しかし、特許文献1に記載の方法は、血液の検査を目的とする容量の小さな採血管を用いるため、幹細胞の培養に必要な量の血清を調製するためには、何度も調製操作を行わなければならず、実用に適さない。
また、調製された血清については、使用するまで一時的に冷凍又は冷蔵保存することが多い。そのため採血管から保存用の容器に移し替える作業が必要となり、この作業を何度も行うことで血清が微生物に汚染される可能性が高くなる。また、このような採血管には血清分離剤が添加されている場合が多く、この血清分離剤から血清中に不純物が混入してしまう可能性も否定できない。従ってこのような安全性や衛生面からもヒトを対象とした再生医療の分野において特許文献1に開示されている方法を用いることは適当ではない。さらに、既存の血清調製用の採血管では、採血管の構造上、血清以外の成分は取り出すことが困難であることに加え、血餅となってしまっているため再利用することは不可能である。
上述のように幹細胞の培養に際して、大量の血清を調製するのに適した血清調製容器の開発が望まれている。
本発明は以上のような課題に鑑みてなされたものであり、大量の血清を高い安全性を確保しながら迅速、かつ、効率的に生産するのに適した血液収容容器及びこれを用いた血液分離方法並びに再生医療方法を提供することを目的とする。
上記の目的を達成するために、本発明は、血液由来の液性成分と血小板との存在下で凝固活性化作用により実用的に使用できる量の血清を生成する血清生成機能が付与されている血液成分分離装置を提供する。
ここで、「血液」とは、血球(赤血球、白血球、血小板)と液体成分である血漿(血清)からなる全血、及びこれらの少なくとも1種を含んだ液体(例えば成分献血で採取された血液)をいう。また、「血清」とは、採取した血液を放置すると流動性が低下し、その後に赤い凝固塊(血餅)から分離される淡黄色の液体をいう。本発明における「血清」とは、血餅から分離されない点で生成方法が一般的な血清とは異なるが、そこに含まれる凝固因子や増殖因子が実質的に一般的な血清と同等である細胞培養に有用な血液中の液性成分をいう。
「血液由来の液性成分」とは、「血球以外の血液成分」あるいは「血球以外の血液成分に抗凝固剤等の薬剤を添加した混合液」をいう。
「凝固活性化作用」とは、血液から凝固因子を除去するために血液中の凝固因子を活性化させることをいう。
「実用的に使用できる量の血清を生成する血清生成機能」とは、例えば幹細胞の培養に用いることができる程度の量をいう。幹細胞の培養において、血清は培地に対して10%程度必要である。そのため5(ml)以上1000(ml)以下であることが好ましく、10(ml)以上600(ml)以下であることがさらに好ましい。
具体的には、以下のようなものを提供する。
本発明は、採取した血液を複数の血液成分に分離し、収容するための装置であって、前記血液を貯留する血液貯留部には、血清として実用的に使用することができる量を調製するために前記血液から凝固因子を除去する血清生成機能が付与されている血液成分分離装置を提供する。
上記血液成分分離装置によれば、血液貯留部を備えたことによって、採取した血液を血液貯留部に大量に貯留することができる。また、この血液貯留部には血清生成機能を付与したため、血液中の血小板及び凝固因子等を迅速に活性化することが可能となる。さらに、これらの被活性化因子は迅速に除去できるため大量の血清を調製することができる。なお、この血液成分分離装置は、血液から分離された複数の血液成分を収容する成分収容部を備えていることが好ましく、この成分収容部と血液貯留部とが無菌的かつ気密に連結していることがさらに好ましい。これによって、採血から血清調製までの一連の工程を外気に触れることなく行うことが可能であるため、微生物による汚染のリスクを低減させることができる。
なお、本発明に係る血液成分分離装置は、ヒトの血液だけではなく、げっ歯類、家畜類、霊長類等の哺乳類の血液にも使用することが可能であるため、非ヒト用血液成分分離装置として使用することも可能である。
上記血液成分分離装置において、前記複数の血液成分は、血清を含んでいてもよく、白血球及び赤血球を含んでいてもよい。
この発明によれば、血液成分分離装置によって分離された血清は、細胞増殖因子を多く含む血清であるため再生医療の分野で用いるのに適している。さらに、被活性化因子を別途回収することができるため、採取した血液を捨てることなく有効利用することができる。
上記血液成分分離装置において、前記血液貯留部及び前記成分収容部は、可撓性を有する袋体であり、前記血清生成機能は、前記血液貯留部の内方に配された血液凝固促進個体により付与されているものであってもよい。
血液貯留部及び成分収容部は、可塑性を有する袋体であり、軽量で持ち運びに便利である。これらはそれぞれ少なくとも一つずつ設けられているが、複数設けられていてもよく、血液貯留部が一つ、成分収容部が二つ以上設けられていることが好ましい。また、それぞれの容量は血液から各血液成分を実質的に分離することが可能であれば特に限定されるものではないが、5(ml)から1000(ml)であることが好ましく、10(ml)から600(ml)であることが特に好ましい。また、この血液貯留部の内包に血液凝固促進個体を配することによって、血清生成機能を付与することができる。血液凝固促進個体は、血液からフィブリンや血小板等の血液凝固因子を除去することが可能な程度に含有されており、血液に対して不溶解性を有するため、得られる血清に不純物が混在するという事態を回避することができる。
上記血液成分分離装置において、前記血液凝固促進個体は、前記血液に対して不溶性であり、塊状の外観形状を有することが好ましい。また、前記血液貯留部に貯留された血液中で遊動可能に設定されていることがさらに好ましい。
この発明によれば、血液凝固促進個体を粒状又は顆粒状もしくは、塊状のものとしたことによって、製造時のハンドリング性を高めることが可能となる。また、血液凝固促進個体を遊動可能に設定したことによって血液との接触をより円滑にし、血液の活性化効率を向上させることができる。
上記血液成分分離装置において、前記血液凝固促進個体の比重は、前記血液より分離される前記各血液成分よりも大きいものであってもよい。これによって、調製された血清を血液貯留部から容易に取り出すことができる。
また、血液から血清を調製する場合には、血小板及び血液凝固因子等の被活性化因子の活性化を図った上で、遠心分離を行うことになるが、この場合における赤血球の破壊(溶血)や血液貯留部の破損を抑制するという面から、血液凝固促進個体の外観形状を略球状としておくことが好ましい。そして、迅速に活性化させるという目的から、血液凝固促進材の表面を二酸化ケイ素化合物からなる層で形成しておくことが好ましい。
二酸化ケイ素化合物としては、ガラス、シリカ、珪藻土、カオリン等から選択される少なくとも1種以上を使用することができるが、これらに限られるものではない。
また、血液凝固促進材の芯体にマグネットを用いれば、血液貯留部に対して磁界を作用させることで血液の撹拌を行うことができ、被活性化因子を迅速に活性化することができる。
血液凝固促進個体は、多孔質構造とすることにより、単位体積あたりの表面積を大きく設定することができるため、活性化を図る上で好ましい。但し、この場合には孔内に血液が侵入できるようにしておくことが必要となる。
血液貯留部内の血液凝固促進個体については、血液貯留部に貯留可能な血液量に対して、0.1(mm2/ml)から25(mm2/ml)の関係をもってその表面積を設定しておくことが、活性化の促進及び溶血の抑制という両方の面から好ましい。なお、この値は現時点における最良の条件値であって、この範囲以外の値でも同様の効果を有するものも本発明に含まれる。
上記血液成分分離装置において、前記血液貯留部は、血清分離剤が投入されていないものであってもよい。
また、上記血液成分分離装置において、前記血液貯留部には少なくとも2つの接続口が形成されており、前記2つの接続口のうち、一方には前記血液を前記血液貯留部に導入するための導入路が気密接続され、他方には、前記血液貯留部において前記血液から分離された前記各血液成分を導出する導出路が気密接続されていてもよい。
この発明によれば、血液貯留部に形成された接続口に導入路及び導出路を接続したことによって、血清への血液成分の混入から保護することができる。
上記血液成分分離装置において、前記成分収容部は、2つ以上の袋体からなり、前記導出路は、各袋体に接続される複数の導出菅で構成され、前記複数の導出菅の少なくとも一部は兼用されているものであってもよい。
この発明によれば、成分収容部は、2つ以上の袋体からなり、複数の導出菅の少なくとも一部を兼用させたことによってそれぞれの袋体が一つに繋がり、取扱いが容易になる。また、このように各部を気密接続しておくことによって微生物の混入を防止することができる。
上記血液成分分離装置において、前記血液貯留部には、空気が含有されているものであってもよい。血液貯留部に含有される空気は、貯留可能な血液量に対して0.03(cc/ml)から1(cc/ml)であることが好ましい。
この発明によれば、血液貯留部に空気を含有させたことによって血液凝固促進個体が含有されているときと同様の効果を得ることが可能となる。
また、本発明の血液分離方法は、血液由来の液性成分と血小板との存在下で凝固活性化作用により実用的に使用できる量の血清を生成する血清生成機能が付与されている血液成分分離装置を用いて血液を液性成分と非液性成分とに分離することを特徴とする。
具体的には以下のような方法を提供する。
採取した血液を複数の血液成分に分離し、収容するための装置であって、前記血液を貯留する血液貯留部には、血清として実用的に使用することができる量の血清を生成する血清生成機能が付与されている血液成分分離装置であり、採取された血液を血液貯留部に貯留する貯留工程と、前記血清生成機能を起動させて、前記血液貯留部に貯留されている血液中の血小板及び凝固因子を含む被活性化因子の活性化を促進する活性化促進工程と、前記活性化促進工程で活性化されて凝集した前記被活性化因子を血液から分離する分離工程と、を有する血液分離方法。
上記血液分離方法において、前記活性化促進工程は、前記血液成分分離装置の振盪を行う工程であってもよい。
また、上記血液分離方法において、前記血清生成機能は、前記血液貯留部の内方に配された血液凝固促進個体により付与されているものであってもよい。
さらに、上記血液分離方法において、前記導出工程で導出される前記各血液成分は、血清を含んでいてもよい。
さらに、上記血液分離方法において、前記導出工程は、前記血液凝固促進個体を固定させた状態で、前記各血液中の液体成分を流動させることにより前記血液成分を前記成分収容部へ収容させる工程であってもよい。
さらに、上記血液分離方法において、前記導出工程における前記血液凝固促進個体は、前記血液貯留部の内側又は外側の少なくとも一方に取り付けられた固定手段により固定されていてもよい。
さらに、上記血液分離方法において、前記固定手段は、マグネット、クランプ、前記血液貯留部を挟持する挟持体、及び前記血液貯留部内に設けられた複数の突起、からなる群から選ばれる一つ以上のものであってもよい。
これらの発明によれば、一度に多量の血液を採取し、迅速に分離することが可能となる。さらに、貯留工程から導入工程まで外気に触れることなく行うことが可能であるため、微生物による汚染のリスクが少ない。さらに、前記分離工程で血液から分離された前記被活性化因子を除く前記各血液成分を前記成分収容部へと導出する導出工程を備えていてもよい。
活性化促進工程では、血液成分分離装置全体を、又は血液貯留部を振盪させることにより被活性化因子を活性化させることができる。振盪方法は、溶血を生じさせない方法であれば特に限定されないが、血液凝固促進個体が血液中で満遍なく遊動できるような遊動速度であることが好ましい。また、芯体にマグネットを使用した血液凝固促進個体を使用した場合には、血液貯留部に対して磁界を作用させることで血液の撹拌を行うことができる。
分離工程では、活性化された被活性化因子が血液凝固促進個体に付着した状態でフィブリンが生成する。これによって、血清の回収が容易になる。また、導出工程では、フィブリンが付着した血液凝固促進個体を固定手段で固定することによって赤血球の回収がより容易になる。
さらにまた本発明は、以下のような血液中の繊維質の回収方法及び再生医療方法を提供する。
血液由来の液性成分と血小板との存在下で凝固活性化作用により実用的に使用できる量の血清を生成する血清生成機能が付与されている血液成分分離装置を用いて液性成分と非液性成分とに分離し、前記非液性成分から繊維質を回収する方法。
血液由来の液性成分と血小板との存在下で凝固活性化作用により実用的に使用できる量の血清を生成する血清生成機能が付与されている血液成分分離装置を用いて血液を液性成分と非液性成分とに分離し、前記液性成分を培地に添加し、この培地に対して対象者から採取した細胞を播種して培養を行い、得られる細胞又は組織を前記対象者への移植用とする再生医療方法。
上記再生医療方法において、前記液性成分は血清を含んでいてもよい。
血液由来の液性成分と血小板との存在下で凝固活性化作用により実用的に使用できる量の血清を生成する血清生成機能が付与されている血液成分分離装置を用いて血液を液性成分と非液性成分とに分離し、前記非液性成分の濃度を調製した後、前記対象者への輸血用とする再生医療方法。
上記血液分離方法において、前記非液性成分は、血清、白血球及び赤血球を含んでいてもよい。
これらの方法を用いれば、大量の血清を調製することが可能となるため、細胞の培養に必要な量の自家血清を調製することが可能となる。さらに、手術で輸血が必要な場合も血清採取後に赤血球やフィブリンを回収することが可能であるため、濃度を調製して自己輸血したり、フィブリンを幹細胞の足場(scafold)又は傷口のバリヤーとして使用したりすることができる。
以上説明したように、本発明の血液成分分離装置は、採取した血液を成分毎に分離するために用いるものであって、血液を貯留する血液貯留部を備え、この血液貯留部に血清生成機能を付与することとしたので、微生物の繁殖が抑制された血清を迅速、かつ、大量に調製することができ、再生医療における幹細胞の培養に用いる大量の血清を調製するのに適している。さらに血清採取後の赤血球やその他の成分は、自己輸血用血液や傷口のバリヤーとして使用するのに適している。
従って、本発明に係る血液成分分離装置を用いれば、採取した血液から、血清を始めとする大量の血液成分を高い安全性を確保しながら、迅速かつ高効率に調製(生産)することができる。
また、本発明の血液分離方法では、上記本発明に係る血液成分分離装置を用いるものであって、採取された血液を血液貯留部に貯留する貯留工程と、前記血清生成機能を起動させて、前記血液貯留部に貯留されている血液中の血小板及び凝固因子を含む被活性化因子の活性化を促進する活性化促進工程と、前記活性化促進工程で活性化されて凝集した前記被活性化因子を血液から分離する分離工程と、を有し、さらに必要に応じ血清採取後に残存する血液成分を回収し、自己血輸血用及び幹細胞の足場又は傷口のバリヤー用として用いることとした。
従って、この血清調製方法を用いれば、安全性の高い血液成分を大量に生産することができる。
また、本発明の再生医療方法は、上記の血液分離方法を用いて調製された血清を培地に対して添加し、この培地に対象者から採取した幹細胞を播種して培養を行い、培養により得られる細胞又は組織を被治療対象者に移植することとした。また、小児等の循環血液量が少ない患者や、移植時に多量の出血が危惧される場合には回収した赤血球を輸血することとし、又フィブリンは移植部位の足場、あるいは移植部位のバリヤーとして用いることとした。
従って、この再生医療方法を用いれば、生物学的な安全性が確保された大量の血清を用いることが可能であり、対象者の組織及び機能を安全かつ確実に再生することができる。
本発明に係る血液成分分離装置は、血清を生産する血液成分を貯留する空間に血液凝固促進機能を付与し、実用的に使用できる量の血清を生成することが可能な装置である。
装置形態の代表的な例としては、可撓性の袋体が少なくとも一つ以上無菌的かつ液密、気密に接続されたものであり、かつ、血液凝固促進機能が付与されているものが考えられる。
このような血液成分分配収容装置は、外観上、所謂血液バッグや分離バッグと類似した形態であるが、これらと同一の形態を採用したのは、これらが採取した各種成分を無菌的かつ液密、気密に分配するのに適した形態であるという長年の実績があるからである。
また、血液凝固促進機能を付与した点は、本発明の本質に関わる。単なる可撓性の袋体であっても、血液凝固因子を含む液性成分を収容した場合、時間の経過とともに凝固因子が活性化され、血清の産出が可能である。しかし比較的時間がかかるだけではなく、血清中に含まれる増殖因子が不活性化されてしまうため、得られる活性は不十分である。そこで、血液凝固促進機能を付与した。これにより前記空間において、血液凝固因子を含む液性成分と血液凝固因子とが接触し、速やかに血液凝固が促される。その結果、血清調製が極めて短時間で行うことができるとともに、活性の低下を抑制した状態で血清が調製される。このことは、袋体自体を、血液凝固促進機能を備えた材質で形成した場合にも当てはまることから、本発明は、そのような形態を排除するものではない。つまり、一般的に、血液バッグや分離バッグ等に使用される医療材料に比べて血液凝固促進機能が高い材質で、貯留空間壁面を形成した形態も本発明の範疇に含まれる。
血液凝固促進機能を有する物質としては、現在のところ最も効果が高いことが確認されているものとして、ガラス加工体が挙げられる。ガラスには、血液凝固作用が存在することは古くから知られるところであるが、比較的大量の血清の生成のために積極的に使用した例は未だ無い。本発明者らは、ガラス加工体を、血液凝固促進機能を有する物質として用い、血清を産生する血液成分中に存在させて、相互に接触を繰り返してみたところ、大量の血清を短時間で活性を低下させることなく生成することに成功した。
さらに、血液凝固促進機能を有する物質として、上記ガラス加工体ではなく空気を用いた。血液が空気と接触すると凝固することはすでに知られるが血清の生成のために積極的に使用したものはない。そこで、空気を血液凝固促進機能を有する物質として、血液と接触を繰り返してみたところ、大量の血清を短時間で生成することにも成功した。
血液凝固促進機能を有する物質は、血液との接触が多いほど活性化されることが分かっている。つまり、ガラス加工体の場合には、比表面積を大きくすることが有効であり、空気の場合には、含有量を多くすることが有効であることが分かっている。しかし、ガラス加工体のように血液凝固促進機能を有する物質として、固体を用いる場合に、溶血の心配を考慮しなければならない。
次に、血液凝固因子を含む液性成分と血液凝固促進機能を有する物質(血液凝固促進個体と以下いう)とを接触させる形態として次の形態が考えられる。
第1に、人体から採取した血液を、血液凝固促進個体を収納された血液貯留部に貯留し、血液の凝固を促して、血清を分離する形態である。
ここにおいて、分離した血清は、血液貯留部以外の袋体に無菌的に移送され、この袋体にて保存可能となる。あるいは、分離した血清は、外部に無菌的に導出して、細胞培養系に増殖因子として添加するといった利用に供することもできる。また、血清分離の際に同時に分離されたその他の血液成分(赤血球、フィブリン等)は、輸血や再生治療に使用することができる。
第2に、人体から採取した血液を、血液貯留部に貯留し、この貯留部に抗凝固剤を添加した状態で、血液成分を分離した後、分離した成分の中で、血清を産生する成分である血液凝固因子を含む液性成分と血小板とを別袋体に無菌的に移送し、この袋体中で血清を生成させるという形態が考えられる。この場合、血清を生成させる袋体中には、上述の血液凝固促進個体を収納しておくことは当然であるが、混入した抗凝固剤を中和するための中和剤を添加しておくことで、収納した凝固促進個体の機能が十分に発揮される。ここにおいて、分離した血清は、そのまま血液貯留部で保存するか、他の袋体に無菌的に移送され保存される。分離した血清は、外部に無菌的に導出して、細胞培養系に増殖因子として添加するといった利用に供することもできる。また、血清分離の前後で分離されたその他の血液成分(赤血球、フィブリン等)は、輸血や再生治療に使用することができる。
第3は、第2の形態と関連する形態である。この形態では、当該装置に導入前に、血清を産生する成分だけを血液から採取して、第2の形態と同様にして血清を生成する。この形態では、初めから、所謂成分採血をすることになるので、血清やフィブリン採取だけを目的としている場合に、無用な血液成分は、被験対象に直ちに戻すことになるので、該被験対象にかかる肉体的負担が軽減される。
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
<第1実施形態>
〔血液成分分離装置1の全体構成〕
本発明の実施の形態に係る血液成分分離装置1の構成について、図1を用いて説明する。図1では、血液成分分離装置1の構成のうち、主要な部分だけを抜き出して図示している。
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る血液成分分離装置1は、血液貯留部10、成分収容部20を主な要素として構成されている。このうち、血液貯留部10は、可撓性を有する樹脂材料、例えば、軟質ポリ塩化ビニルからなる2枚のシートが外縁部11aで融着されることで袋状に形成された本体部11と、本体部11の内部に挿入されたガラス加工体12とから構成されている。つまり、血液貯留部10は、外装体としての本体部11の内部に、血液凝固促進個体としてのガラス加工体12が収容された構成を有している。
なお、血液貯留部10は、本体部11における内容積及び外観形状が、所謂血液バッグや分離バッグに類似しているが、内部に抗凝固剤が充填されていない点で血液バッグと相異し、凝固促進剤を含む点で分離バッグと相異する。また、血液貯留部10の内部は前もって滅菌処理が施されている。
本体部11内におけるガラス加工体12は、例えば、ソーダガラスからなる略球形をしている。また、図1では、血液貯留部10内に3つのガラス加工体12を備える構成としているが、血液凝固促進機能を得る上で、貯留可能な血液量に対するガラス加工体12の表面積を、0.1(mm2/ml)以上の関係をもって設定をしておくことが好ましい。
なお、ガラス加工体12は、本体部11の内壁等に接合されているものではなく、本体部11に振盪作用あるいは振動作用等を与えた際に、本体部11の内部で遊動可能な状態に設定されている。
また、血液貯留後に本体部11に振盪作用あるいは振動作用等を与えた際、さらには血液を遠心分離機にかけた際に、血液中の赤血球が破壊され溶血に至るのを抑制するためには、血液貯留部10の本体部11に貯留可能な血液量に対して、25.0(mm2/ml)以下の関係となる表面積で、ガラス加工体12を設定しておくことが好ましい。これらの数値範囲が好ましい理由については、後述する。
成分収容部20は、6つの袋体21〜26から構成されており、各々が軟質ポリ塩化ビニルからなる。これらは前もって滅菌処理が施されている。
図1に示すように、血液貯留部10の本体部11における上縁端には、その接続口に2本のチューブ41、42が気密接続されている。そのうちのチューブ41は血液を導入するための導入路の役割を担っているため他端には、採血針30あるいは採血針と接続可能な接続部が接続されている。血液貯留部10に気密接続されたもう一方のチューブ42は、チューブ43〜46、51〜56及び分岐体61〜65を介して各袋体21〜26に接続されている。これらは分離された血液成分を導出するための導出路の役割を担っている。これらのチューブ41〜46、51〜56については、柔軟性を有した樹脂材料、例えば、軟質ポリ塩化ビニル等の材料から構成されている。ここで、成分収容部20の袋体21〜26と各チューブ51〜56とについても、気密接続されている。
また、チューブ41、42のサイズは、その内径寸法がガラス加工体12の外形寸法よりも小さく設定されている。これは、血清を調製及び導出をする際に、ガラス加工体12がチューブ41、42の方に入り込んでしまうのを防止するためである。
血液貯留部10及び袋体21〜26と各チューブ41、42、51〜56とは、内部の空間が外部環境と隔絶された状態に接続されている。また、各チューブ42〜46、51〜56と各分岐体61〜65とについても、内部における血清が流通する領域が外部環境と隔絶された状態に接続されている。具体的には、溶剤接着、熱溶着あるいは超音波溶着等により接続されている。
図1には図示していないが、本発明の実施の形態に係る血液成分分離装置1では、各チューブ42〜46、51〜56の所要の箇所をクランプで挟むことで血液及び抽出された血清を導出する際に、その流路を切り替えることができる構成となっている。
〔血清調製操作について〕
上記構成を有する血液成分分離装置1を用いた血清調製操作について、図2〜図8を用いて説明する。なお、図2は操作の説明のため適宜併用して用いる。
図2に示すように、上記血液成分分離装置1を用いた血液分離操作は、大別して7つの工程(S1〜S7)から構成されている。
まず、操作の第1段階としては、上記図1における採血針30を対象者(患者)に刺し、血液を採取する。この際、採血針30から採取された血液は、チューブ41を介して、下方に位置する血液貯留部10に貯留される(貯留工程S1)。ここで、血液貯留部10に採取された血液が成分収容部20の方に流れ込まないように、チューブ42と血液貯留部10の間に破断可能な隔壁が備えられている。あるいはチューブ42は、クランプ等を用いて血液貯留部10の根元側で経路が閉鎖されている。貯留工程S1は、採血時における患者の体調等を考慮して、所要量を採取し終了される。ここでいう所要量は、患者の体格や体調に問題がない場合には200〜600(ml)程度である。
なお、採血に際しては、献血の際等に広く使われている採血機等を用いることもできる。
次に、図2に示すように、貯留工程S1を開始後、それと並行するように血液貯留部10を振盪させる(活性化促進工程S2)。図3に示すように、採取された血液を貯留した血液貯留部10は、振盪装置100により緩やかに撹拌され、内部に収納されたガラス加工体12と接触することになる。そして、血液中に含まれる血小板及び凝固因子がガラス加工体12の表面で凝固し、凝固の際に活性化された血小板から、これらを由来とする増殖因子が放出される。(また、この活性化促進工程を低温下で行うと血小板の凝集促進に効果的である。)
なお、血液貯留部10を通常の血液バッグと同等の外形寸法に形成しているため、血液貯留部10の振盪には、公知の振盪装置を用いることができる。さらに、図3では図示していないが、血液貯留部10は各袋体21〜26と各チューブ41〜46、51〜56を介して接続されているため、これらを折り畳んで振盪させることも可能である。
貯留工程S1後、採血対象から採血針30を抜針し、採血針30と血液貯留部10とを連結しているチューブ41の一部を溶断し、かつ、同時にその溶断端を溶着する(溶断工程S3)。チューブ41の溶断には、図4に示すような溶断機110(所謂シーラー)を用いて溶断することができる。
一方、患者から分離された血液貯留部10は、成分収容部20及びこれらの間を連結する各チューブ42〜46、51〜56、さらには分岐体61〜65等とともに活性化促進工程S2を経て、コンパクトに纏められ、遠心分離機にかけられる(遠心分離工程S4)。このとき、チューブ42は、貯留工程S1の際と同様に破断可能な隔壁あるいはクランプにより経路が閉鎖された状態に保たれている。
溶断工程S3及び遠心分離工程S4は、抗凝固剤をあらかじめ添加し採血する場合は活性化促進工程S2の前に行ってもよい。この場合、遠心分離は下記の条件で行う。
全血の遠心分離:4,400g×4〜6(min.)、2,250g×10(min.)
多血小板血漿(PRP)の遠心分離:1,100g×4〜6(min.)
血液貯留部10に対する遠心分離の条件は、貯留された血液の量及び分離する成分の種類によって設定されるものであるが、例えば2250(g)×10(min.)、4(℃)に設定される。遠心分離後における血液貯留部10について、図5を用いて説明する。
図5に示すように、活性化促進工程S2を経た後に遠心分離された血液貯留部10内では、遠心分離条件によって異なるが大別して血清71、白血球72、赤血球73の3つの層に分離される。また、血液貯留部10における本体部11aの底には、ガラス加工体12がその表面に血小板及び凝固因子の凝固体74が付着した状態(以下、「凝固体付着ガラス加工体14」という。)で沈んでいる。この凝固体付着ガラス加工体14は、図の拡大部分に示すとおり、ガラス加工体12の表面に血小板及び凝固因子が凝固した凝固体74が付着したものである。ここでは、凝固体の付着の有無を区別するために、凝固体74付着後のガラス加工体に符号14を付している。
上述のように、図5の状態における上清成分である血清71は、活性化促進工程S2において十分に血小板及び凝固因子から放出されたこれら由来の増殖因子を含むものである。また、遠心分離工程S4においても、血液貯留部10の本体部11の上縁端に気密接続された2本のチューブ41、42が両方ともに閉鎖された状態におかれているので、外部環境から隔絶されており、微生物等が侵入することはない。
図2に戻って、活性化促進工程S2から遠心分離工程S4で活性化された被活性化因子は、塊状になって血液から分離される(分離工程S5)。
また、分離工程S5において血液貯留部10内で分離抽出された血清71を成分収容部20における各袋体21〜26の全部又は一部に対して順に小分けしていく(導出工程S6)。導出方法について、図6を用いて説明する。
図6に示すように、抽出された血清71を成分収容部20の袋体21に導出しようとする場合には、クランプ90を用いてチューブ43の経路を閉鎖しておき、この状態で血液貯留部10の外側に設置した加圧機80をもって、血液貯留部10を加圧(F1)する。上述のように、血液貯留部10に気密接続されたチューブ41は、貯留工程S1が終了した時点で、その途中41aが溶断され、かつ同時にその端部及び近傍41bが溶着されている。
よって、加圧F1を受けることによって、分離によって抽出された上清部分である血清71の一部は、チューブ42、分岐体61及びチューブ51を介して血清保存用の袋体21に導出される。
なお、チューブ43の経路閉鎖については、柔軟性を有するチューブ43を、クランプ90の円板91とベース92との間で挟むことで実施される。
図2に戻って、袋体21に所要量の血清71が充填された後、チューブ51を溶断及び溶着する(溶断工程S7)。この溶断及び溶着については、図7で示すように、上記遠心分離工程S4の前にチューブ42を溶断及び溶着したのと同様の方法を用いて実施される。また図8に示すように、血清71が内部に充填された袋体21については、例えば、冷凍保存等の保存処置が施される。
この導出工程S6及び溶断工程S7を、袋体21〜26の各々に対して順次実施していき、袋体21〜26の全て、あるいは一部に血清71が充填された時点で血清調製操作が終了する。さらに必要に応じて、赤血球73を生理食塩水、CPD、ACD−A液等抗凝固剤やMAP等の血液保存液で洗浄希釈し、輸血用血液として保存することもできる。この方法については後述する。
〔血液成分分離装置1の優位性〕
本発明の実施の形態に係る血液成分分離装置1では、血液バッグと同等の内容積を有する本体部11と、その内部に配されたガラス加工体12とから血液貯留部10を構成し、この血液貯留部10の内部で血液から血清を調製するので、従来のような採血管を用いる場合に比べて、一度に大量の血清を調製することができ、調製作業における工程面等で効果を奏する。また、これにより、調製した血清が微生物等によって汚染される危険性も低くなり、安全性の高い血清を調製するうえでも適している。
また、血液成分分離装置1では、血液凝固促進個体としてガラス加工体12を収容しているので、血清調製時に血餅がガラス加工体12の表面に付着し、血清を分取する際の血清中へのフィブリンや血餅の混入が防止される。
また、血液成分分離装置1は、上記効果に加えて、血液貯留部10及び袋体21〜26と各チューブ41、42、51〜56と内部の空間が外部環境と隔絶された状態に気密接続されているので、血液あるいは血清が外部環境に晒されることがない。よって、一層の安全性が確保されている。
また、上記チューブ41、42、51〜56は、柔軟性を有し、溶断及び溶着が可能な材質から形成されているので、これらの経路を適時切り離して行く際にも、内部が外部環境に晒されることがない。よって、この面からも、血液成分分離装置1が高い安全性を有するということがいえる。
一般に、抗凝固剤(例えば、ACD−A液等)を内部に備えない容器に対して血液を貯留した場合には、採血後、容器を20(min.)以上放置すれば次第に血液中の血小板及び凝固因子は凝固することになるが、特に容器内の空気量が少ない場合は血液の凝固が促進されず、凝固までに長時間を要するという問題を生じる。
これに対して、本発明の実施の形態に係る血液成分分離装置1では、血液を貯留する血液貯留部10の内部に、血液凝固促進機能を有する血液凝固促進個体としてのガラス加工体12を挿入しているので、10(min.)以内にはほとんどの血小板(例えば、95%以上の血小板)及び凝固因子が凝固するに至り、血清調製操作を迅速に実施することができる。よって、本発明の実施の形態に係る血液成分分離装置1を用いれば、迅速に血清を調製することができる。また、前述の活性化促進工程S2を経て血清を調製した後に、血液成分分離装置1に残存する赤血球のほとんどは、血餅とならないため、赤血球を輸血用の成分として再利用できる可能性がある。
また、例えば、再生医療の分野においては、幹細胞の培養のために安全性の高い血清を多く必要とするが、上記血液成分分離装置1を用いて血清71を調製及び保存すれば、安全かつ迅速に血清を調製及び保存することができる。よって、本実施の形態に係る血液成分分離装置1を用いれば、患者に対して、高い安全性を確保しながら、高効率に組織あるいは機能の再生治療を実施することができる。
また、上記実施の形態においては、血液貯留部10内に貯留可能な血液量に対して、0.1(mm2/ml)以上の関係をもった表面積でガラス加工体12を設定した場合には、血液中における血小板及び凝固因子の活性化がより促進される。また、貯留可能な血液量に対するガラス加工体12の表面積を、0.1(mm2/ml)以上25.0(mm2/ml)以下の範囲内となるように設定する場合には、活性化促進工程S2及び遠心分離工程S4における溶血の抑制と、血小板及び凝固因子の活性化促進との両立が可能である。
なお、血液貯留部10内におけるガラス加工体12の数については、本実施形態では3つとしたが、これに限定されるものではない。ガラス加工体12の収容数については、現実的に1個以上50個以下とするのが妥当である。
また、血液成分分離装置1では、血液凝固促進個体としてガラス加工体12を用いたが、血液凝固促進個体は、これに限定されるものではない。例えば、血液との接触領域をシリカ、珪藻土、カオリン等の二酸化珪素化合物の中から選択される少なくとも一種からなる無機物で構成したものを用いることもできる。また、接触領域に配する物質は、無機物に限定されるものでもない。
また、上記血液成分分離装置1では、血液貯留部10の中に血液凝固促進機能を有する血液凝固促進個体(ガラス加工体12)を収容することによって、血液貯留部10に血液凝固促進機能を持たせたが、必ずしも血液貯留部10内に血液凝固促進個体を収容しなくても、血液凝固促進機能が果される構成であればよい。例えば、血液貯留部10の本体部11における内壁の一部を上記無機物等で被覆しておいてもよい。
また、上記血液成分分離装置1におけるガラス加工体12については、その外観形状を略球形状にしたが、本発明に係る血液凝固促進個体の外観形状は、これに限定を受けるものではない。ただし、遠心分離等の際に溶血の発生及びバッグの破れを抑制する点等からは、外表面(血液との接触領域)を連続曲面で形成しておくことが好ましい。
また、導出工程S6においては図9に示すように血液貯留部10の外側から例えば、クランプのような挟持部16でフィブリンが付着したガラス加工体を塞ぎ止めることによって、ガラス加工体の表面に血小板及び凝固因子が付着したものを分離し、赤血球を導出することができる。なおこの挟持部16は、血液貯留部10を挟んだ後でも赤血球や、フィブリンの洗浄液等が流通可能なように血液貯留部10との接触面は波型形状や凹凸形状であることが好ましい。
また、上記発明の実施形態では、中実のガラス加工体12を用いたが、外表面に血液凝固促進機能を有する物質を形成しておけば、必ずしも中実とする必要はない。例えば、多孔質構造としておき、孔内の壁面も含めて血液と接触する全領域をガラス等の二酸化珪素化合物等でコーティングしておいてもよい。
<第2実施形態>
本実施形態に係る血液成分分離装置は、上記第1実施形態に係る血液成分分離装置1と、血液貯留部10内に収容されるガラス加工体の形態に相違点を有する。そのため、以下では、ガラス加工体の形態について、図10を用いて説明し、その他の部分についての説明は省略する。
図10に示すように、本実施形態に係る凝固体付着ガラス加工体14は、略球形状の外観形状を有する点では上記ガラス加工体12と同様であるが、芯体部141と表層部142とからなる2層構造を有するところに特徴を有する。
凝固体付着ガラス加工体14を構成する2層の内、芯体部141は、マグネットから構成されている。他方、表層部142は、上記ガラス加工体12を構成していた材料と同一の無機物として、例えば、ソーダガラスから構成されている。
このような構造を有する凝固体付着ガラス加工体14を内部に収容した血液貯留部10を用いる場合には、上記図2における活性化促進工程S2の際に血液貯留部10に対して振盪とともに磁界を作用させることで、血液の撹拌が促進されるという効果を得ることができる。即ち、血液貯留部10に対してその外方から、例えば、マグネチックスターラーのような撹拌機で磁界を作用させることにより、凝固体付着ガラス加工体14が容器内で回転運動等を起こし、より高効率に血液と接触することになる。
従って、凝固体付着ガラス加工体14を血液貯留部10内に備える血液成分分離装置では、上記血液成分分離装置1よりもより迅速に血小板及び凝固因子の活性化を図ることができ、より迅速に血清を調製することができる。
また、ガラス加工体14をマグネットで構成した場合、導出工程S6では血液貯留部10の外側からマグネットで固定することができる。
<第3実施形態>
本実施形態に係る血液成分分離装置は、上記第1実施形態に係る血液成分分離装置1と、成分収容部20を構成する袋体21〜26の一つを空気抜き用としたところに相違点を有する(図1参照)。空気は採血時には、チューブ41の体積分だけ必然的に血液貯留部10に混入されてしまうが、各血液成分に分離工程S5の際にはない方が好ましい。そのため本実施形態に係る空気抜き用袋体を、血液貯留部10と成分収容部20との間に設置すれば各血液成分に分離工程S5前に空気のみを除去することが可能である。なお、本実施形態におけるその他の構成は第1実施形態と同様であるためその他の部分についての説明は省略する。
<第4実施形態>
本実施形態に係る血液成分分離装置は、図11に示すように上記第1実施形態に係る血液成分分離装置1の血液貯留部10に添加される血液凝固促進個体の代わりに空気15を含有させたところに相違点を有する。この場合、あらかじめ血液凝固促進個体を添加させておく必要がないため、製造コストの削減に繋がる。空気15の含有量は、貯留可能な血液量に対して0.03(cc/ml)から1(cc/ml)であることが好ましく、あらかじめ前記含有量となるよう封入した空気の漏出を使用時まで防止する機構をチューブ41に有することが好ましい。
また、空気と血液凝固促進個体を併用してもよい。
<第5実施形態>
本実施形態に係る血液成分分離装置は、図12に示すように、上記第1実施形態に係る血液成分分離装置1の成分収容部を構成する袋体21〜26の少なくとも一つにガラス加工体12(血液凝固促進個体)を添加したところに相違点を有する。また、本実施形態の場合、ガラス加工体12を添加する容器にカルシウムイオンを含むクエン酸中和剤をさらに添加してもよい。この場合、血液貯留部10には、CPD液のような抗凝固剤を添加した所謂「献血用血液バッグ」を用いることができる。
血液貯留部10中の血液は、遠心分離等によりある程度は分離されるが、抗凝固剤が添加されているため、このままでは血清を生成させることができない。本実施形態では、血液貯留部10中の血液を袋体21中に添加されている中和剤で中和させ、血液中の増殖因子を活性化させ、生成した血清を袋体22へ導出させることが可能となる。
<第6実施形態>
本実施形態に係る血液成分分離装置は、図13に示すように、上記第5実施形態に係る血液成分分離装置1の袋体21に添加されている血液凝固促進個体の代わりに空気15を含有させたところに相違点を有する。この場合第4実施形態と同様に、あらかじめ血液凝固促進個体を添加させておく必要がないため、製造コストの削減に繋がる。空気15の含有量は、貯留可能な血液量に対して0.03(cc/ml)から1(cc/ml)であることが好ましく、あらかじめ前記含有量となるよう封入した空気の漏出を使用時まで防止する機構をチューブ51に有することが好ましい。
また、空気と血液凝固促進個体を併用してもよい。
また、第1実施形態及び第4実施形態に係る血液成分分離装置1では、成分収容部を6つの袋体21〜26から構成したが、成分収容部を構成する袋体の数については、これに限定を受けるものではない。さらに、第1実施形態及び第4実施形態に係る血液成分分離装置1では、血液凝固促進個体としてガラス加工体が用いられているが、ガラス加工体の代わりに空気が含有されているものでも同様の効果を奏する。この場合、貯留可能な血液量に対して0.03(cc/ml)から1(cc/ml)であることが好ましい。
また、本発明は血液を分離した後に血液貯留部10に残っている赤血球やフィブリンを有効利用することが可能である。以下、それについて詳細に説明する。
<第7実施形態>
第1実施形態において血液を分離した血液成分分離装置1を使用する。図14に示すように血液を分離し、血清を袋体21(成分収容部)に導出させた後の血液貯留部10には、フィブリンが付着した凝固体付着ガラス加工体14と赤血球等の残渣が残っている。この血液貯留部10と気密接続された成分収容部21〜26のうち血清が収容されなかったいずれか一つにあらかじめ生理食塩水を入れておき、あるいはこの血液貯留部10のチューブ41に生理食塩水が含有されている生理食塩水含有袋体120を接続させ、血液貯留部10中の赤血球と混合させた後に輸血用血液として使用することができる(図15参照)。また、フィブリンが付着した凝固体付着ガラス加工体14は、全ての血液成分を導出した後にさらに洗浄し、洗浄後に得られるフィブリンを幹細胞の足場、あるいは傷口のバリヤーとして使用することができる。
さらに、第1実施形態及び第2実施形態では、血液成分分離装置として、血液貯留部と成分収容部との間をチューブ等で連通した構成を採用したが、血液を貯留する部分と血清を保存する部分とを必ずしも別の容器として構成する必要はない。例えば、溶断及び溶着等によって一部分を切り離せるような構成の一つの容器を用意しておき、この容器内に血液を貯留し、これから成分収容部20として用いるような構成としても構わない。また、導出工程S6では、フィブリンが付着したガラス加工体12、又は凝固体付着ガラス加工体14を導出しないように血液貯留部10を挟み持つクランプが挙げられていたがこれに限定されるものではない。
<第8実施形態>
上記実施形態で説明した、血清調製並びに血清の小分けを機械的かつ自動的に行うことを可能としたのが本実施形態の血清調製装置である。図24に示すように、本血清調製装置240は、血液凝固促進容器241に採取した血液を無菌的に導入する血液導入手段242(落差圧や突出ポンプ等)と、前記血液凝固促進容器にて調製された血清を無菌的に導出する血清導出手段243(吸引ポンプ等)と、導出した血清を複数の血清保存容器244に導出・分配する血清導入手段245(落差圧や突出ポンプ等)と、血清調製容器に血液を導入し始めた時点から該血清調製容器を振とうさせる振とう手段246と、振とう終了後、血清調製容器を遠心して血清成分を分離する分離手段247と、これらの各動作タイミング並びに動作自体を制御する制御手段248とから構成されている。血液凝固促進容器とは、上記したように血清調製のために血液凝固機能を備えた容器のことであって、上記した可撓性バッグ内にガラス加工体を配したもののほか、ガラス容器等その他血液凝固機能を備えた容器であれば何れでもよい。また、図30に示す混注ポート511〜516を備えた容器を使用してもよい。なお、無菌的にするには、扱う液体に菌が混入しないような外気と液体とを隔離する構造を備えていればよいのであって、その形態は特に限定されない。また、上記血液、血清等の液体の量を公知の流量計によって、モニタしその結果により動作制御(導入血液量の制御、分配血清量の制御等)してもよい。また、血清を分配した後に、血清保存容器に自動的に密栓をするようにしてもよい。
上記血清調製装置240によると、血液採取後、自動的に血清が調製され、調製された血清は、自動的に保存容器に取り分けられるので、血清の調製を極めて簡便に行うことが可能となる。
なお、上記血清調製装置240において、別途、血清を調製した後において、該調製容器を装着すると、保存容器に分配することができるような分配装置として機能させてもよい。
<第9実施形態>
図25は、血清調製バッグに空気量調節のためのフィルタ251を備えた可撓性バッグ(図1の10に相当する容器)を示している。
該フィルタは、血液をバッグ内に導入した後、フィルタを外部に開放(図示しない蓋部をオープンにすることで解放される)することで空気量を調整する機能を持つ。これは、空気量が多量である場合に、撹拌量が不十分であると血餅が生じ、赤血球等の血液成分が回収できなくなってしまうことを回避するために配されており、空気量を調整することで血液の凝固速度を血液量に適した相対的な大きさに調整するという機能を持たせたものである。
<第10実施形態>
図26は、血清調製のための血液凝固促進容器261を振とうさせる時間帯を血清調製量が十分なレベルにまで達するよう最適に制御する機能を備えた血清調製装置の機能ブロック図である。
構成としては、図24の装置と同様であるが、振とう時間を血清調製容器に血液を導入し始めた時点から採血終了後の所定の時間帯継続して振とうさせるという振とう制御が行われる。これによって、血清が効率良く産出されることになる。採血開始時から振とうさせ、かつ、採血時間よりも長い間振とうさせることが血清産生を十分に行えることになるという発明者らの経験則に基づいて実現した動作制御である。なお、該振とう時間は、実際に産出される血清の量をモニタリングし、その結果に基づいて決定するようにしてもよい。
<第11実施の形態>
本実施形態では、血球成分を使用せず分離された血清を主として使用する場合を想定した実施形態であり、上記ガラス加工体以外に血清分離剤が収納された血清調製容器であることに特徴点がある。このように血清分離剤を備えることによって、血清の産生がガラスによる血液凝固促進によって促されるとともに、産生された血清が他の成分ときれいにかつ効率良く分離されることになる。
<第12実施の形態>
図27は、図1における血清調製装置と同様に、採取した血液中から血液凝固促進させて血清を調製する装置である血清調製装置270を示す。該血清調製装置270が図1のものと異なるのは、採取した血液を複数の血清調製容器271に分配し、該血清調製容器271中で血清を調製し、調製血清を複数の保存容器272に移送・保存するという点である。このように採取した血液を複数の血清調製容器271に分配し、該血清調製容器271中で血清を調製することによって、血清調製容器の血液による膨らみが大きくなり、ガラス加工体の自由度が大となるので、ガラスが撹拌され易く、血液との接触性が向上することとなり血清の調製がより効率良く行われることになる。
<第13実施形態>
図28は、新たな血清調製装置280を示す。該血清調製装置280は、カテーテル281が接続された留置針282と、カテーテル281の端部に接続されるシリンジ283とを備え、シリンジ283内には血液凝固促進個体284(ガラス等)が収納されている。
上記血清調製装置280によると、留置針282からカテーテル281を通じて採取した血液をシリンジ283を振とうさせながら該シリンジ283に導入することで、血清調製を行うことが可能となる。その後、シリンジ283ごと遠心することで血清を分離することができる。なお、この血清調製装置280で人体から血清を調製する場合は、血液凝固の凝固シグナルが人体に伝達されないよう、なるべく人体から離間させるとともに採血部から下方にシリンジ283を位置させて行うことが好ましい。
<第14実施形態>
図29は、図1の血清調製装置と略同様の構成であるが、バッグからバッグの間の導通路にフィルタ291を備えている点が大きく異なる。このフィルタ291は、血球成分を通さず、血清を選択的に通過させるような大きさのポアを有するフィルタである。このため、遠心分離工程を経なくても、このフィルタに振とう後の液体を通過させることによって血清を簡便に分離することができる。
<第15実施形態>
図30は、図1の血清調製装置と略同様の構成であるが、各バッグが、無菌的に接続・離脱自在に構成されている血清調製装置である点で異なる。接続・離脱自在に構成とは、挿入具の挿脱にともなって弁体のスリット状開口部が開閉する機能を有する気密性の高い混注ポート(日本国特許第3389983号等参照)を備えた構成が挙げられる。なお、この場合、接続する導通路となるチューブ先端には、ルアを用いることが望ましい。かかる構成によって、バッグの取り付け、取り外しを簡便に行うことができる。
<第16実施形態>
図31は、図1の血液貯留部10と略同一の機能を持つが、血清取出口付近に血清調製時に血液が進入しないように、仕切りとなる一時的仕切り310を備えている点で異なる。ここにおいて、血清取出口付近に血液が進入し、凝固した場合血清が取り出し難くなる。あるいは、保存する血清に凝固した血液が混入することになる。一時的仕切り310は、血清調製後は、取り除くことが可能で、血清取出口から血清を保存バッグに移送させることができるようになっている。一時的仕切り310としては、クランプによる閉鎖、イージーピール等による閉鎖が考えられる。要すれば、一時的仕切り310は、血清調製時に前記取出口及びその近傍を血液から隔離でき、血清取出時には、隔離が解除されるものであれば、その形態は問わない。
<第17実施形態>
図32は、図1の血液貯留部10と略同一の機能を持つが、血清取出口付近に血清調製操作により血液が進入しないように、フラッシュ用バッグ320を備えている点で異なる。ここにおいて、血清取出口付近に血液が進入し、凝固した場合血清が取り出し難くなる。あるいは、保存する血清に凝固した血液が混入することになる。
フラッシュ用バッグ320内には、ガスあるいは液体が入っており、血清取出口及びその付近に付着した血液(凝固した血液も含む)をフラッシュし、取り除く。
上記実施形態16、17は、下記のガラス加工体を配さない実施形態18の血清調製バッグを用いる場合において特に効果的である。ガラス加工体を備えていると凝固した成分がガラス加工体に付着するので、血清取出口付近に凝固成分が付着することを防ぐことはできるが、ガラス加工体がないと、凝固成分が浮遊して場合によっては血清取出口付近に付着することがあるからである。
<第18実施形態>
本実施形態では、図1の血液貯留部10にガラス加工体を有さず、採取した血液はその空のバッグ内で放置されて血清が調製されることになる。そして、調製された血清が、保存バッグに移送されて複数の保存バッグに小分けされて保存されることになる。
<第19実施形態>
本実施形態では、図1に示したガラス加工体がチューブ42等に入り込んで、血清の移送の障害にならないよう工夫した点について特記する。
まず、ガラス加工体と移送路を形成するチューブとの径の関係をガラス加工体の径をチューブ内径よりも大とすることでガラス加工体がチューブ42等に入り込むことを防ぐことができる。例えば、チューブ内径よりもビーズ径が1mmから5mm程度大であることが好ましく、チューブ内径が3mmの場合、ビーズ径は、4mm程度が好ましい。
次に、図33に示すように血清取出しチューブ口の近傍に複数のスポット溶着部331を形成して(熱溶着させて形成)ガラスの移行を妨害することができる。ここで、スポット溶着部331同士間の間隔は、ビーズ径よりも小さい。また、スポットの数は、ビーズの数以上であることが望ましい。何故なら、ビーズ数よりもスポット数が少ないと、図35に示すように、ビーズが血清を取り出す流路を完全に塞いでしまって、血清を取り出す流路が確保されないということになるが、スポット数がビーズ数以上であると、図34に示すように、ビーズが血清を取り出す流路を完全に塞いでしまうことがなく、血清を取り出す流路が必ず確保されることになるからである。
なお、上記した各実施形態はそれ単独で実施できるのは言うまでもなく、また、それぞれを任意に組合わせて実施しても構わない。本発明の実施は、単独実施形態に限定されない。そして、調製された血清を用いて患者から採取した細胞を培養し、これを患者に移植したり、調製された血球成分を患者に輸血したりして再生医療に供することもできる。
以下、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下では、第1実施形態における血液成分分離装置を用いて調製した血清の有効性、回収された赤血球の有効性、及び幹細胞の増殖について検討を行った結果について説明する。なお、実験においては、ポリ塩化ビニル製の外装体を用いた。
〔実施例1〕
[活性化促進効果の確認]
ソーダガラスからなる、大小のガラス加工体をそれぞれ表1の条件で血液収容部に添加した。この血液収容部に20mlのヒト新鮮血を入れ、撹拌しながらインキュベートし、10,20,30,60,90分後に1.5mlずつ採取し、血小板数の計測を行った。なお、撹拌には、撹拌(振盪)装置(マルチシェーカーMMS−300 東京理科器械製)を、血球カウントには、血球カウント装置(多項目自動血球計数装置 K−4500 シスメックス製)を用いた。
図16は血小板の数とインキュベーション時間の関係を示したものである。これより、血液1ml当りのガラス加工体の表面積比が大きいほど血小板は活性化され、凝集することが分かる。また、ガラス加工体を添加しない試料は、血液凝集まで約90分と、かなりの時間を要していることが示された。さらに、仮にガラス加工体を添加せずに長時間放置し、血小板からの増殖因子の放出を促したとしてもその他の凝固の活性化が不十分である為、その後の過程で血清が凝固、あるいは大量のフィブリンが析出する場合が多い。よって、実験例に係るサンプルB〜Iの容器では、ガラス加工体が収容されていることにより、迅速に血小板を凝集させることができ、血清の調製に必要となる血小板由来の増殖因子を高効率で放出可能なことがわかる。
〔実施例2〕
[増殖因子放出効果の確認]
増殖因子放出効果の検討を行った。実施例1で用いた9つの試料の中から5つの試料を選び、5名の対象者の新鮮血をそれぞれの試料に添加し、20分経過後の増殖因子の測定を行う。具体的には、下記の表2の条件で実施例1と同様の方法でインキュベートした後、市販のテストキット(R&D SYSTEMS社製)により増殖因子(TGF−β1、PDGF−BB)量をマイクロプレートリーダー(Multiskan BICHROMATIC Labsystem社製)を用いて測定し、ガラス加工体との接触面積0の検体における量との比として表した。その結果を図17及び図18に示す。図中、横軸はガラス表面積を、縦軸には各増殖因子の量を示す。図17より、ガラス加工体を血液1ml当り0.6mm
2とわずかでも添加すると、増殖因子の放出量は大幅に増加した。しかし、表面積比を極端に大きくした場合には、TGF−β1量はほぼ平衡となることがわかった。また、図18では、ガラス加工体を僅かに添加するだけで増殖因子の大幅な増加が確認された。さらに、図17と同様に表面積比を極端に大きくした場合には、PDGF−BB量はほぼ平衡となることがわかった。
〔実施例3〕
[ガラス加工体による溶血性の検討]
実施例1及び2より、ガラス加工体を添加することにより、血小板の活性化と増殖因子の増加に効果があることが確認された。しかし、ガラス加工体の添加により血清調製中に溶血を引き起こすことが懸念された。そこで、ガラス加工体の添加量と溶血の関係を検討した。
実施例1で用いた試料A,F,H,I及び血液1mlあたりのガラス表面積比を広範囲に調製したJ〜Mの各試料に調製したウシ血液を入れ、撹拌を行いながらインキュベートした。これを経時的にサンプリングし、遠心分離した上清のヘモグロビン濃度を測定(ヘモグロビンB−テストワコー 和光純薬工業株式会社製)した。90分インキュベーション後の結果を図19に示す。血液貯留部内部に収容されたガラス加工体の表面積が増加するにつれて、上清ヘモグロビンの増加率が上昇していることがわかる。これはガラス加工体が血液との過剰な接触面積を有し、活性化促進工程あるいは遠心分離工程において赤血球の破壊(溶血)を多く生じる原因となったことを示している。しかしながら、12.5mm
2まではガラス加工体を添加していない試料Aと同等の溶血性を示すことが確認された。
〔実施例4〕
[ラット幹細胞の増殖確認]
血液1(ml)あたりのガラス加工体の接触面積を0(mm2)あるいは1.5(mm2)とし、ヒトから採取した血液を前記ガラス加工体のいずれかが収容された血液貯留部中にて20分間振盪した。振盪終了後血液を遠心分離(遠心分離条件:2250(g)×10(min.)、4(℃))し、上清を分離した。上清を56℃で30分間熱処理した後、0.22(μm)のフィルターでろ過し、−80℃にて凍結保存した。上清は細胞培養時に解凍され、細胞培養用の培地に添加された。細胞は、ラットの大腿骨骨髄より得られた細胞をあらかじめ7日間培養し、得られた接着性の細胞を骨髄由来細胞とし本実施例に供した。1ウェルあたり1万個の細胞を播種し、培地には10%濃度となるようガラス加工体を添加して得た上清、ガラス加工体未添加で得た上清、あるいは市販の細胞培養用のウシ胎児血清を添加し培養した。培養開始後1,3,7日に細胞数をカウントした。細胞の増殖への効果を確認した結果を図20に示す。
図20に示すようにラット骨髄由来細胞を培養する際に添加する血清調製時の、ガラス加工体との接触の有無が、細胞増殖性に著しく影響を及ぼしていることが判る。また、ガラス加工体を添加し得られた上清では、これまで一般的に用いられてきたウシ胎児血清よりも良好な結果が得られた。
〔実施例5〕
[赤血球の回収]
回収される赤血球について確認を行った。ガラス加工体接触面積を血液1(ml)あたり12.5(mm2)とし、20(ml)採血後60分間マルチシェーカーMMS−300(東京理科器械株式会社製)にて撹拌しながら振盪させた。対象として従来の血清調製方法により、試験管に採血し同じ時間静置した血液を用い、経時的な赤血球数の変化を調べた。その結果を図21に示す。これより、採血直後の赤血球数を100%とした場合、ガラス加工体と60分振盪した後の赤血球は約80%残存していた。一方、従来の方法で血清を採取した場合においては、容器内の血液の大部分が血餅となるため、採血後60分でわずか10%しか赤血球が回収されなかった。
〔実施例6〕
[多血小板血漿(PRP)からの血清回収]
あらかじめCPD液等の抗凝固剤を用いて採血された血液、あるいは成分献血により調製された多血小板血漿(PRP)からも、増殖因子を多く含む血清が調製可能であることを確認した。最終濃度が12.2%となるようにCPDを添加したヒト新鮮血液を調製した。このCPD加血液を760g、10分(22℃)の条件で遠心分離し、多血小板血漿を調製した。得られた多血小板血漿0.8mLを表4に示すようにあらかじめ塩化カルシウムとガラス加工体が添加された容器内で37℃にてインキュベートを開始し、適宜振盪した。多血小板血漿添加後に多血小板血漿からフィブリンが析出し、外観上流動性が低下するまでの時間を測定した。流動性の低下した各検体は直ちに2,250g、10分(4℃)の条件にて遠心分離を行い、得られた上清を分離した。その後この上清に含まれるPDGF−BB量とTGF−β1量を測定した。測定した各増殖因子の量は、同一血液から調製した血清中に含まれていた各増殖因子量に対する比(%)として図22に示した。
図22に示すようにガラス加工体の添加量を添加する事により、またその面積を増やすことにより多血小板血漿の凝固時間が短縮され、PDGF−BBとTGF−β1のリリース量も増加した。
〔実施例7〕
[空気添加効果の確認]
空気、あるいはガラス加工体をそれぞれ表5に示す条件で血液収容部に添加した。この血液収容部に20(ml)のヒト新鮮血を入れ、マルチシェーカーMMS−300(東京理科器械社製)にて撹拌しながらインキュベートし、20分後の血小板数を多項目自動血球計数装置K−4500(シスメックス社製)を用いて計数した。
図23に示すように、ガラス加工体も空気も添加していない検体1では20分後でも90%近い血小板が残存していた。空気のみを添加した場合(検体名2〜4)、空気の添加量に比例して血小板の残存率が低下した。さらにガラス加工体と空気を組合せた場合は、血小板残存率の低下は著しく、また空気の添加量と血小板残存率には比例関係が認められた。従って、ガラス加工体ほどではないものの、空気単独でも血小板の活性化及び凝集の促進効果があり、さらにガラス加工体と組合せることで、血小板の活性化及び凝集をより促進する効果が得られることが示唆された。
上記実施例1より、血小板を迅速に凝集させるためには、血液貯留部内に血液凝固促進個体としてのガラス加工体を収容しておくことが有効であることが分かった。即ち、ガラス加工体を収容した血液貯留部を用いれば、採取した血液から血清を調製するために必要となる血小板由来の増殖因子を迅速かつ高効率に生成することができる。よって、このようなガラス加工体を血液成分分離装置内に収納しておけば、大量の血清を迅速に調製(生産)することができる。
また、実施例2より、ガラス加工体を収容した容器内で採取した血液から調製された血清には、その調製過程において細胞の増殖に有用な増殖因子が充分に放出されており、その結果、その血清を培地に添加することで骨髄由来細胞の増殖に寄与していることが確認された。よって、ガラス加工体を血液成分分離装置内に収納しておくことは細胞の増殖促進に有効な血清を調製する上で有用である。
また、実施例3より、遠心分離工程により分離された血清中の上清遊離ヘモグロビン量という点からは、血液貯留部内への過剰なガラス加工体の収容は振盪時及び遠心分離時の赤血球の破壊(溶血)を招くことになり、望ましくないことが分かる。
また、実施例4から7より細胞の培養に有効に作用する血清を調製した後で、さらに大部分の赤血球を血餅状態ではなく、個々の単離した細胞として回収可能であった。これは循環血液量の少ない患者や、あるいは多量の出血を伴う可能性がある移植手術を受ける患者への幹細胞移植時に輸血用血液として自己血を保存できることを示唆している。よってガラス加工体を収容した採血容器を用いて振盪下で血清を調製することにより、血清以外の成分も回収可能となる。
以上、実施例1から7を考慮したとき、血液貯留部中におけるガラス加工体を、血小板及び凝固因子の活性化促進、及び増殖因子の回収の観点からは、容器内に貯留可能な血液量に対するガラス加工体の表面積を0.1(mm2/ml)以上の関係を有するように設定することが望ましく、溶血の発生という要因も考慮したときには、25.0(mm2/ml)以下の関係を有するように設定することが好ましいことが分かる。