分に受精能を獲得する際に惹起されるシグナル伝達経路の活性化に対して補完的に作用するものが好ましく、解糖系において異化的経路(ATPを産生する方向に働く経路)の基質となる中間体物質がより好ましく、このようなものの例としては、ホスホエノールピルビン酸、α-D-グルコース6-リン酸、α-D-フルクトース6-リン酸、D-フルクトース1,6-二リン酸、ジヒドロキシアセトンリン酸、D-グリセルアルデヒド3-リン酸、D-グリセルアルデヒド3-リン酸、1,3-ジホスホグリセリン酸、3-ホスホグリセリン酸および2-ホスホグリセリン酸が挙げられる。これらのうち、ホスホエノールピルビン酸が特に好ましい。
これらのアミノ酸は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本発明の前培養培地における解糖系中間体物質の含有量は、精子が充分に受精能を獲得することができる濃度であれば、特に限定されないが、1〜200mMであることが好ましく、さらに好ましくは5〜50mMであり、特に好ましくは10〜30mMである。これは、200mMを超えると浸透圧の影響から精子の運動性が低下する傾向にあり、1mM未満であると、精子の受精能を向上する効果が充分に得られない傾向にあることによる。
また、本発明の前培養培地に含まれるアミノ酸および解糖系中間体物質は、いずれも遊離型のものだけでなく、生理学的に許容される塩の形態で使用することができる。
本発明による前培養培地には、上記必須成分(シクロデキストリン誘導体、ならびにアミノ酸および/または解糖系中間体物質)の他、必要に応じて、浸透圧やイオン濃度を調整したり、細胞の状態をより生体内における環境に近づけるために、電解質やビタミン類、微量金属元素、還元物質、高分子などを含有させてもよく、また細胞のエネルギー源となる物質を加えてもよい。
このような電解質としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムなどを挙げることができ、ビタミン類としては、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンD類、ビタミンE、ニコチン酸、ビオチン、パントテン酸、葉酸などを挙げることができる。微量金属元素としては、亜鉛、鉄、セレン、マンガン、銅、コバルトなどを例示することができ、還元物質としては、2−メルカプトエタノール、ジチオトレイトール、還元型グルタチオンなどを例示することができ、また、高分子としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、フィコール(Ficoll)などを例示することができる。さらに、エネルギー源としては、グルコース、あるいは、乳酸、ピルビン酸やこれらの塩等(乳酸ナトリウムやピルビン酸ナトリウムなど)を挙げることができる。
また、本発明の前培養培地には、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、アムホテリシンBなどの抗生物質を必要に応じて添加してもよい。この他に、培地のpHの変化を外観によって判断できるようにフェノールレッドなどのpH指示薬を含有させることもできる。また、さらにpH調整剤として、塩酸、酢酸、水酸化ナトリウムなどを、緩衝剤として、HEPES(N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N'−2−エタンスルホン酸)などを含有させてもよい。
本発明の前培養培地は、さらにリン酸緩衝生理食塩水、タイロード液、クレブス・リンゲル重炭酸塩液、ハンクス液などの公知の緩衝液や生理食塩水溶液、または、DMEM培地、MEM培地、ハム培地、TYH培地、HTF培地などの培地等と混合して使用してもよく、あるいは、これらの培地に上記必須成分(シクロデキストリン誘導体、ならびにアミノ酸および/または解糖系中間体物質)を加えて本発明の前培養培地とすることにより使用してもよい。
なお、本発明の前培養培地には、血清や種々の成長因子、インスリン、血清アルブミンやトランスフェリンなどの生物由来の抽出成分は、前述の通り、有害成分の混入、製品やロットによる含有成分のばらつき等の理由から、添加しないことが望ましい。また、これら生物由来の抽出成分を含有していなくても、本発明の前培養培地によれば、安定に充分な受精率を得ることができる。
本発明の前培養培地は、定法によって各成分を配合することで製造することができ、その形態は、通常液体であるが、適宜、固体培地または半固体培地として使用してもよい。好ましくは、本発明の培地組成物は、定法により無菌の溶液、用時希釈型の無菌濃縮液または用時溶解型の無菌凍結乾燥物の形態で製造され、供給される。この際、必要に応じて公知の方法により、pH調整剤、安定化剤、賦形剤、pH指示薬などの生理学的に許容される添加剤を使用してもよい。また、液体の形態の場合に用いる溶媒としては水が好ましく、特に蒸留水、注射用蒸留水、細胞培養用蒸留水、胚操作用蒸留水などを用いるのが好ましい。
本発明の前培養培地は、上記必須成分(シクロデキストリン誘導体、ならびにアミノ酸および/または解糖系中間体物質)を、例えば水に溶解することにより調製することができる。そしてさらに、例えば、ろ過滅菌などにより滅菌し、無菌条件下で容器に注入し、封入することができる。また、シクロデキストリン誘導体、ならびにアミノ酸および/または解糖系中間体物質は、一緒に、またはそれぞれを別個に容器に保存してもよい。その際、少なくとも一つを水溶液としてもよく、また全てを水溶液としてもよく、さらには水のみを1つの容器に、本発明の上記必須成分を別の容器にそれぞれ充填して保存し、用時に水溶液としてもよい。
本発明の前培養培地を用いて体外受精のために前培養される精子はいずれの生物のものであってもよいが、哺乳動物の精子が好ましく、マウスの精子がさらに好ましい。中でも、C57BL/6系統、C57BL/10系統、BALB/c系統、129系統、DBA/1系統、DBA/2系統およびA系統からなる群から選択される系統のマウスまたは前記系統をバックグラウンドに持つ遺伝子改変マウスが好ましく、これらのうちC57BL/6系統のマウスまたはこの系統をバックグラウンドに持つ遺伝子改変マウスの精子が特に好ましい。
次に、新鮮精子を採取して本発明の前培養培地を用いて前培養し、体外受精を行う手順について、マウスを例に説明する。ただし、これは本発明を限定するものではない。
まず、成熟雄マウス(8週齢以上)の精巣上体尾部を取り出し、あらかじめ用意しておいた本発明の前培養培地中に新鮮精子を導入し、37℃、5%CO条件下で5〜15分間、前培養を行う。
一方、体外受精に用いる未受精卵は、過排卵誘起法などによって成熟雌マウス(8〜16週齢)から排卵された卵子卵丘複合体をマウス卵管膨大部より採取し、HTF培地などの培養液に入れることにより調製する。
その後、上記のようにして得られた新鮮精子の懸濁液から、実体顕微鏡下で非運動精子を避けて、運動精子を含む部分を採取し、前記の卵子卵丘複合体の入った培養液に導入する。その後、37℃、5%CO条件下で8〜24時間培養する。
さらに、精子を凍結保存後、融解し、本発明の前培養培地を用いて前培養する手順について、マウスを例に説明する。ただし、これは本発明を限定するものではない。
まず、成熟雄マウス(8週齢以上)の精巣上体尾部をシャーレ上のウェル内の凍結保存剤中に移し、精巣上体管を細切後、シャーレをゆるやかに振盪させ、精子を凍結保存剤中に懸濁させ、精子懸濁液とする。
次に、ストローをシリンジに装着し、HTF培地などの培養液を充填した後、シャーレのフタなどに精子懸濁液を取り、充填した培養液との間に空気相を挟んで精子懸濁液をストローなどの容器に充填する。容器としてストローを用いる場合には、ストローの両端部に空気相を設け、シーラーで封止する。次いで、凍結用フロートに精子を充填したストローを入れ、液体窒素保管器内の液体窒素表面に5分〜15分静置後、フロートを液体窒素中に浸漬し、精子を凍結保存する。
上記のようにして凍結保存された精子は、用時に融解して前培養を行い、未受精卵との体外受精などに用いることができる。
凍結精子の融解および前培養の1例を示すと、以下の通りである。
まず、凍結保存してあるストローを液体窒素から取り出し、温水中に浸漬して融解する。その後、温水からストローを引き上げ、凍結精子懸濁液のみを予め作製しておいた本発明の前培養用培地に移し、37℃、5%CO条件下で5〜60分間、前培養を行う。前培養後の凍結精子懸濁液は、体外受精などに供することができる。
本発明の前培養培地により前培養された凍結保存精子の体外受精の手順について、以下に例を示す。
まず、体外受精に用いる未受精卵は、過排卵誘起法などによって成熟雌マウス(8〜16週齢)から排卵された卵子卵丘複合体をマウス卵管膨大部より採取し、HTF培地などの培養液に入れることにより調製する。
上記のようにして得られた凍結保存精子の懸濁液から、実体顕微鏡下で非運動精子を避けて、運動精子を含む部分を採取し、前記の卵子卵丘複合体の入った培養液に導入する。その後、37℃、5%CO条件下で8〜24時間培養する。
なお、本発明の前培養培地を用いて体外受精を行う場合に用いられる凍結精子は、上述に記載の方法の他、公知の方法により適宜調製されて凍結保存されたものでもよく、また、凍結保存剤としても公知のいずれの精子凍結保存剤を用いて行われてもよい。例えば、このような精子凍結保存剤としてR18S3(ラフィノース18重量%、スキムミルク3重量%および水からなる精子凍結保存剤)、R18(ラフィノース18重量%および水からなる精子凍結保存剤)、ラフィノース・グリセロール混合液などが挙げられる。また、本願出願人らによる特願2004−89102号に記載の精子凍結保存剤(例えばラフィノース18重量%、スキムミルク3重量%、グルタミン100mMおよび水からなる精子凍結保存剤等)を用いてもよく、かかる場合には、従来の精子凍結保存剤を用いた場合よりもさらに優れた受精率を得ることができる。したがって、本願出願人らによる特願2004−89102号に記載の精子凍結保存剤により凍結保存した精子を、融解後、本発明の前培養培地により前培養して体外受精を行うことにより、従来法の数倍以上の極めて優れた受精率を得ることができる。
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
製造例 (体外受精用の精子前培養培地の調製)
メチル−β−シクロデキストリン 98.25mg、グルタミン146.15mg、PVA 100mg、NaCl 697.6mg、KCl 35.6mg、CaCl2・2H2O 25.1mg、MgSO4・7H2O 29.3mg、KH2PO4 16.2mg、NaHCO3 210.6mg、グルコース 100mg、ピルビン酸ナトリウム 5.5mg、ペニシリンG 7.5mg、ストレプトマイシン 5.0mg、フェノールレッド 0.2mgを蒸留水に加えて溶解し、100mlとした後、ろ過滅菌した。こうして、メチル−β−シクロデキストリン0.75mMおよびグルタミン10mMを含む、本発明の前培養培地(実施例1)を得た。
実施例1の前培養培地と同様にして、実施例1のグルタミン 146.15mgをグリシン 75.07mg、アラニン 89.09mgまたはホスホエノールピルビン酸 208.04mgに代えた前培養培地を製造した。こうして、メチル−β−シクロデキストリン0.75mMと、それぞれ、グリシン10mM(実施例2)、アラニン10mM(実施例3)またはホスホエノールピルビン酸10mM(実施例4)とを含む、本発明の前培養培地を得た。
試験例1 (凍結保存精子の受精率測定)
本発明の前培養培地が凍結精子の融解後の受精能に及ぼす影響を検討するため、凍結保存剤中で凍結保存後に融解した精子を用いて、体外受精を行った。
(1)精子の凍結保存
まず、以下に示すとおりに凍結保存剤としてR18S3(ラフィノース18重量%、スキムミルク3重量%および水からなる精子凍結保存剤)を用いてマウス精子を凍結保存した。
性成熟した8〜40週齢のC57BL/6系統の雄マウスから、安楽死の直後に左右両精巣の精巣上体尾部を取り出した。シャーレ上の各ウェルには、あらかじめ凍結保存剤を100μlずつ入れておき、上記2個の精巣上体尾部をいずれかのウェル内の100μlの凍結保存剤中で軽く揺すり、未使用の別のウェルに移すことにより不要な血液などを除去した。この洗浄操作を3回繰り返し、精巣上体尾部を4つ目のウェルに移してから、眼科用剪刀あるいはウェッケル剪刀で5箇所程度細切し、そのまま3分静置することで凍結保存剤中に精子を採取した。その後、組織片を除去し、凍結保存剤中に精子を充分に拡散させて精子懸濁液とした。
次に、ストローを1mlのシリンジに装着し、HTF培地を約100μl充填した後、シャーレのフタに10〜15μlの精子懸濁液を取り、充填した培養液との間に10mmの空気相を挟んでストローに充填し、さらにストローの両端部に10mmの空気相を設け、シーラーで封止した。その後、ストロー内で精子が均一に分布するように、該ストローを37℃で1分加温した。
市販のディスポーザブル50mlシリンジの外筒内に、先端に向けて厚さ2〜3センチの発泡スチロール片を充填したものを、アクリル棒の一端に針金で固定した精子凍結用フロートに、上記ストローを、精子を充填した方の端を下にして乗せた。この状態で、フロートを液体窒素上に浮かべ、10分静置した。これにより、精子の温度を、約−20℃/分の冷却速度で、約−120℃まで下降させた。次に、精子凍結用フロートを液体窒素内に導き、ストローを液体窒素液相中に曝露した。該ストローを液体窒素中で5日間保存した。
(2)凍結精子の融解および前培養
5日後、凍結したマウス精子を液体窒素から取り出し、室温(25℃)にて5秒放置し、次いで37℃の湯浴中にて10分間加温した。その後、あらかじめ用意しておいた90μlの本発明の前培養培地(実施例1〜4)またはHTF培地(比較例)中に精子を導入し、37℃、5% COに制御されたCOインキュベーター内に30分間静置することによって精子の前培養を行った。前培養後、中央に集まった死滅精子や非運動精子を避けながら、運動精子を選別採取して体外受精に用いた。
(3)体外受精
体外受精に供したマウス卵子は、8週齢のC57BL/6雌マウスから定法により採取した。すなわち、PMSG(妊馬血清性性腺刺激ホルモン)およびhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を用いた過排卵誘起法にてマウス卵子を過排卵させ、排卵された卵子卵丘複合体をマウス卵管膨大部から採取した。
雌マウス4匹分の卵子卵丘複合体を、予め用意しておいた90μlのHTF培地中に入れ、これにさらに上記(2)で得られた精子を含む液10μlを導入して媒精し、37℃、5% COに制御されたCOインキュベーター内で10時間培養した。
(4) 体外受精率の決定
体外受精の10時間後に、受精卵および未受精卵を回収し、それらをスライドグラス上でグルタルアルデヒドによって固定し、固定標本を作製した。受精の判定は、前核が2つあるかどうかによって判定し、2つあるものを受精卵、1つもないものを未受精卵とし、それらを計数した。得られた数を以下の式に代入し、体外受精率を算出した。
体外受精率(%)={受精卵の数/(受精卵の数+未受精卵の数)}×100
上記(4)で得られた体外受精率を平均値(Mean)±標準偏差(SD)により表1に示す。
Figure 0004683408
表1において示されるように、本発明の前培養培地(実施例1〜4)により前培養した凍結精子は、いずれも従来用いられてきたHTF培地(比較例)により前培養した凍結精子に比べて受精率が飛躍的に向上しており、従来の約2〜3倍もの受精率を得られることが明らかになった。すなわち、メチル−β−シクロデキストリンなどのシクロデキストリン誘導体と、グルタミン、グリシン、アラニンなどのアミノ酸、および/またはホスホエノールピルビン酸などの解糖系中間体物質とを含有する培地で、凍結保存後に融解した精子を前培養することにより、従来は、凍結保存後の受精率が約10%程度であった極めて脆弱なC57BL/6系統のマウス精子であっても、少なくとも20%以上、多ければ40%以上の受精率を達成することが可能になったことが理解される。したがって、本発明の前培養培地によれば、他のマウス系統を始めとし、多くの遺伝子改変動物や実験動物、家畜等においても凍結保存精子の受精率の向上を図ることができると考えられる。
また、表1の結果から、本発明の前培養培地を用いることにより、従来法では受精能を獲得できなかった凍結精子(凍結傷害精子)が、本発明の前培養培地中で前培養されることにより受精能を獲得できるようになった結果、凍結精子全体として充分な受精率を得ることが可能になったことが示された。
さらに、血清や血清アルブミン、成長因子などの生物由来の天然抽出成分を全く含まない本発明の前培養培地を用いて凍結精子を前培養した場合には、生物由来の天然抽出成分を含有する従来法のHTF培地(BSAを含む)を用いて前培養した場合と比べて、はるかに優れた受精率を得ることができることも明らかになり、生物由来の天然抽出成分を含有しない前培養培地であっても、凍結精子の受精率を飛躍的に向上させることが可能であることが示された。
試験例2 (新鮮精子の受精率測定)
(1)新鮮精子の前培養
性成熟したC57BL/6雄マウスから、精巣上体尾部を取り出し、あらかじめ用意しておいた本発明90μlの本発明の前培養培地(実施例1)またはHTF培地(比較例)中に精子を導入し、37℃、5% COに制御されたCOインキュベーター内に15分間静置することによって精子の前培養を行った。前培養後、中央に集まった死滅精子や非運動精子を避けながら、運動精子を選別採取して体外受精に用いた。
(2)体外受精
体外受精に供したマウス卵子は、8週齢のC57BL/6雌マウスから定法により採取した。すなわち、PMSG(妊馬血清性性腺刺激ホルモン)およびhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を用いた過排卵誘起法にてマウス卵子を過排卵させ、排卵された卵子卵丘複合体をマウス卵管膨大部から採取した。
雌マウス4匹分の卵子卵丘複合体を、予め用意しておいた90μlのHTF培地中に入れ、これにさらに上記(2)で得られた精子を含む液10μlを導入して媒精し、37℃、5% COに制御されたCOインキュベーター内で10時間培養した。
(3) 体外受精率の決定
体外受精の10時間後に、受精卵および未受精卵を回収し、それらをスライドグラス上でグルタルアルデヒドによって固定し、固定標本を作製した。受精の判定は、前核が2つあるかどうかによって判定し、2つあるものを受精卵、1つもないものを未受精卵とし、それらを計数した。得られた数を以下の式に代入し、体外受精率を算出した。
体外受精率(%)={受精卵の数/(受精卵の数+未受精卵の数)}×100
上記(3)で得られた体外受精率を平均値(Mean)±標準偏差(SD)により表2に示す。
Figure 0004683408
表2において示されるように、本発明の前培養培地(実施例1)により前培養した新鮮精子は、従来用いられてきたHTF培地(比較例)により前培養した新鮮精子に比べて受精率が飛躍的に向上しており、従来の約7倍以上、受精率として90%以上もの受精率を達成できることが明らかになった。すなわち、メチル−β−シクロデキストリンなどのシクロデキストリン誘導体と、グルタミンなどのアミノ酸、および/またはホスホエノールピルビン酸などの解糖系中間体物質とを含有する培地で、新鮮精子を前培養することにより、従来は、受精率が約10%程度であったC57BL/6系統のマウス精子であっても、90%以上の高い受精率を実現できることが理解される。したがって、本発明の前培養培地によれば、他のマウス系統を始めとし、多くの遺伝子改変動物や実験動物、家畜等においても新鮮精子の受精率向上を図ることができると考えられる。
また、血清や血清アルブミン、成長因子などの生物由来の天然抽出成分を全く含まない本発明の前培養培地を用いて新鮮精子を前培養することにより、生物由来の天然抽出成分を含有する従来法のHTF培地(BSAを含む)を用いて前培養した場合と比べて、はるかに優れた受精率を得ることができることも明らかになり、生物由来の天然抽出成分を含有しない前培養培地であっても、新鮮精子の受精率を飛躍的に向上させることが可能であることが示された。さらに、従来の方法によれば、新鮮精子の前培養に必要な時間は約60〜90分間程度であったが、本発明の前培養培地を用いることにより、約5〜15分間程度の前培養時間で従来法の受精率を約7倍以上も上回る受精率、すなわち90%以上もの極めて高い受精率を達成できることが明らかになった。また前培養時間の短縮によって、人工培地に曝されることによる精子のDNAなどに対する損傷を大きく軽減できることから、本発明の前培養培地は、優れた受精率が得られるだけでなく精子への損傷を最低限にまで抑え得るものであることも示された。
本発明の前培養培地を用いることにより、従来は充分な受精率が得られなかった、例えば遺伝子解析などの研究で重要なC57BL/6系統やC57BL/10系統、129系統等のマウス精子に関して、凍結保存精子および新鮮精子のいずれを用いた場合にも充分な体外受精率を得ることが可能となることから、マウスを含む遺伝子改変動物の遺伝子資源の効率的な長期保存やその利用において多大な貢献が期待できる。また、野生動物や家畜、実験動物を含む多くの遺伝子資源の有効活用に資すると共に、凍結保存により受精能力を喪失するという遺伝子資源保存上のリスクを大きく低減することができる。

Claims (12)

  1. シクロデキストリン誘導体おび1〜200mMの解糖系中間体物質を含有する、体外受精用の精子前培養培地。
  2. さらにアミノ酸を含有する、請求項1に記載の前培養培地。
  3. シクロデキストリン誘導体が、メチル−β−シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、グルコシル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリンおよびスルフォブチル−β−シクロデキストリン、ならびにこれらのα体およびγ体からなる群より選択される1種または2種以上である、請求項1または2に記載の前培養培地。
  4. アミノ酸が、グリシン、アラニン、およびグルタミンからなる群より選択される1種または2種以上である、請求項2または3に記載の前培養培地。
  5. 解糖系中間体物質が、ホスホエノールピルビン酸、α−D−グルコース6−リン酸、α−D−フルクトース6−リン酸、D−フルクトース1,6−二リン酸、ジヒドロキシアセトンリン酸、D−グリセルアルデヒド3−リン酸、D−グリセルアルデヒド3−リン酸、1,3−ジホスホグリセリン酸、3−ホスホグリセリン酸および2−ホスホグリセリン酸からなる群より選択される1種または2種以上である、請求項1〜のいずれか一項に記載の前培養培地。
  6. シクロデキストリン誘導体の含有量が0.1〜20mMである、請求項1〜のいずれか一項に記載の前培養培地。
  7. アミノ酸の含有量が1〜200mMである、請求項2〜6のいずれか一項に記載の前培養培地。
  8. 精子が哺乳動物の精子である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の前培養培地。
  9. 哺乳動物がマウスである、請求項8に記載の前培養培地。
  10. マウスが、C57BL/6系統、C57BL/10系統、BALB/c系統、129系統、DBA/1系統、DBA/2系統およびA系統からなる群から選択される系統のマウスまたは前記系統をバックグラウンドに持つ遺伝子改変マウスである、請求項9に記載の前培養培地。
  11. 請求項1〜10のいずれか一項に記載の前培養培地を用いて、体外受精のために精子を前培養する方法。
  12. 請求項1〜10のいずれか一項に記載の前培養培地を用いて、哺乳動物(ヒトを除く)の精子を前培養する、体外受精方法。
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