JP4660774B2 - 心不全治療薬のスクリーニング方法 - Google Patents

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本発明は、心不全モデルゼブラフィッシュを用いる心不全治療薬のスクリーニング方法に関する。
心不全などの心疾患を治療および予防するための新規薬剤の開発においては、心疾患の症状を呈するモデル動物、あるいは心疾患に関連する遺伝子または蛋白質に異常を有する変異体培養細胞または遺伝子組み換え培養細胞を用いて、候補薬剤の薬効を調べることが必要である。しかし、哺乳動物のモデル動物は高価であり広い実験施設を必要とするため、候補化合物を広くスクリーニングするのには適していない。また、培養細胞を用いる場合には、候補化合物が培養細胞で示す挙動と哺乳動物中での挙動とは必ずしも対応しない。
一方、より安価で大量の処理に適した方法として、ゼブラフィッシュ、メダカなどの小型の魚類をモデル動物として用いることも研究されており、毒性試験、変異原性試験等に応用されている。このようなモデル動物を得る1つの方法は、変異原を作用させて突然変異を引き起こした後に、所望の表現型を有する個体を選択する方法である。しかし、安定な変異株を樹立するためには繰り返し交配させる必要があるため、非常に手間がかかる。また、疾患に関連する標的遺伝子が過剰発現するかまたは欠損しているトランスジェニック動物を得る方法も知られているが、この方法は疾患に関連した遺伝子が同定されている場合にしか適用することができないという制限がある。さらに、ゼブラフィッシュの発生における特定の遺伝子または蛋白質の役割を調べる目的で、発生過程の種々の期間にその遺伝子の発現または蛋白質の機能の阻害剤を添加する実験が行われている(Chang, et al., Cell 118, 649-663, 2004, Lee el al., Developmental Dynamics published online, Sep. 2005)。しかしながら、これらの方法は、阻害剤が発生に及ぼす影響を遺伝子レベルで調べる目的で行われているものであり、疾患モデル動物を作製する方法、特にスクリーニングに適した安定した形質を有する疾患モデル動物を大量に作製することは示唆されていない。
特願2005-328106 Chang, et al., Cell 118, 649-663, 2004 Lee el al., Developmental Dynamics published online, Sep. 2005
本発明は、心不全モデルゼブラフィッシュを用いて心不全治療薬を評価する方法および同定する方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、タクロリムス水和物により誘導される心不全症状を呈するゼブラフィッシュにおいて、心不全症状と特定の遺伝子の発現とが相関することを見いだした。すなわち、本発明は、心不全治療薬の候補物質を選択する方法であって、タクロリムス水和物により誘導される心不全症状を呈するゼブラフィッシュに試験物質を投与し、PECI遺伝子の発現を測定し、そして、試験物質を投与したときに投与していないときと比較してPECI遺伝子の発現が抑制されている場合に、その試験物質を心不全治療薬の候補物質として選択する、の各工程を含むことを特徴とする方法を提供する。
本発明者らは、先に、ゼブラフィッシュの発生過程においてタクロリムス水和物を作用させることにより、心不全の症状を呈するゼブラフィッシュが得られること、およびこの症状はいくつかの心不全治療薬を投与すると緩和されることを見いだした。この心不全ゼブラフィッシュモデルを用いれば、心不全治療薬の候補物質を投与して心臓の形態を観察することにより、心不全治療薬をスクリーニングすることができる。本発明においては、さらに、タクロリムス水和物により誘導される心不全症状と特定の遺伝子の発現とが相関することを見いだした。この遺伝子の発現量を指標とすることにより、心不全治療薬の候補物質のスクリーニングをより簡便に定量的に行うことができる。
ゼブラフィッシュ(属名Danio、例えばDanio rerio)とはインド原産の体長 5 cm ほどの小型の熱帯魚であり、コイ目 コイ科 ダニオ亜科(ラスボラ亜科、ハエジャコ亜科とも)に属し、オイカワ、コイや金魚などに近い。成体の体表に紺色の横じまをもつことから、シマウマにみたててこの名がある。飼育、繁殖が容易な魚で、流通価格も安く、観賞魚としてよく飼われている。いくつかの変種があるが本件では横じまの少ないゴールデン種が望ましい。ゼブラフィッシュは魚類であるが、主要臓器・組織の発生・構造などはヒトと良く似ており、各パーツ(臓器など)が受精卵から分化して形成されていく過程が透明な体を通して観察できる。受精後48時間で主要臓器・組織の基本構造が出来上がっても体長は2ミリ以下と96ウエルプレートなどの小スペースで取り扱うことができるため、「モデル動物全体への影響を指標とした新薬候補化合物スクリーニング」への適用が可能であり、既に、ゼブラフィッシュを新薬候補化合物のスクリーニングに利用する企業(DanioLabs (UK)、Phylonix(USA)など)も設立されている。また、学術的な支援も充実しており、NIHによるゼブラフィッシュ肥満モデル作成への研究費提供、Sanger Instituteによるゼブラフィッシュの全ゲノム解読などがある。
受精卵の飼育水としては、一般に熱帯魚を飼育するのに適した飼育水のいずれを用いてもよく、例えば、以下の組成を有する飼育溶液(塩化カルシウム0.1g、塩化ナトリウム3.5g、塩化カリウム0.05g、炭酸水素ナトリウム0.2g/1L)やInstant Ocean (最終濃度60 μg/ml)などを用いることができる。飼育温度としては、一般に26℃〜30℃、好ましくは約28℃を用いる。容器としては、例えば、96ウェルマイクロプレートから100mLビーカーまで、幅広い実験用容器を用いることができるが、スクリーニングの性質上、96ウェル用スクエアプレートが最も望ましい。また1匹あたりの水量は受精卵の状態で最低100μl程度は必要である。
このようにして受精卵を飼育すると、通常は、約48〜72時間で孵化し、このときの体調は約2mmである。さらに同様の条件で飼育を続けると、約5日で骨以外のほとんどの臓器の形成が完了し、約6日で骨を含むすべての臓器形成が完了する。約7日で体調が約5mmとなり、このとき心臓の大きさは約0.1mmである。ゼブラフィッシュは身体が透明であるため、心臓をはじめとして、各種臓器および血管の形態は肉眼で観察することができる。
本発明の方法においては、タクロリムス水和物の存在下で受精卵を飼育する。タクロリムス水和物(tacrolims)は、FK506とも称され、商標名プログラフ(アステラス製薬)、構造式名C14H69NO12、分子量804.018の土壌放線菌Streptomyces tsukubaenesis由来のマクロライド骨格を有する化合物である。タクロリムス水和物は免疫抑制剤であり、臓器移植後の拒絶反応抑制、全身型重症筋無力症および関節リウマチへの適応が認められている。タクロリムス水和物の詳細な作用機序は不明であるが、一般的には細胞内のFKBP (FK506-binding protein)に結合し、カルシニューリンの活性を阻害、T細胞の活性化に伴うIL-2,-3,-4,-5、インターフェロン(IFN)-γ、GM-CSF等のサイトカイン遺伝子の転写を阻害し、産生を阻害することにより免疫抑制作用を発揮すると考えられている。
本発明の方法においては、ゼブラフィッシュ受精卵を、受精直後から6日目までの間に連続的または断続的に、タクロリムス水和物の存在下で飼育する。ここで、連続的とは受精直後から6日目まで、タクロリムス水和物を含む飼育水で受精卵を培養することを意味し、断続的とは、受精直後から6日目までの間の1回または複数回の任意の期間、タクロリムス水和物を含む飼育水で受精卵を培養することを意味する。飼育水中のタクロリムス水和物の好ましい濃度は1nM〜100μM、より好ましくは10nM〜10μMである。特に好ましい態様においては、タクロリムス水和物を50nMの濃度で48時間、あるいは1μMの濃度で12時間投与する。濃度が低すぎると心不全症状の出現頻度が低くなり、濃度が高すぎると非特異的な変化や死亡の頻度が高くなり、いずれの場合もモデル動物の調製には不適切である。
また、タクロリムス水和物は、受精卵へのマイクロインジェクション、稚魚への注射による各組織へのマイクロインジェクション、稚魚への経口投与(受精後4日目以降)、親魚への投与(経口あるいは溶解、各組織への注射)などにより、ゼブラフィッシュまたはその受精卵に投与してもよい。
1つの好ましい態様においては、ゼブラフィッシュ受精卵を、受精直後から24時間、タクロリムス水和物を含む飼育水で飼育した後に、これらの物質を含まない飼育水に交換して、さらに飼育を続ける。別の好ましい態様においては、受精直後から発生過程の途中である1日目もしくは2日目まで、受精直後から発生過程がほぼ終了する3日目まで、受精直後から骨以外のほとんどの臓器の形成が完了する5日目まで、あるいは、受精直後から骨を含むすべての臓器形成が完了する6日目まで、タクロリムス水和物の存在下で飼育する。別の好ましい態様においては、ゼブラフィッシュ受精卵を、受精直後(0時間目)から24時間、6時間目から18時間(24時間目まで)、12時間から24時間(36時間目まで)、24時間から24時間(48時間目まで)、48時間から24時間(72時間目まで)、72時間から24時間(96時間目まで)、タクロリムス水和物を含む飼育水で飼育した後に、これらの物質を含まない飼育水に交換して、さらに飼育を続ける。また別の好ましい態様においては、受精直後から6日目までの間に、ゼブラフィッシュ受精卵を、タクロリムス水和物を含む飼育水で飼育する期間と、これらの物質を含まない飼育水で飼育する期間とを交互に設けて、これらの物質にパルス的に曝露されるようにする。
現在のところ、タクロリムス水和物がゼブラフィッシュに心疾患を誘導するメカニズムは不明であるが、これらの物質の存在下では、ゼブラフィッシュの発生過程において特定の遺伝子または遺伝子群の発現量または発現のタイミングが異常となるためであると考えられる。
このようにしてゼブラフィッシュ受精卵をタクロリムス水和物の存在下で飼育することにより、心不全の症状を呈するゼブラフィッシュを作製することができる。ゼブラフィッシュは透明であるため、ゼブラフィッシュの心臓の形態は、特殊な装置を用いることなく、肉眼または実体顕微鏡で容易に観察することができる。本発明の心不全モデルゼブラフィッシュは、正常個体と比較して、心臓・心臓周囲領域の拡大が認められ、心拍動数が上昇し、心拍出量が低下するなど、ヒトの心不全の症状と一致する症状を示す。また、心不全モデルゼブラフィッシュでは透明な体を通して心房から心室への血流の逆流が認められ、ヒトの心不全における弁膜症症状と一致する。
次に、このようにして得られた心不全モデルゼブラフィッシュを用いて、心不全治療薬の候補物質の効力を評価する。本発明においては、心不全の症状とPECI遺伝子の発現との間に相関があることが見いだされた。後述の実施例で示されるように、心不全治療薬であるカルベジオールをタクロリムス水和物とともに投与すると、ゼブラフィッシュの心臓におけるPECI遺伝子の発現が抑制された。また、PECI遺伝子に対するsiRNAやアンチセンスオリゴヌクレオチドを受精卵にマイクロインジェクションすると、タクロリムス水和物による心不全症状の誘導が抑制された。これらの結果に基づいて、タクロリムス水和物により誘導される心不全モデルゼブラフィッシュを用いて、PECI遺伝子の発現の抑制を指標として、心不全治療薬の候補物質を同定することができる。
PECI(ペルオキシソーム D3,D2-エノイル-CoA イソメラーゼ) は、ペルオキシソームに存在する酵素であり、不飽和脂肪酸のベータ酸化に必要な異性化工程を触媒する補助酵素である。ゼブラフィッシュPECIの遺伝子配列およびアミノ酸配列をそれぞれ配列番号1および2に示す(受託番号:zgc:92030, NM_001002645)。本発明者の知る限りにおいては、これまでにこの酵素と心臓疾患との関連性を示唆する報告はない。
試験物質が心不全症状を呈する本発明のゼブラフィッシュに及ぼす効果を調べるためには、本発明の方法により得られたゼブラフィッシュに候補物質を投与し、PECI遺伝子の発現を測定する。
試験物質を投与する方法としては、候補物質が水溶性である場合には飼育水中に溶解すればよく、水不溶性である場合には適当な界面活性剤との複合体またはエマルジョンの形で飼育水中に懸濁すればよい。あるいは、ゼブラフィッシュの餌に混ぜて経口投与してもよく、注射などにより非経口投与してもよい。候補物質の投与タイミングとしては、心不全症状を誘導する化合物を加える時点に対して、前投与、同時投与、後投与の3パターンがある。前投与とは、ゼブラフィッシュ受精卵を、候補物質の存在下で飼育した後に、候補物質の存在下または非存在下でタクロリムス水和物の存在下で飼育を続けることをいう。同時投与とは、ゼブラフィッシュ受精卵を、受精直後または適当な時間経過後から、候補物質とタクロリムス水和物との存在下で飼育することをいう。後投与とは、ゼブラフィッシュ受精卵を、タクロリムス水和物の存在下で飼育した後に、タクロリムス水和物の存在下または非存在下で候補物質の存在下で飼育を続けることをいう。基本的に、飼育水は毎日交換するのが望ましいが、候補物質によっては一定期間をあけて交換することも可能である。
PECI遺伝子の発現を測定するためには、RT-PCR法、RNA増幅法、ISH(in situ hybridization)法、ISP(in situ PCR)法、レーザーマイクロダイセクション法、レーザーキャプチャーマイクロダイセクション法(LCM)などの、当該技術分野においてよく知られる遺伝子発現分析法を用いることができる。
試験物質を投与したときに投与しないときと比較してPECI遺伝子の発現が抑制されれば、その試験物質は心不全治療薬の候補物質であると考えられる。すなわち、本発明にしたがって、簡便な方法により心不全候補物質を選択することができる。
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
タクロリムス水和物による心不全症状を呈するゼブラフィッシュ作製
ゼブラフィッシュ受精卵100個(前日にオスとメスを1匹ずつ水槽に入れ暗室に置き、早朝明かりをつけることにより産卵を促進、受精卵を回収する)を受精後1時間以内から、タクロリムス水和物最終濃度50nMを溶かした飼育水(塩化カルシウム0.1g、塩化ナトリウム3.5g、塩化カリウム0.05g、炭酸水素ナトリウム0.2g/1L)の中での飼育を開始した。密度は卵1個あたりの水量が0.25mLを下回らないようにし(10cmシャーレに100個)28℃の恒温漕で、毎日飼育水を交換して飼育した。受精卵は受精後2〜3日目で孵化した。3日目より心陰影の拡大が確認され、5日目には90%程度の魚に拡張型心筋症に類似した心臓組織形状が認められた。結果を図1に示す。
次に、受精卵をタクロリムス水和物に曝露する時間を変えて、同様の実験を行った。受精卵を受精後1時間以内に飼育水の中での飼育を開始し、受精後24時間から飼育水にFK506最終濃度1μMを加え、その10時間後にFK506を含まない飼育水に交換した。受精卵は受精後2〜3日目で孵化した。3日目に心陰影の拡大が観察され、80%程度の魚に拡張型心筋症に類似した心臓組織形状が認められた。ただし、この実験では体軸の変形などの変化が約10%に認められた。
心不全治療薬カルベジロールの効果
実施例1で作製したゼブラフィッシュを用いて、心不全治療薬であるカルベジロールの効果を調べた。結果を図2に示す。カルベジロール最終濃度1μMをタクロリムス水和物と同時投与した結果、心陰影の拡大がなくなったゼブラフィッシュは約70%、また受精後24時間からのタクロリムス水和物単独投与の後、受精後2日目からカルベジロールを加えた場合でも心陰影の拡大がなくなったゼブラフィッシュは約60%認められた。心陰影の大きさを画像解析測定、統計学的評価をした結果、両者とも約50%のその領域の縮小を認めた。心拍数の正常化も同程度の割合で認められた。組織学的検討では、タクロリムス水和物単独投与で認められた拡張型心筋症に類似した形状は改善していた。以上より、本発明の心不全モデルゼブラフィッシュを用いて心不全治療薬の効果を判定しうることが示された。
種々の心不全治療薬の効果
タクロリムス水和物を用いて作製した心不全症状を呈するゼブラフィッシュに、実施例2と同様にして、市販の種々の心不全治療薬を作用させて、その影響を調べた。心不全治療薬としては、βアドレナリン作動性受容体であるチモロール(Timolol)、アルプレノロール(Alprenolol)、アルテレノール(Arterenol)、アセブトロール(Acebutolol)およびピンドロール(Pindolol);心臓選択的βアドレナリン作動性受容体であるメトプロロール(Metoprolol)およびアテノロール(Atenolol);αおよびβアドレナリン作動性受容体であるラベタロール(Labetalol)、カルベジロール(Carvedilol);アンジオテンシン変換酵素阻害剤であるカプトプリル(Captopril)およびエナラプリル(Enalapril);ならびにホスホジエステラーゼIII阻害剤であるアムリノン(Amrinone)を用い、示される最終濃度でタクロリムス水和物と同時投与した。
結果を図3に示す。縦軸は、腹側膨張を示すゼブラフィッシュ胚の出現率を、心不全治療薬を加えない陰性対照における出現率を100パーセントとしたときの相対値で表す。複数のヒト心不全治療薬で、カルベジロールと同様に心陰影の拡大の改善効果が認められた。この結果は、本発明の方法により作製したゼブラフィッシュが心不全モデル動物として有用であることを示す。
タクロリムス水和物による心不全症状を呈するゼブラフィッシュにおいて発現が変動する遺伝子の探索
実施例2と同様にして、タクロリムス水和物を用いて心不全症状を呈するゼブラフィッシュに、ベータアドレナリン受容体拮抗薬であるカルベジロールを投与した。心不全モデルゼブラフィッシュの心臓と、カルベジロールを投与して心不全が治癒したゼブラフィッシュの心臓から、トータルRNAをレーザーキャプチャーマイクロダイセクション法(LCM)により抽出し、マイクロアレイを用いて数百種類の遺伝子についてその発現を調べた。カルベジロールを投与した場合と投与しない場合で発現が変動した遺伝子を数十種類同定した。
次に、これらの各遺伝子に対するsiRNA を合成し、心不全モデルの受精卵に注入して、心不全症状の改善を観察した。まず、三重大学大学院医学系研究科薬理ゲノミクス分野が独自に保有するゼブラフィッシュcDNAライブラリーから、各遺伝子のcDNAクローンを作成し、Thermo T7 RNA ポリメラーゼ (TaKaRa)とColdShock-DICER (TaKaRa)を用いて、各遺伝子に対するsiRNAカクテルを合成した。
簡単には、ベクター特異的なプライマーのフォワードとリバースプライマーに、T7 プロモータータグを付けたプライマーを設計し、それぞれ互い違いにPCRを行った。遺伝子産物を精製し、これらをテンプレートとして、Thermo T7 RNA ポリメラーゼを用いてインビトロ翻訳によりssRNA (一本鎖RNA)を合成した。得られた2本のssRNAをアニーリングし、dsRNA (二本鎖RNA)を作製し、次にColdShock-DICERを用いたフラグメンテーションにより、約21-23ntの長さのsiRNAカクテルにした。このsiRNA カクテルをカラム精製し、ポリアクリルアミド電気泳動法により適切なサイズ(21-23nt)かどうかを確認した。
siRNAカクテルのマイクロインジェクションは、以下の方法にしたがって行った。受精後1時間以内(第二卵割期以前)の受精卵にマイクロインジェクションした。siRNAカクテルの濃度は100 ng/uL、注入量は5 -10 nLとした。マイクロインジェクションには、PC-10プーラー(ナリシゲ製)でガラス管を伸展切断し、断面をEG-400(ナリシゲ製)研磨器で研磨することにより先端を尖らせたガラス製毛細管(内径0.6mm)を使用した。10cmデッシュに1%アガロースを敷いたものの中に飼育水と受精卵を入れ、実体顕微鏡下でマイクロインジェクションした。インジェクションの際、ガラス製毛細管にはIM-9A(ナリシゲ製)の手動インジェクターあるいは、IM-30(ナリシゲ製)の電動マイクロインジェクターを接続し、圧力による注入を行った。
またsiRNAカクテルには色素(0.1% フェノールレッド)を1/20量、蛍光タンパク質発現ベクター(EGFP)を最終濃度50ng/uLになるよう加えた。色素は肉眼でのsiRNAカクテルの注入の成否を確認するため、蛍光タンパク質発現ベクターは注入後、3日目、受精卵が孵化したのちにマイクロインジェクションが成功したかどうか(蛍光タンパク質のシグナルを認めたサンプルはsiRNAカクテルもゼブラフィッシュ内に保持されている)を確認するために使用した。
マイクロインジェクションした受精卵を、実施例1と同様にして、タクロリムス水和物の存在下で飼育し、各遺伝子について、siRNAカクテルの注入と心不全症状との関連性を観察した。その結果、PECI遺伝子に対するsiRNAカクテルをマイクロインジェクションした場合に、タクロリムス水和物により誘導される心不全の症状が顕著に改善することが見いだされた。
アンチセンスオリゴヌクレオチドによるPECI遺伝子発現の抑制
実施例4において、その発現と心不全症状とが相関することが示されたPECI遺伝子について、さらにモルフォリノアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いる確認実験を行った。
モルフォリノアンチセンスオリゴ(MO)合成はGeneTools, LLC (Philomath, OR)にて行った。スタートコドンからのタンパク質への翻訳を阻害するよう設計されたモルフォリノアンチセンスオリゴ(atgMO)を、受精卵にマイクロインジェクションした。基本的にはsiRNAカクテルと同じ方法で注入した。注入量は1受精卵あたり1-10ngとした。また、siRNAカクテルと同様に、色素、蛍光タンパク質発現ベクターを共インジェクションした。
マイクロインジェクションした受精卵を、実施例1と同様にして、タクロリムス水和物の存在下で飼育した。稚魚に麻酔をかけ(0.16mg/mlトリカイン溶液が一般的)横向きの状態で、実体顕微鏡(SMZ800、ニコン社製)下で写真を撮影した。Scion Imageなどの画像編集ソフトで色調補正後、同色領域として心臓周囲の浮腫領域を選択し、そのサイズを測定した。結果を図4に示す。なお、モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドによりPECI遺伝子の発現がタンパク質レベルで抑制されていることは、ウエスタンブロッティング法を用いて確認した。図4から明らかなように、PECI遺伝子を標的としたモルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドにより、心不全モデルにおける心臓周囲の腫脹が改善されることが示された。
また、タクロリムス水和物とPECI モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチド1ngを与えたゼブラフィッシュについて、カプランー−マイヤー法にしたがって生存曲線を求めた。図5に示されるように、PECI モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドにより、心不全モデルにおける生存曲線が改善された。なお、図5において、ログランク検定による生存率の差の検定は以下のとおりである:自由度:1、χ2値:18.04476995、P値(上側確率):2.15771E-05、χ2(0.95):3.841455338。
次に、PECIモルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドの量を変化させて遺伝子発現抑制を行った。心臓周囲の腫脹、生存曲線および奇形発生率を測定した結果を図6にまとめる。
以上のことから、PECI遺伝子の発現を抑制することにより、タクロリムス水和物により誘導される心不全症状が緩和することが示された。
本発明の方法は、心不全の治療および予防に関する研究開発に、および心不全治療薬の評価に有用である。
図1は、タクロリムス水和物に曝露して発生させたゼブラフィッシュの心臓の形態を示す。 図2は、本発明の心不全モデルゼブラフィッシュの心臓の形態に対するカルベジロールの影響を示す。 図3は、本発明の心不全モデルゼブラフィッシュの心臓の形態に対する種々の心不全治療薬の影響を示す。 図4は、タクロリムス水和物とPECI遺伝子を標的としたモルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドによる、心臓周囲の腫脹の改善を示す。 図5は、タクロリムス水和物とPECI遺伝子を標的としたモルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドを投与したゼブラフィッシュの生存曲線を示す。 図6は、種々の濃度のアンチセンスオリゴヌクレオチドが、心臓周囲の腫脹、生存曲線および奇形発生率に及ぼす影響を示す。

Claims (1)

  1. 心不全治療薬の候補物質を選択する方法であって、
    タクロリムス水和物により誘導される心不全症状を呈するゼブラフィッシュに試験物質を投与し、
    PECI遺伝子の発現を測定し、そして、
    試験物質を投与したときに投与していないときと比較してPECI遺伝子の発現が抑制されている場合に、その試験物質を心不全治療薬の候補物質として選択する、
    の各工程を含む方法。
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