JP4679022B2 - 標的塩基配列の検出方法 - Google Patents
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Description
本発明は、試料中に存在する特定の塩基配列(以下、標的塩基配列という)の検出方法に関する。
背景技術
核酸塩基配列の相補性に基づく分析方法は、遺伝的な特徴を直接的に分析することが可能である。そのため、遺伝的疾患、癌化、微生物の識別等には非常に有力な手段である。またPCRのような塩基配列を増幅する方法が応用できることから、例えば培養のような時間と手間のかかる操作無しでも高感度な検出が可能となる場合もある。
相補的な塩基配列のハイブリダイゼーションを検出するために、様々な方法が報告されている。もっとも基本的な反応原理は、サザンブロットアッセイとして広く利用されている。この方法は、試料DNAをニトロセルロースフィルターに固定し、これを標識プローブと反応させる方法である。試料DNA中にプローブと相補的な塩基配列が存在すれば、標識プローブはハイブリダイゼーションによってニトロセルロースフィルターに捕捉される。試料DNAの固定操作を省くために、捕捉用のプローブを利用することもできる。この場合は、固相側から順に[固相]−[捕捉プローブ]−[試料DNA]−[標識プローブ]という構成で、標識プローブが捕捉されることになる。いずれの方法を用いるとしても、これらの方法で問題となるのは、標識プローブの標的塩基配列に依存しない固相への吸着である。標識プローブの非特異的な吸着は、感度の低下の最大の要因である。したがって、一般的には、ハイブリダイゼーション反応は、反応とはまったく無関係な塩基配列を持つキャリアーを多量に加えた中で行われる。また、反応後の洗浄を十分に行うことで、非特異的な吸着の影響を抑制するようにしている。しかし、これらの対策は必ずしも十分なものではない。
ハイブリダイズしなかった標識プローブとの分離を必要としない、核酸の分析方法も公知である。たとえば、1本鎖状態と2本鎖状態とでは蛍光標識によるシグナルに変化を生じることを応用したホモジニアスな検出方法が実用化されている。この方法は、バックグランドシグナルの影響を受けるために、高い感度を達成することが難しいという問題点があった。そのため、PCRなどによって予め増幅されたDNAを分析対象とするのが一般的な利用方法である。
一方ゲノムプロジェクトの進展にともなって、単一ヌクレオチド多型(Single Nucleotide Polymorphism、以下SNPと省略する)の存在が注目されている。副作用を含む薬剤の治療効果の違いや、いろいろな疾患の素因の有無を、SNPによって説明できる可能性が推測されたためである。たとえば、薬剤の重篤な副作用がSNPに基づく遺伝的な素因によって左右されていることが明らかになれば、副作用と関連しているSNPを解析することでその薬剤の投与による事故を防ぐことが可能になる。SNPはゲノムの塩基配列における1塩基の多型である。30億塩基におよぶヒトゲノムには、およそ1000塩基ごとにSNPが存在するといわれている。SNPは文字どおりゲノムにおける1塩基の相違を意味する。1塩基の相違を的確に検知するこには実際には高度な技術が求められる。互いに相補的な塩基配列を持つ核酸は、両者の塩基配列が完全に相補的でなくてもハイブリダイゼーションを起こすため、先に述べたようなハイブリダイゼーションアッセイで、1塩基の相違を直接検出することは困難とされている。
現在行われている既知のSNPを検出する方法としては、たとえばPCR−SSCP法を挙げることができる。この方法は、電気泳動分離を必要とすることから、大量の検体の処理には不向きである。したがって、このような問題点の無い、新たなSNPの検出方法の提供が待たれている。
ところで、特定の構造を持つ核酸が、相補的な塩基配列の間の水素結合とは異なる原理で、タンパク質などと特異的に結合する現象は既に知られている。この親和性を利用して、より親和性の大きい核酸分子をインビトロで選択するSELEX法(systematic evolution of ligands by exponential enrichment)も公知である(Nature 355,564−566,1990)。SELEX法は、ランダムな塩基配列を持つRNAのライブラリーをリガンドに接触させ、リガンドに結合したものを回収してRT−PCRで増幅し、増幅精製物を鋳型とするRNAを転写して再びリガンドに接触させる工程を繰り返すことによって、あるリガンドに結合親和性の高い核酸を得る方法である。しかし、このようにして選択された親和性を持つ核酸分子が、各種のハイブリダイゼーションアッセイに利用できることは知られていない。特に、わずかに1塩基の相違を識別することが求められるSNPの検出への応用を示唆する報告はない。
発明の開示
本発明は、特定の塩基配列を持った標的塩基配列の検出において、新規なアイディアに基づいた原理の提案を課題としている。より具体的には、本発明者らが見出した、相補的な塩基配列間のハイブリダイゼーションとは異なる原理に基づいた核酸の結合親和性を標的塩基配列の検出方法に応用することが本発明の課題である。更に本発明は、この新規な原理に基づいて、SNPの検出方法の提供をも課題とする。加えて本発明は、このような核酸の検出方法に有用な、リガンドとの結合活性をもたらす新規な構造を持つ核酸の提供を課題とする。
本発明者らは、DNAに代表される核酸の構造とその核酸によってもたらされる種々の生化学的な活性を塩基配列特異的な新たな核酸の検出方法の原理として採用することができるのではないかと考えた。そして、核酸の低分子化合物に対する結合親和性が、特定の構造を構成する核酸の塩基配列に大きく依存し、たとえばわずかに1塩基の置換によって結合親和性が大きく変動することを確認した。本発明者らは、この知見に基づいて、核酸のリガンドに対する結合親和性をハイブリダイゼーションアッセイに応用することにより、より特異的な塩基配列の検出方法が実現できることを見出した。更に本発明者らは、リガンドとの結合活性に基づく核酸の検出方法によって、SNPの検出が可能となることを見出し本発明を完成した。すなわち本発明は、以下の核酸の検出方法、この検出方法のSNPの検出への応用、そしてこれらの検出方法を可能とする新規な構造を持った核酸に関する。
〔1〕次の工程を含む標的塩基配列の存在を検出する方法。
a)標的塩基配列とプローブをハイブリダイゼーションさせ、リガンドとの結合親和性を有する核酸アプタマーを生成する工程
b)アプタマーの親和性を指標として標的塩基配列の存在を検出する工程
〔2〕標的塩基配列が単塩基多型を含み、プローブが標的塩基配列における単塩基の置換にともなってリガンドとの親和性が変動するものである〔1〕に記載の方法。
〔3〕標的塩基配列とのハイブリダイゼーションによって、リガンドとの結合親和性を獲得するプローブ。
〔4〕標的塩基配列とのハイブリダイズによって3本以上のステムが交差する構造を構成し、このステムが交差する位置でリガンドと結合する〔3〕に記載のプローブ。
〔5〕ステムの数が3本であり、ジャンクションを構成する3組の塩基対のうち少なくとも2組がG−C塩基対である〔4〕に記載のプローブ。
〔6〕各ステムが3塩基対以上の長さを持つ〔4〕に記載のプローブ。
〔7〕3本以上のステムを持ち、このステムが交差する位置でリガンドと結合する核酸アプタマー。
〔8〕〔4〕に記載のプローブからなる、標的塩基配列の検出用試薬。
あるいは本発明は、標的塩基配列とのハイブリダイズによってリガンドとの結合親和性を有する核酸アプタマーを構成することができるオリゴヌクレオチドの、標的塩基配列の検出における使用に関する。
更に本発明は、標的塩基配列とのハイブリダイズによってリガンドとの結合親和性を有する核酸アプタマーを構成することができるオリゴヌクレオチドを構成する塩基配列の選択方法、およびこの方法を実施するためのプログラムに関する。本発明の塩基配列の選択方法は、まず、標的塩基配列、およびオリゴヌクレオチドの塩基配列に含まれる相補的な塩基配列を探索し、1つめのステムが構成できるかどうかを確認する。1つ目のステムが構成できると判断された場合には、1つ目のステムの構成に必要な塩基配列を除く領域の塩基配列によって、更に2つ目、そして3つ目のステムが構成できるかどうかを評価する工程を含む。一方、本発明のプログラムは、これらのステップを実施するためのアルゴリズムで構成される。
本発明において、リガンドとの結合活性を持つ核酸を核酸アプタマーと記載する。核酸アプタマーとは、分子内、あるいは分子間に少なくとも1組の相補的な塩基配列を備え、この相補的な塩基配列のハイブリダイズによって構成された、リガンドとの親和性を有する核酸分子を言う。本発明における代表的な核酸アプタマーは、前記相補的な塩基配列のハイブリダイズによる2本鎖部分(ハイブリッド)と、ハイブリッドを形成しない1本鎖部分とで構成される。本発明における核酸アプタマーは、通常、前記1本鎖部分が水素結合、スタッキング、あるいは疎水性相互作用により、各アプタマーに固有の高次構造を形成する。高次構造の形成に特に重要な結合様式は、水素結合とスタッキングである。また前記水素結合の中で特に重要なのが、Watson−Crick型、非Watson−Crick型、G−カルテットなどの塩基対形成である。
核酸アプタマーのリガンドに対する結合親和性は、高次構造に依存している。したがって、たとえば核酸ハイブリッドを維持できない条件では、高次構造とならないため、結合親和性を失う。核酸アプタマーの高次構造は、一般に、ステム−ループ、ステム−バルジ、およびシュードノット(pseudoknot)の3つのグループのいずれかに分類される。本発明における核酸アプタマーは、望ましくは相補的な塩基配列の近傍にループ、バルジ、あるいは非Watson−Crick型塩基対などの非ステム構造を形成する塩基配列を備え、この非ステム構造がリガンドとの結合部位、またはその一部を構成する。ここで非ステム構造とはWatson−Crick型塩基対からなるステム(B型DNA)以外のすべての高次構造を指す。より具体的には、本発明における核酸アプタマーは、望ましくはステム−ジャンクション構造を有し、ジャンクション部分においてリガンドと結合する。ステム−ジャンクション構造は、ステムループとステムバルジの特徴を併せ持つ構造と言うことができる。
一方、本発明におけるリガンドとは、核酸アプタマーが有する立体構造によって結合される、核酸以外のあらゆる成分であることができる。具体的には、タンパク質のほか、様々な低分子化合物に対して結合親和性を有する核酸アプタマーが報告されている。以下にこれまでに報告された核酸アプタマーのリガンドをまとめた。
アミノ酸(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90,3680−3684,1993)
ヌクレオチド(Nature 364,550−553,1993;Biochemistry 34,656−665,1995)
コエンザイムA(Biochemistry 37,4653−4663,1998)
テオフィリン(Science 263,1425−1429,1994)
アミノグリコシド系抗生物質(Biochemistry 35,12338−12346,1996)
有機染料(Nature 355,850−852,1992)
ポルフィリン誘導体(Biochemistry 35,6951−6922,1996)
なお2本鎖の核酸に結合する蛋白質や色素が公知である。また2本鎖核酸に含まれるミスマッチを認識して結合するMutS等の蛋白質も知られている。本発明のリガンドは、1組の相補的な塩基配列のみによって構成される構造を認識するリガンドを含まない。これらのリガンドを結合する公知の核酸アプタマーは、本発明の核酸の検出方法に利用することができる。この他、後に述べるように本発明者らは核酸で構成されたスリーウエイジャンクションによって、コール酸がリガンドとして捕捉されることを確認した。図2に太字で示した塩基で構成される構造がスリーウエイジャンクション(three−way junction、あるいはthree−stem junction)である。「スリーウエイジャンクション」とは、3本の核酸鎖が相互に2本鎖を形成することによって、結果的に3つの2本鎖核酸が1ヶ所で交錯した構造を言う。すなわち、3本のステム(2本鎖)が1ヶ所で交差しており、6つの塩基による3組の相補塩基対がスリーウエイジャンクションを構成する。3本の核酸鎖は、ステムループ構造を伴った1本鎖核酸(図6b)であっても良いし、あるいは3本の独立した核酸鎖によってスリーウエイジャンクションを構成することができる(図6a)。
更に1つのステムループを伴った1本鎖と、この鎖とは別の1本鎖とがハイブリダイズすることによって2つのステムを構成する構造(図6aにおける3本鎖のうちの任意の2本がループを形成している状態)を想定することもできる。tRNAなどでも類似の構造を取ることは公知であるが、ジャンクション部分にリガンドを捕捉することは、本発明者によって初めて見出された知見である。この新規な構造を持つ核酸アプタマーは、本発明による核酸の検出方法に利用することができる望ましい核酸アプタマーの一つである。
核酸アプタマーを標的塩基配列の検出に利用するには、標的塩基配列の有無によって核酸アプタマーの構造が変わり、リガンドとの結合親和性が変動するように設計する。たとえば先に述べた本発明者らが新たに見出したスリーウエイジャンクション構造によって構成される核酸アプタマーの場合は、リガンドの結合のためにはジャンクション部分の塩基対結合が3つとも完全に相補的でなければならない。更に、より高度な親和性を得るためには、ジャンクションを構成する3組の塩基対のうち、2組がG−C塩基対であることが望ましい。2組のうちの1組はプローブとして用意することができるので、残る1組を標的塩基配列中のG、またはCに求めることになる。言いかえれば、本発明に基づいて標的塩基配列の検出を行う場合には、標的塩基配列中のGまたはCにおいてジャンクションが構成されるようにプローブを設計し、しかもプローブ側のジャンクションに相当する部分がG−C塩基対とするのが望ましいということができる。
あるいは標的塩基配列中のGとCが連続した部分、すなわちGG、GC、CG、あるいはCCをジャンクション構成塩基とすることができる場合には、プローブ側のジャンクション構成塩基は、任意のワトソン−クリック塩基対とすることもできる。もちろん、可能であれば、ジャンクションを構成する3組の塩基対を全てG−C塩基対とすることによって、高度な親和性を確実に達成できることは言うまでも無い。
更に、ステム部分を構成する2本鎖も完全に相補的な方が、より高度な親和性をもたらすことがわかっている。一方、ループ部分の構成塩基は親和性にほとんど影響を与えない。したがって、標的塩基配列の存在によって、親和性の維持に必要な条件が満たされる(または満たされない)ときに、リガンドとの結合活性が標的塩基配列の指標となる。
具体的には、スリーウエイジャンクションを構成する3つのDNA鎖のいずれか1つを標的塩基配列とし、残る2本をプローブとして提供することにより、両者がハイブリダイズしたときにのみステムジャンクションが構成されるようにすることができる。たとえば1つのステムループと、その両端を構成する1本鎖部分に標的塩基配列とのハイブリダイズに必要な相補的な塩基配列を含むようなプローブは、標的塩基配列とのハイブリダイズによりスリーウエイジャンクションを与える。言いかえれば、1本鎖DNAの中心部分を構成する相補的な塩基配列が分子内で2本鎖を構成し、その両側に標的塩基配列に対する相補的塩基配列からなる1本鎖部分を持つT字型のプローブである。このような構成では、3本ステムループのループはプローブ側の1ヶ所にしか構成されない。しかしながら、実施例で確認しているように、3本ステムループ構造におけるループ部分の塩基はリガンドとの結合親和性に影響を与えない。したがって、リガンドとの結合親和性の獲得にはループは必ずしも必要ではない。
本発明において、標的塩基配列とのハイブリダイズによって核酸アプタマーを構成することができるプローブの望ましい構造を以下に示す。
プローブA:−[T1]+[C]−[c]+[T2]−
プローブB:−[T1]+[C]−、および−[c]+[T2]−
[T1]および[T2]は、標的塩基配列における隣接する塩基配列に相補的な塩基配列である。[C]と[c]とは相補的な塩基配列で構成される。なお+は、+の左右に示した領域の間に塩基の介在が許されないことを意味する。他方−で示した部分には任意の塩基配列の介在が許される。プローブAに対して、プローブBは、プローブAにおける[C]−[c]間の結合が無く、2つの異なるオリゴヌクレオチド分子でプローブを構成している。このような構造を有するプローブは、標的塩基配列の存在下で相補的な塩基配列がハイブリダイズすることによって3つのステムが交差するジャンクションを構成する。
本発明においては、以下の構造を有するプローブを核酸アプタマーを構成するプローブとして用いることもできる。
−[T1]+[T2]−
[T1]および[T2]は、標的塩基配列に含まれる、ステム構造を形成することができる相補的な塩基配列に隣接する塩基配列に相補的な塩基配列である。すなわち、標的塩基配列自身が1組の相補的な塩基配列を含んでおり、分子内でハイブリダイズすることができる構造を有する場合には、この相補的な塩基配列の3’側および5’側に隣接する塩基配列に相補的な塩基配列を、それぞれ[T1]および[T2]がハイブリダイズするための領域として選択することができる。
スリーウエイジャンクション構造の核酸アプタマーを利用して、標的塩基配列におけるSNPの検出を行うには、検出すべきSNPがちょうどスリーウエイジャンクションに相当するように、プローブを設計する。このような構成とすることによって、SNPの有無によってリガンドとの結合親和性がきわめて明瞭に変化するような反応系を構成することができる。本発明のスリーウエイジャンクション構造の核酸アプタマーの利用により、ジャンクション部分を構成する塩基対が完全に相補的である場合に比べて、SNPに伴って1組の塩基対にミスマッチが生じた場合のリガンドとの結合親和性が実質的に失われるような特徴的な構造を利用することができる。1塩基の相違によって、大きな結合親和性の違いをもたらす核酸アプタマーによって、高い正確性と感度が期待できる。
本発明においては、標的塩基配列とプローブとのハイブリダイゼーションは、リガンドとの結合親和性を指標として検出される。核酸アプタマーとリガンドとの結合には、公知のあらゆる結合分析の原理を応用することができる。以下に、いくつかの検出原理を具体的に説明する。
不均一系:
標識プローブと標的塩基配列とのハイブリダイズの結果として生じる核酸アプタマーを固相上のリガンドに捕捉することができる。固相に捕捉された(または液相に残った)標識プローブを検出することによって、標的塩基配列の検出が達成される。固相に標識プローブを捕捉する点で公知の核酸ハイブリダイゼーションアッセイと共通するが、固相との結合が相補的な塩基配列間のハイブリダイゼーションとは異なる原理に基づいていることから、より確実な洗浄条件を利用することができる。つまり、相補的塩基対結合には影響を与えない低いストリンジェンシーで洗浄しても、固相やリガンドと非特異的に吸着した標識プローブを十分に除去することができる条件を容易に設定することができる。その結果、バックグランドシグナルの低い特異的な検出が可能となる。
均一系:
蛍光物質と他の分子との結合によって、蛍光偏光が生じる現象が知られている。この現象を利用して、本発明による標的塩基配列の検出方法を均一系で実施することができる。すなわち、プローブまたはリガンドを蛍光標識しておき、核酸アプタマーとリガンドとの結合の結果生じる蛍光偏光を測定することによって、標的塩基配列の検出を行うことができる。蛍光標識には、フルオレセインイソチオシアネートなどが公知である。リガンドとして自身が蛍光を発する化合物を利用することもできる。たとえば核酸アプタマーによって結合される公知のリガンドの一つであるポルフィリン誘導体には、蛍光を発するものが多い。
表面プラズモン共鳴:
物質の結合を光学的に直接検出することができる表面プラズモン共鳴法(surface prasmon resonance;SPR)が公知である。表面プラズモン共鳴(SPR)センサーは金属薄膜近傍の媒質の屈折率の変化を測定することにより、生体分子の相互作用を測定する技術として知られている。SPRは、表面プラズモンが金属/液体界面(センサー表面)で励起した場合に起こり、試料と接触していない表面の側に光を当てて、そこから光を反射させると、SPRによって特定の組み合わせの角度および波長で反射光強度が低下する(SPRシグナル発生)。センサー表面に結合した分子により、表面層近くでの屈折率に変化が生じ、それがSPRシグナルの変化として検出される。生体分子の相互作用により、屈折率とSPRシグナルにさらなる変化が生じ、このシグナルの変化を検出することにより、生体分子の相互作用を測定することができる。本発明における核酸の検出方法では、核酸アプタマーによって捕捉されるリガンドを、チップ上に固定化することにより、標的塩基配列とプローブのハイブリダイゼーションによって生成する核酸アプタマーの量を、SPRシグナルの変化から測定することができる。標的塩基配列は、PCRのような増幅法によって得られた増幅生成物であっても良い。チップ上にリガンドを固定化する方法としては、アビジン‐ビオチン反応を利用することができるが、これに限定されない。SPRによれば、標識物質を用いることなくきわめて高感度な検出が可能となる。
本発明において標的塩基配列となる核酸分子とプローブは、両者のハイブリダイゼーションによって核酸アプタマーを生成することができるものであれば、どのような核酸分子、あるいはその誘導体であることもできる。具体的には、RNAやDNAのような天然の、あるいは化学的に合成された核酸分子、合成ヌクレオチド誘導体で構成されたAAやDNAの誘導体、あるいはバックボーンをペプチド結合やアルキル鎖で構成した誘導体等を示すことができる。これらの核酸分子、あるいはその誘導体は、生物試料に由来するもののほか、試料に由来する核酸分子を鋳型としてPCRやNASBA法のような核酸の酵素的な増幅反応によって得られた生成物であることもできる。
本発明の標的塩基配列の検出方法に必要なプローブやリガンドは、予め組み合わせてキットとして供給することができる。本発明に基づく標的塩基配列の検出方法には、標識を検出すために必要な試薬や、対照試料などを添えることができる。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
発明を実施するための最良の形態
以下実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。
〔実施例1〕SELEX法によるコール酸に結合するDNAアプタマーの選択
(1)コール酸と結合するDNAアプタマーの選択の手順
コール酸と特異的に結合するDNAアプタマーは、64ヌクレオチドのランダムインサートを持つ100merの1本鎖オリゴヌクレオチド(5’−GTACCAGCTTATTCAATT−N64−AGATAGTATGTTCATCAG−3’;配列番号:1)(N64は64ヌクレオチドのランダム配列を示す)から成る1本鎖DNAプールから、SELEX法(Nature 355,564−566,1990)により選択した。1本鎖DNAライブラリーには、約9x1014の独立した配列が含まれる。1本鎖DNAはホスホアミデート法により合成し、高速液体クロマトグラフィーで精製した。100merのDNAについては、逆相レジンを使用した固層抽出によって精製した。
各ラウンドでの選択は、以下のように行った。まず、64ヌクレオチドのランダムインサートを持つ100merの1本鎖オリゴヌクレオチドを、選択バッファー(50mM Tris−HCl,300mM NaCl,30mM KCl,5mM MgCl2,pH7.6)中で、95℃5分間により変性させ、徐々に室温まで冷やした。選択バッファー中の折りたたまれた1本鎖DNA(最初のサイクルでは45μg、その後のサイクルでは2−3μg)を、10ml以上の選択バッファーで平衡化した500μlのコール酸アガロースカラム(SIGMA製、2μmolコール酸/g gel、以下選択カラムと記載する)へロードした。30分間平衡化した後、カラムを、カラム容量の5から10倍の選択バッファーで洗浄した。カラムに残った1本鎖DNAを、5mMコール酸を含む選択バッファー1.5mlで溶出して回収し、20μg/mlのグリコーゲンを含むエタノールで沈殿させた。5mMコール酸で特異的に溶出させた1本鎖DNAの量は、収集フラクションの260nmの波長の吸光度から算出した。この1本鎖DNAを、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅した。
10および12ラウンドの選択においては、コール酸アガロースに代えてコール酸を結合したAffigel 102を用いた。異なる担体を利用することにより、コール酸アガロースのアミノヘキシルリンカーと結合する1本鎖DNAを除去することができる。Affigel 102(BioRad)上にはアミノエチルリンカーを介してコール酸を結合させた。Affigel 102上にアミノエチルリンカーをコール酸を介して固定化する手順は以下の通りである。
3mlのAffigel 102に対し、20mgのコール酸を、10mlの20mM HEPES(pH7.5)中で100mgのEDCを縮合剤として用いて結合させた。混合液を室温で10時間、ときおり攪拌しながらインキュベーションした。Affigel 102上のコール酸の濃度(8μmol/ml gel)は、2,4,6−トリニトロベンゼン硫酸との反応によって決定した。コール酸で固定化したAffigel 102は3倍量Affigel 102と混合し、おおよそ2μmol/mlのゲルになるように、カラム中のコール酸の濃度を調整した。
更に、アガロースそのものに結合する1本鎖DNAの混入を防ぐために、選択ラウンド5、6、7、および13の後にカウンターセレクションを行った。すなわち、Sepharose 4B(SIGMA)対照カラムに1本鎖DNAをロードすることによって、アガロースマトリックスと結合した1本鎖DNAを除去した。
(2)PCRによる増幅
PCRプライマーは、5’−biotin−CTGATGAACATACTATCT−3’(配列番号:2)、および5’−GTACCAGCTTATTCAATT−3’(配列番号:3)を用いた。100μlのPCR混合液には、1unitのEx Taq DNAポリメラーゼ(TaKaRa)、各々60pmolのプライマー、各々20nmolのdNTP、およびポリメラーゼ反応の精度を増すために0.4−0.8μgのPerfect Match(大腸菌1本鎖DNA結合タンパク質)(Stratagene)を含む。PCRの反応サイクルは、94℃30秒、46℃30秒、72℃30秒で行った。増幅したビオチン化した2本鎖DNAを、フェノール/クロロホルムで抽出し、エタノールで沈澱させ、1本鎖DNAを得るために、カラムに固定化したアビジンと結合させた。このようにして得た1本鎖DNAを、次のラウンドのインプットとして使用した。以上の操作を繰り返して、コール酸との結合親和性を有する1本鎖DNAを濃縮した。
(3)クローニングおよび塩基配列解析
選択ラウンド13のライブラリーから増幅した2本鎖DNAのPCR産物を、ジデオキシ法によるシーケンシングのために、pGEM−Tベクター(Promega製)へクローニングした。配列の相同性解析、および自由エネルギー最小化による1本鎖DNAの二次構造の推測をMacDNASIS Pro v1.0プログラム(HITACHI Software Engineering)で行った。各配列クローン上で3つのステムを形成することができる相補配列の検索は、C言語で書いた独自のコンピュータープログラムによって行った。図9−図21にこのコンピュータープログラムのソースコードを示した。更に、このコンピュータープログラムのアルゴリズムを以下にまとめる。
このアルゴリズムは、与えられた塩基配列が取りうる、全てのスリーウエイジャンクション構造を求めるものである。なおスリーウエイジャンクション構造とは、ステム1、ステム2、およびステム3が1箇所で交差した構造(たとえば図8)であることは先に述べたとおりである。このアルゴリズムは、相補的な塩基配列の検索を繰り返すことによって、まずステム1を構成する塩基配列の存在を明らかにする。次いでもしもステム1を構成できる場合には、残る領域によってステム2を構成しうる塩基配列の存在を探索する。ステム2も構成できた場合には、更に残された領域によってステム3を構成しうる塩基配列の探索を行う。各探索ステップは、以下の工程1)−3)によって行われる。
1)取り得るステム1を求める。
与えられた塩基配列の5’末端側から1塩基ずつ3’末端方向へ選んでいき、その塩基をステム1の開始位置ステム1bとみなして、ステム1が形成されうるかどうかを以下によって判断する。すなわち、ステム1bと相補的な塩基を、3’末端側から順次検索し、ステム1の終了位置ステム1eとする。ステム1bから3’末端方向へ「最低ステム長」の長さの塩基配列が、ステム1eから5’末端方向へ同じ長さの塩基配列と相補的になっていれば、ステム1は形成されたとみなす。「最低ステム長」は任意の数値であることができる。
2)取り得るステム2を以下のように求める。
ステム1を構成する領域を除く範囲の配列において、ステム2が形成されるかどうかを上記1)と同様に求める。ただし、ステム2のループ部分の長さは「最低ループ長」以上になっていることが条件である。さらに、ステム2の開始位置ステム2bとステム1の距離は「ギャップサイズ」以下であるようにステム2bを選ぶ。「最低ループ長」と「ギャップサイズ」は任意の数値であることができる。
3)最後に取り得るステム3を以下のように求める。
ステム1とステム2を構成する領域を除く範囲の配列において、ステム3が形成されるかどうかを上記2)と同様に求める。ただし、ステム3の開始位置ステム3bとステム2の距離およびステム3の終了位置ステム3eとステム1の距離が、前記「ギャップサイズ」以下であるようにステム3bおよびステム3eを選ぶ。
(4)実験結果
上記のようにして選択した最初のラウンドでは、ロードした1本鎖DNAの1%以下が、選択カラムに保持された。その後のラウンドでは、コール酸に結合した1本鎖DNAの量が顕著に増大し、選択の13ラウンド以後は、ロードした1本鎖DNAの約70%がカラムに保持され溶出した(図1)。
13ラウンドの後、コール酸の結合に関与する共通モチーフ配列を決めるため19クローンの塩基配列を決定した。19クローンの配列は全て異なっており、MacDNASISプログラムを利用した一次配列相同性解析からは、はっきりした相同性は見られなかった。しかし、表1で示すように、二次構造であるスリーウエイジャンクションを形成すると推測される配列が見られた。表1中の塩基配列において、3組のスリーウエイ領域(2本鎖を構成する領域)を、それぞれ、アンダーライン、太字、そして中抜きの文字で示した。イタリックで示したのは、ステム領域におけるミスマッチ、あるいはwobble(T−G)を示している。
表1における各塩基配列の配列番号は以下の通りである。
a)Clone−1: 配列番号:8
Clone−2: 配列番号:9
Clone−5: 配列番号:10
Clone−7: 配列番号:11
Clone−9: 配列番号:12
Clone−11: 配列番号:13
b)Clone−3: 配列番号:14
Clone−4: 配列番号:15
Clone−6: 配列番号:16
Clone−8: 配列番号:17
Clone−10: 配列番号:18
Clone−12: 配列番号:19
Clone−13: 配列番号:20
Clone−14: 配列番号:21
Clone−15: 配列番号:22
Clone−16: 配列番号:23
Clone−17: 配列番号:24
Clone−18: 配列番号:25
Clone−19: 配列番号:26
〔実施例2〕各種DNAアプタマーの欠失変異体を用いた、コール酸との結合モチーフ配列の探索
(1)解離定数の決定法
コール酸の1本鎖DNAとの親和性を、イクイブリウム フィルトレーション法(the equilibrium−filtration method,Science 263:1425−1429,1994)によって解析した。コール酸を、選択バッファー(200μl)中のDNAサンプルへ、終濃度が50μMとなるように加えた。各結合混合液を25℃で5分間インキュベーションした。次に混合液を、Microcon 10 filtration device(Amicon)へ移し、850xgで15分間遠心した。この操作によって1本鎖DNAと結合していないコール酸が濾液として回収される。濾液20μlから30μl中のコール酸の濃度を、p−ニトロテトラゾリウム青色色素、およびニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを含む3αヒドロキシステロイド、ジアホラーゼを利用した診断キット(WAKO chemical)で定量的に測定した。各1本鎖DNAサンプルでは、結合したコール酸の濃度(Cb)を、濾液および保持液中のコール酸の濃度の違いに基づいて以下の式(式1)により決定した。
Cb(μM)=Cr−Cf=(10000−Vf×Cf)/(200−Vf)−Cf
Vf(μl)は濾液の容量、CrおよびCf(μM)は、濾液および保持液中のコール酸の濃度を表す。更に平衡解離定数(Kd)を、以下の標準二次結合式(式2)により計算した。
Cb=(1/2){Dt+50+Kd−[(Dt+50+Kd)2−200Dt]1/2}
Dtは1本鎖DNAの全濃度を表す。
(2)各種DNAアプタマー欠失体の、コール酸との親和性(結合定数)の測定
コール酸との結合に必要な最短配列を決定するために、クローン1、および2について、全長アプタマーの5’末端および3’末端から1以上のヌクレオチドが欠失した、欠失体シリーズを作製した。選択カラムへ、0.5nmolのクローン1、クローン2、およびそれらの各欠失体シリーズを加え、5mMコール酸により選択カラムから特異的に溶出した1本鎖DNAの量を測定した(クローン1の75%、クローン2の77%が特異的に溶出した)。次に、39merのクローン1の欠失体ch1−39(5’−GAGGGCAGCGATAGCTGGGCTAATAAGGTTAGCCCCATC−3’;配列番号:4)、および38merのクローン2の欠失体ch2−38(5’−GCGCCGATTGACCCAAATCGTTTTGTATGCAAAAGCGC−3’;配列番号:5)を用いた実験から、これらの欠失体が、コール酸との結合に必要な最短配列であることが分かった。ch1−39の22%、ch2−38の40%が選択カラムから溶出したのに対し、さらに配列の短い欠失体では、溶出が見られなかった。興味深いことに、MacDNASISプログラムによって推測したクローン1および2の二次構造は、4bp以上の3つのステムが結合した構造をしており、ch1−39およびch2−38は、このスリーウエイジャンクション(three−way−junction)領域を含んでいた(図2)。
次に、この領域の正常な配列を有するクローン1および2の欠失体を用意し、それぞれch1−47(5’−GATCGAGGGCAGCGTAGCTGGGCTAATAAGGTTAGCCCCATCGGTC−3’;配列番号:6)、ch2−40(5’−AGCGCCGATTGACCCAAATCGTTTTGTATGCAAAAGCGCT−3’;配列番号:7)と名付けた。これらの欠失体を用いて、コール酸との親和性を調べた(図3)。その結果、これらの欠失体は、完全長クローンの選択カラムに対する親和性と、ほぼ同じ親和性を示した(それぞれ、70%および73%)。式1、2および図3の結果から、コール酸に対する解離定数は、ch1−47が31.0μM、ch2−40が19.6μMと決定した。さらに、完全長の配列を持つ他の17個のクローンの推定二次配列では、4つのクローン(クローン5、7、9、および11)についてch2−40と類似したスリーウエイジャンクションを含んでいた(図4)。これらの4クローンの正常なスリーウエイジャンクション領域を含む欠失体ch5−63、ch7−69、ch9−48、ch11−76を用意し、コール酸に対する解離定数を測定した(表2)。
クローン5および9のスリーウエイジャンクション領域の5’末端および3’末端から2、3のヌクレオチドの欠失により、完全に選択カラムに対する親和性を失った。
クローン11の推定二次構造は、他の5つのクローンよりも複雑であった。スリーウエイジャンクション領域以外の領域を欠失したクローン11の35merの欠失体を用意し、コール酸に対する解離定数を決定した。その結果、解離定数は76.8μMであり、76merの欠失体の解離定数(52.1μM)に匹敵するものであった。
上記の6つのクローンの推定スリーウエイジャンクション構造を比較することによって、2つの共通点が明らかとなった。すなわち、第一に3つのステムおよび、2つのループはそれぞれ4塩基対および4塩基以上から構成されていることが高い親和性をもたらす。第2に、ジャンクション近傍の3塩基対を、2または3対のGC塩基対で構成することが親和性を高める。
さらに、他の13のクローンの配列を、前記アルゴリズムに基づくコンピュータープログラムによって解析した。プログラムによる解析条件は次のとおりである。まず最低ステム長2、最低ループ長4、ギャップサイズ0、の条件で各配列を検索した。条件を満たす塩基配列のうち、ジャンクションの部分に2つ以上のGC塩基対を含み、なおかつ各ステム長が3塩基対以上になるスリーウエイジャンクションを目で見て(つまりプログラムを使わずに)選択した。このとき、ステムにはミスマッチが含まれていてもよいものとする。つまり、ch1−47の様に、ステム中のジャンクションから3番目以降の塩基対にミスマッチが含まれてもよいものとした。この場合、ミスマッチはステム長としてカウントしない。すなわち、ミスマッチを除いて、各ステム長が3塩基対以上になるものを選び出した。その結果、12のクローンがスリーウエイジャンクション構造を有する配列を含んでおり、それぞれ3塩基対以上のステムが見られ、さらに2または3対のGC塩基対が、ジャンクションの近傍に存在していた。残りの1クローンも3つのステムのうち1つのステムが、2塩基対ではあるものの、スリーウエイジャンクション構造を有する配列を含んでいた。正常なスリーウエイジャンクション領域を含むこれらの13クローンの欠失体を作製し、コール酸に対する親和性を調べた。これらの13クローンの欠失体の塩基配列および前記6クローンの欠失体の塩基配列を、表3に示す。これらの塩基配列は、表1の塩基配列においてアンダーラインではさんだ部分に相当する。
13クローンの欠失体のコール酸に対する解離定数を表4に示す。すべての欠失体がコール酸と結合した。
結果的に、配列を決定した19のクローン全てが、共通の二次構造であるスリーウエイジャンクションの形成が推測されるコール酸結合配列を有していた。
〔実施例3〕1塩基および1塩基対変異による、コール酸との結合親和性に及ぼす影響
(1)ステムまたはループ上の置換が親和性に及ぼす影響
選択したクローンの推定スリーウエイジャンクション構造の形成、およびコール酸との結合に必要な、重要な構成要素を決定するために、クローン2のスリーウエイジャンクション領域を有する欠失体ch2−40について、変異体解析を行った。1塩基および1塩基対置換、もしくは1塩基欠失または挿入のあるch2−40変異体のシリーズを合成し、これらの変異体の、コール酸に対する相対結合親和性を、「the equilibrium−filtration method」によって評価した。図5aは、欠失体ch2−40上の1塩基を、図の矢印で示す塩基に置換した場合の結合親和性を示す。図5bは、ch2−40上のスリーウエイジャンクションのステム部分を形成する1組の塩基対を、図の矢印で示す塩基対に置換した場合の結合親和性を示す。
図5aで示すように、3つのステム上の塩基対置換では、G‐CからA‐T塩基対への置換により、相対結合親和性が65.3%(C6−G21からT6−A21)減少したが、それでも親和性は見られた。対照的に、ジャンクションの周囲のいくつかの1塩基置換では、結合親和性を完全に失った(図5b;G4からC4、C6からG6、A22からT22、G36からC36への置換)。1塩基置換と1塩基対置換との結合親和性への影響を比較すると、推定される二次構造中のワトソン‐クリック塩基対を構成できない1塩基置換では、塩基対置換よりも結合親和性が顕著に減少した。
これらの結果から、推定される二次構造の形成が裏付けられ、スリーウエイジャンクションの形成が、親和性の維持にとって非常に重要であることが示唆された。ch2−40欠失体のジャンクションの周囲の1塩基置換および1塩基対置換では、結合親和性が顕著に減少したが、ch2−40の5’末端および3’末端、もしくは2つのループ上の1塩基置換および1塩基対置換では、結合親和性の減少は見られなかった。さらに、2つのループ上の1塩基置換、A12およびA28の欠失、A12とC13との間、またはA28とT29との間へのアデノシンの挿入では、ほとんど結合親和性に影響を及ぼさなかった。19のクローンには、配列の類似性は見られず、ステムおよびループ領域の長さも同一ではないことから、コール酸との結合部位は、3つのステムのジャンクションであることが示唆された。
(2)ジャンクション上の3つの塩基対の置換が親和性に及ぼす影響
そこで、選択した19クローンのジャンクション上の3つの塩基対の多様性、および配置に注目した。これらのクローンのジャンクションは、2つのG‐Cおよび1つのA‐T、または3つのG‐Cから構成されていた(それぞれ、2G‐C、3G‐Cジャンクションと呼ぶ)(図6a)。図6bに2G‐Cジャンクションの例としてch9−48を、3G‐Cジャンクションの例としてch16−40を示す。選択した19のクローンのうち、9クローンが2G‐Cジャンクションを有しており、他の10クローンは、3G‐Cジャンクションを有していた。3G‐Cジャンクションの3塩基対の配置を比較すると、10クローンのうち9クローンは同じ配置だった。2G‐Cジャンクションを有する9クローンのうち、6クローンは、同じ配置をしており、残りの3クローンはそれぞれ異なった配置をしていた。
ジャンクション上の3つの塩基対の、相互作用にとっての構造上の必要性を評価するために、最も低いKd値を示すクローン9、および16の正常なスリーウエイジャンクション領域を有する欠失体であるch16−40およびch9−48について、ジャンクション上の塩基対の置換を行った。1塩基対を置換したch16−40、およびch9−48の、コール酸に対する相対結合親和性を表5に示す。表中の数字は、塩基対置換前の結合親和性を100とした時の相対的な親和性(%)を表す。
興味深いことに、ワトソン‐クリック塩基対を形成する置換では、親和性を失わなかったが、ミスマッチの塩基対となる置換では、完全に親和性を失った。3つのワトソン‐クリック塩基対を形成する6つのヌクレオチドについて、CPKモデルを構築することにより、内径が12から17Åの穴を有するシクロファン(cyclophane)様の、3つのプリン塩基、および3つのピリミジン塩基からなる環状構造体を形成し得ることが示された。さらに、この穴の形状およびサイズは、およそ15Åのサイズのコール酸が入り込むのに適している。なおCPKモデル(Corey−Pauling−koltun space filling molecular model)とは、分子模型のうちの空間実体模型の一種である。米国の国立衛生研究所(NIH)の原子模型委員会がCorey−Paulingの分子模型を改良して商品化した。
いくつかの例外は見られるものの、ワトソン‐クリック塩基対への置換は、結合親和性に対し影響を与えない。G‐CからA−Tへの置換では、結合親和性が減少した(C5−G36からT5−A36;56.1%,C6−G21からT6−A21;34.7%)が、A−TからG−Cへの置換では、結合親和性の減少はほとんど見られなかった(T22−A35からC22−G35;95.2%)。これらの結果は、選択した19のクローンの特徴が、2または3G‐Cであり、1G‐CまたはGC塩基対のないジャンクションが見られなかったことと一致する。
〔実施例4〕2分子で構成した本発明によるDNAアプタマーの親和性
標的塩基配列とプローブの2分子で構成される本発明によるアプタマーにおいて、スリーウエイジャンクションを構成する塩基配列の変異によって生じるリガンドとの親和性の変化を観察した。すなわち次の塩基配列からなる標的塩基配列とプローブをハイブリダイズさせたスリーウエイジャンクション構造の、コール酸に対する親和性をSPRによって測定した。標的塩基配列とプローブを各5μM混合し、実施例1−(1)と同じ条件で熱変性させた。コール酸を固定化したBIAcore2000(BIAcore社製)のセンサーチップに20μlのプローブ−標的塩基配列溶液をロードした場合、600RU(RU=レゾナンズユニット)のSPRシグナルの変化が得られた。それに対して、標的塩基配列に一塩基変異を導入した場合(標的塩基配列の下線部分の配列がCCTAGCAGCCGGAGCGGTGG)、SPRのシグナル変化はまったく得られなかった。この組み合わせに限らず、ジャンクションに隣接する塩基対にミスマッチを導入した場合には、結合親和性が検出されなくなった。標的塩基配列の配列/配列番号:27(小文字はプローブの相補鎖で、スペースを挟んだ塩基の部分にジャンクションが位置する)
プローブ(CH3J−1−100)の配列/配列番号:28(小文字が標的塩基配列の相補鎖)
次に、実施例2(1)のEquilibrium−filtration methodにより、コール酸、プローブ、標的塩基配列、各50μMの条件で、コール酸のプローブ−標的塩基配列複合体への結合量を測定した。使用した標的塩基配列およびプローブの塩基配列を以下に示す。
標的塩基配列の配列/配列番号:29
プローブの配列/配列番号:30(小文字が標的塩基配列の相補鎖)
測定の結果、結合量は36.6μMだった(ch2−40の場合,同条件で結合量27.8μM)。これに対して、1塩基変異を導入した標的塩基配列(5’−CCTAGCAGCcGGAGCGGTGG−3’;配列番号:31、小文字が変異)の場合、同条件でコール酸は全く結合しなかった(結合量0μM)。
〔実施例5〕化学的修飾によるアプタマーの二次構造の評価
(1)四酸化オスミウムによるチミンの化学的修飾
アプタマーの二次構造および相互作用に関与する塩基を評価するため、酸化剤である四酸化オスミウムを用いて、ch9−48の化学修飾の実験を行った。四酸化オスミウムは、ピリジン存在下で1本鎖の状態のチミンと選択的に反応する(Furlong J.C.et al.Biochemistry,28,2009−2017,1989)。この選択性は、チミンのC5,6二重結合を攻撃する四酸化オスミウムの活性によるものと考えられている(Nielsen P.E.et al.J.Mol.Recog.,3,1−25,1990)。オスミル化部位は、アルカリ処理により切断することができる。
3’−FITCでラベルした5μMのch9−48、またはch9−48−C6を、5mMコール酸を添加した、または添加しない1mM四酸化オスミウム、3%ピリジンから成る100μlの結合バッファーで、20℃で15分間インキュベートした。このとき熱変性により1本鎖にするために、コントロールは80℃でインキュベートした。引き続き2回のエタノール沈殿を行い、反応を停止させた。アプタマーを、15μLの1Mピペリジンで90℃、30分間処理し、オスミニウム酸塩付加化合物のサイト(1本鎖状態にあるT)を切断した。15μlのホルムアミドローディングバッファーの添加後、切断した産物を、7M尿素を含む10%ポリアクリルアミドゲル(19%,1量体:2量体の比が19:1)上で電気泳動した。泳動系は、90mMトリスホウ酸塩(pH8.0)および2mM EDTAから構成される。ゲルをスキャンし、FluorImager 595を使用して解析した。結果を図7に示す。
(2)実験結果
ポリアクリルアミドゲル電気泳動の写真を図7に示す。20℃で結合バッファーを使用した折り畳まれる条件でのch9−48の修飾パターンは、推定二次構造(図8)と非常に良く一致した。ジャンクションの近傍のT43で、強い修飾が見られ、ループ状の領域のTもまた、反応性に富んでいた。ステム領域のTは、T23およびT46を除いて効率的に保護されていた。T23は、ステムの末端に位置することから反応性に富み、T46は、ループを欠く短いステム構造の不安定性により反応性に富むものと考えられる。ch9−48の6番目のGがCへの置換によりコール酸と結合しない変異体のch9−48−C6を用意し、ch9−48と修飾パターンを比較した。コール酸存在下では、ch9−48の分岐点のT43の修飾の度合いは、40%以下に減少した。対照的にch9−48−C6では、T43の反応性は、コール酸により僅かに抑制された。このことから、ch9−48上のT43は、直接コール酸との結合に関与しているものと考えられる。
産業上の利用の可能性
本発明は、核酸アプタマーの形成を利用した新規な標的塩基配列の検出方法を提供する。本発明の検出方法は、1塩基のミスマッチに基づいてリガンドとの結合親和性が大きく変化する核酸アプタマーの利用によって、SNPの特異的な検出を可能とする。1塩基のミスマッチによって、これほど明確な変化をもたらす検出原理はこれまでに知られていない。
一方、本発明は、本発明の標的塩基配列の検出方法に有用な、新規な構造の核酸アプタマーを合わせて提供する。スリーウエイジャンクションにコール酸などのリガンドを捕捉する本発明の核酸アプタマーは、3つのジャンクション部分の3つの塩基対のいずれか一つでもミスマッチとなるとリガンドとの結合親和性を失う。したがって、スリーウエイジャンクションからなる核酸アプタマーは、本発明をSNPの検出に応用するときにきわめて好適な核酸アプタマーと言うことができる。
【配列表】
【図面の簡単な説明】
図1は、各選択ラウンドで溶出された1本鎖DNAのパーセンテージを示すグラフ。縦軸がロードしたDNAに対する溶出DNAのパーセンテージを、横軸がラウンド数を示す。
図2は、クローン1とクローン2の予測される二次構造を示す図。各クローンのコール酸との結合に必要な最短配列を含む欠失変異体であるch−1−39とch2−38の塩基配列をイタリックで示した。また、スリーウエイジャンクション領域を完全に保持した欠失変異体であるch1−47とch2−40を構成する塩基配列は、中抜きの文字で示した。
図3は、ch1−47(○)とch2−40(□)のコール酸に対する結合曲線を示すグラフ。縦軸は1本鎖DNAに結合したコール酸の濃度(μM)、横軸は1本鎖DNA濃度(μM)の対数を示す。
図4は、クローン5、7、9、および11のスリーウエイジャンクション領域を含む欠失変異体に予測される2次構造を示す図。矢印は、クローン5とクローン9がコール酸固定化カラムに結合するために必要な最短の塩基配列を示す。
図5は、ch2−40の変異解析結果を示す図。塩基対置換(a)、1塩基置換(b)、あるいは欠失と挿入(a)を、ch2−40に導入した。置換あるいは欠失させる塩基を、太字で示した。矢印は、置換あるいは欠失させる塩基と、変異を伴わない状態のch2−40に対する変異体の親和性のパーセンテージを示している。
図6は、2G−Cジャンクションおよび3G−Cジャンクションの構造を示す図。(a)は、各ジャンクションの構造の模式図を示す。(b)は、各ジャンクションの一例としてch9−48、およびch16−40の場合を示す。
図7は、ch9−48およびch9−48−C6の四酸化オスミウムによるチミンの修飾を示す写真。
レーン1:変性させて1本鎖としたコントロール
レーン2:ch9−48、コール酸なし
レーン3:ch9−48、コール酸添加
レーン4:ch9−48−C6、コール酸なし
レーン5:ch9−48−C6、コール酸添加
レーン6:ch9−48のマキサムギルバートA+Gラダー
図8は、ch9−48の推定二次構造を示す図。チミン(T)を太字で表す。
図9−図21は、本発明の核酸アプタマーを形成することができる塩基配列を選択するための、実施例で使用したソフトウエアのソースコードである。
Claims (5)
- 標的塩基配列とのハイブリダイゼーションによって、リガンドとの結合親和性を獲得するプローブであって、該ハイブリダイゼーションによって、それぞれ4塩基対以上の長さを持つ3本のステムが交差するスリーウェイジャンクション構造(ここで、該スリーウェイジャンクションを構成する3組の塩基対のうち少なくとも2組がG−C塩基対である)を有する核酸アプタマーを構成し、該核酸アプタマーがこのステムが交差するスリーウェイジャンクションの位置でコール酸であるリガンドと結合する、プローブ。
- 請求項1に記載のプローブおよび標的塩基配列を含む核酸アプタマーであって、該プローブと該標的塩基配列とのハイブリダイゼーションによって、それぞれ4塩基対以上の長さを持つ3本のステムが交差するスリーウェイジャンクション構造が構成され、このステムが交差するスリーウェイジャンクションの位置でコール酸であるリガンドと結合する核酸アプタマー。
- 次の工程を含む標的塩基配列の存在を検出する方法:
a)標的塩基配列と請求項1に記載のプローブをハイブリダイゼーションさせ、それにより、それぞれ4塩基対以上の長さを持つ3本のステムが交差するスリーウェイジャンクション構造を有し、このステムが交差するスリーウェイジャンクションの位置でコール酸であるリガンドとの結合親和性を有する核酸アプタマーを生成する工程、及び
b)核酸アプタマーのリガンドとの結合親和性を指標として標的塩基配列の存在を検出する工程。 - 標的塩基配列が単塩基多型を含み、プローブが標的塩基配列における単塩基の置換にともなってリガンドとの結合親和性が変動するものである請求項3に記載の方法。
- 請求項1に記載のプローブからなる、標的塩基配列の検出用試薬。
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