本発明は1本のレーザビームを、規則正しく格子状に想定された格子点以外の点にもビーム分岐できる回折型光学部品と、それを用いたレーザ加工装置、特に穴開け、溶接半田付け、表面処理など電子部品の微細加工に用いることができる多点一括レーザ加工装置に関する。
特許文献1は本発明者による先願の発明の一つである。レーザ光を分岐する機能を有する回折型光学部品(DOE:フラウンホーファー型)を提案している。DOEとパターン最適化に用いる評価関数に製造エラーの影響を入れ、特に許容誤差の範囲(公差)が小さいパラメータに関して公差を広げ容易に製造できるような設計方法を与える。
縦横にセルを配列した単位となるユニットパターンを決め、ユニットパターンを縦横に並べDOE全体のパターンとする。回折ビームの強度計算は、高速フーリエ変換(FFT;Fast Fourier Transform)アルゴリズムを使用している。
特許文献2は本発明者による先願発明の一つである。レーザ光を回折型光学部品(DOE)によって多数のビームに分割しfsinθレンズを用いて対象物面に等間隔で等しい口径の同等の穴を多数同時に穿孔することができるようにしたものである。回折型光学部品(DOE;Diffractive Optical Element;フラウンホーファー型およびフレネル型)とfsinθレンズを組み合わせることによって、穴加工の位置精度を高める。レーザ光の高次の回折光まで位置ずれなく有効に利用できる。多数の穴を瞬時にして一括穿孔することができる。様々の利点がある。
ここでDOEというのは、「一定の空間周期Λの同一の繰り返しパターン(ユニットパターン)あるいは一定の空間周期Λの同一パターンを変調した繰り返しパターンを含みレーザ光を回折して多数のビームを発生するもの」というように定義している。つまりDOEはあるユニットパターンΥを決定し、その同じパターンを縦にG個、横にH個繰り返して設けるというものとして作られる。
だからユニットパターンΥの決定がDOEの設計と等しいということになる。DOEは縦にR、横にS個の多数のセルC(最小単位)が並んでおり、その厚みがg=2s(sは整数)通りあって、それがレーザ光の1波長分の相違に対応する。多数のセルC{(m,n)}の2s種類の厚み{dmn}を決定することが本来のDOEの設計である。
それはそうなのであるが実際にはもっと単純化されていた。実際には全セルRS個がそれぞれ自由度をもっているのではなく拘束条件があった。これまでのDOEは必ずユニットパターンΥというDOEより小さい単位に含まれるセル{(m,n)}の厚み{dmn}を決め、同じユニットパターンΥを縦横に並べるというようになっていた。だからDOE全体の自由度の大きい問題をユニットパターンΥだけの自由度の少ない問題に置き換えていたのである。
セルがx軸方向にP個、y軸方向にQ個並んだ物がユニットパターンΥである。ユニットパターンΥの含むセル数はPQ個である。だから設計すべき対象のセルCの数はDOE全体のセルの数ではなくユニットパターンΥのセルの数PQに限られていたのである。
ユニットパターンΥが横に(x軸方向)G個、縦(y軸方向)にH個並んで一つのDOEが構成される。ここで階層構造を纏めておくと次のようになる。
セルC 横寸法a、縦寸法b (最小単位)
ユニットパターンΥ P×Qのセル 横寸法Pa、縦寸法Qb
DOE G×Hのユニットパターン 横寸法GPa、縦寸法HQb
DOE R×Sのセル (R=PG、S=HQ)
m、n 従来例ではユニットパターン内でのセルの座標
dmn (m,n)セルの厚み
g=2s種類の厚みのどれかをもつ
tmn (m,n)セルの複素透過率
m、n 本発明ではDOE内でのセルの座標
p、q 従来例において回折ビームの方位を示す次数(整数)
α、β 本発明において回折ビームの方位を示す方向角(連続数)
以後もこのような記号を使うことにする。DOEに含まれるセルの数はRS個(=PGHQ)である。一つのセルはg=2s(sは整数)通りの厚みを取るから、DOE全体の自由度はgRS(=2sPGHQ)であるが、同じユニットパターンΥを繰り返すので実際の自由度はgPQにすぎない。つまり設計の自由度はDOE全体の自由度gPGHQをユニットパターンΥの数GHで割った数gPQに等しい。以後設計すべきセルの数だけを問題にし一つのセルの自由度gは問題にしない。だから自由度と単純にいうときは設計対象のセルの数(PGHQ又はPQ)を指している。
例えばユニットパターンΥが千個(PQ=1000)のセルを含み、DOEが千個(GH=1000)のユニットパターンを含むとすると、DOEは百万個(PQGH=1000000)のセルを含むが百万個のセルの全部について厚みを計算しなくてよいのであって、千個分のセルだけについて厚みを決めれば良い。
それは計算の量を著しく少なくしている。ユニットパターンを繰り返すからそれが回折格子となるのである。対象物(像面)において格子点へだけ回折するということになる。回折点はある単位量の整数倍となる。それは高速フーリエ変換(FFT)による計算を可能にする。FFTの使用はDOE回折像の計算が迅速であって設計が容易になるという極めて好都合の利点がある。それに多数のスポットに穴を開けるという場合は、それは縦横に等間隔で並列する格子点に穿孔することが多い。例えばプリント基板に縦横等間隔に穴を開けるというような場合である。
格子点に穴を開けるということはユニットパターンを縦横に並べたもののフーリエ変換に対応しており、それがふさわしいものであったのである。但し厳密にはユニットパターンの回折光は回折角の正弦(sin)がある値の定数倍となるのであるからfsinθレンズと組み合わせる事によって初めてプリント基板上に等間隔の格子点を穿孔することができる。しかもそれは高速フーリエ変換(FFT)によって計算機によって短時間に自動的に計算することができる。
特開2000−231012号「回折型光学部品の設計方法」
特許第3346374号「レーザ穴開け加工装置」
そのようなユニットパターンの繰り返しによる回折型光学部品(DOE)はしかし反面次のような難点がある。
ユニットパターンΥの繰り返しになるDOEは、分岐ビームの進行方向を規則的な格子点上にしか決めることができない。ユニットパターンのサイズを大きくすること、レーザ波長λを小さくすることによって格子のピッチを小さくすることは可能である。しかしレーザ波長はレーザが決まれば決まってしまう。波長を短くするにはレーザを変えるしかない。
しかし充分なパワーの取れる使い易いレーザは炭酸ガスレーザやYAGレーザしかない。また、レーザは対象とする材料と加工の種類に適合するものが選択されなければならないので、なるべく波長は動かしたくない。となれば穴開け対象の格子点の間隔(ピッチ)を狭くするにはユニットパターンサイズを大きくするしかない。
ユニットパターンΥのサイズをΛ(Λ=aPまたはbQ)として、レーザ波長をλとし、ビームの番号をjとして、j番目のビームの回折の次数をmjとし、回折角をαjとすると、ブラッグ(Bragg)の回折条件式
Λsinαj=mjλ (1)
が成り立つ。回折の次数mjは正負の整数(0、±1、±2…)である。左辺は隣接ユニットパターンの対応点からαjで傾斜しているある面までの距離の差であり、それが波長の整数倍になるよう回折されるというのが右辺の条件である。mj次数の回折光はαjの方向へ回折されることになる。
だからfsinθレンズがあれば回折ビームはプリント基板などの被加工物面上において等間隔の格子点に集光する。被加工物面上の格子点は被加工物面の原点に対してfsinαjの点となる。
だから被加工物面での等間隔格子点のピッチpは
p=fλ/Λ (2)
ということになる(Λ=aPまたはbQ:ユニットパターン寸法)。微細加工のため、それを小さくしたいという要望がある。ピッチpを減らすためにはユニットパターンの1辺の寸法Λを大きくすればよい。
しかしそれは限界がある。DOEのサイズを超えることができないのは当然であるが、ユニットパターンが縦横にいくつか存在しないと所望の回折特性とならないのであるから、DOE寸法をユニットパターン寸法で割った値はかなり大きい整数ということになる。DOE全体の寸法はレーザビームの広がりによって制限される。それがユニットパターンの寸法Λを制限する。そうなると被加工物面での格子点のピッチpは下限があり、それ以上小さくできない。それが一つの欠点である。
ユニットパターンを繰り返す回折型光学部品(DOE)を用いたレーザ加工装置では、像面(被処理物の加工面)で規則的な格子点位置にしかスポット(光点)を位置させることができない。電子部品で要求される高精度のスポット配置を実現することは難しい。先述のようにfsinθレンズを用いた場合でαjの方向に回折されたビームは
fsinαj=mjλf/Λ (3)
の点(格子点;つまりmjが整数)に結像する。だからそれ以外の点にレーザビームを集光するようにはできない。
ユニットパターンを繰り返す従来の回折型光学部品(DOE)を図1によって説明する。図1の左側はDOEとユニットパターンを示す。最小単位のセルCの寸法はa×bである。横P個、縦Q個のセルが集まったものがユニットパターンΥである。横G、縦Hのユニットパターンが集まったものがDOEである。
つまりPQ個のセルが一つのユニットパターンΥを形成し、GH個のユニットパターンが一つのDOEを形成する。DOEはPQGHのセルを含むが、GHのユニットパターンは同一だからセルの自由度は結局PQしかない。
DOEに平面波が導入されるとユニットパターンΥが回折格子となるから先ほどのブラッグ回折の式に従う方向に回折される。横方向の回折の次数をpで縦方向の回折の次数をqで表現する。回折光の方向は横にP個、縦にQ個である。図1の右側において対象物面での格子あるいは回折光の方向をP×Qで表す。PQ個の対象物T(被照射面;像面)での格子点mjを次数(p,q)で表す。ユニットパターン中心に原点をとるので−P/2≦p≦P/2、−Q/2≦q≦Q/2である。
DOE側では、一つのユニットパターンΥでのPQ個のセルを区別するためにm、nという番号を付ける。x座標がm、y座標がnである。ユニットパターンΥでも中心を原点にするので、−P/2≦m≦P/2、−Q/2≦n≦Q/2である。m,n番目のセル(画素)がもつパラメータは複素振幅透過率tmnである。透過率というが実際には位相φmnが重要であり透過率の絶対値は1というようにしている。その厚み部分を通過するときの基準厚み通過時との位相の差Δφmnとして与えられる。
DOEの屈折率をnとする。位相差Δφ=2πΔd(n−1)/λ=kΔd(n−1)によって厚みの差Δdと関係付けられる。Δdはg=2s(sは整数)通りの値をもつ。だから位相差Δφmn、複素振幅透過率tmn=exp(jΔφmn)もg=2s通りの値をもつ。
図1では簡単にセルを白黒で示すが、上記のように2値である必要はなく2s値である。図1において回折光が被加工物面T(像面)の格子点に点集光する。格子点の座標がp,qである。格子点というのは縦横の線が直交する点である。回折ビームは必ず格子点に局在する。非格子点を回折ビームは通らない。
格子点という言葉はこれからも度々用いるが、像面Tの格子という意味でもあり像面に投影する前の回折角空間でも格子点という使い方をする。回折角空間の格子点を通る回折ビームは像面Tの格子点に集光されるビームである。格子点位置は式(2)、(3)で厳密に与えられる。
DOEから(p,q)方向に進行する回折光の振幅Wpqは次のように求められる。被加工物面での格子点座標(p,q)と、DOEでの回折次数(p、q)は一対一に対応する。DOEにおける画素の複素透過率tmnのフーリエ変換が、(p,q)方向の回折光の振幅Wpqとなる。つまり|Wpq|2は被加工物面での格子点(p,q)での回折光強度となる。それは
によって与えられる。非常に簡明な式であり計算しやすい形をしている。この式については後に説明する。(m,n)はDOE全体でなく、一つのユニットパターンΥだけで積算する。PQGH個でなく、PQ個の積算である。この式では明確にわからないが格子点以外の点では回折光強度は0である。つまりp,qが整数である方位にしか回折が起こらない、対象物(被加工物面)では格子点(p,q)の上にしか回折光が来ないということである。だからWpqはp,qが整数である格子点上だけで計算すれば良いのである。
その中間の非整数の部分は初めから0だとわかっているから計算の必要がない(実際に式(4)を非整数に対し計算すると0になるという意味ではなくて、ユニットパターンが繰り返されるという仮定により、非整数の部分は0または無視できる程に小さい値をとることが証明できるといった方が正確である)。
上に出てくるシンク関数というのはsinc(x)=sin(πx)/πxによって定義される。これは、DOEが矩形のセルを並べた構造よりなることで高次の回折光の強度が低減される効果を意味する。
tmnを与えておき、2重和の部分をFFTで計算する。それはexp()の中に入っているパラメータp、qが整数だから可能なのである。p,qは(1)式の回折次数mjに対応し必ず整数である。FFTは、フーリエ変換される関数がサンプリングにより離散化されている場合に適応でき、フーリエ変換後の関数も対応するサンプリング間隔で離散化される。式(4)では振幅透過率tmnが離散化されており、それに対応してWpqも離散的であるのでFFTが計算可能である。
DOE側でのパラメータ(m,n)の数はPQであり像面側でのパラメータ(p,q)の数もPQである。複素振幅の絶対値の二乗したものが(p,q)方向の強度I(p,q)を与える。
I(p,q)=|Wpq|2 (5)
像面には予め所望のパターンTを想定しておき、そのパターンを実現するためのtmnを仮定し、上の計算をしてI(p,q)が初めに与えたパターンTを与えるかどうかを調べる。いくつもの解の組{tmn}が得られるが評価関数によって最適と思われるものを選び出す。
従来例のDOEによるビーム分岐の角度分解能をU1、V1とする。DOEからみて、像面上の隣接する格子点長を見込む角度が必要な角度分解能である。DOEと像面の距離をL、像面格子の単位長さをeとすると必要角度分解能はe/Lである。ブラッグ回折条件はsinα=mλ/Λであるが、Δ(sinα)=e/Lなので、e/L=λ/Λとなる。つまり必要な角度分解能U1、V1はユニットパターンの寸法Λ(横aPまたは縦bQ)で波長λを割ったものである。
U1=λ/aP (6)
V1=λ/bQ (7)
DOEはG×H個のユニットパターンの集合である。DOEの横寸法はaGP=aRであり、縦寸法はbHQ=bSである。従来法によるDOEの場合その角度分解能U1、V1は、波長λをDOE寸法(aRまたはbS)で割った角度よりも小さくできない。つまり分解能(最小弁別角という意味で)が荒すぎるということである。
U1>λ/aR (8)
V1>λ/bS (9)
それは格子点にしか回折光を与えることができないということである。格子点からずれた点に回折光を照射できないし、格子状のパターンしか対象にできないということである。それはDOEの用途を著しく限定することになる。
式の導出について簡単に述べる。波動光学はDOE上の点(x,y)の光が像面の点(X,Y)にいたる光の位相を含む振幅を足し合わせて像面の振幅を求める。近似式はexp()の中に
k(xX+yY)/L (10)
というような部分を含む。LはDOE・像面の距離である。DOEのセルサイズはa×bであるので、
x=ma、 y=nb (11)
である。像面での距離は格子間隔がeであり、p,qという整数によって横縦に番号付けられているのだから、
X=pe、Y=qe (12)
である。それらを(10)に入れると、
k(mape+nbqe)/L (13)
となる。e/LはDOEから像面の格子長を見込む角度であり、次数が一つ違う回折角の差に等しい。Δを差分の記号として、ブラッグ回折の条件はe/L=Δ(sinα)=Δmjλ/Λ=λ/Λであり、k=2π/λ、Λ=Pa、Qbなので式(13)は、
(2π/λ)(map+nbq)λ/Λ=2π(mp/P+nq/Q)(14)
となる。それが式(4)のexp()の中へ入っている。m、pは−P/2〜+P/2の整数、n、qは−Q/2〜+Q/2の整数であるから(4)のようなexp()の内容をもつ式はFFTで短時間で簡単に計算できる。
本願発明は、ユニットパターンが存在せずセルの全てへ自由にtmnを与えることができるものとし全セルに複素透過率tmnを与え、高速フーリエ変換(FFT)を用いないで回折積分式、
を直接計算することによって、非格子点を含む所望の角度へ分岐されるビームの強度を算出することにした。(4)式と似ているが実はかなり違う。m、nの和はユニットパターン内でなく全DOEのセルに対するものである。だからそれだけで計算量がGH倍になっている。
それだけではない。格子点だとパラメータが整数p,qになるが必ずしも格子点にならないから連続量である回折角α、βを変数として採用している。α、βは整数でないからFFTを使うことができない。だから実際の計算をするしかない。
それとともに、設計の自由度も著しく増加しているのである。非格子点にビームを分配できるし角度分解能を上げることもできる。しかし、所望回折点(α,β)の数はK個であって、それは増えるわけではないが、FFTが使えないし、一つ一つの式が含む項の数はHG倍になっており、それだけ計算に時間がかかる。計算に時間がかかるだけでなく初期条件や修正条件として{tmn}を与えるのにも時間がかかる。
上の式を計算するのは時間がかかるので所望回折点(αk,βk)での回折光量を計算するときは使うが(本来0であるべき)ノイズの計算のときは高速フーリエ変換を用いる。だから積分式の直接計算と高速フーリエ変換が併用されるのであって、高速フーリエ変換(FFT)を全面的に排除するのではない。しかし回折強度を正確に計算するための主な計算ではFFTを使わない。
図2によって本発明の手法のあらましを述べる。回折型光学部品DOEはユニットパターンの繰り返しでなく横R個、縦S個の画素よりなるものである。つまり従来は画素−ユニットパターン−DOEの3段階の構成であったが、中間のユニットパターンを欠落しているのである。最小単位の画素と全体のDOEの2段階構成である。
最小単位である一つの画素はg段階の厚みの種類を持っている。g=2、4、8、16、32、…2s(s=1,2,3…)である。DOEからの回折光に含まれるα、β方向の分岐ビーム強度をW(α,β)とする。それをDOEの振幅透過率tmnのフーリエ変換として求める。ユニットパターンが存在しないから±n次回折というような概念はもはや存在しない。DOEからの回折光による強度分布の角度依存性はフーリエ変換によって計算できる(FFTは使えない)から、その計算を実際に行ってα、β方向の複素振幅を求める。
という式を計算する。kは波数2π/λである。(4)式と違うのは方位を表現するα、βが格子点に対応する整数p、qとは限らないということである。α、βは実数である。もし整数を取れば、被加工物面で格子点p、qに対応することになり(4)式と同じになる。
しかし単にパラメータが整数p、qから実数α、βになったというのではなくて、非格子点に対応する角度も許容するということである。またmnの積算はユニットパターン内(P×Q)でなくて全DOE(R×S=PQGH)で行う。
複素振幅を二乗すると強度分布I(α,β)が求められる。
I(α,β)=|W(α,β)|2 (17)
分岐ビームの数をKとする。それは目的によって決まる有限の数である。K本の分岐ビームBkに付ける番号をk=1、2、…、Kとする。k番目の分岐ビームの傾斜角はαk,βkである。
本願発明のDOEの設計においては、従来設計のように各分岐ビームの角度をある定まった角度分解能U1、V1(すなわちλ/Λ)の整数倍とする必要はない。が、やはり必要な角度分解能U2、V2を定義できる。充分に小さな正の定数U2と、V2と適当な(正負の)整数mk、nkを適宜選択する事により、各分岐ビームの角度(αk,βk)を従来設計と同じように、
sinαk=mkU2 (18)
sinβk=nkV2 (19)
と表すことが可能である。k個の整数群{mk}は公約数をもたず互いに素であるとする。また、k個の群{nk}も公約数を持たず互いに素である。つまりx方向回折角の正弦の群{sinαk}の最大公約数が必要な角度分解能U2、y方向回折角の正弦の群{sinβk}の最大公約数が必要な角度分解能V2を与えるのである。
回折角正弦群{sinαk}も{sinβk}も整数でないから最大公約数というのはなにやらおかしいような気がするが実数だからやはり定義可能である。
ここで公約数というのは、k個の{sinαk}を割り切れる数だということである。最大公約数というのはその内最大のものという意味である。最大公約数にあたる角度が必要な角度分解能である。
角度U2、V2が充分に小さくないと|sinαk−sinαk’|<U2や|sinβk−sinβk’|<V2となり、区別が付かない。そのような区別が付かないといけないので、必要な分解能が式(18)、(19)で求められるのである。
DOE全体のパターンはR×SのセルからなっているのでDOEの全寸法はaR、bSである。全てのセルRSへ自由にtmnを与えることができるので、角度分解能U2、V2をU2<λ/aR、V2<λ/bSとすることができる。
ここで、U2、V2は従来設計での角度分解能U1=λ/aP、V1=λ/bQとは全く異なるものである。それよりもずっと小さい値を取る。
本発明の特徴はDOEにユニットパターンΥがなくて全セルCが自由パラメータとなるということである。自由パラメータになるから分岐ビームの方位が自由化される。自由に設定できて好都合であるがセルの規則性がなくなり従来の回折次数という概念がなくなる。
回折次数がない場合でも、分岐ビームの回折角の相違の最小を弁別できるのでなければならない。それをU2<λ/aR、V2<λ/bSというように定義した。
それはユニットパターンΛで決まる従来例の分解能U1、V1(=λ/Λ)とは違い格段に小さい値である。パラメータが増え、計算量が増えたために分解能を著しく上げることができるのである。
だから定義に多様性があり、DOEを構成する全て(RS個=PQGH個)のセルのtmnを自由に与えるというのが本発明の特徴であるといえる。また同じことであるが角度分解能がU2<λ/aR、V2<λ/bSであるというようにも定義できる。この定義は分かりにくいが数学的には検証が容易である。
あるいは回折像の格子点p,qだけでなく格子点の間の適当な非格子点を計算するというのも同義である。しかしその定義は回折像や、回折像の格子点などを定義しなければならず簡単でない。
あるいはDOEに同一パターンを繰り返すユニットパターンがないというようにも本発明を定義できる。だから本発明のDOEはユニットパターンを欠落するDOEと定義してもよい。しかしそれは消極的な定義であって疑義をもたらし易いという欠点がある。
そのように本発明のDOEはユニットパターンがなくFFT(高速フーリエ変換)を用いず画素一つ一つの寄与を積算し任意の分岐角度α、βの複素振幅W(α,β)を求める。それは時間がかかることであるが分解能を上げることができる。ユニットパターンがあると角度分解能がλ/Λであったが、本発明はユニットパターンがないからもっと小さい角度分解能を得ることができる。
従来例において、ユニットパターンの回折像は規則正しく縦横に配列した格子となり、それ以外の不規則パターンを生じることはできない。
本発明はユニットパターンのないDOEを設計、作製するのでどのような回折像でも得ることができる。回折ビームのスポットが非格子点にあってもよい。回折ビームの数はKで有限であり、ディスクリートではあるが位置が格子点にないということである。
そうはいうものの、回折ビームが実際に非格子点にくるのか、回折ビームの数は幾つなのか、角度分解能U2、V2は幾らなのか?などというのは{tmn}によるのである。{tmn}によるから、そのような定義は無駄かというとそうではない。
本発明の手法のようにユニットパターンがなくて全セルについてフーリエ変換を実際に計算する方法は時間がかかるのであるが、{tmn}を適当に選べば、非格子点に回折ビームをもってくることはできるし、分解能をU2<λ/aR、V2<λ/bSというようにすることもできるのである。
従来のユニットパターンを用いる方法は如何に{tmn}を選んでも非格子点に回折ビームを位置させることはできないし、如何に{tmn}を選んでも角度分解能をU1<λ/aR、V1<λ/bSとすることはできない。
難しいことであるが、そういうことである。
ユニットパターンを用いずDOEの全てのセルを自由パラメータとする本発明はだから規則正しく格子状に配列していないような任意の配列の任意の数の分岐ビームを得ることができる。
従来の回折型光学部品(DOE)というのは一定パターンのユニットパターンΥを縦横に繰り返し並列させたものであり回折光の方向は離散的で予め決まった方向にしか出ない。DOEの作用はフーリエ変換であるが、ある決まった方向にしかビームが発生しないことがわかっているので、それらの方向だけについて回折強度を計算すればよかった。
だから高速フーリエ変換によって短時間でDOEの回折光の強度分布を計算できたし設計も容易であった。しかし、それでは縦横に一定ピッチの決まった格子配列した回折スポットしか得られない。格子ピッチはユニットパターンの辺長Λで波長λを割った値λ/Λであり、かなり大きい値となる。それを小さくするにはユニットパターンを大きくしなければならないが、それは限界がある。また規則正しく格子状配列しないもの、格子配列からずれたパターンを作ることができない。
本発明はユニットパターンの繰り返しによって全体のDOEを構成するのではなく、個々のセルまで遡ってセル自体に自由度を与えている。ユニットパターンの縦横の数をGHとしたとき、パラメータの数(自由度)が従来のものに比較してGH倍に増えてしまう。それだけでなくて回折光の方向が格子点上というように予め決まらない。
格子点というような概念もなくなり離散分布から連続分布となり、ディスクリートからアナログへというような大変革をすることになる。
回折光強度を計算すべき点の数も飛躍的に増大する。それは不利な点である。高速フーリエ変換の計算法も適用することができない。これも負担になる。必要な点での回折強度をいちいち計算しなければならない。
そのような不利な点はあるのであるが、規則格子状でない任意のパターンを回折によって作り出すことができる。つまり任意の形状の回折パターンを得ることができるのである。それに分解能をより細かくすることもできる。回折型光学部品の適用できる範囲を広げている。それとともに回折型光学部品の利用価値をも高めるという優れた効果があるのである。
本発明は、任意の位置に高い位置精度でレーザビームを多点一括照射することが可能となる。電子部品で要求される自由かつ高精度なスポット配置を実現することができる。レーザ加工の高速化、コスト低減に大きな効果がある。
上記の任意角度の分岐強度計算を用いることによってDOEのパターンを最適化設計することが可能である。様々の最適化手法を選択できるが、ここでは、例えば、従来設計(特許文献1)と同様にDirect Binary Search(DBS)法を用いることとする。
DBS法では、DOEの特性を判定する評価関数を用いる。セルの位相(透過振幅率)を変更して評価関数の値の増減を判定する事によって、評価関数が最小化されるように全セルの位相すなわちDOEのパターンを最適化する。
上記のように式(16)の計算から、K個の分岐ビームの強度I(α,β)=|W(α,β)|2を算出することが可能である。そこで例えば次のような評価関数Eを用いて解(セルの位相または振幅透過率の集合)を評価することができる。
ここでη0は回折効率の目標値、I−(上線付きのI)はI(α,β)の平均値、W1、W2は各項の重み係数である。評価関数Eを最小化すると、右辺第1項はK個の分岐強度の和すなわち回折効率を高くするように働き、右辺第2項は分岐強度の均一性を向上させるように働く。これにより、所望の角度にビームを分岐し高い回折効率と分岐強度均一性を有するDOEパターンを設計することができる。
式(20)はノイズとして現れる分岐ビームの低減を考慮に入れていない。そのため望まない分岐角度に強度の強いノイズを発生させる可能性がある。そこで前記の例と同じように(16)式によってノイズを計算したいところであるが、どこに現れるか分からないノイズの角度(α,β)を予め特定することができない。また多数の角度を指定した計算を繰り返すことは計算量が大きくなるため、最適化計算の長時間化を招く結果となる。だから事実上実施は難しい。
一方従来の設計の場合、FFTでは1回の計算でノイズも含めたP×Qのスペクトル(分岐強度の分布)を計算するので、それを用いてノイズを評価できるという利点がある。
そこで本願発明では、ノイズ計算に限ってFFTを利用する。だから(4)式のような格子点でのノイズ計算となる。R×Sのセル配列よりなる振幅透過率パターンについてFFTで計算された離散的な角度スペクトルを強度Irsとする。分岐ビームBkの角度(αk,βk)に近い角度の強度は高い値を取る可能性があるので、それを除いたものをI’rsとする。
例えば式(20)の代わりに
を用いることにすれば、右辺第3項によりノイズ強度の最大値を低減することができる(W3は重み係数)。ノイズ計算については高速フーリエ変換FFTを用いるので計算されたスペクトルの角度分解能はU3=λ/aR、V3=λ/bSによって制限される。
本発明のDOEはFFTを用いない設計であるため、前記分解能U3、V3以下の局所領域にノイズが含まれる可能性を含んでいる。そのようなノイズを検出するための方法として次の二つの方法がある。
[ノイズ検出法(1)]
R×Sのパターンの周囲にtmn=0の領域を追加し、計算領域をR’×S’(R’>R,S’>S)に拡大する。それによって、FFTによる角度スペクトル計算の角度分解能をU3’=λ/aR’<U3、V3’=λ/bS’<V3というように高くできる。だから局在するノイズの検出を容易にする。
[ノイズ検出法(2)]
式(16)では入射ビームの強度分布の情報を含んでいないが、入射ビーム強度分布を入れた設計とすることもできる。その場合
というようにすればよい。ここでamnは入射ビームの複素振幅分布である。入射ビームの強度変換は連続量であり本来はa(α,β)と書くべきだがtmnに合わせて離散化しamnとしている。
例えば入射ビームを1/e2直径がaR/2のガウス振幅分布とすると、角度スペクトル上でのスポットの直径は8λ/πaR=8U3/πとなり、分解能U3の2倍を越える大きさである。ノイズのスポットも同じ大きさをもつので、このようにすれば角度分解能の制約があってもFFTでのノイズ検出が容易になる。
式(16)は角度スペクトル、すなわち遠視野像(フラウンホーファー像)であるので上記により設計されるDOEは無限の焦点距離を有するフーリエ型(フラウンホーファー型)のDOEとなる。
このフーリエ型DOEのパターンに焦点距離fのレンズが有するパターンを積算することによって、有限の焦点距離を有するフレネル型のDOEのパターンを得ることができる。パターンの積算に当たってはフーリエ型DOEパターンとレンズのパターンのセルサイズを同一としておく必要がある。
短い焦点距離のレンズのパターンは微細なセルサイズを必要とするので、その場合は、予めフーリエ型パターンのセルを分割(a’=a/C1、b’=b/C2となる。ここでC1、C2は2以上の整数である。)しておき、そのセルサイズでレンズのパターンを作製して積算する。そうすることによってフレネル型のDOEを設計、製造することができる。
フレネル型DOEを用いるとDOEの表面構造の微細加工エラー(例えば段差エラー)の影響を低減することができ、特に0次光(α=β=0)の強度変動を低減する効果がある(特許文献2に詳しい記述あり)。但しフレネル型DOEの設計方法は特許文献2の手法とは違う。この発明の手法(レンズのフーリエ変換パターンを係数に与え積算する)のDOEでもフレネル型のDOEとなる。
[実施例1(フラウンホーファー型(フーリエ型)DOE、小分岐角)]
[A.DOEの主な仕様]
波長:10.6μm
モード:TEM00
1/e2ビーム直径: 10mm
DOE位相:16段階
DOEセルサイズ: a=20μm、b=20μm
DOE全セル数: R=1000セル、S=1000セル
DOEサイズ: aR=20mm、bS=20mm
分岐ビーム数: 49(=7×7)
分岐パターン:図3の通り、P1=3.93701mrad、P2=3.93701mrad、δ1=0.15748mrad、δ2=0.07874mrad
ここでradはラジアン(1ラジアン=57.29゜)、mradはミリラジアン(1mrad=3.437分)である。
分岐角度をsinαk=mkU、sinβk=nkVと表現すると、この実施例では、U=δ1=0.15748mrad、V=δ2=0.07874mradとなる。λ/aS=λ/bS=0.53mradであるから、U<λ/aR、V<λ/bSという条件を満足している。
[B.設計結果]
回折効率82.2%、強度ばらつき(標準偏差)1.6%、最大ノイズ強度3.6%、入射ビームの強度分布、DOEパターン及び像面強度分布を図4〜6に示す。
[C.レーザ加工装置]
上記のDOEと、平凸レンズ(焦点距離127mm、直径50.8mm、ZnSe製)を用いたレーザ加工装置を作製した。像面のスポット直径は171μmφとした。
目的となるスポットの配列は図3の通りである。横軸は角度αであり、縦軸は角度βである。対象物面に投影したものではないということに注意すべきである。7×7=49のスポットが縦横に並んでいるが直線上でなく曲線上に並ぶ。
(±2,±2)の4点と(±2,0)、(0,±2)の4点と(0,0)点は9点は格子点にあるが、その他の点は格子点からずれている。そのように縦横列が柔らかく波打つようなスポットが目的となるパターンである。
寸法はP1=500μm、P2=500μmであり格子は500μm×500μmの大きさである。(±4、±4)の近傍の点は左廻り方向にずれている。(+4、+4)の近傍の点の格子点からのズレは横がδ1=20μm、縦がδ2=10μmである。だから、ズレは小さいがズレをわざわざ与えたということが重要なので図3では誇張して描いている。その他の点も格子点から同じδ1、δ2でずれている。与えたズレがδ1、δ2であるから必要な分解能U3、V3はそれより短いことが要求される。
そのように非格子点にドットを並べるような分岐ビームは同一ユニットパターンの繰り返しである通常のDOEでは作り出すことができない。本発明によらなければならない。
図4は入射ビームの空間的な強度分布である。炭酸ガスレーザのビームであり、ここではガウシアンビームとした。
図5は本発明の計算法によって設計されたDOEのパターンを示す。同じような模様の繰り返しが見られるようであるが、実際には同じでなくてそれぞれ違うし大きさ形状も不揃いで同一正方形のユニットパターンというものでない。
図6は本発明の計算(全画素の計算)によって設計され製造された図5のDOEによって炭酸ガスレーザビームを分岐させて角度分布を調べたものである。マージンも含む画面の大きさは39.75mradである。格子点の間隔は5mrad程度である。これはズレを誇張していないからわかりにくいが、縦方向にみると曲線上に並んでいるのが分かる。上から3番目、7番目のスポットが右に偏奇し1番目、5番目が左に偏奇しているのが肉眼でもよく分かる。だから揺らぎのある目的パターン図3の7×7を再現している。スポット強度は、ほとんどばらつきはない。
[実施例2(フラウンホーファー型(フーリエ型)DOE、大分岐角)]
[A.DOEの主な仕様]
波長:10.6μm
モード:TEM00
1/e2ビーム直径: 10mm
DOE位相:16段階
DOEセルサイズ: a=20μm、b=20μm
DOE全セル数:R=1000セル、S=1000セル
DOE全サイズ:aR=20mm、bS=20mm
分岐ビーム数: 49(=7×7)
分岐パターン:図3の通り、P1=39.37008mrad、P2=39.37008mrad、δ1=0.15748mrad、δ2=0.07874mrad
目的とするパターンはこの場合も図3の揺らぎのある7×7のドット配列パターンである。目的パターンを同一配列にした方が実施例の間での違いがよく分かるのでそのようにしている。同一といっても大きさは違う。大分岐角の場合の状況を調べるため実施例2ではP1=39.37008mrad、P2=39.37008mradとしている。つまり格子の間隔については実施例1の場合の10倍としている。ズレは実施例1と同じでδ1=0.15748mrad、δ2=0.07874mradである。だからズレの相対規模が減っている。
実施例2の場合も、x、y方向の分解能U、Vは
U=δ1=0.15748mrad
V=δ2=0.07874mrad
である。
実施例2においてもaR=20mm(20000μm)、bS=20mm(20000μm)なので、λ/aR=λ/bS=0.53mradであり、
U(0.15748mrad)<λ/aR(0.53mrad)
V(0.07874mrad)<λ/bS(0.53mrad)
という不等式が成り立つ。
[B.設計結果]
回折効率71.6%、強度バラツキ1.7%、最大ノイズ強度3.5%
DOEのパターンは図7のようである。縦横に細かい格子状の模様ができていることがわかる。格子の中の個々の濃淡の分布は判然としない。図5の実施例1のDOEと比較して全く違っている。回折角の大きい分岐ビームを生じるのだからDOEのパターンは当然に細かくなる。
ユニットパターンというものは存在しないはずであるが図7は布地の表面のように同じ大きさの編み目が連続しているように見える。予め同一寸法同一形状のユニットパターンを想定しないにも拘らず、このようなよく似た基本形状が縦横に繰り返すようなパターンになる。それは不思議とも思えるが、図8の角度スペクトルを見ればわかるように、本実施例では基本の格子ピッチP1、P2に対しズレδ1、δ2は極めて小さいので、パターンが従来のユニットパターンの繰り返しに近く見えるのである。
図3のような目的のスポット配置を所望の制約で実現できるDOEは解が一つあるのではなくて無数にある。無数にある解から評価関数を用いて適当なものを選んでいる。評価関数の選び方は先述のように回折効率が多いとか、ある目標値に近いとか、分岐ビーム強度バラツキが少ないとか恣意的な条件を付けて選び出しているのだから、図7の解が唯一であるというのではないし、それが最適だということでもない。
それとは全く異なるパターンであっても目的の回折ビーム分布を実現できるものはたくさんある。DOEから目的とする分岐強度分布は一義的な流れであるが、目的の分岐強度分布(図3)からDOEに至る道程は様々なのである。
[C.レーザ加工装置]
上記のDOEとfsinθレンズ(焦点距離127mm)を用いたレーザ加工装置を作製した。像面のスポット直径は171μmφとした。このfsinθレンズは既に述べた本発明者になる特許文献2に記載の手法によって製作したレンズである。
[実施例3(フレネル型DOE、小分岐角)]
[A.DOEの主な仕様]
波長:10.6μm
モード:TEM00
1/e2ビーム直径: 10mm
DOE位相:16段階
DOEセルサイズ: a=20μm、b=20μm
DOE全セル数:R=1000セル、S=1000セル
DOE全サイズ: aR=20mm、bS=20mm
分岐ビーム数: 49(=7×7)
分岐パターン:図3の通り、P1=3.93701mrad、P2=3.93701mrad、δ1=0.15748mrad、δ2=0.07874mrad
フレネル型レンズ: 焦点距離f=−500mm
実施例1(フラウンホーファー型)と異なるところはDOEがフレネル型であってレンズを兼ねているということである。実施例3で追加すべきレンズはf=−500mmの凹レンズである。もちろん凸レンズを組み合わせることも可能である。
実施例3でも(実施例1と同じように)、U=δ1=0.15748mrad、V=δ2=0.07874mradとなる。
λ/aS=λ/bS=0.53mradであるから、U<λ/aR、V<λ/bSという条件を満足している。
[B.設計結果]
回折効率82.2%、強度ばらつき(標準偏差)1.6%、最大ノイズ強度3.6%である。
[C.レーザ加工装置]
上記のDOEと平凸レンズ(焦点距離127mm、直径50.8mm、ZnSe製)を用いたレーザ加工装置を作製した。像面のスポット直径は171μmφとした。
図9は本発明の計算法によって設計された実施例3のフレネル型DOEのパターンを示す。同心状のパターンが優越して見えるが、それはレンズ成分からくるものである。パターンは不定形であるがサイズがかなり大きいのは目的とする回折像の広がりが小さいからである。
[実施例4(フレネル型DOE、大分岐角)]
[A.DOEの主な仕様]
波長:10.6μm
モード:TEM00
1/e2ビーム直径: 10mm
DOE位相:16段階
DOEセルサイズ: a=20μm、b=20μm
DOE全セル数:R=1000セル、S=1000セル
DOE全寸法: aR=20mm、bS=20mm
分岐ビーム数: 49(=7×7)
分岐パターン:図3の通り、P1=39.37008mrad、P2=39.37008mrad、δ1=0.15748mrad、δ2=0.07874mrad
フレネル型レンズ:焦点距離 f=−500mm
目的とするパターンはこの場合も図3の揺らぎのある7×7のドット配列パターンである。大分岐角の場合の状況を調べるため実施例4ではP1=39.37008mrad、P2=39.37008mradとしている。実施例2とそこまでは同一であるが実施例4ではレンズをDOEに結合している。
そこが違うのでDOEのパターンは図7(実施例2)と全く違う。違うのであるが、図7の細かい交差のパターンにレンズの同心パターンを組み合わせたようなパターンとなっており首肯できる結果である。
実施例4の場合も、x、y方向の分解能U、Vは
U=δ1=0.15748mrad
V=δ2=0.07874mrad
である。aR=20mm(20000μm)、bS=20mm(20000μm)なので、λ/aR=λ/bS=0.53mradであり、
U(0.15748mrad)<λ/aR(0.53mrad)
V(0.07874mrad)<λ/bS(0.53mrad)
という不等式が成り立つ。
[B.設計結果]
回折効率71.6%、強度バラツキ1.7%、最大ノイズ強度3.5%
[C.レーザ加工装置]
上記のDOEとfsinθレンズ(焦点距離127mm)を用いたレーザ加工装置を作製した。像面のスポット直径は171μmφとした。このfsinθレンズは既に述べた本発明者になる特許文献2に記載の手法によって製作したレンズである。
図10は本発明の計算法によって設計された実施例4のフレネル型DOEのパターンを示す。細かい同心状のパターンが優越して見えるが、それはレンズ成分からくるものである。パターンは不定形であるがサイズがかなり細かいのは目的とする回折像の広がりが大きいからである。それは実施例2の図7の細かい交差縞模様のパターンに同心のレンズパターンを重畳したものであり、その結果は理解しやすい。
従来の回折型光学部品において、P×Qのセルからなる同一のユニットパターンの繰り返しによってDOEが構成され、自由度はP×Qであり回折像においてはP×Qの角度格子点だけに回折光が存在し格子点での強度だけが問題でFFTによってDOEから角度格子点での回折強度分布Ipqを計算できるということを示すための従来例の回折型光学部品の説明図。
本発明の回折型光学部品においては、同一ユニットパターンの繰り返しというようなことはなくて、R×S個のセルの全てが自由に決定できるパラメータとなり任意の方向へ回折光を出すことができ格子点という概念は存在せず高速フーリエ変換ではDOEから回折強度分布を計算することができず回折積分式を直接に計算する他はないということを示すための本発明の回折型光学部品の説明図。
本発明の実施例1〜4においてDOEによってビームを分岐回折させる目的となる49分岐ビームの分岐角度配置図。スポットは規則正しい格子点になく、それからいくぶんずれている。分かりやすくするためズレは誇張して書いてある。格子点からのズレδ1、δ2が最低限必要な分解能であり、それは格子点の間隔よりもずっと小さい。従来の方法では分解能は格子間隔だけあればよいのであるが本発明は格子点から微妙にずれた位置にスポットを形成するものだから細かい分解能が必要になり本発明はそのような厳しい要求に応えることができる。
実施例1〜4で用いた炭酸ガスレーザ入射ビームの強度分布図。強度分布はガウシアンとした。
図3の回折パターン(P1=3.93701mrad)を作り出すため本発明の実施例1によって設計されたDOEのパターンを示す図。DOEの厚みを白黒の濃淡によって表現している。全く同一のパターンが繰り返しているということはなくてユニットパターンという概念がすでに存在しないことがわかる。
図3の回折像を得るため実施例1によって設計されたDOEによって炭酸ガスレーザビームを回折させたときの回折像のビームスポット像。回折像の1辺の寸法は39.75mradである。正確な格子点上でなく彎曲した曲線格子の上にスポットが並ぶ図3のパターンと同じものが再現されていることがわかる。スポットの強度も均一であってパワーが均一であるということもわかる。
実施例1を10倍にした図3の目的回折パターン(P1=39.37008mrad)を作り出すため本発明の実施例2によって設計されたDOEのパターンを示す図。目的回折パターンが10倍になるのでDOEのパターンは1/10の程度に小さくなる。DOEの厚みを白黒の濃淡によって表現している。
図3の目的回折像(P1=39.37008mrad)を作り出すために本発明の実施例2によって設計された図7のDOEによって得られた回折像を示す。回折像の1辺の角度寸法は331.25mradである。実施例1の図6と比べてスポットの揺れが小さいが、それは図3の目的回折像におけるδ1、δ2のP1、P2に対する比率が1/10だからである。目的とする回折パターンを再現しているという点では満足のゆくものである。図6に比べ光点のサイズが小さいのは縮尺が約1/10となっているからである。
フラウンホーファー型DOEと集光レンズを結合したフレネル型のDOEによって実施例1のような揺らぎあるスポット群を得るための実施例3のDOEのパターン。つまり実施例1(P1=3.93701mrad)+レンズのDOEのセルの厚み分布を明暗パターンによって示す。ユニットパターンというものは存在しない。それよりも同心状のパターンが優越してみえる。それはレンズを重畳させたからである。レンズをDOEに重畳するとフレネル型レンズと同じような原理で同心のパターンとなるから、それが全体のパターンを同心形状にしているのである。DOEパターンの繰り返しピッチが荒いのは目的回折像の光点間隔(サイズ)が狭いからである。
フラウンホーファー型DOEと集光レンズを結合したフレネル型のDOEによって実施例2のような揺らぎあるスポット群を得るための実施例4のDOEのパターン。つまり実施例2(P1=39.37008mrad)+レンズのDOEのセルの厚み分布を明暗パターンによって示す。ユニットパターンというものは存在しない。それよりも同心状のパターンが優越してみえる。それはレンズを重畳させたからである。レンズをDOEに重畳するとフレネル型レンズと同じような原理で同心のパターンとなるから、それが全体のパターンを同心形状にしているのである。DOEパターンの繰り返しピッチが細かいのは目的回折像の光点間隔(サイズ)が広いからである。
符号の説明
C セル(画素)
Υ ユニットパターン
DOE 回折型光学部品
FFT 高速フーリエ変換
a セルの横寸法
b セルの縦寸法
P ユニットパターンの横方向に並ぶセルの数
Q ユニットパターンの縦方向に並ぶセルの数
p 規則正しく等間隔で並ぶ角度格子点へDOEから回折する光のx方向の回折角を表す次数(離散量、ディスクリート)
q 規則正しく等間隔で並ぶ角度格子点へDOEから回折する光のy方向の回折角を表す次数(離散量、ディスクリート)
Wpq DOEからp,q方向に回折される回折光の複素振幅(p,q以外は0)
Ipq DOEからp,q方向に回折される回折光の強度(p,q以外は0)
k 回折ビームの番号
mk k番目のビームの回折次数
tmn 横m番目、縦n番目のセルの振幅透過率
λ レーザ光波長
Λ ユニットパターンの寸法(=aP,bQ)
P ユニットパターンの横辺に並ぶセルの数
Q ユニットパターンの縦辺に並ぶセルの数
α DOEから回折される光のx方向の回折角(連続量)
β DOEから回折される光のy方向の回折角(連続量)
W(α,β) DOEからα、β方向に回折される回折光の複素振幅(連続量)
I(α,β) DOEからα、β方向に回折される回折光の強度(連続量)
U 回折光のx方向角度分解能
V 回折光のy方向角度分解能
R DOEの横辺に並ぶセルの数
S DOEの縦辺に並ぶセルの数
G DOEの横辺に並ぶユニットパターンの数(R/P)
H DOEの縦辺に並ぶユニットパターンの数(S/Q)
E 評価関数
W1、W2、W3、評価関数における変化量2乗差に掛ける重み
R’ tmn=0の領域を周囲に追加した時のDOEの横辺に並ぶセルの数
S’ tmn=0の領域を周囲に追加した時のDOEの縦辺に並ぶセルの数