JP4682371B2 - 磁場制御を施した陽極を備えてなる単一電源型スパッタリング装置 - Google Patents

磁場制御を施した陽極を備えてなる単一電源型スパッタリング装置 Download PDF

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本発明は、スパッタリング装置に関する。詳しくは、単一電源で駆動されるスパッタリング装置に関する。さらに詳しくは、低周波単一駆動電源によって高エネルギー荷電粒子を発生させることを可能とするスパッタリング装置に関する。さらにまた、真空装置内に配置される陽極を特有な構造に設計し、低周波電源によって駆動して高エネルギー荷電粒子の発生を可能とするスパッタリング装置に関する。具体的に述べると、陽極設計は、真空容器や成膜用基体から切り離して独立させるとともに陽極面から陰極に至る荷電粒子の通路(経路)を除きシールドし、シールドされた陽極面近傍に該経路を直交して横切る方向、すなわち陽極面に平行な方向に磁場を与える磁場形成手段を付設したスパッタリング装置に関する。
さらにまた本発明は、成膜とは別系統に独立した電源と電極が必要であった後述する従来のバイアススパッタリング方式に比し、これと同等あるいはそれ以上の効果を電源の付加無しに実現することを可能とするスパッタリング装置に関し、特に各種材料の薄膜を基板上にスパッタリング成膜する場合の形成温度の低減や薄膜の密着性の改善、密度の向上等を図ることができる新規かつきわめて優れたスパッタリング装置に関する。
本発明を説明するに当たり、使用する特有な用語を以下のとおり定義する。
すなわち、本発明において荷電粒子とは、プラズマ化することによって発生する電子、イオン等の真空容器内を移動できる電荷媒体を指す。また放電電流とはプラズマ化した真空容器内を荷電粒子の動きとして流れる電流のことをいい、陽極とは放電電流が流れ出す電極のことを指し、陰極とは放電電流が流れ込む電極を指す。
さらに本発明において陽極面、陰極面とはそれぞれ陽極、陰極の表面であり、かつ絶縁体やシールド等で遮蔽されたりしておらず、放電電流の流れ出しおよび流れ込みに対して有効に働く表面のことを言う。また同様に荷電粒子の陽極から陰極にいたる有効な経路とは放電電流の担い手である荷電粒子が絶縁体等によって妨げられることなく、実際に荷電粒子が移動し、それに沿って放電電流が陽極から流れ出し、陰極に至るまでに、運ばれる経路のことを指し、スパッタリング装置内に3次元的な線分(曲線)として多数存在する。さらに、荷電粒子の陽極から陰極にいたる有効な経路中の最強磁場強度とは多数ある荷電粒子の陽極から陰極にいたる有効な経路のうちの1つに着目し、その陰極から陽極に至る経路を垂直に横切る磁場強度の最大値と定義する。
さらにまた、本発明においてバランス型、あるいはアンバランス型の磁場配置とは、通常マグネトロン方式において広く用いられているスパッタリング方式の陰極面において、陰極面近傍にプラズマを局在させるために用いる磁場の構成方法の名称を指すものである。バランス型の磁場配置とは通常複数の永久磁石を用い、これら磁石のN極から発する磁束がほぼ全て、磁石のS極に収束するように各磁石の強度を調整し、この閉じた磁束によりターゲット表面近傍に強くプラズマを局在させるための磁場配置のことを言う。これに対し、アンバランス型とはN極から発する磁束のすべてがS極には戻らず、一部の磁束が空間に開放されるような磁束の分布を示すように、磁石強度を調整した場合を言う。アンバランス型磁場配置の場合、ターゲット表面近傍へのプラズマの局在はバランス型に比して弱くなり、装置空間内に比較的広がったプラズマを得る必要がある場合に用いられる(“ HYPERLINK "http://www.kobelco.co.jp/p109/pvd/ubms.htm" http://www.kobelco.co.jp/p109/pvd/ubms.htm”を参照のこと)。
いわゆるスパッタリング技術は、今日のエレクトロニクス産業の隆盛を支える基盤技術であるところの薄膜の形成(スパッタリング成膜、デポジション)や薄膜へのパターン形成(パターニング、エッチング)や表面改質等に広く用いられている重要技術の一つである。その沿革は古く、現在までにさまざまな改良、提案がなされ、今日では以下に述べるようにさまざまな方式のものが存在し、それぞれ各種技術分野において広く採用されている。
従来技術その1; 現在スパッタリング成膜技術において最も広く用いられている陽極設計の一つに真空容器の導体壁面そのものを陽極として用いる方式がある。つまり独立した電極としての陽極を設けず、陰極と真空容器の導体壁面との間に各種周波数、波形(直流、交流、高周波等)の電力を投入して放電を発生せしめる方式である。この構成を図1に基づいて示し、説明する。先ず、真空容器の導体内部壁面(1)が陽極面として働き、ここから陰極面に放電電流が流れ出す。陽極として働く真空容器の導体壁面と絶縁体(3)等で絶縁された陰極(2)とが設置され、その陰極面は装置内部空間の適切な位置に配置される。この際、絶縁体(3)やシールド(4)を用いて陰極面として働く領域を規定することが一般的に行われている。
最も広く用いられているマグネトロン方式のスパッタリング方式においては、陰極面近傍にプラズマを局在させるために磁束線(8)を配置する。この磁束線の配置方法にはバランス型、あるいはアンバランス型といったバリエーションが存在する。スパッタリング成膜による薄膜形成においては通常陰極面を原料とし、アルゴン等のスパッタリングガス雰囲気において陰極(2)と陽極(1)の間に各種周波数、波形(直流、交流、高周波等)の電力を投入することによってプラズマを発生せしめる。プラズマ中の各種イオン等が陰極面から運動量交換によってターゲットから原料成分をスパッタリングして気化させ、この気化した原料が陽極である装置壁、あるいはそれと同電位に保たれた基体ホルダー等に保持された基体(6)表面に堆積することで薄膜の形成された基体を得る。
図1に示した最も単純な構成のスパッタリング方式は極めて広く用いられているが、装置壁を陽極として用いるに際し安全のため陽極の電位をアース電位(電位の基準点、ゼロエレクトロンボルトのエネルギーに対応)とする必要があり、その結果基体の電位もアース電位に保持されることになる。薄膜を形成する粒子が基体表面に入射するエネルギーはプラズマの電位と基体の電位の差に支配され、得られる薄膜の密度、硬度、付着力、凹凸、等の機械的特性のみならず、電気特性、光学特性にも大きく影響するため非常に重要である。特に高密度、高硬度、高付着力、高平滑性を実現するためには、成膜中の基体表面へ高いエネルギー(10〜100エレクトロンボルト程度のエネルギー)を持つ粒子を入射させ、そのエネルギーを基体表面に与えることが極めて有効であることが広く知られている。
図1に示したマグネトロンスパッタリング装置においては基体の電位がアース電位に固定されてしまい、かつプラズマの電位は通常のスパッタリング方式で用いられるプラズマにおいてはプラス数エレクトロンボルト程度に成膜条件から定まってしまい自由に変更することが出来ないため、粒子の持つエネルギーレベルはプラス数エレクトロンボルト−ゼロエレクトロンボルト=数エレクトロンボルトレベルとなり、高密度、高硬度、高付着力、高平滑性を実現するために人為的に基体表面に入射する各種粒子のエネルギーを10エレクトロンボルト程度以上に高くすることがほぼ不可能であった。
従来技術2; 上記従来技術1に対し、基体表面に入射する粒子のエネルギーを高くし、もって高密度、高硬度、高付着力、高平滑性を実現するために基体を設置する電極を陽極とは別に設け、これに独立の電源によってバイアスと呼ばれる電圧を印加することを特徴とするバイアススパッタリング方式と称されるスパッタリング技術がある。
代表的なバイアススパッタリング装置の概略を図2に示す。陽極(1)、陰極(2)、絶縁体(3)、シールド(4)、磁束線(8)の関係は図1と同一の配置をとる。異なるのは基体(6)が陽極である装置壁面ではなく、絶縁体(3)を介して真空装置内に設置されたバイアス用独立電極(7)上に設置されていることである。このためバイアス電極(7)の電位をバイアス印加用電源(図示外)にて変化させることにより、プラズマ電位はプラス数エレクトロンボルト程度に固定させるが、基体電位を独立にアース電位よりも低い電位(たとえばマイナス10エレクトロンボルト)に設定することが可能であるため粒子のエネルギーレベルは、数エレクトロンボルト−マイナス10エレクトロンボルト=10数エレクトロンボルトと原料が基体表面に入射する際のエネルギーを高くすることが可能になり、その結果得られる薄膜の高密度、高硬度、高付着力、高平滑性を実現することができる。
しかしながらこの方式においてはバイアス用に電源を追加する必要があり装置が複雑かつ高価になることが欠点のひとつとして挙げられる。これらスパッタリング方式において用いられる電源は、負荷であるところのプラズマが非線形極まる挙動が本質であるために通常の安定化電源とは比べ物にならないくらい高度な回路設計や何重もの保護回路が施された高価なパルス電源等が必要とされる。このためこのような複雑な電源回路を要した複数の電源を用いることはスパッタリング成膜装置の価格に直結し、価格を著しく押し上げてしまうことになる。
また、スパッタリング用(陽極−陰極間に成膜用のプラズマ放電のための電位を印加する)およびバイアス用(陽極−バイアス電極間にバイアス用の電位を印加する)の電源はプラズマを介してお互いに干渉するため薄膜の高密度、高硬度、高付着力、高平滑性を低プロセス温度で実現し、バイアス電位を下げ(マイナス側に大きくする:マイナス20ボルト、マイナス30ボルト・・・)、放電が不安定になりやすく、その結果スパッタリング成膜が不安定になりやすく、膜質の劣化や再現性に問題を引き起こし、最悪放電が維持できないと言った事態が発生したり、不安定な放電の結果上記2電源の故障頻度が高くなることといった問題があることも指摘されている。
従来技術3;バイポーラパルススパッタリング方式
前項で記したバイアススパッタリング方式は薄膜の高密度、高硬度、高付着力、高平滑性を低プロセス温度で実現することを目的としていた。これに対して成膜の高速化、長時間安定化を目指して開発されたスパッタリング方式にバイポーラスパッタリング方式がある。絶縁物薄膜の高速安定成膜をスパッタリング法で実現する際の大きな障害は、陽極の表面に形成される絶縁体薄膜である。陽極表面上に形成される絶縁膜は陽極からの電流の流れ出しを阻害するため、成膜のためのプラズマへの電力投入を阻害し、その結果放電の維持が困難となり、スパッタリングによる薄膜の形成を停止してしまう。そのためスパッタリング装置を設計するにおいては、長時間の安定な放電を維持するために陽極を薄膜形成を受けにくい位置に配置する等の工夫がされてきたが、長時間わたる操作には限界があり、十分とはいえなかった。
これに対し、バイポーラスパッタリング方式においては陰極面が常にスパッタリング現象にためエッチングを受けるため絶縁体が形成されず、常に清浄に保たれることに着目して、電極の極性を交互に入れ替えながら、つまりある瞬間陽極であった電極が、次の瞬間には陰極として働き、また陽極に戻るという繰り返しを成膜中に実施する方法が提案され、絶縁体薄膜形成の際の長時間安定な放電の維持に有効であることが示された。これがバイポーラスパッタリングと称される方式であり、1〜数100kHzの交流の電位を2つの電極に与えること、およびこれら2電極はプラズマ局在を促進するためのバランス型、もしくはアンバランス型の磁束線の配置を持っていることが特徴である。
図3にバイポーラスパッタリング方式の概念図を示す。通常のスパッタリング装置に用いる陰極と同様の設計の電極(9)(陰極/陽極)を用意し、絶縁体(3)、シールド(4)、磁束線(8)からなる組を2組配置し、各々の電極表面には形成する薄膜材料の原料となるターゲット物質を保持している。この2電極間に1〜数100kHzの交流の電位を交流電源(図示外)によって与えることによって、上記のように2つの組の電極(9)表面の原料はそれぞれ極性を交互に入れ替えながら動作する。すなわち、陰極として作動している間はスパッタリング現象のためにエッチングを受けて清浄化されると同時に原料を気化させる。陽極として動作している間はプラズマへの電力投入を担い、その間は絶縁体の形成は進むものの、次の瞬間には陰極に切り替わって清浄化させるため絶縁体薄膜形成時の長時間の放電維持が可能となる。
このようにバイポーラスパッタリング方式は絶縁体薄膜を長時間にわたってスパッタリング操作し、あるいは安定かつ高速に成膜するために開発された技術であるが、原料が基体表面に入射する際のエネルギーを高くする効果も併せ持っており、形成温度の低減や薄膜の密着性の改善、密度の向上等にも有効であることが報告され、かつ実際のプロセスにおいてもこのような目的で使用され、所定の効果を納めることができたとの報告がなされている(例えば 非特許文献1)。
バイポーラスパッタリング方式の電源は、極性が1〜数100kHzの周期で入れ替わるパルス、矩形波等の各種波形の交流電源を1台のみ用いているため前記バイアススパッタリング方式におけるように電源の干渉問題は発生しない。しかしながら、この極性が1〜数100kHzの周期で入れ替わるパルス、矩形波等の各種波形の交流電源は、通常用いる電源よりも著しく高価であるためバイアススパッタリング方式よりも装置価格は概して高価となることが最大の欠点であるといえる。
また、本来この方式が開発された経緯は、形成温度の低減や薄膜の平滑性、密着性の改善、密度の向上にあったものではなく、長時間にわたる安定成膜操作を意図したものであった。このため、この方式によって基体表面に原料粒子を入射する際、入射エネルギーを高いレベルにしようとする狙いに対しては限界があり、せいぜい10エレクトロンボルト程度にすぎず、十分なレベル達しているとは言えず、成膜操作において期待されている形成温度の低減や薄膜の平滑性、密着性の改善、密度の向上といった品質上の作用効果は、バイアススパッタリング方式に比して決して優れているとは言えなかった。最近の研究によると、この方式によって形成温度の低減や薄膜の平滑性、密着性の改善、密度の向上等を図ることが出来ない原因や、その原因を克服して可能とする試みも発表されているが(例えば、非特許文献1参照)、十分に解明され、有効な手段に至ったとはいえない状況である。
P.Frach,K.Goedicke,C.GottfriendandH.Bartzsch,Surf.Coat.Technol.142(2001)628−634
従来技術は、前示したとおりであり、そのいずれも技術的に、またコストにおいて問題のあるものであった。特に、従来技術2のバイアススパッタリング、および従来技術3のバイポーラスパッタリング方式は、いずれも粒子の高エネルギー化を狙いとし、薄膜の高密度、高硬度、高付着力、高平滑性を低プロセス温度で達成することが求められる成膜プロセスに広く用いられている。しかしながら切削工具の長寿命化のための硬質皮膜を形成する場合やプラスチック基体等の耐熱性の低い基体上へ低プロセス温度でスパッタリング法によって結晶化した薄膜形成を試みる場合等の極めて高い粒子エネルギーが必要な場合
には粒子のエネルギーをさらに上げる必要があり、バイアススパッタリング、バイポーラスッパタリングともに十分とは言えなかった。
また、バイアススパッタリング方式、バイポーラスパッタリング方式は、ともに複数の、極めて高価なスパッタリング用電源設計を必要としていることから、その装置価格は高くならざるを得ず、これを安く設計することが困難であった。このようなことから、単一の電源方式でしかも高エネルギー粒子が得られるスパッタリング方式が開発されることが経済的、技術的背景として存在し、その開発が求められていた。さらに、バイアススパッタリング方式においては、プラズマを媒体とした複数台の電源間の干渉が生じ、スパッタリング操作、特に品質の高い均一性が求められる成膜操作に支障をきたし、放電異常を引き起こすことによって運転停止や電源故障といった不都合を引き起こす。これらの問題は、解決が急がれる課題のひとつであり、これを達成するためにも単一の電源で有効に粒子の高エネルギー化を実現し、解決することが求められている。
本発明は、以上の事情を考慮してなされたものであり、従来のバイアススパッタリング方式やバイポーラスパッタリング方式と比較して原料が基体表面に入射する際のエネルギーを高くすることにより薄膜形成温度の低減や薄膜の密着性の改善、薄膜の密度の向上等を実現でき、かつ単一の比較的安価な電源のみで安定して駆動されることで装置価格を低廉に抑えかつ安定な放電が可能なスパッタリング装置を提供しようというものである。
また、スパッタするターゲット成分粒子を基体表面に入射させる際のエネルギーを、より高くする必要のある場合には、本発明とバイアススパッタリング方式とを組み合わせて実施することにより、従来到達不可能であったエネルギー領域まで基体表面に入射する粒子のエネルギーを上昇させることを可能とするスパッタリング法方法を提供しようというものである。
このため本発明者等において鋭意研究の結果、前述のように議論の対象であったバイポーラスパッタリング方式における入射粒子の高エネルギー化が陽極として働く電極近傍の磁界の効果であることを見出した。スパッタリング装置において陰極は、薄膜形成の元となる材料を保持し、その表面近傍にプラズマを発生させてスパッタリング現象により原料を気化させるという最も重要な役割を担っている。このためスパッタリング装置を構成する各要素の中でも、陰極に関しては広く研究が実施されている。中でも陰極面近傍により濃くプラズマを局在させるための陰極近傍の磁場配置や制御法、設計法に関しては極めて広く研究されており、特許出願については枚挙するに暇がない。
これに対して陽極面は、原料気化もなく、敢えて陽極面近傍に磁場を用いてプラズマを制御する必要性は希薄であり、要するに陰極の補助程度、放電維持のための電流の流れ出しに支障がなければよいという程度の考え方が基本的であった。このため陽極の磁場設計に関する研究は陰極のそれと比較して極めて少なく、充実しているとは言えなかった。
本発明者等においては鋭意研究の結果、従来成膜条件等から自ずと決定され、従来は、自由に変化させることが不可能であったプラズマ電位を、成膜条件はこれまでと同様にして、プラズマ電位を上昇させることが可能であることを見出した。
その実現手段を包括的に述べると、荷電粒子の陽極から陰極にいたるすべての有効な経路に対して各経路中の最強磁場強度を少なくとも特定の値以上に設定すること、すなわち、10ガウス以上となるようにスパッタリング装置全体の磁場設計を施すこと、ということができる。適正に磁場設計がなされた場合、荷電粒子の陽極から陰極にいたるすべての有効な経路に対して各経路中の最強磁場強度が5ガウス程度でもプラズマ電位上昇の効果は認められるが、薄膜を低プロセス温度で高密度、高硬度、高付着力、高平滑性を達成するのには基体への入射粒子のエネルギーを10エレクトロンボルト程度まで上昇させることが必要であるが、そのためには荷電粒子の陽極から陰極にいたるすべての有効な経路に対して各経路中の最強磁場強度を10ガウス以上が必要で、とりわけ30ガウス〜10000ガウスの範囲に設定することが好ましい。
スパッタリング成膜は、磁場設計を総じて10ガウス以上、好ましくは30ガウス〜10000ガウスの範囲に設定することであれば基本的に安定な実施可能な条件であるといえるが、実際には様々な因子が作用することから、各成膜材料、成膜速度、成膜条件やその安定性、得られる薄膜の膜質等と照らし合わせつつ最適な磁場強度を選定することがより有効であることはいうまでもない。このなかでも30〜5000ガウスの範囲が最適な場合が多く、一応の目安となる。このような効果を実現するための磁場設計に関しては荷電粒子の陽極から陰極に至るすべての有効な経路に対して各経路中の最強磁場強度が10ガウス以上となるようにスパッタリング装置全体の磁場設計を施すという条件を満たせば良く、必ずしも陽極あるいはその近傍の磁場設計を上記条件を満たすように施す必要はない。
しかしながら陰極近傍は既に成膜プラズマ局在させるためのさまざまな磁場設計が施されていることが一般的であり、陰極近傍に新たに本発明の条件を満たす磁場設計を、既存の成膜プラズマ局在を局在させるためのさまざまな磁場設計を乱すことなく施すことは事実上不可能である。
また、陰極およびその近傍、あるいは陽極およびその近傍を除くスパッタリング装置内の空間に磁場設計を施すことにより本発明を実現することを試みようとしても、このスパッタリング装置内の空間は当然であるが陰極面から放出された原料粒子が基体表面へ移動して薄膜を形成する際の原料の経路の役割を果たす必要があるため、磁場を発生させる磁石等の配置には原料粒子の基体への到達を妨げないことという大きな制約を伴い困難である。
このため比較的広い空間に磁場を配置する必要が出てくるため、現実的な磁場発生手段であるところの磁石の磁場強度が不足する可能性が高い。さらにはこの空間においては荷電粒子の陽極から陰極にいたる有効な経路が複雑に入り組みやすいため、すべての有効な経路に対して各経路中の最強磁場強度を10ガウス以上に保つための磁場設計そのものも容易ではない。
これに対して当該磁場設計を陽極面近傍、より具体的には陽極面直上のスパッタ装置内の空間に施すことが最も現実的かつ有効な手段となる。この方法を図4に基づいて説明する。陰極(2)やその磁場(8)設計に関しては通常のスパッタリング方式と同様の構成を使用できる。陽極(1)に関しては装置壁面ではなく独立な電極を装置壁面とは絶縁体(3)で絶縁して設置する。また陽極面直上には磁石(5)により陽極面にほぼ平行となるようにほぼ均一な磁束線(8)を陽極面に平行な方向の磁場強度が10ガウス以上になるように配置する。この磁場強度は磁石の強度や磁石間の距離等で制御できるため、これを用いて各種の応用毎に最適化することが可能である。
これは2個の永久磁石のN極とS極を向かい合わせに配置することによって容易に実現される。またこの方法の長所は容易に実現でき設計がきわめて容易であることのみならず、陽極面に平行な磁場強度を非常に均一に形成できることも長所としてあげられる。また荷電粒子の陽極から陰極にいたるすべての有効な経路が上記磁場を発生させた領域を通過するように、シールド(4)等を用いて当該磁場領域を通過せずに陽極面に至る経路が発生しないように遮蔽を行う。
これによって荷電粒子の陽極(1)から陰極(2)にいたるすべての有効な経路は上記の均一な磁場領域を通過することになるため、各経路中の最強磁場強度は自動的に磁石の配置から決定された所望の値以上であることが保証され、本発明の条件を満たすことができる。さらに発展的な手段として開度を調節可能なシャッター(10)をシールド(4)に接するように配置することで陽極の有効面積を制限することが可能であり、この陽極の面積の制限は上記磁石の強度や磁石間の距離の調節で得られるものと類似の効果が得られる。基体(6)は図4のように装置壁面に設置することでアース電位としても、本発明の効果は十分に得られるが、さらに強い効果を要求される用途においては基体(6)をバイアススパッタリング時に用いた電極(図2のバイアス電極(7))上に配置してバイアス電位を印加することも可能である。
本発明の目的ないし目的に対応した効果は、上記磁場設計を施すのみでも達成することができるが、本発明者等はさらには鋭意研究した結果、上記磁場設計と直流放電を組み合わせて用いることが最も薄膜の高密度、高硬度、高付着力、高平滑性を低プロセス温度で実現するための基体への入射粒子の高エネルギー化に有効であることを見出した。具体的な手法を図4に基づいて説明する。まず、スパッタリング装置にスパッタリング用陰極(2)に対して通常のスパッタリング用直流電源(図示外)の負極を接続し、上記磁場設計を施した陽極(1)に対しては同スパッタリング用直流電源(図示外)の正極を接続し、これらの間に直流電圧を印加することによってスパッタリング用プラズマを発生させ、成膜を実施する。
スパッタリング用直流電源の代わりに各種スパッタリング用交流(低周波〜高周波)電源を用いても薄膜の高密度、高硬度、高付着力、高平滑性を低プロセス温度で実現するための基体への入射粒子の高エネルギー化は実現されるが、直流電源を用いた場合が最も入射粒子の高エネルギー化が顕著である。交流電源の場合、低周波から高周波へと周波数が上昇するにつれ、入射粒子の高エネルギー化の効果は徐々に低下する。すなわち最も単純で安価な直流電源と上記磁場構成を組み合わせることが最も有効であるため入射粒子の高エネルギー化という観点からも、装置の価格抑制の観点からも直流電源と上記磁場設計を組み合わせることが好ましい。
以上述べたことから、本発明の構成は、以下(1)から(9)に記載したとおりである。
(1) 荷電粒子の陽極から陰極にいたる有効な経路に対して各経路中の最強磁場強度が10ガウス以上となるようにスパッタリング装置全体の磁場設計を施したことを特徴とするスパッタリング装置。
(2) 陽極面にほぼ平行に磁束を配置する機構を陽極表面あるいはその近傍に取り付け、荷電粒子の有効な各経路に垂直方向の磁場を10ガウス以上、好ましくは30から10000ガウスの範囲に設定することを特徴とした請求項1記載のスパッタリング装置。
(3) 陽極近傍に開度調節可能なシャッターを設置し、その開度を調節することにより基体への入射粒子のエネルギーを調節することを特徴とする請求項1記載のスパッタリング装置。
(4) スパッタリング成膜を実施する基体にバイアス電位を印加することで、さらに基体への入射粒子のエネルギーを高めることを特徴とした請求項1ないし3記載のスパッタリング装置。
(5) 陽極として用いる電極には、通常スパッタリング陰極に施されている磁場配置と同様の磁場配置が陽極にも施されていることを特徴とする、請求項1ないし4記載のスパッタリング装置。
(6) 該磁場配置がバランス型磁場配置である請求項5記載のスパッタリング装置。
(7) 該磁場配置が非バランス型磁場配置である請求項5記載のスパッタリング装置。 (8) 陽極および陰極の間に0ヘルツ(直流)から1000ヘルツの間の低周波電圧を印加することで放電を生ぜしめることを特徴とする請求項1ないし5記載のスパッタリン
グ装置。
(9) 陽極および陰極の間に直流の電圧を印加することで放電を生ぜしめることを特徴とする請求項6記載のスパッタリング装置。
本発明は、上記構成によって従来のバイアススパッタリング方式のようにスパッタリング成膜用電源以外にも異なる独立したバイアス印加用電源を用いることもなく、スパッタリング成膜用電源単独でバイアススパッタリング方式と同等あるいはそれ以上の高密度、高硬度、高付着力、高平滑性を低プロセス温度で実現することが可能とするものである。その意義は大きい。また、複数の電源ないしはそのための関連制御機構を必要としていたこれまでの機器による場合に比し、コストが低減でき、その意義も大きい。さらにバイアススパッタリング方式の最大の弱点とされてきたプラズマを介した、スパッタリング成膜用およびバイアス印加用の両電源の干渉に伴うプラズマ放電の不安定化の発生原因を根絶することを可能にしたもので、特筆に価する。
電源の干渉は、プラズマの不安定化や異常放電による放電停止の原因となり、当然スパッタリング成膜を不安定化し、得られる薄膜の膜質の劣化や再現性に問題を引き起こす。さらにバイアススパッタリング方式におけるこのプラズマを制御する両電源の干渉はスパッタリング用成膜電源のみを単独で使用している場合と比較した場合、異常放電に起因する電源の故障頻度が著しく高くなることからも経済的、時間的損失が発生することがさらに欠点として指摘されているが、本発明はこれらバイアススパッタリング方式において2電源の干渉から発生する上記諸問題を原理的に根絶する効果を有している。
さらに本発明の優れた点は、本発明の設計によるスパッタリングとバイアススパッタリング方式とを組み合わせることで従来法では到達することが不可能であった高エネルギー領域に基体への粒子の入射エネルギーを設定可能であることである。バイアススパッタリング方式において、基体への粒子の入射エネルギーの上昇はバイアス電源による印加電圧をマイナス側に大きくすることにより実現される。ところがより高い基体への粒子の入射エネルギーを目指してバイアス電源による印加電圧をマイナス側に増加させると、前述の電源の干渉による異常放電が顕著になり、放電の維持すらままならなくなり、成膜は不可能となる。この現象がバイアス方式による基体への粒子の入射エネルギーの上限を支配している。ところが前述したように、本発明の設計を施したスパッタリング装置にバイアス電極およびバイアス電源を付加する事により、その効果は相乗的に優れた効果が奏せられ、基体への粒子の入射エネルギーをより高く上昇させることができる。これによって、スパッタリングの適用範囲を広げることができ、各種技術分野の発展に大いに寄与することが期待される。
またバイポーラスパッタリング方式と比較した場合、このバイポーラスパッタリング方式で必須となってくる極性が1〜数100kHzの周期で入れ替わるパルス、矩形波等の各種波形の交流電源は、通常用いる電源よりも著しく高価であるため、本発明の適用により、スパッタリング成膜用の電源としては最も単純かつ安価な種類である直流電源を1台のみ使用する本発明の適用による装置価格抑制効果は著しいものがある。また後述する実施例においても示す様に、バイポーラスパッタリング方式を適用した場合の基体への粒子の入射エネルギーの上昇効果は本発明の適用(バイアス印加なし、基体電位アース)の場合と比較しても劣り、高密度、高硬度、高付着力、高平滑性を低プロセス温度で実現する能力においては、本発明はバイポーラスパッタリング方式を超えることは実験的に確かめられ、きわめて優れていることは明らかである。
発明の作用;
本発明において設定した磁場設計によって付与される陽極面にほぼ平行な磁束(磁場)
は、ローレンツ力によりプラズマ中の各種荷電粒子の磁束への巻きつき運動を誘起し、荷電粒子を捕捉する方向の力、すなわち荷電粒子の動きを妨げる力を及ぼす作用がある。荷電粒子の動きはすなわち電流であり、荷電粒子の動きを妨げる力はすなわち抵抗(インピーダンス)として作用する。
このように陽極面にほぼ平行な磁束は、陽極から流れ出ようとするプラズマ電流に対してインピーダンスの増加として作用し、プラズマの電位を押し上げる作用がある。プラズマの電位が押し上げられることにより、アース電位からプラズマ電位までの電位差が大きくなり、基体をアース電位に保った通常の場合では基体表面に入射する粒子のエネルギー(基体の電位=電位アース電位からプラズマ電位までの電位差と正の相関を持つ)が大きくなる。
本発明において、陽極近傍のシールドは、荷電粒子の有効な経路が磁場設計を施した領域を通過することを補助するために、荷電粒子の移動経路を制限する作用がある。また本発明における陽極近傍に開度調節可能なシャッターとは陽極の有効面積を調節する作用があり、その結果として上記のインピーダンスを調節する作用がある。インピーダンス調節は上記と同様の原理でプラズマの電位の調節ひいては基体表面に入射する粒子のエネルギーの調節を可能にする。
本発明においてバイアス電極は、絶縁体により一般的にアース電位とされる装置壁面と電気的に切り離されることにより、バイアス電極上に配置された基体の電位をアース電位と異なる電位に設定することを可能にする作用がある。バイアス印加用電源により電圧を、バイアス電極の電位すなわちこの場合は基体の電位をアース電位(ゼロ電位)より低く(マイナス側)設定することにより、プラズマ電位から基体電位(この場合はマイナス)までの電位差を、基体をアース電位に保った場合よりも大きくする。
本発明においてスパッタリング用電源の周波数(直流を使うか、交流を使うか、交流でも低周波か高周波か)の設定とその作用について記載する。
陰極、陽極間に交流の電圧を印加してプラズマを発生せしめた場合、荷電粒子の挙動は十分高い周波数の交流電圧の印加において各荷電粒子はほぼその場(スパッタリング装置内の空間内の各々の粒子の位置)において振動するだけである。この場合陽極から陰極にいたる経路中に磁場により誘起されたインピーダンスの高い領域があったとしても、この領域から離れたところで振動している荷電粒子はこのインピーデンスの影響を受けず、結果としてのプラズマ電位の上昇が得られない。
ところが周波数が下がるにつれて荷電粒子の振動の振幅は増大し、インピーダンスの高い領域を通過する荷電粒子数はそれにつれて増大し、この現象は直流の電圧で放電を維持した場合に最も顕著になる。すなわち低い周波数を使えば使うほど、磁場への巻きつき効果から派生するインピーダンス上昇の効果が大きくなり、その結果としてプラズマの電位が押し上げられることにより、基体表面に入射する粒子のエネルギーが大きくなる。要約すると、低い周波数特に直流の放電を実施することはプラズマのインピーダンスを媒介としての基体表面に入射する粒子のエネルギーの上昇を促進する作用がある。また、この作用を用いて周波数の選択により基体表面に入射する粒子のエネルギーの調節を実施することも可能である。
本発明の実施の形態を以下図面4ないし8及び実施例に基づいて説明する。ただしこれはあくまでも本発明を説明するための一つの態様を示すものであり、本発明を限定する趣旨ではない。
本実施例を示す図4において基体(6)はアース電位を有する装置壁面に設置されており、バイアス電極およびバイアス電源は一切使用していない。用いられた基体は、鏡面研磨を施したステンレス板(10mm角、0.5mm厚)からなり、陰極(2)は、陰極面が200mm×135mmの面積を持つチタン金属で構成され、その表面近傍にはスパッタリング方式において最も一般的とされるバランス型の磁場(8)が設定配置されている。陽極(1)は、通常のスパッタリング方式においては、図1に示されているように真空容器壁面を陽極とする方式が採用されているところ、本発明では基体(6)や真空容器とは切り離し、絶縁体を介して真空容器内に独立した形に設計した。
本実施例においては、陽極面の材料および面積は陰極面と同一の200mm×135mmの面積を持つチタン金属を用いたが、磁場の配置は陰極(2)で用いたスパッタリング陰極用にプラズマを陰極面近傍に局在させるためのバランス型磁場配置ではなく、2個の長さ200mmの棒状の永久磁石(5)のN極およびS極を向かい合わせに陽極面直上に配置することで陽極面直上に陽極面とほぼ平行に磁束線(8)を配置した。この場合の磁場の強度は磁束線(8)の中心の領域において、米国SYPRIS社製ハンディーガウスメータ5080番のプローブ面(ホール素子)に対して磁束線が垂直に通過するように測定して63ガウスであった。
またこの磁束線を配置した領域以外を荷電粒子が通過して陰極面から陽極面に至ることを防止するためシールド(4)を用いて荷電粒子の移動を制限した。図4においては磁石(5)やシールドは陽極に取り付けたかのごとく図示されているが、これはこれら構成部品を陽極に取り付けるよう限定するものではない。しかしながら設計・製作・取り扱い易さを考慮した場合、これらの部品は陽極と組み立て自在に一体化するほうが合理的であり、好ましい。
駆動電源は、本実施例では直流スパッタリング電源を用い、その出力端子の正極を本実施例の陽極(1)に、負極を陰極(2)に接続し、印加電力が500ワットで一定となるように制御、調整した。スパッタリング装置内の雰囲気ガスはスパッタリングガスとして最も一般的なアルゴンガスを用い、その圧力は0.5パスカルで一定となるよう制御を行った。また基体への粒子の入射エネルギー測定のために、基体と隣接して質量・エネルギーの分析装置(英国ハイデン社製EQP300型、図示外)を設置して測定を行った。
図6に本実施例を適用した場合の基体への粒子(アルゴンイオン)の入射エネルギーの測定結果を示す。この図によると、15エレクトロンボルト程度のエネルギーを持った粒子が最も多いが、特筆すべきは30エレクトロンボルト以上という、通常のスパッタリング方式においては絶対に到達不可能な高エネルギーの粒子がかなりの割合で存在し、基体表面へ入射していることがわかった。ちなみに、1エレクトロンボルトは温度に直すと1万度以上の温度差に対応することから、この測定結果から本発明が如何に優れたスパッタリング装置であるか当業者であれば容易に理解されるものと思量される。
このように本発明は、バイアススパッタリング方式(図2に示したようにバイアス電極と同電位になるよう設置した基体に対してバイアス用電源を用いて負の電位を与えることで基体表面への粒子の入射エネルギーを上昇させる手法)において35ボルトの負電位をバイアス電極に印加した場合と同等の効果を、バイアス電極およびバイアス用電源を用いることなく、スパッタリング用電源1台のみによる安定な放電として実現できたもので、その意義はきわめて大である。
さらに基体への入射粒子のエネルギーを上昇させたい場合は磁石の強度を上昇させる等により、調整が可能であることは前述のとおりである。また本発明の別な実施形態のひとつとして図5に示すように通常スパッタリング方式において陰極として用いられる磁場設計(バランス型、アンバランス型等)を陽極にも適用し、直流放電によるスパッタリングを実施することもできる。これは図4に示した2個の永久磁石(5)のN極およびS極を向かい合わせに陽極面直上に設置することで陽極面直上に陽極面とほぼ平行に磁束線(8)を配置する場合と比較して、陽極のほぼ中心付近で磁束の陽極面に垂直な成分が支配的になりロスが生じるため、図4の実施態様に比較して、若干入射粒子のエネルギー上昇の効果を得にくくはなるものの、磁場強度を上げる等の工夫を施すことによって十分薄膜の高密度、高硬度、高付着力、高平滑性を低プロセス温度で実現する効果を得ることができる。
比較例1;
本発明の効果を検証するために、通常のスパッタリング方式(図1)の構成をとった場合の基体への粒子(アルゴンイオン)の入射エネルギーと比較した。通常のスパッタリング方式の構成をとるには図4に示す本実施例態様からその特有な磁場設計を施した陽極全体すなわち陽極(1)およびその絶縁体(3)、シールド(4)、磁石(5)、磁束(8)をとりはずした構成と同一である。このため本比較例でも前期実施例から上記磁場設計を施した陽極を取り外し、直流スパッタリング電源の出力端子の正極を装置壁面に、負極を陰極(2)に接続し、電源の制御は印加電力が500ワットで一定となるような制御を行った。それ以外の構成は前記記載の実施例の場合と全く同一である。
この場合の基体への粒子(アルゴンイオン)の入射エネルギーの測定結果を図7に示す。基体への入射エネルギーは5エレクトロンボルト付近に最大値を持つエネルギー分布になり、10エレクトロンボルト以上のエネルギーを持つ粒子はほとんど観測されていないことがわかる。すなわち本比較例との比較により本発明の磁場制御を施した陽極の適用により、通常のスパッタリング方式では10エレクトロンボルト以下しか得られなかった粒子のエネルギーを最大35エレクトロンボルト程度まで引き上げることが可能になった。
比較例2;バイポーラスパッタリング方式
図3に示したのはバイポーラスパッタリング方式の概念図である。これは発明を実現する手段の項でも説明したが、この手法の最大の特徴は2つの電極(9)が陰極・陽極の役割を1から100キロヘルツ程度の周期で交互に入れ替えながらスパッタリング成膜が進行することである。本比較例においては両電極共に電極面は200mm×135mmの面積を持つチタン金属で構成した。この2つの電極の陰極・陽極の役割を1から100キロヘルツ程度の周期で交互に入れ替えるために、1から100キロヘルツ程度の交流のスパッタリング電源(図示外)が用いられる。
本比較例においては50キロヘルツの周期で極性が入れ替わる交流の矩形のパルス波を生成する電源を実効電力が500ワットになるよう調整して用いた。基体(6)はアース電位を有する装置壁面に設置されており、バイアス電極(7)およびバイアス電源(図示外)は一切使用していない。また基体としては鏡面研磨を施したステンレス板(10mm角、0.5mm厚)を用いた。スパッタリング装置内の雰囲気ガスはスパッタリングガスとして最も一般的なアルゴンガスを用い、その圧力は0.5パスカルで一定となるよう制御を行った。
また基体への粒子の入射エネルギー測定のために、基体と隣接して質量・エネルギーの分析装置(英国ハイデン社製EQP300型、図示外)を設置して測定を行った。これら電極および電源以外の構成は実施例および比較例1と統一した。この場合の基体への粒子(アルゴンイオン)の入射エネルギーの測定結果を図8に示す。基体への入射エネルギーは10エレクトロンボルト付近に最大値を持つエネルギー分布になり、20エレクトロンボルト以上のエネルギーを持つ粒子はほとんど観測されていないことがわかる。
つまりバイポーラスパッタリング方式による基体への入射エネルギーは比較例1の通常の直流スパッタリング方式と比較すると上昇の効果は数エレクトロンボルト程度見られるものの、本発明を実施した場合の最大35エレクトロンボルトと比較すると明らかに高いエネルギーの粒子が少ないことが分かった。
以上の結果、実施例、比較例1、比較例2の3者を比較すると、本発明の磁場設計を施しただけの簡単な構成を講じ、これに安価な直流電源を組合せることによって、極めて大きな効果が奏せられた意義は明らかである。
本発明は、これまでのいずれのスパッタリング方式でも得ることができなかった高いエネルギー領域に、基体への粒子の入射エネルギーをスパッタリング成膜用電源単独で上昇させること、安定して操作可能とすること、低コスト化することに成功したものであり、これまで困難であった高い入射エネルギーが求められるスパッタリング操作、極力低温での操作が求められるスパッタリング操作、あるいは高い品質の成膜操作が求められるスパッタリング操作等へ提供することが可能となり、エレクトロ技術分野はいうに及ばず、切削工具表面加工、耐熱性の低いプラスチック類への表面加工等各種技術分野に適用され、広く産業の発展に大いに寄与することが期待される。
最も一般的なスパッタリング装置の概略図。 基体にバイアス電圧を印加することで基体への粒子の入射エネルギーを上昇させるバイアススパッタリング装置の概略図。 絶縁体薄膜のスパッタ成膜の長時間安定化を主目的として開発されたバイポーラ型スパッタリング装置の概略図。 永久磁石を用いて陽極面にほぼ平行な磁束を配置し、これを直流スパッタリング電源による放電と組み合わせた本発明の実施例。 陽極に陰極と同じバランス型の磁束を配置し、これを直流スパッタリング電源による放電と組み合わせた本発明の実施例。 本発明の実施例を適用した場合の基体への粒子(アルゴンイオン)の入射エネルギーの測定結果(実測値)。 比較例1の通常の直流スパッタリング方式を適用した場合の基体への粒子(アルゴンイオン)の入射エネルギーの測定結果(実測値)。 比較例2のバイポーラスパッタリング方式を適用した場合の基体への粒子(アルゴンイオン)の入射エネルギーの測定結果(実測値)。
符号の説明
(1):陽極
(2):陰極
(3):絶縁体
(4):シールド
(5):磁石
(6):基体
(7):バイアス電極
(8):磁束線
(9):陰極/陽極
(10):シャッター

Claims (4)

  1. 陽極面にほぼ平行に磁束を配置する機構を陽極表面あるいはその近傍に取り付け、荷電粒子の陽極から陰極にいたる有効な経路に対して各経路中の最強磁場強度が10ガウス以上となるようにスパッタリング装置全体の磁場設計を施すとともに、陽極と陰極との間に直流の電圧を印加することで放電を生ぜしめるとともに、前記陽極の磁場配置がバランス型磁場配置または非バランス型磁場配置である、スパッタリング装置。
  2. 前記荷電粒子の有効な各経路に垂直な方向の磁場を30ガウスから10000ガウスの範囲に設定する、請求項1記載のスパッタリング装置。
  3. 陽極近傍に開度調節可能なシャッターを設置し、その開度を調節することにより基体への入射粒子のエネルギーを調節する、請求項1記載のスパッタリング装置。
  4. スパッタリング成膜を実施する基体にバイアス電位を印加することで、さらに基体への入射粒子のエネルギーを高めるようにした、請求項1から3の何れかに記載のスパッタリング装置。
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